説明

冷間圧延ロールの冷却方法および冷間圧延方法ならびに冷間圧延ロールの冷却装置

【課題】循環式圧延油供給方式において、高速圧延の場合でも必要とされる良好な潤滑性を確保しつつ、効果的にワークロールのサーマルクラウンを抑制することができる冷間圧延ロールの冷却方法を提供すること。
【解決手段】金属板1を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロール2aに、循環使用される第1のエマルション圧延油19を供給し、少なくとも一つのロール2aに、第1のエマルション圧延油19の供給配管7から分岐して、冷却手段14を介した第2のエマルション圧延油20を、振動を与えつつ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、循環給油方式の冷間圧延機にて金属板を冷間圧延する際の、冷間圧延ロールの冷却方法および冷間圧延方法ならびに冷間圧延ロールの冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板を冷間圧延する際には、圧延中の鋼板とロールとの間に生ずる摩擦を低減させるための潤滑剤として、また、圧延時に生ずる摩擦発熱および加工発熱により高温となったワークロール(以下、単にロールとも記す)ならびに鋼板の冷却を行うための冷却剤として圧延油が用いられている。
【0003】
冷間圧延においては、このような圧延油としてエマルション圧延油が一般的に用いられる。図4にエマルション圧延油の概念を模式的に示す。この図に示すように、エマルション圧延油は、基油に界面活性剤を付着させたものを、水中に分散、希釈化(乳化)したものであり、界面活性剤は、長鎖状分子の一端が親油基、他端が親水基からなる。
【0004】
エマルション圧延油は、濃度および平均粒径で特徴づけられる。エマルション圧延油の濃度とは、エマルション圧延油の全質量に対する基油の質量の比である。平均粒径とは、エマルション圧延油の粒子の直径(エマルション粒径)の平均値である。
【0005】
界面活性剤を基油と混合する際に、攪拌器およびポンプの回転数を調整し、加えるせん断力を変化させることによりエマルションの平均粒径を調整することができる。
【0006】
冷間圧延時におけるエマルション圧延油の供給方式としては、エマルション圧延油を循環使用しない直接給油方式(ダイレクト方式)、エマルション圧延油を循環させながら潤滑と冷却を行う循環給油方式(リサーキュレーション方式)がある。
【0007】
また、循環給油方式は、多くの場合、エマルション圧延油の濃度を1〜5質量%に調整した水中油型(O/W)エマルション圧延油を循環使用する方式を意味する。
【0008】
さらに、循環給油方式では、多くの場合、冷間タンデム圧延機を構成する各圧延機スタンドのロールバイト(実際にロールが鋼板を圧延している鋼板部分)入側に鋼板とロールとの間を潤滑するためのエマルション圧延油の供給手段を備えるとともに、同出側にロールを冷却するためのエマルション圧延油の供給手段を備える。なお、入側と出側とでエマルション圧延油の目的が異なるが、本発明では、鋼板とロールとの間を潤滑することが目的の入側の供給手段も、ロールを冷却することが目的の出側の供給手段も、ともに、冷間圧延ロールの冷却装置に含まれるものとする。
【0009】
ところで、近年、生産性向上を目的として、単位時間当たりの圧延重量が低くなりがちな、圧延後の板厚が0.3mm以下の薄いもの(薄物材)について、2000mpm以上の高速圧延が指向されている。
【0010】
これに対して、従来の循環給油方式では潤滑不足となり、チャタリングと呼ばれるロールとその駆動系の捻り振動や、ヒートスクラッチと呼ばれるロールと鋼板の焼き付きに起因した鋼板側の表面疵の発生が障害となっている。
【0011】
従来から、潤滑不足を解消する方法はいくつか提案されているが、同時に高速圧延も可能とするものは開発途上にある。高速圧延になるほどロールの周速が速くなるため、ロールを冷却するために単位時間あたり供給されるエマルション圧延油の量が相対的に減少し、サーマルクラウンと呼ばれるロールの熱膨張に起因した凸状の出っ張り(クラウン)がロール表層に成長しやすくなる。サーマルクラウンの成長にともなうロールの輪郭の胴長方向分布(プロフィール)が時間とともに変化してくると、圧延後の鋼板の形状が乱れやすくなる。
【0012】
圧延後の鋼板の形状を制御するための代表的な方法は、ロールベンディングやロールシフトなどであるが、これらの形状制御アクチュエータによる仕様上の形状制御能力には限界があり、サーマルクラウンを完全に補償することは容易でなく、近年の趨勢として、薄物圧延、高速圧延を指向した場合に、圧延後の鋼板の形状不良により生産性向上が思うように図れない問題に直面していた。
【0013】
この点、ロールに生ずるサーマルクラウンの成長抑制を目的として、従来、次のような方法が提案されている。
(1)モデル式によって、目標とするロールプロフィールに一致するように、ロールを冷却するためのエマルション圧延油の流量を、ロール胴長方向に分布をもたせるよう制御する方法(特許文献1)。
(2)ジャケット冷却によるロールの冷却方法(特許文献2,3)。
(3)循環使用されるエマルション圧延油の一部を冷却してロールに供給する方法(特許文献4)。
【特許文献1】特許第3958992号公報
【特許文献2】特開平11−277113号公報
【特許文献3】特開平11−277115号公報
【特許文献4】特公平07−016691号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記特許文献1〜3のいずれも、ロールに供給されるエマルション圧延油には、媒体として水が用いられているが、循環給油方式でも、通常、エマルション圧延油は加熱されているため、エマルション圧延油中の水分は少しずつ蒸発する。また、ロールには、その冷却を目的として、エマルション圧延油とは別に水も供給されている。水の供給に際しては、水をロールに噴射する場合もあるが、ほとんどの場合はクーラントタンクに直接投入して濃度変動を防止している。
【0015】
従来は、エマルション圧延油を循環使用する系統に流れ込む、ロール冷却後の別の水の量が、蒸発する水分の量と同程度であったため、循環使用されるエマルション圧延油の濃度変動は実用上問題とならない程度に抑制されていた。しかしながら、昨今では、上述したような高速圧延の対象材が比率として多くなり、それだけロールの冷却能が必要とされはじめ、単位時間当たりに必要とされるエマルション圧延油の量とともに、エマルション圧延油を循環使用する系統に流れ込む別の水の量も多く必要とされるようになってきた。このため、蒸発する水分の量に対し、エマルション圧延油を循環使用する系統に流れ込む別の水の量が幾分多くなって、循環使用されるエマルション圧延油の濃度の低下が無視できない程度になる可能性が出てきており、そのようなエマルション圧延油を用いて冷間圧延を行うと、循環使用されるエマルション圧延油の濃度低下により潤滑不足となって、上述したようなチャタリングやヒートスクラッチが発生するおそれがある。
【0016】
また、上記特許文献4では、循環使用されるエマルション圧延油の一部を冷却して、ロールの冷却に供しているため、循環使用されるエマルション圧延油の濃度変動を抑制することはできるものの、冷却起因によって固化しやすくなった油分がロールに付着し、油膜を形成することで、ロールからの抜熱量が減少し、満足する冷却能を得られない可能性があった。
【0017】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、循環式圧延油供給方式において、高速圧延の場合でも必要とされる良好な潤滑性を確保しつつ、効果的にワークロールのサーマルクラウンを抑制することができる冷間圧延ロールの冷却方法およびそのような冷却方法を用いた冷間圧延方法ならびに冷間圧延ロールの冷却装置を提供することを目的とする。
【0018】
本発明者らは、循環式圧延油供給方式においても、効果的にワークロールのサーマルクラウンを抑制する方法について検討した。ここで、循環エマルションの濃度変動が生じないよう、ワークロールの冷却媒体には循環エマルションを利用する。ただし、ロール側に油膜がプレートアウトしている状態では冷却能に乏しいため、ロールの油膜を随時除去しつつエマルション圧延油の供給を行うことでワークロールのサーマルクラウンを抑制する。
【0019】
以上の検討の結果、ワークロールの冷却を行うエマルション圧延油に振動を加えることにより、噴射点にエマルション圧延油が侵入し、油膜洗浄作用を発揮することで、ワークロールに付着した油膜起因による冷却能低下を防止することができることを見出した。
【0020】
また、ワークロールにエマルション圧延油中の油分が付着しにくくなるため、ワークロールに供給するエマルション圧延油の温度を低下させても、圧延油固化による影響を抑制することができ、低温エマルション圧延油による効果的なサーマルクラウン抑制が可能となる。
【0021】
ロール冷却に必要なエマルション量は循環式圧延油供給方式で循環使用されるエマルションよりも少ない量であるため、循環式圧延油供給方式のエマルション供給配管より循環エマルションの一部を冷却手段を介して分岐供給してロール冷却を行うことで、設備コストを最小とすることができる。
【0022】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、以下の(1)〜(6)を提供する。
(1)金属板を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロールに、循環使用されるエマルション圧延油を供給して冷却する冷間圧延ロールの冷却方法であって、
前記エマルション圧延油に振動を与えることを特徴とする冷間圧延ロールの冷却方法。
(2)金属板を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロールに、循環使用される第1のエマルション圧延油を供給し、少なくとも一つのロールに、前記第1のエマルション圧延油の供給配管から分岐して、冷却手段を介した第2のエマルション圧延油を、振動を与えつつ供給することを特徴とする冷間圧延ロールの冷却方法。
(3)前記振動の周波数は、0.1MHz超30MHz以下であることを特徴とする(1)または(2)の冷間圧延ロールの冷却方法。
(4)(1)〜(3)のいずれかの冷間圧延ロールの冷却方法により冷却されたロールにより金属板を冷間圧延することを特徴とする冷間圧延方法。
(5)金属板を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロールに循環使用されるエマルション圧延油を供給する循環給油系統と、
前記循環供給されるエマルション圧延油に振動を与える加振手段と
を具備することを特徴とする冷間圧延ロールの冷却装置。
(6)金属板を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロールに循環使用される第1のエマルション圧延油を供給する第1の供給系統と、前記第1の供給系統の前記第1のエマルション圧延油の供給配管から分岐した供給配管を介して、前記ロールのうち少なくとも一つのロールに第2のエマルション圧延油を供給する第2の供給系統とを有する循環給油系統と、
前記第2の供給系統に設けられた前記第2のエマルション圧延油を冷却する冷却手段と、
前記第2の供給系統に設けられた前記第2のエマルション圧延油に振動を与える加振手段と
を具備することを特徴とする冷間圧延ロールの冷却装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、循環式圧延油供給方式を備えた冷間圧延装置により金属板を高速で冷間圧延する場合においても、必要とされる良好な潤滑性を確保しつつ、経時変化するワークロールのプロフィールを適正に保つことができ、効果的にワークロールのサーマルクラウンを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について具体的に説明する。
図1は、本発明の冷間圧延方法が適用される冷間圧延装置の一例を示す概略構成図である。この冷間圧延装置は、5つの圧延機スタンドを有する冷間タンデム圧延装置として構成されており、鋼板(ストリップ)1の入側から順に第1スタンドから第5スタンド(#1STD〜#5STD)が配置されている。また、この冷間圧延装置において、隣り合う圧延機スタンド間には、図示しないテンションロールおよびデフロールが設置されている。
【0025】
図1において、各圧延機スタンドは、鋼板(ストリップ)1を実際に圧延する一対のワークロール2aと、ワークロール2aをバックアップする一対のバックアップロール2bとを有している。5つの圧延機スタンドのうち第1スタンドから第4スタンド(#1STD〜#4STD)には、それぞれの入側に一対の潤滑用クーラントヘッダ3が配置され、それぞれの出側に一対の冷却用クーラントヘッダ4が配置されている。そして、それぞれの潤滑用クーラントヘッダ3と冷却用クーラントヘッダ4に設けられたスプレーノズルから、循環使用されるエマルション圧延油(第1のエマルション圧延油)19がロールバイトのワークロール2a表面へ供給される構成となっている。潤滑用クーラントヘッダ3および冷却用クーラントヘッダ4は、鋼板(ストリップ)1の表面側および裏面側に設けられている。また、潤滑用クーラントヘッダ3および冷却用クーラントヘッダ4は、表裏面側ともに、鋼板(ストリップ)1の幅方向に沿って複数個配置されている。
【0026】
第5スタンド(#5STD)の入側には、第1スタンドから第4スタンド(#1STD〜#4STD)と同様、一対の潤滑用クーラントヘッダ3が配置され、出側には冷却用のエマルション圧延油(第2のエマルション圧延油)20をワークロール表面に供給する一対のノズルヘッダ17が配置されている。ノズルヘッダ17には、超音波振動子13が設けられており、吐出する第2のエマルション圧延油20にメガヘルツ帯域の振動を与えるようになっている。これらの詳細な構成は後述する。
【0027】
循環使用されるエマルション圧延油19は、循環式圧延油供給タンク5内に貯蔵され、圧延油供給ライン7を通って第1スタンドから第4スタンドの各圧延機スタンドに配置されたクーラントヘッダ3,4に供給され、さらには第5スタンドのクーラントヘッダ3にも供給されるようになっている。なお、エマルション圧延油19の各クーラントヘッダ3,4への供給は圧延開始時から行うことが好ましい。
【0028】
循環式圧延油供給タンク5内には温水(希釈水)と圧延油原液とが収容され、そこで両者が混合される。タンク5内の温水と圧延油原液とは、攪拌機10により混合され、その攪拌羽根の回転数を調整することにより、所望の平均粒径を有するエマルション圧延油19とされる。
【0029】
5つの圧延機スタンドの下方には、共通の回収オイルパン8が設けられており、潤滑用クーラントヘッダ3および冷却用クーラントヘッダ4から供給されたエマルション圧延油19のうち、鋼板(ストリップ)1によって系外に持ち出されたり、蒸発によって失われたもの以外を回収する。この回収オイルパン8の底部には循環式圧延油供給タンク5に至る戻り配管9が接続されている。
【0030】
循環式圧延油供給タンク5、圧延油供給ライン7、クーラントヘッダ3,4、回収オイルパン8、戻り配管9は、循環使用されるエマルション圧延油19の循環給油系統である第1のエマルション圧延油供給系統21を構成する。
【0031】
ここで、循環使用されるエマルション圧延油19に使用する圧延油の基油の流動点は5℃以下であることが好ましい。流動点が5℃よりも高いとエマルションの冷却時に配管内およびノズルヘッダ17にて圧延油固化によるノズル閉塞が起こる可能性がある。なお、流動点とは、油が完全に固化する温度に2.5℃を加えた温度のことである。基油の流動点の下限は特に規定する必要はないが、冷間圧延用の油として用いられるものの種類全体からみて、−40℃以上である。
【0032】
エマルション圧延油の基油としては、天然油脂、脂肪酸エステル、炭化水素系合成潤滑油の一種または二種以上を混合したものを用いることが好ましく、流動点が5℃以下となるように組成あるいは混合比率を調整するのが好ましい。
【0033】
基油として、例えば、天然油脂を用いる場合は、鉱物油、パーム油等の植物油や、牛脂等の動物油を用いることができる。また、基油として、例えば、脂肪酸エステルを用いる場合は、一価アルコールと二価脂肪酸とのエステルであるジエステルや、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールと一価脂肪酸との組み合わせによるポリオールエステルなどを用いることができる。また、基油として、例えば、炭化水素系合成潤滑油を用いる場合は、種々の粘度を得ることができるポリ−α−オレフィンなどを用いることができる。さらに、これらの圧延油には、油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤などの冷間圧延油に多く用いられる添加剤を加えてもよい。
【0034】
また、圧延油には界面活性剤が添加されるが、この界面活性剤としては、イオン系、非イオン系のいずれを用いてもよく循環給油方式に多く用いられるものを用いればよい。
【0035】
循環使用されるエマルション圧延油19としては、圧延油を、好ましくは濃度1〜5質量%程度、より好ましくは1.2〜3.0質量%程度に希釈し、上述したような界面活性剤を用いて水に油が分散したO/Wエマルションにしたものが用いられる。なお、その平均粒径としては、好ましくは15μm以下、より好ましくは7〜10μm程度とする。
【0036】
上記ノズルヘッダ17は、第2エマルション供給ライン12に接続されており、第2エマルション供給ライン12を介してノズルヘッダ17から第2のエマルション圧延油20をワークロール2a表面に供給するようになっている。ノズルヘッダ17は、上下両方のワークロール2aに向けて上方および下方にそれぞれ複数段および複数列設置されており、供給されてきた第2のエマルション圧延油20を矢印で示した鋼板の搬送方向にみて圧延機スタンドの出側、すなわち、ワークロール2aの後方外周面に向け噴射するようになっている。第5スタンドの上側のワークロール2aには非接触型の水切りシール18が設けられており、第2のエマルション圧延油20が鋼板1に落下することを防止するようになっている。なお、下側のワークロール2aに供給された第2のエマルション圧延油20は、水切りシール18を設置しなくても、重力により自然に落下し、下方に排出される。あるいは、第2のエマルション圧延油20の鋼板1上への落下を十分に防止することができない場合には、当該圧延機スタンドの出側に、図示しないエアパージ装置を設置して、鋼板1上の水切りを行ってもよい。
【0037】
ノズルヘッダ17は、図2の拡大水平断面図に示すように、スプレーノズル17aを有しており、このスプレーノズル17aのノズル口の後方側に上記超音波振動子13を備えており、第2のエマルション圧延油20はノズルヘッダ17の側方から第2エマルション供給ライン12を介して流入され、その際に超音波振動子13にメガヘルツ帯域のパルス電圧が印加されて振動し、第2のエマルション圧延油20にメガヘルツ帯域の超音波が重畳される。パルス電圧はいずれも図示しないパワーアンプおよび電源よりケーブルを介して供給される。
【0038】
上記第2エマルション供給ライン12は、エマルション圧延油19の循環給油系統(第1の供給系統)21の圧延油供給ライン7から分岐しており、第2エマルション供給ライン12に供給された第2のエマルション圧延油は、冷却装置(冷却手段)14を介して温度を制御された上で上下のノズルヘッダ17に供給される。第2エマルション供給ライン12の上下のノズルヘッダ17の近傍には流量制御弁15が設けられている。そして、これらノズルヘッダ17、第2エマルション供給ライン12、流量制御弁15と、冷却装置14とにより第2のエマルション圧延油供給系統22が構成される。冷却装置14としては、熱交換効率が高いものほど好ましく、液体と冷却媒体との間で熱交換するものの他、気体の冷却媒体との間で熱交換するものであってもよい。
【0039】
なお、上記第1のエマルション圧延油供給系統21と第2のエマルション圧延油供給系統22とにより、エマルション圧延油の循環給油系統が構成される。
【0040】
第1のエマルション圧延油19および第2のエマルション圧延油20の供給流量は、プロセスコンピュータ16により鋼板1を圧延する際の搬送速度や鋼板1の寸法などに応じて調整される。プロセスコンピュータ16には、鋼板1を圧延する際の搬送速度や鋼板1の寸法など、鋼板1の属性などに関する情報が入力され、プロセスコンピュータ16内での計算によりエマルション圧延油の流量が決定され、決定された流量は、図示しない制御装置を介してポンプ6、流量制御弁15に指令される。流量制御弁15は、ノズルヘッダ17からの第2のエマルション圧延油20の供給量が、プロセスコンピュータ16で決定された流量になるように制御される。
【0041】
次に、このように構成される本実施形態の冷間圧延装置における処理動作について説明する。
本実施形態の冷間圧延装置においては、各圧延機スタンドにエマルション圧延油を供給しつつ、鋼板(ストリップ1)を第1スタンド(#1STD)側から第5スタンド(#5STD)へ向けて送給する。具体的には、第1のエマルション圧延油供給系統21により、第1スタンドから第5スタンド(#1STD〜#5STD)の入側においては、潤滑用クーラントヘッダ3からワークロール2aの表面に第1のエマルション圧延油19を吐出し、第1スタンドから第4スタンド(#1STD〜#4STD)の出側においては、冷却用クーラントヘッダ4から第1のエマルション圧延油19を吐出する。すなわち、循環式圧延油供給タンク5内のエマルション圧延油をポンプ6により圧延油供給ライン7に導き、クーラントヘッダ3,4から第1スタンドから第5スタンド(#1STD〜#5STD)の入側および第1スタンドから第4スタンド(#1STD〜#4STD)の出側のワークロール2a表面に第1のエマルション圧延油19を供給する。第1のエマルション圧延油19のうち、鋼板(ストリップ)1によって系外に持ち出されたり、蒸発によって失われたもの以外が回収オイルパン8に回収され、戻り配管9により循環式圧延油供給タンク5に戻される。
【0042】
また、第5スタンドの出側においては、第2のエマルション圧延油供給系統22により、ノズルヘッダ17からワークロール2aの表面に第2のエマルション圧延油20を吐出する。すなわち、圧延油供給ライン7から分岐した第2エマルション供給ライン12を介してノズルヘッダ17から第2のエマルション圧延油20をワークロール2a表面に供給する。第2のエマルション圧延油20のうち、鋼板(ストリップ)1によって系外に持ち出されたり、蒸発によって失われたもの以外が第1のエマルション圧延油19とともに回収オイルパン8に回収され、戻り配管9により循環式圧延油供給タンク5に戻される。
【0043】
ノズルヘッダ17から吐出された第2のエマルション圧延油20は、ワークロール2aの後方外周面に接触して水膜流を形成し、ワークロール2aから熱を奪うが、第2のエマルション圧延油20がワークロールに直射すると、超音波振動子13からのメガヘルツ帯域の超音波による加振により、第2のエマルション圧延油20内で発生した微小なキャビテーションがワークロール2a表面の油膜に侵入し、消滅することで、ワークロール2a表面の油膜が除去され、第2のエマルション圧延油20の冷却能が向上する。
【0044】
このとき、第2のエマルション圧延油20に与える振動の周波数は、メガヘルツ帯域が好ましく、その中でも、0.1MHz以下では、十分な油膜除去効果が得られず、30MHzを超えると油膜の除去効果が飽和するため、0.1MHz超30MHz以下とすることがより好ましい。
【0045】
第2のエマルション圧延油20は冷却装置14で冷却されて供給されるが、第2のエマルション圧延油20の温度はできるだけ低温とすることが好ましい。しかし、流動点に近づくにつれて圧延油の粘度が上昇するため、固化して冷却装置14および第2エマルション供給ライン12が閉塞してしまうおそれがある。そこで、供給時の第2のエマルション圧延油20の温度は30℃以上60℃以下とすることが好ましい。固化しない下限温度が冷却装置14における第2のエマルション圧延油20の温度に換算して何度になるかを予め実験などにより求めておき、その温度以上に調整することも好ましい。
【0046】
第1のエマルション圧延油19および第2のエマルション圧延油20の供給流量は、鋼板1を圧延する際の搬送速度や鋼板1の寸法などに応じて調整される。第2のエマルション圧延油20の供給流量は、流量密度(単位時間当たり、単位面積当たりに供給されるエマルション圧延油の体積)に換算して、20000L/m/minを超えるとロールを冷却する効果が飽和するため、20000L/m/min以下とすることが好ましい。一方、1000L/m/min未満では、十分な冷却効果が得られないため、1000L/m/min以上とすることが好ましい。第1のエマルション圧延油19は、ワークロール2aの冷却よりもワークロール2aと鋼板1との間の潤滑が主であるが、その供給流量の上限、下限は、第2のエマルション圧延油の供給流量の場合と同じである。
【0047】
本実施形態によれば、所定温度に冷却制御された第2のエマルション圧延油20にメガヘルツ帯域の超音波を与えてワークロール2aの冷却を行うので、第2のエマルション圧延油20内で発生した微小なキャビテーションがワークロール2a表面の油膜に侵入し、消滅することで、ワークロール2a表面の油膜が除去され、第2のエマルション圧延油20の冷却能が向上する。このため、必要とされる良好な潤滑性を確保しつつ、経時変化するワークロール2aのプロフィールを適正に保つことができ、効果的にワークロールのサーマルクラウンを抑制することができる。
【0048】
なお、サーマルクラウンの成長にともなうワークロールの輪郭の胴長方向分布(プロフィール)の調整を行う必要がない場合には、第2のエマルション圧延油の温度制御を停止してもよい。
【0049】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の範囲内で種々変形可能である。例えば、上記実施形態においては、メガヘルツ帯域の振動を与えた第2のエマルション圧延油20を供給するノズルヘッダ17を最終圧延機スタンドの出側にのみ設けた場合を示したが、これに限らず、複数の圧延機スタンドのうちのいずれか1基または2基以上の圧延機スタンドの出側に設けることで本発明の効果を得ることができる。例えば、薄物材になるほど、そして後段圧延機にいくほど高速圧延になり、冷却時間が短くなるため、後段圧延機スタンドに第2のエマルション圧延油20を供給する手段を設置することが好ましい。ここで、「後段圧延機スタンド」は、会社や工場により必ずしも定義が一致してはいないが、本実施形態では、最終圧延機スタンドから遡って、最大で全圧延機スタンドのうちの半分、あるいは、2で割り切れない場合は、ちょうど中間の圧延機スタンドまで、と定義する。また、「最大で」であるから、上記のような半分あるいは中間の圧延機スタンドまで達しない途中の圧延機スタンドであってもよい。例えば、5つの圧延機スタンドの場合には、図1のように最終圧延機スタンドのみ、または最終圧延機スタンドとその一つ前段の圧延機だけの場合も含むという意味である。また、全ての圧延機スタンドの出側に供給するエマルション圧延油にメガヘルツ帯域の振動を与えるようにしてもよく、この場合には、循環給油系統は一つでよい。
【0050】
また、上記実施形態では、最終圧延機スタンドの出側に供給するエマルション圧延油のみを冷却したが、圧延機スタンドの入側および最終圧延機スタンド以外の出側に供給するエマルション圧延油を冷却してもよく、その場合には第2エマルション圧延油供給ライン12を経て第2のエマルション圧延油20を供給するようにしてもよい。
【0051】
さらに、メガヘルツ帯域の振動が付与されたエマルション圧延油を噴射するためのノズルの構造は上記実施形態の構造に限定されるものではない。また、メガヘルツ帯域の振動を加える目的は、ワークロールに付着した油膜を除去することであるため、ワークロール2aに対してノズルヘッダ17を複数段設置する場合は、最下段のみから超音波を加えたエマルション圧延油を供給し、上段側は通常のエマルション圧延油を供給するようにしてもよい。
【0052】
さらに、上記実施形態では、被圧延材(ストリップ)として鋼板を用いた場合について説明したが、これに限らず、ステンレス板、アルミニウム板、銅板等、他の種々の金属板に適用することができる。
【0053】
さらにまた、上記実施形態では、複数の圧延機スタンドを有する冷間タンデム圧延装置を例にとって示したが、1つの圧延機スタンドからなる冷間圧延装置にも適用可能である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1に示す全5スタンドの冷間タンデム圧延装置を用い、母材厚2.3mm、板幅850〜950mmの硬質ブリキ原板を仕上げ厚0.2mmまで、目標速度2100m/min(mpm)として100トン圧延した。圧延油は、合成エステル油をベースに動・植物油脂が添加された基油(合成エステル35%、動・植物油脂55%)に対して、油性剤、酸化防止剤がそれぞれ1質量%ずつ添加され、界面活性剤としてノニオン系界面活性剤が対油濃度で3質量%添加されているものを用いた。循環式圧延油供給系統のエマルション圧延油を、油分濃度3.0%とし、タンク内にて十分な攪拌を加えた後、平均粒径9μm、温度55℃のエマルション圧延油とした。
【0055】
実施例では、図2に示した構造のノズルヘッダ17を用い、ノズルヘッダ17からエマルション圧延油を供給した。この際に被圧延材の幅に応じてエマルション圧延油20の噴射面積を調整した。なお、上記調整時のエマルション圧延油20の温度は35℃、流量密度は12000L/m2/minで制御した。ノズルヘッダ17は三段構成とし、最下段の位置のノズルヘッダ17から5MHzの超音波を重畳したエマルション圧延油20を供給し、残りの2段には超音波を重畳しなかった。
【0056】
また、比較例1として、ノズルヘッダ17を使用しなかった場合、比較例2として、超音波を重畳しなかった場合、比較例3として、キロヘルツ帯(50kHz)の超音波を重畳した場合について、実施例と同様にして冷間圧延を実施した。
【0057】
以上のような圧延油供給を行って、100トン圧延後に抜き出した最終スタンドのワークロールのプロフィールを調査した。その調査結果を図3に示す。なお、図3では、ワークロール端部でのサーマルクラウンからの差を示している。
【0058】
図3に示すように、比較例1では通板領域をピークに太鼓状にサーマルクラウンが形成されているのに対して、比較例2ではエマルション圧延油20による抜熱によりサーマルクラウン量は低減したが、ミルにおけるロールベンディング力の制御範囲を超えていたため、形状の良好な圧延材を得ることができなかった。ロール抜出後にノズルヘッダ17を確認したが、ノズルの数箇所でエマルション圧延油20を低温化したことにより生成促進されたスカムによる閉塞が見られており、これは圧延途中から所望の流量が供給されていなかったことが原因と考えられる。結果的にノズル部での閉塞を除去するのに時間を要してしまうため、ミル停止時間が増大し、生産性に悪影響を与えた。
【0059】
比較例3では、キロヘルツ帯域の超音波重畳により、エマルション圧延油20に振動が加えられた結果、ノズルヘッダ17でのノズルのスカムによる閉塞は見られなかったが、ワークロールの表面の油膜除去には至っておらず、冷却能はほとんど向上しなかった。
【0060】
これら比較例に対して、実施例では、ノズルヘッダ17から噴射されるエマルション圧延油20にメガヘルツ帯域の超音波を重畳することにより、ワークロール表面の油膜が除去され、冷却能が向上した。その結果ワークロールへの抜熱効果が高まり、通板領域でのサーマルクラウンの上昇が抑制された。その結果、ミルの有する形状アクチュエータの範囲内で良好な鋼板形状を得ることができた。
【0061】
また、速度を変更しつつ圧延を行った際のヒートスクラッチの発生状況を表1に示す。一般的にヒートスクラッチはロールバイト内のストリップ(鋼板)とワークロールとの界面温度がある臨界温度を超えた際に発生すると言われているが、本発明を用いることにより、ワークロールでの抜熱が促進され、ヒートスクラッチの原因となるロールバイトでの界面温度上昇が抑制された結果、目標速度の2100mpmまで加速してもヒートスクラッチは未発生のままであった。一方、比較例1の場合、2100mpm以上では鋼板およびワークロールに重度のヒートスクラッチが発生した。比較例2,3においても、コイル全長に亘って数箇所の軽度のヒートスクラッチが発生した。
【0062】
以上の結果より、本発明を適用することで、循環式圧延油供給方式を用いた高速度圧延においても、ワークロールのプロフィール変化を適正に保ちつつ、ヒートスクラッチを抑制することができ、良好な鋼板性状を得られることが確認された。
【0063】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明のロール冷却方法が適用される冷間圧延装置の一例を示す概略構成図。
【図2】図1の装置に用いられるノズルヘッダの構造を示す拡大水平断面図。
【図3】実施例、比較例1〜3のロール冷却方法を行った場合の100トン圧延後に抜き出した最終スタンドのワークロールのプロフィールを調査した結果を示す図。
【図4】エマルション圧延油の概念を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0065】
1;鋼板
2a;ワークロール
2b;バックアップロール
3;潤滑用クーラントヘッダ
4;冷却用クーラントヘッダ
5;循環式圧延油供給タンク
6;ポンプ
7;圧延油供給ライン
8;回収オイルパン
9;戻り配管
10;攪拌機
12;第2エマルション供給ライン
13;超音波振動子
14;冷却装置
15;流量制御弁
16;プロセスコンピュータ
17;ノズルヘッダ
17a;スプレーノズル
18;水切りシール
19;エマルション圧延油(第1のエマルション圧延油)
20;第2のエマルション圧延油
21;第1のエマルション圧延油供給系統
22;第2のエマルション圧延油供給系統

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロールに、循環使用されるエマルション圧延油を供給して冷却する冷間圧延ロールの冷却方法であって、
前記エマルション圧延油に振動を与えることを特徴とする冷間圧延ロールの冷却方法。
【請求項2】
金属板を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロールに、循環使用される第1のエマルション圧延油を供給し、少なくとも一つのロールに、前記第1のエマルション圧延油の供給配管から分岐して、冷却手段を介した第2のエマルション圧延油を、振動を与えつつ供給することを特徴とする冷間圧延ロールの冷却方法。
【請求項3】
前記振動の周波数は、0.1MHz超30MHz以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の冷間圧延ロールの冷却方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかの冷間圧延ロールの冷却方法により冷却されたロールにより金属板を冷間圧延することを特徴とする冷間圧延方法。
【請求項5】
金属板を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロールに循環使用されるエマルション圧延油を供給する循環給油系統と、
前記循環供給されるエマルション圧延油に振動を与える加振手段と
を具備することを特徴とする冷間圧延ロールの冷却装置。
【請求項6】
金属板を冷間圧延する冷間圧延装置の圧延機スタンドのロールに循環使用される第1のエマルション圧延油を供給する第1の供給系統と、前記第1の供給系統の前記第1のエマルション圧延油の供給配管から分岐した供給配管を介して、前記ロールのうち少なくとも一つのロールに第2のエマルション圧延油を供給する第2の供給系統とを有する循環給油系統と、
前記第2の供給系統に設けられた前記第2のエマルション圧延油を冷却する冷却手段と、
前記第2の供給系統に設けられた前記第2のエマルション圧延油に振動を与える加振手段と
を具備することを特徴とする冷間圧延ロールの冷却装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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