説明

冷媒圧縮機,冷凍サイクル装置

【課題】本発明は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン若しくは該冷媒とジフルオロメタンからなる混合冷媒との適合性に優れた冷凍機油を封入した場合においても、圧縮機や冷凍サイクル装置の信頼性を確保することを目的とする。
【解決手段】本発明の目的は、モータは、固定子の両端に樹脂製絶縁体を介してコイルを巻きつける構造であり、冷媒が、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン単独、若しくは、前記冷媒とジフルオロメタンとの混合からなり、冷凍機油としてポリオールエステル油を用いた冷媒圧縮機により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン若しくは該冷媒とジフルオロメタンからなる混合冷媒を用いた家庭用ヒートポンプ式冷媒圧縮機において、安定性に優れた冷凍機油とコンパクトで信頼性の高い圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家庭用ルームエアコンの冷媒はHCFC系のR22を用いていた。近年、地球環境保護の点から、分子中に塩素を含まないHFC系冷媒に代替されてきた。その代表的なものとしてはR32,125,134aの単独若しくはこれらの2種類以上を混合したR410A,R407Cがある。
【0003】
しかしながらR410A,R407Cにおいても地球温暖化係数(以下GWPと記す)が高いため、よりGWPの低い冷媒が求められている。現在候補として挙げられている冷媒は2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)であり、カーエアコンの分野でHFC134aの代替として検討されている。この冷媒は物性がHFC134aに近いため空調用の冷媒としては現状並みの能力が発揮できない。このことから、空調用には別の冷媒との混合も考えられる。
【0004】
2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)と混合する冷媒としては特許文献1〜9などが知られており、トリフルオロヨードメタン,二酸化炭素,ジフルオロエタン(HFC152a)などの共沸となるハイドロフルオロカーボンが挙げられているが、毒性・安全性・熱物性からこれらの混合冷媒でルームエアコンを効率よく運転することについては更なる検討が必要である。
【0005】
また、冷凍機油としては前記からポリアルキレングリコール油,ポリオールエステル油,鉱油,ポリαオレフィン油,アルキルベンゼン油が開示されている。
【0006】
カーエアコンのように開放系圧縮機ではポリアルキレングリコール油のように電気絶縁性が劣る冷凍機油においても適用が可能である。しかし、ルームエアコンのような密閉系圧縮機ではポリアルキレングリコール油は電気絶縁性油としての体積抵抗率の規格である1013Ω・cmを大きく下回り、更に吸湿性が高いことから水分管理するために設備や時間を要する。更に、ポリアルキレングリコール油は加水分解を起こさない代わりに圧縮機内の有機材料の加水分解に寄与してしまう恐れがある。鉱油,ポリαオレフィン油,アルキルベンゼン油においては2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)との相溶性が劣ることから圧縮機への油戻り特性低下への懸念がある。更には基材単独での潤滑性が劣るため、トリクレジルフォスフェート(TCP)のようなリン系の極圧剤が必ず必要となる。
【0007】
冷凍機油としてエステル油を使用する技術として特許文献10が知られている。この場合、水分が多いとトリクレジルフォスフェート(TCP)が熱分解を起こし冷凍機油の酸価上昇を引き起こす可能性も考えられる。冷凍機油の酸価が上昇すると摺動部の腐食損傷を引き起こし、摺動部の摩耗が増加することにつながる。
【0008】
従って、上記の理由から冷凍空調装置には2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)単独若しくは該冷媒とジフルオロメタンの混合冷媒との相溶性に優れ、かつ電気的特性,潤滑性,熱化学安定性の良好な冷凍機油を用いることが望ましい。
【0009】
また、近年圧縮機のコンパクト化として分布巻きから集中巻きモータが採用されているが、その場合、モータに使用される樹脂材料としては絶縁フィルム,エナメル線の他に、インシュレータ材も含まれる。これらの材料も冷凍機油の水分が高い場合加水分解を引き起こし強度低下や低分子重合体であるオリゴマの析出につながる恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2007−532766号公報
【特許文献2】特表2007−532767号公報
【特許文献3】特表2007−536390号公報
【特許文献4】特表2007−538115号公報
【特許文献5】特表2008−504374号公報
【特許文献6】特表2008−505989号公報
【特許文献7】特表2008−506793号公報
【特許文献8】特表2008−524433号公報
【特許文献9】特表2008−239814号公報
【特許文献10】特開2008−266423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン若しくは該冷媒とジフルオロメタンからなる混合冷媒との適合性に優れた冷凍機油を封入した場合においても、圧縮機や冷凍サイクル装置の信頼性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、
冷凍機油を貯溜する密閉容器内に、回転子と固定子とからなるモータと、前記回転子に嵌着された回転軸と、この回転軸を介して前記モータに連結された圧縮機部とを収納して、冷媒を圧縮する冷媒圧縮機において、
前記モータは、前記固定子の両端に樹脂製絶縁体を介してコイルを巻きつける構造であり、
前記冷媒が、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン単独、若しくは、前記冷媒とジフルオロメタンとの混合からなり、
前記冷凍機油としてポリオールエステル油を用いる
ことを特徴とする冷媒圧縮機によって達成される。
【0013】
本発明の機器に関する冷媒は2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)であり、分子内に不飽和炭化水素を含んでいることから、ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒系と比べて冷媒自身の安定性が劣り、冷凍機油の劣化を引き起す可能性がある。前記(2)に記載の冷凍機油を用いることで、冷媒/冷凍機油の安定性を確保できる。また、ポリオールエステル油は、多価アルコールと1価の脂肪酸とから合成され、熱安定性に優れるヒンダードタイプが好ましい。例えば、多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール,ジペンタエリスリトールがある。1価の脂肪酸としては、ペンタン酸,ヘキサン酸,ヘプタン酸,オクタン酸,2−メチルブタン酸,2−メチルペンタン酸,2−メチルヘキサン酸,2−エチルヘキサン酸,イソオクタン酸,3,5,5−トリメチルヘキサン酸等があり、単独で又は2種類以上の混合脂肪酸にして用いる。特に冷凍機油に基油としては分子中にエステル結合を少なくとも2個保有する式(1),(2)又は(3)で示される脂肪酸のエステル油の群から選ばれる少なくとも1種類が好ましい。
【0014】
(R1−CH2)2−C−(CH2−O−CO−R2)2 …(1)
(式(1)中、R1は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2は、それぞれ独立して炭素数5〜12のアルキル基を表す)
(R1−CH2)−C−(CH2−O−CO−R2)3 …(2)
(式(2)中、R1およびR2は、前記と同義である)
C−(CH2−O−CO−R2)4 …(3)
(式(3)中、R2は、前記と同義である)
【0015】
圧縮機及び冷凍サイクル装置に用いる冷凍機油の粘度(JIS K2283で測定)は圧縮機の種類によって異なるが、スクロール式圧縮機では40℃における粘度が40〜100mm2/sの範囲が好ましい。粘度40mm2/s未満の場合は冷媒が溶解した冷凍機油の粘度が低くなってしまい、圧縮機内部での油膜が十分に保持されず潤滑性を保つことができない。更には圧縮部のシール性も保てない。これに対して粘度100mm2/sを越えると粘性抵抗、摩擦抵抗等の機械損失が増大し、圧縮機効率を低下させる。
【0016】
本発明に係る機器では前記した冷凍機油に、潤滑性向上剤,酸化防止剤,酸捕捉剤,消泡剤,金属不活性剤等を添加しても全く問題はない。特にポリオールエステル油は、水分共存下で加水分解に起因する劣化が生じるため、酸化防止剤,酸捕捉剤の配合は必須である。酸化防止剤としては、フェノール系であるDBPC(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)が好ましい。酸捕捉剤としては、エポキシ系,カルボジイミド系などがあるが、脂肪族のエポキシ化合物が一般的に用いられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧縮機や冷凍サイクル装置の信頼性を確保することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】集中巻きモータ搭載の密閉型冷媒圧縮機を説明する縦断面図である。
【図2】分布巻きモータ搭載の密閉型冷媒圧縮機を説明する縦断面図である。
【図3】集中巻きモータの縦断面図である。
【図4】基本的な冷凍機用の冷凍サイクル構成図である。
【図5】基本的な空調機用の冷凍サイクル構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。本実施形態での冷媒圧縮機およびこれを使用した冷凍サイクル装置は、後記するように、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)単独若しくは該冷媒とジフルオロメタンとの混合冷媒を封入し、所定のポリオールエステルを冷凍機油としたことを主な特徴としている。ここでは本実施形態に係る冷媒圧縮機が使用された冷凍サイクル装置について説明した後に、この冷媒圧縮機について説明する。
【0020】
ここで参照する図面において、図1は、集中巻きモータ搭載密閉型冷媒圧縮機の断面図である。また、図2は従来の分布巻きモータ搭載の断面図である。密閉型冷媒圧縮機には、ロータリ方式,スクロール方式,レシプロ方式等があるが、スクロール方式の密閉型冷媒圧縮機の例を用いて説明する。この中でもスクロール形圧縮機は摺動部が面接触となるため瞬時に温度上昇が起こりにくく、残存率の高い高性能の酸捕捉剤が十分に反応する温度まで上昇することは少ない。
【0021】
この冷媒圧縮機は、油溜めを兼ねた密閉ケース1内に圧縮機部2とモータ3とが収納されている。圧縮機部2は旋回スクロール4,固定スクロール5,フレーム6,クランク軸7,オルダムリング8を主要構成要素としている。密閉容器1には外部サイクルと連通する吸入パイプ9が密封接続されている。モータは回転子10と固定子11とからなり、回転子10には鋳鉄製のクランク軸7が嵌着されている。クランク軸7は偏心部12を有し、フレーム6との接触面を潤滑するための油を導く軸穴13が形成されている。また、フレーム6の外周部は密閉容器1に固定されており、クランク軸7の回転を受ける軸受を具備している。クランク軸7の偏心部12には旋回スクロール4が回転自在に取付けられ、フレーム6に設けられた溝と旋回スクロール12の反ラップ側の台板に設けられた溝には、オルダムリング8の表裏に配設された各キーが摺動自在に嵌まり込み、旋回スクロールは自転することなく公転する。また、底部には冷凍機油14が貯溜されており、この冷凍機油は、摺動部へと給油される。
【0022】
図3に、図1で示した固定子部分を拡大した集中巻きモータの断面図を示す。固定子11の上下には樹脂製絶縁体としてインシュレータ11aがあり、このインシュレータ11aを介してエナメル線11bを巻きつける。固定子11には内側に向かって伸びる6個のティース部とそれぞれのティース部の間にできる6個のステータスロットから成り立っている。インシュレータ11aは、ステータスロットにはめ込まれる形で固定子11の両端に取り付けられ、エナメル線11bはインシュレータ11aを介してそれぞれのティース部に巻き付けられる形をとり、エナメル線11bは複数のティースを跨がない。インシュレータ材の材質は耐熱性があり耐油/冷媒性に優れるものが好ましく、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、LCP(液晶ポリマー)が挙げられる。これらの絶縁体はオリゴマの抽出量が殆どみられず、従来モータに使用しているPETフィルムと比較してもオリゴマの抽出量は大幅に低減されている。PPSについてはリニアタイプと架橋タイプが存在するが、架橋タイプではオリゴマの抽出が多いためヒートポンプ絶縁体としてはリニアタイプの方が好ましい。また、強度保持のためにガラス繊維を10〜40%添加した場合でも問題ない。
【0023】
この結果、従来の分布巻きモータと比較すると固定子11の上下に飛び出す部分のエナメル線部分が削減されるのでエナメル線全長が短くなり銅損を低減することができる。また、モータ全体の高さも縮小されるため、圧縮機の小型化・軽量化も可能となる。インシュレータ材の材質は耐熱性があり耐油/冷媒性に優れるものが好ましく、PPS(ポリフェニレンサルファイド),LCP(液晶ポリマー)が挙げられる。
【0024】
図4に冷凍装置用の冷凍サイクル装置の構成図を示す。冷媒圧縮機15,凝縮器16,減圧装置17,蒸発器18よりなる冷凍サイクル装置において、冷媒圧縮機15は、低温低圧の冷媒ガスを圧縮し、高温高圧の冷媒ガスを吐出し凝縮器16に送る。凝縮器16に送られた冷媒ガスは、その熱を空気中に放出しながら高温高圧の冷媒液となり、減圧装置17に送られる。減圧装置17を通過する高温高圧の冷媒液は絞り効果により低温低圧の湿り蒸気となり蒸発器18へ送られる。蒸発器18に入った冷媒は周囲から熱を吸収して蒸発し、蒸発器18を出た低温低圧の冷媒ガスは圧縮機15に吸い込まれ、以下同じサイクルが繰り返される。この冷凍サイクルにおいて、冷凍機等では低温度の蒸発器温度(−40℃以下)を必要としている。ここで冷媒との相溶性が悪い冷凍機油を使用すると熱交換器や膨張機構で冷媒と分離した冷凍機油が蓄積し、圧縮機への油戻り性が落ちる。
【0025】
図5に基本的な空調機用の冷凍サイクル構成図を示す。冷媒圧縮機15,凝縮器16,減圧装置17,蒸発器18,四方弁19よりなる冷凍装置において、冷媒圧縮機15は、低温低圧の冷媒ガスを圧縮し、高温高圧の冷媒ガスを吐出し四方弁19を通り凝縮器16に送られる。凝縮器16に送られた冷媒ガスは、その熱を空気中に放出しながら高温高圧の冷媒液となり、減圧装置17に送られる。減圧装置17を通過する高温高圧の冷媒液は絞り効果により低温低圧の湿り蒸気となり蒸発器18へ送られる。蒸発器18に入った冷媒は周囲から熱を吸収して蒸発し、蒸発器18を出た低温低圧の冷媒ガスは圧縮機1に吸い込まれ、以下同じサイクルが繰り返される。四方弁19を切り替えることにより冷媒流路が変り凝縮器16と蒸発器18は作用が入れ替わる。この冷凍サイクルにおいて、ルームエアコン等では中温度の蒸発器温度(−10℃以下)を必要としている。ここで冷媒との相溶性が悪い冷凍機油を使用すると熱交換器や膨張機構で冷媒と分離した冷凍機油が蓄積し、圧縮機への油戻り性が落ちる。
【0026】
本発明の冷媒はHFO−1234yfであり、分子中に塩素を含んでいないことから、冷媒自身の潤滑性が期待できず、圧縮機の耐摩耗性を低下させるが、前記の冷凍機油を用いることで、冷媒/冷凍機油混合液の潤滑性を確保できる。前記したポリールエステル油としては、多価アルコールと1価の脂肪酸とから合成され、熱安定性に優れるヒンダードタイプが好ましい。例えば、多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール,ジペンタエリスリトールがある。1価の脂肪酸としては、ペンタン酸,ヘキサン酸,ヘプタン酸,オクタン酸,2−メチルブタン酸,2−メチルペンタン酸,2−メチルヘキサン酸,2−エチルヘキサン酸,イソオクタン酸,3,5,5−トリメチルヘキサン酸等があり、単独で又は2種類以上の混合脂肪酸にして用いる。特に冷凍機油の基油としては分子中にエステル結合を少なくとも2個保有する式(1),(2)又は(3)で示される脂肪酸のエステル油の群から選ばれる少なくとも1種類が好ましい。
【0027】
(R1−CH2)2−C−(CH2−O−CO−R2)2 …(1)
(式(2)中、R1は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2は、それぞれ独立して炭素数5〜12のアルキル基を表す)
(R1−CH2)−C−(CH2−O−CO−R2)3 …(2)
(式(3)中、R1およびR2は、前記と同義である)
C−(CH2−O−CO−R2)4 …(3)
(式(4)中、R2は、前記と同義である)
【0028】
本発明の冷凍装置もしくは空調機に用いる冷凍機油の粘度(JIS K2283で測定)は圧縮機の種類によって異なるが、スクロール式圧縮機では40℃における粘度が40〜100mm2/sの範囲が好ましい。粘度40mm2/s未満の場合は冷媒が溶解した冷凍機油の粘度が低くなってしまい、圧縮機内部での油膜が十分に保持されず潤滑性が保てない。更には圧縮部のシール性も保てない。これに対して粘度100mm2/sを越えると粘性抵抗,摩擦抵抗等の機械損失が増大し、圧縮機効率を低下させる。
【0029】
酸捕捉剤についてはその添加量が0.1質量%未満では十分な酸捕捉効果が見込めず、逆に1質量%を越えると冷凍機油に完全に溶解せず析出する恐れがある。従って、添加量としては0.1〜1.0質量%が好ましい。
【0030】
本発明の冷媒圧縮機に用いる冷凍機油の酸捕捉剤性能を確認する方法としてシールドチューブ試験にて熱安定性及び加水分解性の評価を実施した。冷媒としては2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、冷凍機油としては表1に示す供試油を用いた。
【0031】
【表1】


(A)ヒンダードタイプポリオールエステル油(POE) 40℃粘度64.9mm2/s
(B)ポリビニルエーテル油(PVE) 40℃粘度69.1mm2/s
(C)ポリアルキレングリコール油(PAG) 40℃粘度71.9mm2/s
(D)ナフテン系鉱油(MO) 40℃粘度54.1mm2/s
【実施例1】
【0032】
表2に熱安定性評価として行ったシールドチューブ試験の結果を示す。冷凍機油は(A)ポリオールエステル油,(B)ポリビニルエーテル油,(C)ポリアルキレングリコール油,(D)ナフテン系鉱油を用いた。添加剤としては全ての供試油に酸化防止剤を添加しており、酸捕捉剤は(A)ポリオールエステル油,(B)ポリビニルエーテル油,(C)ポリアルキレングリコール油に添加した。シールドチューブ試験条件としては、内径10φのガラス管に触媒として長さ50mmの鉄,銅,アルミを入れ、冷凍機油として冷凍機油を5g、冷媒を1g注入後密封し175℃で最大21日加熱後、油の色,酸価,添加剤の残存率,触媒の外観などを測定した。油中の水分は100ppmとした。
【0033】
試験後の冷凍機油の酸価及び添加剤の測定はJIS K2501「石油製品及び潤滑油―中和価試験方法」に従った。色相についてはJIS K2580「石油製品色試験方法」に従った。添加剤の残存率はJIS K2501「石油製品及び潤滑油―中和価試験方法」に準じた方法で行った。
【0034】
評価の結果、水分が100ppmの場合は、(A)ポリオールエステル油においては酸価の上昇が見られず、酸捕捉剤の残存率も63%と高かったが、(B)ポリビニルエーテル油,(C)ポリアルキレングリコール油については酸価上昇が大きく、酸捕捉剤の残存率も25%以下であった。また、(D)ナフテン系鉱油については酸価上昇は起こらなかったものの、冷媒と二層分離を起こしており、相溶性に劣ることを確認した。
【0035】
この結果より、相溶性と熱安定性に優れた冷凍機油としては(A)ポリオールエステル油が最適であることを確認した。
【0036】
【表2】

【実施例2】
【0037】
表3に加水分解性評価として行ったシールドチューブ試験の結果を示す。冷凍機油は(A)ポリオールエステル油,(B)ポリビニルエーテル油,(C)ポリアルキレングリコール油を用いた。(D)ナフテン系鉱油については殆ど吸湿しないため加水分解性試験からは除外した。添加剤としては全ての供試油に酸化防止剤と酸捕捉剤を添加した。シールドチューブ試験条件としては、内径10φのガラス管に触媒として長さ50mmの鉄,銅,アルミを入れ、冷凍機油として冷凍機油を5g、冷媒を1g注入後密封し150℃及び175℃で21日加熱後、油の色,酸価,添加剤の残存率,触媒の外観などを測定した。油中の水分は1000ppmとした。
【0038】
試験後の冷凍機油の酸価及び添加剤の測定はJIS K2501「石油製品及び潤滑油―中和価試験方法」に従った。色相についてはJIS K2580「石油製品色試験方法」に従った。添加剤の残存率はJIS K2501「石油製品及び潤滑油―中和価試験方法」に準じた方法で行った。
【0039】
評価の結果、水分が1000ppmの場合においても、(A)ポリオールエステル油は酸価の上昇は見られず、酸捕捉剤の残存も確認されている。(B)ポリビニルエーテル油,(C)ポリアルキレングリコール油については150℃での条件では酸価上昇もなく、酸捕捉剤の残存も60%程度の確認ができたが、175℃の条件では酸価が大幅に上昇し、酸捕捉剤も完全に消耗していた。
【0040】
この結果より加水分解性に優れた冷凍機油としてはポリオールエステル油が最適でることを確認した。
【0041】
【表3】

【0042】
次に、圧縮機モータに使用する有機絶縁材料について説明する。圧縮機に使用する有機材料は電気絶縁の耐熱クラスが電気絶JEC−6147(電気学会電気規格調査標準規格)で規定されている。しかし、冷凍空調機器用の有機絶縁材料の場合、冷媒雰囲気中という特殊な環境で使用されるため、温度以外にも圧力による変形・変性を抑制すること、更には冷媒や冷凍機油といった有極性化合物にも接触するため耐溶剤性,耐抽出性,熱的・化学的・機械的安定性等も考慮しなくてはならない。空調機用の絶縁材料としては耐熱クラス(B種130℃以上)の絶縁材料を使用する必要がある。
【0043】
圧縮機内の樹脂材料としては、集中巻きモータのインシュレータ材が用いられ、PPS(ポリフェニレンサルファイド),LCP(液晶ポリマー)などが挙げられる。
【0044】
これらの絶縁体はオリゴマの抽出量が殆どみられず、従来モータに使用しているPETフィルムと比較してもオリゴマの抽出量は大幅に低減されている。PPSについてはリニアタイプと架橋タイプが存在するが、架橋タイプではオリゴマの抽出が多いためヒートポンプ絶縁体としてはリニアタイプの方が好ましい。また、強度保持のためにガラス繊維を10〜40%添加した場合でも問題ない。
【0045】
PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)の一般グレードではオリゴマの抽出が高く、摺動部摩耗やキャピラリ閉塞による冷却不良をおこす懸念があるため、末端の活性基(−OH,−COOH)を封鎖した低オリゴマグレードの仕様は必要である。
【0046】
また、オリゴマが析出するということは分子構造の結合の一部が切れて低分子化していることを意味しており、樹脂材料の強度低下に繋がり、万一部品が破損した場合には破損した断片が摺動部の損傷を引き起す恐れがある。
【実施例3】
【0047】
【実施例4】
【0048】
表4に樹脂材料の耐油/冷媒性評価として行ったシールドチューブ試験の結果、すなわち実施例3,実施例4を示す。
【0049】
【表4】

【0050】
冷凍機油はVG68のポリオールエステル油を用いた。シールドチューブ試験条件としては、内径10φのガラス管に、供試品として長さ50mm,幅4mm,厚み3mmの試験片に加工した樹脂材料を入れ、冷凍機油:5g,冷媒:0.5gを注入後密封し130℃で最大40日加熱後、油の色,酸価,供試品の外観,強度などを測定した。油中の水分は100ppmとした。試験片材質としてはリニア型ポリマータイプのPPS(ポリフェニレンサルファイド),LCP(液晶ポリマー),耐加水分解タイプのPBT(ポリブチレンテレフタレート)を用いた。
【0051】
試験後の冷凍機油の酸価測定はJIS K2501「石油製品及び潤滑油―中和価試験方法」に従った。色相についてはJIS K2580「石油製品色試験方法」に従った。
【0052】
評価の結果、色相,酸価等については冷凍機油の劣化は認められなかったが、PBTについては白色の沈殿物が確認された。この成分はオリゴマであり、オリゴマが析出することは樹脂の分子構造が一部切れて低分子化しているといえることから、強度的にも低下する傾向にあるといえる。試験片の曲げ強度を測定した所、PPS及びLCPは強度変化が起こらなかったが、PBTについては15%程強度の低下が見られた。
【0053】
この結果より、耐油冷媒性に優れた樹脂材料としてはPPS,LCPが適していることを確認した。
【符号の説明】
【0054】
1 ケース
2 圧縮機部
3 電動機
4 旋回スクロール
5 固定スクロール
6 フレーム
7 クランク軸
8 オルダムリング
9 吸入パイプ
10 回転子
11 固定子
11a インシュレータ
11b エナメル線
12 偏心部
13 軸穴
14 冷凍機油
15 圧縮機
16 凝縮機
17 膨張機構
18 蒸発機
19 四方弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍機油を貯溜する密閉容器内に、回転子と固定子とからなるモータと、前記回転子に嵌着された回転軸と、この回転軸を介して前記モータに連結された圧縮機部とを収納して、冷媒を圧縮する冷媒圧縮機において、
前記モータは、前記固定子の両端に樹脂製絶縁体を介してコイルを巻きつける構造であり、
前記冷媒が、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン単独、若しくは、前記冷媒とジフルオロメタンとの混合からなり、
前記冷凍機油としてポリオールエステル油を用いる
ことを特徴とする冷媒圧縮機。
【請求項2】
請求項1において、
前記ポリオールエステル油が40℃時の粘度として40〜100mm2/sの範囲であることを特徴とする冷媒圧縮機。
【請求項3】
請求項1において、
前記ポリオールエステル油が式(1),(2)又は(3)であることを特徴とする冷媒圧縮機。
(R1−CH2)2−C−(CH2−O−CO−R2)2 …(1)
(式(1)中、R1は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R2は、それぞれ独立して炭素数5〜12のアルキル基を表す)
(R1−CH2)−C−(CH2−O−CO−R2)3 …(2)
(式(2)中、R1およびR2は、前記と同義である)
C−(CH2−O−CO−R2)4 …(3)
(式(3)中、R2は、前記と同義である)
【請求項4】
請求項1において、
前記樹脂製絶縁体として、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、または、LCP(液晶ポリマー)の素材を使用することを特徴とする圧縮機。
【請求項5】
請求項1において、
前記ポリオールエステル油中に、酸捕捉剤,酸化防止剤のうち少なくとも一種が添加されていることを特徴とする冷媒圧縮機。
【請求項6】
少なくとも、圧縮機,凝縮器,膨張機構及び蒸発器とこれらを順次接続する冷媒配管により構成された冷凍サイクル装置において、請求項1の冷媒圧縮機を搭載した冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−94039(P2011−94039A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249642(P2009−249642)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(399048917)日立アプライアンス株式会社 (3,043)
【Fターム(参考)】