説明

円筒状部品の製造方法及び円筒状部品製造用金型

【課題】ウエルドラインが発生しておらず内周面にゲートカット跡のない円筒状部品を安価に製造できる円筒状部品の製造方法を提供すること。
【解決手段】ランナ11からゲート22を介して部品成形部31に溶湯を供給する溶湯流路10を備える金型1を用いて、円筒状部品50を製造する円筒状部品の製造方法において、部品成形部31の外側に沿って環状に設けられた湯廻り部17に溶湯を供給して充填し、湯廻り部17に充填された溶湯を部品成形部31の外周側から流して充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を用いて円筒状部品を製造する円筒状部品の製造方法及び円筒状部品製造用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
部品の製造コストは、その部品を用いた製品のコストに反映されるため、製造コストを抑える各種研究が行われている。例えば、金型を用いて部品を製造する場合、閉じた金型のスプルーからランナを介して部品成形部に溶湯を充填した後、金型を冷却し、その後金型を開いて成形品を取り出せば、部品をワンショットで安価に大量生産できる。
【0003】
例えば図20に示す円筒状部品の製造方法では、ゲート101から部品成形部102に供給された溶湯が、二手に分かれて円筒状の部品成形部102を流れ、ゲート101と約180度反対側で合流した後、更に、部品成形部102から連通部103を介して湯溜まり104へ流れるようにしている。これにより、溶湯が合流して接触する部分では、圧力が不均衡になって接触面積が広くなるので、円筒状部品は溶湯合流部分の強度が強くなる(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また例えば図21に示す円筒状部品の製造方法では、溶湯がスプール111から薄い円板状のランナ112に供給され、ゲート113から部品成形部114の内側に均等に供給されるため、部品成形部114で成形された部品にウエルドラインが発生しない。金型から取り出された成形品は、ゲート部分で切断され、円筒状部品が分離される(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−301742号公報
【特許文献2】特開2000−263600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、図20に示す円筒状部品の製造方法は、部品成形部102を二手に分かれて流れた溶湯の合流部分にウエルドラインが発生する。例えば、円筒状部品が環状シール部材であって、シール面にウエルドラインが発生すると、浸透性の高い流体がウエルドラインを通って外部に漏れる虞がある。このような不具合を解消するためには、ウエルドラインを切削加工により除去することが考えられるが、加工工数が増えて、コストアップに繋がる問題がある。
【0007】
一方、図21に示す円筒状部品の製造方法は、円筒状部品の内周面にゲートカット跡が発生する。例えば、円筒状部品が、部品接続部に装着されたときに内周面が流路を構成する環状シール部材である場合、内周面にゲートカット跡があると、流路を流れる流体に乱流や滞留を発生させる問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ウエルドラインが発生しておらず内周面にゲートカット跡のない円筒状部品を安価に製造できる円筒状部品の製造方法及び円筒状部品製造用金型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る円筒状部品の製造方法及び円筒状部品製造用金型は、次のような構成を有している。
(1)ランナからゲートを介して部品成形部に溶湯を供給する溶湯流路を備える金型を用いて、円筒状部品を製造する円筒状部品の製造方法において、前記部品成形部の外側に沿って環状に設けられた湯廻り部に前記溶湯を供給して充填し、前記湯廻り部に充填された溶湯を前記部品成形部の外周側から流して充填する。
【0010】
(2)(1)に記載の発明において、前記ランナの入力ランナ部に供給されてから溶湯を分流させて、前記湯廻り部の外周に周方向に等間隔に供給し、さらに、湯廻り部から部品成形部へ溶湯を周方向に均等に供給する。
【0011】
(3)(1)又は(2)に記載の発明において、前記湯廻り部の内側と前記部品成形部の外側との間に連通部を環状に設け、前記湯廻り部から前記連通部に流れる前記溶湯の流量を絞って、前記連通部から前記部品成形部の外側から前記溶湯を供給する。
【0012】
(4)(1)又は(2)に記載の発明において、前記湯廻り部の内側と前記部品成形部の外側との間に連通流路を放射線状に設けて前記湯廻り部を前記部品成形部に周方向に等間隔に接続し、前記湯廻り部から前記連通部に流れる前記溶湯の流量を絞って、前記連通部から前記部品成形部の外側から前記溶湯を供給する。
【0013】
(5)(1)乃至(4)の何れか1つに記載の発明において、前記金型から取り出して成形品を前記ゲートと前記部品成形部との間の位置で切断することにより、前記円筒状部品を前記成形品から分離させる。
【0014】
(6)(1)乃至(5)の何れか1つに記載の発明において、前記円筒状部品が、第1部品と第2部品の流路開口部外側に設けられたシール溝に装着されて前記第1部品と前記第2部品の接続部をシールする環状シール部材である。
【0015】
(7)(1)乃至(6)の何れか1つに記載の発明において、前記溶湯が、フッ素樹脂を溶融させたものである。
【0016】
(8)円筒形状をなす円筒状部品の製造に用いられ、前記円筒状部品に対応する部品成形部と、前記部品成形部へ溶湯を流すランナと、前記ランナから前記部品成形部へ前記溶湯を供給するゲートと、を有する円筒状部品製造用金型において、前記ランナは、前記部品成形部の外側に前記部品成形部と同心円状に設けられた環状の湯廻り部と、前記湯廻り部の内側と前記部品成形部の外側とを連通させる連通部と、前記湯廻り部に前記溶湯を充填するランナ部と、を有する。
【0017】
(9)(8)に記載の発明において、前記ランナ部は、前記溶湯を入力する1個の入力ランナ部が分岐して、前記湯廻り部に対して周方向に等間隔に接続したものである。
【0018】
(10)(9)に記載の発明において、前記入力ランナ部が分岐して前記湯廻り部に接続する接続部の数が、偶数である。
【0019】
(11)(8)乃至(10)の何れか1つに記載の発明において、前記連通部は、前記湯廻り部に開口する外側開口幅が前記湯廻り部の流路幅より小さく、且つ、前記部品成形部に開口する内側開口幅が前記部品成形部の外周の流路幅より小さい。
【0020】
(12)(11)に記載の発明において、前記連通部は、前記湯廻り流路部と前記部品成形部との間に環状又は放射線状に設けられている。
【0021】
(13)(8)乃至(12)の何れか1つに記載の発明において、前記円筒状部品が、第1部品と第2部品の流路開口部外側に設けられたシール溝に装着されて前記第1部品と前記第2部品の接続部をシールする環状シール部材である。
【0022】
(14)(8)乃至(13)の何れか1つに記載の発明において、前記溶湯が、フッ素樹脂を溶融させたものである。
【発明の効果】
【0023】
上記円筒状部品の製造方法及び円筒状部品製造用金型では、部品成形部の外側に沿って環状に設けられた湯廻り部に溶湯を供給して充填し、溶湯を湯廻り部から部品成形部の外側に均等に流して充填するので、溶湯が部品成形部の外側から内側へ向かって円を窄めるように流れる。そのため、部品成形部では、二方向に分かれて流れた溶湯の先端部が合流する箇所がなく、部品成形部で成形される円筒状部品にウエルドラインが発生しない。また、部品成形部の外側にゲートを設けて溶湯を供給するので、ゲートカット跡が円筒状部品の内周面に残らない。更に、部品成形部の外側から溶湯を均等に供給する金型の流路構造により、ウエルドラインやゲートカット跡の発生を防止するので、ウエルドラインやゲートカット跡を除去するための切削加工などを行う必要がなく、円筒状部品を安価に製造できる。
【0024】
そして、金型から取り出された成形品をゲートと部品成形部との間の位置で切断することにより、成形品から円筒状部品を分離させるので、円筒状部品の外周面にはゲートカット跡が残っており、上記製造方法及び金型を用いて製造されたものであるか否かを簡単に判別できる。
【0025】
このように製造される円筒状部品が環状シール部材である場合には、シール面にウエルドラインが発生しないので、浸透性の高い流体を使用する場合でもウエルドラインを通って流体が外部に漏れることがない。また、上記のように製造される環状シール部材は、流路面を形成する内周面にゲートカット跡による凹凸がないので、流体が環状シール部材の内周面に沿って流れる場合に、内周面のゲートカット跡により乱流や滞留が発生することがなく、流体の置換性や清浄性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係る金型の概略構成図である。
【図2】環状シール部材の外観斜視図である。
【図3】環状シール部材を用いてシールする接続部シール構造の一例を示す図である。
【図4】溶湯流路の概念図である。
【図5】図4のAA断面図である。
【図6】図4のBB断面図である。
【図7】図4のCC断面図である。
【図8】溶融樹脂の流れを説明するための図であって、第1ランナ部から第2ランナ部を介して第3ランナ部へ溶融樹脂が流れる様子を示す。
【図9】溶融樹脂の流れを説明するための図であって、第3ランナ部から湯廻り部へ溶融樹脂が流れる様子を示す。
【図10】溶融樹脂の流れを説明するための図であって、湯廻り部から連通部へ溶融樹脂が流れる様子を示す。
【図11】溶融樹脂の流れを説明するための図であって、連通部から部品成形部へ溶融樹脂が流れる様子を示す。
【図12】溶融樹脂の流れを説明するための図であって、部品成形部の本体成形部へ溶融樹脂が流れる様子を示す。
【図13】溶融樹脂の流れを説明するための図であって、部品成形部への溶融樹脂の充填が完了した様子を示す。
【図14】本発明の第2実施形態に係る金型に設けられた溶湯流路の概念図である。
【図15】図14のDD断面図である。
【図16】図14のEE断面図である。
【図17】図14のFF断面図である。
【図18】溶融樹脂の流れを説明するための図であって、湯廻り部から連通部へ溶融樹脂が流れる様子を示す。
【図19】溶融樹脂の流れを説明するための図であって、連通部から部品成形部へ溶融樹脂が流れる様子を示す。
【図20】樹脂部品製造方法の第1従来例を示す図である。
【図21】樹脂部品製造方法の第2従来例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る円筒状部品の製造方法及び円筒状部品製造用金型の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
(第1実施形態)
<金型の概略構成>
図1は、金型1の概略構成図である。
図1に示す金型1は、図2に示す樹脂製環状シール部材(円筒状部品の一例)50の製造に用いられる。金型1は、コア5をキャビティ4に接触させるように可動型3を固定型2側へ移動させて閉じると、コア5とキャビティ4の接触面に形成された溝により後述する溶湯流路10(図4〜図7参照)が形成される。金型1は、固定型2のスプルー6に図示しない射出成形機が接続され、溶融樹脂がスプルー6から後述する溶湯流路10(図4〜図7参照)に供給される。金型1は、図示しないヒータを用いて温度調整され、射出成形中の溶融樹脂の固化を防ぎ、溶融樹脂が溶湯流路10に完全に充填されるまで溶融樹脂の流動性を確保する。成形完了後は、ヒータを止めることによって冷却し、完全に固化させる。可動型3を固定型2から離すように移動させて金型1を開いた後、金型1に内蔵される図示しないエジェクタピンで成形品7を可動型3から押し出して取り出す。尚、成形品7は、環状シール部材50が中央に成形されているので、環状シール部材50の外周に設けたゲート部分を打ち抜き等で切断することにより、環状シール部材50を分離する。
【0029】
<環状シール部材及びそれを用いたシール構造>
図2は、環状シール部材50の外観斜視図である。図3は、環状シール部材50を用いてシールするシール構造の一例を示す図である。
図2に示す環状シール部材50は、例えば図3に示すように、第1部品61の第1接続部62と第2部品71の第2接続部72との接続部分に装着され、シールを行う。環状シール部材50は、円筒状の本体部51が、第1接続部62の端面に形成された第1環状シール溝63と第2接続部72の端面に形成された第2環状シール溝73に装着される。本体部51の一端面には、第1環状シール溝63と同心円状に設けられた第1環状突起64に嵌合する環状溝54が形成され、本体部51の他端面には、第2環状シール溝73と同心円状に設けられた第2環状突起74に嵌合する環状溝55が形成されている。環状シール部材50は、環状溝54,55の内側面と外側面に圧入代56,57がそれぞれ設けられ、第1及び第2環状突起64,74を圧入して締まり嵌めを行い、第1及び第2接続部62,72を径方向にシールする。
【0030】
本体部51は、外周面中央部から張出部52が外径方向へ張り出すように突き出し、張出部52の外縁部に複数の把持部53が設けられている。張出部52は、第1及び第2接続部62,72の接続の邪魔にならないように、円板形の薄い膜状に設けられている。把持部53は、内周面が本体部51の外周面に対して平行になるように設けられ、環状シール部材50を第1及び第2環状シール溝63,73に装着する際に第1及び第2環状突起64,74に対して環状溝54,55を位置決めする。環状シール部材50は、第1及び第2接続部62,72の接続作業時に、把持部53の一端に設けた引掛部58を第1又は第2接続部62,72の端面外周に設けられた係止凸部65,75に引っ掛けられ、脱落を防止される。
【0031】
<溶湯流路の構成>
図4は、溶湯流路10の概念図である。図5は、図4のAA断面図である。図6は、図4のBB断面図である。図7は、図4のCC断面図である。
溶湯流路10は、環状シール部材50に対応して設けられた部品成形部31と同心円状にランナ11とゲート22とが設けられ、スプルー6(図1参照)からランナ11へ供給された溶融樹脂をゲート22から部品成形部31の外側へ均一に供給し、部品成形部31の外側から内側へ向かって溶融樹脂を流して部品成形部31に充填するように構成されている。
【0032】
図4〜図7に示すように、部品成形部31は、環状シール部材50の本体部51を成形するための本体成形部32と、環状シール部材50の張出部52を成形するための張出成形部33と、環状シール部材50の把持部53を成形するための把持成形部34とが設けられている。把持成形部34は、張出成形部33の外側に円周方向に等間隔に設けられている。図4及び図7に示すように、湯廻り流路部35は、円周上に等間隔に設けられた把持成形部34同士をつなぐように設けられ、張出成形部33と連通している。図7に示すように、湯廻り流路部35は、環状シール部材50の径方向幅寸法が把持成形部34と同一にされ、環状シール部材50の軸線方向幅寸法がゲート22及び張出成形部33の開口部36より大きくされており、ゲート22から部品成形部31へ流れた溶融樹脂が張出成形部33へ流れる前に把持成形部34と湯廻り流路部35に回り込んで充填されるようにしている。
【0033】
図4に示すように、ランナ11は、部品成形部31と同心円状に連通部18と湯廻り部17が環状に設けられ、スプルー6(図1参照)から入力ランナ部12へ供給された溶融樹脂を第1ランナ部13を介して第1接続ランナ部14a,14bに分流させ、さらに、第2ランナ部15a,15bを介して第2接続ランナ部16a,16b,16c,16dに分岐させてから湯廻り部17に供給するようにしている。
【0034】
ドーナツ状の湯廻り部17と連通部18から部品成形部31の中心に向かって溶融樹脂を均等に流すためには、湯廻り部17に充填された溶融樹脂の圧力を周方向に均一にした後、湯廻り部17から連通部18を介して部品成形部31へ溶融樹脂を供給する必要がある。
そのため、第2接続ランナ部16a〜16dは、湯廻り部17の外側に周方向に等間隔に配置されて、湯廻り部17に接続されている。第2接続ランナ部16a〜16dは、部品成形部31のうち湯廻り流路部35より容積の大きい把持成形部34に対応する位置に設けられ、湯廻り流路部35より把持成形部34に溶融樹脂を充填しやすくして溶融樹脂の充填量が周方向にばらつきにくくしている。
【0035】
また、入力ランナ部12に供給された溶融樹脂を均等に分流させて部品成形部31の外側から入力させるために、ランナ11は、湯廻り部17の外側に接続する第2接続ランナ部16a〜16dの数を偶数にしている。すなわち、ランナ11は、部品成形部31を挟んで対称位置に溶融樹脂を均等に流すために、入力ランナ部12から第1ランナ部13を介して分岐する第1接続ランナ部14a,14bを部品成形部31を挟んで対称位置に設けている。そして更に、湯廻り部17に溶融樹脂を周方向に均等に供給するために、第1接続ランナ部14aを挟んで第2接続ランナ部16a,16bを対称位置に配置するように第2ランナ部15aを設けると共に、第1接続ランナ部14bを挟んで第2接続ランナ部16c,16dを対称位置に配置するように第2ランナ部15bを設けている。
【0036】
更に、図5〜図7に示すように、入力ランナ部12と第1ランナ部13と第1接続ランナ部14a,14bと第2ランナ部15a,15bと第2接続ランナ部16a〜16dと湯廻り部17の流路断面を同一円形状とし、溶融樹脂が入力ランナ部12から湯廻り部17へ圧力損失(抵抗)なく流れるようにしている。図7に示すように、連通部18は、湯廻り部17に開口する開口部が湯廻り部17の流路径より小さくされ、溶融樹脂が湯廻り部17に充填される前に連通部18へ流れ込みにくくしている。
【0037】
このようなランナ11は、湯廻り部17に充填した溶融樹脂を部品成形部31の中心へ向かって均等に流すために、連通部18が湯廻り部17に開口する開口幅を湯廻り部17の流路径より小さくし、湯廻り部17から部品成形部31へ向かって流れる溶融樹脂の流量を絞るようにしている。また、連通部18は、ゲート22の開口幅が部品成形部31の外周部(把持成形部34及び湯廻り流路部35)の流路幅より小さく、張出成形部33の開口部36の開口幅は、部品成形部31の外周部の流路幅より小さいため、溶融樹脂が張出成形部33へ流れる前に把持成形部34と湯廻り流路部35に周方向に均一に充填されるようにしている。
【0038】
ここで、連通部18は、外側から内側へ向かって、絞り流路部19と湯廻り流路部20と絞り流路部21が連続して同心円状に設けられている。湯廻り流路部20は、絞り流路部19,21より流路幅が大きく、絞り流路部19を流れた溶融樹脂を湯廻り流路部20に一旦貯めてから、絞り流路部21を介して部品成形部31へ流すようにしている。これにより、連通部18は、外側から内側へ向かって流れる溶融樹脂を円を窄めるように流し、部品成形部31の外側全周に溶融樹脂を均一に入力させることを可能にしている。
【0039】
<円筒状部品の製造方法>
次に、環状シール部材50の射出成形方法について説明する。図8乃至図13は、溶融樹脂の流れを説明するための図である。図中ドット部分は溶融樹脂が流れた領域を示す。
図1に示す金型1を閉じ、フッ素樹脂を溶融させた溶融樹脂を図示しない射出装置からスプルー6に圧力をかけて供給して入力ランナ部12に入力させる。溶融樹脂は、図8に示すように、入力ランナ部12から同じ距離だけ離れた第1接続ランナ部14a,14bに均等に分かれて流れ、第2ランナ部15a,15bへ流れる。そして、溶融樹脂は、第2ランナ部15aから同じ距離だけ離れた第2接続ランナ部16a,16bに均等に流れ、湯廻り部17に90度の位相差を持って流れ込む。また、溶融樹脂は、第2ランナ部15bから同じ距離だけ離れた第2接続ランナ部16c,16dに均等に流れ、湯廻り部17に90度の位相差を持って流れ込む。連通部18の開口幅が湯廻り部17の流路径より小さく、しかも、溶融樹脂の粘性が高いため、図9に示すように、第2接続ランナ部16a〜16dの各々から湯廻り部17へ供給された溶融樹脂は、連通部18へ流れ込まずに湯廻り部17に沿って二方向へ均等に分かれて流れる。そして、溶融樹脂は、各先端部分が合流し、湯廻り部17に充填される。
【0040】
その後、湯廻り部17に充填された溶融樹脂は、後続の溶融樹脂の圧力により、湯廻り部17から連通部18へ絞り出されるように流れ出し、連通部18を外側から内側に向かって円を窄めるように流れる。溶融樹脂は、絞り流路部19から湯廻り流路部20に流れ込んで充填され、湯廻り流路部20から絞り流路部21へ絞り出されるようにして流れ出す。溶融樹脂は、絞り流路部21の外側から内側へ向かって円を窄めるように流れ、図10に示すようにゲート22の全周にほぼ同一に到達する。そして、溶融樹脂は、ゲート22から部品成形部31の外側全周に流れ込む。
【0041】
部品成形部31は、張出成形部33の開口部36が把持成形部34と湯廻り流路部35より小さいため、粘性の高い溶融樹脂は、張出成形部33に流れる前に把持成形部34と湯廻り流路部35の全体に流れて充填される。このとき、ゲート22が把持成形部34と湯廻り流路部35の外周面中央に設けられているため、溶融樹脂が把持成形部34と湯廻り流路部35の隅々まで行き渡りやすい。把持成形部34と湯廻り流路部35に充填された溶融樹脂は、充填が完了すると、図11に示すように、張出成形部33へ絞り出されるようにして流れ出す。このとき、溶融樹脂は、流量が円周方向に均一になるように調整され、部品成形部31の中心部に向かって円を窄めるようにして流れ、図12に示すように、本体成形部32の外側全周にほぼ同時に到達する。溶融樹脂は、本体成形部32の外側全周から部品成形部31の中心部へ向かって流れ、図13に示すように本体成形部32に充填される。
【0042】
上記のように部品成形部31への溶融樹脂の充填が完了したら、金型1を冷却する。溶融樹脂が固化したら、図1に示すように、金型1を開き、図示しないエジェクタピンで成形品7を可動型3から押し出す。このとき、成形品7は、第2ランナ部15a,15bの第1接続ランナ部14a,14bと第2接続ランナ部16a〜16dに対応する位置を図示しないエジェクタピンで押圧されて取り出される。そのため、成形品7は、ゲート22より外側を円周方向に均等な力で押し出され、取り出し時に環状シール部材50にねじれや反りなどを生じさせない。
【0043】
ところで、金型1から取り出された成形品7は、環状シール部材50の外側にランナ11とスプルー6に充填されたものも付属している。そこで、成形品7をゲート22と部品成形部31との間の位置で切断し、環状シール部材50を成形品7から分離させる。これにより、環状シール部材50の一連の製造工程が終了する。
【0044】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の円筒状部品の製造方法及び円筒状部品製造用金型1では、部品成形部31の外側に沿って環状に設けられた湯廻り部17に溶融樹脂を供給して充填し、溶融樹脂を湯廻り部17から部品成形部31の外側に均等に流して充填するので、溶融樹脂が部品成形部31の外側から内側へ向かって円を窄めるように流れる。そのため、部品成形部31では、二方向に分かれて流れた溶融樹脂の先端部が合流する箇所がなく、部品成形部31で成形される環状シール部材50にウエルドラインが発生しない。また、部品成形部31の外側にゲート22を設けて溶融樹脂を供給するので、ゲートカット跡が環状シール部材50の内周面に残らない。更に、部品成形部31の外側から溶融樹脂を均等に供給する金型1の流路構造により、ウエルドラインが環状シール部品50に発生すること、及び、環状シール部材50の内周面にゲートカット跡が発生することを防止するので、ウエルドラインやゲートカット跡を除去するために煩わしい切削加工を行う必要がなく、環状シール部材50を安価に製造できる。
【0045】
特に、1個の入力ランナ部12に供給される溶融樹脂を第1ランナ部13、第1接続ランナ部14a,14b、第2ランナ部15a,15b、第2接続ランナ部16a〜16dに均等に分流させて湯廻り部17に供給することにより、湯廻り部17の周方向に均一になるように溶融樹脂を湯廻り部17に充填するので、湯廻り部17の内側から部品成形部31の外側へ均等に溶融樹脂を押し出して流入させやすい。しかも、湯廻り部17から部品成形部31へは、連通部18により溶融樹脂の流量を絞り、部品成形部31の外側へほぼ同時に溶融樹脂が到達するようにしたことにより、部品成形部31の外側から内側へ全周にわたって均一速度で溶融樹脂を流して部品成形部31に溶融樹脂を充填するので、ウエルドラインが発生しない。
【0046】
そして、金型1から取り出された成形品7をゲート22と部品成形部31との間の位置で切断することにより、成形品7から環状シール部材50を分離させるので、環状シール部材50の外周面にはゲートカット跡が環状に残っており、本実施形態の製造方法及び金型1を用いて製造されたものであるか否かを簡単に判別できる。
【0047】
そして、このように製造される環状シール部材50は、シール面にウエルドラインが発生しないので、浸透性の高い薬液を第1及び第2部品61,71に流す場合でもウエルドラインを通って薬液が外部に漏れることがない。また、環状シール部材50は、流路面を形成する内周面にゲートカット跡による凹凸がないので、流体が環状シール部材50の内周面に沿って流れる場合に、内周面のゲートカット跡により乱流や滞留が発生することがなく、流体の置換性や清浄性が向上する。
【0048】
(第2実施形態)
続いて、本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。図14は、溶湯流路81の概念図である。図15は、図14のDD断面図である。図16は、図14のEE断面図である。図17は、図14のFF断面図である。
第2実施形態では、ランナ82の連通部83が第1実施形態の連通部18と相違する点を除き、第1実施形態と構成が同じである。よって、ここでは、第1実施形態と相違する点を中心に説明し、共通する構成は第1実施形態と同一の符号を図面に付して説明を適宜省略する。
【0049】
図14に示すように、溶湯流路81は、ランナ82の連通部83が、湯廻り部17の内側と部品成形部31の外側との間に放射線状に設けられている。連通部83は、円周方向に等間隔に設けられ、かつ、各第2接続ランナ部16a〜16dからそれぞれ同じ距離ずつ離れて設けられており、環状の湯廻り部17から環状の部品成形部31の外側へ溶融樹脂が均等に流れるようにしている。図15〜図17に示す連通部83は、溶融樹脂が流れやすくするために、流路断面が円形状をなし、その流路径は、湯廻り部17の流路径及び湯廻り流路部35の流路幅より小さく、湯廻り部17から部品成形部31へ流れる溶融樹脂を絞って流量を調整できるようにされている。このようなランナ82は、連通部83から湯廻り部17へ溶融樹脂を供給するゲート84が、湯廻り部17の外側に周方向に等間隔に開口している。
【0050】
図18及び図19は、溶融樹脂の流れを説明する図である。図中ドット部分は溶融樹脂が流れた領域を示す。
図18に示すように、溶融樹脂は、湯廻り部17全体に均一に充填されると、後続の溶融樹脂の圧力により各連通部83へ絞り出される。連通部83は、円周方向に等間隔に設けられ、しかも各第2接続ランナ部16a〜16dから同じ距離ずつ離れているため、溶融樹脂は各連通部83に均等に流れる。連通部83は、部品成形部31の外側に断続的に開口するが、連通部83が円周方向に均等に設けられているため、図19に示すように、溶融樹脂はゲート84から部品成形部31に均等に流れ込む。張出成形部33が流量を絞るように設けられているため、溶融樹脂は、流路断面積が大きくて流れやすい把持成形部34と湯廻り流路部35内に回り込むように流れて均一に充填され、その後、張出成形部33へ絞り出されて本体成形部32の外側まで流れる。そして、溶融樹脂は、本体成形部32の外側から中心部へ向かって流れ、本体成形部32に均一に充填される。部品成形部31に溶融樹脂を充填して冷却したら、金型を開いて成形品を取り出す。そして、部品成形部31とゲート84との間の位置で成形品を切断し、環状シール部材50を成形品から分離させる。
【0051】
従って、本実施形態の円筒状部品の製造方法及び円筒状部品製造用金型では、放射線状に設けた連通部83により湯廻り部17から部品成形部31へ溶融樹脂を均等に流入させ、部品成形部31の外側から内側へ向かって溶融樹脂を流して部品成形部31に充填させるので、部品成形部31で成形された環状シール部材50にウエルドラインが発生しない。また、環状シール部材50には、ゲート84と部品成形部31との間で切断したゲートカット跡が外周面に残る。よって、内周面が流路の一部を構成するように環状シール部材50を第1及び第2部品61,71の接続部に装着して浸透性の高い薬液を第1及び第2部品61,71に流した場合でも、その薬液がウエルドラインを通って外部に漏れない。また、環状シール部材50の内周面にゲートカット跡による凹凸がないので、環状シール部材50の内周面に沿って流れる流体に乱流や滞留が発生せず、流体の置換性や清浄性が良い。しかも、溶湯流路81の流路構造によりウエルドラインが環状シール部材50のシール面に発生したり、ゲートカット跡が環状シール部材50の内周面に残ることを防ぐので、切削加工などでウエルドラインやゲートカット跡を除去する作業を必要とせず、環状シール部材50を安価に製造できる。
【0052】
また、環状シール部材50の外周面には、ゲート84と部品成形部31との間の位置で切断したゲートカット跡が周方向に等間隔に残っているので、環状シール部材50の外周面を見れば、本実施形態の製造方法及び金型を用いて製造されたものであるか否かを簡単に判別できる。
【0053】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
例えば、上記実施形態では、樹脂製環状シール部材50を環状部品の一例としてあげたが、円筒状のレンズ枠など環状の部品の製造にも、上記実施形態の製造方法及び金型を用いることができる。
例えば、上記実施形態では、環状シール部材50が本体部51に張出部52と把持部53を設け、環状シール部材50を第1及び第2接続部62,72に装着しやすくしているが、本体部51のみを備える環状シール部材であっても良い。本体部51のみの環状シール部材は、バルブの弁本体とシリンダとの接続部分や、接続管や接続ブロックの接続部分などに配置される。
例えば、上記実施形態では、溶湯としてフッ素樹脂などの溶融樹脂を用いたが、溶融金属を溶湯として用いても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 円筒状部品製造用金型
7 成形品
10 溶湯流路
11,82 ライナ
12 入力ランナ部
13 第1ランナ部
14a,14b 第1接続ランナ部
15a,15b 第2ランナ部
16a〜16d 第2接続ランナ部
17 湯廻り部
18,83 連通部
22,84 ゲート
31 部品成形部
50 環状シール部材(円筒状部品の一例)
61 第1部品
63 第1環状シール溝
71 第2部品
73 第2環状シール溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ランナからゲートを介して部品成形部に溶湯を供給する溶湯流路を備える金型を用いて、円筒状部品を製造する円筒状部品の製造方法において、
前記部品成形部の外側に沿って環状に設けられた湯廻り部に前記溶湯を供給して充填し、前記湯廻り部に充填された溶湯を前記部品成形部の外周側から流して充填する
ことを特徴とする円筒状部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載する円筒状部品の製造方法において、
前記ランナの入力ランナ部に供給されてから溶湯を分流させて、前記湯廻り部の外周に周方向に等間隔に供給し、さらに、湯廻り部から部品成形部へ溶湯を周方向に均等に供給する
ことを特徴とする円筒状部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する円筒状部品の製造方法において、
前記湯廻り部の内側と前記部品成形部の外側との間に連通部を環状に設け、前記湯廻り部から前記連通部に流れる前記溶湯の流量を絞って、前記連通部から前記部品成形部の外側から前記溶湯を供給する
ことを特徴とする円筒状部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載する円筒状部品の製造方法において、
前記湯廻り部の内側と前記部品成形部の外側との間に連通流路を放射線状に設けて前記湯廻り部を前記部品成形部に周方向に等間隔に接続し、前記湯廻り部から前記連通部に流れる前記溶湯の流量を絞って、前記連通部から前記部品成形部の外側から前記溶湯を供給する
ことを特徴とする円筒状部品の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1つに記載する円筒状部品の製造方法において、
前記金型から取り出して成形品を前記ゲートと前記部品成形部との間の位置で切断することにより、前記円筒状部品を前記成形品から分離させる
ことを特徴とする円筒状部品の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載する円筒状部品の製造方法において、
前記円筒状部品が、第1部品と第2部品の流路開口部外側に設けられたシール溝に装着されて前記第1部品と前記第2部品の接続部をシールする環状シール部材である
ことを特徴とする円筒状部品の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載する円筒状部品の製造方法において、
前記溶湯が、フッ素樹脂を溶融させたものである
ことを特徴とする円筒状部品の製造方法。
【請求項8】
円筒形状をなす円筒状部品の製造に用いられ、前記円筒状部品に対応する部品成形部と、前記部品成形部へ溶湯を流すランナと、前記ランナから前記部品成形部へ前記溶湯を供給するゲートと、を有する円筒状部品製造用金型において、
前記ランナは、
前記部品成形部の外側に前記部品成形部と同心円状に設けられた環状の湯廻り部と、
前記湯廻り部の内側と前記部品成形部の外側とを連通させる連通部と、
前記湯廻り部に前記溶湯を充填するランナ部と、を有する
ことを特徴とする円筒状部品製造用金型。
【請求項9】
請求項8に記載する円筒状部品製造用金型において、
前記ランナ部は、前記溶湯を入力する1個の入力ランナ部が分岐して、前記湯廻り部に対して周方向に等間隔に接続したものである
ことを特徴とする円筒状部品製造用金型。
【請求項10】
請求項9に記載する円筒状部品製造用金型において、
前記入力ランナ部が分岐して前記湯廻り部に接続する接続部の数が、偶数である
ことを特徴とする円筒状部品製造用金型。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10の何れか1つに記載する円筒状部品製造用金型において、
前記連通部は、前記湯廻り部に開口する外側開口幅が前記湯廻り部の流路幅より小さく、且つ、前記部品成形部に開口する内側開口幅が前記部品成形部の外周の流路幅より小さい
ことを特徴とする円筒状部品製造用金型。
【請求項12】
請求項11に記載する円筒状部品製造用金型において、
前記連通部は、前記湯廻り流路部と前記部品成形部との間に環状又は放射線状に設けられている
ことを特徴とする円筒状部品製造用金型。
【請求項13】
請求項8乃至請求項12の何れか1つに記載する円筒状部品製造用金型において、
前記円筒状部品が、第1部品と第2部品の流路開口部外側に設けられたシール溝に装着されて前記第1部品と前記第2部品の接続部をシールする環状シール部材である
ことを特徴とする円筒状部品製造用金型。
【請求項14】
請求項8乃至請求項13の何れか1つに記載する円筒状部品製造用金型において、
前記溶湯が、フッ素樹脂を溶融させたものである
ことを特徴とする円筒状部品製造用金型。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2010−253856(P2010−253856A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108470(P2009−108470)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
【Fターム(参考)】