説明

冷凍キノコの製造方法

【課題】 旨味成分を多く含み、一段と美味しく食すことができるようにした冷凍キノコの製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明に係る冷凍キノコの製造方法は、キノコ原料を水蒸気で加熱する工程と、加熱した後のキノコ原料をタンパク質分解酵素の至適温度下で所要時間保温する工程と、保温した後のキノコ原料を冷凍する工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍キノコの製造方法に関する。
更に詳しくは、旨味成分を多く含み、一段と美味しく食すことができるようにした冷凍キノコの製造方法に関する。また、旨味成分だけでなく、甘み成分も多く含んだ冷凍キノコの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍キノコは、長期保存が可能なことや、予め加熱処理されているために調理しやすいといった利点から主に業務用材料として販売されている。キノコは冷凍することによって褐変したり、破損する恐れがあるため、従来より、冷凍後の褐変や破損を防止する技術が提案されている(特許文献1及び特許文献2等)。
【特許文献1】特開平6−284858 号公報
【特許文献2】特許第2927759号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これまでの冷凍キノコの分野においては、上記した特許文献1や特許文献2のごとく、冷凍キノコの褐変や破損といった保存性に関する研究が主であり、食品の本質である味についての探求は十分行われてこなかった。このことが、他の冷凍野菜に比べて、冷凍キノコの販売量が少ない一つの要因であると考えられる。
【0004】
そこで本発明者は、冷凍キノコの味を追求すべく、鋭意研究に努めた結果、冷凍処理の前段階において、加熱工程の後に所要の温度下でキノコを保温することによって、旨味成分を多んだ冷凍キノコが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
(本発明の目的)
そこで本発明の目的は、旨味成分を多く含み、一段と美味しく食すことができるようにした冷凍キノコの製造方法を提供することにある。
また本発明の他の目的は、旨味成分だけでなく、甘み成分も多く含む冷凍キノコの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明が講じた手段は次のとおりである。
【0007】
第1の発明にあっては、
キノコ原料を水蒸気で加熱する工程と、
加熱した後のキノコ原料をタンパク質分解酵素の至適温度下で所要時間保温する工程と、
保温した後のキノコ原料を冷凍する工程と、
を含むことを特徴とする、
冷凍キノコの製造方法である。
【0008】
第2の発明にあっては、
キノコ原料を水蒸気で加熱する工程と、
加熱した後のキノコ原料を40〜60℃の至適温度下で45〜150分保温する工程と、
保温した後のキノコ原料を冷凍する工程と、
を含むことを特徴とする、
冷凍キノコの製造方法である。
【0009】
第3の発明にあっては、
水蒸気で加熱する工程は、キノコの収穫後24時間以内に行うことを特徴とする、
第1または第2の発明に係る冷凍キノコの製造方法である。
【0010】
第4の発明にあっては、
水蒸気で加熱する工程は、95〜100℃の水蒸気をキノコ原料に90〜300秒間接触させることを特徴とする、
第1,2または第3の発明に係る冷凍キノコの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キノコ原料を冷凍するにあたり、水蒸気で加熱したキノコ原料をタンパク質分解酵素の至適温度下で所要時間保温することにより、旨味成分を多く含み、一段と美味しく食せる冷凍キノコを製造できる。更に、水蒸気で加熱する工程をキノコの収穫後24時間以内に行うことにより、旨味成分だけでなく、甘み成分も多く含む冷凍キノコを製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、キノコ原料を水蒸気で加熱(蒸熱)する。この加熱処理により、酸化酵素であるポリフェノールオキシダーゼを失活させ、冷凍保存中や解凍中に子実体が褐変することを防止できる。また煮沸(ボイル処理)ではなく、水蒸気で加熱することによって、解凍後の製品から液汁(ドリップ)が出て、キノコの外観や味が悪くなることを防止できる。
【0013】
水蒸気で加熱する工程は、キノコの収穫後24時間以内に行うことが好ましい。24時間を越えると、収穫後の呼吸代謝によりキノコの甘み成分であるトレハロース等の糖質が減少する傾向があるので、好ましくない。
【0014】
水蒸気で加熱する工程は、95〜100℃の水蒸気を、キノコ原料に90〜300秒間接触させることが好ましい。
水蒸気の温度が95℃未満では、子実体を褐変させる酵素であるポリフェノールオキシターゼの失活を十分に行うことができない傾向にあり、好ましくない。
更に、加熱時間が90秒未満では、加熱処理が足りず、ポリフェノールオキシターゼの失活を十分に行えない傾向にあり、好ましくない。また加熱時間が300秒を越えると、過度の加熱によって水分が出て子実体が収縮し、外観と味が損なわれる傾向があるため、好ましくない。
【0015】
以上にようにして、加熱したキノコ原料は、タンパク質分解酵素の至適温度下で所要時間保温する。これにより、プロテアーゼ等のタンパク質分解酵素を活性化させて、旨味成分である遊離アミノ酸を増加させることができる。
【0016】
この加熱処理後の保温工程は、40〜60℃の温度下で45〜150分保温することが好ましく、更には50℃の至適温度下で60〜120分保温することがより好ましい。
保温する温度が40℃未満または60℃を越えると、タンパク質分解酵素の活性が低下し、遊離アミノ酸の増加しにくくなるので、好ましくない。
また更に、保温時間が45分未満では、タンパク質が遊離アミノ酸に十分に分解できない傾向があり、好ましくない。保温時間が150分を越えると、過度の加熱によって水分が出て子実体が収縮し、外観と味が損なわれる傾向があるため、好ましくない。
【0017】
上記した保温工程後に冷凍処理を行い、目的とする冷凍キノコを製造する。冷凍方法は、急速冷凍または緩慢冷凍のどちらでも良い。
【0018】
本発明は、ヒラタケ、マイタケ、シメジ、シイタケ、エノキタケ等の各種きのこ類に適用できる。
【0019】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0020】
以下のようにしてヒラタケを冷凍処理し、冷凍ヒラタケを製造した。その後、これを解凍し、解凍後のヒラタケの旨味と甘みについて官能試験を行った。
【0021】
(冷凍処理)
ヒラタケの根の部分(株の部分)を取り除いて、残った子実体を一本一本バラバラにほぐした。軽く水洗いをしてゴミを取り除き、直ちに水切りを行った。水切り後、蒸し器に入れ、概ね95〜100℃の水蒸気で100秒間加熱処理した。ヒラタケを収穫してからこの加熱処理までの時間は3時間とした。
【0022】
水蒸気で加熱処理した後、50℃に保った恒温器内に60分保温した。その後、恒温器から取り出して放冷し、−30℃の冷凍庫で仮冷凍した。次いで、ヒラタケを所定量ごとに袋に詰めて、これを更に−30℃の冷凍庫にて本冷凍することによって、目的とする冷凍ヒラタケ(No.1)を得た。
【0023】
また、加熱処理した後、恒温器で保温する時間をそれぞれ120分と変化させた以外は、上記したNo.1と同じ条件で冷凍ヒラタケを製造し、これをNo.2とした。
【0024】
更に対照として、加熱処理した後、恒温器で保温はせずに、単に放冷してその後の冷凍処理を行った以外は、上記したNo.1、No.2と同様して冷凍ヒラタケを製造し、これをNo.3とした。
【0025】
また更に、ヒラタケを収穫してからこの加熱処理までの時間をそれぞれ5時間、24時間、48時間、72時間と変化させた以外は、上記したNo.1〜No.3と同様にして冷凍ヒラタケを製造し、これをNo.4〜No.15とした。
【0026】
(官能試験)
No.1〜No.15の各冷凍ヒラタケを30日間本冷凍した後、冷凍庫から取り出し解凍した。解凍後のヒラタケの旨味と甘みについて、官能試験を行った。官能試験は、経験的に的確と思われるパネラー5名を選定し、「3:旨味(甘み)を強く認識できる、2:旨味(甘み)を認識できる、1:旨味(甘み)をあまり認識できない」の3段階の評価基準で評価を行い、その平均点を算出した。その結果を表1〜表5に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
表1〜5から明らかなとおり、加熱処理後に保温した方が、保温はせずに単に放冷した場合と比べ、旨味について良い結果が得られることが分かる。更に甘みに関しては、収穫してから24時間以内に加熱処理することが良いことが分かる。
【0033】
(遊離アミノ酸とトレハロースの分析試験)
官能試験に用いたNo.1のヒラタケについて、旨味成分である遊離アミノ酸18種類と、甘み成分であるトレハロースの定量分析を行った。その結果を表6に示す。分析は、財団法人 日本食品分析センターに依頼した。表6に示す値は、解凍後のキノコの乾物100g(水分率0%)中に含まれる含有量を示している。
【0034】
また参考までに、生ヒラタケ(乾物100g)に含まれる遊離アミノ酸とトレハロースの含有量も併せて表6に示す。生ヒラタケの値は「キノコの科学」(57頁、1997年、朝倉書店発行)を参照した。
【0035】
【表6】

【0036】
表6の結果から明らかなとおり、冷凍した場合の遊離アミノ酸の合計量は、生ヒラタケの約2.7倍の値を示し、トレハロースについては同等の値を示した。
【実施例2】
【0037】
マイタケを使用した以外は、実施例1と同じ条件下でそれぞれ冷凍処理して、No.16〜No.30の冷凍マイタケを製造した。また、これを解凍し、実施例1と同じ方法で解凍品の旨味と甘みについて官能試験を行った。その結果を表7〜表11に示す。
【0038】
【表7】

【0039】
【表8】

【0040】
【表9】

【0041】
【表10】

【0042】
【表11】

【0043】
表7〜11から明らかなとおり、実施例1と同様、加熱処理後に保温した方が、保温はせずに単に放冷した場合と比べ、旨味について良い結果が得られることが分かる。更に甘みに関しても、実施例1と同様、収穫してから24時間以内に加熱処理することが良いことが分かる。
【0044】
なお、本明細書で使用している用語と表現はあくまで説明上のものであって、限定的なものではなく、上記用語、表現と等価の用語、表現を除外するものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キノコ原料を水蒸気で加熱する工程と、
加熱した後のキノコ原料をタンパク質分解酵素の至適温度下で所要時間保温する工程と、
保温した後のキノコ原料を冷凍する工程と、
を含むことを特徴とする、
冷凍キノコの製造方法。
【請求項2】
キノコ原料を水蒸気で加熱する工程と、
加熱した後のキノコ原料を40〜60℃の至適温度下で45〜150分保温する工程と、
保温した後のキノコ原料を冷凍する工程と、
を含むことを特徴とする、
冷凍キノコの製造方法。
【請求項3】
水蒸気で加熱する工程は、キノコの収穫後24時間以内に行うことを特徴とする、
請求項1または2記載の冷凍キノコの製造方法。
【請求項4】
水蒸気で加熱する工程は、95〜100℃の水蒸気をキノコ原料に90〜300秒間接触させることを特徴とする、
請求項1,2または3記載の冷凍キノコの製造方法。