説明

円筒構造物の溶接方法

【課題】残留応力の少ない円筒構造物の溶接方法を提供する。
【解決手段】円筒構造物を構成する円筒1a,1bに内圧を負荷して半径方向に押し広げる(1)内圧負荷工程と、内圧負荷状態において前記円筒の溶接を行う(2)溶接工程と、溶接終了後内圧を取り除く(3)内圧除去工程とを備えている構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧容器や配管等の円筒構造物の溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧容器や配管等の円筒構造物では疲労や応力腐食割れによるき裂の発生や進展を防止するため溶接残留応力の低減が望まれている(特許文献1,2参照)。特に沸騰水型原子炉における炉心シュラウドでは応力腐食割れが発生して構造健全性を脅かす問題となっている。
【0003】
炉心シュラウドは、大型構造物であるため、溶接により製作されている。周方向の溶接継手では、溶接により高い引張の残留応力を発生するため、材料の環境感受性と相俟って応力腐食割れが発生、進展した事例が数多くある。
【特許文献1】特開2001−91688号公報
【特許文献2】特開2004−130314号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来の円筒構造物においては、溶接により高い引張の残留応力を発生して応力腐食割れを引起す危険性が高い。
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、残留応力の少ない円筒構造物の溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、円筒構造物を構成する円筒に内圧を負荷して半径方向に押し広げる内圧負荷工程と、内圧負荷状態において前記円筒の溶接を行う溶接工程と、溶接終了後内圧を取り除く内圧除去工程とを備えている構成とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、残留応力の少ない円筒構造物の溶接方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る円筒構造物の溶接方法の第1および第2の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施の形態)
まず、図1ないし図4を用いて第1の実施の形態を説明する。本実施の形態は、図1に示すように、配管や炉心シュラウド等の円筒構造物を構成する円筒1a,1b同士を突合せて周方向に溶接する際に、まず、図1(a),(b)に示すように円筒1a,1bの内面から圧力を加えて円筒1a,1bを半径方向に押し広げる。この状態で図1(c),(d)に示すように円筒1a,1b同士を溶接し、その後、図1(e),(f)に示すように溶接が終了した後に圧力を除去する溶接方法である。すなわち、(1)内圧を加えて半径方向に拡張する、(2)溶接する、(3)内圧を除去する、という3つの工程により周方向の溶接を行う。このとき、内圧による半径方向への拡張量は弾性変形の範囲内とする。溶接工程においては溶融池の直後を水冷により急冷しながら溶接を行う。
【0009】
本実施の形態の円筒構造物の溶接方法を実際に適用する際の内圧負荷装置の第1の実施例について図2を用いて説明する。この装置は円筒1の内面に圧力を加え、円筒1を半径方向に押し広げるための装置である。すなわち、支持筒4の周上に取付けられたパッド5を油圧シリンダ6により円筒1の内面に押し付けることにより円筒1を半径方向に押し広げる。図2では代表として1個のパッド5についてのみ油圧シリンダ6を示してあるが、実際には総てのパッド5が油圧シリンダ6により円筒1の内面に押し付けられる。なお、油圧シリンダ6の代わりにモータとボールねじを用いた電動ジャッキを用いてもよい。
【0010】
内圧負荷装置の第2の実施例について図3を用いて説明する。すなわち、円筒1の内面に円周状に配置されたパッド5に支持棒7が押し当てられている。ヒーター8により金属棒7を加熱することにより支持棒7が熱膨張してパッド5を円筒1の内面に押し付けることにより円筒1を半径方向に押し広げる。内圧負荷の手段としてはこれらのほかに窒素等の気体を内部に充填して加圧してもよい。また、図3において円筒1内にさらに円筒を挿入し、挿入された円筒に支持棒7を設けてこの支持棒7を熱膨張させても同様の効果を得ることができる。この場合は、円筒1が巨大構造物であっても支持棒7の長さを短く抑制することができる。
【0011】
次に、本実施の形態の円筒構造物溶接方法における残留応力の検証方法を説明する。すなわち図1に示すように、円筒1a,1bを溶接する前に円筒1a,1bの表面にひずみゲージ9を貼付し、内圧の負荷、除荷を含む溶接過程におけるひずみの変化を記録する。溶接部2から離れた位置でのひずみは溶接後にゼロに戻るが、図4に示すように溶接部2近傍ではゼロに戻らない場合もある。この残留ひずみの符号を反転した値に円筒1a,1bの材料のヤング率をかけて求めた応力が溶接部2に作用していることになるので、この応力をハンドブック等に記載されている円筒の周方向溶接による残留応力値に加えることで溶接部2の残留応力を推定できる。
【0012】
なお、測定対象がひずみでなく、変形量であっても同様であり、接触あるいは非接触式変位計により溶接前後の変形量を測定し、その結果に基づいて残留応力を推定することができる。また、円筒に負荷する内圧を数値シミュレーションを援用して決定し、溶接後の残留応力を予測するようにしてもよい。
【0013】
本実施の形態によれば、内圧を除去する際の円筒構造物全体の収縮により溶接部2には周方向に圧縮応力が作用し、軸方向にも周方向応力ほどではないがポアソン比効果により変形が圧縮側に作用して、引張残留応力の少ない円筒構造物を提供することができる。
【0014】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態を図5を用いて説明する。本実施の形態は、配管や炉心シュラウド等の円筒構造物を構成する円筒1の外面に欠陥部3が存在し、これを溶接により補修する際に、図5(a),(b)に示すように円筒1の内面から圧力を加えて円筒1を半径方向に押し広げ、図5(c),(d)に示すようにこの状態で補修溶接を施し、図5(e),(f)に示すように溶接が終了した後に圧力を除去する溶接方法である。すなわち、(1)内圧を加えて半径方向に拡張する、(2)溶接する、(3)内圧を除去する、という3つの工程により補修溶接を行う。このとき、内圧による半径方向への拡張量は弾性変形の範囲内とする。また、拡張方法は第1の実施の形態と同様の装置、方法で行われる。併せて、欠陥部3の量によって、第1の実施の形態と第2の実施の形態の双方を使用することも可能である。
【0015】
本実施の形態によれば、内圧を除去する際の円筒構造物全体の収縮により欠陥部3には周方向に圧縮応力が作用し、軸方向にも周方向応力ほどではないがポアソン比効果により変形が圧縮側に作用して、引張残留応力の少ない円筒構造物を提供することができる。なお欠陥部3が円筒1の内面にあるときも同様である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態の円筒構造物の溶接方法を示し、(a)および(b),(c)および(d),(e)および(f)はそれぞれ内圧負荷工程、溶接工程および内圧除去工程を示す平断面図および縦断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態の円筒構造物の溶接方法において用いられる内圧負荷装置の第1の実施例を示す平断面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態の円筒構造物の溶接方法において用いられる内圧負荷装置の第2の実施例を示す平断面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態の円筒構造物の溶接方法の検証方法を説明する曲線図。
【図5】本発明の第2の実施の形態の円筒構造物の溶接方法を示し、(a)および(b),(c)および(d),(e)および(f)はそれぞれ内圧負荷工程、溶接工程および内圧除去工程を示す平断面図および縦断面図。
【符号の説明】
【0017】
1,1a,1b…円筒、2…溶接部、3…欠陥部、4…支持筒、5…パッド、6…油圧シリンダ、7…支持棒、8…ヒーター、9…ひずみゲージ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒構造物を構成する円筒に内圧を負荷して半径方向に押し広げる内圧負荷工程と、内圧負荷状態において前記円筒の溶接を行う溶接工程と、溶接終了後内圧を取り除く内圧除去工程とを備えていることを特徴とする円筒構造物の溶接方法。
【請求項2】
前記溶接は、前記円筒の周方向溶接または表面の補修溶接を含む部分溶接であることを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。
【請求項3】
前記内圧負荷工程において油圧ジャッキまたは電動ジャッキを用いることを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。
【請求項4】
前記内圧負荷工程において前記円筒内部に挿入した部材の熱膨張を利用することを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。
【請求項5】
前記内圧負荷工程において気体による加圧を行うことを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。
【請求項6】
前記溶接工程において溶融池の直後を水冷により急冷しながら溶接を行うことを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。
【請求項7】
前記円筒に負荷する内圧を数値シミュレーションを援用して決定し、溶接後の残留応力を予測することを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。
【請求項8】
前記円筒の表面にひずみゲージを貼付して前記内圧負荷工程、前記溶接工程および前記内圧除去工程におけるひずみの変化を測定し、その測定値を基に残留応力を推定することを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。
【請求項9】
変位計を用いて前記内圧負荷工程、前記溶接工程および前記内圧除去工程における前記円筒の変形量を測定し、その測定値を基に残留応力を推定することを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。
【請求項10】
前記円筒は沸騰水型原子炉の炉心シュラウドを構成することを特徴とする請求項1記載の円筒構造物の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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