説明

冷延鋼板の製造方法および製造設備

【課題】冷間圧延後の製品エッジ部の性状、およびトリミングによる押し込み疵を防止して、品質が良好な冷延鋼板を安定して製造する方法および設備を提供する。
【解決手段】酸洗前の熱延鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて、エッジ部を未分離状態までせん断を施し、次いでそれぞれのエッジ部に設置され、エッジ部のみを挟圧可能な狭幅ロールにより挟圧してエッジ部を切り離したのち、酸洗、および、直径300mm以上のワークロールを有する圧延機により冷間圧延を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷延鋼板の製造方法および製造設備に関するもので、特に冷間圧延後の製品エッジ部の性状および表面疵を防止して、品質が良好な冷延鋼板を安定して製造する方法および設備に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延により製造した熱延鋼板に対して酸洗および冷間圧延を実施して製造される冷延鋼板は、自動車や電機製品、建材などの幅広い用途に用いられる。冷間圧延後の鋼板は、その用途に応じて、めっき処理、焼鈍熱処理、レベラー矯正、プレス加工などの工程を経て最終製品となる。一般に、熱延鋼板はエッジ部に欠陥がある場合が多く、そのままあるいは酸洗して冷間圧延を実施すると板破断などの操業トラブルを引き起こしやすかった。特に、板厚の薄い鋼板の場合には、冷間圧延中にエッジ性状が悪化して板破断を引き起こし易い。そのため、冷間圧延前に鋼板のエッジ部をトリミングすることが実施されているが、トリミング後のエッジ性状がかえりを有することが多く、後続の酸洗や冷間圧延においてロールに疵をつける等のトラブルが発生していた。一方、トリミング後の熱延鋼板を酸洗し冷間圧延した鋼板においても、エッジ部が切り欠け状の性状(耳割れ、耳荒れ、エッジクラックなどとも称される)となりやすく、冷間圧延後のめっきライン、焼鈍ライン、レベラー矯正などでの通板において、板破断などの操業トラブルを引き起こしやすかった。また、板材の最終製品としてエッジ部がそのまま使用される用途では、エッジクラックなどがない良好なエッジ性状が要求されるのはいうまでもない。そのため、冷間圧延後に鋼板のエッジ部分をトリミングすることが行われているが、冷間圧延して長さが増大した鋼板の全長にわたってトリミングすることは、作業負荷が膨大であるばかりでなく、歩留り低下も招いていた。また、冷延鋼板のトリミングを行った場合、トリミング後のエッジ性状がかえりを有することが多く、プレス加工での疵発生などの原因となっていた。そのため、操業トラブルを防止しつつ冷延鋼板の製品エッジ部の性状を良好にする方法について、種々の技術が開発されてきた。
【0003】
特許文献1では、帯鋼板の処理を行うプロセスラインにおいて、円柱状の砥石またはブラシ等を回転させて押し当てることにより、トリミングにより生じた帯鋼板端部のかえりを除去することができる装置を開示している。
【0004】
特許文献2では、帯状金属板端部をトリミングした後、帯状金属板端部のかえりの部分にマッシャーロールを押し付けてかえりを除去する方法で、さらにマッシャーロールの適切な圧下力分布が得られるように、マッシャーロールを傾斜させて押し付ける方法を開示している。
【0005】
非特許文献1では、かえりを発生させないトリミング方法として、トリマー刃の調整によりエッジ部が分離しないようにトリミングをした後に、上下からロールで挟圧して未分離だったエッジ部を切り離すトリミング方法を開示している。本方法は、ロールカット式トリミング法とも称される。
【0006】
また、特許文献3では、マッシャーロールを組み合わせて、鋼板を上下から挟圧するロールカット式トリミング法を開示している。
【0007】
一方、特許文献4では、冷間圧延でのエッジ性状の悪化を防止するために、冷間圧延前の熱延鋼帯のエッジ部をトリミングした後、グラインダーやバイトによる機械加工によってトリミングによる加工硬化部分を除去する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−315108号公報
【特許文献2】特開平11−267713号公報
【特許文献3】特開昭62−282811号公報
【特許文献4】特開昭54−124857号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「かえり無しスリッティング」(第63回塑性加工シンポジウム、1978、P36−45)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既述のように、冷間圧延前および冷間圧延後の鋼板においてエッジ部の性状が良好であることは冷延鋼板の製造工程上および製品品質上、極めて重要である。
【0011】
特許文献1で開示された方法を適用した場合、トリミング後の鋼板の全長にわたって、鋼板のエッジ部に円柱状の砥石またはブラシ等を回転可能な構造で押し当てることにより、鋼板端部のかえりを除去するものである。したがって、工程が追加されることによって作業効率が著しく悪化し、製造コストの上昇を招くという問題がある。砥石やブラシ等は使用量に応じて摩耗劣化するので、その交換による鋼板製造能率の低下を招き、メンテナンス費用も製造コストを増大させてしまう。また、板厚の薄い鋼板に対して適用しようとした場合、砥石やブラシの接触を起因とした板破断を招きやすいという問題がある。
【0012】
特許文献2で開示された方法を適用した場合、トリミング後の鋼板の端部に生じたかえりの部分にマッシャーロールを押し付けてかえりを除去するものであるが、これはかえりが鋼板からはみ出した部分を単にロールで押し付けるだけなので、かえりの程度を軽くするか、あるいは、はみ出しの方向を横方向に変えるだけの作用しかなく、エッジ部の切り欠け状の性状を改善するには至らないという問題がある。
【0013】
非特許文献1で開示された従来のロールカット式トリミング方法を適用した場合、冷間圧延前あるいは冷間圧延後の鋼板におけるトリミング方法自体を改善することにより、鋼板エッジ部のかえりをなくすことは可能になる。しかし、上下からロールで挟圧して未分離だったエッジ部を切り離すために使用するロールは、図7に示すように鋼板の最大板幅よりも広い胴長を有するロールである。この広幅ロールを上下に用いると、エッジ部を切り離す際にロール表面に疵を生じることがままあるが、同じロールを用いて板幅の異なる鋼板に使用した場合に、狭幅材のエッジ部切り離しで生じたロール疵が広幅材の表面に転写して、品質欠陥を招きやすいという問題もある。また、板厚中央近傍のバリの一部が飛散して、エッジ部切り離しロールの入側鋼板表面やロール表面に付着すると、大きな圧力が負荷された上下の広幅ロールと鋼板との間にかみ込んで表面疵となりやすい問題がある。
【0014】
特許文献3に開示されるトリミングに関連して、マッシャーロールは通常はトリミング後のかえりの除去に適用される装置である。その構造から圧下力が小さい装置であり、鋼板エッジ部のみに押し当てることにより、押し当てた部分の局部的な応力が増大して、板端部に局在するかえりを押し付けて除去することはできる。しかし、特許文献3のようなマッシャーロールを上下に組み合わせて鋼板表面を上下から挟圧して、未分離であるエッジ部を切り離そうとすると、小さい圧下力が広い鋼板表面に分散して、さらに小さくなるため、エッジ部の切り離しに充分な応力を加えることができない。本発明者らの検討では、未分離部分を切り離すことができなくて、さらに強度の高い構造を有する圧下装置が必要であることがわかった。
【0015】
特許文献4で開示された方法を適用した場合、冷間圧延前の熱延鋼帯のエッジ部をトリミングした後、さらにグラインダーやバイトによる機械加工によってトリミングによる加工硬化部分を除去するという工程が必要となるために、作業能率が著しく低下するという問題がある。一般に、このような機械加工の工程での通板速度は、トリミングや酸洗や冷間圧延での通板速度に対して著しく遅いため、上記の機械加工はオンラインで行うことができず、別途の工程が必要となる。また、グラインダーやバイトなどの機械加工によってエッジ部の一部を除去した場合には、除去部分が切り屑として発生し鋼板上へ飛散して表面疵の原因となるため、表面品質の低下の問題も生じやすい。
【0016】
従来知見の調査を行った結果、鋼板エッジ部の切り欠け状の性状と合わせて、トリミングにおける表面疵を防止しつつ、その鋼板を冷間圧延して、良好な品質の冷延鋼板を安定して製造する技術は見当たらなかった。
【0017】
また、鋼板エッジ部の切り欠け状の性状にはワークロールの直径(以下、ワークロール径ともいう)が影響することが発明者の検討によりわかってきており、直径が大きいほどエッジ性状は悪化することが明らかとなった。ワークロール径を小さくすることによりエッジ性状は改善可能であるが、小径化を実施すると別の問題が出てくる。ワークロール径を小さくするとロール軸心たわみが大きくなり、鋼板の平坦度不良が発生しやすくなるため、圧延可能な鋼板の寸法や圧延速度が制約されて生産能力が大幅に低下する。形状制御により平坦度不良を防止できる特殊な構造の圧延設備は開発されているものの、導入コストや設置場所や保守保全が問題となる。さらに、小径化によりワークロール破損のリスクも高くなる。上記の問題は特にワークロールの直径が300mm未満の場合に顕著となる。
【0018】
そこで本発明は、冷間圧延後の製品エッジ部の性状、およびトリミングによる押し込み疵を防止して、品質が良好な冷延鋼板を安定して製造する方法および設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前述の目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有している。
【0020】
[1]酸洗前の熱延鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて、エッジ部を未分離状態までせん断を施し、次いでそれぞれのエッジ部に設置され、エッジ部のみを挟圧可能な狭幅ロールにより挟圧してエッジ部を切り離したのち、酸洗、および、直径300mm以上のワークロールを有する圧延機により冷間圧延を施すことを特徴とする冷延鋼板の製造方法。
【0021】
[2]酸洗前の熱延鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて、エッジ部を未分離状態までせん断を施す機構と、次いでそれぞれのエッジ部に設置され、エッジ部のみを挟圧可能な狭幅ロールにより挟圧してエッジ部を切り離す機構とからなるトリミング装置と、そのトリミング装置を通過しエッジ部をトリミングされた鋼板を酸洗する酸洗設備と、酸洗後の鋼板を直径300mm以上のワークロールにて圧延する冷間圧延機とを備えていることを特徴とする冷延鋼板の製造設備。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、冷間圧延後の製品エッジ部における切り欠け状の性状および表面疵を防止して品質が良好な冷延鋼板を安定して製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明における冷延鋼板を製造するための設備を示す模式図。
【図2】比較例における冷延鋼板を製造するための設備を示す模式図。
【図3】冷延鋼板においてエッジ部が切り欠け状の性状(耳割れ、耳荒れ、エッジクラックなどとも称される)になった状態を示す模式図。
【図4】従来のトリミング法を示す模式図。
【図5】片側の回転刃を示す模式図の拡大図。
【図6】ロールカット式トリミング法におけるトリミング工程を示す模式図。
【図7】従来のロールカット式トリミング法における挟圧ロールを示す図。
【図8】本発明によるロールカット式トリミング法における挟圧ロールを示す図。
【図9】本発明によるロールカット式トリミング法における挟圧ロールを示す図。
【図10】従来のトリミング法を適用した場合の切断面を示す模式図。
【図11】ロールカット式トリミング法を適用した場合の切断面を示す模式図。
【図12】ロールカット式トリミング法によるトリミング後に酸洗を施した際のエッジ部近傍を示す模式図。
【図13】各トリミング法におけるエッジクラック深さを示す図。
【図14】各トリミング法における鋼板表面欠陥発生数を示す図。
【図15】ワークロール径とエッジクラック深さの関係を示す図。
【図16】ワークロール径と圧延理論より算出した接触圧力の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0025】
図3に、冷延鋼板においてエッジ部が切り欠け状の性状(耳割れ、耳荒れ、エッジクラックなどとも称される)になった状態を模式的に示す。冷間圧延においてこのようなエッジ性状が発生すると、板破断が起きやすく安定して圧延することが難しくなる。また、冷間圧延後に残留すると、次工程のプレスなどにおいて疵を発生させやすく問題である。エッジ不良の原因として、熱延鋼板のエッジ部の欠陥が第一に挙げられるため、通常は欠陥部を除去するために冷間圧延前にトリミングを実施している。しかし、熱延鋼板のトリミングを実施しても、冷延鋼板のエッジ部に切り欠け状の性状が発生するのが実情であった。これは素材の材質や冷間圧延の操業条件によって発生する場合もあるが、熱延鋼板あるいは酸洗後の鋼板に対するエッジ部のトリミングで発生したかえりに起因することが多いことが、本発明者らの検討によりわかってきた。
【0026】
本発明者らは、冷間圧延後の製品エッジ部の性状が良好で、かつ、鋼板表面において疵などの表面欠陥を生じさせることのない冷延鋼板を安定して製造するために、冷間圧延後ではなく、冷間圧延前の母板に対するエッジ部のトリミング方法について着目して鋭意検討し、本発明に至った。
【0027】
従来のトリミング法は、図4に示すように、熱延鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて切断していた。ここで、1は鋼板、10A、10Bはそれぞれ両端部の上側の回転刃、11A、11Bはそれぞれ下側の回転刃を示している。回転刃の設定方法について詳細に説明するため、図5に、片側の回転刃を拡大した図を示す。1は鋼板で、1Aはトリミングによって切り捨てられる部分を示す。図5において、Cは上下回転刃の水平方向の間隙(クリアランスとも称す)であり、両者の間隙が開く方を正(+)とする。Lは上下回転刃の垂直方向の重なり量(ラップとも称す)であり、両者の重なり量が大きくなる方を正(+)とする。従来のトリミング法では、クリアランスCは鋼板の厚みにほぼ比例する値で設定する。図10は従来のトリミング法でトリミングした後のエッジ部断面を模式的に表したもので、31は剪断面、32は破断面、33はかえりである。このようにエッジクラックの起点となるかえりが鋼板表面に発生してしまうことがわかる。また、板表面の剪断面の角部36は尖っていることがわかる。図10のエッジ部断面の模式図は図4に示したトリミングの上下刃の配置において、鋼板の右側の断面を表したものである。
【0028】
一方、従来のロールカット式トリミング法は、図6に示すように、トリミングのラップLを負(−)に設定して、エッジの切り捨て部を未分離状態として、ついで、図7にしめすように鋼板を上ロール12、および下ロール13で挟圧して、エッジの未分離部分を切り離すトリミング法である。ロール挟圧によって、未分離状態だったエッジ切捨て部1A、1Bは、鋼板本体から分離される。ここで、図7に示す従来技術で適用している挟圧用のロールは、通板される鋼板の最大板幅よりも広い胴長を有していた。以降、従来のロールカット式トリミング法での挟圧ロールを、広幅ロールとも称することとする。図11は従来のロールカット式トリミング法でトリミングした後のエッジ部断面を模式的に表したもので、31は剪断面、32は破断面、34はダレ、35はバリである。破断面が板厚中央近傍のみに存在し鋼板表面にはないため、エッジクラックの起点となるかえりは発生しない。その代わりに破断面の中央近傍にバリ35が発生する。また、上下刃によるトリミングの際にできる剪断面側の板表面には尖った角部36があるのに対し、ロール挟圧の際にできる剪断面側にはダレ34が発生するため角部は丸みを帯びているのがわかる。
【0029】
上述のトリミングで発生する鋼板表面に位置する剪断面の角部は鋭利であるため、通板ロール等に角部が当たった場合に疵や角部の欠落が発生することがあり、冷延鋼板の表面性状に悪影響を及ぼしていることがわかった。この角部は酸洗により図12の37に示すように滑らかな形状となり、通板ロールに疵を発生させることがなくなるので、酸洗前にトリミングを実施すべきであることがわかった。
【0030】
本発明は、ロールカット式トリミング法において、図8のようなロール挟圧に使用するロールとして、それぞれのエッジ部に設置された狭幅ロール14A、14Bを使用するものである。ロール胴長はできるだけ短くすれば、飛散したバリなどをかみ込む確率が低くなり、表面疵を抑制できて有利である。
【0031】
バリなどが挟圧ロールにかみ込む場合、上下にロールが存在すると、その間の圧下力が大きくて、ロールと鋼板との間にかみ込んで押しつぶされて表面疵となりやすい。他方、上下いずれかしかロールがない場合は、板幅中央部に鋼板を挟む圧下力がないために、ロールと鋼板との間にかみ込んだバリなどが押しつぶされにくくなって表面疵とはなりにくいわけである。また、同じロールを板幅の異なる鋼板に使用した場合、狭幅材のエッジ部切り離しで生じたロール13の疵が入っても、広幅材での板幅中央部の鋼板を挟む圧下力がないために表面疵とはなりにくいわけである。
【0032】
従って、未分離部分の挟圧ロールは、上下ともに狭幅にする必要はなく、いずれか一方のロールのみ狭幅として、他方のロールは広幅でよい。図8に示したように上ロールが狭幅で下ロールが広幅である必要はなく、例えば図9に示すように上ロールは広幅で、下ロールのみが狭幅でもよい。
【0033】
なお、未分離状態のエッジ切り捨て部を分離させるのに必要な狭幅ロールの胴長は、おおむね鋼板の板厚の10倍以上あればよい。従って、狭幅ロールの胴長は、エッジトリミング装置の最大仕様板厚の10倍以上とすればよい。また、鋼板の板幅やエッジ切り捨て量に応じて、狭幅ロールの位置は適宜変更させるものとする。なお、少なくとも上下いずれかに狭幅ロールを適用してロール挟圧を行うこと以外は、従来の広幅ロールを用いたロールカット式トリミング法と同様の条件で実施すればよい。
【0034】
さらに、本発明によりトリミングした鋼板を用いて酸洗し、冷間圧延する場合は、エッジクラックが著しく減少して板破断が発生しにくいことから、従来より張力を大きくしてより薄物まで圧延可能であり、圧延中にバリなどが飛散しにくいことから飛び込み疵も減少して、能率よく品質の良い冷間圧延が可能になる。
【0035】
図13に、熱延鋼板のエッジ部への各トリミング方法におけるエッジクラック深さを示す。対象材にはSPCC鋼の1.2mm厚の熱延鋼板を用意し、各トリミング法によるエッジ部をトリミングおよび酸洗を実施して実験材を準備した。比較例以外はトリミング後に酸洗を実施し、比較例は酸洗後にトリミングを実施した。従来のトリミング法ではクリアランスCを0.10mm、ラップLを+0.4mmとしてエッジ部を切り離した後に、マッシャーロールにより鋼板表面からはみ出したかえりを横方向へと押し曲げた。ロールカット式トリミング法ではクリアランスCを0.05mm、ラップLを−0.5mmとしてエッジ部が分離しないようにトリミングをした後に、上下からロールで挟圧して未分離だったエッジ部を切り離した。冷間圧延にはワークロール径500mmのリバース式の4段式圧延機を用いて、1パスあたり圧下率約20%で3パスの圧延を行った。3パス圧延後の鋼板の板厚は約0.6mmであり、冷間総圧下率は約50%であった。
【0036】
図14に、熱延鋼板のエッジ部への各トリミング方法において、冷間圧延後の鋼板表面の表面欠陥について調査した結果を示す。ここで、上記SPCC鋼の1.2mm厚の母板を3パス冷間圧延して、約0.6mmまで圧下した幅860mm〜1200mmの冷延鋼板10コイルについて、鋼板表面に光学式表面検査装置により大きさ2mm以上、深さ0.1mm以上の欠陥を検出し、100m長あたりの個数で評価した。
【0037】
図13に示した各トリミング方法におけるエッジクラック深さでは、従来のトリミング法ではエッジクラック深さが大きいのに対し、従来の広幅ロールカット式トリミング法、冷間圧延前での狭幅ロールカット式トリミング法および本発明ではエッジクラック深さが小さく、エッジ性状は良好であった。
【0038】
また、従来のトリミング法では冷間圧延中に板破断が発生したが、従来の広幅ロールカット式トリミング法および本発明では全く発生しなかった。
【0039】
図14に示した鋼板表面の疵の個数では、従来の広幅ロールカット式トリミング法での表面疵が多かった。これは、エッジ近傍での筋状の欠陥が多かったことから、比較的狭い板幅をロールカットしたときに生じたロール疵が広幅の鋼板表面に転写して発生したものと推定される。また、バリの一部がトリミング中に飛散して、広幅ロールと鋼板との間にかみ込んだ疵も影響している。
【0040】
従来のトリミング法でも疵の個数が多く、かえりに起因したエッジクラックの一部が冷間圧延中に欠落してワークロールと鋼板の間に飛び込み、ロール疵が鋼板表面に転写して発生したものと推定される。
【0041】
冷間圧延前での狭幅ロールカット式トリミング法を適用した比較例では、筋状の欠陥が鋼板の上表面のエッジ部近傍に多く見られた。これは、図11に示したようにトリミング時に発生したエッジの鋭利な角部によってワークロールに疵が発生し、ロール疵が鋼板表面に転写して発生したものと推定される。
【0042】
一方、本発明法では図12に示したように鋼板エッジ部が酸洗により丸みを帯びているためワークロールに疵が発生しにくくて、鋼板表面の疵は少なく表面品質は良好であった。
【0043】
図15に、酸洗および冷間圧延前の熱延鋼板エッジ部への各トリミング方法として、従来トリミング法+マッシャーロール、従来トリミング+機械加工法、および本発明方法において、圧延機のワークロール径とエッジクラック深さの関係を示す。ここで、対象材にはSPCC鋼の2.0mm厚の熱延鋼板を用意し、各トリミング法によりエッジ部をトリミングした後に酸洗を実施して実験材を準備した。圧延機は任意のワークロール径が使用できるリバース式の圧延機を用いて、圧下率約40%で1パスの圧延を行い、圧延後の板厚は約1.2mmとなった。また、ワークロールには直径100、200、300、350、400、500、570mmのものを使用し、直径100、200mmが6段式圧延機、直径300、350、400mmが4段式圧延機、直径500、570mmが2段式圧延機であった。鋼板に付加される張力は入側、出側ともに10kgf/mmに設定した。圧延後の鋼板におけるエッジ部の性状を調査し、エッジクラックの深さを評価した。
【0044】
従来トリミング法では、クリアランスCは0.20mmに、ラップLは+0.5mmに設定した。トリミング後にマッシャーロールおよび円筒砥石による機械加工により、かえりを除去した。本発明方法では、狭幅ロールを使用したロールカット式トリミング法を適用した。
【0045】
図15に示したワークロール径とエッジクラック深さの関係では、従来トリミング法+マッシャーロールではワークロール径が300mm以上になると、急激にエッジクラック深さが大きくなることがわかる。従来トリミング+機械加工法および本発明では、ワークロール径が大きくなってもエッジクラックの大きさが増大することはなかった。すなわち、従来トリミング法+マッシャーロールではエッジクラックの起点となる微小クラックまで除去したわけではないので、直径300mm以上のワークロールで冷間圧延するとエッジ性状が大幅に悪化してしまうと推定される。ここで、ワークロール径を300mm未満にした場合には、エッジクラックが改善する代わりにロール軸心たわみによる鋼板の平坦度不良の発生等により生産性が著しく低下する問題が発生する。また、機械加工法は処理速度が遅いため生産性が低く、安定性でも問題が残る。
【0046】
ワークロール径の大きさとエッジクラックの関係を明確にするために、図16にワークロールと接触圧力の関係を示す。接触圧力とは圧延時に鋼板とワークロールの間に作用する圧力のことであり、ここではOrowanの理論により求めた計算値を示している。計算条件には上記圧延条件の数値を使用し、摩擦係数は0.05を用いた。ワークロール径が大きくなるにつれて接触圧力も増大しており、特に最大接触圧力はワークロール径が300mm以上になると増加し始めることがわかる。大きな接触圧力が作用すると、かえりに起因する微小クラックが押し広げられ、エッジクラックが進展してエッジ性状が悪化するものと推定される。
【0047】
以上のように、直径300mm以上のワークロールにて冷間圧延する冷延鋼板の製造において、冷間圧延後の製品エッジ部の性状および表面品質が良好な冷延鋼板の効率的かつ安定的な製造方法について鋭意検討し、本発明に至ったものである。
【0048】
本発明では、熱間圧延後の鋼板を酸洗した後に直径300mm以上のワークロールを有する圧延機により冷間圧延して所定の寸法の冷延鋼板を製造する方法において、酸洗前の鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて、エッジ部を未分離状態までせん断を施し、次いでそれぞれのエッジ部に設置され、エッジ部のみを挟圧可能な狭幅ロールにより挟圧してエッジ部を切り離したのち、酸洗および冷間圧延を施すことを特徴とする冷延鋼板の製造方法とした。
【0049】
また、冷間圧延前の熱延鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて、エッジ部を未分離状態までせん断を施す機構と、次いでそれぞれのエッジ部に設置され、エッジ部のみを挟圧可能な狭幅ロールにより挟圧してエッジ部を切り離す機構とからなるトリミング装置、および、これら装置を通過しエッジ部をトリミングした鋼板を酸洗する設備、および、酸洗後の鋼板を直径300mm以上のワークロールにて圧延する冷間圧延機から構成されることを特徴とする冷延鋼板の製造設備とした。
【0050】
ワークロール径の上限については、エッジ性状の面からは上限はないが、工業的に実施されている冷間圧延でのワークロール径は700mm程度が上限であるので、本発明の適用上の上限も700mm程度となる。
【0051】
ロールカットに用いる狭幅ロールの胴長の下限は、鋼板のロールカットを安定して行えるだけの幅があればよく、概ね鋼板の板厚の10倍以上、一般的な2mm厚の鋼板を対象とした場合には20mm以上あればよい。また、上限は両サイドに設置することから板幅の半分以下であることは当然であるが、バリなどが飛散してかみ込んで鋼板に表面疵を発生させないためには200mm以下が望ましい。
【0052】
上下いずれかのロールが狭幅であることによって、未分離状態の鋼板をせん断する際に作用する力は、幅方向で上下ともにロールが存在する部分は著しく大きくて、上下いずれか一方しかロールがない部分は著しく小さいため、上下いずれか一方しかロールがない部分では、ロール疵やかみ込み疵は発生しにくいことによる。
【0053】
また、これらロールを支える構造は、未分離の板をせん断するために充分な支持強度を有することとした。
本発明について、熱延鋼板のエッジ部にトリミングを施し、酸洗セクションにて酸洗した後に、5スタンドから構成される冷間タンデム圧延機にて冷延鋼板を製造した例を用いて、詳細に説明する。
【0054】
図1は、本発明による、冷間タンデム圧延機にて冷延鋼板を製造する工程の一部を模式的に示した図である。図1において、1は鋼板であり、20はトリミング装置、21は鋼板を上下から挟圧してエッジの未分離部を上下から切り離すためのロール、22は鋼板表面の酸化鉄(スケール)を除去するための酸洗セクション、23は通板中の鋼板に付与される張力を制御するためのブライドルロール、24は4段圧延機が5スタンドから構成される冷間タンデム圧延機、25は圧延後の冷延鋼板を巻き取ったコイルである。図1において、冷間圧延機24は全て4段式のスタンドとして表記されているが、本発明は4段式の場合に限定するものではなく、2段式あるいは6段式の圧延スタンドの場合でもよく、さらに2段式,4段式および6段式の圧延スタンドが混在した構成でもよい。また、図1において、冷間圧延機24は5スタンドとして表記されているが、5スタンドの場合に限定するものではなく、4スタンドでも6スタンドでもよい。図1において、鋼板は矢印の向きに通板され、図中に示していない上流側には、熱延鋼板コイルを払い出すためのペイオフリール、先行材の尾端と後行材の先端をつなぎ合わせるための溶接装置、溶接中の通板速度調整をするためのルーパー部などが配置されている。ルーパー部は酸洗セクション内に配置される場合もある。
【0055】
トリミング装置20は、鋼板の両エッジ側に円形回転刃が配置されており、図5に示すように刃のクラアランスCおよびラップLを調整することが可能である。
本発明例では、厚みが2.0mmで幅が1020mmの熱延鋼板から、厚みが0.5mmで幅が1000mmの冷延鋼板を製造する例について説明する。なお、鋼種はSPCC鋼である。
【0056】
ペイオフリールから払い出された熱延鋼板は、先行材と溶接されたのち、両側のエッジ部をそれぞれ10mmずつトリミングされる。ここで、本発明でのトリミングは、トリミング装置20において、クリアランスCを0.10mmに、ラップLを−0.5mmに設定した。クリアランスCとラップLの値は、予め板厚に応じて算出した適切な値を設定した。本条件では、エッジの切り捨て部は未分離状態となっている。ついで、21のロールで、鋼板を上下から挟圧してエッジの未分離部を上下から切り離す。
【0057】
ここで、21のロールは、図8または図9のように上下のうちの少なくとも一方の側が狭幅ロールである。21のロールでは、未分離状態のエッジ切り捨て部を切り離すため、ロール間隙は鋼板の板厚とほぼ同じ値に設定すればよい。本トリミング法によると、エッジ部のかえりが生じない。
【0058】
両エッジをトリミングされて幅が1000mmになった2mm厚の熱延鋼板を酸洗セクション22で表面スケールを除去した後に、5スタンドの冷間タンデム圧延機で、0.5mmまで圧延する。各スタンドの圧下率は均等になるように設定し、スタンド間で鋼板に付加される張力は10kgf/mmに設定した。これは、一般的な冷間圧延の操業形態である。
【0059】
冷間圧延したままの鋼板について、長手方向で任意に10箇所を選んで、エッジ部の性状を調査したが、いずれの箇所においてもエッジクラックは0.1mm未満と極めて小さく、エッジ性状は良好であった。
【0060】
なお、図1に示したような、トリミング工程とその後の酸洗セクションおよび冷間圧延工程が直結した製造装置では、従来技術であるグラインダーやバイトなどの機械加工を適用しようとすると、通板速度が著しく制限されるため、生産効率が低下する。また、これら機械加工で生じた切り屑が鋼板上へ巻き込まれたまま冷間圧延され、表面品質の低下の原因になる危険性が極めて高くなるため、適用は不可能であった。
【0061】
本発明例では、トリミング工程と酸洗セクションと冷間圧延機が直結された設備での発明を実施するための最良の形態を説明したが、トリミング工程と酸洗セクションと冷間圧延機がそれぞれ別の設備となっている場合でもトリミング後に酸洗を施しさらにその後に冷間圧延を実施することにより同様の効果が得られる。
【0062】
以上で説明したように、本発明によれば、冷間圧延後の製品エッジ部の性状が良好で、鋼板表面の疵を防ぐ冷延鋼板の安定した製造方法および製造設備を提供することが可能になる。
【実施例1】
【0063】
本発明について、5スタンドからなる冷間タンデム圧延機での冷延鋼板の製造の実施例に基づいて説明する。実施条件を表1および表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
冷間圧延機の型式は1〜4スタンドが4段式で、5スタンドが6段式であり、各スタンドのワークロール径は表2に示す通りである。なお、冷間タンデム圧延機を除いて、他の装置は図1および図2に示すとおりである。
【0067】
実施例の供試材は、一般的な冷延鋼板であるSPCC鋼および高張力鋼板であるSPFC340のそれぞれの母板となる熱延鋼板である。母板厚1.6〜2.6mmであり、冷間圧延後の厚みは0.2〜1.4mmである。
【0068】
本発明例1〜6では、図1に示したトリミング装置20および挟圧ロール21として狭幅ロールを上ロールに用いたロールカット式トリミング法を酸洗セクション22の前に施した。トリミングの条件は、表1に示した通りである。
【0069】
比較例1,2では、図2に示したトリミング装置20および挟圧ロール21として狭幅ロールを上ロールに用いたロールカット式トリミング法を冷間圧延前(酸洗セクション22の後)に施した。トリミングの条件は、表1に示した通りである。
【0070】
比較例3では、図1に示した発明例と同じ設備を用いて、直径250mmのワークロールを実験的に使用して冷間圧延を実施した。トリミングの条件は、表1に示した通りであり、発明例1と同じである。しかし、冷間圧延中に平坦度不良によって鋼板の破断が発生して、圧延不能となった。
【0071】
従来例1−1,2では、図1に示した20のトリミング装置のみを用いて、回転刃により完全にエッジ切り捨て部を分離させる従来のトリミング法を酸洗前に施した。トリミングの条件は、表1に示した通りである。トリミング後にマッシャーロールを用いて鋼板表面からはみ出したかえりを横方向へと押し曲げてから酸洗セクション22へ通板した。
【0072】
従来例2−1,2では、図1に示したトリミング装置20および挟圧ロール21として広幅ロールを用いたロールカット式トリミング法を酸洗前に施した。トリミングの条件は、表1に示した通りである。
【0073】
エッジ性状の評価として、冷間圧延後の鋼板について、長手方向で任意に10箇所を選んでエッジ部の性状を調査した。いずれの箇所においてもエッジクラックは0.1mm未満であれば良好、1箇所でも0.1mm以上の部分があれば不良とした。
【0074】
表面品質の評価として、光学式表面検査装置により大きさ2mm以上、深さ0.1mm以上の欠陥を検出し、100m長あたりの個数で評価し、5個以上であれば不良、5個未満であれば良好とした。
【0075】
表1中に示すように、比較例および従来例ではエッジ性状、表面品質のいずれかが不良であったのに対し、本発明例ではいずれもエッジ性状、表面品質とも良好であった。
【0076】
以上の結果から、本発明によれば、冷間圧延後の製品エッジ部の性状および表面品質が良好な冷延鋼板を安定して製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0077】
1 鋼板
1A,1B トリミングにより切り捨てる部分
10A,10B 上側の回転刃
11A,11B 下側の回転刃
12 上側の広幅挟圧ロール
13 下側の広幅挟圧ロール
14A,14B 上側の狭幅挟圧ロール
15A,15B 下側の狭幅挟圧ロール
20 トリミング装置
21 板エッジ未分離部の切り離し用挟圧ロール
22 酸洗セクション
23 ブライドルロール
24 冷間タンデム圧延機
25 巻き取りコイル
31 剪断面
32 破断面
33 かえり
34 ダレ
35 バリ
36 トリミング後の剪断面における表面側の角部
37 トリミング後に酸洗した表面側の角部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸洗前の熱延鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて、エッジ部を未分離状態までせん断を施し、次いでそれぞれのエッジ部に設置され、エッジ部のみを挟圧可能な狭幅ロールにより挟圧してエッジ部を切り離したのち、酸洗、および、直径300mm以上のワークロールを有する圧延機により冷間圧延を施すことを特徴とする冷延鋼板の製造方法。
【請求項2】
酸洗前の熱延鋼板のエッジ部に対して、上下対の円形回転刃を上下から所定の深さまで押し当てて、エッジ部を未分離状態までせん断を施す機構と、次いでそれぞれのエッジ部に設置され、エッジ部のみを挟圧可能な狭幅ロールにより挟圧してエッジ部を切り離す機構とからなるトリミング装置と、そのトリミング装置を通過しエッジ部をトリミングされた鋼板を酸洗する酸洗設備と、酸洗後の鋼板を直径300mm以上のワークロールにて圧延する冷間圧延機とを備えていることを特徴とする冷延鋼板の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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