説明

冷媒圧縮機と冷媒圧縮機用冷凍機油および冷凍装置

【課題】低粘度潤滑剤を用いながら消費電力量を抑制し、かつ信頼性が高い冷媒圧縮機を提供する。
【解決手段】密閉容器101内に貯留する潤滑油の粘度を、VG3〜VG8とすることによって入力低減をはかり、さらに、潤滑油の100℃における50×10Pa以下の負圧力状態での蒸発率を90wt%以下とすることで、PET(ポリエチレンテレフタレート)等に含まれる2量体〜5量体の環状オリゴマ量の総量を多くしても、前記潤滑油中の2量体〜5量体の環状オリゴマが、吸入リードの表面に析出することを抑制し、長期にわたって高効率化ならびに信頼性の向上をはかることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷蔵庫、エアーコンディショナー等に使用される冷媒圧縮機と冷媒圧縮機用とする冷凍機油、およびその圧縮機を搭載した冷凍装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の冷媒圧縮機としては、地球環境保護の観点から化石燃料の使用を少なくする高効率の冷媒圧縮機の開発が進められており、その中で特に潤滑剤の粘度を低下させることにより、摺動損失の低減が図られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
以下、図面を参照しながら上記従来の冷媒圧縮機について説明する。
【0004】
図5は、従来技術の冷媒圧縮機の断面図である。図6は、図5のB部の拡大図である。
【0005】
密閉容器1は、底部に粘度VG8〜22の鉱油からなる潤滑油2を貯留するとともに、PET(ポリエチレンテレフタレート)を絶縁材料として用いた固定子3、および回転子4からなる電動要素5とこれによって駆動される往復式の圧縮機構6を収容している。また、冷媒としてR600aを用いている。
【0006】
次に、圧縮機構6の詳細について説明する。
【0007】
クランクシャフト7は、回転子4を圧入固定した主軸部8、および主軸部8に対して偏心して形成された偏心部9からなり、給油ポンプ10を設けている。シリンダーブロック11は、略円筒形のボアー12からなる圧縮室13を有するとともに、主軸部8を軸支する軸受け14を有している。
【0008】
ボアー12に遊嵌されたピストン15は、ピストンピン16を介して偏心部9との間を連結手段であるコンロッド17によって連結されている。
【0009】
バルブプレート20は、図5に示す如く、ボアー12の端面を封止するように配設され、吸入孔24および吐出孔25が形成されている。板状のバネ材からなる吸入リード18は、ボアー12の端面とバルブプレート20との間に挟持され、吸入孔24を開閉する。板状のバネ材からなる吐出リード19は、バルブプレート20の反ボアー12側に配設され、吐出孔25を開閉する。ヘッド21は、バルブプレート20の反ボアー12側に固定され、吐出リード19を収納する高圧室26を形成する。
【0010】
サクションチューブ22は、密閉容器1に固定されるとともに冷凍サイクルの低圧側(図示せず)に接続され、冷媒ガス(図示せず)を密閉容器1内に導く。サクションマフラー23は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の高分子材料から形成されており、バルブプレート20とヘッド21によって挟持固定されている。
【0011】
クランクシャフト7の主軸部8と軸受け14、ピストン15とボアー12、ピストンピン16とコンロッド17、クランクシャフト7の偏心部9とコンロッド17は、それぞれ相互に摺動する関係にある摺動部を形成する。
【0012】
次に、上記構成における圧縮機の一連の動作について説明する。
【0013】
商用電源(図示せず)から供給される電力は、電動要素5に供給され、電動要素5の回
転子4を回転させる。回転子4は、クランクシャフト7を回転させ、偏心部9の偏心運動が連結手段のコンロッド17からピストンピン16を介してピストン15を駆動する。この動作により、ピストン15はボアー12内を往復動する。
【0014】
そして、サクションチューブ22を通して密閉容器1内に導かれた冷媒ガスは、サクションマフラー23を経て吸入リード18を開け、吸入孔24から圧縮室13内に吸入される。
【0015】
圧縮室13内に吸入された冷媒ガスは、連続して圧縮され、吐出リード19を開け、吐出孔25から高圧室26へと吐出され、冷凍サイクルの高圧側(図示せず)に送り出される。
【0016】
潤滑油2は、クランクシャフト7の回転に伴い、給油ポンプ10から各摺動部に給油され、摺動部を潤滑させることで摩擦係数を低下させるとともに、ピストン15とボアー12の間においてはシールを司る。
【0017】
また、潤滑油2中には、高分子材料であるPBT(ポリブチレンテレフタレート)ならびにPET(ポリエチレンテレフタレート)等から抽出された環状のオリゴマが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2000−297753号公報
【特許文献2】特開平10−204458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、従来の潤滑油2では、使用する高分子材料に含まれる2量体〜5量体の環状オリゴマ量の総量を少なくしても、潤滑油2中に2量体〜5量体の環状オリゴマが存在する。
【0020】
この環状オリゴマが存在する状態で冷媒のガスが圧縮室13内に吸入された場合、圧縮室13内の圧力が低下することにより、潤滑油2の低圧力状態で蒸発し易い成分が蒸発し、潤滑油2中の環状のオリゴマが吸入リード18の表面に析出する。
【0021】
したがって、長期に亘る使用においては、この析出物が堆積し、特に、吸入リード18のシール性を阻害して圧縮不良が起きるという課題が有った。
【0022】
かかることから、従来は、使用する潤滑油2の粘度を特定の範囲(粘度VG8〜22)のものとして、環状オリゴマの生成を抑制していた。その結果、潤滑油2の使用粘度をさらに低い粘度とすることが困難であり、高い粘度の潤滑油2の使用が余儀なくされていた。
【0023】
したがって、潤滑油2による摩擦低減に限度があり、さらなる低入力化がはかり難い状況にあった。
【0024】
本発明は、従来の課題を解決するもので、使用する高分子材料に含まれる2量体〜5量体の環状オリゴマ量の総量を多くしても、高効率で信頼性が高い冷媒圧縮機を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明の冷媒圧縮機は、密閉容器内に貯留する潤滑油の粘度を、VG3〜VG8の範囲とすることにより、入力の低減をはかり、また、潤滑油の圧縮要素における吸入工程、もしくは吸入工程に近い圧縮室内の環境下での蒸発率を90wt%以下としたものである。
【0026】
かかることにより、使用する高分子材料に含まれた2量体〜5量体の環状オリゴマ量の総量が多く、潤滑油中に析出した場合であっても、前記2量体〜5量体の環状オリゴマが吸入リードの表面に堆積することを抑制し、吸入リードの動作不良を防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の冷媒圧縮機は、使用する潤滑油の粘度を低くすることで入力の低減をはかり、さらに、潤滑油の圧縮要素における吸入工程、もしくは吸入工程に近い圧縮室内の環境下(100℃における50×10Pa以下の負圧力状態)での蒸発率を規定することにより、2量体〜5量体の環状オリゴマ量の総量が多い高分子材料を使用した場合であっても、オリゴマの析出を防ぐことができる。その結果、使用する高分子材料の制限も緩和でき、高効率で信頼性が高い冷媒圧縮機を提供することができる。
【0028】
さらに、潤滑油として通常採用されている粘度をはるかに下回る粘度の鉱油を使用することにより、各摺動部における潤滑油の浸透性が向上し、鉱油の粘性に起因した摩擦に伴う負荷を低減することができ、消費電力量を抑制することができる。
【0029】
また、上記冷媒圧縮機の搭載に伴い、消費電力(量)を抑制した冷凍装置の提供が可能となり、さらなる省エネ効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態1における冷媒圧縮機の断面図
【図2】同実施の形態1における図1のA部の拡大図
【図3】同実施の形態1における冷媒圧縮機の潤滑油中のオリゴマ量と析出率の関係を示した図
【図4】本発明の実施の形態2における物品貯蔵装置の構成を示す模式図
【図5】従来例の冷媒圧縮機の断面図
【図6】同冷媒圧縮機における図4のB部の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0031】
請求項1に記載の発明は、密閉容器内に、電動要素と、前記電動要素を駆動し、かつ冷媒を圧縮する圧縮要素を配置し、さらに、前記密閉容器内に、少なくとも前記圧縮要素における摺動部の潤滑を行う潤滑油を貯留し、前記電動要素ならびに前記圧縮要素を構成する少なくとも一つの部材を高分子材料より形成し、さらに、前記潤滑油を、粘度がVG3〜VG8の範囲で、かつ前記圧縮要素における吸入工程、もしくは吸入工程に近い圧縮室内の環境下での蒸発率を90wt%以下としたものである。
【0032】
かかることにより、前記潤滑油中に、高分子材料の2量体〜5量体の環状オリゴマが存在しても、オリゴマが吸入リードの表面に析出し、堆積することを防止することができる。したがって、低粘度の潤滑油の使用が可能となり、入力を低減することができ、さらに前記オリゴマの堆積に伴う圧縮要素の動作不良を抑制し、密閉型圧縮機の信頼性を高めることができる。
【0033】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記高分子材料に含まれる2量体〜5量体の環状オリゴマ量の総量を0.8g以下としたものである。
【0034】
かかることにより、前記高分子材料より2量体〜5量体の環状オリゴマが抽出された場合であっても、オリゴマが吸入リードの表面に析出し、堆積することを防止できる。その結果、吸入リードの開閉動作を確実なものとし、効率低下を抑制することができる。
【0035】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記高分子材料をポリエチレンテレフタレート(PET)としたものである。
【0036】
かかることにより、前記潤滑油中にポリエチレンテレフタレート(PET)の2量体〜5量体の環状オリゴマが存在しても、オリゴマの前記吸入リード表面への析出を抑制し、ポリエチレンテレフタレート(PET)における使用制限を緩和することができる。
【0037】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記高分子材料をポリブチレンテレフタレート(PBT)としたものである。
【0038】
かかることにより、前記潤滑油中にポリブチレンテレフタレート(PBT)の2量体〜5量体の環状オリゴマが存在しても、オリゴマの前記吸入リード表面への析出を抑制し、ポリブチレンテレフタレート(PBT)における使用制限を緩和することができる。
【0039】
請求項5に記載の発明は、請求項1から4のいずれか一項に記載の発明において、前記冷媒をR600a、またはR600aを主成分とする混合物とし、さらに前記潤滑油を鉱油としたものである。
【0040】
かかることにより、前記潤滑油に溶け込み易く、蒸発が生じ易い冷媒との組合せにおいて、前記潤滑油中に高分子材料の2量体〜5量体の環状オリゴマが存在しても、オリゴマが吸入リードの表面に析出し、堆積することを抑制することができる。
【0041】
請求項6に記載の発明は、粘度がVG3〜VG8の範囲の鉱油で、100℃における50×10Pa以下の圧力状態での蒸発率を90wt%とした冷媒圧縮機用冷凍機油である。
【0042】
かかることにより、鉱油に含まれているオリゴマの冷媒圧縮機を構成するリード部等への析出が抑制でき、この析出物の堆積により、リード部等のシール性が阻害され、これに起因した圧縮不良等の不具合を抑制することができ、冷媒圧縮機の信頼性を確保することができる。
【0043】
さらに、潤滑油として従来採用されている粘度をはるかに下回る粘度の鉱油であることから、該冷凍機油を使用した冷媒圧縮機においては、各摺動部における潤滑油の浸透性が向上し、鉱油の粘性に起因した摩擦に伴う負荷を低減することができ、消費電力量を抑制することができる。
【0044】
請求項7に記載の発明は、圧縮機、放熱器、減圧装置、吸熱器を配管によって環状に連結した冷媒回路を有し、前記圧縮機を、請求項1から5のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機とした冷凍装置である。
【0045】
かかる冷凍装置は、信頼性が高く、かつ各摺動部の摺動損失の少ない密閉型圧縮機の搭載により、消費電力(量)を抑制した運転が可能となる。
【0046】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態よってこの発明が限定されるものではない。
【0047】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における冷媒圧縮機の断面図である。図2は、同実施の形態1における図1のA部の拡大図である。図3は、同実施の形態1における冷媒圧縮機の潤滑油中のオリゴマ量と析出率の関係を示した図である。
【0048】
図1、図2において、冷媒圧縮機100を構成する密閉容器101内には、R600aからなる冷媒ガス102が充填され、また、密閉容器101内の底部には、潤滑油である鉱油103を貯留している。この鉱油103は、100℃における50×10Pa以下の圧力状態での蒸発率を90wt%とした粘度がVG5の鉱油である。
【0049】
さらに、密閉容器101内には、オリゴマを含む有機材料(高分子材料)としてのPET(ポリエチレンテレフタレート)を絶縁材料として用いた固定子104、および回転子105より構成される電動要素106と、この電動要素106によって駆動される往復式の圧縮機構107が配置収容されている。
【0050】
次に、圧縮機構107における構成の詳細について説明する。
【0051】
クランクシャフト108は、回転子105を圧入固定した主軸部109、および主軸部109に対して偏心した位置に形成された偏心部110を具備した構成であり、偏心部110の下端(先端)には、鉱油103内に浸漬する給油ポンプ111を設けている。
【0052】
鋳鉄からなるシリンダーブロック112は、略円筒形のボアー113と、クランクシャフト108の主軸部109を軸支する軸受け部114を具備している。
【0053】
ボアー113内に遊嵌されたピストン115は、鉄系の材料からなり、ボアー113と共に圧縮室116を形成し、ピストンピン117を介して連結手段であるコンロッド118によって偏心部110と連結されている。
【0054】
ボアー113の端面は、図2に示すように積層関係にある吸入リード119(弁)と、吐出リード(弁)120と、バルブプレート121によって封止されている。
【0055】
さらに詳述すると、バルブプレート121は、ボアー113の端面を封止するように配設され、吸入孔122および吐出孔123が形成されている。また、板状のバネ材からなる吸入リード119は、ボアー113の端面とバルブプレート121との間に挟持され、吸入孔122を開閉する。さらに、板状のバネ材からなる吐出リード120は、バルブプレート121の反ボアー113側に配設され、吐出孔123を開閉する。また、ヘッド124は、バルブプレート121の反ボアー113側に固定され、吐出リード120を収納した高圧室125を形成している。
【0056】
サクションチューブ126は、密閉容器101に固定され、その一端は冷凍サイクルの低圧側(図示せず)に接続され、冷媒ガス(図示せず)を密閉容器101内に導く。
【0057】
消音空間を有するサクションマフラー127は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の高分子材料から形成されており、バルブプレート121とヘッド124によって挟持され、密閉容器101内部と吸入孔122を連通している。
【0058】
ここで、主軸部109と軸受け部114、およびピストン115とボアー113、さらにピストンピン117とコンロッド118、および偏心部110とコンロッド118は、それぞれ相互に摺動関係にある摺動部を形成している。
【0059】
以上のように構成された冷媒圧縮機100について、以下その動作を説明する。
【0060】
商用電源(図示せず)から供給される電力は、電動要素106に供給され、電動要素106の回転子105を回転させる。回転子105は、クランクシャフト108を回転させる。これに伴い、偏心部110の偏心運動(旋回)が、連結手段のコンロッド118からピストンピン117を介してピストン115を駆動する。その結果、ピストン115はボアー113内を往復動する。
【0061】
そして、サクションチューブ126を通して密閉容器101内に導かれた冷媒ガス102は、ピストン115の往復動による圧縮室116の膨張に伴い、サクションマフラー127を経て吸入リード119を開け、吸入孔122から圧縮室116内に吸入される。
【0062】
圧縮室116内に吸入された冷媒ガス102は、連続して圧縮され、圧縮室116内が所定の圧力に到達すると冷媒ガス102は吐出リード120を開け、吐出孔123から高圧室125へと吐出され、冷凍サイクルの高圧側(図示せず)に送り出される。
【0063】
一方、鉱油103は、クランクシャフト108の回転に伴い、給油ポンプ111から主軸部109と軸受け部114、およびピストン115とボアー113、さらにピストンピン117とコンロッド118、および偏心部110とコンロッド118が相互に形成する各摺動部に給油され、これらを潤滑するとともに、ピストン115とボアー113の間においてはシール性を確保する。
【0064】
上述の各摺動部への給油構造は、周知の構成でよく、また本発明の要旨と直接の関連性がないため、詳細な説明を省略する。
【0065】
ここで、図3を用いて本実施の形態1による潤滑油中のオリゴマ量を変えた際の析出率について説明する。
【0066】
まず、粘度がVG5の鉱油180mlの中に、PETオリゴマを所定量混入し、PETオリゴマが十分混ざった状態の鉱油(潤滑油)103を複数種類作製する。本実施の形態1においては、鉱油180mlの中に、PETオリゴマを3g混入、5g混入、6g混入、8g混入、10g混入した5種類である。
【0067】
そして、それぞれのオリゴマ混入量の鉱油103を、PETオリゴマが十分混ざった状態(オリゴマが沈殿していない状態)で約40ml採取し、吸入リード119と同じ材質のプレート(図示せず)に塗布する。
【0068】
次に、上述の鉱油103を塗布したそれぞれのプレートを容器内に収納し、その容器内を、吸入工程時の圧縮室116内の環境と近い状態にして所定時間保持する。本実施の形態1においては、吸入工程時における圧縮室116内と擬似の環境設定として、前記容器内を、50×10Pa(5メガPa)以下の負圧力状態にし、さらに、その容器の雰囲気温度を約100℃の状態にして約17時間保持した。
【0069】
図3の測定結果は、上述の過程を経たプレートの表面のPETオリゴマの析出の有無を測定したもので、各混入条件についてそれぞれ5回の試験を繰り返して実施し、オリゴマの析出率(発生率)を求めた結果である。
【0070】
この結果から、従来の粘度の鉱油においては、180mlの潤滑油中のPETオリゴマ量が4g以上でプレート表面にPETオリゴマの析出が認められ、混入量8gでは、5回
の実験全てにおいてPETオリゴマの析出が認められた。
【0071】
一方、本実施の形態1における潤滑油(鉱油)を用いた場合は、油中のPETオリゴマ量が8gまではプレート表面にPETオリゴマの析出が認められなかった。
【0072】
このことは、本実施の形態1における粘度がVG5の鉱油の100℃における50×10Pa以下の負圧力状態での蒸発率が90wt%であることから、蒸発しない残りの10wt%の鉱油がPETオリゴマを保持し、この残存する鉱油が、プレート表面へのPETオリゴマの析出を防止したものと考えられる。
【0073】
さらに、粘度がVG3〜VG8の鉱油について同様の試験を行った場合も、同様の傾向の結果が得られた。
【0074】
したがって、本実施の形態1における粘度がVG5の鉱油103を用いることで、冷媒ガス102が圧縮室116内に吸入される工程において、圧縮室116内の圧力が低下した場合においても、鉱油103の10wt%が蒸発せずに吸入リード119の表面に残存することが確認できた。
【0075】
その結果、鉱油103に含まれている2量体〜5量体の環状のPETオリゴマが、吸入リード119の表面に残存する鉱油103中に残り、吸入リード119の表面に析出することを抑制する。したがって、この析出物の堆積により、吸入リード119のシール性が阻害され、これに起因した圧縮不良等の不具合を抑制することができ、冷媒圧縮機の信頼性を向上することができる。
【0076】
さらに、潤滑油として従来採用されている粘度をはるかに下回る粘度の鉱油を使用することにより、各摺動部における潤滑油の浸透性が向上し、鉱油の粘性に起因した摩擦に伴う負荷を低減することができ、消費電力量を抑制することができる。
【0077】
また、本実施の形態1においては、鉱油103に混入しているオリゴマを含む有機材料(高分子材料)として、固定子104の絶縁材料として用いられているPET(ポリエチレンテレフタレート)を一例として説明したが、サクションマフラー127に用いられるPBT(ポリブチレンテレフタレート)に関しても、本実施の形態1における粘度がVG5の鉱油103を用いることで、吸入リード119の表面にPBTオリゴマが析出することを抑制することができ、同様の効果が得られることを確認した。
【0078】
さらに、かかる鉱油103を封入した冷媒圧縮機の運転後においても、オリゴマの析出量を同様とする結果を得ることができた。
【0079】
また、固定子104に用いられるLCP(液晶ポリマーコンパウンド)やPPS(ポリフェニレンスルフィド)等の有機材料に限らず、他の構成部品に用いられる他の有機材料についても同等の効果が期待できる。
【0080】
さらに、本実施の形態1においては、冷媒ガス102と潤滑油の組み合わせとして、R600aと鉱油の組合せを例に挙げて説明したが、使用する冷媒を同じハイドロカーボン系冷媒であるR290とした場合や、冷媒自身の潤滑性が悪いHFC系冷媒においても、冷媒ガス102が圧縮室116内に吸入される工程では、鉱油103が吸入リード119の表面に残存する同様の現象となり、同様の作用効果が期待できる。このことは、さらに凝縮・蒸発圧力が高く高温になり易いCO2冷媒においては、特に効果が高い。
【0081】
なお、本実施の形態1における冷媒圧縮機100は、一定速度の圧縮機に限るものでは
なく、インバーター装置によって駆動される可変速型圧縮機についても同様の作用効果が得られるもので、特に20Hz以下の超低速運転時においては、さらに鉱油103の循環量が減少して各摺動部の温度上昇が大きくなるが、それに伴って吸入リード119の表面の温度上昇が大きくなることから、上述の作用効果がより顕著になる。
【0082】
また、本実施の形態1においては、往復動式の冷媒圧縮機を例示して説明したが、回転式圧縮機、あるいはスクロール式圧縮機、さらには振動式圧縮機等、摺動部や吐出弁を有する他の圧縮機においても同様の作用効果が期待できるものである。
【0083】
(実施の形態2)
図4は、本発明の実施の形態2における物品貯蔵装置の構成を示す模式図である。なお、ここでは、冷媒R600aを封入した冷凍サイクルに、実施の形態1の密閉型圧縮機100を組み込んだ構成として説明する。
【0084】
図24において、貯蔵装置本体221は、内部に、前面が開口し、断熱材によって囲われた第一貯蔵室222aと第二貯蔵室222bを具備し、前面に、第一貯蔵室222aおよび第二貯蔵室222bに対応して前記開口を開閉する断熱性を有する第一扉223aおよび第二扉223bを具備している。
【0085】
また、第一貯蔵室222aと第二貯蔵室222bは、連絡通路224a、224bを介して連通している。
【0086】
さらに、貯蔵装置本体221の内部には、実施の形態3の密閉型圧縮機100、凝縮器226、減圧装置227、蒸発器228を配管により環状に連結した冷凍サイクルが設けられており、蒸発器228は、第一貯蔵室222aに配置されている。また、第一貯蔵室222aには、蒸発器228で冷却された冷気を、矢印aで示す如く積極的に第一貯蔵室22a内を循環させる送風機229が設けられている。第二貯蔵室222bは、矢印bで示す如く連絡通路224a、224bを介して流入した第一貯蔵室222aの一部の冷気の循環によって冷却される。
【0087】
したがって、実施の形態3で説明したように、高効率の密閉型圧縮機100の搭載により、物品貯蔵装置は、効率のよい冷却運転を行うことができる。これに伴い、消費電力(量)を抑制した物品貯蔵装置を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明にかかる冷媒圧縮機は、低粘度の潤滑油を用いながら信頼性が高い圧縮機を提供することが可能となるので、冷凍サイクルを用いた各種機器に幅広く適用することができる。
【符号の説明】
【0089】
100 冷媒圧縮機
101 密閉容器
102 冷媒ガス
103 鉱油(潤滑油)
106 電動要素
107 圧縮機構
116 圧縮室
226 凝縮器
227 減圧装置
228 蒸発器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内に、電動要素と、前記電動要素を駆動し、かつ冷媒を圧縮する圧縮要素を配置し、さらに、前記密閉容器内に、少なくとも前記圧縮要素における摺動部の潤滑を行う潤滑油を貯留し、前記電動要素ならびに前記圧縮要素を構成する少なくとも一つの部材を高分子材料より形成し、さらに、前記潤滑油を、粘度がVG3〜VG8の範囲で、かつ前記圧縮要素における吸入工程、もしくは吸入工程に近い圧縮室内の環境下での蒸発率を90wt%以下とした冷媒圧縮機。
【請求項2】
前記高分子材料に含まれる2量体〜5量体の環状オリゴマ量の総量を0.8g以下とした請求項1に記載の冷媒圧縮機。
【請求項3】
前記高分子材料をポリエチレンテレフタレート(PET)とした請求項1または2に記載の冷媒圧縮機。
【請求項4】
前記高分子材料をポリブチレンテレフタレート(PBT)とした請求項1または2に記載の冷媒圧縮機。
【請求項5】
前記冷媒をR600a、またはR600aを主成分とする混合物とし、さらに前記潤滑油を鉱油とした請求項1から4のいずれか一項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項6】
粘度がVG3〜VG8の範囲の鉱油で、100℃における50×10Pa以下の圧力状態での蒸発率を90wt%とした冷媒圧縮機用冷凍機油。
【請求項7】
圧縮機、放熱器、減圧装置、吸熱器を配管によって環状に連結した冷媒回路を有し、前記圧縮機を、請求項1から5のいずれか一項に記載の密閉型圧縮機とした冷凍装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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