説明

出血性障害を処置するための方法

本発明は、出血性障害、特に血液因子欠損症によって生じる先天性凝固障害、慢性もしくは急性の出血性障害、または後天性の凝固障害を処置するための方法に関し、血液凝固の増強が必要な被験体における第XI因子依存性血液凝固増強の方法であって、この被験体に対して非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を含む組成物の治療上有効な量を投与する工程を包含する方法血液凝固の増強が必要な被験体における第XI因子依存性血液凝固増強の方法であって:(i)第XI因子が欠損していない被験体を選択する工程;および(ii)この被験体に対して非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を含む組成物の治療上有効な量を投与する工程であって、ここでこのNASPが第XI因子依存性の様式で血液凝固を増強する工程を包含する方法、FXIに依存して血液凝固を増強し得る非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を特定する方法などを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出血性障害、特に血液因子欠損症によって生じる先天性凝固障害、慢性もしくは急性の出血性障害、または後天性の凝固障害を処置するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
出血性障害および特に凝固因子の先天性または後天性の欠損症は代表的には因子の補充によって処置される。先天性の凝固障害としては血友病、劣性X連鎖障害、例としては、凝固第VIII因子(血友病A)または第IX因子(血友病B)の欠損症、およびフォン・ヴィレブランド病、まれな出血性障害、例としては、フォン・ヴィレブランド因子の重度の欠損症が挙げられる。血友病Cは第XI因子欠損症によって生じる血友病のうち軽度の型である。これは通常無症候性であるが、因子代償療法が手術の間には必要である場合がある。後天性の凝固障害は、疾患の経過の結果として以前の出血の既往歴がない個体で生じ得る。例えば、後天性の凝固障害は、第VIII因子、フォン・ヴィレブランド因子、第IX因子、V因子、XI因子、XII因子およびXIII因子などの血液凝固因子に対するインヒビターもしくは自己免疫によって生じるか;または凝固因子の合成の減少に関連し得る肝疾患によって生じるような止血障害によって生じる場合がある。長期的に因子代償療法を受けている患者のうち20%程度が補充因子に対する中和抗体を生じる場合がある。タンパク質治療剤は組み換え技術によって作製するかまたは血漿から調製して、静脈内にのみ投与することができるが、これは不便である。血友病Aおよび第VIII因子インヒビターの患者についての従来の治療は、組み換えの第VIII因子またはプロコアギュラントバイパス剤(bypassing agents)、例えば、FEIBAまたは組み換え第VIIa因子のような治療剤によって達成される。しかし、治療を無効にする阻害性抗体の効率的な発生が共通して生じる。FVIIIインヒビター患者の治療のための治療剤としての第VIIa因子およびFEIBAは半減期がかなり短く、そのため頻繁な静脈内投与が必要である。
【0003】
非特許文献1ならびに非特許文献2の両方とも、負に荷電された表面、例えば、硫酸デキストラン、スルファチドまたはヘパリンがインビトロでトロンビンまたは第XIa因子による第XI因子の活性化を促進し得ることを開示している。しかし、このような物質は血液凝固障害の治療に適切であるとはみなされていない。代表的な硫酸デキストランおよびヘパリン化合物はインビボで抗凝固性効果を有する。さらに、これらの薬剤は接触活性化因子(第XII因子、高分子量キニノーゲンまたはプレカリクレイン)をインビボで活性化し、これは危険である場合がある。血小板での局在性の接触活性化は、生理学的な関連があることが示唆された(Smith SAおよびMorrissey JH,Thromb Haemost.2008 Jul 26.印刷前に電子公開(Epub ahead of print))。全身的な接触活性化は、カリクレイン様の酵素によるHMWKの切断によって生じるブラジキニンのレベルの全身的な増大をもたらし得る。調節されていないブラジキニンの放出は血管透過性、血管漏出および可能性としては浮腫の形成を増大し得る。このような臨床的な表現型は、第XIIa因子インヒビターC1インヒビターの機能的な欠損によって特徴付けられる疾患である遺伝性血管浮腫に由来することが公知である。
【0004】
安全で、便利でかつ有効である、出血性障害を治療するための非タンパク質治療剤が必要とされている。
【0005】
本明細書における以前に公開された文書の列挙または考察は、その文書が当該分野の状況の一部であるかまたは共通の一般的知識であるという承認と解釈されるべきではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NaitoおよびFujikawa(1991)J Biol Chem 266:7353〜7358
【非特許文献2】GailaniおよびBroze Jr(1993)Blood 82:813〜819
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
本発明の第一の局面は、血液凝固の増強が必要な被験体における第XI因子依存性血液凝固増強の方法を提供し、この方法は、この被験体に対して非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を含む組成物の治療上有効な量を投与する工程を包含し、ここで、このNASPが第XI因子依存性の様式で血液凝固を増強する。
【0008】
本発明の第二の局面は、血液凝固の増強が必要な被験体における第XI因子依存性血液凝固増強の方法を提供し、この方法は:
(i)第XI因子を欠いていない被験体を選択する工程;および
(ii)この被験体に対して非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を含む組成物の治療上有効な量を投与する工程であって、ここでこのNASPは第XI因子依存性の様式で血液凝固を増強する工程、を包含する。
【0009】
本発明の第三の局面は、第XI因子に依存して血液凝固を増強し得る非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を特定する方法を提供し、この方法は:
a)活性化適格性FXIを含む血液または血漿サンプルと硫酸化多糖類を含む組成物とを合わせる工程、およびこの血液または血漿サンプルの凝固パラメーターまたはトロンビン生成パラメーターを測定する工程;
b)活性化適格性FXIを欠く対応する血液または血漿サンプルと硫酸化多糖類を含む組成物とを合わせる工程、およびこの血液または血漿サンプルの凝固パラメーターまたはトロンビン生成パラメーターを測定する工程;および
c)工程(a)および(b)で決定されたこの血液または血漿サンプルの凝固パラメーターまたはトロンビン生成パラメーターをお互いに比較する工程であって、ここで、活性化適格性FXIを欠く血液サンプルの凝固時間または活性化適格性FXIを欠く血漿サンプルのピークトロンビンもしくはピーク時間に比較して、活性化適格性FXIを含む血液サンプルの凝固時間の減少または活性化適格性FXIを含む血漿サンプルのピークトロンビンの増大もしくはピーク時間の減少は、NASPがFXI依存の血液凝固を増強し得ることの指標である工程、を包含する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の詳細な説明および好ましい実施形態
本発明の第一の局面によれば、血液凝固は第XI因子依存性の様式で増強される。
【0011】
凝固因子XIは内因性の(接触活性化)経路のメンバーである。ヒトの第XI因子は第4染色体の187.42−187.45Mbに位置する。Swissprotのデータベースのアクセッション番号はP03951である。単一ポリペプチド鎖として合成されるが、FXIはホモ二量体として循環する。各々の鎖は約80000g/molという相対分子量を有する。第XI因子の代表的な血漿濃度は5mg/lであって、これは約30nMという(第XI因子の二量体の)血漿濃度に相当する。その活性化型では、第XIa因子は第IX因子を、arg−alaペプチド結合およびarg−valペプチド結合を選択的に切断することによって活性化する。
【0012】
化学薬品による血液凝固の増強は、当該分野で公知の技術を用いて実験的に決定できる。インビトロの試験が好ましい。適切な技術としては実施例1に記載されるような全血調製物での回転トロンボエラストグラフィー、実施例2に記載のような血漿調製物による較正自動化トロンボグラフィーが挙げられる。代表的には正常な血液または血漿がこのような実験で用いられ得る。「正常な」とは、その血液が凝固障害を有していない人由来であるか、または凝固障害を有していない数例の人からのプール由来であることを意味する。回転トロンボエラストグラフィーでは、血液凝固の増強は、正常な血液中におけるある薬剤の非存在下での同じパラメーターと比較したその薬剤の存在下での凝固時間(CT)および/またはクロット形成時間(CFT)の減少から推測され得る。CTまたはCFTは少なくとも5%、少なくとも10%、好ましくは少なくとも50%まで低下され得る。較正自動化トロンボグラフィーでは、血液凝固の増強は、正常血漿中での薬剤の非存在下よりもその薬剤の存在下でのピーク時間の減少および/またはピークトロンビンの増大から推測できる。トロンビン生成時間すなわちピーク時間は、トロンビン生成の開始からトロンビンピークの最大までの時間間隔である。実施例2に記載のアッセイでは、トロンビン生成の開始はそのアッセイでの他の成分に対する蛍光原基質−カルシウム混合物の添加である。トロンビンピークの最大(これはまた、Peak IIaまたはピーク時間とも呼ばれる)はこのアッセイの間に生成される最大トロンビン濃度である。ピーク時間は少なくとも1分、少なくとも2分、好ましくは少なくとも5分、さらに好ましくは少なくとも10分まで減少され得る。ピークトロンビンは少なくとも5%、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは,少なくとも50%、100%、200%または300%まで増大され得る。当業者は任意の所定の薬剤の種々の濃度を、上記のアッセイで血液凝固に対する効果を特定するために試験する必要がある場合があることを理解する。代表的には、試験するための濃度は0.1〜500μg/mL、そして一般には1〜50μg/mLである。
【0013】
NASPが凝固を促進し、出血を低減する能力はまた、他のインビトロの凝固アッセイ(例えば、dPTおよびaPTTアッセイ)またはインビボの出血モデル(例えば、血友病のマウスまたはイヌのテール・スニップ(tail snip)、トラバース・カット(transverse cut)、全血凝固時間、または小皮(cuticle)出血時間決定)を用いて容易に決定できる。例えば、PDR Staff.Physicians’Desk Reference.2004,Andersonら、(1976)Thromb.Res.9:575〜580;Nordfangら、(1991)Thromb.Haemost.66:464〜467;Welschら、(1991)Thrombosis Research 64:213〜222;Brozeら、(2001)Thromb Haemost 85:747〜748;Scallanら、(2003)Blood.102:2031〜2037;Pijnappelsら、(1986)Thromb.Haemost.55:70〜73;およびGilesら、(1982)Blood 60:727〜730を参照のこと。
【0014】
血液凝固を増強する薬剤が特定されれば、FXIに対するその依存性は、上記のような回転トロンボエラストグラフィーおよび較正自動化トロンボグラフィーなどの技術によって決定され得る。このアッセイは、正常な血液または血漿中で行い、また活性化適格性FXIを欠く血液または血漿中でも行う。凝固パラメーターの増強が活性化適格性FXIの非存在下よりも存在下で大きい場合、凝固に対するその薬剤の作用機序はFXIに依存する。これは活性に対するFXI依存性の成分がある場合でさえ成り立つ。「活性化適格性(actvation−competent)FXI」とは、FXIaへ活性化され得るFXIを意味する。「活性化適格性FXI」はまた、凝固適格性(coagulation competent)FXIすなわちFXI:cとも呼ばれ得る。これは、Ingram GI,Knights SF,Arocha−Pinango CL,Shepperd JP,Perez−Requejo JL,Mills DKによって記載されたアッセイなどのaPTTベースの活性アッセイによって決定され得る。簡易なスクリーニングは、単離された凝固因子欠損症の診断について試験する。特に「接触因子」欠損症に関して。J Clin Pathol.1975 Jul;28(7):524〜30。人由来の血液または血漿は一般にFXIが不十分である、すなわち、血友病Cを有する人は、活性化適格性FXIを欠くかまたは健常人由来の血液または血漿よりも低濃度の活性化適格性FXIを有する。健常人は、その血漿中に平均100IU/dLのFXI:cを有する。重度FXI欠損症は20IU/dL未満という血漿FXI活性として、および部分的FXI欠損症は20〜70IU/dLという血漿FXI活性として定義される(GomezおよびBolton−Maggs(2008)Hemophilia 印刷前に電子公開:doi:10.1111/j.1365〜2516.2008.01667.x)。FXI欠損症はまた、FXIのインヒビター特に抗体インヒビターの発達の結果として生じ得る(Salomon Oら(2006)Sem Hematology 43,S10〜12;Bern MMら(2005)Haemophilia,11,20〜25。)。活性化適格性FXIを含む正常な血液または血漿はFXI活性化のインヒビターとのインキュベーションによって活性化適格性FXIを欠損させることができる。代表的には、抗体、例えば、ポリクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含む血漿が用いられる。適切なアフィニティー精製したポリクローナル抗体はEnzyme Research Laboratories(South Bend IN,USA)の「GAFXI−AP」である。
【0015】
本発明の第一の局面によれば、その組成物は血液凝固の増強の必要な被験体に投与される。血液凝固の増強の必要は、任意の出血性障害に起因して生じ得る。
【0016】
「被験体」とは限定するものではないが、ヒトおよび他の霊長類を含む脊索動物門の亜門の任意のメンバーを含み、これには非ヒト霊長類、例えば、チンパンジーおよび他の類人猿およびサル種;家畜、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギおよびウマ;家庭用哺乳動物、例えば、イヌおよびネコ;実験動物、例としてはげっ歯類、例えば、マウス、ラットおよびモルモット;鳥類、例としては、家庭用、野生および狩猟の鳥、例えば、ニワトリ、シチメンチョウおよび他のキジ類の鳥、カモ類、ガンなどが挙げられる。この用語は特定の年齢を示すものではない。従って、成体および新生の個体の両方とも含まれるものとする。本明細書に記載の本発明は、任意の上記の脊椎動物種での使用を意図する。「患者」という用語は、本発明のNASPの投与によって予防または処置され得る病態に罹患しているか、またはその病態にかかり易い生きている生物を指し、そしてヒトおよび動物の両方を包含する。
【0017】
NASPでの少なくとも1回の治療上有効な措置のサイクルが、被験体に投与される。「治療上有効な処置のサイクル」とは、投与された場合に、出血性障害について個体の処置に関して正の処置応答をもたらす処置のサイクルを意図する。特に目的とするのは、止血を改善するNASPでの処置のサイクルである。「正の処置応答」とは、本発明による処置を受けている個体が出血性障害の1つ以上の症状の改善を示す応答であり、この改善としては血液凝固時間の短縮および出血の減少および/または因子代償療法の必要性の減少などが挙げられる。
【0018】
NASPを含む組成物は代表的には、必ずしもではないが、経口的に、注射を介して(皮下、静脈内、または筋肉内)、注入によって、または局所的に投与される。この薬学的調製物は、投与の直前に液体溶液または懸濁液の形態であってもよいが、また別の形態、例えば、シロップ、クリーム、軟膏、錠剤、カプセル、粉末、ゲル、マトリックス、坐剤などの形態をとってもよい。肺、直腸、経皮、経粘膜、鞘内、心臓周囲、動脈内、脳内、眼内、腹腔内などのような追加の投与方式も意図される。NASPおよび他の薬剤を含むそれぞれの薬学的組成物は、当該分野で公知の任意の医学的に受容可能な方法によって同じまたは異なる投与経路を用いて投与されてもよい。
【0019】
1つの特定の実施形態において、NASPを含む組成物は、例えば、病変、損傷、または手術の結果としての出血の処置のための、NASPの局所送達のために用いられる。この組成物はまた、局所的処置にも適している。例えば、NASPは、出血部位に注射によって投与されてもよいし、または固体、液体、もしくは軟膏の形態で、好ましくは接着テープまたは創傷被覆によって投与されてもよい。坐剤、カプセル剤、特に胃液耐性カプセル剤、ドロップまたはスプレーもまた用いられてもよい。出血部位を標的化するために、特定の調製物および適切な投与方法が選択される。
【0020】
NASPを含む組成物は、例えば、計画的手術の前に、予防的に投与されてもよい。そのような予防的使用は、既知のすでにかかっている血液凝固障害を有する被験体にとってとりわけ価値がある。本発明の別の実施形態において、NASPを含む薬学的組成物は、徐放性処方物の状態であるか、または徐放性デバイスを用いて投与される処方物の状態である。このようなデバイスは、当該分野において周知であり、これには、例えば、経皮パッチ、および非徐放性の薬学的組成物を用いて徐放作用を達成するために種々の用量で連続的な定常様式で経時的な薬物送達をもたらすことができる小型埋め込み可能なポンプが挙げられる。
【0021】
一局面では、NASPは出血性障害、特に凝固因子欠損症に関連する障害を処置することにおいて止血を改善するため、または被験体における抗凝固剤の効果を逆転するために本発明の方法において用いられ得る。NASPは、出血性障害、例としては、先天性凝固障害、後天性の凝固障害、および外傷によって誘発される出血症状を処置するために被験体に投与され得る。NASPで処置され得る出血性障害の例としては、限定するものではないが、血友病A、血友病B、フォン・ヴィレブランド病、特発性血小板減少症、1つ以上の接触因子の欠損症、例えば、第XI因子、第XII因子、プレカリクレイン、および高分子量キニノーゲン(HMWK)の欠損症、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XIII因子、第II因子(低プロトロンビン血症)およびフォン・ヴィレブランド因子などの臨床的に重大な出血に関連する1つ以上の因子の欠損症、ビタミンK欠損症、フィブリノーゲンの障害、例としては、無フィブリノーゲン血症、低フィブリノーゲン血症および異常フィブリノーゲン血症、α−抗プラスミン欠損症、ならびに肝疾患、腎疾患、血小板減少症、血小板機能異常症、血腫、内出血、関節血症、手術、外傷、低体温、月経、および妊娠によって生じるような過度の出血が挙げられる。特定の実施形態では、NASPは、先天性の凝固障害、例としては、血友病A、血友病B、およびフォン・ヴィレブランド病を処置するために用いられる。他の実施形態では、NASPを用いて、後天性の凝固障害、例としては、第VIII因子、フォン・ヴィレブランド因子、第IX因子、第V因子、第XI因子、第XII因子および第XIII因子、特に血液凝固因子に対するインヒビターもしくは自己免疫によって生じる障害、または凝固因子の合成の減少を生じる疾患または病状によって生じる止血障害を処置する。
【0022】
患者の必要性は、処置される特定の出血性障害に依存する。例えば、NASPは、長期間にわたって複数の用量で慢性症状(例えば、先天性または後天性の凝固因子欠損症)を処置するために投与され得る。あるいは、NASPは、比較的短期間、例えば、1〜2週間、単回または複数の用量で急性症状(例えば、手術もしくは外傷によって、または凝固代償療法を受けている被験体での因子インヒビター/自己免疫エピソードによって生じる出血)を処置するために投与され得る。さらに、NASP療法は、他の止血剤、血液因子および医薬と組み合わせて用いられ得る。例えば、被験体は、第XI因子、第XII因子、プレカリクレイン、高分子量キニノーゲン(HMWK)、第V因子、第Va因子、第VII因子、第VIII因子、第VIIIa因子、第IX因子、第X因子、第XIII因子、第II因子、第VIIa因子、およびフォン・ヴィレブランド因子からなる群より選択される1つ以上の因子の治療上有効な量を投与され得る。処置はさらに、凝血促進剤、例えば、内因性の凝固経路の活性化因子、例としては、第Xa因子、第IXa因子、第XIa因子、第XIIa因子およびカリクレイン;または外因性の凝固経路の活性化因子、例としては、組織因子、第VIIa因子、トロンビンおよび第Xa因子を投与する工程を包含し得る。さらに、血液製剤の輸血は、過剰な出血をしている被験体における血液損失を補充する(replace)ために必要な場合があり、そして損傷の場合には、外科的修復が出血を停止するために適切である場合がある。出血性障害次第では、プレカリクレイン、高分子量キニノーゲン(HMWK)および/または第XII因子を投与することが適切でない場合もある。代表的には、NASPが凝固因子と組み合わせて投与される場合、投与の用量および/または頻度はその凝固因子がNASPなしに投与される場合に適切である用量および/または頻度に比較して減少される。適切には、凝固因子の用量は、凝固因子がNASPなしで投与される場合に用いられる場合に用いられる適切な用量の少なくとも1%、および最大5、10、25、50、75%または100%である。
【0023】
本発明の第一の局面によれば、被験体に投与される組成物は非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を含む。「NASP」とは本明細書において用いる場合、未分画ヘパリン(MWの範囲が8,000〜30,000;平均18,000ダルトン)のモル抗凝固活性(凝固時間の統計的に有意な増大)、1/3以下、好ましくは1/10未満である、希釈プロトロンビン時間(dPT)または活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)凝固アッセイで抗凝固活性を呈する硫酸化多糖類を指す。NASPは天然の供給源(例えば、褐藻類、樹皮、動物組織)から精製および/もしくは改変されてもよいし、または新規に合成されてもよく、100ダルトン〜1,000,000ダルトンの分子量の範囲であってもよい。NASPは、出血性障害、特に、凝固因子欠損症に関連する障害を処置することにおける止血の改善のため、または抗凝固剤の効果を逆転するために本発明の方法において用いられ得る。NASPは、それらが研究される濃度範囲にわたって凝固時間を有意に増大しないという点で「非抗凝固剤」である。このような化合物は、本発明の方法において用いられてもよいが、ただし、それらが示し得る任意の抗凝固活性が、それらが凝固促進活性を示す濃度を有意に超える濃度でのみ現れるという条件である。所望される凝固促進活性が生じる濃度に対する望ましくない抗凝固特性が生じる濃度の比は、該当のNASPについての治療指数と呼ばれる。本発明のNASPの治療指数は5、10、30、100、300、1000以上であってもよい。
【0024】
ある分類では、硫酸化多糖類は、動物およびヒトでしばしば有益な耐容性プロフィールを有する生物学的活性の過剰によって特徴付けられる。これらのポリアニオン系分子は、植物および動物の組織由来である場合が多く、広範なサブクラスを包含し、これには、ヘパリン、グリコサミノグリカン、フコイダン、カラギナン、ポリ硫酸ペントサンおよびデルマタン硫酸または硫酸デキストランが挙げられる(Toidaら、(2003)Trends in Glycoscience and Glycotechnology 15:29〜46)。より低分子量で、低異質性でかつ化学的に合成された硫酸化多糖類が報告されており、薬物開発の種々の段階に到達している(Sinay(1999)Nature 398:377〜378;Orgueiraら、(2003)Chemistry 9:140〜169;Williamsら、(1998)Gen.Pharmacol.30:337〜341)。
【0025】
潜在的なNASP活性を有する硫酸化多糖類としては限定するものではないが、グリコサミノグリカン類(GAG)、ヘパリン様分子、例としては、N−アセチルヘパリン(Sigma−Aldrich,St.Louis,Mo.)およびN−脱硫酸化ヘパリン(Sigma−Aldrich)、スルファトイド、ポリ硫酸化オリゴ糖(Karstら、(2003)Curr.Med.Chem.10:1993〜2031;Kuszmannら、(2004)Pharmazie.59:344〜348)、コンドロイチン硫酸(Sigma−Aldrich)、デルマタン硫酸(Celsus Laboratories Cincinnati,Ohio)、フコイダン(Sigma−Aldrich)、ポリ硫酸ペントサン(PPS)(Ortho−McNeil Pharmaceuticals,Raritan,N.J.)、フコピラノン硫酸(Katzmanら、(1973)J.Biol.Chem.248:50〜55)、および新規なスルファトイド、例えば、GM1474(Williamsら、(1998)General Pharmacology 30:337)およびSR 80258A(Burgら、(1997)Laboratory Investigation 76:505)、および新規なヘパリノイド、ならびにそれらのアナログが挙げられる。NASPは、天然の供給源(例えば、褐藻類、樹皮、動物組織)から精製および/または改変されてもよいし、または新規に合成されてもよいし、100ダルトン〜1,000,000ダルトンの分子量の範囲であってもよい。潜在的なNASP活性を有する追加の化合物としては、過ヨウ素酸−酸化型ヘパリン(POH)(Neoparin,Inc.,San Leandro,Calif.)、化学的に硫酸化されたラミナリン(CSL)(Sigma−Aldrich)、化学的に硫酸化されたアルギン酸(CSAA)(Sigma−Aldrich)、化学的に硫酸化されたペクチン(CSP)(Sigma−Aldrich)、硫酸デキストラン(DXS)(Sigma−Aldrich)、ヘパリン由来のオリゴ糖(HDO)(Neoparin,Inc.,San Leandro,Calif.)が挙げられる。
【0026】
原理的には、複合糖質の単糖成分における任意の遊離のヒドロキシル基は、硫酸化によって改変されて、本発明の実施におけるNASPとしての潜在的使用のための硫酸化複合糖質を生じ得る。例えば、このような硫酸化複合糖質類としては、限定するものではないが、硫酸化ムコ多糖類(D−グルコサミンおよびD−グルクロン酸残基)、カードラン(カルボキシメチルエーテル、硫酸水素塩、カルボキシメチル化カードラン)(Sigma−Aldrich)、硫酸化シゾフィラン(Itohら、(1990)Int.J.Immunopharmacol.12:225〜223;Hirataら、(1994)Pharm.Bull.17:739〜741)、硫酸化グリコサミノグリカン類、硫酸化多糖類−ペプチドグリカン複合体、硫酸化アルキルマルト−オリゴ糖(Katsurayaら、(1994)Carbohydr Res.260:51〜61)、アミロペクチン硫酸、N−アセチル−ヘパリン(NAH)(Sigma−Aldrich)、N−アセチル−脱O−硫酸化−ヘパリン(NA−de−o−SH)(Sigma−Aldrich)、脱N−硫酸化−ヘパリン(De−NSH)(Sigma−AIdrich)、および脱N−硫酸化−アセチル化−ヘパリン(De−NSAH)(Sigma−Aldrich)を挙げることができる。
【0027】
「多糖類」という用語は本明細書において用いる場合、複数(すなわち2つ以上)の共有結合された糖類残基を含むポリマーを指す。連結は、天然であってもまたは天然でなくてもよい。天然の連結としては、例えば、グリコシド結合が挙げられるが、一方、天然でない連結としては、例えば、エステル、アミドまたはオキシム連結部分が挙げられる。多糖類は任意の広範な範囲の平均分子量(MW)値を有してもよいが、一般には少なくとも約100ダルトンの分子量である。例えば、多糖類は少なくとも約500、1000、2000、4000、6000、8000、10,000、20,000、30,000、50,000、100,000、500,000ダルトンまたはそれ以上という分子量を有してもよい。多糖類は直鎖構造を有してもまたは分枝鎖構造を有してもよい。多糖類は、より大きい多糖類の分解(例えば、加水分解)によって生成される多糖類のフラグメントを含んでもよい。分解は、分解された多糖類を生じるための酸、塩基、熱または酵素での多糖類の処理を含む、当業者に公知の任意の種々の手段によって達成され得る。多糖類は、化学的に変更されてもよく、限定するものではないが硫酸化、ポリ硫酸化、エステル化およびメチル化を含む改変を有してもよい。
【0028】
NASPは多糖類の誘導体またはフラグメントであってもよい。
【0029】
「誘導体」とは、参照分子の所望の生物活性(例えば、凝固活性)が保持される限り、目的の参照分子またはそのアナログの任意の適切な改変、例えば、硫酸化、アセチル化、グリコシル化、リン酸化、ポリマー結合(例えば、ポリエチレングリコールとの)、または他の外来部分の付加を意図する。例えば、多糖類は、1つ以上の有機または無機の基で誘導体化され得る。例としては、別の部分(例えば、硫酸基、カルボキシル基、リン酸基、アミノ基、ニトリル基、ハロ基、シリル基、アミド基、アシル基、脂肪族基、芳香族基または糖基)で少なくとも1つのヒドロキシル基中で置換されたか、または環酸素がイオウ、窒素、メチレン基などによって置換されている多糖類が挙げられる。多糖類は、例えば、凝固促進機能を改善するために化学的に改変されてもよい。そのような改変としては、限定するものではないが、硫酸化、ポリ硫酸化、エステル化、およびメチル化が挙げられる。アナログおよび誘導体を作製するための方法は、当該分野において一般に利用可能である。
【0030】
「フラグメント」とは、インタクトな全長配列および構造の一部のみからなる分子を意図する。多糖類のフラグメントは、より大きな多糖類の分解(例えば、加水分解)によって生成され得る。多糖類の活性フラグメントは、該当のフラグメントが凝固活性のような生物活性を保持するという条件であれば、一般に、全長多糖類の少なくとも約2〜20個の糖単位、好ましくは全長分子の少なくとも約5〜10個の糖単位、または2個の糖単位と全長分子との間の任意の整数個の糖単位を含む。
【0031】
好ましくは、NASPは接触経路の活性化因子ではない。これにより、本発明者らは、NASPが第XII因子の活性化因子に起因しないことを意味する。好ましくは、NASPはHMWKもプレカリクレインも活性化しない。
【0032】
好ましくは、このNASPはポリ硫酸ペントサン(PPS)、フコイダン、N−アセチル−ヘパリン(NAH)、N−アセチル−脱O−硫酸化−ヘパリン(NA−de−o−SH)、脱N−硫酸化−ヘパリン(De−NSH)、脱N−硫酸化−アセチル化−ヘパリン(De−NSAH),過ヨウ素酸−酸化型ヘパリン(POH)、化学的に硫酸化されたラミナリン(CSL)、化学的に硫酸化されたアルギン酸(CSAA)、化学的に硫酸化されたペクチン(CSP)、硫酸デキストラン(DXS)およびヘパリン由来のオリゴ糖(HDO)からなる群より選択される。
【0033】
より好ましくは、NASPはPPSまたはフコイダンである。フコイダンは種々の程度の分岐を有する、大部分フコースの硫酸化エステルからなる多糖類である。連結は主にα(1→2)またはα(1→3)であってもよい。α(1→4)連結も存在してもよい。このフコースエステルは主に位置4および/または2および/または3で硫酸化されている。一硫酸化フコースが優勢であるが、脱硫酸化フコースもまた存在し得る。硫酸化フコースエステルに加えて、フコイダンはまた、非硫酸化フコース、D−キシロース、D−ガラクトース、ウロン酸、グルクロン酸またはこれらの2つ以上の組み合わせを含んでもよい。F−フコイダンは95%を超えてフコースの硫酸化エステルから構成されるが、U−フコイダンは約20%のグルクロン酸である。
【0034】
好ましくは、NASPは第XI因子の活性化を増強する。この実施態様では、本発明の第一の局面は、血液凝固の増強が必要な被験体で第XI因子の活性化を増強する方法を提供する。「第XI因子の活性化の増強」とは、第XI因子がNASPの有効濃度の非存在下よりも存在下でさらに迅速に活性化されるか、および/またはより大きい程度まで活性化されることを意味する。理論で拘束されることは望まないが、NASPは第XI因子を直接的、間接的、または直接および間接的方法の組み合わせによって活性化し得る。全血調製物を用いる回転トロンボエラストグラフィー、および血漿調製物を用いる較正自動化トロンボグラフィーなどの方法、または血液凝固の増強およびこのような増強の第XI因子依存性を決定するために有用な上記のような他の方法は、第XI因子の活性化を特定するために有用であり得る。代表的には、血液凝固の第XI因子依存性の増強は、上記のようにNASPについて確立されている。次いで、活性化適格性第XI因子の欠損した血液または血漿に活性化第XI因子を補充する。NASPを欠いている補充された血液または血漿(それでも血液凝固の第XI依存性の増強を示す)と比較して、NASPが、補充された血液または血漿中で血液凝固を増強できない場合、NASPは第XI因子の活性化を増強することによって作用することが推測され得る。第XI因子は、約20〜200pM、適切には60pMという濃度で用いられ得る。
【0035】
好ましくは第一の局面の方法によれば、NASPは、約0.005mg/kg〜約200mg/kg、代表的には約0.01mg/kg〜約200mg/kgの投薬量で投与される。一般には、治療上有効な量は毎日約0.01mg/kg〜約200mg/kgのNASP、さらに好ましくは毎日約0.01mg/kg〜20mg/kg、それより好ましくは、毎日約0.02mg/kg〜2mg/kgの範囲におよぶ。好ましくは、このような用量は、0.01〜50mg/kgを1日4回(QID)、0.01〜10mg/kgのQID、0.01〜2mg/kgのQID、0.01〜0.2mg/kgのQID、0.01〜50mg/kgを1日3回(TID)、0.01〜10mg/kgのTID、0.01〜2mg/kgのTID、0.01〜0.2mg/kgのTID、0.01〜100mg/kgを1日2回(BID)、0.01〜10mg/kgのBID、0.01〜2mg/kgのBID、または0.01〜0.2mg/kgのBIDという範囲である。投与される化合物の量は、特定のNASPの効力ならびに所望のその大きさまたは凝血促進作用および投与経路に依存する。特定の投薬スケジュールは、当業者に公知であるか、または慣用的な方法を用いて実験的に決定され得る。適切な1日用量または1日2回の用量は静脈内投与により0.005mg/kg〜0.5mg/kg、皮下投与により0.02〜2mg/kg、または経口投与によって1〜100mg/kgである。例示的な投薬スケジュールとしては限定するものではないが、1日5回、1日4回、1日3回、1日2回、1日1回、週に3回、週に2回、週に1回、月に2回、月に1回およびそれらの任意の組み合わせが挙げられる。好ましい組成物は、1日に1回以下の投薬を要する組成物である。
【0036】
適切には被験体は、血液因子欠損症によって生じる先天性凝固障害、慢性または急性の出血性障害、および後天性の凝固障害からなる群より選択される出血性障害を有する。代表的には、血液因子欠損症とは、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子、第XIII因子およびフォン・ヴィレブランド因子からなる群より選択される1つ以上の因子の欠損症である。
【0037】
あるいは、血液凝固の増強の必要な原因は、抗凝固剤または手術または他の侵襲性の手順の以前の実施である。抗凝固剤の投与が以前にあった場合、その方法はその被験体における抗凝固剤の効果を逆転するためである。
【0038】
本発明の第一の局面の方法はさらに、プロコアギュラント、内因性の凝固経路の活性化因子、外因性の凝固経路の活性化因子、および第二のNASPからなる群より選択される薬剤を投与する工程を包含し得る。NASP(ここでも、好ましくは薬学的調製物の一部として提供される)は、単独で、あるいは他のNASPまたは治療剤、例えば、止血剤、血液因子、または臨床家の判定、患者の必要性などに依存して種々の投与計画によって特定の病状または疾患を処置するために用いられる他の医薬と組み合わせて投与されてもよい。
【0039】
NASPは他の薬剤の前に、他の薬剤と組み合わせて、または他の薬剤に引き続いて投与されてもよい。他の薬剤と同時に投与される場合、NASPは同じ組成物中で提供されても、または異なる組成物中で提供されてもよい。従って、NASPおよび他の薬剤は、併用療法によって個体に与えられてもよい。「併用療法」とは、物質の組み合わせによる治療効果が治療を受けている被験体に生じるような、被験体への投与を意図する。例えば、併用療法は、組み合わされて治療有効用量を含む、NASPを含むある用量の薬学的組成物と、止血剤または凝固因子(例えば、FVIIIまたはFIX)のような少なくとも1つの他の薬剤を含むある用量の薬学的組成物とを、特定の投薬レジメンに従って投与することによって達成され得る。同様に、1つ以上のNASPおよび治療剤は、少なくとも1つの治療用量で投与され得る。別々の薬学的組成物の投与は、治療を受けている被験体においてこれらの物質の組み合わせの治療効果が生じる限り、同時にまたは別々の時間(すなわち、連続的に、いずれかの順序で、同日に、または他日に)行われてもよい。
【0040】
「プロコアギュラント」とは本明細書において用いる場合、クロット形成を開始するかまたは促進し得る任意の因子または試薬を指す。プロコアギュラントとしては、内因性または外因性の凝固経路の任意の活性化因子、例えば、第Xa因子、第IXa因子、第XIa因子、第XIIa因子、カリクレイン、組織因子、第VIIa因子、およびトロンビンからなる群より選択される凝固因子が挙げられる。凝固を促進する他の試薬としては、プレカリクレイン、APTTイニシエーター(すなわち、リン脂質および接触活性化因子を含む試薬)、ラッセルクサリヘビ蛇毒(RVV時間)、およびトロンボプラスチン(dPTについて)が挙げられる。プロコアギュラント試薬として本発明の方法において用いられ得る接触活性化因子としては、当業者に公知の微粉化シリカ粒子、エラグ酸、スルファチド、カオリンなどが挙げられる。プロコアギュラントは、粗性の天然の抽出物由来であっても、血液または血漿サンプル由来であっても、単離され実質的に精製されても、合成であってもまたは組み換えであってもよい。プロコアギュラントとしては、生物学的活性を保持する(すなわち、凝固を促進する)天然に存在する凝固因子、そのフラグメント、改変体、アナログ、またはムテインを挙げることができる。プロコアギュラントの最適濃度は、当業者によって決定され得る。出血性障害に依存し、接触活性化因子、例えば、プレカリクレイン、カリクレイン、高分子量キニノーゲン(HMWK)および/またはFXIIを投与することが適切でない場合がある。
【0041】
「改変体(variant)」、「アナログ」および「ムテイン」という用語は、本明細書に記載される出血性障害の処置における、所望の活性、例えば凝固活性を保持する参照分子の生物学的に活性な誘導体を指す。一般には、「改変体」および「アナログ」という用語は、ポリペプチド(例えば、凝固因子)に関して、修飾が生物学的な活性を破壊せず、下に記載されるような参照分子に対して「実質的に相同」である限り、天然の分子に対して1つ以上のアミノ酸の付加、置換(一般には事実上保存的)および/または欠失を有する天然のポリペプチドの配列および構造を有する化合物を指す。一般には、このようなアナログのアミノ酸配列は、2つの配列を整列させた場合、参照配列に対して高い程度の配列相同性、例えば、50%を超える、一般には60%〜70%を超える、それよりさらに特に80%〜85%以上、例えば少なくとも90%〜95%以上というアミノ酸配列相同性を有する。しばしば、アナログは、同じ数のアミノ酸を含むが、本明細書で説明されるように置換を含む。「ムテイン」という用語はさらに、限定するものではないが唯一のアミノおよび/またはイミノ分子を含む化合物を含む1つ以上のアミノ酸様分子を有するポリペプチド、アミノ酸(例えば、天然でないアミノ酸などを含む)の1つ以上のアナログを含むポリペプチド、置換された連結、ならびに当該分野で公知の他の修飾、天然に存在するおよび天然に存在しない(例えば、合成)の両方、環化、分岐した分子などを有するポリペプチドを包含する。この用語はまた、1つ以上のN置換グリシン残基(「ペプトイド」)および他の合成のアミノ酸またはペプチドを含む分子を包含する。(例えば、米国特許第5,831,005号;同第5,877,278号;および同第5,977,301号;Nguyenら、Chem Biol.(2000)7:463〜473;ならびにペプトイドの説明についてはSimonら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1992)89:9367〜9371を参照のこと)。好ましくは、このアナログまたはムテインは、天然の分子と少なくとも同じ凝固活性を有する。ポリペプチドアナログおよびムテインを作製する方法は当該分野で公知であって、下にさらに記載される。
【0042】
上記で説明されるとおり、アナログは一般には、天然に保存されている置換、すなわち、側鎖に関連するアミノ酸のファミリー内で生じる置換を包含する。詳細にはアミノ酸は一般には、以下の4つのファミリーに分類される:(1)酸性−アスパラギン酸塩およびグルタミン酸塩;(2)塩基性−リジン、アルギニン、ヒスチジン;(3)非極性−アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;および(4)非荷電極性−グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオニン、チロシン。フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンは時に、芳香族アミノ酸として分類される。例えば、イソロイシンまたはバリンでのロイシンの、グルタミン酸塩でのアスパラギン酸塩の、セリンでのトレオニンの孤立置換、または構造的に関連するアミノ酸でのアミノ酸の類似の保存的置換は生物学的活性に大きな影響を有さないということが合理的に予測できる。例えば、目的のポリペプチドは、その分子の所望の機能が無傷で維持されている限り、最大約5〜10個の保存的もしくは非保存的アミノ酸置換、またはさらに最大約15〜25個の保存的または非保存的アミノ酸置換または5〜25個の間の任意の整数個の置換を含んでもよい。当業者は、当該分野で周知のホップ/ウッドおよびカイト−ドリトルプロットを参照して、変化を耐容し得る目的の分子の領域を容易に決定できる。
【0043】
「フラグメント」とは、インタクトな全長の配列および構造の一部のみからなる分子を意図する。ポリペプチドのフラグメントは、天然のポリペプチドのC末端欠失、N末端欠失および/または内部欠失を包含し得る。特定のタンパク質の活性フラグメントは、該当のフラグメントが本明細書に定義されるような凝固活性のような生物活性を保持するという条件であれば、一般に、全長分子の少なくとも約5〜10個の連続アミノ酸残基、好ましくは全長分子の少なくとも約15〜25個の連続アミノ酸残基、および最も好ましくは全長分子の少なくとも約20〜50個以上の連続アミノ酸残、または5個のアミノ酸と全長配列との間の任意の整数個のアミノ酸残基を含む。
【0044】
「相同性」とは、2つのポリヌクレオチド部分または2つのポリペプチド部分の間の同一性パーセントを指す。2つの核酸配列または2つのポリペプチド配列は、その配列が分子の既定の長さにわたって、少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約75%、さらに好ましくは少なくとも約80%〜85%、好ましくは少なくとも約90%、そして最も好ましくは少なくとも約95%〜98%の配列同一性を呈する場合にお互いに対して「実質的に相同」である。本明細書において用いる場合、実質的に相同なとはまた、特定の配列に対して完全な同一性を示す配列を指す。
【0045】
一般には「同一性」とは、それぞれ2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列の正確なヌクレオチド対ヌクレオチドまたはアミノ酸対アミノ酸の対応を指す。同一性パーセントは、配列を整列することによる、2つの分子(参照配列および参照配列に対して未知の同一性%を有する配列)の間の配列情報の直接比較、2つの整列された配列の間のマッチの正確な数をカウントすること、参照配列の長さによって割ること、およびその結果に100を掛けることによって決定され得る。ペプチド分析についてSmithおよびWatermanのAdvances in Appl.Math.2:482〜489,1981の局所相同性アルゴリズムを応用したDayhoff,M.O.のAtlas of Protein Sequence and Structure M.O.Dayhoff編、5 Suppl.3:353〜358,National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C.,のALIGNなどの容易に利用可能なコンピュータープログラムを、分析における補助に用いることができる。ヌクレオチド配列同一性を決定するためのプログラムは、Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8(Genetics Computer Group,Madison,Wis.から入手可能)において、例えば、BESTFIT,FASTAおよびGAPプログラム(これもSmithおよびWatermanのアルゴリズムに依拠する)が入手可能である。これらのプログラムは製造業者によって推奨されるデフォールトパラメーターを用いて容易に利用され、上記で言及されるWisconsin Sequence Analysis Packageに記載されている。例えば、参照配列に対する特定のヌクレオチド配列の同一性パーセントは、デフォールトスコアリングテーブルおよび6ヌクレオチド位置のギャップペナルティを用いるSmithおよびWatermanの相同性アルゴリズムを用いて決定され得る。
【0046】
本発明の状況で同一性パーセントを確立する別の方法は、University of Edinburghが版権を有し、John F.CollinsおよびShane S.Sturrokによって開発され、IntelliGenetics,Inc.(Mountain View,Calif.)が販売するMPSRCHパッケージのプログラムを用いることである。このひと組のパッケージからSmith−Watermanアルゴリズムを使用してもよく、ここではスコアリングテーブルに対してデフォールトパラメーターを用いる(例えば、12というギャップオープンペナルティ、1というギャップ伸長ペナルティ、および6というギャップ)。このデータから作成された「マッチ」値は「配列同一性」を反映する。配列の間の同一性%または類似性%を算出するための他の適切なプログラムは一般に当該分野で公知であり、例えば、別のアラインメントプログラムはデフォールトパラメーターと用いられるBLASTである。例えば、BLASTNおよびBLASTPは、以下のデフォールトパラメーターを用いて用いられ得る:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;鎖=両方;カットオフ=60;期待値=10;Matrix=BLOSUM62;ディスクリプション=50配列;ソート=HIGH SCOREによる;データベース=非重複、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+Swissタンパク質+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は容易に入手できる。
【0047】
核酸分子を記載するために本明細書で用いられる場合「組み換え体」とは、ゲノム、cDNA、ウイルス、半合成または合成起源のポリヌクレオチドであって、その起源または操作に基づき、それが天然に関連するポリヌクレオチドの全てまたは一部に関連していないポリヌクレオチドを意味する。「組み換え体」という用語は、タンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、組み換えポリヌクレオチドの発現によって産生されるポリペプチドを意味する。一般には目的の遺伝子は、クローニングされ、次いで形質転換された生物体で発現される。宿主生物体は、発現条件下で外来遺伝子を発現してそのタンパク質を生じる。
【0048】
好ましくは、内因性の凝固経路の活性化因子は、第Xa因子、第IXa因子または第XIa因子である。特定の状況では、これはまた第XIIa因子であってもまたはカリクレインであってもよい。好ましくは、外因性の凝固経路の活性化因子は組織因子、第VIIa因子、トロンビン、および第Xa因子である。
【0049】
本発明の第一の局面の方法はさらに、第XI因子、第XII因子、プレカリクレイン、高分子量キニノーゲン(HMWK)、第V因子、第Va因子、第VII因子、第VIII因子、第VIIIa因子、第IX因子、第X因子、第XIII因子、第II因子、第VIIa因子、およびフォン・ヴィレブランド因子からなる群より選択される1つ以上の因子を投与する工程を包含し得る。
【0050】
第XI因子は新鮮凍結血漿(FFP)として提供されても、または第XI因子濃縮物として提供されてもよい。適切な第XI因子濃縮物は、Hemoleven(登録商標)(Laboratoire france du Fractionnement et des Biotechnologies,Les Ulis,France)および第XI因子濃縮物(Bio Products Laboratory,Elstree,Hertfordshire,United Kingdom)である。組み換えの第XI因子も想定される。FXII、プレカリクレイン、HMWKまたは第V因子は、新鮮凍結血漿(FFP)として提供されてもよい。第VII因子は、濃縮物として提供されてもよく、適切には第VII因子濃縮物はBaxter BioScienceまたはBio Products Laboratoryから供給され得る。FVIII Immunate(登録商標)およびAdvate(登録商標)FVIIIは両方ともBaxter BioScience(Vienna,Austria)から入手可能な組み換えFVIII製品である。Bebulin VH(登録商標)第IX因子複合体は、Baxter BioScience(Vienna,Austria)から入手可能である。第X因子は新鮮凍結血漿として提供されてもまたはプロトロンビン複合体濃縮物中の成分として提供されてもよい。第XIII因子は新鮮凍結血漿として提供されても、またはFXIII濃縮物、例えば、Fibrogammin(登録商標)P(Centeon Pharma GmbH,Marburg,Germany)として提供されてもよい。第II因子は新鮮凍結血漿として提供されても、またはプロトロンビン複合体濃縮物中の成分として提供されてもよい。NovoSeven(登録商標)組み換え体活性化FVIIはNovo Nordisk A/S(Denmark)から入手可能である。フォン・ヴィレブランド因子(vWF)は、Humate−P(登録商標)(CSL BEHRING,King of Prussia,PA)として入手可能である。組み換えvWFはSchlokatら、(1995),「Large Scale Production of Recombinant von Willebrand Factor」、Thrombosis and Haemostasis 78,1160または米国特許第6 114 146号(Baxter AG)にあるように得ることができる。Baxter BioScience(Vienna,Austria)のFEIBA VH Immunoは、第VIII因子インヒビターバイパス活性を有する凍結乾燥滅菌ヒト血漿画分である。インビトロでは、FEIBA VH Immunoは第VIII因子インヒビターを含む血漿の活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)を短くする。これは第II因子、第IX因子および第X因子を主に非活性型で、そして第VII因子を主に活性型で含む。この製品は、ほぼ等しい単位の第VIII因子インヒビターバイパス活性およびプロトロンビン複合体因子を含む。プロトロンビン複合体濃縮物(PCC)が、例えば、第X因子のレベルを増大するために用いられ得る。PCCは第II因子、第VII因子、第IX因子および第X因子およびタンパク質Cを含む。新鮮凍結血漿の注入を用いて、被験体に欠けている凝固因子を提供してもよい。
【0051】
上記のとおり、凝固因子がNASPとともに投与される場合、凝固因子の用量はNASPの非存在下で適切な用量に比較して少なくすることができる。代表的には、rFVIIIは、血友病A患者では約10〜60U/kgで投与される。rFVIIIがNASPと組み合わせて投与される場合、少なくとも0.1または0.6U/kgの用量、および最大1、2、5、7.5、10、12、30、45または60U/kgの用量、例えば、0.1〜0.6、1〜6、2〜12、5〜30、7.5〜45、または10〜60U/kgという用量が適切である場合がある。代表的にはFEIBAは、血友病Aインヒビター患者では約50〜100U/kgで投与される。FEIBAがNASPと組み合されて投与される場合、少なくとも0.5または1U/kgの用量、および最大で2.5、5、10、12.5、25、37.5、50、75または100U/kgの用量、例えば、0.5〜1、2.5〜5、5〜10、12.5〜25、25〜50、37.5〜75または50〜100U/kgの用量が適切である場合がある。同様に、rFVIIaは代表的には、血友病Aインヒビター患者では約90μg/kgで投与される。rFVIIaがNASPと組み合わせて投与される場合、少なくとも0.9μg/kgの用量および最大で4.5、9、22.5、45、67.5または90μg/kgの用量が適切であり得る。血友病Cの処置などの、第XI因子代償療法における第XI因子の代表的な用量は、30U/kg以下であり、通常は第XI因子濃縮物の形態で提供される。第XI因子がNASPと組み合わせて投与される場合、最大0.3、1.5、3、7.5、15、22.5または30U/kgという用量が適切である場合がある。
【0052】
好ましくは、この方法が被験体での抗凝固剤の効果を逆転するためである場合、この被験体は限定するものではないが、ヘパリン、クマリン誘導体、例えば、ワルファリンまたはジクマロール、TFPI、ATIII、ループス性抗凝固因子、線虫の抗凝固剤ペプチド(NAPc2)、第VIIa因子インヒビター、活性部位ブロック第VIIa因子(第VIIai因子)、活性部位ブロックFIXa(第IXai因子)、第IXa因子インヒビター、第Xa因子インヒビター、例としては、フォンダパリナックス,イドラパリナックス、DX−9065a、およびラザキサバン(DPC906)、活性部位ブロックFXa(第Xai因子)、第Va因子または第VIIIa因子のインヒビター、例としては、活性化プロテインC(APC)および可溶性トロンボモジュリン、トロンビンインヒビター、例としては、ヒルジン、ビバリルジン、アルガトロバン、またはキシメラガトランで処置されている。特定の実施形態では、被験体中の抗凝固剤は、限定するものではないが、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XIII因子、第II因子、第XI因子、第XII因子、フォン・ヴィレブランド因子、プレカリクレイン、または高分子量キニノーゲン(HMWK)に結合する抗体または抗体フラグメントを含む、凝固因子に結合する抗体または抗体フラグメントであってもよい。抗体または抗体フラグメントの代替として、抗凝固剤は、凝固タンパク質に結合し、それによってその活性化または別の凝固タンパク質もしくは細胞表面とのその相互作用を阻害する薬物様低分子、ペプチドまたはアプタマーであってもよい。
【0053】
適切には、本発明の第一の局面の方法では、この被験体は、第XI因子を欠損しており、かつこの方法はさらに第XI因子を投与する工程を包含する。「第XI因子の欠損」とは、その被験体と同じ種の健常脊椎動物の血漿第XI因子:cの70%以下である被験体を意図する。被験体がヒトである場合、それらは、20〜70IU/dLという血漿の第XI因子:c活性として規定される部分的欠損を有する場合もあるし、または20IU/dL未満という血漿の第XI因子:c活性として規定される重度の欠損を有する場合もある。ヒトでの第XI因子欠損は、血友病Cと呼ばれる。部分的欠損を有する個体の約20〜50%が過剰な出血を有するが、このような人を前もって特定することは困難である。重度の欠損を有するほとんどの個体は自然に出血することはないが、彼らは手術の後に出血のリスクがある。血友病Cの従来の治療とは、新鮮凍結血漿、第XI因子濃縮物、または抗線維素溶解性の薬剤、例としては、トラネキサム酸およびε−アミノカプロン酸の投与である。組み換え由来の第XI因子も想定される。本発明によるNASPの凝固増強効果は第XI因子に依存するが、第XI因子欠損のある被験体に存在する少量の第XI因子はNASPの投与が有効であるには十分であり得ると考えられる。しかし、NASPおよび第XI因子の投与により第XI因子欠損被験体での血液凝固の増強におけるNASPの有効性が増大する。
【0054】
適切には、本発明の第一の局面の方法において、被験体は第VIII因子が欠損しており、この方法はさらに、第VIII因子またはプロコアギュラントバイパス剤を投与する工程を包含する。適切な第VIII因子製品は、FVIII Immunate(登録商標)およびAdvate(登録商標)FVIII(Baxter BioScience,Vienna,Austria)である。適切なバイパス剤はFEIBA VH Immuno(Baxter BioScience,Vienna,Austria)である。本発明者らは、NASPの凝固増強効果がFVIII欠損血漿における外因性のFVIIIの効果と相加的であることを見出した。従って、NASPは血友病Aの処置または予防における補助療法として用いられ得る。本発明のこの実施態様では、この患者は、第VIII因子に対するインヒビター抗体を有し得る。代表的には、インヒビター患者はFEIBAなどのバイパス剤で処置される。このようなインヒビター患者は5BUより大きい高力価の応答または0.5〜5BUの間の低力価の応答のいずれかを有し得る。臨床目的では、抗体応答の大きさは、ベセスダ(Bethesda)単位(BU)インヒビター力価を得ることができる機能的なインヒビターアッセイの能力を通じて定量され得る。高力価応答に関する国際血栓止血学会(The International Society of Thrombosis and Haemostasis)(ISTH)の定義は5BU超であり、低力価応答のその定義は0.5〜5BUである。FVIIIに対する抗体の大きさは、Kasper CKら(1975)Proceedings:A more uniform measurement of factor VIII inhibitors.Thromb.Diath.Haemorrh.34(2):612に記載されるアッセイなどの、機能的インヒビターアッセイを用いて定量され得る。
【0055】
適切には、本発明の第一の局面の方法において、被験体は第IX因子の欠損があり、この方法はさらに第IX因子を投与する工程を包含する。適切な第IX因子はBebulin VH(登録商標)第IX因子複合体(Baxter BioScience,Vienna,Austria)である。本発明のこの実施態様では、この患者は第IX因子に対するインヒビター抗体を有し得る。FIXインヒビターは、Kasper(前出)に記載のようなaPTTアッセイによって定量できる。適切には、第IX因子および/またはFEIBAもまた、第IX因子欠損被験体に投与される。
【0056】
好ましくは、本発明の第一の局面の方法によれば、NASPは非静脈内経路を介して投与される。
【0057】
本発明の第一の局面の方法における使用のためのNASP組成物は、薬学的組成物を提供するために1つ以上の薬学的に受容可能な賦形剤をさらに含んでもよい。適切な賦形剤は「Remington:The Science & Practice of Pharmacy」、第19版.,Williams & Williams,(1995),「Physician’s Desk Reference」、第52版,Medical Economics,Montvale,N.J.(1998),およびKibbe,A.H.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,第3版,American Pharmaceutical Association,Washington,D.C,2000に記載されている。例示的な賦形剤としては限定するものではないが、炭水化物、無機塩、抗菌剤、抗酸化剤、サーファクタント、緩衝剤、酸、塩基およびそれらの組み合わせが挙げられる。注射用組成物に適切な賦形剤としては、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油、リン脂質およびサーファクタントが挙げられる。炭水化物、例えば、糖、誘導体化された糖、例えば、アルジオール、アルドン酸、エステルされた糖、および/または糖ポリマーが賦形剤として存在し得る。特定の炭水化物賦形剤としては、例えば以下が挙げられる:単糖類、例えば、フルクトース、マルトース、ガラクトース、グルコース、D−マンノース、ソルボースなど;二糖類、例えば、ラクトース、スクロース、トレハロース、セロビオースなど;多糖類、例えば、ラフィノース、メレジトース、マルトデキストリン、デキストラン、スターチなど;およびアルジトール、例えば、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、キシリトール、ソルビトール(グルシトール)、ピラノシルソルビトール、ミオイノシトールなど。この賦形剤はまた、無機塩または緩衝剤、例えば、クエン酸、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、およびそれらの組み合わせを含んでもよい。
【0058】
組成物中のNASPの量(例えば、薬物送達システム中に含まれる場合)は多数の要因に依存して変化するが、その組成物が単位剤形または容器(例えば、バイアル)中にある場合、治療上有効な用量であることが最適である。治療上有効な用量は、いずれの量が臨床的に所望のエンドポイントを生じるか決定するために、漸増量の組成物の反復投与によって経験的に決定され得る。
【0059】
本明細書のNASP組成物は最適には、ある状態または疾患について被験体を処置するために用いられる1つ以上の追加の薬剤、例えば、止血剤、血液因子、または他の医薬を含んでもよい。特に好ましいのは、第XI因子、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XIII因子、第II因子、第VIIa因子、およびフォン・ヴィレブランド因子などの1つ以上の血液因子を含む、配合された調製物である。調製物としてはまた、プレカリクレイン、高分子量キニノーゲン(HMWK)および/または第XII因子を挙げることができる。NASP組成物はまた、他のプロコアギュラント、例えば、第Xa因子、第IXa因子、第XIa因子、第XIIa因子、およびカリクレインを含むが、これには限定されない内因性の凝固経路の活性化因子;または、組織因子、第VIIa因子、トロンビン、および第Xa因子を含むが、これには限定されない外因性の凝固経路の活性化因子を含むことができる。NASP組成物としては、天然に存在する、合成の、または組み換えの凝固因子、または生物学的活性を保持する(すなわち、凝固を促進する)そのフラグメント、改変体または共有結合的に改変された誘導体を挙げることができる。あるいは、このような薬剤は、NASP由来の個々の組成物に含まれてもよいし、本発明のNASP組成物と同時に、その前に、またはその後に共投与されてもよい。
【0060】
本発明の第二の局面は、血液凝固増強の必要な被験体における第XI因子依存性の血液凝固の増強の方法であって:
(i)第XI因子を欠いていない被験体を選択する工程;および
(ii)この被験体に対して非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を含む組成物の治療上有効な量を投与する工程;
を包含し、ここでこのNASPは第XI因子依存性の様式で血液凝固を増強する、方法を提供する。
【0061】
代表的には、この被験体の第XI因子の状況は、本発明のこの局面による処置に適切であるか否かを特定するために決定される。FXI:cの欠損は、Ingram GIら(前出)にあるような、aPTTに基づく活性アッセイによって決定され得る。また、ELISAを用いてFXI抗原を検出してもよいし、および/または遺伝子分析を用いてFXI遺伝子中の変異を特定してもよい。被験体が第XI因子を欠損している場合、第XI因子およびNASPを投与することなどによって、本発明の第一の局面の方法によってそれらの被験体を処置することが適切である場合がある。被験体が第XI因子を欠損していない場合、本発明の第二の局面の方法によってそれらの被験体を処置することが適切である場合がある。
【0062】
本発明のこの局面では、NASPは第XI因子依存性の様式で血液凝固を増強する。血液凝固の第XI因子依存性の増強は、本発明の第一の局面に関して記載されたとおりに決定され得る。
【0063】
実施例に記載のとおり、NASPによる血液凝固の第XI因子依存性の増強は、組織因子濃度が低い条件下でさらに容易に検出される。ある被験体では、組織因子濃度は、自然にまたは軽度の外傷に応答して出血する部位で、例えば、筋肉または関節で低いと考えられる。血友病Aまたは血友病Bの患者はこれらの部位で出血する場合がある。血友病Aの患者はまた、脳または消化管で自然な出血を被る場合がある。血液凝固の増強におけるNASPの第XI因子依存性の効果は、このような出血の処置では重要であると考えられるので、第XI因子を欠いていない被験体を選択することが好ましい。好ましくは、この被験体は少なくとも70IU/dL、そして代表的には約100IU/dLというFXI:cをその血漿中で有する。
【0064】
本発明の第二の局面の方法はまた、被験体が他の理由のために、例えば、投与された抗凝固剤の効果を逆転するために血液凝固の増強を必要な場合にも有用であり得る。
【0065】
本発明の第三の局面によれば、FXIに依存して血液凝固を増強できる非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を特定するための方法が提供される。
【0066】
工程(a)および(b)では活性化適格性第XI因子を含むかまたは欠損している血液または血漿を硫酸化多糖類と組み合わせて、その血液または血漿サンプルの凝固パラメーターまたはトロンビン生成のパラメーターを測定する。本発明の第一の局面に関して記載される技術および血液または血漿の調製物はこの目的に適切である。
【0067】
活性化適格性FXIを欠く血液または血漿サンプルは、活性化適格性FXIを含んでいる血液または血漿のサンプルに「対応している」サンプルである。「対応している」とは、そのサンプルが活性化適格性FXIの存在に関して他と同様であることを意味する。代表的にはそれらは同じ種由来であり、好ましくは凝固に影響する類似のレベルの他の凝固因子および分子を有する。適切には、サンプルは同じ被験体から得られ、それが活性化適格性FXIを欠くように処理される。あるいは、FXIが欠損したサンプルは遺伝子的にFXIが欠損した被験体から得てもよいし、またはこのような被験体の2例以上に由来するプール材料から得てもよい。活性化適格性FXIを含むサンプルは、正常な被験体から得てもよいし、またはこのような被験体の2例以上に由来するプール材料から得てもよい。
【0068】
第三の局面の方法の工程(c)は、工程(a)および(b)において決定されるような血液または血漿サンプルの凝固パラメーターまたはトロンビン生成パラメーターを比較する工程であって、ここで、活性化適格性FXIを欠く血液サンプルの凝固時間または活性化適格性FXIを欠く血漿サンプルのピークトロンビンもしくはピーク時間に比較して、活性化適格性FXIを含む血液サンプルの凝固時間の減少または活性化適格性FXIを含む血漿サンプルのピークトロンビンの増大もしくはピーク時間の減少が、FXIに依存して血液凝固を増強し得るNASPの指標である工程、を包含する。
【0069】
第XI因子に依存して血液凝固を増強し得ることが特定されたNASPは本発明の第一または第二の局面による方法において用いられ得る。
【0070】
血液または血漿サンプルの凝固またはトロンビン生成特性を測定するためのアッセイには組織因子を含むことが典型的である。しかし本発明の第三の局面の方法では、外因性経路によって駆動される凝固またはトロンビン生成を阻害または低減して、血液凝固の第XI因子依存性のNASP媒介性増強を検出する必要がある場合がある。正常なヒト血液または血漿における血液凝固のNASP媒介性増強の第XI因子依存性の成分は、組織因子濃度が低い場合、より容易に検出されることが見出されている。適切には、血漿アッセイにおける組織因子濃度は40pM未満、20pM未満、5pM未満、1pM未満、0.5pM未満、0.2pM未満またはほぼ0pMであってもよい。適切には、血液アッセイにおける組織因子濃度は1pM未満、500fM未満、100fM未満、50未満、20未満または10fM未満であってもよい。血液凝固の第XI因子依存性のNASP媒介性増強を特定するためにFXIIの活性化の経路である内因性経路の第一の段階を阻害または低減することが必要な場合がある。第XII因子欠損の血液または血漿が用いられてもよい。あるいは、トウモロコシトリプシンインヒビター(CTI)などの第XII因子のインヒビターがアッセイ中に含まれてもよい。40μg/mLという濃度のCTIが有効である場合がある。適切なアッセイの他の特徴、および含まれてもよい成分は、当業者に公知であり、かつまた実施例にも例示されている。
【0071】
本発明はさらに、なんら限定することなく、以下の実施例にさらに例示されている。
【実施例】
【0072】
(実施例1)
フコイダンは全血中でクロット形成を改善する。
【0073】
フコイダンはFVIII阻害血液中で凝固パラメーターを改善し、そのため血友病Aの処置において有用である場合がある。
【0074】
材料
健常個体由来の血液サンプルをクエン酸塩加Venoject(登録商標)試験管(Terumo Europe,Leuven,Belgium(127mmol/L))中に吸引して、21−Gのバタフライニードルによってクエン酸塩1に対して血液を9の割合で混合した。吸引した最初の試験管は廃棄した。これらの血液サンプルの一部を、ヤギにおいて惹起された高力価の熱不活化抗ヒトFVIII抗血清(3876 BU/ml;Baxter BioScience,Vienna,Austria)とともにインキュベートして150BU/mLを得た。試験サンプルを、Hepes緩衝化生理食塩水中に多量の硫酸化多糖類を溶解すること、およびヒト血清アルブミン(Sigma−Aldrich Corporation,St.Louis,Missouri,USA)を5mg/mLの濃度まで添加することによって調製した。硫酸化多糖類を含まないコントロールサンプルを調製した。硫酸化多糖類は、約127DaのUndaria pinnatifidaフコイダン(Kraeber GmbH & Co;Ellerbek,Germany)であった。
【0075】
方法
ヒト全血のクロット形成および硬さの連続粘弾性アセスメントは、硫酸化多糖類が存在するか存在しない全血調製物を用いて回転トロンボエラストグラフィーによって行った。要するに、血液を、加熱されたキュベットホルダー中の使い捨て可能なキュベット中に添加する。使い捨て可能なピン(センサー)を回転軸の先端に固定する。その軸は高精度ボール・ベアリング・システムによってガイドされて、前後に回転する。その軸は弾性の測定のためにスプリングで接続される。その軸の正確な位置は軸の上の小さいミラーにおける光の反射によって検出される。サンプルが凝固するときの弾性の損失が軸の回転の変化をもたらす。得られたデータをコンピューターで分析してトロンボエラストグラムで可視化する。トロンボエラストグラムによって弾性(mm)対時間(秒)が示される。凝固形成が始まる前にゼロに近い弾性が観察される。ゼロのラインの上下をなぞる鏡像によって、軸の回転に対するクロット形成の効果が示される。
【0076】
記録は、37℃でROTEGトロンボエラストグラフィー凝固分析装置(Pentapharm,Munich,Germany)を用いて行った。各々の実験の開始前に、クエン酸塩加全血をトウモロコシトリプシンインヒビター(CTI)(Hematologic Technologies,Inc.,Essex Junction,VT,USA)と混合して、FXIIa媒介性の接触活性を阻害するためにFXIIaの特異的な阻害のための52μg/mLという最終濃度を準備した。分析の設定は以下のとおりであった:試験のサンプルまたはコントロールの20μLに対して、300μLの予熱した(37℃)CTI処理したクエン酸塩加全血を添加し、続いて組み換えヒト組織因子(rTF,3pM)(TS40,Thrombinoscope BV,Maastricht,The Netherlands)を含有するTF PRP試薬の1:15希釈の20μLを添加した。凝固は、20μLの200mMのCaCl(star−TEM(登録商標),Pentapharm,Munich,Germany)の添加によって開始して、記録は少なくとも120分間継続させた。アッセイ中のrTFの最終濃度は11fMであった。
【0077】
凝固時間(CT)、クロット形成時間(CFT)および最大クロット堅固(maximum clot firmness)(MCF)というトロンボエラストグラフィーのパラメーターを製造業者の指示に従って記録した。CTは測定の開始からクロット形成開始までの時間として規定する。CFTは、クロット形成の開始から20mmの大きさに達するまでの時間として規定する。MCFはアッセイの間の2つのトレースの間の大きさの最大の差ある。トロンボエラストグラムのデータの最初の誘導をプロットして、時間(秒)に対する速度(mm/s)のグラフを得る。このグラフから、最大速度(maxV)が決定される。最大速度が得られる時間(maxV−t)も決定される。
【0078】
結果
トロンボエラストグラフィーのパラメーターにおけるUndaria pinnatifida由来のフコイダンの効果をFVIII阻害血液において2つの濃度で試験した。フコイダンが存在しない2つのコントロールを行った。一方ではFVIII阻害血液を用い、他方では正常な血液を用いた。結果を以下の表1に示す。FVIII阻害血液は特徴的な長い凝固時間およびクロット形成時間を有した。凝固時間およびクロット形成時間は両方とも、フコイダンを含有するFVIII阻害血液では短く、ここでは両方のパラメーターに対してフコイダンが濃度依存性の影響を発揮していた。フコイダンはまた正常な血液でCTおよびCFTを減らした。
【0079】
【表1】

(実施例2)
トロンビン生成を研究するための較正自動化トロンボグラフィー(CAT)
硫酸化多糖類のプロコアギュラント活性を、作用機序を研究するために先天性凝固因子欠損を有する患者由来のいくつかの血漿中で検査した。本実施例は、後の実施例で用いる基本的な方法を記載する。
【0080】
材料
先天性凝固因子欠損を有する患者由来の血漿は、George King,Bio−Medical Inc.Kansas USA.から入手した。供給業者によれば、各々の血漿について残存凝固因子活性は、プロトロンビン欠損血漿が4%であったこと以外は1%未満であった。抗体媒介性のFVIII欠損症のモデルとして、新鮮凍結プール正常血漿(George King,Bio−Medical Inc.,Kansas,USA)を、ヤギで惹起された高力価の熱不活化抗ヒトFVIII血漿(4490 BU/ml;Baxter BioScience,Vienna,Austria)とともにインキュベートして50BU/mLを得た。いくつかの実験では、プール正常血漿またはFVIII欠損血漿のFXI活性を、抗ヒトFXI抗体(GAFXI−AP,Enzyme Research Laboratories,South Bend,IL,USA)によって100nMの最終濃度でブロックした。別段示されない場合、その血漿をトウモロコシトリプシンインヒビター(CTI)(Hematologic Technologies,Inc.,Essex Junction,VT,USA)と混合して、第XIIa因子の特定の阻害のために40μg/mLという最終濃度を得た。
【0081】
試験サンプルは、Hepes緩衝化生理食塩水中に多量の硫酸化多糖類を溶解すること、およびヒト血清アルブミン(Sigma−Aldrich Corporation,St.Louis,Missouri,USA)を5mg/mLの濃度まで添加することによって調製した。この硫酸化多糖類およびそれらの供給源を下の表2に示す。
【0082】
【表2】

参照サンプルは、参照タンパク質FVIII Immunate(登録商標)参照標準(Baxter BioScience,Vienna,Austria);第VIII因子インヒビターバイパス活性(FEIBA)参照標準(Baxter BioScience,Vienna,Austria);NovoSeven(登録商標)組み換え活性化FVII(Novo Nordisk A/S,Denmark)および精製ヒト血漿FIX(Enzyme Research Laboratories,South Bend,IL,USA)から調製した。独自のトロンビン較正化合物は、Thrombinoscope BV,Maastricht,The Netherlandsから入手した。
【0083】
方法
トロンビン生成に対する各々の硫酸化多糖類の影響を、Fluoroskan Ascent(登録商標)リーダー(Thermo Labsystems,Helsinki,Finland;フィルター 390nmの励起および460nmの発光)で、較正自動化トロンボグラフィーによって、蛍光原基質Z−Gly−Gly−Arg−AMC(Hemker HC.Pathophysiol Haemost Thromb 2003;33:4 15)の緩徐な切断後に、二重に測定した。96ウェルのマイクロプレート(Immulon 2HB、透明丸底;Thermo Electron)の各々のウェルに、80μLの予熱した(37℃)血漿を添加した。組織因子によるトロンビン生成を誘発するために、特定の量の組み換えヒト組織因子(rTF)と、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリンおよびホスファチジルエタノールアミンから構成されるリン脂質の小胞(48μM)(Thrombinoscope BV,Maastricht,The Netherlands)とを含む10μLのPPP試薬を添加した。あるいは、rTF(Innovin(登録商標),Siemens Healthcare Diagnostics Inc.,Tarrytown,NY,USA)と、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリンおよびスフィンゴミエリンから構成されるリン脂質エマルジョン(Phospholipid−TGT,Rossix,Moelndal,Sweden)との混合物を用いた。トロンビン生成が第XIa因子によって誘発された場合、ヒト第XIa因子(0.72nM)(Enzyme research Laboratories,South Bend,IN,USA)とPhospholipid−TGT(48μM)との混合物を添加した。いかなる誘発物の添加なしのトロンビン生成を研究した場合、Hepes緩衝化生理食塩水中で希釈したちょうど10μLのリン脂質−TGT(48μM)を含んだ。予熱した(37℃)リーダー中にプレートを入れる直前に、10μLの試験サンプルまたは参照サンプルまたは較正化合物を添加した。トロンビン生成は、各々のウェルに蛍光原基質およびHepes緩衝化CaCl(100mM)を含む20μLのFluCa試薬(Thrombinoscope BV,Maastricht,The Netherlands)を分散させることによって開始して、蛍光強度を37℃で記録した。
【0084】
得られたトロンビン生成曲線のパラメーターは、内部フィルターおよび基質消費効果について補正するために、Thrombinoscope(商標)ソフトウェア(Thrombinoscope BV,Maastricht,The Netherlands)およびトロンビン較正物質を用いて算出した(Hemker HC.Pathophysiol Haemost Thromb 2003;33:4 15)。参照としてトロンビン較正物質を用いて、試験ウェル中のトロンビンのモル濃度をソフトウェアによって算出した。各々のトロンビン生成曲線のピークでのトロンビン量(ピークトロンビン、nM)を、参照タンパク質(FVIII Immunate(登録商標)参照標準,FEIBA参照標準)の標準濃度から得たピークトロンビンに対してプロットして、非線形のアルゴリズムによってあてはめた。この較正に基づいて、FVIII Immunate(登録商標)、FEIBAおよびFIX等価物の活性を算出した。記録した他のパラメーターは遅延時間(測定開始とトロンビン生成の開始との間の時間間隔)、ピーク時間(測定開始とピークトロンビンとの間の時間間隔)、および内因性のトロンビン能(時間に対するトロンビンの濃度の曲線下面積)であった。
【0085】
(実施例3)
トロンビン生成の組織因子およびFVIII依存性
トロンビン生成の組織因子およびFVIII依存性は、CATアッセイを用いてアッセイした。プール正常血漿およびFVIII阻害血漿を、組織因子の1、5または20pMの存在下で試験した。予想どおり、各々の濃度の組織因子で、ピークトロンビンは、正常血漿に比較してFVIII阻害血漿中で低下し、ピーク時間は増大した。2つの血漿のトロンビン生成パラメーターの間の最も顕著な差は、最低の組織因子濃度で観察された。結果を下の表3に示す。
【0086】
【表3】

FVIII欠損血漿におけるトロンビン生成の欠損は、ピークトロンビンの最高比(正常:FVIII阻害)、およびピーク時間の最低比(正常:FVIII阻害)によって示されるとおり、低い組織因子濃度で最も顕著であったので、トロンビン生成に対する硫酸化多糖類の効果を特定するために設計した後の実験は、一般には低い組織因子濃度で行われた。
【0087】
(実施例4)
血友病治療剤は、VIII阻害またはVIII欠損血漿においてトロンビン生成を改善する。
【0088】
硫酸化多糖類の効力を比較する参照を得るために、血友病治療剤をFVIII阻害血漿または血友病の血漿において、ある範囲の濃度でCATアッセイにおいて試験した。正常血漿を用いるコントロールを比較のために行った。FVIII Immunate(登録商標)を血友病Aの血漿において0、25、100、250、500および1000mU/mlで試験した。FEIBAはFVIII阻害血漿で0、10、40、100、250および500mU/mlで試験した。rFVIIa Novoseven(登録商標)は、0、0.04、0.2、1、5および25nMで試験した。各々の血友病治療剤について、漸増濃度の治療剤で、ピークトロンビンは増大しピーク時間は減少した。試験した最高濃度のFVIII Immunate(登録商標)およびFEIBAで、正常血漿のトロンビン生成パラメーターに匹敵したトロンビン生成パラメーターを生じた。試験した最高濃度のrFVIIa Novoseven(登録商標)で、ピーク時間は正常血漿のピーク時間に匹敵し、ピークトロンビンは正常血漿で得られたレベルの約60%であった。
【0089】
(実施例5)
硫酸化多糖類は中間濃度でトロンビン生成の改善において最も有効である。
【0090】
硫酸化多糖類を血友病Aの血漿において、ある範囲の濃度で試験した。組織因子の濃度は1pMであった。最大100nMの濃度で、Fucus vesiculosusのフコイダンは、濃度依存性の様式でトロンビン生成パラメーターを改善した(すなわち、ピークトロンビンの増大およびピーク時間の減少)。250、500、1000、1500および2000nMというさらに高いフコイダン濃度で、トロンビン生成パラメーターは濃度依存性の様式で悪化した。同様のパターンが試験した硫酸化多糖類の各々について観察され、トロンビン生成に対する最適効果は中間濃度であり、それより低濃度および高濃度では最適未満の効果であった。最適の効果は、各々の硫酸化多糖類の類似するμg/ml濃度で達成されたが、2ケタの大きさにわたってnM濃度が異なっていた。ピークトロンビンに対して最も有益な効果を有した、試験された6つの硫酸化多糖類の各々の濃度のFVIII等価活性を検査した。結果を下の表4で示す。
【0091】
【表4】

さらなるデータを下の表5に示しており、これは各々の硫酸化多糖類についての「治療ウインドウ(therapeutic window)」を示している。「治療ウインドウ」とは、硫酸化多糖類が重度の血友病Aの血漿においてピークトロンビンを提供する濃度範囲であり(正常血漿の1%未満のFVIII活性)、少なくとも重度血友病Aの血漿に対する第VIII因子(Immunate(登録商標))の10mU/mL(正常の1%)の添加によって得られるピークトロンビンである。また、硫酸化多糖類の最適濃度のFVIII等価活性、およびカッコ内では、治療ウインドウの各々の末端での多糖類濃度のFVIII等価活性も示される。この結果によって、各々の硫酸化多糖類は広範な濃度範囲にまたがってプロコアギュラント効果を有することが示される。
【0092】
【表5】

同様の実験を、FVIII阻害血漿において硫酸化多糖類を用いて行った。各々の場合、FVIII等価活性ではなくFEIBA等価活性を検査した。結果は、以下の2つの表に示しており、血友病A血漿を用いて得られた結果と概して一致している。
【0093】
【表6】

【0094】
【表7】

各々の硫酸化多糖類の最適濃度についての、FVIII阻害血漿中でのFEIBA等価活性、および血友病A血漿中でのFVIII等価活性の比較を下の表8に示す。
【0095】
【表8】

(実施例6)
硫酸化多糖類はトロンビン生成を促進することにおいて血友病治療と相加的に作用する。
【0096】
実験を行って、漸増濃度の血友病治療剤の存在下における血友病A血漿またはFVIII阻害血漿におけるピークトロンビンに対するフコイダンの効果を検査した。CATアッセイを用いて、1pMという組織因子濃度によるピークトロンビンを決定した。
【0097】
ある濃度範囲、すなわち0、0.1、1、10、100および1000mU/mLのFVIII Immunate(登録商標)を血友病A血漿中で試験した。各々の濃度についてUndaria pinnatifida由来のフコイダンを100nMの濃度で添加して、対応するコントロールはフコイダンの非存在下で行った。フコイダンが存在するおよび存在しない場合のピークトロンビンの比は、各々の濃度のImmunate(登録商標)について算出した。同様の実験を、血友病治療剤としてFEIBAの0、10、40、100、250または500mU/mL、およびFVIII阻害血漿を用いて、ならびに血友病治療剤としてrFVIIa NovoSeven(登録商標)の0、0.04、0.2、1、5および25nM、およびFVIII阻害血漿を用いて行った。結果を下の表9に示す。
【0098】
【表9】

この結果から、血友病治療剤の量が増大すれば、ピークトロンビンの増大を生じることが示される。フコイダンの添加によって生じるピークトロンビンの増強は、試験したFVIIIまたはFEIBAのうちでより多い量の場合よりもより少ない量の場合でわずかに大きく、試験したrFVIIaの全ての量においてほぼ類似した。従って、フコイダンは、特に血友病治療剤の濃度が生理学的な量のトロンビン生成を促進するほど十分高くない場合、血友病治療剤と相加的に作用すると考えられる。(このアッセイでは、正常血漿は約100nMというピークトロンビンを生じる)。従って、フコイダンは血友病治療における補助療法として有用であり得る。
【0099】
(実施例7)
フコイダンの効果の組織因子依存性
トロンビン生成パラメーターに対するフコイダンの効果の組織因子依存性をCATアッセイで試験した。ピーク時間およびピークトロンビンを、0、0.2、0.5、1、5および20pMの組織因子において4つの異なる血漿とフコイダンの組み合わせについて決定した。その血漿はプール正常血漿およびFVIII阻害血漿であった。各々をUndaria pinnatifida由来の100nMのフコイダンが存在するまたは存在しない場合において試験した。結果を下の表10に示す。
【0100】
【表10】

その結果によって、正常血漿中でピーク時間を減らすことにおける、およびピークトロンビンを増大することにおけるフコイダンの効果が最低濃度の組織因子で、特に組織因子が添加されない場合に最も顕著であることが示される。組織因子の濃度が高い場合、トロンビンは外因性経路を通じてほぼ独占的に生成される。これらの条件下では、硫酸化多糖類はトロンビン生成を増大しない。FVIII阻害血漿では、フコイダンは低い組織因子濃度で、ピーク時間およびピークトロンビンに対してより顕著な効果を有する傾向もある。しかし、このアッセイにおいて生理学的に関連するトロンビン生成を得るために、いくつかの組織因子が必要である。組織因子が全く存在しない場合、フコイダンの任意の効果は意味がない場合もある。試験された組織因子の最高濃度でさえ、フコイダンはやはりピークトロンビンを増大した。
【0101】
上記で示されるとおり、Undaria pinnatifida由来のフコイダンは、低濃度の組織因子で、および組織因子の非存在下でさえ(正常血漿中で)トロンビン生成を刺激し得る。他の硫酸化多糖類を、CATアッセイにおいて組織因子の非存在下でのトロンビン生成に対するそれらの効果について試験した。各々の化合物は、A.n.HMWを10nMで試験した以外は、実施例5で決定したとおりの最適濃度で試験した。(ピークトロンビンは、A.n.HMWが10nMで用いられた場合は25nMに比較してごくわずかに低い)。結果を下の表11に示す。
【0102】
【表11】

その結果から、試験された化合物の各々が正常血漿中でピークトロンビンを増大し得、ピーク時間を低減し得ることが示される。組織因子が全く存在しない場合、その化合物はFVIII阻害血漿でピークトロンビンを増強せず、ピーク時間を減少もしない。これは、外因性経路が組織因子の非存在下で不活性であり、内因性経路がFVIIIの非存在下で不活性であるという事実によって説明され得る。
【0103】
(実施例8)
フコイダンはFXIIとは独立して作用してトロンビン生成を促進する。
【0104】
トロンビン生成パラメーターは、FXII欠損血漿で、Undaria pinnatifida由来の100nMのフコイダンを存在させるか存在させないで、1pMという組織因子濃度で試験した。これらの条件下では、残存FXII活性は正常の1%よりも低いが、トウモロコシトリプシンインヒビターはやはり念の為に40μg/mLで含んだ。フコイダンは、前の実験のとおり、ピークトロンビンを増大させ、ピーク時間を減少させることが見出された。FXIIは内因性(接触活性化)の経路の開始点である。フコイダンがFXII欠損血漿においてトロンビン生成パラメーターを改善するという事実によって、フコイダンはFXIIに作用しないことが示される。
【0105】
(実施例9)
硫酸化多糖類の効果の凝固因子依存性
硫酸化多糖類の作用の機序をさらに検査するため、CATアッセイをさらに凝固因子欠損血漿で行った。トロンビン生成に対する外因性経路の寄与を最小限にするために組織因子は添加しなかった。以下のフコイダンを試験した:Ascophyllum nodosum,高MW,10nM;Fucus vesiculosus,100nM;Undaria pinnatifida,100nM;Ascophyllum nodosum,低MW,1000nM。
【0106】
プロトロンビン欠損血漿を試験した場合、フコイダンを欠くコントロールでは本質的にピークトロンビンはなかった。各々のフコイダンの存在下で、小さいピークが存在し、これは、プロトロンビン欠損血漿が正常血漿のプロトロンビン活性の約4%を保持していたという事実によって説明され得る。FX欠損血漿を用いた場合、任意のフコイダンを存在させなくても存在させてもトロンビンピークは観察されなかった。これによって、内因性および外因性経路の両方で必須であるFXは、共通経路の一部であるので、硫酸化多糖類がトロンビン生成を促進するために必要であることが示される。同様に、FV欠損血漿では、トロンビンピークは観察されなかった。FVは共通経路のプロトロンビン活性化複合体の一部であり、硫酸化多糖類がトロンビン生成を促進するために必要である。FVII欠損血漿では、全てのフコイダンがトロンビンピークを生成できたが、フコイダンの非存在下ではピークはなかった。FVIIが外因性経路の開始点であり、硫酸化多糖類がトロンビン生成を促進するためにそれは必要ではない。FIX欠損血漿では、小さいトロンビンピークがUndaria pinnatifidaフコイダンの存在下で観察されたが、他のサンプルでは観察されなかった。FIXは内因性経路で活性化され、硫酸化多糖類が実質的なトロンビン生成を促進するにはそれが必要であると考えられる。FVIII欠損血漿では、極めて小さいトロンビンピークがUndaria pinnatifidaのフコイダンの存在下で観察されたが、他のサンプルでは観察されなかった。FVIIIは内因性経路で活性化され、硫酸化多糖類が実質的なトロンビン生成を促進するにはそれが必要であると考えられる。FXI欠損血漿では、NASPが存在しても存在しなくてもトロンビンピークは観察されなかった。FXIは内因性経路で活性化され、硫酸化多糖類がトロンビン生成を促進するにはそれが必要であると考えられる。FXII欠損血漿では、フコイダンの非存在下で小さいトロンビンピークが観察された。各々のフコイダンは実質的なピークトロンビンの増大およびピーク時間の減少を生じた。従って、内因性経路に必要なFXIIは、硫酸化多糖類がトロンビン生成を促進するためには必要でない。結果を下の表12にまとめる。
【0107】
【表12】

内因性経路の凝固因子は、その経路の第一の凝固因子であるFXIIを除いて、硫酸化多糖類がトロンビン生成を増強するのに必要である。凝固因子が内因性経路で作用する順序はFXII、続いて、FXI、次いで、FIXおよびFVIIIの組み合わせである。最終的にFXおよびFVは共通経路において組み合されて作用する。硫酸化多糖類がトロンビン生成を増強するために必要であるこの経路の最初の凝固因子はFXIである。従って、このデータによって、硫酸化多糖類は、FXIの活性化を増強することによって内因性経路に作用することが示唆される。
【0108】
硫酸化多糖類がFVIIおよび組織因子の非存在下でトロンビン生成を増強するという事実によって、それらの作用機序は外因性経路とは独立しており、かつ内因性経路を通じて完全に駆動されるということを意味する。
【0109】
(実施例10)
組織因子濃度が低い場合、フコイダン活性のFXI依存性機序はトロンビン生成に寄与する
硫酸化多糖類の効果のFXI依存性を、プール正常血漿およびFXI欠損血漿において、CATアッセイによって、種々の濃度の組織因子で研究した。試験された硫酸化多糖類はUndaria pinnatifidaのフコイダン100nMであった。前の実験で観察されたとおり、フコイダンの刺激効果は、正常血漿では、より低い濃度の組織因子でより大きかった。前の実験と同様に、フコイダンは、組織因子の添加のないFXI欠損血漿では刺激効果を有さなかった。しかし、刺激効果は、FXI欠損血漿では1、5および20pMの組織因子の存在で観察された。結果を下の表13に示す。
【0110】
【表13】

漸増濃度の組織因子で、トロンビン生成に対する外因性経路の寄与は増大する。FXI欠損血漿中に組織因子が存在する場合のフコイダンの刺激効果は、外因性経路によって媒介され得る。正常血漿とFXI欠損血漿との間で0または1pMの組織因子でフコイダンの刺激効果を比較することによって、これらの低い組織因子濃度では、フコイダンはFXI欠損血漿よりも正常血漿でより大きい刺激効果を有することが示され得る。フコイダン活性のFXI依存性の機構は、組織因子の濃度が低い場合トロンビン生成に寄与することになる。
【0111】
ただしFXI欠損血漿を用いずにさらなる実験を行い、FXIを抗FXI抗体との前インキュベーションによってプール正常血漿中で阻害した。その抗体は、Enzyme Research Laboratories(South Bend,IL,USA)の、親和性精製した、ポリクローナルヤギ抗ヒトFXI「GAFXI−AP」であった。これを150nMの濃度で用いて、FXIを完全に阻害した。コントロールとして、同じプール正常血漿を未処理で用いた。それ以外は、その実験は前述の実験と同じ方法で行った。結果を下の表14に示す。
【0112】
【表14】

この結果から、低い組織因子濃度で、フコイダンはFXI依存性の機構によるトロンビン生成を刺激するという結論が確認される。
【0113】
(実施例11)
フコイダンは、FXIを補充したFXI欠損血漿でトロンビン生成を刺激する。
【0114】
外因性のFXIを用いてFXI欠損血漿を補充することの効果を検査するための実験を行った。硫酸化多糖類刺激されたトロンビン生成をCATアッセイによって測定した。この実験では組織因子は用いなかった。試験した硫酸化多糖類はUndaria pinnatifidaのフコイダン100nMであった。FXI欠損症の患者血漿は、George King(Bio−Medical Inc.,Kansas,US)から入手した。精製ヒト第XI因子(Enzyme Research Laboratories,South Bend,IN,USA)を、0、0.3、3または30nMまでの外因性第XI因子の濃度で用いてこの血漿を補充した。30nMの第XI因子とは正常なヒト血漿で見られる濃度である。トロンビンピーク時間およびピークトロンビンはフコイダンを存在させるかまたは存在させないで試験した。結果を下の表15に示す。
【0115】
【表15】

結果によって、フコイダンが第XI因子の濃度に依存した様式でトロンビン生成を刺激することが示される。
【0116】
さらなる実験を行って、第XI因子欠損血漿中に30nMの第XI因子を存在させるかまたは存在させないでトロンビン生成に対する4つの異なる硫酸化多糖類の効果を比較した。以下のフコイダンを試験した:Ascophyllum nodosum,高MW,10nM;Fucus vesiculosus,100nM;Undaria pinnatifida,100nM;Ascophyllum nodosum,低MW,1000nM。結果を下の表16に示す。
【0117】
【表16】

結果によって、全てのフコイダンが第XI因子を補充した第XI因子欠損血漿においてトロンビン生成を刺激したことが示される。第XI因子の添加なしでは、フコイダンによってトロンビンピークは生成されなかった。これらの結果によってフコイダンによるトロンビン生成の刺激の第XI因子依存性が確認される。
【0118】
(実施例12)
フコイダンはFXIを活性化することによって作用する。
【0119】
トロンビン生成のフコイダン刺激のFXI依存性の機序を、FXI欠損血漿に対して活性化FXI(FXIa)を添加したCATアッセイで研究した。組織因子は添加しなかった。以下のフコイダンを試験した:Ascophyllum nodosum、高MW,10nM;Fucus vesiculosus,100nM;Undaria pinnatifida,100nM;Ascophyllum nodosum、低MW 1000nM。
【0120】
トロンビンピークは、60pMのヒト血漿FXIa(Enzyme Research Laboratories,South Bend,IL,USA)を添加したFXI欠損血漿で観察された。しかし、FXI欠損血漿+FXIaに対するフコイダンの添加はピークトロンビンを増大も、ピーク時間を減少もしなかった。この実験から、フコイダンは正常に作用してFXIからFXIaへ活性化するかまたは活性化を増強すると考えられる。FXIaが提供されるとき、フコイダンはさらなる刺激効果は有さなかった。
【0121】
(実施例13)
フコイダンは外因性に損なわれた血漿でのトロンビン生成を刺激する。
【0122】
トロンビン生成のフコイダン刺激の効果を、FVII欠損血漿において、組織因子のある濃度範囲で研究した。FVIIは外因性経路の最初の凝固因子であるので、FVII欠損血漿は外因性に損なわれている。フコイダンの非存在下では、ごく小さいトロンビンピークしかなく、このピークは高い組織因子濃度(20pM)で大きいピーク時間を有した。このトロンビンピークは残存FVIIによって生じ得る。5pMより少ない組織因子濃度ではトロンビン生成を生じなかった。100nMのUndaria pinnatifidaのフコイダンが含まれる場合、大きいトロンビンピークが得られた。漸増濃度の組織因子はピークトロンビンに対して影響が殆どなく、ピーク時間の減少はごくわずかであった。結果を下の表17に示す。
【0123】
【表17】

この結果によって、外因性経路がFVIIの非存在による作用から防御される場合、組織因子はフコイダンによるトロンビン生成の刺激に殆ど影響を有さないことが示される。
【0124】
さらなる実験では、トロンビン生成に関するフコイダン刺激を、FVII欠損血漿またはFVIII阻害のFVII欠損血漿において、ある範囲の組織因子濃度で研究した。FVIII阻害のFVII欠損血漿において100nMのUndaria pinnatifidaのフコイダンによって刺激したトロンビンピークは、FVII欠損血漿中で刺激されたピークに比較して、高い組織因子濃度が存在する場合でさえ小さくかつ遅延された。結果を下の表18に示す。
【0125】
【表18】

その結果から、外因性に損なわれた血漿では、フコイダンは、高い組織因子濃度においてでさえ、内因性経路を介してトロンビン生成を刺激するように作用することが示される。
【0126】
(実施例14)
硫酸化多糖類は、血友病の凝固因子療法の代わりに有用であり得る。
【0127】
1%未満の正常なFVIIIを有する患者は、重度血友病を有するとみなされ、1〜5%は中等度に重度血友病で、5%より多くだが40%未満が軽度血友病である。血友病Aを有する患者の血漿に存在するFVIIIのレベルを反映する低濃度のFVIIIで、フコイダン刺激トロンビン生成を評価するために実験を行った。組織因子は添加しなかった。Undaria pinnatifida(100nM)およびAscophyllum nodosum由来のフコイダン、高MW(10nM)を試験した。FVIIIをFVIII欠損血漿に対してある範囲の濃度で添加して、正常血漿中に存在するFVIIIの0,0.2、0.5、1、2または10%のFVIIIを得た。これらの数字は、FVIII欠損血漿に存在する残存FVIIIをなんら考慮していない。結果を下の表19に示す。コントロールの実験では、血漿を抗FXI抗体と予備インキュベートした。試験したFVIIIのいずれの濃度でもいずれのフコイダンの存在でもトロンビンピークは観察されなかった(示さず)。
【0128】
【表19】

結果によって、低濃度のFVIIIにおいてでさえ、硫酸化多糖類がトロンビン生成を刺激することが示される。FXIが阻害される場合にいかなるトロンビンピークも存在しないことによって、FXI依存性の機構がこの活性を担うことが示される。従って、硫酸化多糖類は、FXI依存性の機構を介して血友病を処置するために有用であり得る。
【0129】
(実施例15)
硫酸化多糖類は、血友病Bにおいて凝固因子療法の代わりに有用であり得る。
【0130】
硫酸化多糖類を、CATアッセイにおいて血友病B血漿中で、ある範囲の濃度で試験した。組織因子の濃度は、1pMであった。最大100nMの濃度で、Fucus vesiculosus由来のフコイダンは、濃度依存性の様式で、トロンビン生成パラメーターを改善した(すなわち、ピークトロンビンの増大、およびピーク時間の減少)。250、800および2000nMというより高いフコイダン濃度では、トロンビン生成パラメーターは、濃度依存性の様式で悪化した。同様のパターンが、試験した硫酸化多糖類の各々について観察され、ここではトロンビン生成の最適効果は中間の濃度で、最適未満の効果はより低濃度およびより高濃度で観察された。最適の効果は、各々の硫酸化多糖類の類似のμg/ml濃度で達成されたが、nM濃度は2ケタの大きさにまたがって異なっていた。ピークトロンビンに対して最も有益な効果を有した、試験された6つの硫酸化多糖類の各々の濃度に関するFIX等価活性を評価した。結果を下の表20に示す。
【0131】
【表20】

さらなるデータを下の表21に示しており、ここでは各々の硫酸化多糖類の「治療ウインドウ」が示されている。「治療ウインドウ」とは、少なくとも重度血友病B血漿に対する第IX因子の10mU/mL(1%)の添加によって得られるピークトロンビンである、重度血友病B血漿(FIX活性が正常血漿の1%未満)におけるピークトロンビンを硫酸化多糖類がもたらす濃度範囲である。また硫酸化多糖類の最適濃度に関するFIX等価活性、およびカッコ内には、治療ウインドウのいずれかの末端での多糖類濃度のFIX等価活性も示される。この結果から、各々の硫酸化多糖類が広い濃度範囲にまたがってプロコアギュラント効果を有することが示される。
【0132】
【表21】

(実施例16)
第XI因子の状況に依存する患者の処置
患者は待機手術の前に医師に相談してもよい。手術が出血のリスクを伴う場合、医師は患者が術後に過度の出血を受ける事象では、手術の前または直後に硫酸化多糖類を投与するように計画してもよい。医師は患者がこのような治療に適切であるか否かをチェックすることを望み、従って、患者の記録をチェックしかつ/または試験を行ってその患者が血友病Cを有するか否かを決定する。特定の患者は、血友病Cの特定のリスクを有する場合、例えば、その病態の家族歴を有する患者である場合がある。
【0133】
患者が正常なレベルの血漿第XI因子:c活性(70IU/dLより大きい)を有する場合、その患者は、出血を被る場合には手術の前、または手術の後のいずれかに硫酸化多糖類を投与され得る。
【0134】
患者が、部分的な欠損(血漿第XI因子:c活性が20−70IU/dL)、または重度欠損(血漿第XI因子:c活性が20IU/dL未満)を有する場合、医師は第XI因子濃縮物または新鮮凍結血漿と組み合わせて手術の前またはその後に硫酸化多糖類を投与するように決定してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増強された血液凝固の必要な被験体における第XI因子依存性血液凝固増強の方法であって、該被験体に対して非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を含む組成物の治療上有効な量を投与する工程を包含し、ここで該NASPが第XI因子依存性の様式で血液凝固を増強する、方法。
【請求項2】
前記NASPがポリ硫酸ペントサン(PPS)、フコイダン、N−アセチル−ヘパリン(NAH)、N−アセチル−脱O−硫酸化−ヘパリン(NA−de−o−SH)、脱N−硫酸化−ヘパリン(De−NSH)、脱N−硫酸化−アセチル化−ヘパリン(De−NSAH)、過ヨウ素酸−酸化型ヘパリン(POH)、化学的に硫酸化されたラミナリン(CSL)、化学的に硫酸化されたアルギン酸(CSAA)、化学的に硫酸化されたペクチン(CSP)、硫酸デキストラン(DXS)およびヘパリン由来のオリゴ糖(HDO)からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記NASPがPPSである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記NASPがフコイダンである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記NASPが第XI因子の活性化を増強する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記NASPが約0.01mg/kg〜約200mg/kgの投与量で投与される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記被験体が血液因子欠損症によって生じる先天性凝固障害、慢性または急性の出血性障害、および後天性凝固障害からなる群より選択される出血性障害を有する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記血液因子欠損症が、第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XI因子、第XII因子、第XIII因子、およびフォン・ヴィレブランド因子からなる群より選択される1つ以上の因子に関するものである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記増強された血液凝固の必要性の原因が、抗凝固剤の以前の投与または手術もしくは他の侵襲性の手順である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
プロコアギュラント、内因性凝固経路の活性化因子、外因性凝固経路の活性化因子、および第二のNASPからなる群より選択される薬剤を投与する工程をさらに包含する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記内因性凝固経路の活性化因子が第Xa因子、第IXa因子、第XIa因子、第XIIa因子、およびカリクレインからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記外因性凝固経路の活性化因子が組織因子、第VIIa因子、トロンビン、および第Xa因子からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
第XI因子、第XII因子、プレカリクレイン、高分子量キニノーゲン(HMWK)、第V因子、第Va因子、第VII因子、第VIII因子、第VIIIa因子、第IX因子、第X因子、第XIII因子、第II因子、第VIIa因子、およびフォン・ヴィレブランド因子からなる群より選択される1つ以上の因子を投与する工程をさらに包含する、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記抗凝固剤がヘパリン、クマリン誘導体、例えば、ワルファリンまたはジクマロール、組織因子経路インヒビター(TFPI)、アンチトロンビンIII、ループス性抗凝固因子、線虫の抗凝固性ペプチド(NAPc2)、第VIIa因子インヒビター、活性部位ブロック第VIIa因子(第VIIai因子)、第IXa因子インヒビター、活性部位ブロック第IXa因子(第IXai因子)、第Xa因子インヒビター、例としては、フォンダパリナックス、イドラパリナックス、DX−9065a、およびラザキサバン(DPC906)、活性部位ブロック第Xa因子(第Xai因子)、第Va因子および第VIIIa因子のインヒビター、例としては、活性化プロテインC(APC)および可溶性トロンボモジュリン、トロンビンインヒビター、例としては、ヒルジン、ビバリルジン、アルガトロバンおよびキシメラガトラン、ならびに凝固因子に結合する抗体または抗体フラグメントからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記抗凝固剤が第V因子、第VII因子、第VIII因子、第IX因子、第X因子、第XIII因子、第II因子、第XI因子、第XII因子、フォン・ヴィレブランド因子、プレカリクレイン、および高分子量キニノーゲン(HMWK)からなる群より選択される凝固因子に結合する抗体または抗体フラグメントである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記被験体が第XI因子を欠損している、請求項1〜6のいずれかに記載の方法であって、該方法は、第XI因子を投与する工程をさらに包含する、方法。
【請求項17】
前記被験体が第VIII因子を欠損している、請求項1〜6のいずれかに記載の方法であって、該方法は、第VIII因子またはプロコアギュラントバイパス剤を投与する工程をさらに包含する、方法。
【請求項18】
前記患者が第VIII因子に対するインヒビター抗体を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記被験体が第IX因子を欠損している、請求項1〜6のいずれかに記載の方法であって、該方法は、第IX因子を投与する工程をさらに包含する、方法。
【請求項20】
前記患者が第IX因子に対するインヒビター抗体を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記NASPが非静脈内経路を介して投与される、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
血液凝固の増強の必要な被験体における第XI因子依存性の血液凝固増強の方法であって:
(i)第XI因子を欠損していない被験体を選択する工程;および
(ii)該被験体に対して非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を含む組成物の治療上有効な量を投与する工程;
を包含し、ここで該NASPが第XI因子依存性の様式で血液凝固を増強する、方法。
【請求項23】
第XI因子に依存して血液凝固を増強し得る非抗凝固性硫酸化多糖類(NASP)を特定する方法であって:
a)活性化適格性FXIを含む血液または血漿サンプルと硫酸化多糖類を含む組成物とを合わせる工程、および該血液または血漿サンプルの凝固パラメーターまたはトロンビン生成パラメーターを測定する工程;
b)活性化適格性FXIを欠損している対応する血液または血漿サンプルと硫酸化多糖類を含む組成物とを合わせる工程、および該血液または血漿サンプルの該凝固パラメーターまたはトロンビン生成パラメーターを測定する工程;および
c)工程(a)および(b)で決定された該血液または血漿サンプルの該凝固パラメーターまたはトロンビン生成パラメーターをお互いに比較する工程であって、ここで、活性化適格性FXIを欠損した該血液サンプルの凝固時間または該血漿サンプルのピークトロンビンもしくはピーク時間に比較して、活性化適格性FXIを含む血液サンプルの凝固時間の減少または該血漿サンプルのピークトロンビンの増大もしくはピーク時間の減少は、FXIに依存して血液凝固を増強し得るNASPの指標である工程;
を包含する、方法。

【公表番号】特表2012−500780(P2012−500780A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523352(P2011−523352)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006082
【国際公開番号】WO2010/020423
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【Fターム(参考)】