説明

円盤型分析チップおよびそれを用いた測定システム

【課題】回転による遠心力を変化させることにより多段階送液のプロファイルをより厳密に制御することのできる円盤型分析チップ、および、それを用いた簡便な測定システムを提供すること。
【解決手段】本発明は、円盤型分析チップを遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる円盤型分析チップであって、前記円盤型分析チップの表面に、サンプル槽、該サンプル槽に対して円盤型分析チップの外周部方向に設けられた反応槽、該反応槽に対して円盤型チップの外周部方向に設けられた測定槽、前記サンプル導入槽と前記反応槽とを接続する第1の流路、および、前記反応槽と前記測定槽とを接続する第2の流路を備え、前記第1の流路の断面積が前記第2の流路の断面積よりも大きいことを特徴とする、円盤型分析チップである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円盤型分析チップをターンテーブルなどの遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転による遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システム、および、それに用いられる円盤型分析チップに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々な分析チップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称して分析チップと称する。)が提案されている。分析チップは、実験室で行なっている一連の実験・分析操作を、数cm角で厚さ数mm〜1cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。このような分析チップは、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0003】
分析チップの一例としては、その内部に、流体に対して特定の処理を行なう部位(室)とこれら部位を適切に接続する微細な流路とから構成される流路網である「流体回路」を備えた分析チップが挙げられる。このような内部に流体回路を備える分析チップを用いて、検体の検査・分析(たとえば、検体が血液の場合にあっては、血液または血液中に含まれる特定成分の測定が挙げられる。)を行う場合、当該流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体やこれと混合される試薬の計量、検体と試薬との混合などの種々の流体処理が行なわれる。かかる種々の流体処理は、分析チップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことが可能である。
【0004】
ここで、検体または検体中の特定成分と混合あるいは反応させるための試薬があらかじめ流体回路内に内蔵、保持された、いわゆる試薬内蔵型分析チップが従来知られている。試薬内蔵型分析チップは、通常、その流体回路の一部として、試薬を保持するための1または複数の試薬保持槽を備えており、分析チップ製造時に試薬を当該試薬保持槽に充填、封止し、かかる状態で出荷されて使用に供される。
【0005】
近年、回転による遠心力を利用して流体回路に検体やビーズを流すための円盤型の分析チップの開発が進められており(特許文献1、2)、コンパクトディスク(CD)のような円盤状の板の上に多数のリザーバーとそれを接続する微細流路を作製し、これを回転させることにより生じる遠心力を利用して、リザーバー中の液体を微細流路に順次流す方法(多段階送液)も開発されている(非特許文献1)。このような方法を用いることにより、ポンプやバルブなどの周辺機器を使用せずに送液が行えるため、分析システム全体を小型化することができ、イムノアッセイ法に要求される試薬の添加や洗浄などの煩雑な操作を自動化できるというメリットがある。また、微小空間を反応の場としているため微量の検体でも測定することができ、分析時間も短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−185671号公報
【特許文献2】特開2005−241453号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中嶋秀、「コンパクトディスク型マイクロチップを用いる流れ分析法」、「ぶんせき」社団法人日本分析化学会、2009年7月、p.381−382
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された測定方法では、通常、ポイントセンサー部を流路にそった直線方向に移動させることにより、全体をスキャンする必要があり、そのようなスキャン装置が必要となる。また、上記非特許文献1に開示された円盤型分析チップでは、微細流路のジャンクション部分の毛管力と回転による遠心力とを調節することで、各リザーバーに溶液を流すため、各リザーバでの保持時間を厳密に制御するためには複雑な回路設計が必要となる。また、各リザーバでの保持時間(反応時間)の誤差が測定誤差に繋がる恐れもある。
【0009】
したがって、本発明は、回転による遠心力を変化させることにより多段階送液のプロファイルをより厳密に制御することのできる円盤型分析チップ、および、それを用いた簡便な測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、円盤型分析チップを遠心装置上に配置し、上記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる円盤型分析チップであって、
上記円盤型分析チップの表面に、サンプル槽、該サンプル槽に対して円盤型分析チップの外周部方向に設けられた反応槽、該反応槽に対して円盤型分析チップの外周部方向に設けられた測定槽、上記サンプル導入槽と上記反応槽とを接続する第1の流路、および、上記反応槽と上記測定槽とを接続する第2の流路を備え、
上記第1の流路の断面積が上記第2の流路の断面積よりも大きいことを特徴とする、円盤型分析チップである。
【0011】
上記第1の流路および上記第2の流路の内部表面に撥水コート層を有することが好ましい。
【0012】
上記測定が蛍光の検出量の測定であり、上記測定槽を構成する材料が蛍光を生じにくい材料であることが好ましい。
【0013】
上記蛍光を生じにくい材料は(メタ)アクリル系樹脂であることが好ましい。
上記反応槽および上記測定槽が排気口を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、遠心装置および該遠心装置上に設置される円盤型分析チップを含む測定システムであって、
上記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定が行われ、
上記円盤型分析チップの表面に、サンプル槽、該サンプル槽に対して円盤型分析チップの外周部方向に設けられた反応槽、該反応槽に対して円盤型分析チップの外周部方向に設けられた測定槽、上記サンプル導入槽と上記反応槽とを接続する第1の流路、および、上記反応槽と上記測定槽とを接続する第2の流路を備えられ、
上記第1の流路の断面積が上記第2の流路の断面積よりも大きいことを特徴とする、測定システムにも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の円盤型分析チップは、回転による遠心力を変化させることにより多段階送液のプロファイルをより厳密に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の測定システムの概要を示す模式図である。
【図2】(a)は、本発明の円盤型分析チップの一実施形態を示す図である。(b)は、(a)に示す円盤型分析チップの特徴的部分(流路部分)を示す斜視図である。
【図3】本発明の円盤型分析チップの特徴的部分(流路部分)の上面図である。
【図4】本発明の円盤型分析チップの特徴的部分(流路部分)の別の形態を示す上面図である。
【図5】実施例1におけるリザーバに送液された割合と回転数との関係を示すグラフである。
【図6】実施例2におけるリザーバに送液された割合と回転数との関係を示すグラフである。
【図7】実施例3におけるリザーバに送液された割合と回転数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、本発明の円盤型分析チップが適用される測定装置の概要を示す。円盤型検査チップ1はターンテーブル21上に設置されており、モータ22で回転させることができる。円盤型分析チップ1に設けられた流路内における種々の流体処理は、円盤型分析チップに対して中心から外周部方向への遠心力を順次変化させることにより行なうことができる。円盤型分析チップへの遠心力の印加は、モータ22およびターンテーブル21のように遠心力を印加することのできる装置(遠心装置)に、円盤型分析チップ1を載置して回転させることで行われる。ターンテーブル21の回転数を変化させることにより、円盤型分析チップに印加される遠心力を変化させることができる。
【0018】
回転による遠心力で外周部分の下記測定槽に導入された液体に、光源31から励起のための電磁波を照射し、液体中の蛍光物質によって励起される蛍光などを光検出器32で検出する。光源31としては、LED、LDなどを用いることができ、光検出器32としては、PD、APD、PMなどを用いることができる。
【0019】
図2(a)に、本発明の円盤型分析チップの一実施形態を示す。円盤型分析チップ1の表面には、中心から外周部分方向への流路部分が設けられている。図2(b)に各流路部分の詳細を示す。図2(b)に示すように円盤型分析チップの中心側からサンプル槽11、第1の流路101、反応槽12、第2の流路102、測定槽13が設けられている。反応槽12にはタンパクが結合されたビーズ4が充填されている。ここで、第1の流路101の断面積は第2の流路102よりも大きくなるように設計されている。
【0020】
図2(b)を用いて、本発明の円盤型分析チップを用いて検体中のIgA(抗原)などを測定する方法の一例を説明する。まず、サンプル槽11に検体(唾液、血液など)および試薬(蛍光色素で修飾された抗体など)を注入し、円盤型分析チップ1を適当な回転数まで上げることで、図の矢印方向に働く遠心力により検体を反応槽13に導入する。適当な回転数とは、検体が第1の流路101を流れて反応槽13に移動するが、第2の流路102に流れ込まないような速度である。この回転数を一定時間維持するか回転を停止することにより、反応槽12にあらかじめ充填された生体分子(上記抗体の抗原など)が修飾されたビーズと検体および試薬との反応時間を確保する。その後、さらに早い回転速度で円盤型分析チップ1を回転させることにより、未反応の試薬等を含む液が第2の流路102を流れて測定槽13に移動する。この測定槽13の液体について、上記の光源31および光検出器32によって測定を行うことにより、検体中の測定対象(抗体など)の定量を行うことができる。なお、上記モータ22としてステッピングモータを採用すれば、円盤型分析チップに配置された複数の各測定槽13を、順次、光検出器32の位置に移動させて蛍光を検出することができる。
【0021】
上記円盤型分析チップの材料は特に限定されないが、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ガラス、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)が挙げられる。工業的に生産するためには、PMMA、PET、COP、COCを用いることが好ましい。測定槽における測定が蛍光の検出量の測定である場合、少なくとも測定槽を構成する材料は蛍光を励起しにくい材料であることが好ましい。このような材料としてはPMMA、COP、COCが挙げられる。
【0022】
円盤型分析チップの厚さは特に限定されないが、0.1〜100mmであることが好ましく、より好ましくは2〜3mmである。円盤状の基板に流路部分を形成する方法は特に限定されないが、機械加工、サンドブラスト加工、射出成型などのいずれか、もしくは複数を組み合わせた加工方法を用いて、基板に1μm〜10mmの幅もしくは深さの流路を形成し、熱圧着、接着、嵌め込み等の方法で、複数(通常は2枚)の基板、フィルムなどを接合することにより形成する方法が挙げられる。形成された流路の断面積は、10μm2〜10mm2であることが好ましい(深さは、5μm〜5mmであることが好ましい)。
【0023】
円盤型分析チップに形成される各流路は各槽との接続以外に外部と連通していないことが好ましい。サンプルおよび試薬が外部に流出する恐れや、サンプルおよび試薬の劣化による測定誤差を生じる恐れがあるからである。
【0024】
円盤型分析チップに形成される各流路(上記第1の流路および第2の流路など)の内部表面は、接触角の大きい材料(撥水性の高い材料)から形成されることが好ましい。流路の内部表面の接触角が小さい(親水性が高い)と、毛細管現象により各槽間を液体が移動してしまうため、送液の制御が難しくなるためである。そのためには、各流路の内部表面には、撥水コート層を有することが好ましい。撥水コート層を有することにより、一定の回転数における僅かな変化で全ての液体が中心側の槽から外周部側の槽(例えば、サンプル槽から反応槽)へ全て送液され送液制御が容易になる傾向があるためである。また、流路への異物やタンパクの吸着を防ぐ効果も期待できる。なお、流路の全てに同様の撥水コートを施してもよく、部分毎に別の種類の撥水コートを施してもよい。ただし、サンプル槽の内部表面には撥水コート層を形成しないことが望ましい。検体をサンプル槽に注入する際等に不都合が生じる場合があるからである。
【0025】
撥水コート槽の材料は特に限定されないが、蛍光が励起されにくい材料が好ましく、円盤型分析チップの基板材料の表面を曇らせたり、溶かしたりしない材料が好ましい。具体的には、円盤型分析チップの基板材料としてアクリル樹脂を用いる場合、例えば、フロロテクノロジー社製のフロロサーフ(登録商標)、旭硝子社製のサイトップ(登録商標)、日華化学社製のアデッソ(登録商標)などが挙げられる。このうち、好ましくは、フロロテクノロジー社製のフロロサーフである。
【0026】
なお、円盤型分析チップは、必ずしも円盤状である必要はなく、バランスよく回転することの出来る形状であれば長方形等の他の形状を採用することもできる。また、円盤型分析チップは、複数の分割チップを設置することのできる円盤型のチップホルダーに、各分割チップを設置することで構成されるようなものであってもよい。
【0027】
上記サンプル槽が、検体を注入するための注入口を有している場合、検体注入前に異物の混入を防ぎ、また検体注入後に注入口を覆うシールを貼付してもよい。シールには、記号、数字、説明書きなどを記載し、検体を注入した注入口の番号と検出器からの出力結果が対応するようにしてもよい。
【0028】
上記反応槽における反応は、特に限定されないが、抗原−抗体反応、蛋白質とリガンドとの反応、ハイブリダイゼーション反応などが挙げられる。
【0029】
上記反応槽には、タンパク、DNA、生体分子等を固定するためのビーズが充填されていることが好ましい。ビーズは特に限定されないが、例えば、プラスチックビーズ、ガラスビーズ、金属(磁性を持つものなど)ビーズが挙げられる。ビーズの直径は、好ましくは1μm〜10mmであり、より好ましくは0.1〜1.0mmであり、第2の流路に流れ込まない程度の大きさとすることが好ましい。ビーズの形状は特に限定されないが、球体、立方体などが挙げられ、複数の形状のビーズを組み合わせて充填してもよい。また、多孔質材料からなるビーズを用いてもよい。
【0030】
上記ビーズは、通常、上記の各種反応に必要な生体分子等で修飾されている。例えば、反応が抗原抗体反応であり、検体中の抗体を測定する場合は、ビーズに同様の抗体、または抗原を修飾することが好ましい。この場合、サンプル槽に抗体を含む検体と抗原−標識複合体を含む試薬とを注入し、反応槽に送ることにより、抗原抗体反応が行われ、その後、未反応の抗原−標識複合体を含む液が測定槽に送られる。測定槽に貯留された液に蛍光を励起する電磁波を照射し励起された蛍光を測定することで、検体中の抗体を定量することができる。
【0031】
図3に示すように、上記反応槽12および測定槽13には排気口121,131が設けられることが好ましい。排気口がないと気圧により流路に液を流すことが難しくなるためである。このとき、排気口121,131が設けられる位置は、反応槽12、測定槽13よりも円盤型分析チップの中心側(上流側)であることが好ましい。反応槽12および測定槽13の液体が、図中の矢印の方向に働く遠心力によって、排気口121,131から外部に流出してしまわないようにするためである。特に測定槽13に空気が入ると測定値に影響するため液で満たされるようにするためでもある。同様の理由により、排気口121,131は排気管122,132により、それぞれ反応槽12、測定槽13の円盤型分析チップの中心側に接続されることが好ましい。
【0032】
以上の説明では2段階の送液機構を説明したが、本発明の円盤型分析チップは3段階以上の送液機構を有する構造としてもよい。3段階の送液機構を有する本発明の円盤型分析チップの一例の流路部分を図4に示す。図4に示される円盤型分析チップにおいては、反応槽12よりも円盤型分析チップの中心側(上流側)に、サンプル槽11とは別に、第3の流路103で接続された試薬槽14を備えられている。ここで、各流路の断面積(太さ)は、第1の流路101>第3の流路103>第2の流路102となるように設計されている。これのような円盤型分析チップの回転速度を段階的に早くすることにより、3段階の送液が可能となる。すなわち、まず回転速度を適度な速度まで上げることでサンプル槽11中の検体を反応槽12に導入し、次に回転速度をさらに上げることで試薬層14の試薬を反応槽12に導入し、さらに回転速度を上げることで検体と試薬の反応液を測定槽13に導入することができる。
【0033】
上記円盤型分析チップを用いた測定システムは、それ単体で測定結果を表示する機能を有することが好ましい。持ち運びが容易となり、自宅での測定等様々な場面での使用が可能となるためである。あるいは、コンピュータなどの外部の制御装置に接続し、制御装置上の表示機能により測定結果を表示し、ソフトウェアで制御を行ってもよい。例えば、ソフトウェアに基づいたコンピュータからの指示通りに検体、試薬を円盤型分析チップに注入したり、円盤型分析チップの回転速度を制御し、コンピュータの画面上に測定結果のグラフや測定値などを表示させることができる。この場合は、コンピュータ以外の測定システムの構成点数が少なくなり、小型化した安価なシステムを提供することができる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
<試験用円盤型分析チップの作製>
PMMAからなる2枚の円盤型板状体に、1つの槽、該槽よりも円盤型板状体の外周部側の槽、および、それらを接続する流路を形成するための凹部をNCフライス加工機により形成し、該2枚の円盤型板状体の凹部を有する面同士を熱圧着することによって、2つの槽とそれを接続する円盤型板状体の径方向に沿った流路(本発明の円盤型分析チップにおけるサンプル槽、反応槽および第1の流路、あるいは、反応槽、測定槽および第2の流路に相当する)のセットを24個有する試験用の円盤型分析チップを作製した。中心側の槽の大きさは直径3mm、深さ1mmであり、外周部側の槽の大きさは直径3mm、深さ1mmである。また流路の長さは25mmである。外周部側の槽には排気口をNCフライス加工機により形成した。
【0036】
なお、本実施例では流路の深さを変えた6種類のチップを作製した。各チップの流路の深さをレーザー共焦点顕微鏡(レーザーテック社製)を用いて測定した結果、39、50、84、90、117μmであった。
【0037】
<送液試験>
上記で作製した試験用円盤型分析チップの 中心側の槽に着色水を5μlの量で注入し、円盤型分析チップをターンテーブル上に設置し、まず100RPMで回転させた。その後、回転速度を100rpmずつ上げながら、各回転数で30秒間維持することを繰り返し最終的に3000rpmまで回転数を上げた。その間に外周部側の槽(リザーバ)に向かって進んだ液の位置を目視により逐次測定した。測定結果をまとめたグラフを図5に示す。
【0038】
図5に示す結果から、流路の深さが84〜117μmであるチップの場合は、ある一定の回転数を超えたときに全ての液がリザーバに送液されることが分かる。ただし、流路の深さが50μmである場合は段階的にリザーバへの送液が行われ、また、流路の深さが39μmの場合は回転数を3000rpmまで上げても全く送液が行われなかった。
【0039】
(実施例2)
<試験用円盤型分析チップの作製>
2枚の円盤型板状体に凹部を形成した後に、該凹部の表面に撥水コート層としてフロロサーフ(登録商標)FS−1060TH−0.5(フロロテクノロジー社製)を塗布してコーティングした以外は、実施例1と同様にして試験用の円盤型分析チップを作製した。なお、本実施例でも流路の深さを変えた6種類のチップを作製した。流路の深さを実施例1と同様に測定した結果、37、50、90、109、113、130μmであった。
【0040】
<送液試験>
上記で作製した試験用円盤型分析チップについて、実施例1と同様にして、外周部側の槽(リザーバ)に送液された液量を測定した。測定結果をまとめたグラフを図6に示す。
【0041】
図6に示す結果から、流路の深さが50〜130μmである全てのチップで、ある一定の回転数を超えたときに全ての液がリザーバに送液されることが分かる。なお、流路の深さが37μmである場合には、やや段階的に送液が行われるが、回転数の上げ幅を大きくすることで、本発明の測定システムに使用することは可能である。この結果から、表面に特定の撥水性のコーティングを施すことで、より細い流路に対しても3000rpm以下の通常の遠心装置で送液を制御できることが分かる。
【0042】
(実施例3)
<試験用円盤型分析チップの作製>
2枚の円盤型板状体に凹部を形成した後に、該凹部の表面に撥水コート層としてフロロサーフ(登録商標)FS−1060TH−0.5(フロロテクノロジー社製)を塗布し、エアブローにより排出乾燥させてコーティングした以外は、実施例1と同様にして試験用の円盤型分析チップを作製した。なお、本実施例でも流路の深さを変えた6種類のチップを作製した。流路の深さを実施例1と同様に測定した結果、40、65、79、110、120、159μmであった。
【0043】
<送液試験>
上記で作製した試験用円盤型分析チップについて、実施例1と同様にして、外周部側の槽(リザーバ)に送液された液量を測定した。測定結果をまとめたグラフを図7に示す。
【0044】
図7に示す結果から、流路の深さが40〜159μmである全てのチップで、ある一定の回転数を超えたときに全ての液がリザーバに送液されることが分かる。特に、流路の深さが40μmである細い流路の場合でも、段階的な送液の傾向はみられず、1段階の回転数の上昇により全ての液がリザーバに送液された。この結果から、表面に特定の撥水性のコーティングを施すことで、より細い流路に対しても3000rpm以下の通常の遠心装置で送液を制御できることが分かる。
【符号の説明】
【0045】
1 円盤型分析チップ、101 第1の流路、102 第2の流路、103 第3の流路、11 サンプル槽、12反応槽、121,131 排気口、122,132 排気管、13 測定槽、14試薬槽、21 ターンテーブル、22 モータ、31 光源、32 光検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤型分析チップを遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる円盤型分析チップであって、
前記円盤型分析チップの表面に、サンプル槽、該サンプル槽に対して円盤型分析チップの外周部方向に設けられた反応槽、該反応槽に対して円盤型チップの外周部方向に設けられた測定槽、前記サンプル導入槽と前記反応槽とを接続する第1の流路、および、前記反応槽と前記測定槽とを接続する第2の流路を備え、
前記第1の流路の断面積が前記第2の流路の断面積よりも大きいことを特徴とする、円盤型分析チップ。
【請求項2】
前記第1の流路および前記第2の流路の内部表面に撥水コート層を有する、請求項1に記載の円盤型分析チップ。
【請求項3】
前記測定が蛍光の検出量の測定であり、前記測定槽を構成する材料が蛍光を生じにくい材料である、請求項1または2に記載の円盤型分析チップ。
【請求項4】
前記蛍光を生じにくい材料は(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂である、請求項3に記載の円盤型分析チップ。
【請求項5】
前記反応槽および前記測定槽が排気口を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の円盤型分析チップ。
【請求項6】
遠心装置および該遠心装置上に設置される円盤型分析チップを含む測定システムであって、
前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定が行われ、
前記円盤型チップの表面に、サンプル槽、該サンプル槽に対して円盤型チップの外周部方向に設けられた反応槽、該反応槽に対して円盤型チップの外周部方向に設けられた測定槽、前記サンプル導入槽と前記反応槽とを接続する第1の流路、および、前記反応槽と前記測定槽とを接続する第2の流路を備えられ、
前記第1の流路の断面積が前記第2の流路の断面積よりも大きいことを特徴とする、測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−80769(P2011−80769A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230818(P2009−230818)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】