説明

冷延鋼板およびその製造方法

【課題】Ti,Nbの添加を必須とせずに強度と加工性に優れた冷延鋼板を製造する。
【解決手段】質量%で、C:0.06〜0.25%、Si:2.0%以下、Mn:1.5〜3.5%およびAl:2.0%以下を含有し、Si+Alの合計量が0.8〜3.0%である化学組成と、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、体積%でフェライト60%以上、残留オーステナイト3%以上を含有し、残部がベイナイトと10%以下のマルテンサイトとからなり、前記フェライトの平均粒径Dα(μm)が3.0μm以下、前記残留オーステナイトの平均粒径Dγ(μm)が1.0μm以下で、かつ下記式(2)および(3)を満足し、前記残留オーステナイトに占めるアスペクト比2以下の残留オーステナイト粒の体積割合が60%以上である鋼組織を有する冷延鋼板:
1.5≦Dα/Dγ≦12 ・・・ (2)
3≦Dα/Dγ×(Dα+Dγ)≦30 ・・・ (3)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や産業機器の構造部材として好適な、高強度でありながら加工性に優れた、微細な組織を有する冷延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車体の軽量化および衝突時の安全性向上を目的として、高張力鋼板の自動車部品への適用が進められている。自動車部品は、プレス加工等の成形加工によって所定の形状に加工されることが多い。したがって、複雑な形状の自動車部品への成形加工を可能にし、成形加工後の自動車部品について高い寸法精度を確保するには、単に高い強度を有するというだけでは足りず、優れた加工性を具備することが要求される。しかし、強度と加工性とは一般にトレードオフの関係にあり、強度を高めると延性等の加工性が低下する。このため、高い強度と優れた加工性とを両立させることは一般に困難である。
【0003】
このような中で、高い強度を有するとともに優れた延性を有する鋼板として、いわゆる「残留オーステナイト」、すなわち、未変態のまま残留したオーステナイトの変態誘起塑性(以下、「TRIP」ともいう)を利用した鋼板が知られている。
【0004】
例えば、特開平4−333524号公報(特許文献1)には、重量%でC:0.05〜0.12%、Si:0.5〜3.00%、Mn:0.5〜2.50%を含み、残部Fe及び不可避的な不純物からなる鋼材を、冷延後Ac〜Ae変態温度の範囲に加熱し、その後1〜10℃/secの冷却速度で550〜700℃の範囲まで冷却し、引き続いて10〜200℃/secの冷却速度で200〜450℃まで冷却した後、300〜450℃の温度範囲で15秒〜20分保持し、室温まで冷却することにより、フェライトとベイナイトを主相とし、更に3〜10%の体積分率の残留オーステナイトを含む高強度鋼板の製造方法が開示されている。
【0005】
一方、鋼の強化には、固溶強化、析出強化、変態強化および細粒化強化(結晶粒の微細化による強化)などが知られている。このうち、結晶粒の微細化は、添加元素に頼ることなく高強度化を可能にすることから、リサイクル性やコストの観点から注目されている強化手法である。しかし、一般に、フェライトの結晶粒径を微細化すると、粒界強化によって強度が上昇する一方で、加工硬化が生じ難くなるため、塑性不安定性が発現し、その結果、加工性が劣化するという問題点がある。
【0006】
本発明者らは、結晶粒の微細化による強化に残留オーステナイトのTRIP現象を組み合わせることで、高い強度と優れた延性とを両立させた「強度−延性バランス」に優れた鋼が製造できることを見出し、その組織形態と製造方法を特開2006−348353号公報(特許文献2)および特開2007−23339号公報(特許文献3)において提案した。しかし、これらの発明は熱延鋼板およびその製造方法に関するものであり、冷延鋼板において結晶粒の微細化と残留オーステナイトのTRIP現象とを組み合わせる方法については解明できていなかった。
【0007】
冷延鋼板において結晶粒の微細化と残留オーステナイトのTRIP現象を組み合わせる方法については、例えば特開2004−204341号公報(特許文献4)に、質量%で、C:0.03〜0.16%、Si:0.2〜2.0%、Mn:1.0〜3.0%および/またはNi:0.5〜3.0%、Ti:0.2%以下および/またはNb:0.2%以下、Al:0.01〜0.1%、P:0.1%以下、S:0.02%以下およびN:0.005%以下で、かつC、Si、Mn、Ni、TiおよびNbが所定の式をそれぞれ満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物という組成を有する鋼素材を、1200℃以上に加熱したのち、熱間圧延し、次いで冷間圧延後、所定の式で求められる温度A℃以上、(A+30)℃以下で再結晶焼鈍を施し、酸洗後、所定の式で求められるA℃以上、(A+70)℃以下の温度範囲で5〜30秒の熱処理を施し、引き続き溶融亜鉛めっき処理、あるいはさらに合金化処理を施す溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法が開示されている。そして、上記方法により、フェライトの平均結晶粒径が3.5μm以下でかつ5vol%以上の残留オーステナイトを有し、強度−延性バランスに優れた冷延鋼板が得られるとされている。
【0008】
冷延鋼板において結晶粒の微細化と残留オーステナイトのTRIP現象とを組み合わせる他の方法として、特開2006−83403号公報(特許文献5)には、C:0.05〜0.3%、Si:0.01〜2.0%、Mn:1〜3%、P:0.001〜0.05%、S:0.0001〜0.01%、Al:0.10%超〜2.0%、N:0.001〜0.01%を含有し、かつSi/Al=0.01〜10を満足し、残部がFe及び不可避不純物からなる組成を有する冷延鋼板を、雰囲気ガスの露点:−50℃〜0℃、雰囲気ガスの水素濃度:1.0〜100%の条件下で、焼鈍温度:700〜900℃、保持時間:10〜1000秒として加熱後、冷却速度:5〜150℃/秒、冷却停止温度:300〜500℃として冷却を行い、次いで熱処理温度:300〜500℃、熱処理時間:100〜1400秒として熱処理を行うという方法により、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相を体積分率で40〜90%、残留オーステナイト相を体積分率で1.0〜20%含み、残部が低温変態相である鋼組織を有し、かつ鋼板表面における最高Si濃度/平均Si濃度の比が1.1〜4.0である高強度冷延鋼板とその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平4−333524号公報
【特許文献2】特開2006−348353号公報
【特許文献3】特開2007−23339号公報
【特許文献4】特開2004−204341号公報
【特許文献5】特開2006−83403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献4および5に開示されている、結晶粒の微細化と残留オーステナイトのTRIP現象とを組み合わせた従来の冷延鋼板には次に述べる問題が存在する。
特許文献4に開示された冷延鋼板の製造方法では、微細フェライト組織を得るために、フェライト再結晶温度をA温度と等価にして焼鈍時のオーステナイト粒を微細にするものであり、そのためにTi、Nbを多量添加し(実施例ではTi+Nb≧0.04%)、それらの微細炭化物によるピン止め効果により再結晶を抑制し、さらにA℃以上(A+30)℃以下という非常に狭い温度範囲での焼鈍を必須としている。それゆえ、Ti、Nb炭化物の不均一分布による鋼板組織のばらつきや、製造時の焼鈍温度変動による機械特性の著しい変動が危惧され、材質安定性の面で問題がある。また、焼鈍を二工程で行うために生産性およびコストの両面で問題がある。
【0011】
特許文献5に開示された冷延鋼板の製造方法では、実施例において最小で1.7μmのフェライト平均粒径が達成されている。しかし、その細粒化機構は解明されておらず、細粒組織を実現するための条件が規定されていない。12例の発明例のうち、半数の6例ではフェライト平均粒径は3.0μmを超えており、フェライト平均粒径が3.0μm以下という細粒組織を確実に得ることはできない。
【0012】
本発明の目的は、自動車や産業機器の構造部材として好適な、高強度でありながら加工性にも優れた微細な結晶粒を有する冷延鋼板とその製造方法に提供することである。より具体的な本発明の目的は、特許文献4に提案されているようなTi,Nbの添加を必須とせずに、フェライト平均粒径3.0μm以下の微細組織をもち、加工性にも優れた冷延鋼板とその安定した製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋼組成および母材となる熱延鋼板の組織と冷間圧延、焼鈍後の組織および得られる機械的特性の関係について鋭意研究を重ねた結果、以下の新たな知見を得た。
(A)熱間圧延直後の急速冷却によりフェライト組織を微細粒化した熱延鋼板を母材として、冷延および焼鈍した場合、フェライト核生成サイトが飛躍的に増大するため、微細フェライト組織を得ることができる。また、急速冷却により得られる熱延鋼板中の微細フェライト組織は、等軸かつフェライト粒内の転位密度が低いため、冷間圧延により導入・蓄積される転位の分布が均一となり、焼鈍後の組織が微細かつ均一となる。一方、低温強加工や連続再結晶によりフェライトを微細化した熱延鋼板を母材とした場合、フェライト中の転位は、密度が高く、分布が不均一となるため、冷間圧延および焼鈍を施した場合に、高転位密度部でフェライトの著しい粗大化が生じてしまい、不均一な混粒組織となる。
【0014】
(B)上記(A)の知見に加えて、Mn添加量を1.5%以上とし、冷延後にオーステナイト相の体積割合が30%以上、80%以下となるフェライト+オーステナイトの二相域で焼鈍することにより、再結晶または変態により生成した微細フェライトの粒成長が抑止される。このため、その後に特別な熱処理を要することなくフェライトの平均粒径が3.0μm以下の微細組織が得られる。この理由については必ずしも明確ではないが、二相域焼鈍時にフェライト粒やオーステナイト粒の界面にMnが偏析または濃化することで粒界の易動度が低下し、粒成長が抑止されるものと考えられる。
【0015】
(C)第二相として残留オーステナイトを含有させた鋼板では、均一延性が向上する一方で、TRIP現象で生じる硬質な加工誘起マルテンサイトが破壊起点となり、鋼板の局部延性は低下する傾向にある。高強度で高延性を実現するには、フェライトと残留オーステナイトの粒径を微細化するのに加えて、焼鈍条件を適正化してフェライト粒径と残留オーステナイト粒径の比を適正化することが必要である。
【0016】
このような新たな知見に基づいて完成した本発明は、下記の化学組成および鋼組織を有する冷延鋼板である:
化学組成:質量%で、C:0.06%以上、0.25%以下、Si:2.0%以下、Mn:1.5%以上、3.5%以下およびAl:2.0%以下を含有するとともに、下記式(1)を満足し、残部がFeおよび不純物からなる;
鋼組織:鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、体積%でフェライト:60%以上および残留オーステナイト:3%以上を含有し、残部がベイナイトと10%以下のマルテンサイトとからなるとともに、前記フェライトの平均粒径Dα(μm)が3.0μm以下、前記残留オーステナイトの平均粒径Dγ(μm)が1.0μm以下であって、かつ下記式(2)および(3)を満足し、さらに前記残留オーステナイトに占めるアスペクト比が2以下の残留オーステナイト粒の体積割合が60%以上である;
0.8≦Si+Al≦3.0 ・・・ (1)
1.5≦Dα/Dγ≦12 ・・・ (2)
3≦Dα/Dγ×(Dα+Dγ)≦30 ・・・ (3)
式(1)中のSiおよびAlは、化学組成における各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0017】
前記化学組成は、前記Feの一部に代えて、TiおよびNbからなる群から選択される1種または2種を、下記式(4)を満足する範囲で含有していてもよい:
Ti+Nb≦0.02 ・・・ (4)
上記式中のTiおよびNbは、化学組成における各元素の含有量(質量%)を意味する。
【0018】
前記化学組成は、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下およびZr:0.10%以下からなる群から選択される1種または2種を含有していてもよい。
本発明において、「フェライトの平均粒径Dα」は、鋼板を圧延方向に切断した板厚断面における鋼板表面から板厚の1/4深さ位置を観察し、切片法により求めたフェライト粒径を1.128倍した値である。
【0019】
「残留オーステナイト平均粒径Dγ」も、上記鋼板断面の上記位置を観察して求めたものであるが、その測定は電子線後方散乱回折法(EBSD)により評価し、残留オーステナイトには、アスペクト比の大きなフィルム状の結晶粒とアスペクト比の小さな粒状の結晶粒とが存在することから、粒径は円相当径ではなく、短径(例えばフィルム状結晶粒であれば、フィルム厚み)とする。「アスペクト比が2以下の残留オーステナイト粒」とは、フィルム状ではなく、粒状の残留オーステナイト粒を意味する。
【0020】
本発明に係る上記冷延鋼板は、下記工程(A)〜(C)を有することを特徴とする方法により製造される:
(A)上記化学組成を有するスラブを熱間圧延して(Ar点+30℃)以上の温度で熱間圧延を完了した後、熱間圧延完了から750℃までの冷却時間を0.4秒間以内かつ冷却停止温度を600℃以上750℃以下の温度域とする水冷却を施し、前記温度域に1秒間以上保持した後、前記水冷却の停止後30秒間以内に650℃以下の温度域で巻き取ることによって熱延鋼板を得る熱間圧延工程;
(B)前記熱延鋼板を40%以上90%以下の圧下率で冷間圧延することによって冷延鋼板を得る冷間圧延工程;および
(C)前記冷延鋼板を700℃以上950℃以下かつオーステナイト相の体積割合が30%以上80%以下となる温度域に加熱し、前記温度域に10秒間以上600秒間以下保持した後、650℃から500℃までの平均冷却速度を5℃/秒以上200℃/秒以下として500℃まで冷却し、300℃以上500℃以下の温度域に30秒間以上保持する、連続焼鈍工程。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、自動車や産業機器の構造部材として好適な、微細な組織を有し、高強度でありながら、強度−延性バランス、従って加工性にも優れた(具体的には、引張り強度(TS)が700MPa以上で、強度と全伸びの積(TS×El)が20000MPa・%以上)の高強度冷延鋼板を、TiやNbの添加を必須とせずに提供することが可能となる。また、その製造条件が規定されることにより、このような冷延鋼板を確実に工業的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る強度−延性バランスに優れた高強度冷延鋼板とその母材となる熱延鋼板およびそれらの製造方法について詳しく説明する。以下の説明において、各化学成分の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0023】
(A)鋼の化学組成
C:0.06%以上、0.25%以下
Cは、オーステナイト中に濃化してオーステナイトを安定化する作用を有するので、オーステナイトを室温まで残留させるために必須の元素である。C含有量が0.06%未満では、残留オーステナイトが十分な量に達せず、所望の機械的特性が得られない場合がある。したがって、C含有量は0.06%以上とする。好ましくは0.10%以上である。一方、C含有量が0.25%を超えると、パーライト生成が促進されて、目的とする残留オーステナイトを確保することが困難になる場合がある。また、鋼板の溶接性が著しく劣化する。したがって、C含有量は0.25%以下とする。好ましくは0.20%以下である。
【0024】
Si:2.0%以下
Siは、フェライトの生成を促進するとともにフェライトを固溶強化し、また、オーステナイトからのセメンタイトの析出を遅延させることにより、残留オーステナイトの生成を促進する重要な元素である。しかし、Siの過剰な添加は延性や溶接性の劣化を招くとともに、A点の著しい上昇を招いて、安定した熱間圧延を困難にする場合がある。したがって、Si含有量は2.0%以下とする。Si含有量は好ましくは0.5%以上、1.5%以下である。しかし、後述するAlとの合計含有量が確保されれば、Si含有量はより低くてもよい。
【0025】
Mn:1.5%以上、3.5%以下
Mnは、本発明において重要な元素であり、冷間圧延後の二相域焼鈍時においてフェライトおよびオーステナイトの粒成長を抑制する作用を有し、これにより焼鈍後の鋼組織を微細化する。Mn含有量が1.5%未満では上記作用による効果が十分に得られない場合がある。したがって、Mn含有量は1.5%以上とする。好ましくは1.8%以上、より好ましくは1.9%以上である。一方、Mn含有量が3.5%超では、過度にオーステナイトが安定化されてしまい、焼鈍後においてフェライトの体積割合を60%以上とすることが困難になる場合がある。したがって、Mnの含有量は3.5%以下とする。好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.6%以下である。
【0026】
Al:2.0%以下
Alは、溶鋼の脱酸剤であるとともに、Siと同様に、フェライトの生成を促進し、また、オーステナイトからのセメンタイトの析出を遅延させることにより、残留オーステナイトの生成を促進する重要な元素である。しかし、過剰な添加はSiと同様にA点の著しい上昇を招いて安定した熱間圧延を困難にする場合がある。したがって、Al含有量は2.0%以下とする。Al含有量は好ましくは0.2%以上、1.5%以下である。しかし、次に述べるSiとの合計含有量が確保されれば、Al含有量はより低くてもよい。
【0027】
SiおよびAlの合計含有量:0.8%以上、3.0%以下
残留オーステナイトの生成を促進するため、共通してその作用を有するSi+Alの合計含有量は0.8%以上とする。Si+Alの合計含有量が0.8%未満では残留オーステナイトの安定性や体積率が不十分となり、所望の機械的特性が得られない場合がある。この合計含有量は好ましくは1.0%以上であり、より好ましくは1.2%以上、最も好ましくは1.5%以上である。一方、Si+Alの合計含有量が3.0%を超えると、鋼板の溶接性や表面性状を著しく劣化させる場合がある。したがって、Si+Alの合計含有量は3.0%以下とする。この合計含有量は好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下、最も好ましくは1.9%以下である。
【0028】
本発明に係る冷延鋼板は、以上に述べた元素のみを含有し、残部がFeおよび不純物である化学組成であっても、本発明で目的とする強度−延性バランスに優れた高強度で加工性も良好な冷延鋼板となる。しかし、さらに機械特性を改善するために、以下に述べる元素をさらに含有させることができる。
【0029】
TiおよびNbの合計含有量:0.02%以下
TiおよびNbは、いずれも熱間圧延工程または冷間圧延後の連続焼鈍工程において微細炭化物を生成し、そのピン止め効果によって鋼組織を微細化する作用を有する。したがって、TiおよびNbの1種または2種を含有させてもよい。しかし、TiおよびNbはフェライトの再結晶を抑制する作用を有するため、それらの合計含有量が0.02%を超えると焼鈍後の鋼組織に冷間圧延ままの加工組織が残存しやすくなり、鋼板の加工性を低下させる場合がある。したがってTiおよびNbの合計含有量は0.02%以下とする。TiおよびNbの上記効果を確実に発揮させるには、一方または両方を合計で0.002%以上含有させることが好ましい。
【0030】
Ca:0.01%以下、Zr:0.10%以下
CaおよびZrは、いずれも介在物の形状を調整して冷間加工性を高める作用を有する。したがって、CaおよびZrの1種または2種を含有させてもよい。一方、Ca含有量が0.01%超、またはZr含有量が0.10%超であると、鋼中の介在物が過剰となり、却って加工性が低下する場合がある。したがって、これらの元素を含有させる場合、Ca含有量は0.01%以下、好ましくは0.005%以下とし、Zr含有量は0.10%以下、好ましくは0.05%以下とする。上記作用による効果をより確実に得るには、Ca含有量を好ましくは0.0002%以上、より好ましくは0.0005%以上とするか、Zr含有量を好ましくは0.002%以上、より好ましくは0.01%以上とする。
【0031】
本発明の冷延鋼板は、上記の成分のほか、残部はFeと不純物からなる。不純物中のS、P、Nは下記のように規制するのが望ましい。
S:Sは硫化物系介在物を形成して加工性を低下させる不純物元素であるため、その含有量を0.05%以下に抑えるのが望ましい。一段と優れた加工性を確保しようとの観点からは、S含有量を0.008%以下とすることがより好ましく、0.003%以下とすることがさらに一層好ましい。
【0032】
P:Pは靱性や延性に悪影響を及ぼす不純物元素であるため、その含有量を0.05%以下に抑えるのが望ましい。フェライトをより一層均一に分散させて一段と優れた加工性を確保するには、Pの含有量を0.02%以下とすることがより好ましい。
【0033】
N:Nは加工性を低下させる不純物元素であるため、その含有量を0.01%以下に抑えることが望ましい。より好ましくは、0.006%以下である。
(B)冷延鋼板の組織
本発明に係る冷延鋼板は、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織にも特徴を有する。この位置は鋼板表面と鋼板の板厚中心との中間点であるので、この位置での鋼組織は鋼板の代表的な組織を示している。
【0034】
本発明に係る冷延鋼板の鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織は、体積%で、フェライト:60%以上および残留オーステナイト:3%以上を含有し、残部がベイナイトと10%以下のマルテンサイトとからなるとともに、前記フェライトの平均粒径Dα(μm)が3.0μm以下、前記残留オーステナイトの平均粒径Dγ(μm)が1.0μm以下であって、かつ下記式(2)および(3)を満足し、さらに、前記残留オーステナイトに占めるアスペクト比が2以下の残留オーステナイト粒の体積割合が60%以上である。
【0035】
1.5≦Dα/Dγ≦12 ・・・ (2)
3≦Dα/Dγ×(Dα+Dγ)≦30 ・・・ (3)
フェライトは炭素固溶量が小さいため、フェライトの割合を高めることによって、オーステナイト中の炭素量を増し、鋼組織に占める残留オーステナイトの体積割合を高めることができる。フェライトの体積割合が60%未満では、オーステナイト中への炭素濃化が不十分となり、十分な残留オーステナイト体積率を確保できない場合がある。したがって、フェライトの体積割合は60%以上とする。好ましくは70%以上である。フェライトの体積割合が高いほど残留オーステナイトの体積率を効率的に高めることができるので、フェライトの体積割合の上限は特に規定する必要はない。後述する残留オーステナイト以外の組織がすべてフェライトであることが理想的である。
【0036】
残留オーステナイトの体積割合が3%未満では、十分な延性が得られない。したがって、残留オーステナイトの体積割合は3%以上とする。好ましくは5%以上である。残留オーステナイト体積割合が高いほど延性が向上するので、残留オーステナイト体積割合の上限は特に規定する必要はないが、本発明の化学組成により得られる残留オーステナイト体積割合は30%以下である。
【0037】
フェライトの平均粒径Dαが3.0μm超では、結晶粒の微細化による強化を十分に享受することができない場合がある。したがって、フェライトの平均粒径Dαは3.0μm以下とする。好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは2.0μm以下である。フェライトの平均粒径Dαが小さいほど、結晶粒の微細化による強化能が高まるので好ましい。したがって、フェライトの平均粒径Dαの下限は特に規定する必要はない。
【0038】
残留オーステナイトの平均粒径Dγが1.0μm超では、TRIP現象により生じる硬質な加工誘起マルテンサイトが破壊起点となりやすく、鋼板の局部延性が劣化する場合がある。したがって、残留オーステナイトの平均粒径Dγは1.0μm以下とする。好ましくは0.8μm以下である。残留オーステナイトの平均粒径Dγが小さいほど、TRIP現象により生じる硬質な加工誘起マルテンサイトが破壊起点となるのが抑制されるので好ましい。したがって、残留オーステナイトの平均粒径Dγの下限は特に規定する必要はない。
【0039】
全オーステナイトに占めるアスペクト比が2以下の残留オーステナイト粒(すなわち、前述した粒状の残留オーステナイト粒)の体積割合は60%以上とする。この体積割合が60%未満では、フィルム状の残留オーステナイトが多くなり、鋼板の機械的特性の異方性が大きくなるとともに、局部延性が劣化する。全オーステナイトに占めるアスペクト比が2以下の残留オーステナイト粒の体積割合が高いほど、鋼板の機械的特性の異方性は低減されるとともに、局部延性が向上する。したがって、この体積割合の上限は特に規定しない。
【0040】
上記式(2)および(3)は、フェライトの平均粒径Dαと残留オーステナイトの平均粒径Dαとの関係を規定するものである。Dα/Dγが1.5未満、またはDα/Dγ×(Dα+Dγ)が3未満では、フェライトの粒径に対する残留オーステナイトの粒径が過大であるため、TRIP現象により生じる硬質な加工誘起マルテンサイトが破壊起点となりやすく、鋼板の局部延性が著しく劣化する場合がある。したがって、Dα/Dγは1.5以上とし、かつDα/Dγ×(Dα+Dγ)は3以上とする。Dα/Dγは1.8以上であることが好ましく、Dα/Dγ×(Dα+Dγ)は4以上であることが好ましい。一方、Dα/Dγが12超、または、Dα/Dγ×(Dα+Dγ)が30超では、フェライトの粒径に対する残留オーステナイトの粒径が小さすぎるため、十分なTRIP現象が生じず、延性が低下する。したがって、Dα/Dγは12以下とし、さらに、Dα/Dγ×(Dα+Dγ)は30以下とする。Dα/Dγは8以下であることが好ましく、Dα/Dγ×(Dα+Dγ)は15以下であることが好ましい。
【0041】
フェライトおよび残留オーステナイト以外の残部組織は、ベイナイトと10体積%以下のマルテンサイトとからなる。残留オーステナイトの体積割合を確保するには、連続焼鈍工程においてオーステナイトへの炭素濃化が必要である。フェライト変態を進行させてフェライトからオーステナイトへの炭素を濃化させることが理想的であるが、実際の連続焼鈍設備において斯かる変態のみで常温で安定となる程度のオーステナイトへの炭素濃化を実現することは困難であり、フェライト変態を進行させた後にさらにベイナイト変態を進行させて、ベイナイトからオーステナイトへ炭素を濃化させることが行われる。このため、フェライトおよび残留オーステナイト以外の残部組織は基本的にベイナイトとなる。しかし、実操業上の制約等により、オーステナイトの一部がマルテンサイト変態してしまい、不可避的にマルテンサイトが混入することもある。この場合、マルテンサイトの体積率が10%以下であれば実害はない。
【0042】
(C)冷延鋼板の製造方法
(熱間圧延工程)
上記化学組成を有するスラブを熱間圧延して(Ar点+30℃)以上の温度で熱間圧延を完了した後、熱間圧延完了から750℃までの冷却時間を0.4秒間以内、かつ冷却停止温度を750℃以下、600℃以上の温度域とする水冷却を施し、前記温度域に1秒間以上保持した後、前記水冷却の停止後30秒間以内に650℃以下の温度域で巻き取ることによって熱延鋼板とする。
【0043】
冷間圧延母材となる熱延鋼板の組織制御は本発明において重要な因子である。
熱間圧延の完了温度が(Ar点+30℃)未満では、鋼板と圧延ロールとの接触によるロール抜熱によって熱間圧延中にフェライトが一部生成し、熱延鋼板に加工フェライト組織が残存する場合がある。このような熱延鋼板に冷間圧延および連続焼鈍を施すと、上記加工フェライト部で異常粒成長が生じてしまい、目的とする微細な鋼組織が得られない場合がある。したがって、熱間圧延の完了温度は(Ar点+30℃)以上とする。熱間圧延の完了温度の上限は特に規定する必要はないが、ロール抜熱により通常は1100℃以下となる。
【0044】
熱間圧延完了後に水冷却を施すが、この際の熱間圧延完了から750℃までの冷却時間が0.4秒間超では、オーステナイトからフェライトへの変態およびフェライトの粒成長が高温域で進行してしまい、熱延鋼板の鋼組織が粗大になる。したがって、熱間圧延完了から750℃までの冷却時間は0.4秒間以下とし、冷却停止温度は750℃以下とする。また、冷却停止温度が600℃未満であったり、水冷却停止後の600℃以上、750℃以下の温度域における保持時間が1秒間未満であったりすると、熱延鋼板においてベイナイトやマルテンサイト等の硬質な低温変態相が生成してしまい、後工程である冷間圧延工程において圧延負荷が過大となって、操業が困難になる場合がある。したがって、熱間圧延完了後の水冷却の冷却停止温度は600℃以上とし、水冷却停止後の600℃以上、750℃以下の温度域において1秒間以上保持する。ここで、水冷却停止後の保持には放冷および空冷が含まれる。
【0045】
巻取温度が650℃超であったり、上記水冷却停止後から巻取りまでの時間が30秒間を超えたりすると、フェライトの粒成長が過度に進行してしまい、熱延鋼板の鋼組織が粗大になる。したがって、上記水冷却の停止後30秒間以内に650℃以下の温度域で巻取る。なお、600℃以上、750℃以下の温度域において1秒間以上保持した後の冷却方法は、空冷、水冷およびその両者の組み合わせたもののいずれであってもかまわない。
【0046】
(冷間圧延工程)
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板を40%以上、90%以下の圧下率で冷間圧延することによって冷延鋼板を得る。
【0047】
冷間圧延における圧下率が40%未満では、鋼板に導入される歪量が不十分となり、焼鈍後の鋼組織の微細化が不十分となったり、不均一な混粒組織となったりする場合がある。したがって、圧下率は40%以上とする。一方、圧下率が90%超では、冷間圧延機の負荷が過大となり、操業が困難となる場合がある。したがって圧下率は90%以下とする。なお、冷間圧延に供する熱延鋼板には、常法にしたがって酸洗やショットブラスト等による脱スケール処理が通常施される。
【0048】
(連続焼鈍工程)
上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板を700℃以上、950℃以下かつオーステナイト相の体積割合が30%以上、80%以下となる温度域に加熱し、前記温度域に10秒間以上、600秒間以下保持した後、650℃から500℃までの平均冷却速度を5℃/秒以上、200℃/秒以下として500℃まで冷却し、300℃以上、500℃以下の温度域に30秒間以上保持する。
【0049】
冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に連続焼鈍を施すことにより目的とする鋼組織を実現するために、まず、700℃以上、950℃以下かつオーステナイト相の体積割合が30%以上、80%以下となる温度域に加熱し、前記温度域に10秒間以上、600秒間以下保持することにより焼鈍する。
【0050】
焼鈍温度が700℃未満であったり、オーステナイト相の体積割合が30%未満となる温度であったりすると、冷間圧延による加工組織またはその影響が残存し、鋼組織がバンド状組織を呈し、加工性が著しく劣化する場合がある。一方、焼鈍温度が950℃超であったり、オーステナイト相の体積割合が80%超となる温度であったりすると、フェライトの粒成長が急速に進行してしまい、目的とする微細な鋼組織を得ることができない場合がある。
【0051】
また、上記温度域における保持時間が10秒間未満では、置換型元素であるMn等の偏析が残存し、連続焼鈍後の鋼組織が不均一となり、加工性が劣化する場合がある。一方、上記温度域における保持時間が600秒間超では、フェライトの粒成長が過度に進行してしまい、目的とする微細な鋼組織を得ることができない場合がある。
【0052】
次に、650℃から500℃までの平均冷却速度を5℃/秒以上、200℃/秒以下として500℃まで冷却する。
上記平均冷却速度が5℃/秒未満では、フェライトの粒成長が進行して鋼組織が粗大化するだけでなく、パーライトやセメンタイトが生成してしまい、所望の残留オーステナイト体積割合を確保できない場合がある。一方、上記平均冷却速度が200℃/秒超では、冷却ムラによる不均一な組織を生じ、材質安定性が低下する場合がある。良好な材質安定性が要求されるときは、上記平均冷却速度を80℃/秒以下とすることが好ましい。
【0053】
最後に、300℃以上、500℃以下の温度域に30秒間以上保持する。
上記温度域における保持時間が30秒間未満では、オーステナイトへの炭素濃化が不十分となり、マルテンサイトの生成が促進されることによって、目的とする残留オーステナイトの体積割合を確保できない場合がある。
【0054】
こうして製造された本発明に係る冷延鋼板は、強度(TS)が700MPa以上で、強度−延性バランスの指標である強度と全伸びの積(TS×EL)が20000MPa・%以上といずれも高く、高強度でありながら、加工性にも優れている。
【0055】
本発明に係る冷延鋼板の表面には、耐食性の向上等を目的としてめっき層を設けて、表面処理鋼板としてもよい。めっき層は電気めっき層であってもよく溶融めっき層であってもよい。電気めっき層としては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。また、めっき後に適当な化成処理(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥)を施して、耐食性をさらに高めることも可能である。
【実施例】
【0056】
表1に示す化学組成を有する鋼を、150kgの高周波真空溶解炉にて溶解し、各鋼塊を通常の方法で熱間鍛造して、幅が200mm、厚さが35mmの鋼片とした。次いで、得られた各鋼片を厚さ30mmまで研削加工した後、表2に示す条件にて加熱炉にて所望の温度まで加熱し、5〜8パスの熱間圧延を行って、厚さが3.0mmの鋼板に仕上げた。熱間圧延を完了した後は、表2に示す条件で冷却及び巻き取り処理を行った。得られた熱延鋼板を酸洗後、表3に示す圧下率で冷間圧延を施して冷延鋼板とした。その後、冷延鋼板を表3に示す条件で、加熱、焼鈍および冷却し、圧延率0.2%のスキンパスを行った。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
このようにして得られた各冷延鋼板について、鋼組織、機械的特性を調査した。
冷延鋼板の鋼組織については、相および組織の特定、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置におけるフェライトの体積割合(Vα)および平均粒径(Dα)、残留オーステナイトの体積割合(Vγ)および平均粒径(Dγ)、全残留オーステナイトに占めるアスペクト比2以下である残留オーステナイトの体積割合(VγAR≦2)、ベイナイトおよびマルテンサイトの体積割合を求めた。
【0061】
フェライトの体積割合(Vα)は、圧延方向に切断した板厚方向断面を走査型電子顕微鏡により観察して求めた。フェライトの平均粒径(Dα)は、板厚方向断面の鋼板表面から板厚の1/4深さ位置において撮影した走査型電子顕微鏡写真を用いて、切片法によってそれぞれの位置における平均粒切片長を測定し、これらの算術平均値を1.128倍して求めた。
【0062】
残留オーステナイトの体積割合(Vγ)はX線回折により求めた。残留オーステナイト平均粒径(Dγ)は、圧延方向に切断した板厚方向断面の鋼板表面から板厚の1/4深さ位置について電子線後方散乱回折法(EBSD)により評価することにより求めた。残留オーステナイトの粒径は短径(例えばフィルム状であればフィルム厚み)とした。
【0063】
ベイナイトおよびマルテンサイトの体積割合は、走査電子顕微鏡像の画像解析とEBSD解析で得られるイメージクオリティマップを用いて算出した。
引張特性は各鋼板から圧延方向にJIS Z2201(1998)に記載の5号引張試験片を採取して常温で引張試験を行い、引張強度(TS)と全伸び(El)を測定した。
【0064】
表4に、組織と機械的特性の調査結果を示す。
【0065】
【表4】

【0066】
表4から明らかなように、本発明に従った試験番号1〜4、6、7、9、10、13、14、16、17、22、25、26、34〜36の冷延鋼板は、TiやNbを含有しない化学組成であっても、フェライト平均粒径(Dα)が3.0μm以下の微細粒組織を有し、700MPa以上の高強度を有すると共に、引張強さTS(MPa)と全伸びEl(%)の積が20000MPa・%以上の優れた強度−延性バランスを有し、高強度で加工性も良好であることがわかる。
【0067】
これに対して、化学組成が本発明で定める規定から外れた場合や本発明で定める化学組成を有する場合であっても製造条件が本発明で定める規定から外れた場合では、引張強さTS(MPa)と全伸びEl(%)の積は20000MPa・%未満に留まっており、強度と加工性が両立していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.06%以上0.25%以下、Si:2.0%以下、Mn:1.5%以上3.5%以下およびAl:2.0%以下を含有するとともに、下記式(1)を満足し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成と、
鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における鋼組織が、体積%で、フェライト:60%以上および残留オーステナイト:3%以上を含有し、残部がベイナイトと10%以下のマルテンサイトとからなるとともに、前記フェライトの平均粒径Dα(μm)が3.0μm以下、前記残留オーステナイトの平均粒径Dγ(μm)が1.0μm以下であって、かつ下記式(2)および(3)を満足し、さらに前記残留オーステナイトに占めるアスペクト比が2以下の残留オーステナイト粒の体積割合が60%以上である鋼組織と、
を有することを特徴とする冷延鋼板。
0.8≦Si+Al≦3.0 ・・・ (1)
1.5≦Dα/Dγ≦12 ・・・ (2)
3≦Dα/Dγ×(Dα+Dγ)≦30 ・・・ (3)
式(1)中のSiおよびAlは、化学組成における各元素の含有量(質量%)を意味する。
【請求項2】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、TiおよびNbからなる群から選択される1種または2種を、下記式(4)を満足する範囲で含有する、請求項1に記載の冷延鋼板。
Ti+Nb≦0.02 ・・・ (4)
上記式中のTiおよびNbは、化学組成における各元素の含有量(質量%)を意味する。
【請求項3】
前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下およびZr:0.10%以下からなる群から選択される1種または2種を含有する、請求項1または2に記載の冷延鋼板。
【請求項4】
下記工程(A)〜(C)を有することを特徴とする冷延鋼板の製造方法:
(A)請求項1〜3のいずれかに記載の化学組成を有するスラブを熱間圧延して(Ar点+30℃)以上の温度で熱間圧延を完了した後、熱間圧延完了から750℃までの冷却時間を0.4秒間以内かつ冷却停止温度を600℃以上750℃以下の温度域とする水冷却を施し、前記温度域に1秒間以上保持した後、前記水冷却の停止後30秒間以内に650℃以下の温度域で巻き取ることによって熱延鋼板を得る熱間圧延工程;
(B)前記熱延鋼板を40%以上90%以下の圧下率で冷間圧延することによって冷延鋼板を得る冷間圧延工程;および
(C)前記冷延鋼板を700℃以上950℃以下かつオーステナイト相の体積割合が30%以上80%以下となる温度域に加熱し、前記温度域に10秒間以上600秒間以下保持した後、650℃から500℃までの平均冷却速度を5℃/秒以上200℃/秒以下として500℃まで冷却し、300℃以上500℃以下の温度域に30秒間以上保持する、連続焼鈍工程。

【公開番号】特開2011−214081(P2011−214081A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83607(P2010−83607)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】