説明

分割型堰付き段付き浸漬ノズル

【課題】偏流が更に低減された浸漬ノズルを提供する。
【解決手段】内側底面3に、溶鋼吐出孔2の穿孔方向に対して平行に延びる第一整流突部4が同列状に一対で設けられる。浸漬ノズル1の内周面7には、第一整流突部4と平行に延び、浸漬ノズル1の底面視において第一整流突部4を挟んで対向する、第二整流突部8が一対で設けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造に用いられる浸漬ノズルに係り、詳しくは溶鋼吐出流の偏流を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
(本願明細書において、「偏流」とは、鋳型厚み方向における溶鋼吐出流の偏流と、鋳型幅方向における溶鋼吐出流の偏流、のうち少なくとも何れか一方又は両方を指すものとする。)
【0003】
本願出願人の出願に係る特許文献1(特開2007−216271号公報)には、溶鋼吐出孔の穿孔方向に対して平行に延びる突部が内側底面に突設された浸漬ノズル(同文献図2参照)が開示されている。そして、この突部の存在により、鋳型厚み方向の偏流が低減された旨が記載されている(同文献図10及び図11参照)。
【0004】
また、特許文献2(国際公開第2005/070589号パンフレット)には、吐出方向に平行に延びた1本の尾根状突起をノズル底部内面に設けた浸漬ノズルが開示されている(同文献2図10及び図11参照)。この尾根状突起によれば、対向する2つの吐出孔に向かう安定な渦流が、尾根状突起により分けられた2つの領域にそれぞれ形成され、吐出流が安定する、とされる。
【0005】
また、特許文献3(特開2005−297022号公報)は、溶鋼流通方向に対して垂直な一面上に突起部を4ヶずつ3段、合計12ヶ配設した浸漬ノズルが開示されている(同文献第8頁第5〜7行、同文献図2(A)参照)。また、溶鋼流通方向に対して垂直な一面上において連続した環状突起(同文献図2(B)参照)より、独立した突起(同文献図2(A))の方が整流効果に関して好ましい旨が記載されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1〜3に記載の浸漬ノズルは何れも優れたものであるが、依然として、偏流の改善の余地はある。
【0007】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、偏流が更に低減された浸漬ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、本願発明者らは、鋭意研究の末、特許文献1に記載されているような浸漬ノズルにおいて、溶鋼吐出孔の穿孔方向に延びる突部を中央で分割し、更に、この突部と平行に延びる適切な突部を内周面に設けると、鋳型幅方向の偏流の低減が実現すると共に、鋳型厚み方向の偏流の更なる低減が達成されることを見出した(本願図2、本願表1参照)。
【0009】
遡って、特許文献1について言及するに、特許文献1には、上記の分割が記載も示唆もされていない。特許文献2についても同様である。また、特許文献3について言えば、多数で点在する突起部や環状突起についての言及はあるものの、突部と平行に延びる構成については一切、記載も示唆もされていない。
【0010】
なお、本願出願人は、溶鋼吐出孔の穿孔方向に延びる突部を中央で分割することで鋳型幅方向の偏流の低減を図る技術思想については既に出願済みである(特願2006−356063号、以下、特許出願1と称する。)。この特許出願1に対する本願の技術的位置付けは、特許出願1に開示の技術思想によって達成される鋳型幅方向の偏流低減効果に加えるかたちで、鋳型厚み方向の偏流の低減を高いレベルで達成することにある。
【0011】
次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の観点によれば、以下のように構成される、浸漬ノズルが提供される。即ち、前記浸漬ノズルの周壁には、一対の対向する溶鋼吐出孔が、前記浸漬ノズルの内側底面から所定距離上方へ離れた位置に、穿孔される。前記浸漬ノズルの内側底面には、前記溶鋼吐出孔の穿孔方向に対して平行に延びる第一整流突部が同列状に一対で設けられる。前記浸漬ノズルの内周面には、前記第一整流突部と平行に延び、前記浸漬ノズルの底面視において前記第一整流突部を挟んで対向する、第二整流突部が一対で設けられる。各第二整流突部は、前記浸漬ノズルの軸心側下方へ向かって傾斜する第一整流面と、この第一整流面と対を成すように前記第一整流面の下方に配され、前記浸漬ノズルの軸心側上方へ向かって傾斜する第二整流面と、を有する。前記浸漬ノズルの内径をDsnとし、前記溶鋼吐出孔の内周側開口縁の下端と前記内側底面との間の距離をHとし、前記第一整流突部の突出高さをhとし、前記一対の第一整流突部の相互離間距離をcとし、前記第二整流突部と前記内側底面との間の距離をeとし、前記浸漬ノズルの軸心方向における前記第二整流突部の高さをfとし、前記浸漬ノズルの径方向における前記第二整流突部の厚みをgとし、前記浸漬ノズルの軸心に対する前記第一整流面の傾斜角をθ1とし、前記浸漬ノズルの軸心に対する前記第二整流面の傾斜角をθ2とすると、下記式(1)〜(7)を満たす。
【0013】
【数1】

【0014】
【数2】

【0015】
【数3】

【0016】
【数4】

【0017】
【数5】

【0018】
【数6】

【0019】
【数7】

【0020】
以上の構成によれば、鋳型幅方向の偏流の低減と、鋳型厚み方向の偏流の低減と、を高いレベルで同時に実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの構成を説明する。
【0022】
図1は、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの斜視図である。本図に示される浸漬ノズル1は、タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供されるものであって、有底円筒状に形成される。
【0023】
図2は、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの一部切欠き斜視図である。本図に示されるように、浸漬ノズル1の周壁には、一対の対向する溶鋼吐出孔2が、浸漬ノズル1の内側底面3から若干上方へ離れた位置に、穿孔される。そして、浸漬ノズル1の内側底面3には、溶鋼吐出孔2の穿孔方向に対して平行に延びる第一整流突部4が同列状に一対で、相互に若干の距離を隔てて、設けられる。また、本図に示されるように、浸漬ノズル1の内周面7には、第一整流突部4と平行に延び、浸漬ノズル1の底面視において第一整流突部4を挟んで対向する、第二整流突部8が一対で設けられる。
【0024】
一般に、浸漬ノズル1の溶鋼吐出孔2から吐出される溶鋼の吐出流と、鋳型の幅方向及び厚み方向と、は技術的に密接に関連するので、各図1・2には、鋳型幅方向と鋳型厚み方向を具体的に図示した。図2に示されるように、一般に、浸漬ノズル1は、溶鋼吐出孔2の穿孔方向が鋳型幅方向と一致するように鋳型内に配される。各図1・2には、鋳型幅方向及び鋳型厚み方向の何れにも直交する関係にある浸漬ノズル1の軸心方向も併せて図示した。
【0025】
図3〜5を参照されたい。図3は、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの正面部分断面図である。図4は、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの側面部分断面図である。図5は、図4のV−V線矢視断面図である。図3及び図4に表れる各断面は、浸漬ノズル1の軸心を含む。
【0026】
(浸漬ノズル1)
各図に示されるように浸漬ノズル1は、内径Dsnを有する有底円筒状であって、第一整流突部4及び第二整流突部8と共に耐火物で一体形成される。
【0027】
(溶鋼吐出孔2)
溶鋼吐出孔2は、図4に示されるように浸漬ノズル1の内周から外周へ向かって若干斜め下向きに傾斜し、図3に示されるように浸漬ノズル1の内周面7においては丸みを帯びた矩形の輪郭を有し、浸漬ノズル1の外周面11においても同様に丸みを帯びた矩形の輪郭を有する(図1を併せて参照)。また、溶鋼吐出孔2は、図5に示されるように浸漬ノズル1の内周から外周へ向かって緩やかに幅広となるように形成される。ここで、図3において、溶鋼吐出孔2の内周側開口縁12の下端12bと内側底面3との間の距離を符号Hで観念する。一般に、この符号Hで観念される空間は湯溜り部と称され、主として鋳造開始時の溶鋼の飛び散りを防止する機能を有する。図4に示される溶鋼吐出孔2の下向き吐出角θt[deg.]は概ね10〜55が好ましいとされる。
【0028】
(第一整流突部4)
図4における二点鎖線は、第一整流突部4と他の部分との境界のみを示すものである。<長さ>図4に示されるように各第一整流突部4は、内周面7を基点とし、浸漬ノズル1の軸心(以下、単に軸心とも称する。)へ向かって延在する。図5における符号cは、一対の第一整流突部4の相互離間距離を示し、具体的には、内側底面3の面上において観念する一対の第一整流突部4の相互離間距離を示す。つまり、図4において、相互離間距離cは、第一整流突部4の下端をもって観念する。<突出高さ>また、本図において符号hで特定される第一整流突部4の突出高さは、前述した湯溜り部の高さである距離Hと等しい。即ち、本実施形態ではh=Hの関係が成立する。<断面>また、図3に示されるように第一整流突部4の長手に対して垂直な断面は、略台形状であって、内側底面3から離れる方向へ向かって狭窄される。本図における第一整流突部4の側面は、内側底面3を基準として概ね60〜85°で傾斜する。<狭窄形状>図5に示されるように、各第一整流突部4は、軸心へ向かって截頭V字状に狭窄される。符号aは、浸漬ノズル1の底面視における第一整流突部4の上面4aの幅の最大値を示す。符号bは、浸漬ノズル1の底面視における第一整流突部4の上面4aの幅の最小値を示す。本実施形態ではa>bの関係が成立する。浸漬ノズル1の底面視における第一整流突部4の形状については、図13・14を参照しつつ、後に詳しく説明する。さて、本実施形態において、各第一整流突部4は、下記式(1)及び(2)を満たす。
【0029】
【数1】

【0030】
【数2】

【0031】
(第二整流突部8)
図3及び図5における一点鎖線は、第二整流突部8と他の部分との境界のみを示すものである。<断面>図3に示されるように第二整流突部8の長手に対して垂直な断面は、略台形状であって、内周面7から軸心へ向かうにつれて次第に狭窄される。即ち、第二整流突部8は、軸心側下方へ向かって傾斜する平面としての第一整流面13と、この第一整流面13と対を成すように第一整流面13の下方に配され、軸心側上方へ向かって傾斜する平面としての第二整流面14と、を有する。符号θ1は、軸心に対する第一整流面13の傾斜角を示す。符号θ2は、軸心に対する第二整流面14の傾斜角を示す。第二整流突部8の側面15は、平面であって、鋳型厚み方向に対して直交の関係にある。<高さ>符号fは、軸心方向における第二整流突部8の高さを示し、詳しくは、第一整流面13と第二整流面14を含めた第二整流突部8の高さを示す。<厚み>符号gは、鋳型厚み方向(鋳型厚み方向は、浸漬ノズル1の径方向の一つに相当する。)における第二整流突部8の厚みを示し、詳しくは、図3に表れる第二整流突部8の厚みであり、つまり、第二整流突部8の厚みの最大値である。<その他>符号eは、第二整流突部8と内側底面3との間の距離を示し、詳しくは、第二整流突部8の第二整流面14の下端14aと内側底面3との間の距離を示す。そして、本実施形態において、第二整流突部8は、下記式(3)〜(7)を満たす。
【0032】
【数3】

【0033】
【数4】

【0034】
【数5】

【0035】
【数6】

【0036】
【数7】

【0037】
以上に、本実施形態に係る浸漬ノズル1の構成を説明した。なお、種々の観点から、面と面は鈍角で交差するものとし、面と面の交差する部位には適度な丸みを付すのが好ましい。
【0038】
次に、上記の浸漬ノズル1を採用することで実現される溶鋼の特異な流れを、図6〜7に基づいて説明する。図6は、従来の浸漬ノズルを用いた場合の溶鋼の流れをイメージした図である。図7は、本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルを用いた場合の溶鋼の流れをイメージした図である。各図6・7においては、溶鋼の流れを立体的に観念できるよう、正面断面図と側面断面図、平面断面図を並べて描いた。なお、溶鋼の流れの技術的な差異を強調するため、各図に描いた流れは、定量的側面については実際のものと異なる場合があることを予め理解されたい。
【0039】
<図6:従来(特許文献1)の浸漬ノズルを用いた場合の溶鋼の流れ>
上述の特許文献1に記載されている浸漬ノズルを採用すると、本図(a)・(c)に示されるように、内側底面の中央に延在する突部を挟む、一対の渦流が形成される。しかし、本図(b)に示されるように、この一対の渦流は、鋳型幅方向において全く拘束されないため、各渦流の基点は、突部の長手に沿って自由に移動してしまう。
【0040】
<図7:上記実施形態に係る浸漬ノズルを用いた場合の溶鋼の流れ>
これに対して、上記実施形態に係る浸漬ノズルを採用すると、本図(c)に示されるように、上記一対の渦流は、一対の第一整流突部の間の間隙と係合することで、鋳型幅方向において拘束され、各渦流の基点は、第一整流突部の長手に沿って移動できないようになり、もって、鋳型幅方向における偏流が低減される。更に、本図(a)・(b)に示されるように、上記一対の渦流は、相互に平行に配設される第一整流突部と第二整流突部の間で小径の圧縮されたかたちで形成される。これにより、上記一対の渦が一層安定して存在し続けられるようになり、もって、一対の渦流が形成されることで達成される鋳型厚み方向における偏流の低減が高いレベルで実現される。
【0041】
以下、上記実施形態に係る浸漬ノズルの技術的効果を確認するための試験に関して説明する。上述した各数値範囲などは、下記の試験により合理的に裏付けられている。
【0042】
≪試験:試験概要≫
各試験は、鋳型と溶鋼に代えて水槽と水を採用する所謂水モデル試験である。各試験は、浸漬ノズルの構造や鋳型のサイズなどに細かな変更を加えながら実施した。浸漬ノズルの構造や鋳型のサイズなどの詳細な設定値は後述の表1を参照されたい。各試験に採用された浸漬ノズルは、二つの観点から多面的に評価した。即ち、図8に示される偏流を評価する試験と、図9の水面流速を評価する試験である。
【0043】
≪試験:第一評価試験:図8≫
本試験においては、浸漬ノズルに所定の水流量Wat[L/min]で水が供給されている定常状態において、100秒間、太丸で図示した地点A〜Dにおける水の流速を電磁流速計(型番:VM−806H)を用いて測定する。そして、下記式(8)に従って鋳型厚み方向における偏流Thh[m/s]を、下記式(9)に従って鋳型幅方向における偏流Wih[m/s]を、求める。そして、下記式(10)で定義される偏流度TW[m/s]を求める。
【0044】
【数8】

【0045】
【数9】

【0046】
【数10】

【0047】
ただし、上記式(8)及び(9)において、Tは任意の測定開始時点を意味し、ΔTは100秒であり、v(t)はX地点における水の流速の測定結果(ただし、離散データである。)を意味する。
【0048】
そして、下記式(11)の関係を満たすとき、該当する試験について、「○(ブレークアウトの危険性なし)」と評価し、満たさないとき、「×(ブレークアウトの危険性あり)」と評価することとする。下記式(11)における評価の閾値の根拠については、本明細書の末尾に添付する。
【0049】
【数11】

【0050】
なお、図8における数値の単位はmmである。
【0051】
≪試験:第二評価試験:図9≫
本試験においては、浸漬ノズルに所定の水流量Wat[L/min]で水が供給されている定常状態において、10分間、太丸で図示した地点E〜Fにおける水の流速を第一評価試験で用いたものと同じ電磁流速計を用いて1秒ごとに測定する。地点Eにおける水の流速の測定結果(離散データである。)を10秒ごとに区分し、各区分における平均値を求め、60個の平均値のうち最大の平均値を選出する。地点Fについても同様とする。そして、地点Eにおいて選出した最大の平均値と、地点Fにおいて選出した最大の平均値と、のうち大きい方で定義される「水面流速v[m/s]」を求め、下記式(12)を満たすとき、該当する試験について、「○(パウダー巻き込みが発生する可能性が低い)」と評価し、満たさないとき、「×(パウダー巻き込みが発生する可能性が高い)」と評価することとする。下記式(12)における評価の閾値の根拠については、本明細書の末尾に添付する。
【0052】
【数12】

【0053】
なお、図9における数値の単位はmmである。
【0054】
≪試験:個別の試験条件及び試験結果≫
次に、各試験の個別の試験条件とその試験結果を下記表1に示す。下記表1において、列タイトル「W mm」は水槽のサイズであって、実機における鋳型幅(ただし、鋳型の上端において観念されるもの)を意味する。列タイトル「D mm」も水槽のサイズであって、実機における鋳型厚み(ただし、鋳型の上端において観念されるもの)を意味する。列タイトル「Air NL/min」は試験中に浸漬ノズルに導入するArガスのガス流量を意味する。このArガスは、図1に示される浸漬ノズルの上端近傍から吹き込むようになっている。そして、第一・第二評価試験の結果が「○○」であったとき、該当する試験を「○(良好)」と評価し、それ以外のとき、「×(不良)」と評価することとする。なお、すべての試験において、スライドバルブの開閉方向は鋳型幅方向とした。
【0055】
【表1】

【0056】
なお、試験No.35に採用された浸漬ノズルの形状は、表1によればθ2が90°とされる。このように直角な部位が存在すると、耐火物の充填率が悪化し、使用中に耐火物が欠損する可能性が高くなるので実機において採用するのは困難とされる。
【0057】
(まとめ)
以上説明したように上記第一実施形態において浸漬ノズル1は、以下のように構成される。即ち、前記浸漬ノズル1の周壁には、一対の対向する溶鋼吐出孔2が、前記浸漬ノズル1の内側底面3から所定距離上方へ離れた位置に、穿孔される。前記浸漬ノズル1の内側底面3には、前記溶鋼吐出孔2の穿孔方向に対して平行に延びる第一整流突部4が同列状に一対で設けられる。前記浸漬ノズル1の内周面7には、前記第一整流突部4と平行に延び、前記浸漬ノズル1の底面視において前記第一整流突部4を挟んで対向する、第二整流突部8が一対で設けられる。各第二整流突部8は、前記浸漬ノズル1の軸心側下方へ向かって傾斜する第一整流面13と、この第一整流面13と対を成すように前記第一整流面13の下方に配され、前記浸漬ノズル1の軸心側上方へ向かって傾斜する第二整流面14と、を有する。前記浸漬ノズル1の内径をDsnとし、前記溶鋼吐出孔2の内周側開口縁12の下端12bと前記内側底面3との間の距離をHとし、前記第一整流突部4の突出高さをhとし、前記一対の第一整流突部4の相互離間距離をcとし、前記第二整流突部8と前記内側底面3との間の距離をeとし、前記浸漬ノズル1の軸心方向における前記第二整流突部8の高さをfとし、前記浸漬ノズル1の径方向における前記第二整流突部8の厚みをgとし、前記浸漬ノズル1の軸心に対する前記第一整流面13の傾斜角をθ1とし、前記浸漬ノズル1の軸心に対する前記第二整流面14の傾斜角をθ2とすると、下記式(1)〜(7)を満たす。
【0058】
【数1】

【0059】
【数2】

【0060】
【数3】

【0061】
【数4】

【0062】
【数5】

【0063】
【数6】

【0064】
【数7】

【0065】
表1によれば、以上の構成により、鋳型幅方向の偏流の低減と、鋳型厚み方向の偏流の低減と、が高いレベルで同時に実現する。
【0066】
(幅aと幅bとの大小関係について)
以下、浸漬ノズル1の底面視における第一整流突部4の形状について、図5、図13、図14に基づいて付言する。図13、14は、本願発明の第一、第二変形例に係る浸漬ノズルの各断面図である。即ち、上記実施形態では、図5に示されるように各第一整流突部4は、内周面7から軸心へ向かってV字状に狭窄されながら延在し、この延在は、軸心に至る前に終了する、いわば台形形状となっている。上記実施形態において、幅a(台形の下底に相当する。)と幅b(台形の上底に相当する。)の比率は、概ね、a:b=1.5:1となっている。
【0067】
・第一変形例
次に、図13に基づいて、浸漬ノズル1の底面視における第一整流突部4の形状の第一変形例を説明する。本変形例では、本図に示されるように第一整流突部4は、内周面7から軸心へ向かって狭窄されることなく直線的に延在し、この延在は、軸心へ至る前に終了する、いわば長方形形状とされる。上記実施形態における符号a、符号bで表現するならば、a:b=1:1ということである。このように、浸漬ノズル1の底面視における第一整流突部4の延在態様を直線的に変更した浸漬ノズル1についても上記各試験を行って十分調査してみたが、現時点では、上記実施形態と本変形例の効果上の特筆すべき差異はないと判断している。
【0068】
・第二変形例
次に、図14に基づいて、浸漬ノズル1の底面視における第一整流突部4の形状の第二変形例を説明する。本変形例では、本図に示されるように第一整流突部4は、内周面7から軸心へ向かって狭窄されながら延在し、この延在は、軸心へ至る前に滑らかに終了する、角の丸められたV字状とされる。このように、浸漬ノズル1の底面視における第一整流突部4の延在態様を「角の丸められたV字状」に変更した浸漬ノズル1についても上記各試験を行って十分調査してみたが、上記第一変形例と同様、現時点では、上記実施形態と本変形例の効果上の特筆すべき差異はないと判断している。
【0069】
<第一評価試験の閾値の根拠:図10〜13>
【0070】
(凝固遅れ度の定義)
凝固遅れ度は凝固遅れの程度の指標である。図10を参照されたい。図10は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第一説明図(凝固遅れ度の定義)である。この凝固遅れ度Cg[%]は鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断して得られる切断面に視認し得る負偏析線に基づき鋳片のコーナー部夫々において観念でき、凝固遅れ度Cg[%]は下記式(13)に基づいて求められる。下記式(13)中、A[mm]は狭面から5[cm]離れた地点における負偏析線と広面との間の距離であり、B[mm]は負偏析線が広面に最も接近する地点における負偏析線と広面との間の距離である。本明細書中において「凝固遅れ度Cg[%]」とは、原則として、一の切断面から観念できる4つの凝固遅れ度Cg[%]のうち最大のものを意味するものとする。
【0071】
【数13】

【0072】
(ブレークアウトの実績)
次に、図11を参照されたい。図11は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第二説明図(ブレークアウトの実績)である。即ち、100チャージ分、連続鋳造(種々の鋳造条件は完全には統一していない。)を実施し、各チャージごとに、(1)任意に1本の1次切断スラブを選択し、この1次切断スラブの鋳片表面に湯漏れの痕跡があった場合は、当該痕跡を含むように鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断し、この切断により得られる切断面において凝固遅れ度Cg[%]を測定し、(2)この1次切断スラブの鋳片表面に湯漏れの痕跡がなかった場合は、任意に選択した箇所で鋳片を鋳造方向に対して垂直に切断し、この切断により得られる切断面において凝固遅れ度Cg[%]を測定した。そして、(1)の凝固遅れ度Cg[%]の分布を本図において実線で示し、(2)の凝固遅れ度Cg[%]の分布を本図において破線で示す。本図によれば、凝固遅れ度Cg[%]が40未満となるように操業すれば、鋳型直下B.O.の発生を防止できることが判る。
【0073】
(偏流度と凝固遅れ度との対応関係)
次に、図12を参照されたい。図12は、偏流度の評価閾値の根拠を示す第三説明図(偏流度と凝固遅れ度との対応関係)である。即ち、ある形状の浸漬ノズルをアクリルで作成し、水モデル試験にて、この浸漬ノズルの上述した偏流度TW[m/s]を求めた。次に、この浸漬ノズルと同じ形状の浸漬ノズルを耐火物で作成し、作成した浸漬ノズルを用いて、実機試験にて概ね100チャージ分、操業した。その際の鋳造条件は、鋳型幅D[mm]:800〜2100、鋳型厚みD[mm]:230〜280、鋳造速度Vc[m/min]:1.0〜2.2とした。そして、各チャージに対応する鋳片をボトム側から25mの地点で切断し、上記の凝固遅れ度Cg[%]を夫々測定した。これで、ある形状の浸漬ノズルの偏流度TW[m/s]と、この浸漬ノズルに対応する凝固遅れ度Cg[%]の100サンプルと、を取得したこととなる。上記の試験を、形状が異なる4つの浸漬ノズルを用いて同様に実施した。そして、図12に示されるように、浸漬ノズルの偏流度TW[m/s]を横軸にとり、100サンプルの凝固遅れ度Cg[%]の平均値に3σを加えた値を縦軸にとって、グラフ化した。本図によれば、凝固遅れ度Cg[%]を40未満とするには、水モデル試験における偏流度TW[m/s]を0.35以下とする必要があることが判る。
【0074】
<第二評価試験の閾値の根拠>
例えば特開2003−80353号公報に記載されているように、メニスカス流速が0.6m/sを超えるとパウダー巻き込みが発生する可能性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの斜視図
【図2】本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの一部切欠き斜視図
【図3】本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの正面部分断面図
【図4】本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの側面部分断面図
【図5】図4のV−V線矢視断面図
【図6】従来の浸漬ノズルを用いた場合の溶鋼の流れをイメージした図
【図7】本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルを用いた場合の溶鋼の流れをイメージした図
【図8】本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの技術的効果確認試験の試験条件に関する第一説明図
【図9】本願発明の一実施形態に係る浸漬ノズルの技術的効果確認試験の試験条件に関する第二説明図
【図10】偏流度の評価閾値の根拠を示す第一説明図(凝固遅れ度の定義)
【図11】偏流度の評価閾値の根拠を示す第二説明図(ブレークアウトの実績)
【図12】偏流度の評価閾値の根拠を示す第三説明図(偏流度と凝固遅れ度との対応関係)
【図13】本願発明の第一変形例に係る浸漬ノズルの各断面図
【図14】本願発明の第二変形例に係る浸漬ノズルの各断面図
【符号の説明】
【0076】
1 浸漬ノズル
2 溶鋼吐出孔
3 溶鋼吐出孔の内側底面
4 第一整流突部
8 第二整流突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュ内に保持される溶鋼を鋳型内へ注湯するのに供される有底円筒状の浸漬ノズルにおいて、
前記浸漬ノズルの周壁には、一対の対向する溶鋼吐出孔が、前記浸漬ノズルの内側底面から所定距離上方へ離れた位置に、穿孔され、
前記浸漬ノズルの内側底面には、前記溶鋼吐出孔の穿孔方向に対して平行に延びる第一整流突部が同列状に一対で設けられ、
前記浸漬ノズルの内周面には、前記第一整流突部と平行に延び、前記浸漬ノズルの底面視において前記第一整流突部を挟んで対向する、第二整流突部が一対で設けられ、
各第二整流突部は、前記浸漬ノズルの軸心側下方へ向かって傾斜する第一整流面と、この第一整流面と対を成すように前記第一整流面の下方に配され、前記浸漬ノズルの軸心側上方へ向かって傾斜する第二整流面と、を有し、
前記浸漬ノズルの内径をDsnとし、前記溶鋼吐出孔の内周側開口縁の下端と前記内側底面との間の距離をHとし、前記第一整流突部の突出高さをhとし、前記一対の第一整流突部の相互離間距離をcとし、前記第二整流突部と前記内側底面との間の距離をeとし、前記浸漬ノズルの軸心方向における前記第二整流突部の高さをfとし、前記浸漬ノズルの径方向における前記第二整流突部の厚みをgとし、前記浸漬ノズルの軸心に対する前記第一整流面の傾斜角をθ1とし、前記浸漬ノズルの軸心に対する前記第二整流面の傾斜角をθ2とすると、下記式(1)〜(7)を満たす、
浸漬ノズル
【数1】

【数2】

【数3】

【数4】

【数5】

【数6】

【数7】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−178749(P2009−178749A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20583(P2008−20583)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】