説明

分光光度計

【課題】回転セクタ鏡の回転により測定光を異なるモードに振り分ける分光光度計において、各モードのデータ積算期間の設定に関する調整を容易にした分光光度計を提供する。
【解決手段】制御部20は、変化検出部19からモードD1を積算対象とする通知を受けると、遅延時間記憶部21からモードD1に対応する遅延時間Td1を参照する。そして、変化検出部19から通知を受けた時点から遅延時間Td1だけ経過した後にADC18にデータ採取信号を一定の期間送る。ADC18はデータ採取信号を受信している期間内で光検出器17からの光強度信号のサンプリングとデジタル値への変換を行い、積算処理部22に送る。積算処理部22ではADC18から取得されたデータの積算が行われ、該積算値は制御部20に送られた後、制御部20によって積算値記憶部23内のモードD1に対応する記憶領域内に保存される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分光光度計に関し、さらに詳しくは、回転セクタ鏡によって測定光を試料側光束と参照側光束に分けるダブルビーム方式の分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
分光光度計には、その光路の構成によってダブルビーム方式とシングルビーム方式とがある。ダブルビーム方式は、吸光度を算出する過程で原理的に光源の光量変動による影響を相殺することが可能であるため、分析精度の点でシングルビーム方式よりも有利である。
【0003】
ダブルビーム方式の分光光度計では、分光器(モノクロメータ)により取り出された単色光を試料側光束と参照側光束とに分けるために、主として、ビームスプリッタを用いた光束の分割と、回転セクタ鏡による光束の振り分け、のいずれかが利用されている。ビームスプリッタ方式は、単色光をビームスプリッタにより一定比率の試料側光束と参照側光束とに分割して被測定試料及び参照試料に照射し、それぞれの透過光を各光束を受け持つ2つの光検出器に対して導入するものである。
【0004】
一方、回転セクタ鏡方式は、単色光を一定速度で回転駆動されるセクタ鏡により試料側光束と参照側光束とに交互に振り分け(切り替え)て被測定試料及び参照試料に照射し、それぞれの透過光を1つの光検出器に対し交互に導入するものである(特許文献1など参照)。この構成では一般的に、光が光検出器に入射しない状態での暗信号を測定するために、光を遮蔽する遮光部が回転セクタ鏡に設けられている。
【0005】
ダブルビーム方式の分光光度計では、波長走査を行いつつ、各波長に対して試料信号、参照信号、暗信号の各信号を検出することが一般的である。この際、各信号の同時性を確保するために、光束切り替えの頻度は高いことが望ましい。一方、光束切り替えにより光検出器での検出信号は大きく変化するが、この検出信号の変化は瞬間的ではなく、完全に変化するまでに時間を要する。この光束切り替えに伴って検出信号が完全に変化するまでに要する時間のことを「光束切り替え時間」と呼ぶ。光束切り替え頻度が高いと単位時間に含まれる光束切り替え時間の割合が増加する。これは各信号に対して十分なS/N比を確保する点で不利に働く。以上のように、各信号の同時性とS/N比の確保のバランスを取って、回転セクタ鏡の回転駆動に使用されるモータには1500rpm〜2000rpm程度の高速回転が要求される。また、このような分光光度計では、一旦装置を稼働させた後は、アイドリング中であっても測定を中断しないのが一般的である。以上の要求から、特別な制御が不要であり、高速回転の可能なシンクロナスモータが、回転セクタ鏡の駆動源として使用されることが多い。
【0006】
なお、一部の分光光度計ではステッピングモータを回転セクタ鏡の駆動源として使用することもあるが、ステッピングモータには分光光度計の波長走査に対応できるような高速回転には向かず、さらには回転数を上げるに伴い、振動や発熱、異音が発生するという問題があるため、このような用途にはあまり使用されない。
【0007】
シンクロナスモータの駆動には、上記のように特別な駆動回路が不要ではあるが、ステッピングモータのように回転位置を直接指定することができないため、回転セクタ鏡の回転による測定信号、参照信号、暗信号の切り替わりタイミング、即ち、前述の各信号における、測定開始タイミングと測定終了タイミングを把握する必要がある。このタイミングの把握には、図5に示すような構造の回転セクタ鏡とその周辺に配設されたフォトインタラプタが一般に使用される。
【0008】
図5(a)の側面図に示すように、回転セクタ鏡100は、1本の回転軸100cと、その回転軸100cに固定された第一セクタ板100a及び第二セクタ板100bと、を有する。第一セクタ板100aは回転セクタ鏡100への入射光束を遮断する4枚の扇形の遮蔽板101を有し(図5(c))、第二セクタ板100bは該入射光束を反射する2枚の扇形のミラー102を有する(図5(d))。この2枚のセクタ板100a、100bを有する回転セクタ鏡100を正面から見た図が図5(b)である。図5(b)に示すように、正面から見た回転セクタ鏡100には、遮蔽板101とミラー102が存在しない、回転セクタ鏡100への入射光束が通過可能な開口部103が存在する。この開口部103を通過した光が試料側光束となって、被測定試料に照射される。また、ミラー102によって反射された光が参照側光束となって参照試料に照射される。
【0009】
以下、開口部103を試料光部と呼ぶことにする。また、遮蔽板101を遮光部、ミラー102を参照光部と呼ぶことにする。そして、これら各部をセクタ部と総称することにする。図5(b)の例では、回転セクタ鏡100は8つのセクタ部を有し、遮光部101が4つ、参照光部102が2つ、試料光部103が2つ、それぞれ存在することになる。また、これら各セクタ部は180°回転対称に構成されている。
【0010】
回転セクタ鏡100への入射光束が図5(b)の位置Lに入射され、回転セクタ鏡100が矢印Dの方向に回転する場合、回転セクタ鏡100が1回転する間に、入射光束の位置Lには、遮光部101→参照光部102→遮光部101→試料光部103→遮光部101→参照光部102→遮光部101→試料光部103が順番に来ることになる。また、回転セクタ鏡100による入射光束の振り分けのモードは、遮光(D)→反射(R)→遮光(D)→通過(S)→遮光(D)→反射(R)→遮光(D)→通過(S)の順で切り替わることになる。
【0011】
回転セクタ鏡100によるモードの切り替わりは、次のように検出される。
第一セクタ板100aの各遮蔽板(遮光部)101の外周には遮光部タブ101aが設けられ、遮光部タブ101aの回転軌道上には、その軌道を発光素子と受光素子とが挟むように第一フォトインタラプタ104が設けられている。また、第二セクタ板100bの各ミラー(参照光部)102の外周には参照光部タブ102aが設けられ、参照光部タブ102aの回転軌道上には、その軌道を挟むように、第二フォトインタラプタ105と第三フォトインタラプタ106が設けられている。これら3つのフォトインタラプタ104、105、106が配設される位置は回転セクタ鏡100の構成によって異なるが、例えば図5(b)のように8個のセクタ部を有し、各セクタ部の扇の中心角が同じである場合、回転セクタ鏡100の回転方向に沿って90°毎に配置される。
【0012】
回転セクタ鏡100が矢印Dの方向(反時計回り)に回転すると、回転セクタ鏡100の各セクタ部と入射光束とフォトインタラプタ104、105、106の位置関係は、図6〜図9のように変化することになる。ここで、図6のような位置関係の場合には、遮光部タブ101aが第一フォトインタラプタ104の発光素子からの光を遮り、第一フォトインタラプタ104から遮光部タブ101aを検出したことを示すタブ検出信号が出力される。図7の場合は、第三フォトインタラプタ106から、図8の場合は第一フォトインタラプタ104から、図9の場合は第二フォトインタラプタ105から、それぞれタブ検出信号が出力される。
【0013】
第一フォトインタラプタ104からタブ検出信号が出力された場合(すなわち図6及び図8の状態のとき)、回転セクタ鏡100への入射光束は遮光部101によって遮られる。第三フォトインタラプタ106からタブ検出信号が出力された場合(図7の状態のとき)には、入射光束は参照光部102によって反射される。第二フォトインタラプタ105からタブ検出信号が出力された場合(図9の状態のとき)には、入射光束は試料光部103を通過する。このように、フォトインタラプタ104、105、106のいずれからタブ検出信号が出力されたかにより、回転セクタ鏡100への入射光束がどのモードに振り分けられるかを把握することができる。
分光光度計の制御部は、フォトインタラプタ104、105、106のいずれからタブ検出信号が出力されたかに基づいて、光検出器からの検出信号がどのモードに対して取得されたかを判断し、それぞれのモードに対する検出信号を取得し、必要に応じて積算処理や平均化処理などを行う。
【0014】
なお、上記説明ではタブは各セクタ部の外周全てに亘り配置されているが、光束状態や検出信号に対する必要時間によっては、各セクタ部の外周の一部にのみタブを設けることもできる。また、このタブはセクタ部の外周の任意の位置に配置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−356049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
回転セクタ鏡を用いたダブルビーム方式の分光光度計では、上記のように、モード(光束)の切り替えによって光検出器での検出信号は大きく変化するものの、完全に変化するまでにある程度の時間を要する。これは、回転セクタ鏡への入射光束が一定の径を有するために該光束を回転セクタ鏡上の各セクタの境界が通過するのに時間を要することと、光検出器やその後段の増幅回路などを含む回路の周波数応答特性により信号が安定するまでに時間を要すること、等のためである。このように、モードの切り替わり時点を厳密に検出することは不可能であるため、従来の装置ではモードの切り替わりに時間的な幅があることを考慮して、モードが完全に切り替わった後にデータの取得を開始するようにフォトインタラプタの位置を調整することが行われていた。従来のフォトインタラプタの位置調整の方法を図10により説明する。
【0017】
図10は、所定の径を有する入射光束に対するフォトインタラプタの配置を説明する図である。例えば図10(a)のように、入射光束の範囲内に第一セクタ板100aの遮光部101が完全に入りきっていない状態で第一フォトインタラプタ104が遮光部タブ101aを検出するように配置すると、当初、光検出器は遮光モード以外のモードの検出信号を出力するが、制御部はそれを遮光モードに対する検出信号としてデータを取得してしまう。
【0018】
そこで、図10(b)のように、入射光束の範囲内に遮光部101が完全に入りきった状態で第一フォトインタラプタ104が遮光部タブ101aを検出するように、第一フォトインタラプタ104を配置する。これにより、制御部は遮光モードに対する検出信号のみを取得することが可能となる。
【0019】
これは入射光束に関してのみ説明したものであるが、この他に、回転セクタ鏡の回転数(回転速度)の微視的な揺れ(ジッタなどの回転ムラ)や光検出器の周波数応答に係る問題もある。更に、回転セクタ鏡100への入射光が斜め方向から入射される場合、各セクタ板への光の入射位置は正面から見た場合とは多少ずれたものになる。これらがいずれも各モードの開始時点に影響を及ぼし、ひいては分光光度計の測定精度に影響するため、これらを考慮したデータ取得開始時点の設定が装置を製造する際の重要な工程となっている。
【0020】
また、回転セクタ鏡の駆動源として一般的に使用されるシンクロナスモータは、その回転数が電源周波数に依存するという問題がある。そのため、装置が使用される地域毎にその地域の電源周波数に対応した調整や、電源周波数の微小変動を予め見込んだ調整が必要となる。また、回転セクタ鏡の回転数が変化すると、それに伴って検出信号の積算時間が変化するため、測定結果のS/N比が変化してしまう。そのため、地域毎に装置性能がばらつくという問題もある。また、本来、回転セクタ鏡の回転数は光検出器の応答速度に応じて可変であることが望ましいが、シンクロナスモータの回転数を変えることは容易でない。
【0021】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その主な目的は、各モードのデータ積算期間の設定に関する調整を容易にした分光光度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために成された本発明は、
少なくとも2つのセクタ部を有し、測定光を各セクタ部に対応する少なくとも2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と、各モードの光強度を測定して光強度信号を生成する光検出器と、を備える分光光度計において、
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と、
前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部と、
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から、その検出信号に対応するモードの前記遅延時間だけ遅延した後に、該対応するモードの前記測定期間の間だけ前記光検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と、
を備えることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る分光光度計は、セクタ部毎に遅延時間と測定期間を設定することにより、ソフトウエア的にセクタ部毎の測定タイミングを調整可能としたことを特徴とする。本発明の分光光度計では、装置に機械的な誤差があっても遅延時間と測定期間の設定によってその分のずれが吸収されるように調整することができるため、製造時の調整の手間が大幅に削減される。また、回転セクタ鏡の駆動源にシンクロナスモータを使用する場合でも、地域毎の回転数の変化に応じて遅延時間と測定期間の設定を変更すれば容易に対応することができる。
【0024】
回転セクタ鏡の駆動源には、従来通りシンクロナスモータを用いることができるが、ブラシレスDCモータを用いることがより望ましい。ブラシレスDCモータは高速回転と連続運転が可能であり、また電源周波数に起因する回転数の変化が生じない。シンクロナスモータに比べて回転ムラが大きいという問題はあるが、これは回転ムラによる時間的なずれを見込んで遅延時間を適切に設定することにより解決することができる。また、シンクロナスモータと異なり回転数の制御が容易であるため、回転セクタ鏡の回転数を制御する回転数制御部を装置に組み込むことにより、光検出器の応答特性に応じた設定が可能となる。また、回転セクタ鏡の回転数の変化に応じた調整も、本発明では遅延時間を適宜設定するだけで済む。
なお、ブラシレスDCモータ以外でも、高速回転と連続運転、回転数の制御が可能なモータであれば、どのようなモータを使用しても構わない。
【0025】
前記回転位置検出部は、回転セクタ鏡の外周の同一の回転軌道上に設けられた複数のタブと、前記回転軌道上に設けられた、前記タブの通過を検出するフォトインタラプタと、前記フォトインタラプタから出力される信号の変化を検出する変化検出部と、により構成することができる。
【0026】
従来の構成ではモードの種類の数のフォトインタラプタを設けている。これは、モードの切り替わりを検出するためと、モード毎にフォトインタラプタの位置を微調整するためである。しかしながら、本発明ではモード毎の微調整を行わずとも遅延時間の設定により対応可能であるため、上記の構成を用いればフォトインタラプタは1個で済む。
【0027】
また、前記回転位置検出部は、回転セクタ鏡の1回転期間中の基準点を検出し、基準点信号を生成して測定制御部に送信し、前記測定制御部は、前記基準点信号を受信した時点から、各セクタ部が所定の回転位置に到達するまでの標準的な時間に前記モード毎の遅延時間を加えた時間が経過した時点を、該モード毎の前記光強度信号の取得開始時点とする、という構成とすることもできる。この構成を用いてもフォトインタラプタは1個で済む。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る分光光度計では、装置の機械的な誤差を遅延時間の設定によって調整することができるため、製造時の調整の手間が大幅に削減される。また、回転ムラの問題も遅延時間の設定によって解決することができるため、ブラシレスDCモータ等の回転位置を検出することができないモータであっても回転セクタ鏡の駆動源として用いることができるため、地域毎の装置性能のばらつきをなくすことができる。さらに、ブラシレスDCモータでは回転数の制御が容易であるため、光検出器の応答特性に応じて回転数を設定することが可能となる。また、回転セクタ鏡に配設するフォトインタラプタの数を減らすことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る分光光度計の一実施例を示す要部構成図。
【図2】本実施例の分光光度計に使用される回転セクタ鏡の側面図(a)、正面図(b)、第一セクタ板の正面図(c)、及び第二セクタ板の正面図(d)。
【図3】本実施例の分光光度計において回転セクタ鏡の回転に伴う光検出器からの光強度信号(a)、フォトインタラプタからの出力信号(b)、各セクタ部への切り替わりタイミングからの遅延時間の経過及びデータ採取期間(c)、及びデータ採取信号を示す模式的なタイミング図。
【図4】本実施例の回転セクタ鏡の変形例の正面図。
【図5】従来の回転セクタ鏡の側面図(a)、正面図(b)、第一セクタ板の正面図(c)、及び第二セクタ板の正面図(d)。
【図6】従来の回転セクタ鏡の正面図(a)、第一セクタ板の正面図(b)、第二セクタ板の正面図(c)。
【図7】従来の回転セクタ鏡の正面図(a)、第一セクタ板の正面図(b)、第二セクタ板の正面図(c)。
【図8】従来の回転セクタ鏡の正面図(a)、第一セクタ板の正面図(b)、第二セクタ板の正面図(c)。
【図9】従来の回転セクタ鏡の正面図(a)、第一セクタ板の正面図(b)、第二セクタ板の正面図(c)。
【図10】第一セクタ板に対して第一フォトインタラプタの位置を調整する前の正面図(a)、及び位置を調整した後の正面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の一実施例である分光光度計について、図1〜図3を参照して説明する。図1は本実施例によるダブルビーム方式の分光光度計の要部構成図である。
【0031】
図1において、光源1から出射された光は、入口スリット2、回折格子3、出口スリット4、ステッピングモータ(M)5を含む分光器6に導入され、所定の波長の単色光が取り出される。ステッピングモータ5は、入口スリット2を通過した入射光に対し波長分散素子である回折格子3の角度を変えることにより、出口スリット4を通過して取り出される単色光の波長を変化させる。分光器6から取り出された単色光は、モータ(M)8により回転駆動される回転セクタ鏡7によって、2つの反射鏡10、11のいずれかに振り分けられるか、もしくは遮光される。
【0032】
本実施例では、回転セクタ鏡7の駆動源であるモータ8として、3相ブラシレスDCモータを用いる。この3相ブラシレスDCモータには制御部20からの駆動制御信号に基づいてその回転数を制御するモータ駆動制御部9が設けられている。
なお、モータ駆動制御部9によるモータ8の回転数の制御は、例えば3相ブラシレスDCモータに多く備わっているホール素子からの信号や、モータ回転軸に取り付けたロータリエンコーダからの信号を利用した閉ループ制御によって行うことができる。
【0033】
次に、本実施例で使用する回転セクタ鏡7を図2に示す。この回転セクタ鏡7は、図4に示した従来の回転セクタ鏡と同様に、回転軸70cに固定された第一セクタ板70aと第二セクタ板70bの2枚のセクタ板を有する(図2(a))。第一セクタ板70aは扇形の4枚の遮蔽板(遮光部)71を有し(図2(c))、第二セクタ板70bは2枚の扇形のミラー(参照光部)72を有する(図2(d))。正面から見た回転セクタ鏡7には、開口部(試料光部)73が存在する(図2(b))。また、これら各セクタ部は180°回転対称に構成され、矢印Dの方向(反時計回り)に回転するものとする。
【0034】
一方、従来の回転セクタ鏡と異なる構造として、本実施例の回転セクタ鏡7では、タブ74が第一セクタ板70aの遮光部71の外周にのみ設けられ、タブ74の通過を検出するフォトインタラプタ75がタブ74の回転軌道上に1つだけ設けられている。また、4つの遮光部71のそれぞれに設けられた4つのタブ74のうちの1つには、セクタ部を区別するためのスリット76が設けられている。
以下、4つのタブ74を区別する際には、スリット76が設けられたタブ74を第一タブ74aとし、その他の3つのタブ74を第一タブ74aから時計回りの順に第二タブ74b、第三タブ74c、第四タブ74dとする。また、8つのセクタ部をそれぞれを区別する際には、第一タブ74aが設けられた遮光部71を第一遮光部71aとし、該第一遮光部71aから時計回りの順に第一参照光部72a、第二遮光部71b、第一試料光部73a、第三遮光部71c、第二参照光部72b、第四遮光部71d、第二試料光部73bとする。
【0035】
なお、第一タブ74aと回転対称の位置にある第三タブ74cでは、スリットは設けられていないものの、隣接する第一試料光部73a側の端部から第一タブ74aにあるスリットの180°回転対称の位置まで、欠陥77が設けられている。これは、後述するように、第一試料光部73aから第三遮光部71cへのセクタ部切り替わり位置を、第二試料光部73bから第一遮光部71aへのセクタ部切り替わり位置の180°回転対称の位置に合わせ、遅延時間を揃えるためである。
【0036】
フォトインタラプタ75から出力されたタブ検出信号(以下、「PI信号」とする)は、変化検出部19に送られる。ここではPI信号の変化からセクタ部の切り替えを検出し、積算対象とするモードを制御部20に通知する。変化検出部19によるセクタ部切り替えの具体的な検出方法については後述する。
【0037】
回転セクタ鏡7の回転に伴い、分光器6から到来する単色光の照射位置Lに試料光部73が来たときには、単色光は試料光部73を通り抜けて反射鏡11に当たり、試料側光束Lsとなって被測定試料13に照射される。一方、単色光の照射位置Lに参照光部72が来たときには、単色光は参照光部72で反射されて反射鏡10に当たり、参照側光束Lrとなって参照試料12に照射される。また、単色光の照射位置Lに遮光部71が来たときには、試料側光束Ls及び参照側光束Lrが共にない状態となる。
【0038】
参照試料12を通過した参照側光束Lrは反射鏡14で反射され、被測定試料13を通過した試料側光束Lsは反射鏡15、16で反射され、いずれも光検出器17に導入されて、時分割で試料信号と参照信号が検出される。また、試料側光束Ls及び参照側光束Lrが共にない期間には、光検出器17において暗信号が検出される。
【0039】
以下、参照信号が検出される期間をモードR、測定信号が検出される期間をモードSとする。また、暗信号が検出される期間については、それが第一遮光部71a又は第三遮光部71cによって遮光される場合と、第二遮光部71b又は第四遮光部71dによって遮光される場合とによって分け、前者をモードD1、後者をモードD2とする。すなわち、本実施例ではモードが4つあるものとする。
【0040】
光検出器17による検出信号(光強度信号)は図示しない増幅器などで増幅された後に、A/D変換器(ADC)18に入力される。一方、制御部20は、変化検出部19から積算対象とするモードの通知を受けると、遅延時間記憶部21から該モードに対応する遅延時間を参照する。また、測定期間記憶部24から、該モードに対応する測定期間を参照する。上記のように、本実施例ではS、R、D1、D2の4つのモードを想定している。遅延時間記憶部21にはS、R、D1、D2のモードのそれぞれに対応して遅延時間Ts、Tr、Td1、Td2が用意され、測定期間記憶部24には測定期間Ws、Wr、Wd1、Wd2が用意されている。制御部20は通知を受け取った時点から、対応するモードの遅延時間だけ時間が経過した後に、そのモードの測定期間の間だけADC18にデータ採取信号を送信する。なお、上記の遅延時間及び測定期間は、モータ8の回転数などの条件に応じて変更することが可能である。
【0041】
ADC18は、制御部20からデータ採取信号を受け取ると、所定のサンプリング周期で光強度信号をサンプリングし、デジタル値に変換して積算処理部22に送る。積算処理部22はこれらのデジタル値を積算したうえで積算値を制御部20に送り、制御部20は該積算値を積算値記憶部23内の対応するモードの記憶領域内に保存する。なお、同一のモードに対して所定の回数分だけ積算を行う場合、例えば制御部20はADC18にデータ採取信号を送ると同時に積算値記憶部23から対応するモードの積算値を参照し、それを初期値として積算処理部22に与え、該初期値にADC18から送られてくる光強度信号のデジタル値を順次積算していく、という構成を用いればよい。その後、積算値記憶部23に記憶された古い積算値のデータは、新しい積算値のデータに置き換えられる。
【0042】
なお、本実施例では、ADC18から送られてくる光強度信号のデジタル値に対し、常に積算処理を行うものとしているが、積算処理を行わずにADC18からの時分割信号をそのまま所定の記憶部にモード毎に記憶する構成とすることもできる。
【0043】
次に、本実施例の分光光度計の特徴的であるモード毎の積算処理について図3のタイミング図を用いて説明する。図3(a)は、回転セクタ鏡7の回転に伴う光強度信号の変化を示している。この図に示すように、光検出器17から出力される光強度信号には、信号が静定している期間と静定するまでの変化途中の期間とがある。正確な測定結果を得るためにはS、R、D1、D2の各モードにおいて信号が静定している期間内にデータを採取する必要がある。
【0044】
図3(b)はフォトインタラプタ75から出力されるPI信号の変化を示している。この図に示すように、PI信号には、短い時間間隔で強→弱、弱→強と連続的に信号レベルが変化する期間がある。これは、第一タブ74aにおけるスリット76の通過をフォトインタラプタ75が検出したことを示している。変化検出部19は、これによって第二試料光部73bから第一遮光部71aへセクタ部が切り替わったと判断し、スリット76の通過による強→弱、弱→強の変化のうち弱→強に信号が変化した時点で、モードD1を積算対象とするように制御部20に通知する。
【0045】
制御部20は、変化検出部19からモードD1を積算対象とする通知を受けると、遅延時間記憶部21と測定期間記憶部24からモードD1に対応する遅延時間Td1と測定期間Wd1を参照する。そして、変化検出部19から通知を受けた時点から遅延時間Td1だけ経過した後にADC18にデータ採取信号を測定期間Wd1の間だけ送る(図3(d))。
【0046】
なお、各セクタ部への切り替わりタイミングからの遅延時間の経過及びデータ採取期間を分かりやすく示したタイミング図が図3(c)である。ADC18はデータ採取信号を受信している期間内で光検出器17からの光強度信号のサンプリングとデジタル値への変換を行い、積算処理部22に送る。積算処理部22ではADC18から取得されたデータの積算が行われ、該積算値は制御部20に送られた後、制御部20によって積算値記憶部23内のモードD1に対応する記憶領域内に保存される。このように、本実施例の制御部20は装置各部を制御を行うと共に、本発明の積算制御部としても機能する。
【0047】
一方、第一タブ74aがフォトインタラプタ75の間を完全に通過すると、PI信号は強→弱へと変化する。変化検出部19はスリット76の通過を検出してからPI信号の信号レベルが強→弱、弱→強、強→弱、弱→強、強→弱、弱→強、強→弱と変化する毎に第一参照光部72a、第二遮光部71b、第一試料光部73a、第三遮光部71c、第二参照光部72b、第四遮光部71d、第二試料光部73bへとセクタ部が切り替わったと判断し、制御部20に積算対象とするモードをR、D2、S、D1、R、D2、Sへとそれぞれ変更するよう通知する。制御部20は変化検出部19からの通知によってモードを変更する毎に遅延時間記憶部21と測定期間記憶部24を参照し、通知を受けた時点からそれぞれの遅延時間が経過した時点でそれぞれの測定期間の間だけデータ採取信号をADC18に送信する。そして、積算処理部22において採取した光強度信号のデジタル値を積算したうえで、積算値記憶部23内の対応するモードの記憶領域に積算値を記憶する。
【0048】
以上で回転セクタ鏡7の1回転が終了したので、変化検出部19は再びスリット76の通過を検出することになる。これによって変化検出部19は第二試料光部73bから第一遮光部71aへとセクタ部が切り替わったことを認識するため、制御部20は上記と同様の動作により次の1回転における各モードの積算を制御する。このようにスリット76の位置はPI信号の連続的な変化により判別することができるため、例えば新しい測定を開始するときでも、変化検出部19はPI信号の変化がどのセクタ部に対応するものなのかを判別することができる。
【0049】
なお、第一試料光部73aから第三遮光部71cへのセクタ部切り替え位置は、第三タブ74cに設けた欠陥77によって、第二試料光部73bから第一遮光部71aへのセクタ部切り替え位置の180°回転対称の位置になっている。これにより、第一タブ74aと第三タブ74cとではタブの形状が異なるものの、モードD1の遅延時間として同じTd1を用いることができる。もちろん、欠陥77を設けることなく、各々独立した遅延時間及び測定期間を設定し、参照する構成とすることも可能である。
【0050】
また、本実施例の分光光度計に用いる回転セクタ鏡7の変形例を図4に示す。この変形例の回転セクタ鏡7では、基準点検出用のタブ74eが第一遮光部71aの外周の第二試料光部73b側端部に1つだけ設けられている。該タブ74eがフォトインタラプタ75の間を通過すると、フォトインタラプタ75は短期間で弱→強、強→弱に変化するPI信号を出力する。変化検出部19は、弱→強にPI信号が変化した時点の回転セクタ鏡7の回転位置を基準点とし、該基準点が検出され、第二試料光部73bから第一遮光部71aへ切り替わった時点から、各々のセクタ部へと切り替わるまでの標準的な時間が経過する毎に、積算対象とするモードを制御部20に通知する。この場合、各遅延時間は、基準点から各セクタ部での測定開始時刻までの時間に対応するといえる。
例えば各セクタ部の中心角が全て45°であり、且つ回転セクタ鏡7の1回転に要する時間がTwであった場合、セクタ部の切り替わりはTw/8毎になる。その後の動作は、上記実施例と同じである。
【0051】
なお、上記実施例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。例えば、モータ駆動制御部9の回転数の制御には、フォトインタラプタ75によるPI信号を援用することができる。また逆に、回転セクタ鏡7の回転位置の検出に、モータ8に設けられたホール素子やロータリエンコーダからの信号を援用しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1…光源
2…入口スリット
3…回折格子
4…出口スリット
5…ステッピングモータ
6…分光器
7…回転セクタ鏡
8…モータ
9…モータ駆動制御部
10、11、14、15、16…反射鏡
12…参照試料
13…被測定試料
17…光検出器
18…A/D変換器(ADC)
19…変化検出部
20…制御部
21…遅延時間記憶部
22…積算処理部
23…積算値記憶部
24…測定期間記憶部
70a…第一セクタ板
70b…第二セクタ板
70c…回転軸
71…遮光部(遮蔽板)
71a…第一遮光部
71b…第二遮光部
71c…第三遮光部
71d…第四遮光部
72…参照光部(ミラー)
72a…第一参照光部
72b…第二参照光部
73a…第一試料光部
73b…第二試料光部
74…タブ
74a…第一タブ
74b…第二タブ
74c…第三タブ
74d…第四タブ
74e…基準点検出用タブ
75…フォトインタラプタ
76…スリット
77…欠陥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのセクタ部を有し、測定光を各セクタ部に対応する少なくとも2つのモードに振り分ける回転セクタ鏡と、各モードの光強度を測定して光強度信号を生成する光検出器と、を備える分光光度計において、
前記モード毎に設定された前記回転セクタ鏡の回転位置を検出する回転位置検出部と、
前記モード毎の遅延時間を記憶する遅延時間記憶部と、
前記モード毎の測定期間を記憶する測定期間記憶部と、
前記回転位置検出部からの検出信号を受信した時点から、その検出信号に対応するモードの前記遅延時間だけ遅延した後に、該対応するモードの前記測定期間の間だけ前記光検出器からの光強度信号を測定値として取得する測定制御部と、
を備えることを特徴とする分光光度計。
【請求項2】
前記遅延時間及び前記測定期間が、前記回転セクタ鏡の動作に応じて変更可能であることを特徴とする請求項1に記載の分光光度計。
【請求項3】
さらに、
前記測定制御部が取得した光強度信号を前記モード毎に積算する積算処理部と、
前記積算処理部による積算値を、前記モード毎に記憶する積算値記憶部と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の分光光度計。
【請求項4】
回転セクタ鏡の駆動源にブラシレスDCモータを用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項5】
前記ブラシレスDCモータの回転数を制御する回転数制御部を有することを特徴とする請求項4に記載の分光光度計。
【請求項6】
前記回転位置検出部が、回転セクタ鏡の外周の同一の回転軌道上に設けられた複数のタブと、前記回転軌道上に設けられた、前記タブの通過を検出するフォトインタラプタと、前記フォトインタラプタから出力される信号の変化を検出する変化検出部と、を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項7】
前記フォトインタラプタの数が1つであることを特徴とする請求項6に記載の分光光度計。
【請求項8】
前記回転位置検出部は、回転セクタ鏡の1回転期間中の基準点を検出し、基準点信号を生成して前記測定制御部に送信し、
前記測定制御部は、前記基準点信号を受信した時点から、各セクタ部が所定の回転位置に到達するまでの標準的な時間に前記モード毎の遅延時間を加えた時間が経過した時点を該モード毎の前記光強度信号の取得開始時点とする、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の分光光度計。
【請求項9】
前記基準点の検出が、単一のフォトインタラプタによって行われることを特徴とする請求項8に記載の分光光度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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