説明

分子認識ポリマー及びその製造方法、分子認識ポリマーを用いた固相抽出方法

【課題】グルコースなどの還元糖とタンパク質との間の非酵素的糖化反応であるメイラード反応の後期段階で生成される化合物である終末糖化産物アドヴァンスド グリケーション エンド プロダクツ(Advanced Glycation End−products:以下AGEと略す。)を特異的に結合する分子認識ポリマーならびにそれを用いた固相抽出方法、固相抽出キットを提供する。
【解決手段】ポリマー合成用のモノマーとともに鋳型分子となる少なくとも一種のAGEまたは、少なくとも一種のAGE構造類似体の存在下で重合を行い、得られたポリマーから鋳型分子を有利除去することで調製することを特色とするモレキュラーインプリント法により分子認識ポリマーを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Advanced Glycated End−Productsを特異的に結合する分子認識ポリマーならびにそれを用いた固相抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物(Advanced Glycation End−products:以下AGEと略す。)はグルコースなどの還元糖とタンパク質との間の非酵素的糖化反応であるメイラード反応の後期段階で生成される化合物の総称であり、糖化最終産物、後期糖化最終生成物とも呼ばれ、生体内に存在することが明らかとなっている。生体内においては、糖尿病などで慢性的に高血糖が続くと、循環血液中や組織で、AGEの生成が促進される。生体内のAGEは、糖尿病、動脈硬化、老化等の様々な疾患の発病や進展に関わっていることが明らかになっている。糖尿病合併症との関連では、AGEは血管内皮細胞にある特異的なAGEレセプター(Receptor for Advanced Glycation Endproducts:RAGEと略す)に結合して糖尿病血管症の発症に寄与しているとの報告がある。アルツハイマー病では、AGEが老人斑と神経原線維変化に沈着していること、また、AGE受容体の一つであるRAGEがアミロイドβ蛋白質による神経細胞毒性を媒介しうることなどの報告がある。
【0003】
一方、AGEは食品の加熱や調理過程の褐変反応として知られているメイラード反応からいくつかの可逆的な化学反応を経た後に不可逆的に高分子化して生成で生じることが知られており、味や風味に関わる現象として研究されてきた。加熱や調理過程を伴う食品、例えば牛乳やコーヒー豆、ベーカリー製品にもAGEは含まれることが報告されており、日常口にする多くの食品中にAGEが含まれている。食品中のAGEは体内に吸収、蓄積されることが報告されており、食品中のAGEと各種疾患との関連についての研究がされている。また、食品中のAGEを定量することは、食品の安全性ならびに品質管理指標として注目されている。
【0004】
そのため、生体中や食品中のAGEを感度良く、正確に定量することが求められている。
【0005】
従来、AGEの定量方法として、例えば高速液体クロマトグラフィーを利用したWeningerらの方法(Nephron,1992,62,80−83)、ガスクロマトグラフィー(GC−MS)を使用する方法(DIABETES,1991,40,190−196)、AGEに対するモノクローナル抗体を用いたELISA法による方法(J.Biol.Chem.,1991,266:7329−7332.Clin Chem Lab Med,2005,43,503−511)がある。
【0006】
しかしながら、生体試料や食品試料に含まれるAGEは微量でるために、試料中に含まれる夾雑物のAGE測定の感度と定量性への影響が問題とされてきた。
【0007】
そのため、試料中に含まれる蛋白質や脂質などの夾雑物を取り除く必要があるが、従来の方法ではいずれも操作が煩雑であったり、操作に時間がかかったりする欠点を有する。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、試料中に含まれるAGEの簡易な抽出方法を提供すること、すなわちAGEを選択的に結合する分子認識ポリマー、この分子認識ポリマーを用いた試料中からのAGEの新規な抽出方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、モレキュラーインプリント法により作成されたAGE認識ポリマーが試料中からのAGEの抽出に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明はAGEに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーである。
【0011】
また、本発明は[0010]においてNε−カルボキシルメチルリジンであることを特徴とする分子認識ポリマーである。
【0012】
さらに本発明は合成される際にポリマー合成用のモノマーとともに鋳型分子となる少なくとも一種のAGEまたは、少なくとも一種のAGE構造類似体の存在下で重合を行い、得られたポリマーから鋳型分子を有利除去することで調製することを特色とするモレキュラーインプリント法により形成されたことを特徴とする[0010]または[0011]に記載の分子認識ポリマーである。
【0013】
また、本発明は[0012]においてAGE構造類似体がNε−カルボキシルメチルリジンであることを特徴とする分子認識ポリマーである。
【0014】
また、本発明は[0012]においてAGE構造類似体がNα−Bocカルボキシルリジンであることを特徴とする分子認識ポリマーである。
【0015】
また、本発明は[0012]においてAGE構造類似体がNα−Bocリジンであることを特徴とする分子認識ポリマーである。
【0016】
さらに、本発明は[0013]から[0015]において、ポリマー合成用のモノマー及び架橋剤の存在下で重合させることにより製造された、分子認識ポリマーである。
【0017】
また、本発明は[0016]においてポリマー合成用のモノマーが1−ビニルイミダゾールであることを特徴とする分子認識ポリマーである。
【0018】
また、本発明は[0016]において架橋剤がトリメチロ−ルプロパントリメタクリル酸であることを特徴とする分子認識ポリマーである。
【0019】
さらに、本発明は[0010]から[0018]においてラジカル開始剤として触媒及び/またはUV光の存在下、重合が実施された分子認識ポリマーである。
【0020】
さらに、本発明は、[0010]から[0019]記載の分子認識ポリマーを用いることを特徴とするAGEの固相抽出法である。
【0021】
また、本発明は[0020]においてAGEがNε−カルボキシルメチルリジンであることを特徴とする選択的固相抽出用方法である。
【0022】
さらに、本発明は、[0010]から[0019]記載の分子認識ポリマーをカラムに充填し、使用することを特徴とするAGE選択的固相抽出用キットである。
【0022】
また、本発明は[0022]においてAGEがNε−カルボキシルメチルリジンであることを特徴とするAGE選択的固相抽出用キットである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の一実施形態ついて以下に詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではない。
【0024】
本発明で用いるAGEとしては特に限定されず、例えばNε−カルボキシルメチルリジン、ペントシジン、クロスリン、フルオロリンク、ピロピリジン、ピラリン等の化合物が挙げられる。
【0025】
例えば、Nε−カルボキシルメチルリジンは、グルコースとリジンから精製されるAGEであり、現在までに報告されているAGEの中でも最も研究が行われている。そのため、従来の一般的なAGEの定量は、構造が明らかになっているCMLの定量で代替されてきた。
【0026】
本発明にかかる分子認識ポリマーは、モレキュラーインプリンティング法により形成されたものである。ここで、モレキュラーインプリンティング法とは、ポリマーを合成する際、ポリマー合成用のモノマーに、鋳型分子を混入させて重合を行い、得られたポリマーから鋳型分子を遊離除去することにより、標的分子の鋳型をポリマー内にとる方法をいう。鋳型分子に特徴的な官能基があれば、そのような官能基と結合する官能基を提供するモノマー(機能性モノマー)を、ポリマー合成用のモノマーに混入させて重合を行なう。機能性モノマーを、ポリマー合成用のモノマーに混入させる方法は、非共有結合型と共有結合型とに大別される。非共有結合型インプリンティング法は、機能性モノマーと標的分子とをそのまま混入させ、水素結合や静電的相互作用などの非共有結合を利用して、重合反応液中に、標的分子と機能性モノマーとの複合体を生じさせる方法である。これに対して、共有結合型インプリンティング法は、あらかじめ機能性モノマーと標的分子とを共有結合で複合体とした後、この複合体をモノマーとして混入させる方法である。分子認識ポリマーを形成するために、機能性モノマーを、インプリントされる鋳型分子の存在下で架橋剤及び触媒としてラジカル生成剤で重合させる。
【0027】
なお、モレキュラーインプリンティング法において、鋳型分子の構造は、分子認識ポリマーに認識させる標的分子の構造と一致していることが好ましいが、標的分子の構造と類似していれば、両者の構造は異なっていてもよい。構造が類似していれば、得られる分子認識ポリマーは、鋳型分子と構造が類似する標的分子を選択的に認識することが可能となる。
【0027】
本発明においては、鋳型分子はAGEまたはAGE構造類似化合物であり得る。例えば、AGEの中でも最も研究が行われているNε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーを得る場合は、標的分子のNε−カルボキシルメチルリジンを鋳型分子とすることが好ましい。また、Nε−カルボキシルメチルリジンと構造が類似するNα−Bocカルボキシルリジン、Nα−Bocリジンを鋳型分子とすることがあり得る。
【0028】
機能性モノマーはAGEと相互作用し、吸着されるものであれば、その結合形式は特に限定されるものではなく、どのような結合形式であってもよい。かかる結合形式には、共有結合及び水素結合、静電的相互作用、イオン結合、疎水性相互作用、π−πスタッキング等の非共有結合が含まれる。
【0029】
典型的な機能性モノマーとしては、ビニルイミダゾール誘導体(例えば、1−ビニルイミダゾール、(4)−5ビニルイミダゾール)、4−ビニルピリジン、一種のアクリル酸及びメタクリル酸、ビニル安息香酸、フェニルビニル誘導体(例えば、スチレン)またはメチレンもしくはビニル基を有する任意の分子、即ち、RR’C=CH2(式中、Rは脂肪族または芳香族基であり、R’は脂肪族基、芳香族基またはHである)で示される任意の分子である。1−ビニルイミダゾールは、好ましい機能性モノマーである。
【0030】
また、機能性モノマーは1種類に限定されず、さらに一種以上の機能性モノマーも、上記機能性モノマーと共重合させることができる。
【0031】
さらには、AGEと相互作用しないモノマー分子を上記機能性モノマーと共重合させることができる。モノマー分子は共重合させたポリマーマトリックスの剛性が、未改良ポリマーマトリックスと比較して改良されるように特異的に選択する。典型的なモノマー分子としてはメチルメタアクリレート、酢酸ビニル、ハロゲン化ビニル、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0032】
また、典型的な機能性モノマー/鋳型分子のモル比は1から10の間であり、本発明においては2から5の間が好ましい。
【0033】
また典型的な架橋剤は、メチレンまたはビニル基に属する少なくとも2個の二重結合を有する。架橋剤は、架橋してポリマーを生成するものであれば特に限定はしないが、トリアクリル酸トリメチロールプロパン、トリアクリル酸ペンタエリスリトール、ジアクリル酸エチレングリコール、ジアクリル酸1,4−ブタンジオール、ジアクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ジメタクリル酸1,4−ブタンジオール及びジメタクリル酸1,6−ヘキサンジオール等が挙げられ、好ましくは、ジメタクリル酸エチレングリコールなどの任意の分子である。トリメタアクリル酸トリメチロールプロパンは、好ましい架橋剤である。
【0034】
また、典型的な架橋剤/鋳型分子のモル比は5から500の間であり、80から150の間が好ましい。
【0035】
ラジカル生成剤は、ラジカルを生成しうるものであれば特に限定はしないが、過酸化ベンゾイル及びt−BuOOH等の過酸化物並びにアゾビスジメチルバレロニトリル及びアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物などの任意の分子である。アゾ化合物が好ましく、アゾビスイソブチロニトリルが更に好ましい。
【0036】
ラジカル生成剤の使用量は、触媒量以上であれば特に限定はしないが、鋳型分子に対して0.1〜1.0当量、好ましくは、0.3〜0.5当量以上用いれば充分である。
【0037】
鋳型分子、機能性モノマー、架橋剤、ラジカル生成剤を溶解させる溶媒は、これらの化合物を溶解するものであれば特に限定はしないが、メタノールが好ましい。
【0038】
重合反応は、ラジカル生成剤が分解される条件であれば特に限定はしないが、4℃にて120,000マイクロJ/cm2となるように波長365nmの紫外線を1時間から5時間し、その後45℃で10〜15時間以上反応させるのが好ましい。
【0040】
得られた分子認識ポリマーは、すり潰し、ふるいにかけることにより所望の粒径を有するポリマー粒子にすることができる。得られた粒子状のポリマーをメタノール、酢酸又はメタノール−酢酸混合溶液等で洗浄することにより、鋳型分子を分子認識ポリマー内から除去することができる。
【0041】
本発明の分子認識ポリマーをカラムもしくはカートリッジに充填し、AGEとその他の夾雑物の含まれる試料インジェクションすることにより分子認識ポリマーに対する結合を調べた。
【0042】
本発明の分子認識ポリマーは、標的分子であるAGEと選択的に結合することが示された。例えば、表1にしめすように、標的分子の類似化合物であるNα−Bocカルボキシルリジンを鋳型としてインプリントしたポリマーは標的分子のNε−カルボキシルメチルリジンに対して結合能を有することが示された。同様に、類似化合物であるNα−Bocリジンを鋳型としてインプリントしたポリマーは標的分子のNε−カルボキシルメチルリジンに対して選択的に結合することが示された。
【0043】
AGE固相抽用キットの構成としては、本発明の分子認識ポリマーを充填したカラムまたはカートリッジのみでも使用できるが、これに洗浄溶媒、抽出溶媒を加えてもよい。
【0044】
本発明であるAGEに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーは、AGEまたはAGE類似化合物を鋳型分子としてモレキュラーインプリント法により形成され、AGEを結合する。また、AGEを結合する分子認識ポリマーをカラムに充填することにより、試料中からAGEを吸着できることから、蛋白質や脂質などの夾雑物を含む試料中からAGEを簡易に抽出・濃縮できることは自明である。
【0045】
例えば、AGEの一種であるNε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーは、類似化合物であるNα−BocカルボキシルリジンまたはNα−Bocリジンを鋳型分子としてモレキュラーインプリント法により形成され、Nε−カルボキシルメチルリジンを結合する。また、Nε−カルボキシルメチルリジンを結合する分子認識ポリマーをカラムに充填することにより、試料中からNε−カルボキシルメチルリジンを吸着できることから、蛋白質や脂質などの夾雑物を含む試料中からNε−カルボキシルメチルリジンを簡易に抽出・濃縮できることは自明である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例1
Nα−Bocカルボキシルリジンを鋳型分子としたNε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーの合成
鋳型分子として1.6x10−5mol(5mg)のNα−Bocカルボキシルリジン、機機能性モノマーとして6.6x10−5mol(6.174mg)の1−ビニルイミダゾール 、架橋剤として1.6x10−3mol(0.55g)のトリアクリル酸トリメチロールプロパン、ラジカル生成剤として4.9x10−5mol(8.09mg)の2,2−アゾビスイソブチロニトリルを0.57Mlのメタノールに溶解して混合した。ポリマーの重合はアルゴンガスを2分間パージすることで、溶存酸素を取り除き4℃にて365nmの紫外線を120,000μJ/cmで2時間照射した後、45℃で一晩インキュベートして重合を行い、Nα−Bocカルボキシルリジンインプリントポリマーを合成した。作成したポリマーは粒子径を揃えるため、ポリマーを乳鉢に入れ破砕し、これをふるいにかけ、38μm以下の粒子を収集した。その後細かすぎる粒子を取り除くため、アセトンを用いてデカンテーションを30分間、3回行った。このようにして粒子径が10−38μmのポリマー粒子を収集した。このようにして調製した分子認識ポリマーは10%酢酸を含むメタノール30mlを添加し攪拌しながら30分処理し、鋳型であるNα−Bocカルボキシルリジンをポリマーから除去した。さらに45℃で乾燥した。また、コントロールポリマー(以下、NIP(non)と略す。)は上記と同じポリマーの合成方法において鋳型分子であるNα−Bocカルボキシルリジンを加えないで合成したポリマーである。
【0048】
実施例2
Nα−Bocリジンを鋳型分子としたNε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーの合成
鋳型分子として1.6x10−5mol(4.05mg)のNα−Bocリジン、機機能性モノマーとして6.6x10−5mol(6.174mg)の1−ビニルイミダゾール 、架橋剤として1.6x10−3mol(0.55g)のトリアクリル酸トリメチロールプロパン、ラジカル生成剤として4.9x10−5mol(8.09mg)の2,2−アゾビスイソブチロニトリルを0.57Mlのメタノールに溶解して混合した。その後、[0047]に従ってNε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーを作成した。
【0049】
実施例3
Nε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーのカラムへの充填
[0047]または[0048]において作製したNε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーをメタノールに懸濁し、ステンレスカラム(33mm×2.1mm i.d.)に詰めた。体積比がメタノール:酢酸=9:1の溶液を流速0.5ml/minで2時間流した。このカラムを分子認識ポリマー充填カラムとして使用した。
【0050】
実施例4
Nε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーの評価実験
[0048]において作成した分子認識ポリマー充填カラムを用いて、分子認識ポリマーの評価を行った。分子認識ポリマー充填カラムに対して、10mM KHPO/PO緩衝液または、メタノールと10mM KHPO/PO緩衝液(pH2.6)を1対1で混合したものを溶媒として流速0.1ml/分で運転し、紫外吸収235nmを記録した。また、試料は1mg/mlに調製し、測定毎に20μlインジェクションした。分子認識ポリマーに結合しない標準物質としてメタノールを用いた。試料のカラムへの保持時間からキャパシティーファクター(以下kと略す。)を算出した。k値は以下の式から求めた。
k=(tR−t0)/t0
ここで、tRは試料の保持時間、t0は標準物質(メタノール)の保持時間を示す。
【0051】
実施例5
Nε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーのカルボキシルメチルリジンに対する結合
Nε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーの評価実験で得られたNε−カルボキシルメチルリジンをインジェクションしたときのクロマトグラムを図1に示す。Nα−BocカルボキシルリジンまたはNα−Bocリジンを鋳型分子とした分子認識ポリマーはメタノールに由来する非吸着ピークとNε−カルボキシルメチルリジンに由来する吸着ピークの非吸着ピークと分離が見られた。このことから、Nε−カルボキシルメチルリジンに結合していることが結合していることは明らかである。Nε−カルボキシルメチルリジンに対するキャパシティーファクターk値はNα−Bocカルボキシルリジンを鋳型分子とした分子認識ポリマー(以下MIP(Boc−CML)と略す。)においては2.75であった。また、Nα−Bocリジンを鋳型分子とした分子認識ポリマー(以下MIP(Boc−Lys)と略す。)においては2.58であった。このことから、MIP(Boc−CML)またはMIP(Boc−Lys)はNε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーであることが明らかである。
【0052】
実施例5
Nε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーの夾雑物に対する結合
夾雑物として、L−リジン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−グリシン、フロシンを用いてNε−カルボキシルメチルリジンに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーの評価を行った。各試料は1mg/mlに調製し、測定毎に20μlインジェクションした。MIP(Boc−CML)を充填したカラムを用いて各試料をインジェクションしたときに得られるに対するクロマトグラムを図2、MIP(Boc−Lys)を充填したカラムを用いて各試料をインジェクションしたときに得られるに対するクロマトグラムを図3に記す。また、キャパシティーファクターk値を表1に記す。L−リジン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−グリシン、フロシンに対しては吸着をほとんど示さなかった。このことから、本発明の分子認識ポリマーはNε−カルボキシルメチルリジンを特異的に結合し、夾雑物として試料中に含まれる可能性のあるアミノ酸、特にL−リジン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−グリシンならびにAGE化合物であるフロシンは結合しないことが示された。このことから、MIP(Boc−CML)またはMIP(Boc−Lys)はNε−カルボキシルメチルリジンに対して特異的な結合部位を持つことが明らかである。
【0053】
【表1】

【発明の効果】
【0054】
本発明であるモレキュラーインプリント法により作成されたAGEに対する結合部位を提示する分子認識ポリマーを用いることで、試料中からAGEを選択的に結合することができる。この分子認識ポリマーを充填したカラムまたはカートリッジを使用することで、アミノ酸、蛋白質や脂質などの夾雑物を含む試料中からAGEの簡易な抽出・濃縮が可能となった。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一種のAGEに対する結合部位を提示する分子認識ポリマー。
【請求項2】
上記AGEがNε−カルボキシルメチルリジンであることを特徴とする請求項1に記載の分子認識ポリマー
【請求項3】
合成される際にポリマー合成用のモノマーとともに鋳型分子となる少なくとも一種のAGE構造類似体の存在下で重合を行い、得られたポリマーから鋳型分子を遊離除去することで調製することを特色とするモレキュラーインプリント法により形成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の分子認識ポリマー。
【請求項4】
上記AGE構造類似体がNε−カルボキシルメチルリジンであることを特徴とする請求項3に記載の分子認識ポリマー。
【請求項5】
上記AGE構造類似体がNα−Bocカルボキシルリジンであることを特徴とする請求項3に記載の分子認識ポリマー。
【請求項6】
上記AGE構造類似体がNα−Bocリジンであることを特徴とする請求項3に記載の分子認識ポリマー。
【請求項7】
少なくとも一種のポリマー合成用のモノマー及び少なくとも一種の架橋剤の存在下で重合させることにより製造された、請求項4から6のいずれか1項に記載の分子認識ポリマー。
【請求項8】
上記ポリマー合成用のモノマーが1−ビニルイミダゾールであることを特徴とする請求項7に記載の分子認識ポリマー。
【請求項9】
上記架橋剤がトリメタクリル酸トリメチロールプロパンであることを特徴とする請求項7または8に記載の分子認識ポリマー。
【請求項10】
ラジカル開始剤として触媒及び/または紫外線の存在下、重合が実施された、請求項1から9のいずれか1項に記載の分子認識ポリマー。
【請求項11】
AGEの固相抽出方法であり請求項1から10のいずれかの1項に記載の分子認識ポリマーを用いることを特徴とするAGEの固相抽出法
【請求項12】
上記AGEがNε−カルボキシルメチルリジンであることを特徴とする請求項11に記載の選択的固相抽出方法。
【請求項13】
請求項1から10のいずれかの1項に記載の分子認識ポリマーをカラムに充填し、使用することを特徴とするAGE選択的固相抽出用キット。
【請求項14】
上記AGEがNε−カルボキシルメチルリジンであることを特徴とする請求項13に記載のAGE選択的固相抽出用キット。

【公開番号】特開2007−240509(P2007−240509A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106916(P2006−106916)
【出願日】平成18年3月12日(2006.3.12)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】