説明

分子篩の合成方法

【課題】種結晶を望むサイズに成長可能な分子篩の合成方法を提供する。
【解決手段】(ElwAlxySiz)O2によって表される3次元微小孔フレームワーク構造及びフレームワーク組成物を有する分子篩を合成するための方法であって、反応条件下で種結晶のスラリーを提供するステップと;種結晶のフレームワーク元素を提供して、それによって種結晶を成長させるために、スラリーへ栄養分を添加するステップと;原則的に結晶成長速度と同じ速度で、分子篩を産生するために十分な時間添加を行なうステップとで構成される分子篩の合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子篩を合成するための方法に関するものである。より具体的には、上記方法は、例えば、アルミニウム及びシリコンなどのフレームワーク元素の栄養分(原料)を分子篩の種結晶のスラリーに添加するステップを含んでいる。栄養分の添加速度は、それが実質的に結晶成長速度と同じになるように制御される。
【背景技術】
【0002】
結晶性アルミノ珪酸塩ゼオライト型の分子篩は、本技術分野で十分に周知であり、天然に生じるゼオライトと合成ゼオライトの両方で現在150を超える種類から成る。一般に、上記結晶性ゼオライトは角を共有するAlO2及びSiO2の四面体から構成されており、均一の大きさの細孔を有し;大きなイオン交換容量を有し;恒久的な結晶構造を作り上げるいずれの原子をも大きく置き換えることなく、結晶の内部空隙全体にわたって分散される吸着相を可逆的に脱着する能力があることによって特徴づけられる。
【0003】
ゼオライトではないが、ゼオライトのイオン交換及び/又は吸着特性を示すその他の結晶性微小孔組成物が知られている。これらは:1)米国特許第4,061,724号明細書に開示されるような、カチオンもカチオン・サイトも含んでいない中性フレームワークを有する純粋なシリカ多形体であるシリカライト;2)米国特許第4,310,440号明細書に開示される結晶性アルミノ・リン酸塩組成物:3)米国特許第4,440,871号明細書に開示されるようなシリコン置換アルミノ・リン酸塩:そして、4)米国特許第4,500,651号明細書に開示されるようなチタニウム置換アルミノ・リン酸塩などである。
【0004】
分子篩は通例バッチ反応器内の反応混合物から水熱合成される。このタイプの方法において、すべての原料が反応装置に添加され、その結果ゲルを形成する。次にそのゲルを攪拌し、ゼオライトが結晶化するのに十分な時間加熱する。従来の方法の欠点として、結晶の大きさ及び形態の制御に関する制限、固形分に関する制限、再利用が不可能な廃棄物の生成及び多額の設備投資などがある。従って、本業界は、分子篩の製造を改良するための研究を絶えず行なっている。
【0005】
例えば、米国特許第4,314,979号明細書には、ゼオライトAを作製するための連続プロセスが開示されている。そのプロセスは、アルミニウム及びシリコンを含んでいる溶液を混合するステップと、上記混合物を、ゼオライトAを結晶化するための結晶化反応装置へ流すステップを含んでいる。米国特許第5,389,358号明細書には、先ず結晶を核状にし、次に反応物を含んでいる溶液を添加し、その後ゼオライトを結晶化するため熟成させることによってゼオライトを合成する方法が開示されている。最後に、米国特許第3,425,800号明細書には、反応物の水溶液を混合してゲルを形成し、そのゲルを加熱して、結晶が形成される層状結晶化帯へ提供される、ゼオライトAまたはXを合成する連続プロセスが述べられている。
【0006】
C.S. Cundy et al., in Zeolites, Vol. 15,353-372 (1995) には、ゼオライトZSM-5を合成する方法が開示されている。その方法は、反応装置を適切な液体中の種結晶のスラリーで満たすステップを含んでいる。この混合物へアルミニウム及びシリコンの原料を、反応装置が一定レベルで満たされるように生成物を時折除去しながら連続的に添加する。同じ著者による第2の論文(Zeolites, Vol. 15, 400-407 (1995))には、アルミニウム及びシリコンを結晶成長よりも速い速度で添加すると、高い核生成率が観察されることが開示されている。
【発明の開示】
【0007】
これらの参考文献とは対照的に、本出願人は、種結晶を望まれるサイズに成長させる方法を開発した。その方法は、種結晶のスラリーに、分子篩の、例えば、Al、Siなどのフレームワーク元素の原料である栄養分を添加するステップを含んでいる。栄養分は、ゲルが形成されないように、そして、実質的に新たな結晶の核形成がないように原則的に結晶成長率と等しい速度で添加される。栄養分は、種結晶のフレームワーク元素とは異なっているが、種結晶と同じフレームワーク構造を形成するフレームワーク元素を提供することができる。スラリーの混合は、単結晶または結晶塊のいずれかが得られるように制御される。栄養分の添加は、望まれる結晶径または粒子径が得られるまで行なわれ、その時点で分子篩が従来の方法によって液体から分離される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の合成方法は、原則的に新たな結晶の核生成なしに、分子篩結晶を種結晶から成長させることに関するものである。本発明による1つの実施の形態で、上記種結晶と同一の分子篩が、すなわち、フレームワーク元素及び構造は同一であるが、それらの元素の比率は必ずしも同一でない分子篩が、種結晶の周囲に成長することになる。別の実施の形態で、種結晶の周囲に成長した分子篩は同一のフレームワーク構造を有するが、同一のフレームワーク元素は持たない、すなわち、少なくとも1つの元素が異なっている。
【0009】
従って、本発明による1つのきわめて重要な要素は分子篩種結晶である。分子篩は、結晶学的に均一な細孔を有する3次元フレームワークを持つ微小孔組成物である。これらの分子篩は、ゼオライトまたは非ゼオライト分子篩のいずれかに分類される。ゼオライトは、フレームワーク構造がSiO2及びAlO2の4面体酸化物から成るアルミノ・ケイ酸塩組成物である。非ゼオライト分子篩は、アルミニウム及びシリコン以外の元素を含んでいるものである。例として、シリコアルミノ・リン酸塩及びアルミノ・リン酸塩分子篩などがある。本発明の合成方法を用いて作製することができるゼオライト及び非ゼオライト分子篩は、一般実験式:
(ElwAlxPySiz)O2 (I)
によって表される3次元フレームワーク構造及びフレームワーク組成物を有しており、式中、Elは、以下に述べられる3次元フレームワーク酸化物ユニットを形成することができる元素であり、そして、P、Al及びSiは4面体酸化物ユニットとして存在するフレームワーク元素でもある。Elのモル分率は“w”で表され、ゼロから0.5までの値を有し、“x”はAlのモル分率であって、0から0.5までの値を有し、“y”はPのモル分率であって、0から0.5までの値を有し、“z”はSiのモル分率であって、0から1までの値を有し、w+x+y+z=1であり、“y”と“z”は同時にゼロの値をとらない。“El”が2つ以上の元素で構成される場合、“w”は上記元素(El1、El2、El3、El4など)のモル分率を表し、“w”は、それぞれEl1、El2、El3、El4等のモル分率をあらわす“w1”、“w2”、“w3”、“w4”等の合計に等しい。これらの分子篩は、その頭文字によってEIAPSOと称されており、米国特許第4,793,984号明細書に詳細に述べられている。El元素を選択するための基準も米国特許第4,793,984号明細書に示されている。Elは、下記基準の少なくとも1つによって特徴づけられる。
【0010】
1)“El”は、"Inorganic Chemistry" J.E. Huheey, Harper Row, p.348 (1978) で検討されているように、金属リガンド“-O-El”の小さい結晶場安定化エネルギーが、O2-を持つ元素Elの4面体配位を好む場であるd0、d1、d2、d5、d6、d7、またはd10で構成される群から選択される電子軌道配置によって特徴づけられる;
【0011】
2)“El”は、"The Hydrolysis of Cations", C.F. Baes and R.E. Mesmer, John Wiley & Sons (1976)で検討されているように、10-14よりも大きい、第1の加水分解定数であるK11によって明示されるような水溶液中での安定な酸素または水酸基を含む種を形成可能であるとして特徴づけられる;
【0012】
3)“El”は、E. Parthe, "Crystal Chemistry of Tetrahedral Structures", Gordon and Breach, New York, London, pp. 66-68 (1964) に検討されているように、異なるシリカ変形物、石英、クリストバライトまたはトリジマイトと幾何学的に関係のある結晶構造タイプに存在することが周知の元素の群から選択される;そして、
【0013】
4)“El”は、“硬い”塩基O2-と相互作用し、“柔らかい”酸として分類されるカチオンよりも安定な結合をつくる、“硬い”または“境界線”の酸としてPearson (J.E. Huheey, "Inorganic Chemistry", Harper & Row, p.276 (1978))によって、そのカチオン型が分類される元素である。具体的な元素には、ヒ素、ベリリウム、ホウ素、クロミウム、コバルト、ニッケル、ガリウム、ゲルマニウム、鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン、チタニウム、バナジウム、スズ及び亜鉛などがある。
【0014】
上に述べられた一般式から、いくつかの種類の分子篩について説明し、作製することができる。例えば、“w”と“y”の両方がゼロの場合、分子篩はゼオライトまたはゼオライト分子篩である。この場合、式(I)は:
(AlxSi1-x)O2 (II)
となり、式中、xは0から0.5までの値を有する。本発明によって作製することができるゼオライト分子篩の具体例には、ゼオライトA、ゼオライトX、モルデン沸石、シリカライト、ゼオライト・ベータ、ゼオライトY、ゼオライトL、ZSM-12、UZM-4及びUZM-5などがある。UZM-4及びUZM-5は、それぞれWO 02/36491号明細書及び WO 02/36489号明細書に述べられている。xがゼロのとき、そのゼオライトはシリカライトである。式(I)中の“x”がゼロより大きいとき、式(III):
(ElwAlx'PySiz)O2 (III)
が得られ、式中、“w”、“y”及び“z”は式(I)に定義されたとおりであり、x'は0より大きい数から0.5までの値を有する。さらに、式(III)で“w”及び“z”がゼロの場合、または式(I)で“w”及び“z”がゼロであって、“x”が0より大きい場合、米国特許第4,310,440号明細書及び米国特許第4,500,651号明細書で詳細に述べられている非ゼオライト分子篩のALPOファミリーが得られる。さらに、式(I)または式(III)で“w”がゼロであり、“z”が0より大きい場合(そして、式(I)で“x”が0より大きい場合)、米国特許第4,440,871号明細書に述べられているSAPO-34及びSAPO-11である、非ゼオライト分子篩の非限定例のSAPOファミリーが得られる。“z”がゼロであって、式(I)または式(III)のいずれかにおいて、その他すべての下付き文字がゼロより大きい場合、非ゼオライト分子篩のElAPOファミリーが得られる。最後に、式(I)または式(III)のすべての下付き文字がゼロより大きい場合、上に述べられた非ゼオライト分子篩のElAPSOファミリーが得られ、その1例はMAPSO-31である。
【0015】
フレームワーク元素に加えて、as-合成及び無水状態の分子篩は、それらの細孔に、分子篩を作製するために用いられた鋳型剤の一部を含むことになる。これら鋳型剤は本技術分野で十分周知であり、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び有機化合物などである。有機化合物は、本技術分野で十分周知の有機化合物のうちいずれでもよく、ピペリジン、トリプロピルアミン、ジプロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、シクロヘキシルアミン、及び、テトラメチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム及びテトラプロピルアンモニウム・イオンのハロゲン化物または水酸化物化合物のような第4級アンモニウム化合物などである。
【0016】
上に述べられたいずれの分子篩の種結晶も、上に引用された特許に述べられている従来の方法によって作製することができ、その方法は、例えば、アルミニウム原料、シリコン原料などの反応物の原料と鋳型構造指向剤を容器内で混合するステップと、結晶性生成物が得られるまで加熱する(圧力下または無圧で)ステップとを含んでいる。アルミニウムの原料には、アルミニウム・アルコキシド、擬似ベーマイト、ギブサイト、コロイド・アルミナ、アルミナ・ゾル、アルミン酸ナトリウム、三塩化アルミニウム及び塩基性塩化アルミニウムなどがある。上記のうち、好ましいアルミニウム原料は、擬似ベーマイト、アルミン酸ナトリウム、及びアルミニウム・イソプロキシドのようなアルミニウム・アルコキシドである。シリコン原料には、シリカ・ゾル、コロイド状シリカ、ヒュームド・シリカ、シリカ・ゲル、シリカ・アルコキシド、ケイ酸及び、ケイ酸ナトリウムのようなアルカリ金属ケイ酸塩などがある。リンの原料には、リン酸及び、トリエチル・リン酸塩のような有機リン酸塩などがある。
【0017】
元素“El”は、元素の反応型、すなわち、元素“El”のフレームワーク酸化物ユニットを形成することに対して反応的な、in situでの形成を可能にするいずれの型の反応系にも導入することができる。用いることができる元素“El”の化合物には、酸化物、水酸化物、アルコキシド、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、カルボン酸塩及びそれらの混合物などがある。用いることができる代表的な化合物に制限はなく、ヒ素及びベリリウムのカルボン酸塩;塩化コバルト六水和物、アルファ・ヨウ化コバルト;硫酸コバルト;酢酸コバルト;臭化コバルト;塩化コバルト;ホウ素アルコキシド;酢酸クロミウム;ガリウム・アルコキシド;酢酸亜鉛;臭化亜鉛;蟻酸亜鉛;ヨウ化亜鉛;硫酸亜鉛七水化物;二酸化ゲルマニウム;酢酸鉄(II);酢酸リチウム;酢酸マグネシウム;臭化マグネシウム;塩化マグネシウム;ヨウ化マグネシウム;硝酸マグネシウム;硫酸マグネシウム;酢酸マンガン;臭化マンガン;硫酸マンガン;四塩化チタニウム;カルボン酸チタニウム;酢酸チタニウム;酢酸亜鉛;塩化スズ;などである。上に述べられたように、鋳型剤/構造指向剤の原料、例えば、水酸化ナトリウム、塩化テトラメチルアンモニウム、そして十分な量の水を加えて、効果的な混合物を得ることもできる。
【0018】
望まれる分子篩の種結晶を回収して、水で(適切なpHで)スラリー化する。しかしながら、種結晶は、望まれる分子篩を作製するために必要な反応物をすべて含んではいるが、臨界過飽和濃度よりは低い濃度である(水性)混合物中に分散されることが好ましい。上記混合物は、平衡飽和レベルで反応物または栄養分を含んでいることが最も好ましい。1つの特に好ましい混合物は、上記望ましい分子篩が選別された後、本合成方法の最後に得られる水相である。この水相を何度もリサイクルし、分子篩を作製するために再利用することができる。このスラリーに、以下に栄養分と呼ぶ、望まれるフレームワーク元素の原料を添加して、分子篩を種結晶上に成長させる。従って、添加される栄養分または栄養分を組み合わせた化合物は、分子篩を形成することができるいずれのものでもよい。これら化合物は:1);シリコン原料;2)アルミニウム及びシリコン原料;3)アルミニウム、リン及びシリコン原料;4)アルミニウム及びリン原料;5)El、アルミニウム及びリン原料;6)El、アルミニウム、シリコン及びリン原料である。追加的な鋳型剤/構造指向剤を添加する必要があり得ることも指摘されるべきである。これは、上記剤の望まれる原料を、栄養分の1つと共に、または別個のストリームとして添加することによって行うことができる。さらに、最初の種スラリーは望まれる剤を過剰に含んでいることが可能である。
【0019】
添加される栄養分は、種結晶と同じ分子篩または異なる分子篩を提供する栄養分でもよい。たとえ同じ分子篩が形成されても、栄養分の比率、従ってフレームワーク元素の比率は、種結晶と、種結晶上に引き続き成長する分子篩の間で変化することが可能である。例えば、実施例で述べられるように、Si/Alが2.5のゼオライトXの種結晶に、ゼオライトXが種結晶上で成長する濃度で、しかしSi/Alが2.0であるシリコン及びアルミニウム栄養分を添加することができる。
【0020】
種結晶と種結晶上で成長する分子篩とが異なるフレームワーク元素を有する場合、種結晶またはコア分子篩、及び外側分子篩が同じフレームワーク構造を有することが必要である。コア及び外側分子篩において、少なくとも1つのフレームワーク元素が異なっていることのみが必要である。例えば、コア分子篩がALPO-34であり、外側分子篩がSAPO-34、斜方沸石、CoAPO-44、LZ-218、GaAPO-34、ゼオライトPhiなどであってもよい。同じ構造を持つ分子篩は、W.M. Meier, D.H. Olson and Ch. Baulocher, Atlas of Zeolite Structure Types, Fifth Revised Edition, Elsevier, Amsterdam, 2001またはCh. Baulocher and L.B. McCusker, Database of Zeolite Structures, http://www.iza-structure.org/databases/を参照することによって判定することができる。
【0021】
前述のことから、異なる組成物の多数の層を有する分子篩を作製できることが理解される。この場合、コア分子篩は、最後の層が外側分子篩であるいくつかの層から成るであろう。本合成方法を用いることにより、結晶全体に同じフレームワーク元素を有するけれども、例えば、Si/Al比率など異なる比率のフレームワーク元素の層を有する分子篩を産生することも可能である。従って、ZSM-5コアで始めて、次の層で次第にSi/Al比率を上げ、最後に外層としてシリカライト層を得ることができる。
【0022】
栄養分の選択にかかわらず、栄養分をいずれの好都合な方法によっても添加することができる。これらの方法には、栄養分の溶液の作製、固体懸濁液またはスラリーの作製、固体の直接添加及び栄養分のそのままでの添加などがある。当然のことながら、1つの栄養分を1つの方法で添加し、別な栄養分を別な方法で添加することが可能である。さらに、特定の栄養分に応じて、付加的な酸または塩基を添加して望まれるpHに達することが必要な場合もある。例えば、ケイ酸ナトリウムが栄養分またはシリコンの原料として用いられる場合、酸を添加して、生成される水酸化ナトリウムを中和する必要があってもよい。
【0023】
例えば、SiとAlなど1つ以上の栄養分が添加される場合、それらを同時または連続的に添加することができる。連続的添加を用いることによって、液体またはスラリーの場合には1つのポンプのみが必要である。同時添加は2つの方法のうちの1つによって実施することができる。第1に、各栄養分を、種スラリーを含んでいる反応装置へ個別のポートまたは注入装置を使って送り込む。第2に、個別の栄養分を、貯蔵タンクに送り込んで攪拌し、次に1つのストリームとして種スラリーを含んでいる反応装置に送り込むことができる。後者の方法が好ましい。最後に、栄養分を連続的または断続的に添加することができる。断続的に行なう場合、その添加は規則的な間隔または不規則な間隔で行なうことができる。連続的または断続的な添加のいずれであっても、栄養分は、種結晶またはコア結晶が、実質的に新たな結晶のそれ以上の核形成、または無定形固体の形成なしに成長するような速度で添加されることが必要である。『新たな結晶の核形成』とは、栄養分の濃度が臨界過飽和濃度を越える場合の混合物からの結晶形成を意味する。種結晶のより大きな結晶への成長は『新たな結晶の核形成』とはみなされない。これを達成するために、栄養分の添加速度は結晶成長速度と原則的に同じでなければならない。添加速度を判定する1つの方法は、走査型電子顕微鏡(SEM)のような方法によって種結晶の結晶径を先ず判定することである。次に、結晶成長(経験的に判定される)は一様で線状であって、結晶は立方体であると仮定する。このことから供給速度を計算することができる。
【0024】
添加する栄養分の量を制御する別の方法は、各栄養分の濃度を飽和限界より上に、しかし臨界過飽和限界より下に維持することである。濃度が臨界過飽和限界を超えると、新たな結晶の核形成が始まり、一方、濃度が飽和限界以下ならば、成長は生じない。
【0025】
結晶が成長するための反応条件は、従来の方法で用いられたものと同様であり、内発圧力及び室温(20℃)から250℃までの温度などである。より高い圧力を用いることも可能であり、通常300 psigの高い圧力でもよい。栄養分の添加は望まれる結晶径が得られるまで続けられる。種結晶の大きさはかなり変化させることができ、本発明において決定的なパラメータではない。どんな大きさの種結晶でも用いることができるが、一般的に種結晶径は10ナノメーターから5マイクロメーターの範囲である。生成物の最終結晶径にも上限はないが、10マイクロメーターの大きさのクリスタライトを形成することができるであろう。望まれる結晶径が得られるとすぐに、栄養分の添加は中止され、分子篩固体は、濾過、遠心分離のような本技術分野で十分周知の方法によって水相または母液から分離される。
【0026】
結晶径は添加される栄養分の量によって判定されるが、結晶自体は塊化または粒子に凝集する場合がある。従って、粒子は任意の1つの個々の結晶より大きくてもよい。粒子径の制御、例えば塊化の程度は、剪断を反応混合物に適用することによって達成される。剪断は、機械的手段、油圧手段などによって適用することができる。剪断を適用する具体的な方法には、攪拌装置、回転翼、超音波、対向ジェットなどがある。これらの手段は、塊をバラバラに壊すが、一層の成長が可能な個々の結晶もバラバラに壊すことができるようになっている。個々の結晶の破壊は核生成ではない。
【0027】
結晶径及び/または粒子径分布は、本方法の過程で、より多くの種結晶を添加することによって制御可能である。これは、プロセスの間に1回、断続的または連続的に行うことができる。さらに、後に添加される種結晶を当初の種結晶よりも大きくし、それによって結晶及び/又は粒子系分布を狭い範囲に収めることができる。あるいは、後に添加される種結晶を当初の種結晶よりも小さくし、それによって結晶及び/又は粒子系分布を広い範囲に収めることができる。
【0028】
以下の実施例は、本発明を説明するために述べられるものである。本実施例は説明のためだけのものであり、添付請求項に述べられるような本発明の広い範囲への不当な制限として意図されるものではない。
【実施例1】
【0029】
2.5 NaX(Si/Al2=2.5)の種結晶を作製し、平均結晶径1.2μmを有することがわかった。2L容器に125 gの2.5 NaX種結晶及び733 gの15重量% NaOH溶液を加え、容器を攪拌しながら70℃に加熱した。対抗ジェットを通って5L/分の速度で汲み上げられる容器底部のポートから容器の内容物を連続的に回収し、容器上端部でポートを介して容器に戻した。ケイ酸ナトリウム(29重量%のSiO2及び9重量%のNa2O)及びアルミン酸ナトリウム(24重量%のAl2O3及び20重量%のNa2O)の水溶液を下表に示されるような連続的な増加率で容器に加えた。
【表1】

【0030】
添加4時間後に、生成物を濾過、洗浄し、その後100℃で乾燥させた。生成物の平均粒子径は5.2μmであると判定された。X線回折分析によって、生成物は結晶性不純物のないゼオライトXであることが示された。最後に、化学分析によって、Si/Al2の比率は2.1であることが示された。
【実施例2】
【0031】
ゼオライトXの種結晶を実施例1のように作製した。10 L容器に3040 gの15重量%溶液及び720 gの種結晶を加え、攪拌しながら90℃に加熱した。6,000 rpmで作動する高剪断混合器を通って1.6 L/分の速度で汲み上げられる容器底部のポートから容器の内容物を連続的に回収し、容器上端部でポートを介して容器に戻した。ケイ酸ナトリウム及びアルミン酸ナトリウムを下表に示されるような連続的な増加率で容器に加えた。
【表2】

【0032】
添加の最後に、生成物を濾過、洗浄し、その後100℃で乾燥させた。生成物の平均粒子径は10.8μmであることが判定された。X線回折分析によって、生成物は結晶性不純物のないゼオライトXであることが示された。最後に、化学分析によって、Si/Al2の比率は2.1であることが示された。
【実施例3】
【0033】
平均粒子径1.2μmを有するモルデン沸石種結晶を従来の方法によって作製した。2Lのオートクレーブに320.3 gの純水、5.0 gのNaOHペレット、174.7 gのケイ酸ナトリウム溶液及び60 gのモルデン沸石種結晶を加えた。オートクレーブを125 psigで空気と共に加圧し、1,000 rpmで攪拌し、125℃に加熱した。ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム及び硫酸(96%H2SO4)の水溶液を、エア・シュラウド・ラインを用いて下に示されるような連続的な増加率で添加した。
【表3】

【0034】
添加6時間後に、生成物を冷却、濾過、水で洗浄し、その後100℃で乾燥させた。X線粉末回折分析によって、生成物は結晶性不純物のない完全に結晶化されたモルデン沸石であることが示された。平均粒子径は2.2μmであることがわかった。
【実施例4】
【0035】
2Lのオートクレーブに354.2 gの純水、58.8 gのテトラプロピル臭化アンモニウム、256.0 gの40重量%テトラプロピル水酸化アンモニウム、110.5 gのテトラエチルオルトシリケート及び、平均結晶径0.5μmを有する1.0gのケイ酸塩種結晶を添加した。オートクレーブを密閉し、250 rpmで攪拌しながら170℃に加熱した。702.3コロイド状シリカ(Ludox LS30)と37.7 gの40重量%テトラプロピル水酸化アンモニウムの混合物を下に示されるような連続的な増加率で添加した。
【0036】
【表4】

【0037】
添加4時間後に、生成物を冷却し、遠心分離によって分離し、水で洗浄し、100℃で乾燥させた。X線粉末回折分析によって、生成物は結晶性不純物のない完全に結晶化されたシリカライトであることが示された。平均粒子径は4.8μmであることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実験式:
(ElwAlxPySiz)O2
によって表される3次元微小孔フレームワーク構造及びフレームワーク組成物を有する分子篩を合成するための方法であって、式中、El、Al、P及びSiは4面体酸化物ユニットとして存在するフレームワーク元素であり、“w”はElのモル分率であって、ゼロから0.5までの値を有し、“x”はAlのモル分率であって、0から0.5までの値を有し、“y”はPのモル分率であって、0から0.5までの値を有し、そして、“z”はSiのモル分率であって、0から1までの値を有し、w+x+y+z=1であり、“y”と“z”は同時にゼロの値をとらず:前記方法が、反応条件下で種結晶のスラリーを提供するステップと;種結晶のフレームワーク元素を提供して、それによって種結晶を成長させるために、スラリーへ栄養分を添加するステップと;原則的に結晶成長速度と同じ速度で、分子篩を産生するために十分な時間添加を行なうステップとで構成されることを特徴とする分子篩の合成方法。
【請求項2】
反応条件が、20℃から250℃までの温度及び内発圧力を含んでいることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
“y”及び“w”が両方ともゼロであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
分子篩が、ゼオライトA、ゼオライトX、モルデン沸石、シリカライト、ゼオライト・ベータ、ゼオライトY、ゼオライトL、ZSM-12、UZM-4、UZM-5、SAPO-34、SAPO-11及びMAPSO-31で構成される群から選択される構造を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
栄養分が連続的に添加されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
栄養分が断続的に添加されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
コア分子篩及び外側分子篩で構成される3次元構造を有する微細孔分子篩を合成するための方法であって、両分子篩が同一のフレームワーク構造を有し、コア分子篩が、実験式:
(ElwAlxPySiz)O2
によって表される組成物を有し、式中、El、Al、P及びSiは4面体酸化物ユニットとして存在するフレームワーク元素であり、“w”はElのモル分率であって、ゼロから0.5までの値を有し、“x”はAlのモル分率であって、0から0.5までの値を有し、“y”はPのモル分率であって、0から0.5までの値を有し、そして、“z”はSiのモル分率であって、0から1までの値を有し、w+x+y+z=1であり、“y”と“z”は同時にゼロの値をとらず;前記方法が、反応条件下でコア分子篩の結晶のスラリーを提供するステップと;フレームワーク元素を提供して、それによって種結晶を覆って外側分子篩を成長させるために、スラリーへ栄養分を添加するステップとで構成され、外側分子篩はコア分子篩と同一のフレームワーク構造を有するが、コア分子篩と外側分子篩は少なくとも1つのフレームワーク元素が異なっており、外側分子篩が、実験式:
(ElwAlxPySiz)O2
によって表される組成物を有し、式中、El、P、Al及びSiは4面体酸化物ユニットとして存在するフレームワーク元素であり、“w”はElのモル分率であって、ゼロから0.5までの値を有し、“x”はAlのモル分率であって、0から0.5までの値を有し、“y”はPのモル分率であって、0から0.5までの値を有し、そして、“z”はSiのモル分率であって、0から1までの値を有し、w+x+y+z=1であり、“y”と“z”は同時にゼロの値をとらず;さらに前記方法が、原則的に外側分子篩の成長速度と同じ速度で、分子篩を産生するために十分な時間添加を行なうステップとで構成されることを特徴とする微細孔分子篩の合成方法。
【請求項8】
分子篩が、ゼオライトA、ゼオライトX、モルデン沸石、シリカライト、ゼオライト・ベータ、ゼオライトY、ゼオライトL、ZSM-12、UZM-4、UZM-5、SAPO-34、SAPO-11及びMAPSO-31で構成される群から選択されるフレ−ムワーク構造を有することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
栄養分が連続的に添加されることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項10】
栄養分が断続的に添加されることを特徴とする請求項7記載の方法。

【公開番号】特開2006−27964(P2006−27964A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2004−210282(P2004−210282)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(598055242)ユーオーピー エルエルシー (182)
【Fターム(参考)】