説明

冷間圧延方法

【課題】タンデム式冷間圧延において、ノッチ部を付与した鋼板の耳割れの発生を低減することができる冷間圧延方法を提供する。
【解決手段】先行材と後行材との接合部の幅方向両エッジ部の温度を、誘導加熱装置6によって300℃〜800℃の範囲に加熱することで、当該接合部にせん断加工によってノッチ部を形成したことにより生じる残留歪を回復させる。その後、冷間タンデム圧延機7の入側で噴射するクーラントによって、上記接合部の幅方向両エッジ部の温度を100℃以下まで冷却してから圧延する。これにより、鋼板中央部とエッジ部との温度差を低減し、鋼板の幅方向の変形抵抗差を抑えた状態で、鋼板Sを圧延することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の冷間圧延方法に関し、特にタンデム式冷間圧延において珪素鋼板などの難圧延材を圧延する場合に、鋼板の接合部で生じる板破断を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属板の冷間圧延は、単スタンドでのレバースミルや複数スタンドを有するタンデム圧延機によって行っており、一般的な冷間圧延機における操業においては、室温程度、すなわち高くとも40℃程度の被圧延材を使用して圧延している。
これは、被圧延材の性質として、温度が高いほど変形抵抗が低下することは知られているものの、温度を高めることによるメリット、例えば圧延動力の低減がほとんど無視される程度であるのに対して、昇温するためのコスト的損失が非常に大きいこと、高温の被圧延材のハンドリングが困難になることなどの理由による。また、酸洗ラインと冷間圧延機とを連続化した設備において、酸洗ライン出側では、60℃程度の鋼板温度を容易に確保できるが、酸洗ラインからタンデム圧延機までの間のルーパ設備を通過する間に、10〜20℃程度の温度降下が生じることも理由として挙げられる。
【0003】
一般の冷延鋼板の圧延においては、このように室温レベルの圧延材料を圧延に供するのが普通であり、圧延中に鋼板のエッジ部が割れる、所謂耳割れも小さく操業上の大きな問題は無い。
ところが、1%以上の珪素を含有する珪素鋼板、ステンレス鋼板、高炭素鋼板などの材料においては、一般の冷延鋼板と比較して脆性材料となるため、室温で圧延加工を行うと鋼板エッジ部における耳割れが顕著になり、最悪の場合には耳割れを起点に鋼板が破断してしまう。
【0004】
そこで、この問題を解決する方法として、例えば特許文献1に記載の技術がある。この技術は、珪素鋼板の冷間圧延において、圧延機の入側にエッジヒータを設置し、誘導加熱方式により鋼板のエッジ部を60℃以上に昇温して素材の延性を向上させてから圧延することで、耳割れの発生を防止するというものである。
また、鋼板のエッジ部を誘導加熱で昇温させる方法として、例えば特許文献2に記載の技術がある。この技術は、C型のインダクタ(誘導子)を用いた一対の誘導加熱装置を用いたものである。この誘導加熱装置では、鋼板の幅方向両エッジ部をC型のインダクタで上下から挟み、電源装置で加熱コイルに高周波電流を流して発生した高周波磁束で鋼板のエッジ部に誘導電流を生じさせ、誘導電流により発生するジュール熱で鋼板のエッジ部を加熱するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−15919号公報
【特許文献2】特開平11−290931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、タンデム圧延では、連続的に搬送される先行の鋼板(先行材)の後端部と後行の鋼板(後行材)の先端部とを溶接によって接合し、鋼板を連続的に圧延する。このとき、接合部をトラッキングするために、図7に示すように、接合部αの幅方向両エッジ部にノッチ部βをせん断加工によって形成する。タンデム圧延では鋼板の接合は避けることができず、また圧延時の板厚制御などを精度良くセットアップするためには接合部のトラッキングが重要であり、ノッチ部を省略するのは困難である。
【0007】
しかしながら、せん断加工によりノッチ部を形成すると、その領域の鋼板のエッジ部にはせん断加工による歪が残留し、加工硬化によって当該エッジ部の延性が大きく低下してしまう。このように大きな加工硬化が生じたエッジ部を有する鋼板を圧延する場合、上記各特許文献に記載の冷間圧延方法を適用して例えば60℃にエッジ温度を昇温しただけでは、耳割れを十分に抑制することはできない。
そこで、本発明は、タンデム式冷間圧延において、ノッチ部を付与した鋼板の耳割れの発生を低減することができる冷間圧延方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る冷間圧延方法は、連続的に搬送される先行の鋼板の後端部と後行の鋼板の先端部とを接合し、その接合部の幅方向エッジ部に当該接合部をトラッキングするためのノッチを形成した鋼板の幅方向両エッジ部を加熱してから、冷間タンデム圧延機によって前記鋼板を圧延する冷間圧延方法であって、前記接合部の幅方向両エッジ部の温度を300℃〜800℃に加熱してから、前記冷間タンデム圧延機の入側で噴射するクーラントによって、前記接合部の幅方向両エッジ部の温度を100℃以下まで冷却し、前記冷間タンデム圧延機によって前記鋼板を圧延することを特徴としている。
【0009】
このように、鋼板の接合部のエッジ温度を300℃〜800℃の範囲に加熱するので、接合部のエッジ部にせん断加工によってノッチを形成したことに起因して当該エッジ部に歪が残留した場合であっても、その残留歪を回復してから圧延することができる。また、クーラントによって圧延噛み込み時のエッジ温度を100℃以下まで冷却してから圧延するので、接合部における鋼板中央部とエッジ部との温度差を低減し、鋼板の幅方向の変形抵抗差を抑えることができる。その結果、ノッチが形成された接合部における圧延時の耳割れを抑制することができる。
【0010】
また、上記において、前記鋼板の幅方向両エッジ部の加熱は、前記鋼板の幅方向両エッジ部を上下から挟むC型誘導子を用いた誘導加熱装置を用いて行うことを特徴としている。
これにより、冷間タンデム圧延機の圧延速度の変化に対応して、温度制御を容易に行うことができ、鋼板の幅方向両エッジ部を所望の温度に加熱することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、先行の鋼板の後端部と後行の鋼板の先端部との接合部で発生する耳割れを抑制し、板破断の発生を抑制することができる。その結果、生産性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る冷間圧延方法を実施する完全連続式タンデム圧延ラインの概略構成図である。
【図2】誘導加熱装置の概略構成を示す図である。
【図3】圧延実験で使用した圧延機を示す図である。
【図4】圧延で発生する耳割れ個数に対する噛み込み温度、熱処理条件の関係を示す図である。
【図5】加工硬化パラメータに対する熱処理温度の関係を示す図である。
【図6】珪素鋼の降伏応力に対する温度の関係を示す図である。
【図7】鋼板接合部に付与するノッチを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る冷間圧延方法を実施する完全連続式タンデム圧延ラインの概略構成図である。
図1に示すように、完全連続式タンデム圧延ライン1には、鋼板Sを払い出すペイオフリール2と、ペイオフリール2から先に払い出された鋼板S(先行材)の後端部とペイオフリール2から後で払い出された鋼板S(後行材)の先端部とを溶接によって接合する溶接機3とが設けられている。
【0014】
溶接機3で接合された鋼板Sはプレス機4に搬送され、プレス機4によって、鋼板Sの接合部の幅方向エッジ部にせん断加工によりノッチが形成される。このノッチは、接合部をトラッキングする目的で形成されるものであり、例えば図7に示すような形状をしている。プレス機4でノッチが形成された鋼板Sは、連続的に圧延機7に向けて搬送される。
圧延機7の入側にはルーパ5が設置されており、圧延速度の加減速が生じた場合においても、鋼板Sを安定的に圧延機7に供給できるようになっている。また、ルーパ5の出側であって圧延機7の入側には、先行材と後行材とを接合した鋼板Sの幅方向両エッジ部を所定温度まで加熱する誘導加熱装置6が設けられている。誘導加熱装置6の詳細については後述する。誘導加熱装置6によりエッジ部が上記所定温度まで昇温された鋼板Sは、圧延機7に搬送される。
【0015】
圧延機7は、多段(本実施形態では4台)の圧延スタンド7a〜7dを鋼板Sの搬送方向に連続的に配置して構成されており、鋼板Sを所定の板厚まで圧延する。各圧延スタンド7a〜7dの入側及び出側には、それぞれ潤滑及びロール冷却用のクーラントヘッダー8a〜8dが設置されている。
各クーラントヘッダー8a〜8dは、圧延油(クーラント)として2〜10%程度の濃度に調整された温度40〜60℃前後のエマルション油を、鋼板S及び圧延スタンド7a〜7dのロールに噴射する。
【0016】
このように冷間圧延では、潤滑及びロールの冷却のためにクーラントを使用する必要がある。このため、圧延機7の入側にて誘導加熱装置6によって鋼板Sの幅方向両エッジ部を加熱して昇温させてもクーラントによる冷却によって、圧延機7に噛み込まれる前に鋼板Sの温度は低下する。したがって、鋼板Sのエッジ部の耳割れを防止するためには、予めクーラント冷却による温度低下分を考慮し、冷却後も延性−脆性遷移温度以上の温度が確保されるように誘導加熱装置6による加熱量を制御する必要がある。
本実施形態では、予め伝熱計算によって、クーラント冷却による温度低下量をシミュレーションしておき、溶接接合部以外については、圧延噛み込み時に鋼板Sのエッジ部の温度が例えば70℃〜100℃の範囲となるように、圧延速度に応じて誘導加熱装置6による加熱量を制御する。
【0017】
一方、溶接接合部については、ノッチ形成時にせん断加工によって生じる残留歪を除去するため、誘導加熱装置6の出側における鋼板Sのエッジ部の温度が300〜800℃となるように、誘導加熱装置6による加熱量を制御する。さらに、その後のクーラント冷却によって、圧延噛み込み時に鋼板Sのエッジ部の温度が100℃以下、例えば70〜100℃となるような圧延速度を伝熱計で算出し、圧延速度を制御する。
【0018】
これにより、溶接接合部の圧延速度は、溶接接合部以外の圧延速度に比べて低下することになるが、一般に溶接接合部は破断リスクが高く、高速圧延時の板破断による設備損傷を防止するために減速操業を行う場合が多く、大きな問題とはならない。
なお、誘導加熱装置6と圧延機7の入側のクーラントヘッダーとの距離は、上記残留歪が回復できる時間が確保できる距離に設定する。
各圧延スタンド7a〜7dによって所定の板厚に圧延された鋼板Sは、テンションリール9によって巻き取られ、次工程へ搬送される。
【0019】
次に、誘導加熱装置6について詳細に説明する。
図2は、誘導加熱装置6の概略構成を示す図である。
誘導加熱装置6は、鋼板Sの幅方向両エッジ部Sa,Sbを上下から挟む一対のC型のインダクタ(C型誘導子)61a,61bを備える。これらインダクタ61a,61bのインダクタ部63a,63bには、加熱コイル62a,62bが設けられている。加熱コイル62a,62bは、上下インダクタ間を鋼板Sの幅方向両エッジ部Sa,Sbが通過する際に、これらエッジ部Sa,Sbを加熱する。
【0020】
加熱コイル62a,62bは、整合盤65を介して高周波電源66に接続されており、高周波電源66には計算ユニット67が接続されている。計算ユニット67は、鋼板Sの板厚、圧延速度及び鋼種に基づいて加熱条件を設定し、その加熱条件から高周波電源66に制御出力を指示する。
高周波電源66は、その制御出力に基づいて整合盤65を介して加熱コイル62a,62bに高周波電流を流し、高周波磁束を生じさせる。この高周波磁束により鋼板Sの幅方向両エッジ部Sa,Sbに誘導電流を生じさせ、誘導電流により発生するジュール熱で鋼板Sの幅方向両エッジ部Sa,Sbを加熱する。
【0021】
次に、本実施形態における完全連続式タンデム圧延ライン1の制御条件の導出について説明する。
先ず、せん断加工による加工硬化が圧延時の耳割れに与える影響を調査するため、以下に示す圧延実験を行った。
被圧延材としては、板厚2.0mmの珪素鋼(3.0%Si)の熱延板を1000℃で均質化焼鈍したコイルをスリット加工によって板幅200mmにしたものを用いた。圧延材の幅方向両エッジはせん断面であり、当該エッジ部はせん断変形による大きな加工硬化が生じているものとする。
【0022】
このコイルを、先ず、図3に示すリバース式の実験用圧延機100により、熱処理及び張力圧延を行う。熱処理は、圧延機102の入側に設置された誘導加熱装置101によって、ロールギャップを設けた状態で鋼板を通板させ、所定の均熱温度まで鋼板温度を上昇させた後、均熱保持時間15sec後にヘッダー103によるスプレー水冷却で冷却し巻き取る。このとき、上記均熱温度を100℃から900℃までの100℃刻みで変更し、それぞれについて実験を行う。
【0023】
巻き取られたコイルは再度入側に巻き戻され、続いて張力圧延を行う。圧延条件は、圧下率を38%、前方張力を10kg/mm2(98Mpa)、後方張力を20kg/mm2(196Mpa)とする。潤滑としては、ロール表面に、40℃における粘度が20cStの鉱油を塗布する。ロール径は310mmで、ロールバレル端部には片テーパが付与されており、そのテーパ長さは65mm、テーパ深さは直径あたり0.325mmとしている。
【0024】
圧延時にはWR(ワークロール)をシフトさせ、ロールテーパ部が鋼板エッジ部から40mm板幅中央に入るように設定する。このとき、圧延時の鋼板の噛み込み温度を20℃から100℃までの20℃刻みで変更し、それぞれについて実験を行う。
耳割れの評価は、圧延後の鋼板長さ200mmあたりに発生している耳割れの個数を測定することで行う。
図4は、圧延時の噛み込み温度に対する耳割れ個数の関係を熱処理条件毎に示した図である。
【0025】
せん断後、熱処理を行わずに圧延を実施したものでは、噛み込み温度が高くなるにつれ耳割れ個数が僅かに低減するものの、100℃まで噛み込み時の鋼板温度を上昇させても耳割れが比較的多く発生している。これは、鋼板のエッジ部に大きな加工硬化が生じている場合には、熱処理を行わないと、噛み込み時の鋼板温度を上昇させても十分な耳割れ抑制効果が得られないことを示している。
【0026】
また、熱処理温度が100℃及び200℃での耳割れ個数は、熱処理を行わない場合とほとんど変わらない。一方、熱処理温度を300℃以上にすると、耳割れ個数は熱処理を行わない場合と比較して低減し、その効果は熱処理温度が高いほど大きいことがわかる。特に、熱処理温度を700℃以上とし、噛み込み温度を80℃以上とすることで、耳割れの発生を完全に防止することができる。
【0027】
図5は、せん断加工での加工硬化領域の熱処理による硬度変化を調査した結果である。
ここでは、熱処理による硬度変化をビッカース硬度測定によって調査し、加工硬化量を評価するパラメータとしてΔHvを用いて、熱処理温度に対するΔHvの関係を示している。パラメータΔHvは、鋼板エッジ部から0.15mmの位置(加工硬化域)と鋼板エッジ部から10mmの位置のビッカース硬度の差である。
【0028】
ΔHvは加工硬化が大きいほど大きい値を示すものであり、せん断ままでのΔHvの値は60である。熱処理温度100℃,200℃では、ΔHvの値はせん断ままでの値と変わらないが、300℃以上の熱処理を加えた場合、熱処理温度が高いほどΔHvの値は60より小さくなっていき、残留歪が回復していることがわかる。また、熱処理温度800℃でΔHvは0となり、900℃の熱処理を行っても、その効果は熱処理温度800℃の場合と変わらないこともわかる。
そのため、本実施形態では、誘導加熱装置6による溶接接合部の加熱温度の下限を300℃、上限を800℃としている。この温度範囲で鋼板エッジ部を加熱することにより、ノッチ形成のためのせん断加工によって導入された残留歪を回復させることができる。その結果、その後の圧延における耳割れの発生を抑制することができる。
【0029】
ところで、実際の操業においては、前述のようにエッジヒータで鋼板のエッジ部を高温まで加熱した場合、鋼板の幅方向で大きな温度分布を有することになり、この温度分布によって生じる変形抵抗の差によって鋼板中央部とエッジ部とで伸び差が生じ、圧延形状が悪化してしまう。通常の冷間圧延では、一般に圧延時の圧延荷重、圧延動力を低減するために、潤滑剤として鉱物油、天然油脂、合成エステルなどの不水溶性油剤(圧延油)を界面活性剤で水に分解、希釈化(乳化)した温度40〜60℃程度のエマルションを圧延スタンドの入側にて鋼板にスプレーしており、鋼板はエマルションとの接触によって冷却される。そこで、この冷却後に鋼板の幅方向の変形抵抗分布が10%程度の範囲内になるように、圧延機噛み込み温度を設定する。
【0030】
図6は、図4の実験で使用した珪素鋼の降伏応力の温度依存性を引張試験で調査した結果である。
この図6からも明らかなように、温度の上昇に伴い降伏応力が低下(すなわち、変形抵抗が減少)していることがわかる。圧延形状を良好に保つためには、鋼板中央部とエッジ部とで変形抵抗差が10%以下となることが好ましく、具体的には、接合部の幅方向両エッジ部について、前述のスプレーでの冷却後の温度を100℃以下とする。
なお、エマルションとの接触によって鋼板中央部はほぼエマルションと等しい温度(40〜60℃)になるため、本実施形態では、耳割れ防止の観点から、エマルションによる冷却後(圧延機噛み込み時)の鋼板エッジ部の温度範囲を、例えば70〜100℃としている。
【0031】
このように、本実施形態では、溶接接合部については、誘導加熱装置6の出側での鋼板のエッジ温度が300〜800℃となるように、誘導加熱装置6の出力を制御すると共に、圧延機噛み込み時の鋼板エッジ部の温度が例えば70〜100℃となるように、圧延速度を制御する。また、溶接接合部以外の領域については、予め設定した所定の圧延速度において、圧延機噛み込み時の鋼板エッジ部の温度が例えば70〜100℃となるように、誘導加熱装置6の出力を制御する。
【0032】
(実施例)
図1に示す完全連続式タンデム圧延ラインにおいて、Si含有量3.0%以上の珪素鋼板の圧延を行うに際し、圧延機の入側に設置された誘導加熱装置の制御方法を変更して圧延実験を行った。
1つは比較例で、鋼板の溶接接合部と溶接接合部以外とで誘導加熱装置の制御方法を変更せず、何れの場合も圧延機噛み込み時に鋼板エッジ部の温度が70〜100℃の範囲となるように誘導加熱装置の出力を制御した。
【0033】
残りの3つは実施例で、鋼板の溶接接合部の近傍では、誘導加熱装置によって誘導加熱装置出側の鋼板エッジ部の温度を300℃、500℃、700℃までそれぞれ昇温し、その後、圧延機入側のクーラント冷却によって鋼板エッジ部の温度が70〜100℃の範囲になるように、圧延速度を制御した。また、鋼板の溶接接合部以外の領域では、圧延機入側のクーラント冷却によって鋼板エッジ部の温度が70〜100℃の範囲になるように、誘導加熱装置の出力を制御した。
上記の方法でそれぞれ300本のコイルの圧延を行い、圧延時の破断発生率を調査した。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
表1を参照すると、比較例では圧延時の破断発生率が3.0%であるのに対し、誘導加熱装置出側の鋼板エッジ部の温度が300℃の場合(実施例1)では2.2%、500℃の場合(実施例2)では1.1%、700℃の場合(実施例3)では0.5%となっている。このように、実施例1〜3における圧延時の破断発生率は、比較例における圧延時の破断発生率より低い値となっている。
【0036】
このように、本実施形態では、完全連続式タンデム圧延機を用いて鋼板を圧延するに際し、先行材と後行材との溶接接合部におけるエッジ部を圧延機の入側に配置した誘導加熱装置で300〜800℃に加熱する。これにより、溶接接合部のトラッキングのためにノッチを形成した際に当該接合部のエッジ部に生じた残留歪を回復させてから圧延することができる。また、このとき、クーラントによって圧延噛み込み時のエッジ温度を100℃以下に冷却してから圧延するので、当該接合部の鋼板中央部とエッジ部との温度差を低減し、鋼板の幅方向の変形抵抗差を抑えることができる。
【0037】
したがって、タンデム式冷間圧延において、ノッチが形成された溶接接合部で耳割れが発生するのを効果的に抑制することができる。そのため、鋼板の破断などの問題を回避することができ、生産性を向上させることができる。
さらに、溶接接合部以外の領域についても、クーラントによる温度低下量を考慮して、誘導加熱装置でエッジ部を加熱してから圧延を行う。したがって、珪素鋼板などの難圧延材を圧延する場合でも耳割れの発生を抑制することができる。
また、鋼板エッジ部の加熱を、C型誘導子を用いた誘導加熱装置で行うため、圧延機の圧延速度の変化に対応して温度制御を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0038】
1…完全連続式タンデム圧延ライン、2…ペイオフリール、3…溶接機、4…プレス機、5…ルーパ、6…誘導加熱装置、7…圧延機、7a〜7d…圧延スタンド、8a〜8d…クーラントヘッダー、61a,61b…インダクタ、62a,62b…加熱コイル、65…整合盤、66…高周波電源、67…計算ユニット、S…鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される先行の鋼板の後端部と後行の鋼板の先端部とを接合し、その接合部の幅方向エッジ部に当該接合部をトラッキングするためのノッチ部を形成した鋼板の幅方向両エッジ部を加熱してから、冷間タンデム圧延機によって前記鋼板を圧延する冷間圧延方法であって、
前記接合部の幅方向両エッジ部の温度を300℃〜800℃に加熱してから、前記冷間タンデム圧延機の入側で噴射するクーラントによって、前記接合部の幅方向両エッジ部の温度を100℃以下まで冷却し、前記冷間タンデム圧延機によって前記鋼板を圧延することを特徴とする冷間圧延方法。
【請求項2】
前記鋼板の幅方向両エッジ部の加熱は、前記鋼板の幅方向両エッジ部を上下から挟むC型誘導子を用いた誘導加熱装置を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の冷間圧延方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate