説明

再生骨材コンクリートおよびその製法

【課題】再生骨材を全量用いており、製造が容易で、強度ならびに耐久性を向上させた再生骨材コンクリートとその製法を提供する。
【解決手段】セメントと水と骨材とからなり、骨材の全量が、再生骨材であって、配合条件が、水セメント比:25〜35%、単位水量:145〜155 kg/mである。混和剤をセメント量に対して、0.5〜1.5%添加して練り混ぜると、多数の微細な独立空気泡をコンクリート中に連行するので良好なスランプ性能を保持することができる。水セメント比を35%以下、単位水量を155kg/m以下にすることによって、再生骨材表面の遷移帯が緻密になるため、再生骨材への吸水が抑制されることから、再生骨材を全量使っているにも拘らず、そのコンクリートの強度、凍結融解抵抗性、乾燥収縮特性が向上し、普通コンクリートと同等の強度と耐久性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生骨材コンクリートおよびその製法に関する。近年は、1970年代の高度経済成長期に製造された大量のコンクリート構造物が更新期を迎えており、排出量の増大が予測されている。そこで、コンクリート構造物を解体したときに排出されるコンクリート廃材を破砕して再生骨材として利用する試みがなされている。とくに、産業廃棄物のうち40%以上の廃棄物であるコンクリート塊は、これを再生骨材用としての有効利用できれば、循環型社会の構築にも有益である。
本発明は、このような再生骨材を有効利用するため、それを全量用いた再生骨材コンクリートおよびその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
ところで、低度処理再生骨材を用いたコンクリートは、再生骨材の表面に付着するモルタル粒子や旧セメントペーストを含んでいるため吸水率が高く、そのため再生骨材を含むフレッシュコンクリートは流動性が低下する。また、強度が低かったり、バラツキも多く、凍結融解抵抗性や乾燥収縮特性が著しく低下する。このため、捨てコンクリートや裏込めコンクリートのような低強度でもよい用途に限られていたので、その有効利用には限度があった。
【0003】
このような問題を解消するため、つぎのような従来技術が提案されてきた。
特許文献1の従来技術は、コンクリート塊を1次と2次の破砕工程で破砕し、2次の破砕工程では高圧下で揉み摺りしてモルタル分やペースト分の付着量を少なくするという技術である。ところが、多くの工程やエネルギーを要し、コストが高くつくという欠点がある。
【0004】
特許文献2の従来技術は、コンクリート廃材をふるい分けしたあと、無機酸で処理して酸不溶成分を再生骨材として回収するという技術である。ところが、この従来技術によると再生骨材の品質は改善されるが、無機酸処理工程に時間がかかったり、廃酸処理しなければならないので、実用性に欠ける。
【0005】
特許文献3の従来技術は、天然骨材を用いたモルタルにブリージング抑止剤を添加して更に再生骨材を投入混合するというものである。この従来技術では、天然骨材と再生骨材を混合しており再生骨材を全量用いないので、再利用率が低いという問題がある。
【0006】
このような問題点を解消するため、高度な再生骨材の処理方法の開発や工法が提案され、高品質な再生骨材Hが2005年3月にJIS化された。また、2006年3月に再生骨材Lを用いたコンクリートがJIS化された(非特許文献1)。
しかし、再生骨材の用途範囲の拡大を促進させるためには、高品質な再生骨材に改質するのでなく、低度処理再生骨材であっても、そのまま用いることができ、製造上の実用性に優れ、しかもコンクリートの強度も充分なものでなければならない。
【0007】
【特許文献1】特公平7−29821号公報
【特許文献2】特開平6−285454号公報
【特許文献3】特開平11−199298号公報
【非特許文献1】日本工業標準調査会 審議:日本規格協会、再生コンクリートLを用いたコンクリートJIS A 5023、平成18年3月25日、制定
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、再生骨材を全量用いており、製造が容易で、強度ならびに耐久性を向上させた再生骨材コンクリートとその製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の再生骨材コンクリートは、セメントと水と骨材とからなり、前記骨材の全量が、再生骨材であって、配合条件が、水セメント比:25〜35%、単位水量:145〜155 kg/mであることを特徴とする。
第2発明の再生骨材コンクリートは、第1発明において、前記再生骨材が、低度処理再生骨材であることを特徴とする。
第3発明の再生骨材コンクリートは、第1発明において、混和剤をセメント量に対して0.5〜1.5%添加したことを特徴とする。
第4発明の再生骨材コンクリートの製法は、セメントと水と骨材として再生骨材を全量用い、配合条件が、水セメント比:25〜35%、単位水量:145〜155kg/mとし、混和剤をセメント量に対して、0.5〜1.5%添加して練り混ぜることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明により、水セメント比を35%以下、単位水量を155kg/m以下にすることによって、再生骨材表面の遷移帯が緻密になることが見出された。このため、再生骨材への吸水が抑制されることから、再生骨材を全量使っているにも拘らず、そのコンクリートの強度、凍結融解抵抗性、乾燥収縮特性が向上し、普通コンクリートと同等の強度と耐久性を確保することができる。
第2発明によれば、低度処理再生骨材であっても、再生骨材表面の遷移帯が緻密になることは変らないので、やはり高い強度と耐久性を有するコンクリートを得ることができる。
第3発明によれば、多数の微細な独立空気泡をコンクリート中に連行するので単位水量を155 kg/m3以下に減少させても良好なスランプ性能を保持することができる。
第4発明によれば、配合条件の設定のみで、再生骨材を全量用いたコンクリートを製造できるので、製造が容易であり、しかも充分な強度と耐久性を有するコンクリートが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(本発明の技術原理)
本発明者は、水セメント比を30%以下25%以上、単位水量を155kg/m3以下145kg/m3以上にすることによって、再生骨材表面の遷移帯が緻密になり、再生骨材コンクリートの強度、凍結融解抵抗性、乾燥収縮特性が著しく向上させることを見出した。この知見は、加熱すりもみ法(特許文献1)による高品質再生骨材しか構造体コンクリートには利用できないという従来の常識を超えるものであり、低度処理再生骨材を全量使っても、普通コンクリート並みの強度と耐久性を確保できるという画期的なものである。
【0012】
本発明の詳細を以下の実験によって説明する。
本発明は、以下の配合条件に特徴が存するものである。
製造ロットが異なる2種類の再生細骨材L・再生粗骨材L及びM(以降、低度処理再生骨材と呼ぶ)を用いて、コンクリート構造物に使用する普通骨材コンクリートと同等の強度特性と耐久性を有するコンクリートの示方配合の条件について、圧縮強度100N/mm2を超える高強度コンクリートの配合設計の概念を適用したものである。
本発明の成立性を確認するため水セメント比を55〜25%まで変化させ、かつ単位水量175〜145kg/m3まで変化させ、種々の配合のコンクリートを製造しフレッシュ性状や硬化性状について実験的に検討した。
【0013】
(実験概要)
実験は、対象とする再生骨材コンクリートをシリーズA「L級再生細骨材とM級再生粗骨材を用いたコンクリート」とシリーズB「シリーズAと製造ロットが異なるL級再生細・粗骨材を用いたコンクリート」の2つのシリーズに分けて行った。
なお、「L級」と「M級」の定義は、つぎのとおりである。
JISA5023には、L級の品質規定があり、つぎのとおりである。
再生粗骨材 吸水率7%以下 微粒分量2.0%以下
再生細骨材 吸水率13%以下 微粒分量10.0%以下
H級の品質規定は、JISA5021に規定されている。
再生粗骨材 再生細骨材
絶対乾燥密度(kg/cm3) 2.5以上 2.5以上
吸水率(%) 3以下 3.5以下
すりへり減量(%) 3.5以下 なし
微粒分量(%) 1.0以下 7.0以下
M級はこのH級とL級の間にある骨材である。
【0014】
(1)使用材料
a)セメント
セメントは、普通ポルトランドセメント(密度3.15g/cm3,比表面積3430cm2/g)及びシリカフュームセメント(密度:3.08g/cm3,比表面積:6000cm2/g)を使用した。
練混ぜ水は水道水を使用した.
【0015】
b)骨材
再生骨材は、コンクリート塊を粉砕・洗浄・乾燥・分級工程のみで製造しているため、骨材表面に微粉末や旧セメント硬化体等の付着物が完全に除去されない低度処理再生骨材を用いた。本実験で使用した低度処理再生細・粗骨材を図1の写真−1に示す。
また、TS A 0006による再生骨材の品質規格の概要を図2の表−1に示す。TS A 0006の品質規格により、シリーズAは、L級再生細骨材、L級再生粗骨材小とM級再生粗骨材大を使用した。シリーズBでは、シリーズAの再生骨材と異なったロットのL級再生細骨材、L級再生粗骨材を使用した。使用した再生骨材と普通骨材の物理特性を図3の表−2に示す。
【0016】
使用した再生骨材は、東京都内で再生骨材を一般に製造・販売している企業から通常の販売方法で購入した。よって、原コンクリートは昭和40年代の都内の土木系RCのコンクリートという情報以外は不明である。
普通骨材は、土木学会で示されている標準の粒度範囲内にある徳島県阿南市の陸砂及び徳島県鳴門市の産砕石を使用した。粗骨材の最大寸法は、普通骨材と再生骨材と共に20mmとした。
【0017】
c)混和剤
混和剤は、ポリカルボン酸エーテル系化合物の高性能AE減水剤、変性ロジン酸化合物系陰イオン界面活性剤のAE剤及びポリアルキレングリコール誘導体の消泡剤を使用した。
【0018】
(2)配合条件
配合条件は、以下のとおりである。
シリーズA再生骨材コンクリート(以後、ARと称す)は、水セメント比を55%、45%及び35%とした。
シリーズB再生骨材コンクリート(以後、BRと称す)は、45%、35%及び25%
それぞれの単位水量は175kg/m3,155kg/m3とした。
比較用の普通コンクリート(以後、Nと称す)は、水セメント比を55%,45%それぞれの単位水量を175kg/m3,155kg/m3,145kg/m3とした。
また、目標スランプ値を18.0±2.5cm,目標空気量を4.5±1.5%とした。
混和剤の添加量はセメント量に対して0.5%から1.5%,スランプが一定になるように調整した。
また、再生骨材コンクリートの空気量の調整は、単位水量と単位消泡剤量の添加量によって行った。普通コンクリートの空気量の調整は、単位水量と単位AE剤量の添加量によって行った。
【0019】
試験に用いたコンクリートの示方配合を図4の表−3に示す。
実験に供したコンクリートは合計の15配合である。なお、図4の表−3にはフレッシュ性状の試験結果も合わせて示した。配合名は、記号後の数字が水セメント比、単位水量の値を用いて示した。BRS25-155はシリカフュームセメントを用いた再生骨材コンクリートである。また、再生粗骨材大(G)と再生粗骨材小(G)の比率は7:3で一定にした。
【0020】
(3)試験項目及び方法
コンクリートの練混ぜは、二軸強制練りミキサを使用した。練混ぜ順序は、セメントと細骨材を30秒間の空練り、水と混和剤を投入して30秒間の練混ぜを行った後、粗骨材を投入して60秒間の練り混ぜを行い、計150秒間の練混ぜ時間とした。
a)スランプ試験
スランプ試験はJIS A 1101に準じて行った。
b)空気量試験
空気量試験はJIS A 1128に準じて行った。
【0021】
c)圧縮強度試験及び静弾性係数試験
圧縮強度試験は材齢7日,14日,28日において、JIS A 1108に準拠して行った。供試体は、100×100×200mmの円柱供試体を作製し、所定の試験材齢まで20℃で水中養生を行った。
弾性係数試験は、材齢28日において、JIS A 1149に準拠して行った。
【0022】
d)乾燥収縮試験
100×100×400mmの角柱供試体を使用し、JIS A 1129-2に準拠して行った。試験材齢は1,3,5,7,14,28,42,56及び91日とした。なお、ゲージプラグの間隔は100mm間隔の2つとし、供試体の中央になるように配置した。
【0023】
e)自己収縮試験
100×100×400mmの角柱供試体を使用し、JCI超流動コンクリート研究委員会の「高流動コンクリートの自己収縮試験方法」 に準拠して行った。試験期間は、打ち込み直後から7日間とした。なお、自己試験は、シリーズB再生骨材コンクリートにおいて、175kg/m3の単位水量に対して35%及び55%の水セメント比の2配合、普通コンクリートにおいては、水セメント比が55%、単位水量が175kg/m3の1配合、計3配合コンクリートのみ実施した。
【0024】
f)中性化試験
中性化試験は、100×100×100mmの円柱供試体を用いて、JIS A 1153「コンクリートの促進中性化試験方法」に準拠して行った。促進条件は、二酸化炭素濃度10%,温度30℃,湿度60%とし、14日の材齢まで促進した。
中性化測定方法は、供試体を100×100×100mm割裂し、割裂面にフェノールフタレイン1%エタノール溶液を噴霧し未着色の部分の長さを20点測定した平均を中性化深さとした。
【0025】
g)急速凍結融解試験
液体窒素ガスを用いた急速凍結融解試験方法を以下のように実施した。
100×100×200mmの円柱供試体を使用し、28日間の水中養生終了後に試験を行った。
1)0サイクルにおける超音波伝播時間を測定し、超音波伝播時間から動弾性係数を求める。
2)容器に供試体を入れ、液体窒素ガスを30秒吹き付ける。
3)蓋を閉めて1分間おく。
4)1分後、供試体を取り出し融解するまで10分間40℃のお湯に浸す。
5)完全に融解した供試体表面の水気を拭い、超音波伝播時間を測定する。端子の設置位置は、シリンダー底面から約15mm程度とする。
1)〜5)の作業を1サイクルとし、試験の終了は10サイクルとし、それまでに相対動弾性係数が60%以下になったものは、そのサイクルで終了とする。伝播時間から動弾性係数を求める数式1 を用いた。超音波伝播の測定方法及び凍結した直後の状況を図5に示す。
【数1】

ここに、
Ed:動弾性係数(GPa),VL:超音波伝播速度(km/s)
【0026】
h)JIS法凍結融解試験
JIS法凍結融解試験は、100×100×400mmの角柱供試体を使用し、JIS A 1148のA法に準拠して行った。JIS A法の凍結融解試験は、シリーズB再生骨材のコンクリートのみに行い、急速凍結融解試験の結果と比較した。
【0027】
(本発明の再生骨材コンクリートの特徴)
上記の実験結果から導かれる本発明の特徴は、以下のとおりである。
(1)再生骨材コンクリートのフレッシュ性状
フレッシュ試験結果を図4の表−3示す。空気量は、シリーズA再生骨材のコンクリートもシリーズB再生骨材のコンクリートも、3.5〜5.5%の範囲であり、普通コンクリートの数値と同等である。したがって、コンクリートとして練り上がった状態で充分な柔らかさを有しているので、型枠内にコンクリートを締固め易いという利点がある。なお、空気量は強度の面からは小さい方が良いが、余り小さいと凍結融解抵抗性が著しく悪くなる。たとえば、空気量1.5%前後のコンクリートは、耐久性が劣るものとなる。したがって、空気量は、4.5±1.5%が最も良いとされる。そして、本発明の再生骨材は低品質のものであるが、4.5%を中央値とし、±1%の範囲にあるので、最良の値を示していると云える。
【0028】
なお、詳細分析は以下のとおりである。
AR35-175,BR35-155及びBR25-155の空気量は3.5%となり、他の再生骨材コンクリートよりも若干少なかった。水セメント比が35%以下になると、高い粘性により空気が入りにくくなると考えられる。スランプは、目標の範囲内に全て満足した。一方、BRS25-155はBR25-155と比較して、BRS25-155に使用する高性能減水剤量が0.2%も少なかったにも関わらず、スランプが同等の値になり、空気量が1.5%多い結果になった。
シリカフュームセメントを用いた場合通常のコンクリートと同様に、水セメント比が25%の超低水セメント比においても、粘性が低く優れた施工性を有する再生骨材コンクリートを容易に製造できることが明らかになった。
【0029】
(2)再生骨材コンクリートの強度特性
a)圧縮強度
シリーズA再生骨材コンクリート及びシリーズB再生骨材コンクリートの圧縮強度と材齢の関係を図6に示す。シリーズA再生骨材では、材齢7日で、24〜44N/mm2、材齢28日で、28〜46N/mm2の圧縮強度を示している。シリーズB再生骨材コンクリートでは、材齢7日で、32〜60N/mm2、材齢28日で、35〜66N/mm2の圧縮強度を示している。通常の構造体コンクリートでは、材齢28日で35N/mm2もあれば充分であるので、上記結果は普通コンクリートに劣るものではない。再生骨材コンクリートは、微粉や吸水率が大きいために、空気量が大きくなってしまい空気量が大きくなると、強度が低下するのであるが、本発明では普通コンクリートと同レベルを維持しているので、再生骨材コンクリートとしては従来常識を覆すものである。
【0030】
詳細分析は以下のとおりである。
シリーズA及びシリーズB再生骨材をそれぞれ用いたコンクリートにおいて水セメント比が小さいほど圧縮強度は大きい傾向がみられる。
一般に、再生骨材コンクリートは再生骨材周辺の微粉末や骨材表面の空隙等の影響でセメントペーストとの付着強度が小さく、水セメント比に対する圧縮強度の発現には限界があり、あまり期待できないと考えられている。しかしながら、本発明では、材齢7日で60N/mm2程度の圧縮強度を発現しているので、水セメント比に対する強度の上限は相当に大きいと考えられる。換言すれば、高強度再生骨材コンクリートは実現可能である。
両シリーズ再生骨材コンクリートの強度発現は、BRS25-155以外、材齢7日以降の強度増加が普通コンクリートと比較して小さい。材齢と伴にセメントペースの強度発現があるものの、再生骨材とペーストとの付着強度には限界があり、脆弱となる再生骨材界面からひび割れが発生し破壊したと考えられる。一方、BRS25-155圧縮強度が材齢7日において40N/mm2でありAR35及びBR35よりも小さかったが、材齢28日においては55N/mm2まで増加しAR35及びBR35を上回った結果となった。シリカフュームセメントを用いたコンクリートは普通骨材を用いた場合と同様に中長期材齢の強度増加があると考えられる。
また、材齢28日の圧縮強度とセメント水比の関係を図7に示す。Lyse(一定単位水量の法則)によって、再生骨材コンクリートは普通コンクリートと同様にセメント水比と圧縮強度の関係は比例関係で表すことができる。再生骨材コンクリートを普通コンクリートと比較して、同強度を得るために再生骨材コンクリートの水セメント比を10%以上小さくすることが必要である。
【0031】
b)弾性係数
材齢28日の圧縮強度と弾性係数の関係を図8に示す。弾性係数は大きいほど変形しにくいので好ましいのであるが、本発明の再生骨材コンクリートの弾性係数は、普通コンクリートに比べて若干低いレベルである。すなわち、弾性係数が普通コンクリートの計算式の値より下廻るといっても、0〜5KN/mm2の範囲内であり、実用に支障を生ずるものではなく、むしろ実用に耐える弾性係数を有していると考えられる。
【0032】
詳細分析は以下のとおりである。
シリーズA及びシリーズB再生骨材をそれぞれ用いたコンクリートにおいて水セメント比が小さいほど、静弾性係数が大きくなる傾向が見られた。
また、全て値は、JASS5のRC規準に示される普通コンクリートの計算式の値より下回り、同水セメント比の普通コンクリート(N55-155,N55-175)と比較して若干小さい値を示した。この要因としては、低度処理再生骨材の吸水率が大きいことにより、強度及び静弾性係数が低下したものと考えられる。
【0033】
(3)再生骨材コンクリートの耐久性
a)乾燥収縮量
コンクリートの乾燥収縮ひずみと乾燥材齢の関係を図9に示す。乾燥収縮量は小さいほど、ひび割れが生じなくてよいのであるが、本発明の再生骨材コンクリートでは、材齢91日において鉄筋コンクリート構造物設計の上限値である750×10−6以下となっている。このため、構造体用コンクリートとして使用可能である。
【0034】
なお、詳細分析は以下のとおりである。
同一水セメント比、単位水量の条件下で再生骨材コンクリートと普通コンクリートの乾燥収縮量を比較すると、再生骨材コンクリートの乾燥収縮量が若干上回っている。乾燥材齢91日においては約50×10-6の差があった。再生骨材と普通骨材の吸水率の差が大きいにも関わらず、乾燥収縮ひずみの差が比較的小さい。
普通骨材のうち、粗骨材の吸水率は2.29%前後であり、普通骨材としては吸水率が大きい。そのため、普通骨材を用いたコンクリートの乾燥収縮量が大きくなったものと考えられる。
【0035】
また、シリーズA再生骨材、シリーズB再生骨材それぞれを用いたコンクリートにおいて、水セメント比、単位水量が同じ条件下では、乾燥収縮量のほぼ同程度であり、ロットによる有意な差はない。
水セメント比と単位水量が35%以下、155kg/m3以下の条件下の再生骨材コンクリートの乾燥収縮量は、乾燥材齢91日において750×10-6以下であり、鉄筋コンクリート構造築物設計の上限値以下に抑制できる。一方、シリカフュームセメントを用いたコンクリート(BRS25-155)の乾燥収縮量は初期乾燥材齢が大きく増加し、91日乾燥材齢時点ではポルトランドセメントを用いた再生骨材コンクリート(BR25-155)よりも大きく、W/C=35%の再生骨材コンクリート(BR35-155)とほぼ同等の値を示した。
シリカフュームセメントを用いた再生骨材コンクリート(BRS25-155)は、初期強度の発現がBR25-155より小さかったため、初期乾燥ひずみが大きくなったと考えられる。
【0036】
材齢91日の乾燥収縮量と水セメント比及び単位水量の関係を図10と図11に示す。全てのコンクリートにおいて、水セメント比及び単位水量が小さいほど、乾燥収縮量は小さい。特に、水セメント比と乾燥収縮量の相関性は非常に高い。一般に、普通コンクリートの乾燥収縮量は単位水量に依存し、水セメント比にはあまり依存しないと報告されている。再生骨材コンクリートの場合、同一単位水量であっても、水セメント比が小さい場合、乾燥収縮量が小さくなる。本発明で対象とした低品質な全量再生細・粗骨材コンクリートの乾燥収縮量は、水セメント比の影響を大きく受ける結果となった。これは、吸水率が非常に大きくかつ再生骨材表面に付着した微粉末や凸凹の影響によって、再生骨材表面に形成されるセメントペーストとの遷移帯の構造が水セメント比によって変化するためと考えられる。
【0037】
b)自己収縮量
自己収縮ひずみと時間の関係を図12に示す。自己収縮量は小さいほど、ひび割れが生じなくてよいのであるが、自己収縮量は使用するセメント量に依存するので、本発明の再生骨材コンクリートも普通コンクリートも、セメント使用量を適正値にして、自己収縮量を小さくすることは可能である。
【0038】
詳細分析は以下のとおりである。
図凡例中の( )内の数値は示方配合の単位セメント量を示す。500kg/m3の単位セメント量を使用した再生骨材コンクリート(R35-175)において、自己収縮ひずみが385×10-6であり、最も大きい値となった。一方、同セメント量の再生骨材コンクリート(R55-175)を普通コンクリート(N55-175)と比較して、自己収縮ひずみが同等の値を示した。従って、自己収縮は、セメントの水和収縮による原因と言われ、骨材種類に関係なく、使用するセメント量に依存する。
【0039】
c)中性化深さ
促進材齢14日の中性化深さと水セメント比の関係を図13・図−9に示す。本発明が対象とする水セメント比35%以下の再生骨材コンクリートでは中性化深さは2mm以下となり、この数値は大きなものではない。
【0040】
詳細の分析は以下のとおりである。
全ての再生骨材コンクリートにおいて、水セメント比が大きいほど中性化深さが大きくなる傾向が見られた。また、R55の中性化深さは約11mmであり、N55より若干大きかった。もっとも、再生骨材であっても、水セメント比が45%だと中性化深さが4mm前後であり、35%だと2mm前後、25%だと1mm以下である。一般に、再生骨材コンクリートは中性化に対する抵抗性が低下すると報告されているが、本実験では大きな差が確認できなかった。中性化に対する抵抗性は、骨材種別に関わらず、単位セメント量に大きく依存すると考えられる。
【0041】
d)急速凍結融解試験結果
シリーズA及びシリーズB再生骨材コンクリートの急速凍結融解試験によって得られた相対動弾性係数と繰返し回数の関係を図14に示す。本発明の再生骨材コンクリートは、JISで定める凍結融解抵抗性を満足している。
【0042】
詳細分析は以下のとおりである。
10サイクル終了時点での相対動弾性係数がBR25-155とBRS25-155において、60%以上となり高い凍結融解抵抗性を示した。これに対して、AR35-175,AR35-155が58%、BR35-155が60%まで低下し、凍結融解抵抗性の限界線まで低下したと考えられる。一方、水セメント比が45%以上の再生骨材コンクリートでは4サイクル終了時点に、相対動弾性係数の60%を大きく下回っており、円柱供試体の表面にひび割れの発生が確認できた。また、普通コンクリート(N55-175)は、10サイクル終了時点において相対動弾性係数が58%,AR35-175, AR35-155と同等の値となった。一般に、低品質な再生細・粗骨材は普通骨材と比較して吸水率が大きく、原コンクリートがNonAEコンクリートの場合、凍結融解抵抗性が非常に劣ることが指摘されている。本実験でも同様な結果が確認できた。したがって、本実験で扱った再生細・粗骨材の原コンクリートは、NonAEコンクリートが含まれている可能性が高い。
【0043】
以上の急速凍結融解試験の結果から、水セメント比35%以下にすれば、低品質な再生細・粗骨材を用いたコンクリートであっても、相対動弾性係数を10サイクル終了時に60%以上に確保できることが確認された。
【0044】
e)JIS法凍結融解試験結果
シリーズB再生骨材コンクリートのJIS法凍結融解試験によって得られたサイクル数に伴う相対動弾性係数及び質量減少率の関係を図15と図16に示す。本発明による水セメント比35%以下、単位水量155kg/m3以下とすれば、低品質な再生細・粗骨材を全量用いた再生骨材コンクリートであっても、その凍結融解抵抗性を普通コンクリートと同程度に確保できることが確認された。
【0045】
詳細分析は以下のとおりである。
300サイクル終了時点での相対動弾性係数は、BR25-155が96%であり、BRS25-155が90%となった。これに対して、R35-155は270サクルで、BR45-175及びBR45-155では240サイクル終了時点での相対動弾性係数が60%以下となった。
一方、普通コンクリートは、相対動弾性係数が300サイクル終了時点で、75%となり高い凍結融解抵抗性を示した。
【0046】
以上の結果から、急速凍結融解試験から得られた結果はJIS法凍結融解試験とほぼ同様の結果となり、BR25-155とBRS25-155のみが凍結融解抵抗性の目安の一つとされる相対動弾性係数60%を満足し、再生骨材コンクリートであるにも関わらず、十分な凍結融解抵抗性を有すると言える。よって、水セメント比35%以下、単位水量155kg/m3以下とすれば、低品質な再生細・粗骨材を全量用いた再生骨材コンクリートであっても、その凍結融解抵抗性を普通コンクリートと同程度に確保できることが確認された。
【0047】
また、N55-175及びBR45-175とBR45-155 は、270サイクル終了時点の質量減少率が1.5%から2%であり、大きくスケーリングしたことが分かる。一方、300サイクル終了時点の質量減少率は、BR35-155及びBR25-155がほぼ0%であり、BRS25-155が1%となった。BR35-155において、空気量が比較的少なかった原因でスケーリングが発生しないが、210サイクル終了後の相対動弾性係数は急激に低下し、コンクリート内部にひび割れが生じてサイクル数の増加につれてひび割れが大きく進展したと考えられる。
【0048】
試験終了後におけるコンクリートのスケーリング状況を図17の写真−2に示す。BR35-155及びBR25-155は300サイクルを終了してもコンクリートのスケーリングが見らなかった。これに対して、BR45-175,BR45-155は270サイクル終了時点に激しくコンクリート表面のスケーリングを確認することが出来た。また、BRS25-155はBR25-155と比較して、300サイクル終了した時点でのコンクリート表面は多少のスケーリングが見られた。スケーリングの観点からも、水セメント比35%、単位水量155kg/m3は再生骨材コンクリートの凍結融解に対する抵抗性を確保する上で重要な配合条件である。
【0049】
再生骨材コンクリートの各種性能と配合要因の関係
細骨材および粗骨材に全量再生骨材を用いた再生骨材コンクリートに関する本実験で得られた結果に基づき、コンクリートの各種性能と配合要因の関係を図18に示す。太実線は、この範囲の水セメント比及び呼び強度レベルでは、施工や耐久性において、特別に検討する必要はない範囲を意味する。点線は、配合や施工において何らかの検討をしなければ、耐久性や施工性能に問題が発生するリスクが大きくなる範囲を意味する。1点鎖線は、施工条件や部材条件によっては、何らかの検討をする必要がある範囲を意味する。
【0050】
図18の太実線及び1点鎖線の領域に入るようにコンクリートの配合設計や施工方法を工夫することが重要である。
再生骨材コンクリートの水セメント比を45%まで小さくすると呼び強度レベルが40N/mm2まで増加し、水セメント比=55%の普通コンクリートと同等の強度および中性化抵抗性を有する。しかし、凍結融解抵抗性は改善されなく、問題が発生するリスクが大きい範囲である。乾燥収縮量は、単位水量を175kg/m3以下に抑制する必要がある。
【0051】
一方、水セメント比を35%以下に小さくすると呼び強度レベルが50N/mm2を超えて、高い耐久性を有するコンクリートになる。特に、凍結融解抵抗性においては、空気量が5%以上あれば、問題が発生しない。中性化抵抗性や乾燥収縮に対しても問題がない。しかし、水セメント比が小さくなると、スランプ及び単位水量を一定にするために、混和剤の使用が多く、粘性が高くなり、施工性能に問題が発生する。また、自己収縮に関しては、単位セメント量が増えないように、単位水量を155kg/m3以下に抑制する必要がある。
以上の結果から、全量再生細・粗骨材を使用するコンクリートの強度および耐久性が普通骨材を使用するコンクリートと同等の性能を有するためには、水セメント比を25〜35%および単位水量を145〜155kg/m3にすればよい。この配合条件は、圧縮強度100N/mm2を超える高強度コンクリートの配合条件と同じであるが、高強度コンクリートと再生骨材コンクリートの配合条件が近似するということ事実は大変興味深いものである。
【0052】
本発明は、再生骨材の元となる原コンクリートの識別にも応用することができる。
通常、再生骨材を生産する原コンクリートは、建設後数十年を経過したコンクリート構造物である。よって、原コンクリートの品質、特にAEコンクリートであるかNonAEコンクリートであるかということの判定が困難である。
JIS法の凍結融解試験は、対象とするコンクリートの凍結融解に対する抵抗性の判定結果を得るまで数ヶ月以上の日数と労力を要する。上述したd)及びe)の考察から、JIS法による凍結融解試験を適用しなくても、急速凍結融解試験を用いて、対象とする再生骨材を用いたコンクリートの凍結融解抵抗性を判定することによって、再生骨材コンクリートの原コンクリートがAEコンクリートであるかNonAEコンクリートであるかを簡単に調べることができる。
【0053】
さらに、たとえ原コンクリートがNonAEコンクリートであっても、急速凍結融解試験を適用することによって、短時間で凍結融解抵抗性を満足しうる配合条件(水セメント比および単位水量)を求めることが可能である。
すなわち、原コンクリートがAEコンクリートあるいはNonAEコンクリートであるかが不明であっても、水セメント比を35%以下、単位水量を155kg/m3以下にすることによって、普通骨材コンクリートと同等な強度および耐久性を有する再生骨材コンクリートができる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】低品質の再生骨材の写真であって、(A)図はL級再生細骨材を示し、(B)図はL級再生粗骨材を示す写真である。
【図2】再生骨材の品質規格の概要を示す表である。
【図3】低品質な再生骨材及び普通骨材の物理特性を示す表である。
【図4】実験に供したコンクリートの示方配合およびフレッシュ性状を示す表である。
【図5】超音波伝播時間測定方法及び凍結した状況を示すグラフである。
【図6】シリーズA再生骨材コンクリート及びシリーズB再生骨材コンクリートの圧縮強度と材齢の関係を示すグラフである。
【図7】材齢28日の圧縮強度とセメント水比の関係を示すグラフである。
【図8】材齢28日の圧縮強度と弾性係数の関係を示すグラフである。
【図9】コンクリートの乾燥収縮ひずみと乾燥材齢の関係を示すグラフである。
【図10】水セメント比と乾燥収縮量の関係を示すグラフである。
【図11】単位水量と乾燥収縮量の関係を示すグラフである。
【図12】自己収縮ひずみと時間の関係を示すグラフである。
【図13】促進材齢14日の中性化深さと水セメント比の関係を示すグラフである。
【図14】急速凍結融解試験によって得られたサイクル数に伴う相対動弾性係数の低下を示すグラフである。
【図15】JIS法凍結融解試験によって得られたサイクル数に伴う相対動弾性係数の低下を示すグラフである。
【図16】コンクリートの質量減少率を示すグラフである。
【図17】試験終了後のコンクリートのスケーリング状況を示す写真である。
【図18】各種配合要因とコンクリートの要求性能の関係を示す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと水と骨材とからなり、
前記骨材の全量が、再生骨材であって、
配合条件が、水セメント比:25〜35%、単位水量:145〜155kg/mである
ことを特徴とする再生骨材コンクリート。
【請求項2】
前記再生骨材が、低度処理再生骨材である
ことを特徴とする請求項1記載の再生骨材コンクリート。
【請求項3】
混和剤をセメント量に対して0.5〜1.5%添加した
ことを特徴とする請求項1記載の再生骨材コンクリート。
【請求項4】
セメントと水と骨材として再生骨材を全量用い、
配合条件が、水セメント比:25〜35%、単位水量:145〜155kg/mとし、混和剤をセメント量に対して、0.5〜1.5%添加して練り混ぜる
ことを特徴とする再生骨材コンクリートの製法。


【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【図1】
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【図5】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−234863(P2009−234863A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83805(P2008−83805)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年度国立大学法人徳島大学大学院 先端技術科学教育部博士論文公聴会 スライド「Durability of Concrete using Low Quality of Recycled Fine and Coarse Aggregate for the Whole Aggregate低品質な全量再生細・粗骨材を用いたコンクリートの高性能化に関する研究」
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度 経済産業省 地域新生コンソーシアム研究開発事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(592002695)株式会社セイア (2)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(000226482)日工株式会社 (177)
【出願人】(591286085)東洋工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】