冷間成形角形鋼管の変形状態評価方法
【課題】曲げを受けた際に破断で終局を迎える、幅厚比の小さい冷間成形角形鋼管が終局変形状態に達したかどうかを判定する変形状態評価方法を提供する。
【解決手段】曲げが作用した際の前記冷間成形角形鋼管各部位の応力ーひずみ関係をFEM解析により求め、局所ひずみが最も早く進行する部位を最危険部位と見做して、当該最危険部位における相当ひずみが、素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定する。
FEM解析を行う際、前記冷間成形角形鋼管の溶接熱影響部における応力ーひずみ関係は、当該溶接熱影響部の硬さ試験結果と母材部の応力ーひずみ関係を用いて決定する。
【解決手段】曲げが作用した際の前記冷間成形角形鋼管各部位の応力ーひずみ関係をFEM解析により求め、局所ひずみが最も早く進行する部位を最危険部位と見做して、当該最危険部位における相当ひずみが、素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定する。
FEM解析を行う際、前記冷間成形角形鋼管の溶接熱影響部における応力ーひずみ関係は、当該溶接熱影響部の硬さ試験結果と母材部の応力ーひずみ関係を用いて決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げを受けた際に破断で終局を迎える、幅厚比の小さい冷間成形角形鋼管が終局変形状態に達したかどうかを判定する変形状態評価方法に関し、特に国土交通省住宅局建築指導課、建築物の構造関係技術基準解説書 2007年版、全国官報販売協同組合(ISBN:978−4−915392−09−2)、200805に記載されているFAランクに属する断面(幅厚比33×√(235/(素材の設計基準強度))以下)を有する冷間成形角形鋼管に適用して好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の構造関係技術基準解説書(2007年版)第6章保有水平耐力計算等の構造計算には、架構の変形能力は、接合部が破断しない限りにおいて、構成部材の変形能力は座屈によって限界付けられていると記載され、部材の終局が座屈となる場合の、部材の塑性変形能力を構造特性係数Dsであらわし、部材寸法と変形能力の関係に基づき、筋かいの有無や種別および柱及びはりの種別によってその数値を定めている。
【0003】
しかし、地震の水平力に対して、建築物や部材が実際に限界状態にあるかどうかの判定は、限界塑性率(破断時における塑性率(部材の変形角と降伏時の変形角の比))や、建築物の層間変形角を限界値と比較しなければならないところ、正確な判定は困難とされている。
【0004】
その理由として、国土交通省から部材の限界変形角を求める数式が告示(平12建告第1457号第3)されているものの、一般的には限界塑性率や変形角を求めることは困難で、得られたとしても安定した値とならない。なお、部材の変形角や塑性率だけで限界状態を判定すること自体が必ずしも妥当でないとの考え方もある。
【0005】
一方、柱梁剛節架構の限界状態が、部材の座屈でなく、柱梁接合部の破断で終了する場合の判定指針は明らかにされておらず、その理由として、構造物の応力やひずみとして実験値に近似する値を得る重要な手法であるFEM解析が、部材の破断現象を予測することに必ずしも適当でないことが挙げられている。
【0006】
FEM解析は構造物の応力やひずみとして実験値に近似する値を得る重要な手法として種々の構造物の応力解析に利用されているが(例えば、非特許文献1、2)、部材の破断現象の解析を取り扱った先行文献はない。例えば、特許文献1〜3は、FEM解析が、計算量が膨大で結果を得るまでに長時間を要することを解決するため、FEM解析を行わずに所望する部位の応力やひずみを推定する方法を提案するもので、部材の破断現象の解析への適用を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−81134号公報
【特許文献2】特開2008−31818号公報
【特許文献3】特開2008−31819号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】上場輝康、径厚比の小さい高強度円形鋼管の短柱圧縮挙動、日本建築学会構造系論文集(507)、123−129、19980530
【非特許文献2】下野直人ら、ロングスティフナー形円形鋼管コンクリート柱・梁フランジ接合部の単調引張試験、日本建築学会大会学術講演概要集 1998年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
FEM解析で破断現象をシミュレートしようとすると、「応力−ひずみ関係で応力がピークに達した後の負勾配時の挙動」や「急激な断面の変化」を再現することが極めて困難で、また、破断現象に先行して生じる、き裂の発生をシミュレートすることも難しく、き裂先端部の応力状態や伝播経路の推定、素材靭性の影響など理論的に推定することも困難とされている。
【0010】
そこで、本発明は、冷間成形角形鋼管の破断現象をFEM解析で直接シミュレーションして限界変形能力を求めるのでなく、FEM解析により破断が予想される部位の応力ーひずみ関係を求めて、そのひずみ量から終局変形状態にあることを判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、破断で終局を迎えると考えられる、幅厚比が33×√(235/(素材の設計基準強度))以下の冷間成形角形鋼管からなる部材について、部材(冷間成形角形鋼管)全体や部材における溶接部の形状を忠実に再現してFEM解析を行い、部材の母材部、前記母材の溶接熱影響部および溶接材料の応力−ひずみ関係を再現し、冷間成形角形鋼管からなる部材の曲げ破断実験結果と比較した。
【0012】
その結果、部材の母材部、前記母材の溶接熱影響部および溶接金属部のそれぞれについて求めた応力ーひずみ関係において、ひずみが最も早く進行する部分を最危険部位とし、相当ひずみが、当該最危険部位を構成する素材試験での応力ーひずみ関係における一様伸びに達する時点を部材変形の終局時と判断すれば、実機部材の曲げ破断実験における破断位置と精度よく対応するという知見を得た。
【0013】
本発明は、上記知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.曲げにより破断する冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法であって、曲げが作用した際の前記冷間成形角形鋼管各部位の応力ーひずみ関係をFEM解析により求め、局所ひずみが最も早く進行する部位を最危険部位と見做して、当該最危険部位における相当ひずみが、素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定することを特徴とする冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法。
2.FEM解析を行う際、前記冷間成形角形鋼管の溶接熱影響部における応力ーひずみ関係を、当該溶接熱影響部の硬さ試験結果と母材部の応力ーひずみ関係を用いて決定することを特徴とする1記載の冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、曲げが作用した際の冷間成形角形鋼管の変形状態を、多くの時間と費用を要する実物大試験体による試験を行わずに、判定可能で、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】曲げ試験機を説明する図。
【図2】試験体1の構造を模式的に示す図で、(a)は試験体1の側面図、(b)は試験体1の中央部の断面図((a)のA−A断面図)。
【図3】図2に示す試験体1のFEM解析モデルを示す図。
【図4】図3に示したFEM解析モデルにおける冷間成形角型鋼管と通しダイアフラムの溶接部の拡大図。
【図5】鋼管母材(平板部・角部)、溶接部DEPOの各要素における応力−ひずみ関係を示す図。
【図6】溶接部の硬さ試験結果の一例を示す図。
【図7】溶接部の硬さ試験結果を用いた強度推定結果を踏まえた、溶接熱影響部の応力−ひずみ関係の設定方法を説明する図。
【図8】図2の試験体1において特定された最危険部位14を示す図。
【図9】鋼管断面における、図8に示した最危険部位14の拡大図。
【図10】実施例の実機試験結果とFEM解析結果の相関を示す図。
【図11】本発明のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、FEM解析により冷間成形角形鋼管に曲げ応力が作用した際に、局所ひずみが最も早く進行する部位を特定して、最危険部位とし、当該最危険部位における相当ひずみが、素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定することを特徴とする。以下、柱を模擬した試験体を対象に本発明を詳細に説明する。
【0017】
図11は、本発明の手順を示すフロー図で、まず、FEM解析の対象となる部材を、溶接部形状を含めて、各要素にメッシュ分割する(STEP1)。
【0018】
図2に本発明の説明に用いる試験体1の構造を模式的に示す(a)は試験体1の側面図、(b)は試験体1の中央部の断面図((a)のA−A断面図)を示す。試験体1は、冷間成形角形鋼管を本体とし、その中央部に通しダイアフラムを2枚溶接して、実構造の柱と同様の形状を再現している。
【0019】
図3は、図2に示す試験体1のFEM解析モデル、図4は、図3に示したFEM解析モデルにおける冷間成形角形鋼管と通しダイアフラムの溶接部の拡大図を示し、鋼管母材4に ダイヤフラム5が取り付けられ、取り付け部において溶接部は溶接部(DEPO)、溶接熱影響部6で構成される。母材とダイヤフラムの取り付け部は裏当て金7付溶接されている。
【0020】
FEM解析モデルは試験体の対称性を利用してその一部分について作成しても良い。図3に示した試験体1のFEM解析モデルは、試験体1が上下左右対称であることより、1/4解析モデルとした。溶接部をFEM解析モデル化する際は、溶接部における応力集中部、例えば、アンダーカットが要素(メッシュ)として正確に再現されるように実際の試験体における溶接部の形状を3次元レーザ形状測定装置などで計測してモデル化する。
【0021】
次にFEM解析により、曲げ応力作用時における各要素(メッシュ)毎の応力―ひずみ関係より、曲げ応力の増大に伴う、ひずみの進行速度を各要素(メッシュ)で比較し(STEP2)、最もひずみの増大が大きい、すなわち、変形の進行速度が最も速い箇所を最危険部位とする(STEP3)。図8に図2の試験体1において特定された最危険部位14を、図9に鋼管断面における最危険部位14の拡大図を示す。
【0022】
最危険部位を判定する際の各要素における応力―ひずみ関係は、予め、当該要素を構成する素材について引張試験を行って求めておく。なお、FEM解析で用いる応力―ひずみ関係は、公称応力―公称ひずみ関係でなく、公称応力―公称ひずみ関係から換算して求めた真応力―真ひずみ関係とする。
【0023】
図5は鋼管母材(平板部・角部)、溶接部DEPOの各要素における応力−ひずみ関係を示す図で、図において応力−ひずみ線9は鋼管母材(平板部)、応力−ひずみ線10は鋼管母材(角部)、応力−ひずみ線11は溶接部DEPOの各要素における応力−ひずみ関係を示す。
【0024】
溶接熱影響部は実際の試験体における領域が狭く、引張試験片を採取して応力−ひずみ関係を求めることができないため、硬さと引張り強さの相関関係から応力―ひずみ関係を求める。
【0025】
図6に溶接部の硬さ試験結果の一例を示す。図の硬さ試験結果は母材の硬さで基準化した結果を示す。硬さ換算表(SAE−J−417)で規定する線形性(ビッカース硬さの3倍が素材の強度)より、溶接熱影響部は母材よりも「ビッカース硬さ」が平均16%低下しているので、溶接熱影響部の「強度」は母材強度より平均16%低下しているとみなすことが可能である。
【0026】
図7に強度推定結果を踏まえた、溶接熱影響部の応力−ひずみ関係の設定方法を示す。
説明では、溶接熱影響部での硬さの低下率をαと定義し、降伏耐力をYS、強度をTS、応力−ひずみ関係の曲線をSSカーブと呼ぶ。
(1)応力が、母材YS×(1−α)×0.6(図中、点A)までは母材SSカーブ9を使用する。
(2)母材SSカーブのひずみをそのままとし、応力×(1−α)によってTSの低い曲線12を作成する。
(3)母材SSカーブの傾きで0.2%オフセットの直線13が曲線12と交差する点を点Bと定める。
(4)点Aと点Bをスプライン補間によって補間する。
(5)原点―点A―点Bを結び、点B以降は曲線12と重なる曲線を溶接熱影響部のSSカーブとする。
【0027】
上述した方法によらず、溶接熱影響部の再現熱サイクル試験片を用いて引張り試験を行い、直接、応力―ひずみ関係を求めても良い。
【0028】
次に、最危険部位と特定された要素(メッシュ)についての、FEM解析でひずみが、素材の引張り試験での一様伸びに達したかどうかを判定し(STEP4)、一様伸びとなった場合を終局と判断する。
【実施例】
【0029】
図2に示した冷間成形角形鋼管の試験体1を対象に実機実験とFEM解析を行い終局時の変形を比較した。試験体1とする冷間成形角形鋼管は、破断で終局を迎える、幅厚比が33×√(235/(素材の設計基準強度))以下の各部の寸法を有する。
【0030】
図1に実機試験に用いた曲げ試験機3の構造を示す。曲げ試験は、試験体1の両端をピン2で支持し、中央部を載荷し破壊するまでの変形性能を評価した。
【0031】
表1に試験体1の概略寸法と試験結果を、図10に、実験試験結果とFEM解析結果の相関を示す。図より、本発明により、破断で終局を迎える幅厚比の小さい冷間成形角形鋼管の終局時変形性能が精度よく予測できていることが認められる。
【0032】
【表1】
【符号の説明】
【0033】
1 試験体
2 ピン
3 曲げ試験機
4 鋼管母材
5 ダイヤフラム
6 溶接部(DEPO)
7 溶接熱影響部
8 裏当て金
9、10、11、12、 応力―ひずみ線
13 直線
14 最危険部位
【技術分野】
【0001】
本発明は、曲げを受けた際に破断で終局を迎える、幅厚比の小さい冷間成形角形鋼管が終局変形状態に達したかどうかを判定する変形状態評価方法に関し、特に国土交通省住宅局建築指導課、建築物の構造関係技術基準解説書 2007年版、全国官報販売協同組合(ISBN:978−4−915392−09−2)、200805に記載されているFAランクに属する断面(幅厚比33×√(235/(素材の設計基準強度))以下)を有する冷間成形角形鋼管に適用して好適なものに関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の構造関係技術基準解説書(2007年版)第6章保有水平耐力計算等の構造計算には、架構の変形能力は、接合部が破断しない限りにおいて、構成部材の変形能力は座屈によって限界付けられていると記載され、部材の終局が座屈となる場合の、部材の塑性変形能力を構造特性係数Dsであらわし、部材寸法と変形能力の関係に基づき、筋かいの有無や種別および柱及びはりの種別によってその数値を定めている。
【0003】
しかし、地震の水平力に対して、建築物や部材が実際に限界状態にあるかどうかの判定は、限界塑性率(破断時における塑性率(部材の変形角と降伏時の変形角の比))や、建築物の層間変形角を限界値と比較しなければならないところ、正確な判定は困難とされている。
【0004】
その理由として、国土交通省から部材の限界変形角を求める数式が告示(平12建告第1457号第3)されているものの、一般的には限界塑性率や変形角を求めることは困難で、得られたとしても安定した値とならない。なお、部材の変形角や塑性率だけで限界状態を判定すること自体が必ずしも妥当でないとの考え方もある。
【0005】
一方、柱梁剛節架構の限界状態が、部材の座屈でなく、柱梁接合部の破断で終了する場合の判定指針は明らかにされておらず、その理由として、構造物の応力やひずみとして実験値に近似する値を得る重要な手法であるFEM解析が、部材の破断現象を予測することに必ずしも適当でないことが挙げられている。
【0006】
FEM解析は構造物の応力やひずみとして実験値に近似する値を得る重要な手法として種々の構造物の応力解析に利用されているが(例えば、非特許文献1、2)、部材の破断現象の解析を取り扱った先行文献はない。例えば、特許文献1〜3は、FEM解析が、計算量が膨大で結果を得るまでに長時間を要することを解決するため、FEM解析を行わずに所望する部位の応力やひずみを推定する方法を提案するもので、部材の破断現象の解析への適用を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−81134号公報
【特許文献2】特開2008−31818号公報
【特許文献3】特開2008−31819号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】上場輝康、径厚比の小さい高強度円形鋼管の短柱圧縮挙動、日本建築学会構造系論文集(507)、123−129、19980530
【非特許文献2】下野直人ら、ロングスティフナー形円形鋼管コンクリート柱・梁フランジ接合部の単調引張試験、日本建築学会大会学術講演概要集 1998年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
FEM解析で破断現象をシミュレートしようとすると、「応力−ひずみ関係で応力がピークに達した後の負勾配時の挙動」や「急激な断面の変化」を再現することが極めて困難で、また、破断現象に先行して生じる、き裂の発生をシミュレートすることも難しく、き裂先端部の応力状態や伝播経路の推定、素材靭性の影響など理論的に推定することも困難とされている。
【0010】
そこで、本発明は、冷間成形角形鋼管の破断現象をFEM解析で直接シミュレーションして限界変形能力を求めるのでなく、FEM解析により破断が予想される部位の応力ーひずみ関係を求めて、そのひずみ量から終局変形状態にあることを判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、破断で終局を迎えると考えられる、幅厚比が33×√(235/(素材の設計基準強度))以下の冷間成形角形鋼管からなる部材について、部材(冷間成形角形鋼管)全体や部材における溶接部の形状を忠実に再現してFEM解析を行い、部材の母材部、前記母材の溶接熱影響部および溶接材料の応力−ひずみ関係を再現し、冷間成形角形鋼管からなる部材の曲げ破断実験結果と比較した。
【0012】
その結果、部材の母材部、前記母材の溶接熱影響部および溶接金属部のそれぞれについて求めた応力ーひずみ関係において、ひずみが最も早く進行する部分を最危険部位とし、相当ひずみが、当該最危険部位を構成する素材試験での応力ーひずみ関係における一様伸びに達する時点を部材変形の終局時と判断すれば、実機部材の曲げ破断実験における破断位置と精度よく対応するという知見を得た。
【0013】
本発明は、上記知見を基に更に検討を加えてなされたもので、すなわち、本発明は、
1.曲げにより破断する冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法であって、曲げが作用した際の前記冷間成形角形鋼管各部位の応力ーひずみ関係をFEM解析により求め、局所ひずみが最も早く進行する部位を最危険部位と見做して、当該最危険部位における相当ひずみが、素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定することを特徴とする冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法。
2.FEM解析を行う際、前記冷間成形角形鋼管の溶接熱影響部における応力ーひずみ関係を、当該溶接熱影響部の硬さ試験結果と母材部の応力ーひずみ関係を用いて決定することを特徴とする1記載の冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、曲げが作用した際の冷間成形角形鋼管の変形状態を、多くの時間と費用を要する実物大試験体による試験を行わずに、判定可能で、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】曲げ試験機を説明する図。
【図2】試験体1の構造を模式的に示す図で、(a)は試験体1の側面図、(b)は試験体1の中央部の断面図((a)のA−A断面図)。
【図3】図2に示す試験体1のFEM解析モデルを示す図。
【図4】図3に示したFEM解析モデルにおける冷間成形角型鋼管と通しダイアフラムの溶接部の拡大図。
【図5】鋼管母材(平板部・角部)、溶接部DEPOの各要素における応力−ひずみ関係を示す図。
【図6】溶接部の硬さ試験結果の一例を示す図。
【図7】溶接部の硬さ試験結果を用いた強度推定結果を踏まえた、溶接熱影響部の応力−ひずみ関係の設定方法を説明する図。
【図8】図2の試験体1において特定された最危険部位14を示す図。
【図9】鋼管断面における、図8に示した最危険部位14の拡大図。
【図10】実施例の実機試験結果とFEM解析結果の相関を示す図。
【図11】本発明のフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、FEM解析により冷間成形角形鋼管に曲げ応力が作用した際に、局所ひずみが最も早く進行する部位を特定して、最危険部位とし、当該最危険部位における相当ひずみが、素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定することを特徴とする。以下、柱を模擬した試験体を対象に本発明を詳細に説明する。
【0017】
図11は、本発明の手順を示すフロー図で、まず、FEM解析の対象となる部材を、溶接部形状を含めて、各要素にメッシュ分割する(STEP1)。
【0018】
図2に本発明の説明に用いる試験体1の構造を模式的に示す(a)は試験体1の側面図、(b)は試験体1の中央部の断面図((a)のA−A断面図)を示す。試験体1は、冷間成形角形鋼管を本体とし、その中央部に通しダイアフラムを2枚溶接して、実構造の柱と同様の形状を再現している。
【0019】
図3は、図2に示す試験体1のFEM解析モデル、図4は、図3に示したFEM解析モデルにおける冷間成形角形鋼管と通しダイアフラムの溶接部の拡大図を示し、鋼管母材4に ダイヤフラム5が取り付けられ、取り付け部において溶接部は溶接部(DEPO)、溶接熱影響部6で構成される。母材とダイヤフラムの取り付け部は裏当て金7付溶接されている。
【0020】
FEM解析モデルは試験体の対称性を利用してその一部分について作成しても良い。図3に示した試験体1のFEM解析モデルは、試験体1が上下左右対称であることより、1/4解析モデルとした。溶接部をFEM解析モデル化する際は、溶接部における応力集中部、例えば、アンダーカットが要素(メッシュ)として正確に再現されるように実際の試験体における溶接部の形状を3次元レーザ形状測定装置などで計測してモデル化する。
【0021】
次にFEM解析により、曲げ応力作用時における各要素(メッシュ)毎の応力―ひずみ関係より、曲げ応力の増大に伴う、ひずみの進行速度を各要素(メッシュ)で比較し(STEP2)、最もひずみの増大が大きい、すなわち、変形の進行速度が最も速い箇所を最危険部位とする(STEP3)。図8に図2の試験体1において特定された最危険部位14を、図9に鋼管断面における最危険部位14の拡大図を示す。
【0022】
最危険部位を判定する際の各要素における応力―ひずみ関係は、予め、当該要素を構成する素材について引張試験を行って求めておく。なお、FEM解析で用いる応力―ひずみ関係は、公称応力―公称ひずみ関係でなく、公称応力―公称ひずみ関係から換算して求めた真応力―真ひずみ関係とする。
【0023】
図5は鋼管母材(平板部・角部)、溶接部DEPOの各要素における応力−ひずみ関係を示す図で、図において応力−ひずみ線9は鋼管母材(平板部)、応力−ひずみ線10は鋼管母材(角部)、応力−ひずみ線11は溶接部DEPOの各要素における応力−ひずみ関係を示す。
【0024】
溶接熱影響部は実際の試験体における領域が狭く、引張試験片を採取して応力−ひずみ関係を求めることができないため、硬さと引張り強さの相関関係から応力―ひずみ関係を求める。
【0025】
図6に溶接部の硬さ試験結果の一例を示す。図の硬さ試験結果は母材の硬さで基準化した結果を示す。硬さ換算表(SAE−J−417)で規定する線形性(ビッカース硬さの3倍が素材の強度)より、溶接熱影響部は母材よりも「ビッカース硬さ」が平均16%低下しているので、溶接熱影響部の「強度」は母材強度より平均16%低下しているとみなすことが可能である。
【0026】
図7に強度推定結果を踏まえた、溶接熱影響部の応力−ひずみ関係の設定方法を示す。
説明では、溶接熱影響部での硬さの低下率をαと定義し、降伏耐力をYS、強度をTS、応力−ひずみ関係の曲線をSSカーブと呼ぶ。
(1)応力が、母材YS×(1−α)×0.6(図中、点A)までは母材SSカーブ9を使用する。
(2)母材SSカーブのひずみをそのままとし、応力×(1−α)によってTSの低い曲線12を作成する。
(3)母材SSカーブの傾きで0.2%オフセットの直線13が曲線12と交差する点を点Bと定める。
(4)点Aと点Bをスプライン補間によって補間する。
(5)原点―点A―点Bを結び、点B以降は曲線12と重なる曲線を溶接熱影響部のSSカーブとする。
【0027】
上述した方法によらず、溶接熱影響部の再現熱サイクル試験片を用いて引張り試験を行い、直接、応力―ひずみ関係を求めても良い。
【0028】
次に、最危険部位と特定された要素(メッシュ)についての、FEM解析でひずみが、素材の引張り試験での一様伸びに達したかどうかを判定し(STEP4)、一様伸びとなった場合を終局と判断する。
【実施例】
【0029】
図2に示した冷間成形角形鋼管の試験体1を対象に実機実験とFEM解析を行い終局時の変形を比較した。試験体1とする冷間成形角形鋼管は、破断で終局を迎える、幅厚比が33×√(235/(素材の設計基準強度))以下の各部の寸法を有する。
【0030】
図1に実機試験に用いた曲げ試験機3の構造を示す。曲げ試験は、試験体1の両端をピン2で支持し、中央部を載荷し破壊するまでの変形性能を評価した。
【0031】
表1に試験体1の概略寸法と試験結果を、図10に、実験試験結果とFEM解析結果の相関を示す。図より、本発明により、破断で終局を迎える幅厚比の小さい冷間成形角形鋼管の終局時変形性能が精度よく予測できていることが認められる。
【0032】
【表1】
【符号の説明】
【0033】
1 試験体
2 ピン
3 曲げ試験機
4 鋼管母材
5 ダイヤフラム
6 溶接部(DEPO)
7 溶接熱影響部
8 裏当て金
9、10、11、12、 応力―ひずみ線
13 直線
14 最危険部位
【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲げにより破断する冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法であって、曲げが作用した際の前記冷間成形角形鋼管各部位の応力ーひずみ関係をFEM解析により求め、局所ひずみが最も早く進行する部位を最危険部位と見做して、当該最危険部位における相当ひずみが、素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定することを特徴とする冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法。
【請求項2】
FEM解析を行う際、前記冷間成形角形鋼管の溶接熱影響部における応力ーひずみ関係は、当該溶接熱影響部の硬さ試験結果と母材部の応力ーひずみ関係を用いて決定することを特徴とする請求項1記載の冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法。
【請求項1】
曲げにより破断する冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法であって、曲げが作用した際の前記冷間成形角形鋼管各部位の応力ーひずみ関係をFEM解析により求め、局所ひずみが最も早く進行する部位を最危険部位と見做して、当該最危険部位における相当ひずみが、素材の一様伸びに達した時点を終局変形状態と判定することを特徴とする冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法。
【請求項2】
FEM解析を行う際、前記冷間成形角形鋼管の溶接熱影響部における応力ーひずみ関係は、当該溶接熱影響部の硬さ試験結果と母材部の応力ーひずみ関係を用いて決定することを特徴とする請求項1記載の冷間成形角形鋼管の変形状態判定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−117995(P2012−117995A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269959(P2010−269959)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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