説明

再生装置、再生方法

【課題】指紋の影響を排除してデータ再生性能を向上させる。
【解決手段】再生信号において指紋の影響が生じている指紋期間を検出し、その指紋期間のみ、オフセットキャンセル回路又はAGC回路が機能する周波数帯域を、非指紋期間よりも高い周波数帯域(例えば100KHz程度)までとなるようにする。これにより指紋による振幅変動やオフセット変動を適切に排除できる周波数帯域でオフセットキャンセル処理、振幅調整処理を実行させる。一方、非指紋期間は、通常の周波数帯域、例えばディスクの周内変動による振幅やオフセットの成分を排除できるような帯域、例えば帯域上限を15KHz程度とする。これにより、指紋期間のみ、的確に指紋の影響を排除し、非指紋期間では再生信号成分自体にオフセットキャンセル動作やAGC動作の影響を与えないようにできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスクに対する再生装置、再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2006−114074号公報
【特許文献2】特開2005−285293号公報
【特許文献3】特開2006−120255号公報
【特許文献4】国際公開第01/052249号パンフレット
【特許文献5】特開2002−288839号公報
【特許文献6】特開2003−132533号公報
【0003】
近年、例えばブルーレイディスク(Blu-ray Disc:登録商標)等の高密度記録の光ディスクが実用化されているが、カートリッジに収納されないタイプのいわゆるベアディスクでは、取り扱い時に記録面に指紋が付着してしまうことが多々ある。
光ディスクの記録面側に指紋が付着すると、その領域で再生光ならびに記録光が散乱し減衰するため、再生信号品質ならびに記録信号品質が著しく悪化し、最悪の場合その領域の再生が不可能になってしまう問題がある。
【0004】
指紋付着部では、再生時には、レーザ光の照射時に検出される反射光量が低下し、これによって再生信号振幅が小さくなってしまう。
また、例えば相変化ディスクや色素変化ディスクに対する記録時にも、指紋によって記録レーザ光が乱れるため、パワーロスが生じ、形成されるマーク形状が乱れる。これによって再生時に変調度が低下し、アシンメトリが乱れた再生信号が得られてしまう。
【0005】
図12は、再生時に反射光情報として得られる再生信号波形を示しており、図12(a)は、指紋が付着した領域の再生信号波形、図12(b)は指紋の影響のない領域の再生信号波形である。
この図12(a)(b)からわかるように、指紋の影響によって再生信号波形は、その振幅が大きく乱れる。またアシンメトリの乱れとして、振幅のセンターレベルも変動する。(センターレベルのオフセット変動)。
【0006】
このような指紋の影響を排除するためには、従来、図11のような信号処理が行われていた。即ち光ディスクからの反射光情報として得られる再生信号を、オフセットキャンセラ81及びAGC(Automatic Gain Control)回路82を介して、復号器83に供給する構成である。
指紋が付着した領域を走査したときの再生信号波形としては、図13(a)に模式的に示すように、指紋の影響が波形に影響する期間(説明上、指紋期間という)が生ずる。この指紋期間では反射光量の低減により振幅レベルが低下する。またそれに伴って振幅のセンターレベルが変動する。即ちオフセット変動が生じている。
ここでまず、例えばハイパスフィルタにより形成されるオフセットキャンセラ81によって低域変動を除去することで、図13(b)のようにセンターレベルのオフセットを除去する。そしてAGC回路82で、振幅調整(振幅レベルに応じたゲイン付与)を行って、図13(c)のように、指紋の影響を排除した再生信号波形を得る。
このように指紋の影響を除去した後、例えばPRML(Partial Response Maximum Likelihood)方式等の復号器で復号を行い、2値データ列を得る。その後、2値データ列については、図示しないデコード回路部で、ランレングスリミテッドコードのデコード処理やエラー訂正処理等が行われ、再生データが得られる。
【0007】
ここで、指紋付着部における再生信号の変動は、通常のディスク再生時に1周内でみられる信号変動よりも高い周波数帯域で発生する。このため、図11のような回路で指紋耐性の向上を図る場合、オフセットキャンセラ81及びAGC回路82を、通常のディスク1周内変動を想定した周波数帯域よりも、より高い周波数帯域まで機能するものとしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、オフセットキャンセラ81やAGC回路82の周波数帯域を高めると、ディスクへの記録信号自体の周波数帯域と重なることになり、非指紋領域も含め再生信号自体を歪ませてしまうことになり、再生性能を悪化させてしまうという問題が生じた。
【0009】
実際、ブルーレイディスクの1倍速再生時に典型的な指紋付着部の再生信号の変動成分を効果的に低減しようとした場合、オフセットキャンセラ81やAGC回路82の周波数帯域の上限を60〜600KHz程度に設定する必要がある。ところが、これはブルーレイディスクで採用されているRLL(1−7)pp変調方式による記録信号の低域側スペクトラムと重複している。図14には、RLL(1−7)pp変調方式による記録信号の周波数スペクトラムと、指紋が外乱として影響する帯域を示しているが、図示するように、信号帯域の低域側は、指紋による変動成分の帯域と重複する。
【0010】
このため、オフセットキャンセラ81やAGC回路82を、指紋の影響を的確に排除するために周波数帯域の上限を60〜600KHz程度とすると、この帯域の本来の再生信号成分自体までもが、オフセットキャンセラ81やAGC回路82により変調を受けてしまうことになり、これによって、ジッタなどの信号品質指標でも検出されるような無視できない信号品質の悪化がおきてしまう。
すなわち、高帯域のオフセットキャンセラ81やAGC回路82によって、指紋が付着している領域の再生性能は改善するものの、指紋の付着していない領域については、逆に再生性能の低下が引き起こされてしまう。
【0011】
それゆえ、実際のディスクドライブ装置等では、指紋付着に対して十分に改善効果のあるような帯域まではオフセットキャンセラ81やAGC回路82の周波数帯域を高めることが出来ず、再生信号品質の低下が許容範囲内となる周波数まででオフセットキャンセラ81やAGC回路82の帯域が設定されてきた。
つまりは、指紋耐性機能を十分に発揮させることができなかった。
【0012】
しかしながら、特にブルーレイディスクのような高密度記録ディスクでは、指紋の影響は相対的に広い範囲のデータ再生に影響する。また大容量化のために多層構造が進み、記録層がディスクの表面に近づくことも、指紋の影響を大きくすることになる。
そこで本発明では、信号品質に影響を与えずに、指紋の影響を適切に排除できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の再生装置は、光ディスクに対してレーザ照射を行い、反射光信号としての再生信号を得る再生ヘッド部と、上記再生信号のオフセット成分のキャンセルを行うオフセットキャンセル回路と、上記オフセットキャンセル部を介した再生信号の振幅調整を行うオートゲインコントロール回路と、上記再生信号において、上記光ディスクの表面に付着した指紋の影響が生じている指紋期間を検出するとともに、上記指紋期間には、上記オフセットキャンセル回路又は上記オートゲインコントロール回路が機能する周波数帯域を、上記非指紋期間よりも高い周波数帯域までとなるようにする帯域切換制御部と、上記オートゲインコントロール回路を介した再生信号に対して復号処理を行い、2値化データを出力する復号部と、上記復号部で得られた2値化データに対してデータ再生処理を行って再生データを得るデータ再生処理部とを備える。
【0014】
また、上記帯域切換制御部は、上記再生信号の振幅エンベロープを検波し、振幅エンベロープを所定の閾値と比較することで、上記指紋期間を検出する。
また、上記帯域切換制御部は、上記再生信号のセンターレベルのオフセット変動を検出し、オフセットレベルを所定の閾値と比較することで、上記指紋期間を検出する。
また、上記帯域切換制御部は、上記再生信号の振幅エンベロープを検波し、振幅エンベロープを第1,第2の閾値と比較することで、上記指紋期間を検出する。
また、上記オートゲインコントロール回路は、上記非指紋期間に対応する通常周波数帯域で機能する第1のオートゲインコントロール回路部と、上記指紋期間に対応する高周波数帯域まで機能する第2のオートゲインコントロール回路部とにより構成され、上記帯域切換制御部は、上記指紋期間にのみ、上記第2のオートゲインコントロール回路部を機能させるように制御する。
【0015】
本発明の再生方法は、光ディスクに対してレーザ照射を行い、反射光信号としての再生信号を得る再生ヘッド部と、上記再生信号のオフセット成分のキャンセルを行うオフセットキャンセル回路と、上記オフセットキャンセル部を介した再生信号の振幅調整を行うオートゲインコントロール回路と、上記オートゲインコントロール回路を介した再生信号に対して復号処理を行い、2値化データを出力する復号部と、上記復号部で得られた2値化データに対してデータ再生処理を行って再生データを得るデータ再生処理部とを備えた再生装置における再生方法として、上記再生信号において、上記光ディスクの表面に付着した指紋の影響が生じている指紋期間を検出するとともに、上記指紋期間には、上記オフセットキャンセル回路又は上記オートゲインコントロール回路が機能する周波数帯域を、上記非指紋期間よりも高い周波数帯域までとなるようにして、オフセットキャンセル処理及び振幅調整処理を実行させる。
【0016】
このような本発明では、再生信号において指紋の影響が生じている期間(指紋期間)を検出し、その指紋期間のみ、オフセットキャンセル回路又はオートゲインコントロール回路が機能する周波数帯域を、非指紋期間よりも高い周波数帯域までとなるようにする。例えば帯域上限を60〜600KHz程度の範囲内で設定する。即ち指紋による振幅変動やオフセット変動を適切に排除できる周波数帯域でオフセットキャンセル処理、振幅調整処理を実行させる。一方、非指紋期間は、通常の周波数帯域、例えばディスクの周内変動による振幅やオフセットの成分を排除できるような帯域、例えば帯域上限を15KHz程度とする。これにより、指紋期間のみ、的確に指紋の影響を排除し、非指紋期間では再生信号成分自体にオフセットキャンセル動作やAGC動作の影響を与えないようにできる。
再生信号上での指紋期間の検出としては、指紋の影響に応じた振幅変動やオフセット変動を検出するようにすればよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、再生信号上で指紋の影響が生じている期間にのみ、再生信号に対して高帯域のオフセットキャンセル処理やAGC処理を行う。これによって指紋による振幅変動やアシンメトリの乱れを良好に補正できる。また非指紋期間では、高帯域までのオフセットキャンセル処理やAGC処理が行われないため、オフセットキャンセル処理やAGC処理が、再生信号成分自体に悪影響を及ぼすことはない。
結果として、指紋耐性を高め、再生能力を大きく向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を次の順序で説明する。
[1.ディスクドライブ装置の構成]
[2.指紋対処のための構成及び動作例I]
[3.指紋対処のための構成及び動作例II]
[4.指紋対処のための構成及び動作例III]
[5.指紋対処のための構成及び動作例IV]
[6.実施の形態の効果]
【0019】
[1.ディスクドライブ装置の構成]

本実施の形態のディスクドライブ装置は、例えばブルーレイディスクに該当する再生専用ディスクや記録可能型ディスク(ライトワンスディスクやリライタブルディスク)に対応して再生や記録を行うことができるものとする。
記録可能型ディスクの場合、波長405nmのレーザ(いわゆる青色レーザ)とNAが0.85の対物レンズの組み合わせという条件下でフェーズチェンジマーク(相変化マーク)や色素変化マークの記録再生を行うものとされ、トラックピッチ0.32μm、線密度0.12μm/bitで、64KB(キロバイト)のデータブロックを1つの記録再生単位(RUB:Recording Unit Block)として記録再生を行う。
ROMディスクについては、λ/4程度の深さのエンボスピットにより再生専用のデータが記録される。同様にトラックピッチは0.32μm、線密度は0.12μm/bitである。そして64KBのデータブロックを1つの再生単位(RUB)として扱う。
【0020】
記録再生単位であるRUBは、156シンボル×496フレームのECCブロック(クラスタ)に対して、例えばその前後に1フレームのリンクエリアを付加して生成された合計498フレームとなる。
なお、記録可能型ディスクの場合、ディスク上にはグルーブ(溝)が蛇行(ウォブリング)されて形成され、このウォブリンググルーブが記録再生トラックとされる。そしてグルーブのウォブリングは、いわゆるADIP(Address in Pregroove)データを含むものとされる。つまりグルーブのウォブリング情報を検出することで、ディスク上のアドレスを得ることができるようにされている。
【0021】
記録可能型ディスクの場合、ウォブリンググルーブによって形成されるトラック上にはフェイズチェンジマークによるレコーディングマークが記録されるが、フェーズチェンジマークはRLL(1,7)PP変調方式(RLL;Run Length Limited、PP:Parity preserve/Prohibit rmtr(repeated minimum transition runlength))等により、線密度0.12μm/bit、0.08μm/ch bitで記録される。
チャネルクロック周期を「T」とすると、マーク長は2Tから8Tとなる。
再生専用ディスクの場合、グルーブは形成されないが、同様にRLL(1,7)PP変調方式で変調されたデータがエンボスピット列として記録されているものとなる。
【0022】
このようなディスクに対応して記録/再生を行うことのできるディスクドライブ装置を図1に示す。
ディスク90は、例えば上記したブルーレイディスク方式の再生専用ディスク或いは記録可能型ディスクである。
このディスク90は、ディスクドライブ装置に装填されると図示しないターンテーブルに積載され、記録/再生動作時においてスピンドルモータ2によって一定線速度(CLV)で回転駆動される。
そして再生時には光学ピックアップ(光学ヘッド)1によってディスク90上のトラックに記録されたマーク(ピット)の情報の読出が行われる。
またディスク90が記録可能型のディスクの場合、データ記録時には光学ピックアップ1によってディスク90上のトラックにユーザーデータがフェイズチェンジマークもしくは色素変化マークとして記録される。
なお、ディスク90上には、再生専用の管理情報として例えばディスクの物理情報等がエンボスピット又はウォブリンググルーブによって記録されるが、これらの情報の読出もピックアップ1により行われる。さらに記録可能型のディスク90に対しては、光学ピックアップ1によってディスク90上のグルーブトラックのウォブリングとして埋め込まれたADIP情報の読み出しもおこなわれる。
【0023】
ピックアップ1内には、レーザ光源となるレーザダイオードや、反射光を検出するためのフォトディテクタ、レーザ光の出力端となる対物レンズ、レーザ光を対物レンズを介してディスク記録面に照射し、またその反射光をフォトディテクタに導く光学系等が形成される。レーザダイオードは、例えば波長405nmのいわゆる青色レーザを出力する。また光学系によるNAは0.85である。
ピックアップ1内において対物レンズは二軸機構によってトラッキング方向及びフォーカス方向に移動可能に保持されている。
またピックアップ1全体はスレッド機構3によりディスク半径方向に移動可能とされている。
またピックアップ1におけるレーザダイオードはレーザドライバ13からのドライブ信号(ドライブ電流)によってレーザ発光駆動される。
【0024】
ディスク90からの反射光情報はフォトディテクタによって検出され、受光光量に応じた電気信号とされてマトリクス回路4に供給される。
マトリクス回路4には、フォトディテクタとしての複数の受光素子からの出力電流に対応して電流電圧変換回路、マトリクス演算/増幅回路等を備え、マトリクス演算処理により必要な信号を生成する。
例えば再生データに相当するRF信号(再生信号)、サーボ制御のためのフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号などを生成する。
さらに、グルーブのウォブリングに係る信号、即ちウォブリングを検出する信号としてプッシュプル信号を生成する。
マトリクス回路4から出力される再生信号(RF信号)はデータ信号処理部5へ、フォーカスエラー信号及びトラッキングエラー信号は光学ブロックサーボ回路11へ、プッシュプル信号はウォブル信号処理回路15へ、それぞれ供給される。
【0025】
データ信号処理部5は、再生データ信号の2値化処理を行う。
例えばデータ信号処理部5では、RF信号のA/D変換処理、PLLによる再生クロック生成処理、PR(Partial Response)等化処理、ビタビ復号(最尤復号)等を行う復号器が設けられており、パーシャルレスポンス最尤復号処理(PRML検出方式:Partial Response Maximum Likelihood検出方式)により、2値データ列を得る。
なお、本例の場合、データ信号処理部5は、例えば図2に示す構成とされ、上記パーシャルレスポンス最尤復号処理を行う復号器53の前段に、再生信号に対するオフセット調整や振幅調整を行うための構成が設けられている。図2の構成については後述する。
【0026】
ここでパーシャルレスポンス最尤復号処理について簡単に述べておく。光ディスクの再生方式としては近年、パーシャルレスポンス最尤検出方式が広く採用されているが、これはディスクから読み出した信号のユークリッド距離が最小となるパーシャルレスポンス系列を検出する方式であり、パーシャルレスポンスという過程と最尤検出という過程が組み合わせた技術である。
なお、パーシャルレスポンス系列とは、ビット系列にターゲットレスポンスで定義される重みつき加算を施すことで得られる。光ディスクシステムでは、例えばPR(1,2,2,1)などが用いられ、これはビット系列に1,2,2,1の重みをつけて加算した値をパーシャルレスポンス値として返すものである。
パーシャルレスポンスは、1ビットの入力に対して、1ビットよりも長く出力を返す過程であって、再生信号が、連続する4ビットの情報ビットの入力に対してこれらを順に1、2、2、1を乗じて加算した信号として得られる過程が、上記のPR(1,2,2,1)と表現される。
また、最尤検出とは、2つの信号の間にユークリッド距離とよばれる距離を定義して、実際の信号と想定されるビット系列から予想される信号との間の距離を調べて、その距離が最も近くなるようなビット系列を検出する方法である。なお、ここで、ユークリッド距離とは、同じ時刻での2つの信号の振幅差の二乗を全時刻にわたって加算した距離として定義される距離である。また、この距離を最小とするビット系列の探索にはビタビ検出をもちいる。
これらを組み合わせたパーシャルレスポンス最尤検出では、記録媒体のビット情報から得られた信号をイコライザとよばれるフィルタでパーシャルレスポンスの過程となるように調整し、得られた再生信号と想定されるビット系列のパーシャルレスポンスとの間のユークリッド距離を調べて、その距離が最も近くなるようなビット系列を検出する。
実際にユークリッド距離が最小となるビット系列を探索するには、前述のビタビ検出によるアルゴリズムが効果を発揮する。
ビタビ検出は、所定の長さの連続ビットを単位として構成される複数のステートと、それらの間の遷移によって表されるブランチで構成されるビタビ検出器が用いられ、全ての可能なビット系列の中から、効率よく所望のビット系列を検出するように構成されている。
【0027】
データ信号処理部5では、このようなパーシャルレスポンス最尤検出方式を用いて、ディスク90から読み出した情報としての2値データ列を生成し、後段のエンコード/デコード部7に供給する。
【0028】
エンコード/デコード部7は、再生時おける再生データの復調と、記録時における記録データの変調処理を行う。即ち、再生時にはデータ復調、デインターリーブ、ECCデコード、アドレスデコード等を行い、また記録時にはECCエンコード、インターリーブ、データ変調等を行う。
再生時においては、上記データ信号処理部5で復号された2値データ列がエンコード/デコード部7に供給される。エンコード/デコード部7では上記2値データ列に対する復調処理を行い、上記記録媒体からの再生データを得る。即ち、即ちRLL(1,7)PP変調が施されてディスク90に記録されたデータに対しての復調処理と、エラー訂正を行うECCデコード処理を行って、ディスク90からの再生データを得る。
エンコード/デコード部7で再生データにまでデコードされたデータは、ホストインターフェース8に転送され、システムコントローラ10の指示に基づいてホスト機器100に転送される。ホスト機器100とは、例えばコンピュータ装置やAV(Audio-Visual)システム機器などである。
【0029】
ディスク90が記録可能型ディスクである場合は、その記録/再生時にADIP情報の処理が行われる。
即ちグルーブのウォブリングに係る信号としてマトリクス回路4から出力されるプッシュプル信号は、ウォブル信号処理回路6においてデジタル化されたウォブルデータとされる。またPLL処理によりプッシュプル信号に同期したクロックが生成される。
ウォブルデータはADIP復調回路16でMSK復調、STW復調され、ADIPアドレスを構成するデータストリームに復調されてアドレスデコーダ9に供給される。
アドレスデコーダ9は、供給されるデータについてのデコードを行い、アドレス値を得て、システムコントローラ10に供給する。
【0030】
記録時には、ホスト機器100から記録データが転送されてくるが、その記録データはホストインターフェース8を介してエンコード/デコード部7に供給される。
この場合エンコード/デコード部7は、記録データのエンコード処理として、エラー訂正コード付加(ECCエンコード)やインターリーブ、サブコードの付加等を行う。またこれらの処理を施したデータに対して、RLL(1−7)PP方式の変調を施す。
【0031】
エンコード/デコード部7で処理された記録データは、ライトストラテジ部14において、記録補償処理として、記録層の特性、レーザー光のスポット形状、記録線速度等に対する最適記録パワーの微調整やレーザドライブパルス波形の調整などが行われた状態のレーザドライブパルスとされ、レーザドライバ13に供給される。
そしてレーザドライバ13は、記録補償処理したレーザドライブパルスをピックアップ1内のレーザダイオードに与えてレーザ発光駆動を実行させる。これによりディスク90に記録データに応じたマークが形成されることになる。
なお、レーザドライバ13は、いわゆるAPC回路(Auto Power Control)を備え、ピックアップ1内に設けられたレーザパワーのモニタ用ディテクタの出力によりレーザ出力パワーをモニターしながらレーザーの出力が温度などによらず一定になるように制御する。記録時及び再生時のレーザー出力の目標値はシステムコントローラ10から与えられ、記録時及び再生時にはそれぞれレーザ出力レベルが、その目標値になるように制御する。
【0032】
光学ブロックサーボ回路11は、マトリクス回路4からのフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号から、フォーカス、トラッキング、スレッドの各種サーボドライブ信号を生成しサーボ動作を実行させる。
即ちフォーカスエラー信号、トラッキングエラー信号に応じてフォーカスドライブ信号、トラッキングドライブ信号を生成し、二軸ドライバ18によりピックアップ1内の二軸機構のフォーカスコイル、トラッキングコイルを駆動することになる。これによってピックアップ1、マトリクス回路4、光学ブロックサーボ回路11、二軸ドライバ18、二軸機構によるトラッキングサーボループ及びフォーカスサーボループが形成される。
また光学ブロックサーボ回路11は、システムコントローラ10からのトラックジャンプ指令に応じて、トラッキングサーボループをオフとし、ジャンプドライブ信号を出力することで、トラックジャンプ動作を実行させる。
また光学ブロックサーボ回路11は、トラッキングエラー信号の低域成分として得られるスレッドエラー信号や、システムコントローラ10からのアクセス実行制御などに基づいてスレッドドライブ信号を生成し、スレッドドライバ19によりスレッド機構3を駆動する。スレッド機構3には、図示しないが、ピックアップ1を保持するメインシャフト、スレッドモータ、伝達ギア等による機構を有し、スレッドドライブ信号に応じてスレッドモータを駆動することで、ピックアップ1の所要のスライド移動が行なわれる。
【0033】
スピンドルサーボ回路12はスピンドルモータ2をCLV回転させる制御を行う。
スピンドルサーボ回路12は、ウォブル信号に対するPLL処理で生成されるクロックを、現在のスピンドルモータ2の回転速度情報として得、これを所定のCLV基準速度情報と比較することで、スピンドルエラー信号を生成する。
またデータ再生時においては、データ信号処理回路5内のPLLによって生成される再生クロックが、現在のスピンドルモータ2の回転速度情報となるため、これを所定のCLV基準速度情報と比較することでスピンドルエラー信号を生成することもできる。
そしてスピンドルサーボ回路12は、スピンドルエラー信号に応じて生成したスピンドルドライブ信号を出力し、スピンドルドライバ17によりスピンドルモータ2のCLV回転を実行させる。
またスピンドルサーボ回路12は、システムコントローラ10からのスピンドルキック/ブレーキ制御信号に応じてスピンドルドライブ信号を発生させ、スピンドルモータ2の起動、停止、加速、減速などの動作も実行させる。
【0034】
以上のようなサーボ系及び記録再生系の各種動作はマイクロコンピュータによって形成されたシステムコントローラ10により制御される。
システムコントローラ10は、ホストインターフェース8を介して与えられるホスト機器100からのコマンドに応じて各種処理を実行する。
例えばホスト機器100から書込命令(ライトコマンド)が出されると、システムコントローラ10は、まず書き込むべきアドレスにピックアップ1を移動させる。そしてエンコード/デコード部7により、ホスト機器100から転送されてきたデータ(例えばビデオデータやオーディオデータ等)について上述したようにエンコード処理を実行させる。そして上記のようにエンコードされたデータに応じてレーザドライバ13がレーザ発光駆動することで記録が実行される。
【0035】
また例えばホスト機器100から、ディスク90に記録されている或るデータの転送を求めるリードコマンドが供給された場合は、システムコントローラ10はまず指示されたアドレスを目的としてシーク動作制御を行う。即ち光学ブロックサーボ回路11に指令を出し、シークコマンドにより指定されたアドレスをターゲットとするピックアップ1のアクセス動作を実行させる。
その後、その指示されたデータ区間のデータをホスト機器100に転送するために必要な動作制御を行う。即ちディスク90からのデータ読出を行い、データ信号処理部5、エンコード/デコード部7における再生処理を実行させ、要求されたデータを転送する。
【0036】
なお図1の例は、ホスト機器100に接続されるディスクドライブ装置として説明したが、本発明のディスクドライブ装置としては他の機器に接続されない形態もあり得る。その場合は、操作部や表示部が設けられたり、データ入出力のインターフェース部位の構成が、図1とは異なるものとなる。つまり、ユーザーの操作に応じて記録や再生が行われるとともに、各種データの入出力のための端子部が形成されればよい。
もちろんディスクドライブ装置の構成例としては他にも多様に考えられ、例えば再生専用装置としての例も考えられる。
【0037】
[2.指紋対処のための構成及び動作例I]

例えばこのようなディスクドライブ装置を想定した場合において、実施の形態としての特徴的な構成及び動作を説明していく。即ちディスク90に付着した指紋による影響に対して適切に対処できるようにする構成及び動作である。
【0038】
このために本例では、図1に示したデータ信号処理部5は図2のように構成されている。図示するようにデータ信号処理部5は、オフセットキャンセラ51、AGC回路52,復号器53、及び帯域切換制御部60を備える。
復号器53は、上述したようにパーシャルレスポンス最尤復号処理を行う部位であり、AGC回路52から入力された再生信号(アナログ信号としてのRF信号)に対するA/D変換処理、PLL再生クロック生成処理、PR等化処理、ビタビ復号処理を行って2値データ列を得る。
この復号器53の前段に、再生信号についてのオフセットキャンセルと振幅調整を行うためのオフセットキャンセラ51とAGC回路52が設けられている。
オフセットキャンセラ51はハイパスフィルタにより構成され、図13(a)(b)で述べたように再生信号のセンターレベルの変動成分(オフセット)を除去する。またAGC回路52は、図13(b)(c)で述べたように振幅調整(振幅レベルに応じたゲイン付与)を行って、指紋等の影響を排除した再生信号波形を得る。
【0039】
但し、オフセットキャンセラ51やAGC回路52は、指紋による影響だけでなく、ディスク90の回転周期で生じる再生信号の振幅変動や、各種外乱による変動も除去するためのものである。
ここで上述したように、ディスク90上の指紋付着部における再生信号の変動は、通常のディスク再生時に1周内でみられる信号変動よりも高い周波数帯域で発生する。このため、指紋耐性の向上を図る場合、オフセットキャンセラ51及びAGC回路52を、通常のディスク周内変動を想定した周波数帯域よりも、より高い周波数帯域まで機能するものとしなければならない。
ところが、オフセットキャンセラ51やAGC回路52の周波数帯域を高め過ぎると、ディスク90から読み出した情報信号(記録信号)自体の周波数帯域と重なることになり(図14参照)、その記録信号成分が歪み、再生性能を悪化させてしまう。
【0040】
そこで本例では、帯域切換制御部60の動作によって、オフセットキャンセラ51及びAGC回路52が機能する周波数帯域の切換制御を行うようにする。
具体的には、再生信号上で指紋の影響が現れている期間(指紋期間)を検出し、この指紋期間と非指紋期間で周波数帯域を切り換えるようにする。
【0041】
このために帯域切換制御部60として、振幅検出部61、帯域選択部62a,62b、指紋検出部63を設ける。
振幅検出部61は、再生信号についてエンベロープ検出を行う。例えば再生信号についてピークホールド、及び60KHz〜600KHzを通過帯域としたバンドパスフィルタ処理を行う構成により、振幅検出部61は、指紋の影響による振幅変動成分としてのエンベロープ検出を行う。
そして指紋検出部63は、検出されたエンベロープを所定の閾値th1と比較することで指紋期間を検出する。
ディスク90上の指紋付着箇所では、指紋による反射光の散乱が起こるため、再生信号振幅が減少する。例えば図3(a)に模式的に示すように再生信号振幅レベルが一時的に低下する。このような再生信号の振幅のエンベロープEを振幅検出部61で検出し、これを図3(b)のように、指紋検出部63において閾値th1と比較することで、図3(c)のような比較結果信号を得ることができる。この比較結果信号は、指紋期間の検出信号であり、指紋検出部63は、この指紋期間の検出信号を、帯域選択信号SLとして帯域選択部62a,62bに供給する。
【0042】
帯域選択部62a,62bは、それぞれ指紋期間用帯域としての情報と、非指紋期間用帯域としての情報が、例えばシステムコントローラ10により設定される。
一例として、非指紋期間用帯域としては15KHz以下、指紋期間用帯域としては100KHz以下として設定される。(なお指紋期間用帯域としては上限としてのカットオフ周波数を60〜600KHzの範囲内とすることが好適である。)
そして、帯域選択部62aはオフセットキャンセラ51に対しての帯域切換制御を行い、帯域選択部62bはAGC回路52に対しての帯域切換制御を行うわけであるが、その制御を、指紋検出部63からの帯域選択信号SLに基づいて実行する。
即ち、帯域選択信号SLが非指紋期間を示している際には、帯域選択部62a,62bは、オフセットキャンセラ51、AGC回路52に15KHz以下の帯域での動作を指示し、一方、帯域選択信号SLが指紋期間を示している際には、帯域選択部62a,62bは、オフセットキャンセラ51、AGC回路52に100KHz以下の帯域での動作を指示する。
【0043】
従って、再生信号上に指紋の影響が現れている指紋期間においては、オフセットキャンセラ51、AGC回路52の動作帯域が、例えば100KHz以下などとして、高い周波数帯域まで引き上げられ、これによって指紋部の再生信号の急激なオフセットや振幅変動が補償された状態で、再生信号が後段の復号器53に供給される。
一方、再生信号上に指紋の影響が現れていない非指紋期間においては、オフセットキャンセラ51、AGC回路52の動作帯域が、例えば15KHz以下など、通常の周波数帯域とされ、周内変動などの比較的低い周波数帯域のオフセット変動や振幅変動の補償が行われる。この場合、ディスク90から読み出した記録信号成分はオフセットキャンセラ51やAGC回路52による処理の影響を受けないことになるため、信号品質は悪化しない。
【0044】
本例ではこのような動作によって、非指紋領域での従来どおりの復号性能と、指紋領域のバースト的エラー発生の低減が両立され、トータルの再生性能が向上することになる。
【0045】
図4は上記実施の形態を適用した場合の実験結果例である。
これは、ディスク90上の指紋付着箇所を含む領域を連続的に記録再生し、シンボルエラーレートを測定した結果である。横軸はディスク上のアドレス、縦軸はエラーレートを示しており、アドレス順となる各ECCブロック単位でシンボルエラーレートを測定した。
○は実施の形態の回路を適用した場合であり、◆は、例えば図11のような構成としての従来回路を適用した場合を示している。従来回路とは、オフセットキャンセル処理、AGC処理を、常に通常帯域(例えば15KHz)程度までとして動作させたものである。
○及び◆は、それぞれ1つのECCブロックでのエラーレートである。
【0046】
従来回路の場合、オフセットキャンセル処理やAGC処理が15KHz程度までしか機能しないことで、指紋による影響をキャンセルできず、これによって指紋付着部でシンボルエラーレートが破線で示すクライテリア(4×10-3)付近まで悪化している。
一方、実施の形態の回路の場合、指紋付着部のシンボルエラーレートが約1桁改善した結果が確認された。(なお、1.0E-03〜1.04E-04の範囲を中心に分布している○が、指紋付着部分のECCブロックのエラーレートである。)
すなわち、本実施の形態により、確かに指紋付着部の再生性能の改善が確かめられた。
【0047】
図5は上記の測定時のディスク上の同一アドレスにおける、シンボルエラーカウントを従来回路と実施形態回路とで比較したものである。
横軸は従来回路でのエラーカウント数、縦軸は実施形態回路でのエラーカウント数を示している。例えば1つのサンプルSPに注目すると、このサンプルSPとしての或るECCブロックアドレスにおいては、従来回路ではエラーカウント数=100であり、実施形態回路ではエラーカウント数=2となったという意味である。従って対角線で区切られた右下に位置するサンプルは実施の形態により改善されているサンプル、左上に位置するサンプルは、実施の形態によって却ってエラーカウント数が増加したサンプルといえる。
ここで領域Aに含まれるサンプル(シンボルエラーカウントが10個未満の群)は、非指紋領域のECCブロックでのランダムエラーによるエラーカウント数であり、これらは、従来回路と実施形態回路でエラー低減の効果の差はない。非指紋領域に相当する再生信号上の指紋期間では、実施形態回路は、オフセットキャンセラ51やAGC回路52の動作帯域が15KHz程度とされるため、実施形態回路と従来回路は、実質的に同じオフセットキャンセル及びAGC処理が行われる。
一方、領域Bに含まれるサンプルは、指紋領域のECCブロックでの指紋によるバーストエラーによるエラーカウント数であり、これらから、オフセットキャンセラ51やAGC回路52の動作帯域が100KHz程度とされる実施形態回路では、従来回路に比べてエラーカウント数が大きく低減されていることがわかる。
即ちこの図5からは、実施形態回路によって、非指紋領域での再生性能を低下させることなく、指紋領域での再生性能が向上されるということがわかる。
【0048】
なお、実施の形態の動作では指紋付着部分に対応して、オフセットキャンセラ51やAGC回路52での動作帯域が高帯域に広げられるが、これは、エラー訂正単位であるECCブロック単位に満たない範囲で指紋の影響が表れていても、対応できることを意味する。
【0049】
[3.指紋対処のための構成及び動作例II]

続いて、他の構成及び動作例を説明する。
図6は、上記図2と同様にデータ信号処理部5の内部構成例を示したものであるが、この図6の構成は、帯域切換制御部60として、図2の振幅検出部61に代えてオフセット変動検出部64を設けたものである。指紋検出部63、帯域選択部62a,62bを設けることは図2と同様である。
【0050】
この場合、オフセット変動検出部64は、再生信号からオフセット変動成分を検出する。オフセット変動検出部64は、具体的には、例えば60KHz〜600KHzを通過帯域としたバンドパスフィルタとされる。
オフセット変動検出部64は、バンドパスフィルタ処理により、例えば図7(a)のような再生信号からオフセット変動成分、つまりセンターレベル波形CLの変動を検出する。
そして指紋検出部63は、検出されたセンターレベル波形CLを所定の閾値th3と比較することで指紋期間を検出する。
指紋付着部に相当する再生信号上では、再生振幅と同時にセンターレベルのオフセット量も変動するので、図7(b)のようにセンターレベル波形CLと閾値th3と比較することで指紋期間を検出することができる。即ち図7(c)のような比較結果信号を得ることができ、指紋検出部63は、この指紋期間の検出信号を、帯域選択信号SLとして帯域選択部62a,62bに供給する。
帯域選択部62a,62bは、帯域選択信号SLが非指紋期間を示している際には、オフセットキャンセラ51、AGC回路52に15KHz以下の帯域での動作を指示し、一方、帯域選択信号SLが指紋期間を示している際には、オフセットキャンセラ51、AGC回路52に100KHz以下の帯域での動作を指示する。
【0051】
即ち、この帯域切換制御部60の制御により、オフセットキャンセラ51、AGC回路52では、図2の構成の場合と同様の動作帯域切換が行われることになり、結果として、非指紋領域での従来どおりの復号性能と、指紋領域のバースト的エラー発生の低減が両立され、トータルの再生性能が向上される。
【0052】
[4.指紋対処のための構成及び動作例III]

図8に、さらに他の構成例を示す。これは、帯域切換制御部60として、振幅検出部61、指紋検出部63、帯域選択部62a,62bを設けることは図2と同様であるが、指紋検出部63に対しては2つの閾値th1,th2を与えるようにする例である。
【0053】
光ディスクの記録再生時には、指紋以外にもディスク製造上の欠陥や傷などによる再生信号の欠落などがあり、この場合は全く再生信号が得られない。その場合、オフセットキャンセラ51やAGC回路52を高帯域動作させることに効果がないばかりか、正常領域への復帰に際して、過渡応答による悪影響が懸念される。
そこで、図8に示すように、指紋領域の判定に際し、閾値th1,th2を用い、th1>x>th2となるような条件のみで指紋期間を判定する。
図9(a)に振幅検出部61で検出される再生信号のエンベロープ波形を模式的に示すが、欠陥期間では再生信号が欠落することでエンベロープ波形も大きく落ち込む。そこで指紋検出部63では、図9(a)(b)のようにth1>x>th2の条件で帯域選択信号SLを生成する。つまり、欠陥期間を指紋期間と判定しないようにする。
この帯域選択信号SLを帯域選択部62a,62bに供給し、上述した各例と同様にオフセットキャンセラ51及びAGC回路52の動作帯域切換を実行させる。
これによって、ディスク90上の欠陥領域の影響が現れている再生信号上の欠陥期間ででは、オフセットキャンセラ51及びAGC回路52が高帯域動作に切り換えられることはなくなり、過渡応答による悪影響のない、より安全な回路動作が実現される。
【0054】
[5.指紋対処のための構成及び動作例IV]

図10にさらに他の構成例を示す。この例では、データ信号処理部5において、オフセットキャンセラ51の後段にAGC回路52a、52bという2段のAGC回路を設けるようにしている。
AGC回路52aは、非指紋期間について最適化された、例えば15KHz程度までの帯域に対して動作する回路とされ、一方、AGC回路52bは、指紋期間に対応できるように例えば100KHz程度までの帯域に対して動作する回路として構成されている。
【0055】
振幅検出部61は、オフセットキャンセラ51及びAGC回路52aで処理された再生信号についてエンベロープ検波を行う。
指紋検出部63は、振幅検出部61で抽出されたエンベロープ波形を閾値th1と比較することで、指紋期間と非指紋期間を示す帯域選択信号SLを生成する。この帯域選択信号SLは、帯域選択部62a及びAGC回路52bに供給される。
【0056】
帯域選択部62aは、帯域選択信号SLが非指紋期間を示している際には、オフセットキャンセラ51に非指紋期間用の帯域として例えば15KHz以下の帯域での動作を指示し、一方、帯域選択信号SLが指紋期間を示している際には、オフセットキャンセラ51に指紋期間用の帯域として例えば100KHz以下の帯域での動作を指示する。
またAGC回路52bは、帯域選択信号SLをイネーブル信号として入力する。そして帯域選択信号SLで指紋期間とされた期間はAGC処理を行い、一方、帯域選択信号SLで非指紋期間とされた期間は、処理をスルーする。即ちゲイン=1に固定する。
【0057】
このような構成によれば、非指紋期間では、オフセットキャンセラ51とAGC回路52aによって、周内変動等によるオフセット成分のキャンセルや振幅変動の調整が行われる。
また指紋期間では、オフセットキャンセラ51で、周内変動だけでなく指紋付着の影響によるオフセット変動のキャンセルが行われ、また、AGC回路52a、52bが共に振幅調整動作を行い、指紋の影響への対応を含めた振幅調整が行われる。
つまり、上述した各例と同様に、非指紋領域での従来どおりの復号性能と、指紋領域のバースト的エラー発生の低減が両立され、トータルの再生性能が向上される。
【0058】
さらにこの図10の構成の場合、振幅検出部61は、オフセットキャンセラ51、AGC回路52aで調整された再生信号、つまり指紋以外の原因によるオフセット成分や振幅変動成分が抑圧された再生信号に対して、エンベロープ検波を行うことになる。これは、より高い周波数帯域で発生する指紋による変動成分のみをモニタできることを意味し、結局、指紋検出部63での指紋期間の検出精度(帯域選択信号SLの精度)を高められることになる。
またAGC回路52a,52bでは、帯域切換が行われないため、切換時の過渡応答による影響が一切発生しないという利点もある。
【0059】
[6.実施の形態の効果]

以上説明したように、実施の形態の各構成及び動作によれば、再生信号上で指紋の影響が生じている期間にのみ、再生信号に対して高帯域のオフセットキャンセル処理やAGC処理が行われる。これによって指紋による振幅変動やアシンメトリの乱れを良好に補正できる。また非指紋期間では、高帯域までのオフセットキャンセル処理やAGC処理が行われないため、オフセットキャンセル処理やAGC処理が、再生信号成分自体に悪影響を及ぼすことはない。結果として、指紋耐性を高め、再生能力を大きく向上させることができる。
【0060】
また実施の形態の動作は、指紋だけでなく、ディスク記録面側に付着した他の汚れ等にも改善効果が期待できる。すなわち、光ディスク装置のリムーバブルメディアとして解決しなければならない、指紋や汚れの付着時の再生性能(プレーヤビリティ)を改善することができる。
【0061】
なお本発明は、上記実施の形態で述べた例に限らず、構成及び動作として多様な変形例が考えられる。
本発明の再生装置としては、ブルーレイディスクに対応するディスクドライブ装置の他、他の各種の光ディスクについて再生を行う装置に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施の形態のディスクドライブ装置のブロック図である。
【図2】実施の形態のデータ信号処理部の構成例のブロック図である。
【図3】実施の形態の指紋期間検出動作の説明図である。
【図4】実施の形態によるエラーレート検査例の説明図である。
【図5】実施の形態による改善効果の説明図である。
【図6】実施の形態のデータ信号処理部の構成例のブロック図である。
【図7】実施の形態の指紋期間検出動作の説明図である。
【図8】実施の形態のデータ信号処理部の構成例のブロック図である。
【図9】実施の形態の指紋期間検出動作の説明図である。
【図10】実施の形態のデータ信号処理部の構成例のブロック図である。
【図11】従来の再生信号処理系のブロック図である。
【図12】指紋の影響の現れた再生信号波形の説明図である。
【図13】オフセットキャンセル及びAGC処理の説明図である。
【図14】指紋外乱帯域と記録信号帯域の説明図である。
【符号の説明】
【0063】
5 データ信号処理部、51 オフセットキャンセラ、52,52a,52b AGC回路、53 復号器、60 帯域切換制御部、61 振幅検出部、62a,62b 帯域選択部、63 指紋検出部、64 オフセット変動検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ディスクに対してレーザ照射を行い、反射光信号としての再生信号を得る再生ヘッド部と、
上記再生信号のオフセット成分のキャンセルを行うオフセットキャンセル回路と、
上記オフセットキャンセル部を介した再生信号の振幅調整を行うオートゲインコントロール回路と、
上記再生信号において、上記光ディスクの表面に付着した指紋の影響が生じている指紋期間を検出するとともに、上記指紋期間には、上記オフセットキャンセル回路又は上記オートゲインコントロール回路が機能する周波数帯域を、上記非指紋期間よりも高い周波数帯域までとなるようにする帯域切換制御部と、
上記オートゲインコントロール回路を介した再生信号に対して復号処理を行い、2値化データを出力する復号部と、
上記復号部で得られた2値化データに対してデータ再生処理を行って再生データを得るデータ再生処理部と、
を備えたことを特徴とする再生装置。
【請求項2】
上記帯域切換制御部は、上記再生信号の振幅エンベロープを検波し、振幅エンベロープを所定の閾値と比較することで、上記指紋期間を検出することを特徴とする請求項1に記載の再生装置。
【請求項3】
上記帯域切換制御部は、上記再生信号のセンターレベルのオフセット変動を検出し、オフセットレベルを所定の閾値と比較することで、上記指紋期間を検出することを特徴とする請求項1に記載の再生装置。
【請求項4】
上記帯域切換制御部は、上記再生信号の振幅エンベロープを検波し、振幅エンベロープを第1,第2の閾値と比較することで、上記指紋期間を検出することを特徴とする請求項1に記載の再生装置。
【請求項5】
上記オートゲインコントロール回路は、上記非指紋期間に対応する通常周波数帯域で機能する第1のオートゲインコントロール回路部と、上記指紋期間に対応する高周波数帯域まで機能する第2のオートゲインコントロール回路部とにより構成され、
上記帯域切換制御部は、上記指紋期間にのみ、上記第2のオートゲインコントロール回路部を機能させるように制御することを特徴とする請求項1に記載の再生装置。
【請求項6】
光ディスクに対してレーザ照射を行い、反射光信号としての再生信号を得る再生ヘッド部と、
上記再生信号のオフセット成分のキャンセルを行うオフセットキャンセル回路と、
上記オフセットキャンセル部を介した再生信号の振幅調整を行うオートゲインコントロール回路と、
上記オートゲインコントロール回路を介した再生信号に対して復号処理を行い、2値化データを出力する復号部と、
上記復号部で得られた2値化データに対してデータ再生処理を行って再生データを得るデータ再生処理部と、
を備えた再生装置における再生方法として、
上記再生信号において、上記光ディスクの表面に付着した指紋の影響が生じている指紋期間を検出するとともに、上記指紋期間には、上記オフセットキャンセル回路又は上記オートゲインコントロール回路が機能する周波数帯域を、上記非指紋期間よりも高い周波数帯域までとなるようにして、オフセットキャンセル処理及び振幅調整処理を実行させることを特徴とする再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−70510(P2009−70510A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239630(P2007−239630)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】