説明

再生アスファルト用添加剤及び再生アスファルト舗装材

【課題】人体や環境に有害なPCA分を殆ど含まず安全であり、劣化アスファルトの繰り返し再生能力に優れる、製造方法が簡易で経済的な再生アスファルト用添加剤を提供すること、及び、該再生アスファルト用添加剤を配合してなる再生効果が高い再生アスファルト舗装材を提供すること。
【解決手段】(A)ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が2質量%以下、かつ100℃の動粘度が200〜400mm2/sである減圧蒸留残渣油20〜80質量%、及び(B)多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満の鉱油80〜20質量%、を配合してなる再生アスファルト用添加剤であって、該再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度が15〜110mm2/sであるともに、引火点が250℃以上である再生アスファルト用添加剤、並びに、該再生アスファルト用添加剤配合してなる再生アスファルト舗装材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生アスファルト用添加剤及び該添加剤を配合してなる再生アスファルト舗装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アスファルト舗装廃材等の劣化アスファルトは、産業廃棄物として処分されてきたが、近年、廃棄用地不足や環境破壊などの問題、及び省資源などの観点から、その再生利用が試みられてきた。さらに最近では、アスファルト舗装廃材を再生してアスファルト舗装に使用した後、あるいは工事などでアスファルト舗装廃材になったものについても再々生して使用できること、すなわち、アスファルト舗装廃材の繰り返し再生が要求されつつある。このアスファルト舗装廃材中のアスファルト分はかなり劣化が進行しており、これを再生して再利用するには、通常、まずアスファルト舗装廃材を機械粉砕又は熱解砕により破砕し、次いでこれに再生用添加剤を混合して加熱軟化処理するか、あるいは、該破砕物を加熱軟化処理したのち、これに再生用添加剤を混合することにより、加熱再生アスファルト混合物を調製し、施工するといった方法が用いられている。この際用いられる再生用添加剤は、アスファルト舗装廃材中のアスファルトの針入度、伸度その他の性状を回復するために添加されるものである。
【0003】
かかる劣化アスファルト再生用添加剤としては、従来高芳香族系鉱油が多く用いられてきたが、最近、高芳香族系鉱油に含まれる多環芳香族炭化水素(PCA:POLYCYCLIC AROMATICS)の有害性が問題となってきた。特に、再生アスファルト舗装材においては、再生アスファルト用添加剤の成分が舗装材粉塵として環境を汚染することになるため、この問題は重要である。
そこで、現在用いられているPCAが多量含まれた高芳香族系鉱油についてPCAを低減させた再生用添加剤の開発が急がれている。
しかし、PCAを低減させるために、単に、高芳香族系鉱油をPCA含有量の低い精製鉱油に置換したのでは、劣化したアスファルトを初期の物性(特に伸度)に回復させることは困難である。
【0004】
従来、このような状況を解決するものとして、例えば、特許文献1には、ナフテン系原油の減圧蒸留残渣油、若しくは、それとPCA分が3%未満の鉱油との混合物を溶剤抽出し、該ラフィネートを、水素化処理などをして得られるPCA分を低減させた再生アスファルト用添加剤が開示されている。
しかしながら、この方法は、製造方法が煩雑であると同時に、抽出など精製工程で収率が低下し、経済性に難点があった。
【0005】
【特許文献1】特開2001−207061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、人体や環境に有害なPCA分を殆ど含まず安全であり、劣化アスファルトの繰り返し再生能力に優れる、製造方法が簡易で経済的な再生アスファルト用添加剤を提供することを目的とするものである。また、本発明は、該再生アスファルト用添加剤を配合してなる再生効果が高い再生アスファルト舗装材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、アスファルテン分が一定量以下の特定の減圧蒸留残渣油と特定性状の鉱油とを特定の割合で配合した添加剤が、その目的を達成し得ることを発見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
【0008】
〔1〕(A)ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が2質量%以下、かつ100℃の動粘度が200〜400mm2/sである減圧蒸留残渣油20〜80質量%、及び(B)多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満の鉱油80〜20質量%、を配合してなる再生アスファルト用添加剤であって、該再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度が15〜110mm2/sであるとともに、引火点が250℃以上である再生アスファルト用添加剤、
〔2〕アニリン点が88〜112℃である前記〔1〕に記載の再生アスファルト用添加剤、
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕に記載の再生アスファルト用添加剤をアスファルト舗装廃材に対し、その中のアスファルト分の質量に基づき、1〜20%の割合で配合してなる再生アスファルト舗装材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、人体や環境に有害なPCA分を殆ど含まず安全であり、劣化アスファルトの繰り返し再生能力に優れる、製造方法が簡易で経済的な再生アスファルト用添加剤を提供することができる。また、本発明は、そのような再生アスファルト用添加剤を配合してなる再生効果が高い再生アスファルト舗装材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明においては、(A)成分として、ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が2質量%以下であり、かつ100℃の動粘度が200〜400mm2/sである減圧蒸留残渣油を用いる。
ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であれば、アスファルテン分、動粘度、及びその他の性状に関して、本発明で好ましい性状の成分を容易に得ることができる。
減圧蒸留残渣油を得る方法は、特に制限はなく、通常の方法及び条件で減圧蒸留することによって製造することができる。具体的には、例えば、ナフテン系原油を常圧蒸留し、得られる常圧蒸留残渣を、さらに減圧蒸留し、その残渣油を用いればよい。
【0011】
本発明で用いる、ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油(以下、単に、「減圧蒸留残渣油」と略称することがある)は、アスファルテン分が2質量%以下であることが必要である。アスファルテン分が2質量%を超えると、劣化アスファルトの物性の回復が充分ではないなど、再生アスファルト用添加剤の再生効果が不充分になることがある。かかる観点から、アスファルテン分は、1.5質量%以下がより好ましい。
なお、アスファルテン分は、英国石油協会の規定による石油学会規格JPI−55−22−83に準拠して測定すればよい。
【0012】
また、本発明で用いる減圧蒸留残渣油は、100℃の動粘度が200〜400mm2/sであることを要する。100℃の動粘度が200mm2/s未満、若しくは、400mm2/sを超えると、本成分を配合した再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度を、前記本発明が必要とする15〜110mm2/sに制御することが困難になる。そのため、減圧蒸留残渣油の100℃における動粘度は、250〜400mm2/sであることがより好ましい。
【0013】
本発明においては、(B)成分として、PCA分が3質量%未満の鉱油を用いる。PCAを3質量%未満とすることにより、発癌性の心配もなく、安全性に優れた再生アスファルト用添加剤を提供することができる。
なお、PCAの含有量は、英国石油協会の規定によるIP346/92法に準拠して測定すればよい。
(B)のPCA分が3質量%未満の鉱油としては、例えば、パラフィン系原油又はナフテン系原油を常圧蒸留及び減圧蒸留をして得られた減圧軽油留分をPCA分が3質量%未満になるように溶剤精製、又は水素化精製して得ることができる。また、パラフィン系原油を用いる場合は、溶剤脱ろう、又は水素化脱ろう処理を行って、流動性を改善したものを用いることが好ましい。
本発明においては、これらの鉱油を一種用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
(B)成分としての鉱油は、再生時の発煙性の観点から、引火点が200〜300℃であることが好ましく、さらに、アニリン点が80〜120℃であることが好ましい。アニリン点が80℃以上であれば、PCA分が3質量%未満のものを容易に得ることができ、アニリン点が120℃以下であれば、再生添加剤のアスファルテン分の分散性を良好に保つことができる。なお、(B)成分としての鉱油の動粘度は、特に制限はないが、通常100℃の動粘度で5〜15mm2/sのものが用いられる。
【0014】
本発明の再生アスファルト用添加剤は、上記(A)成分20〜80質量%、及び(B)成分80〜20質量%の範囲で配合する。この配合割合は、(A)成分30〜70質量%、及び(B)成分70〜30質量%の範囲がより好ましい。
このような配合割合であれば、以下に述べる本発明の再生アスファルト用添加剤が必要とする性状を容易に満たすことができる。
【0015】
本発明の再生アスファルト用添加剤は、以下の性状を有することを要する。
(1)動粘度(100℃):
本発明の再生アスファルト用添加剤は、100℃における動粘度が15〜110mm2/sであることを要し、20〜80mm2/sであることがより好ましい。動粘度が15mm2/s以上であれば、再生時に発煙が多くなって操作性に悪影響を与えることがなく、一方、動粘度が110mm2/s以下であれば、再生時の均一に混合する作業における操作性に悪影響を与えることがなく、いずれも良好である。
【0016】
(2)引火点:
本発明の再生アスファルト用添加剤は、引火点が250℃以上であることを要す。260℃以上であることがより好ましい。引火点が250℃であれば、再生時に発煙の発生を抑制し、操作性、安全性に悪影響を与える恐れも少ない。
なお、再生アスファルト用添加剤の引火点は、JIS K 2265(C.O.C法)に準拠して測定したものである。
【0017】
(3)アニリン点:
また、本発明の再生アスファルト用添加剤は、さらに、アニリン点が88〜112℃であることが好ましく、92〜110℃であることがより好ましい。アニリン点が88℃以上であれば、再生アスファルト添加剤として発癌性のない安全性の確保された添加剤を提供することができる。一方、112℃以下であれば、劣化アスファルトへの分散性を良好に発揮することができ、再生アスファルト物性の回復を促進することができる。
なお、再生アスファルト用添加剤のアニリン点は、JIS K 2256に準拠して測定すればよい。
【0018】
本発明の再生アスファルト用添加剤は、(A)成分と(B)成分を配合して得られる、劣化アスファルトの繰り返し再生能力に優れるものである。また、その構成成分である(A)は、重質の減圧蒸留残渣油であって発癌性を示さない成分であり、(B)は、PCA分が極めて微量の成分であるから、人体や環境に有害なPCAを殆ど含まない。
さらに、本発明の再生アスファルト用添加剤の製造方法は、抽出によってラフィネートを得るなど煩雑で、収率を損なう工程を必要としない。したがって経済的にも優れている。
【0019】
次に、本発明の再生アスファルト舗装材は、アスファルト舗装廃材に対し、上記添加剤を配合して再生したものであって、その配合量は、該舗装廃材中のアスファルトの針入度及び伸度などを所望の値にまで回復させるのに必要な量であり、本発明においては、舗装廃材中のアスファルト分の質量に基づき、1〜20質量%の範囲で選定すべきである。この量が1質量%未満では、再生アスファルト舗装材は、その中のアスファルトの針入度及び伸度などが所望の値にまで回復せず、再生効果が不充分であって、舗装した場合に舗装面にひび割れが発生するなどの問題が生じるおそれがある。また、20質量%を超えると再生効果が過剰となり、特に針入度が所望の値を超え、耐流動性能が低下する傾向がみられる。適切な再生効果及び耐流動性能などの面から、特に好ましい配合量は10〜20質量%の範囲である。この本発明の再生アスファルト舗装材は、舗装面にひび割れが発生するなどの問題もなく、各種舗装工事に好適に用いられる。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0021】
(1)実験に用いた減圧蒸留残渣油及び鉱油
〔減圧蒸留残渣油〕
3種のナフテン基系原油を用いそれぞれの原油を常法にしたがって常圧蒸留し、得られた常圧蒸留残渣油をさらに減圧蒸留し、減圧蒸留残渣油3種(A1〜A3)を得た。これらの性状を第1表に示す。
〔PCA分が3未満の鉱油〕
第2表に示す性状を有する4種の市販鉱油(B1〜B4)を用いた。
(2)再生アスファルト用添加剤の調整
実施例1〜7及び比較例1〜4
第3表に示すように、減圧蒸留残渣油と鉱油を配合し、実施例1〜7及び比較例1〜4の再生アスファルト用添加剤を得、それらの性状を測定した。結果を第3表に示す。
各性状は、次の方法によって測定した。
密度 :JIS K 2249
動粘度 :JIS K 2283
アスファルテン分:JPI−55−22−83
引火点 :JIS K 2265(C.O.C)
PCA分 :IP346/92
アニリン点 :JIS K 2256
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
(3)再生効果の確認
針入度60〜80の新ストレ−トアスファルトを、200℃の乾燥機で強制劣化させ、針入度20、軟化点61.5℃、伸度6.5cmの劣化アスファルトを得た。
この劣化アスファルトに、目標針入度70±1となるように前記の各添加剤を添加し、加熱混合し再生した。得られた再生アスファルトの針入度、軟化点及び伸度を測定し、添加剤による再生効果を確認した。また再生時の発煙状況を目視観察した。その結果を第4表に示した。
再生アスファルトの各性状は、各々次の方法によって測定した。
針入度 :JIS K 2207
軟化点 :JIS K 2207
伸度 :JIS K 2207
【0027】
【表5】

【0028】
【表6】

【0029】
再生効果の比較
第4表より、本発明の再生アスファルト用添加剤(実施例1〜7)を用いて再生した場合は、再生時の発煙もなく、劣化アスファルトの針入度、軟化点及び伸度のいずれについても良好に回復できることが分る。一方、添加剤の100℃の動粘度が15mm2/sより低い比較例1の添加剤を使用した場合、伸度の回復が不充分であり、(B)成分を含まず、かつ100℃の動粘度が110mm2/sより高い比較例2、及び(A)成分として、アスファルテン分と動粘度が本発明の範囲でない比較例3の場合は、劣化アスファルトの物性が回復するのに必要な添加剤の必要量が増大する。さらに、添加剤の引火点が250℃より低い比較例4の場合は、再生時に発煙が多く、操作性、安全性を悪化する。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のアスファルト再生用添加剤は、人体や環境に有害なPCA分を殆ど含まず安全であり、劣化アスファルトの繰り返し再生能力に優れる、製造方法が簡易で経済的なものである。また、本発明の再生アスファルト舗装材は、舗装面にひび割れが発生するなどの問題もなく、各種舗装工事に好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ナフテン系原油から得られる減圧蒸留残渣油であって、該減圧蒸留残渣油のアスファルテン分が2質量%以下、かつ100℃の動粘度が200〜400mm2/sである減圧蒸留残渣油20〜80質量%、及び(B)多環芳香族含有量(PCA分)が3質量%未満の鉱油80〜20質量%、を配合してなる再生アスファルト用添加剤であって、該再生アスファルト用添加剤の100℃の動粘度が15〜110mm2/sであるとともに、引火点が250℃以上である再生アスファルト用添加剤。
【請求項2】
アニリン点が88〜112℃である請求項1に記載の再生アスファルト用添加剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の再生アスファルト用添加剤をアスファルト舗装廃材に対し、その中のアスファルト分の質量に基づき、1〜20%の割合で配合してなる再生アスファルト舗装材。

【公開番号】特開2009−221381(P2009−221381A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68413(P2008−68413)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】