説明

内視鏡推進装置及び内視鏡用カバー並びに内視鏡用の摩擦材

【課題】バルーンが拡径したときは消化管の内壁に対して高い摩擦抵抗を確保するとともに、縮径したときは内壁に対する摩擦抵抗を低くする。
【解決手段】内視鏡推進装置14を、加圧により拡径するとともに挿入部軸方向に収縮し、かつ加圧を解除したときに元の状態に復元する第1〜第4伸縮ユニット28a〜28dから構成する。各伸縮ユニット28a〜28dをそれぞれ構成する第1〜第4バルーン36a〜36dの外周面上であって、かつ各バルーン36a〜36dがそれぞれ膨張したときにその頂点となる位置にスポンジ材40設ける。各バルーン36a〜36dが拡径したときに、スポンジ材40は消化管の内壁とバルーン外周面との間で圧縮されて多孔質面が内壁に直に接触する。各バルーン36a〜36dが縮径したときに、スポンジ材40は消化管内の液体を吸収してその表面に液体の層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡を消化管や人工管路等の管内で推進させる内視鏡推進装置、及びこの装置に用いられる内視鏡用カバー並びに内視鏡用の摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、大腸や小腸のような屈曲した消化管内に内視鏡の挿入部を挿入して、消化管内壁面の観察や診断、治療を施すことが行われている(特許文献1参照)。この場合、消化管が複雑に屈曲しかつ比較的自由に動くS字結腸であると、このS字結腸内で挿入部を奥へ進めるためには、手技に熟練度が要求されていた。このため、S字結腸のような複雑に屈曲した消化管内でも挿入部を容易に奥へ進めることができる内視鏡が求められていた。
【0003】
近年、挿入部の先端部に取り付けられ、この挿入部を消化管内で推進させる内視鏡推進装置が開発されている(特許文献2参照)。この内視鏡推進装置は、挿入部の軸方向に沿って少なくとも3個以上設けられた伸縮ユニットからなる。各伸縮ユニットは、加圧により径方向に拡径するとともに軸方向に収縮する特殊なバルーンを有しており、また、各伸縮ユニットには、それぞれ各加圧用の圧縮空気を給排するエアチューブが接続されている。各伸縮ユニットは、拡径したときに消化管の内壁をグリップし、縮径したときにグリップを解除する。内視鏡推進装置は、各伸縮ユニットを所定の順番で拡径・縮径させる、いわゆるミミズの移動を模した蠕動運動を行うことで、挿入部を消化管内で前進/後進させる。
【0004】
ところで、消化管内には粘液などの多量の液体があるので、消化管の内壁の潤滑性は高い。これに対して、合成ゴムや天然ゴムからなるバルーンの表面は滑らかであるため、バルーンが消化管内の液体でぬれるとその表面の潤滑性が高くなる。このように消化管の内壁とバルーンの表面とは互いに滑り易い状態にあるため、各伸縮ユニットが拡径したときにバルーンが消化管の内壁に対してスリップするおそれがある。
【0005】
特許文献3には、バルーンの全表面に多孔質コーティング処理を施した内視鏡の挿入補助具が記載されている。特許文献4には、バルーンの表面にグリップ用突条を設けた内視鏡の挿入補助具が記載されている。特許文献5には、バルーンの表面を、摩擦抵抗の高い高摩擦面と摩擦抵抗の低い潤滑面とで構成し、バルーンが縮径したときは高摩擦面が潤滑面で覆われ、かつバルーンが拡径したときは高摩擦面がバルーン外面として表れるような折り畳み構造のバルーンを備える内視鏡の挿入補助具が記載されている。これにより、バルーンが拡径したときに、多孔質コーティング層、グリップ用突条、高摩擦面によって、消化管の内壁を確実にグリップすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−250749号公報
【特許文献2】特開2009−240713号公報
【特許文献3】特開2007−144153号公報
【特許文献4】特開平5−293077号公報
【特許文献5】特開2006−271863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
伸縮ユニット(バルーン)は、拡径したときは消化管の内壁面に対して高い摩擦抵抗を確保する必要があるものの、縮径したときは挿入部の前進または後進を妨げないように、表面の摩擦抵抗を低くすることが望ましい。これは伸縮ユニットが縮径したときにこれに応じて消化管も縮径して、バルーンの表面と消化管の内壁とが接触するためである(図12参照)。
【0008】
特許文献3及び特許文献4に記載の挿入補助具では、バルーンが拡径した時と縮径した時とで多孔質コーティング層、グリップ用突条の消化管の内壁に対する摩擦係数は変わらないので、摩擦抵抗の大きさに大きな差が生じない。このため、縮径状態のバルーンにより挿入部の前進または後進が妨げられるおそれがある。
【0009】
また、特許文献5に記載の挿入補助具では、バルーンが縮径したときは高摩擦面が潤滑面で覆われるのでバルーンの摩擦抵抗が低くなるものの、バルーンの構造が複雑になり製造コストが増加するという問題が発生する。
【0010】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、バルーン等の拡張部材が拡径したときは消化管の内壁に対して高い摩擦抵抗を確保するとともに、縮径したときは内壁に対する摩擦抵抗を低くすることが低コストに実現可能な内視鏡推進装置、及びこの装置に用いられる内視鏡用カバー並びに内視鏡用の摩擦材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の内視鏡推進装置は、管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構であって、前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮する拡径状態、及び前記径方向に縮径するとともに前記軸方向に伸張する縮径状態に切替可能な拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、前記各拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構と、前記拡張部材の外周面側に配置された拡縮自在かつ吸液性を有する多孔質部材からなり、前記拡張部材が前記拡径状態にあるときに前記管路の内壁との間で押圧されて前記拡張部材の半径方向に圧縮されることで前記多孔質部材の表面が直接前記管路の内壁に押圧され、前記拡張部材が縮径状態にあるときに前記拡張部材の半径方向の圧縮が解除され、前記多孔質部材が周辺の液体を吸収し前記管路の内壁との摩擦係数を低減する摩擦材と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
前記摩擦材は、前記拡張部材が前記縮径状態のときは前記管路内の液体を吸水して、前記内壁と対向する表面上に前記液体の層を形成することが好ましい。また、前記摩擦材は、前記拡張部材が前記縮径状態から前記拡径状態に切り替わったときに、前記拡張部材の外面と前記内壁との間で前記径方向に圧縮されて、当該摩擦材内に吸水された前記液体を前記管路内に排出することが好ましい。
【0013】
前記摩擦材は、前記拡径状態の前記拡張部材の頂点に位置する部分に設けられていることが好ましい。前記推進機構の外周を覆う略筒状のカバーを備えており、前記摩擦材は、前記カバーの外面上でかつ前記拡径状態の前記拡張部材の頂点に対応する位置に設けられていることが好ましい。
【0014】
前記推進機構は、前記挿入部が挿通され、前記軸方向に伸縮自在な伸縮管と、前記伸縮管の外周を覆う略筒状の前記拡張部材と、前記拡張部材における前記伸縮管の両端に位置する部分をそれぞれ前記伸縮管に固定して、前記拡張部材の内周と前記伸縮管の外周との間に密閉空間を形成する固定手段と、前記密閉空間に対して前記拡張部材を拡径させる流体を給排する給排チューブとからなる伸縮ユニットを、前記軸方向に複数連結してなることが好ましい。
【0015】
前記拡張部材が前記拡径状態のときの前記密閉空間内の圧力をP1とした場合、前記拡張部材を前記縮径状態から前記拡径状態に切り替える際に、前記密閉空間内の圧力がP1よりも大きいP2まで一旦上昇した後にP1まで下降するように前記密閉空間内への前記流体の給排を制御する給排制御手段を備えることが好ましい。
【0016】
前記拡張部材はバルーンであることが好ましい。また、前記摩擦材はスポンジ材からなることが好ましい。
【0017】
また、本発明の内視鏡用カバーは、管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構を覆う内視鏡用カバーであり、前記推進機構は、前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮する拡径状態、及び前記径方向に縮径するとともに前記軸方向に伸張する縮径状態に切替可能な拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、前記各拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構であり、前記推進機構の先端から後端までの全体を覆う長さを持つ略筒状のカバー本体と、前記カバー本体の外面上でかつ前記拡径状態の前記拡張部材の頂点に対応する位置に設けられた拡縮自在かつ吸液性を有する多孔質部材からなり、前記拡張部材が前記拡径状態にあるときに前記管路の内壁との間で押圧されて前記拡張部材の半径方向に圧縮されることで前記多孔質部材の表面が直接前記管路の内壁に押圧され、前記拡張部材が縮径状態にあるときに前記拡張部材の半径方向の圧縮が解除され、前記多孔質部材が周辺の液体を吸収し前記管路の内壁との摩擦係数を低減する摩擦材と、を備えていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の内視鏡用の摩擦材は、管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構に用いられる内視鏡用の摩擦材であり、前記推進機構は、前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮する拡径状態、及び前記径方向に縮径するとともに前記軸方向に伸張する縮径状態に切替可能な拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、前記各拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構であり、前記拡張部材の外周面側に配置された拡縮自在かつ吸液性を有する多孔質部材からなり、前記拡張部材が前記拡径状態にあるときに前記管路の内壁との間で押圧されて前記拡張部材の半径方向に圧縮されることで前記多孔質部材の表面が直接前記管路の内壁に押圧され、前記拡張部材が縮径状態にあるときに前記拡張部材の半径方向の圧縮が解除され、前記多孔質部材が周辺の液体を吸収し前記管路の内壁との摩擦係数を低減することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、内視鏡挿入部の推進機構を構成する拡張部材の外面に、挿入部の径方向に伸縮自在でかつ吸水性を有する多孔質の摩擦材を設けたので、拡張部材が拡径したときは管路の内壁に対して高い摩擦抵抗を確保するとともに、縮径したときは内壁に対する摩擦抵抗を低くすることが低コストに実現される。これにより、拡張部材が拡径したときは管路の内壁を確実にグリップすることができ、逆に縮径したときは内壁との摩擦力が減るので挿入部に効率的に推進力を伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電子内視鏡システムの構成を示す斜視図である。
【図2】(A)は内視鏡推進装置の側面図、(B)はバルーンの内側の構造を説明するための説明図である。
【図3】第3フランジの斜視図である。
【図4】図3中のIV−IVに沿う断面図である。
【図5】第3フランジを挿入部の後端側から見た背面図である。
【図6】第3フランジとエアチューブの接続状態を示した(A)斜視図、(B)背面図である。
【図7】第3フランジとエアチューブの接続部分の断面図である。
【図8】(A)第1フランジの背面図、(B)第2フランジの背面図、(C)第3フランジの背面図である。
【図9】スポンジ材の取付位置を説明するための説明図である。
【図10】推進制御装置を説明するための説明図である。
【図11】(A)〜(E)は内視鏡推進装置の動作を説明するための説明図である。
【図12】消化管内でバルーンが拡径した状態、及び縮径した状態を説明するための説明図である。
【図13】図12に示した拡径したバルーン上のスポンジ材の拡大図である。
【図14】図12に示した縮径したバルーン上のスポンジ材の拡大図である。
【図15】(A)、(B)はバルーンを縮径した状態から拡径させたときのバルーン内部の圧力の変化を示したグラフである。
【図16】(A)〜(E)は第2実施形態の内視鏡推進装置を説明するための説明図である。
【図17】(A)、(B)は拡径したバルーンの頂点に対応する位置にスポンジ材が設けられていることを説明するための説明図である。
【図18】バルーンを使用せずに伸縮する他実施形態の伸縮ユニットを説明するための説明図である
【図19】(A),(B)は多孔質材の種類を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
図1において、電子内視鏡システム10は、電子内視鏡11、プロセッサ装置12、光源装置13、内視鏡推進装置(自走装置)14、推進制御装置15などから構成される。電子内視鏡11は、消化管内に挿入される挿入部16と、電子内視鏡11の把持及び挿入部16の操作に用いられる操作部17と、プロセッサ装置12及び光源装置13に接続するユニバーサルコード18とを備えている。
【0022】
挿入部16は可撓性を有する棒状体である。挿入部先端部16aには、図示は省略するが、観察窓、照明窓、及び送気・送水用ノズル等が設けられている。なお、以下の説明では、挿入部16の先端側の方向及び面をそれぞれ先端側、先端面といい、挿入部16の後端側の方向及び面をそれぞれ後端側、後端面という。
【0023】
操作部17は、アングルノブ22、操作ボタン23等を備えている。アングルノブ22は、挿入部16の湾曲方向及び湾曲量を調整する際に回転操作される。操作ボタン23は、送気・送水や吸引等の各種の操作に用いられる。また、操作部17には、ユニバーサルコード18が接続されている。
【0024】
ユニバーサルコード18には、送気・送水チャンネルと、撮像信号出力用ケーブル及びライトガイドが組み込まれている。このユニバーサルコード18の先端部にはコネクタ部25aが設けられている。このコネクタ部25aは光源装置13に接続する。また、コネクタ部25aからはコネクタ部25bが分岐しており、このコネクタ部25bはプロセッサ装置12に接続する。
【0025】
推進制御装置15には、操作ユニット26が接続している。この操作ユニット26は、内視鏡推進装置14の前進・後退・停止の指示を入力するためのボタン、後述する各伸縮ユニット28a〜28dを伸縮させるタイミングをコントロールすることで内視鏡推進装置14の移動速度を調整するための速度調節ボタン、および全ての伸縮ユニット28a〜28dを伸張した状態とすることで緊急時に容易に内視鏡推進装置14を抜去するための緊急退避ボタンなどを備えている。
【0026】
プロセッサ装置12は、電子内視鏡11から入力される画像信号から内視鏡画像を生成し、この内視鏡画像に各種画像処理を施す。画像処理済みの内視鏡画像は、プロセッサ装置12にケーブル接続されたモニタ27に表示される。光源装置13は、照明光をライトガイドに供給する。
【0027】
内視鏡推進装置14は、挿入部先端部16aに取り付けられており、消化管内で挿入部16を前進または後進させる。内視鏡推進装置14は、挿入部16の先端側から順にその軸方向(以下、挿入部軸方向という)に沿って設けられた第1〜第4伸縮ユニット28a,28b,28c,28dからなる。各伸縮ユニット28a〜28dは、それぞれ個別に、加圧によって挿入部16の径方向に拡径するとともに挿入部軸方向に収縮し、加圧が解除されると元の状態に復元する。以下、前者の状態を拡径状態といい、後者の状態を縮径状態という。
【0028】
各伸縮ユニット28a〜28dには、第1〜第4エアチューブ29a,29b,29c,29dを介して、推進制御装置15から圧縮空気が供給される。推進制御装置15は、操作ユニット26からの操作信号に基づき、各エアチューブ29a〜29dへの圧縮空気の給排を制御する。なお、各エアチューブ29a〜29dは、各伸縮ユニット28a〜28d内では断面が略円弧形状に形成されている(図6(A)参照)。
【0029】
図2(A),(B)に示すように、内視鏡推進装置14の第1〜第4伸縮ユニット28a〜28dは、挿入部16に外嵌されかつ挿入部軸方向に沿って並べて設けられた第1〜第4オーバチューブ(伸縮管)31a〜31dを備えている。各オーバチューブ31a〜31dは、挿入部軸方向に伸縮自在な蛇腹構造を有している。
【0030】
第1オーバチューブ31aの先端部は、挿入部先端部16aに外嵌された略環状のキャップ32の開口に嵌合している。また、第1オーバチューブ31aの後端部は、挿入部先端部16aに外嵌された略環状の第1フランジ33aの先端側の開口に嵌合している。この第1フランジ33aの後端側の開口には、第2オーバチューブ31bの先端部が嵌合している。これにより、第1オーバチューブ31aと第2オーバチューブ31bとが第1フランジ33aを介して連結される。
【0031】
以下同様に、第2〜第4オーバチューブ31b〜31dの後端部はそれぞれ第1フランジ33aと同形状の第2〜第4フランジ33b〜33dの先端側の開口に嵌合し、さらに、第3及び第4オーバチューブ31c,31dの先端部はそれぞれ第2及び第3フランジ33b,33cの後端側の開口に嵌合している。これにより、第N(Nは1〜3)オーバチューブと第(N+1)オーバチューブとが第Nフランジを介して連結される。従って、各オーバチューブ31a〜31d、キャップ32、各フランジ33a〜33dは一体化している。
【0032】
キャップ32は、挿入部16の外周に着脱自在に固定される。これに対して各フランジ33a〜33dは、挿入部16の外周に遊嵌されており、挿入部16に固定されていない。このため、キャップ32によって、各オーバチューブ31a〜31d、各フランジ33a〜33dは、挿入部16に対してその挿入部軸方向に移動自在に保持される。
【0033】
キャップ32及び各フランジ33a〜33dの後端部の外周面には、その周方向に沿って環状溝35が形成されている。キャップ32の後端部から第4フランジ33dの後端部までの間の各部材の外周面は、1本の筒状伸縮体36で覆われている。筒状伸縮体36は、例えば合成ゴムや天然ゴム等からなる略円筒状の弾性体と、この弾性体内に、挿入部軸方向に沿うように設けられた複数の繊維とからなる。この繊維は例えばガラスロービング繊維やカーボンロービング繊維のような、挿入部軸方向に伸縮し難い非伸縮性を有している。
【0034】
筒状伸縮体36は、キャップ32及び各フランジ33a〜33dのそれぞれの環状溝35に対応する位置でピアノ線37などにより括られている。これにより、筒状伸縮体36に、第1〜第4バルーン(拡張部材)36a〜36dが形成される。第1バルーン36aは、第1オーバチューブ31aの外周を囲むとともに、両端部がキャップ32及び第1フランジ33aにそれぞれ固定される。同様に、第2バルーン36b〜第4バルーン36dは、それぞれ第2〜第4オーバチューブ31b〜31dの外周を囲み、両端部がそれぞれ第1及び第2フランジ33a,33b、第2及び第3フランジ33b,33c、第3及び第4フランジ33c,33dに固定される。これにより、各バルーン36a〜36dの内側には、それぞれ密閉された第1〜第4空気室(密閉空間)38a〜38dが形成される。
【0035】
第1〜第4バルーン36a〜36dは、その内側から加圧されたときに、挿入部16の径方向に膨張するとともに挿入部軸方向に収縮し、この加圧が解除されると、弾性体の復元力により元の状態に復元する。また、各バルーン36a〜36dの外周面上にはスポンジ材(摩擦材)40が設けられている。
【0036】
第1伸縮ユニット28aは、第1オーバチューブ31aと、キャップ32と、第1フランジ33aと、第1バルーン36aとにより構成される。また、第M(Mは2〜4)伸縮ユニットは、第Mオーバチューブと、第(M−1)及び第Mフランジと、第Mバルーンとにより構成される。本発明の推進機構は、各伸縮ユニット28a〜28dを連結して構成される。
【0037】
第1エアチューブ29aは、第4フランジ33d、第4オーバチューブ31d、第3フランジ33c、第3オーバチューブ31c、第2フランジ33b、第2オーバチューブ31bの内側を通って第1フランジ33aに接続している。また、第2エアチューブ29bは、第4フランジ33d、第4オーバチューブ31d、第3フランジ33c、第3オーバチューブ31cの内側を通って第2フランジ33bに接続している。
【0038】
第3エアチューブ29cは、第4フランジ33d、第4オーバチューブ31dの内側を通って第3フランジ33cに接続している。また、第4エアチューブ29dは、第4フランジ33dに接続している。
【0039】
次に、第3フランジ33cを例に挙げてフランジの構造について説明を行う。図3〜図5に示すように、第3フランジ33cは、挿入部16が挿通されるとともに、第3及び第4オーバチューブ31c,31dが嵌合する挿通孔42を有している。また、第3フランジ33cの外周面には、上述の環状溝35の他に、第3空気室38c内で開口した開口穴43と、この開口穴43の縁から先端側に向かって長く延びた2本のスリット44とが形成されている。
【0040】
第3フランジ33cの内周面には、その周方向に沿ってエアチューブ接続部46、第1エアチューブ支持部47、第2エアチューブ支持部48が所定間隔をあけて設けられている(図5参照)。この間隔は、エアチューブ29a〜29dの幅よりも一回り大きくなるように調整されている。
【0041】
エアチューブ接続部46は、内周面上で開口穴43の開口部分に位置する。このエアチューブ接続部46の後端面には、挿入部16の後端側に向かって突出したチューブ接続口50が形成されている。また、エアチューブ接続部46の内部には、開口穴43とチューブ接続口50とを接続するエア通路51が形成されている(図4参照)。さらに、エアチューブ接続部46の両端部には、エアチューブの側端部を支持するために略凹円弧状のガイド部52が形成されている。
【0042】
第1及び第2エアチューブ支持部47,48の周方向の両端部にも、エアチューブ接続部46と同様にガイド部52が形成されている。これにより、エアチューブ接続部46と第1エアチューブ接続部46との間、第1エアチューブ支持部47と第2エアチューブ支持部48との間、第2エアチューブ支持部48とエアチューブ接続部46との間にそれぞれエアチューブを支持する断面略円弧状の支持凹部54a,54b,54cが形成される(図5参照)。
【0043】
各支持凹部54a,54b,54cは、その断面積がエアチューブの断面積よりも一回り以上大きくなるように形成されている。このため、各支持凹部54a,54b,54cの内面とエアチューブの外面との間には遊びが生じる。これにより、各支持凹部54a,54b,54cは、エアチューブを挿入部軸方向にスライド移動自在に支持する。
【0044】
図6(A),(B)に示すように、第1エアチューブ29aは、支持凹部54bにより挿入部軸方向にスライド移動自在に支持される。第2エアチューブ29bは、支持凹部54aにより挿入部軸方向にスライド移動自在に支持される。第3エアチューブ29cは、チューブ接続口50に接続される。これにより、図7に示すように、第3エアチューブ29cが、チューブ接続口50、エア通路51、及び開口穴43を介して、第3空気室38cに接続する。
【0045】
第1、第2、第4フランジ33a,33b,33dは、第3フランジ33cと同じ構造であるのでその構造についての説明は省略する。また、第1〜第4フランジ33a〜33dは、互いのエアチューブ接続部46の位置が重ならないように取り付けられている。具体的には、第1フランジ33aを基準としたときに、挿入部16の後端側から見て第2フランジ33bは挿入部16の中心軸を中心として時計回りに90°回転し、第3フランジ33cは時計回りに180°回転し、第4フランジ33dは時計回りに270°回転している(図2(B)参照)。
【0046】
図8(A)に示すように、第1フランジ33aのチューブ接続口50には第1エアチューブ29aが接続される。図8(B)に示すように、第2フランジ33bのチューブ接続口50には第2エアチューブ29bが接続され、支持凹部54aには第1エアチューブ29aがスライド移動自在に支持される。図8(C)に示すように、第4フランジ33dのチューブ接続口50には第4エアチューブ29dが接続され、支持凹部54a,54b,54cにはそれぞれ第3エアチューブ29c、第2エアチューブ29b、第1エアチューブ29aがスライド移動自在に支持される。これにより、第1、第2、第4エアチューブ29a,29b,29dと、第1、第2、第4空気室38a,38b,38dとがそれぞれ接続する。
【0047】
図9に示すように、スポンジ材40は、各バルーン36a〜36dが拡径したときにその頂点となる位置(図中、一点鎖線で表示)でかつバルーン周方向に沿って等間隔に複数個設けられている。各スポンジ材40は、各バルーン36a〜36dの径方向に伸縮自在であり、さらに吸水性を有する多孔質材である。スポンジ材40は、各バルーン36a〜36dが拡径状態にあるときに、各バルーン36a〜36dが発生するグリップ力を補助的に向上させる。
【0048】
図10に示すように、推進制御装置15は、コンプレッサ58と、コンプレッサ58から発生した圧縮空気を各エアチューブ29a〜29dへ導く4本の管路59a,59b,59c,59dと、各管路59a〜59dの途中に設けられた供給弁60a,60b,60c,60d及び開放弁61a,61b,61c,61dと、圧力計62a,62b,62c,62dとから構成されている。コンプレッサ58が作動している状態で開放弁を閉じて供給弁を開くと、これに対応するエアチューブを介して空気室に圧縮空気が供給される。この状態で供給弁を閉じて開放弁を開くと空気室が大気圧に戻る。
【0049】
推進制御装置15から第1〜第4エアチューブ29a〜29dをそれぞれ介して供給された圧縮空気は、第1〜第4エアチューブ29a〜29dを通って、第1〜第4空気室38a〜38d内にそれぞれ供給される。また、第1〜第4空気室38a〜38d内の圧縮空気は、開放弁61a〜61dを開放したときに、第1〜第4エアチューブ29a〜29dを通って開放弁61a〜61dからそれぞれ排出される。
【0050】
圧力計62a〜62dは、それぞれ第1エアチューブ29a及び第1空気室38a内の圧力、第2エアチューブ29b及び第2空気室38b内の圧力、第3エアチューブ29c及び第3空気室38c内の圧力、第4エアチューブ29d及び第4空気室38d内の圧力を測定する。
【0051】
次に、図11を用いて上記構成の内視鏡推進装置14の作用について説明を行う。なお、図面の煩雑化を防止するため、各エアチューブ29a〜29dは図示を省略している。
【0052】
最初に、挿入部先端部16aに内視鏡推進装置14が取り付けられ、そのキャップ32が挿入部先端部16aに固定される。このとき、各伸縮ユニット28a〜28dは縮径状態である。次いで、プロセッサ装置12及び光源装置13の電源がONされて検査準備が完了した後、挿入部先端部16aが患者の消化管内に挿入される。
【0053】
挿入部先端部16aが消化管内の所定位置、例えばS字結腸の手前まで進められた後、推進制御装置15の電源がONされる。推進制御装置15は、コンプレッサ58を作動させるとともに、第1及び第4供給弁60a,60dを開いて第1及び第4開放弁61a,61dを閉じる。また、第2及び第3供給弁60b,60cを閉じて第2及び第3開放弁61b,61cを開く。これにより、第1及び第4エアチューブ29a,29dからそれぞれ第1及び第4空気室38a,38dに圧縮空気が供給される。
【0054】
図11(A)に示すように、第1及び第4空気室38a,38dへの圧縮空気の供給により、第1及び第4バルーン36a,36dが拡径するとともに挿入部軸方向に収縮する。推進制御装置15は、圧力計62a,62dの測定結果に基づき、第1及び第4空気室38a,38d内の圧力が所定の設定圧力値に達した時に、第1及び第4供給弁60a,60dを閉じる。
【0055】
第1及び第4バルーン36a,36dの挿入部軸方向の収縮に伴い、キャップ32と第1フランジ33aとの間隔が狭まり第1オーバチューブ31aが挿入部軸方向に収縮するとともに、第3フランジ33cと第4フランジ33dとの間隔が狭まり第4オーバチューブ31dが挿入部軸方向に収縮する。これにより、第1及び第4伸縮ユニット28a,28dが縮径状態から拡径状態に変形する。このとき第1及び第4バルーン36a,36d上のスポンジ材40がそれぞれ消化管の内壁に圧着されて、第1及び第4バルーン36a,36dが発生するグリップ力を補助的に向上させる。こうして第1及び第4伸縮ユニット28a,28dが消化管の内壁をグリップする。
【0056】
次いで、操作ユニット26で前進指示が入力されると、推進制御装置15は、第2供給弁60bを開いて第2開放弁61bを閉じるとともに、第4開放弁61dを開く。これにより、第2空気室38bへ圧縮空気が供給されるとともに、第4空気室38dが大気圧に戻る。なお、第2供給弁60bは、圧力計62bで測定された第2空気室の圧力が設定圧力値に達した時に閉じられる。
【0057】
図11(B)に示すように、第2伸縮ユニット28bが拡径状態に変形して消化管の内壁をグリップするとともに、第4伸縮ユニット28dが縮径状態に変形して消化管の内壁のグリップが解除される。
【0058】
図11(C)に示すように、推進制御装置15は、各供給弁及び開放弁を適宜開閉して、第1伸縮ユニット28aを縮径状態に変形させるとともに、第3伸縮ユニット28cを拡径状態に変形させて消化管の内壁をグリップさせる。この際に、第1伸縮ユニット28aの後方の第2,第3伸縮ユニット28b,28cは、消化管の内壁をグリップしている。また、キャップ32は挿入部16に固定されている一方で、他の各部材は挿入部16に対してフリーな状態になっている。このため、第1伸縮ユニット28aが挿入部軸方向へ伸長しようとする動作は、挿入部16を消化管の内壁に対して前進させる推進力に変換され、挿入部16が前進する。
【0059】
図11(D)に示すように、推進制御装置15は、第2伸縮ユニット28bを縮径状態に変形させるとともに、第4伸縮ユニット28dを拡径状態に変形させる。第2伸縮ユニット28bが挿入部軸方向に伸長するときは、第2伸縮ユニット28bの後方の第3,第4伸縮ユニット28c,28dが消化管の内壁をグリップしている。図11(C)と同様に、第2伸縮ユニット28bが伸長する動作は、挿入部16を前進させる推進力に変換され、挿入部16がさらに前進する。
【0060】
図11(E)に示すように、推進制御装置15は、第3伸縮ユニット28cを縮径状態に変形させるとともに、第1伸縮ユニット28aを拡径状態に変形させる。この状態では、第3伸縮ユニット28cが挿入部軸方向に伸長したとしても、第1伸縮ユニット28aが挿入部軸方向に収縮にして消化管の内壁をグリップしているので、挿入部16は前進しない。この図11(E)の状態は、図11(A)に示した初期状態と同じである。
【0061】
推進制御装置15は、上述の図11(A)、図11(B)、図11(C)、図11(D)の各状態が順番に繰り返し実行されるように、各供給弁及び開放弁を適宜開閉する。これにより、各伸縮ユニット28a〜28dが図11(A)〜図11(D)で説明したような、いわゆるミミズの移動を模した蠕動運動をすることで、挿入部16が前進する。
【0062】
図12に示すように、例えば第1伸縮ユニット28aが拡径状態にあり、第2伸縮ユニット28bが縮径状態にある場合、消化管65の第1バルーン36aが位置する部分は第1バルーン36aにより内側から押圧されて拡径し、第2バルーン36bが位置する部分は第2バルーン36b上のスポンジ材40に接する程度に縮径している。このとき、第1バルーン36a上のスポンジ材40は、第1バルーン36aと消化管65との間で径方向に圧縮された圧縮状態となり、逆に第2バルーン36b上のスポンジ材40は非圧縮状態となる。
【0063】
図13に示すように、第1バルーン36a上で圧縮状態となったスポンジ材40は、圧縮前に吸収していた消化管65内の粘液等の液体を排出してその凹凸状の多孔質面が消化管65の内壁に圧着する。このため、第1伸縮ユニット28aの消化管65の内壁に対する摩擦係数が高くなる。
【0064】
これに対して図14に示すように、第2バルーン36b上の非圧縮状態のスポンジ材40は、消化管65内の液体を十分に吸収している。このため、スポンジ材40と消化管65の内壁との間には液体の液層66が形成されるので、第2伸縮ユニット28bの消化管65の内壁に対する摩擦係数は低くなる。なお、第1バルーン36aが径方向に収縮した場合、圧縮状態のスポンジ材40は消化管65内の液体を吸収して非圧縮状態となり、その表面に液層66が形成されるため、同様の効果が得られる。
【0065】
各バルーン36a〜36dの外周にスポンジ材40をそれぞれ設けることにより、各バルーン36a〜36dが拡径したときは消化管65の内壁に対して高い摩擦抵抗を確保するとともに、縮径したときは内壁に対する摩擦抵抗を低くすることができる。これにより、各バルーン36a〜36dが拡径したときは消化管65の内壁を確実にグリップすることができ、逆に縮径したときは内壁との摩擦力が減るため効率的に蠕動運動の推進力(図11(C)、図11(D)参照)を挿入部16に伝達することができる。
【0066】
また、各バルーン36a〜36dの外周にスポンジ材40を設けるだけよいので、上記特許文献5(特開2006−271863号公報)に記載されているような折り畳み構造のバルーンを設ける場合よりも低コストに実施することができる。
【0067】
なお、上記実施形態では、各空気室38a〜38dにそれぞれ圧縮空気を供給して各バルーン36a〜36dを拡径させる際に、図15(A)に示すように、各空気室38a〜38d内の圧力が所定の設定圧力P1に達した時に圧縮空気の供給を停止している。
【0068】
これに対して図15(B)に示すように、推進制御装置(給排制御手段)15は、各空気室38a〜38d内に圧縮空気の供給を開始した後、各空気室38a〜38d内の圧力が設定圧力P1よりも高いP2に達するまで圧縮空気の供給を継続し、圧力がP2に達した後で圧縮空気の供給を停止するとともに各開放弁61a〜61dを一時的に開放し、各空気室38a〜38d内の圧力を設定圧力P1まで下げるようにしてもよい。
【0069】
このように各空気室38a〜38d内の圧力をオーバシュートさせることで、各バルーン36a〜36dと消化管65の内壁との間でスポンジ材40を圧縮する圧縮力を瞬間的に増加させることができる。これにより、スポンジ材40に吸収されている液体をより確実に排出させることができる。また、各空気室38a〜38d内の圧力がP2からP1に下がるときに、スポンジ材40が径方向に膨張しながらスポンジ材40と内壁との間の僅かな液体を吸収する。その結果、スポンジ材40の消化管65の内壁に対する摩擦係数をより高くすることができる。
【0070】
[第2実施形態]
次に、図16を用いて本発明の第2実施形態の内視鏡推進装置68について説明を行う。上記第1実施形態の内視鏡推進装置14は、消化管65内に直に挿入されるため、内視鏡検査後に洗浄消毒処理を施す必要がある。これに対して、図16(A)に示す内視鏡推進装置68は、使い捨ての汚れ防止カバー69で覆われている。この内視鏡推進装置68は、スポンジ材40が汚れ防止カバー69に設けられている点を除けば、上記第1実施形態の内視鏡推進装置14と基本的に同じ構成であるため、上記第1実施形態と機能・構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0071】
汚れ防止カバー69は、内視鏡推進装置68よりも挿入部軸方向に長く形成された略筒状のカバー本体69aと、カバー本体69aの外周面上に設けられたスポンジ材40とからなる。カバー本体69aは例えば天然ゴム、合成ゴム等で形成される。このカバー本体69aの両端部は、例えばピアノ線70などにより括られている。これにより、カバー本体69aの内側に気密な空間が形成され、消化管65内の液体が内視鏡推進装置68の外周に付着することが防止される。
【0072】
スポンジ材40は、各バルーン36a〜36dが拡径したときにその頂点となる位置(図中、一点鎖線で表示)の上方で、かつカバー本体69aの周方向に沿って等間隔に複数個設けられている。ここで各バルーン36a〜36dは、それぞれ図16(B)〜(E)に示すような4種類のパターンで拡径かつ挿入部軸方向に収縮、あるいは縮径かつ挿入部軸方向に伸張する。このため、本実施形態では、第2及び第3バルーン36b,36cが拡径したときの頂点の位置が挿入部軸方向にずれる。
【0073】
そこで、第2及び第3バルーン36b,36c上のスポンジ材40の挿入部軸方向長さを、第2及び第3バルーン36b,36cの拡径時の頂点の移動範囲をカバーできる長さに形成している。これにより、図17(A),(B)に示すように、例えば第2バルーン36bが拡径したときの頂点の位置がずれる場合でも、各頂点上にはスポンジ材40が位置する。このため、第1実施形態と同様に、第2バルーン36bが拡径したときは、その頂点上のスポンジ材40が圧縮状態(図13参照)となることで、消化管65の内壁に対して高い摩擦抵抗を確保することができる。また、逆に第2バルーン36bが縮径したときは、その頂点上のスポンジ材40が非圧縮状態(図14参照)となるので消化管65の内壁に対する摩擦抵抗を低くすることができる。
【0074】
なお、各伸縮ユニット28a〜28dが蠕動運動するときの各バルーン36a〜36dの動作パターンは、上記図11(A)〜(E)及び上記図16(B)〜(E)に記載したパターンに限られず、他の動作パターンを採用してもよい(第1実施形態も同様)。また、内視鏡推進装置68を構成する伸縮ユニットの個数を変更した場合も、各バルーンの動作パターンを適宜変更することができる。このように各バルーンの動作パターンを変更する場合には、各バルーン上のスポンジ材40の挿入部軸方向長さを、それぞれ各バルーンの拡径時の頂点の移動範囲をカバーできる長さに形成すればよい。
【0075】
上記第2実施形態では、内視鏡推進装置68を覆うカバーとして使い捨ての汚れ防止カバー69を例に挙げて説明を行ったが、内視鏡推進装置68を覆うカバーであればその種類・形状・材質は特に限定されない。
【0076】
上記各実施形態では、伸縮ユニットとして内側からの加圧により拡径するとともに挿入部軸方向に収縮するバルーンを備えるものを例に挙げて説明を行ったが、バルーン以外の拡張部材を備える伸縮ユニットにも本発明を適用することができる。
【0077】
例えば、図18(A)に示すように、伸縮ユニット73は、挿入部先端部16aに固定された略環状のキャップ74と、このキャップ74よりも挿入部16の後端側でかつ挿入部16に沿ってスライド移動自在に取り付けられた略環状のスライドリング75と、キャップ74とスライドリング75との間で挿入部16の周方向に沿って等間隔で設けられ、一端がキャップ74に取り付けられ、他端がスライドリング75に取り付けられた複数の棒状弾性体(拡張部材)76とから構成される。
【0078】
各棒状弾性体76は、金属等の弾性材料で形成されており、挿入部16の半径方向に凸となるように湾曲した状態でキャップ74及びスライドリング75に取り付けられる。そして、スライドリング75に接続された操作部材77により、スライドリング75をキャップ74に向けて押圧してスライド移動させると、図18(B)に示すように、各棒状弾性体76がさらに凸になるように湾曲する。また、この状態で操作部材77による押圧を解除すると、各棒状弾性体76の弾性復元力によりスライドリング75が挿入部の後端側へスライド移動されるとともに各棒状弾性体76の湾曲量が小さくなり、上記(A)に示す元の状態に復元する。
【0079】
このように伸縮ユニット73も、上記各伸縮ユニット28a〜28dと同様に拡径状態と縮径状態とに切替可能である。このため、各棒状弾性体76の頂点にそれぞれスポンジ材40を設けることにより、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。このような伸縮ユニット73を挿入部16の軸方向に沿って複数設けることで、消化管65内で挿入部16を推進させることができる。なお、上記図18で説明した伸縮ユニット73は一例であり、その構成及び拡張部材の種類は適宜変更してもよい。
【0080】
上記各実施形態では、バルーン36a〜36d、汚れ防止カバー69、棒状弾性体76上にスポンジ材40を設けているが、径方向に伸縮自在でかつ吸水性を有する多孔質材であれば特に限定はされない。このような多孔質材(摩擦材)には、図19(A)に示すような孔79aが内部で繋がっている多孔質材79と、図19(B)に示すような孔80aが内部で繋がっていない多孔質材80の2種類のタイプがあるがいずれを用いてよい。なお、多孔質材79の方が多孔質材80よりも吸水性が高くなるため、消化管65の内壁に対する摩擦係数を極力低くしたい場合には前者を用いることが好ましい。
【0081】
上記第1及び第2実施形態では、筒状伸縮体36(図2参照)をピアノ線37で結紮することより第1〜第4バルーン36a〜36dを形成しているが、各第1〜第4バルーン36a〜36dをそれぞれ別個に取り付けてもよい。
【0082】
上記第1及び第2実施形態では、内視鏡推進装置14,68を4個の伸縮ユニット28a〜28dにより構成しているが、3個あるいは5以上の伸縮ユニットにより内視鏡推進装置を構成してもよい。また、上記各実施形態では、各バルーン36a〜36dの内側に圧縮空気を給排しているが、圧縮空気の代わりに液体等の各種流体を用いてもよい。
【符号の説明】
【0083】
11 電子内視鏡
14,68 内視鏡推進装置
16 挿入部
28a〜28d 第1〜第4伸縮ユニット
29a〜29d 第1〜第4エアチューブ
31a〜31d 第1〜第4オーバチューブ
33a〜33d 第1〜第4フランジ
36a〜36d 第1〜第4バルーン
38a〜38d 第1〜第4空気室
40 スポンジ材
66 液層
69 汚れ防止カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構であって、前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮する拡径状態、及び前記径方向に縮径するとともに前記軸方向に伸張する縮径状態に切替可能な拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、前記各拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構と、
前記拡張部材の外周面側に配置された拡縮自在かつ吸液性を有する多孔質部材からなり、前記拡張部材が前記拡径状態にあるときに前記管路の内壁との間で押圧されて前記拡張部材の半径方向に圧縮されることで前記多孔質部材の表面が直接前記管路の内壁に押圧され、前記拡張部材が縮径状態にあるときに前記拡張部材の半径方向の圧縮が解除され、前記多孔質部材が周辺の液体を吸収し前記管路の内壁との摩擦係数を低減する摩擦材と、
を備えていることを特徴とする内視鏡推進装置。
【請求項2】
前記摩擦材は、前記拡張部材が前記縮径状態のときは前記管路内の液体を吸水して、前記内壁と対向する表面上に前記液体の層を形成することを特徴とする請求項1記載の内視鏡推進装置。
【請求項3】
前記摩擦材は、前記拡張部材が前記縮径状態から前記拡径状態に切り替わったときに、前記拡張部材の外面と前記内壁との間で前記径方向に圧縮されて、当該摩擦材内に吸水された前記液体を前記管路内に排出することを特徴とする請求項2記載の内視鏡推進装置。
【請求項4】
前記摩擦材は、前記拡径状態の前記拡張部材の頂点に位置する部分に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の内視鏡推進装置。
【請求項5】
前記推進機構の外周を覆う略筒状のカバーを備えており、
前記摩擦材は、前記カバーの外面上でかつ前記拡径状態の前記拡張部材の頂点に対応する位置に設けられていることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の内視鏡推進装置。
【請求項6】
前記推進機構は、前記挿入部が挿通され、前記軸方向に伸縮自在な伸縮管と、前記伸縮管の外周を覆う略筒状の前記拡張部材と、前記拡張部材における前記伸縮管の両端に位置する部分をそれぞれ前記伸縮管に固定して、前記拡張部材の内周と前記伸縮管の外周との間に密閉空間を形成する固定手段と、前記密閉空間に対して前記拡張部材を拡径させる流体を給排する給排チューブとからなる伸縮ユニットを、前記軸方向に複数連結してなることを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の内視鏡推進装置。
【請求項7】
前記拡張部材が前記拡径状態のときの前記密閉空間内の圧力をP1とした場合、
前記拡張部材を前記縮径状態から前記拡径状態に切り替える際に、前記密閉空間内の圧力がP1よりも大きいP2まで一旦上昇した後にP1まで下降するように前記密閉空間内への前記流体の給排を制御する給排制御手段を備えることを特徴とする請求項6記載の内視鏡推進装置。
【請求項8】
前記拡張部材はバルーンであることを特徴とする請求項6または7記載の内視鏡推進装置。
【請求項9】
前記摩擦材はスポンジ材からなることを特徴とする請求項1ないし8いずれか1項記載の内視鏡推進装置。
【請求項10】
管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構を覆う内視鏡用カバーであり、
前記推進機構は、前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮する拡径状態、及び前記径方向に縮径するとともに前記軸方向に伸張する縮径状態に切替可能な拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、前記各拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構であり、
前記推進機構の先端から後端までの全体を覆う長さを持つ略筒状のカバー本体と、
前記カバー本体の外面上でかつ前記拡径状態の前記拡張部材の頂点に対応する位置に設けられた拡縮自在かつ吸液性を有する多孔質部材からなり、前記拡張部材が前記拡径状態にあるときに前記管路の内壁との間で押圧されて前記拡張部材の半径方向に圧縮されることで前記多孔質部材の表面が直接前記管路の内壁に押圧され、前記拡張部材が縮径状態にあるときに前記拡張部材の半径方向の圧縮が解除され、前記多孔質部材が周辺の液体を吸収し前記管路の内壁との摩擦係数を低減する摩擦材と、を備えていることを特徴とする内視鏡用カバー。
【請求項11】
管路内に挿入される内視鏡の挿入部の先端に固定された前記挿入部の推進機構に用いられる内視鏡用の摩擦材であり、
前記推進機構は、前記挿入部の径方向に拡径するとともに前記挿入部の軸方向に収縮する拡径状態、及び前記径方向に縮径するとともに前記軸方向に伸張する縮径状態に切替可能な拡張部材を前記軸方向に沿って複数備えており、前記各拡張部材を所定の順番で拡縮径させることで前記挿入部を前記管路内で推進させる推進機構であり、
前記拡張部材の外周面側に配置された拡縮自在かつ吸液性を有する多孔質部材からなり、前記拡張部材が前記拡径状態にあるときに前記管路の内壁との間で押圧されて前記拡張部材の半径方向に圧縮されることで前記多孔質部材の表面が直接前記管路の内壁に押圧され、前記拡張部材が縮径状態にあるときに前記拡張部材の半径方向の圧縮が解除され、前記多孔質部材が周辺の液体を吸収し前記管路の内壁との摩擦係数を低減することを特徴とする内視鏡用の摩擦材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−81130(P2012−81130A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−230730(P2010−230730)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月22日 社団法人日本ロボット学会発行の「第28回 日本ロボット学会学術講演会 予稿集 DVD−ROM」に発表
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【Fターム(参考)】