説明

再生ポーラスアスファルト舗装用バインダとそれを用いる舗装用混合物並びに舗装体

【課題】 ポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を、再生骨材混入率が50質量%以上であっても、再生ポーラスアスファルト舗装に再利用することを可能にする再生ポーラスアスファルト舗装用バインダと、それを用いる再生ポーラスアスファルト舗装用混合物、並びに、再生ポーラスアスファルト舗装体を提供することを課題とする。
【解決手段】 熱可塑性エラストマー20〜25質量部、オイル80〜90質量部、固形炭化水素10〜20質量部、ワックス4〜8質量部を含有する、再生ポーラスアスファルト舗装用バインダ、および、当該バインダと骨材とを含有し、骨材中、ポーラスアスファルト舗装から得られる再生骨材の混入率が50〜100質量%である再生ポーラスアスファルト舗装用混合物、並びに、この再生ポーラスアスファルト舗装用混合物を用いて構築された再生ポーラスアスファルト舗装体を提供することによって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生ポーラスアスファルト舗装用バインダと、それを用いる再生ポーラスアスファルト舗装用混合物、並びに再生ポーラスアスファルト舗装体に関する。
【背景技術】
【0002】
排水機能を有するポーラスアスファルト舗装は、夜間、降雨時の視認性向上や、車両の通行に伴う騒音の低減効果に優れているため、高速道路をはじめ、国道および都道府県道の主要幹線道路等において、年々、施工実績が増加しつつある。しかし、初期に施工されたポーラスアスファルト舗装は、既に供用後20年近くが経過しており、近い将来、耐用年数が切れ、一気に更新時期が来るものと予想される。
【0003】
ポーラスアスファルト舗装の更新時には、少なくとも舗装の表層部分を切削等によって取り除き、新たにポーラスアスファルト舗装用混合物を敷き均すことが必要になるため、切削等で除去された舗装廃材が大量に発生することが避けられない。この大量に発生する舗装廃材をそのまま廃棄することは、環境に与える影響の大きさからみて到底現実的ではなく、その有効再利用が必須である。しかし、排水舗装に用いられているポーラスアスファルト混合物には、粘性の高い専用の改質アスファルトが用いられていたり、骨材の配合も特殊なものとなっていたりするため、ポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材は、従来の舗装廃材とは異なる性状を有している。そのため、ポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材の再生利用率は未だ低く、大量かつ簡便に再生利用する技術は未だ確立されていないのが実状である。
【0004】
例えば、特許文献1には、ポーラスアスファルト舗装の改修に伴って排出される舗装廃材から、ピッチ分を除去して、再生骨材を回収し、この再生骨材を使用して再びポーラスアスファルト舗装用もしくは通常のアスファルト舗装用の混合物を製造する、ポーラスアスファルト舗装廃材のリサイクル技術が開示されている。しかし、特許文献1に開示されているリサイクル技術は、舗装廃材に付着したピッチ分を除去する工程を必要とし、設備が大がかりになる上に、再利用されるのは骨材だけで、除去されたピッチ分の再利用については何らの考慮も為されていない。
【0005】
また、特許文献2には、ポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を利用して再生混合物を製造する際に、舗装廃材に含まれる劣化したアスファルトバインダが新規のポーラスアスファルト舗装用バインダと実質的に同等の物理性状となることを可能にする再生添加剤が提案されている。しかし、特許文献2には、再生添加剤を用いて再生されたポーラスアスファルト舗装廃材を用いて、実際に再生ポーラスアスファルト舗装体を構築した例は示されておらず、再生された舗装廃材を一体どの程度の割合までポーラスアスファルト舗装用の混合物に混入することができるのか、また、その場合、果たして新規の材料を用いて構築されるポーラスアスファルト舗装体と同程度の性能が得られるのかどうかについては、特許文献2からは不明である。
【特許文献1】特開2002−371514号公報
【特許文献2】特開2003−3071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような従来技術の不足点を解消し、ポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を、比較的高い混入率で再生ポーラスアスファルト舗装用の混合物に使用することを可能にし、ポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を、大量かつ簡便に再利用することを可能にする再生ポーラスアスファルト舗装用バインダと、それを用いる再生ポーラスアスファルト舗装用混合物、並びに、再生ポーラスアスファルト舗装体を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意試行錯誤を繰り返した結果、新たなバインダを開発することによって、舗装廃材からピッチ分(旧アスファルト)を除去する必要もなく、また、特殊な再生添加剤を添加することなく、再生ポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を、50質量%以上の混入率で、ポーラスアスファルト舗装用の再生骨材として再利用することができることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、熱可塑性エラストマー20〜25質量部、オイル80〜90質量部、固形炭化水素10〜20質量部、ワックス4〜8質量部を含有する、再生ポーラスアスファルト舗装用バインダを提供することによって上記の課題を解決するものである。本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダには、必要に応じて、付着力付与剤0.2〜0.5質量部を含有させても良い。
【0009】
また、本発明は、上記の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダと、骨材とを含有し、骨材中、ポーラスアスファルト舗装から得られる再生骨材の混入率が50〜100質量%である再生ポーラスアスファルト舗装用混合物、並びに、この再生ポーラスアスファルト舗装用混合物を用いて構築された再生ポーラスアスファルト舗装体を提供することによって上記課題を解決するものである。
【0010】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダは、基本的に無色であるので、これを用いる再生ポーラスアスファルト舗装用混合物にアスファルトまたは適宜の顔料を含有させることによって、容易に、黒色もしくは適宜の色彩を備えた再生ポーラスアスファルト舗装体を構築することができる。なお、アスファルトまたは顔料は、混合物に添加しても良いし、再生ポーラスアスファルト舗装用バインダに添加するようにしても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダによれば、更新されるポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を解砕し、分級して、付着しているピッチ分を除去することなく、再生ポーラスアスファルト舗装用の混合物に再生骨材として使用することができるので、舗装廃材の処理が簡便に済むという利点が得られる。また、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダによれば、再生ポーラスアスファルト舗装用の混合物に使用する骨材の50〜100質量%を再生骨材に置き換えても、新規材料を用いて構築されるポーラスアスファルト舗装と同等の性能を有するポーラスアスファルト舗装を構築することができるので、ポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を大量に再利用することができるという優れた利点が得られる。さらに、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダは、基本的に無色であるので、これを用いる再生ポーラスアスファルト舗装用混合物にアスファルトまたは適宜の顔料を含有させることによって、容易に、黒色もしくは適宜の色に着色されたカラー再生ポーラスアスファルト舗装体を構築することができるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダは、上述のとおり、熱可塑性エラストマー20〜25質量部、オイル80〜90質量部、固形炭化水素10〜20質量部、ワックス4〜8質量部の割合で含有し、さらに、必要に応じて、付着力付与剤0.2〜0.5質量部を含有するものである。各配合成分について説明すると以下のとおりである。
【0013】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダに用いることができる熱可塑性エラストマーとしては、通常、アスファルトの改質に用いることができるものであればいずれも使用することができ、例えば、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン ブロック共重合体)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン ブロック共重合体)などのスチレン系エラストマー、SEBS(スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン ブロック共重合体)などの水添系のスチレン系エラストマーなど挙げられるが、中でも、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレン ブロック共重合体)が最も好ましい。これらの熱可塑性エラストマーは、そのいずれか1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0014】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダに用いることができるオイルとしては、植物油、鉱物油(芳香族系鉱物油、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油)などが挙げられ、中でも、環分析でのCa(芳香族分)が10〜40質量%、Cp(パラフィン分)が40〜60質量%、Cn(ナフテン分)が10質量%以下で、引火点が250℃以上の芳香族系鉱物油が好ましい。これらのオイルは、そのいずれか1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0015】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダに用いることができる固形炭化水素としては、C5、C6オレフィン樹脂(4−メチルペンテン−1、ピペリレン樹脂)、石油樹脂(芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂、シクロペンタジエン系石油樹脂)、スチロール樹脂、クマロン・インデン樹脂、テルペン樹脂などが挙げられるが、中でもクマロン・インデン樹脂が最も好ましい。これらの固形炭化水素は、そのいずれか1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0016】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダに用いることができるワックスとしては、天然ワックス(植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油ワックス)、合成ワックス(合成炭化水素ワックス、変性ワックス、水素化ワックス、脂肪酸酸アミド系のワックス)、およびこれらの配合ワックスなどが挙げられるが、中でも、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックスなどの合成ワックスが好ましい。
【0017】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダに用いることができる付着力付与剤としては、リン酸エステル系もしくはアミン系が挙げられる。なお、付着力付与剤は、構築される再生ポーラスアスファルト舗装における骨材の飛散防止に有効であり、その好適な添加量は、0.2〜0.5質量部である。添加量が0.2質量部未満では、添加による所期の効果が得られ難く、また、0.5質量部を超えて添加しても、得られる効果にそれほどの増大は見られない。
【0018】
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用混合物は、以上のような各材料を配合した再生ポーラスアスファルト舗装用バインダと骨材とを含有する。骨材としては、新規の骨材に対し、再生骨材、すなわち、更新したポーラスアスファルト舗装から発生した舗装廃材を解砕し、分級して得られた再生骨材を混入したものを使用する。骨材全体に占める再生骨材の混入率は、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダを用いた場合、50質量%以上に高めることが可能であり、極端には、混入率が100質量%、すなわち、骨材の全量が再生骨材であっても良い。なお、再生ポーラスアスファルト舗装用混合物に配合される新規骨材および再生骨材としては、構築される再生ポーラスアスファルト舗装体が所期の空隙率(例えば20%)を確保することができるように、粒度調整が為されたものを使用することは勿論である。
【0019】
混合物中における再生ポーラスアスファルト舗装用バインダと骨材との配合割合は、骨材中に混入させる再生骨材の割合にも依るが、通常、骨材100質量部に対し、再生ポーラスアスファルト舗装用バインダ0.5〜5質量部である。再生骨材、すなわち、更新したポーラスアスファルト舗装から発生した舗装廃材を解砕し、分級して得られた再生骨材には、旧バインダが付着しているので、全骨材中に占める再生骨材の割合が多くなれば、その分、旧バインダの量が増える。したがって、全骨材中に占める再生骨材の割合が多くなれば、混合物中に添加する再生ポーラスアスファルト舗装用バインダの量は少なくて良いことになるが、その量が、骨材100質量部に対して0.5質量部未満では、所期の効果が得られ難く、また、逆に5質量部を越えると、バインダ量が多すぎて、構築される再生ポーラスアスファルト舗装体において所期の空隙率が確保できなくなる恐れがある。
【0020】
また、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダは、基本的に無色であるので、アスファルトまたは適宜の顔料を含有させることによって、容易に、黒色もしくは適宜の色に着色されたカラー再生ポーラスアスファルト舗装体を構築することができる。添加できるアスファルトとしては、ストレートアスファルトが挙げられる。また、添加できる顔料としては、無機系および有機系のいずれでも良く、無機系顔料としては、例えば、白色:二酸化チタン、酸化亜鉛、鉛白、黒色:鉄黒、黒鉛、カーボンブラック、赤色:カドミウムレッド、橙色:モリブデンオレンジ、黄色:水酸化第二鉄、酸化鉄黄、黄鉛、緑色:酸化クロム、クロムグリーン、青色:群青、紺青、コバルトブルー、紫色:マンガンバイオレットなどが挙げられる。また、有機系の顔料としては、赤色:ウオッチングレッド、キナクリドンレッド、橙色:パーマネントオレンジ、黄色:ファストイエロー、緑色:フタロシアニングリーン、青色:フタロシアニンブルー、紫色:ジオキサジンバイオレットなどが挙げられる。これらの顔料は、1種又は2種以上を組み合わせて併用しても良い。
【0021】
これらストレートアスファルトまたは顔料の添加量は、再生ポーラスアスファルト舗装用混合物100質量部に対して、12質量部以下、好ましくは、8質量部以下である。なお、アスファルトは、再生ポーラスアスファルト舗装用混合物に添加しても良いし、再生ポーラスアスファルト舗装用バインダに添加するようにしても良い。
【0022】
以下、実験に基づいて、本発明を更に詳細に説明する。
【0023】
〈実験1〉
本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダにおける主要成分である熱可塑性エラストマー、オイル、および固形炭化水素の基本的な配合割合を定めるべく以下の実験を行った。すなわち、まず、オイルとして芳香族系鉱物油を用い、芳香族系鉱物油と固形炭化水素の割合を、芳香族系鉱物油80質量部に対し固形炭化水素20質量部に固定し、これに対し、熱可塑性エラストマーの割合を変化させて、下記表1に示す配合のバインダNo.1〜5を調製し、その特性を試験した。なお、カンタブロ損失率および回転ホイールトラッキング試験によるねじれ破壊時間の測定に際しては、バインダNo.1〜5と、ポーラスアスファルト舗装用に粒度調整をした再生骨材(更新したポーラスアスファルト舗装から発生した舗装廃材を解砕し、分級して得られた再生骨材)のみを用い、No.1〜5の各バインダ1質量部に対し、再生骨材100質量部を混合して混合物(すなわち、再生骨材の混入率は100質量%)とし、所定の大きさの型枠内で成型させ供試体としたものを使用した。180℃粘度、カンタブロ損失率およびねじれ破壊時間の測定は、No.1〜5の各バインダごとに各3回行い、その平均値を測定値とした。
【0024】
実験に用いた各材料は以下のとおり。
・熱可塑性エラストマー:SBS、製品名「タフプレン」、旭化成株式会社製。
・芳香族系鉱物油:芳香族オイル、製品名「リフレッシュスーパーE」、昭和シェル石油株式会社製。
・固形炭化水素:クマロン・インデン樹脂、製品名「エスクロンG90」、日塗化学株式会社製。
【0025】
また、各測定方法は以下のとおり。
・カンタブロ損失率の測定:測定温度である0℃で養生した、直径約100mm、厚さ約63mmの円筒形供試体を回転ドラムに入れ、300回転させたときの供試体の質量減を測定し、試験開始持の供試体の質量に対する百分率を求めて、カンタブロ損失率(%)とする。
・回転ホイールトラッキング試験によるねじれ破壊時間の測定:60℃の恒温室内で、供試体の表面に規定荷重を負荷したソリッドタイヤ(直径200mm×幅50mm、接地圧:6.4kgf/cm、ゴム硬度:JIS硬度78(60℃))を円を描くように走行させ、ソリッドタイヤの沈下量を測定し、沈下量が10mmに達したときの時間(分)を、ねじれ破壊時間として求めた。
結果を、180℃粘度とともに表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果に示されるとおり、芳香族系鉱物油80質量部に対し固形炭化水素20質量部に固定し、これに対し、熱可塑性エラストマーの配合割合を18質量部から27質量部まで変化させたところ、熱可塑性エラストマーの配合割合が18質量部と低い場合(No.1のバインダ)には、180℃粘度は550(mPa・s)、ねじれ破壊時間は40分と比較的良い結果を示したが、0℃における低温カンタブロ損失率が26.1%とやや高く、骨材の飛散抵抗性に劣る結果となった。一方、熱可塑性エラストマーの配合割合が25質量部を超え、27質量部と高い場合(No.5のバインダ)には、0℃における低温カンタブロ損失率は20.0%、ねじれ破壊時間は55分と比較的良い結果を示したが、180℃粘度は1000(mPa・s)を超え、バインダとしてハンドリング性に劣る結果となった。以上の結果から、熱可塑性エラストマーの配合量は20〜25質量部が好適であると判断された。
【0028】
〈実験2〉
実験1の結果を基に、熱可塑性エラストマーの配合量を、実験1で良い結果が得られた20〜25質量部の略中央値である22質量部に固定し、オイルとしての芳香族系鉱物油と固形炭化水素との配合割合を表2に示す範囲で変えて、バインダNo.6〜10を調製し、実験1におけると同様にして、その特性を試験した。ただし、180℃粘度に代えて、No.6〜10の各バインダ1質量部に対し、再生骨材100質量部を混合した混合物(再生骨材混入率100質量%)を用いて供試体を調製し、ホイールトラッキング試験による60℃における動的安定度(DS)(回/mm)を測定した。動的安定度の測定は、各バインダごとに各3回行い、その平均値を測定値とした。各材料は実験1におけると同じものを使用した。
【0029】
ホイールトラッキング試験による60℃における動的安定度(DS)(回/mm)は、60℃の恒温室内で、供試体の表面に規定荷重を負荷した小型のゴム車輪を規定速度で繰り返し往復走行させ、ゴム車輪の沈下量を測定し、沈下量が1mmに達したときの往復回数(回)を、動的安定度として求めた。
結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2の結果に示されるとおり、熱可塑性エラストマーの配合割合を22質量部に固定し、これに対し、芳香族系鉱物油を75〜95質量部、固形炭化水素を25〜5質量部の範囲で変化させたところ、芳香族系鉱物油の配合割合が75質量部と低く、固形炭化水素の配合割合が25質量部と高い場合(No.6のバインダ)には、ねじれ破壊時間は50分、動的安定度は6300(回/mm)と比較的良い結果を示したが、0℃における低温カンタブロ損失率が27.0%とやや高く、骨材の飛散抵抗性に劣る結果となった。一方、芳香族系鉱物油の配合割合が95質量部と高く、固形炭化水素の配合割合が5質量部と低い場合(No.10のバインダ)には、0℃における低温カンタブロ損失率は17.2%と良い結果を示したが、ねじれ破壊時間は40分、動的安定度は2900(回/mm)と耐久性に劣る結果となった。以上の結果から、オイルと固形炭化水素の配合割合は、オイルが80〜90質量部、固形炭化水素が10〜20質量部の範囲が好適であると判断された。
【0032】
〈実験3〉
次に、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダを用いて構築される再生ポーラスアスファルト舗装体の性能をさらに向上させるべく、添加剤としてワックスを用いた場合に得られる舗装体の性能を試験した。すなわち、オイル、固形炭化水素、および熱可塑性エラストマーの配合割合を、実験2で良い結果が得られた芳香族系鉱物油85質量部、固形炭化水素15質量部、および熱可塑性エラストマー22質量部に固定し、表3に示す範囲でワックスの添加量を変えて、バインダNo.11〜14を調製し、実験2におけると同様にして、その特性を試験した。ただし、ワックスとしては、フィッシャー・トロプシュワックス(融点140℃)を用い、その他の材料は実験1におけると同じものを使用した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
表3の結果に示されるとおり、芳香族系鉱物油85質量部、固形炭化水素15質量部、および熱可塑性エラストマー22質量部に固定した場合、ワックスを4質量部(No.12のバインダ)または8質量部(No.13のバインダ)添加することによって、構築されるポーラスアスファルト舗装体のねじれ破壊時間および動的安定度は増し、より耐久性に優れた再生ポーラスアスファルト舗装体を構築することができることがわかった。ただし、ワックスの添加量が10質量部になると、ねじれ破壊時間および動的安定度にはそれほどの改善が見られないにもかかわらず、カンタブロ損失率は25%を超え、骨材の飛散抵抗性に劣る結果となった。以上の結果から、ワックスの添加量は4〜8質量部の範囲が好ましいと判断された。
【0035】
〈実験4〉
次に、ワックスの好ましい添加量の範囲が、熱可塑性エラストマーの配合割合が22質量部以外の場合であっても変化しないかどうかを確認すべく、実験3の配合において熱可塑性エラストマーの配合割合を20質量部または25質量部とし、かつ、ワックスの添加量を変化させて、実験3におけると同様の実験を行った。使用した材料、測定方法は実験3におけると同じである。結果を表4、表5に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
表4、表5の結果に示されるとおり、熱可塑性エラストマーの配合割合が20質量部の場合であっても、25質量部の場合であっても、添加されるワックスが4質量部未満である2質量部の場合(No.15、19のバインダ)には、ねじれ破壊時間において若干劣る結果となり、逆に、添加されるワックスが8質量部超である10質量部の場合(No.18、22のバインダ)には、カンタブロ損失率が25%を超え、骨材の飛散抵抗性に劣る結果となった。以上の結果から、熱可塑性エラストマーの配合割合が20〜25質量部の範囲において、ワックスの添加量は4〜8質量部の範囲が好ましいと判断された。
【0039】
〈実験5〉
以上の実験においては、再生ポーラスアスファルト舗装用混合物における再生骨材の混入率が100質量%で各種測定が行われたが、次に、表6に示す各材料の配合で、再生骨材の混入率を40、50、60、70、80、100質量%と変えて、得られる再生ポーラスアスファルト舗装体の性能を調べた。新規骨材としては、6号砕石(茨城県笠間産)を用いた。また、測定項目としては、カンタブロ損失率、ねじれ破壊時間、動的安定度に加えて、曲げ破断ひずみ(×10−3)も併せて測定した。なお、比較のため、従来からポーラスアスファルト舗装用バインダとして使用されている改質H型バインダ(ニチレキ株式会社製)(配合組成は表6中に記載)を用いて再生骨材混入率0質量%(新規骨材100質量%)の混合物(混合物No.7)を、また、従来から、再生骨材混入率が低い場合に、再生ポーラスアスファルト舗装用混合物に使用されているバインダ(「タフファルトスーパーRV」、ニチレキ株式会社製)(配合組成は表6中に記載)を用いて再生骨材混入率40質量%、60質量%の混合物(それぞれ、混合物No.8、No.9)を調製し、舗装体として同様の測定を行った。結果を表6に示す。
【0040】
曲げ破断ひずみ(×10−3)の測定は以下のようにして行った。すなわち、各混合物を用いて、長さ30cm、幅10cm、厚さ5cmの供試体を作成し、支点間長を20cmとして、2点支持1点載荷で、載荷速度50mm/minで荷重を掛け、供試体が破断したときの供試体表面部位に生じたひずみを、計算により求めた。なお、試験温度はマイナス10℃とした。
【0041】
【表6】

【0042】
表6の結果に示されるとおり、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダを用いた場合、再生骨材の混入率が50質量%以上であっても、低いカンタブロ損失率と、充分満足のできるねじれ破壊時間および動的安定度、さらには曲げ破断ひずみの大きい再生ポーラスアスファルト舗装体を構築することができることが確認された。一方、従来の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダである「タフファルトスーパーRV」を用いた場合には、再生骨材の混入率が40質量%程度では、カンタブロ損失率、ねじれ破壊時間、および動的安定度において、まずまずの性能を備えた再生ポーラスアスファルト舗装体が得られるものの、再生骨材の混入率が50質量%を超えて60質量%になると、カンタブロ損失率が急激に悪化し、骨材の飛散抵抗性に劣る再生ポーラスアスファルト舗装体しか構築できないことがわかる。
【0043】
なお、表6には、従来からポーラスアスファルト舗装用バインダとして使用されている改質H型バインダを用いて、再生骨材の混入率を0質量%(すなわち、骨材の全量を新規骨材)とした混合物(No.7の混合物)によって構築されるポーラスアスファルト舗装体の性能も併せて示しているが、表6に見られるとおり、No.1〜No.6の本発明に係る再生ポーラスアスファルト舗装用混合物を用いて構築される再生ポーラスアスファルト舗装体の性能は、再生骨材の混入率が高いにもかかわらず、全量新規骨材を用いて構築されるポーラスアスファルト舗装体とほぼ同等である。
【0044】
以上のとおり、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダを用いて得られる再生ポーラスアスファルト舗装体は、再生骨材の混入率が50〜100質量%であっても、新規材料を用いて構築されるポーラスアスファルト舗装体と同等の性能を示し、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダによれば、更新されるポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を大量に再利用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上説明したように、本発明の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダによれば、更新されるポーラスアスファルト舗装から発生する舗装廃材を解砕し、分級して得られる再生骨材を、再生ポーラスアスファルト舗装用の再生骨材として大量に再利用することができる。したがって、本発明は、近い将来に大量に発生することが予想されるポーラスアスファルト舗装からの舗装廃材の再利用に新たな道を拓くものであり、地球環境に与える影響を軽減し、その産業上の利用可能性には実に多大のものがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマー20〜25質量部、オイル80〜90質量部、固形炭化水素10〜20質量部、ワックス4〜8質量部を含有する、再生ポーラスアスファルト舗装用バインダ。
【請求項2】
さらに、付着力付与剤0.2〜0.5質量部を含有する、請求項1記載の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の再生ポーラスアスファルト舗装用バインダと、骨材とを含有し、骨材中、ポーラスアスファルト舗装から得られる再生骨材の混入率が50〜100質量%である、再生ポーラスアスファルト舗装用混合物。
【請求項4】
さらに、アスファルトまたは顔料を含有する請求項3記載の再生ポーラスアスファルト舗装用混合物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の再生ポーラスアスファルト舗装用混合物を用いて構築された再生ポーラスアスファルト舗装体。

【公開番号】特開2009−144046(P2009−144046A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322561(P2007−322561)
【出願日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【出願人】(000233653)ニチレキ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】