説明

分子吸着機能を有する繊維シート

【課題】特定の分子を選択的に除去し、かつ、分子吸着量が従来に比べ高く、後加工性、使用性に優れた吸着機能を有した繊維シートの提供。
【解決手段】鋳型分子と結合可能な官能基を有するポリマーとの混合溶液から静電紡糸法によって繊維シートを作成した後、鋳型分子を除去して製造された、分子インプリント法を利用して鋳型分子の認識部位を形成させたポリマー繊維からなり、かつ、シート充填率が20%以下であることを特徴とする、分子吸着機能を有する繊維シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気中又は液体中に存在する、内分泌撹乱物質などの有害化学物質又は回収目的物質などの分子状物質を選択的に吸着除去するために用いられる繊維シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体の微細化、高集積化にともない、クリーンルーム中に浮遊する粒子状汚染物質だけでなく、気体分子、すなわち、気体状態で存在する分子状汚染物質についても問題視されてきている。分子状汚染物質も、粒子状汚染物質と同様にシリコンウエハ上に吸着して、製品歩留まりを低下させるという問題を引き起こすのである。シリコンウエハ上に吸着する分子状汚染物質の中でも、プラスチックの添加剤として用いられているフタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジオクチル(DOP)等のフタル酸エステル類は、たとえその存在量が微量であっても、シリコンウエハ上に選択的に吸着することから、特に問題視されている。
【0003】
また、ビル、住居、病院・検査施設等を始めとするあらゆる閉鎖居住空間で、シックビル症候群、シックハウス症候群、化学物質過敏症などが近年問題となっており、その原因として建築材、家具、衣類、化粧品などから発生するガス状微量化学物質が挙げられている。さらに、環境中に存在しているアルキルフェノール類、ビスフェノールAなどの分子状物質は、内分泌撹乱物質として生態系に影響を及ぼすことが知られている。これらの物質は、環境中の濃度が非常に低濃度であっても悪影響を及ぼすため、これらを問題とならないレベルまで除去するためには、これらの物質を選択的に高効率で吸着除去する材料が求められている。
【0004】
その一方で、レアメタルの資源枯渇や非効率な溶剤回収方法が問題となっており、これらを選択的高効率で吸着除去する材料が求められている。
【0005】
近年、特定の分子を選択的に吸着する材料として、分子インプリント法を用いたインプリントポリマーが注目されており、選択的分子捕捉の例が提案されている。分子インプリント法とは、吸着対象分子をポリマー材料内に鋳型として包接させた後で、前記鋳型を除去することによって、鋳型の認識部位を形成させる方法である。
【0006】
分子インプリント法を用いた選択的吸着材料として、鋳型分子とポリマーを溶媒に溶解させ、この溶液からキャスト法を用いてフィルムを形成させることによって得られるインプリントポリマー膜材料を形成させ、特に液相中における選択的分子補足の例が提案されている(例えば、特許文献1,特許文献2参照。)。しかし、これらポリマー膜の作製においては、ポリマー樹脂の選定段階で鋳型分子と結合可能なものが優先されるので、必ずしも後加工性や使用性に適合するものではなく、応用性、汎用性が乏しい。さらに、吸着を効率的に行うためには、微細化したり多孔化したりするなどして材料の表面積を大きくする必要があるが、微細化した場合には、使用時に材料自体が脱落や飛散するなどの問題があり、多孔化した場合には、使用のために必要な材料強度が得られなくなるという問題がある。
【0007】
本発明者らは、この問題を解決するために、過去に、紙、不織布、織布などの繊維状構造物上に分子インプリント法を利用して鋳型分子の認識部位が形成されているポリマー樹脂を担持させたシートを提案した(特許文献3、特許文献4、特許文献5)。これは、特に、用途が多岐に渡る気体分子吸着用材料において、シート形状していることが大変都合良く、単板シートは押入れなどの隙間吸着剤、壁紙、カーテンなどに使用でき、また吸着面積を稼ぐためシートをジャバラに折るプリーツ加工をして使用し、更に、シートをコルゲート加工するなどしてハニカム状(蜂の巣状)に成形して使用することもでき、後加工への応用性が高いものであった。この提案したポリマー樹脂は、バインダー機能を有しているので、使用のために必要な材料強度を向上させることができた。また、吸着特性の観点では、繊維状構造物の場合フィルムと異なり、繊維1本1本の表面積の総計で基材の比表面積が大きくなるので、基材全体にインプリントポリマー樹脂皮膜を形成させる方法であれば、各繊維上に皮膜層を形成させることができ、この結果、皮膜層の総表面積を大きくし気体分子吸着量を増加させることができた。しかし、この方法においてもインプリントポリマー樹脂皮膜が完全に繊維を被覆しておらず、逆に繊維群を大きな皮膜で覆ってしまい繊維の表面積を生かしきれてないため、吸着量レベルはまだ十分ではなく、更なるレベルアップが求められている。
【0008】
一方、μm以下の繊維径をもつナノファイバーについて近年注目されており、特に静電紡糸法について多数研究されている。その中で、静電紡糸法によるナノファイバーを使ったエアフィルタとしては、静電紡糸法によって製造された平均繊維径0.01μm以上、0.5μm未満の極細繊維集合層と、平均繊維径0.5μm以上、5μm以下の細繊維集合層を備えたフィルタなどが提案されている(例えば特許文献6)。しかし、これらは気体中のエアロゾル粒子の捕集を目的としたものであり、ガス状の気体分子についての捕集特性はもっていなかった。最近、静電紡糸法によるナノファイバーに分子インプリント法を利用して鋳型分子の認識部位が形成させる検討が行われている(非特許文献1、2)。しかし、これは液相中における分子吸着の効果が証明されただけであり、気体分子の吸着については検討されていない。ましてや、気体分子の吸着量については、全く検討されていなかった。気体分子を吸着するための分子インプリント法を利用した静電紡糸法によるナノファイバーシートは、これまで検討されていなかったのが現状であった。また、液相中においても分子吸着の効果が証明されただけで、ナノファイバーシートの構造と吸着機能との関係については全く検討されていないのが現状であった。
【0009】

【特許文献1】特開平11−315150号公報
【特許文献2】特開2000−342943号公報
【特許文献3】特開2004−268283号公報
【特許文献4】特開2005−205333号公報
【特許文献5】特開2006−175407号公報
【特許文献6】特開2005−218909号公報
【非特許文献1】Ioannis, S. C.; Biljana, M.; Audrey, F.; Lei Y. Macromolecules2006, 39, 357
【非特許文献2】Ioannis, S. C.; Alexandra, J.; Bengt, H.; Lei Y. Langmuir 2006, 22, 8960
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、特定の分子を選択的に除去し、かつ、分子吸着量が従来に比べ高く、後加工性、使用性に優れた吸着機能を有した繊維シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題は、静電紡糸法によって製造された、分子インプリント法を利用して鋳型分子の認識部位を形成させたポリマー繊維からなり、かつ、シート充填率が20%以下であることを特徴とする、分子吸着機能を有する繊維シートによって解決された。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維シートによれば、特定の分子の選択的除去性能が従来に比べ向上し、かつ、吸着材の脱落・飛散が全くなく、更に後加工性、使用性に優れた分子吸着機能を有した繊維シートを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における静電紡糸法とは、対向に配置させた電極板との間に電圧を有するノズルから、導電性を有する液状のポリマー樹脂溶液を噴射させ、帯電したポリマー樹脂の液滴が同時にコレクター部方向に引き伸ばされて筋状に伸び、液滴の表面張力を帯電した電荷による反発力が上回ったとき、状態が不安定になってフラッシュ的に広がる現象、すなわち、ジェットのブレークアップが起こり、これによってジェットが微細繊維状となって対向電極上に付着することで繊維シートを形成させる方法である。
【0014】
また、本発明における分子インプリント法は、ポリマー樹脂の組織化を利用した方法である。まず、鋳型分子と結合可能な官能基を有するポリマー樹脂溶液と鋳型物質とを混合する。次に、この溶液から溶媒を除去することによってポリマー樹脂皮膜を形成させる。この段階では、鋳型分子は、ポリマー樹脂皮膜の中においてポリマー樹脂中の官能基と結合した形で存在している。こうして得られたポリマー樹脂皮膜から鋳型分子を除去することによって、ポリマー樹脂皮膜中に鋳型分子の認識部位が形成される。こうして鋳型分子を選択的に吸着除去可能なインプリントポリマー樹脂皮膜を得ることができる。また、別の方法として、ポリマー樹脂皮膜の原材料モノマーからインプリントポリマー樹脂皮膜を形成させることも可能であり、モノマーと鋳型分子とを混合し、これを重合させてポリマー樹脂皮膜を得る。鋳型分子を除去する工程は、前述と同様である。
【0015】
本発明の繊維シートは、前記ポリマー樹脂溶液に鋳型物質を溶媒中で混合し、次に静電紡糸法によってこの混合溶液を電圧の有するノズルから噴出させ、対向電極上又は電極上に設置された支持体上に前記ポリマー樹脂混合溶液が微細繊維状になって形成したシートについて、次工程で鋳型分子を除去してポリマー繊維表面に認識部位を形成させたものである。
【0016】
本発明で使用できるポリマー樹脂は、水素結合、イオン結合などの相互作用によって鋳型分子と結合可能となるような官能基を、ポリマー樹脂の主鎖又は側鎖として有している必要がある。これら官能基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基等が挙げられる。ポリマー樹脂の種類としては、水溶性高分子として、例えば酸化デンプン、デキストリン等のデンプン類、ポリビニルアルコール又はその誘導体類、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、パルプ繊維を溶解したセルロースそのもの等の天然又は合成のセルロース、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。また、有機溶剤に溶解可能な疎水性樹脂としては、例えばポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレンテレフタラート、ナイロン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、エチルセルロース、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸イソプロピル等のポリメタクリル酸エステル又はポリメタクリル酸誘導体からなる樹脂、ポリスチレン系樹脂(PS)、アクリロニトリル−スチレン共重合樹脂(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂等、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。また、水分散型のエマルジョン樹脂である水分散可能な高分子物質として、例えばアクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、スチレン、エチレン、ブタジエン、カルボン酸又はマレイン酸などをその重合体の構成要素として含む合成高分子重合体又はそのラテックス等であり、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体、スチレン−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリウレタン系ラテックス、ポリエステル系ラテックス等が挙げられる。また、モノマーを原材料とする場合は、目的のポリマー皮膜を形成するために重合すべく、選択されたモノマーが用いられる。これら、ポリマー樹脂又はモノマーは、捕捉物質の分子インプリント効果を最大限に発揮させるため、目的に合わせて選択されるべきである。
【0017】
これらの高分子物質は、それぞれ単独で用いてもよく、また、目的に応じて2種以上を混合して用いてもよい。2種以上の高分子材料を混合して用いることによって、得られる繊維の親水性、疎水性など物性を制御することができる。
【0018】
本発明の捕捉対象である鋳型分子としては、クリーンルーム汚染物質であるフタル酸エステル、リン酸エステル、フェノール系化合物、その他、居住環境に存在しシックハウス症候群を引き起こすとして問題視されているホルムアルデヒド、トルエン、キシレン等、又は回収目的物となる金属イオン等、捕捉目的に合わせて選ぶことができる。
【0019】
本発明で使用される溶媒としては、本発明で用いるポリマー樹脂と鋳型分子との間の相互作用を阻害せず、かつ、静電紡糸のときにノズルから噴射可能であるものの中から選ばれる。例えば、水、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、四塩化炭素などが挙げられるが、これに限定するものではない。
【0020】
前記のポリマー樹脂と鋳型物質とを溶媒中で混合した紡糸溶液をノズルへ供給し、ノズルから押し出すとともに、押し出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化する。この紡糸溶液の押し出し方向は、特に限定するものではないが、ノズルからの押し出し方向と重力の作用方向と同方向である下方向は、液滴が垂れやすいのであまり好ましくない。重力とは逆の上方向又は横方向に溶液を押し出すのが好ましい。溶液を押し出すノズル内径は、静電紡糸された繊維シートを最良の条件とするために選択される。ノズル内径としては、0.1〜2.0mm程度が好ましい。ノズル材質としては、金属製が好ましいが、ノズル近傍に電極を設置するなどして押し出した紡糸溶液に電界を作用させることができれば、これに限定するものではない。
【0021】
ノズルから紡糸溶液を押し出した後、押し出した紡糸溶液に電界を作用させることによって延伸して繊維化する。本発明の繊維シートの平均繊維径は、限定するものではないが、繊維径が細いほどシートの表面積が大きくなるので、分子状物質の吸着除去効果がより高くなる。好ましくは平均繊維径1μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。ここで、印加する電界が大きければ、その電界値の増加に応じて繊維平均径が小さくなる傾向があるので、印加電圧を高くすれば、より細径繊維のシートを作成できる。しかし、繊維径は、ノズル内径、ノズルとコレクター間の距離、ポリマー樹脂の種類、紡糸溶液の溶媒の種類、粘度、表面張力などの要因によって変化する。このため、印加電圧を特に限定するものではないが、繊維平均径を1μm以下とする場合には、1kV〜40kVであるのが好ましい。ただし、印加電圧が高くなりすぎると、空気の絶縁破壊が生じやすいので装置の設計上で注意が必要である。また、本発明の繊維シートは、単板状やハニカム状(蜂の巣状)で使用する場合とシートで気体を濾過させて使用する場合とがある。後者の場合は、特に繊維シートの濾過抵抗、すなわち、圧力損失が大きいと通風機の負荷が大きくなり問題となるので、面風速5.3cm/sで400Pa以下となるのが望ましい。繊維径が細くなるほど繊維シートの圧力損失が高くなるので、繊維径の細径化には限界がある。この場合、平均繊維径は、0.2μm以上が望ましい。従って、該平均繊維径が0.2μm以上1μm以下であるのが望ましい。
【0022】

次に、前記の繊維をコレクター上に集積させて繊維シートを形成できる。コレクターは、ノズル側から見て対向電極となっており、体積抵抗が10Ω以下の金属製などの導電性材料からなるのが好ましい。コレクターの形状は、平板、ドラム、コンベアー等、様々な形状が挙げられるが、工業化に有利な連続的な繊維シートを作成する場合は、ドラムやコンベアーなどコレクターが連続的に移動する方式が好ましい。また、コレクター上又はその近傍に不織布、織物、編物、ネット、フィルム、金属薄膜などの支持体を設置することによって、支持体上に繊維シートを形成させることもできる。
【0023】
本発明において、分子吸着量がこれまでになく増大した原因の一つとして、インプリントポリマー樹脂を繊維化させたことによる吸着可能表面積の増大が考えられる。これまでの繊維状構造物にインプリントポリマー樹脂皮膜を形成させる方法では、各繊維上に皮膜層を形成させると表面積が大きくなるのであるが、該繊維1本1本を確実にポリマー樹脂皮膜で覆わせるのは難しくむらが生じていた。また、ポリマー樹脂皮膜が複数の繊維を包み込んで覆ってしまい、該繊維を皮膜中に埋没させてしまうことがあった。これらの結果、繊維の表面積を生かしきれていなかった。この点、本発明のインプリントポリマー繊維においては、ポリマー樹脂皮膜が繊維表面を阻害することが無く、該繊維の表面積を生かし切っており、吸着量増大に寄与していると考えられる。
【0024】
本発明の吸着量効果を生かすためには、前記ポリマー繊維の繊維シートへの充填率、すなわち、シート充填率を制御することが重要である。なお、本発明におけるシート充填率とは、次の式1で定義するものである。
【0025】

[シート充填率(%)] = 〔[目付(g/m2)]/{ [見掛厚さ(mm)]×[ポリマー繊維比重]×1000}]×100 式1
※1 見掛厚さは、繊維シート断面の厚さを電子顕微鏡によって測定
※2 ポリマー繊維比重は、繊維シート作成に使用したポリマー樹脂の比重

本発明においては、シート充填率20%以下であることが好ましく、更に好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下である。シート充填率が20%を超えると分子吸着量は、大きく低下傾向となる。これは、充填率が高くなることによって、繊維同士の接触面積が大きくなり、結果的にポリマー樹脂の繊維化による表面積増大効果が失われるためと推測される。
【0026】
シート充填率は、使用ポリマー樹脂、溶媒、液粘度、静電紡糸条件、その他条件によって決まってくるので最良の条件を見つけるべきである。その中で、影響を与える条件の一つとして、ドラム状コレクター、コンベアー状コレクターなどの移動速度は、シート充填率に影響を与える。ドラム状コレクター、コンベアー状コレクターなどの移動速度が速いほど、シート充填率は高くなる傾向がある。これは、ノズルから噴射されたポリマー樹脂液が広がってコレクターに捕集されるときに、移動速度が速いとノズル−コレクター間で繊維が引っ張られることによって繊維が移動方向に配向傾向が強まるためと考えられる。理想的な移動速度については、前記の使用ポリマー樹脂種類、溶媒、液粘度、静電紡糸条件などによって変動するので限定はできないが、繊維シートの時間当たりの生産量をできるだけ低下させないように最良の条件を見つけるべきである。また、シート化後にプレス加圧するなどしてシート密度を上げると充填率が高くなるので、プレスの使用を避けるか又は使用しても加圧条件を弱めるべきである。
【0027】
本発明の繊維シートは、液相中、気相中どちらでも分子吸着能の効果が高い。しかし、液相中では、吸着能が溶媒の影響を受ける場合があり、気相中のほうが高い吸着能を期待できる。

実施例
【0028】
次に、本発明を実施例及び比較例によって、更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0029】
(原料液の調成)
ポリマー樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体25(製造元:和光純薬工業(株))と、鋳型分子となるp−t−ブチルフェノール(製造元:和光純薬工業(株))とを質量比で2:1となるようにトルエンに溶解させ、濃度1.5質量%の溶液とした。
(静電紡糸法による繊維シート作成)
前記溶液をノズルがセットされたシリンジに入れ、静電紡糸法シート製造装置(カトーテック社製NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット)を用いて、ドラム状コレクター部にセットされたアルミ箔表面の上にシート形成を行った。なお、ドラム状コレクター部は、回転ドラム方式であり、コレクターの移動速度、すなわち、ドラム状コレクター部の回転ドラム周速度を0.5m/分とした。また、ノズルからターゲット間の距離を15cm、印加電圧を12kVとした。
(鋳型分子の除去)
前記シートをアセトンで洗浄し、p−t−ブチルフェノールを除去した後、自然乾燥して目付5g/mの、シート充填率4.1%、平均繊維径0.78μmの繊維シートを得た。
【実施例2】
【0030】
実施例1の静電紡糸法による繊維シート作成試料液の調成において、静電紡糸法シート製造装置の印加電圧を17kVとした以外は実施例1と同様にして、目付5g/mの、シート充填率4.3%、平均繊維径0.15μmの繊維シートを得た。
【実施例3】
【0031】
実施例1の静電紡糸法による繊維シート作成において、ドラム状コレクター部の回転ドラム周速度を1.9m/分とした以外は実施例1と同様にして、目付5g/mの、シート充填率11.0%、平均繊維径0.75μmの繊維シートを得た。
【実施例4】
【0032】
実施例1の静電紡糸法による繊維シート作成において、ドラム状コレクター部の回転ドラム周速度を3.1m/分とした以外は実施例1と同様にして、目付5g/mの、シート充填率14.7%、平均繊維径0.81μmの繊維シートを得た。
【実施例5】
【0033】
実施例1の静電紡糸法による繊維シート作成において、ドラム状コレクター部の回転ドラム周速度を3.7m/分とした以外は実施例1と同様にして、目付5g/mの、シート充填率19.6%、平均繊維径0.80μmの繊維シートを得た。
【実施例6】
【0034】
実施例1の静電紡糸法による繊維シート作成原料液の調成において、静電紡糸法シート製造装置の印加電圧を9kVとした以外は実施例1と同様にして、目付5g/mの、シート充填率4.2%、平均繊維径1.34μmの繊維シートを得た。
【比較例1】
【0035】
平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維60重量%、平均繊維径2.70μmの極細ガラス繊維40質量%を、濃度0.5%、硫酸酸性pH2.5でパルパーにて離解した後、手抄シートマシンを用いて抄紙し、120℃×10分間乾燥させて繊維シートを得た。次に、エチレン-酢酸ビニル共重合体25(製造元:和光純薬工業(株))だけをトルエンに溶解させた6.0質量%溶液を前記シートに付与し、余分な液を吸引濾過によって除去した後、真空下でトルエンを蒸発させた。次に、条件を同一にするために、実施例1と同様に繊維シートをアセトンで洗浄した後、自然乾燥して、目付70g/m、シート充填率5.1%、樹脂付着量7.0質量%の繊維シートを得た。
【比較例2】
【0036】
平均繊維径0.65μmの極細ガラス繊維60重量%、平均繊維径2.70μmの極細ガラス繊維40質量%を、濃度0.5%、硫酸酸性pH2.5でパルパーにて離解した後、手抄筒を用いて抄紙し、120℃×10分間乾燥させて繊維シートを得た。次に、エチレン-酢酸ビニル共重合体25(製造元:和光純薬工業(株))と、鋳型分子となるp−t−ブチルフェノール(製造元:和光純薬工業(株))とを質量比で2:1となるようにトルエンに溶解させた9.0質量%溶液を前記シートに付与し、余分な液を吸引濾過によって除去した後、真空下でトルエンを蒸発させた。次に、このシートをアセトンで洗浄し、p−t−ブチルフェノールを除去した後、自然乾燥して、目付70g/m、シート充填率5.2%、樹脂付着量7.0質量%の繊維シートを得た。
【比較例3】
【0037】
(原料液の調成)
ポリマー樹脂としてエチレン-酢酸ビニル共重合体25(製造元:和光純薬工業(株))だけをトルエンに溶解させ、濃度1.0質量%の溶液とした。
(静電紡糸法による繊維シート作成)
前記溶液をノズルがセットされたシリンジに入れ、静電紡糸法シート製造装置(カトーテック社製NEUナノファイバーエレクトロスピニングユニット)を用いて、ドラム状コレクター部にセットされたアルミ箔表面の上にシート形成を行った。なお、ドラム状コレクター部の回転ドラム周速度を0.5m/分とした。また、ノズルからターゲット間の距離を15cm、印加電圧を12kVとした。
(鋳型分子の除去)
前記シートを実施例1と同様の条件にするためアセトンで洗浄した後、自然乾燥して目付5g/mの、シート充填率4.1%、平均繊維径0.83μmの繊維シートを得た。
【比較例4】
【0038】
実施例1の静電紡糸法による繊維シート作成において、ドラム状コレクター部の回転ドラム周速度を4.1m/分とした以外は実施例1と同様にして、目付5g/mの、シート充填率24.4%、平均繊維径0.77μmの繊維シートを得た。
【比較例5】
【0039】
実施例1の静電紡糸法による繊維シート作成において、ドラム状コレクター部の回転ドラム周速度を4.5m/分とした以外は実施例1と同様にして、目付5g/mの、シート充填率32.0%、平均繊維径0.79μmの繊維シートを得た。
【比較例6】
【0040】
実施例2の静電紡糸法による繊維シート作成において、ドラム状コレクター部の回転ドラム周速度を4.1m/分とした以外は実施例2と同様にして、目付5g/m、シート充填率25.1%、平均繊維径0.16μmの繊維シートを得た。

(平均繊維径の測定)
平均繊維径の測定は、繊維シートを構成する繊維の直径を走査型電子顕微鏡によって倍率2000倍〜5000倍で約500本測定し、これを平均して求めた。

(圧力損失の測定)
圧力損失の測定は、有効面積100cmの繊維シートに面風速5.3cm/sで通風したときの差圧について、微差圧計を用いて測定した。

(繊維シートの吸着性能の評価:p−t−ブチルフェノール吸着量)
吸着性能の評価は、まず、繊維シートとp−t−ブチルフェノールとを密閉したデシケーター中に共存させ、23℃×24時間静置してp−t−ブチルフェノールを気相吸着させた。次いで、この試料シートのp−t−ブチルフェノール吸着量を求めるため、次に示す手順、すなわち、ダイナミックヘッドスペース法を用いた。まず、発生ガス濃縮導入装置(ジーエルサイエンス社製 MSTD−258)を用い、前記試料シートを純度99.999%の不活性Heガス気流中(流量50ml/分)で、200℃、30分間加熱し、試料シートから発生したアウトガスを吸着剤(TENAX TA)で捕集濃縮し、270℃で再脱離させたガスをクライオフォーカスユニットでサンプルバンドを狭めた後、ガスクロマトグラフ質量分析計(島津製作所製 GCMS−QP5050A)に導入してp−t−ブチルフェノール量を測定し、これを繊維シート1g当たりのp−t−ブチルフェノール吸着量とした。なお、定量法は、n-ヘキサデカン換算の半定量法で行った。キャピラリーカラムは、TC−1(ジーエルサイエンス社製;0.25mm×60m、膜圧0.25μm)を、質量分析計装置のイオン化法は、電子衝撃法(イオン化電圧70eV)を用いた。

実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
インプリント処理を行った静電紡糸法シートである実施例1では、これまでのガラス繊維シートベースである比較例2と比べてp−t−ブチルフェノール吸着量が約2倍に増大しており、比較例1、3に示すとおりインプリント処理を行っていないものに対するp−t−ブチルフェノール吸着量の増大率も静電紡糸法シートのほうが大きいことがわかる。また、実施例2に示すとおり、静電紡糸法繊維の平均繊維径がより微細化することによってp−t−ブチルフェノール吸着量が大幅に増大している。
【0043】
しかし、実施例3,4,5及び比較例4,5,6に示すとおり、静電紡糸法シート製造装置のドラム状コレクター部の周速度を増大させたことによってシート充填率が増大すると、シート充填率20%まではp−t−ブチルフェノール吸着量が保持されるものの、20%を超えると著しくp−t−ブチルフェノール吸着量が低減しており、シート充填率の影響が大きいことがわかる。
【0044】
実施例6は、平均繊維径が1μmを越える繊維シートの例であるが、請求項3で請求する通り、平均繊維径が1μm以下である他の実施例1から5に比較して吸着性能が低い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸法によって製造された、分子インプリント法を利用して鋳型分子の認識部位を形成させたポリマー繊維からなり、かつ、シート充填率が20%以下であることを特徴とする、分子吸着機能を有する繊維シート。
【請求項2】
請求項1における分子吸着の対象が気体分子であることを特徴とする、請求項1記載の分子吸着機能を有する繊維シート。
【請求項3】
前記繊維シートの平均繊維径が1μm以下であることを特徴とする、請求項1又は2記載の分子吸着機能を有する繊維シート。
【請求項4】
前記繊維シートの平均繊維径が0.5μm以下であることを特徴とする、請求項1、2又は3記載の分子吸着機能を有する繊維シート。
【請求項5】
前記繊維シートの平均繊維径が0.2μm以上1μm以下であることを特徴とする、請求項2記載の分子吸着機能を有する繊維シート。
【請求項6】
前記繊維シートの面風速5.3cm/sにおける圧力損失が400Pa以下であることを特徴とする、請求項2又は5記載の分子吸着機能を有する繊維シート。
【請求項7】
鋳型分子と結合可能な官能基を有するポリマーと鋳型分子とを溶媒中で混合し、この混合液を静電紡糸法によって繊維シートを作成した後、鋳型分子を除去し、該繊維上に鋳型分子の認識部位を形成させたことを特徴とする、請求項1、2、3、4、5又は6記載の分子吸着機能を有する繊維シート。
【請求項8】
前記繊維シートを静電紡糸法によって製造するときのコレクターの移動速度を4m/分以下とすることを特徴とする、請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の分子吸着機能を有する繊維シート。

【公開番号】特開2009−172500(P2009−172500A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−12673(P2008−12673)
【出願日】平成20年1月23日(2008.1.23)
【出願人】(000241810)北越製紙株式会社 (196)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】