説明

内視鏡及び硬度調整装置

【課題】硬度可変機構の塑性変形による硬度低下や術者が意図していない硬度の上昇が発生することを防止する。
【解決手段】内視鏡挿入部の軟性部の可撓性を可変とするように、その曲げ硬度を変更することが可能な前記軟性部内に配置された密着コイルばねと、前記密着コイルばねを挿通するように設けられたワイヤと、前記ワイヤと前記密着コイルばねを相対的に牽引することにより前記密着コイルばねに圧縮力を加える牽引機構と、前記ワイヤの先端から基端との間の領域において、前記密着コイルばね又は前記ワイヤの少なくとも一方に対して、それと直列に配置された弾性部材と、を備えたことを特徴とする硬度調整装置を提供することにより前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡及び硬度調整装置に関し、特に、内視鏡挿入部における軟性部の可撓性を変更可能とした内視鏡及び硬度調整装置に関する。
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、医療分野において、内視鏡を利用した医療診断が広く行われており、特に、体腔内に挿入される内視鏡の挿入先端部にCCDなどの撮像素子を内蔵して体腔内の画像を撮影し、プロセッサ装置で信号処理を施してモニタに表示し、これを医者が観察して診断に用いたり、あるいは、処置具挿通用のチャンネルから処置具を挿入して、例えば試料の採取やポリープの切除等の処置を行うようにしている。
【0003】
内視鏡は、一般に、施術者(以下単に術者という)が把持して操作する本体操作部と、この本体操作部に対して体腔内等へ挿入される挿入部を連接するとともに、本体操作部からコネクタ部等に接続するためのユニバーサルケーブルを引き出すことにより大略構成され、ユニバーサルケーブルは本体操作部から延在させて、その他端部は光源装置(光源装置およびプロセッサ)に着脱可能に接続される。
【0004】
内視鏡の挿入部は、複雑に屈曲した挿入経路内にも挿入できるように、可撓性を有する軟性部を有している。しかし、この可撓性のために挿入部の先端側の方向が定まらず、目標とする方向に挿入することが難しいという問題がある。また、体腔内に挿入している際、何らかの処置や観察を行うために、挿入部がそのときの形状で固定されていることが望ましい場合がある。
【0005】
そこで、従来、内視鏡挿入部の軟性部内に配置された伸縮により可撓性が変化する可撓性可変部材と、可撓性可変部材に連結されたワイヤと、ワイヤに張力を与えるための操作レバーとから構成され、操作レバーを操作することによりワイヤを牽引して可撓性可変部材の可撓性を変化させるようにした硬度可変機構が考えられている(例えば、特許文献1等参照)。
【0006】
また、例えば特許文献2には、内視鏡軟性部に配置されたコイルパイプと、このコイルパイプに挿通した可撓性調整ワイヤの先端を連結し、これに対して、コイルパイプの基端に連結するユニオンと、可撓性調整ワイヤの基端に連結する調整ロッドと、ユニオン及び調整ロッド間を連設するユニオンナットにより硬度可変操作部を構成し、ユニオンとユニオンナットの一方の回動を規制し、他方を回転することにより可撓性調整ワイヤを牽引してコイルパイプの可撓性を変化させるようにした硬度可変機構が記載されている。
【0007】
また、例えば特許文献3には、軟性部内に密着コイルとその中に挿通したワイヤとを設け、ワイヤを牽引操作してコイルに圧縮力をかけて硬質化することで軟性部の硬度を調整可能にした内視鏡において、軟性部が硬質化する前に軟状態において、軟性部をストレート状態からループ状態にしたときに、ワイヤ端部がコイル端部に対して移動自在となるようにワイヤに遊びを設けることにより、術者の意図に反して挿入部が硬質化するのを防止するようにしたものが記載されている。
【0008】
また、例えば特許文献4には、軟性部の中に密着コイルとその中にワイヤが設けられ、軟性部をストレート状態からループ状態にすると、密着コイルに圧縮力が加わるように密着コイルの両端に対してワイヤの移動を規制することにより、内視鏡操作を止めることなく挿入部の硬度調整操作を可能としたものが記載されている。
【0009】
また、特許文献5には、内視鏡挿入部を構成する可撓管の先端から所定の範囲を硬度が最も低い軟性可撓部とし、その手元側の所定範囲を最も硬度が高い硬性可撓部とし、さらに軟性可撓部と硬性可撓部との間を硬度が最も低い状態から硬度が最も高い状態まで変化させた硬度変化部として形成し、長手方向に硬度可変領域を備え、硬度可変領域の先端を、硬度変化部内でかつ可撓管の先端から所定長さ離間した位置に配置するようにした内視鏡が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開平3−43802号公報
【特許文献2】特開平5−91971号公報
【特許文献3】特開平10−24013号公報
【特許文献4】特開平10−33464号公報
【特許文献5】特許第3869060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、従来の硬度可変機構は、密着ばね(コイルパイプ)と、これを挿通するワイヤで構成され、先端側で両者を接合し、手元側で密着ばねを押しこむか、あるいはワイヤを牽引することで密着ばねに圧縮張力を与えることにより、密着ばねの曲げ硬度を調整するようにしていた。このとき、密着ばねを曲げ変形させると、曲げの内側が支点となり、密着ばねの中央部の長さが伸びるが、張力に逆らって伸びる必要があり、この抵抗力が曲げ剛性(硬度)となっていた。
【0012】
しかしながら、硬度可変操作や内視鏡使用中の軟性部の曲げ動作などにおいて、ワイヤ及び密着ばねに対して繰り返しの張力が加わると、ワイヤの塑性変形や密着ばねの塑性変形(ばね素線の潰れ変形、ばねの蛇行変形等)が発生する。この塑性変形のため、同じ牽引量を与えた場合でも、硬度可変量が減少して硬度可変機構の硬度が低下(いわゆる、「へたり」)してしまうという問題がある。
【0013】
また、軟性部をループさせるなど、軟性部に曲げ変形を与えると、硬度可変機構全体の張力が上昇して、硬度可変機構で設定した硬度を超える硬度の上昇が発生してしまうという問題がある。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、硬度可変機構の塑性変形による硬度低下や術者が意図していない硬度の上昇が発生することを防止することのできる内視鏡及び硬度調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、内視鏡挿入部の軟性部の可撓性を可変とするように、その曲げ硬度を変更することが可能な前記軟性部内に配置された密着コイルばねと、前記密着コイルばねを挿通するように設けられたワイヤと、前記ワイヤと前記密着コイルばねを相対的に牽引することにより前記密着コイルばねに圧縮力を加える牽引機構と、前記ワイヤの先端から基端との間の領域において、前記密着コイルばね又は前記ワイヤの少なくとも一方に対して、それと直列に配置された弾性部材と、を備えたことを特徴とする硬度調整装置を提供する。
【0016】
これにより、密着コイルばね、ワイヤ及び弾性部材からなる硬度可変機構全体の弾性定数を低下させ、硬度可変機構の塑性変形による硬度低下や術者が意図していない硬度の上昇が発生することを防止することが可能となる。
【0017】
また、請求項2に示すように、前記牽引機構は、前記密着コイルばね先端と前記ワイヤ先端を締結するとともに、前記密着コイルばね基端を密着コイルばね固定部材により固定し、前記ワイヤを牽引するワイヤ牽引手段から構成されることを特徴とする。
【0018】
このように、ワイヤを牽引することによって密着コイルばねに圧縮力を付与することができる。
【0019】
また、請求項3に示すように、請求項2に記載の硬度調整装置において、前記密着コイルばね固定部材と前記ワイヤ牽引手段との間において、前記弾性部材を、前記ワイヤの途中に直列に配置したことを特徴とする。
【0020】
このように、ワイヤに直列に弾性部材を配置することで、硬度可変機構全体の弾性定数を低下させることができる。
【0021】
また、請求項4に示すように、請求項2に記載の硬度調整装置において、前記弾性部材を、前記密着コイルばね基端と前記密着コイルばね固定部材との間に直列に配置したことを特徴とする。
【0022】
このように、密着コイルばねに直列に弾性部材を配置することで、硬度可変機構全体の弾性定数を低下させることができる。
【0023】
また、請求項5に示すように、前記弾性部材を前記密着コイルばね先端に直列に配置し、前記牽引機構は、前記弾性部材の先端と前記ワイヤ先端を締結するとともに、前記密着コイルばね基端を密着コイルばね固定部材により固定し、前記ワイヤを牽引するワイヤ牽引手段から構成されることを特徴とする。
【0024】
また、請求項6に示すように、請求項5に記載の硬度調整装置において、前記弾性部材と前記密着コイルばねを直列に接合する位置を、軟性部先端から所定距離だけ基端側に離間した位置としたことを特徴とする。
【0025】
これにより、軟性部の先端領域を硬度可変機能により急激に硬度を硬くすることを防止することができる。
【0026】
また、請求項7に示すように、前記牽引機構は、前記密着コイルばね先端と前記ワイヤ先端を締結するとともに、前記ワイヤ基端をワイヤ固定部材に固定し、前記密着コイルばね基端を密着コイルばね先端側に押圧することにより前記密着コイルばねに圧縮力を付与する押圧手段から構成されることを特徴とする。
【0027】
このように、密着コイルばねを押圧することによっても密着コイルばねに圧縮力を付与することができる。
【0028】
また、請求項8に示すように、請求項7に記載の硬度調整装置において、前記弾性部材を、前記密着コイルばね基端と前記押圧手段との間に直列に配置したことを特徴とする。
【0029】
また、請求項9に示すように、請求項7に記載の硬度調整装置において、前記押圧手段と前記ワイヤ固定部材との間において、前記弾性部材を、前記ワイヤの途中に直列に配置したことを特徴とする。
【0030】
このように、密着コイルばねあるいはワイヤに直列に弾性部材を配置して、密着コイルばねを押圧することにより、硬度可変機構全体の弾性定数を低下させ、硬度可変機構の塑性変形による硬度低下を防ぐことができる。
【0031】
また、請求項10に示すように、前記密着コイルばねに直列に配置される弾性部材を、前記密着コイルばねのピッチを変化させることによって形成したことを特徴とする。
【0032】
弾性部材は、密着コイルばねに対して別体のばねを接合するのではなく、密着コイルばねのピッチを変えることによって弾性部材にあたる部分を構成することもできる。
【0033】
また、同様に前記目的を達成するために、請求項11に記載の発明は、請求項1〜10のいずれかに記載の硬度調整装置を備えたことを特徴とする内視鏡を提供する。
【0034】
これにより、内視鏡において密着コイルばね、ワイヤ及び弾性部材からなる硬度可変機構全体の弾性定数を低下させ、硬度可変機構の塑性変形による硬度低下や術者が意図していない硬度の上昇が発生することを防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0035】
以上説明したように、本発明によれば、密着コイルばね、ワイヤ及び弾性部材からなる硬度可変機構全体の弾性定数を低下させ、硬度可変機構の塑性変形による硬度低下や術者が意図していない硬度の上昇が発生することを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る硬度調整装置を備えた内視鏡の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】内視鏡の内部構造を示す、長手方向に沿った断面図である。
【図3】ワイヤ牽引部の構成を示す、手元操作部の断面図である。
【図4】牽引機構部の構成を示した斜視図である。
【図5】硬度可変機構のワイヤの牽引量と、牽引によって発生する張力との関係を示す線図である。
【図6】硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図7】硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図8】(A)、(B)は、密着ばね押圧部材を示す構成図である。
【図9】(A)、(B)は、密着ばね押圧部材の他の例を示す構成図である。
【図10】硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図11】硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第4の実施形態を示す概略構成図である。
【図12】硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第5の実施形態を示す概略構成図である。
【図13】軟性部における硬度分布の例を示す線図である。
【図14】硬度可変機構を設定した場合の硬度分布の例を示す線図である。
【図15】硬度可変機構を設定した場合の硬度分布の他の例を示す線図である。
【図16】硬度可変機構を設定した場合の硬度分布のさらに他の例を示す線図である。
【図17】ばねのピッチを変えた場合の曲げ曲率と曲げモーメントの関係を示す線図である。
【図18】(A)は曲げモーメントが生じない場合のばねの例、(B)は曲げモーメントが生じ始めた場合のばねの例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る内視鏡及び硬度調整装置について詳細に説明する。
【0038】
図1は、本発明に係る硬度調整装置を備えた内視鏡の一実施形態を示す概略構成図である。
【0039】
図1に示すように、内視鏡10は、手元操作部12と、手元操作部12に基端部が連結された挿入部14とを備えている。術者は、手元操作部12を左手で把持して操作しつつ、右手で挿入部14を把持して挿入部14を被検者の体腔内に挿入することによって観察を行う。
【0040】
手元操作部12には、ユニバーサルケーブル16が接続され、ユニバーサルケーブル16の先端にはLGコネクタ17が設けられている。図示を省略するが、このLGコネクタ17を光源装置に接続することによって、挿入部14の先端部に配設された照明光学系に照明光が送られるようになっている。また、同様に図示を省略するが、ユニバーサルケーブル16には、電気コネクタが接続されており、電気コネクタは内視鏡プロセッサに接続される。これにより、内視鏡10で得られた観察画像の信号が内視鏡プロセッサに出力され、内視鏡プロセッサに接続されたモニタ装置に画像が表示される。術者はこの画像を観察しながら内視鏡10を操作する。
【0041】
挿入部14は、手元操作部12の先端部に接続され、その(手元操作部12側の)基端部から(体腔内に挿入される側の)先端に向けて、軟性部26、湾曲部24、及び先端硬質部22の各部によって構成されている。湾曲部24は、手元操作部12に設けられたアングルノブ30を回動することによって遠隔的に湾曲操作される。これによって、先端硬質部22の先端面を所望の方向に向けることができる。
【0042】
また、手元操作部12には、図示を省略した送気・送水チャンネルを介して先端硬質部22の送気/送水口から検査部位等に送気及び送水を行うための送気・送水ボタン32、同様に図示を省略した鉗子チャンネルを介して先端硬質部22の鉗子口から吸引を行うための吸引ボタン34、及び鉗子チャンネルと連通し、術者が鉗子を挿入するための開口である鉗子挿入口36等が設けられている。
【0043】
また、内視鏡10は、軟性部26の可撓性を調整する硬度調整装置(可撓性調整装置)を備えている。その詳しい構成は後述するが、簡単に言うと、軟性部26内に密着コイルばねが配置され、軟性部先端側で密着コイルばねと固着されるとともに手元操作部12側で固定部材に固定された密着コイルばね内を挿通されたワイヤを牽引することにより、密着コイルばねを圧縮して、密着コイルばねの硬度を硬くすることにより、軟性部26の硬度を硬くするようになっている。
【0044】
手元操作部12の上部には、軟性部26の硬度を調整する硬度調整手段の操作レバー40が設けられている。操作レバー40を操作すると、ワイヤ牽引部を介してワイヤが牽引される。特に、この操作レバー40は、図1に二点鎖線で示したように、手元操作部12を把持する左手の指が届く範囲に設けられている。さらに、詳しくは後述するが、本実施形態においては、硬度調整装置のワイヤ牽引部も手元操作部12の上部に設けるようにしている。ここで前記上部とは、図1に示すように術者が内視鏡10の手元操作部12を左手で把持して使用する際における上部を指し、構造的には、手元操作部12の基端部側を指すものとする。
【0045】
図2に、内視鏡10の構造を長手方向に沿った断面図で示す。
【0046】
図2に示すように、挿入部14の湾曲部24は、環状に形成された多数の湾曲駒42、42…を連設することによって構成されている。隣接する湾曲駒42は、互いに回動可能に連結されており、手元操作部12のアングルノブ30(図1参照)を操作することによって、湾曲部24が上下左右に湾曲して、先端硬質部22の先端面23を任意の方向に向けることができる。
【0047】
また、図2に示すように、軟性部26の内部には、軟性部26の可撓性(曲げ硬度)を変化させる硬度調整装置を構成する密着コイルばね44(以下、単に密着ばね44と言う)と、密着ばね44の内部に挿通されるワイヤ46が配置されている。
【0048】
密着ばね44は、軟性部26の先端部側に一端がロウ付け等によって固定されるとともに、他端は手元操作部12に配置された後述する密着ばね44の固定部材60(図3参照)にロウ付け等によって固定される。
【0049】
図2の如くワイヤ46は、密着ばね44の内部に挿通され、一端が密着ばね44の一端及び軟性部26の先端側にロウ付け等によって固定されるとともに、他端が手元操作部12に設けられた牽引機構部に連結される。そして、前述したように、手元操作部12の上部に設けられた操作レバー40を操作すると、牽引機構部によってワイヤ46が牽引され、その結果、密着ばね44が圧縮される。これにより、密着ばね44は、可撓性が低く硬い状態に変化するので、軟性部26の硬度(曲げ硬度)が硬く調整される。
【0050】
図3に、ワイヤ牽引部の構成を示す。図3の左側に手元操作部12の断面図を示し、図3の右側にワイヤ牽引機構を図の手元操作部12の右側から見た側面図で示す。
【0051】
図3の左側に示すように、手元操作部12の上部に、密着ばね44内を挿通されたワイヤ46を牽引するための、ワイヤ牽引部のワイヤ巻き上げプーリ50(以下、単にプーリ50と言う)が配置され、プーリ50には、ワイヤ46が巻き掛けられている。また、プーリ50は、同軸でウォームホイール(プーリ駆動ギヤ)52と連結されている。
【0052】
また、図3の右側に示すように、ウォームホイール52は、ウォーム54と係合している。ウォーム54には、同軸で平歯車56が連結されている。この平歯車56は、図3の左側に示すように、操作レバー40と結合された歯車58と係合している。ウォームホイール52とウォーム54とでウォームギヤ(減速機構)を構成している。なお、減速機構は、ギヤからなる構成に限定されず、チェーン、ベルトによる減速機構であってもよい。
【0053】
ワイヤ46は、図3の右側に示すように、その端点48を、プーリ50に固定されている。また、手元操作部12の上部に配置されたプーリ50(ワイヤ牽引手段)のすぐ近くに、密着ばね44を固定する固定部材60が設けられている。
【0054】
本実施形態においては、密着ばね44を固定する固定部材60を手元操作部12の上部側に設け、密着ばね44を手元操作部12上部まで延長している。このように、硬度可変調整部、ワイヤ牽引部、及び密着ばね固定部を、手元操作部の上部にまとめて配置することにより、例えば、図3の左側に矢印で示したように、密着ばね固定部材よりも上側の手元操作部を機能拡張モジュールとして、独立モジュールとして扱うようにすることで、これらを手元操作部と軟性部の間に配置する場合に比べて、メンテナンスが容易になる。
【0055】
術者によって操作レバー40が操作されると、操作レバー40と結合した歯車58が駆動し、これによって平歯車56が駆動される。その結果、平歯車56と同軸で結合されたウォーム54が駆動される。そして、ウォーム54によってウォームホイール52が駆動し、プーリ50が回動して、ワイヤ46が牽引されるようになっている。
【0056】
また、ワイヤ46の先端は密着ばね44の先端に固定され、また密着ばね44の一端は固定部材60に固定されているため、ワイヤ46が牽引されると、密着ばね44は、ワイヤ牽引部のプーリ50側に引っ張られ固定部材60との間で圧縮されて、その硬度(曲げ硬度)が硬くなるようになっている。
【0057】
また、操作レバー40は、図3の左側に二点鎖線で示したように、上方向と下方向に操作可能に構成されている。操作レバー40を上方向に操作すると、歯車58により平歯車56が駆動され、平歯車56とともにウォーム54が駆動し、ウォーム54によってウォームホイール52が駆動されることによりプーリ50がワイヤ46を巻き上げる方向に回動し、ワイヤ46が牽引され密着ばね44が圧縮されて密着ばね44の硬度が増し、軟性部26の硬度が硬く(可撓性が低く)なる。また、操作レバー40を下方向に操作すると、各歯車が上と逆方向に駆動されてプーリ50がワイヤ46を巻き戻す方向に回動し、ワイヤ46が弛緩して密着ばね44の圧縮が解除されて密着ばね44の硬度が減少し、軟性部26の硬度も減少する(可撓性が高くなる)。
【0058】
なお、ここで、操作レバー40からの操作力は、操作レバー40の歯車58を介してウォーム54に伝達され、さらにウォームホイール52を介してプーリ50に伝達されるが、ワイヤ46は密着ばね44の先端に固定されており(図2参照)、挿入部14(軟性部26)が湾曲すると密着ばね44も湾曲して長さが長くなる。そのため、操作レバー40を操作しなくとも、ワイヤ46は相対的にプーリ50側に引き込まれ、密着ばね44の硬度が変化してしまう。そこで、操作レバー40を操作していなくて、硬度が0の場合に、挿入部14を湾曲してもその硬度が変化しないようにするために、図3の右側に符号46Aで示すように、ワイヤ46に初期たるみ(初期余長)を持たせている。
【0059】
なお、術者が操作レバー40を操作して軟性部26の硬度を硬くしているとき、術者が操作レバー40から手指を離しても、ウォーム54とウォームホイール52の歯面の摩擦によって、ウォームホイール52がその位置で固定されるようになっている。このように、ウォーム54によってウォームホイール52を固定することにより、プーリ50を任意の位置で固定し、ワイヤ46の牽引状態を保持することができる。このようにウォームホイール52とウォーム54によって構成されるウォームギヤは、ワイヤ牽引状態を保持するブレーキ機能(セルフロック機能)を有している。また、ウォームギヤは、減速機能を有しており、ワイヤ46に係る数十kgfに達するワイヤ牽引力をより小さい操作力に軽減するために組み込まれたものである。
【0060】
このように、本実施形態によれば、ワイヤ46を牽引することにより、密着ばね44の硬度を硬くするようにしているが、ワイヤ46の先端は軟性部26先端側で密着ばね44と固着されているため、ワイヤ46の牽引力は、密着ばね44の圧縮力として、手元操作部12上部の密着ばね44の固定部材60に働く。つまり、ワイヤ牽引機構と密着ばね44の固定部材60とを構造的に連結することで力の釣り合いを保っている。
【0061】
図4に、ワイヤ牽引機構をより分かり易く斜視図で示し、この図により(上と説明が重複するが)ワイヤ牽引機構について再度説明する。
【0062】
図4に示すように、牽引機構部は、ワイヤ46から操作レバー40に向けて、密着ばね44の固定部材60、内部にプーリ50を格納するプーリハウジング62、ウォームホイール52、ウォーム54、平歯車56、及び歯車58から構成される。
【0063】
図4において、密着ばね44の他端は、密着ばねの固定部材60にロウ付け等で固定される。ワイヤ46は、密着ばね44の固定部材60に挿通され、その端部(端点48、図3参照)は、プーリハウジング62内のプーリ50に固定されている。
【0064】
プーリハウジング62内のプーリ50は、同軸でウォームホイール52と連結され、このウォームホイール52はウォーム54に噛合されている。ウォーム54には、同軸で平歯車56が連結され、この平歯車56は、操作レバー40と同軸上に連結された歯車58に噛合されている。
【0065】
ウォーム54のねじれ角は安息角(摩擦角)よりも小さくされており、これによって、ウォームホイール52からウォーム54への逆駆動が阻止されて、自己制動力がプーリハウジング62内のプーリ50に与えられている。さらに、前記減速機構の減速比は例えば、50:1に設定されており、操作レバー40の操作力に対して50倍のトルクがプーリ50に伝達されるようになっている。これにより、数十キロに達するワイヤ牽引力を、より小さい操作力に軽減できるので、操作レバー40を片手の指で容易に操作することができる。
【0066】
すなわち、本実施形態の牽引機構によれば、操作レバー40の小ストロークの繰り返し回動操作によってプーリ50に駆動を与えることができる。この牽引機構では、減速機構を介してプーリ50を回動させるため、操作レバー40の操作量は増加するが、その減速比に相当するトルクを得ることができるので、ワイヤ46の牽引操作力を軽減できる。よって、図1に示すように操作レバー40を手元操作部12上部に設けたことと相まって、術者の指で操作レバー40を容易に操作することができる。また、減速機構を使用することにより、操作レバーの1ストロークの回動でワイヤを牽引するような牽引機構部よりも機構部が大型にならず、また、操作レバー40も小型で済むので、牽引機構部を小型化することができる。さらに、牽引されたワイヤ46は、ウォームギヤの自己制動力によってプーリ50に巻き上げられた状態を保持するので、軟性部26の可撓性を容易に保持することができる。
【0067】
術者によって操作レバー40が回動操作されると、操作レバー40に連結された歯車58が駆動し、これによって平歯車56が駆動される。その結果、ウォーム54及びウォームホイール52が駆動し、プーリ50が回動してワイヤ46が牽引、弛緩される。そして、ワイヤ46の先端は、図2の如く密着ばね44の先端部に固定され、また密着ばね44の他端は、密着ばね44の固定部材60に固定されているため、ワイヤ46が牽引されると、密着ばね44は、プーリ50側に引っ張られて、密着ばねの固定部材60との間で圧縮されて、その硬度を増す。
【0068】
操作レバー40を上方向に操作すると、歯車58、平歯車56、ウォーム54、及びウォームホイール52を介してプーリ50がワイヤ46を巻き上げる方向に回動する。これにより、ワイヤ46が牽引されて密着ばね44が圧縮されるので、密着ばね44の硬度が増して軟性部26の可撓性が低く(つまり曲げ難く)なる。
【0069】
また、操作レバー40を下方向に操作すると、歯車58、平歯車56、ウォーム54、及びウォームホイール52を介してプーリ50がワイヤ46を巻き戻す方向に回動する。これにより、ワイヤ46が弛緩されて密着ばね44の圧縮が解除されるので、密着ばね44の硬度が減少して軟性部26の可撓性が高く(つまり曲げ易く)なる。
【0070】
また、術者が操作レバー40を操作して軟性部26の可撓性を硬くしているときに、術者が操作レバー40から手指を離しても、ウォームホイール52とウォーム54との歯面の摩擦力により、即ち、自己制動力によってウォームホイール52がその位置で固定される(セルフロック)。このようにウォームホイール52の回動を制動することにより、プーリ50を任意の位置で固定でき、ワイヤ46の牽引状態を保持することができる。
【0071】
以上の如く、実施の形態の内視鏡10によれば、ワイヤ46を牽引し、弛緩するプーリ50と、プーリ50に回転駆動力を与えるとともにプーリ50に自己制動力を与えるウォームギヤを有する減速機構とによって牽引機構部を構成したので、牽引機構部の小型化を図るとともにワイヤ46の牽引操作力を低減することができる。
【0072】
本発明は、硬度可変機構の塑性変形による硬度低下や術者が意図していない硬度の上昇が発生することを防止するために、硬度調整装置の硬度可変機構、具体的には、密着ばね44やワイヤ46と直列に、弾性部材を配置することにより、これら密着ばね44、ワイヤ46及び弾性部材からなる硬度可変機構全体の弾性定数を下げるようにしたものである。弾性部材としては、例えば、ばね(密着していない普通のばね)が好適に用いられる。
【0073】
次に、密着ばね44やワイヤ46と直列に弾性部材を配置したことによる効果を、図を用いて説明する。
【0074】
図5は、硬度可変機構のワイヤの牽引量と、牽引によって発生する張力との関係を示したものである。
【0075】
図5のグラフAは、密着ばねとワイヤで構成したもので、大きな傾きを有している。これは、密着ばねの各素線間がくっついており、少ない牽引量で張力が急激に立ち上がることを示している。
【0076】
これに対して、図5のグラフBは、密着ばねあるいはワイヤと直列に弾性部材(例えば密着していない普通のばね)を入れたもので、全体としての弾性定数が低くなり、グラフの傾きもグラフAより緩やかとなっている。これは弾性部材の弾性が支配的となって、牽引量を増やしてはじめてグラフAの場合と同じような張力が発生することを示している。
【0077】
例えば、硬度可変機構を働かせていない場合(硬度0の場合)に、軟性部にループを形成したとき、軟性部の変形によりワイヤが実質的にL1だけ牽引されたのと同じ状態となったとすると、弾性部材を入れていないグラフ Aの場合には、張力がT1だけ増加しているのに対して、弾性部材を入れたグラフBの場合には、弾性部材を入れたため弾性定数が低下してグラフの傾きが緩やかになっているため、例えば同じ牽引量L1に対しても、ループにより発生する張力がT1よりはるかに少なく、T3しか増加していない。従って、弾性部材を密着ばねあるいはワイヤと直列に配置した場合には、ループにより発生する張力による硬化を防ぐためにワイヤに設ける遊び(初期余長)を特に設ける必要がない。
【0078】
また、硬度可変機構を働かせている場合に、同じように軟性部にループを形成したとき、ループ形成によるワイヤ牽引量がL2のとき、弾性部材を入れていない場合のグラフAにおける張力の増加分はT2であるのに対して、弾性部材を入れた場合に硬度可変機構を働かせてグラフAの場合と同程度に硬度を上げた状態で、軟性部にループを形成したとき、ループ形成によるワイヤ牽引量がL3のとき、これに対応する張力増加分はT4となり、弾性部材を入れてない場合の張力増加分T2よりはるかに少ない。
【0079】
また、硬度調整機構を繰り返し使用している場合に、密着ばねの素線が力を受けることによりその断面形状が、元は円形断面であったものが潰れて戻らなくなったり、密着ばねの各素線がきちんと積み重なっていたものが、極端に力を加えることにより横にずれて、ばねそのものが蛇行状に変形して、全体的に短くなってしまうような変形を起こして元に戻らなくなるような塑性変形をしてしまうことがある。
【0080】
この塑性変形により密着ばねの長さが短くなり、ワイヤを牽引しても、ばねが短くなった分だけ牽引量が減少してしまう。例えば、図5にS1あるいはS2で示すように、牽引量がそれぞれ減少したとする。このとき、グラフAに示すように、弾性部材を入れてないと、張力減少がT2のように大きいが、弾性部材を入れた場合には、グラフBにT4で示すように、弾性部材を入れていない場合のT2よりはるかに小さい。
【0081】
このように、硬度可変機構(の密着ばねやワイヤ)と直列にばね等の弾性部材を入れて、硬度可変機構全体(密着ばね、ワイヤ及び弾性部材)の弾性定数を下げるようにした場合には、硬度可変機構使用時における軟性部ループによる張力上昇が減少し、ワイヤ牽引に依らない硬度の上昇を低減することができる。
【0082】
また、硬度可変機構の繰り返し使用によるワイヤや密着ばねの塑性変形により、牽引量が見かけ上減少しても、それによる張力変化(硬度可変量)を低減することができる。さらに、弾性部材を入れたことにより、硬度可変機構を使用していない場合に、術者が意図していない硬度の上昇を低減することができる。
【0083】
以下、硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を入れる具体的な実施形態について説明して行く。
【0084】
図6に、硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第1の実施形態を示す。
【0085】
図6において、左側が先端側、右側が手元側であり、これは今後述べる他の例についても同様である。先端側において、密着ばね44とワイヤ46は締結部材64に固定されている。図2に示すように、ワイヤ46は、密着ばね44の内部に挿通され、一端が密着ばね44の一端に締結部材64で固定されているが、ワイヤ46を延長し、ワイヤ46の先端を、湾曲部24と軟性部26との接合部近傍に締結部材(図示せず)によって固定することで、湾曲部24と軟性部26との接合部から所定距離離間して配置する。
【0086】
密着ばね44の基端側(手元側)は密着ばね44の固定部材60に固定され、動かないようになっている。また、ワイヤ46は、手元側で、例えば図4にその具体的構成を示したような、ワイヤ牽引機構66によって牽引されるようになっている。
【0087】
そして、図6に示すように、密着ばね44の固定部材60とワイヤ牽引機構66との間でワイヤ牽引機構66のすぐ近くに、ワイヤ46の間にばね等の弾性部材70がワイヤ46と直列に配置される。ここで弾性部材70として用いるばねは、図6に示すように密着していない普通のばねである。以下に示す例においても、弾性部材70として、このようなばねを用いることとする。
【0088】
図6において、密着ばね44の固定部材60とワイヤ牽引機構66は、手元操作部12内に配置し、密着ばね44の手元側の端部が、軟性部26より手元側に配置されるようにして、軟性部26の概ね全域を硬度可変領域とする。
【0089】
このように、ワイヤ46内に弾性部材70を配置したことにより、密着ばね44、ワイヤ46及び弾性部材70全体の弾性定数を、図5に示したグラフBのように低減することができる。これにより、密着ばね44、ワイヤ46の塑性変形による硬度可変機能の低下や、軟性部26にループを形成した際の意図せぬ硬度上昇を防止することができる。
【0090】
次に、図7に、硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第2の実施形態を示す。
【0091】
図7に示すように、この例では、密着ばね44に対して弾性部材70を直列に設置している。また、ワイヤ46の先端は前の例と同様に、密着ばね44とともに締結部材64に固定しているが、ワイヤの基端は、ワイヤ牽引機構で牽引するのではなく、ワイヤ固定部材72に固定している。
【0092】
そして、この例では、ワイヤ46を牽引する代わりに、密着ばね押圧部材74で密着ばね44を押圧することによって密着ばね44を圧縮して硬度を硬くするようにしている。このとき、図7に示すように、弾性部材70は、密着ばね44の基端側と押圧部材74との間に配置されている。この場合にも、密着ばね44、ワイヤ46及び弾性部材70全体の弾性定数は低減され、上記例と同様の効果を有する。
【0093】
なお、密着ばね押圧部材74は、術者が操作することにより密着ばね44を押圧して密着ばね44に圧縮力を加えるものであり、特に限定されるものではなく、いろいろな構成が考えられる。以下、押圧部材74の一例を図8、図9に示す。
【0094】
例えば、図8(A)に示すように、密着ばね押圧部材74は、ともに円環状(筒状)の押圧部材76と回転ノブ78とから構成され、押圧部材76は軟性部26内に配置され、回転ノブ78は軟性部26の側壁27の外側に配置されている。押圧部材76は、一方の端面を密着ばね44の基端側に固定されるとともに、側面に突起76aを有している。突起76aは、軟性部26の側壁27に形成された貫通孔27aを介して、回転ノブ78の内側に形成された溝78aに嵌合している。この突起76a及び溝78aは、例えば、軟性部26の中心軸(図に一点鎖線で示す)に関して点対称に2箇所形成されている。
【0095】
図8(B)に、回転ノブ78の内側の一部を展開して、一つの溝78aを示す。このように、溝78aは斜めに形成され、押圧部材76の突起76aがこの溝78a内を移動すると、押圧部材76は軸方向に移動可能となっている。
【0096】
すなわち、回転ノブ78は、回転するのみで軸方向には移動しないようになっており、回転ノブ78を図に矢印で示したように回転すると、突起76aの溝78aの中における位置が変わり、押圧部材76が回転せずに、図8(A)に矢印で示したように、軸方向に移動して密着ばね44を押圧して、密着ばね44に圧縮力を加えるようになっている。
【0097】
図8に示す密着ばね押圧部材74の例では、押圧部材76に突起76aを形成し、回転ノブ78に溝78aを形成したが、突起と溝を形成する場所を逆にしてもよい。
【0098】
すなわち、図9に示す例では、押圧部材76に溝76bが形成され、回転ノブ78の内壁に突起78bが形成されている。
【0099】
図9(A)に示すように、押圧部材76の側面に溝76bが形成され、回転ノブ78の内壁に形成された突起78bが、軟性部26の側壁27に形成された貫通孔27bを介して、溝76bに嵌合している。
【0100】
図9(B)に示すように、押圧部材76の側面に形成された溝76bは外周面に沿って斜めに形成されている。なお、突起78b及び溝76bは、例えば、図9(A)に一点鎖線で示す軟性部26の中心軸に関して点対称に2箇所設けられている。
【0101】
回転ノブ78は、回転するのみで軸方向には移動しない。回転ノブ78を、図9(A)に矢印で示したように回転すると、突起78bの溝76bの中における位置が変わり、それに応じて押圧部材76が軸方向に移動して密着ばね44に圧縮力を加えるようになっている。
【0102】
図10に、硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第3の実施形態を示す。
【0103】
この例は、第1の例のようにワイヤ46と直列に弾性部材70を配置するものであるが、ワイヤ46を牽引するのではなく、第2の例のように密着ばね44を押圧して密着ばね44に圧縮力を加えるものである。
【0104】
すなわち、図10に示すように、ワイヤ46の先端は前術した例と同様に、密着ばね44とともに締結部材64に固定しているが、ワイヤの基端は、ワイヤ牽引機構で牽引するのではなく、ワイヤ固定部材72に固定している。そして、弾性部材70は、押圧部材74よりもワイヤ固定部材72側に配置されている。
【0105】
またこの場合、ワイヤ46を牽引する代わりに、密着ばね押圧部材74で密着ばね44を押圧するようにしている。密着ばね押圧部材74は、特に限定されず、例えば図8や図9に示したものが好適に適用可能である。この場合にも、密着ばね44、ワイヤ46及び弾性部材70全体の弾性定数は低減され、前述した例と同様の効果を有する。
【0106】
図11に、硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第4の実施形態を示す。
【0107】
この例は、前述した第2の例のように密着ばね44に直列に弾性部材70を配置するが、密着ばね44を押圧するのではなく、ワイヤ46を牽引することにより密着ばね44に圧縮力を加えるものである。
【0108】
図11に示すように、ワイヤ46の先端は、密着ばね44とともに締結部材64に固定され、密着ばね44の基端側には弾性部材70が配置され、弾性部材70の端部は固定部材60に固定されている。また、ワイヤ46は、手元側でワイヤ牽引機構66によって牽引されるようになっている。
【0109】
ワイヤ牽引機構66によってワイヤ46を牽引すると、密着ばね44は弾性部材70とともに固定部材60によって圧縮され、硬度を増すようになっている。このとき、密着ばね44に弾性部材70を配置したことにより、密着ばね44、ワイヤ46及び弾性部材7全体の弾性定数も低減される。
【0110】
図12に、硬度可変機構(密着ばねまたはワイヤ)と直列に弾性部材を配置する第5の実施形態を示す。
【0111】
この例は、基本的に今説明した第4の例と同じであるが、弾性部材70を密着ばね44の基端側ではなく、密着ばね44の先端側に配置したものである。
【0112】
すなわち、図12に示すように、密着ばね44の先端側に弾性部材70を配置して、ワイヤ46の先端を、弾性部材70とともに締結部材64に固定している。また、密着ばね44の基端側は固定部材60で固定され、ワイヤ46をワイヤ牽引機構66で牽引することにより、密着ばね44に圧縮力を加えるようにしている。
【0113】
なお、上記第4の例、及び第5の例においては、ワイヤ46を牽引すると、ワイヤ先端側の締結部材64の位置が手元側に大きく移動する。従って、この場合のワイヤ先端の固定は、第1の例のように、ワイヤ46を締結部材64から延長し、ワイヤ46の先端を、湾曲部24と軟性部26との接合部近傍に固定するのではなく、ワイヤを延長する代替として弱い弾性部材を用いて固定し、ワイヤ46を牽引したときに移動可能なようにしておく。
【0114】
また、上記第2の例、第4の例及び第5の例のように、密着ばね44に弾性部材70を配置する場合には、各例で説明したように2種類のばねを直列結合する構成でもよいし、1本のばねを用い、その途中でばねのピッチを変えるようにして構成してもよい。このばねのピッチを変えることについては後で説明する。
【0115】
また、上記第5の例においては、弾性部材70を密着ばね44の先端側に配置することにより、密着ばね44と弾性部材70との接合位置を、軟性部26の先端から所定距離離間するようにして、軟性部26の先端側に、密着ばね44ではなく、密着していないばねで形成される弾性部材70を配置するようにしている。この弾性部材70を構成する密着していないばねは、ワイヤ46を牽引しても硬度可変機能を有していないので、軟性部26の先端領域を硬度可変機能により急激に硬度を硬くすることを防止することができる。
【0116】
また、上述したように、密着ばね44のピッチを徐々に変えるようにすると、硬度可変機構による硬度増加量を急変させることなく、先端部から手元部にかけて硬度を漸増させ、自然な硬度変化分布を得ることができ、術者の操作感上有効である。
【0117】
また、密着ばねとワイヤとの組み合わせにおいては、硬度可変機構の硬度増加量は、部位に依らず一律であるが、ばねのピッチを部位によって変更することで、硬度増加量を意図的に制御することが可能となり、内視鏡の挿入操作の容易化を実現することが可能となる。
【0118】
なお、上述した全ての実施形態において、弾性部材を使用しない硬度可変機構に比べて、牽引量が大きくなるため、ワイヤ牽引機構として、電動モータ等のアクチュエータを利用することが好ましい。
【0119】
また、上で述べた、密着ばね44のピッチを徐々に変えることについて以下少し説明を加えることとする。
【0120】
軟性部26の硬度は、図13にその硬度分布を示すように、部位により硬度を意図的に変化させている。このように、部位により硬度を変化させることは、軟性部26を構成する可撓管を形成する際、部位によりその素材を変えたり、軟硬2種類の樹脂材料の厚みの比率を変えて二層成形したりすることによって実現することができる。
【0121】
また、硬度可変機構として密着ばねとワイヤを用いた場合には、硬度可変機構を操作した場合の硬度分布の変化を図14に示すように、部位に依らず硬度増加量が一律である。
【0122】
従って、軟性部26を操作部側の硬度で適切な硬度増加量に設定すると、湾曲部側の硬度増加量の比率が大きくなってしまう。そのため、操作部側のプッシュ操作により、湾曲部側が臓器形状に沿って自然に湾曲することができず、内視鏡の挿入が困難となってしまう。
【0123】
そこで、図15に硬度分布の変化を示すように、例えば前述した特許文献5のように、先端部から所定距離離間した位置に硬度可変機構の先端を配置することが考えられるが、一方で、硬度可変機構を操作した場合に、硬度が急激に変化する部位が発生してしまうので、これではやはり硬度可変による硬度増加量を挿入手技上望ましい量に設定することはできない。
【0124】
そこで例えば、密着ばね44のピッチを基端側から先端側に向かってピッチを徐々に増加する(素線間を離す)ように変化させることで、例えば図16に示すような硬度分布となるように、硬度可変機能を設定することが可能となり、挿入手技上望ましい硬度可変量を設定することができる。
【0125】
図17に、硬度可変用ばねのピッチと硬度との関係を示す。図17は、密着ばねのピッチを変えたときの、それぞれのピッチの密着ばねにおける曲げの曲率と曲げモーメントとの関係を示したものである。ただし、それぞれの密着ばねにはワイヤを挿通し、ワイヤに牽引力を与えることで、密着ばねに同一量の圧縮力が加わった状態での曲げモーメントを示している。
【0126】
図17において、M1のグラフは基準となるピッチの密着ばね44の曲げの曲率と曲げモーメントの関係を表すものとする。また図17の、M2のグラフはそれよりもピッチが増し、密着ばねの素線間が密着せず間隙が発生した場合、M3のグラフはさらにピッチが増した場合の密着ばねの曲げの曲率と曲げモーメントの関係を表している。このように、矢印Fで示すように、基準となる密着ばねからピッチを増すと、曲げの曲率と曲げモーメントの関係を表すグラフは右方向に平行移動して行く。
【0127】
ばねのピッチを増やしていくとグラフが右方向に平行移動する理由を図18で示す。ピッチが大きく密着ばねの素線間に間隙が発生すると、曲げても最初のうちは、図18(A)に示すように、ばねの素線が隣同士で接触せず、ばねの中心線の長さは略不変となり、ばねに挿通されたワイヤに伸び変形は発生しない。そのため、ワイヤの張力に起因する曲げモーメントは発生せず、曲げモーメントは略ゼロとみなせる。そして、図17に符号Pで示す位置まで曲げ曲率を増加させると、図18(B)に示すように、ばねの素線が隣同士で接触し、この時点からさらに曲げ曲率を増やしていくと、ばねの中心線の長さが増大し、ワイヤの張力に逆らってワイヤが伸ばされることになる。これによる抵抗が曲げモーメントとして発生し、曲げモーメントが立ちあがり直線的に増加して行く。
【0128】
この現象を利用することで、ばねのピッチを部位によって変化させることにより、曲げ曲率に対応する曲げモーメント、すなわちばねの曲げ硬度を変化させることができる。すなわち、密着ばね44のピッチを基端側から先端側に向かってピッチを徐々に増加する(素線間を離す)ように変化させることで、例えば図16に示すような硬度分布となるように、硬度可変機能を設定することが可能となる。また、先端部のピッチを十分に大きくすることにより、所定の曲げ曲率をばねに与えたときでも先端部だけは素線間が接触しない設定とすることで、1本のばねで途中でピッチを変えることによっても、各実施形態で示したような2種類のばねを直列結合した場合と同様に全体の弾性定数を低減することができる。
【0129】
以上説明したように、本実施形態においては、硬度可変機構を構成する密着ばねあるいはワイヤと直列に、密着しないばね等の弾性部材を配置するようにしたため、密着ばねやワイヤの塑性変形による硬度上昇機能の低下や、軟性部にループを形成したときの、術者が意図しない硬度上昇を防止することができる。
【0130】
なお、上述した例では、密着ばねあるいはワイヤのいずれか一方にのみ直列に弾性部材を配置していたが、弾性部材を密着ばね及びワイヤのそれぞれに対して弾性部材を直列に配置するようにしてもよい。
【0131】
以上、本発明に係る内視鏡及び硬度調整装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0132】
10…内視鏡、12…手元操作部、14…挿入部、16…ユニバーサルケーブル、22…先端部、24…湾曲部(アングル部)、26…軟性部、30…アングルノブ、32…送気・送水ボタン、34…吸引ボタン、36…鉗子挿入口、40…操作レバー、42…湾曲駒、44…密着ばね、46…ワイヤ、48…ワイヤの端点、50…ワイヤ巻き上げプーリ、52…ウォームホイール、54…ウォーム、56…平歯車、58…歯車、60…(密着ばねの)固定部材、62…プーリハウジング、64…締結部材、66…ワイヤ牽引機構、70…弾性部材、72…ワイヤ固定部材、74…密着ばね押圧部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内視鏡挿入部の軟性部の可撓性を可変とするように、その曲げ硬度を変更することが可能な前記軟性部内に配置された密着コイルばねと、
前記密着コイルばねを挿通するように設けられたワイヤと、
前記ワイヤと前記密着コイルばねを相対的に牽引することにより前記密着コイルばねに圧縮力を加える牽引機構と、
前記ワイヤの先端から基端との間の領域において、前記密着コイルばね又は前記ワイヤの少なくとも一方に対して、それと直列に配置された弾性部材と、
を備えたことを特徴とする硬度調整装置。
【請求項2】
前記牽引機構は、前記密着コイルばね先端と前記ワイヤ先端を締結するとともに、前記密着コイルばね基端を密着コイルばね固定部材により固定し、前記ワイヤを牽引するワイヤ牽引手段から構成されることを特徴とする請求項1に記載の硬度調整装置。
【請求項3】
請求項2に記載の硬度調整装置において、前記密着コイルばね固定部材と前記ワイヤ牽引手段との間において、前記弾性部材を、前記ワイヤの途中に直列に配置したことを特徴とする硬度調整装置。
【請求項4】
請求項2に記載の硬度調整装置において、前記弾性部材を、前記密着コイルばね基端と前記密着コイルばね固定部材との間に直列に配置したことを特徴とする硬度調整装置。
【請求項5】
前記弾性部材を前記密着コイルばね先端に直列に配置し、前記牽引機構は、前記弾性部材の先端と前記ワイヤ先端を締結するとともに、前記密着コイルばね基端を密着コイルばね固定部材により固定し、前記ワイヤを牽引するワイヤ牽引手段から構成されることを特徴とする請求項1に記載の硬度調整装置。
【請求項6】
請求項5に記載の硬度調整装置において、前記弾性部材と前記密着コイルばねを直列に接合する位置を、軟性部先端から所定距離だけ基端側に離間した位置としたことを特徴とする硬度調整装置。
【請求項7】
前記牽引機構は、前記密着コイルばね先端と前記ワイヤ先端を締結するとともに、前記ワイヤ基端をワイヤ固定部材に固定し、前記密着コイルばね基端を密着コイルばね先端側に押圧することにより前記密着コイルばねに圧縮力を付与する押圧手段から構成されることを特徴とする請求項1に記載の硬度調整装置。
【請求項8】
請求項7に記載の硬度調整装置において、前記弾性部材を、前記密着コイルばね基端と前記押圧手段との間に直列に配置したことを特徴とする硬度調整装置。
【請求項9】
請求項7に記載の硬度調整装置において、前記押圧手段と前記ワイヤ固定部材との間において、前記弾性部材を、前記ワイヤの途中に直列に配置したことを特徴とする硬度調整装置。
【請求項10】
前記密着コイルばねに直列に配置される弾性部材を、前記密着コイルばねのピッチを変化させることによって形成したことを特徴とする請求項4、5、6または8に記載の硬度調整装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の硬度調整装置を備えたことを特徴とする内視鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−81011(P2012−81011A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228745(P2010−228745)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】