説明

凍結防止装置付き燃料フィルタ

凍結防止装置付き燃料フィルタ(1)はアウターケーシング(2)を備え、アウターケーシング(2)の内室(24)は、フィルタバッフル(5)によって、燃料導入管(3)及び燃料排出管(4)が各々接続される二つの分離したチャンバ(25,26)に分離されている。前記フィルタ(1)は、ケーシング(2)の中で圧力波を発生するための装置(6)を有し、前記圧力波は、少なくとも内室(24)に収容された燃料を通って伝播し、その運動エネルギを増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な意味では内燃機関用燃料フィルタに関し、より詳細には、ディーゼルエンジンに用いられるディーゼル燃料フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン燃料が、通常、不純物を含有していることは公知であり、そのため、ディーゼルエンジン供給システムには、適切な燃料フィルタを設ける必要がある。
【0003】
現在のディーゼル燃料フィルタは、通常、カバーによって閉鎖されたカップ型本体を備えている。そして、前記カップ型本体は、通常、ドーナツ型の同軸フィルタカートリッジを収容している。
【0004】
前記カートリッジとカップ型本体との間には、濾過されるべきディーゼル燃料と濾過されたディーゼル燃料との各々の通路用の二つのチャンバが画定されている。第一のチャンバはポンプユニットに接続され、第二のチャンバは燃料噴射システムに連結されている。
【0005】
濾過されるべきディーゼル燃料の通路用のチャンバは、通常、フィルタカートリッジの内部領域によって与えられる。
【0006】
ディーゼル燃料は、前記不純物に加えて、通常、パラフィンのようなワックス物質を含有しており、これらの物質は、−5℃台の比較的低い温度で凝集し、−20/25℃台の低温で凝固する。
【0007】
従って、非常に低い温度で、しばらくの間、エンジンが停止した状態で維持された場合、前記パラフィンのようなワックス物質がディーゼル燃料から分離して凝固してしまい、その結果、フィルタを詰まらせて、エンジンを作動できなくする。
【発明の開示】
【0008】
本発明の目的は、パラフィンの凝集を防止又は遅らせる装置を燃料フィルタに設けることによって、この種の欠点を解消することにある。
【0009】
このため、既に公知であり現在使用されているフィルタには、濾過すべきディーゼル燃料のチャンバ内に加熱装置が配置されている。前記加熱装置は、使い捨て又は一度しか使用しないタイプであり得、その目的は、少なくともエンジンの始動時に、前記チャンバ内にあるディーゼル燃料を、パラフィンを溶解させる温度まで上げるために加熱することにある。
【0010】
本発明のフィルタは、公知の加熱装置と効果的に置き換えることができる装置によって、何の加熱源も用いることなく、前記した技術的な問題点を解決することを目的としている。
【0011】
本発明の他の目的は、簡単で、合理的で、信頼性があり、かつ、経済的な外形寸法が小さい構造で前記目的を達成することにある。
【0012】
本発明は、特許請求の範囲に限定された特徴によって前記目的を達成する。
【0013】
具体的には、本発明は、アウターケーシングを備え、前記アウターケーシングの内室が、フィルタバッフルによって、各々燃料導入管及び燃料排出管が連結される二つの分離チャンバに分離された燃料フィルタであって、さらに、ケーシングの内部に圧力波を生じさせる装置を備え、前記圧力波が、少なくともフィルタの内室に収容された燃料を通して伝播する凍結防止装置付き燃料フィルタを提供する。
【0014】
この解決方法により、フィルタ内に収容されたディーゼル燃料分子は、その中に溶解されているワックス物質の分子と共に振動させられ、その結果、それらの運動エネルギが増大し、パラフィン長鎖分子成分が凝集することが防止される。
【0015】
本発明の好ましい実施例では、前記装置は、少なくとも部分的にフィルタケーシングの内部にある濾過されるべきディーゼル燃料のチャンバ内に収容される。
【0016】
具体的には、前記実施例では、装置は、フィルタカバーに設けられた孔に、好ましくは、取り外し可能に取り付けられ、その一部が濾過されるべきディーゼル燃料のチャンバ内に収容され、その一部が外側に突出する。
【0017】
この解決方法により、圧力波がフィルタ内に収容されたディーゼル燃料を通って伝播することに加えて、装置に容易にアクセスすることが可能になり、取り付け作業、交換作業及び保守作業が容易になる。
【0018】
本発明によれば、装置は、圧力波を発生するための発生手段と、それらを使用する必要がある状況(低温)が生じた時に前記発生手段を作動させるための作動手段とを備えている。
【0019】
前記発生手段は、機械式又は電子式であり得、第一の場合、前記発生手段は、圧力波を発生させる振動を生じさせるために偏心マスを回転させる電気モータを備え、第二の場合、前記発生手段は、超音波放射体又はその代わりに圧電装置を備える。前記超音波放射体及び圧電装置は両方とも、動作原理は異なるが、電気パルスを機械的波に変換することができる。
【0020】
作動手段に関しては、本発明は様々な実施例が含まれる。
【0021】
前記実施例の中の一つにおいては、作動手段は、フィルタ内のディーゼル燃料の温度を測定することができ、かつ、対応する電気信号を発生することができる温度センサと、最小温度閾値に達した時に前記発生手段を作動させる前記信号用の処理装置とを備え、これにより、装置の動作は完全に自動化される。
【0022】
好都合なことに非常に経済的である第二の実施例では、前記作動手段は、上記の代わりに、装置に取り付けられ、前記発生手段を作動させるべき時に手動で操作されるスイッチを備えている。
【0023】
前記第二実施例の構成の改良実施例は、手動式スイッチを使用する代わりに、遠くから装置を操作可能な遠隔制御スイッチを使用することから成る。
【0024】
装置がその動作のために電気エネルギ源を必要とする場合、本発明の好ましい実施例では、前記装置は、発電機、具体的には、アルカリ電池を備える。これにより、装置の動作は完全に独立し、従って、管理が容易になる。
【0025】
他の選択的な実施例では、装置は、車両の電気システムによって給電される。
【0026】
最後に、本発明によれば、装置は、前記発生手段を収容し格納するためのアウターカバーを備えている。このアウターカバーにより、発生手段は、ディーゼル燃料導入チャンバ内にあり、発生手段にダメージを与え得る高い圧力から保護される。
【0027】
好ましくは、前記アウターカバーは、作動手段も収容し、もしあれば、発電機も収容する。これにより、装置は一つのユニットとなり、フィルタとは独立して有利に構成され得、後でフィルタに装着するだけでよく、その交換及び保守が容易になる。
【0028】
従属項は、本発明による燃料フィルタの特に有利な好ましい実施例を限定している。
【0029】
本発明のさらなる特徴及び利点は、添付図面に示された図面を用いた非限定的な実施例による以下の説明を読むことにより明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
添付図面には、アウターケーシング2を備えたディーゼル燃料フィルタ1が示されている。前記アウターケーシング2には、濾過すべきディーゼル燃料用の導入管3と、濾過されたディーゼル燃料用の排出管4が設けられている。
【0031】
ケーシング2は、カバー21によって閉鎖されたカップ型本体20を備えている。ケーシング2の内側にはドーナツ型フィルタバッフル(filtering baffle)5が収容されており、このフィルタバッフル5は、下側基部22と、カバー21から分岐した上側スタブ(upper stub)23との間で支持されている。前記フィルタバッフル5は、ケーシング2の内室24を二つの分離したチャンバ25及び26に分離する。第一のチャンバ25は、濾過すべきディーゼル燃料用の導入管3に連結され、第二のチャンバ26は濾過されたディーゼル燃料用の排出管4に接続されている(図1参照)。
【0032】
また、ディーゼル燃料フィルタ1は、ケーシング2の内部に圧力波を発生させるための装置6を備えている。前記圧力波は、内室24に収容されたディーゼル燃料を介して伝播し、その運動エネルギーを高める。
【0033】
図1に示すように、この伝播を可能にするため、装置6の一部はケーシング2の内部、具体的には、濾過すべきディーゼル燃料用の導入管3が接続されたチャンバ25の内部に収容されている。
【0034】
詳細には、装置6は、一部6aが濾過すべきディーゼル燃料用の前記チャンバ25に収容され、一部6bが外側に突出するように、カバー21に設けられた孔27に挿入することによって、アウターケーシング2に取り外し可能に取り付けられている(図1参照)。
【0035】
本発明の好ましい実施例では、装置6は、介在弾性要素、詳細には、弾性リング61を介してケーシング2に取り付けられ、発生した圧力波をディーゼル燃料のみに伝播させ、ケーシング2、従って、フィルタ1の全体構造が振動させられることを防止する(図4参照)。
【0036】
装置6は、金属又はポリマー製のアウターカバー60を備えている(図2及び図3参照)。前記アウターカバー60には、前記圧力波を発生するための発生手段63又は64と、前記発生手段を作動させる作動手段62と、前記発生手段63,64及び前記作動手段62に給電するための発電機69、詳細には、アルカリ電池とが収容されている。
【0037】
発生手段63又は64は、発生した圧力波がフィルタ1の内室24を通して伝播するように、アウターカバー60の内部、具体的には、導入チャンバ25内に収容された部分6aに対応する位置に配置されている。
【0038】
図2及び図3は、前記発生手段の二つの実施可能な実施例を示している。一方の発生手段63は機械式のものであり、他方の発生手段64は電子式のものである。
【0039】
図2は、機械式の実施例を示しており、この実施例では、前記発生手段63は、突出した回転軸63bが設けられた電気モータ63aと、前記回転軸63bにキー結合され、モータ63aによって回転させられる偏心マス63cとを備えている。回転時に、前記偏心マス63cは装置6の振動を発生させ、圧力波を生じさせる。
【0040】
図3は、電子式の実施例を示しており、この実施例では、前記発生手段63は、電気パルスを機械的な圧力波に変換する圧電装置64を備えている。
【0041】
図2及び図3に示すように、形態はどうであれ、前記発生手段63又は64は、フィルタ1内のディーゼル燃料の温度が、パラフィンフ形成の危険がある所定の最小閾値より下がった時に、それらを作動する作動手段62に接続されている。
【0042】
前記作動装置62は、フィルタ1内のディーゼル燃料の温度を測定し、対応する電気信号を発生するように配置された温度センサ66と、前記センサ66に接続された処理装置67とを備えている。前記処理装置67は、前記信号が、前記最小閾値温度に対応した時、発生手段63又は64を作動させる。
【0043】
温度センサ66は、アウターカバー60における導入チャンバ25内に収容された部分6aに固定されたプローブ68を備え、その中にあるディーゼル燃料の温度を測定する。
【0044】
使用時に、温度センサ66は、導入チャンバ25内のディーゼル燃料の温度をプローブ68によって連続的に測定し、温度センサ66は、対応する電気信号を発生して、その信号を処理装置67に送る。前記処理装置67は、最小閾値温度(約ー5℃)(これより低いとパラフィン形成の危険がある温度)に電気信号が対応した時点を認識するよう設定されている。
【0045】
温度が前記最小閾値より下に下がった時、信号処理装置67は、発生手段63又は64を作動させる。
【0046】
図2に示す実施例では、処理装置67は電気モータ63aを作動させて偏心マス63cを回転させるのに対して、図3に示す実施例では、処理装置67は圧電装置64に電気パルスを供給して、電気パルスを圧力波に変換させる。
【0047】
一度作動すると、温度が閾値より低い温度に維持されている間は、発生手段63又は64は、それらが周期的に作動するように制御される。これにより、所定の間隔で、ディーゼル燃料分子を振動させる圧力波が発生され、ディーゼル燃料分子の運動エネルギが増大し、パラフィンを生じさせる長鎖分子の凝集を遅れさせる。
【0048】
装置6に介在する弾性リング61が設けられると、前記圧力波がディーゼル燃料だけを通って伝播するのに対して(図4参照)、装置6がケーシングに堅固に取り付けられると(図2及び図3参照)、圧力波はケーシング2も振動させるが、これは動作上の問題を生じさせるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明によるフィルタの長手方向断面図である。
【図2】本発明の第一実施例による装置の長手方向断面図である。
【図3】本発明の第二実施例による装置の長手方向断面図である。
【図4】本発明の好ましい実施例に従った方法で取り付けられた図2の装置を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターケーシング(2)を備え、
前記アウターケーシング(2)の内室(24)が、フィルタバッフル(5)によって、各々燃料導入管(3)及び燃料排出管(4)が連結される二つの分離チャンバ(25,26)に分離された
凍結防止装置付き燃料フィルタ(1)において、
ケーシング(2)の内部に圧力波を生じさせる装置(6)を備え、
前記圧力波が、少なくとも内室(24)に収容された燃料を通して伝播して、その運動エネルギを増大させるようにした
ことを特徴とする凍結防止装置付き燃料フィルタ。
【請求項2】
前記装置(6)の少なくとも一部(6a)が、前記アウターケーシング(2)の内部に収容されている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料フィルタ。
【請求項3】
ケーシング(2)の内部に収容された前記装置(6)の少なくとも一部(6a)が、燃料導入管(3)が連結されるチャンバ(25)内に位置している
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料フィルタ。
【請求項4】
前記装置(6)が、前記ケーシング(2)の内部に部分的に挿入されるようにアウターケーシング(2)に取り付けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料フィルタ。
【請求項5】
前記装置(6)が、アウターケーシング(2)に取り外し可能に取り付けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料フィルタ。
【請求項6】
アウターケーシング(2)が、カバー(21)で閉鎖されたカップ型本体(20)を備え、
前記装置(6)が、前記カバー(21)に設けられた孔(27)に取り付けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料フィルタ。
【請求項7】
圧力波が燃料のみを通過して伝播するように、前記装置(6)が、介在する弾性要素(61)を介してアウターケーシング(2)に取り付けられている
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料フィルタ。
【請求項8】
前記装置(6)がアウターケーシング(2)に堅固に取り付けられ、圧力波がケーシング(2)の振動を生じさせる
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料フィルタ。
【請求項9】
前記装置(6)が、圧力波発生手段(63,64)と、前記発生手段(63,64)を作動させるための作動手段とを備えている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料フィルタ。
【請求項10】
前記発生手段(63)が、電気モータ(63a)と偏心マス(63c)とを備え、
前記偏心マス(63c)が、モータ(63a)によって回転させられた時に、装置(6)の振動を生じさせ、燃料を通る圧力波を生じさせる
ことを特徴とする請求項9に記載の燃料フィルタ。
【請求項11】
前記発生手段が、電気パルスを機械的圧力波に変換するよう配置された圧電装置(64)を備えている
ことを特徴とする請求項9に記載の燃料フィルタ。
【請求項12】
前記発生手段が、超音波放射体を備えている
ことを特徴とする請求項9に記載の燃料フィルタ。
【請求項13】
前記作動手段(62)が、
ケーシング(2)の内部の燃料の温度を測定し、対応する電気信号を発生する温度センサ(66)と、
温度が最小閾値に達した時に、発生手段(63,64)を作動させる前記電気信号用の処理装置(67)と
を備えている
ことを特著とする請求項9に記載の燃料フィルタ。
【請求項14】
前記作動手段(62)が、装置(6)と連動する手動式スイッチを備えている
ことを特徴とする請求項9に記載の燃料フィルタ。
【請求項15】
前記作動手段(62)が、遠隔制御スイッチを備えている
ことを特徴とする請求項9に記載の燃料フィルタ。
【請求項16】
前記装置(6)が、アウターカバー(60)を備え、
該アウターカバー(60)が、前記発生手段(63,64)をその内部に収容し、かつ、少なくとも部分的にフィルタケーシング(2)の内室に挿入される
ことを特徴とする請求項9に記載の燃料フィルタ。
【請求項17】
前記アウターカバー(60)が、前記作動手段(62)をその内部に収容する
ことを特徴とする請求項16に記載の燃料フィルタ。
【請求項18】
前記装置(6)が、その給電のための発電機(69)を備えている
ことを特徴とする請求項9に記載の燃料フィルタ。
【請求項19】
前記装置(6)が、その内部に前記発生手段(63,64)、前記作動手段(62)及び前記発電機(69)を収容するためのアウタージャケット(60)を備え、
前記アウタージャケット(60)が、少なくとも部分的にフィルタケーシング(2)の内室に挿入される
ことを特徴とする請求項18に記載の燃料フィルタ。
【請求項20】
前記装置(6)が、フィルタが搭載された車両のバッテリによって給電される
ことを特徴とする請求項9に記載の燃料フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−508469(P2008−508469A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524230(P2007−524230)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008138
【国際公開番号】WO2005/118105
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(503458087)ユーエフアイ フイルターズ ソチエタ ペル アチオーニ (15)
【Fターム(参考)】