説明

再生構造を備えた冷却トラップユニット

【課題】冷却パネルに凝縮又は凝固された気体を、冷却トラップユニット外に排出する再生時に、再生時間を大幅に短縮する。
【解決手段】ドレインポート10を有する真空容器2と、吸熱部5が真空側に位置するように真空容器2に接続された冷凍機1と、吸熱部5に密着して固定され、気体を凝縮又は凝固する冷却パネル7を有する冷却トラップユニット3において、冷却パネル7に凝縮又は凝固された気体を、真空容器2の外に排出する時に、液体を冷却パネル7に接触するように真空容器2内に溜め込み、吸熱部5に設置した温度センサ11により液体の温度変化を検出し、温度が所定値に達した検出信号に基づき、ドレインポート10から液体を排出させる構造を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空容器に接続した冷凍機の吸熱部(冷却部)、又は、それに取り付けられた冷却パネル、ブロックなどの冷却部分で、真空中に漂う水、油分などの気体分子を凝縮又は凝固する冷却トラップユニットに関する。特に、従来よりも短時間で、トラップした吸蔵物を除去するための再生構造を備えた冷却トラップユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷却トラップユニットは、真空中にて冷凍機によりブロックや板状の金属などの冷却パネルを冷却して水、油分の気体分子を凝縮又は凝固している。水、油分の量が増えてきた場合、冷却パネルを昇温させて再生する必要がある。再生方法としては、従来は下記のような方法を実施している。
【0003】
冷凍機を停止させた後に真空容器内を大気やNガスを導入して大気圧に戻して真空断熱を解き、凝縮又は凝固された気体ドレインポートなどから冷却トラップユニット外に排出している(特許文献1参照)。再生時間を短縮したい場合には、真空容器の外側からヒータにより加熱して、固化した成分の周囲温度を上昇させて液化するまでの時間短縮を図っている。
【0004】
図5は、特許文献1に開示された液体捕集器付低温トラップの要部の側断面図である。
【0005】
真空装置51に低温トラップ真空容器52を介して拡散ポンプ53が一体に接続され、真空容器52の内部には、小型ヘリウム冷凍機54によって冷却され、水、油分の気体分子を凝縮する低温トラップ55が設けられている。低温トラップ55の低温トラップ面55aの真下に位置するように、液溜56aを有する液体捕集器56が支持棒57を介して真空容器52に取付けられている。液体捕集器6は常に室温状態にある。
【0006】
液体捕集器56には、溜った液体を外部に排出するためのドレンパイプ58とドレン弁58aを取付けている。凝縮物55bを溶融し除去する再生時に、生成される水、油分の液体は、室温に戻った低温トラップ面55aから滴下し、液体捕集器56に捕集される。トラップ内を大気圧に戻し、ドレン弁58aを開けることにより、液体捕集器56に溜まった液体を液体の状態で除去することができる。
【特許文献1】特開平6−182106号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来技術では、下記のような課題がある。例えば、再生時間を短縮するために、真空容器の外側からヒータで温めて、固化した水分の周囲温度を高くして液化の促進を行うことがあるが、氷の熱容量や水の融解熱に対して、気体の熱容量は大きいとは言えず、大幅な時間短縮には至らない。これは、冷却トラップユニットを使用している装置の稼動率などに影響を与える可能性が大きく不便である。また、トラップした水分量の違いにより、再生時間も変化するが、いつ、水の排出が終わり、再生が完了したのかを見極めるのが困難である。さらに、ヒータによって、冷凍機、シール部品、電気部品などの周辺部品が加熱されるため、各部品の耐熱温度を考慮して温度保護を行う必要がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、冷却パネルに凝縮又は凝固された気体を、真空容器の外に排出する再生時に、再生時間を大幅に短縮する再生構造を備えた冷却トラップユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の冷却トラップユニットは、ドレインポートを有する真空容器と、吸熱部が真空側に位置するように前記真空容器に接続された冷凍機と、前記吸熱部に密着して固定され、気体を凝縮又は凝固する冷却パネルを有する冷却トラップユニットにおいて、
前記冷却パネルに凝縮又は凝固された気体を、前記真空容器の外に排出する時に、当該液体を前記冷却パネルに接触するように前記真空容器内に溜め込み、前記吸熱部に設置した温度センサにより前記液体の温度変化を検出し、温度が所定値に達した検出信号に基づき、前記ドレインポートから前記液体を排出させる構造を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、再生の際に、液化した気体をそのまま排出せずに真空容器内に溜め込むことにより、熱容量の大きい液体が、冷却パネル及び固化した気体に直接接触する。このため、固化している気体の液化を早めることができ、再生時間を短縮することが可能となる。
【0011】
また、真空容器に溜め込んだ気体の温度変化を吸熱部に設置した温度センサで検出することにより、冷却パネルで固化していた気体が全て液体になったことを認識することが可能である。更に、温度が所定値に達した検出信号に基づき、真空容器のドレインポートから、溜め込んだ液体を排出するとともに、冷却トラップユニットの再生の完了時期を外部に知らせることが可能となる。
【0012】
これにより、トラップされた気体の量が再生毎に異なっていても、その量に応じて再生を実施することが可能となる。これは、冷却トラップユニットの運転や再生処理を自動プログラムで行う場合には特に有効であり、自動化された装置などに本トラップを組み込む際に効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。
【0014】
気体として、水、油分などを挙げることができるが、以下の実施形態では水分を例にとり説明する。
【0015】
(実施形態1)
図1は、本実施形態における冷凍機に真空容器を取り付け、再生構造を備えた冷却トラップユニットの例を示す概略図である。
【0016】
図1において、例えば真空フランジ付のスターリングサイクル冷凍機のような冷凍機1に真空容器2を取り付けた冷却トラップユニット3を例に説明する。なお、本発明に使用する冷凍機1は、スターリング、GM、パルス管、ソルベイサイクル、コンプレッサなどの各種冷凍機であってもよい。
【0017】
まず、冷凍機1であるが、円筒形ケーシング4の先端に吸熱部5、その次に真空フランジ6が取り付けられている。冷凍機1の真空側の吸熱部5には、冷却パネル7と呼ばれる熱伝導性が良い材料(例えば銅)の円筒形の薄板が密着した状態で取り付けられる。冷凍機1を動作させると、吸熱部5の温度が降下し、それとともに、冷却パネル7の温度も降下する。
【0018】
一方、冷凍機1の真空フランジ6には、複数の真空フランジ付ポート8a、8b、8c、8d、バルブ9を接続したドレインポート10、温度センサ11、ヒータ12を備えた真空容器2が固定される。ドレインポート10は、真空容器2に1つ以上固定される。温度センサ11は、バルブ9を動作させる出力機能を持った温度表示器13と接続される。ここまでの構成により冷却トラップユニット3となる。
【0019】
真空容器2のフランジ付ポート8a〜8dには、ロータリポンプ、ドライポンプなどの真空ポンプ14や真空空間となるチャンバ15、真空用の圧力計16、Nガス導入口17などが接続される。真空ポンプ14と真空容器2の間、チャンバ15と真空容器2の間、Nガス導入口17と真空容器2の間には、必要に応じて真空用のバルブ18,19,20が装備される。
【0020】
ここで、図1の系の運転手順の例について記す。バルブ9,18,19,20を閉じた状態で、真空ポンプ14を動作させる。真空ポンプ14と真空容器2間のバルブ18を開き冷却トラップユニット3の真空容器2内を真空排気する。冷凍機1を動作させて、冷却パネル7の温度を降下させる。真空容器2とチャンバ15間のバルブ19を開きチャンバ15内を真空に排気する。この時、チャンバ15側から真空ポンプ14に向かって流れてくる気体中の水が、冷凍機1の吸熱部5に取り付けられた冷却パネル7で凝固される。チャンバ15側に含まれる水が多いほど、冷却パネル7に吸蔵される水は増えていく。ここで、注意しなければならないのは、冷却パネル7の温度である。
【0021】
図2は、水の平衡蒸気圧特性図であり、例えば圧力が、1Paであれば、冷却パネル7の温度を−60℃以下に保つ必要があることがわかる。ドライポンプの場合、ポンプ性能の一つである到達圧力は、数Pa台であるので、冷却パネルの温度を−80℃程度(この温度での水の平衡蒸気圧は、1×10−1Paよりも小さい)に保てば、真空中の水は、問題なく冷却パネル7に吸蔵されることがわかる。
【0022】
このような系において、チャンバ15側で大気圧と真空の圧力を繰り返すような動作や常に水が入ってくるようなプロセスで使用していくと、冷却パネル7では、徐々に水が堆積していき、冷却パネル7の周りは氷の塊21で覆われてくる。ここで問題となるのは、氷の塊21によって、真空容器2内が塞がれてくるため、チャンバ15と真空ポンプ14間の流路22が狭くなり、本来の排気性能が損なわれること。また、氷の一部が冷却トラップユニット3の真空容器2や真空フランジ6の内壁面に接触して、接触部分から吸蔵した水が蒸発して真空中に再放出されてしまうことなどである。
【0023】
こうなった場合は、一旦冷凍機を停止するなどして、溜まった氷を大気に排出する再生作業を実施する必要がある。
【0024】
手順としては、バルブ18と19を閉じて、冷却トラップユニット3を真空ラインから切り離す。冷凍機1の運転を停止し、バルブ20を開きNガスパージにより、真空容器2内部を大気圧に戻す。真空容器2底部のドレインポート10のバルブ9は閉じたままである。この時、真空容器2外部からヒータ12により温めてもよい。氷の塊21の一部が液化し、真空容器2の底部に溜まり、水が冷却パネルの下端部23や氷の塊21に接触すると、水の熱容量は、空気やNガスの熱容量よりも大きいため、氷の塊21の融解は促進されて、再生時間は短くなる。この時、吸熱部5に設置された温度センサ11が、水の温度を検出しているが、固体から液体へ融解途中のため、温度は0℃を保っている。全ての氷の塊21が融解すると、周囲温度の影響により水温も上昇してくる。例えば、ここで、水の温度が所定値、例えば2℃になったとき、温度表示器13からバルブ9へ動作信号を出力するように設定しておけば、温度2℃の際に、バルブ9が開き真空容器2内部に溜め込まれた水が排出される。Nガスでパージして真空容器2内部を乾燥させれば再生作業は完成である。このように再生時に、融解した水を冷却パネル7に接触するように真空容器2内に溜め込み、吸熱部5に設置した温度センサ11により水の温度変化を検出し、温度が所定値に達した検出信号に基づき、ドレインポート10により融解した水を排出させる。
【0025】
(実施形態2)
図3は、本実施形態における真空容器の底部に貯水槽を設けた、再生構造を備えた冷却トラップユニットの例を示す概略図である。実施形態1と共通部については同一の符号が付けられている。
【0026】
図3では、真空容器24内に、真空容器24よりも底部の面積の小さい貯水槽25を設け、再生時に融解した水が貯水槽25に溜まり、冷却パネル26の直下に集中するようにした。これにより、水が少ない段階においても冷却パネル26と接触することが可能になり、液化し易い状況を早いタイミングで作り出すことができる。この場合、貯水槽25から融解した水が溢れても、貯水槽25の周りに溜まるだけで問題はない。氷の塊21が全て液化して、液体温度が上昇してバルブ9が開くのと同じタイミングで、貯水槽25の外周部に設けたドレインポート27に接続されるバルブ28も開くようにすることで、水の排出を行える。このように貯水槽25の外の真空容器24に直接溜められた水もドレインポート27により排出を行える。
【0027】
本実施形態によれば、再生の際に、融解した水を溜め込む貯水槽を冷却パネルの下方向に設けることにより、水を冷却パネルや固化した水に早く接触させることができるため、再生時間を更に短くすることが可能となる。
【0028】
(実施形態3)
図4は、本実施形態における冷却パネル表面に線状の段差を設けた例を示す図である。(a)は側面図、(b)は、断面図である。なお、実施形態1,2の冷却パネル7,26は、円筒形であり、本実施形態の冷却パネル31は、円筒形に加工する前の平板状のものとして示してある。
【0029】
図4に示すように、冷却パネル31の表面に重力方向に上方から下方へと向かう、縦又は斜めの線状の段差32を複数本設けている。これにより、冷却パネル31上で液化した水が、線状の段差32をつたって下方に流れ易くなる。これにより冷却パネルからスムースに水が落下し、水の排出を効率良く進めることが可能となり、再生時間の短縮に効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施形態1における冷凍機に真空容器を取り付け、再生構造を備えた冷却トラップユニットの例を示す概略図
【図2】水の平衡蒸気圧特性図
【図3】実施形態2における真空容器の底部に貯水槽を設けた、再生構造を備えた冷却トラップユニットの例を示す概略図
【図4】実施形態3における冷却パネル表面に線状の段差を設けた例を示す図
【図5】特許文献1に開示された液体捕集器付低温トラップの要部の側断面図
【符号の説明】
【0031】
1…冷凍機
2,24…真空容器
3…冷却トラップユニット
4…円筒形ケーシング
5…吸熱部
7,26,31…冷却パネル
10…ドレインポート
11…温度センサ
12…ヒータ
13…温度表示器
14…真空ポンプ
15…チャンバ
17…Nガス導入口
21…氷の塊
22…流路
23…冷却パネルの下端部
25…貯水槽
27…外周部のドレインポート
32…線状の段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレインポートを有する真空容器と、吸熱部が真空側に位置するように前記真空容器に接続された冷凍機と、前記吸熱部に密着して固定され、気体を凝縮又は凝固する冷却パネルを有する冷却トラップユニットにおいて、
前記冷却パネルに凝縮又は凝固された気体を液化し、前記真空容器の外に排出する時に、当該液体を前記冷却パネルに接触するように前記真空容器内に溜め込み、前記吸熱部に設置した温度センサにより前記液体の温度変化を検出し、温度が所定値に達した検出信号に基づき、前記ドレインポートから前記液体を排出させる構造を備えたことを特徴とする冷却トラップユニット。
【請求項2】
ドレインポートを有する真空容器と、吸熱部が真空側に位置するように前記真空容器に接続された冷凍機と、前記吸熱部に密着して固定され、気体を凝縮又は凝固する冷却パネルを有する冷却トラップユニットにおいて、
前記冷却パネルに凝縮又は凝固された気体を、前記真空容器の外に排出する時に、当該液体を前記真空容器内に設置した貯水槽に前記冷却パネルに接触するように溜め込み、前記吸熱部に設置した温度センサにより前記液体の温度変化を検出し、温度が所定値に達した検出信号に基づき、前記ドレインポートから前記液体を排出させる構造を備えたことを特徴とする冷却トラップユニット。
【請求項3】
前記貯水槽に溜められた液体を前記ドレインポートから排出すると共に、前記貯水槽の外の前記真空容器に直接溜められた液体を他のドレインポートから排出することを特徴とする請求項2に記載の冷却トラップユニット。
【請求項4】
前記冷却パネルに凝縮又は凝固された気体を、前記真空容器の外に排出する時に、前記真空容器の外部からヒータにより前記冷却パネルを温めることを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却トラップユニット。
【請求項5】
前記冷却パネルの表面に重力方向の上方から下方へと向かう、縦又は斜めの線状の段差を複数本設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の冷却トラップユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−106834(P2009−106834A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280305(P2007−280305)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(503421139)キヤノンアネルバテクニクス株式会社 (26)
【Fターム(参考)】