説明

円形立坑掘削装置

【課題】円形ケーシングを吊るためのクレーンを大型化する必要のない円形立坑掘削装置を提供する。
【解決手段】円形ケーシングを揺動圧入または旋回圧入して立坑を掘削する円形立坑掘削装置において、円形ケーシングの外周を保持する主バンド10と、主バンド10と高さの異なる位置にあって、円形ケーシングの外周を保持する副バンド12と、主バンド10を円形ケーシングの外周に締め付ける主バンド締め付け手段と、主バンド10を昇降させる昇降シリンダ9と、主バンド12を揺動または旋回させる主バンド駆動手段と、副バンド12を円形ケーシングの外周に締め付ける副バンド締め付け手段とを設けた円形立坑掘削装置。主バンド10と副バンド12を使うことにより、小径の円形ケーシング1段を吊ることのできるクレーンを用意すればよく、工事費の節減になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木建設工事で、円形ケーシングを使用して円形立坑を構築する円形立坑掘削装置に関する。
【背景技術】
【0002】
深い立坑を施工する工法としては、例えば特許文献1に開示されたものがある。この工法は、円形立坑掘削機で立坑を円形ケーシングの揺動圧入又は旋回圧入で掘削する円形立坑掘削工法において、大径の円形ケーシングの上部を円形立坑機の締め付けバンドで締付けて掘削すべき立坑の途中まで圧入掘削し、次いで、大径の円形ケーシング内に小径の円形ケーシングを挿入するとともに、締付けバンドの中にスペーサを入れて、小径の円形ケーシングの上部を締付けて圧入掘削し、掘削すべき立坑の深さに達した時点で小径の円形ケーシングの底部に水中コンクリートを打設して立坑底版を形成する、円形立坑の掘削方法である。
【0003】
図8は、その円形立坑の掘削方法による掘削手順を示す工程図である。まず、図8(a)に示すように、立坑の掘削深の途中までを、下端に掘削刃30を設けた大径ケーシング31で掘削する。但し本図ではグラブバケットDと、大径の締付バンド41以外の立坑掘削機部分は省略してある。大径ケーシング31には締付バンド41の掴み代として大径アイドルケーシング32がボルト(図示せず)で接続され、これを大径締付けバンド41で締め付ける。大径締付けバンド41を円形立坑掘削機で揺動または旋回しながら圧入し、大径ケーシング31により掘削する。大径ケーシング31の中はグラブバケットDで掘削排土する。
【0004】
次いで、図8(b)に示すように、大径締付バンド41をスペーサ42で内径を縮小し、小径ケーシング35及び32をスペーサ42で掴み、大径ケーシング31の中に小径ケーシング35と32を圧入し、掘削刃34で掘削し、中を小径グラブバケットEに取り替えて掘削排土する。なお、同図は、先に、一段目の小径ケーシング35に二段目の小径ケーシング32を溶接またはボルト締めで接続し、二段目の小径ケーシング32の上部をスペーサ42で掴んで揺動または旋回しつつ圧入することにより、一段目の小径ケーシング35の先端の掘削刃34で掘削している状態を示している。
【0005】
次に、図8(c)に示すように、小径ケーシング35、32、及びスペーサ42の掴み代として取り付けた小径アイドルケーシング33による掘削の終了後、底版コンクリート36と連結コンクリート37を打設する。
【0006】
図8(d)は、立坑が完成した状態を示す。コンクリートが固化した後、立坑内の水替えを行う。不要な小径ケーシング32、小径アイドルケーシング33は撤去する。
【0007】
この従来の円形立坑の掘削方法の場合、小径ケーシング長さは通常3m以下であるため、それより深い立坑の場合、溶接またはボルト締めで小径の円形ケーシングを複数個接続して、大径ケーシング31の底部まで降ろす必要がある。
【0008】
この接続作業は、一段目の円形の小径ケーシング35をクレーン(図示せず)で大径ケーシング31内に入れて、円形立坑掘削装置の締め付けバンド41で締付けて固定し、次に2段目の小径の円形ケーシング32をクレーンで1段目の小径の円形ケーシング35の上に中心を合わせて吊り降ろし、1段目と2段目の接続を行う作業となる。
【0009】
接続作業が済んだら、接続された1段目と2段目の小径の円形ケーシング35,32をクレーンで吊り、締め付けバンド41を開いて、小径の円形ケーシング35,32を降ろし、次に2段目の小径の円形ケーシング32を締め付けバンド41で固定する。
この作業を小径の円形ケーシングの先端が、大径のケーシング31の底部に着くまで繰り返す。
【0010】
深い立坑ではない場合でも、小径の円形ケーシングを回収する場合には、小径の円形ケーシングを円形立坑掘削機で圧入・引き抜きシリンダ(図示せず)を1ストローク分だけ引き抜き、その後クレーン等で小径の円形ケーシングを吊った状態で、締め付けバンド41の掴み変えを行い、小径の円形ケーシングの回収を行う方法がとられている。
【0011】
また、コンクリート製の円形ケーシングのような重量の大きなケーシングの場合は、ケーシングの自重で沈下する場合があるため、揺動・旋回バンドの掴み変えの時にはクレーンによってケーシングを保持する方法がとられている。
【0012】
深い立坑ではなくても、地山の摩擦抵抗が大きくなると、停止後の最初の静摩擦により揺動・旋回トルクが揺動・旋回の動作中よりも大きくなる。
【0013】
【特許文献1】特許第3420926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、多段方式の立坑では、小径の円形ケーシングの接続回数が増えてくると、重量が増えてくるために、大型のクレーンが必要となってくる。そのため、工事費が高くなってしまう。
【0015】
また、小径の円形ケーシングを引き抜き回収する場合も同様に、ケーシング全体の重量に対応したクレーンが必要となる。
【0016】
コンクリート製の円形ケーシングの場合も、重量が大きいため、自重で自沈する場合があり、揺動・旋回バンドの掴み変え時には、ケーシングの重量に対応したクレーンが必要である。
【0017】
さらに、地山の静摩擦に対応するために、揺動・圧入シリンダの揺動・旋回トルクを大きくする必要がある。
【0018】
本発明は、円形ケーシングを吊るためのクレーンを大型化することなく、また、地山とケーシングの間の静摩擦に対抗してケーシングを動かす揺動シリンダ、または油圧モータのトルクをことさら大きくする必要のない円形立坑掘削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記課題を解決するため、本発明の円形立坑掘削装置は、円形ケーシングを揺動圧入または旋回圧入して立坑を掘削する円形立坑掘削装置において、前記円形ケーシングの外周を保持する主バンドと、前記主バンドと高さの異なる位置にあって、前記円形ケーシングの外周を保持する副バンドと、前記主バンドを前記円形ケーシングの外周に締め付ける主バンド締め付け手段と、前記主バンドを昇降させる昇降手段と、前記主バンドを揺動または旋回させる主バンド駆動手段と、前記副バンドを前記円形ケーシングの外周に締め付ける副バンド締め付け手段とを設けたことを特徴とする。
【0020】
本発明においては、円形立坑掘削作業は次の手順で行う。
(1)従来(例えば特許文献1記載の円形立坑の掘削方法)と同様の方法で、大径の円形ケーシングの上部を主バンドで締め付けて、円形立坑掘削装置により、掘削すべき立坑の途中まで圧入掘削する。
(2)小径の円形ケーシングの1段目をクレーンで大径ケーシング内に入れて、主バンドで固定する。
(3)次に、小径の円形ケーシングの2段目をクレーンで1段目の小径の円形ケーシングの上に中心を合わせて吊り降ろし、1段目と2段目の接続作業を行う。
(4)次に、円形立坑掘削装置の副バンドで締付けて固定し、主バンドを開き、昇降手段を用いて主バンドを最大の引き抜き状態にし、主バンドで小径の円形ケーシングを固定する。
(5)次に、副バンドを開き、昇降手段を用いて主バンドを最大の圧入状態まで下降させて、小径の円形ケーシングを降ろす。
(6)次に副バンドを締めて、主バンドを開き、昇降手段を用いて主バンドを最大の引き抜き状態にする。
(7)この作業を繰り返して2段目の小径の円形ケーシングの上面が主バンドの少し上になるまで接続した小径の円形ケーシングを挿入する。
(8)この作業を小径の円形ケーシングの先端が、大径のケーシングの底部に着くまで繰り返す。
【0021】
また、小径の円形ケーシングを引き抜き回収する場合には、昇降手段で1ストローク分小径の円形ケーシングを引き抜いた後、副バンドで小径の円形ケーシングを固定して、主バンドのつかみ変えを行う。主バンドで小径の円形ケーシングを固定し、副バンドを開き、昇降手段で小径の円形ケーシングを引き抜き、この作業を繰り返して、小径の円形ケーシングの回収を行う。
【0022】
地山の静摩擦が大きくなり、主バンドにより揺動・旋回が出来ない場合は、副バンドに揺動手段を設けることにより、主バンドと副バンドで小径の円形ケーシングを固定し、主バンドの揺動・旋回トルクと副バンドの揺動トルクにより、小径の円形ケーシングを地山の静摩擦に対抗させて動かすことができる。一度小径の円形ケーシングが動けば副バンドを開き、主バンドのみで小径の円形ケーシングの揺動・旋回ができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、主バンドと副バンドを使うことにより、小径の円形ケーシング1段を吊ることのできるクレーンを用意すればよく、工事費の節減になる。
また、副バンドにも揺動手段を設けることにより、主バンド・副バンドの揺動トルクにより地山と小径の円形ケーシングの間の静摩擦に対抗して小径の円形ケーシングを動かすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は本発明の実施形態に係る円形立坑掘削装置を示す全体構成図、図2は図1においてブームと油圧バケット部分を省略した平面図、図3は本発明の実施形態に係る円形立坑掘削装置を示すものであり、(a)は下降時の断面図、(b)は上昇時の断面図である。また、図4は本発明の実施形態に係る円形立坑掘削装置のベースフレームの平面図である。
【0025】
これらの図において、立坑掘削機1は、走行可能なベースマシン2と、ベースマシン2から旋回および俯仰可能に設けられたブーム3と、ブーム3の先端に取り付けられた油圧バケット4とを備えている。ベースマシン2には、連結装置5により円形立坑掘削装置6が固定されている。円形立坑掘削装置6は、ベースフレーム7と昇降フレーム8とを有し、昇降フレーム8は昇降手段である昇降シリンダ9により、ベースフレーム7に対して昇降駆動される。
【0026】
図3に示すように、昇降フレーム8には、主バンド10が旋回ベアリング11により旋回自在に取り付けられており、またベースフレーム7には、副バンド12が取り付けられている。
【0027】
昇降フレーム8には、図2に示すように、主バンド10を円形ケーシング(後述)の外周に対して締め付ける主バンド締め付け手段としての主バンド締め付けシリンダ(図示せず)と、主バンド10を揺動または旋回させる主バンド駆動手段としての油圧モータ13が設けられている。
【0028】
ベースフレーム7には、図4に示すように、副バンド12を円形ケーシング(後述)の外周に対して締め付ける副バンド締め付け手段としての副バンド締め付けシリンダ14と、副バンド12を揺動させる副バンド揺動手段としての副バンド揺動シリンダ15が設けられている。
【0029】
次に、図5〜図7を用いて、本実施の形態の円形立坑掘削装置による円形立坑掘削方法について説明する。
【0030】
(1)図5(a)は、既に、従来(例えば特許文献1記載の円形立坑の掘削方法)と同様の方法で、立坑の掘削深の途中までが、下端に掘削刃21を設けた大径ケーシング20で掘削されている状態を示す。この場合、大径ケーシング20の上部を主バンド10で締め付けて、円形立坑掘削装置6により、掘削すべき立坑の途中まで圧入掘削する。
次いで、主バンド10を主バンドスペーサ22で内径縮小し、また副バンド12を副バンドスペーサ23で内径縮小する。先端に掘削刃25を設けた小径の円形ケーシング24の1段目をクレーンで大径ケーシング20内に入れる。
【0031】
(2)次いで、図5(b)に示すように、小径の円形ケーシング24を主バンドスペーサ22を取り付けた主バンド10で固定する。
【0032】
(3)次に図5(c)に示すように、2段目の小径の円形ケーシング26をクレーン(図示せず)で1段目の小径の円形ケーシング24の上に中心を合わせて吊り降ろし、1段目と2段目の接続作業(溶接)を行う。
【0033】
(4)次に、図6(a)に示すように、一段目の小径の円形ケーシング24を円形立坑掘削装置6の副バンド12で締付けて固定し、主バンド10を開き、昇降シリンダ9を用いて主バンド10を最大の引き抜き状態にし、主バンド10で小径の円形ケーシング24を固定する。
【0034】
(5)次に、図6(b)に示すように、副バンド12を開き、昇降シリンダ9を用いて主バンド10を最大の圧入状態まで降ろす。その状態が図6(c)である。
【0035】
(6)次に、図7(a)に示すように、副バンド12を締めて、主バンド10を開き、昇降シリンダ9を用いて主バンド10を最大の引き抜き状態にする。
【0036】
(7)この作業を繰り返して、図7(b)に示すように、2段目の小径の円形ケーシング26の上面が主バンド10の少し上になるまで、接続した小径の円形ケーシング26を挿入する。
【0037】
(8)この作業を、小径の円形ケーシング24の先端が、大径のケーシング20の底部に着くまで繰り返す。図7(c)に示した例では、二段目の小径の円形ケーシング26の上部に、三段目の小径の円形ケーシング27が接続されている。この状態で、副バンド12を締め、主バンド10を開いて昇降シリンダ9を上昇させ、三段目の小径の円形ケーシング27の上部を主バンド10で締め付け、副バンド12を開き、油圧モータ13で小径の円形シリンダ27を揺動または旋回させながら、昇降シリンダ9で圧入することにより、一段目の小径の円形シリンダ24の先端の掘削刃25で地盤を掘削し、所定の深さまで円形立坑を掘削する。小径の円形ケーシング24,26,27内の土砂は、油圧バケット4により排出する。
【0038】
なお、小径の円形ケーシング24,26,27を引き抜き回収する場合には、昇降シリンダ9で1ストローク分、小径の円形ケーシング24,26,27を引き抜いた後、副バンド12で小径の円形ケーシング24,26,27を固定して、主バンド10のつかみ変えを行う。主バンド10で小径の円形ケーシング24,26,27を固定し、副バンド12を開き、昇降シリンダ9で小径の円形ケーシング24,26,27を引き抜き、この作業を繰り返して、小径の円形ケーシング24,26,27の回収を行う。
【0039】
地山の静摩擦が大きくなり、主バンド10により揺動・旋回ができない場合は、主バンド10と副バンド12で小径の円形ケーシング24,26,27を固定し、主バンド10は油圧モータ13で、副バンド12は副バンド揺動シリンダ15で同時に揺動させる。これにより、主バンド10の揺動・旋回トルクと副バンド12の揺動トルクにより、小径の円形ケーシング24,26,27を地山の静摩擦に対抗させて動かすことができる。一度小径の円形ケーシング24,26,27が動けば、副バンド12を開き、主バンド10のみで小径の円形ケーシング24,26,27の揺動・旋回ができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、円形ケーシングを吊るためのクレーンを大型化することなく、また、地山とケーシングの間の静摩擦に対抗してケーシングを動かす揺動シリンダ、または油圧モータのトルクをことさら大きくする必要のない円形立坑掘削装置として、円形立坑を掘削する土木建設工事等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係る円形立坑掘削装置を示す全体構成図である。
【図2】図1においてブームと油圧バケット部分を省略した平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る円形立坑掘削装置を示すものであり、(a)は下降時の断面図、(b)は上昇時の断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る円形立坑掘削装置のベースフレームの平面図である。
【図5】本実施の形態の円形立坑掘削装置による円形立坑掘削方法の説明図である。
【図6】本実施の形態の円形立坑掘削装置による円形立坑掘削方法の説明図である。
【図7】本実施の形態の円形立坑掘削装置による円形立坑掘削方法の説明図である。
【図8】従来の円形立坑の掘削方法による掘削手順を示す工程図である。
【符号の説明】
【0042】
1 立坑掘削機
2 ベースマシン
3 ブーム
4 油圧バケット
5 連結装置
6 円形立坑掘削装置
7 ベースフレーム
8 昇降フレーム
9 昇降シリンダ
10 主バンド
11 旋回ベアリング
12 副バンド
13 油圧モータ
14 副バンド締め付けシリンダ
15 副バンド揺動シリンダ
20 大径ケーシング
21 掘削刃
22 主バンドスペーサ
23 副バンドスペーサ
24,26,27 小径の円形ケーシング
25 掘削刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形ケーシングを揺動圧入または旋回圧入して立坑を掘削する円形立坑掘削装置において、
前記円形ケーシングの外周を保持する主バンドと、
前記主バンドと高さの異なる位置にあって、前記円形ケーシングの外周を保持する副バンドと、
前記主バンドを前記円形ケーシングの外周に締め付ける主バンド締め付け手段と、
前記主バンドを昇降させる昇降手段と、
前記主バンドを揺動または旋回させる主バンド駆動手段と、
前記副バンドを前記円形ケーシングの外周に締め付ける副バンド締め付け手段と
を設けたことを特徴とする円形立坑掘削装置。
【請求項2】
前記副バンドを揺動させる副バンド揺動手段を設けたことを特徴とする請求項1記載の円形立坑掘削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−113280(P2007−113280A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306218(P2005−306218)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000141956)株式会社コプロス (18)
【Fターム(参考)】