説明

再プログラム化多能性細胞の作製

本発明は、再プログラム化細胞を作製する方法を提供し、前記方法は、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞を、細胞を再プログラムするために十分な条件下で1種または複数の能力決定因子に曝露するステップを含む。本発明は、このような方法によって作製された細胞およびその細胞のさまざまな使用に加えて、それから分化した細胞をさらに提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多能性細胞およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹(ES)細胞は、多能性を維持している間は不確定に成長でき、3種の胚葉、すなわち中胚葉、内胚葉および外肺葉すべての細胞に分化できると信じられている(Evans & Kaufman、Nature 292:154〜156(1981))。ヒトES細胞およびそれに由来する細胞は、パーキンソン病、脊髄損傷および糖尿病などの疾患の宿主の治療用に現在評価されている。しかし、ヒトES細胞はヒトの胚から得られるという事実が、多数の非常に議論の余地がある倫理規定を提起し、多くの国において、これらの細胞の誘導が法律によって禁止されている。さらに、ES細胞およびそれに由来する細胞は、それが由来する対象から抗原を発現するので、不適合な(例えば同じHLA型(複数可)を発現しない)対象に投与された場合、それらの細胞が拒絶される危険性がある。したがって、科学者らはES細胞の現在の作製方法を避けるための技術的解決法を探求した。これらの解決法を達成するための1つの望ましい方法は、出生後の個体、例えば、治療される対象もしくは関連する対象または他の適合する対象の体細胞から直接多能性細胞を作製することであった。
【0003】
体細胞を再プログラミングするための一方法は、細胞の核内容物を卵母細胞に移入するステップ(Wilmutら、Nature 385:810〜813(1997年))またはES細胞と融合させるステップ(Cowanら、Science 309:1369〜1373(2005年))を含み、未受精卵およびES細胞は体細胞において全能性または多能性をもたらす因子を含有することを示している。これらの方法に付随する問題は卵子および/または胚の破壊の必要性を含み、このことは一部の国において倫理規定を提起し得る。
【0004】
多能性の転写決定は完全に理解されてはいないが、Oct3/4(Nicholsら、Cell 95:379〜391(1998年))、Sox2(Avilionら、Genes Dev.17:126〜140(2003年))およびNanog(Chambersら、Cell 113:643〜655(2003年))を含むいくつかの転写因子は、ES細胞の多能性の維持に関与しており、しかし、ES細胞の特定だけでは十分でない。
【0005】
最近、TakahashiおよびYamanakaは、4つの因子(すなわち、Oct4、Sox2、c−MycおよびKlf4)を、マウスのES細胞培養に適切な条件下で培養されたマウスのES細胞および成体マウスの線維芽細胞に導入した。どちらかの細胞型に形質導入後、著者らは、マウスES細胞の形態および成長特性を示し、マウスES細胞のマーカー遺伝子を発現した、人工多能性幹(iPS)細胞を得た(Takahashi&Yamanaka、Cell 126:663〜676(2006年))。ヌードマウスへのiPS細胞の皮下移植は、3種すべての胚葉に由来するさまざまな組織を含有する腫瘍をもたらした。胚盤胞への注射後、iPS細胞はマウスの胚発生に寄与した。これらのデータは、レトロウイルス形質導入を使用して、わずか数種の確定された因子を加えることによって、多能性細胞が直接マウス線維芽細胞培養物から作製され得ることを実証している。しかし、この技術は、再プログラミングの率の低さ(処置された細胞の1%よりかなり低い)ならびにゲノムへの組み込みおよび発がん遺伝子c−MycおよびKlf4の連続発現の必要性を含む、いくつかの重要な不利益に非常に悩まされる。これらの遺伝子の発現は、細胞およびこの細胞に由来する細胞のレシピエントにおいて腫瘍の発生をもたらし得る。この点で、おそらくこれらの発がん遺伝子の連続発現の結果として、これらの方法を用いて作製されたiPS細胞を使用して作製されたキメラマウスは腫瘍を発生する。結果的に、この分野の調査の主要な目的は、これらの因子をコードする核酸のゲノムへの組み込みを必要としないか、またはこれらの再プログラミング因子もしくは他の再プログラミング因子の発現の数もしくは期間を最小化するかのいずれかの再プログラミングの方法を開発することである。
【0006】
融合に基づく再プログラミング研究において線維芽細胞は誘導および大量使用の容易さの可能性が最も高いため、iPS細胞に基づく研究の大部分は線維芽細胞を使用するが、繊維芽細胞以外のさまざまな細胞集団がマウスにおけるiPS細胞の誘導に使用されてきた。これらの研究からの重要な観察は、選択された体細胞の型が、iPS細胞作製の効率および再プログラミングのレベルに有意な効果を有することである。この点において、神経幹細胞、胃細胞および肝細胞などのいくつかの細胞型は、線維芽細胞と比較して比較的高い効率で再プログラムすると思われる。しかし、ヒト由来のこれらの細胞の単離は、組織採取の侵襲性および/または利用可能なドナー試料が限られていることにより困難または実現不可能である。いくつかのより入手しやすい細胞型(例えば、筋肉細胞または分化した造血細胞)はiPS研究の基盤として使用されているが、再プログラミングの成功は限られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、当分野において、容易に入手でき、効率的な再プログラミングが確実に可能な最適な細胞型の特定の必要がある。効率的な再プログラミング特性を有するこのような細胞型の特定は、ゲノムへの組み込みを必要とせず、かつ/または再プログラミング因子の数を最小化もしくは減少させる再プログラミング方法の使用を容易にすると思われる。このことは、腫瘍性形質転換の危険性が減少した、より安全な多能性iPS細胞集団をもたらすであろう。再プログラミングの効率が高く、胚組織に頼らずに得られるこのような細胞型は、存在がすでに企図されている適用である多能性ES細胞への使用に適していると思われる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明につながる研究において、本発明者は、多くの組織供給源が効率的にiPS細胞を作製するために適切な供給源ではないという従来の見識にもかかわらず、さまざまな供給源由来の細胞を使用してiPS細胞の作製を試みた。驚くべきことに、本発明者は、Stro−1多分化能細胞またはその子孫細胞(特に、脂肪組織または歯髄組織由来のもの)が、高い効率、例えば線維芽細胞より高い効率を有するiPS細胞作製のための有用な供給源であったことを発見した。
【0009】
本発明者はまた、Stro−1多分化能細胞またはその子孫細胞が、線維芽細胞を再プログラムし、iPS細胞を作製するために、外から(exogenously)加えられることが普通は必要とされる内因性因子、例えばKlf4および/またはc−mycを発現することも決定した。このような内因性(endocgenous)遺伝子の発現は、これらのタンパク質を高レベルで導入することなく、またはこれらの非内因性型タンパク質を全く導入することなくiPS細胞を作製することを可能にできる。c−mycの内因性発現は、この発がん遺伝子の構成的発現および/または強度の発現を必要としないので、c−mycの内因性発現は、腫瘍形成の危険性が減少したiPS細胞の作製もまた容易にすると思われる。
【0010】
本発明の一例は、再プログラム化細胞を作製する方法を提供し、前記方法は、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞を、細胞を再プログラムするために十分な条件下で1種または複数の能力決定因子(potency-determining factors)に曝露するステップおよび曝露された細胞を培養し、再プログラム化細胞を得るステップを含む。この方法は、同様に、人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法に適用される。
【0011】
本発明の別の例は、再プログラム化細胞を作製する方法を提供し、前記方法は、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞が濃縮された細胞の集団を、細胞を再プログラムするために十分な条件下で1種または複数の能力決定因子に曝露するステップを含む。
【0012】
Stro−1多分化能細胞の供給源は、これらの細胞がin situで位置する任意の組織であってよい。好ましくは、Stro−1多分化能細胞の供給源は脂肪組織または歯髄組織である。Stro−1細胞の別の供給源は骨髄である。
【0013】
一例において、Stro−1多分化能細胞またはその子孫細胞は、1種または複数の能力決定因子に曝露する前の脂肪組織、歯髄組織、骨髄または他の部位から濃縮される。
【0014】
一例において、本発明の方法は、曝露された細胞を培養し、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞よりも広い分化能を有する、すなわち、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞よりも広範囲の細胞系列(cell lineage)および/または細胞型に分化できる、再プログラム化細胞を得るステップを含む。
【0015】
例示的な能力決定因子は、限定するものではないが、Oct4、Sox2、Klf4、Nanog、Lin28、c−Myc、bFGF、SCF、TERT、SV40ラージT抗原、HPV16E6、HPV16E7、Bmil、Fbx15、Eras、ECAT15−2、Tcl1、β−カテニン、ECAT1、ESG1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15−1、Fthl17、Sal14、Rex1、UTF1、Stella、Stat3、FoxD3、ZNF206、Mybl2、DPP A2、Otx2およびGrb2または1種もしくは複数の前記因子と同一もしくは類似の活性を有する化合物、例えばその活性断片または小分子からなる群から個別にまたは集約的に選択される因子を含む。別の例示的な能力決定因子は、例えば本明細書に記載された、化学物質、ペプチド、siRNA、shRNAまたはマイクロRNAである。例えば、1種または複数の能力決定因子は、
(i)Oct4、
(ii)Oct4とSox2との組み合わせ、
(iii)Oct4、Sox2と、NanogおよびLin28のうちの少なくとも1つとの組み合わせ、
(iv)Oct4、Klf4およびc−Mycの組み合わせ、
(v)Oct4、Sox2およびKlf4の組み合わせ、
(vi)Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycの組み合わせ、
(vii)Oct4、Sox2、NanogおよびLin28の組み合わせ、
(viii)Oct4、Sox2、Klf4、c−Myc、NanogおよびLin28の組み合わせ、ならびに
(ix)(i)から(x)のうちのいずれか1つと、さらに化学物質、ペプチド、siRNA、shRNAまたはマイクロRNAとの組み合わせ
からなる群から個別にまたは集約的に選択される。
【0016】
好ましくは、能力決定因子はOct4、Sox2、Klf4およびc−Mycである。
【0017】
本発明の方法の一例において、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞は、出生後の対象から得られる。この実施形態によれば、本方法は、対照からStro−1多分化能細胞および/または子孫細胞を得る、または単離するステップをさらに含み得る。
【0018】
好ましくは、対象は、哺乳動物および/または哺乳動物の細胞である。例示的な哺乳動物対象は、限定するものではないが、ヒト、霊長類、家畜(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、コンパニオン・アニマル(例えば、イヌ、ネコ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、捕らわれた野生動物(例えば、キツネ、シカ)を含む。好ましくは、哺乳動物はヒトまたは霊長類である。最も好ましい哺乳動物はヒトである。
【0019】
本発明の一例示形態において、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞を1種または複数の能力決定因子に曝露するステップは、プロモーターに作動可能に連結された1種または複数の能力決定因子をコードする配列を含む核酸をStro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞に導入するステップを含む。核酸をコードする複数の能力因子は互いに異なっていても、または単一の核酸において、例えば、別々のプロモーターにそれぞれが連結した複数の核酸、もしくは単一のプロモーターにそれぞれが連結した複数の核酸を含む単一の発現ベクター、例えばマルチシストロン性ベクター中にあってもよい。好ましくは、核酸はベクター、より好ましくはウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターまたはアデノウイルスベクター内に含有される。
【0020】
本発明の一例において、核酸は、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞のゲノム中に組み込まれない。例えば、核酸(複数可)は、細胞(複数可)内で1つまたは複数のエピソームとして残存し、および/または最終的に細胞(複数可)から排出される。
【0021】
好ましくは、本発明の方法は、多分化能細胞または多能性細胞または全能細胞、より好ましくは多能性細胞の作製をもたらす。一例において、再プログラム化細胞は、(i)Oct−4、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60およびTra−1−81からなる群から選択される細胞マーカーを発現し、(ii)多能性細胞に特徴的な形態を示し、(iii)免疫不全動物に導入されると奇形腫を形成する。
【0022】
別の例において、本発明の方法は、再プログラム化細胞を、所望の細胞型を含む細胞集団、または所望の細胞型が濃縮された細胞集団に分化させるステップをさらに含む。本発明の方法は、所望の細胞型を単離、濃縮または選択するステップをさらに含み得る。このような細胞は、例えば本明細書に記載された療法またはスクリーニングにおいて有用である。または、例えば多能性細胞が病態を患っている対象から作製された場合、このような分化細胞は疾患状態または病態の研究に有用である。
【0023】
別の例において、本発明の方法は、任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法によって作製された細胞の有効量を、薬学的に許容される担体または賦形剤を有する医薬組成物に製剤化するステップを含む。
【0024】
別の例において、本発明は、任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法によって作製された細胞またはその集団または再プログラム化細胞が濃縮された集団を提供する。同様に、本発明の例示形態は、任意の実施形態に従って本明細書に記載の細胞または集団から分化した細胞または細胞の集団を提供する。
【0025】
本発明の別の例は、異種プロモーターに作動可能に連結された能力決定因子をコードする核酸を含む、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞を提供する。このような細胞は、再プログラム化細胞の作製に有用である。
【0026】
任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法を実施することによって作製された細胞は、薬物療法、例えば疾患または障害を治療または予防する方法において有用であり、この方法は、この細胞またはその集団を、それを必要とする対象に投与するステップを含む。
【0027】
任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法を実施することによって作製された細胞は、スクリーニングにもまた有用である。例えば、本発明は、疾患または障害の治療または予防において有用な化合物をスクリーニングする方法を提供し、この方法は、本発明による細胞または集団を前記化合物に曝露するステップを含む。
【0028】
例えば、本発明は、多能性細胞の分化を導く化合物を特定する方法をさらに提供し、この方法は、
i)本発明に従って作製された多能性細胞またはその集団を被験化合物と接触させ、それから分化した細胞の量を決定するステップ、
ii)この化合物の不在下で、本発明に従って作製された多能性細胞またはその集団から分化した細胞の量を決定するステップ
を含み、(ii)と比較して(i)において分化細胞の量が増加することが、化合物が多能性細胞の分化を導くことを示す。
【0029】
好ましくは、本方法は、1種または複数の異なる分化細胞型の量を決定するステップを含む。このようにして、特定の細胞系列または細胞型への分化を導く化合物が決定される。
【0030】
前述により、本発明が、多能性細胞の分化を低減し、または阻止する化合物を特定する方法をさらに提供することが、当業者には明らかであると思われる。
【0031】
本発明はさらに、病態の治療に有用な化合物を特定または単離する方法を提供し、この方法は、
(i)任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法を実施して、病態を患う対象から多能性細胞またはその集団を作製するステップ、および
(ii)細胞または集団を被験化合物と接触させ、病態の1種または複数の症状に対するその効果を決定するステップ
を含み、病態の症状を改善または緩和する化合物が病態の治療に有用である。
【0032】
一例において、本方法は、
(a)多能性細胞またはその集団を病態に侵された細胞に分化させるステップ、および
(b)(a)の細胞を被験化合物と接触させ、病態の1種または複数の症状に対するその効果を決定するステップ
を含み、病態の症状を改善または緩和する化合物が病態の治療に有用である。
【0033】
このような方法は、病態を治療するための新規な化合物の特定および単離に有用であるだけではなく、対象が、既存の治療化合物/予防化合物を用いた治療に応答する可能性があるかどうかを特定するためにも有用である。
【0034】
このような方法は、化合物を、再プログラム化Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞から成熟および分化および由来した1種または複数の標的組織に曝露した場合、化合物の任意の特定の毒性効果を特定するためにもさらに有用である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
概要
本明細書を通して、特に明示しない限り、または文脈上別の解釈を要する場合を除き、単一のステップ、組成物、ステップの群または組成物の群への言及は、それらのステップ、組成物、ステップの群または組成物の群の1つまたは複数(すなわち、1つ以上)を包含すると解釈されるべきである。
【0036】
本明細書に記載の個々の実施形態は、特に明記されない限り、1つ1つの他の実施形態に変更すべきところは変更して適用される。
【0037】
当業者は、本明細書に記載の発明が、具体的に述べられた以外の変更および改良を受け入れ可能であることが明らかであろう。本発明が、このような変更および改良をすべて含むことは理解されるべきである。本発明は、本明細書に言及された、または示されたすべてのステップ、特徴、組成物および化合物、ならびに前記ステップまたは特徴のあらゆる組み合わせまたは任意の2つ以上を個別にまたは集約的にさらに含む。
【0038】
本発明は、本明細書に記載の具体的実施形態によって範囲を限定されるものではなく、これらは単なる例示を目的とする意図である。機能的に同等である生成物、組成物および方法が本発明の範囲内であることは、本明細書に記載のように明らかである。
【0039】
本発明は、特に明記しない限り、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組み換えDNA技術、溶液中のペプチド合成、固相ペプチド合成および免疫学の従来技術を使用して、必要以上の実験をせずに実施される。このような手順は、例えば、Sambrook、Fritsch & Maniatis、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York、第2版(1989年)、Vols I、IIおよびDI全体;DNA Cloning:A Practical Approach、Vols.IおよびII(D.N.Glover編、1985年)、IRL Press、Oxford、テキスト全体;Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach(M.J.Gait編、1984年)IRL Press、Oxford、テキスト全体および特にテキスト中のGaitによる1〜22ページ;Atkinsonら、35〜81ページ;Sproatら、83〜115;およびWuら、135〜151ページの論文;4.Nucleic Acid Hybridization:A Practical Approach(B.D.Hames & S.J.Higgins編、1985年)IRL Press、Oxford、テキスト全体;Immobilized Cells and Enzymes:A Practical Approach(1986年)IRL Press、Oxford、テキスト全体;Perbal,B.、A Practical Guide to Molecular Cloning(1984年);Methods In Enzymology(S.ColowickおよびN.Kaplan編、Academic Press,Inc.)、シリーズ全体;J.F.Ramalho Ortigao、「The Chemistry of Peptide Synthesis」:Knowledge database of Access to Virtual Laboratory website (Interactiva、Germany);Sakakibara,D.、Teichman,J.、Lien,E.Land Fenichel,R.L.(1976年).Biochem.Biophys.Res.Commun.73 336〜342ページ;Merrifield,R.B.(1963年).J.Am.Chem.Soc.85、2149〜2154年;Barany,G.およびMerrifield,R.B.(1979年)、The Peptides(Gross,E.およびMeienhofer,J.編)vol.2、1〜284ページ、Academic Press、New York.12.Wuunsch,E.編(1974年)Synthese von Peptiden in Houben−Weyls Metoden der Organischen Chemie(Muler,E.編)、vol.15、第4版、パート1および2、Thieme,Stuttgart;Bodanszky,M.(1984年)Principles of Peptide Synthesis、Springer−Verlag、Heidelberg;Bodanszky,M.& Bodanszky,A.(1984年)The Practice of Peptide Synthesis、Springer−Verlag、Heidelberg;Bodanszky,M.(1985年)Int.J.Peptide Protein Res.25、449〜474ページ;Handbook of Experimental Immunology、I〜IV巻(D. M.WeirおよびC.C.Blackwell編、1986年、Blackwell Scientific Publications);ならびにAnimal Cell Culture: Practical Approach、第3版(John R.W.Masters編、2000年)、ISBN0199637970、テキスト全体に記載されている。
【0040】
選択された定義
「集約的」(collectively)は、本発明が、任意の数または組み合わせの列挙されたタンパク質もしくはマーカーまたはタンパク質もしくはマーカーの群を包含することを意味し、しかも、このような数または組み合わせのタンパク質もしくはマーカーまたはタンパク質もしくはマーカーの群が本明細書に具体的に記載されていないにもかかわらず、添付の特許請求の範囲が、任意の他の組み合わせのタンパク質もしくはマーカーまたはタンパク質もしくはマーカーの群から単独におよび分割可能にこのような組み合わせまたは小型の組み合わせ(sub-combinations)を定義し得ることを意味する。
【0041】
本明細書を通して、文脈上別の解釈を要する場合を除き、「含む(comprise)」という用語または「含む(comprises)」もしくは「含むこと(comprising)」などの変形は、述べられたステップもしくは要素もしくは整数(integer)またはステップもしくは要素もしくは整数の群を包含するが、他の任意のステップもしくは要素もしくは整数またはステップもしくは要素もしくは整数の群を排除しないことを暗示すると理解されるべきであろう。
【0042】
本明細書において使用する場合、「に由来する」という用語は、指定された整数が特定の供給源から得ることができるが、必ずしも直接その供給源からである必要はないことを示すと解釈されるべきである。
【0043】
本明細書において使用する場合、「有効量」という用語は、投与前の同じ過程または状態と比較して、および/または細胞を投与されない対象と比較して、生理的過程もしくは疾患状態を改善するため、または対象における疾患状態の発症を予防するための、再プログラム化細胞またはそれから分化した細胞および/またはその子孫細胞の十分量を意味すると解釈されるべきである。
【0044】
本明細書において使用する場合、細胞集団の文脈における「濃縮された」という用語は、再プログラム化細胞または多能性細胞の数またはパーセントが天然の細胞集団における数またはパーセントを超えることを意味すると解釈されるべきである。例えば、再プログラム化細胞または多能性細胞が濃縮された集団は、少なくとも約0.02%の前記細胞または少なくとも約0.05%の前記細胞または少なくとも約0.1%の前記細胞または少なくとも約0.2%の前記細胞または少なくとも約0.5%の前記細胞または少なくとも約0.5%の前記細胞または少なくとも約0.8%の前記細胞または少なくとも約1%の前記細胞または少なくとも約2%の前記細胞または少なくとも約3%の前記細胞または少なくとも約4%の前記細胞または少なくとも約5%の前記細胞または少なくとも約10%の前記細胞または少なくとも約15%の前記細胞または少なくとも約20%の前記細胞または少なくとも約25%の前記細胞または少なくとも約30%の前記細胞または少なくとも約40%の前記細胞または少なくとも約50%の前記細胞または少なくとも約60%の前記細胞または少なくとも約70%の前記細胞または少なくとも約80%の前記細胞または少なくとも約85%の前記細胞または少なくとも約90%の前記細胞または少なくとも約95%の前記細胞または少なくとも約97%の前記細胞または少なくとも約98%の前記細胞または少なくとも約99%の前記細胞で構成されている。
【0045】
「曝露する(expose)」および文法的に同等の用語、例えば「曝露すること(exposing)」は、能力決定因子が細胞に生物学的効果を発揮するほど、細胞を能力決定因子の十分近くに運ぶ任意の過程を意味すると解釈されるべきである。この用語は、限定するものではないが、細胞をこの因子と接触させるステップおよび/または細胞をこの因子をコードする核酸と接触させるステップおよび/または細胞においてこの因子を発現させるステップを含むと理解されるべきである。
【0046】
「個別に」は、本発明が、列挙されたタンパク質もしくはマーカーまたはタンパク質もしくはマーカーの群を単独に包含することを意味し、しかも、個別のタンパク質もしくはマーカーまたはタンパク質もしくはマーカーの群が本明細書に単独で記載されていないとしても、添付の特許請求の範囲が、このようなタンパク質もしくはマーカーまたはタンパク質もしくはマーカーの群を、互いに単独におよび分割可能に定義し得ることを意味する。
【0047】
本明細書において使用する場合、「iPS細胞」という用語は、起源であるその各分化体細胞(例えば、Stro−1多分化能細胞またはその子孫細胞)と実質的に、遺伝学的に同一であり、ES細胞などの能力のより高い細胞と同様の特徴を示す細胞を指す。iPS細胞は、ES細胞と類似の形態学的特性(すなわち、円形、大型の核小体およびわずかな細胞質)および成長特性(すなわち、倍加時間;ES細胞は約17から18時間の倍加時間を有する)を示す。さらに、iPS細胞は、多能性細胞特異的マーカー(例えば、Oct−4、SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81、しかしSSEA−Iは発現しない)を発現することが好ましい。しかし、iPS細胞は、胚に直接由来するものではなく、少なくともそれらが多能性になるまで、選択された能力決定因子の1つまたは複数のコピーを一時的にまたは安定して発現できる。本明細書において使用する場合、「胚に直接由来しない」は、iPS細胞を作製するための出発細胞型が、出生後の個体から得た非多能性Stro−1多分化能(mutilpotential)細胞またはその非多能性子孫であることを意味する。
【0048】
本明細書において使用する場合、「多分化能」(multipotent)という用語は、細胞が、3種の胚葉(中胚葉、内胚葉および外胚葉)の1種または2種または3種、好ましくは1種または2種の胚葉の複数の異なる型の細胞に分化できることを意味すると解釈されるべきである。
【0049】
本明細書において使用する場合、「多能性」(pluripotent)という用語は、細胞が、3種の胚葉、すなわち内胚葉、外胚葉および中胚葉のそれぞれの細胞に分化できることを意味すると解釈されるべきである。多能性細胞は、さまざまな多能性細胞特異的マーカー(例えば、以下の多能性細胞特異的マーカー:SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60またはTRA1−81の1種または複数)を発現し、未分化細胞に特徴的な細胞形態(すなわち、コンパクトなコロニー、核細胞質比の高さおよび顕著な核小体)を有し、SCIDマウスなどの免疫不全動物に導入された場合、奇形腫を形成する。奇形腫は、通常3種の胚葉すべての特徴を示す細胞または組織を含有する。当業者は、当分野において一般的に使用される技術を使用することによってこれらの特徴を評価でき、例えば、Thomsonら、Science 282:1145〜1147(1998年)を参照されたい。多能性細胞は、細胞培養における増殖、および多分化能特性を示す、系列が限定されたさまざまな細胞集団への分化の両方ができる。多分化能体細胞は、多能性細胞と比較してより分化しているが、最終分化はしていない。したがって、多能性細胞は、多分化能細胞より高い能力を有している。
【0050】
本明細書において使用する場合、「能力決定因子」という用語は、遺伝子または他の核酸、それらの機能的断片などの因子およびコードされた因子、例えばタンパク質もしくはその機能的断片、または体細胞の能力を増加し、それにより多分化能、多能性または全能になるために使用される小分子もしくは抗体を指す。能力決定因子は、場合により、再プログラム化細胞中に一時的にだけ存在し得る、または核酸の場合、再プログラム化細胞のゲノム中に転写的に活性または不活性な状態で維持され得る。同様に、核酸の能力決定因子は、再プログラム化細胞中に複数のコピーが存在でき、能力決定因子が細胞のゲノム中に組み込まれ得る場合、染色体外または両方に存在し得る。例示的能力決定因子は、Oct4(例示的ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、Genbank受託番号BC117435.1またはNCBI受託番号NM002701で提示される)、Sox2(例示的ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、NCBI受託番号NM_003106.2で提示される)、Klf4(例示的ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、NCBI受託番号NM_004235.4で提示される)、Nanog(例示的ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、NCBI受託番号NM_024865.2で提示される)、Lin28(例示的ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、NCBI受託番号NM_024674.4で提示される)、c−Myc(例示的ヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、Genbank受託番号L16785.1)、bFGF、SCF、TERT、SV40ラージT抗原、HPV16E6、HPV16E7、Bmil、Fbx15、Eras、ECAT15−2、Tcl1、β−カテニン、ECAT1、ESG1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15−1、Fthl17、Sal14、Rex1(例示的配列は、NCBI受託番号NM174900で提示される)、UTF1(例示的配列は、NCBI受託番号NM003577で提示される)、Stella(例示的配列は、NCBI受託番号NM199286で提示される)、Stat3、FoxD3(例示的配列は、NCBI受託番号NM012183で提示される)、ZNF206、Mybl2、DPP A2、Otx2およびGrb2を含む。本明細書に提供されたすべての受託番号は、2009年2月20日現在のものである。当業者は、本明細書に記載の他の能力決定因子の構造を、例えばNCBIまたはGenBankなどのデータベースを使用して容易に決定できるであろう。前記因子と同じまたは同様の活性を有する化合物もまた含まれる。このような化合物は、再プログラミングを強化または誘導できる抗体および小分子、例えば、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤またはDNAメチラーゼまたはその阻害剤を含む。当業者は、適切な化合物を、例えば、1種または複数の能力決定因子が除外された本明細書に記載の方法および評価された被験化合物のパネルを使用して、ならびに/または細胞および/もしくはMarkoulakiら、Nature Biotechnology 27、169〜171ページ(2009年)に記載の方法を使用して決定できるであろう。
【0051】
本明細書において使用する場合、「能力」という用語は、複数の細胞型に分化する細胞の能力を意味すると解釈されるべきである。したがって、優れた能力を有する細胞は、能力のより低い細胞より多くの細胞型に分化できる。
【0052】
本明細書において使用する場合、「予防有効量」という用語は、臨床症状の1種または複数の検出可能な症状を予防する、またはその発症を阻害する、または発症を遅延させるために十分な量の再プログラム化細胞またはそれから分化した細胞および/またはその子孫細胞を意味すると解釈されるべきである。
【0053】
本明細書において使用する場合、「予防する(prevent)」または「予防すること(preventing)」または「予防(prevention)」という用語は、予防有効量の細胞を投与し、臨床症状の少なくとも1種の症状の発生を停止する、妨げる、または遅延させるまたは減少させることを意味すると解釈されるべきである。
【0054】
本明細書において使用する場合、「再プログラミング」という用語は、体細胞を脱分化および/または多分化能/多能性/全能細胞に転換させ、したがってそれが由来した細胞より優れた能力の可能性を有する過程を指す。好ましくは、再プログラム化細胞は多分化能、多能性または全能であり、より好ましくは多能性である。「再プログラム化」という用語は、体細胞を多分化能/多能性/全能にさせるために脱分化されている体細胞を指す。
【0055】
本明細書において使用する場合、「STRO−1多分化能細胞」という語句は、多分化能細胞コロニーを形成できる非造血性STRO−1および/またはTNAPの前駆細胞を意味すると解釈されるべきである。好ましいSTRO−1多分化能細胞は、本明細書においてより詳細に考察される。
【0056】
本明細書において使用する場合、「対象」という用語は、Stro−1細胞を含む任意の対象、好ましくは哺乳動物を意味すると解釈されるべきである。例示的対象は、限定するものではないが、ヒト、霊長類、家畜(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、コンパニオン・アニマル(例えば、イヌ、ネコ)、実験動物(例えば、マウス、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター)、捕らわれた野生動物(例えば、キツネ、シカ)を含む。好ましくは、哺乳動物はヒトまたは霊長類である。最も好ましい哺乳動物はヒトである。
【0057】
本明細書において使用する場合、「全能」という用語は、ある細胞が、3種の胚葉のそれぞれの細胞および胚外組織に分化できることを意味すると解釈されるべきである。
【0058】
本明細書において使用する場合、「治療有効量」という用語は、1種または複数の臨床症状を減少する、または阻害するために十分な量の再プログラム化細胞またはそれから分化した細胞および/またはその子孫細胞を意味すると解釈されるべきである。
【0059】
本明細書において使用する場合、「治療する(treat)」または「治療(treatment)」または「治療すること(treating)」という用語は、治療有効量の細胞を投与し、臨床症状の少なくとも1種の症状を減少させる、または阻害することを意味すると理解されるべきである
【0060】
STRO−1多分化能細胞または子孫細胞
STRO−1多分化能細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛嚢、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靭帯、腱、骨格筋、真皮および骨膜において発見された細胞であり、中胚葉および/または内胚葉および/または外胚葉などの生殖細胞系に分化できる。好ましくは、STRO−1細胞は骨髄、歯髄または脂肪組織由来であり、より好ましくは歯髄または脂肪組織由来である。したがって、STRO−1多分化能細胞は、限定するものではないが、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、弾性組織、筋肉組織および線維性結合組織を含む多数の細胞型に分化できる。これらの細胞が進入する特定の分化系列決定および分化経路は、機序的な影響ならびに/または内因性生物活性因子、例えば成長因子、サイトカインおよび/もしくは宿主組織によって確立された局所的微小環境条件からのさまざまな影響に依存する。したがって、STRO−1多分化能細胞は、分裂し、時がたてば不可逆的に分化し表現型細胞をもたらすであろう、幹細胞または前駆体細胞のいずれかである娘細胞をもたらす非造血性前駆細胞である。
【0061】
好ましい実施形態において、STRO−1多分化能細胞は、対象、例えば治療されるべき対象または関連する対象または関連のない対象(同じ種または異なる種のどちらでも)から得られた試料から濃縮される。このような濃縮は、ex vivoまたはin vitroで実施され得る。「濃縮された(enriched)」、「濃縮(enrichment)」という用語またはそれらの変形は、本明細書において、未処理の集団と比較した場合、1種の特定の細胞型の割合または多数の特定の細胞型の割合が増加した細胞の集団を表すために使用される。
【0062】
好ましい実施形態において、本発明において使用される細胞は、TNAP、VCAM−1、THY−1、STRO−2、CD45、CD146、3G5またはそれらの任意の組み合わせからなる群から個別にまたは集約的に選択される、1種または複数のマーカーを発現する。
【0063】
好ましくは、STRO−1細胞は、STRO−1bright(同義語STRO−1bri)である。好ましくは、STRO−1bright細胞は、さらにTNAP、VCAM−1、THY−1、STRO−2および/またはCD146の1つまたは複数である。
【0064】
一実施形態において、間葉前駆体細胞は、WO2004/85630に定義されるように血管周囲の間葉前駆体細胞である。
【0065】
所与のマーカーに対して「陽性」であると称される細胞は、この用語が細胞の選別過程において使用される蛍光または他のマーカーの強度に関連する場合、マーカーが細胞表面に存在する程度に依存して、低レベル(loもしくはdim)または高レベル(bright、bri)のいずれかでそのマーカーを発現できる。lo(もしくはdimもしくはdull)とbriとの区別は、選別された特定の細胞集団に関して使用されるマーカーとの関連で理解されるであろう。所与のマーカーに対して「陰性」であると称される細胞は、その細胞が必ずしも完全に不在ではない。この用語は、その細胞によって発現されるマーカーが比較的非常に低いレベルであることを意味し、検出可能に標識された場合、非常に低いシグナルを発生するまたはバックグラウンドのレベルを上回って検出できないことを意味する。
【0066】
本明細書において使用する場合、「bright」という用語は、検出可能に標識された場合、比較的高いシグナルを発生する細胞表面のマーカーを指す。理論に縛られることを好むわけではないが、「bright」細胞が、試料中の他の細胞より多くの標的マーカータンパク質(例えば、STRO−1により認識される抗原)を発現することが提唱される。例えば、STRO−1bri細胞は、FITC標識STRO−1抗体を用いて標識された場合、蛍光標識細胞分取(FACS)分析による決定で非bright細胞(STRO−1dulldim)より多くの蛍光シグナルを発生する。好ましくは、「bright」細胞は出発試料中に含有される最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%を構成する。他の実施形態において、「bright」細胞は出発試料中に含有される最も明るく標識された骨髄単核細胞の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%または少なくとも約2%を構成する。好ましい実施形態において、STRO−1bright細胞は、「バックグラウンド」、すなわちSTRO−1である細胞と比較してSTRO−1の表面発現の2log量の発現増加を有する。比較すると、STRO−1dimおよび/またはSTRO−1intermediate細胞は、2log量未満の発現増加、通常約1logまたは「バックグラウンド」より低いSTRO−1の表面発現を有する。
【0067】
本明細書において使用する場合、「TNAP」という用語は、組織非特異的アルカリホスファターゼのすべてのアイソフォームを包含することを意図する。例えばこの用語は、肝臓アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)および腎臓アイソフォーム(KAP)を包含する。好ましい実施形態において、TNAPはBAPである。特に好ましい実施形態において、本明細書において使用する場合、TNAPは、ブダペスト条約の規定の下に、2005年12月19日に受託番号PTA−7282でATCCに寄託された、ハイブリドーマ細胞系によって作製されたSTRO−3抗体に結合できる分子を指す。
【0068】
さらに、好ましい実施形態において、STRO−1多分化能細胞は、コロニー形成CFU−Fを生じさせることができる。
【0069】
かなりの割合の多分化能細胞が、少なくとも2種の異なる生殖細胞系に分化できることが好ましい。多分化能細胞が決定(committed)され得る系列の限定されない例は、骨前駆体細胞;胆管上皮細胞および肝細胞に関して多分化能である肝細胞前駆細胞;乏突起膠細胞および星状細胞に進行するグリア細胞前駆体を発生できる神経制限細胞;ニューロンに進行するニューロン前駆体;心筋および心筋細胞、グルコース反応性、インスリン分泌膵臓β細胞系に関する前駆体を含む。他の系列は、限定するものではないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞および軟骨細胞ならびに以下:細胞網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイトなどの皮膚細胞、樹状細胞、毛嚢細胞、尿細管上皮細胞、平滑筋細胞および骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靭帯、軟骨、含脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄基質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管、上皮、グリア、ニューロン、星状細胞および乏突起膠細胞の各細胞の前駆体細胞を含む。
【0070】
別の実施形態において、STRO−1多分化能細胞は、培養において造血性細胞を発生できない。
【0071】
一実施形態において、細胞は治療される対象から採取される、または例えば、任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法に使用する前に、標準的技術を使用してin vitroで培養される。このような細胞またはそれらから分化した細胞は、自己または同種の組成物において対象に投与するために有用である。別の実施形態において、確立されたヒト細胞系の1種または複数の細胞が使用される。本発明の別の有用な実施形態において、非ヒト動物(または対象がヒトではない場合、別の種由来)の細胞が使用される。
【0072】
子孫細胞は、任意の適切な培地において培養することによって得ることができる。細胞培養に関して使用される場合、「培地」という用語は、細胞周囲の環境構成要素を含む。培地は、固体、液体、気体または相と材料の混合物であってよい。培地は、液体成長培地および細胞成長を維持しない液体培地を含む。培地は、ゼラチン培地、例えば寒天、アガロース、ゼラチンおよびコラーゲン基質をさらに含む。例示的ガス状培地は、ペトリ皿または他の固体もしくは半固体支持体上で成長する細胞が曝露されるガス相を含む。「培地」という用語は、たとえ細胞に接触していなくても、細胞培養において使用するための材料を指す。言い換えれば、細胞培養のために調製された栄養豊富な液体は培地である。水または他の液体と混合した場合細胞培養に適切になる粉末混合物は、「粉末培地」と呼ぶことができる。
【0073】
ある実施形態において、本発明の方法に有用な子孫細胞は、STRO−3抗体を用いて標識された磁気ビーズを使用して骨髄からTNAPSTRO−1多分化能細胞を単離し、次いで培養して単離細胞を増殖させる(expand)ことによって得られる(適切な培養条件の例に関してはGronthosら、Blood 85:929〜940ページ、1995年を参照されたい)。
【0074】
一実施形態において、このように増殖させた細胞(子孫)(好ましくは、少なくとも5継代後)は、TNAP、CC9、HLAクラスI、HLAクラスII、CD14、CD19、CD3、CD11a、CD31、CD86、CD34および/またはCD80であり得る。しかし、本明細書に記載の培養条件と異なる培養条件下では、さまざまなマーカーの発現は変動し得る可能性がある。さらに、これらの表現型の細胞は増殖させた細胞集団において優勢であり得るが、この表現型(複数可)を有さない細胞の少数の集団が存在することを意味するものではない(例えば、増殖させた細胞は、少ない割合でCC9であり得る。)。好ましい一実施形態において、増殖させた細胞は、さまざまな細胞型に分化する能力を未だに有している。
【0075】
さらなる実施形態において、増殖させた細胞は、LFA−3、THY−1、VCAM−1、ICAM−1、PECAM−1、P−セレクチン、L−セレクチン、3G5、CD49a/CD49b/CD29、CD49c/CD29、CD49d/CD29、CD90、CD29、CD18、CD61、インテグリンβ 6−19、トロンボモジュリン、CD10、CD13、SCF、PDGF−R、EGF−R、IGF1−R、NGF−R、FGF−R、レプチン−R(STRO−2=レプチン−R)、RANKL、STRO−1brightおよびCD146またはこれらのマーカーの任意の組み合わせからなる群から選択される、1種または複数のマーカーを集約的に、または個別に発現し得る。
【0076】
一実施形態において、子孫細胞は、WO2006/032092において定義され、および/または記載された、多分化能性増殖STRO−1多分化能細胞子孫(Multipotential Expanded STRO−1 Multipotential cells Progeny)(MEMP)である。子孫が由来し得るSTRO−1多分化能細胞が濃縮された集団を調製する方法は、WO01/04268およびWO2004/085630に記載される。in vitroの関連において、STRO−1多分化能細胞は、完全に純粋な調製品として存在することは稀であり、一般的には組織特異的分化系列決定細胞(tissue specific committed cells)(TSCC)である他の細胞と一緒に存在すると思われる。WO01/04268は、約0.1%から90%の純度レベルで骨髄からこのような細胞を収穫するステップについて言及している。子孫が由来する多分化能(mutilpotential)細胞を含む集団は、組織供給源から直接収穫でき、またはex vivoですでに増殖させた集団であってもよい。
【0077】
例えば、子孫は、それが存在する集団の合計細胞の少なくとも約0.1、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80または95%を含む、収穫され、増殖しない実質的に精製されたSTRO−1多分化能細胞の集団から得ることができる。このレベルは、例えば、TNAP、STRO−1bright、3G5、VCAM−1、THY−1、CD146およびSTRO−2からなる群から個別にまたは集約的に選択される、少なくとも1種のマーカーに陽性である細胞を選択することによって達成され得る。
【0078】
MEMPは、マーカーのSTRO−1briに対して陽性であり、マーカーのアルカリホスファターゼ(ALP)に対して陰性であるという点から、新鮮に収穫されたSTRO−1多分化能細胞とは識別され得る。対照的に、新鮮に単離されたSTRO−1多分化能細胞は、STRO−1briおよびALPの両方に対して陽性である。本発明の好ましい実施形態において、投与された細胞の少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%はSTRO−1bri、ALPの表現型を有する。さらなる好ましい実施形態において、MEMPは、マーカーのKi67、CD44および/またはCD49c/CD29、VLA−3、α3β1の1種または複数に対して陽性である。その上さらなる好ましい実施形態において、MEMPはTERT活性を示さない、および/またはマーカーのCD18に対して陰性である。
【0079】
STRO−1多分化能細胞出発集団は、WO01/04268またはWO2004/085630において示される任意の1種もしくは複数の組織型、すなわち骨髄、歯髄細胞、脂肪組織および皮膚に由来し、または、おそらくより広範囲には、脂肪組織、歯、歯髄、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、網膜、脳、毛嚢、腸、肺、脾臓、リンパ節、胸腺、膵臓、骨、靭帯、骨髄、腱および骨格筋に由来し得る。
【0080】
本発明の実施において、任意の所与の細胞表面マーカーを担持する細胞の分離は、多数のさまざまな方法によってもたらされ得るが、好ましい方法は、結合剤(例えば、抗体またはその抗原結合断片)と関与するマーカーとの結合、その後の、高レベルの結合または低レベルの結合または結合を示さないかのいずれかである、結合を示す細胞の分離に頼ると理解されると思われる。最も都合の良い結合剤は、抗体または抗体に基づく分子であり、好ましくは、これらの後者の薬剤の特異性のためモノクローナル抗体であり、またはモノクローナル抗体に基づく。抗体は、両方のステップに使用できるが、他の薬剤もまた使用でき、したがって、これらのマーカーに対するリガンドもまた、これらのマーカーを担持する細胞またはそれを欠いた細胞の濃縮に用いることができる。
【0081】
抗体またはリガンドは固体支持体と結合し、粗分離を可能にする。分離技術は、好ましくは回収される分画の生存能力の保有を最大にする。異なる効率のさまざまな技術を用い、比較的粗い分離を得ることができる。用いる特定の技術は、分離の効率、関連する細胞毒性、実施の簡便さおよび速さならびに高性能の機器および/または技術的熟練の必要性に依存すると思われる。分離の手順は、限定するものではないが、抗体コーティング磁気ビーズを使用する磁気分離、アフィニティクロマトグラフィーおよび固体マトリックスに結合した抗体を用いた「パニング」を含み得る。正確な分離を提供する技術は、限定するものではないが、FACSを含む。FACSを実施する方法は、当業者には明らかであると思われる。
【0082】
本明細書に記載の個々のマーカーに対する抗体は、市販されており(例えば、STRO−1に対するモノクローナル抗体は、R&D Systems、USAから市販されている)、ATCCまたは他の寄託組織から利用でき、および/または当分野において認識されている技術を使用して作製できる。
【0083】
STRO−1多分化能細胞を単離する方法は、例えば、STRO−1の高レベルの発現を認識する磁気活性化細胞分取法(MACS)を利用する固体相選別ステップである第1のステップを含むことが好ましい。所望であれば、次いで、特許明細書WO01/14268に記載の高レベルの前駆体細胞発現をもたらす第2の選別ステップを続けることができる。この第2の選別ステップは、複数のマーカーの使用を含み得る。
【0084】
STRO−1多分化能細胞を得る方法は、公知の技術を使用する第1の濃縮ステップの前に、細胞供給源の収穫をさらに含み得る。したがって、組織は外科的に摘出される。次いで、供給源組織を含む細胞は、いわゆる単一細胞懸濁液に分離されるであろう。この分離は、物理的および/または酵素的方法によって達成され得る。
【0085】
ひとたび適切なSTRO−1多分化能細胞集団が得られたら、STRO−1多分化能細胞集団は、MEMPを得るための任意の適切な手段によって培養または増殖させ得る。
【0086】
本発明は、限定するものではないが、非ヒト霊長類細胞、有蹄動物、イヌ、ネコ、ウサギ、げっ歯類、鳥類および魚類の細胞を含む任意の非ヒト動物種由来の細胞を使用して実行できる。本発明を実施できる霊長類細胞は、限定するものではないが、チンパンジー、ヒヒ、カニクイザルならびに他の任意の新世界ザルおよび旧世界ザル(New or Old World monkeys)の細胞を含む。本発明を実施できる有蹄動物細胞は、限定するものではないが、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、バッファローおよびバイソンの細胞を含む。本発明を実施できるげっ歯類細胞は、限定するものではないが、マウス、ラット、モルモット、ハムスターおよびスナネズミの細胞を含む。本発明を実施できるウサギ種の例は、家畜化されたウサギ、ジャックラビット、野ウサギ、ワタオウサギ、カンジキウサギおよびナキウサギを含む。ニワトリ(Gallus gallus)は、本発明を実施できる鳥類の例である。
【0087】
本発明の方法に有用な細胞は、使用前、または上清もしくは可溶性因子を得る前に保管できる。真核細胞および特に哺乳動物細胞の保管および保存の方法およびプロトコルは当分野において公知である(例えば、Pollard,J.W.およびWalker,J.M.(1997年)Basic Cell Culture Protocols、第2版、Humana Press、Totowa、N.J.;Freshney,R.I.(2000年)Culture of Animal Cells、第4版、Wiley−Liss、Hoboken、N.J.を参照されたい)。単離された幹細胞、例えば間葉幹細胞/前駆細胞またはその子孫の生物活性を維持する任意の方法は、本発明に関連して利用され得る。好ましい一実施形態において、細胞は、凍結保存を使用して維持および保管される。
【0088】
能力決定因子を発現するように遺伝子改変された細胞
一実施形態において、STRO−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞は、例えば、能力決定因子またはその複数を発現するように遺伝子改変される。
【0089】
細胞を遺伝子改変する方法は、当業者には明らかであると思われる。例えば、細胞において発現される核酸は、細胞、好ましくは多能性(plurlipotent)細胞における発現を誘導するためのプロモーターに作動可能に連結される。例えば、核酸は、対象のさまざまな細胞において作動可能であるプロモーター、例えば、ウイルスプロモーター、例えばCMVプロモーター(例えばCMV−IEプロモーター)またはSV−40プロモーターまたは延長因子プロモーターまたは誘導プロモーター、例えばtet誘導プロモーターに作動可能に連結される。さらなる適切なプロモーターは当分野において公知であり、本発明の本実施形態に、必要な変更を加えて適用すると解釈されるべきである。本発明は、単一のプロモーター、例えばOct4およびSox2から複数の能力決定因子の発現を可能にする、マルチシストロン性ベクターの使用をさらに包含する。このようなベクターは、一般的に、さまざまな能力決定因子を個々にコードする2つの核酸を分離する配列内リボソーム進入部位(IRES)を含む。
【0090】
本明細書において使用する場合、「プロモーター」という用語は最も広い文脈で解釈されるべきであり、転写の開始に必要とされるTATAボックスまたはイニシエーターエレメントを含むゲノム遺伝子の転写制御配列を、例えば、発生刺激および/または外部刺激に対する応答において、または組織特異的様式で遺伝子発現を改変するさらなる制御エレメント(すなわち、上流活性化配列、転写因子結合部位、エンハンサーおよびサイレンサー)と一緒に含む、またはそれを伴わずに含む。本文脈において、「プロモーター」という用語は、組み換え、合成もしくは融合分子または作動可能に連結された核酸の発現をもたらす、活性化する、または強化する、かつ好ましくはペプチドまたはタンパク質をコードする誘導体を表すためにもまた使用される。好ましいプロモーターは、1種または複数の特異的制御エレメントのさらなるコピーを含有し、前記核酸分子の発現をさらに強化する、ならびに/または空間的発現および/もしくは時間的発現を改変することができる。
【0091】
本文脈において、核酸の発現がプロモーターによって調節されるように位置付けられる場合、核酸は、プロモーターと一緒に、またはプロモーターに「作動可能に連結される」(すなわち、プロモーターの制御管理下にある)。プロモーターは、一般的に核酸の発現5’(上流)に位置付けられ、プロモーターが核酸の発現を調節する。異種プロモーター/核酸の組み合わせを構築するために、プロモーターは、そのプロモーターと遺伝子との間の距離とおよそ同じ距離で遺伝子転写開始部位から離れて位置付けられ、プロモーターがその自然の設定、すなわちプロモーターが由来する遺伝子において調節することが、一般的に好ましい。当分野において公知であるように、この距離のいくつかの変更はプロモーター機能を失うことなく調整され得る。同様に、その調節下で配置される異種核酸に対する制御配列エレメントの好ましい位置付けは、その自然の設定、すなわちそれが由来する遺伝子において要素を位置付けることによって画定される。この場合も先と同様に、当分野において公知であるように、この距離のいくつかの変更がまた起こり得る。
【0092】
好ましくは、核酸は発現構築体の形態で提供される。本明細書において使用する場合、「発現構築体」という用語は、細胞において作動可能に連結される核酸に発現をもたらす能力を有する核酸を指す。本発明の文脈において、発現構築体は、プラスミド、バクテリオファージ、ファージミド、コスミド、ウイルスのサブゲノムもしくはゲノム断片または異種DNAに発現をもたらすことのできる他の核酸であってもよく、それを含んでいてもよいことが理解されよう。発現構築体は、細胞のゲノム中に組み込まれても、エピソームとして残存してもよい。
【0093】
好ましい発現構築体は、エピソーム性、例えば、プラスミドおよびファージミドのままであり得る。このような発現構築体は、例えば発現構築体がゲノムに組み込まれていない再プログラム化細胞の作製に有用である。さらに、これらの発現構築体は多くの場合細胞分裂の間に失われるので、組み換え発現構築体を含まない再プログラム化細胞の作製を可能にする(例えば、Okitaら、Science、322:949〜53ページ、2008年を参照されたい)。
【0094】
本発明の実施のための適切な発現構築体の構築の方法は、当業者には明らかであると思われ、例えば、Ausubelら、(Current Protocols in Molecular Biology.Wiley Interscience、ISBN 047 150338、1987年)またはSambrookら(Molecular Cloning:Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York、第3版、2001年)に記載されている。例えば、発現構築体の個々の要素は、適切な鋳型核酸から、例えばPCRを使用して増幅され、その後、適切な発現構築体、例えばプラスミドまたはファージミドなどの内部にクローン化される。
【0095】
このような発現構築体に適切なベクターは、当分野において公知であり、および/または本明細書に記載される。例えば、哺乳動物細胞中の本発明の方法に適切な発現ベクターは、例えば、Invitrogenにより供給されるpcDNAベクタースイート(vector suite)のベクター、pCIベクタースイート(Promega)のベクター、pCMVベクタースイート(Clontech)のベクター、pMベクター(Clontech)、pSIベクター(Promega)、VP16ベクター(Clontech)またはpcDNAベクタースイート(Invitrogen)のベクターである。
【0096】
当業者は、さらなるベクターおよびこのようなベクターの供給源、例えば、Invitrogen Corporation、ClontechまたはPromegaを承知しているであろう。
【0097】
単離核酸分子またはそれを含む遺伝子構築体を細胞に導入する方法は当業者には公知である。所与の生物に使用される技術は、公知の成功する技術に依存する。組み換えDNAを細胞に導入する方法は、リン酸カルシウム沈殿(GrahamおよびVan Der Eb、Virology、52:456〜467ページ、1973年;ChenおよびOkayama、Mol.Cell Biol.、7:2745〜2752ページ、1987年;Rippeら、Mol.Cell Biol.、10:689〜695ページ、1990年)、DEAE−デキストラン(Gopal、Mol.Cell Biol.、5:1188〜1190ページ、1985年)、エレクトロポレーション(Tur−Kaspaら、Mol.Cell Biol.、6:716〜718ページ、1986年;Potterら、Proc.Natl Acad.Sci.USA、81:7161〜7165ページ、1984年)、直接微量注入、DNA負荷リポソーム(NicolauおよびSene、Biochim.Biophys.Acta、721:185〜190ページ、1982年;Fraleyら、Proc.Natl Acad.Sci.USA、76:3348〜3352ページ、1979年)、細胞の超音波処理(Fechheimerら、Proc.Natl Acad.Sci.USA、84:8463〜8467ページ、1987年)、高速微粒子銃を使用する遺伝子ボンバードメント(Yangら、Proc.Natl Acad.Sci USA、87:9568〜9572ページ、1990年)、レセプター媒介トランスフェクション(WuおよびWu、J.Biol.Chem.、262:4429〜4432ページ、19877年;WuおよびWu、Biochem.、27:887〜892ページ、1988年)を含む。他の実施形態において、核酸の細胞への移入は、ナノキャップ(nanocaps)(例えばナノ粒子CaP04)、コロイド金、ナノ粒子合成ポリマーおよび/またはリポソームと一緒に製剤化することによって達成され得る。
【0098】
好ましい一実施形態において、エピソーム性のままである発現構築体、または発現構築体が細胞のゲノムに組み込まれていない限り、例えば上記、またはOkitaら、2008年、上記に記載の方法を使用してトランスフェクトされる。好ましくは、プラスミドは、前期細胞が再プログラムされるまで、前期細胞に繰り返しトランスフェクトされる。この様式において、細胞のゲノムに組み込まれた異種DNAを有さない細胞が作製され、治療的観点からこのことはより魅力的である。
【0099】
または、本発明の発現構築体はウイルスベクターである。適切なウイルスベクターは当分野において公知であり、市販されている。核酸の送達およびその核酸を宿主細胞のゲノムに組み込まれるための従来のウイルスに基づく系は、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターを含む。または、アデノウイルスベクターはエピソーム性のままである核酸を宿主細胞に導入し、例えば、そのゲノムに組み込まれた異種DNAを含まない再プログラム化細胞を作製するために有用である。ウイルスベクターは、標的細胞および組織における有効かつ用途の広い遺伝子移入方法である。さらに、高効率の形質導入が、多数のさまざまな細胞型および標的組織において観察されている。例示的ウイルスベクターを以下に述べる。
【0100】
a)アデノウイルスベクター
一例において、本発明に有用なウイルス遺伝子送達系は、アデノウイルス由来のベクターを利用する。36kBの線状および二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成の知見は、8kBまでの外来配列を有する大きなアデノウイルスDNA片の置換を可能にする。アデノウイルスDNAは、遺伝毒性の可能性なしにエピソーム性様式で複製できるので、アデノウイルスDNAの宿主細胞への感染は染色体への組み込みをもたらさない。さらに、アデノウイルスは構造的に安定であり、ゲノムの再構成が、広大な増幅後に検出されている。アデノウイルスは、その細胞周期の段階にかかわらず、事実上すべての上皮細胞に感染できる。組み換えアデノウイルスは、分裂細胞および非分裂細胞の両方を形質導入できる。非分裂細胞を有効に形質導入する能力は、アデノウイルスを、遺伝子を筋肉細胞または脂肪細胞に移入するための優れた候補にさせる。
【0101】
アデノウイルスは、その中型のゲノム、操作の容易さ、高力価、標的細胞の範囲の広さおよび高い感染性のため、遺伝子移入ベクターとして特に適切である。ウイルスゲノムの両方の末端は、100〜200塩基対(bp)の逆位末端反復(ITR)を含有し、これらはウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシスエレメントである。
【0102】
ゲノムの初期(E)領域および後期(L)領域は、ウイルスDNAの複製の開始によって分裂するさまざまな転写ユニットを含有する。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび少数の細胞遺伝子の転写制御に関与するタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質は、DNAの複製、後期遺伝子発現および宿主細胞の遮断に関与する(Renan(1990年)Radiotherap.Oncol.19:197)。ウイルスカプシドタンパク質の大部分を含む後期遺伝子の生成物は、主要な後期プロモーター(MLP)によって生じる単一の一次転写産物の重要なプロセシングの後にのみ発現される。MLP(16.8μに位置する)は、感染後期において特に有効であり、このプロモーターから生じたすべてのmRNAは、それを翻訳のための例示的mRNAにさせる5’トリパータイトリーダー(TL)配列を保有する。
【0103】
アデノウイルスゲノムは、対象となる遺伝子産物をコードするように操作することができるが、正常なウイルスの溶菌ライフサイクルにおいて複製するその能力に関しては不活性化される(例えば、Berknerら、(1988年)BioTechniques 6:616ページ;Rosenfeldら、(1991年)Science 252:431〜434ページおよびRosenfeldら、(1992年)Cell 68:143〜155ページを参照されたい)。アデノウイルスAd株5 dl324型またはアデノウイルスの他の株(例えば、Ad2、Ad3、Ad7など)に由来する適切なアデノウイルスベクター−は、当業者には公知である。
【0104】
組み換えアデノウイルスは、組み換えアデノウイルスが非分裂細胞を感染させることができ、気道上皮(上に引用されたRosenfeldら、(1992年))、内皮細胞(Lemarchandら、(1992年)PNAS USA 89:6482〜6486ページ)、肝細胞(HerzおよびGerard、(1993年)PNAS USA 90:2812〜2816ページ)および筋肉細胞(Quantinら、(1992年)PNAS USA 89:2581〜2584ページ;Ragotら、(1993年)Nature 361:647ページ)を含む広範囲の細胞型を感染させるために使用され得る、特定の状況において有利であり得る。
【0105】
さらに、ウイルス粒子は比較的安定であり、精製および濃縮しやすく、感染性の範囲に影響を及ぼすように改変され得る。
【0106】
さらに、他の遺伝子送達ベクターと比較して、外来DNAに対するアデノウイルスゲノムの担持能力は大きい(最大8キロベースまで)(Berknerら、上記;Haj−AhmandおよびGraham(1986年)J.Virol.57:267ページ)。現在使用され、したがって本発明によって支持される、大部分の複製欠損アデノウイルスベクターは、ウイルスのE1およびE3遺伝子の全部または一部が削除されているが、アデノウイルスの遺伝物質の80%程度を保有している(例えば、Jonesら、(1979年)Cell16:683ページ;Berknerら、上記およびGrahamら、Methods in Molecular Biology、E.J.Murray編(Humana、Clifton、NJ、1991年)7巻、109〜127ページを参照されたい)。本発明の挿入ポリヌクレオチドの発現は、例えば、E1Aプロモーター、主要後期プロモーター(MLP)および関連リーダー配列、ウイルスのE3プロモーターまたは外から加えられたプロモーター配列の調節下であり得る。
【0107】
ある実施形態において、アデノウイルスベクターは複製欠損であっても、または条件付き欠損であってもよい。アデノウイルスは、42種の公知の異なる血清型またはサブグループA〜Fのいずれであってもよい。サブグループCのアデノウイルス5型は、本明細書に記載の方法および組成物に従った使用のための、条件付き複製欠損アデノウイルスベクターを得るための例示的出発物質である。アデノウイルス5型は、大量の生化学的情報および遺伝的情報が公知であるヒトアデノウイルスであり、アデノウイルスをベクターとして用いる大部分の構築に歴史的に使用されてきたからである。上記のように、本発明に従った典型的なベクターは複製欠損であり、アデノウイルスE1領域を有さないであろう。したがって、対象となる核酸を、E1をコードする配列が除去された場所に導入するために最も都合がよいと思われる。しかし、アデノウイルス配列内の領域中のポリヌクレオチドの挿入位置は、本発明にとって重要ではない。例えば、Karlssonら、(1986年)によって以前に記載されたように、E3置換ベクター中の欠失E3領域の代わりに、またはE4を欠失したヘルパー細胞系またはヘルパーウイルス補体のE4領域にも挿入され得る。
【0108】
例示的ヘルパー細胞系は293(ATCC受託番号CRL1573)である。「パッケージング細胞系」とも称されるこのヘルパー細胞系は、Frank Graham(Grahamら、(1987年)J.Gen.Virol.36:59〜72ページおよびGraham(1977年)J.General Virology 68:937〜940)によって開発され、E1AおよびE1Bをトランスで供給する。しかし、ヘルパー細胞系は、ヒト細胞、例えばヒト胎児の腎臓細胞、筋肉細胞、造血細胞または他のヒト胎児の間葉細胞もしくは上皮細胞にもまた由来し得る。または、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに対して許容である他の哺乳動物種の細胞にも由来し得る。このような細胞は、例えば、ベロ細胞または他のサル胎児の間葉細胞もしくは上皮細胞を含む。
【0109】
アデノウイルスはさらに細胞型特異的である、すなわち、限定された細胞型だけに感染する、および/または限定された細胞型においてのみ所望のヌクレオチド配列を発現することができる。例えば、ウイルスは、例えば米国特許第5,698,443号に記載のように、標的宿主細胞によって特異的に制御される転写開始領域の転写調節下で遺伝子を含み得る。したがって、複製可能なアデノウイルスからの発現は、複製に必要なタンパク質の合成を制御する細胞特異的応答エレメント、例えば、E1AまたはE1Bを挿入することによって、特定の細胞に制限され得る。
【0110】
核酸の組み込み、核酸を含有する組み換えウイルスの増殖および精製ならびに細胞および哺乳動物のトランスフェクトへのその使用のための方法および材料を含む、本発明の実施に有用であると思われるアデノウイルス技術に関するさらなる詳細なガイダンスに関しては、Wilsonら、WO94/28938、WO96/13597およびWO96/2628ならびにそれらの引用された参考文献を参照されたい。
【0111】
b)レトロウイルス
ある実施形態において、レトロウイルスベクターは、本明細書に記載の方法および組成物に従って使用され得る。このようなウイルスは、再プログラム化細胞の作製にすでに使用されているがStro−1細胞においては使用されていない。レトロウイルスは、逆転写の過程によって感染細胞においてそれらのRNAを二本鎖DNAに転換する能力を特徴とする一本鎖RNAウイルスの群である(Coffin(1990年)「Retroviriae and their Replication」In Fields、Knipe編Virology.New York:Raven Press)。次いで、得られたDNAはプロウイルスとして細胞染色体に安定に組み込まれ、ウイルスタンパク質を調節合成する。組み込まれると、レシピエント細胞およびその子孫においてウイルス遺伝子配列が保有される。レトロウイルスゲノムは、それぞれカプシドタンパク質ポリメラーゼ酵素およびエンベロープ成分をコードする3種の遺伝子、gag、polおよびenvを含有する。gag遺伝子の上流で発見された配列はpsiと呼ばれ、ビリオンにゲノムをパッケージングするためのシグナルとして機能する。2つの長い末端反復(LTR)配列は、ウイルスゲノムの5’末端および3’末端に存在する。これらは、強いプロモーター配列およびエンハンサー配列を含有し、宿主細胞ゲノムへの組み込みにもまた必要とされる(Coffin(1990年)、上記)。
【0112】
レトロウイルスベクターを構築するために、複製欠損であるウイルスを作製するための特定のウイルス配列に代わって、対象となる核酸がウイルスゲノムに挿入される。ビリオンを作製するために、gag、polおよびenv遺伝子を含有するが、LTRおよびpsi成分を含有しないパッケージング細胞系が構築される(Mannら、(1983年)Cell 33:153ページ)。本発明の核酸を含有する組み換えプラスミドと、レトロウイルスのLTRおよびpsi配列とを一緒に、(例えばリン酸カルシウム沈殿によって)この細胞系に導入する場合、psi配列は組み換えプラスミドのRNA転写産物をウイルス粒子にパッケージング可能にし、その後培養培地に分泌する(NicolasおよびRubenstein(1988年)「Retroviral Vectors」、RodriguezおよびDenhardt編 Vectors:A Survey of Molecular Cloning Vectors and their Uses.Stoneham、ButterworthおよびTemin(1986年)「Retrovirus Vectors for Gene Transfer:Efficient Integration into and Expression of Exogenous DNA in Vertebrate Cell Genome」、Kucherlapati編 Gene Transfer.New York:Plenum Press;Mannら、1983年、上記)。その後、組み換えレトロウイルスを含有する培地が回収され、場合により濃縮され、遺伝子移入に使用される。レトロウイルスベクターは、広範囲の細胞型に感染できる。
【0113】
複製欠損レトロウイルスだけを産生する特殊化した細胞系(「パッケージング細胞」と呼ばれる)の開発は、遺伝子療法のためのレトロウイルスの有用性を増加させ、欠損レトロウイルスは遺伝子療法目的のための遺伝子移入への使用を特徴とする(再考察として、Miller,A.D.(1990年)Blood 76:271ページを参照されたい)。したがって、レトロウイルスコーディング配列(gag、pol、env)の一部が、ペプチドまたは本発明の類似体、例えばレトロウイルスに複製欠損をもたらす転写活性化因子をコードする核酸によって置換されている組み換えレトロウイルスが構築され得る。その後、複製欠損レトロウイルスはビリオンにパッケージングされ、このビリオンは、標準的技術によってヘルパーウイルスの使用を介して標的細胞を感染させるために使用できる。組み換えレトロウイルスの作製およびこのようなウイルスをin vitroまたはin vivoで細胞に感染させるためのプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel,F.M.ら(編)Greene Publishing Associates、(1989年)、Sections9.10〜9.14および他の標準的実験室マニュアルにおいて見出すことができる。
【0114】
適切なレトロウイルスの例は、pLJ、pZIP、pWEおよびpEMを含み、これらは当業者には公知である。例示的レトロウイルスベクターは、pSR MSVtkNeo(Mullerら、(1991年)Mol.Cell Biol.11:1785ページおよびpSR MSV(XbaI)(Sawyersら、(1995年)J.Exp.Med.181:307ページ)およびそれらの誘導体である。例えば、これらのベクター両方中の特有のBamHI部位は、ClacksonらによるWO96/41865に記載のように、ベクターをBamHIを用いて消化し、Klenowを用いて埋め、それぞれ、pSMTN2およびpSMTX2を作製するために再接合することによって除去できる。同種指向性および両種指向性両方のレトロウイルス系を調製するための適切なパッケージングウイルス系の例は、CripおよびCreを含む。
【0115】
レンチウイルスを含むレトロウイルスは、さまざまな遺伝子を、神経細胞、上皮細胞、網膜細胞、内皮細胞、リンパ球、筋芽細胞、肝細胞、骨髄細胞を含む多数の異なる細胞型にin vitroおよび/またはin vivoで導入するために使用されてきた(例えば、Federico(1999年)Curr.Opin.Biotechnol.10:448ページ;Eglitisら、(1985年)Science 230:1395〜1398ページ;DanosおよびMulligan、(1988年)PNAS USA 85:6460〜6464ページ;Wilsonら、(1988年)PNAS USA 85:3014〜3018ページ;Armentanoら、(1990年)PNAS USA 87:6141〜6145ページ;Huberら、(1991年)PNAS USA 88:8039〜8043ページ;Ferryら、(1991年)PNAS USA 88:8377〜8381ページ;Chowdhuryら、(1991年)Science 254:1802〜1805ページ;Kayら、(1992年)Human Gene Therapy 3:641〜647ページ;Daiら、(1992年)PNAS USA 89:10892〜10895ページ;Hwuら、(1993年)J.Immunol.150:4104〜4115ページ;米国特許第4,868,116号;米国特許第4,980,286号;PCT出願WO89/07136;PCT出願WO89/02468;PCT出願WO89/05345;およびPCT出願WO92/07573による再考察を参照されたい)。
【0116】
さらに、レトロウイルスの感染範囲およびその結果としてレトロウイルスに基づくベクターの感染範囲を、ウイルス粒子の表面上のウイルスパッケージングタンパク質を改変することによって、制限できることが示されている(例えば、PCT公開WO93/25234、WO94/06920およびWO94/11524を参照されたい)。例えば、レトロウイルスベクターの感染範囲の改変のための戦略は、細胞表面抗原に特異的な抗体と、ウイルスenvタンパク質とのカップリング(Rouxら、(1989年)PNAS USA 86:9079〜9083ページ;Julanら、(1992年)J.Gen Virol 73:3251〜3255ページ;およびGoudら、(1983年)Virology 163:251〜254ページ);または細胞表面リガンドと、ウイルスenvタンパク質とのカップリング(Nedaら、(1991年)J.Biol.Chem.266:14143〜14146ページ)を含む。カップリングは、タンパク質または他の種類との化学的架橋(例えば、envタンパク質をアシアロ糖タンパク質に転換するためのラクトース)の形態で、および融合タンパク質の作製(例えば、一本鎖抗体/env融合タンパク質)によって可能である。
【0117】
c)アデノ随伴ベクター
本発明の核酸の送達に有用な例示的ウイルスベクター系はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。ヒトアデノウイルスは、受容体媒介エンドサイト−シスによって細胞に進入する二本鎖DNAウイルスである。これらのウイルスは成長および操作しやすく、in vivoおよびin vitroで広い宿主範囲を示すので、これらのウイルスは、遺伝子移入に非常に適していると考えられている。アデノウイルスは、感染休止および標的細胞の複製ができ、宿主ゲノム中に組み込まれるのではなく染色体外で生存できる。AAVは、ディペンドウイルス属に属するヘルパー依存性DNAパルボウイルスである。AAVは、病理が公知ではなく、有効な複製および生産的なライフサイクルのために、別のウイルス、例えば、アデノウイルス、ワクチニアまたはヘルペスウイルスによって提供されるさらなるヘルパー機能がなくては複製できない。
【0118】
ヘルパーウイルスの不在下では、AAVはそのゲノムの宿主細胞染色体への挿入によって潜伏状態を確立する。ヘルパーウイルスによるその後の感染は、その後、感染性のウイルスの子孫を産生するために複製できる、組み込まれたコピーを救出する。野生型AAVウイルスとアデノウイルスまたはヘルペスウイルスのいずれかに由来するヘルパー機能との組み合わせは、複製可能な組み換えAVV(rAVV)を発生する。この系の1つの有利性は、その相対的な安全性である(再考察のために、Xiaoら、(1997年)Exp.Neurol.144:113〜124ページを参照されたい。
【0119】
AAVのゲノムは、およそ4681塩基を含有する線状の一本鎖DNA分子で構成される(BernsおよびBohenzky、(1987年)Advances in Virus Research(Academic Press、Inc.)32:243〜307ページ)。このゲノムは、各末端に、DNA複製の起点として、またウイルスのパッケージングシグナルとしてcisに機能する逆位末端反復(ITR)を含む。ゲノムの内部非反復部分は、それぞれAAVrepおよびcap領域として知られる、2つの大きなオープンリーディングフレームを含む。これらの領域は、複製およびビリオンのパッケージングに関与するウイルスタンパク質をコードする。AAVゲノムの詳細な説明のために、例えば、Muzyczka,N.(1992年)Current Topics in Microbiol. and Immunol.158:97〜129ページを参照されたい。
【0120】
300塩基対ほどの小さなAAVを含有するベクターは、パッケージングされ得、組み込まれ得る。外来DNAの空間は約4.7kbに制限され、これは、本発明のペプチドまたは類似体をコードする核酸の組み込みに十分である。Tratschinら、(1985年)Mol.Cell.Biol.5:3251〜3260ページに記載のようなAAVベクターは、DNAを細胞に導入するために使用できる。さまざまな核酸が、AAVベクターを使用して異なる細胞型に導入されてきた(例えば、Hermonatら、(1984年)PNAS USA 81:6466〜6470ページ;Tratschinら、(1985年)Mol.Cell.Biol.4:2072〜2081ページ;Wondisfordら、(1988年)Mol.Endocrinol.2:32〜39ページ;Tratschinら、(1984年)J.Virol.51:611〜619ページ;およびFlotteら、(1993年)J.Biol.Chem.268:3781〜3790ページを参照されたい)。
【0121】
rAAV構築体の構築および送達のための一般的方法は、当分野において公知であり、例えば、Barlett,J.S.ら、(1996年)、Protocols for Gene Transfer in Neuroscience; Towards Gene Therapy of Neurological Disorders、115〜127ページに記載されている。
【0122】
通常使用されるAAVに基づく発現ベクターは、利用可能な制限部位を直接使用するか、または制限酵素を用いる所望のヌクレオチド配列の除去、その後の末端の平滑化、適切なDNAリンカーのライゲーション、制限消化およびITRとの間の部位へのライゲーションによるかのどちらかで所望のヌクレオチド配列のサブクローニングに使用され得る、制限部位に隣接する145ヌクレオチドのAAV逆位末端配列(ITR)を含む。
【0123】
ヌクレオチド配列の組み込み、ヌクレオチド配列を含有する組み換えAAVベクターの増殖および精製ならびに細胞および哺乳動物のトランスフェクトへのその使用のための方法および材料を含む、本発明の実施に有用であると思われるAAV技術に関するさらなる詳細なガイダンスに関しては、例えば、Carterら、米国特許第4,797,368号(1989年1月10日);Muzyczkaら、米国特許第5,139,941号(1992年8月18日);Lebkowskiら、米国特許第5,173,414号(1992年12月22日);Srivastava,米国特許第5,252,479号(1993年10月12日);Lebkowskiら、米国特許第5,354,678号(1994年、10月11日);Shenkら、米国特許第5,436,146号(1995年7月25日);Chatterjeeら、米国特許第5,454,935号(1995年12月12日)、Carterら、WO93/24641(1993年12月9日公開)およびNatsoulis、米国特許第5,622,856号(1997年4月22日)を参照されたい。
【0124】
d)他のウイルス系
核酸の送達に使用され得る他のウイルスベクター系は、例えばヘルペスウイルス、例えば単純ヘルペスウイルス(Wooら、IJ St特許第5,631,236号、1997年5月20日発行およびNeurovexによるWO00/08191)ワクチニアウイルス(Ridgeway(1988年)Ridgeway、「Mammalian expression vectors」、Rodriguez R L、Denhardt D T編 Vectors:A survey of molecular cloning vectors and their uses.Stoneham:Butterworth,;BaichwalおよびSugden(1986年)「Vectors for gene transfer derived from animal DNA viruses:Transient and stable expression of transferred genes」、Kucherlapati R編 Gene transfer.New York:Plenum Press;Couparら、(1988年)Gene、68:1〜10ページ)およびいくつかのRNAウイルスに由来し得る。例示的ウイルスは、例えば、アルファウイルス、ポックスウイルス、ワクチニアウイルス、ポリオウイルスなどを含む。それらは、さまざまな哺乳動物細胞にとって魅力的な特徴をいくつかの提示する(Friedmann(1989年)Science、244:1275〜1281ページ;Ridgeway、1988年、上記;BaichwalおよびSugden、1986年、上記、;Couparら、1988年;Horwichら、(1990年)J.Virol.、64:642〜650ページ)。
【0125】
e)非組み込みウイルス、自己切断型/切り出し可能構築体およびプラスミドの標的体細胞への直接トランスフェクション
「自己切断型2Aペプチド」を組み込んだ、ポリシストロン性発現カセットからのすべての遺伝的能力決定因子の同時発現は、「リボソームスキッピング」を起こし、単一プロモーターから個々の因子が同程度に発現できる(Sommerら、Stem Cells.27:543〜549ページ、2008年;Careyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 106:157〜162ページ、2009年)。因子のペアを分離する配列内リボソーム進入配列(IRES)を用いて、感染細胞はすべての能力決定因子またはそのサブセットを発現できる。Careyら、(2009年、上記)は、IRES技術を用いずに、自己切断型2Aペプチドによって分離されたドキシサイクリン誘導因子を構築した。
【0126】
別の実施形態において、1種または複数の能力決定因子は、DNAトランスポゾンを使用して送達される。DNAトランスポゾンは、特異的「トランスポザーゼ」酵素によって切り出され、ゲノムの至る所に再組み込みされる、転移と呼ばれる現象の遺伝要素である。piggyBacは、TTAA配列を抱える転写DNAユニット中に優先的に挿入される、同義遺伝子ペイロードを抱えることができる、このようなトランスポゾンの1つである。個別またはポリシストロン性のドキシサイクリン誘導構築体の誘導は、トランスポザーゼを介した組み込みおよびその後の切り出しによって、ネズミおよびヒト線維芽細胞に送達され、四倍体胚補完法による妊娠中期胚への貢献を含む、多能性のすべての特質を示すiPS細胞を発生する(Woltjenら、Nature.458:766〜770ページ、2009年)。
【0127】
さらに、loxPが導入されたプロウイルス構築体は、その後のアデノウイルスを発現する一時的Creリコンビナーゼの感染を介して切り出され得る(Kajiら、Nature.458:771〜775ページ、2009年)。
【0128】
DNAに基づかないiPS作出方法
a)化学的取組み
一例において、能力決定因子は、ヒストンメチルトランスフェラーゼG9aの阻害剤であり、Oct4の代わりに、またはOct4に対する補完(例えば、Oct4の発現レベルを減少させる)として使用される。G9aの化学的阻害は、例えばEnzo Lifesciences社によるBIX−01294(BIX)を用いて達成でき、ヒストン3、リジン9のメチル化(H3K9me)により媒介されるOct4発現に対する拮抗作用を軽減しており、いくつかの細胞において、iPS細胞の誘導のためにウイルスにより送達されたOct4が完全に置換され得るShiら、Cell Stem Cell.2:525〜528ページ、2008年)。
【0129】
または、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)を使用し、G9aの発現をノックダウンする。このようなshRNAは、Oct4プロモーターの脱メチル化およびOct4発現の部分的再活性化をもたらすことが示されている(Maら、Stem Cells.26:2131〜2141ページ、2008年)。
【0130】
別の例において、L−チャネルカルシウムアゴニスト(例えば、Tocris BioscienceによるBayk8644)は、G9aアンタゴニスト(例えば、BIX)と組み合わせて使用され、Sox2およびcMycの代わりをする、または補完する(Shiら、Cell Stem Cell.3:568〜574ページ、2008年)。
【0131】
別の例において、能力決定因子はMEK阻害剤である。Oct4/Klf4感染後7から9日および数日の間(例えば5日間)連続する、体細胞周期の進行に関与するMEKの化学的阻害(例えば、Cayman ChemicalによるPD0325901を使用する)は、Oct4の発現が高い再プログラム化iPSコロニーの成長の強化をもたらす(Shiら、2008年、上記)。
【0132】
さらなる例において、能力決定因子はWnt3aである。細胞外Wnt3aは標的細胞における内因性cMycの発現のβ−カテニン媒介誘導を刺激でき、再プログラミング効率の劇的な改善をもたらす(Marsonら、2008年)。
【0133】
別の例において、能力決定因子はオカダ酸である。オカダ酸(OA)は、タンパク質セリン/トレオニンホスファターゼ2A(PP2A)の強力な阻害剤である。PP2AはcMyc中の特定のセリン残基を脱リン酸化し、ユビキチンにより制御された迅速な分解のためにそれを標的とし、さらにKlf4の増加を誘発し、順に、cMyc遺伝子発現の上方制御を誘発するcMycプロモーター中のOA応答性エレメントと結合する。EIFαの抑制を介した、翻訳に関するOAのさらなる阻害効果は、mRNA転写産物の初期蓄積およびその後のOA離脱に関するボーラス量の翻訳タンパク質の送達をもたらし得る。
【0134】
別の例において、能力決定因子はケンパウロンである。Oct4/Sox2/cMycレトロウイルス発現MEFがOct4選択可能なiPS細胞を発生するための、Klf4と広範囲のタンパク質キナーゼ阻害剤であるケンパウロンとの置換は、生殖細胞系コンピテントキメラに寄与できる(Lyssiotisら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 106:8912〜8917ページ、2009年)。
【0135】
さらなる例において、能力決定因子はヒストン(histine)脱アセチル化酵素阻害剤である。iPS細胞に対する、ネズミ線維芽細胞のiPS再プログラミング効率が100倍改善されることが、ヒストン脱アセチル化酵素活性の化学的阻害を介して観察されている(Huangfuら、Nat Biotech.26:795〜797ページ、2008年;Huangfuら、Nat Biotech.26:1269〜1275ページ、2008年)。例えば、バルプロ酸は、遺伝的再プログラミングの再プログラミング効率を改善する。
【0136】
さらなる例において、能力決定因子はDNAメチラーゼ阻害剤である。
【0137】
b)タンパク質の送達
低分子化合物の使用と同様に、タンパク質の送達は、その可逆性のため、iPS細胞作製のための魅力的な取組みである。
【0138】
一例において、タンパク質の能力決定因子は、細胞内(好ましくは核内)進入が容易になるように、タンパク質の形質導入ドメインに接合される。タンパク質の形質導入ドメインは当分野において公知であり、例えばポリアルギニン、HIV Tat基本的ドメイン、アンテナペディア(antannapedia)を含む(例えば、Jonesら、Br J Pharmacol.、145:1093〜102ページ、2005年に記載されている)。例えば、能力決定因子に連結されたポリアルギニン標的化配列を組み込む大腸菌(E .coli)により発現された組み換えタンパク質は、MEFをiPS細胞に転換できる。
【0139】
タンパク質を作製する方法は当分野において公知であり、および/またはSambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbour Laboratory Press(1989年)またはAusubelら(編)、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience(1988年、現在までのすべての改定を含む)に記載されている。
【0140】
c)遺伝子サイレンシング戦略
一例において、能力決定因子は、内因性遺伝子の発現をサイレンシングまたは減少させる核酸に基づく化合物である。
【0141】
一例において、能力決定因子はマイクロRNA(miRNA)である。miRNAは、主に配列特異的様式で標的転写産物との結合を介して多数の生物学的過程を制御する、一本鎖、非コーディングRNAである。miRNAは、まず一次転写産物として発現され、次いでRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と複合する活性miRNAを放出するめに切断され、翻訳の抑制を開始する。0日目のmiR−294のトランスフェクションおよび6日目のレトロウイルス感染後、cMycを75%の効率まで置換できる(Judsonら、Nat.Biotech.27:459〜461ページ、2009年)。
【0142】
Dnmt1のsiRNAノックダウンは、細胞が部分的再プログラム化から完全な再プログラム化へ超える援助ができ、再プログラミング効率は4倍に増加する(Mikkelsenら、Nature.454:49〜55ページ、2008年)。同様に、G9aの短鎖ヘアピンRNA(shRNA)によるノックダウン、着床後の胚におけるOct4の脱活性化に関与するヒストンメチルトランスフェラーゼは、vivoでのOct4プロモーターの脱メチル化および部分的再活性化をもたらす(上記を参照されたい)。Oct4/Sox2/Klf4感染と呼応したp53 siRNAの成人包皮線維芽細胞への添加は、単独またはさらなる処置と組み合わせて、効率を増加する(Zhaoら、Cell Stem Cell.3:475〜479ページ、2008年)。
【0143】
当業者は、適切なRNAに基づく化合物を承知しているであろう。例示的化合物は、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、PNA、干渉RNA、siRNA、短鎖ヘアピンRNA、マイクロRNAを含む。
【0144】
アンチセンスポリヌクレオチド
「アンチセンスポリヌクレオチド」という用語は、任意の実施形態において本明細書に記載のポリペプチドをコードする特定のmRNA分子の少なくとも一部に相補的であり、mRNA翻訳などの転写後事象に干渉できるDNAもしくはRNAまたはそれらの組み合わせを意味すると解釈されるべきである。アンチセンス法の使用は当分野において公知である(例えば、HartmannおよびEndres、Manual of Antisense Methodology、Kluwer(1999年)を参照されたい)。
【0145】
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、生理学的条件下で標的ポリヌクレオチドとハイブリダイズするであろう。アンチセンスポリヌクレオチドは構造遺伝子に一致する配列または遺伝子発現またはスプライシングの調節をもたらす配列を含む。例えば、アンチセンスポリヌクレオチドは、本発明の遺伝子の標的コーディング領域または5’非翻訳領域(UTR)もしくは3’−UTRまたはこれらの組み合わせに一致し得る。アンチセンスポリヌクレオチドは、イントロン配列と一部相補的であり得、これは転写の間または転写後、好ましくは標的遺伝子のエクソン配列だけにスプライシングされ得る。アンチセンス配列の長さは、標的核酸またはそれをコードする構造遺伝子の、少なくとも19の連続するヌクレオチド、好ましくは少なくとも50ヌクレオチドおよびより好ましくは少なくとも100、200、500または1000ヌクレオチドでなくてはならない。全遺伝子転写産物に相補的な完全長配列を使用できる。この長さは、最も好ましくは100〜2000ヌクレオチドである。標的転写産物に対するアンチセンス配列の同一性の程度は、少なくとも90%およびより好ましくは95〜100%でなくてはならない。
【0146】
触媒ポリヌクレオチド
「触媒ポリヌクレオチド/核酸」という用語は、異なる基質を特異的に認識し、この基質の化学的改変を触媒するDNA分子もしくはDNA含有分子(「デオキシリボザイム」または「DNAザイム」としても当分野において公知である)またはRNAもしくはRNA含有分子(「リボザイム」または「RNAザイム」としても公知である)を指す。触媒核酸中の核酸塩基は、A、C、G、T(RNAに関してはU)の塩基であり得る。
【0147】
通常、触媒核酸は、標的核酸および酵素活性を切断する核酸の特異的認識のためにアンチセンス配列(本明細書において「触媒ドメイン」とも称される)を含有する。本発明に特に有用であるリボザイムの型は、ハンマーヘッドリボザイムおよびヘアピンリボザイムである。
【0148】
RNA干渉
RNA干渉(RNAi)は、特定のタンパク質の作製を特異的に阻害するために有用である。理論に縛られることを好むわけではないが、Waterhouseら(1998年)は、dsRNA(二本鎖RNA)がタンパク質作製を減少させるために使用され得る機序のためのモデルを提供している。この技術は、対象となる遺伝子のmRNAと本質的に同一である配列またはその一部を含有するdsRNA分子の存在に頼る。好都合なことに、dsRNAは組み換えベクターまたは宿主細胞において単一プロモーターから作製され得、センス配列およびアンチセンス配列は、センス配列とアンチセンス配列とをハイブリダイズできる関連のない配列に隣接し、ループ構造を形成する関連のない配列とともにdsRNA分子を形成する。本発明にとって適切なdsRNA分子の設計および作製は、当業者の能力の十分範囲内であり、特にWO99/32619、WO99/53050、WO99/49029およびWO01/34815を考慮されたい。
【0149】
ハイブリダイズするセンス配列およびアンチセンス配列の長さは、個々に、少なくとも19の連続するヌクレオチド、好ましくは少なくとも30または50ヌクレオチドおよびより好ましくは少なくとも100、200、500または1000ヌクレオチドでなくてはならない。全遺伝子転写産物に一致する完全長配列を使用できる。この長さは、最も好ましくは100〜2000ヌクレオチドである。標的転写産物に対するセンス配列およびアンチセンス配列の同一性の程度は、少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%およびより好ましくは95〜100%でなくてはならない。
【0150】
好ましい低分子干渉RNA(「siRNA」)分子は、標的mRNAの約19〜23の連続するヌクレオチドと同一であるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、siRNA配列ジヌクレオチドAAで始まり、約30〜70%(好ましくは30〜60%、より好ましくは40〜60%およびより好ましくは約45%〜55%)のGC含有量を含み、例えば標準的BLAST検索によって決定して、導入される哺乳動物ゲノム中の標的以外の任意のヌクレオチド配列に対して高い割合の同一性を有さない。
【0151】
培養条件
多能性細胞および/または再プログラム化細胞および/または再プログラミングを受けた細胞は、多能性細胞の成長を支えるのに使用される任意の培地において培養され得る。典型的な培養培地は、限定するものではないが、TeSR(商標)(StemCell Technologies, Inc.; Vancouver、Canada)、mTeSR(商標)(StemCell Technologies,Inc.)およびStemLine(登録商標)無血清培地(Sigma;St.Louis、MO)などの合成培地、ならびにマウス胎児線維芽細胞(MEF)馴化培地などの馴化培地を含む。さらなる培地は、塩基性培地、例えば、KoSR(Invitrogen Corporation)を補充したDMEMまたはDMEM−F12を含む。または、Silvaら、PLOS Biology、6:e253、2008年は、例えば、MAPKシグナル伝達およびグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3のシグナル伝達の阻害剤ならびに白血病阻止因子(LIF)を含む、再プログラム化細胞の作製および未分化状態の再プログラム化細胞の維持に有用な培地を記載している。本明細書において使用する場合、「規定培地」は、単に生物化学的構成成分だけからなる生物化学的に規定された製剤を指す。規定培地はまた、既知の化学組成を有する構成成分だけを含み得る。規定培地は、既知の供給源に由来する構成成分をさらに含み得る。本明細書において使用する場合、「馴化培地」は、この培地において培養された細胞由来の可溶性因子をさらに補充した成長培地を指す。または、細胞は培養培地においてMEF上で維持されてもよい。
【0152】
細胞培養は、好ましくは加湿インキュベータにおいて約37℃でインキュベートされる。細胞培養条件は、本発明の細胞のために大幅に変動し得るが、いくつかの実施形態において、細胞は、細胞成長に適切な、例えば空気中に5%O、10%CO、85%Nを含む、または10%COを含む環境において維持される。
【0153】
別の実施形態において、細胞は、マトリックス、例えば細胞外マトリックス、例えばMatrigel(商標)、ラミニン、コラーゲン、Culturex(登録商標)などの上または内部で培養される。他の実施形態において、細胞は、細胞外マトリックスの存在下で培養され得る。このようなマトリックスの存在下で細胞を増殖させる適切な手順は、例えば米国特許第7,297,539号に記載されている。
【0154】
細胞の単離または濃縮
下記の方法は、例えば、本明細書に記載のマーカーまたは当分野において公知のマーカーを検出することによる、Stro−1細胞および/または再プログラム化細胞/多能性細胞の単離または濃縮にとって有用である。
【0155】
所望の細胞を濃縮する例示的一手法は、磁気ビーズ細胞分取法(MACS)または他の任意の磁気を利用する細胞分取法、例えばDynabeads(登録商標)である。従来のMACS手順は、Miltenyiら(Cytometry11:231〜238ページ、1990年)に記載されている。この手順において、細胞は抗体または細胞表面マーカーもしくはタンパク質と結合する他の化合物に結合された磁気ビーズで標識され、細胞は、常磁性分離カラムを通される、または磁場の別の形態に曝露される。分離カラムは強力な磁石内に配置され、その結果、カラム内に磁場が発生する。磁気的に標識された細胞は、カラム内に捕捉され、通過しない。捕捉された細胞は、その後カラムから溶出される。
【0156】
本発明の細胞は、上記のように、例えば適切な肉体的保有宿主から、適切なタンパク質を発現する細胞を分離するためのMACSを使用して濃縮され得る。試料はタンパク質と結合する免疫磁性ビーズと一緒にインキュベートされる。インキュベーション後、試料は洗浄され、再懸濁され、磁場を通過させられ、免疫磁性ビーズに結合された細胞が取り除かれ、ビーズに結合された細胞が回収される。これらの技術は陰性選択、例えば、望ましくないマーカー、すなわち望ましくない細胞を発現する細胞の除去に同様に適用できる。このような方法は、細胞集団を、望ましくない細胞型(複数可)において検出可能なレベルで発現された細胞表面マーカーと結合する化合物で標識された磁性粒子と接触させるステップを含む。インキュベーション後、試料は洗浄され、再懸濁され、磁場を通過させられ、免疫磁性ビーズに結合された細胞が取り除かれる。ビーズに結合された細胞が回収される。望ましくない細胞型(複数可)を失った残存細胞が、その後回収される。
【0157】
別の実施形態において、タンパク質または細胞表面マーカーと結合する化合物は、固体表面に固定され、細胞集団をそれと接触させる。未結合細胞を除去するための洗浄後、この化合物と結合した細胞は回収、例えば溶出され得、その結果化合物が結合するタンパク質を発現する細胞が単離または濃縮される。または所望であれば、化合物と結合しない細胞を回収できる。
【0158】
好ましい実施形態において、細胞は、蛍光標識細胞分取(FACS)を使用して単離または濃縮される。FACSは、粒子の蛍光特性に基づく、細胞を含む粒子を分離するための公知の方法であり、例えばKamarch,Methods Enzymol,151:150〜165ページ、1987年に記載されている。一般的に、この方法は、細胞集団を、1種または複数のタンパク質または細胞表面マーカーと結合できる化合物と接触させるステップを含み、異なるマーカーと結合する化合物は、さまざまな蛍光部分、例えば、蛍光色素分子を用いて標識される。細胞は、液体の狭く、速い流れの中心に同調される。この流れは、それらの直径に関連して細胞間を分離するように構成される。振動機序は、細胞の流れを引き起こし、個別の液滴に分ける。この系は、液滴中に複数の細胞が存在する可能性が低いように調節される。流れが液滴に分かれる直前に、流れは、個々の細胞の対象となる蛍光特徴、例えば、標識化合物が結合されているかどうかが測定される蛍光測定ステーションを通過する。帯電リングは、流れが液滴に分かれるポイントに配置される。蛍光強度測定の直前に基づく電荷はリング上に配置され、液滴は流れから分離するので、対立する電荷は液滴上に捕捉されている。帯電した液滴は、その後液滴を迂回させる静電偏向方式を介して、それらの電荷に基づいて容器に落とされる、例えば、標識化合物が細胞に結合されている場合1つの容器に、そうでない場合は別の容器に落とされる。いくつかの系において、電荷は、流れに直接印加され、分かれる液滴は流れと同じ符号の電荷を保有する。この流れは、その後、液滴の分離後中性に戻る。
【0159】
細胞の分化
本発明の再プログラム化細胞または多能性細胞は、さまざまな商業的および治療的に重要な組織型の集団を調製するために使用できる。一般に、このことは、細胞を所望の数に増殖させることによって達成される。その後、任意のさまざまな分化戦略に従って分化が引き起こされる。例えば、神経系列の細胞の高度に濃縮された集団は、細胞を、1種もしくは複数のニュートロフィン(ニュートロフィン3または脳由来の神経栄養因子など)、1種もしくは複数のマイトジェン(上皮成長因子、bFGF、PDGF、IGF1およびエリスロポエチンなど)または1種もしくは複数のビタミン(レチノイン酸、アスコルビン酸など)を含有する培養培地に変えることによって作製できる。または、多分化能神経幹細胞は、胚様体段階を介して作製でき、bFGFを含有する化学的規定培地において維持できる。培養された細胞は、場合により、それらが神経前駆体細胞マーカー、例えば、ネスチン、Musashi、ビメンチン、A2B5、nurr1またはNCAMを発現するかどうかに基づいて分離される。このような方法を使用して、(成熟ニューロンを含む)神経細胞および(星状細胞および乏突起膠細胞を含む)グリア細胞の両方を作製する能力を有する神経前駆細胞/幹細胞を得ることができる。または、分化細胞集団を形成する能力を有する複製ニューロン前駆体を得ることができる。
【0160】
肝細胞系列のマーカーが高度に濃縮された細胞は、n−ブチレートなどのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の存在下で幹細胞を培養することによって再プログラム化細胞または多能性細胞から分化され得る。培養された細胞は、場合により、EGF、インスリンまたはFGFなどの肝細胞成熟因子と一緒に同時にまたは連続して培養される。
【0161】
再プログラム化細胞または多能性細胞はまた、心筋細胞の特徴的マーカーおよび自然発生的周期的収縮活性を有する細胞を作製するために使用され得る。この方法における分化は、(5−アザ−デオキシ−シチジンなどの)DNAのメチル化をもたらすヌクレオチド類似体、成長因子および骨形態形成タンパク質によって容易になる。細胞は、密度に基づく細胞分離によってさらに濃縮され得、クレアチン、カルニチンおよびタウリンを含有する培地において維持され得る。
【0162】
再プログラム化細胞または多能性細胞は、骨形態形成タンパク質(BMP)、ヒトTGF−ベータ受容体に対するリガンド、またはヒトビタミンD受容体に対するリガンドを含有する培地において、間葉細胞または軟骨形成細胞への分化を対象とし得る。培地は、デキサメタゾン、アスコルビン酸−2−リン酸ならびにカルシウムおよびリン酸塩の供給源をさらに含み得る。好ましい実施形態において、誘導細胞は、骨芽細胞系列の細胞の表現型特徴を有する。
【0163】
以上から理解されるように、再プログラム化細胞または多能性細胞に由来する分化細胞は、それを必要とするヒト患者において組織再構成または再生のために使用することもできる。この細胞は、それを意図される組織部位に接合し、機能的に欠損した領域を再構成または再生できる様式で投与される。例えば、神経前駆体細胞は、治療される疾患に従って、中枢神経系の実質部位または髄腔内部位に直接移植できる。神経細胞移植の有効性は、McDonaldら、((1999年)Nat.Med.、5巻:1410ページ)およびKimら、((2002年)Nature、418巻:50ページ)に記載されるように、激しく損傷した脊髄に関してラットモデルにおいて評価され得る。移植の成功により、2〜5週間後に病変に存在する、星状細胞、乏突起膠細胞および/またはニューロンに分化し病変の終わりから脊髄に沿って遊走する、移植由来細胞および歩き方、協調および体重支持における改善が示される。
【0164】
同様に、本出願の代理人は、骨折または軟骨損傷の治療のために間葉幹細胞を投与する有用性を実証している。
【0165】
同様に、心筋細胞の有効性は、心外傷または機能不全の適切な動物モデル、例えば、治療をしなければ左心室壁組織の約55%が瘢痕組織になる心臓の低温傷害(cryoinjury)に関する動物モデルにおいて評価され得る(Liら、(1996年)、Ann.Thorac.Surg.、62巻:654ページ;Sakaiら、(1999年)、Ann.Thorac.Surg.、8巻:2074ページ;Sakaiら、(1999年)、J.Thorac.Cardiovasc.Surg.、118巻:715ページ)。治療の成功により、瘢痕範囲が減少し、瘢痕の拡大が制限され、収縮、拡張および発生圧力によって決定される心機能が改善されると思われる(Kehatら、(2004年))。心外傷は、例えば、左下行前動脈の遠位部において塞栓コイルを使用しても(Watanabeら、(1998年)、Cell Transplant.、7巻:239ページ)、または左冠動脈前下行枝の結紮(Minら、(2002年)、J.Appl.Physiol.、92巻:288ページ)によってもまたモデル化できる。治療の有効性は、組織構造および心機能により評価し得る。本発明に具体化される心筋細胞調製品は、心筋の再生のための療法および心機能不足の治療に使用され得る。
【0166】
肝機能もまた、例えば本発明に従って成長させた霊長類多能性幹細胞から分化した、肝細胞および肝細胞前駆体を投与することによって回復できる。これらの分化細胞は、肝損傷の修復能力に関して動物モデルにおいて評価され得る。このような一例は、D−ガラクトサミンの腹腔内注射によって引き起こされる損傷である(Dabevaら、(1993年)、Am.J.Pathol.、143巻:1606ページ)。治療の有効性は、肝細胞マーカーに関する免疫組織化学的染色、細管構造が成長組織において形成されるかどうかの顕微鏡的決定および肝臓特異的タンパク質の合成を回復するための治療能力によって決定され得る。肝細胞は、直接投与によって、または例えば劇症肝不全の後に対象の肝組織がそれ自体を再生する間に一時的に肝機能を提供する生物補助(bioassist)デバイスの一部として、療法に使用され得る。
【0167】
細胞組成物
本発明の一例において、再プログラム化細胞または多能性細胞および/またはそれから分化した細胞は、組成物の形態で投与され、またはこのような組成物に製剤化される。好ましくは、このような組成物は、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を含む。
【0168】
「担体」および「賦形剤」という用語は、保管、投与および/または活性化合物の生物活性を容易にするために当分野において従来から使用される組成物を指す(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、16版、Mac Publishing Company(1980年を参照されたい)。担体は、活性化合物の任意の望ましくない副作用を減少することもできる。適切な担体は安定である、例えば担体中の他の原料と反応できない。一例において、担体は、治療に用いた投与量および濃度で、レシピエントにおいて有意な局所的または全身性の有害な影響を起こさない。
【0169】
本発明にとって適切な担体は、従来から使用されている担体を含み、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンガー液、緩衝化溶液、ヒアルロン酸およびグリコールが、(等張の場合)特に溶液のために好ましい液体担体である。適切な医薬担体および賦形剤は、デンプン、セルロース、ブドウ糖、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、白亜、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート(glycerol monostearate)、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどを含む。
【0170】
別の例において、担体は、例えば、細胞が成長する、または懸濁される培地組成物である。好ましくは、このような培地組成物は投与された対象において任意の有害な影響を誘導しない。
【0171】
好ましい担体および賦形剤は、細胞の生存能力および/または生物学的効果および好ましくは有利な影響を発揮する細胞の能力に有害に影響を及ぼさない。
【0172】
一例において、担体または賦形剤は緩衝活性を提供し、細胞および/または可溶性因子を適切なpHで維持し、その結果生物活性を発揮する、例えば、担体または賦形剤はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)である。PBSは細胞および因子との相互作用が最小であり、細胞および因子の迅速な放出を可能にし、このような場合本発明の組成物は、血流または組織または組織周囲の領域もしくは組織に隣接する領域に、例えば、注射により直接適用するための液体として作製できるので、PBSは魅力的な担体および賦形剤を代表する。
【0173】
再プログラム化細胞または多能性細胞および/またはそれから分化した細胞は、レシピエント適合性であり、レシピエントに対して害がない生成物に分解する足場内に組み込む、または埋め込むこともできる。これらの足場は、レシピエント対象に移植された細胞に支持および保護を提供する。天然および/または合成の生分解性足場はこのような足場の例である。
【0174】
さまざまな異なる足場が本発明の実施に成功して使用され得る。好ましい足場は、限定するものではないが、生物学的に分解可能な足場である。天然の生分解性足場は、コラーゲン、フィブロネクチンおよびラミニンの足場を含む。細胞移植の足場に適切な合成材料は、大規模な細胞成長および細胞機能を支持できなければならない。このような足場は、さらに再吸収され得る。適切な足場は、例えば、Vacantiら、J.Ped.Surg.23:3〜9ページ 1988年;Cimaら、Biotechnol.Bioeng.38:145ページ1991年;Vacantiら、Plast.Reconstr.Surg.88:753〜9ページ 1991年により記載されたポリグリコール酸足場またはポリ酸無水物、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などの合成ポリマーを含む。
【0175】
別の例において、細胞は、(Upjohn CompanyによるGelfoamなどの)ゲル足場において投与され得る。
【0176】
本発明に有用な細胞組成物は、単独または他の細胞との混合物として投与され得る。本発明の組成物と併せて投与され得る細胞は、限定するものではないが、他の多分化能細胞もしくは多能性細胞または幹細胞または骨髄細胞を含む。異なる型の細胞は、投与直前または少し前に本発明の組成物と混合され得る、または投与前の期間一緒に共培養され得る。
【0177】
好ましくは、組成物は、有効量または治療もしくは予防有効量の細胞を含む。例えば、組成物は、約1×10の再プログラム化細胞または多能性細胞および/またはそれから分化した細胞/kgから約1×10の再プログラム化細胞または多能性細胞および/またはそれから分化した細胞/kg、あるいは、約1×10再プログラム化細胞または多能性細胞および/またはそれから分化した細胞/kgから約5×10の再プログラム化細胞または多能性細胞および/またはそれから分化した細胞/kgを含む。投与される細胞の正確な量は、患者の年齢、体重および性別を含むさまざまな因子および治療される障害の程度および重症度に依存する。
【0178】
いくつかの実施形態において、細胞は、細胞が対象の循環に出ることができないが、細胞によって分泌される因子は循環に進入できるチャンバー内に含有される。この様式において、細胞が、対象の循環内に因子を分泌可能にすることによって可溶性因子は対象に投与され得る。このようなチャンバーは、可溶性因子の局所レベルを増加するために対象中の部位に同様に埋め込まれ得る。
【0179】
本発明のいくつかの実施形態において、細胞組成物による療法の開始前に、必ずしも患者を免疫抑制する必要はなく、または望ましいとも思われない。したがって、同種間または異種間の移植であっても、再プログラム化細胞または多能性細胞および/またはそれから分化した細胞は、ある場合においては容認され得る。
【0180】
しかし、他の場合において、細胞療法の開始前に患者を薬理学的に免疫抑制することが望ましいまたは適切であると思われる。このことは、免疫抑制剤の全身性または局所的使用を介して達成され得る、または細胞をカプセル化デバイスにおいて送達することによって達成され得る。細胞は、細胞および治療因子によって必要とされる栄養および酸素に対して浸透性であるカプセルにカプセル化され得るが、細胞は、免疫液性の因子および細胞に対して未だ不浸透性である。好ましくは、カプセルの材料は低アレルギー性であり、標的組織中に容易かつ安定に位置し、埋め込み構造に追加の保護を提供する。移植細胞に対する免疫反応を減少させる、または除去するこれらおよび他の手段は、当分野において公知である。別の方法として、細胞は、その免疫原性を減少するように遺伝子改変され得る。
【0181】
スクリーニング方法
本発明は、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞の再プログラミングを誘導または強化する化合物を特定または単離する方法をさらに提供し、前記方法は、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞と化合物とを、一時の間、および化合物が再プログラミングを誘導または強化する場合に再プログラミングが起こるために十分な条件下で接触させるステップ、および細胞が再プログラム化されるかどうかを決定するステップを含む。
【0182】
一例において、本方法は、
(i)Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞が濃縮された集団と化合物とを、一時の間、および化合物が再プログラミングを誘導または強化する場合に再プログラミングが起こるために十分な条件下で接触させ、再プログラム化細胞の数を決定するステップ;ならびに
(ii)化合物と接触させられたことのないStro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞が濃縮された集団中の再プログラム化細胞の数を決定するステップ
を含み、
(ii)と比較して(i)において再プログラム化細胞の数が増加することが、化合物がStro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞の再プログラミングを誘導または強化したことを示す。
【0183】
一例において、本方法は、例えば本明細書に記載された1種または複数の能力決定因子の存在下で実施される。
【0184】
本発明は、再プログラム化細胞または多能性細胞の所望の細胞型への分化を誘導または強化する化合物を特定または単離する方法をさらに提供し、前記方法は、任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法を実施することによって作製された再プログラム化細胞または多能性細胞を接触させるステップ、および細胞が所望の細胞型に分化しているかどうかを決定するステップを含む。
【0185】
好ましくは、本方法は、
(i)任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法を実施することによって作製された再プログラム化細胞または多能性細胞が濃縮された集団と化合物とを、一時の間、および細胞の分化が起こるために十分な条件下で接触させ、所望の細胞型の細胞数を決定するステップ、ならびに
(ii)同じ条件であるが化合物が不在の下で、任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法を実施することによって作製された再プログラム化細胞または多能性細胞を培養することによって作製された所望の細胞型の数を決定するステップ
を含み、
(ii)と比較して(i)において所望の細胞型の細胞数が増加することが、化合物が所望の細胞型への分化を誘導または強化したことを示す。
【0186】
本発明は、病態を治療するために有用な化合物を特定または単離する方法をさらに提供し、本方法は、
(i)任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法を実施し、病態を患う対象から多能性細胞またはその集団を作製するステップ、
(ii)細胞または集団を被験化合物と接触させ、病態の1種または複数の症状に関するその効果を決定するステップ
を含み、
病態の症状を改善または緩和する化合物が病態の治療に有用である。
【0187】
一例において、本方法は、
(a)多能性細胞またはその集団を、病態の影響を受ける細胞に分化させるステップ、および
(b)(a)細胞と被験化合物を接触させ、病態の1種または複数の症状に関するその効果を決定するステップ
を含み、病態の症状を改善または緩和する化合物が病態の治療に有用である。
【0188】
このような方法は、病態の治療のための新規な化合物を特定または単離するためだけに有用ではなく、さらに、対象が既存の治療用/予防用化合物を用いた治療に応答する可能性があるかないかを特定するためにも有用である。
【0189】
当業者は、例えば、本明細書の開示および/または適切な病態および/またはその病態の症状に基づく、細胞を分化させる適切な方法を承知していると思われる。例えば、病態は、嚢胞性線維症であり、症状は肺細胞からの分泌であるか、または神経変性病態(例えば、アルツハイマー病またはハンチントン病)および症状は神経変性またはプラーク/細胞内凝集体の形成であるか、または心臓の病態および症状は心筋細胞の収縮である。
【0190】
本発明は、細胞または組織型に対して毒性が減少した化合物を特定する方法、例えば、毒性の危険性が減少した治療用化合物を決定する方法をさらに企図する。例えば、本発明は、
(i)任意の実施形態に従って本明細書に記載の方法を実施し、多能性細胞またはその集団を作製するステップ、
(ii)多能性細胞またはその集団を、1種または複数の特定の系列の細胞および/または組織に分化させるステップ、
(iii)この細胞と被験化合物とを接触させるステップ、ならびに
(iv)細胞の生存能力および/または増殖に対する化合物の効果を決定するステップ
を含み、
細胞または細胞集団の有意な割合を殺さない、または増殖を減少させない化合物が、毒性が減少していると考えられる方法を提供する。
【0191】
例示的分化細胞は、血液細胞、肝細胞、腎細胞および心臓細胞である。
【0192】
細胞の生存能力および/または増殖に対する化合物の効果を決定する方法は、当分野において公知であり、ターミナル・デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ媒介ビオチン化UTPニック末端標識(TUNEL)アッセイ、トリパンブルー色素排除アッセイ、MTTアッセイ、チミジン取り込みアッセイまたはBrdU取り込みアッセイを含む。
【0193】
当業者は、本発明が、任意の実施形態に従って本明細書に記載の細胞を使用して化合物を特定および/または単離するさまざまな方法を包含することを、前述より承知していると思われる。スクリーニングに適切な化合物は、例えば、抗体、ペプチドまたは小分子を含む。
【0194】
本発明は、特定または単離された化合物に関する情報の供給を、さらに提供する。したがって、スクリーニング方法は、
(i)場合により、化合物の構造を決定するステップ、ならびに
(ii)化合物または化合物の名称もしくは構造を、例えば文書の形態、機械による読み込み可能な形態またはコンピューターに読み込み可能な形態などで提供するステップ
によりさらに改変される。
【0195】
必然的に、公知であるが本発明により提供されたスクリーニングを使用してその機能をいままでに試験されていない化合物については、化合物の構造の決定は黙示的(implicit)である。当業者は、スクリーニングの実施時に、化合物の名称および/または構造を承知していると思われるからである。
【0196】
本明細書において使用する場合、「化合物を提供する」という用語は、前記化合物を作製するための任意の化学的または組み換えの合成手段、または任意の人または手段により今までに合成されている化合物の供給を含むと解釈されるべきである。これは、化合物の単離を明らかに含む。
【0197】
好ましい実施形態において、化合物または化合物の名称もしくは構造は、例えば、本明細書に記載のスクリーニングにより決定されたその使用に関する指示と一緒に提供される。
【0198】
スクリーニングアッセイは、
(i)場合により、化合物の構造を決定するステップ、
(ii)場合により、化合物の名称もしくは構造を、例えば文書の形態、機械による読み込み可能な形態またはコンピューターに読み込み可能な形態などで提供するステップ、ならびに
(iii)化合物を提供するステップ
によりさらに改変され得る。
【0199】
好ましい実施形態において、合成化合物またはこの化合物の名称もしくは構造は、例えば、本明細書に記載のスクリーニングにより決定されたその使用に関する指示と一緒に提供される。
【0200】
一実施形態において、化合物は化合物のライブラリーで提供され、ライブラリーの1つ1つ、またはライブラリーのサブセットは他のメンバーから分離され得る(すなわち、物理的に単離される)。このような場合、化合物はその同定によりライブラリーから単離され、その同定により、その後、例えばライブラリーの他のメンバーの不在下で、当業者が、例えばその化合物を単離して作製することが可能になる。
【0201】
本発明を、以下の限定されない実施例においてさらに説明する。
【実施例1】
【0202】
Stro−1+多分化能前駆細胞からの再プログラム化細胞の作製
1.1 Stro−1多分化能前駆細胞を濃縮した集団
Stro−1多分化能前駆細胞は、骨髄、脂肪組織および歯髄組織を含むさまざまな組織から得られる。異なる部位に由来するStro−1多分化能前駆細胞の再プログラミング効率を比較するために、本質的にGronthosおよびZannettino Methods Mol Biol.449:45〜57ページ(2008年)に記載のように、これらの組織それぞれに由来する細胞を、STRO3 mAbを使用する免疫選択によってStro−1Bright細胞を濃縮し、その後、培養により増殖し、ProFreezeTM−CDM(Lonza、USA)において凍結保存する。異なる免疫選択法を使用して、同じ部位に由来するStro−1多分化能前駆細胞の再プログラミング効率を比較するために、同じドナー由来の対を成す骨髄試料を、STRO3またはSTRO1mAbのいずれかを使用する免疫選択によってStro−1Bright細胞を濃縮し、培養により増殖し、ProFreezeTM−CDM(Lonza、USA)において凍結保存する。すべての研究に関して、第4継代の細胞を解凍し、即時使用のためにビヒクルにおいて構成する。
【0203】
1.2 レンチウイルスベクターのパッケージングおよび作製
導入遺伝子発現レンチウイルスベクターを、293FT細胞系(Invitrogen)において作製する。293Tは、形質転換された293胎児腎細胞に由来する、成長が速く、高度に移入可能なクローンの変異体であり、より高いウイルス価に寄与するパッケージングタンパク質の高レベル発現のために、ラージT抗原を含有する。常法としての維持および増殖のために、これらの細胞を、293FT培地(DMEM/10%FBS、2mMのL−グルタミンおよび0.1mMのMEM非必須アミノ酸)において500μg/mlのジェネテシンの存在下で培養する。パッケージングのために、293FT細胞を、トリプシン処理によって収集する。遠心分離によりトリプシンを除去後、これらの細胞を、ジェネテシンを含まない293FT培地において、T75フラスコにアリコートに分ける(15×10細胞/フラスコおよび6フラスコ/構築物)。
【0204】
レンチウイルスベクターおよび2つのヘルパープラスミドの共トランスフェクションを、細胞をアリコートに分けた直後にSuperfect(登録商標)トランスフェクション試薬(Qiagen)を用いて実施する。翌日、トランスフェクション混合物を含有する培養培地を、1mMのピルビン酸ナトリウム(8ml/フラスコ)を補充した新鮮な293FT培地に取り換える。レンチウイルス含有上清を形質導入の約48から72時間後に収集する。293FT細胞の残渣(debris)を、4℃において15分間の遠心分離によって上清から除去する。レンチウイルスを濃縮するために、0.4μMの酢酸セルロース(CA)膜(Cornington、115ml 低タンパク質結合)を通して上清をろ過し、70mlの滅菌ボトル(Beckman、カタログ番号355622、45Tiローターだけのためのポリカーボネート)において、40℃において2.5時間超遠心分離にかける。上清の除去後、PBS(各構築物に関して約300μl)を加え、40℃において8から14時間、または室温において2時間、遠心管を振動させることによってペレットを再懸濁する。残存する細胞残渣を遠心分離により除去し、再懸濁したレンチウイルスをアリコートに分け、−80℃において保管した。レンチウイルスは、1種または複数の能力決定因子をコードする配列を担持する。
【0205】
1.3 レンチウイルス形質導入後の細胞の再プログラミングおよび能力決定因子の発現
1種または複数の能力決定因子(例えば、Oct4;またはOct4とSox2の組み合わせ;またはOct4、Sox2と、NanogおよびLin28のうちの少なくとも1つとの組み合わせ;またはOct4、Klf4およびc−Mycの組み合わせ;またはOct4、Sox2およびKlf4の組み合わせ;またはOCT4、Sox2、Klf4およびc−Mycの組み合わせ;またはOct4、Sox2、NanogおよびLin28の組み合わせ;またはOct4、Sox2、Klf4、c−Myc、NanogおよびLin28の組み合わせ)をコードするレンチウイルスを、最終濃度約6μg/ml(Sigma)でポリブレン担体を加えた後、細胞培養液に加える。
【0206】
翌日レンチウイルス含有培地を新鮮な培地に取り換え、細胞を適切な培地においてさらに培養する。必要に応じて、形質導入の3日後に薬剤選択を開始する。
【0207】
体細胞を因子に曝露した前後に、細胞分取法を使用して細胞を分析する。接着細胞を、トリプシン処理(0.05%のトリプシン/0.5mMのEDTA、Invitrogen)により解離させ、2%のパラホルムアルデヒド中で室温において20分間固定する。細胞を、40μmのメッシュを通してろ過し、FACS緩衝液(2%のFBSおよび0.1%のアジ化ナトリウムを含有するPBS)に再懸濁する。懸濁液において成長した細胞を、1mMのEDTAおよび1%の正常マウス血清(Sigma)を補充したFACS緩衝液において染色した。細胞内ミエロペルオキシダーゼ(MPO)染色を、Fix & Perm(登録商標)試薬(Caltag Laboratories;Burlingame、CA)を使用して実施する。5×10細胞を含有する約100μlの細胞懸濁液を、個々の標識に使用する。(必要に応じて)一次抗体および二次抗体の両方のインキュベーションを室温において約30分間実施する。対照試料を、アイソタイプ一致対照抗体を用いて染色する。洗浄後、細胞を約300〜500μlのFACS緩衝液に再懸濁し、FACSCaliburフローサイトメーター(BDIS;San Jose、CA)において、Cell Quest(商標)acquisitionおよび分析ソフトウェア(BDIS)を使用して分析する。合計で20,000事象(event)が得られる。検出されたマーカーは、SSEA−3、SSEA−3、SSEA−4、Tra−1−60、Tra−1−81、CD29、Tra−1−85、CD56、CD73、CD105、CD31またはCD34から選択される。
【0208】
いくつかの形質導入およびその後の培養において、細胞はバルプロ酸の存在下(in the presence or valproic acid)で維持する。
【0209】
EBおよび奇形腫の形成をさらに使用して、再プログラム化細胞が3種すべての一次胚葉の分化誘導体を生じるための発生能を有することを実証する。
【実施例2】
【0210】
Stro−1+多分化能前駆細胞からの再プログラム化細胞の作製
2.1 材料および方法
Stro−1+多分化能細胞を濃縮した集団
Stro−1多分化能前駆細胞が濃縮された細胞集団を、骨髄、脂肪組織および歯髄組織から得た。異なる部位に由来するStro−1多分化能前駆細胞の再プログラミング効率を比較するために、本質的にGronthosおよびZannettino Methods Mol Biol.449:45〜57ページ(2008年)に記載のように、これらの組織それぞれに由来する細胞を、STRO3 mAbを使用する免疫選択によってStro−1Bright細胞を濃縮し、その後、培養により増殖し、ProFreezeTM−CDM(Lonza、USA)において凍結保存した。異なる免疫選択法を使用して、同じ部位に由来するStro−1多分化能前駆細胞の再プログラミング効率を比較するために、同じドナー由来の対を成す骨髄試料を、STRO3またはSTRO1mAbのいずれかを使用する免疫選択によってStro−1Bright細胞を濃縮し、培養により増殖し、ProFreezeTM−CDM(Lonza、USA)において凍結保存した。すべての研究に関して、第4継代の細胞を解凍し、即時使用のためにビヒクルにおいて構成した。
【0211】
細胞系
ウイルスパッケージング細胞である、プラチナ−A(Plat−A)細胞を、Cell Biolabs,Inc.Detroit 551から得、線維芽細胞は実験のための陽性対照であった。
【0212】
レトロウイルスの作製およびiPS細胞の発生
OCT4、SOX2、KLF4およびcMYCのヒトcDNAを含有する、モロニーに基づくレトロウイルスベクター(pMX)を、Addgeneから得た。9μgの各プラスミドを、Fugene6(Roche)を使用して、ウイルスパッケージングPlat−A細胞にトランスフェクトした。ウイルス含有上清を、トランスフェクトの48時間後及び72時間後に収集し、孔径0.45μmのフィルターを通してろ過し、4μg/mlのポリブレン(Sigma)を補充した。標的細胞を、感染24時間前に1×10から5×10細胞/cmの密度で播種した。4種の転写因子のレトロウイルス上清を等量で混合し、二重感染を24時間および48時間において標的細胞に加えた。感染細胞のための培養培地を、感染後4日目にhES細胞培地に変えた。細胞は培地において維持し、培地は、3週間まで、または細胞が集密に達するまで毎日新しくした。
【0213】
iPS細胞の増殖
iPS細胞系を確立するために、感染後約3週間目にhES細胞様コロニー形態に基づいてiPS細胞のコロニーを取り上げた。取り上げたコロニーを、hES細胞培地において新鮮な、有糸分裂的に不活性化されたMEF上で増殖した。
【0214】
iPS細胞の維持
ヒトiPS細胞を、20%のFBS(Hyclone)、1mMのL−Glutamax、0.1mMの非必須アミノ酸、0.1mMのβ−メルカプトエタノール、1%のITSおよび10ng/mlのbFGF(すべてInvitrogenから)を補充したDMEMにおいて培養した。ヒトiPS細胞を、培養培地で毎日再生(refresh)した。機械的解離を、29Gの針を付けた1mlのインスリン注射器を使用して、iPS細胞コロニーをより小さい細胞の塊に解体することによって実施した。感染後8から10日後に、新鮮な有糸分裂的に不活性化したMEF上にコロニーを移した。iPSコロニーを、7から10日ごとに継代し、その後機械的解離を実施した。
【0215】
FACS分析
細胞のトランスフェクション効率を推定するために、上記と同じ方法を使用して、pMXs−GFPレトロウイルスベクターをPlat−A細胞にさらにトランスフェクトした。GFP cDNAを含有するpMXレトロウイルスは、追加の細胞であった。GFPを発現する細胞の数を、フローサイトメトリーによって感染48時間後に評価した。細胞を、0.25%のトリプシン−EDTA(Invitrogen)を用いて5分間解離させ、フローサイトメーター(MoFLO)を使用して分析した。
【0216】
再プログラミング効率のアッセイ
脂肪細胞、歯髄細胞およびMPCを、上記の「Retroviral Production and iPS Cell Generation」に記載の4種の因子に感染させた。細胞を、17日間維持し、毎日培地を変えた。次いで細胞を、トリプシンを用いて解離させ、4%のパラホルムアルデヒドを用いて固定した。細胞を、2.5%(w/v)のスキムミルクパウダー、PBS中2%(v/v)のヤギ血清を用いてブロックした。細胞を、一次抗体を用いて4℃において一晩標識し、次いで、一次抗体(マウス抗Oct4、抗Nanogまたは抗SSEA4)を用いて4℃において一晩標識し、その後、ヤギ抗マウスAlexa488二次抗体を用いて室温において1時間標識した。試料を、上記のFACSによって分析し、陽性に染色された細胞の数を決定した。
【0217】
2.2 結果
すべてのStro−1多分化能前駆細胞が濃縮された集団は、それが歯髄、脂肪組織または骨髄から供給されたかどうかにかかわらず、また、STRO−3またはSTRO−1mAbsを用いて免疫選択されたかどうかにかかわらず、再プログラムでき、iPS細胞系を作製できる。
【0218】
さまざまな細胞の再プログラミングのための結果の要約を、表1に示す。
【0219】
【表1】

【0220】
GFPレポーター構築体によって決定したすべての細胞型のトランスフェクション効率は同様であり、71.2〜98.3%の範囲であった。プレート当たりに成長するiPSコロニーの数を測定する研究の結果は、D551胎児線維芽細胞に由来する系と比較して、歯髄および脂肪組織を起源とするStro−1多分化能前駆細胞が濃縮された細胞集団に由来する系に関する有意により高い推定iPS細胞コロニーの形成を示す。さらに、歯髄および脂肪組織を起源とするStro−1多分化能前駆細胞が濃縮された細胞集団に由来する系に関するiPS細胞のコロニー形成は、骨髄由来のStro−1+多分化能前駆細胞に由来する系より有意に高かった。歯髄および脂肪組織(それぞれ56および22)に関する平均コロニー数(/播種された50,000細胞)は、D551線維芽細胞(7)または骨髄(0.5)に関して観察されるより優位に高かった(p<0.05、カイ二乗検定)。
【0221】
D551線維芽細胞と比較してStro−1多分化能前駆細胞からのiPS発生の効率の増加が、外からトランスフェクトされた遺伝子または誘導性外来遺伝子の持続発現と関係があったかどうかを調べるために、本発明者らは、次にすべての培養されたトランスフェクト細胞集団においてOct4およびNanogの発現を測定した。表1に示すように、トランスフェクトされたD551線維芽細胞は、最も高いレベルのOct4の持続発現(69%)を明示し、歯髄または脂肪組織を起源とするトランスフェクトされたStro−1+多分化能前駆細胞は中間レベルのOct4発現(それぞれ57%および56%)を有し、トランスフェクトされた骨髄Stro−1多分化能前駆細胞は最も低いレベルのOct4発現(36%)を有した。
【0222】
歯髄または脂肪組織を起源とするStro−1多分化能前駆細胞のトランスフェクトされた集団は、Nanogを発現する細胞の合計数がトランスフェクトされたD551線維芽細胞(28%)より低い(それぞれ、5%および10%)。骨髄Stro−1多分化能前駆細胞に関しては、対を成す同じ骨髄試料からSTRO−3またはSTRO−1mAbを用いて免疫選択されたかどうかにかかわらず、同様のパターンのOct4およびNanogの発現が一貫して見られる(Oct4に関してはそれぞれ30%および37%ならびにNanogに関してはそれぞれ17%および21%)。
【0223】
Nanog発現の誘導が、中間段階にあるが、必ずしも決定的なiPS段階には進まないiPS様コロニーと関連し得ることを示す以前に公開されたデータ(Chanら、Nature Biotech.27(11):1033〜1037ページ(2009年))と併せて、歯髄または脂肪組織を起源とするトランスフェクトされたStro−1+多分化能前駆細胞が、D551線維芽細胞より低いNanog発現を有するが、有意に高いiPSコロニー数を有するという本発明者らの発見は、Stro−1+多分化能前駆細胞が、能力因子への曝露後の決定的なiPSコロニー形成へ進行するためのより許容状態の細胞型を代表することを示す。
【0224】
総合して、これらの結果は、
1)トランスフェクション後の同様のOct4発現にもかかわらず、歯髄および脂肪組織を起源とするStro−1多分化能前駆細胞が濃縮された細胞集団は、iPS細胞コロニーを、対照の線維芽細胞より、より効率的にかつより多数作製し、
2)トランスフェクション後にNanog発現の誘導が低下したにもかかわらず、歯髄および脂肪組織を起源とするStro−1多分化能前駆細胞が濃縮された細胞集団は、決定的なiPS細胞コロニーを、対照の線維芽細胞より、より効率的にかつより多数作製し、
3)歯髄および脂肪組織を起源とするStro−1多分化能前駆細胞が濃縮された細胞集団は、骨髄由来のStro−1多分化能前駆細胞が濃縮された細胞集団より、iPS細胞コロニーをより効率的に作製したので、組織の起源は、iPS細胞コロニーの形成の効率に影響を及ぼし得る、
ことを示す。
【0225】
免疫蛍光
歯髄由来のiPS細胞コロニーは、Oct4、Nanog、SSEA4、TRA1−60およびTRA1−81を発現することが免疫蛍光により示された。これらの細胞は、アルカリホスファターゼを発現することがさらに示された。
【0226】
脂肪組織由来のiPS細胞コロニーは、Oct4を発現することが免疫蛍光により示され、アルカリホスファターゼを発現することが示された。
【0227】
iPS細胞系の遺伝子発現
遺伝子発現研究の結果を表2に提示する。
【0228】
要約として、Stro−1多分化能前駆細胞濃縮細胞集団が歯髄、脂肪組織,または骨髄から得られたかどうかにかかわらず、すべてのStro−1多分化能前駆細胞濃縮細胞集団が、感染前にKLF4およびc−mycを内因性に発現した。理論および作用機序に縛られることを好むものではないが、Stro−1多分化能前駆細胞によるこれらの能力因子の内因性発現は、Stro−1多分化能前駆細胞を使用したiPS作製の、線維芽細胞より高い効率を一部説明できる。しかし、さらなる因子は、歯髄又は脂肪組織を起源とするStro−1多分化能前駆細胞において観察されたiPS系を作製する効率が、骨髄を起源とするものより高いことを説明できる。
【0229】
確立された歯のiPS細胞系は、すべての内因性遺伝子、Oct4、Sox2、c−mycおよびKlf4を発現した。外因性Oct4およびc−mycは、第3継代および第8継代で発現停止されたが、Sox2およびKlf4は発現されたままである。
【0230】
第2継代の脂肪IPSCは内因性Klf4だけを発現した。外因性Oct4およびc−mycは発現停止されないままであった。
【0231】
第2継代骨髄−MPCは、いずれの内因性遺伝子の発現も示さなかった。これらの細胞におい発現停止された唯一の外因性遺伝子はSox2であった。
【0232】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
再プログラム化細胞を作製する方法であって、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞を、細胞を再プログラムするために十分な条件下で1種または複数の能力決定因子に曝露するステップを含む方法。
【請求項2】
再プログラム化細胞を作製する方法であって、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞が濃縮された細胞の集団を、細胞を再プログラムするために十分な条件下で1種または複数の能力決定因子に曝露するステップを含む方法。
【請求項3】
Stro−1多分化能細胞および/もしくはその子孫細胞、またはStro−1多分化能細胞および/もしくはその子孫細胞が濃縮された細胞集団が脂肪組織、歯髄組織または骨髄に由来するものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
再プログラム化細胞を作製するために、曝露された細胞を培養するステップをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
再プログラム化細胞を単離するステップをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞よりも広い分化能を有する再プログラム化細胞を得るために、曝露された細胞を培養するステップを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1種または複数の能力決定因子が、Oct4、Sox2、Klf4、Nanog、Lin28、c−Myc、bFGF、SCF、TERT、SV40ラージT抗原、HPV16E6、HPV16E7、Bmil、Fbx15、Eras、ECAT15−2、Tcl1、β−カテニン、ECAT1、ESG1、Dnmt3L、ECAT8、Gdf3、Sox15、ECAT15−1、Fthl17、Sal14、Rex1、UTF1、Stella、Stat3、およびGrb2または1種もしくは複数の前記因子と同一もしくは類似の活性を有する化合物からなる群から個別にまたは集約的に選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
1種または複数の能力決定因子が化学物質、ペプチド、siRNA、短鎖ヘアピンRNAまたはマイクロRNAである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1種または複数の能力決定因子が、
(i)Oct4、
(ii)Oct4とSox2との組み合わせ、
(iii)Oct4、Sox2と、NanogおよびLin28のうちの少なくとも1つとの組み合わせ、
(iv)Oct4、Klf4およびc−Mycの組み合わせ、
(v)Oct4、Sox2およびKlf4の組み合わせ、
(vi)Oct4、Sox2、Klf4およびc−Mycの組み合わせ、
(vii)Oct4、Sox2、NanogおよびLin28の組み合わせ、
(viii)Oct4、Sox2、Klf4、c−Myc、NanogおよびLin28の組み合わせ、ならびに
(ix)(i)から(x)のうちのいずれか1つと、さらに化学物質、ペプチド、siRNA、shRNAまたはマイクロRNAとの組み合わせ
からなる群から個別にまたは集約的に選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞が、出生後の哺乳動物から得られる、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物がヒトである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞を1種または複数の能力決定因子に曝露するステップが、プロモーターに作動可能に連結された1種または複数の能力決定因子をコードする配列を含む核酸をStro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞に導入するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項13】
プロモーターに作動可能に連結した異なる能力決定因子をコードする配列をそれぞれが含む複数の核酸を投与するステップを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
核酸が1種または複数のベクターの内部にある、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
ベクターがウイルスベクターである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
核酸が、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞のゲノム中に組み込まれない、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
再プログラム化細胞が多能性である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項18】
再プログラム化細胞が、(i)Oct−4、Nanog、SSEA3、SSEA4、Tra−1−60およびTra−1−81からなる群から選択される細胞マーカーを発現し、(ii)多能性細胞に特徴的な形態を示し、および/または(iii)免疫不全動物に導入されると奇形腫を形成する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか一項に記載の方法を実施することによって作製される細胞。
【請求項20】
請求項1から18のいずれか一項に記載の方法を実施することによって作製される、多能性細胞が濃縮された細胞集団。
【請求項21】
多能性細胞が集団の少なくとも60%を占める、請求項20に記載の細胞の濃縮集団。
【請求項22】
請求項18から21のいずれか一項に記載の細胞または集団から分化した細胞または細胞集団。
【請求項23】
異種プロモーターに作動可能に連結された能力決定因子をコードする核酸を含む、Stro−1多分化能細胞および/またはその子孫細胞。
【請求項24】
医薬における請求項19から23のいずれか一項に記載の細胞または集団の使用。
【請求項25】
疾患または障害を治療または予防する方法であって、請求項19から23のいずれか一項に記載の細胞または集団を、それを必要とする対象に投与するステップを含む方法。
【請求項26】
疾患または障害の治療または予防において有用な化合物をスクリーニングする方法であって、請求項19から23のいずれか一項に記載の細胞または集団を前記化合物に曝露するステップを含む方法。

【公表番号】特表2012−520660(P2012−520660A)
【公表日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−500009(P2012−500009)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【国際出願番号】PCT/AU2010/000329
【国際公開番号】WO2010/105311
【国際公開日】平成22年9月23日(2010.9.23)
【出願人】(505362089)メゾブラスト,インコーポレーテッド (9)
【Fターム(参考)】