説明

冷却機構を有した示差走査熱量計

【課題】 液化窒素を用いた冷却装置と電気冷却装置の接続機構を共有化し、冷却装置の切替えを簡便化し、温度範囲を容易に切り替えられる示差走査熱量計を提供することを課題とする。
【解決手段】 測定試料と基準物質を収納するヒートシンク1と、ヒートシンク1を加熱するヒーター4と、ヒートシンク1の底板上に固定されている示差熱流検出器とを有する示差走査熱量計において、ヒートシンク1の底板下に固定された冷却機構51を有し、冷却機構51には冷却ガス導入用の冷却ヘッドあるいは電気冷却ヘッドを装着するための挿入穴7と、挿入穴7と導通する冷却ガスのガス流路10を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却機構を有した、示差走査差熱量計に関する。
【背景技術】
【0002】
示差走査熱量計などの熱分析装置は、温度制御されたヒートシンク、前記ヒートシンク内にある試料、基準物質ホルダー、ヒートシンクを加熱するためのヒーター、ヒートシンクを冷却するための冷却装置を備えている。この冷却装置としては、従来液化窒素などを気化させた冷却ガスにより冷却を行なうガス冷却装置(例えば特許文献1)がある。又、コンプレッサーを内蔵しそれにより冷却された冷媒により冷却される金属製の冷却部材を介して、冷却を行なう電気冷却装置がある。そして従来においては、上記ガス冷却装置か電気冷却装置のいずれかの冷却部材を必要に応じて取り替えて熱分析装置の加熱炉に装着して冷却を行っていた。
【特許文献1】特公平7-122619号(第4欄、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の示差走査熱量計においては、1種類の冷却装置しか取り付けることができないため、測定温度に応じて2種類の冷却装置の付け替えをするわずらわしさがあった。
【0004】
また、液化窒素を用いた冷却装置と電気冷却装置の2つの冷却装置が同時に装着できる機構にすると、それぞれ独立した冷却装置を冷却機構へ接続する機構を設けているため、冷却装置を取り替えるわずらわしさを取り除くことができるが、以下の問題点もある。
【0005】
上記2つの冷却装置をヒートシンクに固定されている冷却機構に接続した熱分析装置において、高温測定する場合は、ヒートシンクの昇温能力を高めるため、2つの冷却装置の動作を止めるのが望ましい。しかしながら、電気冷却装置を動作させず、液化窒素を用いた冷却装置の液化窒素の供給を止めた時、ヒートシンクに固定された冷却機構はヒートシンクの熱により加熱され、冷却機構に接続されている電気冷却ヘッドの耐熱限界に達し、電気冷却装置を損傷させてしまう。一方、電気冷却装置を動作させた場合は、冷却ヘッドの耐熱限界は問題ないが、ヒートシンクから冷却機構へ熱流が生じ、高温測定ができなくなるという問題点もある。従って、液化窒素の供給を止めるときは、電気冷却ヘッドを取り外しておかねばならないという制約が生じる。
【0006】
そこで、本願発明は上記問題点を解決し、液化窒素を用いた冷却装置の冷却ヘッドと電気冷却装置の冷却ヘッドの接続機構を共有化し、冷却装置の切替えを簡便化し、温度範囲を容易に切り替えられる示差走査熱量計を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願発明においては、測定試料と基準物質を収納するヒートシンクと、前記ヒートシンクを加熱するヒーターと、前記ヒートシンクの底板に固定されている示差熱流検出器を有する示差走査熱量計において、前記ヒートシンクの下端に固定された冷却機構を有し、前記冷却機構には、冷却ガス導入用の冷却ヘッドあるいは電気冷却ヘッドを装着するための挿入穴と、前記挿入穴と導通する冷却ガスのガス流路が設けられている。前記ガス流路は、液化窒素を気化させた冷却ガスと冷却機構間の熱交換を行い、前記ガス流路は、冷却ガスを導入、排気するための導入口、排気口を有し、その側壁に複数の突起物を有する。冷却ガス導入口は前記挿入穴の側壁に設けられている。冷却ガス導入用の冷却ヘッドにはガス送出穴が設けられており、挿入穴に差し込んだ時、このガス送出穴が前記挿入穴に設けられたガス導入口の位置にくるように調整されている。前記冷却ガス導入口から導入され、ガス流路で冷却機構を冷却し、熱交換後の冷却ガスは、前記冷却ガス排気口から排気される。前記挿入穴は、電気冷却装置の円柱型の冷却ヘッドの接続機構にもなる。すなわち、前記挿入穴と同形状の前記電気冷却ヘッドを固定することができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のように本発明による示差走査熱量計においては、ヒートシンクに固定された冷却機構は、液化窒素を用いた冷却装置の冷却ヘッドと電気冷却装置の冷却ヘッドの接続機構を共通化することで、冷却装置の切替えをそれぞれの冷却ヘッドを抜き差しするだけで行うことができ、温度範囲も容易に切り替えることが可能である。また、液化窒素を用いた冷却装置と電気冷却装置の2つの冷却装置が同時に装着できる機構におけるような、冷却ガスの供給を止めた時に、電気冷却ヘッド差し込んだままにしておいたことで、電気冷却ヘッドを損傷させたり、また、ヒートシンクの昇温効率を低下させることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1より本発明の示差走査熱量計と冷却機構51について説明する。試料、基準物質を収納するヒートシンク1内に試料ホルダー2と基準物質ホルダー3がある。ヒートシンク1側面にはヒートシンク1を加熱するための絶縁皮膜付きヒーター4とヒートシンク温度を検知して温度制御のフィードバックに用いる制御熱電対5が設けられている。前記ヒートシンク1底面と前記試料及び基準物質ホルダー間には示差熱流検出器6があり、試料温度と、試料と基準物質の温度差を検出し、熱流差信号として出力される。
次に液化窒素を用いた冷却装置と電気冷却装置の接続機構の共通化を行った冷却機構51を図2に示す。冷却機構は、ヒートシンク1下面に固定され、冷却ヘッド挿入穴7と冷却ガスを外部に排気するための冷却ガス排気口8を有している。また、冷却機構の上部に存在する示差熱流検出器6からの信号線を通すための貫通穴9が設けられている。
【0010】
次に液化窒素を用いた冷却装置の使用方法を冷却機構51の上面に平行な、図2におけるA−A‘線に沿った面で切断した断面図である図3と、冷却ガス導入ヘッド52の図4を用いて説明する。液化窒素を用いた冷却装置使用時の場合、まず初めに冷却機構51に冷却ガスを導入するための冷却ガス導入ヘッド52を冷却ヘッド挿入穴7へ挿入する。液化窒素をヒーターによって気化された冷却ガスは、冷却ガス導入パイプ11から導入され、冷却機構への導入口12から冷却機構へ流れる。冷却機構51へ流入した冷却ガスは、ガス流路10を通り、冷却ガス排気口8から排気される。このとき、ガス流路10によって冷却ガスと冷却機構51間で熱交換が行われ、冷却機構51全体が冷却される。また、冷却効率を高めるためにガス流路の表面を増やすための突起物13を設けている。液化窒素を用いた冷却装置の場合、ヒートシンク1及び試料は約−150℃まで冷却される。
【0011】
一方、電気冷却装置の場合であるが、電気冷却装置は、コンプレッサー式の冷媒循環による冷却装置である。金属製のパイプの中で冷媒が循環され、パイプ先端の金属製冷却ヘッドが冷却される。冷却ヘッドの装着は、冷却ヘッド挿入穴7の形状に適合した円柱型の冷却ヘッドを冷却ヘッド挿入穴7に挿入する。電気冷却装置が稼動すると初めに冷却ヘッドが、−90℃前後にその後冷却機構全体が冷却される。電気冷却装置使用時の場合、ヒートシンク1及び試料は約−75℃まで冷却される。
【0012】
各種冷却装置によって冷却された冷却機構とヒートシンクには温度差が生じ、ヒートシンクから冷却機構への熱流が生まれ、ヒートシンクは冷却される。
【0013】
液化窒素を用いた冷却装置の場合、冷却を行う時、冷却ガスを供給する。ヒーターパワーを必要とする高速昇温や高温域の測定時にはヒートシンクから冷却機構への熱流の移動を抑え、昇温能力を維持するために、冷却ガスの供給を止めることができるので、−150から725℃までの広範囲な温度域で測定が可能となる。しかしながら、液化窒素を消費するので、液化窒素の補給の作業やランニングコストがかかる。
【0014】
一方電気冷却装置は、電源の再投入は装置の特性上、電源を切ってから30分程度時間を取らなければいけない点、電源が切れたままヒートシンクの昇温を行うとヒートシンクの熱により冷却機構が加熱され、冷却ヘッドの耐熱限界に達する点から、測定時は、常に電源を投入し、稼動する必要がある。そのため、電気冷却装置は、冷媒の補給のわずらわしさはないが、昇温時は、常にヒートシンクから冷却機構への熱流移動があるため、液化窒素を用いた冷却装置よりは、高温域の温度範囲が限定される。
【0015】
このように各冷却装置には、それぞれ長所、短所があるため、測定用途に応じて冷却装置を切りかえることが理想である。例えば、通常は電気冷却装置を装着して測定し、600℃を超える高温域や−100℃以下の測定時は、液化窒素を用いた冷却装置に切り換える。これにより、液化窒素の補充も少なく、冷却装置の接続機構を共通化し、冷却装置の切り替えを冷却ヘッドの抜き差しのみで行えるため測定温度範囲も容易に切り替えが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】冷却機構を有した、示差走査差熱量計
【図2】冷却機構
【図3】冷却機構の断面図
【図4】ガス冷却用冷却ヘッド断面図 1・・・ヒートシンク 2・・・試料ホルダー 3・・・基準物質ホルダー 4・・・絶縁皮膜付きヒーター 5・・・制御熱電対 6・・・示差熱流検出器 7・・・冷却ヘッド挿入穴 8・・・冷却ガス排気口 9・・・貫通穴 10・・・ガス流路 11・・・冷却ガス導入パイプ 12・・・冷却機構への導入口 13・・・突起物 51・・・冷却機構 52・・・冷却ガス導入ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料と基準物質を収納するヒートシンクと、前記ヒートシンクを加熱するヒーターと、前記ヒートシンクの底板上に固定されている示差熱流検出器とを有する示差走査熱量計において、前記ヒートシンクの底板下に固定された冷却機構を有し、前記冷却機構には冷却ガス導入用の冷却ヘッドあるいは電気冷却ヘッドを装着するための挿入穴と、前記挿入穴の側壁に設けられた穴をガス導入口とする冷却ガスのガス流路とが設けられていることを特徴とする示差走査熱量計。
【請求項2】
前記ガス流路の内壁に複数個の突起物を有する請求項1記載の示差走査熱量計。
【請求項3】
請求項1記載の挿入穴に装着される前記冷却ヘッドを有し、前記冷却ヘッドには冷却ガス送出穴が、前記挿入穴に装着した時、前記ガス導入口の位置にくるように設けられていることを特徴とするガス冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−58047(P2006−58047A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237870(P2004−237870)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】