説明

円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】複数の円筒形ターゲット材からなる長尺の円筒形スパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜した場合においても、成膜工程の製造歩留まりの高い円筒形スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】円筒形基材と複数の円筒形ターゲット材とを接合材を用いて接合してなる多分割の円筒形スパッタリングターゲットにおいて、隣り合う円筒形ターゲット材が間隔を有して配置されている分割部を有し、かつ分割部において隣り合う円筒形ターゲット材の外周面の段差が0.5mm以下であることを特徴とする。このようなターゲットは、円筒形基材を基準として円筒形ターゲット材を配置する際に、円筒形ターゲット材の外周面を基準にして円筒形ターゲット材を固定して製造することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネトロン回転カソードスパッタリング装置に用いられる円筒形スパッタリングターゲット及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、フラットパネルディスプレイや太陽電池で使用されるガラス基板は大型化され、この大型化された基板上に薄膜を形成するために、長さ3mを超える円筒形ターゲットが必要となっている。このような長尺の円筒形スパッタリングターゲットは通常、長尺の円筒形基材上に円筒形ターゲット材が固定されてなるものであり、円筒形基材としては、一般に金属のシームレス管が使用される。長尺の円筒形基材の全面を研削加工することはコストがかかるため経済的ではなく、また加工精度にも問題がある。したがって、円筒形基材の両端の部分のみがスパッタ装置に装着するために研削加工され、円筒形ターゲット材が固定される部分はシームレス管の素管のままであるため、真円ではなく、うねりや反りなどが存在する。
【0003】
また、長尺の円筒形スパッタリングターゲットでは、小型の円筒形ターゲット材を10個以上積み重ねて構成することもあり、積み重ねによるズレが、円筒形ターゲット材の外周面に段差を発生させる原因となる。さらに、複数の円筒形ターゲット材からなる多分割の円筒形スパッタリングターゲットは、スパッタ中のプラズマにより円筒形ターゲット材が熱膨張し、ターゲット同士が衝突して割れるのを防ぐために、隣り合う円筒形ターゲット材が間隔を有して配置されている分割部が必要である。特に、このような分割部において、隣り合う円筒形ターゲット材の外周面で段差が発生し易い。
【0004】
複数枚のターゲット部材を単一のバッキングプレートに配した平板型のターゲットにおいて、段差を生じないようにする方法として、スパッタリング面の高さが高いターゲット部材の分割部側のスパッタリング面を、低い方のスパッタリング面に至る斜面とする方法(例えば特許文献1)が知られている。しかしながら、この方法はターゲット材に研削加工を施す必要があるため、ターゲット材のロスが大きいという問題があった。
【0005】
また、円筒形ターゲット材と円筒形基材の中心を合わせる方法として、円筒形基材と円筒形ターゲット材との間隔よりも若干肉薄のスペーサーを用いて、円筒形基材の外周面とターゲット材の内周面で中心を合わせる方法(例えば特許文献2,3参照)が知られている。しかしながら、この方法では、長尺の円筒形基材を用いた場合、円筒形ターゲット材が円筒形基材に挿入できなくなったり、円筒形基材の形状により円筒形ターゲット材の位置が制約され、隣り合う円筒形ターゲット材の外周面に段差が生じたりすることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−204468号公報
【特許文献2】特開平08−060351号公報
【特許文献3】特開2005−281862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、複数の円筒形ターゲット材からなる長尺の円筒形スパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜した場合においても、成膜工程の製造歩留まりの高い円筒形スパッタリングターゲットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、複数の円筒形ターゲット材からなる円筒形スパッタリングターゲットにおいて、隣り合う円筒形ターゲット材同士の外周面の段差を抑制することで、スパッタ成膜時の異常放電とパーティクルの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、円筒形基材と複数の円筒形ターゲット材とを接合材を用いて接合してなる多分割の円筒形スパッタリングターゲットにおいて、隣り合う円筒形ターゲット材が間隔を有して配置されている分割部を有し、かつ分割部において隣り合う円筒形ターゲット材の外周面の段差が0.5mm以下であることを特徴とする、円筒形スパッタリングターゲットである。
【0010】
また本発明は、円筒形基材と複数の円筒形ターゲット材とを接合材を用いて接合し、円筒形スパッタリングターゲットを製造する方法において、円筒形基材を基準として円筒形ターゲット材を配置する際に、円筒形ターゲット材の外周面を基準にして円筒形ターゲット材を固定することを特徴とする円筒形スパッタリングターゲットの製造方法である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットに用いられる円筒形ターゲット材としては、一般にスパッタリングで用いられる種々の材質が使用可能であり、例えば、In、Sn、Zn、Al、Nb、Ti等の金属、若しくはこれらの金属を含んでなる合金、又はこれらの金属等の一種以上の酸化物や窒化物等が挙げられる。酸化物では、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)、AZO(Aluminium Zinc Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、SnO、In、Al、TiO、ZnO等が挙げられ、これらのような脆いセラミックス材料では、特に本発明の効果が得られる。
【0012】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットに用いられる円筒形基材としては、種々の材質が使用可能であり、ターゲットを使用してスパッタリングする際に、円筒形基材と円筒形ターゲット材とを接合する接合材が劣化・溶融しないよう十分な冷却を行うことができるような熱伝導性を有し、スパッタリング時にターゲット材から放電可能となるような電気伝導性を有し、さらにターゲットを支える事が可能な強度等を備えているものであれば良い。このような材質としては、例えば、Cu、Ti、Al、Mo、それらの金属を含む合金、SUS等が挙げられる。
【0013】
又、円筒形基材の長さとしては特に制限はないが、本発明によれば1000mm以上の長さを有する円筒形基材を用いた円筒形スパッタリングターゲットであっても、歩留まりよく成膜を行うことができる。
【0014】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットに用いられる接合材としては、ターゲットを使用してスパッタリングする際に、接合材が劣化・溶融しないよう十分な冷却を行うことができるような熱伝導性を有し、スパッタリング時にターゲット材から放電可能となるような電気伝導性を有し、更にターゲットを支える事が可能な強度等を備えている材質であればよく、例えば、半田材や導電性樹脂が挙げられる。
【0015】
半田材としては、一般に半田材として使用されるものであれば使用可能である。好ましくは、低融点半田であり、例えば、In、In合金、Sn、Sn合金等が挙げられる。より好ましくはIn又はIn合金半田である。In又はIn合金半田は平板型のターゲットでの実績も豊富であり、また、展延性に富むため、スパッタ中に加熱されるターゲット材と冷却されている基材との熱膨張等の歪みを緩和する効果もある。
【0016】
導電性樹脂としては、例えば、エポキシ、アクリル、ポリエステル、ウレタン、フェノール等の熱硬化型樹脂に、フィラーとして、Ag、C、Cu等の導電性物質を混合したものが挙げられる。
【0017】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットは、円筒形基材に複数の円筒形ターゲット材を接合してなり、隣り合う円筒形ターゲット材が間隔を有して配置されている分割部を有し、その分割部において隣り合う円筒形ターゲット材の外周面の段差が0.5mm以下である。この段差は好ましくは0.3mm以下、さらに好ましくは0.2mm以下である。大きな段差が存在する円筒形スパッタリングターゲットを用いてスパッタを行った場合、突き出た側の円筒形ターゲット材のエッジに電界が集中するため、異常放電が発生しターゲット材のエッジが砕けパーティクルが生じやすくなる。特に、円筒形スパッタリングターゲットにおいて大きな段差が存在すると、円筒形という構造のため、段差の反対側にも凹凸が逆になった段差が存在することとなる。従って、そのようなターゲットを回転させると、1回転あたり2回の大きな段差が現れることとなる。円筒形ターゲットは回転しながらスパッタリングされるため、この大きな段差による電界の乱れがターゲット1回転あたり2回発生し、この電界の乱れが異常放電の原因になると考えられている。なお円筒形ターゲットは、スパッタリング時には3〜15秒程度で1回転するため、3〜15秒程度に2回もの電界の乱れが発生し、異常放電の原因になると考えられる。さらに、円筒形スパッタリングターゲットは、平板型スパッタリングターゲットに比べ大きなパワーを投入するため、分割部でのターゲット材の段差の影響が極めて大きい。
【0018】
尚、本発明において、分割部において隣り合う円筒形ターゲット材の外周面の段差とは、図3の矢印が示す「ずれ」の部分であり、その円筒形スパッタリングターゲットの中で最大の値をいう。即ち、本発明においては、全ての分割部において、そのずれが0.5mm以下であることを意味する。
【0019】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットは、隣り合う円筒形ターゲット材が間隔を有して配置されている分割部を有していることにより、スパッタリング中のプラズマによる円筒形ターゲット材の熱膨張により、ターゲット材同士が衝突して割れるのを防止することが可能となる。しかしながら、分割部の間隔に分布があると、円筒形ターゲット材の位置ズレを生じさせ、円筒形ターゲット材の外周面に段差を発生させる原因となる。したがって、分割部の間隔の分布は±0.1mm以下であることが好ましく、より好ましくは±0.05mm以下である。尚、本発明の分割部の間隔の分布とは、分割部において周方向に均等に8ヶ所以上の間隔を測定したときの平均値に対する最大値と最小値の差であり、複数の分割部が存在する場合はその中で最大の値をいう。
【0020】
この分割部の間隔は0ではなく、円筒形ターゲット材の長さと熱膨張率から適宜最適な値を設計できるが、間隔が狭い場合、スパッタリング中のプラズマによる円筒形ターゲット材の熱膨張によりターゲット材同士が衝突し割れる恐れがあるので、隣り合うターゲット材が最も近接している部分の間隔が0.1mm以上であることが好ましい。また、分割部の間隔が大きい場合は、接合材がスパッタされる恐れがあるため、分割部の間隔は使用するスパッタガスの平均自由行程とターゲットの使用効率を考慮して、分割部の接合材がスパッタされない値に決めることが好ましい。前述のように分割部の間隔の平均値を求めた場合、いずれの分割部においてもその平均値が0.5mm以下であることが実用上好ましく、0.4mm以下であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明に用いる円筒形ターゲット材は、隣り合う円筒形ターゲット材の外周面のエッジ部を面取りすることが好ましい。こうすることで、スパッタリングを行った場合、円筒形ターゲット材のエッジに電界が集中するのを防ぐことができ、異常放電の発生を抑制することが可能である。面取りの大きさとしては、膜厚分布への影響から2mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは1mm以下である。面取りの形状は、スパッタ成膜時の電界の集中を緩和できれば特に制限はなく、C面、R面あるいは階段状であっても良い。
【0022】
本発明の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法の一例としては、円筒形基材と複数の円筒形ターゲット材との間隙に接合材を充填し接合する方法を例示することができる。接合材を充填するためには、まず円筒形基材を基準として円筒形ターゲット材を配置する、例えば、予め円筒形基材の外側に複数の円筒形ターゲット材を積み重ねて配置する。その後、円筒形基材と円筒形ターゲット材との間隙の下部を封止し、接合材を充填するための空間を形成する。そして、円筒形ターゲット材の外周面を基準に円筒形基材との位置合わせを行う。このような円筒形スパッタリングターゲットの組立ては冶具を用いて行うことが望ましい。この際に用いる治具の材質は半田充填の際の加熱に耐えうる材質であれば特に制限はされない。例えばアルミニウム、ジェラルミン等の金属を挙げることができる。
【0023】
より具体的には、図1のように、円筒形基材1を基材押え6aに設けてある凹部にはめ込むことによって配置し、シリコンのOリングを介して封止治具4により固定した。円筒形基材の両端部は、スパッタ装置への装着のため、Oリングなどを用いた真空シール部となり、その外周面および/又は内周面は精度良く研削加工されているため、この部分を位置決めの基準面とすることが好ましい。また、封止治具4の下に任意の大きさのブロック8を置くことで、円筒形基材1の端面から任意の距離をおいて円筒形ターゲット材2を配置することができる。
【0024】
そして、円筒形基材1の外周面にある封止治具4の上に円筒形ターゲット材2を積み重ねて配置し、接合材を充填する空間3を形成する。このとき、円筒形ターゲット材2が円筒形基材1と同心円状となることが好ましい。接合材を充填する空間3の密閉性を保つため、複数の円筒形ターゲット材2の間や円筒形ターゲット材2と封止治具4の間、封止治具4と円筒形基材1の間、円筒形ターゲット材2と基材押え6bの間は、シール材5で封止する。接合材が低融点半田や導電性樹脂などの場合、加熱処理が行われるため、シール材5は耐熱性のパッキンやOリングを使用する必要があり、その場合テフロン(登録商標)やシリコンなどの材料が使用可能である。特に、複数の円筒形ターゲット材2の間にシール材5を挿入することで、分割部に所定の間隔を形成し、その分布を極めて小さくすることができる。このとき挿入するシール材5の厚みは、所望する間隔の設計値に見合った所定の厚みのものを使用する。
【0025】
その後、最上部のターゲット材2の上にシール材5を介して基材押え6bを載せて、上下の基材押え6a、6bを連結軸9により連結した。そして、円筒形ターゲット材2はその外周面を基準として、例えばその外周面を揃えて分割部でのずれを極力抑えるようにして、スプリング(図示せず)とネジ(図示せず)を有したターゲット押え7で固定し、ターゲット押え7は連結軸9に結合させて固定する。ターゲット押え7は、基材押え6a、6bに対して任意の位置に調整可能とし、図示しているように、接合すべきターゲット材の外周面を1本の棒状体で押さえる構造でも良く、又、ターゲット材の分割部を含むその周辺部分のみのターゲット材外周面を押さえる構造であっても良い。ターゲット押え7は、基材押え6a、6bに対して円筒形ターゲット材2の位置決めを行うため、最低でも2本が必要であり、好ましくは3本、より好ましくは、図2のように4本又はそれ以上の偶数本でお互いに向かい合う位置に均等に配置する。このようにすることで、円筒形ターゲット材の外周面の段差を確実に抑えることが可能となる。
【0026】
上記の手順で組立てが終了したら、ターゲット押え7がターゲット材同士を押さえていない箇所で、0.5mmを超える段差ができていないことを確認する。
【0027】
接合材として半田材を用いる場合、例えば、図1のように組立てた円筒形スパッタリングターゲット全体を半田の融点以上の温度に加熱し、溶融状態の半田を基材押え6bの上部から空間3に流し込み充填する。充填終了後、半田を冷却固化することで、円筒形基材1と円筒形ターゲット材2を接合する。このとき温度が高すぎると半田が酸化され接着強度が低下する恐れがあるため、加熱温度としては半田の融点〜半田の融点+100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは半田の融点+50℃の範囲内である。なお、In半田の融点は156℃である。また、接合材が導電性樹脂の場合、図1のように組立てた円筒形スパッタリングターゲットの空間3に導電性樹脂を充填し、樹脂の硬化条件に合わせて加熱などの硬化処理を行い、円筒形ターゲット材2と円筒形基材1を接合する。
【0028】
また、円筒形基材1および円筒形ターゲット材2の接合面には、接合材の濡れ性を向上させ、接合材が充填しやすくするために、予めそれらの接合面をぬらす処理を施すことが好ましい。この処理としては、接合材の濡れ性を改善させるものであれば良く、UV照射、Niのメッキ、若しくは蒸着、又は超音波半田鏝による下地処理などを挙げることが出来る。
【0029】
以上のように、円筒形基材1と円筒形ターゲット材2を接合後、治具や余分な接合材などを取り除くことにより所望の円筒形スパッタリングターゲットが得られる。このとき、接合材を付着させたくない部分や取り除く治具などに、予めマスキングを施すことで容易に取り除き作業を行うことが可能である。また、隣り合う円筒形ターゲット材2の間のシール材5は、円筒形基材1と円筒形ターゲット材2を接合後、加熱することにより、円筒形基材1と円筒形ターゲット材2の熱膨張差を利用して、容易に取り除くことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、複数の円筒形ターゲット材からなる長尺の円筒形スパッタリングターゲットを用いてスパッタ成膜した場合においても、異常放電とパーティクルの発生を抑制し、成膜工程の製造歩留まりを高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明における円筒形スパッタリングターゲットの組立て状態の一例を示す長さ方向の断面図である。
【図2】本発明における円筒形スパッタリングターゲットの組立て状態の一例を示す径方向の断面図である。
【図3】本発明における円筒形スパッタリングターゲットの外周面の段差を説明する概略図である。
【図4】比較例における円筒形スパッタリングターゲットの組立て状態の一例を示す径方向の断面図である。
【図5】比較例における円筒形スパッタリングターゲットの組立て状態の一例を示す長さ方向の断面図である。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を、実施例をもって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、分割部における間隔の分布および間隔の平均値は、前述のようにして8ヶ所の間隔を測定して求めたものである。
【0033】
(実施例1)
ITO円筒形ターゲット材(外径:150mmφ、内径:133mmφ、長さ:260mm)を12個用意し、円筒形ターゲット材の接合面以外を耐熱性テープでマスキングし、接合面に超音波半田鏝にてIn半田を下塗した。一方、SUS製円筒形基材(外径:130mmφ、内径:120mmφ、長さ3200mm)を1個用意し、接合面以外の面を接合材が付着するのを防止するために耐熱性テープでマスキングし、接合面に超音波半田鏝にてIn半田を下塗した。
【0034】
次に、前記処理を施した円筒形基材1と円筒形ターゲット材2、さらにジュラルミン製の封止治具4、基材押え6a、6b、ターゲット押え7、ブロック8を図1のように、但し円筒形ターゲット材を12個用いて組立てた。最初に、円筒形基材1を基材押え6aの上に配置し、シリコンのOリングを介して封止治具4により固定した。12個の円筒形ターゲット材2とシール材5を円筒形基材1に順次嵌め込み積み重ねた後、円筒形ターゲット材2の上にシール材5を介して基材押え6bを載せて、上下の基材押え6a、6bを連結軸9で連結して、円筒形ターゲット材2を固定した。次に、図2のように、4本のターゲット押え7を用いて、円筒形ターゲット材2の位置合わせと固定を行った。このときシール材5として、隣り合う円筒形ターゲット材2の間と円筒形ターゲット材2と封止治具4の間には環状のテフロン(登録商標)シートを用い、円筒形基材1と封止治具4の間はシリコンのOリングを用いた。
【0035】
次に、組立てた円筒形スパッタリングターゲットの全体を180℃まで加熱し、上側から溶融In半田(融点156℃)を空間3に流し込んだ。In半田の流し込み終了後120℃まで冷却し、In半田が完全に固化したことを確認後、再度130℃に加熱して隣り合う円筒形ターゲット材2の間のテフロン(登録商標)シートを切断して取り除き、間隔を有する分割部を形成させた。その後、室温まで冷却し、治具やマスキングを取り除いてITO円筒形スパッタリングターゲットを製造した。
【0036】
得られた円筒形スパッタリングターゲットの分割部における外周面の段差は0.2mmで、分割部の間隔の分布は±0.05mmであった。また各分割部における間隔の平均値は0.29〜0.36mmであった。
【0037】
(比較例1)
実施例1と同様に円筒形基材1と円筒形ターゲット材2を準備し、図4に示すように、円筒形基材1の外周面上に、スペーサー10として8本の銅ワイヤー(0.7mmφ)を等間隔に配置した。次に、図5の組立図になるように、但し円筒形ターゲット材2を12個用いて、円筒形ターゲット材2を円筒形基材1に嵌め込み挿入して行ったが、円筒形ターゲット材2が途中で動かなくなり、円筒形スパッタリングターゲットとして組立てられなかった。
【0038】
(比較例2)
比較例1のスペーサー10である銅ワイヤーの径を0.6mmφとした以外は比較例1と同様の方法で図5のように、但し円筒形ターゲット材を12個用いて、円筒形スパッタリングターゲットを組立てた。その後、実施例1と同様に、In半田で円筒形基材1と円筒形ターゲット材2を接合し、円筒形ターゲット材を製造した。得られた円筒形スパッタリングターゲットの分割部における外周面の段差は、0.8mmで、分割部の間隔の分布は±0.13mmであった。また各分割部における間隔の平均値は0.30〜0.39mmであった。
【0039】
(実施例2)
ITO円筒形ターゲット材(外径:93.0mmφ、内径:78.5mmφ、長さ:175mm)を2個用意し、円筒形ターゲット材の接合面以外を耐熱性テープでマスキングし、接合面に超音波半田鏝にてIn半田を下塗した。一方、SUS製円筒形基材(外径:75.5mmφ、内径:70mmφ、長さ490mm)を1個用意し、接合面以外の面を接合材が付着するのを防止するために耐熱性テープでマスキングし、接合面に超音波半田鏝にてIn半田を下塗した後、実施例1と同様の方法にて、但し円筒形ターゲット材を2個用いて、表1に示す分割部を有するターゲットIを製造した。又、実施例1と同様の方法にて、但し円筒形ターゲット材を2個用いて、表1に示す分割部を有するターゲットII〜IVを製造した。
【0040】
(比較例3)
銅ワイヤーを使用しなかった以外は比較例2と同様な方法で、但し、ITO円筒形ターゲット材(外径:93.0mmφ、内径:78.5mmφ、長さ:175mm)2個と、SUS製円筒形基材(外径:75.5mmφ、内径:70mmφ、長さ490mm)1個を用いて、表1に示す分割部を有するターゲットV〜VIIを製造した。
【0041】
(成膜評価)
こうして作製された円筒形スパッタリングターゲットを以下のスパッタリング条件で20kWhスパッタリングを行い、異常放電(アーク)の発生回数を測定した。アークの発生回数の測定は、マイクロアークモニター(ランドマークテクノロジ社製)を用いて、放電電圧の降下時間を基準に、小アーク(2μsec以上20μsec未満)と大アーク(20μsec以上)に分けて、以下の測定条件で行った。得られた放電結果を表1に示す。
【0042】
スパッタ条件
DC電力 :15W/cm(マグネット面積に対して)
ターゲット回転数 :6rpm
スパッタガス :Ar+O
ガス圧 :0.5Pa
アーク測定条件
検出電圧 :300V
小アーク :2μsec以上20μsec未満
大アーク :20μsec以上
【0043】
【表1】

ターゲットI〜IVとV〜VIIの比較から、分割部における外周面の段差を0.5mm以下とすることで大アークの発生を抑制することが可能であり、またターゲットIIIとIVの比較から、ターゲットの外周面のエッジの面取り加工をすることで小アークの発生を抑制することが可能であることが分かる。また、放電後の分割部をマイクロスコープで観察したところ、ターゲットV〜VIIは突き出た側の円筒形ターゲット材のエッジが砕けていた。
【0044】
なお、異常放電(アーク)が発生すると、成膜速度が低下し生産性が低下する。その中でも特に電圧降下時間の長い大アークは、放出されるエネルギーが大きいため、ターゲット材や薄膜にダメージを与える原因となり、パーティクルの発生や薄膜の膜質劣化の原因ともなり、結果として成膜工程の製造歩留まりを低下させることとなる。本発明によれば、このような大アークの発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 円筒形基材
2 円筒形ターゲット材
3 空間
4 封止治具
5 シール材
6a、6b 基材押え
7 ターゲット押え
8 ブロック
9 連結軸
10 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形基材と複数の円筒形ターゲット材とを接合材を用いて接合してなる多分割の円筒形スパッタリングターゲットにおいて、隣り合う円筒形ターゲット材が間隔を有して配置されている分割部を有し、かつ分割部において隣り合う円筒形ターゲット材の外周面の段差が0.5mm以下であることを特徴とする、円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項2】
分割部の間隔の分布が±0.1mm以下であることを特徴とする請求項1記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項3】
分割部において隣り合う円筒形ターゲット材の外周面のエッジ部を面取りすることを特徴とする請求項1又は2に記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項4】
円筒形基材の長さが1000mm以上であることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の円筒形スパッタリングターゲット。
【請求項5】
円筒形基材と複数の円筒形ターゲット材とを接合材を用いて接合し、円筒形スパッタリングターゲットを製造する方法において、円筒形基材を基準として円筒形ターゲット材を配置する際に、円筒形ターゲット材の外周面を基準にして円筒形ターゲット材を固定することを特徴とする円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項6】
円筒形基材の少なくとも一方の端部の外周面および/又は内周面を円筒形基材の基準面として用いることを特徴とする請求項5記載の円筒形スパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−100930(P2010−100930A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193973(P2009−193973)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】