説明

凸版印刷用樹脂凸版およびこれを用いて得られる有機EL素子の製造方法

【課題】印刷処理を繰り返し行っても寸法精度が安定し、しかも、印刷時の基板へのダメージが小さい凸版印刷用樹脂凸版を提供する。
【解決手段】ポリエステルポリオールとジイソシアネートとの重合付加生成物に、アクリレートを付加させてなるプレポリマーと、単官能もしくは多官能モノマーとを配合した感光性樹脂組成物を版材料としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」という)素子の有機発光層を印刷するために用いられる凸版印刷用樹脂凸版およびこれを用いて得られる有機EL素子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機等における表示素子として、薄型,低消費電力,軽量等の特長を有する有機EL素子が注目されている。この有機EL素子は、2つの相対向する電極の間に、有機EL発光体を含有する有機発光層を形成したもので構成されており、この有機発光層に電流を流すことで、この有機発光層を発光させるようにしている。
【0003】
上記の有機EL発光体には、低分子材料と高分子材料とがある。通常は低分子材料を用い、これを基板に真空蒸着等させて有機発光層を形成しているが、このものでは、微細パターンのマスクを用いてパターニングするため、基板が大型化すれば真空蒸着装置が大型化し、材料の使用効率と処理能力、歩留りが大幅に低下するという問題がある。そこで、最近では、基板が大型化しても量産製造に対応できるよう、有機EL発光体として高分子材料を用い、これを溶剤に溶解、分散させてインクとし、印刷法により基板に有機発光層を形成するという試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。ところが現在、高分子材料として知られている共役ポリマー系の化合物はいずれも溶解性が低いことから、インク化するには、キシレン,トルエン等の芳香族系を溶剤として使用する必要がある。この芳香族系溶剤は一部、高分子ポリマーに対する膨潤性が高いことから、例えば、オフセット印刷法によって有機発光層を形成しようとすると、溶剤で膨潤し、印刷処理の繰り返しによって寸法精度が低下するおそれがある。
【0004】
一方、印刷法には、上記オフセット印刷法をはじめとして各種の方法があるが、上記の有機EL素子には、基板としてガラス基板を用いることが多いため、弾性を有するゴムブランケットを用いるオフセット印刷法や、弾性を有するゴム版や樹脂版を用いる凸版印刷法が好ましい。ところが、オフセット印刷法では、上述した、ゴムブランケットの寸法精度の低下のおそれがあるため、凸版印刷法がよく採用されている。また、この凸版印刷法でも、ゴム版では、上述したおそれがあるため、樹脂版が用いられており、なかでも市販の固体版(例えば、東レ社製のもの)が多用されている。
【特許文献1】特開2006−252787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の固体版は、水溶性ナイロン,ポリビニルアルコール等の水溶性高分子と感光性樹脂との可溶エマルジョン組成物を蒸発乾燥して得られた樹脂凸版であるため、その硬度が硬く、印刷時の基板へのダメージが大きいという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであって、印刷処理を繰り返し行っても寸法精度が安定し、しかも、印刷時の基板へのダメージが小さい凸版印刷用樹脂凸版およびこれを用いて得られる有機EL素子の製造方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、ポリエステルポリオールとジイソシアネートとの重合付加生成物に、アクリレートを付加させてなるプレポリマーと、単官能もしくは多官能モノマーとを配合した感光性樹脂組成物を版材料とした凸版印刷用樹脂凸版を第1の要旨とし、上記の凸版印刷用樹脂凸版を用い、有機EL発光体を溶剤に溶解させた印刷インクを基板上に印刷したのち、上記溶剤を蒸発気化させて有機発光層を形成する工程を含む有機EL素子の製造方法を第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
すなわち、本発明者らは、印刷処理を繰り返し行っても寸法精度が安定し、しかも、印刷時の基板へのダメージが小さい凸版印刷用樹脂凸版(以下「樹脂凸版」と略す)を得るため、鋭意研究を重ねた結果、ポリエステルポリオールとジイソシアネートとの重合付加生成物に、アクリレートを付加させてなるプレポリマーと、単官能もしくは多官能モノマーとを配合した感光性樹脂組成物を版材料とすると、初期の目的を達成しうることを突き止め、本発明に到達した。本発明の樹脂凸版は、その版材料が、ポリエステル系骨格を有する感光性樹脂組成物であるため、脂肪族系骨格のものに比べ、芳香族系溶剤に対してあまり膨潤することがなく、これにより、印刷処理を繰り返し行っても樹脂凸版の寸法精度が低下せず、長期間にわたって安定した寸法精度が保持される。しかも、樹脂凸版の硬度が柔らかく、印刷時の基板へのダメージが小さい。
【0009】
また、本発明の有機EL素子の製造方法は、上記樹脂凸版を用いて基板上に有機発光層を形成しているため、1枚の樹脂凸版で多数の有機EL素子を製造しても、得られる有機EL素子の有機発光層の寸法精度が安定している。しかも、有機EL素子製造時の基板へのダメージが小さく、基板が損傷等することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限られるものではない。
【0011】
図1は本発明の樹脂凸版の一実施の形態を示している。この実施の形態では、上記樹脂凸版は、後述する有機ELカラーディスプレイ等(図示せず)を構成する有機EL素子に有機発光層23(図7参照)を印刷するために用いられるものであり、図2およびこの図2のA−A断面図である図3に示すように、基板1と、この基板1のパターン印刷面に帯状に形成されて所定の間隔(ピッチ)で平行に突設される複数本の印刷用凸部2とからなっている。そして、これら各印刷用凸部2の頂面に複数の微小突起(微小凸部)3が分布形成されているとともに、これら各微小突起3間に、一連につながる溝部4が形成されており、この溝部4内に印刷インク(図示せず)が保持されるようになっている。
【0012】
上記樹脂凸版は、そのJISゴム硬度がショアA60〜90°の範囲内で、好適にはショアA65〜80°の範囲内の柔軟性がある。JISゴム硬度がショアA90°より大きいと、硬さが硬すぎて基板にダメージを与えるおそれがあり、60°より小さいと、硬さが柔らかすぎて印刷時に印刷インクが滲み出し、液ダレが発生して、鮮明な画像を得ることができないおそれがある。
【0013】
また、上記樹脂凸版は、水系洗浄剤で現像可能であり、後述する樹脂凸版の製造に際して、未硬化部分が洗浄水等の水系洗浄剤で洗い流される。
【0014】
また、上記樹脂凸版は、有機EL発光体を溶解、分散させる芳香族系溶剤であるアニソール,シクロヘキシルベンゼンもしくはテトラリンまたはそれらの混合溶剤に対して、室温20〜25℃の環境以下で24時間連続浸漬し、浸漬前後の重量変化率が0.2〜15%の範囲内の膨潤率を有している。このように、上記樹脂凸版は、芳香族系溶剤に対してあまり膨潤しない。したがって、有機EL発光体を芳香族系溶剤で溶解、分散した印刷インクを用いる場合にも、上記樹脂凸版があまり膨潤しないため、印刷処理の繰り返しによっても樹脂凸版の寸法精度が低下せず、長期間にわたって安定した寸法精度が保持される。
【0015】
上記重量変化率は、好適には、1〜10%の範囲内に設定される。上記重量変化率が10%を上回ると、印刷処理の繰り返しによって樹脂凸版の寸法精度が低下するおそれがある。また、上記重量変化率は、低ければ低いほど好ましく、1%程度であれば、上記寸法精度の低下はほとんど見られないが、通常の使用回数を考慮すると、5〜7%の範囲内であれば、上記寸法精度が低下するおそれはない。また、芳香族系溶剤として、アニソール,シクロヘキシルベンゼンもしくはテトラリンの混合溶剤を用いる場合、その配合比率は任意に設定される。なお、上記重量変化率の測定に際しては、厚み0.13〜0.30cmの樹脂凸版を2cm×3cmの大きさに切断したものを使用した。
【0016】
また、上記樹脂凸版は、切断時伸び15〜200%、引張強さ2〜100MPaにて、最大引張力30〜200Nの樹脂特性を有することが好ましい。この範囲を上回ると、ゴム硬度が上昇し、上述したように基板へのダメージが発生するという弊害が生じ、下回ると、ゴム硬度が減少し、上述したように印刷時の液ダレの発生という問題が生じる傾向がみられる。
【0017】
例えば、ライン状の印刷をする場合、上記微小突起3の形状は、円錐台状もしくは円柱状であることが好ましく(図2および図3では、円錐台状)、転写性がより良好になる点で、微小突起3の高さH1 が1〜500μmの範囲内、頂面の直径D1 が5〜500μmの範囲内、隣り合う微小突起3間の間隔W1 が5〜500μmの範囲内であることが好ましい。
【0018】
また、上記微小突起3に代えて、図4およびこの図4のB−B断面図である図5に示すように、印刷用凸部2の頂面に、所定の間隔で平行に配設される複数本の筋状凸条5と、隣り合う2本の筋状凸条5間に形成される筋状凹溝(筋状凹部)6とからなる筋状凹凸部が形成されていてもよい。上記筋状凸条5の断面形状は、台形状もしくは矩形状であることが好ましく(図4および図5では、台形状)、転写性がより良好になる点で、筋状凸条5の高さH2 が1〜500μmの範囲内、頂面の幅D2 が5〜500μmの範囲内、筋状凹溝6の溝幅(凹部幅)W2 が5〜500μmの範囲内であることが好ましい。なお、有機EL素子の有機発光層23をディスプレイ用途ではなく、照明用途等に応用する場合、上記のようなライン状のパターニングではなく、全面単色のベタパターンによる印刷版によって対応できる。
【0019】
このような樹脂凸版は、ポリエステルポリオールとジイソシアネートとの重合付加生成物に、アクリレートを付加させてなるプレポリマーと、単官能もしくは多官能モノマーとを配合した感光性樹脂組成物を版材料とし、製造されたものである。
【0020】
上記ポリエステルポリオールは、例えば飽和脂肪酸,不飽和脂肪酸,芳香族酸等からなるジカルボン酸とポリオールとを縮重合させたポリエステル共重合体等があげられる。
【0021】
ここで、ポリオールとは、1分子中に水酸基を2個以上有するアルコールをいい、具体的には、エチレングリコール,ポロピレングリコール,ジエチレングリコール等があげられ、単体でもしくは併せて用いられる。
【0022】
また、上記ジイソシアネートとしては、例えば、脂肪族,脂環族,芳香族のジイソシアネートの使用が可能であり、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ジアニシジンイソシアネート、3,3′−ジトリレン−4.4′−ジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジメチルイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トランスビニレンジイソシアネート、2,6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ジフェニルエーテル−4,4′−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等があげられる。このようなポリエステルポリオールとジイソシアネートとを重合付加する方法としては、従来公知の方法が用いられる。
【0023】
上記アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート,2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート,ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等があげられる。
【0024】
上記プレポリマーに対するアクリレートの付加は、例えば、従来公知のクラフト重合法(継木重合法)等により行われる。ここで、プレポリマーに対するアクリレートの付加の割合は、通常、プレポリマー1モルに対しアクリレートを0.5〜5.0モルの範囲内に設定される。アクリレートの付加割合が、上記の範囲を上回ると、樹脂凸版のゴム硬度が上昇する弊害が生じ、下回ると、樹脂凸版の形成ができない問題が生じる傾向がみられる。
【0025】
上記単官能もしくは多官能モノポリマーとしては、1,3または1,4−ブタンジオ−ルジアクリレート、1,6−ヘキサンジオ−ルジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートをはじめとする種々のモノマーがあげられる。
【0026】
上記重合付加生成物に対する、アクリレートを付加させてなるプレポリマーと、単官能もしくは多官能モノマーとの配合割合は、所定の硬度と柔軟性,膨潤率を達成する目的状況に応じて、任意に配合される。また、これらのプレポリマー、モノマーブレンド体に光重合開始剤をブレンド体に対し、0.001〜10重量%の範囲内で配合する。
【0027】
上記感光性樹脂組成物は液体状,固体状,もしくは粉体状であってもよく、固体状もしくは粉体状である場合には、使用時には液体状にする。
【0028】
このような版材料を用い、上記樹脂凸版を、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、図6に示すようなネガフィルム11を準備する。このネガフィルム11は、上記樹脂凸版に対応する領域のうち、その凸版の微小突起3に対応する部分が丸穴11aに形成されており、この丸穴11aの内側が透明で、それ以外の部分が黒色になっている。ついで、このネガフィルム11を、下側のガラス基板12の表面に積層し、つぎに、そのネガフィルム11の表面に液状の、ポリエステル系骨格を有する感光性樹脂組成物を一定の厚みとなるように塗布する。図6では、この塗布層を符号13で示し、この塗布層13中、後述する未硬化となる予定部分を符号13aで示し、硬化する予定部分を斜線部分Sで示している。つぎに、上記塗布層13の表面に透明なベースフィルム(図示せず)を積層し、そのベースフィルムの表面に上側のガラス基板14を積層する。
【0029】
つぎに、図6に示すように、ランプ15を用いて、上側のガラス基板14およびベースフィルムを介して紫外線等の光を照射するとともに、下側のガラス基板12,ネガフィルム11を介して紫外線等の光を照射する。これにより、上記感光性樹脂組成物13からなる層の上面全体から入った光と、ネガフィルム11の丸穴11aから入った光とが届いた部分(図6の斜線部分S)が硬化される。このとき、光が届く深さは、照射する光の強さで調節する。つぎに、上下のガラス板12,14、ネガフィルム11を取り除き、ネガフィルム11の黒色部分のために光が届かずに未硬化となった部分(未硬化部分)を、現像液で洗浄して除去する。そして、硬化した部分を乾燥したのち、微小突起3の形成側に紫外線等の光を照射(後露光)することにより、細かい線等を確実に硬化させる。このようにして、図1に示すような樹脂凸版を製造することができる。
【0030】
上記のように、この実施の形態では、上記版材料が、極性の高いポリエステル系骨格を有する感光性樹脂組成物であるため、上記版材料を用いて作製される樹脂凸版が、芳香族系溶剤に対して殆ど膨潤しない。したがって、印刷処理を繰り返し行っても、上記樹脂凸版の寸法精度が低下せず、長期間にわたって安定した寸法精度が保持される。そのうえ、上記樹脂凸版の硬度が比較的柔らかく、印刷時の被印刷体の基板へのダメージがほとんどない。
【0031】
図7は上記樹脂凸版を用いて製造される有機EL素子の一実施の形態を示している。この実施の形態では、上記有機EL素子は、ガラス基板21の表面に透明もしくは半透明な陽極22,有機発光層23および陰極24を形成して構成されている。この素子は、上記両極22,24間に接続された電源25から供給される電圧により、両極22,24間に形成された有機発光層23に電流が流れて発光する。そして、このEL光がガラス基板21を通して表示されるようになっている。また、有機発光層23は、赤色(R),緑色(G),青色(B)の3種類があり、各色の有機発光層23が帯状に形成されて所定の間隔で平行に配設されており、赤色,緑色,青色の順番を繰り返して配設されている。そして、1色の有機発光層23の印刷に際しては1枚の樹脂凸版が使用され、有機発光層23の数に応じた樹脂凸版が用いられる。
【0032】
上記有機EL素子は、例えば、つぎのようにして製造される。すなわち、まず、ガラス基板21の表面に陽極22を形成する。この工程では、ガラス基板21の表面にイジウム錫酸化物(ITO)や酸化亜鉛アルミニウム等の透明導電性物質を真空蒸着法やスパッタリング法等で被覆して透明な陽極22を形成し、もしくは金やプラチナを薄く蒸着して半透明な陽極22を形成することを行う。
【0033】
つぎに、上記樹脂凸版を用い、通常の凸版印刷法により、上記陽極22上に正孔輸送層ならびに有機発光層23を順次形成する。この有機発光層23の形成工程では、まず、有機EL発光体を芳香族系溶剤に溶解、分散させて得た赤色,緑色,青色の3種類の印刷インクを準備する。また、図8に示すような、印刷ロール31,アニロックスロール32,印刷ステージ33,インク供給装置34,アニロックスロール32上の余剰な印刷インクをかきとるドクター35を備えた印刷機を準備する。つぎに、上記樹脂凸版を印刷ロール31に装着し、上記陽極22(図示せず)が形成されたガラス基板21を印刷ステージ33に載置する。つぎに、インク供給装置34からある色(例えば赤色)の印刷インクをアニロックスロール32に供給し、印刷ロール31およびアニロックスロール32を回転させる。このとき、上記印刷インクは、上記樹脂凸版の印刷用凸部2頂面の溝部4に保持される。つぎに、印刷ロール31の回転に同期させて印刷ステージ33を移動させ、ガラス基板21表面の陽極22上に、ある色の印刷インクを印刷したのち、加熱して印刷インク中の芳香族系溶剤を蒸発気化させて有機発光層23を形成する。このような印刷を他の2色についてもそれぞれ同様に行い、3色の有機発光層23を所定の位置に形成する。
【0034】
つぎに、上記有機発光層23上に陰極24を形成する。この陰極24は、Li,Na,Mg,La,Ce,Ca等の金属元素単体で構成されている。この陰極24の形成工程では、抵抗加熱法により所定の真空度の下で、上記金属元素単体ごとに別々の蒸着源から水晶振動子式膜厚計でモニターしながら有機発光層23上に共蒸着する。そののち、上記両極22,24を電源25に接続することを行う。このようにして上記有機EL素子が製造される。
【0035】
このような製造方法によれば、1枚の樹脂凸版で多数の有機EL素子を製造しても、得られる有機EL素子の有機発光層23の寸法精度が安定している。しかも、有機EL素子製造時の基板へのダメージが小さく、ガラス基板21が損傷等することがない。
【0036】
上記有機EL発光体は、粘度が2〜100mPa・sの範囲内にあり、低分子材料や高分子材料が用いられる。低分子材料としては、例えば、トリフェニルブタジエン,クマリン,ナイルレッド,オキサジアゾール誘導体等があげられる。また、高分子材料としては、例えば、ポリ(2−デシルオキシ−1,4−フェニレン)(DO−PPP)、ポリ〔2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレンビニレン〕(MEH−PPV)、ポリ〔5−メトキシ−(2−プロパノキシサルフォニド)−1,4−フェニレンビニレン〕(MPS−PPV)、ポリ〔2,5−ビス(ヘキシルオキシ−1,4−フェニレン)−(1−シアノビニレン)〕(CN−PPV)、ポリ〔2−(2’−エチルヘキシルオキシ)−5−メトキシ−1,4−フェニレン−(1−シアノビニレン)〕(MEH−CN−PPV)、ポリ(ジオクチルフルオレン)等があげられる。また、これらに用いる溶剤としては、例えば、シクロヘキシルベンゼン,トリクロロベンゼン,アニソール,キシレン,エチルベンゾエート,シクロヘキシルピロリドン,ブチルセロソルブ,ジクロロベンゼン,トルエン等があげられ、これらは単独もしくは2種以上混合して用いられる。混合する場合の混合比は、有機発光層23によって決定される。
【実施例】
【0037】
つぎに、実施例について説明する。
【0038】
図1〜図3に示す構造の樹脂凸版を準備した。この樹脂凸版のJISゴム硬度はショアA85°で、その重量変化率は、アニソールに対して室温23℃で24時間連続浸漬し、5%であった。このような樹脂凸版は、下記の表1に示す版材料を用い、上記樹脂凸版の製造方法と同様の方法で製造されたものであり、版総厚みが1.3mmで、基板厚みが0.7mmであった。
【0039】
【表1】

【0040】
印刷機として、図8に示すもの(MTテック社製フレキソ印刷機、FC33S)を準備した。その印刷条件は、樹脂凸版とアニロックスロール間のニップ幅が3.5〜6.5mmに、樹脂凸版とガラス基板間のニップ幅が7.5〜12.5mmに調整され、印刷スピードが20m/分に調整された。
【0041】
疑似インクとして、アニソール、テトラリンを1対1に混合し、そこにポリビニルカルゾール(関東化学社製、分子量90.000)を0.2〜1.5重量%溶解させたものを用いた。この疑似インクは、0.01〜0.1MPaの乾燥空気によって輸送され、40秒に0.5〜5ミリリットルだけアニロックスロール上に供給されるように調整された。
【0042】
上記樹脂凸版を印刷機の版胴に取り付け、この印刷機を上記印刷条件,印刷スピードで駆動し、有機EL素子を構成するためのガラス基板上に疑似インクを印刷したのち、60〜90℃に熱したホットプレート上でアニソール,テトラリンを蒸発気化させて除去し、有効成分のみを析出して有機発光層とした。
【0043】
この有機発光層を光干渉顕微鏡にて測定した結果、400〜700Åの膜厚を計測した。また、紫外線ランプを膜表面に近付けることで、疑似インクが発光し、有機EL発光体が塗布されたことを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の樹脂凸版の一実施の形態を示す側面図である。
【図2】上記樹脂凸版の要部の拡大平面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】上記樹脂凸版の変形例を示す要部の拡大平面図である。
【図5】図4のB−B断面図である。
【図6】上記樹脂凸版の製造方法を示す説明図である。
【図7】有機EL素子の一実施の形態を示す説明図である。
【図8】上記有機EL素子の製造方法を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルポリオールとジイソシアネートとの重合付加生成物に、アクリレートを付加させてなるプレポリマーと、単官能もしくは多官能モノマーとを配合した感光性樹脂組成物を版材料としてなることを特徴とする凸版印刷用樹脂凸版。
【請求項2】
それ自体の硬度が、JISゴム硬度でショアA60〜90°の範囲内に設定され、水系洗浄剤で現像可能な請求項1記載の凸版印刷用樹脂凸版。
【請求項3】
有機EL発光体を溶解、分散させる芳香族系溶剤であるアニソール,シクロヘキシルベンゼンもしくはテトラリンまたはそれらの混合溶剤に対して、室温20〜25℃の環境以下で24時間連続浸漬し、浸漬前後の重量変化率が0.2〜15%の範囲内の膨潤率を有する請求項1または2記載の凸版印刷用樹脂凸版。
【請求項4】
切断時伸び15〜200%、引張強さ2〜100MPaにて、最大引張力30〜200Nの樹脂特性を有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の凸版印刷用樹脂凸版。
【請求項5】
パターン印刷面の印刷用凸部を有し、その表面に、印刷インクを保持するための凹部幅が10〜500μmである筋状凹部、もしくは凸部径が10〜500μmである微小凸部が形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の凸版印刷用樹脂凸版。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の凸版印刷用樹脂凸版を用い、有機EL発光体を溶剤に溶解させた印刷インクを基板上に印刷したのち、上記溶剤を蒸発気化させて有機発光層を形成する工程を含む有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−10065(P2010−10065A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170638(P2008−170638)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(594101226)株式会社コムラテック (11)
【Fターム(参考)】