説明

分割体の製造方法及び製造装置

【課題】薄肉で剛性の低い板状素材でも欠けが生じることなく分割体を製造する。
【解決手段】あらかじめ分割溝12が形成された脆性材料からなる板状素材11を湾曲させることにより分割溝12から分割して複数の分割体13を製造する方法であって、板状素材11の両面に可撓性材料からなる一対の当て板部材21を配置し、これら当て板部材21により板状素材11を挟持した状態で該当て板部材21を撓ませることにより両当て板部材21の間で板状素材11を分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品を搭載するセラミックス基板などの脆性材料からなる板状素材を小片に分割して個々の分割体を製造する方法及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子などの電子部品を搭載するための基板は、これら基板を複数形成可能な広い面積を有するセラミックス板等の板状素材の表面に、これを各基板毎に区画するように分割溝をあらかじめ設けておき、この分割溝によって区画される領域にそれぞれ回路を形成した後、その分割溝に沿って分割することにより製造される。
【0003】
このような板状素材を分割する技術として、従来では、凹面、凸面を有する一組の型の間で板状素材を湾曲させる方法(特許文献1参照)、ベルトによって挟んだ状態でベルト毎曲げる方法(特許文献2参照)などがある。また、回路面を汚さないように、櫛歯状の型によって分割予定部を押圧して分割する方法(特許文献3参照)も提案されており、この方法は、回路面の清浄が保たれ、分割面の傾きが少なく、寸法精度の高い分割工法となっている。
【特許文献1】特開平8−206999号公報
【特許文献2】特開2002−18830号公報
【特許文献3】特開2006−281324号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電子部品として、半導体素子の中でも電力供給のためのパワーモジュールは、発熱量の増大、接合部材の薄肉化のための剛性低下により、使用状況下でこれまで以上の熱応力にさらされ、相手部材の歪みにより絶縁基板が曲げ変形を受け、絶縁基板の割れを生じることがある。この割れは、これまで問題にならなかった分割時に発生する小さな欠け(チッピング)が起点となっていると考えられており、そのような欠けが生じないように分割することが望まれている。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、薄肉で剛性の低い板状素材でも欠けが生じることなく分割体を製造することができ、パワーモジュール用基板の製造に好適な製造方法及び製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来方法による小さな欠けの発生の割合は、板状素材の中央部で多く見られており、本発明者は、その原因が分割の過程に関係すると推定し、分割の現象を詳細に検討した。図7に先端を凹面又は凸面とした一組の櫛歯状の型1,2を使用して板状素材3を分割する様子を(a)〜(d)の順に模式的に示している。始めに(a)から(b)に示すように板状素材3の中央から二つに分割され,次に分割された二つの板状素材3の中央部に(c)で示すように分割が生じ、(d)に示すように順次分割されて、個々の分割体4に細分化されていく。ただし、その順番は凹凸の型1,2の寸法等によって前後することがある。
【0007】
各工程に着目すると、図7(a)から(b)では、中央で分割されるまで板状素材3の全体が撓むため、中央の分割溝から分割されるために必要な力に加え、板状素材3を曲げるための力が付与される。この余剰なエネルギが、分割された板状素材3の「あばれ」となり、上下の櫛歯5による板状素材3の拘束が不充分な状況下、あるいは上下の櫛歯5と板状素材3との間で遊びのある状況下で分割が生じると考えられる。上下の櫛歯5による板状素材3の拘束が充分な場合は図8(a)に示すように板状素材3が左右均等に分割されるが、上下の櫛歯5による拘束が充分でない場合は、例えば図8(b)に示すように板状素材3(あるいは分割体4)に舌状バリ6が発生して、そのバリの部分が他の分割体4では欠け7となり、あるいは図8(c)に示すように分割後の板状素材3(分割体4)どうしの接触により欠け8が生じると推定された。この現象は図7(b)の工程だけでなく、(c)の工程でも同様であり、余剰エネルギの多い順番に欠けの頻度が多いと推定された。
【0008】
このような知見の下、本発明の分割体の製造方法は、あらかじめ分割溝が形成された脆性材料からなる板状素材を湾曲させることにより前記分割溝から分割して複数の分割体を製造する方法であって、前記板状素材の両面に可撓性材料からなる一対の当て板部材を配置し、これら当て板部材により前記板状素材を挟持した状態で該当て板部材を撓ませることにより両当て板部材の間で前記板状素材を分割することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の分割体の製造装置は、あらかじめ分割溝が形成された脆性材料からなる板状素材を湾曲させることにより前記分割溝から分割して複数の分割体を製造する分割体製造装置であって、前記板状素材の両面に配置される可撓性材料からなる一対の当て板部材と、これら当て板部材により前記板状素材を挟持した状態で該当て板部材を撓ませる当て板部材変形手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
すなわち、可撓性材料からなる当て板部材を板状素材の両面に配置して、これら当て板部材を撓ませることにより、当て板部材を介して板状素材が湾曲させられるとともに、脆性材料からなる板状素材に対して、当て板部材は、その可撓性により板状素材の表面を全面的に押圧することになり、板状素材の全面に接触した状態で撓ませられることになる。したがって、板状素材は、分割されるときも両当て板部材により両面から拘束され、「あばれ」が生じることがなくなるものである。
【0011】
また、本発明の製造装置において、前記当て板部材における前記板状素材への対向面に、該板状素材における前記分割溝の形成部位に当接する凸条部が設けられていることを特徴とする。
【0012】
この製造装置においては、当て板部材が凸条部によって板状素材の分割溝形成部位のみに接触することになるので、電子部品搭載基板として使用する場合にも、その搭載面は清浄のまま保持することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の分割体の製造方法及び製造装置によれば、可撓性材料からなる当て板部材の間に板状素材を挟持した状態で湾曲させるようにしているから、板状素材が分割されるまで、可撓性に富む当て板部材が板状素材の表面に全面的に接触した状態を維持することができ、分割時の板状素材の「あばれ」の発生を防止して、欠けのない分割体を製造することができる。したがって、薄肉で剛性の低いパワーモジュール用基板の製造に適用することにより、高品質の基板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る分割体の製造方法及び製造装置の実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0015】
この実施形態の製造方法によって分割される板状素材は、パワーモジュール用の絶縁基板となるものであり、例えばAlN(窒化アルミニウム)のセラミックスによって形成されている。その板状素材11には、分割予定部の片面に、レーザ加工やダイヤモンドホイールによる切削加工等によって分割溝12が形成されている。この分割溝12は、例えば、分割によって矩形の絶縁基板(分割体)13を複数形成するために、縦方向及び横方向にそれぞれ一定の間隔で配置されることにより全体として格子状に形成されている。また、分割溝12によって区画された領域内には、その両面にアルミニウム等の金属板14がろう付け等によって貼り付けられており、その一方の金属板14の表面が、パワーモジュールの電子部品の搭載面とされ、他方の金属板14はヒートシンク等への伝熱体とされる構成である。なお、この板状素材12は一例であり、設計に応じて適宜変更可能である。
【0016】
図1は第1実施形態の製造装置を示している。この第1実施形態の製造装置は、板状素材11の両面に配置される一対の当て板部材21と、この当て板部材21の一端部を把持する固定部材22と、当て板部材21の他端部を把持して曲げモーメントを作用させる曲げモーメント付与手段23とから構成されている。
【0017】
当て板部材21は、脆性材料である板状素材よりも大きい可撓性を有する合成樹脂、例えば塩化ビニル樹脂(常温での弾性係数が約3GPa)により構成され、矩形の板状部24と、この板状部24の片面に櫛歯状に形成された複数の凸条部25とを備える構成とされている。その板状部24は、板状素材11の全面をカバーできるように板状素材11よりも大きい面積に形成され、全体として均等に湾曲できるように肉厚も均一に形成されている。
【0018】
また、凸条部25は、当て板部材21を板状素材11の表面に配置させたときに板状素材11における分割溝12の形成部位に、該分割溝12の長さ方向に沿って当接させられるものであり、板状部11の表面に、一定の幅で垂直に立ち上がるように形成されている。凸条部25の先端の幅は分割溝12の幅とほぼ同じ寸法に設定されている。なお、分割溝12は格子状に形成されているが、この凸条部25は、格子の縦方向又は横方向のいずれか一方向のみ、例えば縦方向に沿って形成され、その縦方向に沿う分割溝12と同じ相互間隔で平行に形成されている。
【0019】
そして、この当て板部材21は、板状素材11を両面から挟むように一対設けられ、その場合に、両当て板部材21の凸条部25を対向させ、これら凸条部25によって板状素材11における分割溝12の形成部位を挟むように保持する構成とされている。したがって、これら二つの当て板部材21は、板状素材11の表面側と裏面側とにそれぞれ配置され、全く同じ材料により同じ形状、同じ寸法に形成される。
【0020】
また、固定部材22は、支点22aにより回転自在に支持され、板状素材11を挟持した状態の両当て板部材21の一端部を保持してピン支点とするものであり、この端部を嵌合する凹部26が形成されている。また、曲げモーメント付与手段23は、この実施形態の場合は、固定部材22に固定されている端部とは反対側の端部に曲げモーメントを作用させるものであり、その端部を把持して回転力を付与する構成である。この場合、曲げモーメント付与手段23は、板状素材11の分割溝12が広がる方向、つまり図1に矢印で示すように、板状素材11における分割溝12が設けられている面を凸面に湾曲させる方向に曲げモーメントを付与するようになっている。すなわち、この曲げモーメント付与手段23及び固定部材22によって、当て板部材21を撓ませる当て板部材変形手段が構成される。
【0021】
次に、このように構成した製造装置を使用して、分割体13としてパワーモジュール用基板を製造する方法について説明する。
【0022】
あらかじめ板状素材11の片面に格子状に分割溝12を形成し、この分割溝12により囲まれた領域の両面に金属板14をろう付けにより貼り付けておく。
【0023】
そして、この板状素材11の両面に当て板部材21を接触させる。このとき、前述したように、当て板部材21の凸条部25が板状素材11の分割溝12の部分に当接するように配置する。その板状素材11を挟持した状態で、一端部を固定部材22の凹部に嵌合して固定し、他方の端部を曲げモーメント付与手段23に保持させる。この状態では、板状素材11の分割溝12が形成されている面が曲げモーメントによって凸状に湾曲させられるように配置される。図1の例では分割溝12を下方に向けて配置している。そして、曲げモーメント付与手段23に保持されている端部に図1(a)の矢印で示すように曲げモーメントを付与すると、その曲げモーメントは、当て板部材21の全長にわたって一定のものとして作用することになる。そして、その曲げモーメントによって両当て板部材21とともに板状素材11が湾曲させられ、板状素材11の弾性限界を超えて湾曲すると、板状素材11が分割溝12に沿って分割される。
【0024】
この場合、当て板部材21の凸条部25は、板状素材11の両側に配置された当て板部材21により、板状素材11の分割溝12の部分に両面から当接しており、当て板部材21のほぼ全面にわたって分割溝12と同じ一定の間隔をおいて相互に平行に形成されていることから、板状素材11のほぼ全面にわたって接触している。また、両当て板部材21は、全く同じ材料により同じ形状、同じ寸法で形成されていることから、同じ量だけ湾曲変形する。したがって、これら両当て板部材21及び板状素材11が凸条部25の当接状態を維持したまま一体のものとして変形することになる。
【0025】
そして、これら当て板部材21及び板状素材11のうち、当て板部材21は板状素材11に比べて可撓性が高いことから、付与された曲げモーメントによって大きく湾曲変形させられていくのに対して、板状素材11は、脆性材料であり、当て板部材21の湾曲変形にある程度までは追従して変形するが、そのうち追従できずに分割溝12から分割させられることになる。その分割時の状態を示したのが図1(b)であり、板状素材11が分割に至る際にも、当て板部材21はまだ弾性域の範囲内にあり、その凸条部25の間に板状素材11を挟んだ状態を維持しながら湾曲変形している。そして、曲げモーメントが一様に作用しているから、当て板部材21の長さ方向のどの部分もほぼ同じ曲率半径で湾曲させられており、このため、両当て板部材21の間に挟まれた板状素材11は、その分割溝12の全部がほぼ同じタイミングで一度に分割させられることになる。
【0026】
したがって、板状素材11は、その分割溝12の部分が当て板部材21の凸条部25によって両面から拘束された状態で全体がほぼ一度に分割されるから、「あばれ」の現象が発生せず、チッピング等の欠けの発生も抑制されるものである。
また、このように分割後であっても凸条部25の間に各分割体13が保持され、その両面に設けられている金属板14には当て板部材21が接触しないので、これら金属板14の表面は清浄のまま維持することができる。
【0027】
図2は、本発明の製造装置の第2実施形態を示している。
この実施形態の製造装置においても、当て板部材31に凸条部25が形成されている点、及び一対の当て板部材31の凸条部25間に板状素材11を挟んだ状態に保持する点等は第1実施形態のものと同様である。この実施形態においては、当て板部材31の両端部に、同じ長さの延長部31aがそれぞれ形成されており、これら延長部31aの間の中間部に板状素材11が挟持されるようになっている。また、これら板状素材11を挟んだ状態の両当て板部材31の延長部31aの端部がピン支点32により回転自在に支持されるとともに、これらピン支点32よりも内側でかつ延長部31aよりも内側(つまり板状素材11を挟持している中間部の両端)にビーム33の両端部のピン状突部34が接触し、そのビーム33の中央部に荷重を作用させる構成とされている。各ピン支点32からビーム33の両端のピン状突部34までの距離(図2の例では延長部31aの長さ)は同一寸法とされている。
【0028】
この実施形態の場合は、両当て板部材31はいわゆる単純はりの支持構造とされるとともに、各ピン支点32から同一距離の位置(図2の場合は板状素材11の両端位置)にビーム33のピン状突部34による同じ集中荷重が作用する構成とされている。したがって、各ピン支点32からビーム33のピン状突部34までは曲げモーメントが徐々に大きくなり、このビーム33のピン状突部34よりも内側には、ビーム33の全長(言い換えれば板状素材11の全長)にわたって均一な曲げモーメントが作用することになる。つまり、この実施形態においては、ピン支点32、ピン状突部34を有するビーム33及びビーム33に荷重を作用させる押圧手段によって、当て板部材31を撓ませる当て板部材変形手段が構成される。なお、その他の第1実施形態の構成と共通部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0029】
この実施形態の場合も、板状素材11は当て板部材31によってほぼ全面的に挟持された状態で一緒に湾曲変形され、可撓性に優れる当て板部材31がまだ弾性域内にあるときに板状素材11が分割され、その分割の際も両当て板部材31の凸条部25によって拘束された状態が維持されるため、「あばれ」の現象が発生せずに欠けの発生も抑制される。
【0030】
また、図3は、本発明の製造装置の第3実施形態を示しており、この実施形態の製造装置においては当て板部材21の構造等は第1実施形態のものと同様である。この実施形態では、当て板部材21が凸面41を有する型42と凹面43を有する型44とによって挟まれることにより、その凸面41及び凹面43に沿って曲げ変形させられる構成とされている。この場合、凸面41及び凹面43は同じ曲率半径とされている。この実施形態では、これら凸面41を有する型42と凹面43を有する型44及び型42に荷重を作用させる押圧手段によって当て板部材変形手段が構成される。
【0031】
この製造装置においては、凸面41及び凹面43を有する型42,44によって、板状素材11の中央に集中荷重を受けるものであるから、その点では従来の図4に示す構造の櫛歯状の型1,2によるものと変わらず、中央で曲げモーメントが最大になるが、可撓性を有する当て板部材21が板状素材11の両面に設けられていることから、これら当て板部材21の撓み変形によって板状素材11はほぼ全面的に押圧されることになり、両面を当て板部材21の凸条部25によって拘束された状態に維持しながら変形して分割されることになる。
【0032】
したがって、この実施形態のように当て板部材21に局部的に集中荷重を作用させるものであっても、可撓性を有する当て板部材が撓みながら板状素材11を変形させ、しかもこの当て板部材21が全面的に板状素材11に接触していることから、局部的な集中荷重が板状素材11に対しては全体に均一な力として作用するとともに、分割の際にも当て板部材21の凸条部25による両側からの拘束状態が維持され、両当て板部材21の間での「あばれ」の現象が抑制され、欠けの発生が防止されるのである。
【0033】
また、図4は、本発明の製造装置の第4実施形態を示している。この実施形態の製造装置は、当て板部材51が板状素材11よりも長尺に形成されており、その当て板部材51の中間部分の一部を残して両端部の両面を押さえる上下一組の台金部材52A,52B及び53A,53Bが前後に一組ずつ配設され、前側の一組の台金部材52A,52Bと後側の台金部材53B,53Bの間に露出する当て板部材51を上方から押圧することにより、これら前側の台金部材52A,52Bと後側の台金部材53A,53Bとの間で撓ませるロール状の圧下部材54が設けられた構成とされている。この実施形態の場合、二つの組の台金部材52A,52B,53A,53Bと圧下部材54とにより当て板部材変形手段が構成される。
【0034】
この製造装置においては、板状素材11を挟持した当て板部材51を上側の両台金部材52A,53Aと下側の両台金部材52B,53Bの間に挿通させ、分割溝12の間隔で間欠送りしながら、前側の台金部材52A,52Bと後側の台金部材53A,53Bの間で圧下部材54によって分割溝12の部分を圧下して湾曲させることにより、分割溝12の部分を順次分割していくものである。1枚の板状素材11の分割が終わったら、当て板部材51の間に別の板状素材を挟持し、同様にして間欠送りしながら分割溝の部分から1個ずつ分割する作業を繰り返すことが行われる。
【0035】
また、図5は、本発明の製造装置の第5実施形態を示している。この実施形態の製造装置は、当て板部材61,62が無端帯状に形成され、その帯状部63の表面に上記各実施形態と同様の凸条部25が形成されており、プーリ64によって凸条部25を外側に向けた状態に巻回され、上下に板状素材11を挟持可能な間隔を開けて配置されている。また、これら当て板部材61,62が相互に平行に配置される部分には、第4実施形態のものと同様の、上下一組の台金部材65A,65B及び66A,66Bと、ロール状の圧下部材67とが設けられており、前側の一組の台金部材65A,65Bと後側の台金部材66A,66Bの間に露出する当て板部材61,62を上方から圧下部材67によって押圧することにより、当て板部材61,62を撓ませる構成とされている。
【0036】
そして、プーリ64を間欠的に回転駆動して、当て板部材61,62を凸条部25の間隔ずつ間欠走行させることにより、両当て板部材61,62の間に挟持した板状素材11を分割溝12の間隔ごとに移動させ、途中の圧下部材67により上方から圧下することにより当て板部材61,62を撓ませて、その間の板状素材11を分割する構成である。この実施形態の場合は、二つの組の台金部材65A,65B,66A,66Bと圧下部材67とにより当て板部材変形手段が構成される。
なお、下側の当て板部材62の方が上側の当て板部材61よりも長く形成され、上側の当て板部材61よりも送り方向の手前側にはみ出しており、そのはみ出している部分が板状素材11を載置する板状素材供給部68とされ、その上に板状素材11を連続的に供給しながら、順次分割することができるようになっている。
【0037】
以上の実施形態による分割方法では、板状素材の欠けの発生が極めて少なくなり、分割面の真直度が増し,分割面の粗さが改善される。そこで、図7に示す従来工法から任意に抜取った製品と、図2に示す本発明の第2実施形態及び図3に示す第3実施形態の方法で分割した製品とで、中央位置の分割面の表面粗さを比較した。図6に、角部から2.5mmの範囲を粗さ計によって測定した結果を示す。図7の従来方法によるものを(a)、図2の第2実施形態によるものを(b)、図3の第3実施形態によるものを(c)で示している。従来方法では平均粗さRa=3.07μm、図2の第2実施形態による方法では2.60μm、図3の第3実施形態による方法では2.37μmの結果となり、本発明の実施形態工法での改善が確認できた。
【0038】
従来の図7に示す方法による場合は板状素材に約2%の割合で欠けが発生し、その大部分が中央部において発生していた。しかし図2の第2実施形態工法を用いた簡易試験による切断面の調査(n=21)では、50倍の顕微鏡観察でも分割面の欠けは察されず、良好な結果となった。
【0039】
また、この欠けの発生とともに分割時の微粉の発生も抑制され、表面の清浄度が著しく改善した。さらに、両面から拘束された状態で分割されるため、分割面の真直度も増し、寸法精度が向上した。このため、この製造方法によって製造された分割体は、使用中における割れの発生が極めて少なくなり、高い信頼性を維持することができる。
【0040】
なお、以上の各実施形態では、格子状に形成した分割溝12のうち、縦方向に沿う分割溝12に沿って板状素材11を分割する方法を述べたが、横方向に沿う分割溝に対しては、その横方向に沿って凸条部を形成した別の当て板部材を用意し、縦方向に沿う分割溝12からの分割によって形成された短冊状の板状素材に対して同様の方法で分割することができる。
【0041】
また、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、二つの当て板部材を塩化ビニル樹脂で形成したが、分割対象の板状素材より大きい可撓性を有するものであれば、他の材料で形成してもよい。また、各実施形態では二つの当て板部材とも同じ材料によって同じ形状、同じ寸法に形成し、したがってその可撓性も同じ程度に形成されているが、板状素材が変形して分割されるまでの間、及び分割後においても両当て板部材の間に板状素材又は分割体を保持できるものであれば、必ずしも両方が同じ特性でなくてもよい。さらに、当て板部材の板状部と凸条部との材料を変えてもよく、板状部は可撓性を有する材料により構成し、凸条部は板状素材に当接するため耐摩耗性材料として硬質プラスチック等により構成するようにしてもよい。また、板状素材の片面にのみ分割溝を形成した例を示したが、両面に分割溝を形成したものに適用してもよい。また、本発明は、パワーモジュール用基板以外にも、各種半導体基板等を分割して製造する場合に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る分割体の製造装置の第1実施形態を示す正面図であり、(a)が当て板部材を変形させる前の状態を示し、(b)が当て板部材を変形させ板状素材を分割した状態を示している。
【図2】本発明に係る分割体の製造装置の第2実施形態を示す正面図であり、図1と同様に変形前後の状態をそれぞれ(a)(b)に示している。
【図3】本発明に係る分割体の製造装置の第3実施形態を示す正面図であり、図1と同様に変形前後の状態をそれぞれ(a)(b)に示している。
【図4】本発明に係る分割体の製造装置の第4実施形態を示す正面図である。
【図5】本発明に係る分割体の製造装置の第5実施形態を示す正面図である。
【図6】本発明と従来方法とによる分割面の粗さを粗さ計で測定した結果を示すチャート図である。
【図7】従来の製造装置により板状素材を分割している様子を順に示した正面図である。
【図8】板状素材が分割された直後の状態について、種々の条件の場合を想定して模式的に示した正面図である。
【符号の説明】
【0043】
11 板状素材
12 分割溝
13 絶縁基板(分割体)
14 金属板
21 当て板部材
22 固定部材
22a 支点
23 曲げモーメント付与手段
24 板状部
25 凸条部
26 凹部
31 当て板部材
31a 延長部
32 ピン支点
33 ビーム
34 ピン状突部
41 凸面
42 型
43 凹面
44 型
51 当て板部材
52A,52B 台金部材
53A,53B 台金部材
54 圧下部材
61,62 当て板部材
63 帯状部
64 プーリ
65A,65B 台金部材
66A,66B 台金部材
67 圧下部材
68 板状素材供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あらかじめ分割溝が形成された脆性材料からなる板状素材を湾曲させることにより前記分割溝から分割して複数の分割体を製造する方法であって、
前記板状素材の両面に可撓性材料からなる一対の当て板部材を配置し、
これら当て板部材により前記板状素材を挟持した状態で該当て板部材を撓ませることにより両当て板部材の間で前記板状素材を分割することを特徴とする分割体の製造方法。
【請求項2】
あらかじめ分割溝が形成された脆性材料からなる板状素材を湾曲させることにより前記分割溝から分割して複数の分割体を製造する分割体製造装置であって、
前記板状素材の両面に配置される可撓性材料からなる一対の当て板部材と、
これら当て板部材により前記板状素材を挟持した状態で該当て板部材を撓ませる当て板部材変形手段とを備えることを特徴とする分割体製造装置。
【請求項3】
前記当て板部材における前記板状素材への対向面に、該板状素材における前記分割溝の形成部位に当接する凸条部が設けられていることを特徴とする請求項2記載の分割体製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−143197(P2009−143197A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325527(P2007−325527)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】