説明

凝固検査用試薬及びその製造方法

【課題】 遺伝子工学的手法を用いた組織因子の生産において、凝固活性に影響を与えることなく、コスト、生産量といった生産性を満足できる生産系を構築し、組換え組織因子を用いた凝固検査用試薬およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 昆虫又は昆虫培養細胞を宿主とする遺伝子工学的手法によって得られた組換え組織因子とリン脂質との複合体、及び前記昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分を含有する凝固検査用試薬。宿主由来の可溶性成分は試薬の凝固活性に影響を及ぼさないので、当該試薬の製造方法における精製工程を簡略化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外因系の血液凝固検査に用いられる凝固検査用試薬であって、従来と同等の凝固時間測定精度を確保しつつ、試薬の主要成分である組織因子に関する生産コストの低減を図ることができる凝固検査用試薬及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トロンボプラスチンは、組織因子と呼ばれるタンパク質とリン脂質との複合体であり、血液凝固に関与する因子である。ゆえにトロンボプラスチンは、様々な凝固検査に利用されている。例えば、血中のII因子、VII因子、IX因子、及びX因子の凝固能を総合的に調べるトロンボテスト用試薬は、主要成分として、ウシ脳組織トロンボプラスチン、フィブリノゲン及び第V因子、カルシウム、リン脂質を含有している。
【0003】
主要成分のウシ脳組織トロンボプラスチンは、非特許文献1のFig.3で示されているように、N末端から213番目までの細胞外ドメイン(可溶性ドメイン)と214番目から236番目までの膜貫通ドメインと237番目から257番目までの細胞内ドメインからなる全アミノ酸257個の組織因子とよばれるタンパク質に、リン脂質が結合した複合体である。このような構成を有するトロンボプラスチンは、従来より、ウシ大脳を原料として、アセトン粉末あるいは生理食塩水を用いてトロンボプラスチンを抽出することにより製造される。
【0004】
原料として用いられるウシ大脳は狂牛病(BSE)の高度感染部位の1つであることから、近年、製造現場において、原料として、ウシの大脳を使用しない製造方法が求められている。
【0005】
遺伝子工学的技法を利用して、測定試薬としての活性を有する組換え組織因子を製造した報告としては、例えば、特許文献1、非特許文献2,特許文献2が挙げられる。
【0006】
具体的には、特許文献1には、ヒトの遺伝子組換え組織因子を大腸菌で発現させ、ヒト組織因子に対して指向性の固定化モノクローナル抗体上でのアフィニティクロマトグラフィを用いて精製した組換えヒト組織因子をプロトロンビン試薬に適用したことが開示されている。
【0007】
非特許文献2には、組換えウサギ組織因子(rTF)を酵母で発現させ、ヒスチジンタグを利用して精製し、得られた組換えウサギ組織因子をプロトロンビン時間測定試薬に適用したことが報告されている。発現させたウサギの組織因子は、細胞内ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞外ドメインからなる完全長のものであると報告されている。
【0008】
同様に、特許文献2においても、細胞外ドメイン、脂質結合ドメイン、細胞内ドメインからなる完全長の組換えウサギ組織因子を酵母で発現させ、さらに組換え組織因子を選択的に富化するヒスチジンタグを利用して精製したウサギ組織因子をプロトロンビン時間測定試薬に適用したことが開示されている。
【0009】
以上のように、いずれの場合も、宿主細胞由来不純物が試薬に混入することによる試薬の凝固活性の低減や測定精度の低減を防止するために、クロマトグラフィなどにより精製した組換え組織因子を使用している。しかしながら、組換え組織因子の精製は、宿主由来の不純物を効率的に分離除去する系を構築する必要がある。また、組換え組織因子を大量に生産する場合、この精製の工程に時間、労力、コスト等を要することから、組換え組織因子の生産性に問題がある。例えば、特異的抗体を使用したアフィニティクロマトグラフィを用いる精製方法は、大量生産の場合、特異的抗体の使用がコスト高をもたらす原因となる。また、ヒスチジンタグを用いたアフィニティクロマトグラフィを用いる精製方法は、大量生産に適した精製方法として、組換えウサギ組織因子で実用化されているものの、宿主の種類、組織因子の種類によっては、ヒスチジンタグの組換え組織因子への連結が凝固活性に影響を及ぼす場合があるとの理由から、精製後にヒスチジンタグを切断することになるが、このタグ切断工程の追加は生産コストアップの原因となる。
【0010】
さらに、組織因子の種類によっては、その立体構造から、ヒスチジンタグを用いたクロマトグラフィーによっても、うまく精製できない場合がある。
【0011】
【特許文献1】特表平6−505562
【特許文献2】特表平11−514101
【非特許文献1】Yuko Takayenokiら「cDNA and amino acid sequences of bovine tissue factor (Biochemical and Biophysical Research Communications, 181(1991), 1145-1150)」
【非特許文献2】Cheryl L Brucatolら「Expression of recombinant rabbit tissue factor in Pichia pstoris,and its application in a prothrombin time reagent(Protein Expression and purification,26(2002),386-393)」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、遺伝子工学的手法を用いた組織因子の生産において、凝固活性に影響を与えることなく、コスト、生産量といった生産性を満足できる生産系を構築し、これにより、当該組織因子を用いた凝固検査用試薬およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の凝固検査用試薬は、昆虫又は昆虫培養細胞を宿主とする遺伝子工学的手法によって得られた組換え組織因子とリン脂質との複合体、及び前記昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分を含有する。
【0014】
前記組換え組織因子は、可溶性ドメイン及び膜貫通ドメインを有する組換えウシ組織因子であってもよいし、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失したアミノ酸配列からなる組換えウシ組織因子であってもよい。
【0015】
前記昆虫は、鱗翅目昆虫であることが好ましく、より好ましくはカイコである。
前記昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分は、前記昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性タンパク質を含んでいることが好ましい。
【0016】
本発明の凝固検査用試薬の製造方法は、組織因子のcDNAをバキュロウィルスDNAへ組み込んだ組換えバキュロウィルスを昆虫又は昆虫培養細胞に感染させる工程;前記昆虫又は昆虫培養細胞において、前記cDNAから組換え組織因子を発現させる工程;前記組換え組織因子を発現した昆虫又は昆虫培養細胞を破砕して得られる破砕物を含む溶液から不溶性成分を除去することにより、前記組換え組織因子を含む可溶性成分を得る工程;及び前記可溶性成分とリン脂質とを混合して、前記組換え組織因子とリン脂質との複合体を形成させる工程を含む。
【0017】
前記cDNAは、ウシ組織因子の可溶性ドメイン及び膜貫通ドメインをコードするcDNA、あるいは配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失したアミノ酸配列をコードするcDNAであることが好ましい。
【0018】
前記可溶性成分を得る工程において、破砕物を含む溶液が、界面活性剤を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の凝固検査用試薬は、遺伝子工学的手法を用いて製造した組換え組織因子を使用し、宿主として用いた昆虫又は昆虫培養細胞の可溶性成分を含んでいるが、天然のトロンボプラスチンを含有する従来の凝固検査用試薬に匹敵する凝固活性、感度を示すことができる。
従って、本発明の凝固検査用試薬は、天然のトロンボプラスチンに代えて組換え組織因子を使用することから、製造現場において狂牛病などの原因となる大脳を扱わずに済み、安全である。さらに、本発明の凝固検査用試薬は、その製造方法において、組換え組織因子の精製工程を簡略化することができるので、生産性に優れ、しかも生産コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔組換え組織因子及び当該組織因子のリン脂質複合体〕
はじめに、本発明の凝固検査用試薬に用いられる組換え組織因子、及び当該組換え組織因子とリン脂質との複合体(組換え組織因子−リン脂質複合体)について説明する。
本発明で用いられる組換え組織因子は、昆虫又は昆虫培養細胞を宿主とする遺伝子工学的手法によって得られたもので、このような遺伝子工学的手法によって得られた組換えウシ組織因子、組換えウサギ組織因子、組換えヒト組織因子などが挙げられる。
【0021】
組換え組織因子としては、具体的には、リン脂質と複合化することによりヒト血液中のVII因子を活性化するものであり、少なくとも天然の組織因子の可溶性ドメイン及び膜貫通ドメインを有する。組換え組織因子の可溶性ドメインはVII因子と相互作用するのに必要なドメインであり、膜貫通ドメインはリン脂質との複合体を形成するのに必要なドメインである。
【0022】
好ましい組換え組織因子としては、リン脂質と複合体を形成してVII因子を活性化する能力を損なわない範囲で、可溶性ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内ドメインを有するものが挙げられ、例えば、組換えウシ組織因子の場合、配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちの数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失したもので、リン脂質と複合体を形成してVII因子を活性化するものが挙げられる。
【0023】
ここで、配列番号1は、非特許文献1のFig.3に示されている正常ウシ組織因子のアミノ酸配列であり、1番アミノ酸から213番アミノ酸までが可溶性ドメイン(細胞外ドメイン)に該当し、214番アミノ酸から236番目までが膜貫通ドメインに該当し、237番目から257番目までが細胞内ドメインに該当する。
【0024】
上述したような組換え組織因子は、昆虫又は昆虫培養細胞を宿主とする遺伝子工学的手法によって得られる。詳細については、後述する。
【0025】
本発明で用いられる組換え組織因子−リン脂質複合体は、上述した組換え組織因子の膜貫通ドメインにリン脂質が結合したものであり、天然のトロンボプラスチン(リン脂質複合体型の天然組織因子)と同程度の血液凝固活性を有するものである。このような複合体は、従来より公知の方法を利用して組換え組織因子とリン脂質とを混合することにより製造することができる。例えば、特許文献1,特許文献2、非特許文献2などに記載の方法で製造することができる。
【0026】
複合体化に用いられるリン脂質は、一般に12〜22の炭素原子を有する脂肪酸を含有するリン脂質であり、当該脂肪酸は飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。好ましいリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリンなどが例示される。これらのリン脂質は、天然物、合成品のいずれであってもよく、異なる種類の脂肪酸を有するリン脂質であってもよい。さらに、これらのリン脂質は、所望する性状、特性などに応じて2種以上を混合して複合体に用いてもよい。
【0027】
〔凝固検査用試薬〕
本発明の凝固検査用試薬は、上記の組換え組織因子−リン脂質複合体、及び組換え組織因子を得るときに用いられた宿主である昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分を含有している。
凝固検査用試薬に含まれる組換え組織因子は、昆虫又は昆虫培養細胞を宿主とする遺伝子工学的手法により得られるものである。そして、宿主として用いた昆虫又は昆虫培養細胞の可溶性成分は、宿主から組換え組織因子とともに抽出されてくるものであり、最終的に凝固検査用試薬に含まれることになる。
【0028】
宿主として用いられる昆虫としては、その種類は限定しないが、鱗翅目が好ましく用いられ、より好ましくはカイコである。また昆虫培養細胞としては、Sf9、Sf21、HiFiveなどが挙げられ、これらのうちSf9が好ましく用いられる。
【0029】
宿主から組換え組織因子を抽出する際は、宿主である昆虫又は昆虫培養細胞を水や緩衝液などの適当な溶液中で破砕し、破砕して得られる破砕物を含む溶液から濾過や遠心分離などにより不溶性成分を除去する。そして、昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分は、この昆虫又は昆虫培養細胞の破砕物を含む溶液を、濾過により不溶性成分を除去して得られた濾液や、遠心分離により不溶性成分を除去して得られた上清に含有され得る成分である。例えば、昆虫個体由来の体液、あるいは昆虫培養細胞の細胞質ゾル(サイトゾル)に溶けている成分が挙げられ、具体的には、昆虫又は昆虫培養細胞を構成する可溶性タンパク質、水溶性糖鎖、あるいは昆虫又は昆虫培養細胞が産生する可溶性タンパクなどが挙げられる。
【0030】
本発明の凝固検査用試薬は、上記組換え組織因子−リン脂質複合体、上記昆虫又は昆虫培養細胞の可溶性成分の他、凝固検査用試薬の種類(すなわち検査しようとする凝固因子の種類)に応じて、適宜、凝固因子、カルシウムイオン、リン脂質などを含有してもよい。
【0031】
例えば、本発明の凝固検査用試薬が、II、VII、IX、X因子測定用試薬の場合には、組換えウシ組織因子−リン脂質複合体、昆虫又は昆虫培養細胞の可溶性成分の他、第I因子、第V因子、及びカルシウムイオンを含有することが好ましい。また、第I因子及び第V因子の添加に代えて、第II因子、第VII因子、第IX因子及びX因子を除去した血漿を用いてもよい。当該血漿としては、血漿、好ましくはウシ血漿を硫酸バリウムで吸着させて得られる硫酸バリウム吸着血漿を用いることが好ましい。硫酸バリウム吸着血漿は、血漿(好ましくはウシ血漿)に硫酸バリウムを添加混合後、硫酸バリウムを除去することにより調製することができる。
【0032】
また、本発明の凝固検査用試薬が、II、VII、及びX因子の凝固能を総合的に調べるための検査であるヘパプラスチンテスト用の試薬の場合には、組換えウサギ組織因子−リン脂質複合体、昆虫又は昆虫培養細胞の可溶性成分の他、第I因子及び第V因子、カルシウムイオンを含有することが好ましい。また、第I因子及び第V因子の添加に代えて、上述したような、第II因子、第VII因子、第IX因子及びX因子を除去した血漿を用いてもよい。
【0033】
また、本発明の凝固検査用試薬が、プロトロンビン時間用試薬の場合には、組換えウサギ組織因子−リン脂質複合体又は組換えヒト組織因子−リン脂質複合体、昆虫又は昆虫培養細胞の可溶性成分の他、カルシウムイオンを含有することが好ましい。
上記カルシウムイオン源としては、通常、塩化カルシウム、乳酸カルシウムやグルコン酸カルシウム等から選ばれる。
【0034】
さらに、必要に応じて、HEPES、TRIPS、MOPS、PIPES、BISTRIS、Glycineなどの群から選ばれる緩衝液を、pH5〜9、最終濃度約10〜100mMとなるように含有していてもよい。
【0035】
以上のような組成を有する本発明の凝固検査用試薬は、組換え組織因子を得るときに用いられた宿主である昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分を含有しているが、天然のトロンボプラスチンを用いた試薬に匹敵する凝固活性を有している。また、組換えウシ組織因子−リン脂質複合体を含むII、VII、IX、X因子測定用試薬の場合、PIVKA(protein induced in vitamin K absence or antagonists)に対する感受性についても、天然のウシトロンボプラチンを用いた従来のII、VII、IX、X因子測定用試薬に匹敵するものであり、ワーファリン等治療の効果をモニタリングするのに使用する試薬として用いることもできる。
【0036】
ここで、PIVKAとは、ビタミンK欠乏又はビタミンKアンタゴニスト存在下で血液中に出現する、正常な凝固因子活性をもたない前駆体の総称である。つまり、血液凝固因子のうちII、VII、IX、X因子はいずれも肝臓で合成されるが、その最終段階でビタミンKが必要になるため、ビタミンK欠乏症やワーファリンなどのビタミンK阻害剤投与時には、これらの因子は、正常な凝固因子活性をもたない前駆体のまま血液中に出現することになる。Hemker(Hemker HC, Veltkamp JJ, Loeliger EA. Kinetic aspects of the interaction of blood clotting enzymes. 3. Demonstration of an inhibitor of prothrombin conversion in vitamin K deficiency. Thromb Diath Haemorrh. 19:346-363 (1968))やDenson (Denson KW, Reed SV, Haddon ME. Validity of the INR system for patients with liver impairment. Thromb Haemost. 73:162.(1995))らによって、ウシ組織因子はPIVKAに対する感受性が高く、ウサギ組織因子やヒト組織因子ではPIVKAに対する感受性が低いと報告されている。このことから、現在、ワーファリン等治療の効果をモニタリングするのに、ウシ組織因子を含むII、VII、IX、X因子測定用試薬(トロンボテストとも言われている)が利用されている。
【0037】
〔凝固検査用試薬の製造方法〕
本発明の凝固検査用試薬の製造方法は、組織因子のcDNAをバキュロウィルスDNAへ組み込んだ組換えバキュロウィルスを昆虫又は昆虫培養細胞に感染させる工程;前記昆虫又は昆虫培養細胞において、前記cDNAから組換え組織因子を発現させる工程;前記組換え組織因子を発現した昆虫又は昆虫培養細胞を破砕して得られる破砕物を含む溶液から不溶性成分を除去することにより、前記組換え組織因子を含む可溶性成分を得る工程;及び前記可溶性成分とリン脂質とを混合して、前記組換え組織因子とリン脂質との複合体を形成させる工程を含む。
【0038】
本発明の製造方法で使用する組織因子のcDNAは、目的の凝固検査用試薬に用いられる組織因子のcDNAで、少なくとも可溶性ドメイン及び膜貫通ドメインをコードする塩基配列を有するもので、好ましくは組織因子の可溶性ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインの全てをコードすることができる塩基配列を有するものである。例えば、ウシ組織因子の場合には、配列番号2で示されるアミノ酸配列(AAB20755)又は当該アミノ酸配列の1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失したアミノ酸配列をコードすることができる塩基配列が好ましく用いられ、より具体的には、クローンテック社やストラタジーン社のcDNAライブラリー等から入手できるウシ組織因子のcDNAを用いることができる。
このようなcDNAをバキュロウィルスDNA中に組み込んで、組換えバキュロウィルスを作製する。
【0039】
バキュロウィルスとは、環状の2本鎖DNAを遺伝子としてもつ昆虫の病原ウィルスである。バキュロウィルスとしては、核多角体病ウィルス(NPV:nucleopolyhedrovirus)、GN(Geanulovirus)などの種類があるが、好ましくは核多角体病ウィルス(NPV)が用いられる。NPVは感染した細胞内に、多角体と呼ばれるタンパク質を多量に合成するウィルスである。この多角体タンパクをコードする遺伝子はバキュロウィルスの増殖には不要であるため、多角体遺伝子のプロモータの下流に、この多角体遺伝子に代えて、目的とする組織因子のcDNAを挿入することにより、目的の組織因子を感染細胞内で多量に合成させることができる。
【0040】
さらに、バキュロウィルスとしては、ウィルスが産生するシステインプロテアーゼによるタンパク質分解の影響を避けるため、システインプロテアーゼ遺伝子を人為的に欠損したバキュロウィルスが好ましく用いられる。
【0041】
目的の組織因子のcDNAが導入された組換えバキュロウィルスは、従来より公知の組換え技術を用いて作製することができる。例えば、組織因子cDNAをバキュロトランスファーベクターに挿入し、このトランスファーベクターとバキュロウィルスDNAとを昆虫細胞にコトランスフェクトし、相同的組み換えにより組織因子cDNAがバキュロウィルスDNAへ組み込まれた組換えバキュロウィルスを作製することができる。また、バキュロウィルスを含む大腸菌DH10 Bac(Gibco BRL社)を用いる場合、これに組織因子cDNAが挿入されたトランスファーベクターをトランスフェクトすることにより組換えバキュロウィルスを作製することができる。
【0042】
次に、作製したバキュロウィルス組換え体を、宿主とする昆虫又は昆虫培養細胞に感染させる。
宿主が昆虫である場合、昆虫の種類は特に限定しないが、鱗翅目が好ましく用いられ、鱗翅目昆虫の中でもカイコがより好ましく用いられる。カイコの種類は特に限定しないが、裸蛹系統のカイコが好ましく用いられる。裸蛹系統のカイコは、繭形成にかかる遺伝子が変異したもので、蛹化はしても繭をつくらない。このような裸蛹系統のカイコとしては例えば、Nd系、Ndb系、Nd−s系、Nd−t系等のカイコが知られている。また、このようなカイコの蛹を用いることが好ましい。蛹は、カイコ幼虫の消化管に存在する、食物(桑)を分解するためのセリンプロテアーゼの活性が、カイコ虫体に比べてはるかに低いからである。これにより、カイコ内で発現されたタンパク質の分解を防止することができる。また、カイコ蛹は、バキュロウィルスに対する感受性が幼虫に比べても高く、容易に個体内でウィルスが増殖し、大量の組織因子の発現が可能となるからである。
【0043】
宿主が昆虫培養細胞である場合、昆虫培養細胞としては、Sf9、Sf21、HiFiなどの樹立された昆虫培養細胞を用いることができるが、これらのうち好ましくはSf9である。
昆虫培養細胞を用いる場合、発現された産生タンパクである組織因子は、細胞外に分泌されてもよいし、細胞内に蓄積されるものであってもよい。
【0044】
感染方法としては、従来より行なわれていた方法を利用することができる。例えば、宿主が昆虫である場合には、昆虫にウィルス液を注入する注射法、針に微量のウィルス液を塗布し昆虫に接種する微量接種法等を適用することができる。あるいは、組換えバキュロウィルスを昆虫培養細胞にトランスフェクトし、次いでトランスフェクトされた昆虫培養細胞を所定期間培養して組換えバキュロウィルスを増殖させ、増殖した組換えバキュロウィルスを昆虫に接種することにより行なっても良い。また、宿主として昆虫培養細胞を用いる場合には、ウィルス液を含む培養液中で昆虫培養細胞を所定時間培養することによって、感染させることができる。
【0045】
宿主が昆虫である場合には、感染させた昆虫を5〜10日間飼育する。宿主が昆虫培養細胞である場合には、ウィルス液とともに昆虫培養細胞を2〜7日間培養する。飼育又は培養中に、宿主内で、組換えバキュロウィルスに挿入されたcDNAが発現して、昆虫又は昆虫培養細胞内で目的の組織因子が産生される。宿主が昆虫の場合には、産生された組織因子は、昆虫体内で蓄積される。宿主が培養細胞の場合には、産生された組織因子は、培養細胞内に蓄積又は培地内に分泌される。ここで、昆虫体内又は昆虫培養細胞内で蓄積される組換え組織因子は、翻訳後のプロセッシングによりN末端が切断されていると考えられる。例えば、組換えウシ組織因子の場合、昆虫体内又は昆虫培養細胞内で蓄積される組換えウシ組織因子は配列番号1で示されるものである。
所定時間飼育又は培養後、生産された組織因子を、宿主体内又は培養細胞内又は培地から抽出する。
【0046】
宿主として昆虫を用いた場合、組織因子の昆虫からの抽出は、組換え組織因子を発現した昆虫を破砕して得られる破砕物を含む溶液から、不溶性成分を除去することにより、前記組換え組織因子を含む可溶性成分を採取することにより行なう。
【0047】
昆虫の破砕は、ミキサー、ホモジナイザー、ブレンダー、超音波などを用いて機械的に粉砕すればよく、さらに界面活性剤などを用いる非機械的な処理を組合わせてもよい。破砕に際しては、水や緩衝液など適当な溶液中で行なうことが好ましく、このような溶液(以下、「破砕処理用溶液」という)としては、例えば、水、リン酸緩衝液、トリス緩衝液等の緩衝液、さらには界面活性剤を添加した緩衝液などが挙げられる。破砕物を含む溶液からの不溶性成分の除去は、濾過、遠心分離、又はこれらを適宜組み合わせて行なうことができる。
【0048】
宿主として昆虫培養細胞を用いた場合、組織因子の昆虫培養細胞及び培地からの抽出は、組換え組織因子を発現した培養細胞を破砕して得られる破砕物を含む溶液から、不溶性成分を除去することにより、前記組換え組織因子を含む可溶性成分を採取することにより行なう。
培養細胞は、ホモジナイザーや超音波などを用いた機械的な処理により破砕してもよいし、界面活性剤などを用いた非機械的処理により破砕(溶解)してもよいし、これらの処理を組合わせて破砕してもよい。破砕に際しては、宿主として昆虫を用いる場合と同様に、適当な破砕処理溶液中で行なうことが好ましい。破砕物を含む溶液からの不溶性成分の除去は、濾過、遠心分離、又はこれらを適宜組合わせて行なうことができる。
【0049】
なお、昆虫又は昆虫培養細胞を破砕して得られる破砕物を含む溶液には、組換え組織因子及び宿主である昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分とともに、遺伝子導入に使用したバキュロウィルスも含まれている。界面活性剤がこのウィルスの不活化にも役立つことから、上述した組換え組織因子の昆虫又は昆虫培養細胞からの抽出において界面活性剤を使用することが好ましい。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤のいずれを用いてもよいが、殺ウィルス性の観点からノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。また、ノニオン系界面活性剤の添加は、組換え組織因子の可溶化にも役立つ。
【0050】
破砕処理用溶液とは、上述したように、宿主である昆虫や昆虫培養細胞を破砕する際に用いられる溶液であり、水、リン酸緩衝液やトリス緩衝液などの緩衝液、さらには界面活性剤を添加した上記緩衝液などが挙げられる。そして、破砕処理用溶液中で昆虫や昆虫培養細胞を破砕することにより、産生された組換え組織因子や昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分が破砕処理用溶液に溶解してくる。
【0051】
ここで、昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分とは、破砕処理用溶液に可溶な成分である。ゆえに、破砕物を含む溶液から濾過や遠心分離などにより不溶性成分を除去した後でも、濾過により不溶性成分を除去して得られた濾液や遠心分離により不溶性成分を除去して得られた上清に含有され得る。このような昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分としては、例えば、昆虫個体由来の体液、あるいは昆虫培養細胞の細胞質ゾル(サイトゾル)に溶けている成分が挙げられ、具体的には、昆虫又は昆虫培養細胞を構成する可溶性タンパク質、水溶性糖鎖あるいは昆虫又は昆虫培養細胞が産生する可溶性タンパクなどが挙げられる。
【0052】
また不溶性成分とは、上記破砕処理用溶液に不溶の成分で、具体的には、破砕されたクチクラ層や細胞膜などの固形成分、リポタンパク質、脂質、不溶性タンパク質などが該当する。
【0053】
このようにして、破砕物を含む溶液から不溶性成分を除去して不溶性成分除去液を得る。不溶性成分除去液としては、具体的には、破砕物を含む溶液を濾過することにより得られる濾液、破砕物を含む溶液を遠心分離することにより得られる上清などが挙げられる。そして、このような不溶性成分除去液を、組換え組織因子を含む溶液(以下、「組換え組織因子含有溶液」という)として用いることができる。
【0054】
また、不溶性成分除去後の不溶性成分除去液を、HEPES等の緩衝液(pH6〜7)等を外液として透析することにより得られた溶液を組換え組織因子含有液として用いてもよい。
【0055】
組換え組織因子−リン脂質複合体の形成は、常法に準じて行なうことができ(Methods Enzymol.,222,p173,1993などを参照)、好ましくは、組換え組織因子含有溶液とリン脂質溶液とを、ニッケル存在下で混合することにより行なう。
【0056】
組換え組織因子−リン脂質複合体の形成工程は、濾過、遠心分離等による不溶性成分の除去後に行なえばよく、透析を行なう場合には、透析の後であってもよいし、前に行なってもよい。塩析についても同様に、塩析の後に行なってもよいし、前に行なってもよい。
【0057】
上記リン脂質溶液としては、複合体化に使用するリン脂質、すなわち炭素数12〜22の脂肪酸又は不飽和脂肪酸を有するリン脂質が好ましく用いられる。具体的には、前述の組換え組織因子−リン脂質複合体で例示したリン脂質を用いることができる。組換え組織因子含有溶液とリン脂質液とのモル比率が約1:10〜1:2×10の範囲、より好ましくは1:3000〜1:15000の範囲で使用するのが好ましい。
【0058】
ニッケルとしては、通常、塩化ニッケル、硫酸ニッケル等のニッケル塩水溶液、あるいは緩衝液にニッケル塩を溶解させてなる溶液が用いられる。
リン脂質との複合体化は、以上のような組換え組織因子含有溶液、リン脂質溶液、ニッケル塩溶液を混合攪拌し、1〜2時間ほど反応させればよい。
【0059】
製造しようとする凝固検査用試薬がカルシウムイオンを含有する場合には、カルシウムイオン源として、塩化カルシウム、乳酸カルシウムやグルコン酸カルシウム等を添加する。
【0060】
また、製造しようとする凝固検査用試薬がII、VII、IX、X因子測定用試薬の場合、第I因子及び第V因子を添加する。第I因子及び第V因子の添加に代えて、第II因子、第VII因子、第IX因子及びX因子を除去した血漿を用いてもよい。当該血漿としては、血漿、好ましくはウシ血漿を硫酸バリウムで吸着させて得られる硫酸バリウム吸着血漿を用いてもよい。硫酸バリウム吸着血漿の調製は、特に限定しないが、例えば、Charlesら「One-stage Prothrombin Time techniques (Thrombosis and Bleeding Disorders Theory and Method, 1971, p92-97)」に記載されているOwrenらの方法により調製できる。
【0061】
さらに必要に応じて、HEPES、TRIPS、MOPS、PIPES、BISTRIS、Glycineなどの群から選ばれる緩衝液を、pH5〜9、最終濃度約10〜100mMとなるように添加してもよい。
【0062】
必要に応じて添加される第I因子及び第V因子(又は硫酸バリウム吸着血漿など)、カルシウムイオン源、緩衝剤は、ウシ組織因子−リン脂質複合体形成前に添加してもよいし、同複合体形成後に添加してもよい。また、第I因子及び第V因子、カルシウムイオン源、緩衝剤の添加順序も特に限定しない。
【0063】
以上のようにして製造される凝固検査用試薬は、組換え組織因子−リン脂質複合体、凝固検査用試薬として不可欠な成分が含まれている。ここで、凝固検査用試薬として不可欠な成分としては、具体的には、プロトロンビン時間測定試薬であればカルシウムイオンが含まれ、II、VII、IX、X因子測定用試薬又はヘパプラスチンテスト用試薬であればカルシウム、及び第I因子、第V因子(第I因子及び第V因子に代えて硫酸バリウム吸着血漿であってもよい)が挙げられる。さらに、本発明の製造方法で製造される凝固検査用試薬には、上記製造方法に基づいて、組換え組織因子の製造に用いられた宿主の可溶性成分が含まれる。本発明者らは、宿主(昆虫又は昆虫培養細胞)の可溶性成分が、検査に関与する凝固反応には影響を及ぼさないことを発見し、当該発見に基づいて、遺伝子工学的手法で製造した組換え組織因子を抽出する工程において、クロマトグラフィ等を使用した組換え組織因子の高度な精製を行なわなくても実用化に問題ない凝固検査用試薬を提供する。従って、本発明の凝固検査用試薬の製造方法によれば、遺伝子工学的手法で製造した組換え組織因子の抽出工程、換言すると組換え組織因子の精製工程が簡略化されているので、生産コストの低減を図ることができる。
【実施例】
【0064】
〔宿主としてカイコを用いた組換えウシ組織因子の製造〕
ウシ大脳のcDNAライブラリー(クローンテック社)を入手し、非特許文献1の方法に基づいて、PCRによりウシ組織因子の遺伝子を増幅させ、ウシ組織因子の可溶性ドメイン及び膜貫通ドメインをコードする完全長のウシ組織因子コード遺伝子をクローニングした。PCR法での増幅に際しては、forwardプライマーとしてBgIII切断配列を有するプライマー(5’−agatctatggcgacccccaacgggcc)を使用し、backwardプライマーとしてEcoRI切断配列を有するプライマー(5’−acttaagaatacgtcgcaactcgccgc)を使用した。クローニングした遺伝子の塩基配列を、シーケンサー(4200型、ライカ)で調べたところ、配列番号2のタンパク質をコードするDNAであることが確認できた。
【0065】
クローニングしたcDNAを、システインプロテアーゼ欠損ウィルス(片倉工業、pYNG)のクローニングサイトに挿入して、ウシ組織因子組換えバキュロウィルス発現系を樹立させた。
【0066】
ウシ組織因子組換えバキュロウィルスを、カイコの蛹にウィルス感染させ、5℃下で7日間放置し、十分に感染させた。
【0067】
感染後のカイコ蛹を緩衝液中でホモジナイザーを用いて破砕し、得られた破砕液から濾過や遠心などにより固形成分を除去した。なお、クローニングしたウシ組織因子のcDNAのバキュロウィルスへの挿入から、破砕液からの固形成分除去までの工程は、片倉工業(株)の「Superworm」サービスを利用した。
【0068】
固形成分が除去された溶液を片倉工業(株)より入手した。さらに、この溶液について、ホモジナイザー(アズワン、回転数5000rpmで10ストローク)及び遠心分離(3000×g、8℃、10分)の処理を行った。そして、上清を回収し、この上清8容量に対して、10%NP−40界面活性剤(カルビオケム)を2容量加えて、NP−40界面活性剤の最終濃度2%とした。次いで、30℃で、3時間インキュベートして、バキュロウィルスを不活性化するとともに、組換えウシ組織因子を可溶化させた。
【0069】
バキュロウィルスの不活性化の確認は、界面活性剤で処理された溶液のウィルス力価を、Reed−Muench法(Reed,L.J.and Muench,H.:Amer.J.Hyg.,27,493(1938))に基づいて、顕微鏡で目視により96穴のウィルス感染の有無を観察することにより行なった。
【0070】
界面活性剤で処理された溶液を遠心分離(3000×g、8℃、30分)して、リポタンパク質や脂質分画が除去された上清を得た。次に、得られた上清を、20mM HEPES(150mM塩化ナトリウム緩衝液(pH7.2))を用いて透析(透析用セルロースチューブ、三光純薬(株))を行なった。透析後、透析チューブ内の溶液を採取し、これを組換えウシ組織因子含有溶液SWとした。この組換えウシ組織因子含有溶液SWは、組換えウシ組織因子及びカイコ個体由来の可溶性成分を含むものである。
【0071】
〔宿主としてSf9を用いた組換えウシ組織因子の製造〕
ウシ大脳のcDNAライブラリー (ストラタジーン社)を入手し、非特許文献1の方法に基づいて、PCRによりウシ組織因子の遺伝子を増幅させ、ウシ組織因子の可溶性ドメイン及び膜貫通ドメインをコードする完全長のウシ組織因子コード遺伝子をクローニングした。PCR法での増幅に際しては、forwardプライマーとしてBamHI切断配列を有するプライマー(5’−ggatccatggcgacccccaacgggccccg)を使用し、backwardプライマーとしてXhoI切断配列を有するプライマー(5’−ctcgagttatgcagcgttgagcggcgtg)を使用した。クローニングした遺伝子の塩基配列を、4000L DNAシーケンサー(LI−COR社)で調べたところ、配列番号2のタンパク質をコードするDNAであることが確認できた。
【0072】
クローニングしたcDNAをBamHIとXhoIで消化し、トランスファーベクター pFast Bac(GIBCO BRL社)に挿入した。このpFast Bacを、バキュロウィルスゲノムDNAを含む大腸菌DH10 Bacへトランスフェクションし、最終的にウシ組織因子のcDNAが導入されたバキュロウィルス(ウシ組織因子組換えバキュロウィルス)を得た。ウシ組織因子組換えバキュロウィルスを昆虫培養細胞Sf9にトランスフェクトし、72時間処理培養してP1ウィルスを得た。次に、P1ウィルスをSf9に感染させ、10%FBSを含むGrace Medium(インビトロジェン社)で4日間培養してP2ウィルスを得た。得られたP2ウィルスを別のSf9に感染させて、感染したSf9をSf−900II Serum Free Medium(インビトロジェン社)で培養した。培養後のSf9を採取し、トリス緩衝液(pH7.5、1%CHAPSを含む)を用いてSf9から組換えウシ組織因子を抽出し、組換えウシ組織因子含有溶液SFを調製した。この組換えウシ組織因子含有溶液SFは、組換えウシ組織因子及びSf9細胞由来の可溶性成分を含むものである。
【0073】
〔組換えウシ組織因子含有溶液を用いたSDS−PAGE〕
上記の調製方法の過程で得られる組換えウシ組織因子含有溶液SW及び組換えウシ組織因子含有溶液SFを用いてSDS−PAGE(sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis)を行った。
【0074】
10μLの組換えウシ組織因子含有溶液SWに、SDSサンプルバッファーpH7.5(200mM Tris、72mM グリシン、0.02%SDSを含む )10μLを加え、100℃で5分間ボイルしてSDS用の試料(SDS用試料SW)を調製した。
得られたSDS用試料SW 10μLを5〜10%グラジエントポリアクリルアミドゲルのウェルに注入し、泳動槽(ミニプロテインII電気泳動装置(日本バイオラッドラボラトリーズ(株))を用いて50Vで3時間の泳動を行った。泳動後、ポリアクリルアミドゲルを銀染色キット(第一化学薬品株式会社)を用いて染色した。その結果を図1に示す。図1において、レーン1は分子量マーカー(プレシジョンPlus、日本バイオラッドラボラトリーズ(株))であり、レーン2はSDS用試料SWの泳動結果である。組換えウシ組織因子のバンドが出現する位置(およそ分子量40kDaの位置)を矢印で示した。
【0075】
10μLの組換えウシ組織因子含有溶液SFに、2×SDSサンプルバッファーpH7.5(200mM Tris、72mM グリシン、0.02%SDS)10μLを加え、100℃で5分間ボイルしてSDS用の試料(SDS用試料SF)を調製した。
得られたSDS用試料SF 10μLを5〜10%ポリアクリルアミドゲルのウェルに注入し、泳動槽(ミニプロティアンII電気泳動装置(日本バイオラッドラボラトリーズ(株))を用いて100Vで1時間の泳動を行った。泳動後、ポリアクリルアミドゲルをCCB染色キット(和光純薬工業(株))を用いて染色した。その結果を図2に示す。図2において、レーン1は分子量マーカー(プレシジョンPlus、日本バイオラッドラボラトリーズ(株))を、レーン2はSDS用試料SFの泳動結果である。組換えウシ組織因子のバンドが出現する位置(およそ分子量40kDaの位置)を矢印で示した。
【0076】
図1及び図2の結果より、組換えウシ組織因子含有溶液SW及び組換えウシ組織因子含有溶液SF中には、組換えウシ組織因子以外に、非常に多くの宿主由来のタンパク質が含まれていることがわかった。
図1の結果から、組換えウシ組織因子含有溶液SWにおける組換えウシ組織因子の純度は約5〜10%程度であると考えられる。
図2の結果から、組換えウシ組織因子含有溶液SFにおける組換えウシ組織因子の純度は約1〜5%程度であると考えられる。
【0077】
〔組換えウシ組織因子−リン脂質複合体の作製〕
0.25%デオキシコール酸ナトリウムDOC(20mL)にベイシス大豆レシチン0.4g(日清製油(株))を溶解した。ローテータで室温下、完全に溶解させ、これに1,2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DOPE)0.1g及び1,2−ジオレイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−L−セリン(DOPS)0.3g(いずれもAvanti polar lipid、Inc.)を懸濁させてリン脂質溶液を調製した。
【0078】
このリン脂質溶液37.5mLに、0.5M塩化ニッケル溶液を5mL、10mM HEPES緩衝液(pH7.3)5.0mL、上記の組換えウシ組織因子含有溶液(組換えウシ組織因子含有溶液SW又は組換えウシ組織因子含有溶液SF)2.5mLを添加し、ボルテックスで30秒間攪拌した。撹拌後、BRANSON#2210型超音波装置で、37℃、15分間反応させた後、37℃、1時間放置した。溶液を透析膜(透析用セルロースチューブ、三光純薬(株))に移して、10mM HEPES(0.15M 塩化ナトリウム含有)pH7.3で透析を3回行ない、透析後の透析チューブ内の溶液を得て、これをウシ組織因子−リン脂質複合体含有液(ウシ組織因子−リン脂質複合体含有液SW又はウシ組織因子−リン脂質複合体含有液SF)として用いた。
【0079】
〔II、VII、IX、X因子検査用試薬の調製〕
(1)硫酸バリウム吸着血漿の調製
クエン酸を添加したウシ血漿に、ウシ血漿の30w/v%量の硫酸バリウム、及びウシ血漿の20v/v%量の生理食塩水を、添加し、60分間ローテータで攪拌した。
この混合液を、4℃、5000rpm、15分間遠心分離した後、上清を回収した。この上清に、当該上清の30w/v%の硫酸バリウムを、少しずつ添加して、硫酸バリウムに血漿中のII、VII、IX、X因子吸着させた。その後遠心分離して上清を回収した。その上清を、透析チューブ(透析用セルロースチューブ、三光純薬(株))にいれ、生理食塩水を外液として、2〜8℃で透析を行なった。透析後の透析チューブ内の溶液を0.45μmのフィルターで濾過した濾液を、硫酸バリウム吸着血漿として、以下の試薬の調製に用いた。
【0080】
(2)II、VII、IX、X因子検査用試薬の調製
上記で調製したウシ組織因子−リン脂質複合体含有液と硫酸バリウム吸着血漿と40mM HEPES緩衝液(pH7.3、4mMの乳酸カルシウムを含む)とを、1:2:1の比率で混合して撹拌し、II、VII、IX、X因子測定用試薬を調製した。ここで、ウシ組織因子−リン脂質複合体含有液SWを用いて調製されたII、VII、IX、X因子測定用試薬を試薬SWとし、ウシ組織因子−リン脂質複合体含有液SFを用いて調製されたII、VII、IX、X因子測定用試薬を試薬SFとした。
【0081】
〔カイコ由来の可溶性成分の凝固活性への影響〕
上記調製方法に基づいて、試薬SWを3ロット(SW−1、SW−2及びSW−3)調製した。また、バキュロウィルスを感染させていないカイコ蛹から、上記調製方法に準じてII、VII、IX、X因子測定用試薬SWを調製した。これを試薬SW(未感染)とする。試薬SW(未感染)には、カイコ個体由来の可溶性成分は含有されているが、組換えウシ組織因子及びバキュロウィルス由来の可溶性成分は含有されていない。さらに、カイコ蛹にウシ組織因子cDNAが組み込まれていないバキュロウィルスを感染させ、感染したカイコ蛹から上記調製方法に準じてII、VII、IX、X因子測定用試薬SWを調製した。これを試薬SW(cDNA不含有)とする。試薬SW(cDNA不含有)には、カイコ個体由来及びバキュロウィルス由来の可溶性成分は含有されているが、組換えウシ組織因子は含有されていない。
【0082】
これら5種類の試薬(SW−1、SW−2、SW−3、SW(未感染)、SW(cDNA不含有))を使用して、正常血漿の凝固時間(秒)を、全自動血液凝固分析装置コアグレックス800(島津製作所(株))を用いて測定した。また、上記5種類の試薬について、生理食塩水で2倍希釈、4倍希釈、8倍希釈した試薬を調製し、これら希釈した試薬を用いて同様に正常血漿の凝固時間(秒)を測定した。尚、正常血漿には、コアグトロールN(シスメックス(株))を用いた。各試薬を用いて得られた凝固時間(秒)の結果を表1に示した。
【0083】
【表1】

【0084】
表1において、試薬SW(未感染)及び試薬SW(cDNA不含有)を用いた場合では凝固時間が検出されなかったが、試薬SW−1、試薬SW−2及び試薬SW−3の試薬を用いた場合では凝固時間が検出された。これより、試薬に含まれるカイコ個体由来の可溶性成分やバキュロウィルス由来の可溶性成分は、血液凝固反応を引き起こさないということがわかった。
【0085】
さらに、試薬SW−1、試薬SW−2及び試薬SW−3では、いずれも希釈倍率が高くなるにつれて凝固時間も長くなっていた。試薬の希釈倍率が高くなると、試薬中の組換えウシ組織因子の濃度が薄くなる。ここでは、試薬SW−1、試薬SW−2及び試薬SW−3が、いずれもこの試薬中の組換えウシ組織因子の濃度変化と相関関係がある凝固時間を示すことが確認できた。
【0086】
以上のことから、試薬に含まれるカイコ個体由来の可溶性成分やバキュロウィルス由来の可溶性成分が血液の凝固反応には影響を及ぼさないので、凝固検査用試薬を調製する際に、組換え組織因子を精製してこれら可溶性成分を取り除く必要がないことがわかった。さらに、このことから、宿主としてSf9等の昆虫培養細胞を使用する場合も、同様に、宿主由来の可溶性成分が血液の凝固反応には影響を及ぼしていないと考えられる。
【0087】
〔試薬SW及び試薬SFの感度〕
上記で調製した試薬SW及び試薬SFについて、予めEQUSTAサーベイサンスでINR表示値が決定された4種類のAKキャリブラント(AK−Aa、AK−Bb、AK−Cc、AK−Dd、(いずれもImmuno社製、オーストリア)の凝固時間(秒)及び国際標準感度指標(ISI値)を、全自動血衛凝固分析装置コアグレックス800(島津製作所(株))で測定した。
【0088】
また、対照試薬1として既知ISI値が算出されている複合因子T「コクサイ」を用い、上記と同様にAKキャリブラントの凝固時間(秒)及びISI値を測定した。複合因子T「コクサイ」は、ウシ組織因子−リン脂質複合体として天然ウシ大脳トロンボプラスチンを用いた市販品のトロンボテスト試薬である。
【0089】
さらに、対照試薬2として精製した組換えウシ組織因子を含むII、VII、IX、X因子測定用試薬を調製し、これを対照試薬2として上記と同様にAKキャリブラントの凝固時間(秒)及びISI値を測定した。対照試薬2は、試薬SWを調製する工程において、組換えウシ組織因子含有溶液SWに含まれる組換えウシ組織因子の純度を約95%以上にするために硫安分画を行った以外は、試薬SWと同様にして調製したものである。尚、試薬SW、試薬SF及び対照試薬2は、コアグトロールN(シスメックス(株))を測定した際に、対照試薬1を用いた場合と同程度の凝固時間が得られるように調製した。
各試薬を用いて得られた凝固時間(秒)及びISI値の結果を表2に示す。
【0090】
【表2】

【0091】
表2の結果より、試薬SW及び試薬SFのいずれも、キャリブラントAK−Aa〜AK−Ddについて、対照試薬1及び対照試薬2と同程度の凝固時間、感度を示すことが確認できた。これより、試薬SW及び試薬SFのいずれも、天然ウシ大脳トロンボプラスチンを用いた従来の試薬や精製した組換えウシ組織因子を含む試薬と同程度の凝固時間、感度を示すことがわかった。
【0092】
〔試薬SW又は試薬SFと対照試薬との凝固活性の相関性〕
上記「試薬SW及び試薬SFの感度」において使用したものと同じ試薬(試薬SW、試薬SF、対照試薬1及び対照試薬2)を使用して、ワルファリン投与患者血漿(N=20)の凝固活性(%)を、全自動血液凝固分析装置コアグレックス800(島津製作所(株))で測定した。尚、活性値(%)の算出に用いる検量線の作成には、コアグトロールN(シスメックス(株))を用いた。また、ワルファリン投与患者血漿は、Multi−Coumadin Set(Georoge King Biomedical社)を用いた。
各試薬を用いて得られた活性値(%)の結果を表3に示した。
【0093】
【表3】

【0094】
表3の結果より、各血漿検体について、試薬SW及び試薬SFのいずれも、対照試薬1及び対照試薬2と同程度の活性値を示すことが確認できた。これより、試薬SW及び試薬SFは、天然ウシ大脳トロンボプラスチンを用いた従来の試薬や精製した組換えウシ組織因子を含む試薬と同程度の活性値を示すことがわかった。
【0095】
さらに、各血漿検体について、対照試薬1を用いたときの活性値と試薬SWを用いたときの活性値の関係を図3に示す。また、対照試薬1を用いたときの活性値と試薬SFを用いたときの活性値の関係を図4に示す。図3の横軸は対照試薬1を用いて測定したときの活性値(%)を示しており、縦軸は試薬SWを用いて測定したときの活性値(%)を示している。図4の横軸は対照試薬1を用いて測定したときの活性値(%)を示しており、縦軸は試薬SFを用いて測定したときの活性値(%)を示している。
【0096】
図3及び図4から明らかなように、試薬SWの活性値(%)及び試薬SFの活性値(%)のいずれも、従来の対照試薬1の活性値(%)との間に高い相関性があることがわかった。これより、本実施例の試薬SWや試薬SFの活性は、天然ウシ大脳トロンボプラスチンを用いた従来の試薬に相当するものであることがわかった。
【0097】
〔II、VII、IX、X因子測定用試薬のPIVKAに対する感受性〕
組換えウシ組織因子含有溶液SWを用いて、PIVKAの感受性を調べた。
具体的には、II、VII、IX、X因子測定用試薬SWと20mM塩化カルシウム溶液を等量混合し、さらにヒト吸着血漿をそれぞれに混合して、PIVKA感受性試験用の試薬を調製した。
尚、対照として、ウシ大脳から抽出したトロンボプラスチンを含有するウシ大脳由来トロンボプラスチン溶液、およびウサギの脳から抽出したトロンボプラスチンを含有するウサギ脳由来トロンボプラスチン溶液を用いて、上記と同様にしてPIVKA感受性試験用の試薬を調製した。
調製したPIVKA感受性試験用試薬を使用して、全自動血液凝固分析装置コアグレックス800(島津製作所(株))により、正常血漿及び3種類のワルファリン投与患者血漿の凝固時間を測定した。
正常血漿としては、コアグトロールN(シスメックス(株))、及びこれを生理食塩水で希釈したものを用いた。コアグトロールNの希釈倍率は、3倍希釈、5倍希釈及び7希釈である。
ワルファリン投与患者血漿は、Multi−Coumadin Set(Georoge King Biomedical社)、及びこれを生理食塩水で希釈したものを用いた。ワルファリン投与患者血漿の希釈倍率は、2倍希釈、3倍希釈及び5倍希釈である。
得られた結果を図5に示した。
【0098】
図5のAは組換えウシ組織因子含有溶液SWを用いた場合、Bはウシ大脳由来トロンボプラスチン溶液を用いた場合、Cはウサギ脳由来トロンボプラスチン溶液を用いた場合の結果である。図5の縦軸は凝固時間(秒)、横軸は血漿の希釈倍率である。Hemker及びDensonらの方法にしたがって、PIVKAに対する感受性を検討した。
【0099】
図5の結果から、Hemker及びDensonらの方法にしたがって正常血漿の示す直線とワルファリン投与患者血漿が示す直線とを比較すると、ウシ大脳由来トロンボプラスチン溶液を用いた場合(図5B)はワルファリン投与患者血漿においてPIVKAによる凝固阻害(点線)が見られた。一方、ウサギ脳由来トロンボプラスチン溶液を用いた場合(図5C)は、PIVKAによる凝固阻害(点線)は見られなかった。従って、天然由来のウシトロンボプラスチンはPIVKAに対する感受性があるが、天然由来のウサギトロンボプラスチンではPIVKAに対する感受性が低いといえる。このような結果はHemker及びDensonらの報告と一致していた。
【0100】
そして、II、VII、IX、X因子測定用試薬SWを用いた場合(図5A)は、ウシ大脳由来トロンボプラスチン溶液を用いた場合(図5B)と同様の結果が得られた。これらの結果から、本実施例で使用した組換えウシ組織因子とリン脂質との複合体は、天然のウシトロンボプラスチンと同様の性質を示すことが確認できた。さらに、II、VII、IX、X因子測定用試薬SWに含まれるカイコ個体由来の可溶性成分がPIVKAの感受性に影響を及ぼさないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の凝固検査試薬は、組換え組織因子の生産において宿主として使用した昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分を含有するにもかかわらず、従来の凝固検査試薬と同程度の感度、凝固活性を示すことができるので、従来の凝固検査試薬の代用として利用することができる。また、本発明の凝固検査用試薬に用いられる組換え組織因子は、精製工程を簡略化することができるので、従来の組換え組織因子を用いる凝固検査方法と比べて、生産性がよく、しかも生産コストの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】組換えウシ組織因子含有溶液SWのSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図2】組換えウシ組織因子含有溶液SFのSDS−PAGEの結果を示す写真である。
【図3】対照試薬1の活性値と試薬SWの活性値との関係を示すグラフである。
【図4】対照試薬2の活性値と試薬SWの活性値との関係を示すグラフである。
【図5】実施例で調製したPIVKA感受性試験用試薬についての、血漿の希釈倍率と凝固時間の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
昆虫又は昆虫培養細胞を宿主とする遺伝子工学的手法によって得られた組換え組織因子とリン脂質との複合体、及び前記昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分を含有する凝固検査用試薬。
【請求項2】
前記組換え組織因子は、可溶性ドメイン及び膜貫通ドメインを有する組換えウシ組織因子である請求項1に記載の凝固検査用試薬。
【請求項3】
前記組換え組織因子は、配列番号1で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失したアミノ酸配列からなる組換えウシ組織因子である請求項1に記載の凝固検査用試薬。
【請求項4】
前記昆虫は、鱗翅目昆虫である請求項1〜3のいずれかに記載の凝固検査用試薬。
【請求項5】
前記鱗翅目昆虫はカイコである請求項4に記載の凝固検査用試薬。
【請求項6】
前記昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性成分は、前記昆虫又は昆虫培養細胞由来の可溶性タンパク質を含んでいる請求項1〜5のいずれかに記載の凝固検査用試薬。
【請求項7】
組織因子のcDNAをバキュロウィルスDNAへ組み込んだ組換えバキュロウィルスを昆虫又は昆虫培養細胞に感染させる工程;
前記昆虫又は昆虫培養細胞において、前記cDNAから組換え組織因子を発現させる工程;
前記組換え組織因子を発現した昆虫又は昆虫培養細胞を破砕して得られる破砕物を含む溶液から不溶性成分を除去することにより、前記組換え組織因子を含む可溶性成分を得る工程;及び
前記可溶性成分とリン脂質とを混合して、前記組換え組織因子とリン脂質との複合体を形成させる工程
を含む凝固検査用試薬の製造方法。
【請求項8】
前記cDNAは、ウシ組織因子の可溶性ドメイン及び膜貫通ドメインをコードするcDNAである請求項7に記載の凝固検査用試薬の製造方法。
【請求項9】
前記cDNAは、配列番号2で示されるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列の1又は数個のアミノ酸が置換、付加又は欠失したアミノ酸配列をコードするcDNAである請求項7に記載の凝固検査用試薬の製造方法。
【請求項10】
前記可溶性成分を得る工程において、破砕物を含む溶液が、界面活性剤を含有する請求項7〜9のいずれかに記載の凝固検査用試薬の製造方法。

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−122288(P2008−122288A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308061(P2006−308061)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】