説明

凹版印刷機のワイピング装置

【課題】 凹版印刷機のワイピング装置として、ワイピングローラの余剰インキを迅速かつ確実に除去するとともに、長時間にわたって良好な印刷物を得ることを可能とし、併せてオペレータの負担軽減を図る。
【解決手段】 ワイピングローラの周面と接触する洗浄要素を含み、該洗浄要素は、ローラ回転方向入り側にあって、ローラに指向し洗浄液を投射するノズルを具備するとともに、ローラの軸線方向に略平行して延在し、ローラに対して鉛直方向に押圧する押圧装置に付装された、金属、樹脂又はゴムのいずれかから成る中空体ブレードを少なくとも備えている凹版印刷機のワイピング装置とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹版印刷機のワイピングローラを洗浄するワイピング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、凹版印刷機のワイピング装置は、図8に示すように凹版胴(8)に装着された凹版版面上の余剰なインキを拭き取る樹脂製のワイピングローラ(7)と、このワイピングローラ(7)上に付着したインキを溶解及び分散させるための洗浄液(1)を満たしたワイピング槽(6)と、このワイピングローラ(7)に接触して機械的にインキを取り除く機能を有する複数個のブラシ群(4)から構成される洗浄部材及び/又はこのブラシ群(4)の上にインキの抜けを阻害しない開き目を有し、且つ、柔軟性がある合成繊維製のタワシ(5)を載せてワイピングローラ(7)と面接触させる支軸(2)に固定された洗浄部材(3)と、この洗浄部材(3)の下流に位置してワイピングローラ(7)の表面上に残存する洗浄液を拭き取る鋼製又は樹脂製の仕上げブレード(9)から構成される。
【0003】
従来のワイピング装置では、洗浄液あるいは洗浄部材とワイピングローラが接触する時間が長く、ワイピングローラ表面に付着したインキを完全に溶解及び分散させることができ、また、インキを溶解及び分散させた後にワイピングローラ表面に残存する薄い洗浄液の薄膜層も仕上げブレードにより取り除かれ、完全に清浄化されたワイピングローラが再び凹版版面上のインキを拭き取るためのサイクルに入ることで、汚れのない凹版印刷物を連続的に生産することが可能であった。
【0004】
しかしながら、上述したような従来のワイピング装置にあっては、洗浄液が新しい状態においては拭き取られたインキが効率的に洗浄液中に溶解及び分散するが、印刷時間の経過とともに洗浄液中のインキ濃度が高くなり、このためにインキの溶解及び分散能力が低下し、洗浄部材の上部に位置する合成繊維製のタワシに未溶解のインキが徐々に蓄積されるようになる。そのため、連続印刷枚数が枚葉紙で約5万枚以上に達すると、ワイピングローラ上のインキが完全に拭き取れず、僅かに残ったインキが印刷物に付着する「拭き残り」と称する印刷欠陥や、汚れた洗浄液が印刷物に付着する「溶剤汚れ」と称する印刷欠陥が生じてしまう。このような事象が生じた場合、オペレータは印刷機械を一旦停止させ、洗浄部材を洗浄したり、洗浄液を交換する等の措置を講じる必要があり、不稼働時間が増加したり、また、この洗浄作業がオペレータにとって作業服や手が汚れる好ましくない作業であるという問題があった。
【0005】
この問題点を解消する方策として、凹版印刷機のワイピング部において、洗浄部材上のインキ堆積を抑制するとともに長時間にわたって良好な印刷物を得ることを可能とするため、ワイピングローラの表面を洗浄する洗浄機構を、洗浄機構内部に複数個取り付けたコイルスプリングの上に、ワイピングローラ表面に対し直立させた向きに、弾性を付与した断面形状が任意で筒状の集合体を取り付け、その上に合成繊維製不織布を重ね、さらにその上に合成繊維製網目やすりを重ねワイピングローラと面接触するように形成した凹版印刷機のワイピング洗浄機構がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、凹版印刷機のワイピング部において、ワイピングローラ表面に付着したインキを水性溶剤中で洗浄する装置の洗浄機構を、ホルダー上に組み込んだベースフレームにテンションを自在に調整できるネットを張り、その上に合成繊維製不織布を載せ、さらにその上に合成繊維製網目やすりを載せ、ワイピングローラと面接触するように形成させた凹版印刷機のワイピングローラ洗浄装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】実公平7−16431号公報
【特許文献2】実用新案第3007968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した先行技術である特許文献1の技術を用いた場合、合成繊維製不織布を重ね、さらにその上に合成繊維製網目やすりを重ねた、洗浄シート自らの保有する弾力性とコイルスプリング及びワイピングローラ表面に対し直立させた向きに取り付けた弾性を付与した断面形状が任意で筒状の集合体にて、適度のクッションが付与されることにより、ワイピングローラ表面の汚れを極めて均一にきれいに洗浄することができる。また、洗浄シートがワイピングローラ表面に面接触することにより、ワイピングローラ表面を平均に磨耗するので、その耐久性が向上する。さらに、溶解されずにシートを通過したインキは、ワイピングローラ表面に対し直立させた向きに取り付けた弾性を付与した断面形状が任意で筒状の集合体の中を通過し、洗浄機構部分に溜まらないことから、良好な印刷製品を安定して生産することが可能となる。
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術は、ワイピングローラ表面から拭き取ったヘドロ状態となったインキ滓の大半を筒状の集合体に誘導でき、連続印刷を実施した場合においても、ある程度洗浄部材への未溶解インキの堆積を抑制することができるが、印刷時間の経過とともに筒状の集合体の中へ徐々にヘドロ化したインキ滓が蓄積することになり、やがて洗浄不良等の不具合が発生することになる。また、すべてのインキを筒状の集合体に誘導できるわけではなく、一部のインキは洗浄部材に堆積することになり、ワイピングローラの洗浄を阻害することになる。特に、近年、凹版インキに磁性成分等の機能性成分を内在させている場合が多く、凹版インキをワイピング槽に存する界面活性剤を主体とした洗浄液へ完全に溶解及び分散させることが難しく、やがてワイピングローラの拭き取りに支障をきたすことになることから、良質な印刷製品を連続的に安定して生産することが困難となる。
【0010】
また、特許文献2の技術を用いた場合、ワイピングローラ洗浄装置は、インキの抜けを容易にし、目詰まりが極めて少ない構造としたこと及びワイピングローラの凹凸に容易に追従できる機能を有していることから、高い洗浄効果を安定して保持できる利点がある。加えて、ワイピングローラに対して、適度な柔軟性を確保しながら面で接触するため、ローラキズ等の発生が皆無となる利点もあることから、良好な印刷製品を安定して生産することが可能となる。
【0011】
しかしながら、特許文献2の技術は、インキの抜けを容易にし、目詰まりが極めて少ない構造としているものの、従来の凹版印刷機のワイピング装置と同様に時間経過とともにワイピング槽に滞留する洗浄液がヘドロ状態のインキ滓を含有することに変わりなく、洗浄液の交換頻度を遅らせると、場合によっては、ワイピングローラ表面上のインキの拭き取りが十分でなくなり、「拭き残り」及び「溶剤汚れ」といった印刷欠陥が発生する場合があり、所望する高品質な印刷製品を連続的に安定して生産することができなくなる。これらの対策として、洗浄液及び洗浄部材を頻繁に交換しなければならず、作業手間の増大及び消耗品交換等にかかるコストが増加する。このことから、特許文献2の技術は長期的で連続性の高い印刷製品(例えば、銀行券印刷や諸証券印刷)には適さず、少量多種であり汎用性の少ない凹版印刷にのみ用いられる。これらの理由により必ずしも先行技術に移行しない現状がある。現時点において、上述した問題点への対策が施されておらず、少なからず開発の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記のような課題を解決するため、本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、凹版印刷機のワイピング装置において、ワイピングローラ表面に付着した余剰インキを洗浄する装置として、ワイピングローラの周面と接触する洗浄要素を含み、該洗浄要素は、ワイピングローラ回転方向入り側にあって、ワイピングローラに指向し洗浄液を投射するノズルを具備するとともに、ワイピングローラの軸線方向に略平行して延在し、ワイピングローラに対して鉛直方向に押圧する押圧装置に付装された中空体ブレードを少なくとも備えていることを特徴とする凹版印刷機のワイピング装置である。
【0013】
また、本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、中空体ブレードが金属、樹脂又はゴムのいずれかから成ることを特徴とする凹版印刷機のワイピング装置である。
【0014】
また、本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、中空体ブレードの内部に断面が円形、楕円形又は多角形のいずれかの中空孔を複数配して形成されており、且つ、中空孔には空隙を有する捩じりプレートが埋設されていることを特徴とする凹版印刷機のワイピング装置である。
【0015】
また、本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、中空体ブレードが可撓性部材を含んで成ることを特徴とする凹版印刷機のワイピング装置である。
【0016】
また、本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、中空体ブレードが表面にインキ滓を機械的に接触除去させるためのインキの抜けを阻害しない開き目を有し、且つ、柔軟性がある紙、樹脂又は不織布のいずれかから成るインキ滓除去部材を被覆していることを特徴とする凹版印刷機のワイピング装置である。
【0017】
さらに、本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、中空体ブレードが中空孔に捕集したインキ滓との摩擦を低減させるために中空孔を加熱する熱源供給装置、中空孔に振動を伝播する振動付与装置及び中空孔に存するインキ滓を排出口へ排出するアクチュエータのいずれか又はすべてを連設していることを特徴とする凹版印刷機のワイピング装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、凹版版面上の余剰インキを拭き取った直後のワイピングローラから、中空体ブレードによりワイピングローラ表面に存するインキ滓を中空体ブレードに存する中空孔に取り除き、更に中空孔に滞留したインキ滓を自重、熱源、振動等により効果的に取り除く機構であることから、従前までの問題点となっていた洗浄部材へのインキ堆積や洗浄液中へのインキ成分の分散等による洗浄能力の劣化を大幅に抑制することが可能となるなど、均質な凹版印刷製品を長期間において連続的かつ安定的に得ることが可能となるといった充実した製品品質が保全できるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、インキ滓を効果的に除去できる機構であることから、残留インキ滓を主要因とするワイピングローラの摩滅損耗が大幅に抑制できる。加えて、使用する洗浄液の劣化が抑制でき延命化が図れる。このことでワイピングローラを長期間において使用することが可能となり、使用頻度の大幅削減、ワイピングローラの焼成及び研磨に掛かる負担の低廉化が図れる。同時に洗浄液の使用量削減など、従前に比して大幅なコスト低減が実現できるという効果を奏する。
【0020】
さらに、本発明の凹版印刷機のワイピング装置を用いることで、この課題におけるすべての問題点が解消できるとともに、ワイピングローラ及び洗浄液の延命化に寄与できることから、従前までオペレータにより頻繁に行われていた各種調整作業が減少することによる作業性の大幅な改善及び印刷機械の不稼働時間が低減できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1乃至図8に基づき、この発明の実施形態を説明する。図1は本発明における凹版印刷機のワイピング装置の概略図の一例である。また、図2は中空体ブレード形状の一例を示す概略図であり、図3は中空体ブレードに存する中空孔の内部態様の一例を示す概略図である。また、図4は中空体ブレードの外観態様の一例を示す概略図である。また、図5は別形態のワイピング装置の概略図である。さらに、図6乃至図8は一般的な凹版印刷機のワイピング装置の概略図である。
【0022】
まず、一般的な凹版印刷機におけるワイピング装置について詳説する。図8に示すように一般的な凹版印刷機のワイピング装置は、凹版胴(8)に装着した凹版版面に付着した余剰インキの除去を行うワイピングローラ(7)の洗浄機構として、支軸(2)に固定された洗浄部材(3)に複数本のナイロン製のブラシ(4)を埋め込み、該ブラシの上部に合成繊維製不織布(例えば、タワシ)(5)が存する態様である。そして、ワイピング槽(6)に滞留する洗浄液(1)に浸った洗浄部材(3)の表面に配したタワシ(5)がワイピングローラ(7)に対して押圧接触することで、回転するワイピングローラ(7)の表面に付着しているインキ滓を除去し、最後に、最下流に配した仕上げブレード(9)により、ワイピングローラ(7)の表面に残留した洗浄液(1)を掻き落とし、ワイピングローラ(7)を完全に洗浄して、次回の凹版版面の洗浄に備えるものである。
【0023】
また、図7に示す一般的な凹版印刷機のワイピング装置は、特にワイピングローラ(7)と接触してワイピングローラ表面を洗浄する洗浄部材(3)に特徴があり、具体的には、洗浄部材(3)の表面にステンレス製ネット(10)を張着しており、その上部にタワシ(5)、さらに最上部に合成繊維製網目やすり(11)を配した態様としている。さらに、図6に示す一般的な凹版印刷機のワイピング装置は、特に洗浄部材の態様として、筒状の集合体を有する洗浄部材(13)としている点に特徴を有する。
【0024】
一方、図1に示すように本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、ワイピング槽(6)に固着しワイピングローラ(7)の入り側に洗浄液を適宜供給するノズル(16)を備えており、その下流にワイピングローラ(7)と接触し、ワイピングローラ表面を洗浄するための、押圧装置(15)に付装された中空体ブレード(14)を備えており、最下流にはワイピングローラ(7)の表面を完全に洗浄する仕上げブレード(9)を配した態様である。ここで、ワイピングローラ表面を適切に洗浄するためには、ワイピングローラ(7)と中空体ブレード(14)との間に新しい洗浄液を適宜供給した方が効果的であり、そのためにワイピングローラ(7)の入り側に任意量の洗浄液を供給できるノズル(16)を配している。当然、使用するインキによっては、中空体ブレード(14)をワイピング槽(6)に滞留させた洗浄液(1)の中に配する場合もある。
【0025】
また、中空体ブレード(14)のワイピングローラ(7)への押圧力の加減(接触離間方向への移動)は、押圧装置(15)に連設された制御装置(26)によりなされる。さらに、中空体ブレード(14)に存する中空孔に捕集したインキ滓は、アクチュエータ等のインキ滓移送手段(図示せず)によって排出口(25)へと移送し排出される。なお、図1に示すワイピング装置においては、中空体ブレード(14)と仕上げブレード(9)との間に公知な洗浄部材(3)を配した態様としているが、使用するインキの特性に応じて配さない場合もある。
【0026】
また、本発明のワイピング装置は、図2に示すように中空体ブレード(14、14’)の態様として、ワイピングローラ(7)との接触面に中空孔(17)を配しており、該中空孔の形状を円柱孔、楕円柱孔、角柱孔あるいはハニカム形状のような多角形柱孔とする場合がある。なお、図2(a)には中空孔として空隙口を1つに設計した角柱孔(17)とした中空体ブレード(14)の例示を、図2(b)には中空孔として空隙口を複数設計した角柱孔(17’)とした中空体ブレード(14’)の例示を夫々示している。なお、中空孔(17、17’)の態様としては、円柱孔や角柱孔とした「柱孔」に限定するものではなく、当然、截頭円錐孔や截頭角錐孔とした「截頭錐孔」とする場合もある。そして、この中空孔(17、17’)を通過して、捕集されたインキ滓が機外に排出されることになる。
【0027】
また、中空体ブレード(14)の材質としては、ステンレス等の金属材料を用いる場合や、あるいは、ワイピングローラ(7)との接触によって生じる過剰な応力を適宜吸収するとともに、ワイピングローラ(7)表層に接線分力を加えるために可撓性材料(例えば、硬質プラスチック)を用いる場合がある。また、中空体ブレード(14)は、ワイピングローラ(7)の軸線方向に略平行して延在させているが、必ずしも単体である必要はなく、複数分割した中空体ブレード群を一対とした態様とする場合もある。
【0028】
また、本発明のワイピング装置は、中空体ブレード(14)に存する中空孔(17、17’)の内部に、図3に示すような中空孔の底面(図示せず)に固着された基軸(20)に、例えば、スルーホール、パンチメタル、ステンレスメッシュといった空隙(19)を複数有するプレートをヘリカル状に配した捩じりプレート(18)を埋設させた態様とする場合もある。この中空孔(17、17’)の内部に捩じりプレート(18)を配することで、中空孔内に捕集された洗浄液を含有したインキ滓はサイクロン効果により排出口(25)への送出が促進される。なお、捩じりプレート(18)の材質については、特に限定するものではなく、金属、樹脂あるいはその他の材質であってよい。また、捩じりプレート(18)は、空隙を有するものであれば、様々な空隙輪郭を有するように設計してもよい。
【0029】
また、本発明のワイピング装置は、図4に示すように中空体ブレード(14)の外観態様として、ワイピングローラ(7)表面に存するインキ滓の拭き取りを促進する目的として、ワイピングローラ(7)と対向する位置に存する中空体ブレード(14)表面に、インキ滓除去部材(21)を被覆し、中空体ブレード(14)に付設した固定冶具(22)により固定した態様とする場合がある。ここで、インキ滓除去部材(21)としては、合成繊維製不織布(例えば、タワシ)を用いる場合や、樹脂製シート、あるいは紙(ペーパー)を用いる場合がある。なお、中空体ブレード(14)へのインキ滓除去部材(21)の取り付け/取り外しは、中空体ブレード(14)に付設された固定冶具(22)の締緩にて容易に実施できる。また、固定冶具(22)は、インキ滓除去部材(21)を確実に固定するために複数設ける場合もある。
【0030】
さらに、本発明のワイピング装置は、中空体ブレード(14)に存する中空孔(17)に捕集したインキ滓の排出口(25)への送出を確実なものとするため、中空孔(17)とインキ滓の摩擦抵抗を低減させる方策として、図5に示すように中空体ブレード(14)に連設して中空孔(17)を加熱する熱源供給装置(23)を配した態様とする場合がある。また、中空体ブレード(14)に連設して中空孔(17)に振動を伝播する振動付与装置(24)を配した態様とする場合がある。また、中空孔(17)の内部に存してインキ滓を排出口へ送出するアクチュエータ(図示せず)を配した態様とする場合がある。なお、制御装置(26)は、前述した熱源供給装置(23)の熱量及び振動付与装置(24)の振動度合いをも適宜制御することが可能である。
【実施例】
【0031】
本発明における実施の例示について説明する。図1に示すように本発明の凹版印刷機のワイピング装置は、凹版胴(8)に装着された図示しない凹版版面から、対接するワイピングローラ(7)にて拭き取ったインキ滓等を洗浄する方法として、約120リットルの洗浄液(1)を滞留させたワイピング槽(6)にあって、ワイピングローラ回転方向入り側に、先端が非浸漬でワイピングローラ(7)周面と接触させる洗浄要素として、ワイピングローラ(7)のストローク分を思慮してワイピングローラ全長より約20cm大きく設計した硬質プラスチック製中空体ブレード(14)をワイピングローラ(7)の軸線方向に略平行、且つ、ワイピング槽(6)に鉛直に配置し、さらにその中空体ブレード(14)とワイピングローラ(7)の接触面に8リットル/分の洗浄液(1)を噴射状に供給するノズル(16)を配するとともに、中空体ブレード(14)の表面には、図4に示すようにインキ滓除去部材として合成繊維製不織布であるスコッチブライト(住友3M社製)(21)を被覆し、加えて、ワイピングローラ(7)に対して鉛直方向に中空体ブレード(14)を押圧する押圧装置からは、ワイピングローラ(7)への押圧力を1.2MPaに設定し、その下流に公知の洗浄部材(3)、さらに最下流には仕上げブレード(9)を配した洗浄形態として、枚葉紙約40万枚の凹版印刷における洗浄状態の確認を行った。なお、印刷機械の印刷速度は9,000枚/時間に設定して実施した。
【0032】
本発明のワイピング装置の評価としては、凹版印刷製品の品質状態、ワイピングローラ(7)の表面状態、印刷終了後の洗浄液(1)の状態及び中空体ブレード(14)に存する中空孔(17、17’)へのインキ滓の残留状態を夫々観察することで間接的に実施した。その結果、凹版印刷製品としては、枚葉紙約40万枚までの凹版印刷製品について、極めて良好な印刷製品を連続して得ることができた。また、枚葉紙約40万枚の印刷後におけるワイピングローラ(7)の表面状態を目視したところ、ワイピングローラ(7)の表面には光沢があり、至って良好な状態であることを確認した。なお、ワイピングローラ(7)の表面状態については、別途、ワイピングローラ(7)の表面凹凸状態を計測するレーザ式変位計(図示せず)及びワイピングローラ(7)の表面状態を撮像するCCDカメラ(図示せず)をローラ近傍に配置させ、表示装置(図示せず)に出力することで確認したが、顕著な凹凸やローラ表面への異物付着はなく、良好な状態であることを確認している。
【0033】
また、枚葉紙約40万枚の印刷終了後における洗浄液(1)の状態については、極端な混濁状態ではなく、更なる印刷が可能である状態であった。これは、本発明により新たに配した中空体ブレード(14)によりインキ滓が適切に除去され、洗浄液中へのインキ滓の分散が抑制されたことが事由と想察できる。
【0034】
また、枚葉紙約40万枚の印刷終了後、中空孔(17)の内部状態を確認したが、中空孔内部へのインキ滓の残留は極僅かであり、捕集された大半の洗浄液成分を含むインキ滓は排出口(25)から排出されていたことを確認した。なお、排出口(25)への排出路は表面がメッシュ状の筒状体で形成されており、中空体ブレード(14)により捕集された洗浄液成分を含むインキ滓のうち、洗浄液成分の一部がワイピング槽(6)に送出され、ワイピングローラ(7)の洗浄や冷却に再び用いられることになる。
【0035】
本実施例では、図3に示すように、ワイピング槽(6)に固着された基軸(20)に傾斜角30度でヘリカル状に巻着されたパンチメタル形状の捩じりプレート(18)を配した態様の中空孔(17)を用いた。さらに、中空孔(17)に捩じりプレート(18)を配さない構成においても同様の条件において確認しているが、この仕様においては、印刷時間の経過にともなって、中空孔(17)にインキ滓が徐々に滞留することを確認した。なお、中空孔(17)に滞留したインキ滓は、印刷作業終了後に洗浄を行うことで取り除くことになる。
【0036】
また、捩じりプレート(18)が有する空隙については、70%程度の空隙率が最適であることを確認している。この空隙率については、極端に大きく設計(例えば、空隙率90%)すると、捩じりプレート(18)が変形することから有用でないことを確認している。逆に、空隙率を極端に小さく設計(例えば、空隙率50%)すると、捩じりプレート(18)にインキ滓が堆積しやすくなり、インキ滓の送出に悪影響を与えるので有用でないことを確認している。なお、捩じりプレート(18)については、サイクロン効果を発現させることが重要であり、基軸(20)への取り付け角度と空隙の設計が主体となり、その材質については大きな影響を与えないことを確認している。
【0037】
また、ノズル(16)から供給される洗浄液(1)の投射量は、8リットル/分に設定することが最適であることを確認している。この洗浄液(1)の供給量については、過剰に供給設定(例えば、20リットル/分)すると、洗浄液の乱流化を誘発する原因となり、洗浄効果を低下させることから有用ではないことを確認している。逆に、洗浄液(1)の供給を少なく設定(例えば、3リットル/分)するとワイピングローラ(7)と中空体ブレード(14)との接触により発する摩擦熱を抑制することが困難となり、やがて、ワイピングローラ(7)が偏磨耗することから有用ではないことを確認している。
【0038】
また、本実施例では、中空体ブレード(14)の材質を硬質プラスチックとしたが、中空体ブレード(14)の材質をステンレス鋼とし、図5に示すように中空体ブレード(14)を加熱する熱源供給装置(23)及び中空体ブレード(14)に振動を伝播させる振動付与装置(24)を連設した場合についても略同様の条件において確認した。この仕様とした場合においても良好な印刷結果を得ることができた。なお、熱源供給装置(23)からの熱量伝播及び振動付与装置(24)からの振動伝播は、同様に中空体ブレード(14)に連接された制御装置(26)により、任意にその値を変更することが可能である。
【0039】
また、本実施例では、中空体ブレード(14)のワイピングローラ(7)に対する押圧力について、中空体ブレード(14)を付装する押圧装置(15)の押圧力を1.2MPaと設定して実施したが、この押圧力についても変動させて確認している。この押圧装置(15)の押圧力を極端に大きく設定(例えば、3.0MPa)すると、ワイピングローラ(7)へのキズの発生及びワイピングローラ(7)の熱膨張が誘発されることから有用ではないことを確認している。また、押圧装置(15)の押圧力を極端に小さく設定(0.5MPa)すると、接触不足となり、ワイピングローラ(7)の表面に存するインキ滓が乖離し難くなるので有用ではないことを確認している。なお、中空体ブレード(14)の押圧力調整は、中空体ブレード(14)に連設している制御装置(26)により自在に変更できる。
【0040】
また、洗浄液中に中空体ブレード(14)を浸漬させた仕様についても確認したが、この態様とした場合、洗浄液(1)へのインキ滓の分散が顕著であったことから、長時間連続稼動した場合、洗浄液(1)の交換を頻繁に実施しなくてはならず、洗浄液(1)の交換頻度を遅らせると、印刷欠陥が発生することが懸念された。
【0041】
さらに、印刷機械の印刷速度を11,000枚/時間に設定し、枚葉紙約10万枚の印刷を実施したが、本発明の構成は印刷速度に影響されることなく、所望するワイピングローラの洗浄が可能であり、良好な品質の印刷製品を生産することができた。
【0042】
上述した実施例は、あくまで例示の一例に過ぎず、特許請求の範囲に記載されている範囲において、あらゆる実施の形態が存在することは言うまでもない。実施例では、中空体ブレードを1箇所に配置したが、当然、2箇所以上に配置することや、中空体ブレードに存する中空孔の形状を任意に設計する場合、中空体ブレード先端の傾斜角度を任意に変更する場合なども容易に推量できるものである。さらに、中空体ブレードの厚み、幅及び高さについては、特に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のワイピング装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の中空体ブレード形状の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の中空孔の内部態様の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の中空体ブレードの外観態様の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の別形態のワイピング装置の一例を示す概略図である。
【図6】一般的な凹版印刷機のワイピング装置の一例を示す概略図である。
【図7】一般的な凹版印刷機のワイピング装置の一例を示す概略図である。
【図8】一般的な凹版印刷機のワイピング装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0044】
1 洗浄液
2 支軸
3 洗浄部材
4 ブラシ群
5 合成繊維製不織布(タワシ)
6 ワイピング槽
7 ワイピングローラ
8 凹版胴
9 仕上げブレード
10 ステンレス製ネット
11 合成繊維製網目やすり
12 凹版版面
13 筒状集合体を有する洗浄部材
14、14’ 中空体ブレード
15 押圧装置
16 ノズル
17、17’ 中空孔
18 捩じりプレート
19 空隙
20 基軸
21 インキ滓除去部材
22 固定冶具
23 熱源供給装置
24 振動付与装置
25 排出口
26 制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹版印刷機のワイピング装置において、ワイピングローラ表面に付着した余剰インキを洗浄する装置として、前記ワイピングローラの周面と接触する洗浄要素を含み、該洗浄要素は、前記ワイピングローラ回転方向入り側にあって、ワイピングローラに指向し洗浄液を投射するノズルを具備するとともに、前記ワイピングローラの軸線方向に略平行して延在し、前記ワイピングローラに対して鉛直方向に押圧する押圧装置に付装された中空体ブレードを少なくとも備えていることを特徴とする凹版印刷機のワイピング装置。
【請求項2】
前記中空体ブレードは、金属、樹脂又はゴムのいずれかから成ることを特徴とする請求項1記載の凹版印刷機のワイピング装置。
【請求項3】
前記中空体ブレードは、内部に断面が円形、楕円形又は多角形のいずれかの中空孔を複数配して形成されており、且つ、前記中空孔には空隙を有する捩じりプレートが埋設されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の凹版印刷機のワイピング装置。
【請求項4】
前記中空体ブレードは、可撓性部材を含んで成ることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の凹版印刷機のワイピング装置。
【請求項5】
前記中空体ブレードは、表面にインキ滓を機械的に接触除去させるためのインキの抜けを阻害しない開き目を有し、且つ、柔軟性がある紙、樹脂又は不織布のいずれかから成るインキ滓除去部材を被覆していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の凹版印刷機のワイピング装置。
【請求項6】
前記中空体ブレードは、前記中空孔に捕集したインキ滓との摩擦を低減させるために前記中空孔を加熱する熱源供給装置、前記中空孔に振動を伝播する振動付与装置及び前記中空孔に存するインキ滓を排出口へ排出するアクチュエータのいずれか又はすべてを連設していることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の凹版印刷機のワイピング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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