説明

再生装置、楽音信号出力装置、再生システム及びプログラム

【課題】楽音信号から得られる情報に基づいて、その楽音信号に曲データを同期して再生する。
【解決手段】第1楽音信号に同期して再生すべき曲データ(例えば、MIDIデータ)の内容を指示する透かし情報が重畳された第2楽音信号を楽音信号取得部211が取得すると、第1再生部212は、第2楽音信号(例えば、透かし情報の周波数成分を除去した後の第2楽音信号)を再生する。復号部213は、取得された第2楽音信号から透かし情報を復号する。読出部214は、第1再生部212により再生される第2楽曲信号に同期して再生すべき曲データを読み出す。第2再生部215は、第1再生部212により再生される第2楽曲信号に同期して再生する曲データの内容を、復号された透かし情報に含まれるタイムコードに基づいて特定し、特定した内容を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同期再生に関する。
【背景技術】
【0002】
オーディオデータに同期して別の曲データを再生するための技術として、例えば特許文献1に開示されたものがある。特許文献1に記載された技術は、デジタルオーディオデータのLSB(Least Significant Bit)にMIDI(Musical Instrument Digital Interface:登録商標)データを格納し、これらの関連付けに基づいて各データを再生するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−316356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、インターネットなどの通信網を経由して曲データやオーディオデータを配信することがあるが、その際にそれらのデータを圧縮することがある。特許文献1に記載された技術では、オーディオデータを圧縮したり、アナログ形式の楽音信号に変換したりした場合に、同期再生に必要な情報が失われてしまい、その同期再生の妨げとなることがある。
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、楽音信号から得られる情報に基づいて、その楽音信号に曲データを同期して再生することを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明に係る再生装置は、第1楽音信号に同期して再生すべき曲データの内容を指示する透かし情報がその第1楽音信号の周波数成分よりも高い帯域に重畳された第2楽音信号を取得する取得手段と、前記取得手段により取得された第2楽音信号を再生する第1再生手段と、前記取得された第2楽音信号から前記透かし情報を復号する復号手段と、前記第1再生手段により再生される第2楽音信号に同期して再生すべき前記内容を復号された前記透かし情報に基づいて特定し、特定した内容を再生する第2再生手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の好ましい態様において、前記透かし情報は、曲データを識別する曲識別情報と、その曲データの再生すべき位置を示す位置情報とを含み、前記曲識別情報とその曲識別情報により識別される曲データとを対応付けて記憶する曲データ記憶手段から、前記復号手段により復号された透かし情報に含まれる曲識別情報に対応付けられた曲データを読み出す読出手段を備え、前記第2再生手段は、前記読出手段により読み出された曲データの前記透かし情報に含まれる位置情報が示す位置の内容を再生することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る楽音信号出力装置は、第1楽音信号に同期して再生すべき曲データの内容を指示する透かし情報をその第1楽音信号の周波数成分よりも高い帯域に重畳する重畳手段と、前記重畳手段により透かし情報が重畳された第2楽音信号を出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
本発明に係る再生システムは、上記構成の楽音信号出力装置と、上記いずかの構成の再生装置とを備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るプログラムは、コンピュータを、第1楽音信号に同期して再生すべき曲データの内容を指示する透かし情報がその第1楽音信号の周波数成分よりも高い帯域に重畳された第2楽音信号を取得する取得手段と、前記取得手段により取得された第2楽音信号を再生する第1再生手段と、前記取得された第2楽音信号から前記透かし情報を復号する復号手段と、前記第1再生手段により再生される第2楽音信号に同期して再生すべき前記内容を復号された前記透かし情報に基づいて特定し、特定した内容を再生する第2再生手段として機能させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、楽音信号から得られる情報に基づいて、その楽音信号に曲データを同期して再生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】再生システムの構成を示すブロック図。
【図2】楽音信号出力装置の構成を示すブロック図。
【図3】オーディオファイルの構造を説明する図。
【図4】自動演奏装置のハードウェア構成を示すブロック図。
【図5】MIDIファイルの構造を説明する図。
【図6】楽音信号出力装置の制御部が実現する機能的構成を示す機能ブロック図。
【図7】第2楽音信号の構造を説明する図。
【図8】第2楽音信号の時系列的な変化を説明するグラフ。
【図9】自動演奏装置の制御部が実現する機能的構成を示す機能ブロック図。
【図10】第2再生部において実行される処理の内容を説明する図。
【図11】再生システムの構成を示すブロック図。
【図12】再生システムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態について説明する。
図1は、この実施形態の再生システム1の構成を示すブロック図である。
再生システム1は、楽音信号出力装置10と自動演奏装置20とを備える。楽音信号出力装置10と自動演奏装置20とはオーディオケーブル100によって接続されている。楽音信号出力装置10は、本発明の楽音信号出力装置の一例に相当し、オーディオケーブル100を介して自動演奏装置20に対して楽音信号を出力する。自動演奏装置20は、本発明の再生装置の一例に相当し、ここでは自動演奏機能を有している電子ピアノである。なお、この明細書において、「楽音信号」は、楽音の波形を表すアナログ形式の波形信号である。
【0012】
図2は、楽音信号出力装置10の構成を示すブロック図である。図2に示すように、楽音信号出力装置10は、制御部11と、記憶部12と、操作部13と、表示部14と、出力インタフェース15とを備える。
制御部11は、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)を備える。CPUは、RAMをワークエリアとして用いてROMや記憶部12に記憶されたプログラムを実行して、楽音信号出力装置10の各部を制御する。記憶部12は、例えばハードディスク装置を備えた記憶手段である。記憶部12は、制御部11が動作するためのプログラムを記憶するとともに、オーディオファイルが記憶されているオーディオファイル記憶領域121を有している。操作部13は、例えばキーボードやマウスなどであり、利用者によって操作が行われると、その操作内容に応じた操作信号を制御部11へ出力する。表示部14は、例えば液晶ディスプレイを備える表示手段であり、各種の情報を表示する。出力インタフェース15は、本発明の出力手段の一例に相当し、オーディオケーブル100が接続される出力端子である。出力インタフェース15は、制御部11から供給される楽音信号を、オーディオケーブル100を介して接続される自動演奏装置20に出力するものである。
【0013】
図3は、オーディオファイル記憶領域121に記憶されているオーディオファイルAudの構造を説明する図である。
オーディオファイルAudは、SongIDとオーディオデータとの各情報を対応付けたものである。オーディオデータは、或る楽曲の楽器演奏や歌唱などによって発生する音が時系列的に規定されたデータである。オーディオデータは、例えば、音を表すアナログ形式の波形信号が特定のサンプリング周波数(例えば、44.1kHz)に従って標本化された後、量子化されたデジタルデータを表す。SongIDは、オーディオファイル記憶領域121に記憶される各オーディオファイルを一意に識別する識別情報である。
【0014】
図4は、自動演奏装置20のハードウェア構成を示すブロック図である。図4に示すように、自動演奏装置20は、制御部21と、入力インタフェース22と、記憶部23と、スピーカ24と、演奏操作部25と、楽音信号生成部26とを備える。
制御部21は、制御部11と同等の構成のほかシーケンサ(ここでは、MIDIシーケンサ)としての機能を実現するための構成を有している。制御部21のCPUは、ROMや記憶部23に記憶されたプログラムを実行して自動演奏装置20の各部を制御する。入力インタフェース22は、オーディオケーブル100が接続される入力端子である。入力インタフェース22には、楽音信号出力装置10から供給される楽音信号が入力される。記憶部23は、例えばハードディスク装置を備えた記憶手段であり、制御部21が動作するためのプログラムを記憶するとともに、MIDIファイルが記憶されているMIDIファイル記憶領域231を有している。スピーカ24は、制御部21により再生される楽音信号や、本発明の曲データの一例に相当するMIDIデータに応じて放音する放音手段に相当するものである。演奏操作部25は、演奏者の演奏操作を受け付けるものであり、複数の鍵を有するピアノ鍵盤などの演奏操作子や、演奏操作を検知するセンサ、演奏者の操作がなくとも各鍵を押下させるための駆動回路などを有している。演奏操作部25は、演奏者による演奏操作を受け付けると、その演奏操作をセンサによって検出し、検出した内容を示す演奏情報を制御部21に出力する。楽音信号生成部26は、音源回路やDSP(Digital Signal Processor)を備え、制御部21から供給される演奏情報に従って音声処理を行い、演奏情報に応じた楽音信号を生成して制御部21に出力する。制御部21は、その楽音信号をスピーカ24に出力して、楽音信号に応じた楽音を放音させる。
【0015】
図5は、MIDIファイル記憶領域231に記憶されているMIDIファイルの構造を説明する図である。MIDIファイルMidは、例えば1つの楽曲に対応しており、曲IDと、SongIDと、MIDIデータとの各情報を対応付けたものである。曲IDは、各MIDIファイルを一意に識別する識別情報である。MIDIデータは、特定の楽音の発音や消音などといった演奏制御を指示するイベントや、イベント間の発生時間間隔を示すデルタタイムを含む演奏制御情報である。SongIDは、本発明の曲識別情報の一例に相当し、オーディオファイル記憶領域121に記憶されたオーディオファイルAudに割り当てられたものと対応している。このSongIDは、自動演奏装置20がオーディオファイルAudを基に生成された楽音信号を再生する際に、どのMIDIデータを再生するかを選択可能にするために割り当てられた識別情報である。
以上の構造を有するMIDIファイル記憶領域231は、本発明の曲データ記憶手段の一例に相当するものである。
【0016】
次に、楽音信号出力装置10及び自動演奏装置20によって実現される機能について説明する。
[楽音信号出力装置10]
楽音信号出力装置10によって実現される機能について説明する。
図6は、楽音信号出力装置10の制御部11が実現する機能的構成を示す機能ブロック図である。制御部11は、再生時刻特定部111、透かし情報生成部112、前処理部113、及び重畳部114に相当する機能を実現する。なお、後述する透かし情報が重畳される前の楽音信号であり、制御部11が実現する各機能において処理対象となる楽音信号のことを、以下では「第1楽音信号」と称する。なお、制御部11は、利用者により操作部13が操作されて指定されたオーディオファイルAudをオーディオファイル記憶領域121から読み出し、そこに含まれるオーディオデータを基に第1楽音信号を生成する。
【0017】
再生時刻特定部111は、第1楽音信号の再生位置を表す再生時刻を特定する。再生時刻は、オーディオデータの開始位置を基準としたとき(ここでは、「0:00」とする。)の再生位置を表すものである。再生時刻特定部111は、オーディオファイルAudを参照することにより再生時刻を特定し得る。
透かし情報生成部112は、第1楽音信号に重畳されることとなる透かし情報を生成する。ここでの透かし情報は、SongIDと、再生時刻(つまり、再生位置)を示す位置情報(以下、「タイムコード」という。)とを含むビット列である。なお、透かし情報生成部112は、オーディオファイルAudからSongIDを特定し得る。
前処理部113は、例えばLPF(Low Pass Filter)を備えており、第1楽音信号に前処理を施す。具体的には、前処理部113は、前処理としてLPFを用いたフィルタリング処理を第1楽音信号に施し、第1楽音信号の周波数成分のうち透かし情報が重畳されることとなる帯域に含まれる周波数成分を遮断する。すなわち、このLPFは、遮断周波数をf0とする特性を持つものである。
【0018】
重畳部114は、上記前処理が施された後の第1楽音信号に同期して再生すべき曲データの内容を指示する透かし情報を、その第1楽音信号に重畳する。ここでは、重畳部114は、第1楽音信号を搬送するための搬送波を表す搬送波信号を透かし情報に基づいて位相変調することにより、第1楽音信号の周波数成分よりも高い帯域に透かし情報が含まれるようにする。このようにして、第1楽音信号に透かし情報が重畳された楽音信号のことを、以下では「第2楽音信号」と称する。すなわち、第2楽音信号は、第1楽音信号と、透かし情報の波形を表す波形信号とが合成された楽音信号である。
なお、オーディオデータが複数チャネルからなる場合には、重畳部114は少なくとも1チャネルの第1楽音信号に透かし情報を重畳して第2楽音信号を生成すればよい。
【0019】
図7は、第2楽音信号の構造を説明する図である。図7に示すグラフにおいて、横軸は周波数fを表しており、縦軸は周波数成分の音圧レベルを模式的に表したものである。図7に示すように、第2楽音信号にあっては、周波数f0よりも低い周波数帯域に第1楽音信号の周波数成分が含まれており、周波数f0よりも高い周波数帯域に透かし情報の周波数成分が含まれている。第1楽音信号は例えば可聴域(およそ20Hz〜20kHz)に周波数成分を持つものであり、可聴域よりも高い帯域に透かし情報を重畳する帯域が確保されるからである。周波数f0は、例えば20kHz以上のように可聴域外であることが好ましい。この場合、第2楽音信号に応じた楽音が放音された場合であっても、人間の耳には透かし情報に相当する音声を聴き取ることができないため聴感上の影響が少ないからである。また、楽音信号を圧縮するときのエンコーダの特性や、A(アナログ)/D(デジタル)変換に用いるA/D変換器の特性などにより、可聴域外に重畳された透かし情報を維持することができない場合などには、例えば15kHz以上のように可聴域の比較的帯域に透かし情報が重畳されてもよい。要するに、第1楽音信号の周波数成分よりも高い帯域であって、聴感上の影響が低い帯域に透かし情報が重畳されることが好ましい。
出力インタフェース15は、重畳部114により透かし情報が重畳された楽音信号である第2楽音信号を、自動演奏装置20の制御部21によって取得されるように出力する。制御部11は、或る処理単位毎に供給される第1楽音信号に対して上記各機能により実現される処理を繰り返し行って、自動演奏装置20に出力するための第2楽音信号を生成する。
【0020】
図8は、出力インタフェース15により出力される第2楽音信号の時系列的な変化を説明する図である。図8に示すグラフにおいて、横軸は時刻tを表しており、縦軸は第2楽音信号の振幅を表す。図8において、実線で示す波形が第2楽音信号を表すものであり、それに沿って描かれる破線はエンベロープを表す。
図8に示すように、第2楽音信号にはあっては、図中矢印で示す各区間にそれぞれ対応する再生時刻を示すタイムコードと、SongIDとを含む透かし情報が重畳されている。ここでは、1つのオーディオファイルAudから生成される第2楽音信号は1つの楽曲に対応するので、SongIDはすべて「001」と共通している。また、タイムコードが示す再生時刻は時系列的に順番に「0:01」、「0:02」、・・・とされており、ここでは1秒刻みで定められている。
【0021】
[自動演奏装置20]
次に、自動演奏装置20によって実現される機能について説明する。
図9は、自動演奏装置20の制御部21が実現する機能的構成を示す機能ブロック図である。制御部21はプログラムを実行することにより、楽音信号取得部211、第1再生部212、復号部213、読出部214、及び第2再生部215に相当する各機能を実現する。
楽音信号取得部211は、楽音信号出力装置10により出力された第2楽音信号を入力インタフェース22から取得する。すなわち、楽音信号取得部211は、本発明の取得手段の一例に相当する。
【0022】
第1再生部212は、例えば遮断周波数をf0とするLPFを備えており、楽音信号取得部211により取得された第2楽音信号にこのLPFを用いたフィルタリング処理を施してから、第2楽音信号を再生する。これにより、第1再生部212は、透かし情報の周波数成分を除去した後の第2楽音信号を再生することになるから、その再生内容は理想的には第1楽音信号の場合と同等となる。つまり、第1再生部212は、第1楽音信号に応じた楽音がスピーカ24によって放音されるように、第2楽音信号を再生することとなる。すなわち、第1再生部212は、本発明の第1再生手段の一例に相当する。
なお、可聴域外に透かし情報の周波数成分が含まれる場合や、透かし情報の周波数成分の音圧レベルが低い場合などには、透かし情報に相当する音声に対する聴感上の影響が少ないため、上記フィルタリング処理を省略してもよい。つまり、第1再生部212は、楽音信号取得部211により取得された第2楽音信号をそのまま再生してもよい。
【0023】
復号部213は、例えば遮断周波数をf0とするHPF(High Pass Filter)を備え、第2楽音信号から透かし情報を復号する。上述したように、透かし情報の周波数成分は第1楽音信号よりも高い帯域に含まれる。よって、復号部213は、このHPFを用いたフィルタリング処理を施して、第2楽音信号から透かし情報に相当する周波数成分を取り出すことができる。そして、復号部213は、このフィルタリング処理により取り出した信号を復調することによって透かし情報を復号する。すなわち、復号部213は、本発明の復号手段の一例に相当する。
読出部214は、復号部213により復号された透かし情報に基づいてSongIDを特定し、特定したSongIDに対応付けられたMIDIデータを、MIDIファイル記憶領域231から読み出す。すなわち、読出部214は、本発明の読出手段の一例に相当する。
【0024】
第2再生部215は、第1再生部212により再生される第2楽曲信号に同期して再生すべき曲データの内容を透かし情報に基づいて特定し、特定した内容を再生する。第2再生部215は、読出部214により読み出されたMIDIデータのうち、復号部213により復号された透かし情報から復号したタイムコードが示す再生時刻の内容を再生する。これにより、第2再生部215は、第1再生部212により再生される第2楽音信号に同期して、その第2楽音信号の再生時刻に対応するMIDIデータの内容を再生することができる。すなわち、第2再生部215は、本発明の第2再生手段の一例に相当する。
【0025】
図10は、第2再生部215において実行される処理の内容を説明する図である。
第2再生部215が再生時刻を特定すると、MIDIデータのうちこの再生時刻に対応するイベントを特定する。例えば再生時刻が「0:04」である場合に同期して再生すべき曲データ内容が、図中実線矢印で示すイベントE3であるとする。この場合、第2再生部215は、イベントE3を表すイベントデータに基づいてMIDIデータを再生する。ところで、例えば復号部213、読出部214及び第2再生部215において実行される処理には或る処理時間を要する。よって、その処理時間(例えば、100ms)をあらかじめ見込んでおき、第2再生部215は透かし情報から特定した再生時刻よりもその処理時間だけ先のイベントデータに基づいてMIDIデータを再生するとよい。また、第2再生部215が再生時刻「0:04」を特定したときに、図中点線矢印で示すようにイベントE1を表すイベントデータに基づいてMIDIデータを再生している場合のように、MIDIデータと第2楽音信号との再生タイミングが意図するものからずれている場合には、第2再生部215は、イベントE1,E2を省略したり、テンポを早くしたりする(デルタタイムを短くする)などして、同期再生が実現されるようにするとよい。
【0026】
制御部11は、以上の手順により同期再生を行うとともに、さらに、演奏操作部25により受け付けられた演奏操作に応じて生成された楽音信号を合成し、その合成後の楽音信号に応じた楽音をスピーカ24に放音させる。また、制御部11は、MIDIデータの再生内容に応じて演奏操作部25の駆動回路を駆動することにより、演奏者の操作がなくとも対応する各鍵を押下させる。
【0027】
以上説明した実施形態によると、楽音信号出力装置10は、第1楽音信号とMIDIデータとを同期再生するために使用する透かし情報をその第1楽音信号に重畳し、それを第2楽音信号として出力する。自動演奏装置20は、第2楽音信号に同期して再生すべきMIDIデータの内容を透かし情報に基づいて特定し、特定したMIDIデータの内容と第2楽音信号とを同期再生する。また、楽音信号出力装置10や自動演奏装置20が第2楽音信号をデータ圧縮した場合に、仮にSongIDやタイムコードの一部が失われたとしても、その失われた期間においてのみMIDIデータの再生すべき内容を特定できないもののその期間においてもMIDIデータを継続して再生することはできるので、さほど同期再生の妨げとはならない。
以上のように、再生システム1によれば、楽音信号から得られる情報に基づいて、その楽音信号と曲データとを同期再生することができる。
【0028】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態と異なる形態で実施することが可能である。また、以下に示す変形例は、各々を適宜に組み合わせてもよい。
(変形例1)
上述した実施形態では、楽音信号出力装置10は、SongIDとタイムコードとを含む透かし情報を第1楽音信号に重畳していた。これに代えて、楽音信号出力装置10は、透かし情報としてMIDIデータを第1楽音信号に重畳するようにしてもよい。この場合も透かし情報は、第1楽音信号に同期して再生すべきMIDIデータの内容を指示する情報である。この変形例の構成においては、上述した実施形態の自動演奏装置20が記憶していたMIDIファイルを楽音信号出力装置10が記憶すればよく、自動演奏装置20はそれを記憶していなくてもよい。
【0029】
この変形例の構成において、透かし情報生成部112は、第1楽音信号と同期して再生するべきMIDIデータの内容を特定し、その内容を示すビット列を透かし情報として生成する。重畳部114は、その透かし情報を実施形態で説明したものと同じ態様で第1楽音信号に重畳する。楽音信号出力装置10が実行するその他の処理は、実施形態で説明したものと同じである。一方、自動演奏装置20の第2再生部215は、第2楽音信号から復号された透かし情報に基づいてMIDIデータの内容を特定し、特定した内容を再生する。
この構成によれば、同期再生すべきMIDIデータを楽音信号出力装置10側で指定することができるため、新たなMIDIファイルを自動演奏装置20に記憶させなくてもよい。一方で、この構成の場合、透かし情報のデータ量が実施形態の構成よりも大きくなり得るので、透かし情報の重畳やその復号に要する処理時間が実施形態の場合よりも長くなるいことが考えられる。しかしながら、この場合も、それらの処理に要する処理時間をあらかじめ見込んで第2再生部215が再生時刻を特定することにより、同期再生は実施形態と同じように実現される。
【0030】
(変形例2)
上述した実施形態では、楽音信号出力装置10と自動演奏装置20とがオーディオケーブル100によって接続されていたが、以下に説明する再生システム1aの構成としてもよい。
図11は、再生システム1aの構成を示すブロック図である。再生システム1aは、楽音信号出力装置10aと自動演奏装置20aとにより構成される。なお、図11においては、制御部11,21を除く、図示するもの以外の構成については、楽音信号出力装置10aは楽音信号出力装置10と同等の構成を有し、自動演奏装置20aは自動演奏装置20と同等の構成を有している。
楽音信号出力装置10aは、出力インタフェース15に代えて、例えば自装置に着脱自在なスピーカ16を備える。スピーカ16は、制御部11から供給される楽音信号に応じて放音する放音手段に相当する。一方、自動演奏装置20aは、入力インタフェース22に代えて、例えば自装置に着脱自在なマイクロホン27を備える。マイクロホン27は、収音し、収音した音声を表す音声信号を制御部21に出力する収音手段に相当するものである。また、スピーカ16によって放音された音がマイクロホン27によって収音されるように、楽音信号出力装置10aと自動演奏装置20aとは或る程度近接して設置される。
【0031】
この構成において、楽音信号出力装置10aの制御部11は、生成した第2楽音信号をスピーカ16に出力(つまり、放音出力)し、この第2楽音信号に応じた楽音をスピーカ16に放音させる。自動演奏装置20aの制御部21は、スピーカ16によって放音された楽音をマイクロホン27に収音させ、その収音結果を表す音声信号を第2楽音信号として取得する。制御部21は、この第2楽音信号から実施形態と同じ手順により透かし情報を復号することで、実施形態と同等の同期再生を実現する。その他の処理は実施形態で説明したものと同じであり、この変形例の構成であっても実施形態の場合と同等の効果を奏する。
【0032】
また、以下の再生システム1bの構成に変形してもよい。図12は、再生システム1bの構成を示すブロック図である。再生システム1bは、楽音信号出力装置10bと自動演奏装置20bとにより構成される。なお、図12においては、制御部11,21を除く、図示するもの以外の構成については、楽音信号出力装置10bは楽音信号出力装置10と同等の構成を有し、自動演奏装置20bは自動演奏装置20と同等の構成を有している。
楽音信号出力装置10bは、第2楽音信号を送信出力する機能を持つ送信機であり、例えば放送局の送信機である。自動演奏装置20bは、楽音信号出力装置10bにより送信出力された第2楽音信号を受信する機能を持つ受信機であり、例えば放送局により放送された音声を聴く利用者により所有される。楽音信号出力装置10bは、出力インタフェース15に代えて送信部17を備える。送信部17は、制御部11から供給される第2楽音信号に応じて搬送波を表す搬送波信号を変調して送信用信号を生成し、これを送信出力する。自動演奏装置20bは、入力インタフェース22に代えて受信部28を備える。受信部28は、楽音信号出力装置10bにより送信された送信用信号を受信すると、これを復調することによって第2楽音信号を取り出し、制御部21に出力する。制御部21は、この第2楽音信号から実施形態と同等の手法により透かし情報を復号し、同期再生を実現する。その他の処理は実施形態で説明したものと同じであり、この構成であっても実施形態の場合と同等の効果を奏する。
この構成によれば、自動演奏装置20bを所有する利用者は、自身の自動演奏装置20bを用いて遠隔地にある楽音信号出力装置10bにより出力された楽音信号が表す楽音と同期演奏(同期再生)を楽しむことができる。一方、自動演奏装置20bを所有しない利用者であっても、楽音の聴取上の悪影響は少ない。
【0033】
また、楽音信号出力装置10bと自動演奏装置20bとをインターネットなどの通信網を介して接続し、オーディオデータなどを圧縮して音声や動画を配信するサービスに本発明を適用することができる。この場合、楽音信号出力装置10bはコンテンツプロバイダなどのサーバ装置である。一方、自動演奏装置20bはコンテンツプロバイダからのコンテンツの提供を受けるクライアントにより所有される。この場合、楽音信号出力装置10bは配信するコンテンツに含まれる第2楽音信号に透かし情報を重畳して送信出力する。そして、自動演奏装置20bは受信した第2楽音信号から透かし情報を復号して、同期再生を実現する。
【0034】
(変形例3)
上述した実施形態において楽音信号出力装置10が透かし情報を重畳するための構成を以下のように変形してもよい。例えばM系列、Gold系列を用いた擬似ノイズ信号を用いた方法を採用してもよい。この場合、重畳部114は擬似ノイズ信号を発生し、これを透かし情報に基づいて位相変調する。一方、復号部213は、重畳部114と同じ擬似ノイズ信号を生成し、第2楽音信号との相関を求める。第2楽音信号に重畳される擬似ノイズ信号として自己相関性の非常に高い信号が用いられた場合に、その第2楽音信号と擬似ノイズ信号との相関を求めると、急峻なピークの現れる波形が抽出される。この波形が透かし情報を示しており、復号部213はこの波形を抽出して透かし情報を復号することができる。また、この擬似ノイズ信号を用いてスペクトラム拡散を行うようにしてもよいし、直交周波数分割多重方式(OFDM変調:Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)の採用により透かし情報を重畳してもよい。後者の場合、制御部11は、第1楽音信号の周波数成分のうち高周波数側の一部の帯域を除去した後、OFDM変調した透かし情報を元の第1楽音信号の周波数分布に合わせてその帯域に重畳する。この重畳の態様であっても、楽音信号出力装置10は第1楽音信号の周波数成分よりも高周波数の帯域に透かし情報を重畳しており、上述の実施形態の構成と同等の効果を奏する。
【0035】
上述した実施形態において、自動演奏装置20は、MIDIデータ以外の形式(例えば、MP3)の曲データを用いてもよい。また、自動演奏装置20は自動演奏機能を有する電子ピアノであったが、エレキアコースティックギターや電子エレクトーンなどの他の種類の電子楽器であってもよい。また、電子楽器として機能する装置に限定されず、少なくとも、楽音信号を再生する一方で、曲データを再生する機能を持つ再生装置に本発明を適用することができる。
上述した実施形態において、前処理部113に相当する機能を省略してもよい。例えば、周波数f0以上よりも周波数の高い帯域に楽音信号の周波数成分が含まれない場合や、透かし情報の周波数成分に対して楽音信号の周波数成分の音圧レベルがかなり小さい場合には、この前処理を省略しても聴感上の影響がほとんどないし、透かし情報の復号における悪影響はほとんど生じないと考えられるからである。
【0036】
上述した実施形態における楽音信号出力装置10の制御部11や、自動演奏装置20の制御部21によって実行されるプログラムは、磁気記録媒体(磁気テープ、磁気ディスク(HDD、FD)など)、光記録媒体(光ディスク(CD、DVD)など)、光磁気記録媒体、半導体メモリなどのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記録した状態で提供し得る。また、インターネットのようなネットワーク経由でダウンロードさせることも可能である。このように制御部11や制御部21によって実現される機能は、1又は複数のソフトウェアにより実現されてもよいし、1又は複数のハードウェアにより実現されてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1,1a,1b…再生システム、10,10a,10b…楽音信号出力装置、100…オーディオケーブル、11…制御部、111…再生時刻特定部、112…透かし情報生成部、113…前処理部、114…重畳部、12…記憶部、121…オーディオファイル記憶領域、13…操作部、14…表示部、15…出力インタフェース、16…スピーカ、17…送信部、20,20a,20b…自動演奏装置、21…制御部、211…楽音信号取得部、212…第1再生部、213…復号部、214…読出部、215…第2再生部、22…入力インタフェース、23…記憶部、231…MIDIファイル記憶領域、24…スピーカ、25…演奏操作部、26…楽音信号生成部、27…マイクロホン、28…受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1楽音信号に同期して再生すべき曲データの内容を指示する透かし情報がその第1楽音信号の周波数成分よりも高い帯域に重畳された第2楽音信号を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された第2楽音信号を再生する第1再生手段と、
前記取得された第2楽音信号から前記透かし情報を復号する復号手段と、
前記第1再生手段により再生される第2楽音信号に同期して再生すべき前記内容を復号された前記透かし情報に基づいて特定し、特定した内容を再生する第2再生手段と
を備えることを特徴とする再生装置。
【請求項2】
前記透かし情報は、曲データを識別する曲識別情報と、その曲データの再生すべき位置を示す位置情報とを含み、
前記曲識別情報とその曲識別情報により識別される曲データとを対応付けて記憶する曲データ記憶手段から、前記復号手段により復号された透かし情報に含まれる曲識別情報に対応付けられた曲データを読み出す読出手段を備え、
前記第2再生手段は、前記読出手段により読み出された曲データの前記透かし情報に含まれる位置情報が示す位置の内容を再生する
ことを特徴とする請求項1に記載の再生装置。
【請求項3】
第1楽音信号に同期して再生すべき曲データの内容を指示する透かし情報をその第1楽音信号の周波数成分よりも高い帯域に重畳する重畳手段と、
前記重畳手段により透かし情報が重畳された第2楽音信号を出力する出力手段と
を備えることを特徴とする楽音信号出力装置。
【請求項4】
請求項3に記載の楽音信号出力装置と、
請求項1又は2に記載の再生装置と
を備えることを特徴とする再生システム。
【請求項5】
コンピュータを、
第1楽音信号に同期して再生すべき曲データの内容を指示する透かし情報がその第1楽音信号の周波数成分よりも高い帯域に重畳された第2楽音信号を取得する取得手段と、
前記取得手段により取得された第2楽音信号を再生する第1再生手段と、
前記取得された第2楽音信号から前記透かし情報を復号する復号手段と、
前記第1再生手段により再生される第2楽音信号に同期して再生すべき前記内容を復号された前記透かし情報に基づいて特定し、特定した内容を再生する第2再生手段
として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−145541(P2011−145541A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7150(P2010−7150)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】