説明

分子状汚染物質膜モデル作成ツール

【課題】分子状汚染物質膜モデル作成ツール
【解決手段】分子状汚染物質膜が光学システムの性能に対して及ぼす影響のモデルを作成するためのシステム及び方法が開示されている。該光学システムの材料からガスの形で放出された物質の質量が、ガスの形で放出された生成物のスペクトルと相互に関連づけられる(30、31)。ガスの形で放出された生成物のスペクトルが正規化され(30)、総分子状汚染物質膜厚が、各材料から予測される(32)。該総分子状汚染物質膜の吸光スペクトルが導き出され(32)、該総分子状汚染物質膜の該導き出された吸光スペクトルに、光学システム装置関数が畳み込まれる(38)。該光学システムの性能劣化を決定するために、ソース温度の関数としての少なくとも1つの透過帯域の作図が実施される(36)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子状汚染物質膜に関するものである。本発明は、より具体的には、材料のガス放出に起因する分子状汚染物質膜が光学システムに対して及ぼす影響のモデルを作成するシステム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光学システムは、指定されたパラメータをモニタリングすることを目的として光学レンズ、鏡、センサー(例えば赤外線センサー)、等を採用しているシステムである。光学システムの性能を最適化するためには、該システム内の光学機器においてレンズ、センサー、等の性能に干渉する可能性がある汚染物質が発生しないようにすることが望ましい。本明細書において用いられている汚染物質は、空気中分子状汚染物質(AMC)を含み、該汚染物質は、収集可能揮発性凝縮物(CVCM)(汚れ、等)とも呼ばれる。該技術において既知であるように、AMCは、空気中に存在する広範な汚染物質を含み、化学膜(1個の分子程度の薄さになることがある)の形態の汚染に至る可能性がある。
【0003】
AMCは、製品表面の化学的性質、電気的性質、光学的性質、及び物理的性質の変化に起因する収量損を引き起こす可能性がある。汚染物質が光学表面上に堆積すると、これらの汚染物質は、入光を物理的に吸収して散乱させ、それによって球波面の品質を歪ませる。該球波面内に含まれている情報が歪まされると、その結果作り出された画像も変形され、光学システムの全体的な性能が劣化される。
【0004】
システム内に導入されるすべての材料が潜在的なAMC源である。究極的には、材料の化学組成、該材料の表面積及びその使用温度が、光学システム内に導入される汚染レベルを決定する。これらの汚染物質は、様々な手段を通じて導入される可能性があり、最も一般的な手段は、副構成要素上の汚染物質、光学システムの組み立て中(例えば、副構成要素の組み立て中)に導入された汚染物質、及び、これらの副構成要素内における材料のガス放出によって導入された汚染物質が導入手段である。
【0005】
該技術において既知であるように、ガス放出は、埋め込まれた物質が材料からのゼロでない蒸気圧を受けて経時で発達することである。ガス放出は、材料が低圧環境内に置かれたときに発生し、温度上昇状態下において加速される可能性がある。材料がガス放出時には、その成分の一部が揮発され、該材料の重量が失われ(総重量損に占める割合で測定)、これらの揮発性成分の一定割合は、近くの表面上において凝縮可能である。これらの凝縮可能物質は敏感な光学面または熱制御面を汚染させる可能性があるため、この第2の性質はより重要である。
【0006】
光学システムを設計及び製造する際には、該システム内に導入される可能性がある最終寿命汚染(最悪時汚染、等)を知っていることが望ましい。該情報を入手しておくことで、設計変更及び製造変更がデバイスの性能に及ぼす影響を、該デバイスを物理的に製作して試験する必要なしに簡単に確認することができる。
【0007】
ガスを放出する生成物が光学システムの寿命終了時性能に対して及ぼす影響を推定することは、総膜厚と関係する波長の関数としての総ガス放出汚れの吸光係数を知ることを要求する。本明細書における総膜は、システム内においてガスの形で放出されたすべてのよごれが結合されることによって形成される汚染物質膜である。この問題を解決するための1つの手法は、存在する各々の個々の材料が該総汚れに寄与した度合いを推定することである。この手法は、各々の個々の材料から採取したガス放出汚れサンプルからスペクトル(赤外線スペクトル、等)を得ることを要求し、この場合、該当する汚れサンプルの厚さは既知である。残念なことに、該汚れサンプルの厚さは通常は不明であり、従って、存在する各々の個々の材料が該総汚れに寄与した度合いを推定することは実行不能である。
【0008】
従来の方法は、各々の個々の膜の厚さを推定することを試みてきている。残念なことに、これらの方法は、厚さが10ナノメートルを超える分子状汚染物質膜に関しては効果がないことが証明されている。更に、従来の方法は、全体的な総分子状汚染物質膜の化学組成を考慮しない。その結果、これらの方法は、汚染物質膜の化学組成の変動が大きくなると精度が急低下するため用途が限定的である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、分子状汚染物質膜を生成する成分に基づいて該膜のスペクトル特性モデルを正確に作成するシステム及び方法が必要である。従って、該システム及び方法は、該分子状汚染物質膜モデルを作成する際に該分子状汚染物質膜の総体の化学組成を考慮することが有利になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記に鑑み、本発明の一側面は、分子状汚染物質膜が光学システムの性能に対して及ぼす影響のモデルを作成する方法に関するものであり、該方法は、光学システムの材料からガスの形で放出された物質の質量とガスの形で放出された生成物のスペクトルを相互に関連づけるステップと、ガスの形で放出された生成物の赤外線スペクトルを正規化するステップと、総分子汚染物質膜厚を各材料から予測するステップと、該総分子レベル汚染物質膜の吸光スペクトルを導き出すステップと、該総分子レベル汚染物質膜の該吸光スペクトルに該光学システムの装置関数を畳み込むステップと、を含む。
【0011】
本発明のもう1つの側面は、汚染物質膜の厚さが不明なときに該汚染物質膜の単位当たり吸光スペクトルを得る方法に関するものであり、該方法は、ガスの形で放出された物質を化合物から集めるステップと、該ガスの形で放出された物質の少なくとも1つの観察された特性に基づいて該ガスの形で放出された物質を幾つかのグループの1つに分類するステップと、該吸光スペクトルと該ガスの形で放出された物質の該分類に基づいて該ガスの形で放出された物質のサンプルの厚さを推定するステップと、ガスの形で放出された物質の該サンプルの吸光スペクトルを、ガスの形で放出された物質の該サンプルの該推定された厚さによってスケーリングするステップと、を含む。
【0012】
本発明のさらにもう1つの側面は、分子状汚染物質膜が光学システムの性能に対して及ぼす影響のモデルを作成するためのコンピュータシステムに関するものであり、該コンピュータシステムは、記憶媒体と、少なくとも1つのプロセッサであって、動作可能な形で該記憶媒体に結合されたプロセッサと、該記憶媒体に常駐していて該少なくとも1つのプロセッサによって実行されるコンピュータプログラムであって、該プロセッサに、該光学システムの材料からガスの形で放出された物質の質量をガスの形で放出された生成物のスペクトルと相互に関連させ、ガスの形で放出された生成物の赤外線スペクトルを正規化させ、総分子状汚染物質膜厚を各材料から予測させ、該総分子状汚染物質膜の吸光スペクトルに光学システム装置関数を畳み込ませるコンピュータプログラムと、を含む。
【0013】
上記及び関連目的を完遂させることで、本発明は、以下において完全に説明されており更に請求項の範囲において特別に指摘されている特長を具備する。以下の説明及び添付図面は、本発明の幾つかの例示的実施形態を詳細に説明するものである。しかしながら、これらの実施形態は、本発明の原理を採用することができる様々な方法のうちのほんの幾つかを示したものであるにすぎない。本発明のその他の目的、利点及び斬新な特長は、
下記の本発明の最良の実施形態を添付図面と関連させて検討することによって明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
下記は、添付図面を参照した本発明の最良の実施形態を示したものであり、同様の要素については全体に渡って同一の参照番号を付すものとする。
【0015】
本発明は、センサー(例えば、光学センサー、等)に関して説明されている。しかしながら、本発明は、汚染物質膜によって悪影響を受ける可能性があるその他の光学システム及び/又は光学構成要素に対しても適用することができ、センサーに関する説明は、いずれの形においても限定することを意図するものではない。
【0016】
図1Aにおいては、典型的光学センサー2の等大図が示されている。該光学センサーは、例えば剛性プラスチック材料であることができるハウジング4を含む。該ハウジング内には高強度広スペクトル光源6が取り付けられており、該スペクトル光源は、高度に視準された1つの光ビーム8を作り出す。レンズ10は、鏡12上においてビーム8の焦点を合わせ、鏡12は、開口14を通じてビーム8を反射させる。開口14は、Oリング16と透明なシールド18(例えば、透明なプラスチックのレンズ)によって密封されている。ビーム8は、対象物20に当たり、ビーム8’の一部は、センサー2の方向に及び開口14を通じて反射される。戻りビーム8’は、開口14から、光検出器24の感光面上においてビーム8’の焦点を合わせるための焦点合わせ手段22までの直接経路をたどる。
【0017】
時間の経過に伴い、該センサー内の材料(例えば有機材料)から汚れがガスの形で放出されて近くの構成要素上に沈積する可能性がある。一般的には、これらのガスの形で放出された汚れは、ほとんどの用途に関してはほとんど問題にならない。しかしながら、光学システムにおいては、これらの汚れは、光学システムの性能と干渉する可能性がある。図1Bにおいては、ゴム製Oリング16及びハウジング4からガスの形で放出された汚れ26が示されている。これらの汚れは、近くの表面(例えば、レンズ10、鏡12及び焦点合わせ手段22)上に蓄積し、各々の表面上において汚染物質膜28を形成する。汚染物質膜28は、光ビーム8、8’の透過と干渉する可能性があり(図1A参照)、それによって光学センサーの性能を劣化させる。該劣化が過度になった場合は、センサー2は、希望される性能範囲内で動作することができず、その結果、誤動作及び/又は誤データが発生する可能性がある。幾つかの事例においては、該性能劣化が非常に激しくてセンサー2がまったく動作しないことがある。
【0018】
本発明は、光学システムの性能劣化を推定するシステム及び方法に関するものである。以下においてより詳細に説明されるように、本発明のシステムは、総汚染物質膜の吸光スペクトルを構築し、該総汚染物質膜がセンサー又はその他の光学的性能に対して及ぼす影響が推定される。
【0019】
図2Aにおいては、ガス放出に起因する光学システムの性能劣化を推定するための典型的システムの概略が示されている。該システムは、光学システムの性能劣化を推定するために使用される1つ以上の作業を各々が実施する3つのモジュールを含む。第1のモジュール30は、単位層厚を有する既知の材料に関するガス放出結果とIRスペクトルのデータベースを含む。ガス放出結果とIRスペクトルの該データベースは、既知の化合物及び材料に対して実施されたガス放出試験に基づいてシステム内に入力される。ブロック31において示されているように、該センサーの設計者は、該センサーの製作において使用された化合物に関する収集可能揮発性凝縮物(CVCM)のスペクトルを得る。得られたCVCMスペクトルは、第1のモジュール30内に入力される。以下においてより詳細に説明されるように、該CVCMスペクトルは、ASTME595試験の修正形を用いて得られ、これらの試験の結果は、第1のモジュール30のデータベースに保存される。該ガス放出結果データベース、得られたCVCMスペクトル、及び、本発明に従ってCVCMスペクトルを得るために使用された汚れサンプルの相当厚さの推定方法を用いて、第1のモジュール30は、該センサーを構築するために用いられた各化合物に関する単位厚さ当たりの吸光スペクトル(即ち、正規化されたスペクトル)を推定する。該推定された単位当たり吸光スペクトルは、第1のモジュールのデータベースに保存される。
【0020】
第2のモジュール32は、光学システム内においてガスの形で放出されたすべての汚れから生成される可能性がある総汚染物質膜厚を推定する。更に、第2のモジュール32は、該総汚染物質膜の吸光スペクトルを導き出す。第2のモジュール32は、第1のモジュール30に保存されている単位当たり吸光スペクトルを、該光学システムに関連する特定情報(例えば、該光学システムの構築に用いられた化合物、その質量、体積、等)と併用して該総膜厚及び該吸光スペクトルを推定する。該光学システムに関連する該特定情報は、ブロック34において示されているように、例えば該光学システムの設計者によって第2のモジュール内に入力される。該光学システムは、該入力情報及び第1のモジュール内に保存されているデータに基づいて、該総汚染物質膜の吸光スペクトルを構築して該総汚染物質膜の厚さを推定する。
【0021】
第3のモジュール36は、該総汚染物質膜に起因する該光学システムの性能劣化を推定する。該光学システムの光学構成及び該光学システムの装置関数は、ブロック38において示されているように、設計者によって第3のモジュール36内に入力される。第3のモジュール36は、該入力された光学システムデータと第2のモジュール32によって生成されたデータを併用して、該光学システムにおいて生じる可能性がある透過損及び総吸光を推定する。
【0022】
図2Bにおいては、本発明の1つの用途を例示する流れ図が示されている。最初にステップ40において、設計者は、センサーの構築において用いられた材料に関連する物理的データを集めて整理する。これらの物理的データは、例えば、該センサーを構成する材料、各材料の質量及び各々の体積を含む。図1Aの典型的センサーにおいては、該物理的データは、Oリング16、透明シールド18、及びハウジング4の質量と体積、並びに、例えば各々の構成要素を形成する材料を含むことになる。ガス放出試験は、好ましいことに、ASTM E595試験(後述)の修正形を用いてこれらの材料に対して実施される。設計者は、これらの材料に関連するデータを収集して整理後は、ステップ42において示されているように、該センサー内において汚染される可能性がある表面積を決定する。該表面積は、例えば、単純幾何学によって決定することができる。ステップ44において、設計者は、センサー2の装置関数を決定する。該装置関数は、装置(例えばセンサー)が既知の量の光を既知の信号に変換する効率である。該装置関数は、例えば、ソース信号の強度を測定し次に該センサー全体を通じての強度損を測定することによって決定することができる。
【0023】
ステップ46において、設計者は、本発明に従い、蓄積されたデータ(物理的データ、ガス放出データ、表面積及び装置関数)をシステム内に入力し、ステップ48において、該システムは、該センサーがガス放出に起因して被る可能性がある最悪時の性能劣化を推定する。ステップ50において、該推定された性能劣化は、設計者に提示され、ステップ52において、設計者は、該性能劣化が受入可能であるかどうかを決定することができる。該性能劣化が受入可能である場合は、該プロセスは完了である。該性能劣化が受け入れられない場合は、ステップ54において、設計者は、該センサーの一部分を変更又は再設計することができる。例えば、異なった型のプラスチックをハウジング4に関して使用することができ、又は、異なったゴム組成を有するOリング16を採用することができる。設計変更後は、該プロセスは、ステップ40に戻り、受入可能な結果が得られるまで繰り返される。
【0024】
本発明は、総汚染物質膜の吸光スペクトルにセンサーの装置関数を畳み込むことによって該センサーの光学的劣化を推定するものである。本発明は、該総汚染物質膜の吸光スペクトルを決定する際には、ガスの形で放出された各汚れのサンプルから平均吸光スペクトルを入手し、該吸収スペクトルを入手するために用いられた各々の汚れサンプルの相当厚さを推定する。本発明においては、特定の汚れサンプルに関する相当厚さの推定方法は、汚れの種類に依存する。汚染物質である汚れは、1)純粋な物質であって更に常温において液体形である汚染物質、2)液体でも純粋物質でもないが、対象領域内における吸光が単一の官能基によって支配されていることが赤外線スペクトルによって示される汚染物質、及び3)ガスを放出する生成物が純粋な物質ではなく更に液体である単一のモデル化合物によって表すことができない、汚染物質、のうちのいずれか1つの特定のグループに分類される。汚れの種類に依存して、汚れのサンプルの相当厚さを推定するためにこれらの3つの方法のうちの1つが実装される。次に、該汚れの平均吸光スペクトルが該汚れサンプルの推定厚さによって除され、該汚れサンプルの単位厚さ当たりの吸光スペクトルが得られる。
【0025】
該単位当たりの吸光スペクトルは、センサー内で用いられている様々な材料のガス放出に起因して堆積する可能性がある総膜のスペクトルを構築するために使用される。該総汚染物質膜がセンサーの性能に対して及ぼす影響は、該総汚染物質膜の吸光スペクトルに該センサーの装置関数を畳み込むことによって推定される。得られた結果は、ガス放出による分子状膜汚染の存在に起因して該センサーが被る可能性がある最悪時透過損の推定値である。
【0026】
以下では、3種類の汚れの各々について、及び、各々の相当汚れ厚さ推定方法について説明される。
【0027】
種類1−純粋物質であり更に常温において液体形である汚染物質
第1の種類の汚れは、純粋物質であり更に常温において液体形である汚染物質(ジオクチルフタレート、等)である。種類1の汚れに対応時には、汚れサンプルに関する基本情報(該汚れサンプルの質量、該汚れサンプルが占める面積、等)が集められて整理される。
【0028】
該汚れサンプルの質量は、該汚れサンプルを計量することによって決定することができる。例えば、2つの赤外線(IR)ソルトプレートが、好ましいことに0.01ミリグラムの単位まで計量され、次に、該汚れサンプルの少量が、1つのプレート上に置かれる。次に、該汚れサンプルが両プレートの間で締め付けられて直径約2センチメートルのスポットを形成する。これらのプレートが再計量され、該汚れサンプルの質量は、該汚れサンプルの質量と該ソルトプレートの質量から該ソルトプレート単独の質量を減じて得られた値として計算される。
【0029】
該汚れサンプルの質量が決定された後は、例えばフーリエ変換赤外線分光光度計を用いて一組の赤外線透過スペクトルが得られる。好ましいことに、5つの赤外線透過スペクトルが得られ、各サンプルが各測定ごとに交代される。更に、従来のように、観察結果の組から平均吸光スペクトル準備されて該汚れサンプルの光学平均が入手される。該スペクトルは、透過モードにおいて基準補正されて最終結果が吸光度に変換され(log10)、存在する可能性がある大気に関するあらゆる二重線が除去される。透過は、いずれの測定に関しても約20%未満であるべきでない。透過強度が20%未満である場合は、別のサンプルを準備すべきである。
【数1】

【0030】
該汚れサンプルの厚さは、式1を用いて計算することができる。厚さは、該汚れサンプルの厚さ(単位はセンチメートル)であると定義される。質量は、該汚れサンプルの質量(単位はグラム)であると定義される。密度は、該サンプルの密度(単位は立方センチメートル当たりのグラム数)であると定義され、面積は、該サンプルによって占められる面積(単位は平方センチメートル)であると定義される。上述されているように、該汚れサンプルの質量は、測定値から決定され、該汚れサンプルの密度は、測定によって又は純粋材料に関する確定密度のいずれかによって知られる。該汚れサンプルによって占められている面積は、以下において式2及び式3に基づいて説明されているように、基礎幾何学を用いて得られる。
【数2】

【数3】

【0031】
該汚れサンプルによって占められる面積は、該サンプルが完全な円であると仮定して式2を当てはめることによって計算される(ここで、Dは、該汚れサンプルの測定された直径(単位センチメートル)であると定義され、面積は、該汚れサンプルによって占められる表面積(単位平方メートル)であると定義される。該サンプルが円状でない(例えば、楕円形である)場合は、該汚れサンプルの面積は、該楕円の長軸の長さと該楕円の短軸の長さを用いて計算することができる。式3は、楕円の面積の計算を表しており、ここで、
Majorは、該楕円の長軸の長さ(単位センチメートル)であると定義され、DMinorは、該楕円の短軸の長さ(単位センチメートル)であると定義され、面積は、表面積(単位平方センチメートル)であると定義される。該直径及び/又は長軸/短軸は、好ましいことに、例えば鋼尺を用いてミリメートルの単位まで測定することができる。該汚れサンプルの面積、密度及び質量が得られた時点で、式1を用いて該汚れサンプルの厚さを計算することができる。該汚れサンプルの単位当たり吸光スペクトルは、該汚れサンプルの平均吸光スペクトルを該汚れサンプルの計算された厚さによって除することによって導き出される。
【0032】
式1乃至3を用いることは幾つかの仮定を行うことであることが注記される。以下では、これらの仮定と、これらの仮定に違犯した場合に発生する可能性がある課題とについて簡単に説明される。
【0033】
第1に、該汚れサンプルは、揮発性が低いと仮定される。該汚れサンプルの揮発性が低くない場合は、膜が急速に蒸発し、厚さ計算を不正確にする可能性がある。更に、該汚れサンプルの密度は既知であるか又は決定することができると仮定される。該密度が既知でない及び決定できない場合は、膜の厚さは計算することができない。
【0034】
更に、該汚れサンプルは中程度の粘度を有すると仮定される。該汚れサンプルが高い粘度を有する場合は、該サンプルは厚すぎることになり、均一な厚さのサンプルを入手するのが困難になる。該粘度が低すぎる場合は、該汚れサンプルがソルトプレートから流れ出し、その結果該汚れサンプルの質量測定を無効にしてしまう可能性がある。
【0035】
最後に、該汚れサンプルの吸光度は、厚さを基準にして線形であると仮定される。厚い汚れサンプルは、自己吸光に起因するピークの丸みと低減衰を引き起こす可能性がある。一般的には、自己吸光を制御する上では、20%よりも大きいピーク透過率で十分である。
【0036】
従って、単純幾何学及び分光学を用いることで、種類1の汚れサンプルの厚さ及びその透過スペクトルが得られる。単位厚さ当たりの吸光スペクトルは、該汚れサンプルの平均吸光スペクトルを、該計算された該汚れサンプルの厚さで除することによって導き出される。
【0037】
種類2−液体でも純粋物質でもないが、対象領域における吸光度が単一の官能基によって支配されていることが赤外線スペクトルによって示される汚染物質
第2の種類の汚れは、液体でも純粋物質でもないが、対象領域における吸光度が単一の官能基によって支配されていることが該汚れの赤外線スペクトルによって示される汚染物質である。この種類の汚れの例は、ブチルゴム(ブチルOリング、等)からのガス放出生成物である。
【0038】
幾つかのブチルOリングから得られるガス放出生成物は、一般的には、固体であって結晶を形成する。このような固体物質の測定可能な均一層を準備してスケーラブル(scalable)な吸光度を有するスペクトルを得ることは非常に難しい。種類2の汚れにおいて赤外線吸光分光測定法によって一般的に観察される官能基は、非常に大きな遷移確率を有する。このため、線形性に関する仮定条件が引き続き有効であるように注意しなければならない。線形性は、ベール−ランベルトの関係(後述)に基づく。
【0039】
以下においてさらに詳細に説明されるように、種類2の汚れの単位厚さ当たりの吸光スペクトルは、汚れサンプルの測定された吸光スペクトルと類似の特性を有する吸光スペクトルを持った材料を選択することによって推定される。スケールファクターを用いて、該類似の材料の吸光スペクトルがスケーリングされ、該汚れサンプルの該測定された吸光スペクトルが当てはめられる。更に、該測定された吸光スペクトルを該スケールファクターで除することによって、該汚れサンプルの単位厚さ当たりの吸光スペクトルが推定される。以下において式4及び式5に基づいて説明されているように、該測定された吸光スペクトルを該スケールファクターによってスケーリングするプロセスは、ベール−ランベルト関係に違犯しない。
【数4】

【0040】
膜の吸光度は、式4を用いて計算することができ、ここで、aは、吸光係数(単位はモル*センチメートル当たりのリットル)であると定義され、bは、経路長(即ち、膜厚)(単位はセンチメートル)であると定義され、cは、濃度(単位は、1リットル当たりのモル数)であると定義され、Absは吸光度である。ここで、該吸光度は、−log10(I/I)であると定義され、Iは、入射強度(単位は、1平方センチメートル当たりのワット数)であると定義され、Iは、透過された強度(単位は、1平方センチメートル当たりのワット数)であると定義される。
【数5】

【0041】
式4の両辺を経路長bで割ると式5が得られる。従って、ベール−ランベルト関係に従い、積axcは、単位厚さ当たりの吸光度である。単位当たりの吸光スペクトルは、式5において示されているように、測定された吸光スペクトルを膜厚で割ることによってベール−ランベルト関係に違犯せずに計算することができる。
【0042】
ベール−ランベルト関係を支えるために4つの基本的な仮定が行われる。第1に、汚れサンプルは、希釈されており、吸光物間で相互に作用しないと仮定される。第2に、すべての吸光物は、基底状態であると仮定される(過度の吸光は、濃度よりも小さい基底状態母集団になる可能性がある(ボルツマン分布))。 第3に、吸光後に再放出されたいずれの光も再吸収されないと仮定される。換言すると、各光子は、システムと1回だけ相互に作用することができる。最後に、光は、システム外に散乱せず、更に、光は、ビーム経路内に散乱せずかつ再放出されないと仮定される。いずれの光損も、吸光に起因する。
【0043】
一般的には、純粋物質は濃度が一定であるため積axcは有効吸光係数α’(λ)(cm−1)であると仮定される。文献において発表されている吸光係数値は、強度比の対数log10又はlog(ln)を用いて計算することができるため、これらの値を使用時には注意しなければならない。
【0044】
上述されているように、該汚れサンプルの厚さは、該汚れサンプルと類似の特性を有する既知の材料を用いて決定される。従って、類似の材料を選択できるようにするためには該汚れサンプルの特性を予め決定しなければならない。
【0045】
該汚れサンプルの特性は、該汚れサンプルの赤外線吸光スペクトルを得ることによって決定することができる。該吸光スペクトルが得られた時点で、該吸光スペクトル内の強力な吸光特徴(例えば、吸光スペクトル内におけるピーク)が特定される。
【0046】
赤外線分光学及び化学に基づき、該汚れサンプルと類似の吸光特徴を有する材料の選択が行われ、選択された材料の1.0ミクロンの厚さの層の赤外線吸光スペクトルが得られる。選択された材料の1.0ミクロンの厚さの層の該吸光スペクトルは、該汚れサンプルの吸光スペクトルが重ねられ、必要な場合は、該汚れサンプル吸光スペクトルの形状に適合させるために、該選択された材料の吸光スペクトルがスケーリングされる。
【0047】
次に、該汚れサンプルの吸光スペクトルは、該汚れサンプルスペクトルを、該選択された材料の吸光スペクトルに適用されたスケールファクターで割ることによってスケーリングされる。該汚れサンプルスペクトルのスケーリングは、該汚れサンプルの1.0ミクロンの厚さの層に関する吸光スペクトル推定値を作り出す。
【0048】
例えば、図3においては、ブチルOリングのガス放出生成物の副サンプルから得られた赤外線吸光スペクトル60が示されている。1100乃至1200(cm−1)の間で発生する強力な吸光特徴が、例えばガスクロマトグラフィー質量分光測定法を用いて解析され、材料内において圧倒的に多い種がペルフルオロ部分として特定される。
【0049】
次に、該特定された圧倒的な種と類似する特性を呈する純粋材料が特定される。例えば、フッ化油であるブレイコート(Braycote)816は、フッ化材料に関するベクトルとして使用することができる。図4においては、ブチルOリングからのガス放出生成物の吸光スペクトル60は、厚さが1.0ミクロンのブレイコート816層の吸光スペクトル64が重ね合わされている。更に、0.36倍だけスケーリングされたブレイコートベクトル66も図4に示されている。図4においてわかるように、ブチルOリングの該ガス放出生成物のスペクトル上の性質は、特に1000乃至1400(cm−1)のエネルギー範囲においては、スケーリングされたブレイコート816ベクトルスペクトルと類似している。
【0050】
固体のガス放出生成物のスケーリングされたベクトル66と観察されたスペクトル60が一致していることは、該ガス放出生成物は厚さ0.36ミクロンのブレイコート816層によって表すことができるか、又は、観察されたガス放出生成物のスペクトルは、0.36ミクロンの液体フッ化油に相当する厚さを有することを示唆している。
【0051】
ガス放出生成物のスペクトル60を、スケーリングされたブレイコート816スペクトル66に適用されたスケールファクターで割ることによって、1.0ミクロンの相当厚さを有するガス放出生成物のベクトルスペクトルが得られる。
【0052】
従って、種類2の汚れの吸光スペクトルは、汚れサンプルの吸光スペクトルと類似する特性を有する吸光スペクトルを持った材料を選択することによって得ることができる。このため、該選択された材料の吸光スペクトルを該汚れサンプルの吸光スペクトルに適切に当てはめるスケーリングファクターが決定される。このスケーリングファクターを用いて該汚れサンプルの吸光スペクトルをスケーリングすることによって、該汚れサンプルの1.0ミクロンの厚さの層の吸光スペクトルを得ることができる。
【0053】
種類3−ガス放出生成物が純粋物質ではなく、更に液体である単一のモデル化合物によって表すことができない。
【0054】
第3の種類の汚れは、純粋物質ではなく、更に液体である単一モデル化合物によって表すことができない汚染物質である。該汚染物質の一例は、ユラレーン(Uralane)5753のガス放出生成物である。
【0055】
以下においてさらに詳細に説明されるように、種類3の汚れを分析する上での主目的は、該汚れの相当厚さを推定することができる該汚れの合成スペクトルを得ることである。この合成スペクトルは、1.0ミクロンの厚さを有するモデル化合物を結合させ、更に、各モデル化合物にスケーリングファクターを割り当てて該合成スペクトルが該汚れスペクトルの近似スペクトルを形成するようにすることで導き出される。必要な場合は、誤ったデータ(例えば、各ベクトルとともに導入された過度の信号)に対応するために該合成スペクトルの補正が行われる。該汚れサンプルの相当厚さは、該合成スペクトルの各スケーリングされたモデルベクトルの厚さを加え、更に該合成スペクトルに関する補正値を加えるか又は減じることによって推定される。
【0056】
汚れスペクトルを当てはめる前に、汚れサンプルの多数のスペクトルを集め、これらの多数のスペクトルから平均サンプルスペクトルを準備することが好ましい。更に、従来のように、該平均サンプルスペクトルは、反射損及び大気中の二酸化炭素に関して補正すべきである。
【0057】
例えば、大気中の二酸化炭素の二重線は、該二重線の領域内のデータを、例えば該二重線のいずれかの側における基準線によって定められた直線に代えることによって補正することができる。補正は、吸光度モード又は透過率モードで実施することができる。吸光スペクトルにおいて負値が生じることを回避するため、吸光スペクトルのいずれの部分も100%の透過率を超えないようにすべきである。
【0058】
図5においては、ユラレーン5753接着剤から集められたガス放出生成物から得られた吸光スペクトル70が示されている。更に、図5は、幾つかのモデル化合物のベクトルスペクトルを用いて作られた合成スペクトル72、及び、合成スペクトル72がサンプルスペクトル70から減じられたときに作り出される残量78(又は誤差)も示している。
【0059】
さらに図6においては、合成スペクトル72を構築するために用いられた個々のベクトル74(ベクトル基本セット)とその各々の厚さ76(スカラーファクター)を記載した表が示されている。
【0060】
合成スペクトル72は、既知のモデル化合物に関する正規化ベクトルを結合させ、サンプルスペクトル70に近似するスペクトルを形成させることによって作り出される。各ベクトルは、厚さ76が割り当てられ、この厚さは、特定ベクトル74に関するスケーリングファクターとしての役割を果たす。合成スペクトル72を構成するベクトル74の選択は、赤外線分光学及び化学に関する知識に基づく。当業者によって評価されることになるが、合成スペクトル72の異なる部分が、官能基又は発色団と明確に関連づけられている。合成スペクトル72に関する化合物の選択は、対象領域内の官能基の吸光上の性質に基づくことができる。
【0061】
合成スペクトル72は、合成スペクトル72内の個々のベクトル74を、必要に応じて各厚さ76とともに処理することによって、サンプルスペクトル70に当てはめられる(例えば図6を参照)。合成スペクトル72をサンプルスペクトル70に当てはめることは完全である必要がなく、該サンプルスペクトルの正確な近似を得るだけで十分であることが注記される。測定されたスペクトルと合成スペクトルとの間において許容されるずれ量は、最終結果の希望される精度に依存する。サンプルスペクトル70の適切な当てはめが得られた時点で、汚れの相当厚さの第1の推定値が計算される。汚れサンプルの厚さの推定値は、合成スペクトル72を作り出すために用いられた個々のベクトルの厚さ76を合計することによって計算される。図6においては、相当厚さ79の第1の推定値は、各ベクトルスペクトルの和、即ち1.15ミクロンである。
【0062】
合成スペクトル72は、最初の当てはめ後に補正することができる。例えば、合成スペクトル72の一定領域は、サンプルスペクトル70から大きくずれることがある。このことは、ゼロの吸光度から有意な量だけ外れている残留物78によって示される。この場合も、何が有意なずれであるかは、最終結果の希望される精度に依存する。
【0063】
ずれは、例えば、選択されたすべてのベクトルの和によって一定の帯域の寄与度が過大推定されたことに起因して生じる可能性がある。正の残留物78は、合成スペクトル72の吸光度がサンプルスペクトル70の吸光度よりも低いこと(例えば、サンプルスペクトルを過小推定していること)を示しており、負の残留物は、合成スペクトル72の吸光度がサンプルスペクトル70の吸光度よりも高いこと(例えば、サンプルスペクトルを過大推定していること)を示している。
【0064】
合成スペクトル72の過大推定領域80は、後者の例であり、合成スペクトル吸光度がサンプルスペクトル吸光度を超えている。本例における過大推定領域80は、C−H曲げ動作と関連している。合成スペクトル72に関して選択されたモデルのほとんどは長い脂肪鎖を有しているため、合成スペクトル72を作り出すために選択されたすべてのベクトルの和は、C−H帯域の寄与度を過大推定している。該過大推定は、単純な脂肪炭化水素(例えば、nノナン、等)を用いてCH帯域を減じることによって補正することができる。
【0065】
図5の合成スペクトル72に関する相当厚さの第2の繰り返しを得るために、汚れ内における脂肪炭化水素と芳香炭化水素の全厚の推定が実施される。炭化水素の寄与度を取り除くことで、相当厚さのより良い近似値が得られる。脂肪炭化水素と芳香炭化水素の全厚は、補正化合物の異なった厚さレベルを試みて合成スペクトルに関する結果を観察することによって推定される。図7のピーク82の下方のより平らな残差スペクトルによって示されているように、C−H帯域の過度の減算は、例えば、0.5ミクロンのnノナンを減じることによって最小限に抑えることができる。相当膜厚に関する次の近似値は、0.65ミクロンであり、該補正化合物の厚さ(例えば、0.5ミクロンのnノナン)を、厚さ79の第1の推定値(例えば、1.15ミクロン)から減じることによって得られる。負の残留物78によって示されているように、合成スペクトル72は、負の残留物78によって示されているように、領域80内のサンプルスペクトル70を過大推定しているため、該補正化合物の厚さが該推定厚さから減じられる。第1の合成スペクトル72の結果、正の残留物78になった場合は、該補正化合物の厚さが第1の推定厚さ79に加えられることが理解されるであろう。
【0066】
該補正の効果が図7に示されている。2400(cm−1)の近くの小さいピーク84は、大気中の二酸化炭素二重線であり、ベクトルスペクトルを作り出す前に取り除くべきである。図8は、推定値を作り出すために用いられた成分ベクトル74’及び厚さ76’を示している。更に、図8は、これらのベクトルを作り出すために用いられた純粋化合物の既知の密度86、及び式6を用いて計算される密度加重厚さ88の積(後述)も記載している。
【数6】

【数7】

【0067】
各化合物の厚さに該化合物の密度を加重することによって、改良された厚さ推定値を得ることができる。このプロセスは、式6によって定義され、ここで、pは、CVCM構成要素iの密度(単位は1立方センチメートル当たりのグラム数)であると定義され、tは、CVCM構成要素の厚さ(単位はミクロン)であると定義され、iは、当てはめる構成要素の指数であり、nは、構成要素数であり、Aは、密度加重厚さ(単位は1立方センチメートル当たりのグラム数)であると定義される。例えば、各厚さ76’に各々の構成要素の密度86が乗じさられ、各特定ベクトルに関する密度加重厚さ88が求められる。次に、各密度加重厚さ88が合計され、全密度加重厚さ88’が求められる。全密度加重厚さ88’が総合計密度86’によって除され、その除算結果に、合成スペクトル72’を作り出すために用いられたベクトル数が乗じられる。その結果得られた値が、相当厚さ79’’の新たな推定値である。
【0068】
式7は、総汚れに関する相当平均密度を定義する式であり、ここで、Bは、平均厚さ加重密度(単位は1立方センチメートル当たりのグラム数)であると定義される。式7は、汚れに関する近似密度を計算するために使用される。該近似密度は、汚染物質の質量を体積に変換するために使用される。
【0069】
従って、上記において種類2の汚れに関して説明されているように、汚れサンプルの測定された吸光スペクトル70を、推定された汚れサンプル厚さ79’、79’’によって除することによって、単位厚さ当たりの吸光スペクトルが得られる。
【0070】
ある所定の発色団を表すために選択される純粋液体は、一般的には、典型的なガス放出汚れよりも官能基数が少なくなる。本分析では、汚れのモル体積は、これらの純粋液体のモル体積と同様であると仮定している。この仮定は欠陥がある一方で、相当厚さをスペクトルに割り当てることを可能にし、そのため、総汚れに対するある所定の物質の寄与度と、総汚れがセンサーの光学性能に及ぼす影響と、を推定することができる。
【0071】
相当膜厚の推定をスペクトルの当てはめに基づいて行うことは、ある程度の判断力とある程度の化学的直観力が要求されることが注記される。一般的には、このプロセスは、スペクトルの当てはめから得られる加重係数が相当厚さを自動的に定めることになるような形で自動化すべきではない。この場合には、化学、材料組成及び赤外線分光学について適切に理解する必要がある。更に、合成スペクトル72は、一般的には、完璧な当てはめではなく、各官能基に関する帯域の位置の小さい波長シフトに起因して鋭角なスパイクが作り出される可能性がある。これらの波長シフトは、該官能基が取り付けられている主鎖の構造に依存する。
【0072】
前述されているように、合成スペクトルに適用するベクトルの選択は、非常に主観的である。ベクトル選択においては、材料安全性データシート(MSDS)を用いることができる。例えば、ユラレーン5753を当てはめるためのベクトルとしてポリエチレングリコールを選択したことは、MSDS内の情報に基づいたものである。同様に、N,Nジエチルアニリンをベクトルとして選択したことは、該接着剤内において化学的に類似した材料が用いられていることに基づいたものである。
【0073】
幾つかの例においては、特定の材料に関する情報が容易に入手できないことがあり、又は、汚れのスペクトル上の性質が試験前の予想とは異なることがある。このような事情下においては、発色団とその典型的波長範囲を記載したリストが役立つことになると思われる。
【0074】
例えば、3000(cm−1)の範囲の高い吸光度を希望することができる。図9の特徴的赤外線グループ周波数図においては、3000(cm−1)範囲内の吸光帯域の希望される強度を有するグループが識別される。従来のように、強力な吸光帯域は、“S”で示されており、中程度の吸光帯域は、“M”、で示されており、弱い吸光帯域は、“W”で示されている。例えば、ターシャリーブチル90及びnプロピル92は、3000(cm−1)範囲において強力な吸光を示し、従って、各々は、対象範囲内において希望される結果を達成させるために合成スペクトルに関する成分ベクトルとして使用することができる。
【0075】
部分の存在を特定する際には、代替解析手法(例えば、質量分光測定法)が役立つ。更に、新しいモデル化合物を用いて、汚れのスペクトルを当てはめるためのベクトルスペクトルを作り出すことができる。
【0076】
完璧な当てはめが望まれる一方で、完璧な当てはめを達成させるのは不可能である。最初は、脂肪族及び芳香族に関する性質について把握すること以外には、3000(cm−1)付近においてC−H帯域を当てはめることを過度に気にすべきではない。著しいスペクトル特徴の当てはめを優先し、強力な吸光物であることがわかっている発色団(例えば、シリコーン又はカルボニル基)をより重視すべきである。1600(cm−1)との間で生じるCO帯域とCN帯域に関しては、3000(cm−1)の上方における広範なOH及びNHの特徴が有用な基準である。特に、これらの特徴は、ベクトルを選択する上で、及び異なったベクトル成分の厚さを微調整する上で、有用である。
本明細書において説明されている方法によって作り出されるベクトルスペクトルは、総ガス放出汚れの赤外線スペクトルを予測するための基礎とすることが意図されている。総汚れの厚さは、加速ガス放出試験中にコールドプレート上で集められた揮発性汚れの質量分を用いて推定される(ASTM E595)。CVCMに関する知識に関わる不確実性と、CVCM汚れのスペクトルに適用される相当厚さ推定値に関わる不確実性を分離させることが重要である。以下の説明は、所定のCVCMスペクトルの相当厚さを割り当てる際の不確定要因に限定されている。
【0077】
各ベクトルスペクトルの相当厚さに関わる不確実性は、これらの各々のベクトルごとに特有である。明確なことであるが、モデル化合物から作り出されたベクトルは不確実性が低く、一般的には、5%乃至10%のオーダーの相対標準偏差(RSD)である。その他のベクトルに関わる不確実性は、10%乃至100%のRSDになる可能性がある。適用された相当厚さに関する不確実性の一般的範囲は、20%乃至50%のオーダーであるというのが発明者の意見である。
【0078】
ガス放出試験から集められる汚れ量は、一般的には非常に少なく、総質量は、0.1乃至2ミリグラムのオーダーである。この物質は、通常は、小滴、膜及び結晶の不均一な分布として直径1センチメートルの面積上に堆積される。物質分布は、通常は、組成又は物理的形状の点で均一でない。近隣の小滴は、大幅に異なる赤外線スペクトルを呈する可能性がある。従って、ベクトルスペクトルは、平均的な応答が得られるような形で集められる。
【0079】
集められる汚れの量及び種類は、該当材料の処理方法に依存する。処理は、硬化前のアウトタイム(outtime)、非硬化材料の出荷条件と貯蔵条件、混合比、硬化スケジュール、硬化後の処理、硬化後の貯蔵、輸送中と出荷中の環境、及び試験条件を含む(但し、これらの項目に限定するものではない)。
【0080】
従って、種類3の汚れの単位当たりの吸光スペクトルは、汚れサンプルの吸光スペクトルに近似する合成スペクトルを構築することによって得ることができる。又、該合成スペクトルの各ベクトルに対して適用されたスケーリングファクターを、いずれかの補正係数とともに用いることによって、該汚れサンプルの相当厚さが推定される。該汚れサンプルの測定された吸光スペクトルを該推定された厚さで除することで、該汚れサンプルの単位厚さ当たりの吸光スペクトルが得られる。
【0081】
図10A乃至10Cの流れ図100においては、汚れの単位厚さ当たりの吸光スペクトルを得るための典型的ステップが示されている。最初にステップ102において、該汚れが3種類のうちの1つに分類される。第1の種類の汚れは、純粋物質であり更に常温において液体形である汚染物質である。第2の種類の汚れは、液体でも純粋物体でもないが、対象領域内における吸光度が単一の官能基によって支配されていることが赤外線スペクトルによって示される汚染物質である。最後に、第3の汚れは、純粋物質でなく、更に液体であるモデル化合物によって表すことができないガス放出生成物、を有する汚染物質である。該汚れが種類1の汚れである場合は、ステップ104において、2つのIRソルトプレートが、好ましいことに0.01ミリグラムの単位まで計量される。ステップ106において、該汚れの液体サンプルが該IRソルトプレートのうちの1つの上に置かれ、
第2のIRソルトプレートが第1のIRソルトプレートの上方に置かれる。該液体サンプルは、これらの2つのIRソルトプレートの間で圧縮されて直径約2センチメートルになる。ステップ208において、該液体サンプルとIRソルトプレートの組み合わせが(同じく好ましいことに0.01ミリグラム単位まで)計量され、該汚れサンプルの質量が計算される。該汚れサンプルの該質量は、該汚れサンプルの質量と該ソルトプレートの質量から該ソルトプレートの質量を減じた質量として計算される。ステップ110において、該汚れサンプルの直径が測定され、該液体サンプルによって占められる面積が計算される。該面積は、該サンプルが円状であると仮定して式2を使用することによって計算することができる。該サンプルが明らかに円状でない(例えば、楕円形である)場合は、2回の測定、即ち、該楕円の長軸の測定及び該楕円の短軸の測定、を行うことができる。式3を用いて、該汚れサンプルの面積が計算される。
【0082】
ステップ112に進み、該汚れサンプルの厚さが、該汚れサンプルの幾何形状と物理的性質に基づいて計算される。上述されているように、該汚れサンプルの面積は、円形又は楕円形のいずれかであると仮定し更に測定されたパラメータ(例えば、円の直径、又は楕円の長軸と短軸)を用いて計算される。該サンプルの計算された面積、該サンプルの測定された質量、及び該サンプルの密度(測定密度又は既知の密度)を用いて、式1に従って該サンプルの厚さが計算される。
【0083】
ステップ114において、該汚れサンプルの一組の赤外線スペクトルが得られる。好ましいことに、幾つかのサンプルが得られ、これらのサンプルは、各測定ごとに交代される。ステップ116において、これらの幾つかのサンプルから平均スペクトルが得られ、該スペクトルは、ステップ118において透過モードで基準補正される。ステップ120において、該スペクトルは、吸光モードに変換され、大気二重線が該スペクトルから取り除かれる。ステップ122において、該平均スペクトルは、該汚れサンプルの測定された厚さによって除され、該汚れの単位厚さ当たりの吸光スペクトルが得られる。
【0084】
従って、該汚れサンプルの吸光スペクトルが得られる。更に、該吸光スペクトルを得るために用いられた該汚れサンプルの厚さが導き出される。該吸光スペクトル及び該計算された汚れ厚さを用いて、該汚れに関する単位当たりの吸光スペクトルが導き出される。
【0085】
ステップ102に戻り、該汚れが種類2の汚れである場合は、図10Bのステップ152において、該汚れサンプルの赤外線吸光スペクトル60が得られる。ステップ154において、吸光スペクトル60内の強力な吸光特徴62と、該強力な吸光特徴62の主因である圧倒的な種が特定される。次に、ステップ156において、該汚れサンプルの吸光スペクトル60に類似する吸光スペクトルを有する材料が選択され、ステップ158において、該選択された材料の吸光スペクトル64に、該汚れサンプルの吸光スペクトル60が重ねられる。
【0086】
ステップ160に進み、該選択された材料の吸光スペクトル64がスケーリングされ、該汚れサンプルの吸光スペクトル60の強度が概算される。ステップ262において、該選択された材料の吸光スペクトル64に適用されたスケールファクターを用いて、該汚れサンプルの吸光スペクトル60がスケーリングされ(例えば、該選択されたスペクトルに適用されたスケールファクターによって除され)、1.0ミクロンの厚さの汚れサンプルから得られる吸光スペクトルが概算される。その結果、種類2の汚れの単位厚さ当たりの吸光スペクトルが得られる。
【0087】
ステップ102に戻り、該汚れが種類3の汚れである場合は、図10Cのステップ202において、該汚れサンプルのガス放出生成物の吸光スペクトル70が得られ、ステップ204において、該吸光スペクトル内に存在するあらゆる大気中二酸化炭素二重線が取り除かれる。ステップ206において、合成吸光スペクトル72が構築され、ここで、該合成吸光スペクトルは、該ガス放出生成物の吸光スペクトル70に近似している。上述されているように、合成スペクトル72は、既知のモデル化合物に関する正規化ベクトルを結合させ、該ガス放出生成物の吸光スペクトル70に近似するスペクトルを形成させることによって構築される。各ベクトルは、厚さ76が割り当てられ、この厚さは、特定のベクトル74に関するスケーリングファクターとしての役割を果たす。合成スペクトル72を構成するベクトル74の選択は、赤外線分光学及び化学に関する知識に基づいて行われる。
【0088】
ステップ208において、合成スペクトル72は、該ガス放出生成物のスペクトル70に当てはめられる。当てはめは、各ベクトル74の厚さ76を処理することと、合成スペクトル72と該ガス放出生成物のスペクトル70との間において適切な当てはめを達成させるために必要に応じてモデル化合物を追加又は取り除くことを含む。合成スペクトル72とガス放出生成物のスペクトル70との間で適切な当てはめが得られた時点で、ステップ210において示されているように、各モデルベクトル化合物74に割り当てられた厚さ76を加えることによって、該汚れの相当厚さの推定値が得られる。更に、各モデル化合物の厚さ76に、式6に関して予め示されているように該化合物の密度を加重することによって、改良された推定値を得ることができる。
【0089】
ステップ212において、合成スペクトル72とガス放出生成物のスペクトル70との間の当てはめが比較され、すべての過度の残留物78が特定される。該残留物が過度でない場合は、該プロセスは、ステップ220に進む。残留物78が過度である場合は、ステップ214において、該残留物が正又は負のいずれであるかが決定される。該残留物が正である場合は、ステップ216において、残留物78を少なくする(即ち、該残留物の正度を引き下げる)ために合成スペクトル72に化合物が加えられ、各加えられた化合物の厚さが、該汚れの相当厚さの最初の推定値に加えられる。他方、残留物78が負である場合は、ステップ218において、残留物78を増やす(即ち、該残留物の負度を下げる)ために合成スペクトル72に化合物が加えられ、各加えられた化合物の厚さが、該汚れの相当厚さの最初の推定値から減じられる。ステップ220において、式6に関して説明されている密度加重厚さを用いて、改良された推定値を計算することができる。
【0090】
以上では、汚れサンプルの単位厚さ当たりの吸光スペクトルを推定する方法の一実施形態が開示されている。第2の実施形態においては、単位厚さ当たりの吸光スペクトルを推定する方法は、汚れのガス放出に起因するセンサーの性能劣化を推定するため使用される。
【0091】
図11においては、本発明のもう1つの実施形態を実装するために用いられる3つのソフトウェアモジュールを例示した単純なブロック図が示されている。該ブロック図は、3つの別個のモジュールを例示している一方で、これらのモジュールは、本発明の適用範囲から逸脱せずにこれらの数よりも多い又は少ないモジュールにすることが可能である点が評価されるべきである。本実施形態は、センサー内の各構成要素に関するガス放出生成物から作り出される可能性がある相当汚れ厚さを推定するものである。これらの個々のガス放出生成物から1つの全体的な汚れスペクトルが構築され、この総膜がセンサー性能に対して及ぼす影響が推定される。
【0092】
第1のモジュール250は、様々な化合物に関するガス放出結果とスペクトルに関するデータを保存し、得られたCVCMスペクトルに、既知の吸光度値と単位当たりの層厚を有する一組のベクトルスペクトルを当てはめる。第1のモジュール250に保存されているデータは、対象物(例えばセンサー)に関連する特定情報とともに、第2のモジュール252によって使用され、該センサー内に蓄積する可能性がある全体的な総汚染物質膜厚が計算される。更に、第2のモジュール252は、該総汚染物質膜のスペクトルを生成する。第3のモジュール254は、第2のモジュール252によって生成された総汚染物質膜に起因して該センサー内において発生する透過損及び総吸光を決定する。
【0093】
図12の流れ図においては、第1のモジュール250によって実施される典型的ステップが示されている。上記において概説されているように、第1のモジュールは、様々な既知の化合物に関するガス放出結果とスペクトルについてのデータを保存する。更に、第1のモジュールは、吸光スペクトルを得るために用いられる、ガスの形で放出された汚れのサンプルの厚さ、を概算する。第1のモジュールは、該汚れサンプルの正規化されたスペクトルを作り出す。最初にステップ300において、該センサーを構築するために一般的に用いられる材料(ゴム、プラスチック、ビニール、等)が決定され、ガス放出試験がこれらの材料に関して実施される。これらの試験の結果は、第1のモジュール250内に入力される。
【0094】
例えば、ガスの形で放出された汚れのCVCMに関するASTM E595試験の修正形を用いて、ガスを放出する汚れが各材料のサンプルから集められる。ASTME E595試験は、本技術においてはよく知られており、本明細書においては詳細には説明されない。ASTM E595試験の修正形は、標準試験における場合よりも改良されたCVCM荷重推定値を得るために使用される。標準的なASTM E595試験は、CVCMの最大荷重を約2倍分も過小推定する傾向がある。本明細書において採用される修正試験は、該試験をより長時間実施することによってこの不正確さを補正する(標準試験が24時間であるのに対して、この修正試験は48時間である)。更に、該修正試験は、周囲圧力において実施され(ASTM E595試験手順は真空内で実施される)、空気の浮遊性に起因する誤差を補正するために質量データが真空内質量に合わせて補正される。又、サンプルを保持するために用いられるサンプル区画が、数グラムの該サンプルを保持するために拡大され、更に、サンプル室と収集プレートとの間の距離が1/2に短縮される。好ましいことに、CVCMは、高度に研磨されたアルミクーポン上において集められる。更に、測定可能なCVCMの質量を得るために大きなサンプル(例えば、約1グラム)を使用するのが好ましい。
【0095】
ASTM E595試験の上記の修正形を実施するのが不可能である場合、又は、公表されているASTM E595試験結果が使用される場合は、材料内における最大荷重CVCMを推定時には該E595データを2倍にすることが賢明である。
【0096】
ステップ302において示されているように、ガスの形で放出された各汚れのサンプルの赤外線吸光スペクトルが得られる。該赤外線スペクトルは、フーリエ変換分光光度計における低角度反射率によって該サンプルから得ることができる。集められた物質の光学平均を得るために、大きな開口が使用される。好ましいことに、5つのスペクトルが得られて平均スペクトルが計算される。更に、従来の手法を用いてバックグラウンドデータが減じられる。
【0097】
ステップ304において、既知のモデル化合物のスペクトルが単位厚さに従って正規化され、第1のモジュール250のデータベースに保存される。該データベースに入力される既知のモデル化合物のスペクトルは、センサーに関連するすべての可能な成分を含むのが理想的である。しかしながら、このことは、現実的には不可能であるため、該データベースに入力されるモデル化合物は、プロセス内において一般的に現れる基礎化合物を提供することが好ましい。該データベース内のモデル化合物のスペクトルが、正確な合成スペクトルを作り出す上で十分でない場合は、将来のニーズに対応するために後日に追加のスペクトルを入力することができる。
【0098】
ステップ306において、ベクトルスペクトルが、得られた汚れスペクトルに当てはめられる。汚れの種類に依存して、該ベクトルスペクトルは、前述されている幾つかの方法のうちの1つで当てはめることができる。例えば、該汚れが種類1の汚れである(例えば、汚染物質が純粋な液体である)場合は、該スペクトルを測定することができ、式1乃至3を用いて厚さを計算することができる。該汚れが種類2の汚れである(例えば、汚染物質が液体でも純粋物質でもないが、対象領域における吸光度が単一の官能基によって支配されていることが赤外線スペクトルによって示される)場合は、該スペクトルは、単一の純粋液体で表すことができ、該汚れの測定されたスペクトルは、該純粋液体のスペクトルに適用されたスカラーに基づいてスケーリングされる。該汚れが種類3の汚れである(例えば、汚染物質が純粋物質でなく、更に単一の純粋液体で表すことができない)場合は、該スペクトルは、純粋液体の線形の組み合わせによって表される。
【0099】
ステップ308において、相当厚さが該汚れに割り当てられ、該スペクトルは、汚れサンプルの厚さ1.0ミクロンの層を表すためにスケーリング又は正規化される。後述されるように、正規化されたスペクトルは、第2のモジュール252内のベクトルとして使用される。該相当厚さとスペクトルの導出は、前述されたように、汚れの種類(種類1、2、又は3)に基づいて決定される。更に、ステップ310において示されているように、該相当厚さ及び正規化スペクトルは、第1のモジュール250のデータベースに保存される。
【0100】
図13においては、第1のモジュール250のデータベースを構築するために用いることができる典型的データベース構造320が示されている。データベース構造320は、該センサーからガスの形で放出された汚れのモデルを作成するために使用することができるモデル化合物のリストであるモデル化合物エントリ322を含む。ガス放出結果エントリ324は、各モデル化合物に対して実施されたガス放出試験の結果を保存し、IRスペクトルデータエントリ326は、各モデル化合物の厚さ1.0ミクロンの層の測定されたスペクトルに関するデータを保存する。
【0101】
各モデル化合物は、上記のエントリ内の各々のガス放出結果及びIR赤外線データとともに該データベース内に入力される。例えば、第1のモデル化合物は、ジオクチルフタレートであることができ、該データベースの第1のロー328内に入力される。ジオクチルフタレートに関する対応するガス放出結果及びスペクトルデータも、各々のカラムの下方の第1のロー内に保存される。第2のモデル化合物は、ジオクチルセバケートであることができ、対応するガス放出結果及びスペクトルデータとともに、該データベースの第2のロー内に入力される。上述されているように、該センサー内において一般的に存在する汚れを当てはめるために必要に応じて化合物が該データベース内に入力される。
【0102】
第2のモジュール252は、第1のモジュール250内に保存されている情報(例えば正規化スペクトル)を、該センサーに関連する追加情報(例えば、該センサーを構築するために用いられた材料とその各々の質量、汚染される可能性がある表面積、等)ともに用いて、総汚染物質膜スペクトルを構築する。更に、第2のモジュール252は、該センサー内において形成される可能性がある汚染物質膜の最悪時厚さを計算する。
【0103】
後述されるように、該センサー内の各該当材料が選択され、その質量が第2のモジュール内に入力される。各材料に関して、該材料の質量にCVCM値(即ち、サンプルから集められたガス放出汚れの質量と該サンプルの最初の質量の比)が乗じられて、汚染物質の総質量が得られる。更に、汚れ密度(概算値)と汚染される可能性がある表面積を各汚染物質質量に分割することは(式1参照)、各特定の汚染物質に関する個々の厚さを提供する。各汚染物質の厚さを線形で結合することは、総膜厚を提供する。
【0104】
該総膜のIR吸光スペクトルは、最初に、各汚染物質に関する汚れベクトルスペクトルに、各々の汚染物質の厚さを乗じることによって概算される。その結果得られたスペクトルは、汚染物質ベクトルスペクトルであり、指定された厚さを有する汚染物質に関する吸光スペクトルを表している。各該当材料から得られた汚染物質ベクトルスペクトルを線形で結合させることは、該総膜のIR吸光スペクトルを提供する。
【0105】
図14においては、第2のモジュール252内において実施される典型的ステップを例示した流れ図が示されている。最初にステップ350において、汚染される可能性がある表面積が第2のモジュールに入力される。例えば、レンズ又は鏡のうちで汚染物質にさらされる表面積が計算され、該計算された表面積が第2のモジュールに入力される。ステップ352において、該センサーを構築するために用いられた材料が選択される。例えば、センサーを構築するために様々な構成要素が用いられ、これらの構成要素の一部は、ガスの放出を通じて汚染を発生させる。一般的には、該センサーを構築するために用いられる材料は、該センサーの目的と性能目標に依存して異なる。第1のセンサーは、別のセンサーにおいて用いられる塗料とは異なる特定の種類の塗料を使用することができる。該センサー用のOリングを製作する際には、異なった種類のゴムを使用することができ、及び/又は、該センサー内の構成要素に関して異なった種類のプラスチックを使用することができる。これらの材料の各々は、例えば、第2のモジュール内のドロップダウンメニューを通じて選択される。該ドロップダウンメニューは、例えば、材料のカテゴリ、種別及びベクトル選択に関するメニューを含むことができる。
【0106】
ステップ354において示されているように、各材料が選択された時点で、各材料の質量が第2のモジュールに入力される。好ましいことに、各材料の質量は、0.01ミリグラムの単位まで入力される。該センサー内において用いられているすべての材料および各材料の対応する質量が入力された時点で、ステップ356において示されているように、第2のモジュール252は、全体の総汚染物質膜の厚さに対する各材料の寄与度を計算する。全体の汚染物質膜の厚さに対する各材料の寄与度は、各々の材料からの汚れの推定体積を該センサーの全内部表面積で除することによって、換言すると、各汚れの密度と該センサー内において汚染される可能性がある表面積を各々の汚れの質量に分割することによって(式1)、計算される。
【0107】
第2のモジュール252は、各材料の厚さ寄与度を、第1のモジュール250内において導き出されたベクトルスペクトルに関するスカラー乗数として使用する。例えば、第2のモジュール252のドロップダウンメニューにおいて選択された材料に基づき、第2のモジュール252は、各選択された材料に関する正規化スペクトルを第1のモジュール250から検索する。各スペクトルが検索された時点で、第2のモジュール252は、各々の計算された厚さ寄与度によって各スペクトルをスケーリングする(例えば乗算する)。
【0108】
ステップ358において、該センサーの各汚れ成分(即ち、各材料からのCVCM)に関する計算された厚さ寄与度を加えることによって総汚れの相当厚さが計算される。更に、ステップ360において示されているように、該センサーの各汚れ成分に関するスケーリングされたベクトルを合計することによって総汚れスペクトルが構築される。
【0109】
図15は、ガス放出データから膜厚を推定するための典型的計算値を示した図である。図12における計算において用いられた表面積は、0.8(m)である。接着剤及び重合体からのガス放出生成物は、部分品からの一般的非揮発性残留物(NVR)汚れとともに考慮される。材料の体積370(cm)は、該センサーを構築する際に用いられた特定の構成要素に関する知識に基づいて推定される。例えば、センサー内において用いられるOリングは、特定の厚さに加えて、一定の内径と外径を有することがわかっている。この情報に基づき、Oリングの体積を計算することができる。同様に、材料の密度372(g/cm)は、該センサー内で用いられている構成要素の性質に基づいて既知である。例えば、該センサー内のOリングを製作するためにブチルゴムが使用される。
【0110】
このため、ブチルゴムの密度は、既知であるか又は測定することができる。材料のCVCM374(% m/m)及びCVCM376の密度(g/cm)は、該センサー内において使用されている選択された材料に基づいて、第2のモジュール252によって第1のモジュール250から検索される。CVCMの推定体積378(cm)は、式8から得られ、ここで、Vは、材料の体積370であり、D1は、材料の密度372であり、Cは、材料のCVCM374であり、D2は、CVCMの密度376である。CVCMの推定厚さ380(nm)は、CVCMの推定体積378を、汚染される可能性がある表面積(例えば、0.8m)で除することによって計算される。
【数8】

図16においては、図15に記載された各汚れに関するスペクトル特性が示されている。これらのスペクトル特性は、各汚れから予想される最終的な厚さによって加重される。個々の構成要素のスペクトルは、明確化するために、ゼロからオフセットされる。(以下の式11において示されている)吸光度と経路長との間の線形関係に起因し、結合された汚れの推定吸光スペクトルは、構成要素のスペクトルを合計することによって構築することができる。
【0111】
第3のモジュール254は、構成要素のガス放出による分子状膜汚染に起因する該センサーの最大透過損を決定する。透過損は、第2のモジュール252によって推定されて該センサーの装置関数が畳み込まれた該分子状膜の推定吸光スペクトル及び厚さに基づく。
【0112】
第2のモジュール252によって決定された厚さ値は、該センサーのすべての光学面に当てはめられて、全体的な光学減衰路が決定される。この結果は、ガス放出を通じた分子膜汚染の存在に起因して該センサーが被る可能性がある最悪時透過損の推定値である。
【0113】
光学システムは、一般的には、広帯域パスフィルタを備えた光度計であるセンサーを採用する。これらのセンサーは、低温の黒体放射体である物体を観察する。ある所定の目標物に関して観察された信号は、各センサーのバンドパス全体にわたる放射に対する統合された反応である。膜は、光の減衰、光の散乱及び放射率の上昇によって性能を劣化させる可能性がある
【数9】

【0114】
センサーの型及びその所定の機能に依存して、1つ以上の検出器がセンサー内において採用される。例えば、ある1つの仮想センサーは、2つの検出器1R1及び1R2を使用する。チャネル1R1とIR2の透過率は、膜によるセンサーの劣化に関する主評価基準である。透過率は、式9によって定義され、ここで、I(λ,T)は、ある所定の波長及び温度における入射強度(W/cm)であり、I(λ,T)は、ある所定の波長及び温度における透過された強度(W/cm)である。IR2を通じての透過率を基準したIR1を通じての透過率は、センサー性能に関するもう1つの重要な評価基準である。IR1/IR2の比は、相対バンド透過率と呼ばれる。
【0115】
光の減衰は、膜の厚さ、膜の吸光力及び放射線の強度に比例することはよく知られている。この関係は、式9乃至12によって表され、ここで、I(λ)は、間隔dλにおける平均減衰強度(Wcm−2μm−1)であり、I(λ)は、間隔dλにおける平均入射強度(Wcm−2μm−1)であり、α(λ)は、吸光係数(cmmole−1cm−1)であり、βは、経路長(cm)であり、γは、濃度(モルcm)であり、X(λ)は、修正吸光係数(cm−1)である。式11は、膜の組成を知らずに膜の吸光力を定義することを可能にする。
【数10】

【数11】

【数12】

【数13】

【0116】
膜の減衰を計算するためには、蓄積された汚れ層の厚さ(β)を推定することが重要である。しかしながら、各汚れの単位厚さ当たりの吸光力(α(λ))を推定することも同様に重要である。汚れの組成を個別の化学種に関して測定すること又は予測することは現実的でない。しかしながら、集められた汚れの吸光スペクトルを測定することは実際的である。従って、光の減衰を修正吸光係数X(λ)に基づいて表すことは便利であり、存在する膜の種の濃度を知っている必要がない。図10A乃至10Cに関して上述されているように、残されている難題は、所定の汚れに関する単位厚さ当たりの吸光スペクトルを測定することである。
【0117】
すべての蓄積された汚れの影響は、存在する各種類の汚れ量の関数であり、スペクトルハンドパスにおける装置校正と吸光スペクトルを入射強度に畳み込む(即ち、各波長における吸光損を積分する)ことによって計算される。総減衰は、式11によって示されるように、該バンドパスにおけるエネルギーを積分することによって計算される。透過率は、減衰された信号を、該膜からの減衰なしで計算された同様の量で除することによって得られる。
【0118】
該膜全体にわたる総経路長は、光が該膜を横断する総回数を膜厚に乗じることによって計算される。各透過面は、1回のパスとしてカウントし、各反射面は、2回のパスとしてカウントする。蓄積された汚れは、対象物の使用寿命終了時においてすべての汚染可能な表面全体にわたって均一に分布していると仮定され、更に、該膜の組成は一定でありかつ均一であると仮定される。式12は、小さい波長間隔における吸光度と、吸光係数と、経路長との間の関係を表している。吸光度は、透過率の対数に比例する。光の減衰(単位は吸光度)は、ある所定の汚れに関する経路長(膜厚)に比例する。式13は、ある所定のバンドパスにわたって計算される吸光係数は、入射黒体放射線源の温度の関数であることを示している。
【0119】
該センサーの装置関数は、該センサーに関する周波帯及び透過面数を含む。反射面は、2回カウントされる。第3のモジュール254は、分子状膜の吸光スペクトルと推定厚さを使用し、黒体関数によってモデルが作成された温源をベールの法則の吸光に畳み込む。
【数14】

【0120】
ある所定の波長に関する透過損は、式14を用いて計算することができ、ここで、α(λ)は、波長λ(cm−1)における吸光係数であり、tは、膜の厚さであり、nは、総表面数である。周波帯λ1乃至λ2に関して第3のモジュールによって計算された総透過は、式15によって決定され、ここで、L(λ,T)は、所定の波長λと温度Tに関する光子放射輝度であり、式16によって定義される。式15の結果を用いて、透過率I/I(式9参照)が、黒体温度の関数として作図され、汚染物質膜に起因するセンサー劣化が示される。
【数15】

【数16】

【0121】
図17においては、第3のモジュール254の概略的ブロック図が示されている。上記のように、透過損の決定を行うためには、汚染物質のIRスペクトルシグネチャ及びセンサーの装置関数に関する知識が要求される。図17は、このデータの畳み込みを概略的に実証した図であり、2つの波帯に関する透過損及びバンドパス比の透過変化を示している。
【0122】
最初にブロック400において、第2のモジュール252によって推定された汚染物質膜の導出スペクトルが、第3のモジュール254に入力される。ブロック402及び404において、センサー機能帯域1及び帯域2が従来のように正規化され、第3のモジュールに入力される。ブロック406において、各帯域チャネルの黒体応答が、波長の関数として、ガス放出汚染物質スペクトルの吸光によって加重される(ブロック406は、上式15を表している)。ブロック408において、これらの2つの透過帯域の比が計算され、ブロック410において、該透過帯域比がソース温度に関して作図される。ブロック412において、個々の透過帯域(例えば、Tband1及びTband2)がソース温度に関して作図され、ブロック414において、輪郭プロット(例えば、ソース温度に関して作図された厚さ)が構築される。この輪郭プロットは、膜厚の変化がシステムの透過率に対して及ぼす影響を設計者が推定することを可能にする。
【0123】
2つの仮想帯域(帯域1及び2)に関する透過損の結果が、図18A乃至18Cに示されている。図18A及び18Bにおいては、総透過損は、黒体温度の関数として作図されている。図18Aは、帯域1の6.5%の透過損450を示しており、図18Bは、帯域2の8.5%の透過損452を示している。又、誤差の推定が破線454によって示されており、吸光スペクトルの不確実性が50%であることを表している。図18Cは、ソース温度に関して作図された膜厚に関する輪郭プロットを示した図である。該輪郭プロットの各線460は、厚さとソース温度の透過関数を表している。
【0124】
図19においては、本発明を実装するためのコンピュータシステム500が示されている。コンピュータシステム500は、データを処理するためのコンピュータ502と、システム情報を表示するためのディスプレイ504を含む。該ディスプレイにおいて用いられている技術は、極めて重要な技術ではなく、現在利用可能なあらゆる型のディスプレイ(例えば、フラットパネル型液晶ディスプレイ(LCD)又はブラウン管(CRT)型ディスプレイ、等)、若しくは以後に開発されるあらゆるディスプレイであることができる。データ入力、データ表示、画面のナビゲーション、等にはキーボード506及びポインティング装置508を使用することができる。キーボード506及びポインティング装置508は、コンピュータ502から切り離すことができ、又は、コンピュータ508と一体化することができる。ポインティング装置の例は、ポイント・アンド・クリック法又はその他の何らかの方法によって所在場所、動作、等を示すか又はその他の形で特定するコンピュータマウス又はその他の装置である。代替として、キーボード506及びポインティング装置508の代わりにタッチ画面(図示されていない)を使用することができる。タッチ画面は当業者によく知られており、本明細書では詳細には説明されない。簡単に説明すると、タッチ画面は、ディスプレイ504の表示エリア全体に薄い透明の膜を実装する。表示エリアに触れると、画面上で触れられた場所を示した信号がコンピュータ502に送られる。コンピュータ502は、ポインティング装置に相当する方法で該信号を同等視して適宜動作する。例えば、ディスプレイ504上のオブジェクトは、ソフトウェア内では、特定の機能(例えば、異なった画面を見る)を有するように指定することができる。該オブジェクトに触れることは、ポインティング装置504を該オブジェクト上に置いて該ポインティング装置によって(例えば、マウスをクリックすることによって)該オブジェクトを選択するのと同じ効果を有することができる。タッチ画面は、キーボード506及び/又はポインティング装置508のために確保可能なスペースが限られているときに有益である。
【0125】
コンピュータ502には、情報(例えば、アプリケーションデータ、画面情報、プログラム、等)を格納するための記憶媒体510が含まれている。記憶媒体510は、例えばハードドライブであることができる。メモリ514及び記憶媒体510と組み合わせたプロセッサ512(例えば、AMD Athlon XP(商標)プロセッサ、Intel Pentium IV(登録商標)プロセッサ、等)は、様々な機能(例えば、データ入力、数値計算、画面表示、システムセットアップ、等)を実施するためのプログラムを実行する。ネットワークインタフェースカード(NIC)516は、コンピュータ502がシステム500の外部の装置と通信することを可能にする。
【0126】
本明細書において説明されている機能を実施するための実際のコードは、コンピュータプログラミング技術に関して通常の技能を有する者が、本明細書における開示に基づき、幾つかの従来のプログラミング言語のうちのいずれかを用いて簡単にプログラミングすることができる。従って、説明を簡略化するために、特定コード自体に関するさらなる詳細は省略されている。
【0127】
本明細書においては、本発明の特定の実施形態が詳細に説明されている一方で、本発明は、該説明に応じて適用範囲が限定されているということではなく、本明細書に付記されている請求項の範囲の精神及び条件を逸脱しないすべての変更、修正及び同等を含むことが理解されるべきである。例えば、本発明は、部分品上のガス放出汚れ及び製造中と組み立て中に入り込んだ汚れに起因するセンサーの性能劣化を推定するために使用することができる。この情報を、該センサーの性能基準と併用することで、該センサーの製造に関する清浄性収支を計算することができる。該清浄性収支の全部または一部は、部分品の汚染に起因して及び例えば該センサーの組み立てに起因して導入される汚染物質に割り当てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1A】典型的光学センサーの等大図である。
【図1B】材料のガス放出と光学構成要素上における膜の蓄積を示した、典型的光学センサーの等大図である。
【図2A】本発明の実施形態に従ったシステム機能及びユーザーによる入力の概要を示したブロック図である。
【図2B】本発明の典型的用途を示した流れ図である。
【図3】ブチルゴムのガスの形で放出された生成物の副サンプルから得られた赤外線スペクトルである。
【図4】図3に示されたブチルゴムのガスの形で放出された生成物の赤外線スペクトルを、本発明の実施形態に従った厚さ1.0ミクロンのブレイコート(Braycote)816層の吸光スペクトル及び0.36倍だけスケーリングされたブレイコートベクトルと共に示した図である。
【図5】本発明の実施形態に従い、ユラレーン(Uralane)5753から得られた、ガスの形で放出された生成物の赤外線スペクトルと、混合されたベクトルスペクトルを用いて得られた合成スペクトルと、を示した図である。
【図6】図5の合成スペクトルを構築するために用いられたベクトル成分と、各ベクトルに対して割り当てられた対応する厚さと、を示した表である。
【図7】本発明の実施形態に従い、図5の合成スペクトルの修正による影響を示した赤外線スペクトルの図である。
【図8】図7の合成スペクトルを構築するために用いられたベクトル成分と、各ベクトルに対して割り当てられた対応する厚さと、を示した表である。
【図9】官能基及びその典型的波長範囲を示した図である。
【図10A】本発明の実施形態に従った汚れの相当厚さを推定する典型的方法を示した流れ図である(その1)。
【図10B】本発明の実施形態に従った汚れの相当厚さを推定する典型的方法を示した流れ図である(その2)。
【図10C】本発明の実施形態に従った汚れの相当厚さを推定する典型的方法を示した流れ図である(その3)。
【図11】本発明のもう1つの実施形態に従い、汚染物質膜がセンサーの性能に対して及ぼす影響を推定するために用いられる第1のモジュール、第2のモジュール及び第3のモジュールを示したブロック図である。
【図12】図11の第1のモジュールにおいて実施される典型的ステップを示した流れ図である。
【図13】本発明の実施形態に従い、モデル化合物のガス放出データ及びスペクトルデータを保存するために用いられる典型的データベース構造を示した図である。
【図14】図11の第2のモジュールにおいて実施される典型的ステップを示した流れ図である。
【図15】本発明の実施形態に従い、ガス放出データから膜厚を推定するための典型的計算を示した図である。
【図16】本発明の実施形態に従い、図15に記載されている各汚れに関するスペクトル特性に、各汚れに関して予想される最終的厚さを加重した図である。
【図17】図11の第3のモジュールにおいて実施される典型的機能を示した概略的ブロック図である。
【図18A】仮想センサーの第1の帯域に関する黒体温度の関数としての透過プロットである。
【図18B】仮想センサーの第2の帯域に関する黒体温度の関数としての透過プロットである。
【図18C】黒体温度の関数としての膜厚の輪郭プロットである。
【図19】本発明を実装するために用いられる典型的コンピュータシステムを示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子状汚染物質膜が光学システムの性能に対して及ぼす影響のモデルを作成する方法であって、
前記光学システムの材料からガスの形で放出された物質の質量と、ガスの形で放出された生成物のスペクトルを相互に関連づけるステップ(30、31)、と
ガスの形で放出された生成物の前記スペクトルを正規化するステップ(30)と、
総分子状汚染物質膜厚を各材料から予測するステップ(32)と、
前記総分子状汚染物質膜の吸光スペクトルを導き出すステップ(32)と、
前記総分子状汚染物質膜の前記吸光スペクトルに、前記光学システムの装置関数を畳み込むステップ(38)と、
少なくとも1つの透過帯域をソース温度の関数として作図するステップ(36)と、を具備する方法。
【請求項2】
前記光学システムの材料からガスの形で放出された物質の質量と、ガスの形で放出された生成物のスペクトルを相互に関連づける前記ステップは、ガスの形で放出された各物質を、前記ガスの形で放出された物質の少なくとも1つの観察された特性に基づいて幾つかのグループの1つに分類するステップと、前記ガスの形で放出された物質のサンプルの吸光スペクトルを得るステップと、前記ガスの形で放出された物質の前記サンプルの厚さを、前記ガスの形で放出された物質の前記吸光スペクトルと前記分類に基づいて推定するステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガスの形で放出された各物質を幾つかのグループの1つに分類する前記ステップは、純粋物質であって更に常温において液体である汚染物質(種類1のサンプル)と、液体でも純粋物質でもないが、対象領域内における吸光度が単一の官能基によって支配されていることがスペクトルによって示される汚染物質(種類2のサンプル)と、ガス放出生成物が純粋物質でなく更に液体である単一のモデル化合物によって表すことができない、汚染物質(種類3のサンプル)と、から成るグループを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記種類1のサンプルの厚さを前記種類1のサンプルの幾何形状に基づいて推定するステップと、前記種類2のサンプルの吸光スペクトルと類似の吸光スペクトルを有する既知の材料に基づいて前記種類2のサンプルの厚さを推定するステップと、前記種類3のサンプルの吸光スペクトルと近似の既知の材料のモデルベクトルから構築された合成スペクトルに基づいて前記種類3のサンプルの厚さを推定するステップと、をさらに具備する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記種類1のサンプルの前記厚さを推定する前記ステップは、前記種類1のサンプルの前記厚さを、前記種類1のサンプルの質量と、前記種類1のサンプルによって占められた面積と、前記種類1のサンプルの密度と、に基づいて推定するステップを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記種類2のサンプルの前記厚さを推定する前記ステップは、前記種類2の前記吸光スペクトルと類似する吸光スペクトルを有する材料を選択するステップと、前記選択された材料の吸光スペクトルを得るステップであって、前記選択された材料の前記厚さは約1ミクロンであるステップと、前記選択された材料の前記サンプルの前記吸光スペクトルをスケールファクターによってスケーリングして、前記種類2のサンプルの前記吸光スペクトルの強度と近似するベクトルを得るステップと、前記種類2のサンプルの前記厚さを、前記スケールファクターと前記選択された材料の前記厚さの積として推定するステップと、を含む、請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記種類3のサンプルの前記厚さを推定する前記ステップは、既知のモデル化合物に関する正規化されたベクトルを結合させるステップと、各ベクトルに厚さを割り当てるステップと、各ベクトルに割り当てられた前記厚さを処理して、前記種類3のサンプルの前記吸光スペクトルに近似する第1の合成スペクトルを構築するステップと、前記種類3のサンプルの厚さを、前記第1の合成スペクトルの各ベクトルに割り当てられた前記厚さの和として推定するステップと、を含む、請求項4又は請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の合成スペクトルの誤差領域を特定するステップと、既知のモデル化合物に関する少なくとも1つの正規化ベクトルを、前記第1の合成スペクトルに加えるステップであって、前記少なくとも1つの加えられたベクトルは、前記第1のスペクトルの前記誤差領域内の残留物に関して補正するステップと、前記少なくとも1つの加えられたベクトルに厚さを割り当てるステップと、前記合成スペクトルの前記誤差領域内の前記残留物を最小にするために前記少なくとも1つの加えられたベクトルの前記厚さを処理するステップと、前記残留物が正であるときに、前記少なくとも1つのベクトルの前記処理された厚さを前記種類3のサンプルの前記推定された厚さに加えるステップと、前記残留物が負であるときに、前記少なくとも1つのベクトルの前記処理された厚さを前記種類3のサンプルの前記推定された厚さから減じるステップと、をさらに具備する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
各モデル化合物の前記厚さに前記化合物の前記密度を加重するステップをさらに具備する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ガスの形で放出された物質の前記サンプルの単位当たりの吸光スペクトルを導き出すステップをさらに具備する、請求項3に記載の方法。
【請求項11】
汚染物質膜の厚さが不明であるときに前記膜の単位当たりの吸光スペクトルを得る方法であって、
ガスの形で放出された物質を化合物から集めるステップと、
前記ガスの形で放出された物質の少なくとも1つの観察された特性に基づいて、前記ガスの形で放出された物質を幾つかのグループの1つに分類するステップと、
前記ガスの形で放出された物質のサンプルの吸光スペクトルを得るステップと、
前記吸光スペクトル及び前記ガスの形で放出された物質の前記分類に基づいて、前記ガスの形で放出された物質の前記サンプルの厚さを推定するステップと、
ガスの形で放出された物質の前記サンプルの前記吸光スペクトルを、ガスの形で放出された物質の前記サンプルの前記推定された厚さによってスケーリングするステップと、を具備する方法。
【請求項12】
分子状汚染物質膜が光学システムの性能に対して及ぼす影響のモデルを作成するためのコンピュータシステムであって、
記憶媒体と、
少なくとも1つのプロセッサであって、動作可能な形で前記記憶媒体に結合されたプロセッサと、
前記記憶媒体に常駐していて前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されるコンピュータプログラムであって、前記プロセッサに、前記光学システムの材料からガスの形で放出された物質の質量とガスの形で放出された生成物のスペクトルを相互に関連させ、ガスの形で放出された生成物の前記スペクトルを正規化させ、各材料からの総分子汚染物質膜厚を予測させ、前記総分子状汚染物質膜の吸光スペクトルに、光学システム装置関数を畳み込ませ、少なくとも1つの透過帯域をソース温度の関数として作図させる、コンピュータプログラムと、を具備するコンピュータシステム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図19】
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【公表番号】特表2007−528488(P2007−528488A)
【公表日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541201(P2006−541201)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2004/035787
【国際公開番号】WO2005/054833
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(390039147)レイセオン・カンパニー (149)
【氏名又は名称原語表記】Raytheon Company
【Fターム(参考)】