説明

内部オレフィンの製造方法、内部オレフィン混合物及び内部オレフィン混合物を含む石油掘削基油

【課題】 安価なゼオライト触媒を用い、オリゴマー化反応を抑制しながら、安定にα−オレフィンを異性化する内部オレフィンの製造方法を提供すること。
【解決手段】 ゼオライト触媒床に炭素数16〜18のα−オレフィンを通して異性化し、内部オレフィンを製造する方法において、異性化反応を開始する前に、炭素数16〜18のα−オレフィンを上記ゼオライト触媒床に循環させ、接触させる内部オレフィンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素数16〜18のα−オレフィンを異性化する内部オレフィンの製造方法、内部オレフィン混合物及び内部オレフィン混合物を含む石油掘削基油に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内部オレフィンは、様々な用途、具体的には、石油掘削基油、洗剤原料、紙サイズ剤原料、潤滑油の基油又は原料、化成品原料などに用いられている。例えば石油掘削基油としては、炭素数14のα−オレフィンが使用されているが、炭素数14のα−オレフィンは環境中に放出されると魚毒性を示すため、海底油田の場合は炭素数16以上のα−オレフィンを使用することが好ましいとされている。しかし、炭素数16以上のα−オレフィンは、炭素数14のα−オレフィンと比べて流動性に劣るため、内部異性化して流動性を向上させる必要がある。
α−オレフィンの内部異性化反応を行う場合、分岐オレフィンの生成を抑制することが重要である。これは、界面活性剤の分野においても問題となったように、分岐オレフィンは生分解性が悪く環境中に長期間残留してしまうためである。そこで、骨格異性化反応を抑制し、α−オレフィンの内部異性化反応のみを選択的に行う技術についてはいくつかの特許出願が行われている。骨格異性化をどの程度抑制すべきかについては明瞭な指標はないものの、例えば骨格異性化反応率を5%未満に抑制することが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ゼオライト触媒を用いたα−オレフィンの内部異性化反応に際して、骨格異性化反応を抑制する方法としては、ニッケルモノオキサイド1〜10重量%をプロモーターとして含むペンタシルゼオライト触媒を用いる方法(例えば、特許文献1参照)、触媒として直径3.8〜5.0Åの1次元細孔を有するアルミノフォスフェート含有モレキュラーシーブを用いる方法(例えば、特許文献2参照)が開示されている。
α−オレフィンの内部異性化反応を行う場合にもう一つ重要なことは、反応に際してオリゴマーを生成させないことである。オリゴマーが増加すると、生成した内部オレフィンの流動性が却って悪化することは容易に推測できることであり、オリゴマーの生成をできるだけ少なくすることが望ましい。
特許文献1の請求項8には、残留α−オレフィンを5%未満にすることが記載されており、また、実施例3では炭素数18のα−オレフィンを異性化する際に、炭素数36のオレフィンの生成量を4%以下にすることが実証されている。
このように、内部オレフィンの流動性を改善するために1%単位でのオリゴマー低減が図られているが、オリゴマー低減については依然として充分とは言えず、オリゴマーの濃度を低くするために反応生成液をさらに蒸留しなければならない場合もある。
従って、オリゴマー化反応を抑制しながら、安定にα−オレフィンを異性化する内部オレフィンの製造方法が望まれている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,054,629号明細書
【特許文献2】米国特許第6,281,404号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、安価なゼオライト触媒を用い、オリゴマー化反応を抑制しながら、安定にα−オレフィンを異性化する内部オレフィンの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、異性化反応を開始する前に原料のα−オレフィンをゼオライト触媒床に循環させることにより、オリゴマー化反応活性を大幅に低減することができ、また、上記循環により、蒸留を行うことなく、より流動性に優れた内部オレフィンを製造することができることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、以下の内部オレフィンの製造方法、内部オレフィン混合物及び内部オレフィン混合物を含む石油掘削基油を提供するものである。
1. ゼオライト触媒床に炭素数16〜18のα−オレフィンを通して異性化し、内部オレフィンを製造する方法において、異性化反応を開始する前に、炭素数16〜18のα−オレフィンを上記ゼオライト触媒床に循環させ、接触させることを特徴とする内部オレフィンの製造方法。
2. ゼオライト触媒が、MFI型ゼオライトである上記1に記載の内部オレフィンの製造方法。
3. 循環させるα−オレフィンの総量が、ゼオライト触媒の体積の1〜20倍である上記1又は2に記載の内部オレフィンの製造方法。
4. 循環させるα−オレフィンのLHSV(液時空間速度)が、0.1〜10h-1である上記1〜3のいずれかに記載の内部オレフィンの製造方法。
5. α−オレフィンの循環時の触媒床温度が70〜180℃である上記1〜4のいずれかに記載の内部オレフィンの製造方法。
6. α−オレフィンの循環時間が1〜100時間である上記1〜5のいずれかに記載の内部オレフィンの製造方法。
7. 上記1〜6のいずれかに記載の方法で得られた炭素数16〜18の内部オレフィン混合物。
8. 上記7に記載の炭素数16〜18の内部オレフィン混合物を含む石油掘削基油。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゼオライト触媒床のオリゴマー化反応活性を大幅に低減させることができ、流動性が良好な内部オレフィンを安定的に効率良くかつ工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の原料のα−オレフィンは、炭素数16〜18のα−オレフィンである。原料のα−オレフィン中の炭素数16のα−オレフィンと炭素数18のα−オレフィンの割合(質量比)には特に制限はないが、通常20:80〜35:65、好ましくは25:75〜32:68である。
この炭素数16〜18のα−オレフィンは、好ましくはエチレンを、チーグラー型触媒を用いて低重合させた低重合体を蒸留することにより得ることができる。この低重合体は、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの混合物である。
さらに、本発明で用いるα−オレフィンは、接触分解装置などから得られるα−オレフィンを蒸留することにより得ることもできる。
【0009】
本発明に用いられるゼオライト触媒としては、天然のゼオライト及び合成ゼオライトが挙げられる。天然のゼオライトとしては、チャバサイト、モルデナイト、エリオナイト、ホージャサイト及びクリノブチロナイト等が挙げられる。合成のゼオライトとしては、A型、B型、X型、Y型、オメガ型及びMFI型等が挙げられる。中でも、MFI型が好ましく、MFI型としてはZSM−5等が好適である。特に、カチオンの一部又は全部を置換したプロトン型ゼオライトが好ましく、中でも、プロトンに置換されたH−ZSM−5が好ましい。
【0010】
本発明の内部オレフィンの製造方法においては、異性化反応を開始する前に、原料である炭素数16〜18のα−オレフィンをゼオライト触媒床に循環させ、接触させる。この循環に使用するα−オレフィンの量は、ゼオライト触媒の体積の1〜20倍が好ましく、より好ましくは3〜10倍である。循環に使用するα−オレフィンの量がゼオライト触媒の体積の1倍以上であると、この触媒のオリゴマー化反応活性を低減させる効果が発揮され、また、20倍以下であると、経済性の面からも実用的である。
【0011】
上記循環の際のα−オレフィンのLHSV(液時空間速度)は、ゼオライト触媒床のオリゴマー反応活性の低減効果などを考慮すると、通常0.1〜10h-1程度、好ましくは1〜5h-1である。
α−オレフィン循環時のゼオライト触媒床の温度は、通常70〜180℃程度であり、好ましくは100〜160℃である。α−オレフィンの循環時間は、ゼオライト触媒床のオリゴマー反応活性の低減効果と経済性の良好なバランスの点から、通常1〜100時間程度、好ましくは4〜48時間である。
【0012】
本発明においては、上述のようにα−オレフィンを循環させ、接触させたゼオライト触媒床に炭素数16〜18のα−オレフィンを通して異性化し、内部オレフィンを製造する。この場合、上記循環に用いたα−オレフィンは、そのまま原料として使用することができる。異性化反応の温度は、通常70〜180℃程度であり、好ましくは100〜160℃である。
反応形式については特に制限はなく、固定床流通式及びバッチ式(連続式攪拌槽を含む)のいずれであってもよい。圧力は、通常、常圧〜5MPa程度、好ましくは常圧〜1MPaである。反応形式が固定床流通式の場合、α−オレフィンの転化率及び生産性などを考慮すると、α−オレフィンのLHSV(液時空間速度)は、通常0.1〜10h-1程度、好ましくは1〜4h-1の範囲で選定される。
また、反応形式がバッチ式である場合、ゼオライト触媒の使用量は、原料のα−オレフィン100質量部に対し、通常1〜60質量部程度、好ましくは10〜50質量部、より好ましくは20〜40質量部の範囲である。この場合、反応時間は、反応温度や所望のα−オレフィン転化率などにより左右され、一概に定めることはできないが、通常30分〜20時間程度で十分であり、好ましくは1〜10時間程度である。
【0013】
このように、異性化反応の開始前に原料であるα−オレフィンを循環させ、接触させたゼオライト触媒を用いることにより、比較的穏和な条件で、α−オレフィンを90%以上の転化率で内部異性化することができる。しかも、触媒の劣化、骨格異性化反応物及びオリゴマー化反応などの望ましくない副反応を抑制することができるので、所望の内部オレフィンが選択的に得られる。
また、反応生成液を蒸留精製することなしに製品とすることができるため、オリゴマー化反応生成物等の除去のための蒸留塔等が不要になるため経済性が高い。また、本発明で用いるゼオライト触媒は、一般に安価であるので、触媒交換を前提としても、十分経済的なプロセスが設計可能である。
また、本発明は、上記の製造方法により得られた内部オレフィン混合物及びこの内部オレフィン混合物を含む石油掘削基油をも提供する。
【実施例】
【0014】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
比較例1
直径12mmのステンレス鋼製反応塔(長さ1.1m、内径10mm)にHMFI−90(ズードケミー社製、プロトン型MFIゼオライト触媒)50mlを充填し、反応塔内を窒素置換した。この反応器に炭素数16(C16)α−オレフィン70質量%と炭素数18(C18)α−オレフィン30質量%の混合物をアップフローで100ml/hで供給した。α−オレフィンの転化率が93〜95%以上になるように、触媒活性の低下と共に反応温度を上げながら反応を継続した。24時間後には触媒活性は安定し、この時の反応温度は130℃であった。
α−オレフィンの供給開始から48時間が経過した時点で、反応温度は130℃、二重結合異性化転化率は、C16α−オレフィンが94%、C18α−オレフィンが93%であった。また、生成液中のオリゴマー濃度は2.1質量%であった。さらに、得られた内部オレフィンについて、キャノンフェンスケ型粘度計を用いて0℃における動粘度を測定し、流動性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0015】
実施例1
反応塔内の窒素置換までは比較例1と同様の操作を行った。この後、反応器にC16α−オレフィン70質量%とC18α−オレフィン30質量%の混合物300mlをアップフローで100ml/hで、24時間循環させ、接触させた。この循環の際のα−オレフィンのLHSVは、2h-1、ゼオライト触媒床の温度は150℃であった。
次いで、上記循環を停止し、上記α−オレフィン混合物300mlに引き続いて同様のα−オレフィン混合物をアップフローで100ml/hで供給し、α−オレフィンの転化率が93〜95%以上になるように、触媒活性の低下と共に反応温度を上げながら反応を継続した。24時間後には触媒活性は安定し、この時の反応温度は135℃であった。
循環を停止した後のα−オレフィンの供給開始から48時間が経過した時点で、反応温度は135℃、二重結合異性化転化率は、C16α−オレフィンが95%、C18α−オレフィンが93%であった。また、生成液中のオリゴマー濃度は1.2質量%であり、比較例1と比べるとオリゴマー生成活性は半減していた。さらに、得られた内部オレフィンについて、上記と同様の方法により流動性を評価した。これらの結果を表1に示す。
【0016】
【表1】

(注)
流動性
○:0℃における動粘度が8.0mm2/s未満
×:0℃における動粘度が8.0mm2/s以上
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明の製造方法により得られる内部オレフィンは、流動性が良好であり、石油掘削基油などの用途に好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト触媒床に炭素数16〜18のα−オレフィンを通して異性化し、内部オレフィンを製造する方法において、異性化反応を開始する前に、炭素数16〜18のα−オレフィンを上記ゼオライト触媒床に循環させ、接触させることを特徴とする内部オレフィンの製造方法。
【請求項2】
ゼオライト触媒が、MFI型ゼオライトである請求項1に記載の内部オレフィンの製造方法。
【請求項3】
循環させるα−オレフィンの総量が、ゼオライト触媒の体積の1〜20倍である請求項1又は2に記載の内部オレフィンの製造方法。
【請求項4】
循環させるα−オレフィンのLHSV(液時空間速度)が、0.1〜10h-1である請求項1〜3のいずれかに記載の内部オレフィンの製造方法。
【請求項5】
α−オレフィンの循環時の触媒床温度が70〜180℃である請求項1〜4のいずれかに記載の内部オレフィンの製造方法。
【請求項6】
α−オレフィンの循環時間が1〜100時間である請求項1〜5のいずれかに記載の内部オレフィンの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法で得られた炭素数16〜18の内部オレフィン混合物。
【請求項8】
請求項7に記載の炭素数16〜18の内部オレフィン混合物を含む石油掘削基油。



【公開番号】特開2006−193442(P2006−193442A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−4828(P2005−4828)
【出願日】平成17年1月12日(2005.1.12)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】