説明

再吸収可能な移植可能デバイス

エリサンガ又はその類似体の少なくとも部分的にポリ(アラニン)野蚕タンパク質で出来た一つ以上の絹エレメントを含む、縫合糸又は人工器官のような再吸収可能な移植可能デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリ(アラニン)野蚕(Wild silk)に基づく再吸収可能な移植可能デバイスと、そのデバイス製造法及びそれから形成される材料に関する。特に本発明の一実施態様により再吸収可能な縫合糸が提供される。
【背景技術】
【0002】
人体や動物体への移植のための材料とデバイスを再吸収可能にする可能性には大きな利益がある。第一に、移植材料またはデバイスが徐々に体内で分解し、移植材料より治癒組織との機能的機械的融合性が優れると思われる天然組織で徐々に置換され、非再吸収可能な整形外科インプラントでの重大な問題である機械的故障の危険な結果を減らす。第二に、合成非吸収性材料の物性としばしば長時間の組織接触が必要なことによる拒絶反応の危険が増加する。第三に、失敗かさもなければ不満足な非再吸収可能な材料又はデバイスを移すために必要な追加外科手術に伴う疾患の危険、疼痛および感染の危険が避けられる。従って生体整合性の再吸収可能な繊維材料は、広範囲の移植材料およびデバイスのために非常に有利であり、最も簡単なものは再吸収可能な縫合糸である。
【0003】
再吸収可能な縫合糸として動物の腸の使用は古代(ガーレン(Galen)、AD175年)から周知であった。動物の腸で作った殺菌再吸収可能な縫合糸は1909年にビーブラウンメディカル社(B.Braun Medical Inc.)から売り出された。合成再吸収可能な縫合糸が1960年代の高分子化学の進歩の結果生産されるまで、腸、皮、馬の毛を含む広範囲の再吸収の可能性がある縫合糸材料が用いられた。最善の天然吸収性縫合糸は、最初羊の腸又は牛の腸由来の“腸線”粘膜下コラーゲン又は粘膜コラーゲンで作られた。病気伝染又は炎症拒絶反応への心配から、その使用中止の勧告となった。
【0004】
最初の合成再吸収可能な縫合糸はポリグリコール酸またはポリグラチン9で構成された。続いて一連の合成再吸収可能な縫合糸が開発され、それらはデキソン(登録商標)(Dexon)(ポリグリコール酸)、ビクリル(登録商標)(Vicryl)(90/10ポリ(グリコリド−L−ラクチド)、パナクリル(登録商標)(Panacryl)(5/95ポリ(グリコリド−L−ラクチド))、ユーエスエスシー社(USSC Co.)のグリコリド−トリメチレンカーボネートコポリマー、ピーディエス(PDS)II(登録商標)(ポリ−パラ−ジオキサノン)、マクソン(登録商標)(Maxon)(ポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート))、モノクリル(登録商標)(Monocryl)(ポリ(グリコリド−カプロラクトンコポリマー))、バイオシン(登録商標)(Biosyn)グリコリド−トリメチレンカーボネートコポリマー)、モノシン(登録商標)(Monosyn)(グリコリド−トリメチレンカーボネート−カプロラクトントリコンポジットコポリマー)及びラクチド−カプロラクトンコポリマーからなる。
【0005】
再吸収可能な縫合糸は非再吸収可能な縫合糸に比べ通常以下の利点があると考えられる。
1.非再吸収可能な縫合糸使用は通常被包又は免疫拒否を伴う。再吸収可能な材料の再吸収過程は常に材料を取り囲む組織内で幾分かの炎症反応を伴うが、再吸収により非再吸収可能な縫合糸に比べ物理的、化学的、免疫原性刺激剤への組織の暴露の長さと強さが減少すると考えられる。通常これにより非再吸収可能な縫合糸に比べ再吸収可能な縫合糸での組織拒絶反応が減少するとの意見で一致している。
2.常に正しいとは限らないが、再吸収可能な材料は通常非再吸収可能な材料に比べ縫合糸感染率が低いと云われている。
3.再吸収可能な縫合糸の使用により、非再吸収可能な縫合糸除去や他の創縫合法で必要な追加手術が招く手術で起こる不快感、感染の危険及び費用を低くする。
4.歯周手術での再吸収可能な縫合糸(腸およびビクリル)の使用により、非再吸収可能な縫合糸に比べプラーク形成誘引がより少なくなると云われている。
【0006】
合成物の再吸収可能な縫合糸は膠質性再吸収可能な縫合糸に比べ以下の利点を提供すると云われている。
1.機械物性が通常より良く、標準化された製造工程によりバッチごとの一貫性がより良くなる。
2.腸線は分解予測が不可能な問題がある。
3.分解速度は腸線に比べてポリグリコール酸のほうが遅い。
4.通常合成縫合糸は腸線より組織反応を起こしにくいことが合意されている。
5.腸線の分解は感染部位でより早く起こるが、合成縫合糸は遙かに影響されにくい。
6.腸線縫合糸はより高い感染の危険を伴うと思われる。
7.膠質性縫合糸は現在まで数量化されてはいないが、プリオン病を起こす危険の可能性がある。
8.放射線治療の結果遅れた再吸収が膠質性縫合糸材料の石灰化時間を与える。これはマンモグラフィ検査を妨害しうる。
9.普通のクロム腸線縫合糸はヒト胃液、胆汁、膵液およびこれらの混合物中で急速に分解し、多くの胃腸での使用に不適切になる。蚕絹縫合糸はこの不都合に悩まされることはない。
【0007】
膠質性再吸収可能な縫合糸に対して合成物の再吸収可能な縫合糸が不利になる可能性としては
1.結節強さ低下と滑り増加に関する主観的な証拠。
2.編み合成縫合糸は浮腫組織、脆弱組織又は実質器官で引き裂かれる傾向が大きく、外科医の手袋切断性がより高い。
3.これらは有意な毒性を有する場合がある。
4.研究された縫合糸の範囲では、ポリ(L−ラクチド/グリコリド)が最大の肉芽組織と感染発生率を示すが、他の長期再吸収期間の縫合糸材料のポリジオキサノンは、又ある程度の肉芽組織の発生と顕著な感染率をもたらす。
【0008】
天然タンパク質又は合成ポリマーのいずれかで出来た再吸収可能な縫合糸は酵素加水分解により分解する。次いで部分加水分解断片は食作用により取入れられ、最終的にはファゴソーム内でモノマー単位に分解される。従って再吸収可能な縫合糸の再吸収速度は、主に組織内で酵素加水分解により分解される速度に依存すると考えられる。再吸収速度は再吸収半減時間、即ち縫合糸材料最大引っ張り強度が50%減少するのに要する時間で最もよく定量される。この性質はデバイスの意図する用途に応じて代表試料、適切な宿主及びその宿主内の適切位置を用いて問題のデバイスを生体内試験することで測定する。
【0009】
再吸収半減時間は再吸収可能な縫合糸の設計で重要なパラメーターである。再吸着による縫合糸引っ張り強度低下速度と、創傷治癒による創傷または融着の組織強度の増加速度の間で、適切な釣り合いがあることが非常に望ましい。再吸収速度と組織治癒間での同様な釣り合いが、実質的に再吸収可能な材料から構成される人工器官の場合にも又必要である。縫合傷、切開又は吻合での引っ張り強度の増加速度は、次いでその創傷場所と大きさ及び治癒速度に依存する。創傷治癒速度は次いで生理的条件、炎症程度、感染の存在と重症度、栄養状態、性別、年齢などを含む一連の要因に依存する。従って所定縫合糸の再吸収半減時間は縫合糸を用いる用途を規定する。
【0010】
縫合糸に用いる合成ポリマーの再吸収半減時間の範囲は主としてそのポリマーの結晶化度に大きく依存する。ポリ−パラ−ジオキサノンのようなモノブロックポリマーのより緻密な結晶構造やパナクリル(ポリラクチドが主成分)の結晶構造では、加水分解酵素と水を除去し加水分解を遅らす。従ってこれらの縫合糸材料は約6ヶ月の再吸収半減時間を有する。一方グリコリド−トリメチレンカーボネート−カプロラクトントリコンポジットコポリマーやポリ(グリコリド−コ−トリメチレンカーボネート)のようなコポリマーは、結晶領域に欠け、その結果2週間程度の遙かに短い再吸収半減時を有する。又合成ポリマーの分子量、疎水性及びモルホロジーも加水分解速度に影響する。分子量のより大きいポリマーは通常再吸収に分子量のより小さいポリマーより長くかかる。疎水性のより高いポリマーは水中で膨潤しにくく、加水分解酵素の進入低下をもたらし、その結果再吸時間を遅らす。直径のより小さい繊維は表面積/体積比がより大きく、直径がより大きな繊維に比べより早く再吸収されやすい。
【0011】
桑蚕(Mulberry Silkworm)の繭由来のカサン(Bombyx mori)絹は非再吸収可能な縫合糸として長く使われてきた。逆にジョロウグモ牽引糸はボルラス、エフ(Vollarth,F.)らの“生体内でのクモ絹と蛋白ポリマーに対する局所的耐性”、インビボ(In Vivo)、2002年、16巻、229−234頁で示されたように、豚真皮に移植後15日以内に迅速に再吸収されるようである。桑絹に比べクモ牽引糸が遙かに早く再吸収されるのは、桑絹に比べクモ牽引糸の結晶性がかなり低いことで生じるのである。又クモ牽引糸タンパク質の疎水性がより低いことも、本発明者によるジョロウグモ牽引糸の主構造成分のスピドロインI(Spidroin I)公表配列の解析で示したように迅速な再吸収に寄与できる。これはスピドロインIの中央反復部の親水性が、桑絹の主構造成分であるカサン繭重鎖フィブロインの反復領域の親水性よりかなり低いことを示す。
【0012】
再吸収可能な縫合糸の再吸収速度に影響する二つの一般法が特許と科学文献に記載されている。これは加水分解酵素侵入を遅らす疎水性皮膜の塗布、及び絹中でのクロム、ニッケル又はコバルトのような遷移元素の含有である。遷移元素は食細胞活動を阻害して再吸収を遅らせるか、縫合糸材料近辺の白血球数を減らして絹を加水分解できるタンパク質分解酵素放出を減らし得る。後の方法の潜在的な欠点としては、これら遷移金属が発ガン性の可能性があることである。さらにクロム腸線中のクロムはある程度の神経障害を起こしうる。
【0013】
再吸収可能な縫合糸の再吸収を遅らすための疎水性コーティング剤の使用例が、2003年9月9日の米国特許6616687(グンゼ株式会社)に開示され、カプロラクトン、ラクチド及びステアリン酸カルシウムの疎水性コーティングを教示している。同様に“新規ポリウレタン塗布腸線縫合糸の生体内評価”(In vivo evaluation of a new polyurethane−coated catgut suture)と題するバイオマテリアル(Biomaterials)、5巻、255頁、1984年に発表のディ、バイチョン、(D.Bichon)、ダブリュ、ボリオズ(W.Borioz)、エイ、エル、カッサーノ−ゾッピ(A.L.Cassano−Zoppi)の論文では、膠質性縫合糸の再吸収を遅らせるためにポリウレタンコーティングの使用を教示している。米国特許4,364,393では分解時間が創傷治癒時間と合致できるように、モノカルボキシルセルロース縫合糸への鉄、ニッケル、コバルト、ビスマス、マンガン又はこれらの組み合わせからなる一群から選んだ遷移元素の添加を教示している。
【0014】
従って再吸収可能な縫合糸の性能がかなりの範囲で改良されている。パナクリル(登録商標)とPDSは最適再吸収速度と良好な機械強度を有するが、パナクリルはメーカーのエチコン社(Ethicon)により撤退され、PDSは高い感染率と望ましくない組織反応を伴う。毒性が低く、再吸収が調整でき、かつ低感染率の再吸収可能な縫合糸材料製造のための新規な方法と材料が必要である。
【0015】
国際特許出願WO01/56626(ネキシアバイオテクノロジー社(Nexia Biotecholgies))では、クモ絹又はクモ絹と非クモ絹構造要素含有の複合材料含有の手術用縫合糸の使用を教示し、ここで該非クモ絹エレメントはヒアルロン酸、エラスチン又はコラーゲンである。
【0016】
国際特許出願WO2004/016651(ヨーク大学(The University of York))では、クモ型類動物由来の配列モチーフAGRGQGGYGQAAGと、少なくともポリ(アラニン)リッチな二つのモチーフ含有ポリペプチドの遺伝子工学による産生を教示する。ここで該ポリ(アラニン)モチーフは少なくとも6つのアラニンアミノ酸残基を含有する。WO2004/016651は又上記配列モチーフに基づく他の変異ポリペプチド配列を教示する。これは又材料製造のためにこれら配列に基づく絹ポリペプチドの使用を教示する。
【0017】
米国特許出願20040102614と米国特許出願2005005483では、配列がカサンのような昆虫由来の組換え型クモ絹タンパク質又は組換え型カイコタンパク質の紡糸法を教示している。又これは医療用縫合糸、植皮代用品、代替え靱帯、医療用粘着条片、外科用メッシュをはじめとする絹フィラメントの種々の使用を教示している。
【0018】
米国特許4,818,291はヒトフィブリノゲンと絹フィブロイン混合物を含有し、手術での使用に適した液体接着剤の使用を教示している。絹フィブロインは屋内蚕又は野蚕又はその混合物から得る。この特許は縫合被接着面用充填剤として働く手術用接着剤にのみに関する。
【0019】
ジャーナルオブアプライドポリマーサイエンス(Journal of Applied Polymer Science)、2003年、89巻、648−644頁に発表の“金属含有タンパク質繊維の製造とその抗菌性”(Preparation of metal−containing protein fibers and their antimicrobial properties)のツカダ、エム(Tsukada,M.)、アライ、ティ(Arai,T.)、コロナ、ジー、エム(Colonna,G.M.)、ボッシ、エイ(Boschi,A.)、フレッディ、ジー(Freddi,G.)の論文では、キレート化基導入用に誘導化した後、遷移元素イオンAg、Cu+、Co+をカサンとサクサンに結合すると顕著な抗菌性が生ずることを教示する。
【0020】
プロシーディングオブロイヤルソサエティシリーズB(Proc.Roy.Soc.Ser. B)、187巻、133−170頁、1974年に“なめし処理絹”(Tanned Silk)と題するブルネット、ピーシージェイ(Brunet,P.C.J.)、コーレス、ビー(Coles,B.)の論文では、サクサン絹でのペルオキシダーゼベースのなめし系の存在が記述されている。サクサン絹でのジチロシン産生は、1971年発行のバイオキミカバイオフィジカアクタ(Biochim.Biophys.Acta)、251巻、96−99頁の“サクサン絹フィブロインとケラチンでのジチロシンの産生”(Occurrence of dityrosine in Tussah silk fibroin and keratin)と題する論文でラベン、ジェイ(Raven,J.)、イアーランド、シー(Earland,C.)、リトル、エム(Little,M.)により指摘された。後者のラベン(Raven)らにより同定されたジチロシンはサクサン、天蚕及びタサールサンの重鎖フィブロインに存在するチロシン残基に関するブルネット(Brunet)らが記載の結合ペルオキシダーゼの作用で起こるらしい。
【0021】
桑絹布の非毒性の強靱化法としてクエン酸イオン含有溶液中加熱を用いる方法が、ジャーナルオブアプライドポリマーサイエンス(Journal of Applied Polymer Science)、91巻(2号)、1000−1007頁、2004年に発表の“絹布の機械的性能と白さに対する架橋化剤、染色温度及びpHの影響”(Effect of crosslinking agents,dyeing temperature and pH on mechanical performance and whiteness of silk fabric)と題するレクソフィー、ティ(Leksophee,T.)、サパンソンブーン、エス(Supansomboon,S.)、ソムバツオムポップ、エヌ(Sombatsompop,N.))の論文で教示される。ギ酸がむしろ絹タンパク質と絹様ペプチド用溶剤として広く用いられてきた。以下の論文ではギ酸に溶解した絹タンパク質又はペプチド溶液からタンパク質フィルム又は電界紡糸繊維を製造するとき、ギ酸の使用によりβシート形成が促進されることが開示される。アサクラ、ティ(Asakura, D.)、タナカ、シー(Tanaka,C)、ヤング、エムワイ(Yang,M.Y.)、ヤオ、ジェイエム(Yao,J.M.)、クロカワ、エム(Kurokawa,M.)、エリサン絹フィブロインのポリ(アラニン)領域とフィブロネクチン由来の細胞接着性領域に基づく絹様ハイブリッドタンパク質の産生とキャラクタリゼーション“(Production and characterization of a silk−like hybrid protein, based on the polyalanine region of Samia Cynthia ricini silk fibroin and cell adhesive region derived from fibronectin)、バイオマテリアル(Biomaterials)、25巻(4号)、617−624頁、2004年。
【0022】
絹精錬法として熱希酒石酸の使用が、インディアンジャーナルオブファイバーアンドテキスタイルリサーチ(Indian Journal of Fibre and Textile Research)、19巻、76−83頁、1994年に発表の “種々の絹精錬法の比較評価”(Comparative evaluation of the various methods of degumming silk)と題するチョプラ、エス(Chopra,S.)、グルラジャーニ、エム、エル(Gulrajani,M.L.)の論文に記載されている。
【0023】
バイオフィジカルジャーナル(Biophysical Journal)、87巻、7月号、2004年、640−647頁に発表の“延伸硬質α−ケラチン繊維に於けるα−ヘリックスからβ−シート転移の新様態”(New Aspects of α−Helix to β−Sheet Transition in Stretched Hard α−Keratin Fibers)と題するエル、クレピアック(L.Krepiak)、ジェイ、ドウセット(J.Doucet)、ピー、デュマス(P.Dumas)、エフ、ブリッキ(F.Briki)の論文では、馬の毛のケラチン繊維を水中か30%過剰湿度下でその静止長の40−60%まで低速延伸すると、結晶性β−シート成分増加が増大するが、馬の毛をその長さの100%まで低速延伸し100℃で一時間水蒸気処理すると同様の効果が生ずることを教示する。
【0024】
本発明の目的は上で検討された既存の再吸収可能な縫合糸に固有の欠点の一部又は全てを実質的に解消する縫合糸のような、再吸収可能なデバイスを提供することである。本発明の目的を達成するために野蚕の使用が提案される。
【0025】
発明の開示
本発明の一様態は、少なくとも一部がポリ(アラニン)野蚕タンパク質から出来た一つ以上の絹エレメントで形成された構造を含む、移植可能なデバイスに関する。
【0026】
移植可能デバイスの特に好ましい形は縫合糸又は人工器官である。
【0027】
ポリ(アラニン)野蚕の使用により身体が再吸収でき、かつ良好な機械物性を保持しながらそのデバイスの再吸収速度を調節できる材料が提供される。
【0028】
“移植可能デバイス”という用語は手術中人体又は動物体に埋め込まれるデバイスを意味し、“野蚕”という用語はヤママユガ毛虫が産生する絹を意味する。ヤママユガ種サクサン(Antheraea pernyi)、天蚕(Antheraea yamamai)、タサールサン(Antheraea militta)、ムガサン(Antheraea assama)、エルサン(Philosamia Cynthia ricini)及びシンジュンサン(Philosamia Cynthia pryeri)が現在野蚕の商業生産に用いられる。この出願の目的のために“生体整合性”と云う用語は、その材料がほ乳類細胞の有害細胞反応を誘導しないことを意味する。これは種々の生体外法により評価でき、細胞培養物の哺乳類細胞を死滅させない能力、生きた哺乳類細胞からのサイトカイン放出の誘導の欠如、及び培養物での細胞増殖に対する遅延効果の欠如が含まれる。
【0029】
更に本発明の目的は強度と強靱性が優れ、再吸収速度が2週間乃至9ヶ月の範囲の再吸収半減速度を与えるように調節できる材料を提供することである。
【0030】
シルク要素は野蚕蛾繭由来又は再生ヤママユガ絹溶液からのいずれかから形成できる。その再吸収半減時間は2週間乃至9ヶ月で変わるように制御でき、移植デバイスは任意の組織の自然治癒速度に適応できる。
【0031】
本発明の一つの有利な実施態様ではペルオキシダーゼが絹タンパク質と結合する。このペルオキシダーゼは創傷治癒を助ける抗菌性を有する。
【0032】
絹エレメントは再生絹から形成できる。
【0033】
絹タンパク質基質はこの絹エレメント間に提供される。
【0034】
好ましくは移植可能デバイスは一つ以上の絹エレメント間の絹タンパク質基質を用いて製造される。このタンパク質基質は、全体又は一部が一つ以上種のヤママユガ蚕又はカイコガ蚕由来の生来絹タンパク質又は再生絹タンパク質を含むことが出来る。
【0035】
本発明はまた移植可能デバイスの製造法を提供する。最初にポリ(アラニン)野蚕が提供され、次に絹エレメントが絹タンパク質から製造される。一実施態様では絹エレメントは押し出される。
【0036】
ポリ(アラニン)野蚕タンパク質提供工程は、野生ヤママユガ(saturniid Wild silk)の繭からの絹繰り出しを含んでも良い。代わりに生来絹タンパク質溶液をポリ(アラニン)野蚕から直接得ることもできる。
【0037】
ポリ(アラニン)野蚕タンパク質は又精錬絹を溶解して再生絹溶液を形成して提供できる。
【0038】
好ましくは更にこの方法は、例えば絹エレメントをギ酸、メタノール、熱ジカルボン酸又はトリカルボン酸(例えばクエン酸)又はジアルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)又はこれら一つ以上の組み合わせに暴露して、そのシルク要素の結晶化度又は架橋化度を変えることを含む。
【0039】
この方法は又絹エレメントを蒸気に暴露し延伸することを含んでも良い。
【0040】
一つの好ましい態様において、絹エレメントは、ジアルデヒドに暴露した後に還元剤に暴露される。
【0041】
この絹エレメントは又ジアルデヒドに暴露後且つ還元剤への暴露前に、一つ以上のアミノ酸含有溶液に暴露できる。還元剤は水素化ホウ素ナトリウム又はシアノ水素化ホウ素であり得る。
【0042】
この方法は又ペルオキシダーゼを絹エレメントに結合することを含み得る。
【0043】
他の実施態様はこの絹エレメントを30体積%乃至60体積%間のメタノール溶液に暴露することを含む。
【0044】
この移植可能デバイスで縫合糸、人工器官又は他医療器具が作成出来る。
【0045】
図面の簡単な説明
図1は本発明に従い製造した絹の典型的応力/歪み曲線を示す。
【0046】
発明を実施するための形態
本発明による移植可能デバイスの典型的な二つの例として縫合糸と足首靱帯用人工器官が含まれる。この両移植可能デバイスは以下に記載のように全体又は一部が一つ以上の絹フィラメントを含む。絹フィラメントはポリ(アラニン)絹タンパク質を含む。
【0047】
本発明による縫合糸のような移植可能デバイスは、全体又は一部が一つ以上の絹フィラメントから構成される。絹フィラメントは多くの方法で野蚕蛾から得られる。第一の方法では絹フィラメントはヤママユガの繭を巻き戻して直接得る。ヤママユガはアンセラエア属(Antheraea)、アナヘ属(Anaphe)、フィロサミア属(Philosamia)、ペリソメナ属(Perisomena)、アッタカス属(Atacus)、クリキュラ属(Cricula)、アーチェアタカス属(Archaeatacus)、サトルニア属(Satumia)、カリギュラ属(Caligula)、レーパ属(Loepa)、コピオプテリックス属(Copiopteryx)、コララジア属(Colaradia)、ヘミロイカ属(Hemileuca)、メマレイア属(Memareia)、オポジフテラ属(Opodiphthera)、コシノセラ属(Coscinocera)、ゴノメタ属(Gonometa)、シュードハジス属(Pseudohazis)、ロスシルジア属(Rothschildia)、アニソタ属(Anisota)、アクチアス属(Actias)、アイオ属(Io)、ブナエア属(Bunaea)、ヘノチア属(Henochia)、シュードブナエ属(Pseudobunae)、レパ属(Lepa)、アルゲナ属(Argena)、コシノセラ属(Coscinocera)、セクロピ属(Cecropi)又はギナニサ属(Gynanisa)からもたらされても良い。
【0048】
第二の方法では絹フィラメントはヤママユガの絹タンパク質(フィブロイン)溶液から紡糸する。絹タンパク質溶液からの絹フィラメント紡糸は、例えば国際特許出願WO01/38614で技術的に周知である。そのフィブロインは蚕から直接得るか再生絹溶液から得る。この再生絹溶液は絹を一つ以上のカオトロピック剤(例えば11.6モル臭化リチウム)に溶解して製造する。
【0049】
ヤママユガサナギの種は他の亜科に比べ遙かに多く、長期にわたってサナギの段階にしばしば留まる。それ故これらは他生物体にとって潜在価値のある食料源である。鳥、真菌、細菌及び他生物体の攻撃を防ぐための化学的防御機構を繭絹が保有するのは大きな淘汰利益である。従ってあるヤママユガ絹は抗菌効果を有し、更には架橋剤として働き得る結合ペルオキシダーゼとチロシナーゼを含有する。
【0050】
ヤママユガ絹は好ましくは結合ペルオキシダーゼを含有する。従って移植可能デバイスでのその使用は、ヒト組織又は動物組織に埋め込んだ場合、フリーラジカル発生により長期継続する広域スペクトラムの殺菌作用を提供できる。本発明の一実施態様ではヒト又は組み替え型ヒトペルオキシダーゼは、絹エレメントの抗菌性、従って移植可能デバイスの抗菌性を改良するために人為的に絹に結合できる。
【0051】
本発明の一実施態様では、縫合糸は上記のように取得した精錬絹フィラメントを撚るか、編むか又は組んで作成される。好ましい実施態様では、各繭糸が一個の繭から巻き取られて二本の絹フィラメント(絹フィブロイン繊維)を含有する4乃至10個の絹繭糸を僅かに一緒に撚ることを含む生糸から製造した精錬絹を用いる。好ましい実施態様では絹フィブロイン繊維は、薄い部分で厚さ10.2±2.2μm、厚い部分で厚さ31.9±4.2μmを有する平らなリボン形状を有する。又縫合糸はヤママユガ絹タンパク質またはその類似物の押し出し物又は他の方法で形成されたヤママユガ絹タンパク質またはその類似物のモノフィラメントであり得る。細い二本鎖フィラメントが単一繭から単一繭糸を巻き取って得られる。モノフィラメントと細い二本鎖フィラメントの両者はそのまま使用でき、顕微鏡下手術に用いるか他の移植可能デバイスに組み入れるための極細で丈夫なフィラメントを提供するために使用できる。一実施態様では絹フィラメントはフォーマーで巻き取り、移植可能デバイスに用いる積層繊維を形成できる。これらの積層繊維はそのまま使用でき、又この積層繊維を巻き取り中又は巻き取り完了後に縫い合わせることができる。更なる実施態様ではフィラメント、より糸、組み糸又は編み糸の製織を用いて移植可能デバイスに用いる積層繊維を製造できる。
【0052】
この絹は絹フィラメントを縫合糸や他の移植可能デバイスに組み入れる前後に化学処理により強化し強靱化できる。三つの化学処理法が有効であることが分かった。第一法は3−50℃でのグルタルアルデヒド又は他のジアルデヒド溶液による処理、第二法はクエン酸のような熱ジカルボン酸、トリカルボン酸又はポリカルボン酸による処理、第三法は冷ギ酸及び/又はメタノールによる処理を含む。後者の処理は絹タンパク質のβシート含量の増加、従ってそのタンパク質結晶化度が増加するように計画される。このようにタンパク質の結晶化度の増加により、縫合糸又は移植可能デバイス内での絹の再吸収時間が増加することに留意する必要がある。
【0053】
グルタルアルデヒド又は他のジアルデヒドを絹の強化と強靱処理に用いた場合、アルデヒド基とタンパク質の遊離アミノ基間のアルジミン(シッフ塩基)による架橋は比較的弱く、時間経過と機械的歪みにより加水分解し易い。これにより架橋の切断を起し、毒性の可能性のある遊離アルデヒド基を放出する。更に毒性アルデヒド基が、ジアルデヒドのアルデヒド基の一つがタンパク質と反応しないことによりタンパク質に導入される。ジアルデヒド処理により導入されたアルジミン架橋の弱さとアルデヒド基の毒性問題は、この絹をジアルデヒド希釈液による処理後、適切な還元剤で処理することで克服できる。一つの好ましい還元剤としては水素化ホウ素ナトリウム水溶液が含まれる。このものはアルジミンの弱い架橋を遙かに安定な二級アミン結合に還元し、遊離アルデヒド基を対応する非毒性アルコールに還元する。遊離アルデヒド基を還元前にグリシン、バリン又はリシンのようなアミノ酸の一級アミノ基と反応するのが有利である。アミノ酸をこのように用いると、シアノ水素化ホウ素又は水素化ホウ素ナトリウムのいずれかが還元剤として使用できる。シアノアミノ酸の選択によりこの絹の疎水性を調節出来ることが分かる。従って例えば遊離アルデヒド基とリシンとの反応により遊離アミノ基とカルボキシル基との付加が起こる一方、遊離アルデヒド基のグリシンとの反応では遊離カルボキシル基のみの付加が起こる。
【0054】
それ故グルタルアルデヒドの後の水素化ホウ素又はシアノ水素化ホウ素処理により、アルデヒド架橋で起こる毒性作用を完全に又は実質的に除去する。選択されたアミノ酸による前処理がある場合もない場合も水素化ホウ素処理を用いて、縫合糸又は移植可能デバイスの絹再吸収時間を修正出来るであろう。
【0055】
水素化ホウ素での処理は、記載された化学処理で生ずるアルデヒド架橋で起こる毒性作用を減ずるために、任意の絹材料(即ち野蚕のみに限定されない)に適応できる。
【0056】
縫合糸又は移植可能デバイスは、絹タンパク質を英国特許出願0516846.3に記載のアルキル化処理剤により、より疎水性に出来る。このような疎水性増加により縫合糸又は移植可能デバイス内の絹再吸収時間が増加する。
【0057】
従って縫合糸又は移植可能デバイス内の絹再吸収時間は三つの因子、疎水性、共有結合架橋度と性質及び、βシート含量を変えることにより制御できる。
【0058】
他のフィラメントや充填剤をヤママユガ絹又はヤママユガ類似物で出来た絹フィラメントに加えて縫合糸を形成できる。一実施態様では一つ以上のヤママユガ、カイコガ又はこれらの組み合わせの絹を溶解して製造した再生絹タンパク質を用いて、絹フィラメント間に再生絹タンパク質基質を提供することにより、縫合糸を強化且つ強靱化し、或いは取り扱い性を改良することが出来る。再生絹タンパク質基質はアルデヒド、冷ギ酸蒸気又はメタノールで処理することにより不溶化できる。
【0059】
更に一連の充填剤、コーティング剤又はドレッシング材を絹縫合糸と他の移植可能デバイスに用いてその性質を改良できる。
実施例1
熱クエン酸処理による縫合糸強度と強靱さの増加
【0060】
絹フィラメントとその絹フィラメントで製造された縫合糸の引っ張り物性は、絹フィラメントを以下のような熱クエン酸処理することにより顕著に改良できる。クエン酸の5%溶液を作成し、濃苛性ソーダ溶液と希薄苛性ソーダ溶液によりpH5.5に調節した。絹フィラメントをクエン酸溶液中で80℃で一時間処理した。クエン酸溶液から取り除いた後、絹フィラメントを蒸留水で十分に洗浄(30分間、三回)した後、空気下で乾燥させた。
【0061】
以下に記載のインストロン試験機で測定すると、本処理により最大引っ張り強度が約5%増加し、伸張性が10−15%増加した。
【0062】
その結果、この処理により絹フィラメントの強靱性とその絹フィラメントで出来た縫合糸の強靱性がかなり増加出来ることが示された。
【0063】
縫合糸の再吸収速度の延長
実施例2
本発明の絹フィラメントの再吸収時間は以下のように、絹タンパク質充填剤添加前後にギ酸とメタノールで処理することにより増加する。絹フィラメント(又はその絹フィラメントで出来た縫合糸)を10−95%ギ酸溶液に浸漬するか、ギ酸溶液からの蒸気に室温で1乃至5時間暴露する。その絹フィラメントを洗浄し空気下で乾燥させる。本処理によりX線結晶法で測定するか、完全に乾燥した繊維のガラス転移温度を示差走査熱量測定により測定すると、絹フィラメント結晶化度増加が起こったことが示された。
【0064】
更に絹フィラメントを30−100%メタノールに浸漬するか、この溶液の蒸気に絹フィラメントを一時間暴露することにより更なる結晶性増加が得られた。この絹フィラメントを洗浄し空気下で乾燥させる。40%メタノール溶液で良好な結果が得られる。
【0065】
これら処理により結晶性が増加し、絹フィラメントの再吸収時間が延長される。これらは又絹水溶液由来のコーティング剤を不溶にする。
【0066】
実施例2a
代替えの実施態様では、絹フィラメント(又は縫合糸)をギ酸溶液での処理前に、再生カイコガ絹溶液又はヤママユガ絹再生溶液で塗布するか浸漬する。
【0067】
実施例3
ペルオキシダーゼの絹タンパク質との複合化
1.ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)16mgを脱イオン水4mlと過ヨウ素酸ナトリウム0.8mlに溶解した。混合物を室温で20分間攪拌した。エチレングリコール6滴を混合物に加えた後、室温で更に5分間攪拌して、酸化されたHRP溶液を形成した。
2.絹フィラメント25mgを蒸留水に30分間漬し、1M炭酸ナトリウム溶液でpHを9.0−9.5に調節した。酸化されたHRP溶液を加え、生成溶液を室温で2時間攪拌した。
3.新規調整の0.4重量/体積%四ホウ酸ナトリウム溶液0.4mlを生成溶液に加え、絹エレメントを溶液中で2−8℃で2時間培養した。
4.最後に絹エレメントを十分に洗浄し空気乾燥した。
【0068】
この複合化反応の有効性は、ペルオキシダーゼ用のジアミノベンジジン法染色で評価できる。ヤママユガ絹がかなりの内在性ペルオキシダーゼ活性を有するので複合化されていない対照が必要である。
【0069】
ペルオキシダーゼを絹繊維と複合化する他法は当業者により理解される。更なる実施態様ではメルカプトエタノールによる還元処理後、酸化手段を用いてペルオキシダーゼを、ポリ(アラニン)野蚕フィブロインのL−システインのN−末端又はC−末端と連結できる。
【0070】
ヤママユガ絹の引っ張り物性に対する試薬作用の実証手順
【0071】
a.ギ酸による処理
生糸(7個の繭糸絹)を弱い張力下にスライドガラスに巻き取った。エポキシ糊をスライド両端に塗布し、この絹を適所で保持するように固化させた。スライドを98%ギ酸飽和雰囲気含有の500ml密閉瓶内に置いた。試料は室温で60分間ギ酸とは直接接触せずに保持され、次いで取り出し脱イオン水でよく洗浄した。
【0072】
b.ギ酸とメタノールによる処理
試料をギ酸により処理した後、無水メタノールに室温で更に60分間浸漬した。
【0073】
c.クエン酸による処理
試料を苛性ソーダを用いてpH5.5に調節した5重量/容積%クエン酸水溶液に、80℃で1時間浸漬し、蒸留水で十分に洗浄した。
【0074】
d.機械的試験
試料をボール紙マウントにプレロードなしで取り付けた。全試料を室温で1時間蒸留水に浸して十分な水和を確実にし、インストロン万能材料試験機で1ニュートンロードセルを用いて歪み速度50%/分で相対湿度100%、室温での破壊を試験した。信頼できる断面積が利用できず、全試料は同一かせに由来する。正規化された断面積7854μmを全てで用い、その結果全報告値は名目的である。エクセルを用いて応力歪み曲線をプロットした。シグマスタット3.1(Sigma stat 3.1)を統計分析に用いた。他の比較は一元配置分散分析(One Way ANOVA)、ホルム−シダック(Holm−Sidak)法を用いる対照群に対する多重比較で行った。
【0075】
表1.平均値±標準偏差で表した、処理されたサクサン(Antheraea pernyi)および未処理のサクサンの14本絹フィブロイン繊維の機械物性
対照の結果より著しく大きい結果を以下に示す。*p=<0.01;**p=<0.001;***p<0.0001;****p<0.00001; *****p<0.000001
【表1】

【0076】
湿潤試験したギ酸/100%メタノールで処理された14本の絹フィブロイン繊維の典型的応力/歪みプロットを図1に示す。
【0077】
これらの結果はギ酸とメタノールとの組み合わせによる処理により、非処理の対照に比べ、平均で破壊歪みが21%、最大引っ張り強度が18%、強靱性が57%増加することを示す。基準としてのショクヨウジョロウグモ(Nephila edulis)牽引糸に比べ、強化野蚕繊維はクモ牽引糸と同様の平均破壊歪みと40%大きな最大引っ張り強度を示し、その結果重量あたりでは高張力鋼の引っ張り強度の2倍以上の良好な最大引っ張り強度を有する。図1に示す典型的繊維は乾燥ショクヨウジョロウグモ牽引糸の強靱さの70%を有する。ギ酸とメタノールの両者はβシート含量を増加することが知られているので、この結果はカイコを引いた絹ではフィブロイン中のこの立体構造の形成は不完全で、適切な処理により結晶化度増加による更なる分子間のβシート形成が生じ得ることを強く示唆する。更に三つの可能な機構により絹の最大引っ張りへのクエン酸処理効果が説明できる。1.加熱による生成βシート含量の増加、2.ギ酸による生成と同様なクエン酸による生成βシート含量の増加、3.レクソフィー等(Leksophee et al.)、2004年が示唆したようなリシン−クエン酸塩−リシンジアミド分子間架橋の形成(上記参照)。
【0078】
上記の結果を一緒にすると、絹の引っ張り物性はβシート含量が増加するように計画した適切な物理化学的処理により改善調節出来ることが強く示唆される。更に結晶化度は再吸収可能な縫合糸材料の再吸収時間の重要な決定因子なので、これらの観察結果は野蚕の再吸収時間は結晶化度を調節する適切な処理により調節できることを強く示唆する。
【0079】
実施例4
ギ酸とメタノールにより処理された野蚕フィラメントによる試作靱帯人工器官と移植可能シート材の製造方法
1.精錬野蚕を上記手順1Bに記載のようにギ酸とメタノールで処理した。洗浄乾燥後、絹繊維を平らな硬いナイロンシートに交角約30度で巻き取った。45度に直交する積層繊維を移植可能シート材として用いた。
【0080】
2.市販のフィブロイン粉末12gを9.5M臭化リチウム水溶液65mlに室温で連続攪拌して溶解した。生成溶液を重量を量った透析管に移し、その端を結び溶液重量を決めるため再度重量を求めた。4℃で蒸留水を数回変えて2−3日間透析を行った。その後フィブロイン溶液重量が透析前の透析管含量の初期湿潤重量の半分に減少するまで、乾燥空気内に移した。その結果4℃に保存した最終フィブロイン溶液は約40%重量/体積フィブロインを含有した。本溶液は積層繊維に多量塗布後、周囲条件下で乾燥させた。
【0081】
3.ついで手段2で作成された絹/絹複合物を、0.5リッター瓶中に置かれた、蒸留水0.2mlで濡らした乾燥パラフォルムアルデヒド2gの上にかぶせた濾紙の上に配置した。瓶を密閉後、100℃に2時間加熱して架橋し、その後絹/絹複合物を冷却し温水で十分に洗浄した。空気乾燥後の複合物デバイスを図1に示す。
【0082】
縫合糸の製造
本発明の実施態様による縫合糸は14本の絹フィブロイン繊維サクサン絹繊維を標準編み機で編んで製造できる。具体的な使用される設定は特定編み機、縫合糸の大きさ等に依存する。
【0083】
シート材の製造
シート材はプラスチックフォーマー周りに繊維を巻き取り、基質を塗布し架橋して形成できる。簡単なシート状インプラントは、例えば14本の絹フィブロイン繊維をプラスチックフォーマー周りに交角45度で巻き取り直交積層物を製造して形成できる。一旦巻き取られると再生カサンフィブロインを繊維に吐き付け乾燥させる。この材料は次いでフォルムアルデヒド蒸気を用いて85℃で架橋する。
【0084】
巻き取り交角は所定方向への弾性を材料に与えるように選択できる。例えばこの基本技術を用いて形成する靱帯インプラントは上記の45度とは異なり交角10度を持てる。
【0085】
上記は本発明原理の実例と考えられ、多くの修正が当事者で起こるので、上記構成と操作に正確であるように本発明を限定する意図はない。全ての適切な修正と同等物は特許請求項の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は本発明に従い製造した絹の典型的応力/歪み曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的にポリ(アラニン)野蚕タンパク質で出来た一つ以上の絹エレメントから形成される構造物を含む移植可能なデバイス。
【請求項2】
前記構造物が人体又は動物体に配置されたとき再吸収可能である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記構造物が2週間乃至9ヶ月の再吸収半減時間を有する、請求項1記載のデバイス。
【請求項4】
前記絹エレメントがヤママユガの繭由来である請求項1、2又は3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記絹エレメントが再生絹溶液で形成する、請求項1、2又は3に記載のデバイス。
【請求項6】
前記構造物は更にペルオキシダーゼを含む、請求項1から5のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項7】
前記構造物は更に絹エレメント間に絹タンパク質基質を含む、請求項1から6のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項8】
縫合糸を含む、請求項1から7のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項9】
人工器官を含む、請求項1から8のいずれか1項記載のデバイス。
【請求項10】
−ポリ(アラニン)野蚕タンパク質を提供する工程、
−絹タンパク質から絹エレメントを製造する工程、および
−絹エレメントから構造物を形成してデバイスを作る工程を含む、
移植可能なデバイスの製造方法。
【請求項11】
ポリ(アラニン)野蚕タンパク質を提供する工程が、ポリ(アラニン)野蚕から直接得た生来絹タンパク質溶液の提供を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
ポリ(アラニン)野蚕タンパク質を提供する工程が、精錬絹を溶解し、再生絹溶液を形成することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
ポリ(アラニン)野蚕タンパク質を提供する工程が、ヤママユガの絹糸腺から直接生来絹タンパク質を提供することを含む、請求項10記載の方法。
【請求項14】
絹エレメントを製造する工程が、ポリ(アラニン)野蚕タンパク質溶液からの絹エレメントの押し出しを含む、請求項11、12又は13請求の方法。
【請求項15】
ポリ(アラニン)野蚕タンパク質を提供する工程が、野生ヤママユガの繭から絹を繰り出すことを含む、請求項10記載の方法。
【請求項16】
更に絹エレメントの結晶化度を変えることを含む、請求項10から15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
絹エレメントをギ酸、メタノール、熱ジカルボン酸、熱トリカルボン酸及びジアルデヒドのうちの一つ以上に暴露することを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
トリカルボン酸がクエン酸である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
ジアルデヒドがグルタルアルデヒドである、請求項17又は18記載の方法。
【請求項20】
更に絹エレメントを蒸気に暴露しそれらを延伸することを含む、請求項16から19のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
絹エレメントをジアルデヒドに暴露後に還元剤に暴露する、請求項17記載の方法。
【請求項22】
絹エレメントをジアルデヒドに暴露後で還元剤への暴露前に、一つ以上のアミノ酸を含む溶液に暴露する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
還元剤が水素化ホウ素ナトリウムである、請求項21又は22記載の方法。
【請求項24】
還元剤がシアノ水素化ホウ素である、請求項21又は22記載の方法。
【請求項25】
絹エレメントを30体積%乃至60体積%間のメタノール溶液に暴露することを含む、請求項17から24のいずれか1項記載の方法。
【請求項26】
更にペルオキシダーゼを絹エレメントに結合することを含む、請求項10から25のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
構造物が絹エレメントを編んで形成する、請求項10から26のいずれか1項記載の方法。
【請求項28】
構造物が絹エレメントをフォーマーの周りに巻き、基質材料で塗布し、基質材料を架橋することで形成する、請求項10から26のいずれか1項記載の方法。
【請求項29】
請求項10から28のいずれか1項記載の方法により製造した縫合糸。
【請求項30】
請求項10から28のいずれか1項記載の方法により製造した人工器官。

【図1】
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【公表番号】特表2009−529923(P2009−529923A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504706(P2008−504706)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003471
【国際公開番号】WO2006/108684
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(308013311)スツロックス リミテッド (1)
【Fターム(参考)】