説明

内視鏡の洗浄消毒方法、および内視鏡用洗浄消毒装置

【課題】残留水によって消毒液が希釈されることを確実に防止する。
【解決手段】内視鏡用洗浄消毒装置2のCPU60は、消毒工程の直前に、第1ポンプ45を作動させ、アルコール供給路44を経由して、アルコールタンク42内のアルコールがノズル20、およびカプラ32に供給されるようにするとともに、噴射装置15を作動させ、ノズル20からアルコールを噴射させるようにし、内視鏡30の内部管路、外表面、および洗浄槽12の表面に残留している水をアルコールで置換する置換工程を行わせる。残留水によって消毒液が希釈されることがないので、消毒液の再利用回数が増え、ランニングコストを低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄槽に収容された内視鏡を洗浄・消毒する内視鏡の洗浄消毒方法、および内視鏡用洗浄消毒装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、内視鏡を利用した医療診断が盛んに行われている。医療診断で使用された内視鏡は、看護師などによる予備洗浄後、内視鏡用洗浄消毒装置の洗浄槽内にて、洗浄、消毒、すすぎ、乾燥などの各種処理が施され、洗浄・消毒滅菌される。
【0003】
内視鏡用洗浄消毒装置では、装置内部に据え付けられたタンクに消毒液を貯留しており、消毒に使われた消毒液をタンクに回収する機構を設け、消毒液を再利用するようにしているが、内視鏡の外表面や内部管路、洗浄槽の表面などに残留した水(残留水)によって消毒液が希釈され、その効力がすぐに失活してしまうという問題があった。
【0004】
上記問題を解決するために、従来の内視鏡用洗浄消毒装置では、内部管路にエアーを導入して残留水を乾燥させる処置が施されている。また、内視鏡の外表面、および洗浄槽の表面の残留水を予備消毒液で置換した後、消毒液を供給するようにした内視鏡用洗浄消毒装置が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−299697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内部管路にエアーを導入して残留水を乾燥させる従来の手法では、完全に乾燥させることは困難であり、程度は小さいが消毒液が希釈されてしまう。このため、少しでも消毒液を希釈させないために乾燥時間を長くとる必要があった。
【0006】
また、特許文献1に記載の手法では、内視鏡の外表面、および洗浄槽の表面には予備消毒液による置換を行っているが、内部管路には行っていないため、内部管路の残留水によって消毒液が希釈されるおそれがあった。
【0007】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、残留水によって消毒液が希釈されることを確実に防止することができる内視鏡の洗浄消毒方法、および内視鏡用洗浄消毒装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、内視鏡用洗浄消毒装置の洗浄槽に収容された内視鏡を洗浄・消毒する方法において、消毒工程の直前に、室温で揮発性を有する液体を前記内視鏡の内部管路に導入し、前記液体で前記内部管路に残留している水を置換する置換工程を行うことを特徴とする。
【0009】
なお、前記液体は、消毒用アルコールであることが好ましい。
【0010】
前記置換工程において、前記内視鏡の外表面、および前記洗浄槽の表面にも前記液体を吹き付けるようにすることが好ましい。
【0011】
請求項4に記載の発明は、洗浄槽に収容された内視鏡を洗浄・消毒する内視鏡用洗浄消毒装置において、室温で揮発性を有する液体を前記内視鏡の内部管路に導入する液体導入手段と、前記液体で前記内部管路に残留している水が置換されるように、消毒工程の直前に前記液体導入手段を作動させる制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
なお、前記液体として、消毒用アルコールを用いることが好ましい。
【0013】
前記内視鏡の外表面、および前記洗浄槽の表面に前記液体を吹き付ける液体吹き付け手段をさらに備え、前記制御手段は、前記液体導入手段とともに前記液体吹き付け手段を作動させることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の内視鏡の洗浄消毒方法、および内視鏡用洗浄消毒装置によれば、消毒工程の直前に、液体導入手段にて室温で揮発性を有する液体を内視鏡の内部管路に導入し、液体で内部管路に残留している水を置換する置換工程を行うようにしたので、残留水によって消毒液が希釈されることを確実に防止することができる。したがって、消毒液の再利用回数が増え、ランニングコストを低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1において、内視鏡用洗浄消毒装置2は、箱状の装置本体10と、装置本体10にヒンジで開閉自在に取り付けられた蓋11とから構成される。この内視鏡用洗浄消毒装置2は、装置本体10の上面に設けられた洗浄槽12に使用済みの内視鏡30(図2参照)を収容し、洗浄、消毒、すすぎ、乾燥などの各種処理を施して、内視鏡30を洗浄・消毒滅菌するものである。
【0016】
装置本体10の上面手前には、操作パネル13、および表示パネル14が配されている。操作パネル13は、上記各種処理の内容に関する設定や洗浄開始/停止などを指示するための多数のボタンからなる。表示パネル14は、各種設定画面、処理の残り時間、トラブル発生時の警告メッセージなどを表示する。
【0017】
蓋11は、洗浄槽12に使用済みの内視鏡30を収容する際や、消毒滅菌後の内視鏡30を取り出す際に開閉操作される。消毒滅菌を行っている際には、蓋11により洗浄槽12の開口部が覆われ、外部に洗浄水や消毒液が飛散しないようになっている。また、蓋11の上面は、透明なのぞき窓となっており、洗浄や消毒滅菌の様子を視認することが可能となっている。
【0018】
洗浄槽12内には、噴射装置15、洗浄水を供給する給水口16、消毒液を供給する消毒液供給口17、および洗浄水、消毒液を排出する排液口18などが設けられている。
【0019】
噴射装置15は、洗浄槽12の略中央に配されており、円筒状の回転体19と、回転体19の周面に複数設けられたノズル20とからなる。内視鏡30の洗浄時には、回転体19が回転されるとともに、ノズル20から洗浄水が噴射される。また、詳しくは後述するように、消毒工程の直前には、ノズル20からアルコールが噴射される。
【0020】
図2に示すように、使用済みの内視鏡30は、手元操作部31が洗浄槽12の側面に設けられたカプラ32の近傍に載置され、回転体19の周辺に巻き回された状態で洗浄槽12内に収容される。カプラ32は、手元操作部31の吸引ボタンの装着口33、送気・送水ボタンの装着口34、および鉗子口35にチューブ36を介して接続されている。このカプラ32からチューブ36を経由して、洗浄水や消毒液、アルコールが内視鏡30内部の送気・送水チューブ、吸引チューブ、および鉗子挿通用チューブに供給され、これにより内視鏡30の内部管路の洗浄・消毒滅菌、およびアルコールによる置換が行われる。
【0021】
図3において、装置本体10の上部には、水道水の蛇口などの水供給源とホースなどで接続され、給水口16に繋がる給水路40が配されている。給水路40は、その途中に配された第1電磁弁41によって開閉される。
【0022】
第1電磁弁41が開かれると、給水路40に水供給源からの水(水道水)が流れ、この水道水が給水口16から洗浄水として洗浄槽12に供給される。なお、図示はしていないが、給水路40には、ノズル20やカプラ32が繋がれており、これらの箇所にも洗浄水が供給されるようになっている。
【0023】
装置本体10の下部には、アルコールタンク42と、消毒液タンク43とが配設されている。アルコールタンク42には、室温で揮発性を有する消毒用アルコール、例えば、エタノールやイソプロパノールが貯留され、ノズル20、およびカプラ32に繋がるアルコール供給路44が接続されている。アルコール供給路44の途中には、アルコールタンク42内のアルコールをノズル20、およびカプラ32に向けて吸い上げる第1ポンプ45が配されている。
【0024】
第1ポンプ45が作動されると、アルコール供給路44に第1ポンプ45によって吸い上げられたアルコールタンク42内のアルコールが流れ、このアルコールがノズル20、およびカプラ32から洗浄槽12、および内視鏡の内部管路に供給される。
【0025】
消毒液タンク43には、内視鏡30の消毒に使用する薬液(例えば、グルタラール、過酢酸、酸性水、二酸化塩素、過酸化水素など)が貯留され、消毒液供給口17に繋がる消毒液供給路46と、排液口18に繋がる消毒液回収路47とが接続されている。消毒液供給路46の途中には、消毒液タンク43内の消毒液を洗浄槽12に向けて吸い上げる第2ポンプ48が配されている。
【0026】
第2ポンプ48が作動されると、消毒液供給路46に第2ポンプ48によって吸い上げられた消毒液タンク43内の消毒液が流れ、この消毒液が消毒液供給口17から洗浄槽12に供給される。なお、図示はしていないが、消毒液供給路46には、給水路40やアルコール供給路44と同様に、ノズル20やカプラ32が繋がれており、これらの箇所にも第2ポンプ48によって消毒液が供給されるようになっている。
【0027】
消毒液回収路47は、第2電磁弁49を介して、排液口18と外部排液口50とを繋ぐ排液路51に接続されている。消毒液回収路47、および排液路51は、第2電磁弁49によって開閉される。
【0028】
第2電磁弁49が作動されて、消毒液回収路47側が開、排液路51側が閉となると、排液口18から排液された消毒液が、消毒液回収路47を経由して消毒液タンク43に回収される。
【0029】
排液路51の第2電磁弁49の下流側には、第3電磁弁52が配されている。排液路51は、この第3電磁弁52によっても開閉され、循環系(図示せず)側と外部排液口50側とに流路が切り替えられる。
【0030】
第2電磁弁49の消毒液回収路47側が閉、排液路51側が開の状態で、第3電磁弁52が作動されて、排液路51側が開となり、循環系側が閉となると、排液口18から排水された洗浄水や効力が失活した消毒液が、外部排液口50から外部に排液される。
【0031】
洗浄槽12の裏面には、超音波振動子53が固着されている。超音波振動子53は、洗浄槽12に洗浄水を貯めて内視鏡30が完全に洗浄水に浸漬された状態で作動され、洗浄水に超音波を放射して内視鏡30に付着した汚れを超音波洗浄する。なお、図示はしていないが、洗浄槽12には、上限水位を検知するための水位センサやオーバーフローなどの安全装置が設けられており、洗浄水や消毒液が溢れることを防止している。
【0032】
図4において、CPU60は、内視鏡用洗浄消毒装置2の各部の動作を統括的に制御する。ROM61には、内視鏡用洗浄消毒装置2を動作させるために必要なプログラムやデータが記憶されている。CPU60は、このROM61から、プログラムやデータを作業用メモリであるRAM62に読み出し、各種処理に応じた制御を実行する。また、CPU60は、操作パネル13の操作入力に応じて各部を動作させ、表示パネル14に画面を表示させる。
【0033】
CPU60は、消毒工程の直前に、アルコールを内視鏡30の内部管路に導入するとともに、ノズル20からアルコールを噴射させ、内視鏡30の内部管路、外表面、および洗浄槽12の表面に残留している水(残留水)をアルコールで置換する置換工程を行わせる。すなわち、CPU60は、第1ポンプ45を作動させ、アルコール供給路44を経由して、アルコールタンク42内のアルコールがノズル20、およびカプラ32に供給されるようにするとともに、噴射装置15を作動させ、ノズル20からアルコールを噴射させるようにする。
【0034】
次に、上記構成を有する内視鏡用洗浄消毒装置2による内視鏡30の洗浄・消毒滅菌の処理手順を、図5のフローチャートを参照して説明する。内視鏡30による検査の終了後、作業者は、まず、内視鏡用洗浄消毒装置2の電源をオンし、使用済みの内視鏡30をベッドサイドなどで軽く水洗い(予備洗浄)して、内視鏡30に付着している汚物などを洗い流す。
【0035】
予備洗浄後、作業者は、手元操作部31がカプラ32の近傍に位置するように、内視鏡30を回転体19の周辺に巻き回して洗浄槽12内に収容し、吸引ボタンの装着口33、送気・送水ボタンの装着口34、および鉗子口35にチューブ36を接続した後、蓋11を閉めて操作パネル13を操作し、洗浄・消毒滅菌工程を開始させる。
【0036】
洗浄・消毒滅菌工程の開始が指示されると、内視鏡用洗浄消毒装置2では、CPU60の制御の下に、噴射装置15および第1電磁弁41が作動され、回転体19を回転させながらノズル20から水を噴射して、内視鏡30の外表面を洗浄する前洗浄が行われる。また、カプラ32、およびチューブ36を介して、内視鏡30の内部管路に水が導入され、内部管路が洗浄される。この前洗浄で使用された水は、排液口18を介して外部排液口50に排水される。
【0037】
前洗浄後、CPU60により第1電磁弁41が作動されて、水供給源からの水道水が給水口16から洗浄槽12に供給される。そして、内視鏡30が完全に洗浄水に浸漬された状態とされた後、CPU60の制御の下に、超音波振動子53が作動され、洗浄水に超音波を放射して内視鏡30に付着した汚れを落とす超音波洗浄が行われる。超音波洗浄で使用された水は、排液口18を介して外部排液口50に排水される。
【0038】
超音波洗浄後、前洗浄時と同様に、内部管路が洗浄される。そして、超音波洗浄前と同様に、給水口16から洗浄槽12に洗浄水が供給され、内視鏡30の外表面および洗浄槽12の汚れを洗い流すすすぎが行われる。すすぎに使用された水は、排液口18を介して外部排液口50に排水される。
【0039】
すすぎ後、CPU60により第1ポンプ45が作動され、アルコール供給路44を経由して、アルコールタンク42内のアルコールがノズル20、およびカプラ32に供給される。これと同時に、噴射装置15が作動され、ノズル20からアルコールが噴射される。これにより、内視鏡30の内部管路、外表面、および洗浄槽12の表面の残留水がアルコールで置換される。
【0040】
アルコールによる残留水の置換後、CPU60により第2ポンプ48が作動され、消毒液供給口17から洗浄槽12に消毒液が供給され、内視鏡30が消毒液に完全に浸漬された状態とされる。また、カプラ32、およびチューブ36を介して、内視鏡30の内部管路に消毒液が導入され、内部管路が消毒される。このとき、内視鏡30の内部管路、外表面、および洗浄槽12の表面の残留水が、置換工程でアルコールに置換されているので、残留水によって消毒液が希釈されることがない。
【0041】
内視鏡30を消毒液に所定時間浸漬させた後、CPU60により第2電磁弁49が作動されて、排液路51側が閉、消毒液回収路47側が開となり、排液口18から消毒液回収路47を経由して、消毒液タンク43に消毒液が回収される。
【0042】
消毒後、超音波洗浄後のすすぎと同様のすすぎが2回行われ、置換工程と同様に、ノズル20やカプラ32からアルコールが供給される乾燥工程を経て、内視鏡30の洗浄・消毒滅菌工程が終了する。
【0043】
上記実施形態では、前洗浄用の装置として噴射装置15を設けているが、この代わりに、若しくはこれに加えて、洗浄槽12の四囲にスプレーノズルを設けてもよい。また、洗浄槽12に酵素洗剤を供給する機構やミクロバルブを発生させる機構を設けてもよく、装置の仕様に応じて適宜追加変更することができる。
【0044】
上記実施形態では、水供給源から直接水道水を導入しているが、給水路40に水道水の雑菌を除去するフィルタを設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】内視鏡用洗浄消毒装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】洗浄槽に内視鏡を収容した様子を示す平面図である。
【図3】装置本体内部の構成を示す平面図である。
【図4】内視鏡用洗浄消毒装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図5】洗浄・消毒滅菌工程の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0046】
2 内視鏡用洗浄消毒装置
10 装置本体
12 洗浄槽
15 噴射装置
16 給水口
18 排液口
19 回転体
20 ノズル
30 内視鏡
32 カプラ
42 アルコールタンク
44 アルコール供給路
45 第1ポンプ
60 CPU


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡用洗浄消毒装置の洗浄槽に収容された内視鏡を洗浄・消毒する方法において、
消毒工程の直前に、室温で揮発性を有する液体を前記内視鏡の内部管路に導入し、前記液体で前記内部管路に残留している水を置換する置換工程を行うことを特徴とする内視鏡の洗浄消毒方法。
【請求項2】
前記液体は、消毒用アルコールであることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡の洗浄消毒方法。
【請求項3】
前記置換工程において、前記内視鏡の外表面、および前記洗浄槽の表面にも前記液体を吹き付けるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の内視鏡の洗浄消毒方法。
【請求項4】
洗浄槽に収容された内視鏡を洗浄・消毒する内視鏡用洗浄消毒装置において、
室温で揮発性を有する液体を前記内視鏡の内部管路に導入する液体導入手段と、
前記液体で前記内部管路に残留している水が置換されるように、消毒工程の直前に前記液体導入手段を作動させる制御手段とを備えたことを特徴とする内視鏡用洗浄消毒装置。
【請求項5】
前記液体として、消毒用アルコールを用いたことを特徴とする請求項4に記載の内視鏡用洗浄消毒装置。
【請求項6】
前記内視鏡の外表面、および前記洗浄槽の表面に前記液体を吹き付ける液体吹き付け手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記液体導入手段とともに前記液体吹き付け手段を作動させることを特徴とする請求項4または5に記載の内視鏡用洗浄消毒装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−89636(P2007−89636A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−279386(P2005−279386)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】