説明

再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法

【課題】再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法において、再生セルロース系繊維のフィブリル化を抑制しながら、ポリエステル系繊維を高減量し、今までにない独特な風合いを得ることができる再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法を提供する。
【解決手段】再生セルロース系繊維とポリエステル系繊維を少なくとも一部に含んでなる繊維構造物の製造方法において、上記繊維構造物を少なくとも再生セルロース繊維と反応する官能基を1分子中に2個以上有する化合物中に含浸し、熱処理した後、該繊維構造物をアルカリ水溶液中にて減量することを特徴とする再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法に関するものである。さらに詳しくは再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の風合いを改良した再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系繊維は、寸法安定性、機械強度など非常に優れた特性を有する反面、吸湿性、吸汗性、硬いが故に風合いなどが劣ることからレーヨン等に代表される再生セルロース系繊維と混用し、吸湿性、吸汗性を向上させるとともに、ポリエステル系繊維を減量加工することで、非常にしなやかでソフトな独特の風合いを得ることができ、商品価値が高まることが知られている。
【0003】
従来、ポリエステル系繊維のみで構成された繊維構造物のアルカリ減量はロープ状で処理する液流染色機を用い、30g/l程度の水酸化ナトリウム水溶液中で、80〜100℃で処理されることが一般的であるが、同じ条件で再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物をアルカリ減量すると、再生セルロース系繊維表面にフィブリルが発生し、部分的な白化現象が起こり、商品としての価値を著しく低下させるものであった。
【0004】
したがって、再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物においては、目標減量率に必要なアルカリ量を処理液に仕込むと同時に、第四級アンモニウム塩等のカチオン系界面活性剤からなるポリエステル系繊維の減量促進剤を添加して、処理液を100℃以上に昇温し、短時間でポリエステル系繊維を減量することで再生セルロース系繊維のフィブリル化を軽減する方法が実用化されている。
【0005】
しかしながら、この方法をもってしても、例えばレーヨンとポリエステルの混紡糸で構成された布帛では、レーヨンの湿潤時の強力低下が大きく、さらにアルカリ存在下での加工中の張力、摩擦などの物理作用によりレーヨンのフィブリル化が促進するため、高濃度のアルカリを用いることができず、ポリエステル系繊維の減量率を高くし、ソフトな風合いを得ることが困難であった。さらに、これら減量促進剤はカチオン性であるため、減量加工後も繊維に残留し易く、洗浄が不十分な場合、後の染色工程で染め斑などの原因となる。このため減量後に酸処理、アニオン返しなどの処理が必要となり、工程が煩雑になるという問題があった。
【0006】
さらに、従来、40〜80g/lの高濃度のアルカリ領域で減量加工することにより、良好な風合いを得ることができるとされているが、この方法では高濃度のアルカリにより再生セルロース繊維が膨潤し、結晶構造が変化するため、染め斑や強度低下を引き起こすなどの問題があった。また、ポリエステル繊維と再生セルロース繊維の複合織編物にアリカリ処理を施してフィブリルを発現させる方法が提案されているが(例えば、特許文献1参照)、この方法では、ポリエステル系繊維の減量と再生セルロース繊維フィブリル発現を同時に制御することは実用上困難である。すなわち、ポリエステル繊維の減量を促進させるために、高濃度アルカリや高温処理を行うと、再生セルロース繊維が膨潤し、強度が著しく低下するため、液流染色機のようにロープ状で処理する装置においては、繊維表面のフィブリル発現が不均一となり、品位が低下する。
【0007】
一方、再生セルロース繊維表面へのフィブリル発現を均一にするため、低濃度アルカリや低温処理を行うと、目標とするポリエステル繊維の減量率が得られず、風合いが粗硬になる問題がある。
【0008】
さらに、糊剤が付与された織物をアルカリ減量加工することも提案されているが(例えば、特許文献2参照)、この方法では、糊剤の残留はポリエステル繊維の減量を阻害し、減量斑や次の染色工程で染め斑の原因となる。
【0009】
また、ジクロルトリアジン化合物を用いた再生セルロース系繊維の改質方法も提案されているが(例えば、特許文献3参照)、再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物のアルカリ減量による上述したような欠点を改善する内容は何ら示されていない。
【特許文献1】特許第3269143号公報
【特許文献2】特許第3362500号公報
【特許文献3】特許第3366000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の背景に鑑み、再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法において、再生セルロース系繊維のフィブリル化を抑制しながら、ポリエステル系繊維を高減量し、今までにない独特な風合いを得ることができる再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、
(1)再生セルロース系繊維とポリエステル系繊維を少なくとも一部に含んでなる繊維構造物の製造方法において、上記繊維構造物を少なくとも再生セルロース繊維と反応する官能基を1分子中に2個以上有する化合物中に含浸し、熱処理した後、該繊維構造物をアルカリ水溶液中にて減量することを特徴とする再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【0012】
(2)再生セルロース繊維と反応する官能基を1分子中に2個以上有する化合物が、ジハロゲノトリアジン化合物であることを特徴とする前記(1)に記載の再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【0013】
(3)前記水溶性ジハロゲノトリアジン化合物が下記一般式(1)で表される2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体であることを特徴とする前記(2)に記載の再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、Xは塩素、フッ素及び臭素からなる群より選ばれるハロゲン基、Yはスルホン基、カルボキシル基、水酸基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基により置換されたアリールアミノ基、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、トリアジニルアミノ基、トリアジニルオキシ基、トリアジニルチオ基、またはトリアジニルアミノスチルベンアミノ基であり、前記スルホン基、カルボキシル基、水酸基、及びチオール基はその水素原子がアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子で置換されてもよい。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法において、再生セルロース系繊維のフィブリル化を抑制しながら、ポリエステル系繊維を高減量し、今までにない独特な風合いを得ることができる再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、前記課題、つまり再生セルロース系繊維とポリエステル系繊維を少なくとも一部に含んでなる繊維構造物の製造方法において、再生セルロース系繊維のフィブリル化による表面品位の低下および再生セルロース系繊維の重量減少による風合い硬化を改善しながら、ポリエステル系繊維を高減量することができる再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法について鋭意検討した結果、再生セルロース系繊維とポリエステル系繊維を含む繊維構造物のアルカリ減量における再生セルロース系繊維のフィブリル化および重量減少はアルカリ存在下においてセルロース分子間の水素結合が脆弱となり、そこに揉み、張力、摩擦などの物理作用が加わることで、再生セルロース系繊維を構成するセルロース分子の集合体であるミクロフィブリルおよびミクロフィブリルの集合体であるフィブリルが剥離、脱落することが原因であることを見出した。そこで、再生セルロース系繊維とポリエステル系繊維を含む繊維構造物を、少なくとも再生セルロース繊維と反応する官能基を1分子中に2個以上有する化合物中に含浸し、熱処理することにより、セルロース分子間を架橋せしめた後、該繊維構造物をアルカリ水溶液中に含浸し、熱処理することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0018】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0019】
本発明でいう再生セルロース系繊維とは、天然セルロースを原料とした、ビスコースレーヨン、ポリノジック、キュプラ、テンセル、竹を原料としたバンブー繊維などの再生繊維、さらに、天然セルロースを酢酸化した酢酸セルロースを、塩化メチレンやアセトン等の有機溶媒に溶解させた後、この溶媒を蒸発させながら乾式紡糸法での製糸されるトリアセテート、ジアセテートなどの半合成繊維、天然セルロースの水酸基の少なくとも一部がアセチル基およびプロピオニル基によって置換されたセルロースアセテートプロピオネートを溶融紡糸法により製糸したセルロースアセテートプロピオネート繊維などの半合成繊維等のことをいう。
【0020】
本発明の再生セルロース系繊維を含むポリエステル繊維構造物とは、再生セルロース系繊維とポリエステル系繊維とを含んでなり、再生セルロース系繊維を好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは15〜50重量%と、ポリエステル系繊維を好ましくは20〜90重量%、さらに好ましくは50〜85重量%混用した繊維構造物であることが好ましい。
【0021】
ポリエステル系繊維の混用比率が小さいと減量加工による風合い差別化や製品の機械強度に乏しく、逆にポリエステル系繊維の混用比率が大きいと目的とする吸湿性、吸汗性が得られない。本発明において、繊維構造物とは、糸状、織物、編物、不織布等、あるいはこれらから得られる製品などの如何なる形態のものであってもよい。また、混用方法、混用比率についても特に限定されるものではない。特に好ましくは湿潤時の強度低下が大きいビスコースレーヨンとポリエステル繊維とを混用した繊維構造物に発明の効果が大きい。
【0022】
本発明のポリエステル系繊維としては、ポリエステルの組成、繊維長、繊度等いずれも特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルおよびこれらの共重合体からなるもので、アルカリ処理によって3〜30重量%減量するものが好ましい。
【0023】
本発明では再生セルロース繊維と反応する官能基を1分子中に2個以上有する化合物で再生セルロース繊維を改質させることである。再生セルロースと反応する官能基としては、例えばアルデヒド基、エポキシ基、ビニル基、イソシアナート基、酸クロリド基などがある。アルデヒド基を有する化合物としては、通常、再生セルロースの樹脂加工剤として使用されている尿素誘導体化合物などがある。尿素誘導体化合物としては、N,M−ジメチロール尿素、N,N’−ツメチル−N,N’−ジメチロール尿素、N,N’−ジメチロール−ジヒドロキシエチレン尿素、N,N’−ジメトキシメチル−ジヒドロキシ−メチレン尿素、N,N’−ジメチル−ジヒドロキシ−エチレン尿素などがある。エポキシ基を有する化合物としては、グリセリン誘導体などがある。グリセリン誘導体としては、グリセリン−ジグリシジルエーテル、エチレングリシノルエーテルなどがある。ビニル基を有する化合物としては、例えば、ビス−β−ヒドロキシ−エチルヌルホンなどがある。イソシアネート基を有する化合物としては、ジフェニル−メタン−ジエチレン尿素、ヘキサメチレン−ジイソシアネートなどがある。酸クロリド基を有する化合物としては、例えば塩化シアヌル誘導体などがある。
【0024】
上述の化合物は例示であり、これらに限定されるものではなく、再生セルロースと反応し、再生セルロースの樹脂加工剤として通常使用されるものであれば、何れでも良いが、本発明では特にジハロゲノトリアジン化合物であることが好ましい。さらに好ましくは、下記一般式(1)で表される2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体である。
【0025】
【化2】

【0026】
上記式(1)中、Xは塩素、フッ素及び臭素からなる群より選ばれるハロゲン基、Yはスルホン基、カルボキシル基、水酸基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基により置換されたアリールアミノ基、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、トリアジニルアミノ基、トリアジニルオキシ基、トリアジニルチオ基、またはトリアジニルアミノスチルベンアミノ基であり、前記スルホン基、カルボキシル基、水酸基、及びチオール基はその水素原子がアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子で置換されてもよい。
【0027】
前記一般式(1)で表される再生セルロース系繊維材料の改質薬剤をより具体的に説明すると、トリハロゲノ−S−トリアジン、好ましくは塩化シアヌルを主原料として用い、カルボキシル基、水酸基、チオール基、アミノ基、スルホン基、スルホン酸基等水溶性あるいは親水性置換基を有するアニリン類、フェノール類、チオフェノール類、ナフチルアミン類、ナフトール類、アミノ酸類、トリアジン類等の単体あるいは混合物を塩化シアヌル1モルに対して目的化合物に対応する等量モル数を酸結合剤を共存させた中性から弱アルカリ性で縮合させるか、あるいは塩化シアヌルを重炭酸ソーダ、炭酸ソーダ、苛性ソーダ、苛性カリ、水酸化マグネシウム等を用いてアルカリ性で加水分解させることによって得られる。これらの化合物は純粋である必要はなく、前記2種以上の混合物と塩化シアヌルを反応させたものであってもよいし、純粋に作られたものを後から混合して多成分系として使用することが好ましい場合もある。
【0028】
トリハロゲノ−S−トリアジン、好ましくは塩化シアヌルと反応させることができる親水性置換基を有する化合物とは具体的には次のような化合物である。親水性置換基としては、特にカルボキシル基、アミノ基、水酸基が重要である。
【0029】
D−アラニン、β−アラニン、D−グルタミン酸、L−グルタミン酸、グリシルグリシン、L−アスパラギン酸、D−アスパラギン酸、γ−アミノ酪酸、L−アルギニン、L−シスチン、L−ロイシン、メタニル酸、スルファニル酸、2,5−ジスルファニル酸、ナフチオン酸、アントラニル酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノ安息香酸、ジアミノ安息香酸、フェニールスルホン酸、ジオキシクロルトリアジン、シアヌル酸、ピロカテキン、ハイロドキノン、ピロガロール、フロログルシノール、アミドール、プロトカテキュ酸、C酸、G酸、J酸、γ酸、H酸、ジアミノジフェニルアミンスルホン酸、ジアミノジフェニルスルホン、4,4−ジアミノスチルベン−2,2−ジスルホン酸、ジアミノベンゼンスルホン酸、サリチル酸、ジチオクロルトリアジン、アミノオキシクロルトリアジン、アミノジオキシトリアジン、エタノールアミン、プロパノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、アリルアミン、メトキシプロピルアミン、3−(ジメチルアミノ)プロピルアミン、チオサリチル酸、チオアセトアミド、チオカルボヒドラジド、チオグリコール酸、1−チオグリセロール、チオジグリコール、トリグリコールジメルガブタン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ビス(2−メルカプトエチル)サルファイト、α−ヒドロキシイソ酪酸、メラミン、尿素、チオ尿素、チオセミカルバジド、1−チオグリセロール、チオカルポヒドラジド等およびそれらの塩類である。
【0030】
これらの化合物が具備すべき条件は、ハロゲノトリアジンと反応する置換茎を有することと、同時に親水性の置換基を有する親水性化合物である。つまりは本発明で用いられる前記一般式(1)で表される加工薬剤が、全体として親水性となればよい。ハロゲノトリアジンとこれら親水性化合物とを反応させた生成物とは具体的には次のような化合物の単体あるいは混合物を例として挙げることができる。
【0031】
2,6−ジクロル−4−(3−スルホアリニノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(4−スルホアリニノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(5−スルホアリニノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2,5−ジスルホアリニノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3,5−ジスルホアリニノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3−カルボキシアリニノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシアリニノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(2−カルボキシアリニノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(β−カルボキシエチルアミノ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−ウレイド−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−チオウレイド−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシフェノキシ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(4−カルボキシフェニルチオ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−(3−スルホフェニルチオ)−S−トリアジン、2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンNa塩、2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンLi塩、2,6−ジクロル−4−オキシ−S−トリアジンMg塩、2,6−ジクロル−4−チオ−S−トリアジンNa塩、2,6−ジクロル−4−(3−オキシフェニルオキシ)−S−トリアジン、4,4’−ビス(4,6−ジクロロ−S−トリアジン−2−イルアミノ)スチルベン−2,2’ジスルフェニックアシッドNa塩およびビス(4,6−ジクロロ−S−トリアジン−2−イルアミノ)ベンゼンスルホン酸塩等である。
【0032】
親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン類は、この他にも数多くの有効な化合物が存在するのであって、本発明はこれらの具体例に制約されるものではなく、親水性置換基を有する化合物であることと、活性ハロゲン原子またはそれに類する反応性基を2個以上有することがポイントである。
【0033】
本発明の加工薬剤ジハロゲノトリアジン類は、ドイツ特許明細書公開公報第2357252号、あるいはアメリカ特許明細書第5601971号等に記載があるように、公知の合成法に準じて合成することができる。
【0034】
このような薬剤を用いて繊維を加工する方法は、浸漬法とパディング法に大別される。加工条件の概要を説明すると、浸漬法の場合は、加工薬剤を目的に応じて、0.5〜10%(純分o.w.f)使用し、浴比1:2〜30、無水炭酸ソーダ、重炭酸ソーダあるいは苛性ソーダを1〜30%(o.w.f)、ボウ硝のような無機塩を1〜150g/l添加してよく混合する。薬剤を混合する時は、薬液の温度を30℃以下で行うように注意する。30℃以上になると水溶性ジハロゲノトリアジン化合物の凝集が著しく、生地に均一付着させることが困難になるためである。かかる処理液に繊維構造物を浸漬し、40〜100℃で熱処理することが好ましいが、さらに好ましくは60〜80℃の範囲である。このとき、20〜40分間処理することが、再生セルロース繊維との反応を均一にすることができるため好ましい。
【0035】
パディング法の場合は、浸漬法と同様の調液温度に注意しながら混合した染浴に繊維構造物を含浸し、パディングによって絞り率20〜300%で薬剤水溶液を付与した後、熱処理する。加工薬剤のパディング回数は1回に留まらず数回繰り返すと良い結果を生む場合がある。熱処理の温度として100℃以上あれば再生セルロース繊維と反応が十分に進行するが、反応を短時間で完了させるため、160〜180℃で熱処理することが好ましい。また、未反応の加工薬剤は熱処理の後に洗浄除去することが好ましい。
【0036】
本発明におけるアルカリとは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化化合物であればよいが、水酸化ナトリウムを用いるのがより好ましい。アルカリ減量条件は特に制限はないが、100℃以上の温度で一定時間の減量処理することが好ましく、必要に応じて、キレート剤や界面活性剤、第4級アンモニウム塩のカチオン系減量促進剤などを併用してもかまわない。
【0037】
アルカリ濃度は特に限定しないが、40g/l以下であることが好ましく、さらに好ましくは5〜30g/l、より好ましくは、5〜15g/lであり、処理温度については、80〜140℃であることが好ましく、さらに好ましくは、ポリエステルを短時間で減量できる120〜130℃の範囲である。アルカリ濃度、処理温度、処理時間のいずれも、目的とするアルカリ減量率に応じて任意に設定することができる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではない。
【0039】
(1)減量率の計算
減量を行うに際し、同種の布帛を30cm×30cmにカットし、周囲がほつれぬよう溶融着処理した後、添付布として処理布に縫い付け、同時に処理する。
【0040】
添付布の重量測定に際しては、添付布を90℃で1時間放置、(以下、絶対乾燥状態という)してから行う。試料全体の重量(W0)を計る。その後、70%の硫酸水溶液に試料を入れ、24時間放置後、湯水洗し、再生セルロースを溶かした後、絶対乾燥状態に1時間放置し、ポリエステルのみの重量(W1)を求め下記の通り、減量前試料のポリエステル、再生セルロースの混率を求める。
【0041】
減量前試料のポリエステル側混率(X:%)=(W1/W0)×100
減量前試料の再生セルロース側混率(Y:%)=100−X
同様に、減量加工前の試料の重量(W2)、減量後の試料の重量(W3)、再生セルロース溶解後のポリエステルのみの重量(W4)、減量後の再生セルロース側の重量(W3−W4)=(W5)から減量率を計算する。
【0042】
試料全体の減量率:
((W2−W3)/W2)×100(%)
ポリエステル側の減量率(%):
[{(W2×(X/100)−W4)}/{W2×(X/100)}]×100
再生セルロース側の減量率(%):
[{(W2×(Y/100)−W5)}/{W2×(Y/100)}]×100
(2)評価
(a)引裂き強力:
引裂き試験機(ELMENDORF’S TEARING TESTER:大栄科学精器製株式会社製)
また、測定方法はJISL1096(一般織物試験方法)のD法(ペンジュラム法)にて測定した。
【0043】
(b)染め斑:
目視により検査した。
【0044】
5級:全く染め斑がない
4級:殆ど染め斑がない
3級:多少染め斑がある
2級:かなり染め斑がある
1級:著しく染め斑がある
(c)表面品位:
目視により検査した。
【0045】
:良好
:やや不良
:不良
(d)フィブリル化:
走査型電子顕微鏡(SEM:島津製作所製)を用いて、50倍および300倍に拡大し、再生セルロース繊維表面のフィブリル有無を観察した。
【0046】
5級:フィブリル化していない
4級:僅かにフィブリル化している
3級:フィブリル化している
2級:著しくフィブリル化している
1級:フィブリル化により再生セルロース繊維単糸が破断している
(3)減量及び染色加工装置として液流処理機((株)日阪製作所製)を使用した。
【0047】
実施例1
ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)65重量%、ビスコースレーヨン35重量%の34番双糸の紡績糸を用いて、綾織組織で製織された布帛で、かつ、常法にて、糊抜精練、毛焼き後、190℃でプレセットを行った布帛300m(90kg)を常温(約30℃以下)で、液流染色機に投入し、両反末をオーバーロックミシンで結反した後、布帛が染色機内を1分間に1循環する速度に設定した。液流染色機内にジクロロトリアジン化合物(エコエバNo.6、(株)カネヒサ製)を生地重量に対し、20%owf(約18kg)とボウ硝を30g/l、ソーダ灰を5g/l、重曹を25g/lとなるよう投入し、5分間処理した。その後、1分間に3℃の速度で80℃まで昇温し、20分間処理した後、処理液を廃液し、湯水洗により余剰のジクロロトリアジン化合物を洗い落とした。その後、新しい処理水に15g/lの濃度になるように水酸化ナトリウムを添加した後、3℃/分の速度で120℃まで昇温し、120℃で60分間の減量加工を行った。減量加工後、1分間に3℃の速度で冷却した後、湯水洗を行い、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い落とした。続いて、別工程にて液流染色機を用い、下記染色条件にて染色を行った。
【0048】
分散染料 SUMIKARON YELLOW ERPD 0.09%owf
SUMIKARON RED ERPD 0.15%owf
SUMIKARON BLUE ERPD 0.205%owf
直接染料 KAYACELON YELLOW C2RL 0.026%owf
SOLOPHENYL SCARLET BNL 0.03%owf
KAYARUS S BLUE BGL 200 0.081%owf
分散剤 RAP−250 0.5g/l
pH調整剤 PH−500 1.5g/l
芒硝 SDOIUM SULFAT 6.0g/l
常温で助剤・染料・芒硝を投入し、常温から90℃まで、2℃/分で昇温し、90〜130℃においては、1℃/分で昇温する。130℃で10分間キープした後、100℃まで、1℃/分で冷却する。100〜60℃においては2℃/分で冷却する。その後、10分間水洗したのち、乾燥セットを行った。
【0049】
評価結果を表1に示した。得られた布帛は表面品位に優れ、非常にドレープ性のある良好な風合いを持つ婦人衣料に適した素材が得られた。
【0050】
比較例1
実施例1と同様の布帛を300m(90kg)を常温(約40℃)で、液流染色機((株)日阪製作所製)に投入し、布帛が染色機内を1分間に1循環する速度に設定し、1分間に3℃の速度で120℃まで昇温した後、15g/lの濃度になるように水酸化ナトリウムを添加し、120℃で60分間減量加工処理を行い、1分間に3℃の速度で冷却した後、湯水洗を行い、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い落とした。続いて液流染色機を用い実施例1と同一の染色条件にて染色を行った。評価結果を表1に示した。得られた布帛はフィブリル化がムラ状に発生し、表面品位が不良であった。また、フィブリル脱落によりレーヨンの混率が低下し、レーヨン混独特の風合いが損なわれていた。
【0051】
比較例2
実施例1と同様の布帛を300m(90kg)を常温(約40℃)で、液流染色機((株)日阪製作所製)に投入し、布帛が染色機内を1分間に1循環する速度に設定し、常温で減量促進剤DYK1125((株)一方社製)を2g/lと水酸化ナトリウムを布帛重量に対し22重量%添加し、1分間に3℃の速度で120℃まで昇温した後、30分間減量加工処理を行い、1分間に3℃の速度で冷却した後、湯水洗を行い、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い落とした。続いてアニオン系界面活性剤7WA−62((株)一方社製)を2g/l添加し、90℃で20分間のアニオン返し処理後、湯水洗を行った。続いて液流染色機を用い実施例1と同一の染色条件にて染色を行った。評価結果を表1に示した。得られた布帛は、比較例1よりも表面品位、風合いとも良好であったが、実施例1で得られた製品には劣るものであった。また、減量促進剤の残留により僅かに染め斑が発生した。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例2
セルロースアセテートプロピオネート(イーストマンケミカル社製)80wt%と、可塑剤としてポリエチレングリコール(三洋化成(株)製、PEG600)20wt%を、30mmφエクストルーダーを用いて混合し、セルロース混合エステル組成物のペレットを作成し、該ペレットを乾燥した後、エクストルーダー型溶融紡糸機を用いて溶融させ、紡糸温度260℃、紡糸速度1500m/分で繊維を得た。
なお繊維を巻き取る前に交絡ガイドを通過させることによって、交絡を付与した。繊維の品種は84dtex−36フィラメントであり、繊維の強度は1.3cN/dtex、伸度は28%であった。交絡数は30個/mであった。
【0054】
該繊維をヨコ糸に用い、タテ糸にポリエチレンテレフタレート繊維56dtex−18フィラメントを用い、タテ103×ヨコ78本/inの交織平織物を作成し、定法にて、糊抜精練を行い、130℃で乾熱セットを施した。
【0055】
該布帛500mを常温(約30℃以下)で、液流染色機に投入し、両反末をオーバーロックミシンで結反した後、布帛が染色機内を1分間に1循環する速度に設定した。液流染色機内に、ビス(4,6−ジクロロ−S−トリアジン−2−イルアミノ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩を生地重量に対し、20%owfとボウ硝を30g/l、ソーダ灰を5g/l、重曹を25g/lとなるよう投入し、5分間処理した。その後、1分間に3℃の速度で80℃まで昇温し、20分間処理した後、処理液を廃液し、湯水洗を行った。その後、新しい処理水に15g/lの濃度になるように水酸化ナトリウムを添加した後、3℃/分の速度で100℃まで昇温し、100℃で60分間の減量加工を行った。減量加工後、1分間に3℃の速度で冷却した後、湯水洗を行い、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い落とした。続いて、別工程にて液流染色機を用い、下記染色条件にて染色を行った。
染料Kayalon Polyester Blue EBL-E(日本化薬(株)製)
染料濃度 1.0%owf、浴比 1:30、 染液pH 5
染色時間 60分、 染色温度 105℃
常温で助剤・染料を投入し、常温から80℃まで、2℃/分で昇温し、80〜105℃においては、1℃/分で昇温する。105℃で60分間キープした後、80℃まで、1℃/分で冷却する。80〜50℃においては2℃/分で冷却し、排液をした後、湯水洗を行い、染色を完了した。さらに、定法により乾燥セットを行った。
【0056】
評価結果を表2に示した。得られた布帛は過度なフィブリル化はなく、表面品位に優れ、非常にドレープ性のある良好な風合いを持つ素材が得られた。
【0057】
比較例3
実施例2と同一布帛を用い、糊抜精練を行い、130℃で乾熱セットを施した。ビス(4,6−ジクロロ−S−トリアジン−2−イルアミノ)ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩での加工を行わず、直接、実施例2と同一条件で減量加工、染色、乾燥セットを行った。
評価結果を表2に示した。得られた布帛はフィブリル化がムラ状に発生し、これに起因すると考えられる染め斑が発生し、表面品位が不良であった。
【0058】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生セルロース系繊維とポリエステル系繊維を少なくとも一部に含んでなる繊維構造物の製造方法において、上記繊維構造物を少なくとも再生セルロース繊維と反応する官能基を1分子中に2個以上有する化合物中に含浸し、熱処理した後、該繊維構造物をアルカリ水溶液中にて減量することを特徴とする再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【請求項2】
再生セルロース繊維と反応する官能基を1分子中に2個以上有する化合物が、ジハロゲノトリアジン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【請求項3】
前記ジハロゲノトリアジン化合物が下記一般式(1)で表される2,6−ジハロゲノ−4−Y−1,3,5−トリアジン誘導体であることを特徴とする請求項2に記載の再生セルロース系繊維を含むポリエステル系繊維構造物の製造方法。
【化1】

(式中、Xは塩素、フッ素及び臭素からなる群より選ばれるハロゲン基、Yはスルホン基、カルボキシル基、水酸基及びチオール基からなる群より選ばれる少なくとも1つの基により置換されたアリールアミノ基、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、アルキルアミノ基、アルコキシ基、アルキルチオ基、トリアジニルアミノ基、トリアジニルオキシ基、トリアジニルチオ基、またはトリアジニルアミノスチルベンアミノ基であり、前記スルホン基、カルボキシル基、水酸基、及びチオール基はその水素原子がアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子で置換されてもよい。)

【公開番号】特開2006−299500(P2006−299500A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−72154(P2006−72154)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】