凍結乾燥方法、組成物、及びキット
凍結乾燥方法、特にATIIIを含む製剤を凍結乾燥する方法が提供される。その方法により調製された組成物も提供される。当該組成物及び/又は凍結乾燥製品を含むキットも提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、特に少なくとも1の活性成分を含む水性医薬製剤、を凍結乾燥する方法、並びにそれにより製造された組成物に関し、特に組成物、キット、そして抗トロンビン−III(AT III)を凍結乾燥する方法に関する。
【0002】
本出願は、2009年11月24日に出願された米国出願第61/264,014号の利益を主張し、当該出願の全てを本明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
凍結乾燥は、活性成分を、より固体の形態の医薬品に調製するための一般的に用いられる方法である。例えば、血漿中に通常存在するα2−糖タンパク質であり、そしてトロンビンの血漿阻害剤であるAT IIIなどの活性成分は、溶液中では比較的低い安定性しか有しないことが示されていた。したがって、AT IIIは、凍結乾燥製剤に加工されていた。
【0004】
凍結乾燥は、化学反応や生物成長がもはや生じることができないレベルへと製剤中の溶媒成分を取り除くことにより、活性成分の分解を低下又は抑制すると考えられていた。さらに、溶媒の除去が、分子の移動度を低下し、分解反応の可能性を低下させると信じられている。また、ケーキ構造を支える固体マトリクスを提供するために、凍結乾燥製品において一般的に用いられる賦形剤(例えば、アミノ酸及び塩)を結晶化させて、できる限り完全に結晶化を行うことが望まれていた。しかしながら、水性医薬製剤を凍結乾燥する従来の多数の試みによっては、満足行く程度の結晶化を達成することができなかった。例えば、典型的な凍結乾燥プロトコルの様々な凍結及び/又はアニーリング工程自体、結晶化を促進するには不十分であることが示されていた。さらに、ある結晶化賦形剤(例えば、アラニンや塩化ナトリウム)の存在が、いずれかの賦形剤の結晶化を抑制又は低減し、それにより結晶化の程度を制限しうるということが示唆されている。
【0005】
水性医薬製剤を凍結乾燥するいくつもの試みがなされている一方で、有効な凍結乾燥法及びそれにより調製される組成物に対する必要性が残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1の態様では、本発明は、少なくとも1の活性成分及び少なくとも1の結晶化賦形剤を含む組成物を凍結乾燥する方法を提供する。この方法は、部分的に又は完全に結晶化された上記少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な第一時間のあいだ第一温度に上記組成物を晒すことを含む。
【0007】
別の態様では、本発明は、血漿由来AT III、NaCl、及びアラニンを含む液体組成物を凍結乾燥する方法を提供する。この方法は、以下の:
(a)完全に又はほぼ完全に結晶化された1以上の成分をその中に有する第一組成物を提供するために、約5時間又はそれより長く当該組成物の温度が約48℃又はそれ未満となるように、上記組成物を約54℃又はそれ未満に晒し;そして
(b)上記第一組成物を乾燥させて、凍結乾燥されたケーキを得ること
を含む。
【0008】
幾つかの態様では、本発明は、本明細書に開示される方法にしたがって調製された凍結乾燥されたケーキを含む組成物を提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、本明細書に開示される方法にしたがって調製された1又は複数の組成物及び/又は凍結乾燥されたケーキを含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】NaCl溶液(0.15M)の凍結及び加温のあいだにおけるDSCサーモグラム。
【図2】アラニン溶液(0.1M)の凍結(A)及び加温(B)のあいだにおけるDSCサーモグラム。
【図3】再構成AT IIIの凍結(A)及び加温(B)のあいだにおけるDSCサーモグラム。
【図4】DOE分析により得られる最適結晶化条件。
【図5】A:ETP−5807サイクルによる凍結及びアニーリングのあいだにおける熱容量(Cp)の変化。B:第一凍結のあいだにおけるCp変化。C:アニーリングのあいだにおけるCp変化。D:第二凍結のあいだにおけるCp変化。
【図6】ETP−5807サイクルによる温度に対する熱フロー変化(heat flow change with temperature)。融点ピークについての融解熱は、5.5J/gと測定された。
【図7】A:凍結保持時間を5時間に延長することに依る凍結及びアニーリングのあいだのCp変化。B:第一凍結のあいだのCp変化。C:−52℃〜−30℃への加温傾斜(warming ramp)のあいだにおけるCp変化。D:アニーリングのあいだにおけるCp変化。E:第二凍結のあいだにおけるCp変化。
【図8】凍結保持時間を2時間から5時間へと延長することによる温度に対する熱フロー変化。融点ピークについての融解熱は、6.4J/gと測定された。
【図9】lyostar II FTSユニットにおいて行われたETP−5807サイクルによるAT III凍結乾燥プロファイル。
【図10】FTSユニットにおけるETP−5807サイクルによる凍結のあいだにおける製品温度データー。
【図11】−54℃で2時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図12】−54℃で2時間凍結させた場合の製品温度。
【図13】FTSユニットにおいて−54℃で6時間凍結させた場合の製品温度データー。
【図14】FTSユニットにおいて−54℃で6時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図15】FTSユニットにおいて−50℃で6時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図16】FTSユニットにおいて−50℃で6時間凍結させた場合の製品温度データー。
【図17】Usifroidユニットにおいて−60℃で6時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図18】Usifroidユニットにおいて−60℃で6時間凍結させた場合の製品温度データー。
【図19】−52℃で15時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図20】−52℃で15時間凍結させた場合の製品温度データ。
【図21】ケーキの電子顕微鏡スキャン(倍率200倍)。スケールバーは、100μmである。A:崩壊したケーキ、B:固体ケーキ。
【図22】NaClの電子顕微鏡スキャン。左側:倍率200倍、右側:倍率1500倍。スケールバーは100μm(A)及び10μm(B)である。
【図23】アラニンの電子顕微鏡スキャン。左側:倍率50倍、右側:倍率200倍。スケールバーは500μm(A)及び100μm(B)である。
【図24】NaCl、アラニン、ETP5807(崩壊ケーキ)、及びETP5807の二回目の実行からえら得た物質(固体ケーキ)について回折系を用いて得た粉末X線回折(XRD)パターン。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、活性成分を含む製剤において結晶化可能な賦形剤の結晶化を誘導するために、乾燥前の1回の低温凍結工程が十分であるという予期しない発見を提供し、そうして本発明の方法は、強固な賦形剤結晶を提供する一方、より効率的、実用的、及び/又は強固な凍結乾燥プロトコルを提供する。本方法は、従来の方法を超える増量された結晶増量剤を許容する一方、製剤中に存在する活性成分の安定性及び活性を維持する。
【0012】
1の態様では、本発明は、少なくとも1の活性成分及び少なくとも1の結晶化賦形剤を含む組成物を凍結乾燥する方法を提供する。本方法は、組成物を、部分的又は完全に凍結乾燥された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な時間である第一時間にわたり第一温度に晒す工程を含む。
【0013】
本組成物は、液体又は半液体組成物であってもよい。例えば、本組成物は少なくとも1の活性成分及び少なくとも1の結晶化賦形剤を含む水性の医薬溶液又は懸濁液でありうる。
【0014】
1の実施態様では、本組成物は、液体製剤であり、好ましくは水溶液である。別の実施態様では、本組成物は、医薬用途に適しており、例えば医薬として許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物である。
【0015】
1の実施態様では、本組成物は少なくとも1の活性成分、少なくとも1の結晶化賦形剤、及び医薬として許容される担体を含む医薬組成物である。本明細書に使用される場合、「医薬として許容される担体」は、生理学的に相溶性である任意及び全ての溶媒、分散培地、被膜などを含む。担体のタイプは、意図された投与経路に基づいて選択されうる。幾つかの実施態様では、担体は、静脈内、吸入、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、帰還しない、腹腔内、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、頸管内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、滑液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、ボーラス、膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮手段を介して投与するのに適しているが、これらに限られるものではない。医薬として許容される担体として、滅菌注射溶液又は懸濁液の調製用の滅菌水溶液又は懸濁液が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0016】
活性成分
幾つかの実施態様では、少なくとも1の活性成分は、タンパク質、核酸、及びそれらの組合せを含むが、それらに限定されない任意の活性成分でありうる。タンパク質としては、糖タンパク質(例えばAT III)、凝固因子、成長因子、サイトカイン、抗体、及びキメラ構築物が挙げられるが、これらに限られるものではない。本明細書において「タンパク質」という語句は、広い意味を意図されており、そして個別又は集合的な天然ヒト又は他の哺乳動物のタンパク質;及び/又は単一又は複数の遺伝子産物から生じるポリペプチドの同種又は異種組合せ;及び/又は特定の活性を示すタンパク質のフラグメント;及び/又はトランスジェニック技術を含む組換え技術により生成されるタンパク質及び/又はその活性フラグメントを指す。
【0017】
幾つかの実施態様では、少なくとも1の活性成分はタンパク質である。1の実施態様では、タンパク質はAT IIIである。別の実施態様では、組成物は、1の活性成分のみを含み、ここで該活性成分はAT IIIである。別の実施態様では、AT IIIは、組成物中における唯一の活性成分であるが、該組成物は、非AT IIIタンパク質及び/又はAT IIIの不活性形態を含む他のタンパク質を含む。例えば、機能型AT IIIは、組成物の全タンパク質含量のうちのある割合であってもよい。
【0018】
「AT III」という語句は、本明細書に使用される場合、具体的に他に言及がない限り、広い意味を意図する。例えば、この語句は、AT IIIの天然多型のすべてに関する。この語句はまた、AT IIIの機能型フラグメント、AT III又はその機能型フラグメントを含むキメラタンパク質、AT IIIの1又は複数のアミノ酸のアナログ置換により得られるホモログ、及び種ホモログを含む。この語句は、また、組換えDNA技術の産物であるAT IIIポリペプチドの全てに関し、トランスジェニック技術の産物であるAT IIIをも含む。例えば、AT IIIの遺伝子コードを、例えば米国特許第5,322,775に記載される様に、本DNA配列が乳腺において発現されるように、乳清タンパク質をコードする哺乳動物遺伝子内に挿入することができる。この文献のタンパク質化合物を産生する方法についての教示を本明細書に援用する。この語句は、当該技術分野において知られている方法、例えば固相ペプチド合成などによって化学的に合成される全てのAT IIIタンパク質に関する。
【0019】
1の実施態様では、AT IIIは、血漿由来AT IIIである。別の実施態様では、AT IIIは、血漿画分ペーストから調製される。別の実施態様では、AT IIIは、アルブミン除去血漿画分又は予め生成されたAT III調製画分から調製される。Tenoldに対する米国特許第5,561,115号を、血清又は血漿からAT IIIを調製する方法の教示について本明細書に援用する。
【0020】
別の実施態様では、AT IIIは、組換えAT IIIである。組換えAT IIIを含む組換えタンパク質の製造は、例えば米国特許第4,517,294号、第4,632,981号、第4,873,316号、第5,420,252号、第5,618,713号、第5,700,663号、第5,843,705号、第6,441,145号、第6,879,813号、第7,019,193号、Fanら、JBC,268:17588(1993)、Garoneら、Biochemistry、35:8881(1996)、国際公開WO02/02793;米国出願公開第US2003/096974及びUS2006/0024793、及びGillespieら、JBC、266:3995(1991)に記載されている。これらの各文献を組換えAT IIIを含む組換えタンパク質の製造の教示について本明細書に援用する。
【0021】
1の実施態様では、本組成物は、90%を超える純度を有するAT IIIを含むものとして特徴付けられる。別の実施態様では、AT IIIは、95%、好ましくは少なくとも約99%を超える純度を有する。幾つかの実施態様では、組成物中におけるすべてのAT IIIの少なくとも約50%、例えば約50%〜約100%、約60%〜約90%、約70%〜約80%が活性AT IIIである。
【0022】
別の実施態様では、凍結乾燥される組成物は、少なくとも約0.1mg/mlのAT III、例えば約0.1〜約100mg/ml、約0.5〜約50mg/ml、約1〜約30mg/ml、及び約5〜約15mg/mlのAT IIIを含み、ここで当該AT IIIは、組成物中に存在する合計のタンパク質の一部又は全てである。
【0023】
1の実施態様では、組成物は治療有効量のAT IIIを含む。「治療有効量」は、必要な期間及び用量で、所望の治療結果、例えば先天的アンチトロンビン欠乏症に伴う抗凝血を達成するために必要な有効量を指す。AT IIIの治療有効量は、個々の対象の疾患状態、年齢、性別、及び体重などの因子、並びに対象において所望の応答を誘発するAT IIIの能力に応じて変化しうる。治療有効量は、AT IIIの任意の毒性又は有害な効果を治療上有益な効果が上回る量でありうる。
【0024】
別の実施態様では、組成物は、AT IIIの予防上有効な量を含む。「予防上有効な量」は、必要な期間及び用量で、所望の予防結果、例えば複数の血栓塞栓症の複数回のエピソードを有する対象において、又はさらなるエピソードについてのリスクがある患者において、血栓塞栓症エピソードの予防又は阻害を達成するために有効な量を指す。予防有効量は、治療有効量について上で記載されたように決定することができる。
【0025】
結晶化賦形剤
1の実施態様では、少なくとも1の結晶化賦形剤は、アラニン、マンニトール、グリシン、及びNaClからなる群から選択される。
【0026】
幾つかの実施態様では、少なくとも1の結晶化賦形剤は、組成物中で少なくとも約0.01%(w/v)、例として約0.01%〜約10%、約0.1%〜約5%、及び約0.7%〜約1.8%(w/v)の量の合計結晶化賦形剤が存在する。
【0027】
別の実施態様では、凍結乾燥製品は、少なくとも約20%(w/v)の合計結晶化賦形剤を含み、例えば約20〜約80%、約30〜約70%、そして約36〜約60%(w/v)の合計血漿賦形剤を含む。
【0028】
幾つかの実施態様では、少なくとも1の結晶化賦形剤は、アラニン及びNaClである。1の実施態様では、NaClは、約50mM〜約300mM、好ましくは約100mM〜約250mMの量で存在する。1の実施態様では、塩化ナトリウム自体が、前述の結晶化賦形剤をどれも伴わずに使用することができ、この場合塩化ナトリウムは製剤中に300mM又はそれ以上の量で含められる。別の実施態様では、組成物(例えば水性医薬製剤)は、高張溶液である。
【0029】
少なくとも1の活性成分及び少なくとも1の結晶化賦形剤に加えて、組成物は、さらに1又は複数の他の賦形剤、つまり該活性成分と組み合わせて使用されて該組成物を構成する1又は複数の他の物質、をさらに含むことができる。1又は複数の他の賦形剤の幾つかの非限定的な例として、安定剤、緩衝剤、二価カチオン(例えばカルシウム塩)、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、希釈剤、着色剤、フレーバー、流動促進剤、界面活性剤、吸収剤及び甘味料が挙げられる。
【0030】
本発明にしたがった活性成分と賦形剤の組合せは、凍結製剤中の活性成分の安定性を提供することができるが、本発明の組成物は、液体又は半液体状態においてもある程度の安定性を示すこともできる。
【0031】
別の実施態様では、組成物は、さらに安定剤を含む。例えば、安定剤は、スクロース、マンニトール、及びトレハロースからなる群から選択することができる。凍結乾燥前に、安定剤は少なくとも約1%、例えば約1〜約4%、及び約2%〜約3%の合計安定剤の量で組成物中に存在することができる。幾つかの実施態様では、安定剤は、約2%の量で組成物中に存在する。
【0032】
緩衝剤は、特に、活性成分が、凍結乾燥のあいだにpHシフトによって悪影響を受ける疑いがある場合に本発明の組成物中に存在することができる。pHは、凍結乾燥のあいだ好ましくは約6〜8の範囲、そしてより好ましくは約pH7に維持すべきである。緩衝剤は、任意の生理的に許容される化合物であってもよいし、又は緩衝剤として作用する能力を有する化合物であってもよく、例えばリン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸/リン酸緩衝剤、ヒスチジン、トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(Tris)、1,3−ビス−[トリス−(ヒドロキシ−メチル)メチルアミノ]−プロパン(BIS−Trisプロパン)、ピペラジン−N,N’−ビス−(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、3−{N−モルフォリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HERPES)、2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸(MES)、及びN−2−アセトアミド−2−アミノメタンスルホン酸(ACES)が挙げられる。
【0033】
1の実施態様では、緩衝剤は、約10〜約50mMの濃度で組成物中に含まれる。ヒスチジンが組成物に加えられる場合、少なくとも約20mM、好ましくは約25mMの濃度が単独で又は他の緩衝剤、例えばトリスと組み合わせて使用できる。
【0034】
別の実施態様では、組成物はさらに、2価のカチオン、例えばカルシウム塩を含む。1の実施態様では、カルシウム塩は約1mM〜約5mMの量で存在する。
【0035】
1の実施態様では、組成物はさらに界面活性剤を含む。界面活性剤は、約0.1%又はそれ未満の量で存在することができる。界面活性剤の非限定的な例として、POLYSORBATE20(例えば、Tween(商標)20)、POLYSORBATE80(例えばTWEEN(商標)80)、ポリオキシエチレン(80)ソルビタン脂肪酸エステル、プルロンポリオール(pluronic polyol)(例えばF38、F−68)、及びポリオキシエチレングリコールドデシルエーテル(例えばBrij−35)が挙げられる。
【0036】
本発明にしたがい、組成物は、さらに抗酸化剤を含むことができる。抗酸化剤は、少なくとも0.05mg/ml、例えば約0.05〜約50mg/ml、約0.1〜約10mg/ml、そして約1〜約5mg/mlの合計量で組成物中に存在することができる。抗酸化剤の非限定的な例として、N−アセチル−L−システイン/ホモシステイン、グルタチオン、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(Trolox)、リポ酸、メチオニン、チオ硫酸ナトリウム、白金、グリシン−グリシン−ヒスチジン(トリペプチド)、及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)が挙げられる。幾つかの実施態様では、組成物はさらにグルタチオンを約0.05mg/ml〜約5mg/mlの量で含む。
【0037】
本発明の組成物は、特にカチオンが活性成分と相互作用を提供してその活性を維持する場合、カルシウム又は他の二価カチオンを含むことができる。1の実施態様では、組成物はさらに二価のカチオンを含む。別の実施態様では、二価のカチオンは、カルシウム塩、例えば塩化カルシウムとして提供されるが、他のカルシウム塩、例えばグルコン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム(calcium glubionate)、又はグルセプト酸カルシウム(calcium gluceptate)でありうる。幾つかの実施態様では、カルシウム塩は、約1mM〜約5mMの量で存在する。別の実施態様では、カルシウム塩は、約3mM〜約4mM、好ましくは約4mMの量で存在する。
【0038】
幾つかの実施態様では、ヒスチジンとグルタチオンの組合せが、組成物中に存在するある活性成分の安定性について相乗的に有益な効果を提供しうる。例えば、ヒスチジンは、緩衝剤として作用する一方で、金属キレーターとしても作用しうる。本成分の活性のレベルが金属誘導性酸化により影響を受けると信じられている範囲において、例えばヒスチジンは、金属イオンを酸化することにより、結合を安定化するように作用することができる。これらの金属を結合することによって、グルタチオン(又は存在する任意の他の抗酸化剤)は、さらなる抗酸化保護を提供することができると信じられている。なぜならヒスチジンによって結合される金属イオンの酸化効果が抑えられるからである。他のキレート剤もまた、本発明の組成物/製剤中に含めることができる。このようなキレート剤は、好ましくは銅や鉄などの金属に、例えばカルシウム塩が組成物中に使用される場合にカルシウムよりも高いアフィニティで結合する。このようなキレータ−の一例が、デフェロキサミンであり、当該化合物はAl2+及び鉄を除去するキレート剤である。
【0039】
凍結乾燥
一般的に凍結乾燥法の特定の温度及び/又は温度範囲は、他に特記がない限り、凍結乾燥装置の棚(シェルフ)温度(shelf temperature)を指す。棚温度は、凍結乾燥機の棚(シェルフ)を通って流れる冷媒の制御温度を指し、これは凍結乾燥のあいだ、温度の点で制御されるものである。サンプルの温度(つまり、製品温度)は、最初の乾燥のあいだの蒸発/昇華率(蒸発冷却は、製品温度を棚温度よりも低くする)、棚温度、及び/又はチャンバー圧力に左右される。
【0040】
A.凍結
1の実施態様では、第一温度は約−48℃であるか又はそれより低い。別の実施態様では、第一温度は約−54℃であるか又はそれより低い。別の実施態様では、時間は、少なくとも約30分、例えば約30分〜約20時間、約1〜約18時間、約2〜約16時間、約3〜約14時間、約4〜約10時間、約5〜約8時間、及び約6〜約7時間である。1の実施態様では、時間は約6時間である。
【0041】
温度及び時間は、バイアルあたりの溶液の体積などに左右され、凍結乾燥される組成物に左右されない。
【0042】
本発明は、ある場合、賦形剤を完全に又は100%結晶化する目的に関しており、そして当業者は、「完全な結晶化」は立証が難しく、特に技術の感度が、絶対的な確実性をもって賦形剤が完全に又は100%結晶化されているということをいうことができない場合、特に難しいことを理解している。したがって、実用の観点から、従来の方法に対して賦形剤の結晶化を少なくとも改善する凍結乾燥方法を提供する。したがって、本明細書で使用される場合、「完全に結晶化された」製品は、例えば示差走査熱量計(DSC)によって評価することができ、ここで当業者は、第一走査における非可逆的発熱事象が結晶化事象を表しており、これは結晶化賦形剤が、凍結乾燥のあいだに完全に結晶化しなかったことを示していると認めることができる。幾つかの実施態様では、少なくとも1の結晶化賦形剤は、部分的に結晶化されており、ここで部分的に結晶化とは、約50%又はそれ以上、例えば少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約99.5%、少なくとも約99.8%、そして100%未満の結晶化の度合いとして特徴付けられる。
【0043】
B.アニーリング
別の実施態様では、本方法はさらに、第一組成物を第二温度に第二時間のあいだ晒して、第二組成物を取得することを含み、ここで当該第二温度は第一温度より高い。
【0044】
1の実施態様では、第二温度は、第一温度よりも少なくとも約5℃高く、例えば第一温度よりも約5℃〜30℃、そして約10℃〜約20℃高い。例えば、幾つかの実施態様において第一温度が約−50℃である場合、第二温度は約−30℃である。
【0045】
幾つかの実施態様では、第二時間は少なくとも10分、例えば約10分〜10時間、約30分〜約8時間、約1時間〜約6時間、そして約2時間〜約4時間である。別の実施態様では、第二時間は、第一時間より短いか、長いか、又はほぼ同じ時間である。
【0046】
任意の特定の理論に縛られることなく、かかるアニーリング工程が、昇華率の改善及び/又は条件及び特定の組成に応じたバッチ間の不均質性を低減するのに役立ちうると考えられている。
【0047】
幾つかの実施態様では、アニーリング工程はオプションの工程である。
【0048】
別の実施態様では、第二時間に続いて、第二組成物は第三温度に第三時間のあいだ晒され、ここで第三温度は、第二温度よりも低い。例えば、幾つかの実施態様では、第三温度は、第一温度とほぼ同じである。別の実施態様では、第三温度は、第二温度よりも少なくとも5℃低く、例えば第二温度より約5℃〜約30℃、そして約10℃〜約20℃低い。例えば、ここで、第二温度は、約−30℃であり、幾つかの実施態様では第二温度は約−50℃である。
【0049】
幾つかの実施態様では、本発明は少なくとも1の活性成分と少なくとも1の結晶化賦形剤を含む組成物を凍結乾燥する方法を提供する。本方法は、以下の:
(a) 当該組成物を第一温度に、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な第一時間のあいだ晒す工程、
(b) 当該第一組成物を、第二温度に、第二時間のあいだ晒して第二組成物を得る工程、ここで第二温度は第一温度より高く、そして
(c)第二組成物を、第三温度に、第三時間のあいだ晒して第三組成物を得る工程、ここで第三温度は第二温度より低い、
を含む。
【0050】
1の実施態様では、時間は、少なくとも約30分、例えば約30分〜約20時間、約1〜約18時間、約2〜約16時間、約3〜約14時間、約4〜約10時間、約5〜約8時間、及び約6〜約7時間である。別の実施態様では、時間は約6時間である。別の実施態様では、時間は約3時間である。別の実施態様では、第三時間は第一時間より短いか、長いか、又はおよそ同じくらいである。さらなる実施態様では、工程(a)及び(b)の条件(例えば、温度や時間)は、同じであるか又は実質的におなじである。
【0051】
C.乾燥
別の実施態様では、本発明の方法は、さらに乾燥フェーズを含む。乾燥フェーズは、第一乾燥フェーズと第二乾燥フェーズを含む。
【0052】
したがって、幾つかの実施態様では、本発明は、少なくとも1の活性成分と少なくとも1の結晶化賦形剤とを含む組成物を凍結乾燥する方法を提供する。この方法は以下の:
(a) 上記組成物を第一温度に、部分的に又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な第一時間のあいだ晒し;そして
(b) 第一組成物を乾燥させて凍結乾燥ケーキを形成させる
を含む。
【0053】
別の実施態様では、本発明は、少なくとも1の活性成分と少なくとも1の結晶化賦形剤とを含む組成物を凍結乾燥する方法であって、以下の:
(a) 当該組成物を第一温度に、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な第一時間のあいだ晒す工程、
(b) 当該第一組成物を、第二温度に、第二時間のあいだ晒して第二組成物を得る工程、ここで第二温度は第一温度より高く、そして
(c)第二組成物を、第三温度に、第三時間のあいだ晒して第三組成物を得る工程、ここで第三温度は第二温度より低い、
(d) 第三組成物を乾燥させて凍結乾燥ケーキを形成させる
を含む、前記方法を提供する。
【0054】
1の実施態様では、乾燥は、第一乾燥工程を含む。第一乾燥は、凍結した水を取り除くことができる(氷の昇華)。好ましくは、第一乾燥により、未結合又は容易に除去可能な氷がサンプルから取り除かれる。第一乾燥工程の最初において未結合の水は、好ましくは遊離の氷の形態で存在しており、当該遊離の氷は、昇華、すなわちそれを直接固体から蒸気へと変換することによって取り除くことができる。
【0055】
幾つかの実施態様では、第一乾燥工程は、約−35℃〜約20℃、又は約−25℃〜約10℃、又は約−20℃〜約0℃の温度で行うことができる。1の実施態様では、第一乾燥工程は、約0℃で行われる。別の実施態様では、第一乾燥工程は、少なくとも約1時間、例えば約1時間〜約1週間、約10時間〜約4日間、及び約20時間〜約40時間の合計時間のあいだ行われうる。別の実施態様では、第一乾燥工程は、第一又は第三組成物を、約0〜約200mTorr、好ましくは約100mTorrの圧力下で、約−50℃の温度で約1時間、続いて0℃で約35時間乾燥することを含む。
【0056】
任意の「第一乾燥傾斜(ramp)」工程(つまり、第一乾燥の前の工程から、第一乾燥温度への温度の増加)は、本発明の方法に従って、1分あたり約0.1℃〜約10℃の率で行われる。
【0057】
第一乾燥工程は、実質的に全ての凍結された水がサンプルから取り除かれることを保証するために十分な時間にわたって行われうる。当業者は、第一乾燥時間は、充填体積及び形状(ケーキの表面積−レジスタンス/フラックス)に左右されるという構成に応じて変化するということを理解する。1の実施態様では、第一乾燥時間は、少なくとも約「5時間、例えば約5時間〜約100時間、約10時間〜約80時間、約30時間〜約60時間、そして約40時間〜約50時間である。
【0058】
第一乾燥は、凍結乾燥のあいだに製品温度における変化を観察することを含むいくつかの方法によりモニターすることができる。別の方法は、チャンバー圧力における変化を観察することであり、ここで昇華が終わった場合、圧力の変化に寄与する水分子がもはやチャンバー内に存在することはない。第一乾燥工程の終わりは、製品(サンプル)温度が、棚温度に達した際に、例えば昇華率が低下したため製品温度のグラフの傾きにおける有意な変化によって明らかにされ;昇華が終わった際に蒸発による冷却が終了する。早い段階での終結を予防するために、幾つかの実施態様では、2〜3時間の追加の第一乾燥が時間に加えられてもよい。第一乾燥の完了をモニターする別の方法は、圧力上昇試験であり、ここでは吸引源を断つことにより、チャンバー圧力は、製品中の湿気量に応じた率で上昇する。1の実施態様では、第一乾燥工程の終わりは、圧力の上昇率が特定の値以下になった場合に設定されうる。第一乾燥工程の終わりを決定する別の方法は、伝熱率の計測である。
【0059】
別の実施態様では、第一乾燥の直前に、組成物は、第一乾燥の直前の工程の温度で吸引下に配置されてもよい。これが開始されると、吸引レベルは変化しうるものの、吸引は、凍結乾燥工程のリマインダーとして存在することができる。
【0060】
凍結乾燥のあいだにおけるさらなる情報は、Carpenter, J. F. 及びChang, B. S., Lyophilization of Protein Phrmaceuticals, Biotechnology and Biopharmaceutical Manufacturing, Processing and Preservation, K. E. Avis and V. L. Wu, eds. (Buffalo Grove, IL Interpharm Presss, Inc.) (1996)に見いだすことができ、当該文献は乾燥の教示について本明細書に援用される。
【0061】
1の実施態様では、乾燥はさらに、1又は複数の第二乾燥工程をさらに含み、湿気レベルを、好ましくは最終製品の所望の生物学的及び/又は構造的特性を提供するレベルにまで低減することを含む。
【0062】
幾つかの実施態様では、1又は複数の第二乾燥工程の各々は、約0℃又はそれ以上、例えば約0℃〜約100℃、約10℃〜約90℃、約20℃〜約80℃、約30℃〜約70℃、約40℃〜約60℃、そして約45℃〜約50℃の温度で行われる。1の実施態様では、第二乾燥工程は、約40℃、約45℃、及び約50℃でそれぞれ行われる第一、第二、及び第三の第二乾燥工程を含む。1の実施態様では、第二乾燥工程は、約16時間のあいだ約35℃の温度で行われる。
【0063】
上記1又は複数の第二乾燥工程へと温度を増加させる工程は、オプションであってもよい「第二乾燥傾斜(ramp)」と呼ばれる。第二乾燥傾斜は、1分あたり約0.1℃〜約10℃の温度の増加率で行われうる。
【0064】
1又は複数の第二乾燥工程の各々は、凍結乾燥製品において残存している湿気レベルを最終レベルにまで低減するために十分な時間のあいだ行うことができる。幾つかの実施態様では、最終的な残存湿気レベルは、約10%又はそれ未満であり、例えば約9%又はそれ未満であり、約8%又はそれ未満であり、約7%又はそれ未満であり、約6%又はそれ未満であり、約5%又はそれ未満であり、約4%又はそれ未満であり、約3%又はそれ未満であり、約2%又はそれ未満であり、約1%又はそれ未満であり、約0.8%又はそれ未満であり、約0.6%又はそれ未満であり、約0.5%又はそれ未満であり、約0.2%又はそれ未満であり、そして約0.1%又はそれ未満である。
【0065】
1の実施態様では、第二乾燥工程は約35℃で行われる。別の実施態様では、第二乾燥工程は、少なくとも約1時間、例えば約1時間〜約1週間、約10時間〜約4日間、及び約16時間〜約40時間の合計時間にわたり行われうる。別の実施態様では、第二乾燥工程は、約0〜約200mTorr、好ましくは約100mTorrの圧力下で、約35℃の温度で約16時間乾燥することを含む。
【0066】
サンプル中の残存湿気レベルを決定するために、例えばKarl Fischer法を使用することができる。さらに、圧力上昇試験又は伝熱率の計測は、1又は複数の第二乾燥工程の各々の終わりを決定するために使用することができる。あるいは、電気的湿度計又は残存ガス分析装置も使用することができる。また、1又は複数の第二乾燥工程の最小期間は棚温度と期間との異なる組合せを用いて決定することができる(ここで、1又は複数の第二乾燥工程の棚温度は、最も高い温度の工程において使用された温度と同じであるか、それよりは低い)。残存湿気含量は、乾燥の際の欠失、Karl Fischer滴定、熱重量分析(TGA)、ガスクロマトグラフィー(GC)、又は赤外線分光法を含む幾つかの方法により決定することができる。
【0067】
いずれの特定の理論に縛られることなく、凍結乾燥のあいだに、活性成分が、水相中から非晶質の固相中へとその存在場所を変換されており、これは化学及び/又は立体構造に起因する不安定性から活性成分を保護するものと考えられる。凍結乾燥された調製品は、非晶質相を含むばかりでなく、凍結乾燥のあいだに結晶化した成分も含む。これにより、活性成分が凍結乾燥され、そしてより洗練されたケーキ(例えば、凍結乾燥が行われる容器の側面から、最小限の収縮しか生じていないケーキ)が形成される。
【0068】
1の実施態様では、凍結乾燥されたケーキは、50%未満の崩壊性と特徴付けられる。別の実施態様では、凍結乾燥されたケーキは、約0%〜約24%の崩壊性であると特徴付けられる。
【0069】
別の態様では、本発明は、AT IIIを含む水性医薬製剤を凍結乾燥する方法であって、以下の:
(a) 製剤を約−45℃未満の温度に、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を取得するために十分な時間のあいだ晒し;そして
(b) 第一組成物を乾燥させて凍結乾燥ケーキを形成する
を含む方法が提供される。
【0070】
別の態様では、本発明は、AT IIIを含む水性医薬製剤を凍結乾燥する方法であって、以下の:
(a) 製剤を約−50℃未満の凍結温度に、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を取得するために十分な時間のあいだ晒し;そして
(b) 第一組成物を乾燥して、凍結乾燥ケーキを形成する
を含む前記方法に関する。
【0071】
幾つかの実施態様では、本方法は、場合によりさらに、製剤を凍結温度よりも高いアニーリング温度に晒すアニーリング工程をさらに含む。
【0072】
別の態様では、本発明は、AT IIIを含む水性医薬製剤を凍結乾燥する方法であって、当該方法は以下の:
(a)製剤を、約−60℃未満の温度に、部分的に又は完全に凍結乾燥された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を取得するために十分な時間のあいだ晒し;そして
(b)第一組成物を乾燥して、凍結乾燥ケーキを形成する
を含む方法を提供する。
【0073】
本発明の方法に従って調製された組成物(例えば、結晶化及び/又は凍結乾燥された医薬組成物及びケーキ)も提供される。
【0074】
したがって、幾つかの実施態様では、本発明は凍結乾燥されたAT III組成物又は本発明にしたがって調製されたケーキを提供する。
【0075】
別の実施態様では、本発明の方法は、凍結乾燥された製品の貯蔵の後に、活性成分の効力を少なくとも維持するか又は実質的に維持する製品を提供する。1の実施態様では、活性成分の効力は、約5℃、約25℃、又は約40℃で約1、約2、約3又は約6ヶ月以上凍結乾燥製品を貯蔵後に、維持又は実質的に維持される。別の実施態様では、凍結乾燥製品の貯蔵後に、活性成分の効力は、その凍結乾燥前の効力に対して少なくとも約70%、80%、90%、95%、99%、及び100%である。
【0076】
キット
さらなる態様では、本発明の医薬組成物を含むキットであって、さらに乾燥及び液体成分を含み、ここで乾燥及び液体成分は、キット内の分離した容器内に存在することができるか、又は成分の幾つかは1の容器内に混合されうるキット、例えば乾燥成分が第一容器内に存在し、液体成分が第二容器内に存在するキットが提供され、ここで当該容器が組合せた構成で存在してもよいしそうでなくてもよい。場合により、キットはさらに、多数の追加試薬を含むことができる。場合により、キットは、キットの成分を使用するための指示、例えば凍結乾燥された組成物を、適切な希釈液で構成するための指示、をさらに含むことができる。指示は、パッケージの挿入物としてキット内に存在してもよいし、キットや構成要素の容器のラベルに存在してもよい。
【0077】
本発明は、実施例によってより詳細に例示されるが、本発明が実施例に限定されないことに留意すべきである。
【0078】
実施例
実施例1
AT III溶液中において成分の結晶化を促進し、そして最終製品の物理的外観を改善する凍結条件を決定するために、ヒト血漿由来AT III(6.88mg/ml)、アラニン(100mM)、及びNaCl(150mM)を含むAT III製剤について凍結乾燥を行った。アラニン及びNaClの両方ともが、結晶化賦形剤である。この製剤について、物理的外観は、賦形剤の結晶化度に直接関連する。ケーキ構造を支持する固体マトリクスを提供するために、凍結のあいだできる限り完全にNaCl及びアラニンを結晶化すること望ましかった。
【0079】
示差走査熱量計:AT III製剤の凍結−融解熱事象を、示差走査熱量計(Model 2920, TA instruments, Inc., New Castle, DE)を用いて調べた。DSCの温度及びセル定数を、高純度インジウムを用いた標準方法に従い校正した。調節DSCを用いて、最大限に凍結濃縮された溶質の熱フロー及び熱容量(Cp)を試験した。80秒の期間で、0.5℃の増幅率で実行した。20μlのサンプルをアルミニウム製密封パン中に密封し、そして氷点下温度範囲でスキャンした。
【0080】
NaCl、アラニン及びAT IIIの再構成溶液中での熱事象:結晶化及び溶融事象は、NaCl、アラニン及びAT III再構成溶液中で調べられた。
【0081】
E−CHIPによるDSC実験設計:Echipにより設計されるDOEを行い、賦形剤の結晶化における、凍結温度、凍結保持時間、及びアニーリング保持時間の効果を評価した。(5℃から凍結温度までの)凍結傾斜率(freezing ramp rate)は、2℃/分にセットした。アニーリング後に、製品を−30℃から凍結温度まで、5℃/分で凍結した。加温傾斜率を、1℃/分に固定した。
【0082】
結晶化に対する傾斜率の効果:異なる冷却率(2℃/分と0.2℃/分)を比較して、結晶化に対する傾斜率の効果を調べた。アニーリングのあいだにおける様々な傾斜率(5℃/分と0.2℃/分、1℃/分と0.2℃/分)を評価した。
【0083】
濃縮相の形成:過冷却のプロセスのあいだに、液相中において利用できるが、結晶固相中においては利用できない分子立体構造及び構成へと凍結される。冷却のあいだにおける「トラッピング」立体構造及び構成へと移る過程は、粘度の増加率が、分子の再配向率を超えた際に生じる。立体構造状態の「凍結」は、液体に類似しているある程度の短距離分子秩序を有し、結晶固体PIの特徴である長距離分子秩序を欠如する濃縮相をもたらす。
【0084】
濃縮相の形成を、調節DSCによって観察する。ここで、凍結濃縮非晶質相の熱容量(Cp)は、平衡に達するまで連続的に減少した。Cpは、固有の特性であり、そして分子移動度に直接関連する。より高いCpは、より移動度が高いことを意味し、そしてより低いCpは移動度が低いことを示す。液体状態における物質は、固体のカウンターパートよりも高いCpを有する。Cpの低下は、液体状態から固体状態への物質の物理的転移のため生じる。
【0085】
表1に示される凍結及びアニーリングプロトコルを用いてCpをモニターした:
【表1】
【0086】
溶液を0〜−52℃で凍結し、そして120分間保持した。次に−30℃まで加温し、そして1時間保持した。最終的に、製品を−52℃でさらに2時間凍結し、そして次に0℃にランプアップした。第一凍結率は0.2℃/分であった。凍結保持時間(2時間、5時間、及び10時間)、並びにCpの温度(−46℃、−48℃及び−52℃)の効果を評価した。
【0087】
凍結乾燥:実験の多くを、LyostarIIFTSシステム(SP Industries)で行った。いくつかをMinilyo Freeze Dryer(Usifroid)で行った。凍結技術を表2に記載する。
【表2】
【0088】
技術1〜5は、第一凍結段階の棚温度及び保持時間の点で異なっている。第二凍結温度を第一凍結温度と同じ温度に設定した。そして第二凍結の保持時間を2時間とした。技術6は、製品を−52℃で2時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして再び−52℃でさらに15時間凍結するという条件を特定する。アニーリング、第一乾燥及び第二乾燥は、表1に記載される全てのサイクルと同じであった。
【0089】
走査型電子顕微鏡(SEM):SEM(Hitachi, Model S-3200, NCSU)を用いて、凍結乾燥ケーキの形態を試験した。表面又は表面直下のサンプルの増を、50〜5000倍の倍率で示した。凍結乾燥ケーキが良好な電気的絶縁体であったため、ケーキは電子線に晒されると荷電した。これは解像度の低下を招いた。サンプルを電子線に晒した際に荷電効果を低減するため、全てのサンプルを、ベンチトップDentonVaccumを用いてスパッタリングすることにより金薄膜で被膜した。崩壊ケーキ、固体ケーキ、NaCl結晶及びアラニン結晶の画像を取得した。
【0090】
粉末X線回折:粉末X線開設(XRD)を適用して、崩壊ケーキ(ETP5807)及び固体ケーキ(ETP580726N9540)の結晶度を特徴決定した。XRDパターンを、40kV及び40mAの銅Ka放射を備えた回折計(Rikagaku, model Multiflex)を用いることにより記録した。10°〜90°の20範囲でスキャンを行った。スキャンスピードは、ETP5807のNaClサンプルについて1°/分であり、そしてアラニンについて0.125°/分であった。
【0091】
結果及び考察:
DSCの実行は、AT III製剤における賦形剤の結晶化性質を司る臨界因子を特徴決定することを狙っており、結晶化温度(Tx)、共結晶融点(Te)、及び結晶パーセントを測定した。
【0092】
NaCl、アラニン及びAT III溶液の結晶化及び溶融:純NaCl溶液について、発熱結晶化ピークは、凍結のあいだに約−38°で生じ、そして吸熱融点ピークは加温のあいだ−19°で生じた(図1)。融点ピークの融解熱を測定すると7.4J/gであった。アラニン溶液についてのサーモグラムは、凍結のあいだ−45℃で発熱ピークを示し、結晶化を示した。しかしながら、加熱のあいだに、およそ−44℃で小さなピークの群が生じた。これらのピークの起源の決定は難しかった(図2)。
【0093】
再構成されたAT III溶液が分析された場合、凍結のあいだにおける発熱活性の証拠は無かった。しかしながら、共結晶融点ピークは−22℃に見られ、これはNaClに起因する可能性が最も高い(図3)。融解熱(2.0J/g)は、純NaCl溶液よりも小さかった。融解熱の低下は、AT III製剤におけるNaClの部分的結晶化に寄与しうる。この相関に基づき、結晶化割合を、製剤から生じる融解熱を、定数7.4J/g(これはNaCl純溶液の融解熱である)で割ることにより計算される。
【0094】
DOE結果:中心混合物キューブモデルを用いた、ECHIPにより設計されたDOEを行って、AT III溶液の結晶化に際した凍結温度、凍結保持時間、及びアニーリング保持時間の効果を評価した(表3)。
【0095】
【表3】
【0096】
DOEからの結果は、評価された全ての可変条件が、溶液の結晶化にたいして有意の影響を与えたということを示した。−44℃〜−60℃の温度での凍結と比べられた場合に−52℃での凍結が、より高い割合の結晶NaClをもたらした。低温側(−60℃)での結晶の低下は、結晶度と結晶率とのあいだのトレードオフの関係により説明できる。結晶度は、低い温度ではより高かった。しかしながら、溶液は粘性になりすぎて、結晶率は有意に低下した。DOEデータ分析は、−54℃での最適な凍結温度を与えた(図4)。
【0097】
保持時間の評価は、凍結保持時間とアニーリング保持時間の延長が、結晶割合の増加をもたらすことを示している。DOE結果により、最適な保持時間は凍結及びアニーリングの両方について10時間であることが示唆される(図4)。
【0098】
データー分析は、アウトオブフィットメッセージを与え、E−Chipにより生成されるモデルが、完全に結晶化方法を反映するわけではないことを示唆している。その結果、追加のDSC実験は、凍結及びアニーリングのあいだの結晶化プロセスに伴う物理的性質変化をよりよく理解するために行われた。
【0099】
結晶化における傾斜率の効果:冷却率:可塑剤として、水は、自由体積及び分子移動度を増加させる物理的希釈剤として作用する。分子移動度を増加させることが水の能力であり、これは結晶化などの分散制御工程を促進することができる。迅速な冷却は、非晶質相内により多くの水を閉じ込める一方で、冷却の低下は、システムから水が流失することを可能にする。したがって、迅速な冷却は結晶の形成を促進する。凍結率が、2℃/分〜0.2℃/分へと低下すると、NaClの結晶割合は82%ほど(17%から3%へと)低下する。
【0100】
アニーリングのあいだにおける傾斜率:凍結からより温かい温度への上昇が行われる場合、分子移動度は、核の形成及び結晶化が生じる程度に増加する。この段階での傾斜率は、十分な結晶を産生するために十分なほどゆっくりであるべきである。1℃〜0.2℃/分への傾斜率の低下は、結晶化割合を38%〜95%に増加させた。傾斜率が0.1℃/分に低下しても、それ以上の差異は見られなかった。
【0101】
−30℃〜−52℃へと変化した場合、5℃/分から0.2℃/分への変化率の減少は、結晶を1.35倍(17%から39%へと)に増加させた。これらの結果は、0.2℃/分の変化率は、結晶を生じさせるのに適していたということを示唆する。
【0102】
濃縮相及び結晶化:追加の実験は、濃縮相及び結晶化に焦点を当てた。図5Aは、ETP5807サイクルによる時間に伴うCpの変化を示す(表1)。第一凍結(図5B)、アニーリング(図5C)、及び第二凍結(図5D)のあいだにCpの小さな変化が存在する。濃縮相の形成は、Cpの低下により示される。Cpの小さな変化は、小さい相変化が凍結及びアニーリングのあいだに生じることを示している。これらのパラメーターを用いることにより、75%結晶化が得られた。結晶割合は、5.5J/gである融解熱を、定数7.4J/g(これは純NaCl溶液の融解熱である)により割ることによって計算される(図6)。
【0103】
濃縮相の形成は、凍結保持時間の延長を伴って観察される。図7Aは、凍結及びアニーリングのあいだにおけるCp変化の全図を示す。第一凍結保持時間が2時間から5時間へと延長された場合に、Cp値は、より液相からより濃縮相への変化を指し示す最小平衡値へと低下した(図7B)。5時間から10時間への保持時間のさらなる増加は、Cpのさらなる低下を示さなかった(データ未掲載)。結晶ピークは、加温傾斜のあいだ観察された(図7C)。この固有ピークは、凍結保持時間が2時間であった場合は存在しなかった。第一凍結及び加温傾斜のあいだにおいて溶液が完全に結晶化された場合、追加のアニーリングや凍結がCp値にたいして全く又は少ししか影響を及ばさないということが推測されうる。これは、アニーリングと第二凍結のあいだにおいて、Cpの変化が観察されないという事実により示された(図7D及び7E)。結晶化割合は、凍結時間を2時間から5時間へと延長した場合に、87%に増加した。さらに、結晶化割合は、融解熱(6.4J/g(図8))を定数7.4J/gで割ることにより計算された。
【0104】
これらの結果により、AT III非晶質相が物理的変換を完了するためには、−52℃で5時間が必要とされるということが示唆される。凍結が2時間された場合に濃縮相は形成し始める。十分な凍結保持時間は、結晶の1の必須条件である。
【0105】
同様の実験が、−52℃よりも温かい温度で行われた。これらの結果は、製品温度が−46℃である場合結晶化活性が存在しないことを示す。−48℃の温度において、保持時間が4時間〜5時間である場合に結晶化割合は36%〜84%に増加した。その結果、十分な結晶化を誘導するために、AT III溶液を、−48℃以下で少なくとも5時間凍結することが好ましい。
【0106】
凍結乾燥プロセスの開発:巨視的規模でDSC実験から得た結果を確認するために、4の凍結温度(−50℃、−52℃、−54℃、及び−60℃)及び2つの保持時間(2時間及び6時間)を実験室凍結乾燥機で評価した。
【0107】
−52℃で2時間の凍結:実験において使用される表1の一連のサイクルパラメーターの初回評価を、LyostarIIFTSユニットを用いて行った。温度及びチャンバー圧力プロファイルを図9に示す。凍結プロセスのあいだに熱電温度計により計測される最も温かい製品温度は、−49℃であった(図10)。処理の後に、物理的検査により、ケーキの2%が許容でき、17%が小さな孔を有し、57%が部分的に崩壊しており、そして23%が破壊されているということが明らかにされた。DSC結果に基づいて、製品温度(−49℃)は、結晶化を誘導するために十分冷たかったが、凍結保持時間は、結晶化の前に濃縮相を形成するために少なくとも5時間であることが必要である。2時間の凍結期間は、十分な結晶を産生するには短すぎた。
【0108】
−54℃で2時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液は、−54℃で2時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そしてふたたび−54℃で2時間凍結した。凍結は、LyostarIIFTSユニットで行われた。第一及び第二乾燥を、CS10−0.5(Serial14L03)で行った。図11及び12のグラフにより、凍結のあいだに製品温度が−50℃未満に維持されたことが示された。物理検査により、74%のケーキが許容され、そして26%が小さな孔を有したことが明らかにされた。製品温度−49℃から−50℃へと低下させることにより、ケーキの外観について改善が見られたが、結果はそれでも満足行くものではなかった。これらの結果により、低温で凍結させることのみでは、完全な結晶化を誘導するのに十分ではないことが示される。
【0109】
−54℃で6時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液を−54℃で6時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして−54℃で2時間凍結した。サイクルをFTS凍結乾燥ユニットで行った。凍結のあいだ製品温度を−50℃未満に維持した(図13及び図14)。物理的検査により、全てのケーキが許容できることが示された。これらの結果により、製品温度及び凍結保持時間が、最適の結晶化を保証するために同等に重要であることが示された。このような結果は、DSC観察に一致する。
【0110】
−50℃で6時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液を−50℃で6時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして−50℃で2時間凍結した。サイクルをLyostarIIFTSユニットで行った。これらのパラメーターを用いて、凍結のあいだ製品温度を−47℃未満、そして−48℃超に維持した(図15及び図16)。物理的検査により、18%しか許容できず、23%が小さい孔を有し、そして59%が崩壊を示したということが示された。この研究により、結晶化を開始するために、製品温度が−48℃未満である必要があるという前のDSCの発見が確認される。凍結保持時間のみの延長が十分な結晶を形成するためには十分ではないことが示される。
【0111】
−60℃で6時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液を−60℃で6時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして−60℃で2時間凍結した。サイクルをMinilyo凍結乾燥機(Usifroid)中で実行した。凍結のあいだの製品温度はトップシェルフで−51.6℃であり、ボトムシェルフで−52.7℃であった(図17及び18)。物理的検査により、全てのケーキが許容可能であることが示された。この実験はさらに、棚温度の低下と、凍結保持時間の延長が、医薬として許容されるケーキを産生するために重要であることが示された。
【0112】
−52℃で15時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液を−52℃で2時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして−52℃で15時間凍結した。凍結をLyostarII FTSユニット中で行った。第一及び第二乾燥を連続して行った。なぜなら、FTSの単離値は、第一乾燥のあいだに呈したためである。凍結のあいだ熱電温度計により計測された最も温かい製品温度は、−48℃未満であった(図19及び20)。全てのケーキの物理的外観は許容可能であった。DSCの結果に基づき、−48℃が結晶化を誘導するために必須な最も温かい製品温度であった。そして15時間の保持時間は、完全な結晶化を保証するために十分な長さであるようである。
【0113】
まとめ:表4は、異なる棚温度設定値への温度応答を列挙する。
【表4】
【0114】
製品温度は、典型的に、標的棚温度設定値よりも4℃〜6℃温かく、標的棚温度は、凍結乾燥器をとおるあいだ、全ての製品温度が−48℃になることを保証するために好ましくは−54℃に設定された。これらの研究からの結果に基づき(表5)、凍結の間における標的棚温度は、製品温度が−48度未満となることを保障するように選択することができる。
【0115】
【表5】
【0116】
さらに、完全な結晶化を保証するために十分時間を割り当てることができる。データーにより、6時間の浸漬を伴う−54℃の棚温度は、これらの条件を達成し、そして適切な結晶化を促進することができる。それゆえ、凍結浸漬時間を2時間から6時間へと延長することと、標的棚温度設定値を−52℃から−54℃へと低減することは、最終製品の物理的外観を改善するであろう。
【0117】
凍結乾燥ケーキの形態:凍結乾燥ケーキの形態を、走査型電子顕微鏡により観察した。部分的に崩壊したケーキを固体及び強いケーキについての対照として用いた。崩壊したケーキは、薄くかつ多孔性の多くのフレークを含んだ(図21A)。固体ケーキ(図21B)は、ケーキを介して分配される幾つかの丸い結晶を伴う主にプレート型の結晶から主に構成された。NaCl自体は、小さく丸い結晶(図22)を形成する。アラニンは単独で(図23)氷の蒸発によって恐らく生じた幾つかの孔を伴う連続プレートを形成する。図21Bのプレート型の結晶が、主にアラニンから生じ、そして丸型結晶がNaClから生じることが推測される。
【0118】
粉末X線回折:DSC及び凍結試験から生じるデータに基づき、第二ETP−5807歳代充填実験が行われた。この実験は、第一凍結工程のあいだの低凍結温度を含み、そして浸漬時間を延長した。変更されたサイクルは、許容される物理外観を伴う製品を生成した。
【0119】
第一実験から得た崩壊したケーキ及び第二実験から得た固体ケーキの結晶度を特徴決定するために、NaCl、アラニン、ETP5807(崩壊ケーキ)、及びETP5807(固体ケーキ)の第二実験から得た物質が評価される(図24)。主要なNaCl結晶回折ピークは、31.7°及び45.5°20に存在している。主なアラニン結晶回折ピークは20.5°20に存在する。アラニンサンプル中に生じるブロードピークは、非晶質部分へと割り当てられる。ETP5807(第一試験)及びETP5807(第二試験)のケーキは、NaClとアラニンのピークの組合せを示す。ブロードピークもまた、両方のサンプルで観察される。
【0120】
結晶度は、結晶ピーク領域を非晶質及び結晶ピーク領域の合計により割ることによって計算される。NaCl、アラニン、ETP5807及びETP5807(第二実験)の結晶度は、それぞれ、99±20%、50±1%、66±2%、及び60±1%に一致する。崩壊ケーキ及び固体ケーキについて回折パターンの差異は見られない。
【0121】
結論:凍結乾燥における凍結プロトコルを設計するための結晶化割合について強調してAT III製剤を特徴決定した。結果により、凍結温度と保持時間が、完全な結晶化のために等しく重要な必要条件であることが示される。幾つかの実施態様では、凍結乾燥は、約−54℃の凍結温度、並びに約6時間の延長された浸漬時間を含むことができる。本試験は、医薬として許容される最終製品をもたらした。
【0122】
実施例2
13ml成形バイアルを、AT III(〜6.88mg/ml)、アラニン(100mM(〜8.91mg/ml)、及びNaCl(150mM、〜8.7mg/ml)を含む10mlの滅菌ろ過溶液を充填した。AT IIIサンプルを−25℃で第一凍結し、2時間保持し、そして次に−54℃でさらに凍結し、6時間保持した。棚温度を次にゆっくり−30℃に、0.2℃/分の率で上昇し、そして2時間その温度に保持し、そして次にゆっくり0.2℃/分で−54℃に低下させた。第一乾燥を開始する前まで、製品を−54℃で2時間保持した。第一乾燥を0℃の棚温度、100mTorr制御されたチャンバー圧力で行った。第一乾燥を約32時間続け、その後に第二乾燥を開始した。第二乾燥を35℃の棚温度で、そして100mTorrのチャンバー圧力で13時間行った。
【0123】
乾燥後、約100%医薬として許容される凍結乾燥ケーキが得られた。医薬として許容されるケーキの割合は、許容されるケーキの量を、全バッチにおけるケーキの数で割ることにより計算した。さらに、調節DSCを適用し、そして凍結段階のあいだにおける濃縮相の形成及び加温傾斜のあいだにおける結晶化プロセスを観察した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、組成物、特に少なくとも1の活性成分を含む水性医薬製剤、を凍結乾燥する方法、並びにそれにより製造された組成物に関し、特に組成物、キット、そして抗トロンビン−III(AT III)を凍結乾燥する方法に関する。
【0002】
本出願は、2009年11月24日に出願された米国出願第61/264,014号の利益を主張し、当該出願の全てを本明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
凍結乾燥は、活性成分を、より固体の形態の医薬品に調製するための一般的に用いられる方法である。例えば、血漿中に通常存在するα2−糖タンパク質であり、そしてトロンビンの血漿阻害剤であるAT IIIなどの活性成分は、溶液中では比較的低い安定性しか有しないことが示されていた。したがって、AT IIIは、凍結乾燥製剤に加工されていた。
【0004】
凍結乾燥は、化学反応や生物成長がもはや生じることができないレベルへと製剤中の溶媒成分を取り除くことにより、活性成分の分解を低下又は抑制すると考えられていた。さらに、溶媒の除去が、分子の移動度を低下し、分解反応の可能性を低下させると信じられている。また、ケーキ構造を支える固体マトリクスを提供するために、凍結乾燥製品において一般的に用いられる賦形剤(例えば、アミノ酸及び塩)を結晶化させて、できる限り完全に結晶化を行うことが望まれていた。しかしながら、水性医薬製剤を凍結乾燥する従来の多数の試みによっては、満足行く程度の結晶化を達成することができなかった。例えば、典型的な凍結乾燥プロトコルの様々な凍結及び/又はアニーリング工程自体、結晶化を促進するには不十分であることが示されていた。さらに、ある結晶化賦形剤(例えば、アラニンや塩化ナトリウム)の存在が、いずれかの賦形剤の結晶化を抑制又は低減し、それにより結晶化の程度を制限しうるということが示唆されている。
【0005】
水性医薬製剤を凍結乾燥するいくつもの試みがなされている一方で、有効な凍結乾燥法及びそれにより調製される組成物に対する必要性が残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
1の態様では、本発明は、少なくとも1の活性成分及び少なくとも1の結晶化賦形剤を含む組成物を凍結乾燥する方法を提供する。この方法は、部分的に又は完全に結晶化された上記少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な第一時間のあいだ第一温度に上記組成物を晒すことを含む。
【0007】
別の態様では、本発明は、血漿由来AT III、NaCl、及びアラニンを含む液体組成物を凍結乾燥する方法を提供する。この方法は、以下の:
(a)完全に又はほぼ完全に結晶化された1以上の成分をその中に有する第一組成物を提供するために、約5時間又はそれより長く当該組成物の温度が約48℃又はそれ未満となるように、上記組成物を約54℃又はそれ未満に晒し;そして
(b)上記第一組成物を乾燥させて、凍結乾燥されたケーキを得ること
を含む。
【0008】
幾つかの態様では、本発明は、本明細書に開示される方法にしたがって調製された凍結乾燥されたケーキを含む組成物を提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、本明細書に開示される方法にしたがって調製された1又は複数の組成物及び/又は凍結乾燥されたケーキを含むキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】NaCl溶液(0.15M)の凍結及び加温のあいだにおけるDSCサーモグラム。
【図2】アラニン溶液(0.1M)の凍結(A)及び加温(B)のあいだにおけるDSCサーモグラム。
【図3】再構成AT IIIの凍結(A)及び加温(B)のあいだにおけるDSCサーモグラム。
【図4】DOE分析により得られる最適結晶化条件。
【図5】A:ETP−5807サイクルによる凍結及びアニーリングのあいだにおける熱容量(Cp)の変化。B:第一凍結のあいだにおけるCp変化。C:アニーリングのあいだにおけるCp変化。D:第二凍結のあいだにおけるCp変化。
【図6】ETP−5807サイクルによる温度に対する熱フロー変化(heat flow change with temperature)。融点ピークについての融解熱は、5.5J/gと測定された。
【図7】A:凍結保持時間を5時間に延長することに依る凍結及びアニーリングのあいだのCp変化。B:第一凍結のあいだのCp変化。C:−52℃〜−30℃への加温傾斜(warming ramp)のあいだにおけるCp変化。D:アニーリングのあいだにおけるCp変化。E:第二凍結のあいだにおけるCp変化。
【図8】凍結保持時間を2時間から5時間へと延長することによる温度に対する熱フロー変化。融点ピークについての融解熱は、6.4J/gと測定された。
【図9】lyostar II FTSユニットにおいて行われたETP−5807サイクルによるAT III凍結乾燥プロファイル。
【図10】FTSユニットにおけるETP−5807サイクルによる凍結のあいだにおける製品温度データー。
【図11】−54℃で2時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図12】−54℃で2時間凍結させた場合の製品温度。
【図13】FTSユニットにおいて−54℃で6時間凍結させた場合の製品温度データー。
【図14】FTSユニットにおいて−54℃で6時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図15】FTSユニットにおいて−50℃で6時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図16】FTSユニットにおいて−50℃で6時間凍結させた場合の製品温度データー。
【図17】Usifroidユニットにおいて−60℃で6時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図18】Usifroidユニットにおいて−60℃で6時間凍結させた場合の製品温度データー。
【図19】−52℃で15時間凍結させた場合のAT III凍結乾燥プロファイル。
【図20】−52℃で15時間凍結させた場合の製品温度データ。
【図21】ケーキの電子顕微鏡スキャン(倍率200倍)。スケールバーは、100μmである。A:崩壊したケーキ、B:固体ケーキ。
【図22】NaClの電子顕微鏡スキャン。左側:倍率200倍、右側:倍率1500倍。スケールバーは100μm(A)及び10μm(B)である。
【図23】アラニンの電子顕微鏡スキャン。左側:倍率50倍、右側:倍率200倍。スケールバーは500μm(A)及び100μm(B)である。
【図24】NaCl、アラニン、ETP5807(崩壊ケーキ)、及びETP5807の二回目の実行からえら得た物質(固体ケーキ)について回折系を用いて得た粉末X線回折(XRD)パターン。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、活性成分を含む製剤において結晶化可能な賦形剤の結晶化を誘導するために、乾燥前の1回の低温凍結工程が十分であるという予期しない発見を提供し、そうして本発明の方法は、強固な賦形剤結晶を提供する一方、より効率的、実用的、及び/又は強固な凍結乾燥プロトコルを提供する。本方法は、従来の方法を超える増量された結晶増量剤を許容する一方、製剤中に存在する活性成分の安定性及び活性を維持する。
【0012】
1の態様では、本発明は、少なくとも1の活性成分及び少なくとも1の結晶化賦形剤を含む組成物を凍結乾燥する方法を提供する。本方法は、組成物を、部分的又は完全に凍結乾燥された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な時間である第一時間にわたり第一温度に晒す工程を含む。
【0013】
本組成物は、液体又は半液体組成物であってもよい。例えば、本組成物は少なくとも1の活性成分及び少なくとも1の結晶化賦形剤を含む水性の医薬溶液又は懸濁液でありうる。
【0014】
1の実施態様では、本組成物は、液体製剤であり、好ましくは水溶液である。別の実施態様では、本組成物は、医薬用途に適しており、例えば医薬として許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物である。
【0015】
1の実施態様では、本組成物は少なくとも1の活性成分、少なくとも1の結晶化賦形剤、及び医薬として許容される担体を含む医薬組成物である。本明細書に使用される場合、「医薬として許容される担体」は、生理学的に相溶性である任意及び全ての溶媒、分散培地、被膜などを含む。担体のタイプは、意図された投与経路に基づいて選択されうる。幾つかの実施態様では、担体は、静脈内、吸入、非経口、皮下、筋肉内、静脈内、関節内、帰還しない、腹腔内、嚢内、軟骨内、腔内(intracavitary)、腔内(intracelial)、小脳内、脳室内、結腸内、頸管内、胃内、肝内、心筋内、骨内、骨盤内、心膜内、腹腔内、胸膜内、前立腺内、肺内、直腸内、腎内、網膜内、髄腔内、滑液嚢内、胸郭内、子宮内、膀胱内、ボーラス、膣、直腸、頬側、舌下、鼻腔内、又は経皮手段を介して投与するのに適しているが、これらに限られるものではない。医薬として許容される担体として、滅菌注射溶液又は懸濁液の調製用の滅菌水溶液又は懸濁液が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0016】
活性成分
幾つかの実施態様では、少なくとも1の活性成分は、タンパク質、核酸、及びそれらの組合せを含むが、それらに限定されない任意の活性成分でありうる。タンパク質としては、糖タンパク質(例えばAT III)、凝固因子、成長因子、サイトカイン、抗体、及びキメラ構築物が挙げられるが、これらに限られるものではない。本明細書において「タンパク質」という語句は、広い意味を意図されており、そして個別又は集合的な天然ヒト又は他の哺乳動物のタンパク質;及び/又は単一又は複数の遺伝子産物から生じるポリペプチドの同種又は異種組合せ;及び/又は特定の活性を示すタンパク質のフラグメント;及び/又はトランスジェニック技術を含む組換え技術により生成されるタンパク質及び/又はその活性フラグメントを指す。
【0017】
幾つかの実施態様では、少なくとも1の活性成分はタンパク質である。1の実施態様では、タンパク質はAT IIIである。別の実施態様では、組成物は、1の活性成分のみを含み、ここで該活性成分はAT IIIである。別の実施態様では、AT IIIは、組成物中における唯一の活性成分であるが、該組成物は、非AT IIIタンパク質及び/又はAT IIIの不活性形態を含む他のタンパク質を含む。例えば、機能型AT IIIは、組成物の全タンパク質含量のうちのある割合であってもよい。
【0018】
「AT III」という語句は、本明細書に使用される場合、具体的に他に言及がない限り、広い意味を意図する。例えば、この語句は、AT IIIの天然多型のすべてに関する。この語句はまた、AT IIIの機能型フラグメント、AT III又はその機能型フラグメントを含むキメラタンパク質、AT IIIの1又は複数のアミノ酸のアナログ置換により得られるホモログ、及び種ホモログを含む。この語句は、また、組換えDNA技術の産物であるAT IIIポリペプチドの全てに関し、トランスジェニック技術の産物であるAT IIIをも含む。例えば、AT IIIの遺伝子コードを、例えば米国特許第5,322,775に記載される様に、本DNA配列が乳腺において発現されるように、乳清タンパク質をコードする哺乳動物遺伝子内に挿入することができる。この文献のタンパク質化合物を産生する方法についての教示を本明細書に援用する。この語句は、当該技術分野において知られている方法、例えば固相ペプチド合成などによって化学的に合成される全てのAT IIIタンパク質に関する。
【0019】
1の実施態様では、AT IIIは、血漿由来AT IIIである。別の実施態様では、AT IIIは、血漿画分ペーストから調製される。別の実施態様では、AT IIIは、アルブミン除去血漿画分又は予め生成されたAT III調製画分から調製される。Tenoldに対する米国特許第5,561,115号を、血清又は血漿からAT IIIを調製する方法の教示について本明細書に援用する。
【0020】
別の実施態様では、AT IIIは、組換えAT IIIである。組換えAT IIIを含む組換えタンパク質の製造は、例えば米国特許第4,517,294号、第4,632,981号、第4,873,316号、第5,420,252号、第5,618,713号、第5,700,663号、第5,843,705号、第6,441,145号、第6,879,813号、第7,019,193号、Fanら、JBC,268:17588(1993)、Garoneら、Biochemistry、35:8881(1996)、国際公開WO02/02793;米国出願公開第US2003/096974及びUS2006/0024793、及びGillespieら、JBC、266:3995(1991)に記載されている。これらの各文献を組換えAT IIIを含む組換えタンパク質の製造の教示について本明細書に援用する。
【0021】
1の実施態様では、本組成物は、90%を超える純度を有するAT IIIを含むものとして特徴付けられる。別の実施態様では、AT IIIは、95%、好ましくは少なくとも約99%を超える純度を有する。幾つかの実施態様では、組成物中におけるすべてのAT IIIの少なくとも約50%、例えば約50%〜約100%、約60%〜約90%、約70%〜約80%が活性AT IIIである。
【0022】
別の実施態様では、凍結乾燥される組成物は、少なくとも約0.1mg/mlのAT III、例えば約0.1〜約100mg/ml、約0.5〜約50mg/ml、約1〜約30mg/ml、及び約5〜約15mg/mlのAT IIIを含み、ここで当該AT IIIは、組成物中に存在する合計のタンパク質の一部又は全てである。
【0023】
1の実施態様では、組成物は治療有効量のAT IIIを含む。「治療有効量」は、必要な期間及び用量で、所望の治療結果、例えば先天的アンチトロンビン欠乏症に伴う抗凝血を達成するために必要な有効量を指す。AT IIIの治療有効量は、個々の対象の疾患状態、年齢、性別、及び体重などの因子、並びに対象において所望の応答を誘発するAT IIIの能力に応じて変化しうる。治療有効量は、AT IIIの任意の毒性又は有害な効果を治療上有益な効果が上回る量でありうる。
【0024】
別の実施態様では、組成物は、AT IIIの予防上有効な量を含む。「予防上有効な量」は、必要な期間及び用量で、所望の予防結果、例えば複数の血栓塞栓症の複数回のエピソードを有する対象において、又はさらなるエピソードについてのリスクがある患者において、血栓塞栓症エピソードの予防又は阻害を達成するために有効な量を指す。予防有効量は、治療有効量について上で記載されたように決定することができる。
【0025】
結晶化賦形剤
1の実施態様では、少なくとも1の結晶化賦形剤は、アラニン、マンニトール、グリシン、及びNaClからなる群から選択される。
【0026】
幾つかの実施態様では、少なくとも1の結晶化賦形剤は、組成物中で少なくとも約0.01%(w/v)、例として約0.01%〜約10%、約0.1%〜約5%、及び約0.7%〜約1.8%(w/v)の量の合計結晶化賦形剤が存在する。
【0027】
別の実施態様では、凍結乾燥製品は、少なくとも約20%(w/v)の合計結晶化賦形剤を含み、例えば約20〜約80%、約30〜約70%、そして約36〜約60%(w/v)の合計血漿賦形剤を含む。
【0028】
幾つかの実施態様では、少なくとも1の結晶化賦形剤は、アラニン及びNaClである。1の実施態様では、NaClは、約50mM〜約300mM、好ましくは約100mM〜約250mMの量で存在する。1の実施態様では、塩化ナトリウム自体が、前述の結晶化賦形剤をどれも伴わずに使用することができ、この場合塩化ナトリウムは製剤中に300mM又はそれ以上の量で含められる。別の実施態様では、組成物(例えば水性医薬製剤)は、高張溶液である。
【0029】
少なくとも1の活性成分及び少なくとも1の結晶化賦形剤に加えて、組成物は、さらに1又は複数の他の賦形剤、つまり該活性成分と組み合わせて使用されて該組成物を構成する1又は複数の他の物質、をさらに含むことができる。1又は複数の他の賦形剤の幾つかの非限定的な例として、安定剤、緩衝剤、二価カチオン(例えばカルシウム塩)、結合剤、潤滑剤、崩壊剤、希釈剤、着色剤、フレーバー、流動促進剤、界面活性剤、吸収剤及び甘味料が挙げられる。
【0030】
本発明にしたがった活性成分と賦形剤の組合せは、凍結製剤中の活性成分の安定性を提供することができるが、本発明の組成物は、液体又は半液体状態においてもある程度の安定性を示すこともできる。
【0031】
別の実施態様では、組成物は、さらに安定剤を含む。例えば、安定剤は、スクロース、マンニトール、及びトレハロースからなる群から選択することができる。凍結乾燥前に、安定剤は少なくとも約1%、例えば約1〜約4%、及び約2%〜約3%の合計安定剤の量で組成物中に存在することができる。幾つかの実施態様では、安定剤は、約2%の量で組成物中に存在する。
【0032】
緩衝剤は、特に、活性成分が、凍結乾燥のあいだにpHシフトによって悪影響を受ける疑いがある場合に本発明の組成物中に存在することができる。pHは、凍結乾燥のあいだ好ましくは約6〜8の範囲、そしてより好ましくは約pH7に維持すべきである。緩衝剤は、任意の生理的に許容される化合物であってもよいし、又は緩衝剤として作用する能力を有する化合物であってもよく、例えばリン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸/リン酸緩衝剤、ヒスチジン、トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(Tris)、1,3−ビス−[トリス−(ヒドロキシ−メチル)メチルアミノ]−プロパン(BIS−Trisプロパン)、ピペラジン−N,N’−ビス−(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、3−{N−モルフォリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HERPES)、2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸(MES)、及びN−2−アセトアミド−2−アミノメタンスルホン酸(ACES)が挙げられる。
【0033】
1の実施態様では、緩衝剤は、約10〜約50mMの濃度で組成物中に含まれる。ヒスチジンが組成物に加えられる場合、少なくとも約20mM、好ましくは約25mMの濃度が単独で又は他の緩衝剤、例えばトリスと組み合わせて使用できる。
【0034】
別の実施態様では、組成物はさらに、2価のカチオン、例えばカルシウム塩を含む。1の実施態様では、カルシウム塩は約1mM〜約5mMの量で存在する。
【0035】
1の実施態様では、組成物はさらに界面活性剤を含む。界面活性剤は、約0.1%又はそれ未満の量で存在することができる。界面活性剤の非限定的な例として、POLYSORBATE20(例えば、Tween(商標)20)、POLYSORBATE80(例えばTWEEN(商標)80)、ポリオキシエチレン(80)ソルビタン脂肪酸エステル、プルロンポリオール(pluronic polyol)(例えばF38、F−68)、及びポリオキシエチレングリコールドデシルエーテル(例えばBrij−35)が挙げられる。
【0036】
本発明にしたがい、組成物は、さらに抗酸化剤を含むことができる。抗酸化剤は、少なくとも0.05mg/ml、例えば約0.05〜約50mg/ml、約0.1〜約10mg/ml、そして約1〜約5mg/mlの合計量で組成物中に存在することができる。抗酸化剤の非限定的な例として、N−アセチル−L−システイン/ホモシステイン、グルタチオン、6−ヒドロキシ−2,5,7,8−テトラメチルクロマン−2−カルボン酸(Trolox)、リポ酸、メチオニン、チオ硫酸ナトリウム、白金、グリシン−グリシン−ヒスチジン(トリペプチド)、及びブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)が挙げられる。幾つかの実施態様では、組成物はさらにグルタチオンを約0.05mg/ml〜約5mg/mlの量で含む。
【0037】
本発明の組成物は、特にカチオンが活性成分と相互作用を提供してその活性を維持する場合、カルシウム又は他の二価カチオンを含むことができる。1の実施態様では、組成物はさらに二価のカチオンを含む。別の実施態様では、二価のカチオンは、カルシウム塩、例えば塩化カルシウムとして提供されるが、他のカルシウム塩、例えばグルコン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム(calcium glubionate)、又はグルセプト酸カルシウム(calcium gluceptate)でありうる。幾つかの実施態様では、カルシウム塩は、約1mM〜約5mMの量で存在する。別の実施態様では、カルシウム塩は、約3mM〜約4mM、好ましくは約4mMの量で存在する。
【0038】
幾つかの実施態様では、ヒスチジンとグルタチオンの組合せが、組成物中に存在するある活性成分の安定性について相乗的に有益な効果を提供しうる。例えば、ヒスチジンは、緩衝剤として作用する一方で、金属キレーターとしても作用しうる。本成分の活性のレベルが金属誘導性酸化により影響を受けると信じられている範囲において、例えばヒスチジンは、金属イオンを酸化することにより、結合を安定化するように作用することができる。これらの金属を結合することによって、グルタチオン(又は存在する任意の他の抗酸化剤)は、さらなる抗酸化保護を提供することができると信じられている。なぜならヒスチジンによって結合される金属イオンの酸化効果が抑えられるからである。他のキレート剤もまた、本発明の組成物/製剤中に含めることができる。このようなキレート剤は、好ましくは銅や鉄などの金属に、例えばカルシウム塩が組成物中に使用される場合にカルシウムよりも高いアフィニティで結合する。このようなキレータ−の一例が、デフェロキサミンであり、当該化合物はAl2+及び鉄を除去するキレート剤である。
【0039】
凍結乾燥
一般的に凍結乾燥法の特定の温度及び/又は温度範囲は、他に特記がない限り、凍結乾燥装置の棚(シェルフ)温度(shelf temperature)を指す。棚温度は、凍結乾燥機の棚(シェルフ)を通って流れる冷媒の制御温度を指し、これは凍結乾燥のあいだ、温度の点で制御されるものである。サンプルの温度(つまり、製品温度)は、最初の乾燥のあいだの蒸発/昇華率(蒸発冷却は、製品温度を棚温度よりも低くする)、棚温度、及び/又はチャンバー圧力に左右される。
【0040】
A.凍結
1の実施態様では、第一温度は約−48℃であるか又はそれより低い。別の実施態様では、第一温度は約−54℃であるか又はそれより低い。別の実施態様では、時間は、少なくとも約30分、例えば約30分〜約20時間、約1〜約18時間、約2〜約16時間、約3〜約14時間、約4〜約10時間、約5〜約8時間、及び約6〜約7時間である。1の実施態様では、時間は約6時間である。
【0041】
温度及び時間は、バイアルあたりの溶液の体積などに左右され、凍結乾燥される組成物に左右されない。
【0042】
本発明は、ある場合、賦形剤を完全に又は100%結晶化する目的に関しており、そして当業者は、「完全な結晶化」は立証が難しく、特に技術の感度が、絶対的な確実性をもって賦形剤が完全に又は100%結晶化されているということをいうことができない場合、特に難しいことを理解している。したがって、実用の観点から、従来の方法に対して賦形剤の結晶化を少なくとも改善する凍結乾燥方法を提供する。したがって、本明細書で使用される場合、「完全に結晶化された」製品は、例えば示差走査熱量計(DSC)によって評価することができ、ここで当業者は、第一走査における非可逆的発熱事象が結晶化事象を表しており、これは結晶化賦形剤が、凍結乾燥のあいだに完全に結晶化しなかったことを示していると認めることができる。幾つかの実施態様では、少なくとも1の結晶化賦形剤は、部分的に結晶化されており、ここで部分的に結晶化とは、約50%又はそれ以上、例えば少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、少なくとも約99.5%、少なくとも約99.8%、そして100%未満の結晶化の度合いとして特徴付けられる。
【0043】
B.アニーリング
別の実施態様では、本方法はさらに、第一組成物を第二温度に第二時間のあいだ晒して、第二組成物を取得することを含み、ここで当該第二温度は第一温度より高い。
【0044】
1の実施態様では、第二温度は、第一温度よりも少なくとも約5℃高く、例えば第一温度よりも約5℃〜30℃、そして約10℃〜約20℃高い。例えば、幾つかの実施態様において第一温度が約−50℃である場合、第二温度は約−30℃である。
【0045】
幾つかの実施態様では、第二時間は少なくとも10分、例えば約10分〜10時間、約30分〜約8時間、約1時間〜約6時間、そして約2時間〜約4時間である。別の実施態様では、第二時間は、第一時間より短いか、長いか、又はほぼ同じ時間である。
【0046】
任意の特定の理論に縛られることなく、かかるアニーリング工程が、昇華率の改善及び/又は条件及び特定の組成に応じたバッチ間の不均質性を低減するのに役立ちうると考えられている。
【0047】
幾つかの実施態様では、アニーリング工程はオプションの工程である。
【0048】
別の実施態様では、第二時間に続いて、第二組成物は第三温度に第三時間のあいだ晒され、ここで第三温度は、第二温度よりも低い。例えば、幾つかの実施態様では、第三温度は、第一温度とほぼ同じである。別の実施態様では、第三温度は、第二温度よりも少なくとも5℃低く、例えば第二温度より約5℃〜約30℃、そして約10℃〜約20℃低い。例えば、ここで、第二温度は、約−30℃であり、幾つかの実施態様では第二温度は約−50℃である。
【0049】
幾つかの実施態様では、本発明は少なくとも1の活性成分と少なくとも1の結晶化賦形剤を含む組成物を凍結乾燥する方法を提供する。本方法は、以下の:
(a) 当該組成物を第一温度に、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な第一時間のあいだ晒す工程、
(b) 当該第一組成物を、第二温度に、第二時間のあいだ晒して第二組成物を得る工程、ここで第二温度は第一温度より高く、そして
(c)第二組成物を、第三温度に、第三時間のあいだ晒して第三組成物を得る工程、ここで第三温度は第二温度より低い、
を含む。
【0050】
1の実施態様では、時間は、少なくとも約30分、例えば約30分〜約20時間、約1〜約18時間、約2〜約16時間、約3〜約14時間、約4〜約10時間、約5〜約8時間、及び約6〜約7時間である。別の実施態様では、時間は約6時間である。別の実施態様では、時間は約3時間である。別の実施態様では、第三時間は第一時間より短いか、長いか、又はおよそ同じくらいである。さらなる実施態様では、工程(a)及び(b)の条件(例えば、温度や時間)は、同じであるか又は実質的におなじである。
【0051】
C.乾燥
別の実施態様では、本発明の方法は、さらに乾燥フェーズを含む。乾燥フェーズは、第一乾燥フェーズと第二乾燥フェーズを含む。
【0052】
したがって、幾つかの実施態様では、本発明は、少なくとも1の活性成分と少なくとも1の結晶化賦形剤とを含む組成物を凍結乾燥する方法を提供する。この方法は以下の:
(a) 上記組成物を第一温度に、部分的に又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な第一時間のあいだ晒し;そして
(b) 第一組成物を乾燥させて凍結乾燥ケーキを形成させる
を含む。
【0053】
別の実施態様では、本発明は、少なくとも1の活性成分と少なくとも1の結晶化賦形剤とを含む組成物を凍結乾燥する方法であって、以下の:
(a) 当該組成物を第一温度に、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な第一時間のあいだ晒す工程、
(b) 当該第一組成物を、第二温度に、第二時間のあいだ晒して第二組成物を得る工程、ここで第二温度は第一温度より高く、そして
(c)第二組成物を、第三温度に、第三時間のあいだ晒して第三組成物を得る工程、ここで第三温度は第二温度より低い、
(d) 第三組成物を乾燥させて凍結乾燥ケーキを形成させる
を含む、前記方法を提供する。
【0054】
1の実施態様では、乾燥は、第一乾燥工程を含む。第一乾燥は、凍結した水を取り除くことができる(氷の昇華)。好ましくは、第一乾燥により、未結合又は容易に除去可能な氷がサンプルから取り除かれる。第一乾燥工程の最初において未結合の水は、好ましくは遊離の氷の形態で存在しており、当該遊離の氷は、昇華、すなわちそれを直接固体から蒸気へと変換することによって取り除くことができる。
【0055】
幾つかの実施態様では、第一乾燥工程は、約−35℃〜約20℃、又は約−25℃〜約10℃、又は約−20℃〜約0℃の温度で行うことができる。1の実施態様では、第一乾燥工程は、約0℃で行われる。別の実施態様では、第一乾燥工程は、少なくとも約1時間、例えば約1時間〜約1週間、約10時間〜約4日間、及び約20時間〜約40時間の合計時間のあいだ行われうる。別の実施態様では、第一乾燥工程は、第一又は第三組成物を、約0〜約200mTorr、好ましくは約100mTorrの圧力下で、約−50℃の温度で約1時間、続いて0℃で約35時間乾燥することを含む。
【0056】
任意の「第一乾燥傾斜(ramp)」工程(つまり、第一乾燥の前の工程から、第一乾燥温度への温度の増加)は、本発明の方法に従って、1分あたり約0.1℃〜約10℃の率で行われる。
【0057】
第一乾燥工程は、実質的に全ての凍結された水がサンプルから取り除かれることを保証するために十分な時間にわたって行われうる。当業者は、第一乾燥時間は、充填体積及び形状(ケーキの表面積−レジスタンス/フラックス)に左右されるという構成に応じて変化するということを理解する。1の実施態様では、第一乾燥時間は、少なくとも約「5時間、例えば約5時間〜約100時間、約10時間〜約80時間、約30時間〜約60時間、そして約40時間〜約50時間である。
【0058】
第一乾燥は、凍結乾燥のあいだに製品温度における変化を観察することを含むいくつかの方法によりモニターすることができる。別の方法は、チャンバー圧力における変化を観察することであり、ここで昇華が終わった場合、圧力の変化に寄与する水分子がもはやチャンバー内に存在することはない。第一乾燥工程の終わりは、製品(サンプル)温度が、棚温度に達した際に、例えば昇華率が低下したため製品温度のグラフの傾きにおける有意な変化によって明らかにされ;昇華が終わった際に蒸発による冷却が終了する。早い段階での終結を予防するために、幾つかの実施態様では、2〜3時間の追加の第一乾燥が時間に加えられてもよい。第一乾燥の完了をモニターする別の方法は、圧力上昇試験であり、ここでは吸引源を断つことにより、チャンバー圧力は、製品中の湿気量に応じた率で上昇する。1の実施態様では、第一乾燥工程の終わりは、圧力の上昇率が特定の値以下になった場合に設定されうる。第一乾燥工程の終わりを決定する別の方法は、伝熱率の計測である。
【0059】
別の実施態様では、第一乾燥の直前に、組成物は、第一乾燥の直前の工程の温度で吸引下に配置されてもよい。これが開始されると、吸引レベルは変化しうるものの、吸引は、凍結乾燥工程のリマインダーとして存在することができる。
【0060】
凍結乾燥のあいだにおけるさらなる情報は、Carpenter, J. F. 及びChang, B. S., Lyophilization of Protein Phrmaceuticals, Biotechnology and Biopharmaceutical Manufacturing, Processing and Preservation, K. E. Avis and V. L. Wu, eds. (Buffalo Grove, IL Interpharm Presss, Inc.) (1996)に見いだすことができ、当該文献は乾燥の教示について本明細書に援用される。
【0061】
1の実施態様では、乾燥はさらに、1又は複数の第二乾燥工程をさらに含み、湿気レベルを、好ましくは最終製品の所望の生物学的及び/又は構造的特性を提供するレベルにまで低減することを含む。
【0062】
幾つかの実施態様では、1又は複数の第二乾燥工程の各々は、約0℃又はそれ以上、例えば約0℃〜約100℃、約10℃〜約90℃、約20℃〜約80℃、約30℃〜約70℃、約40℃〜約60℃、そして約45℃〜約50℃の温度で行われる。1の実施態様では、第二乾燥工程は、約40℃、約45℃、及び約50℃でそれぞれ行われる第一、第二、及び第三の第二乾燥工程を含む。1の実施態様では、第二乾燥工程は、約16時間のあいだ約35℃の温度で行われる。
【0063】
上記1又は複数の第二乾燥工程へと温度を増加させる工程は、オプションであってもよい「第二乾燥傾斜(ramp)」と呼ばれる。第二乾燥傾斜は、1分あたり約0.1℃〜約10℃の温度の増加率で行われうる。
【0064】
1又は複数の第二乾燥工程の各々は、凍結乾燥製品において残存している湿気レベルを最終レベルにまで低減するために十分な時間のあいだ行うことができる。幾つかの実施態様では、最終的な残存湿気レベルは、約10%又はそれ未満であり、例えば約9%又はそれ未満であり、約8%又はそれ未満であり、約7%又はそれ未満であり、約6%又はそれ未満であり、約5%又はそれ未満であり、約4%又はそれ未満であり、約3%又はそれ未満であり、約2%又はそれ未満であり、約1%又はそれ未満であり、約0.8%又はそれ未満であり、約0.6%又はそれ未満であり、約0.5%又はそれ未満であり、約0.2%又はそれ未満であり、そして約0.1%又はそれ未満である。
【0065】
1の実施態様では、第二乾燥工程は約35℃で行われる。別の実施態様では、第二乾燥工程は、少なくとも約1時間、例えば約1時間〜約1週間、約10時間〜約4日間、及び約16時間〜約40時間の合計時間にわたり行われうる。別の実施態様では、第二乾燥工程は、約0〜約200mTorr、好ましくは約100mTorrの圧力下で、約35℃の温度で約16時間乾燥することを含む。
【0066】
サンプル中の残存湿気レベルを決定するために、例えばKarl Fischer法を使用することができる。さらに、圧力上昇試験又は伝熱率の計測は、1又は複数の第二乾燥工程の各々の終わりを決定するために使用することができる。あるいは、電気的湿度計又は残存ガス分析装置も使用することができる。また、1又は複数の第二乾燥工程の最小期間は棚温度と期間との異なる組合せを用いて決定することができる(ここで、1又は複数の第二乾燥工程の棚温度は、最も高い温度の工程において使用された温度と同じであるか、それよりは低い)。残存湿気含量は、乾燥の際の欠失、Karl Fischer滴定、熱重量分析(TGA)、ガスクロマトグラフィー(GC)、又は赤外線分光法を含む幾つかの方法により決定することができる。
【0067】
いずれの特定の理論に縛られることなく、凍結乾燥のあいだに、活性成分が、水相中から非晶質の固相中へとその存在場所を変換されており、これは化学及び/又は立体構造に起因する不安定性から活性成分を保護するものと考えられる。凍結乾燥された調製品は、非晶質相を含むばかりでなく、凍結乾燥のあいだに結晶化した成分も含む。これにより、活性成分が凍結乾燥され、そしてより洗練されたケーキ(例えば、凍結乾燥が行われる容器の側面から、最小限の収縮しか生じていないケーキ)が形成される。
【0068】
1の実施態様では、凍結乾燥されたケーキは、50%未満の崩壊性と特徴付けられる。別の実施態様では、凍結乾燥されたケーキは、約0%〜約24%の崩壊性であると特徴付けられる。
【0069】
別の態様では、本発明は、AT IIIを含む水性医薬製剤を凍結乾燥する方法であって、以下の:
(a) 製剤を約−45℃未満の温度に、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を取得するために十分な時間のあいだ晒し;そして
(b) 第一組成物を乾燥させて凍結乾燥ケーキを形成する
を含む方法が提供される。
【0070】
別の態様では、本発明は、AT IIIを含む水性医薬製剤を凍結乾燥する方法であって、以下の:
(a) 製剤を約−50℃未満の凍結温度に、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を取得するために十分な時間のあいだ晒し;そして
(b) 第一組成物を乾燥して、凍結乾燥ケーキを形成する
を含む前記方法に関する。
【0071】
幾つかの実施態様では、本方法は、場合によりさらに、製剤を凍結温度よりも高いアニーリング温度に晒すアニーリング工程をさらに含む。
【0072】
別の態様では、本発明は、AT IIIを含む水性医薬製剤を凍結乾燥する方法であって、当該方法は以下の:
(a)製剤を、約−60℃未満の温度に、部分的に又は完全に凍結乾燥された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を取得するために十分な時間のあいだ晒し;そして
(b)第一組成物を乾燥して、凍結乾燥ケーキを形成する
を含む方法を提供する。
【0073】
本発明の方法に従って調製された組成物(例えば、結晶化及び/又は凍結乾燥された医薬組成物及びケーキ)も提供される。
【0074】
したがって、幾つかの実施態様では、本発明は凍結乾燥されたAT III組成物又は本発明にしたがって調製されたケーキを提供する。
【0075】
別の実施態様では、本発明の方法は、凍結乾燥された製品の貯蔵の後に、活性成分の効力を少なくとも維持するか又は実質的に維持する製品を提供する。1の実施態様では、活性成分の効力は、約5℃、約25℃、又は約40℃で約1、約2、約3又は約6ヶ月以上凍結乾燥製品を貯蔵後に、維持又は実質的に維持される。別の実施態様では、凍結乾燥製品の貯蔵後に、活性成分の効力は、その凍結乾燥前の効力に対して少なくとも約70%、80%、90%、95%、99%、及び100%である。
【0076】
キット
さらなる態様では、本発明の医薬組成物を含むキットであって、さらに乾燥及び液体成分を含み、ここで乾燥及び液体成分は、キット内の分離した容器内に存在することができるか、又は成分の幾つかは1の容器内に混合されうるキット、例えば乾燥成分が第一容器内に存在し、液体成分が第二容器内に存在するキットが提供され、ここで当該容器が組合せた構成で存在してもよいしそうでなくてもよい。場合により、キットはさらに、多数の追加試薬を含むことができる。場合により、キットは、キットの成分を使用するための指示、例えば凍結乾燥された組成物を、適切な希釈液で構成するための指示、をさらに含むことができる。指示は、パッケージの挿入物としてキット内に存在してもよいし、キットや構成要素の容器のラベルに存在してもよい。
【0077】
本発明は、実施例によってより詳細に例示されるが、本発明が実施例に限定されないことに留意すべきである。
【0078】
実施例
実施例1
AT III溶液中において成分の結晶化を促進し、そして最終製品の物理的外観を改善する凍結条件を決定するために、ヒト血漿由来AT III(6.88mg/ml)、アラニン(100mM)、及びNaCl(150mM)を含むAT III製剤について凍結乾燥を行った。アラニン及びNaClの両方ともが、結晶化賦形剤である。この製剤について、物理的外観は、賦形剤の結晶化度に直接関連する。ケーキ構造を支持する固体マトリクスを提供するために、凍結のあいだできる限り完全にNaCl及びアラニンを結晶化すること望ましかった。
【0079】
示差走査熱量計:AT III製剤の凍結−融解熱事象を、示差走査熱量計(Model 2920, TA instruments, Inc., New Castle, DE)を用いて調べた。DSCの温度及びセル定数を、高純度インジウムを用いた標準方法に従い校正した。調節DSCを用いて、最大限に凍結濃縮された溶質の熱フロー及び熱容量(Cp)を試験した。80秒の期間で、0.5℃の増幅率で実行した。20μlのサンプルをアルミニウム製密封パン中に密封し、そして氷点下温度範囲でスキャンした。
【0080】
NaCl、アラニン及びAT IIIの再構成溶液中での熱事象:結晶化及び溶融事象は、NaCl、アラニン及びAT III再構成溶液中で調べられた。
【0081】
E−CHIPによるDSC実験設計:Echipにより設計されるDOEを行い、賦形剤の結晶化における、凍結温度、凍結保持時間、及びアニーリング保持時間の効果を評価した。(5℃から凍結温度までの)凍結傾斜率(freezing ramp rate)は、2℃/分にセットした。アニーリング後に、製品を−30℃から凍結温度まで、5℃/分で凍結した。加温傾斜率を、1℃/分に固定した。
【0082】
結晶化に対する傾斜率の効果:異なる冷却率(2℃/分と0.2℃/分)を比較して、結晶化に対する傾斜率の効果を調べた。アニーリングのあいだにおける様々な傾斜率(5℃/分と0.2℃/分、1℃/分と0.2℃/分)を評価した。
【0083】
濃縮相の形成:過冷却のプロセスのあいだに、液相中において利用できるが、結晶固相中においては利用できない分子立体構造及び構成へと凍結される。冷却のあいだにおける「トラッピング」立体構造及び構成へと移る過程は、粘度の増加率が、分子の再配向率を超えた際に生じる。立体構造状態の「凍結」は、液体に類似しているある程度の短距離分子秩序を有し、結晶固体PIの特徴である長距離分子秩序を欠如する濃縮相をもたらす。
【0084】
濃縮相の形成を、調節DSCによって観察する。ここで、凍結濃縮非晶質相の熱容量(Cp)は、平衡に達するまで連続的に減少した。Cpは、固有の特性であり、そして分子移動度に直接関連する。より高いCpは、より移動度が高いことを意味し、そしてより低いCpは移動度が低いことを示す。液体状態における物質は、固体のカウンターパートよりも高いCpを有する。Cpの低下は、液体状態から固体状態への物質の物理的転移のため生じる。
【0085】
表1に示される凍結及びアニーリングプロトコルを用いてCpをモニターした:
【表1】
【0086】
溶液を0〜−52℃で凍結し、そして120分間保持した。次に−30℃まで加温し、そして1時間保持した。最終的に、製品を−52℃でさらに2時間凍結し、そして次に0℃にランプアップした。第一凍結率は0.2℃/分であった。凍結保持時間(2時間、5時間、及び10時間)、並びにCpの温度(−46℃、−48℃及び−52℃)の効果を評価した。
【0087】
凍結乾燥:実験の多くを、LyostarIIFTSシステム(SP Industries)で行った。いくつかをMinilyo Freeze Dryer(Usifroid)で行った。凍結技術を表2に記載する。
【表2】
【0088】
技術1〜5は、第一凍結段階の棚温度及び保持時間の点で異なっている。第二凍結温度を第一凍結温度と同じ温度に設定した。そして第二凍結の保持時間を2時間とした。技術6は、製品を−52℃で2時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして再び−52℃でさらに15時間凍結するという条件を特定する。アニーリング、第一乾燥及び第二乾燥は、表1に記載される全てのサイクルと同じであった。
【0089】
走査型電子顕微鏡(SEM):SEM(Hitachi, Model S-3200, NCSU)を用いて、凍結乾燥ケーキの形態を試験した。表面又は表面直下のサンプルの増を、50〜5000倍の倍率で示した。凍結乾燥ケーキが良好な電気的絶縁体であったため、ケーキは電子線に晒されると荷電した。これは解像度の低下を招いた。サンプルを電子線に晒した際に荷電効果を低減するため、全てのサンプルを、ベンチトップDentonVaccumを用いてスパッタリングすることにより金薄膜で被膜した。崩壊ケーキ、固体ケーキ、NaCl結晶及びアラニン結晶の画像を取得した。
【0090】
粉末X線回折:粉末X線開設(XRD)を適用して、崩壊ケーキ(ETP5807)及び固体ケーキ(ETP580726N9540)の結晶度を特徴決定した。XRDパターンを、40kV及び40mAの銅Ka放射を備えた回折計(Rikagaku, model Multiflex)を用いることにより記録した。10°〜90°の20範囲でスキャンを行った。スキャンスピードは、ETP5807のNaClサンプルについて1°/分であり、そしてアラニンについて0.125°/分であった。
【0091】
結果及び考察:
DSCの実行は、AT III製剤における賦形剤の結晶化性質を司る臨界因子を特徴決定することを狙っており、結晶化温度(Tx)、共結晶融点(Te)、及び結晶パーセントを測定した。
【0092】
NaCl、アラニン及びAT III溶液の結晶化及び溶融:純NaCl溶液について、発熱結晶化ピークは、凍結のあいだに約−38°で生じ、そして吸熱融点ピークは加温のあいだ−19°で生じた(図1)。融点ピークの融解熱を測定すると7.4J/gであった。アラニン溶液についてのサーモグラムは、凍結のあいだ−45℃で発熱ピークを示し、結晶化を示した。しかしながら、加熱のあいだに、およそ−44℃で小さなピークの群が生じた。これらのピークの起源の決定は難しかった(図2)。
【0093】
再構成されたAT III溶液が分析された場合、凍結のあいだにおける発熱活性の証拠は無かった。しかしながら、共結晶融点ピークは−22℃に見られ、これはNaClに起因する可能性が最も高い(図3)。融解熱(2.0J/g)は、純NaCl溶液よりも小さかった。融解熱の低下は、AT III製剤におけるNaClの部分的結晶化に寄与しうる。この相関に基づき、結晶化割合を、製剤から生じる融解熱を、定数7.4J/g(これはNaCl純溶液の融解熱である)で割ることにより計算される。
【0094】
DOE結果:中心混合物キューブモデルを用いた、ECHIPにより設計されたDOEを行って、AT III溶液の結晶化に際した凍結温度、凍結保持時間、及びアニーリング保持時間の効果を評価した(表3)。
【0095】
【表3】
【0096】
DOEからの結果は、評価された全ての可変条件が、溶液の結晶化にたいして有意の影響を与えたということを示した。−44℃〜−60℃の温度での凍結と比べられた場合に−52℃での凍結が、より高い割合の結晶NaClをもたらした。低温側(−60℃)での結晶の低下は、結晶度と結晶率とのあいだのトレードオフの関係により説明できる。結晶度は、低い温度ではより高かった。しかしながら、溶液は粘性になりすぎて、結晶率は有意に低下した。DOEデータ分析は、−54℃での最適な凍結温度を与えた(図4)。
【0097】
保持時間の評価は、凍結保持時間とアニーリング保持時間の延長が、結晶割合の増加をもたらすことを示している。DOE結果により、最適な保持時間は凍結及びアニーリングの両方について10時間であることが示唆される(図4)。
【0098】
データー分析は、アウトオブフィットメッセージを与え、E−Chipにより生成されるモデルが、完全に結晶化方法を反映するわけではないことを示唆している。その結果、追加のDSC実験は、凍結及びアニーリングのあいだの結晶化プロセスに伴う物理的性質変化をよりよく理解するために行われた。
【0099】
結晶化における傾斜率の効果:冷却率:可塑剤として、水は、自由体積及び分子移動度を増加させる物理的希釈剤として作用する。分子移動度を増加させることが水の能力であり、これは結晶化などの分散制御工程を促進することができる。迅速な冷却は、非晶質相内により多くの水を閉じ込める一方で、冷却の低下は、システムから水が流失することを可能にする。したがって、迅速な冷却は結晶の形成を促進する。凍結率が、2℃/分〜0.2℃/分へと低下すると、NaClの結晶割合は82%ほど(17%から3%へと)低下する。
【0100】
アニーリングのあいだにおける傾斜率:凍結からより温かい温度への上昇が行われる場合、分子移動度は、核の形成及び結晶化が生じる程度に増加する。この段階での傾斜率は、十分な結晶を産生するために十分なほどゆっくりであるべきである。1℃〜0.2℃/分への傾斜率の低下は、結晶化割合を38%〜95%に増加させた。傾斜率が0.1℃/分に低下しても、それ以上の差異は見られなかった。
【0101】
−30℃〜−52℃へと変化した場合、5℃/分から0.2℃/分への変化率の減少は、結晶を1.35倍(17%から39%へと)に増加させた。これらの結果は、0.2℃/分の変化率は、結晶を生じさせるのに適していたということを示唆する。
【0102】
濃縮相及び結晶化:追加の実験は、濃縮相及び結晶化に焦点を当てた。図5Aは、ETP5807サイクルによる時間に伴うCpの変化を示す(表1)。第一凍結(図5B)、アニーリング(図5C)、及び第二凍結(図5D)のあいだにCpの小さな変化が存在する。濃縮相の形成は、Cpの低下により示される。Cpの小さな変化は、小さい相変化が凍結及びアニーリングのあいだに生じることを示している。これらのパラメーターを用いることにより、75%結晶化が得られた。結晶割合は、5.5J/gである融解熱を、定数7.4J/g(これは純NaCl溶液の融解熱である)により割ることによって計算される(図6)。
【0103】
濃縮相の形成は、凍結保持時間の延長を伴って観察される。図7Aは、凍結及びアニーリングのあいだにおけるCp変化の全図を示す。第一凍結保持時間が2時間から5時間へと延長された場合に、Cp値は、より液相からより濃縮相への変化を指し示す最小平衡値へと低下した(図7B)。5時間から10時間への保持時間のさらなる増加は、Cpのさらなる低下を示さなかった(データ未掲載)。結晶ピークは、加温傾斜のあいだ観察された(図7C)。この固有ピークは、凍結保持時間が2時間であった場合は存在しなかった。第一凍結及び加温傾斜のあいだにおいて溶液が完全に結晶化された場合、追加のアニーリングや凍結がCp値にたいして全く又は少ししか影響を及ばさないということが推測されうる。これは、アニーリングと第二凍結のあいだにおいて、Cpの変化が観察されないという事実により示された(図7D及び7E)。結晶化割合は、凍結時間を2時間から5時間へと延長した場合に、87%に増加した。さらに、結晶化割合は、融解熱(6.4J/g(図8))を定数7.4J/gで割ることにより計算された。
【0104】
これらの結果により、AT III非晶質相が物理的変換を完了するためには、−52℃で5時間が必要とされるということが示唆される。凍結が2時間された場合に濃縮相は形成し始める。十分な凍結保持時間は、結晶の1の必須条件である。
【0105】
同様の実験が、−52℃よりも温かい温度で行われた。これらの結果は、製品温度が−46℃である場合結晶化活性が存在しないことを示す。−48℃の温度において、保持時間が4時間〜5時間である場合に結晶化割合は36%〜84%に増加した。その結果、十分な結晶化を誘導するために、AT III溶液を、−48℃以下で少なくとも5時間凍結することが好ましい。
【0106】
凍結乾燥プロセスの開発:巨視的規模でDSC実験から得た結果を確認するために、4の凍結温度(−50℃、−52℃、−54℃、及び−60℃)及び2つの保持時間(2時間及び6時間)を実験室凍結乾燥機で評価した。
【0107】
−52℃で2時間の凍結:実験において使用される表1の一連のサイクルパラメーターの初回評価を、LyostarIIFTSユニットを用いて行った。温度及びチャンバー圧力プロファイルを図9に示す。凍結プロセスのあいだに熱電温度計により計測される最も温かい製品温度は、−49℃であった(図10)。処理の後に、物理的検査により、ケーキの2%が許容でき、17%が小さな孔を有し、57%が部分的に崩壊しており、そして23%が破壊されているということが明らかにされた。DSC結果に基づいて、製品温度(−49℃)は、結晶化を誘導するために十分冷たかったが、凍結保持時間は、結晶化の前に濃縮相を形成するために少なくとも5時間であることが必要である。2時間の凍結期間は、十分な結晶を産生するには短すぎた。
【0108】
−54℃で2時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液は、−54℃で2時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そしてふたたび−54℃で2時間凍結した。凍結は、LyostarIIFTSユニットで行われた。第一及び第二乾燥を、CS10−0.5(Serial14L03)で行った。図11及び12のグラフにより、凍結のあいだに製品温度が−50℃未満に維持されたことが示された。物理検査により、74%のケーキが許容され、そして26%が小さな孔を有したことが明らかにされた。製品温度−49℃から−50℃へと低下させることにより、ケーキの外観について改善が見られたが、結果はそれでも満足行くものではなかった。これらの結果により、低温で凍結させることのみでは、完全な結晶化を誘導するのに十分ではないことが示される。
【0109】
−54℃で6時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液を−54℃で6時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして−54℃で2時間凍結した。サイクルをFTS凍結乾燥ユニットで行った。凍結のあいだ製品温度を−50℃未満に維持した(図13及び図14)。物理的検査により、全てのケーキが許容できることが示された。これらの結果により、製品温度及び凍結保持時間が、最適の結晶化を保証するために同等に重要であることが示された。このような結果は、DSC観察に一致する。
【0110】
−50℃で6時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液を−50℃で6時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして−50℃で2時間凍結した。サイクルをLyostarIIFTSユニットで行った。これらのパラメーターを用いて、凍結のあいだ製品温度を−47℃未満、そして−48℃超に維持した(図15及び図16)。物理的検査により、18%しか許容できず、23%が小さい孔を有し、そして59%が崩壊を示したということが示された。この研究により、結晶化を開始するために、製品温度が−48℃未満である必要があるという前のDSCの発見が確認される。凍結保持時間のみの延長が十分な結晶を形成するためには十分ではないことが示される。
【0111】
−60℃で6時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液を−60℃で6時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして−60℃で2時間凍結した。サイクルをMinilyo凍結乾燥機(Usifroid)中で実行した。凍結のあいだの製品温度はトップシェルフで−51.6℃であり、ボトムシェルフで−52.7℃であった(図17及び18)。物理的検査により、全てのケーキが許容可能であることが示された。この実験はさらに、棚温度の低下と、凍結保持時間の延長が、医薬として許容されるケーキを産生するために重要であることが示された。
【0112】
−52℃で15時間の凍結:このサイクルでは、AT III溶液を−52℃で2時間凍結し、−30℃で1時間アニーリングし、そして−52℃で15時間凍結した。凍結をLyostarII FTSユニット中で行った。第一及び第二乾燥を連続して行った。なぜなら、FTSの単離値は、第一乾燥のあいだに呈したためである。凍結のあいだ熱電温度計により計測された最も温かい製品温度は、−48℃未満であった(図19及び20)。全てのケーキの物理的外観は許容可能であった。DSCの結果に基づき、−48℃が結晶化を誘導するために必須な最も温かい製品温度であった。そして15時間の保持時間は、完全な結晶化を保証するために十分な長さであるようである。
【0113】
まとめ:表4は、異なる棚温度設定値への温度応答を列挙する。
【表4】
【0114】
製品温度は、典型的に、標的棚温度設定値よりも4℃〜6℃温かく、標的棚温度は、凍結乾燥器をとおるあいだ、全ての製品温度が−48℃になることを保証するために好ましくは−54℃に設定された。これらの研究からの結果に基づき(表5)、凍結の間における標的棚温度は、製品温度が−48度未満となることを保障するように選択することができる。
【0115】
【表5】
【0116】
さらに、完全な結晶化を保証するために十分時間を割り当てることができる。データーにより、6時間の浸漬を伴う−54℃の棚温度は、これらの条件を達成し、そして適切な結晶化を促進することができる。それゆえ、凍結浸漬時間を2時間から6時間へと延長することと、標的棚温度設定値を−52℃から−54℃へと低減することは、最終製品の物理的外観を改善するであろう。
【0117】
凍結乾燥ケーキの形態:凍結乾燥ケーキの形態を、走査型電子顕微鏡により観察した。部分的に崩壊したケーキを固体及び強いケーキについての対照として用いた。崩壊したケーキは、薄くかつ多孔性の多くのフレークを含んだ(図21A)。固体ケーキ(図21B)は、ケーキを介して分配される幾つかの丸い結晶を伴う主にプレート型の結晶から主に構成された。NaCl自体は、小さく丸い結晶(図22)を形成する。アラニンは単独で(図23)氷の蒸発によって恐らく生じた幾つかの孔を伴う連続プレートを形成する。図21Bのプレート型の結晶が、主にアラニンから生じ、そして丸型結晶がNaClから生じることが推測される。
【0118】
粉末X線回折:DSC及び凍結試験から生じるデータに基づき、第二ETP−5807歳代充填実験が行われた。この実験は、第一凍結工程のあいだの低凍結温度を含み、そして浸漬時間を延長した。変更されたサイクルは、許容される物理外観を伴う製品を生成した。
【0119】
第一実験から得た崩壊したケーキ及び第二実験から得た固体ケーキの結晶度を特徴決定するために、NaCl、アラニン、ETP5807(崩壊ケーキ)、及びETP5807(固体ケーキ)の第二実験から得た物質が評価される(図24)。主要なNaCl結晶回折ピークは、31.7°及び45.5°20に存在している。主なアラニン結晶回折ピークは20.5°20に存在する。アラニンサンプル中に生じるブロードピークは、非晶質部分へと割り当てられる。ETP5807(第一試験)及びETP5807(第二試験)のケーキは、NaClとアラニンのピークの組合せを示す。ブロードピークもまた、両方のサンプルで観察される。
【0120】
結晶度は、結晶ピーク領域を非晶質及び結晶ピーク領域の合計により割ることによって計算される。NaCl、アラニン、ETP5807及びETP5807(第二実験)の結晶度は、それぞれ、99±20%、50±1%、66±2%、及び60±1%に一致する。崩壊ケーキ及び固体ケーキについて回折パターンの差異は見られない。
【0121】
結論:凍結乾燥における凍結プロトコルを設計するための結晶化割合について強調してAT III製剤を特徴決定した。結果により、凍結温度と保持時間が、完全な結晶化のために等しく重要な必要条件であることが示される。幾つかの実施態様では、凍結乾燥は、約−54℃の凍結温度、並びに約6時間の延長された浸漬時間を含むことができる。本試験は、医薬として許容される最終製品をもたらした。
【0122】
実施例2
13ml成形バイアルを、AT III(〜6.88mg/ml)、アラニン(100mM(〜8.91mg/ml)、及びNaCl(150mM、〜8.7mg/ml)を含む10mlの滅菌ろ過溶液を充填した。AT IIIサンプルを−25℃で第一凍結し、2時間保持し、そして次に−54℃でさらに凍結し、6時間保持した。棚温度を次にゆっくり−30℃に、0.2℃/分の率で上昇し、そして2時間その温度に保持し、そして次にゆっくり0.2℃/分で−54℃に低下させた。第一乾燥を開始する前まで、製品を−54℃で2時間保持した。第一乾燥を0℃の棚温度、100mTorr制御されたチャンバー圧力で行った。第一乾燥を約32時間続け、その後に第二乾燥を開始した。第二乾燥を35℃の棚温度で、そして100mTorrのチャンバー圧力で13時間行った。
【0123】
乾燥後、約100%医薬として許容される凍結乾燥ケーキが得られた。医薬として許容されるケーキの割合は、許容されるケーキの量を、全バッチにおけるケーキの数で割ることにより計算した。さらに、調節DSCを適用し、そして凍結段階のあいだにおける濃縮相の形成及び加温傾斜のあいだにおける結晶化プロセスを観察した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1の活性成分と少なくとも1の結晶化賦形剤とを含む組成物を凍結乾燥する方法であって、当該方法が当該組成物を、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な時間のあいだ第一温度に晒すことを含む、前記方法。
【請求項2】
前記少なくとも1の活性成分がAT IIIである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1の結晶化賦形剤が、アラニン、マンニトール、グリシン、及びNaClからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一温度が、約−48℃又はそれ未満の組成物温度を提供するために十分な棚温度である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第一温度が約−54℃又はそれ未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第一時間が、少なくとも約5時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1の結晶化賦形剤がアラニン及びNaClである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アラニン及びNaClが、前記組成物中において各100mMで存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第一温度と前記第一時間が、前記少なくとも1の結晶化賦形剤が完全又はほぼ完全に結晶化されるのに十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、さらに安定剤、緩衝剤、界面活性剤、抗酸化剤、及び二価カチオンからなる群から各々選択される1又は複数の賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、さらにリン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、及びクエン酸/リン酸緩衝剤、ヒスチジン、トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン、1,3−ビス−[トリス−(ヒドロキシ−メチル)メチルアミノ]−プロパン、ヒスチジン、ピペラジン−N,N’−ビス−(2−エタンスルホン酸)、3−{N−モルフォリノ)プロパンスルホン酸、N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸、2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸、及びN−2−アセトアミド−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)からなる群から選ばれる緩衝剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第一組成物を乾燥して、凍結乾燥されたケーキを取得することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記凍結乾燥されたケーキが、少なくとも50%固体ケーキである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、医薬として許容される担体を含む液体医薬組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第一組成物を第二温度に第二時間のあいだ晒して、第二組成物を取得することをさらに含み、ここで前記第二温度が前記第一温度より高い、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第二組成物を第三温度に、第三機関のあいだ晒して、第三組成物を取得し、ここで第三温度が第二温度より低い、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物を乾燥して、凍結乾燥ケーキを取得することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項12に記載の凍結乾燥ケーキを含むキット。
【請求項19】
血漿由来AT III、NaCl、及びアラニンを含む液体組成物を凍結乾燥する方法であって、当該方法が以下の:
(a)上記組成物の温度が約−48℃又はそれ未満となるように、当該組成物を約−54℃又はそれ未満に約5時間又はそれ以上晒して、完全に又はほぼ完全に結晶化された1又は複数の成分を有する第一組成物を提供する;及び
(b)第一組成物を乾燥して、凍結乾燥されたケーキを取得する
を含む、前記方法。
【請求項20】
約25℃〜約40℃で約1時間〜約6ヶ月のあいだ貯蔵した後で、AT IIIの効力が、維持されるか又は実質的に維持される、請求項19に記載の方法。
【請求項1】
少なくとも1の活性成分と少なくとも1の結晶化賦形剤とを含む組成物を凍結乾燥する方法であって、当該方法が当該組成物を、部分的又は完全に結晶化された少なくとも1の結晶化賦形剤を有する第一組成物を得るために十分な時間のあいだ第一温度に晒すことを含む、前記方法。
【請求項2】
前記少なくとも1の活性成分がAT IIIである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1の結晶化賦形剤が、アラニン、マンニトール、グリシン、及びNaClからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第一温度が、約−48℃又はそれ未満の組成物温度を提供するために十分な棚温度である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第一温度が約−54℃又はそれ未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第一時間が、少なくとも約5時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1の結晶化賦形剤がアラニン及びNaClである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記アラニン及びNaClが、前記組成物中において各100mMで存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記第一温度と前記第一時間が、前記少なくとも1の結晶化賦形剤が完全又はほぼ完全に結晶化されるのに十分である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記組成物が、さらに安定剤、緩衝剤、界面活性剤、抗酸化剤、及び二価カチオンからなる群から各々選択される1又は複数の賦形剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記組成物が、さらにリン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、及びクエン酸/リン酸緩衝剤、ヒスチジン、トリス−(ヒドロキシメチル)−アミノメタン、1,3−ビス−[トリス−(ヒドロキシ−メチル)メチルアミノ]−プロパン、ヒスチジン、ピペラジン−N,N’−ビス−(2−エタンスルホン酸)、3−{N−モルフォリノ)プロパンスルホン酸、N−2−ヒドロキシエチル−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸、2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸、及びN−2−アセトアミド−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)からなる群から選ばれる緩衝剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第一組成物を乾燥して、凍結乾燥されたケーキを取得することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記凍結乾燥されたケーキが、少なくとも50%固体ケーキである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、医薬として許容される担体を含む液体医薬組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記第一組成物を第二温度に第二時間のあいだ晒して、第二組成物を取得することをさらに含み、ここで前記第二温度が前記第一温度より高い、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第二組成物を第三温度に、第三機関のあいだ晒して、第三組成物を取得し、ここで第三温度が第二温度より低い、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物を乾燥して、凍結乾燥ケーキを取得することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項12に記載の凍結乾燥ケーキを含むキット。
【請求項19】
血漿由来AT III、NaCl、及びアラニンを含む液体組成物を凍結乾燥する方法であって、当該方法が以下の:
(a)上記組成物の温度が約−48℃又はそれ未満となるように、当該組成物を約−54℃又はそれ未満に約5時間又はそれ以上晒して、完全に又はほぼ完全に結晶化された1又は複数の成分を有する第一組成物を提供する;及び
(b)第一組成物を乾燥して、凍結乾燥されたケーキを取得する
を含む、前記方法。
【請求項20】
約25℃〜約40℃で約1時間〜約6ヶ月のあいだ貯蔵した後で、AT IIIの効力が、維持されるか又は実質的に維持される、請求項19に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21A】
【図21B】
【図22A】
【図22B】
【図23A】
【図23B】
【図24】
【公表番号】特表2013−512194(P2013−512194A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540152(P2012−540152)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/057816
【国際公開番号】WO2011/066291
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(506074484)グリフオルス・セラピユーテイクス・インコーポレーテツド (10)
【氏名又は名称原語表記】Grifols Therapeutics,Inc.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/057816
【国際公開番号】WO2011/066291
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(506074484)グリフオルス・セラピユーテイクス・インコーポレーテツド (10)
【氏名又は名称原語表記】Grifols Therapeutics,Inc.
【Fターム(参考)】
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