説明

内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体及びその調製方法

【課題】 内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体及びその調製方法を提供する。
【解決手段】 内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体1を構成要素とする構造体7であって、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体1が、ナノ微粒子からなるコアと、コアを空隙を介して覆う数ナノメーターから数十ナノメーターの径を有するシェルと、から成り、空隙が、コアの粒径を制御することにより所望の大きさに制御されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、触媒、電子デバイス材料等に用いるコア・シェル構造体を構成要素とする構造体に関し、さらに詳しくは内部に制御された空間を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料は、触媒、吸着剤、界面活性剤等に広く利用されている。
多孔質材料は、一定形状の細孔を有した物質であり、細孔の径が2nm以下の多孔質材料はミクロ多孔体と呼ばれ、細孔の径が2〜50nmの多孔質材料はメソ多孔体と呼ばれている。ミクロ多孔体は、例えば、ゼオライトが良く知られている。ゼオライトは、SiあるいはAl等の金属原子が酸素を介して結合した結晶体であり、一定形状の細孔を有しており、この細孔を利用して、例えば、重質油をガソリンに分解する接触分解触媒として、また、分岐アルカンは通さずに直鎖アルカンのみを通す分子ふるい吸着剤として利用されている。
【0003】
さらに近年、より大きな空隙を有する多孔体、すなわち、メソ多孔体が、触媒機能の向上と、新しい機能実現のために提案され、シリカなどの金属酸化物からなるメソ多孔体の調製が盛んに研究されている。メソポーラスシリカに代表されるメソ多孔体は、これまで、界面活性剤のミセルや、無機あるいは有機ナノ粒子などの自己組織化有機分子集合体を鋳型として、このまわりに金属酸化物薄膜を形成させた後、鋳型を除去することにより調製されている。鋳型として用いる材料の大きさ、及び、その配列構造を制御することによってメソ多孔体の細孔構造を制御することができ、細孔がランダムに分散したメソ多孔体、細孔が規則的に配列したメソ多孔体、あるいは球状細孔が3次元規則配列したメソ多孔体など、数多く実現されている。
メソ多孔体は、原子レベルの規則性はないものの、メソスケールの空隙が規則的に配列したこれまでにみられない新しいタイプの結晶であり、今後、吸着・分離材(特定の分子を空隙に吸着し、分離する働きを持つ材料)や、触媒、界面活性剤などの工業材料として活用が期待される。また、空隙にさまざまな原子や分子の集合体を導入するなどして、新しいエレクトロニクスデバイス材料としての利用も可能にするなど、さまざまな分野での利用が大いに期待されている。
【0004】
ところで、ナノ粒子とナノ粒子を包摂する細孔との間に形成される空隙の大きさは、触媒反応・材料合成などの化学反応空間、物質吸着あるいは物質包接場を特徴づける量として極めて重要である。
すなわち、制御された空隙をナノ粒子近傍に有する構造体、及びこの構造体を構成要素とする構造体は、従来の触媒に比べて極めて高効率な触媒となり得ること、触媒反応にあずかる化学種の選択性を付与できること、従来触媒が存在しなかった化学反応の触媒となり得ること、あるいは、ナノデバイスに必要なナノ物質を調製する土台として使用できることが予測できる。
例えば、酸化チタン等の光触媒は、光触媒表面で触媒反応が生起されるので、光触媒をナノ粒子に加工して表面積を増大させ、高効率の光触媒を実現しようとする研究が数多くなされている。しかしながらナノ粒子は、ファンデルワールス力によって凝集してしまうので、触媒反応にあずかる化学種が触媒ナノ粒子に吸着することができず、期待通りの効果が実現できない。すなわち、ナノ粒子近傍に制御された空隙が存在しないために高効率の光触媒を実現できない。
ナノ粒子近傍に空隙を設けることができれば、触媒反応にあずかる化学種が触媒ナノ粒子に吸着することができ、高効率の光触媒を実現できる。また、ナノ粒子近傍の空隙の寸法を制御する、すなわち制御された空隙をナノ粒子近傍に形成すれば、吸着できる分子種を制御できるから、触媒反応にあずかる化学種の選択性を付与できる。また、制御された空隙をナノ粒子近傍に有する構造体を構成要素とする構造体は、構造体の形状に基づく特定の分子種を配列させることができるから、従来触媒が存在しなかった化学反応の触媒となりえ、また、ナノデバイスに必要なナノ物質を調製する土台として使用できる。
【0005】
従来、制御された空間をナノ粒子近傍に有する多孔質材料は、メソ多孔体と金属あるいは半導体のナノ粒子とを複合させたものである。
メソ多孔体内にナノ粒子を形成させる従来の方法は、メソ多孔体にナノ粒子の原料となる反応ガスを導入して反応・分解させ、メソ多孔体の細孔内にナノ粒子を成長させるものである。
しかしながら、この方法で作製したナノ粒子・メソ多孔体複合体では、ナノ粒子の粒径がメソ多孔体内の場所によって異なり、それ故、粒径を制御することは極めて困難である。このため、制御されたナノ空間をナノ粒子近傍に有する多孔質材料を調製するのは、従来技術によっては極めて困難である。
【0006】
すなわち、制御されたナノ空間をナノ粒子近傍に有する構造体、及び、この構造体を構成単位とした構造体は、その有用性が予測されるにもかかわらず、従来の方法では調製することが困難であった。
【0007】
【非特許文献1】J.Electrochem.Soc.,145,1964−1968(1998)
【非特許文献2】Chem.Lett.,379−380(1999)、J.Phys.Chem.B,105,6838−6845(2001)
【非特許文献3】Science,270,1335−1338(1995)
【非特許文献4】Langmuir,15,1853−1858(1999)
【非特許文献5】J.Phys.Chem.B,103,8799−8803(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体及びその調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体においては、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体が、ナノ微粒子からなるコアと、コアを空隙を介して覆う数ナノメーターから数十ナノメーターの径を有するシェルと、から成り、空隙が、コアの粒径を制御することにより所望の大きさに制御されていることを特徴とする。
上記構成において、シェルは、所定の形状の開口を有している。好ましくは、コアは光溶解する固体からなり、固体は光吸収端を有する金属、金属酸化物、半導体または高分子からなっており、またシェルは光溶解しない物質からなる。好ましくは、コアは金属カルコゲナイド半導体微粒子であり、シェルは珪素・酸素結合を骨格に持つ膜である。
金属カルコゲナイド半導体微粒子は、好ましくはCdS(硫化カドミウム)であり、珪素・酸素結合を骨格に持つ膜がSiOx (シリコン酸化物,0<x)である。
このコア・シェル構造体は、特定の触媒反応・材料合成などの化学反応空間として最適に、または特定の物質の吸着あるいは包接場として最適に制御された空隙をナノ粒子近傍に有する多孔質材料であり、特定の物質の触媒反応・材料合成、特定の物質の吸着あるいは包摂を高効率にかつ選択的に行うことができる。
本発明の構造体は、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素としているので、コア・シェル構造体の効果に加え、構造体の形状に基づいて、さらに広範な触媒反応・材料合成、特定の物質の吸着あるいは包摂が可能になる。
【0010】
本発明の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法は、光溶解する固体からなる粒子を粒径を制御して形成し、粒子表面と結合する元素と光溶解しない酸化物の成分元素を含む基とを含む化学物質で化学修飾して粒子表面に基を導入し、基を加水分解して酸化物からなる被膜を形成し、粒子をコア、被膜をシェルとするコア・シェル構造体を形成し、コア・シェル構造体に光溶解液中で波長を制御して光照射し、コア・シェル構造体内部に制御された空隙を形成することを特徴とする。この方法によれば、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体が調製できる。
【0011】
また、化学修飾する際に、被膜の成分元素を含む基と反応しない化合物を競合的に粒子表面に結合させて被膜を形成し、コア・シェル構造体内部に制御された空隙を形成した後、化合物を酸化脱離してシェルに所定の形状の開口を形成することを特徴とする。この構成によれば、シェルに所定の形状の開口を有した、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体が調製できる。
【0012】
また、加水分解した後に、親水基または疎水基を有する化学物質を添加してさらに化学修飾することにより、水に可溶または有機溶媒に可溶に形成することができる。この構成によれば、水に可溶または有機溶媒に可溶な、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体が調製できる。
【0013】
好ましくは、光溶解する固体からなる粒子はCdS(硫化カドミウム)であり、粒子表面と結合する元素はS(イオウ)元素であり、光溶解しない酸化物の成分元素はSiであり、基はSi(シリコン)を含む(CH3 O)3 Si−(トリメトキシシリル)基であり、化学物質は(CH3 O)3 Si(CH2 3 SH(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)であり、加水分解して形成する被膜はSiOx (シリコン酸化物,0<x)である。この構成によれば、制御された粒径のCdSナノ粒子からなるコアと、コアを制御された空間を介して覆うSiOx 膜からなるシェルが形成される。シェル厚は十分に薄く、溶質、溶媒が透過できる。
【0014】
または、光溶解する固体からなる粒子はCdS(硫化カドミウム)であり、粒子表面と結合する元素はS(イオウ)元素であり、光溶解しない酸化物の成分元素はSiであり、基はSiを含む(CH3 O)3 Si−(トリメトキシシリル)基であり、化学物質は(CH3 O)3 Si(CH2 3 SH(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)であり、被膜の成分元素を含む基と反応しない化合物はアルキルチオール等のチオール化合物であってもよい。この構成によれば、制御された粒径のCdSナノ粒子からなるコアと、コアを制御された空間を介して覆うSiOx 膜からなるシェルが形成される。シェルには所望の形状の開口が形成されており、選択的に溶質、溶媒を透過できる。
【0015】
光溶解する固体からなる粒子がCdS(硫化カドミウム)で、粒子表面と結合する元素がS(イオウ)元素で、光溶解しない酸化物の成分元素がSiで、基がSi(シリコン)を含む(CH3 O)3 Si−(トリメトキシシリル)基で、化学物質が(CH3 O)3 Si(CH2 3 SH(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)で、親水基を有する化学物質が、カルボシキル基、4級アンモニウム基、アミノ基、スルホン酸基、ヒドロキシル基を有するアルキルシランで、疎水基を有する化学物質が、n−オクタデシルトリメトキシシランであってもよい。この場合にも、制御された粒径のCdSナノ粒子からなるコアと、コアを制御された空間を介して覆うSiOx 膜からなるシェルが形成される。シェルには所望の官能基が形成されており、所望の溶媒に溶かすことができる。
【0016】
波長を制御した光照射によるコア・シェル構造体内部の制御された空隙は、粒子の所望の粒径に対応する吸収端波長の光で光溶解して所望の粒径を得ることができる。この構成によれば、コア・シェル構造体のコアが光を吸収して光溶解し、粒径が小さくなる。粒径が小さくなると、量子サイズ効果により、コアの吸収端波長がより短波長側に移動し、照射光の波長よりコアの吸収端波長が短くなるとコアは光溶解しなくなる。照射光の波長を選択することにより、粒子の径を所望の大きさにできる。粒子の径を所望の大きさにできるので、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造を調製することができる。
【0017】
また、本発明の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法は、上記のいずれかの方法で調製した内部に制御された空隙を有する複数のコア・シェル構造体を溶媒に分散し、この溶媒を徐々に蒸発させて自己組織化させ、上記コア・シェル構造体を構成要素とする構造体を形成することを特徴とする。
また、本発明の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法は、上記のいずれかの方法で調製した内部に制御された空隙を有する複数のコア・シェル構造体を気・液界面に展開し、形成された上記コア・シェル構造体からなる2次元膜を圧縮して組織化することを特徴とする。
また、本発明の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法は、上記のいずれかの方法で調製した内部に制御された空隙を有する複数のコア・シェル構造体をDNAをテンプレートとして配列することを特徴とする。
また、本発明の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法は、光溶解する固体からなる粒子と、粒子表面を覆う光溶解しない膜とからなる複数のコア・シェル構造体を溶媒に分散し、溶媒を徐々に蒸発させて複数のコア・シェル構造体を自己組織化し、光溶解液中で自己組織化したコア・シェル構造体に粒子の所望の粒径に対応する吸収端波長の光を照射して光溶解し所望の空隙を形成することを特徴とする。
また、本発明の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法は、光溶解する固体からなる粒子と、粒子表面を覆う光溶解しない膜とからなる複数のコア・シェル構造体を気・液界面に展開し、形成されたコア・シェル構造体からなる2次元膜を圧縮して組織化し、光溶解液中で自己組織化したコア・シェル構造体に粒子の所望の粒径に対応する吸収端波長の光を照射して光溶解し所望の空隙を形成することを特徴とする。
また、本発明の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法は、光溶解する固体からなる粒子と、粒子表面を覆う光溶解しない膜とからなる複数のコア・シェル構造体をDNAをテンプレートとして配列し、光溶解液中で配列したコア・シェル構造体に粒子の所望の粒径に対応する吸収端波長の光を照射して光溶解し、所望の空隙を形成することを特徴とする。
上記何れの方法によっても、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体を調製することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体と、このコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法を提供することができる。従来技術では調製できなかった新規な触媒の調製、従来の触媒に比べて極めて高効率な触媒の調製が可能になり、また、ナノデバイスに必要なナノ物質を調製する土台に使用すれば極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実質的に同一の部材には同一の符号を付して説明する。
図1は本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の構成を示す模式断面図である。
図1(a)に示すように、本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体1は、ナノ微粒子からなるコア2と、コア2を空隙3を介して覆うシェル4とからなる。空隙3の寸法は、用途に応じて任意の大きさに制御される。図示しないが、シェル4は多数のマイクロ孔(数オングストローム程度の径を有する孔)を有している。
図1(b)は本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の他の実施形態を示すものであり、コア・シェル構造体5は、図1(a)のコア・シェル構造体1に比べ、シェル4に所定の形状の開口、すなわち、シェル孔6を有することが異なる。
コア2は、光吸収端を有する固体であれば何でも良く、好ましくは、金属カルコゲナイド半導体、例えば、CdS(硫化カドミウム)であってよい。コア径は数十ナノメーターから1ナノメーター程度の所望の値に制御される。
シェル4は、光溶解しない物質であれば何でも良く、例えばSiOx (シリカ、0<x)であってよい。シェル4の径、及び、シェル孔6の径は、用途に応じて数十ナノメーターから数ナノメーター程度の所望の値に制御される。空隙3は、数十ナノメーターから1ナノメーター程度の所望の値に制御される。
【0020】
本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体は、例えば、次に示す用途に使用することができる。
内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体1は、シェル4にマイクロ孔を有し、特定の金属イオンを選択的に通過させる。この機能を利用して、空隙3に特定の金属を析出させることができる。空隙3は所望の大きさに制御されているから、大きさの揃った一定形状の金属微粒子を生成することができる。例えば、バナジウム等の触媒金属微粒子の生成に使用すれば、最も触媒活性が高い形状の触媒金属微粒子を精度良く大量に生成することができる。
また、内部に制御された空隙3を有するコア・シェル構造体5は、シェル4に制御された形状のシェル孔6を有しているので、シェル孔6と空隙3を介して特定の構造を有する特定の物質を選択的に吸着させることができ、コア2を構成する物質を触媒、または光触媒として吸着物質間に反応をおこさせることにより、あるいは、吸着物質とコア2を構成する物質を反応させることにより、従来の調製手段では調製できない化合物を調製できる。
【0021】
次に、本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体を説明する。
図2は、本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の構成を示す模式断面図であり、図2(a)は図1(a)に示したコア・シェル構造体1を構成要素とする構造体7を示し、図2(b)は図1(b)に示したコア・シェル構造体5を構成要素とする構造体8を示している。 本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体7または8は、図1に示した複数のコア・シェル構造体1または5を規則的に配列した構造体である。図においては、最密に積層した構造体を示しているが、これに限らず、種々の形状の構造体が可能である。
構造体7または8によれば、例えば、複雑な反応過程からなる特異な光触媒反応において、コア・シェル構造体に選択的に吸着された反応基質が、構造体7または8の形状に基づいて規則的に配列されるので、光触媒反応に最適な反応場を構築することができる。
【0022】
次に、本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法を説明する。なお、説明の途中で図4〜6を参照する。
図3は、本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法のプロセスを示す図である。
初めに、図3(a)に示すように、所望の粒径を有する光溶解する微粒子2を用意する。微粒子2は、例えば、液相沈殿法、あるいはCVD(化学気相成長)法で生成しても良く、あるいは他の手段で生成したものを用いても良い。
次に、図3(b)に示すように、微粒子2の表面を光溶解しない物質からなるシェル4で被覆する。この際、図1(a)に示した構造体1を形成する場合には、シェル4の厚さを十分薄くし、マイクロ孔が残存するようにする。
【0023】
例えば、微粒子2が金属カルコゲナイド半導体の場合には以下に示す方法が可能である。硫化カドミウム(CdS)の場合を例にとって説明する。
図4はCdS微粒子からなるコアにSiOx からなるシェルを被覆する工程を模式的に示す図である。
図4(a)に示すように、チオール化合物の一つである3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン((CH3 O)3 Si(CH2 3 SH )を用いてCdS微粒子2の表面を化学修飾することにより、図4(b)に示すように、トリメトキシシリル基(Si(OMe)3 )をCdS微粒子2の表面に導入する(Si(OMe)3 −/CdS)。3−メルカプトプロピルトリメトキシシランは、チオール化合物であるのでチオール化合物のSを介してCdSに結合することができる。
つづいて、トリメトキシシリル(Si(OMe)3 )基を加水分解することにより、図4(c)に示すようにCdS微粒子2をコア(核)とし、シリカ(SiOx )単分子層をシェル(殻)4としたコア・シェル構造体が形成される(SiOx −/CdS)。
表面に導入されたトリメトキシシリル基は、Siを構成元素として含むので加水分解によってSiOx 膜ができる。SiOx 膜は光溶解しない。
【0024】
また、図1(b)に示したシェル孔は以下の方法で形成する。
図5は、CdSコアとSiOx シェルからなるコア・シェル構造体のシェルにシェル孔を形成する工程を模式的に示す図である。
化学修飾の際に、トリメトキシシリル基等のシラノール基と反応しないアルキルチオール等のチオール化合物を混入し、シラノール基とチオール化合物を競争的に粒子表面に結合させ、図5(b)に示すようにチオール化合物の集合を形成する。加水分解すると、図5(c)に示すようにシラノール基はSiOx シェル4を形成するがチオール化合物の集合はそのまま残留する。次に、CdS微粒子を下記に説明するサイズ選択光エッチング法によって粒径を制御して光溶解し、図5(d)に示すようにコア2とシェル4の間に寸法が制御された空間を形成する。つづいて、図5(e)に示すようにチオール化合物の集合を酸化脱離させてシェル孔6を形成する。
【0025】
また、水に可溶または有機溶媒に可溶な内部に制御された空間を有するコア・シェル構造体は以下の方法で形成する。
図6は、CdSコアとSiOx シェルからなるコア・シェル構造体を水に可溶または有機溶媒に可溶に形成する工程を模式的に示す図である。
加水分解した後に、アルキルトリメトキシシラン(X−R−Si(OMe)3 )等の様々な官能基(X)を持ったアルキル基を有するアルキルシラン化合物を添加してさらに表面を化学修飾すれば、図6(c)に示すようにCdS微粒子2の表面のシリカ単分子層をさらに化学修飾することができ(X−R−(SiOx )−/CdS)、アルキル基の有する官能基(X)の種類によって、CdS微粒子2の表面特性を制御することができる。例えば、アルキルシラン化合物にn−オクタデシルトリメトキシシランを用いれば、トルエン、ジメチルホルムアルデヒド、クロロホルム、四塩化炭素等に均一に溶解するコア・シェル構造体が得られる。また、官能基Xが、カルボキシル基、4級アンモニウム基、アミノ基、スルホン酸基、ヒドロキシル基等を持つアルキルシランを用いれば、水に可溶なコア・シェル構造体が得られる。
【0026】
次に、図3(c)に示すように、光溶解液9中で微粒子2に特定の波長の光10を照射して、コア・シェル構造体の空隙3を制御して形成する。
微粒子2の吸収端波長の光10を照射すると、微粒子2は光10を吸収して光溶解反応を生起し、微粒子2の表面が光溶解液に溶解して徐々に径が小さくなる。微粒子2の粒径が約10nm以下になると量子サイズ効果が顕著となり、微粒子2の粒径が小さくなるにつれて吸収端波長が短波長側に移動し、吸収端波長が照射光10の波長より短くなると、光溶解反応が停止し、微粒子2の粒径は一定値に止まる。このように、照射光10の波長を選択することによって、微粒子2の粒径を制御する。従って、所望の空隙3に応じた微粒子2の粒径を求め、その粒径に応じた波長の光10を照射することによって、内部に制御された空隙3を有するコア・シェル構造体1または5を調製できる。
なお、本発明の空隙の制御方法は、本発明者らによって既に提案されたサイズ選択光エッチング法(非特許文献1及び2参照)を利用している。このサイズ選択光エッチング法は、半導体ナノ粒子が量子サイズ効果により粒径減少に伴ってエネルギーギャップが増大すること、および金属カルコゲナイド半導体が溶存酸素下の光照射により酸化溶解することを利用しており、広い粒径分布を有する半導体ナノ粒子に、その吸収端の波長よりも短い波長の単色光を照射することで、粒径の大きな半導体ナノ粒子のみを選択的に光励起し溶解させ、より小さな半導体ナノ粒子へと粒径をそろえる方法である。
【0027】
次に、図2に示した本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とした構造体の調製方法を説明する。
図1に示した内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体1または5の複数個を自己組織化法により組織化して所望の形状の構造体を調製する。
以下の自己組織化法が適用できる。
(1)3次元組織化法
コア・シェル構造体1または5を溶媒に分散させ、溶媒を徐々に蒸発させることにより、コア・シェル構造体間のファンデルワールス力によって自己組織化する(非特許文献3参照)。
(2)2次元組織化法
コア・シェル構造体1または5を気−液界面に展開してできた2次元粒子膜を圧縮して組織化する(非特許文献4参照)。
(3)1次元組織化法
DNAをテンプレートとして、コア・シェル構造体1または5をDNAに沿って配列する(非特許文献5参照)。
次に、自己組織化されたこれらの構造体を熱処理、架橋剤分子等による化学処理、あるいはシェル同士の直接反応によってシェル間を結合し、構造体を安定化する。例えば、シェルがSiOx の場合には、トリエチルシランによりSiOx 薄膜間の架橋を行うことにより、構造体を安定化する。
また、上記説明では、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体1または5を用いて構造化する方法を説明したが、図3(b)に示した、内部に制御された空隙を形成する前の構造体を用いて上記の方法で所望の形状の構造体を調製した後に、サイズ選択光エッチング法で所望の空隙を形成しても良い。
【実施例】
【0028】
次に、実施例を説明する。
チオール化合物の1つである3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン((CH3 O)3 Si(CH2 3 SH )を用いて、硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子表面を化学修飾することにより、トリメトキシシリル基((CH3 O)3 Si−)をナノ粒子表面に導入したあと、トリメトキシシリル基を加水分解することにより、硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子の表面をシリカ層で被覆するとともにシェル間をSi−O−Si結合で架橋した、コア・シェル構造体を構成要素とする構造体を形成した。得られたコア・シェル構造体に単色光(457.9nm)を照射することで、コア・シェル構造体内部の硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子にサイズ選択光エッチングを適用し、硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子の粒径を約2.8nmにまで減少させ、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を調製した。
図7は、本実施例で調製した、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の透過電子顕微鏡写真である。
図において、黒い固まり部分が、コアである硫化カドミウム(CdS)ナノ粒子であり、その回りに細いリング状の黒い部分はシェルであるシリカ(SiOx )であり、その間の白い部分が空隙である。
図から明らかなように、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体が形成されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の構成を示す模式断面図である。
【図2】本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明の、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法を示す図である。
【図4】本発明の、CdS微粒子からなるコアにSiOx からなるシェルを被覆する工程を模式的に示す図である。
【図5】本発明の、CdSコアとSiOx シェルからなるコア・シェル構造体のシェルにシェル孔を形成する工程を模式的に示す図である。
【図6】本発明の、CdSコアとSiOx シェルからなるコア・シェル構造体を水に可溶または有機溶媒に可溶に形成する工程を模式的に示す図である。
【図7】本実施例で調製した、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の透過電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0030】
1 内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体
2 ナノ粒子(コア)
3 空隙
4 シェル(シリカ膜)
5 シェル孔を有する内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体
6 シェル孔
7 内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体
8 シェル孔を有する内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体
9 光溶解液
10 照射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体であって、 上記内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体が、
ナノ微粒子からなるコアと、該コアを空隙を介して覆う数ナノメーターから数十ナノメーターの径を有するシェルと、から成り、
上記空隙が、上記コアの粒径を制御することにより所望の大きさに制御されていることを特徴とする、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造 。
【請求項2】
前記シェルは、所定の形状の開口を有していることを特徴とする、請求項1に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体。
【請求項3】
前記コアは、光溶解する固体からなり、この固体は光吸収端を有する金属、金属酸化物、半導体、または高分子からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体
【請求項4】
前記シェルは、光溶解しない物質からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体。
【請求項5】
前記コアは金属カルコゲナイド半導体微粒子であり、前記シェルは珪素・酸素結合を骨格に持つ膜であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体。
【請求項6】
前記金属カルコゲナイド半導体微粒子がCdS(硫化カドミウム)であり、前記珪素・酸素結合を骨格に持つ膜がSiOx (シリコン酸化物,0<x)であることを特徴とする、請求項5に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体。
【請求項7】
光溶解する固体からなる粒子を粒径を制御して形成し、
上記粒子表面と結合する元素と光溶解しない酸化物の成分元素を含む基とを含む化学物質で化学修飾して上記粒子表面に上記基を導入し、
この基を加水分解して上記酸化物からなる被膜を形成し、上記粒子をコア、上記被膜をシェルとするコア・シェル構造体を形成し、
このコア・シェル構造体に光溶解液中で波長を制御して光照射し、コア・シェル構造体内部に制御された空隙を形成することを特徴とする、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法。
【請求項8】
前記化学修飾する際に、前記被膜の成分元素を含む基と反応しない化合物を競合的に前記粒子表面に結合させて前記被膜を形成し、前記コア・シェル構造体内部に制御された空隙を形成した後、上記化合物を酸化脱離して上記シェルに所定の形状の開口を形成することを特徴とする、請求項7に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法。
【請求項9】
前記加水分解した後に、親水基または疎水基を有する化学物質を添加してさらに化学修飾することにより、水に可溶または有機溶媒に可溶に形成することを特徴とする、請求項7に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法。
【請求項10】
前記光溶解する固体からなる粒子はCdS(硫化カドミウム)であり、
前記粒子表面と結合する元素はS(イオウ)元素であり、
前記光溶解しない酸化物の成分元素はSi(シリコン)であり、前記基はSiを含む(CH3 O)3 Si(トリメトキシシリル)基であり、
前記化学物質は(CH3 O)3 Si(CH2 3 SH(3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン)であり、
前記加水分解して形成する被膜はSiOx (シリコン酸化物,0<x)であることを特徴とする、請求項7に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法。
【請求項11】
前記光溶解する固体からなる粒子はCdSであり、
前記粒子表面と結合する元素はS元素であり、
前記光溶解しない酸化物の成分元素はSiであり、
前記基はSiを含む(CH3 O)3 Si基であり、
前記化学物質は(CH3 O)3 Si(CH2 3 SHであり、
前記被膜の成分元素を含む基と反応しない化合物はアルキルチオール等のチオール化合物であることを特徴とする、請求項8に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法。
【請求項12】
前記光溶解する固体からなる粒子はCdSであり、
前記粒子表面と結合する元素はS元素であり、
前記光溶解しない酸化物の成分元素はSiであり、前記基はSiを含む(CH3 O)3 Si基であり、
前記化学物質は(CH3 O)3 Si(CH2 3 SHであり、
前記親水基を有する化学物質は、カルボシキル基、4級アンモニウム基、アミノ基、スルホン酸基、ヒドロキシル基等を有するアルキルシランであり、
前記疎水基を有する化学物質は、n−オクタデシルトリメトキシシランであることを特徴とする、請求項9に記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法。
【請求項13】
前記波長を制御した光照射によるコア・シェル構造体内部の制御された空隙の形成は、前記粒子の所望の粒径に対応する吸収端波長の光で光溶解して所望の粒径を得ることを特徴とする、請求項7〜12のいずれかに記載の内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体の調製方法。
【請求項14】
請求項7〜12に記載のいずれかの方法で調製した内部に制御された空隙を有する複数のコア・シェル構造体を溶媒に分散し、この溶媒を徐々に蒸発させて自己組織化させ、上記コア・シェル構造体を構成要素とする構造体を形成することを特徴とする、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法。
【請求項15】
請求項7〜12に記載のいずれかの方法で調製した内部に制御された空隙を有する複数のコア・シェル構造体を気・液界面に展開し、形成された上記コア・シェル構造体からなる2次元膜を圧縮して組織化することを特徴とする、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法。
【請求項16】
請求項7〜12に記載のいずれかの方法で調製した内部に制御された空隙を有する複数のコア・シェル構造体を、DNAをテンプレートとして配列することを特徴とする、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法。
【請求項17】
光溶解する固体からなる粒子と、この粒子表面を覆う光溶解しない膜とからなる複数のコア・シェル構造体を溶媒に分散し、この溶媒を徐々に蒸発させて複数のコア・シェル構造体を自己組織化し、光溶解液中でこの自己組織化したコア・シェル構造体に上記粒子の所望の粒径に対応する吸収端波長の光を照射して光溶解し所望の空隙を形成することを特徴とする、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法。
【請求項18】
光溶解する固体からなる粒子と、この粒子表面を覆う光溶解しない膜とからなる複数のコア・シェル構造体を気・液界面に展開し、形成された上記コア・シェル構造体からなる2次元膜を圧縮して組織化し、光溶解液中でこの自己組織化したコア・シェル構造体に上記粒子の所望の粒径に対応する吸収端波長の光を照射して光溶解し、所望の空隙を形成することを特徴とする、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法。
【請求項19】
光溶解する固体からなる粒子と、この粒子表面を覆う光溶解しない膜とからなる複数のコア・シェル構造体をDNAをテンプレートとして配列し、光溶解液中でこの配列したコア・シェル構造体に上記粒子の所望の粒径に対応する吸収端波長の光を照射して光溶解し所望の空隙を形成することを特徴とする、内部に制御された空隙を有するコア・シェル構造体を構成要素とする構造体の調製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−105873(P2007−105873A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307140(P2006−307140)
【出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【分割の表示】特願2002−52395(P2002−52395)の分割
【原出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】