説明

内耳疾患を治療するための医薬品組成物

本発明は、(i)アリールアルキルシクロアミンもしくはその誘導体、アナログおよびその薬学的な活性を有する塩からなる群より選択される薬学的な活性剤、および(ii)生体適合性ポリマーまたは生体適合性ポリマーの混合物を含む組成物を提供する。これらの組成物を含む組成物または薬剤は、例えば耳鳴りなどの内耳疾患の予防および/または治療のために用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔発明の分野〕
本発明は、耳鳴りおよび他の内耳疾患を予防するおよび/または治療するための1つ以上の医薬品組成物に関する。
【0002】
〔発明の背景〕
様々な内耳疾患(例えば、難聴、内耳感染症または耳鳴りなど)は、新たな治療対象としての注目を集めている。例えば、外部からの聴覚刺激のない音を知覚する耳鳴りは、非常に一般的な内耳疾患である。おおよそ人口の7%〜14%が、耳鳴りについて主治医に相談しており、約1%〜2.4%の人々が日常生活に支障を来たしかねない耳鳴りを生じている(Vesterager V., British Medical Journal 314 (7082):728-731 (1997))。耳鳴りは、例えば、難聴または聴覚過敏(音に対する過敏症)などの他の聴覚疾患と結びつき(Sahley T. および Nodar R., Hearing Reserch (152):43-54)、多くの場合、内耳において生じている。
【0003】
耳鳴りなどの内耳疾病の治療のために、例えば、リドカイン、ガバペンチン、ノルトリプチリン、メラトニン、カロベリン、バクロフェン、アルプラゾラム、ガシクリジン、7−クロロキヌレナート、またはケタミンなどのような様々な医薬品組成物がすでに動物モデルまたはヒトにおいて検査されている。それらのうちのいくつかは、大きな見込みを示しているが、正規の臨床治療には、いずれも用いられていない。効果的な治療の開発に対する重要な障害のひとつとしては、内耳が脳のように生体防壁(バリア)により保護されているということである。全身的な薬品の投与では、中枢または末梢神経系への強い副作用の危険を冒しても内耳において所望の治療効果を達成するために、一般的に、相対的に多い投与が求められる。一方で、内耳への局所的な投与では、非常に少ない投与量で、化合物を目標に到達させることができることが内耳薬物動力学研究により示されている(Chen et al., Audiol. Neurootol. 8: 49-56 (2003))。内耳へは、中耳から内耳への仲立をする多様な組織構造(例えば、蝸牛窓膜、前庭窓/あぶみ骨底板、輪状靭帯または内リンパ嚢/内リンパ管など)を経て到達することができる。
【0004】
内耳に対する化合物の局所的投与は、様々な到達技術により達成することができる。これらの技術では、蝸牛窓膜または前庭窓に対して目的とした方法により化合物を輸送するおよび/または到達させるために、器具を使用する。器具は、内耳において薬を拡散させるものであるか、または盛大に注ぎ込ませるものである。具体的には、オトウィック(otowick)(例えば、Silversteinの米国特許第6,120,484号明細書参照)、前庭窓カテーテル(例えば、Arenbergの米国特許第5,421,818号明細書;第5,474,529号明細書;第5,476,446号明細書;第6,045,528号明細書またはLenarzの米国特許第6,337,849号明細書およびその分割出願である米国特許出願公開2002/0082554号明細書参照)または微小インプラント(例えば、Jukarainenらによる国際公開第2004/064912号パンフレット)である。さらに、蝸牛管または蝸牛のその他の部分に挿入する器具をさらに使用する(例えば、Kuzmaの米国特許第6,309,410号明細書参照)。他の到達技術は、鼓膜貫通注射であり(よく、「鼓膜内部注射」とも称される)、これは、一般的には、蝸牛窓膜の向こう側に薬品を拡散させるために、中耳に対して鼓膜を介して注射する(Light J. および Silverstein H., Current Opinion in Otolaryngoligy & Head and Neck Surgery (12):378-383 (2004)の記載を参照)。これは、長期間にわたって臨床的に実行されており、診療所においても行うことができる比較的短い治療である。度重なる注射の代わりに、中耳通風管を鼓膜に挿入し、薬品はそれを介して中耳空間に投与されてもよい。薬剤基剤は、非常に粘性が高いために注入されず、外科用器具により鼓膜に開けられた小さな孔に沈着する。
【0005】
内耳を治療するための医薬品化合物の治療効果を増強するために、特にゲル状、発泡体の製剤またはフィブリンまたは他の薬品基剤を用いてもよい。それらは、例えば、時間、日、週などのような長期間の間、薬品の放出制御をもたらす。すなわち、中耳−内耳仲介組織構造の浸透性を増加することにより、または製剤が上記の構造に接触し続けることにより、内耳における薬品の拡散を向上することができる。これは、複数回の注入が求められ、かつ、薬品の浸透が三半規管に戻ったり、または耳管において著しく失われてしまうために、中耳−内耳仲介組織構造に継続して接触することが困難であるか、または不可能である溶液における医薬品化合物の投与と比較して有利である。薬剤基剤は、生物分解性であると同時に生体適合性を有していることが理想的である。これにより、後の除去が不要となる。
【0006】
中耳−内耳仲介組織構造、特に蝸牛窓膜からの医薬品化合物の拡散は、例えば、分子量、濃度、脂溶性、電位変化、および膜の厚みなどの様々な要因に依存している(Goycoolea M. および Lundman L., Microscopy Research and Technique 36:201-211(1997))。生体内、または膜組織において得られた実験データがないため、中耳−内耳仲介組織構造を越える能力および内耳に対して局所的投与を目的とした医薬品化合物または製剤の適合については不明のままである。
【0007】
Selivanova et al., Laryngo-Phino-Otol (82):235-239 (2003)では、ヒアルロン酸が蝸牛窓膜の浸透性を増加すること、およびリドカイン検体が内耳においてより急速に拡散され、より大きな効果を生じることを生体内実験において実証している。Chandrasekhar S., Otology & Neurotology (22):18-23 (2001)では、ヒスタミンを加えたデキサメタゾンを鼓膜貫通注射することにより、ヒスタミンを加えずに投与した場合よりも、内耳の外リンパにおける脂溶性化合物の濃度がより高くなることを生体内実験において示している。
【0008】
内耳疾病を治療するための医薬品化合物の(局所的)投与には、膨大な文献が存在する。脂溶性化合物およびアミノグリコシド剤は、臨床治療において、かなり以前から内耳に対して局所的に投与されている(例えば、Hoffer et al., Otolaryngologic Clinics of North America (37):1053-1060 (2004))。Sakata et al., International Tinnitus Journal (2):129-135 (1996)には、ヒトの鼓室中へのデキサメタゾンの鼓膜内部注射が記載されている。Hoffer et al., Otolaryngologic Clinics of North America (36):353-358 (2003)には、騒音外傷または突発性難聴を受けての耳鳴りの治療のためのメチルプレドニゾロン溶液の鼓膜内部注射が記載されている。これらの場合において、薬剤化合物は、溶液により投与される。しかし、他の基剤による内耳疾病の局所的な治療については公知ではない。
【0009】
Manningらによる国際公開第1997/38698号パンフレットには、中耳および内耳疾病(例えば、メニエール病またはウイルス性および細菌性の感染症など)を治療するために内耳に対して医薬品化合物を到達させるための生体適合性ポリマーの利用が示されている。生体外実験において公表されたデータでは、ゲンタマイシンを加えたヒアルロン酸製剤について示されている。
【0010】
Puelらによる国際公開第2004/022069号パンフレットには、例えば、ゲル状の薬剤基剤、ヒアルロン酸、またはフィブリン糊などのような薬剤基剤を含む様々な製剤に加えられた、様々な内耳疾病の治療のための神経刺激調節物質、特にはNMDA拮抗ガシクリジン、D−AP5、MK801および7−クロロキヌレネイトの到達について記載されている。さらに、国際公開第2004/022069号パンフレットには、中耳における製剤の投与のための多くの他の注射方法が記載されている。
【0011】
上記の文献を考慮すると、局所投与に用いられている従来の医薬品組成物の多くは、不利な点がある。すなわち、中耳に容易に注入することができ、長期間の間、薬品を放出し、そして高確率で内耳に到達する、内耳疾患の局所的な治療に適切な他の医薬品組成物が求められている。
【0012】
〔発明の要旨〕
本発明は、(i)アリールシクロアルキルアミンもしくはその誘導体、アナログおよび薬学的な活性を有するそれらの塩からなる群より選択された薬学的な活性を有する物質、および(ii)生体適合性を有するポリマーまたは生体適合性を有するポリマーの混合物を含む組成物を提供する。これらの組成物を含む組成物または薬剤は、例えば、耳鳴りなどの内耳疾病の予防および/または治療のために用いることができる。
【0013】
本発明の組成物は、上述したような少なくとも1つの薬学的な活性を有する物質の治療に効果的な量を組み込む、生体適合性ポリマー担体を含む。アリールシクロアルキルアミン剤は、耳鳴りの認識を静めるか、または軽減することができる。組成物としては、中耳に到達した状態で、中耳−内耳仲介組織構造の少なくとも1つに接触し続けることができ、内耳に薬学的な活性を有する物質を除放する組成物であることが好ましい。生体適合性ポリマーは、生物分解性である上に、薬学的な活性を有する物質の拡散を増強することを目的とすると共に、中耳−内耳仲介組織構造の浸透性を増加することができることも好ましい。
【0014】
〔図面の簡単な説明〕
図1は、長時間にわたる、リン酸緩衝液中の5%および7.5%のヒアルロン酸ゲル製剤からのS−(+)−ケタミンの累積放出を示す図である。
【0015】
図2は、モルモットの蝸牛窓の隙間に塗布され、内耳における蝸牛窓において拡散された2.8%ヒアルロン酸製剤から放出された後の外リンパにおけるS−(+)−ケタミンの濃度を示す図である。
【0016】
図3は、モルモットの蝸牛窓の隙間中に注射され、内耳における蝸牛窓において拡散された0.7%ヒアルロン酸製剤または20%ポロオキサマー製剤から放出された後の外リンパにおけるS−(+)−ケタミンの濃度を示す図である。
【0017】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、アリールシクロアルキルアミン、もしくはその誘導体、アナログおよび薬学的な活性を有するそれらの塩における、特には内耳疾患の治療のための局所的な投与薬(外用薬)として特に好適である組成物を実験的に見出したことに基くものである。
【0018】
本発明の製剤は、主として、アリールシクロアルキルアミン類の化合物である薬学的な活性を有する物質を含む。アリールシクロアルキルアミン化合物類は、共通する一般式(I)を有する。
【0019】
【化1】

【0020】
R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、H、Cl、F、I、CH、CHCH、NH、OH、CONH、COClまたはCOOHであることが好ましい。
【0021】
アリールシクロアルキルアミン類において、特に好適な化合物の1つが、ケタミンである。ケタミン(C1316ClNO(遊離塩基)、2−(2−クロロフェニル)−2−(メチルアミノ)−シクロヘキサノン)は、以下の構造式である。
【0022】
【化2】

【0023】
ケタミンは、PCP結合部位に結合する非競合的なNMDA受容体拮抗体であり、NMDA受容体複合体の分離部位は、イオンチャネルにある。したがって、ケタミンは、膜貫通型のイオンの流れを阻害する。
【0024】
ケタミンの誘導体、アナログ、および/または光学異性体または式IIまたはIにより定義されるアリールシクロアルキルアミン化合物は、本発明の組成物における活性を有する物質として用いることができる。
【0025】
ケタミンは、米国特許3,254,124号明細書に開示されている方法により得ることができる。より厳密的には、NMDA受容体のPCP結合部位に対して、3−4を折りたたみ、より高い親和性で結合する(S)−ケタミンの方が、(R)−ケタミンよりも好ましい(Vollenweider et al., Eur. Neuropsychopharmacol. 7: 25-38 (1997))。光学的な異性体の合成は、参照として本明細書等に盛り込まれている独国特許2062620号明細書または国際公開01/98265号パンフレットの記載に基いて行うことができる。
【0026】
本発明の薬学的な組成物に含まれるアリールシクロアルキルアミン化合物は、薬学的に許容されている塩の形態であってもよい。具体的な塩としては、限定されるものではなく、有機酸(例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ギ酸、酒石酸、ステアリン酸、アスコルビン酸、コハク酸、安息香酸、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、またはパモ酸)、無機酸(例えば、塩酸、硝酸、2リン酸、硫酸、またはリン酸)、およびポリ酸(例えば、タンニン酸、カルボキシメチルセルロース、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、またはポリ乳酸−ポリグリコール酸のコポリマー)などから形成される。本発明における好適な実施形態において、ケタミンは、遊離塩基型の塩酸塩として処理することができる。
【0027】
本発明は、アリールシクロアルキルアミン物質を含む組成物に関し、最終的には、少なくとも1つの他の薬学的な活性を有する物質と混合される。それは、内耳において導管を最大化する目的と共に、物質を制御放出するために、中耳に局所的に投与されるものであると説明することができる。好ましくは、組成物は、生体粘着または機械的特性により、選択された中耳−内耳仲介組織構造に付着する。
【0028】
本発明の組成物に含まれる生体適合性ポリマーは、主として、2つの仕組みにより、本発明の目的を支持することができる。第1に、医薬品化合物を、目的とする中耳−内耳仲介組織構造へと到達させ、内耳中に拡散されることを確実にする。このために、ポリマーは、所望の持続時間を達成すると共に、局所的な中耳粘膜に粘着するか、または粘着性の性質を介して薬学的な治療に影響を及ぼす必要があるため、当面は目的部位に維持されなければならない。すなわち、所定の位置に留まる製剤でなければならない。2つめは、内耳において医薬品化合物の通過を容易とするために、目的とする中耳−内耳仲介組織構造の浸透率を増加させる。
【0029】
薬学的な活性を有するアリールシクロアルキルアミン剤(以下、明細書においては単に「活性剤」として記載もする)を含む組成物は、固体、半固体、ゲル様、または液体とすることができる。組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、または熱硬化性ゲルであることが好ましい。
【0030】
本発明の組成物は、生体適合性ポリマーまたは生体適合性ポリマーの混合物を含む。生体適合性ポリマーは、ヒト/動物の体または体液に対して実質的に不活性であるものと定義される。それらは、例えば、天然の多糖類などのような天然物か、または合成物である。
【0031】
組成物中に含まれるポリマーは、生体適合性を有し、毒物学的に安全である、通常の代謝経路により除去される副生成物を生成するために、生体内において、加水分解的か、または酵素的に分解されることが好ましい。多くの、天然の、合成の、および生合成のポリマーは、生物分解される。C−C骨格に基いたポリマーは、非生物分解性となる傾向を有している。異種原子を含むポリマー骨格は、生物分解性となる。生物分解性は、とりわけ、例えば無水物、エステルまたはアミノ結合などのような化学的な結合の適切な付加によりポリマーに付与される。分解は、ポリマー骨格の分裂を引き起こす加水分解または酵素的な分裂により達成される。生物分解性ポリマーは、加水分解される化学結合を有することが好ましい。
【0032】
医療用組成物として用いられるためには、生物分解性ポリマーは、生体適合性を有する必要があり、かつ、例えば、生体材料プロセス加工が可能であり、滅菌可能であり、安定性の制御が可能であるか、または生物学的な状態に応じて分解するなどのような他の判断基準も満たすことが好ましい。したがって、多くの場合、分解生成物が、ポリマーの生体適合性を定義しているため、ポリマー自身に生体適合性が必要なわけではない。
【0033】
ポリラクチド(PLA)、ポリグリコシド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)およびそれらのコポリマーに基いたポリ(エステル)は、医薬品組成物におけるポリマーに有用である。これらの物質は、分解することにより相当するヒドロキシ酸を生じるため、生体内において安全に使用される。他の生物分解性ポリマーは、例えば、PHB−PHV類のポリヒドロキシアルカネート、付加的なポリエステルおよび天然ポリマー、特には、修飾した多糖類(例えば、でんぷん、セルロースおよびキトサン)を含む。
【0034】
生体適合性ポリマーは、ブロック(コ)ポリマーから選択することもできる。例えば、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)、およびポリ(ブチレンテレフタラート)(PBT)のマルチブロックコポリマーが好適な材料である。これらの材料は、加水分解(エステル結合を経て)および酸化(エーテル結合を経て)のいずれも生じやすい。分解速度は、PEO分子量および含有量により影響を受ける。最も水を取り込むコポリマーが最も早く分解する。
【0035】
本発明の組成物は、ホモ型の生体適合性ポリマーであってもよいし、または1つ、2つ、またはそれ以上の異なるポリマーの混合物を含んでもよい。本発明の組成物は、同質ではないポリマーを製造する製造方法、または別個の混合ステップにおいて異なるポリマーを組み合わせることにより得られる多様なポリマーから用意される。
【0036】
生体適合性ポリマーは、本発明の組成物において、生物分解性もしくは非生物分解性の、水溶性もしくは非水溶性の、またはミクロスフィアベースのゲル状であることが好ましい。
【0037】
ゲル状の生体適合性ポリマーの具体的な例としては限定されるものではないが、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、レシチンゲル、(ポリ)アラニン誘導体、プルロニクス(pluronics)、ポリ(エチレングリコール)、ポロキサマー、キトサン、キシログルカン、コラーゲン、フィブリン、ポリエステル、ポリ(ラクチド)、ポリ(グルコシド)またはそれらのコポリマーPLGA、スクロース酢酸塩、スクロースイソ酪酸塩、およびグリセロールモノオレエートを含む。ゲルは、中耳に対して容易に投与することができ、長時間の間、薬品を放出することができ、かつ高確率で薬品を内耳に到達させることができることが好ましい。
【0038】
本発明の組成物における生体適合性ポリマーとして好適に用いることができるヒアルロン酸は、体の全ての器官における結合組織の細胞外マトリクスに広く分布している生理学的な物質である。ヒアルロン酸は様々な分子量が存在し、また非抗原性であることが報告されている。これらの高分子量ポリマーは、例えば、様々な前部における処理を行う眼科外科(例えば、水晶体嚢外白内障の外科処理、人口水晶体インプラント、角膜移植、緑内障外科処理および外傷に対する外科処理)において用いられるように、医薬品および化粧品産業において広く用いられている。ヒアルロン酸は、天然の多糖類であり、Na−グリクロネート−N−アセチルグルコサミンの二糖類の繰り返しを含む長鎖ポリマーを備えたグリコサミノグリカンである。ヒアルロン酸の主な特性は、水に結合し、高粘性の分解可能であるゲルを形成することである。ヒアルロン酸溶液の粘性は、濃度および分子量と共に増加する。薬学的な活性物質は、ヒアルロン酸ゲルに溶解するか、または懸濁される。
【0039】
他の添加剤と併せてリン脂質(すなわち、レシチンオルガノゲル(LO))は、非常に好適である局所的な薬品到達媒介物質であることが示されている。LOは、熱力学的に安定であり、透明であり、粘弾性であり、生体適合性を有しており、かつリン脂質(レシチン)、適切な有機溶媒および極性溶媒を含む等方性ゲルである。ゼリー状相は、からまった逆円柱状(ポリマー様)のミセルの三次元網目構造からなる。すなわち、連続的であるか、または巨視的な外部有機相を固定し、液体からゲルに変化する。オルガノゲルにおける三次元網目構造の形成は、結果として、非極性有機溶媒中のレシチン逆ミセルからなる低粘度のニュートン液体におけるミセルのレベルを変化させる。脂質の球形の逆ミセル状態は凝集し、水が付加することにより長い筒状のミセルを形成し、続いて、溶液中において、一時的な三次元網目構造を形成するためにからまる。そして、外部有機相を固定するために、ゲル状となるか、または初めは粘性のない溶液をゼリー状にする。
【0040】
ポリ(エチレングリコール)(PEG)は、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)の誘導体であり、分子の各末端にヒドロキシル基を付加する。医薬品組成物におけるポリマーとしてのPEGの魅力である鍵となる特性は、生体適合性、親水性を有しており、多目的に使用可能であることである。単純に、水溶性の直鎖ポリマーは、水膨張性を除いて非水溶性ハイドロゲルを形成するために、化学的相互作用により変化させることができる。ハイドロゲルとして機能する吸湿性を有するポリマーは、例えば、電子対を共有する架橋構造のためのポリマーを用いることにより、または親水性もしくは疎水性成分(水素結合を介して「効果的に」架橋する)からなる会合ポリマーを作製することにより用意することができる。
【0041】
熱硬化性ゲルは、低温で流動性を有するポリマーを含むが、体温程度の温度においては高粘性であり、固体インプラントに近くなる。これらの可逆的な熱硬化システムの最も一般的なものが、ポロキサマーである。20%(w/w)より大きい濃度で溶解する場合、その溶液は低温では流動性を維持するが、温度が上昇(通常は、15℃付近)すると高い粘性となり、固体状のインプラントとなる。正確なゲル化温度は、ポロキサマーの成分を変化するか、または他のさらなる結合剤の添加により変更することができる。所定の位置に到達すると、溶解している薬品は、ポリマーを介した拡散により放出される。重合体のインプラントは、長く維持されない。流動が重要である部位(例えば、皮下空間)では、インプラントは、12〜24時間までの期間で維持することができる。ポロキサマーは、ポリエーテルであるため生分解しない(ポリオキシエチレンおよびポリオキシプロピレンのブロックコポリマー)。それらは、比較的低分子量のポリマー(<20kD)であるため、尿によりそのまま排出される。それらは、相当な量の薬品を運搬することができるが、特に、親水性の薬品に対して非常に大きな効果がある。疎水性の薬品に対する動力学的な特徴は、おそらくは、インプラントの疎水性の中心における薬品の封鎖によって、抑制される傾向を有する。
【0042】
生分解され、かつ、ポロキサマーよりもゆっくりと放出する特性を有する熱硬化性ゲルは、PLA−PRGまたはPEG−PLGA−PEGのトリブロックコポリマーを含む。ポロキサマー系と同様に、それらは低温で流動性を有する。それらは、投与されることにより、半固体状ゲルを形成する。
【0043】
キチンは、世界中の天然ポリマーのうち、セルロースに次いで豊富なポリマーである。脱アセチル化により、生体材料のキトサンとして得られ、さらに加水分解することにより、非常に低分子量であるオリゴ糖として得られる。キトサンは、生体適合性および抗菌性を有する。キトサン−グリセロリン酸エステル溶液は、可逆性の熱硬化性ゲルを形成することができる。また、それは低温では流動性を有しており、かつ体温程度で処理することにより半固体状となる。この系は、例えば、成長ホルモンの到達に用いられている。キトサンは、pH6.2以下で水に可溶である、この値を超えるpHは、ポリマーの中和および沈殿の要因となる。ショ糖ベースのリン酸塩の添加は、熱−可逆ゲル薬剤到達系において、キトサンを変化させる。
【0044】
熱的に可逆のゲルに加えて、温度、pH、イオン強度、溶媒濃度、圧力、応力、光強度、電場もしくは磁場、またはこれらの要因の組み合わせにおける変化を含む様々な刺激下で、ポリマー−ポリマー相互作用とポリマー−溶媒相互作用との平衡にかなり依存している他の刺激応答ポリマーは、本発明の組成物に好適に用いることができる。例えば、pH−可逆ハイドロゲルは、ポリ(アクリル酸)ポリマーの水溶液であり、0.1重量%より大きい濃度でpHによる相転移を受ける。
【0045】
刺激感性ゲルは、ポリペプチドポリマーの酵素的な分解からも形成することができる。ポリペプチドポリマーにおけるポリペプチド結合は、例えばPEG/PLGAポリマー系におけるエステル結合よりも加水分解に対して安定であるため、優れた貯蔵安定性を有する。ポリペプチド担体は、グラフトまたは直鎖状ポリマーを形成する第2ポリマーブロックに繋がれる生物分解性ポリペプチドブロックを有する生物分解性ポリマーも含むことができる。例えば、ポリペプチドポリマーは、ポリ(アラニン)およびその誘導体である。ポリペプチド担体は、フィブリンなどのような公知のタンパク質物質を用いることができる。フィブリノゲンは、天然タンパクであり、酵素であるトロンビン、または他の天然タンパクに結合する場合に、フィブリンとして知られる生体マトリクスを形成する。
【0046】
他の生体適合性ポリマーは、デンプン、セルロース、ゲラチン、プルロニクス、テトロニクス、後者2つからなるポリ(エチレンオキシド)/ポリ(プロピレンオキシド)を含む材料を用いることもできる。他の材料としては、コンドロイチン硫酸およびムコ多糖体類(例えば、グリコサミノグリカン)およびヒアルロン酸に似た性質を有する他の生体適合性ポリマーも用いることができる。
【0047】
本発明の組成物を含む薬剤は、数時間以上、数週間以下の間、薬学的な活性物質を放出する薬品放出製剤として形成されていることが好ましい。
【0048】
本発明における第1の実施形態では、活性物質は、生体適合性ポリマーにより形成される不活性拡散隔膜に取り囲まれる核を形成する。この系は、例えば皮膜、カプセル、マイクロカプセル、リポソームおよびホローファイバー(中空糸)を含む。ここでは、活性物質の放出は、主として、拡散により制御される。
【0049】
第2の実施形態では、組成物は、生体適合性ポリマーの溶液を含む。すなわち、活性物質は、溶解されているか、乳状化されているか、または分散化されている。貯蔵系において、ポリマーマトリクスを介した活性物質の拡散は、ポリマーおよびその拡散効率ならびに放出される活性物質の分配係数の選択により決定される。
【0050】
本発明の他の実施形態では、組成物は、活性剤を分散させるための「カゴ」となる巨大分子を形成する架橋ポリマーゲルを含む。また、本発明の組成物は、活性物質を分散させるための、生体適合性を有する疎水性ポリマーの混合物からなる架橋混合ゲルを含んでいてもよい。
【0051】
さらなる実施形態において、組成物は、生体適合性ポリマーの架橋ゲル、または少なくとも1つのポリマーからなる巨大分子に電子対を共有して付随している活性剤を含む少なくとも2つの疎水性ポリマーの架橋混合ゲルを含む。
【0052】
ポリマーベースのゲルからの医薬品化合物の放出速度は、ポリマーにおいて隣接する鎖が共有結合を形成するように結合されている上記の架橋により延ばすことができる。得られる架橋ポリマーは、ゆっくりと破壊されるため、薬学的な活性剤をより長く保持する。
【0053】
生物分解性材料の架橋を行うための様々な架橋剤および方法は、当業者において周知である。到達ユニットに対する最終的な架橋剤は、実質的に毒性のないことが好ましい(例えば、熱架橋、γ線照射、紫外線照射、化学的架橋などの使用による)。一般的に、架橋度は、成形したポリマー構造による膨張度または水の吸収度の逆比に一致する。膨張度または水分吸収度は、ポリマー構造による薬品輸送の速度を調節する。
【0054】
本発明のさらなる実施形態では、ポリマーからの活性剤の放出は、化学的に制御される。この制御は、生浸食またはペンダント鎖を用いて達成することができる。ポリマー生浸食は、水に不溶である物質から水に可溶な物質への転化として定義することができる。上記の系において、活性剤は、理想的には、ポリマーの全体にわたって均一に分配される。活性剤を取り囲むポリマーが浸食されるにつれて、活性剤が抜ける。ペンダント鎖系では、活性剤はポリマーに共有結合しており、水または酵素により結合が切断されることによって、放出される。溶剤活性化制御系では、活性剤はポリマーマトリクスに溶解または分散されており、マトリクスを介して拡散することができない。溶媒制御系のある型において、周囲の流動体(例えば、水)がマトリクスを貫通するにつれて、ポリマーは膨張し、そのガラス転移点が、周囲の温度以下にまで低くなる。これによって、膨張したポリマーは、弾性状態となるため、ポリマーに含まれる薬品は、カプセル材料を介して拡散される。
【0055】
イオン化合物の放出速度を延ばすための他の技術は、国際公報1997/38698号パンフレットに記載されているように、疎水性イオン対複合体中に薬学的な活性剤を混合する技術である。ここで、薬学的な活性剤は、両新媒性物質とともに疎水性イオン対複合体の形成を示す。アリールシクロアルキルアミン活性剤と共に疎水性イオン対を形成するための好ましい両新媒性物質は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびビス−(2−エチルエキシル)スルホコハク酸ナトリウム(AOT)である。疎水性イオン対複合体は、技術的に従来公知の方法により用意することができる。疎水性イオン対複合体およびその容易に関するさらなる情報は、PCT公開公報である国際公開94/08599号パンフレット(1994年4月28日公開であり、係属中の米国特許出願のシリアル番号が08/473,008、1995年6月6日出願であり、双方の内容はその全体が本明細書中に含まれている)に記載されている。
【0056】
上述した実施形態を組み合わせることにより活性剤の放出を制御することも可能である。例えば、ゲルを保持するミクロスフィアの形成である。活性剤の放出は、ポリマーゲル系におけるマイクロスフィアの懸濁によるだけでなく、ゲル系により制御することができる。
【0057】
上述した粘性ゲル系(例えば、ヒアルロン酸塩)の大半は、懸濁したミクロスフィアを保持するために設計されている。ゲルは、中耳−内耳仲介組織構造に密着することができるため、ミクロスフィアにより、内耳中の膜を介した活性剤の輸送を可能にすることができる。活性剤の放出速度は、活性剤の含まれるミクロスフィアの大きさに大きく依存している。一般的に、大きなミクロスフィアは、カプセル化した化合物よりもよりゆっくりと、長い時間をかけて放出可能である。活性剤の到達を一定の速度とするためには、長期に渡って放出速度を一定とするために、異なる大きさのミクロスフィアを混合することが効果的である。さらに、ミクロスフィアを含むゲルは、膜の浸透性を増加する物質も含んでいる。すなわち、ミクロスフィアは、より容易に膜を通過することができる。
【0058】
活性剤の放出制御のために好適である上述の異なる系としては、例えば蝸牛窓膜に設けられており、制御した手法により活性剤を到達させるインプラントを含むこともできる。
【0059】
一実施形態において、インプラントは、基本的に、活性剤を混合したキャリア媒介物質からなる。キャリア媒介物質は、生物分解性であるか、もしくは生物分解性でなく、または架橋することができる生体適合性ポリマーの混合を含む。この組成物は、注射可能薬物であり、中耳に挿入されると、上記の熱硬化性ゲル(例えば、ポロキサマー)が例えば、流動体から高い粘性物または固体へとその粘性を変化する。キャリア媒介物質に含まれる活性剤の放出は、拡散、溶媒牽引(solvent drag)、電子拡散、浸透、能動/受動輸送またはそれらの組み合わせにより行われる。
【0060】
他の実施形態において、インプラントは、芯物質および芯物質を包む少なくとも1つの皮膜を備えていてもよい。芯物質は、生体適合性ポリマーに溶解された、または分散された活性剤からなる組成物を含むことができる。このインプラントにおいて、活性剤の放出速度は、芯物質の特性および一部分は皮膜の特性により制御することができる。これによって、活性剤の放出速度は、芯物質または皮膜単独によるか、または芯物質と合わせた皮膜により制御することができる。主として芯物質が放出速度を制御し、皮膜は放出速度の最終的な制御のみを行うことも可能である。
【0061】
芯物質を包む皮膜が2つ以上の層からなる場合、各層において用いられるポリマーまたはエラストマー組成物は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。皮膜の厚み、材質またはそのいずれもが異なる層を組み合わせることにより、活性剤の放出速度をさらに制御することもできる。
【0062】
インプラントが1つより多い薬学的な活性剤を含む場合、芯物質は、同一のポリマー組成物に溶解されているか、分散されている異なる活性剤のうちの1つからなっていてもよい。他の実施形態において、芯物質は少なくとも2つの部分からなり、各部は、少なくとも1つの薬学的な活性剤を含む。芯物質における異なる部分のポリマー組成物は、異なる活性剤における所望の放出速度に関して選択することができるため、各部は同一または異なっていてもよい。芯物質における異なる部分は、互いに隣接する位置であってもよいし、芯物質の一部を芯物質の別の部分の少なくとも一部に入れるようにしてもよい。芯物質の異なる部分は、互いに離れていてもよいし、分離膜により分離されていてもよい。分離膜は、少なくとも1つの薬学的な活性剤に対して浸透性を有しているか、または不浸透性を有している。第1の活性剤に対しては浸透性を有しているが、第2の活性剤に対しては不浸透性を有している膜を用いることもできる。
【0063】
インプラントにおける膜の材質としては、例えば、ポリ(2置換シロキサン)から形成されるエラストマーであるシロキサンベースのエラストマーが有用である。置換基は、主として、低置換された、または置換されていないアルキルまたはフェニル基である。広く用いることができ、かつ好ましいこの種のポリマーは、ポリ(ジメリツシロキサン)である。活性剤の拡散の速度を制限する障壁として機能するエチレン−ビニルアセチレンコポリマー膜も好適である。
【0064】
薬学的な活性剤の放出速度は、組成物からの放出によりのみ支配されるものではなく、潜在的には、内耳−中耳仲介組織構造の浸透性がより重要である。
【0065】
したがって、内耳に対して局所的に投与するために都合がよい、本発明の医薬品組成物は、内耳−中耳仲介組織構造の浸透性を増加する物質を含むことが好ましい。見方によれば、薬学的な活性剤は、より大量に所定の時間拡散することができ、内耳中に所定量をより速く拡散することができ、より大きな分子を内耳中に通過させることができる。しかし、上記の向上した浸透性は、内耳外リンパと中耳区間との間の浸透バランスの分配することなく、蝸牛において毒性を含むことなく達成することができる。特別な注意としては、浸透性増強物質が内耳中での細胞毒性を有するため、それが蝸牛窓を通過する際に、中毒性難聴となる可能性があることである。例えば、ストレプトリジンは、細胞毒性を犠牲にしているけれども、蝸牛窓浸透性の十分な増加を示す。
【0066】
中耳−内耳仲介組織構造の浸透性を増加する物質の例としては、ヒスタミンがある。また、ヒアルロン酸は、中毒性難聴になることなく、内耳仲介構造における浸透性の増加を示すため、本発明の組成物における生体適合性ポリマーとして好適に用いられる。
【0067】
本発明の組成物は、1つ以上の他の薬学的な活性を有する化合物をさらに含むことができる。本発明に基いた耳用の組成物は、多様な成分を含むことができる。例えば、抗体(例えばフルオロキノロン)、抗炎症剤(例えばステロイド、コルチゾン)、鎮痛薬(アンチピリン、ベンゾカイン、プロカイン)、酸化防止剤(例えばメチオニン、N−アセチルシステイン、トロロクス)、神経栄養剤(例えばGDNFまたはBDNF)、抗アポトーシス剤または抗壊死剤(例えばロイペプチン)、カスパーゼ阻害剤などのような他の生理活性物質を含む。
【0068】
内耳に対する局所的な投与に好適である本発明の医薬品組成物は、治療に効果的な量の活性成分を含む。そして、必要に応じて、無機または有機、固体または液体の薬学的に許容される基剤または媒介物質、緩衝液、結合剤および添加剤などのようなさらなる成分を含む。
【0069】
局所的な投与のための好適な媒介物質は、薬学的に許容され、かつ活性化合物と反応しない有機または無機物質である。例えば、薬用塩、アルコール類、野菜油、ベンジルアルコール、アルキレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール三酢酸塩、ゼラチン、例えばラクトースまたはデンプンなどのような炭水化物、マグネシウム、ステアリン酸塩、タルクおよび流動パラフィンである。好適な製剤としては、例えば潤滑剤、防腐剤(例えば50%のチオマーサル)、安定剤および/または界面活性剤などのような補助物質、乳化剤、浸透圧に影響を与える塩、緩衝物質、顔料および/または香料を殺菌し、含む。
【0070】
好ましくは、局所的な結合剤は、耳に投与した場合に、体循環または中枢神経系への物質の到達を増強しないものが選択される。例えば、一般的には、局所的な結合剤は、実質的に閉塞性を有していないことが好ましい。すなわち、体循環中に粘膜を介して経皮的な透過を増強することが好ましい。上記の閉塞性の媒介物質は、炭化水素基剤、例えば親水性ワセリンおよび無水ラノリン(例えばアクアフォー(Aquaphor))などのような無水吸収基剤、および例えばラノリンおよびコールドクリームなどのような油中水型エマルジョン基剤を含む。媒介物質としては、実質的に非閉塞性であり、一般的には、水溶性であることがより好ましい。例えば、水中油型エマルジョン基剤(クリームまたは親水性軟膏)ならびに例えばポリエチレングリコール基剤媒介物質および例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、およびヒロドキシプロピルメチルセルロースなどのような多様な物質を含むゲル状の水溶液(例えばKYゲル)などのような水溶性基剤である。
【0071】
好適な局所的な結合剤および媒介物質は、通常、当業者により特別に用いられる中から選択することができる(技術の標準的な教本である、例えばRemington’s Pharmaceutical Science, Vol. 18, Mack Publishing Co., Easton, PA (1990)の特にはChapter 87を参照)。一例としては、本発明に基いた生理活性物質は、物質の浸透性を増強する増強剤を混合することができる。
【0072】
活性成分、生体適合性ポリマーおよび必要な場合には、例えば防腐剤、安定剤、界面活性剤、乳化剤、架橋剤などの補助剤を含む医薬品組成物は、製薬学の技術において周知である方法のいずれかを用いて用意することができる。例えば、従来の混合、顆粒化、糖剤化、溶解または凍結乾燥方法である。
【0073】
組成物は、内耳疾病を治療するための薬剤の用意に用いることができる。例えば、耳鳴り、難聴、内耳炎または内耳感染症、自己免疫性内耳疾患、めまい、メニエール病、内耳細胞退行性変化または高齢による内耳細胞退行性変化である。
【0074】
内耳疾病による哺乳類の苦痛に対する本発明の組成物または薬剤の投与は、多様な到達技術により達成することができる。組成物は、中耳に注入されることにより投与されることが好ましい。薬剤応答インプラントは、注射、注入、または外科用器具を用いての沈着により投与されることが好ましい。
【0075】
内耳−中耳仲介組織構造に対して目的とした手法により製剤を輸送および/または到達させるための器具または薬剤基剤の使用を含む。これにより、内耳中に拡散されるか、または盛大に注入される。例えば、オトウィック(例えば、Silversteinの米国特許第6,120,484号明細書参照)、前庭窓カテーテル(例えば、Arenbergの米国特許第5,421,818号明細書;第5,474,529号明細書;第5,476,446号明細書;第6,045,528号明細書またはLenarzの米国特許第6,377,849号明細書およびその分割出願である米国特許出願公開2002/0082554号明細書参照)または微小インプラント(例えば、Jukarainenらによる国際公開第2004/064912号パンフレット)、または蝸牛管または蝸牛のその他の部分に挿入する器具(例えば、Kuzmaの米国特許第6,309,410号明細書参照)である。鼓膜内部注射の使用もさらに含む。すなわち、製剤は、例えば、蝸牛窓の隙間などのような、目的とする内耳−中耳仲介組織構造の領域を越えて中耳に注射入される(Light J. および Silverstein H., Current Opinion in Otolaryngoligy & Head and Neck Surgery (12):378-383 (2004))。注射は、鼓膜を介して、鼓膜より内側に挿入した通気管を介して、または鼓膜の孔(例えば、鼓室耳道板(tympanomeatal flap)により)を介して直接行うことができる。注射される製剤の量は、一般的には、200から500マイクロリットルの間である。
【0076】
前述した方法のいずれかにより注射または注入されない製剤は、外科用器具により鼓膜に開けられた小さな孔の向こう側の、目的とする内耳−中耳仲介構造に沈着する。
【0077】
製剤は、内耳疾患の発症前、発症中、または発症後に投与することができる。投与量は様々であり、投与の方法、治療期間、治療対象の状態、内耳疾患の重症度および最終的には主治医による決定に依存している。治療の期間は、約1時間から数日、数週間、数ヶ月の間の範囲であり、長期的な治療となる可能性もある。長期間の治療の場合、製剤を繰り返し投与しなればならない。治療に効果的である、到達する化合物の量は、約0.1ナノグラム/時間と約100マイクログラム/時間との間の範囲である。
【0078】
治療に効果的な投与量は、内耳疾患の治療を受けた個人個人における内耳疾患の鎮静または軽減に効果的な量として定義される。治療に効果的な投与量は、内耳疾患に罹っている個人個人における内耳疾患の鎮静または軽減に効果的な量でもある。上記のように、治療に効果的な投与量は、様々であり、化合物の具体的な選択、治療に対する具体的な状態およびその管理方法に依存している。例えば、高い結合親和性を有するケタミンアナログは、低い親和性を有するケタミンよりも少ない投与量でより効果を得ることができる。結果として、高い結合親和性を有するアリールシクロアルキルアミンが好適である。
【0079】
治療の期間も様々であり、緊急の処理が求められるのか、やや緊急の処理が求められるのか、長期的な処理が求められるのかは、内耳疾患の具体的な形態に依存している。参考のために、内耳疾患が治療を中止しても再発しない場合には、短期間の治療であることが好ましく、かつ十分である。長期間の治療は、短い治療の後も内耳疾患が続く個人に対して採用することができる。
【0080】
本発明は、本発明の範囲を限定するものではない添付の図面と共に、下記の実施例より詳細に説明される。
【0081】
図1は、長期間にわたる、リン酸緩衝液中の5%および7.5%ヒアルロン酸ゲル製剤からのS−(+)−ケタミンの累積放出を示す。(A)ケタミンは律速膜のない場合、ゲルから急速に放出される。ちょうど1時間後、PBS中の全累積濃度のほぼ50%となっている。ヒアルロン酸の濃度は、ほとんど放出速度に影響しない。(B)蝸牛窓膜を模倣した透析膜を有するフランツ細胞の使用は、PBS中のケタミンの放出をかなり遅くする(約3日かかる)。放出速度は、高濃度のヒアルロン酸においてよりゆっくりとなることが示されている。(C)フランツ細胞においてフィルター膜が用いられる場合、ケタミンの放出は、約60時間にまで伸ばされる。また高い濃度のヒアルロン酸ゲルでは、低い濃度のヒアルロン酸よりも放出がゆっくりとなる。
【0082】
図2は、2.8%ヒアルロン酸製剤から放出された後の外リンパにおけるS−(+)−ケタミンの濃度を示す。製剤は、モルモットの蝸牛窓の隙間に塗布され、蝸牛窓膜を越えて内耳中に拡散される。外リンパは、1時間(1H)、3時間(3H)、8時間(8H)、24時間(24H)および3日(3D)の時点でケタミン濃度を決定するために採取した。
【0083】
図3は、0.7%ヒアルロン酸製剤または20%ポロオキサマー製剤から放出された後の外リンパにおけるS−(+)−ケタミンの濃度を示す。製剤は、モルモットの蝸牛窓の隙間に注入された後、蝸牛窓膜を越えて内耳中に拡散される。外リンパは、ケタミン濃度を決定するために、投与後3時間および48時間に採取した。
【0084】
(実施例1)
方法および材料
蝸牛の耳鳴りの治療において効果的であることが明らかとなっている、NMDA受容体拮抗剤であるケタミンのヒアルロン酸ゲル製剤からの放出は、2段階の研究において検証した。第1段階において、生体外実験において、製剤における放出ケタミンの決定を行った。これらの結果は、動物における生体内実験の開始点として用いた。
【0085】
(生体外実験)
ヒアルロン酸溶液(Hylumed,Genzyme Corp.)は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中において5%および7.5%の濃度で用意した。8%では、粘性が非常に高くなるため、ゲルの取り扱いが困難であることが示された。S−(+)−ケタミン塩酸塩(Sigma−Aldrich)は、73mMに相当する2%(重量/重量)の濃度に溶解した。薬品における負荷要因の重要性を検証するために、0.5%および2.5%の濃度でも検査した。薬学的な活性剤の放出は、いずれの膜も用いることなく、またはフランツ細胞(PermeGear)においてフィルター膜もしくは透過膜(Spectropore)を用いることにより、制御放出の研究に用いられる共通の流動体であるPBS中で測定した。膜は、蝸牛窓における擬似的な律速膜として用いた。流動体の温度は、体温で一定に維持した。フランツ細胞の下部チャンバーは、流動体である5mlのPBSで満たした。流動体は、連続して撹拌するための掻き混ぜ棒を含む。上部チャンバーは、約50mgのゲルおよび細胞集合体で満たした。各時点で、部分標本(一般的には1ml)を回収し、UV分光測光法により分析した。215nmでの吸光を測定し、そして30ml/mgcm減衰係数を用いて濃度を算出した。部分標本の量を測定することにより、全放出量を決定することができる。フランツ細胞チャンバー内には、各時間で回収した部分標本と同量のPBSを戻した。
【0086】
(生体内実験)
生体外実験の結果に基いて、様々な濃度のヒアルロン酸(Hylumed Medical、分子量240万、Genzyme Corp.)において、蝸牛窓の隙間での留まり、および蝸牛窓膜の自由運動による妨害を介した潜在的な治療効果を検査した。治療の閾値は、色素性のモルモットにおいて、動物の蝸牛窓膜上に電極を埋め込むことにより聴覚神経の化合物活動電位(CAP)を測定することにより検査した(基準電極は首の筋肉に位置している)。基準電極および蝸牛窓電極は、プラグを固定するために頭蓋骨にはんだ付けした。蝸牛窓の隙間に2マイクロリットルのゲル製剤を投与するために、後耳介の外科的処理(背中側からの方法)により麻酔した動物の骨胞に孔を空けた。骨胞は、歯科用セメント(Texton,SS White Manufacturing)により再度塞ぎ、外傷はベータダイン溶液で消毒し、縫い合わせた。
【0087】
まず、人工的な外リンパ中に5%の濃度でゲルを用意し(すでに生体外検査において検査している)、モルモットの蝸牛窓の隙間中の予め消毒した外科用器具の先端に付着させた。隙間にゲルが留まっているかを、視覚的に検査した(すなわち、ゲルが目的の場所から流れているか、または留まっているかを検査した)。CAPは、ゲル処理の直前に測定し、処理後に再度繰り返して測定した。ゲルの粘性が高くなるにつれて、治療における閾値レベルの一時的な効能が観測されたため、ゲル濃度を適宜下げ(3.5%、3.2%)、最終的には2.8%とした。ゲルは蝸牛窓の隙間に好適に塗布でき、その場所に十分に留まり、難聴ではないレベルであることを観測した。1濃度あたり1匹の動物で検査した。
【0088】
第2工程において、ヒアルロン酸ゲル製剤からの生体内において、蝸牛窓膜を越えたケタミンの内耳中での拡散を検証するために、色素性モルモットの薬物動態実験を行った。全30匹の動物で、ゲルを投与してから1時間、3時間、8時間、24時間および72時間の外リンパ中の医薬品化合物の濃度を検査した。すなわち、1時点あたり6匹の動物で検査した。
【0089】
動物は、単一投与(0.3ml/kgの6%ペントバルビタール(Ceva sante animal)の注射)で麻酔し、後耳介の外科的処理(背中側からの方法)により右耳の骨胞に孔を空けた。1mMの濃度のS−(+)−ケタミン(Sigma−Aldrich)を有する2マイクロリットルのヒアルロン酸ゲル製剤(人工的な外リンパにおいて2.8%Hylumed Sterile、分子量244万;Genzyme Corp.)を内耳の蝸牛窓膜に付着させた。前記の各時点で、深い麻酔下(ペントバルビタール50mg/kg)で1群の動物の首を切った。右の蝸牛は、側頭骨から取り出し、骨胞を開放した。蝸牛痩孔(直径0.2mm)の付け根のそばの蝸牛に小さな孔を開けた。殺菌したガラス製のマイクロピペット(先端が直径0.1mm)、殺菌したマイクロシリンジに繋がれた殺菌したカテーテルを用いて、10マイクロリットルの外リンパを孔から採取した。サンプルは、検出限界が0.2ng/mlである液体クロマトグラフィ質量分析法により分析した(HPLC装置:Perkin Elmer series 200;質量分析検出器:MSD Sciex API4000 Applied Biosystems;カラム:Zorbax SB CN50×2.1mm 5μm−Agilent technologies)。
【0090】
(結果)
生体外実験
図1に示すように、ヒアルロン酸ゲル製剤は、比較的急速に(すなわち、数時間後までに)ケタミンを放出する。律速膜が用いられる場合には、放出動力学は著しく変化し、到達が数日後にまで延ばされる。7.5%の高濃度のヒアルロン酸ゲル製剤の方が、5%の場合よりもケタミンの放出がわずかに速い。
【0091】
薬品の搭載量も、放出動力学において非常に重要な作用である。ゲルがケタミンを0.5%(重量%)含む場合、医薬品組成物は、フィルター膜を有するフランツ細胞においてもケタミン塩酸塩溶液のみである場合とほぼ同じ速さでケタミンを放出する。搭載因子を2.5%増加させることによってのみ、放出動力学をかなり遅くすることができる。ファーストバースト(first burst)は、かなり低く、初めの1時間での放出は約20%だけである。したがって、高い搭載因子を用いる場合にだけ、放出動力学を延ばすことができるように見える。
【0092】
生体内実験
図2に示すように、2.8%ヒアルロン酸ゲルから蝸牛窓膜を越えて拡散された、内耳の外リンパにおけるケタミンの最大濃度は、1時間で達成される。その後、3時間後に測定した定量化レベルでは、濃度は急速に低下している。これらの結果から、いくつかの興味深い結論が描き出される。
1)ゲル製剤は、3日間内耳においてケタミンを放出する能力を有している。ヒアルロン酸が非常に低い濃度である(5および7.5%に対して2.8%)こと、および生体外実験よりも低い約73フォールド(fold)である薬品の搭載量(2.5重量%以下に対して0.027重量%)であることは関与していない。ここから、内耳疾患の治療のための製剤における魅力的なタイプであることがわかる。
2)ゲル中の薬学的な活性剤の初期濃度と比較した場合、測定したケタミンの外リンパ濃度は、非常に低い。これは、中耳中でのケタミンの損失、粘膜による吸収、外リンパにおける医薬品化合物の大半を吸うための受動拡散プロセスの不適当、または外リンパからの薬品の急速な浄化により説明することができる。さらに、最小限の容量において、おそらく医薬品化合物が分配されていな内耳における部分からも外リンパを吸う場合には、採取技術が測定した濃度を下げる、すなわち濃度が希釈される原因となる。蝸牛の付け根部分における医薬品化合物の濃度が最も高く、中ほどの回転部分が低く、先端領域およびその向こう側(前庭階)が最も低いことは、当業者には周知の事実である。
3)ゲル製剤からの放出動力学に影響を与えることができる任意の複数の要因は、蝸牛窓の隙間への塗布および蝸牛窓の隙間を越えた拡散にあり、生体外実験モデルでは、内耳の疾患を治療するための薬学的な活性剤が内耳に到達されるか否か、およびどのように到達されるのかを評価についてはかなり制限されていると考えなければならない。適切な生体内実験モデルの使用は必須である。
【0093】
(実施例2)
先の実験は、中耳に注射することができない、粘性を有するゲル製剤からのケタミンの放出動力学を検証しているが、我々は、次に、2つの注射可能であるゲル製剤について検証した。これにより、容易な取り扱いの利点を提供することができる。
【0094】
方法および材料
全部で16匹の色素性のモルモットに対して、針に接続されている1mlのシリンジを介して、S−(+)−ケタミン塩酸塩(Cristalia)を含む、100マイクロリットルのヒアルロン酸(Hylumed Sterile、Genzyme Corp.)またはポロキサマー(Lutol F127、BASF)ゲル製剤のいずれかを投与した。半分の動物には、ヨーロッパ薬局法(ref.4005000)に基いて調整したpH7.4のリン酸緩衝液中に調合した0.5%ヒアルロン酸ゲルを与えた。ケタミンは、4℃で一晩電磁撹拌機で撹拌し、1mMの濃度でゲルに溶解させた。残りの半分の動物には、針に接続された1mlの塩臨時を介して、20%ポロキサマーゲルを与えた。ゲルは、3mlの同じリン酸緩衝液に600mgのLutorol粉末をゆっくりと加え、電磁攪拌機により攪拌する(500rpm)ことにより調合した。最も粘性の小さい透明な溶液を得るために、16時間混合プロセスを続けた。ヒアルロン酸ゲルに関しては、ケタミンは、電磁攪拌機により一晩攪拌することにより1mMの濃度でポリキサマー溶液中に溶解させた。モルモットの中耳組織に接触させるとすぐに、ポロキサマーはゲル化し、ほぼ固体となった。
【0095】
ゲル製剤の注射のために、モルモットは単一投与により麻酔し(例えば、0.3ml/kgの6%ペントバルビタール(Ceva sante animale)、後耳介の外科的処理(背中側からの方法)により、動物の右骨胞を開放した。骨胞は、歯科用セメント(Texton,SS White Manufacturing)により再度塞ぎ、外傷はベータダイン溶液で消毒し、縫い合わせた。3時間後、動物の各ゲル製剤群の4匹は、外リンパを採取するために、深い麻酔下(50mg/kgペントバルビタール)で首を切り落とし、残りの動物は48時間後に犠牲とした。右の蝸牛は、側頭骨から取り出し、骨胞を開放した。蝸牛痩孔(直径0.2mm)の付け根のそばの蝸牛に小さな孔を開けた。10マイクロリットルの外リンパは、殺菌したガラス製のマイクロピペットの孔(先端の直径が0.1mm)を介して採取した。サンプルは、検出限界が0.2ng/mlである液体クロマトグラフィ質量分析法により分析した(HPLC装置:Perkin Elmer series 200;質量分析検出器:MSD Sciex API4000 Applied Biosystems;カラム:Zorbax SB CN50×2.1mm 5μm−Agilent technologies)。
【0096】
結果
図3に示すように、粘性の低いヒアルロン酸製剤を使用した場合、処理後3時間および48時間の時点での外リンパにおいて濃度に大きな変化はみられなかった。これば、注射された製剤が内耳中で同様の濃度で提供されていることを示している。図3は、さらに、処理後3時間での外リンパにおける濃度がヒアルロン酸の濃度の約2倍以上であったことから、ポロキサマーが蝸牛窓膜を越えて効果的に放出されることも示している。これは、異なる放出動力学によるものであるか、または蝸牛窓の隙間におけるゲルの固体化(すなわち、局所的な治療において)が、蝸牛窓膜へのより一層の付着を可能とする事実によるものである。3時間後、さらなる流動性を有するヒアルロン酸製剤の一部分は、蝸牛窓の隙間それぞれと同程度の高さである中耳空間から咽頭に下がって、すでに排出される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】長期にわたる、リン酸緩衝液中の5%および7.5%のヒアルロン酸ゲル製剤からのS−(+)−ケタミンの累積放出を示す図である。
【図2】モルモットの蝸牛窓の隙間に塗布された後、蝸牛窓において拡散された2.8%ヒアルロン酸製剤から放出された後の外リンパにおけるS−(+)−ケタミンの濃度を示す図である。
【図3】モルモットの蝸牛窓の隙間に注入され、蝸牛窓において内耳中に拡散された0.7%ヒアルロン酸製剤または20%ポロオキサマー製剤から放出された後の外リンパにおけるS−(+)−ケタミンの濃度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アリールシクロアルキルアミンもしくはその誘導体、アナログおよびその薬学的な活性を有する塩からなる群より選択される薬学的な活性剤、および(ii)生体適合性を有するポリマーまたは生体適合性を有するポリマーの混合物を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
上記組成物は、固体、半固体、ゲル様、または液体であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
上記組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、または熱硬化性ゲルであることを特徴とする請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
上記生体適合性を有するポリマーは、天然多糖類もしくは合成ポリマーおよびそれらの混合物からなる群より選択されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
上記生体適合性を有するポリマーは、ブロック(コ)ポリマーより選択されることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
上記生体適合性を有するポリマーは、ヒアルロン酸、レシチンゲル、(ポリ)アラニン誘導体、プルロニクス(pluronics)、ポリ(エチレン)グリコール、ポロキサマー、キトサン、キシログルカン、コラーゲン、フィブリンまたはそれらの混合物より選択されることを特徴とする請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
上記生体適合性を有するポリマーは、生物分解性を有することを特徴とする請求項4から6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
上記アリールシクロアルキルアミンは、NMDA拮抗体であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
上記アリールシクロアルキルアミンは、一般式(I)を有することを特徴とする請求項7または8に記載の組成物。
【化1】

(R1、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、H、Cl、F、I、CH、CHCH、NH、OH、CONH、COClまたはCOOHである)
【請求項10】
上記薬学的な活性剤は、2−(2−クロロフェニル)−2−(メチルアミノ)−シクロヘキサノン(ケタミン)であり、好ましくは(S)−ケタミンであることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
薬学的に許容されている媒介物質、緩衝液、結合剤、添加剤および中耳−内耳仲介組織構造の浸透性を増加する物質からなる群より選択されるさらなる成分を含むことを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
上記浸透性を増加する物質は、ヒスタミンであることを特徴とする請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1から12に記載の組成物を含むことを特徴とする薬剤。
【請求項14】
薬品放出製剤として形成されていることを特徴とする請求項13に記載の薬剤。
【請求項15】
薬品放出製剤である上記薬剤は、数時間から数週間の間、上記薬学的な活性剤を放出することを特徴とする請求項13または14に記載の薬剤。
【請求項16】
注射可能であり、中耳において付着するように粘性が変更されていることを特徴とする請求項14から15のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項17】
化学薬品に曝されることにより放出特性が変化することを特徴とする請求項13から16に記載の薬剤。
【請求項18】
生体粘着性または機械的な性質により、選択された中耳−内耳仲介組織構造において、目的とした放出を行うことを特徴とする請求項13から17に記載の薬剤。
【請求項19】
インプラントの形態で供されることを特徴とする請求項13から18に記載の薬剤。
【請求項20】
内耳疾病の治療に用いる、請求項1から12に記載の組成物から用意される薬剤または請求項13から19に記載の薬剤を調合することを特徴とする組成物の利用。
【請求項21】
耳鳴り、難聴、内耳炎もしくは内耳感染症、自己免疫性疾患、めまいまたはメニエール病の治療に用いることを特徴とする請求項20に記載の組成物の利用。
【請求項22】
興奮毒性により誘発する聴覚細胞退行または経年により誘発する聴覚細胞退行の治療に用いる薬剤を調合することを特徴とする請求項20または21に記載の利用。
【請求項23】
内耳疾病による哺乳類の苦痛に対して、請求項1から12に記載の組成物または請求項13から19に記載の薬剤を投与することを特徴とする内耳疾病による哺乳類の苦痛を治療する方法。
【請求項24】
上記組成物は、中耳に対する付着により投与されることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
上記組成物は、注入、注射、または外科的な器具を用いた沈着により投与されることを特徴とする請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−509982(P2009−509982A)
【公表日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−532601(P2008−532601)
【出願日】平成17年9月28日(2005.9.28)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010478
【国際公開番号】WO2007/038949
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(506327612)アウリス メディカル アクチエンゲゼルシャフト (4)
【Fターム(参考)】