説明

分散したナノチューブを有するポリマーのナノコンポジット

本発明は、分散したナノチューブを有するポリマーナノコンポジット、及びそれらを作製する方法を提供する。ポリマーは、ポリエーテルである場合がある。例えば、本発明は、単層ナノチューブ(SWNT)を、図5に示す通り、室温にて約0.09重量%のSWNTで流体力学的浸透を及び約0.03重量%のSWNTで電気的浸透を有するポリエチレンオキシド(PEO)及びその低分子量類似体のポリエチレングリコール(PEG)の両方に首尾よく分散させ、その結果ナノコンポジットをもたらす有効な方法を提供する。本方法は、界面活性剤を提供することを含む場合がある。最も注目すべきことに、本発明者等は、ナノチューブの存在によりポリマーの融点の低下及びポリマー結晶化の遅延を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国仮特許出願第60/710,837号(2005年8月24日出願)に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
(1.発明の分野)
本発明は、一般的には、分散したナノチューブを有するポリマーナノコンポジット及びそれらを作製する方法に関する。より具体的には、本発明は、単層ナノチューブ(single walled nanotube)(SWNT)をポリエーテルに、例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)及びその低分子量類似体のポリエチレングリコール(PEG)に、より具体的には、室温にて約0.09重量%のSWNTで幾何学的浸透を及び約0.03重量%のSWNTで電気的浸透を有するものに分散させることに関する。
【背景技術】
【0003】
(2.背景技術の説明)
多層同軸シェル及びいわゆる多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含めたカーボンナノチューブ(CNT)は、1991年にIijima(非特許文献1)により発見された。この発見に続き、それ自体に丸めた単一グラフェンを含めた単層カーボンナノチューブ(SWNT)を、遷移金属でドープした炭素電極を使用してアーク放電プロセスにて合成した(非特許文献2;及び非特許文献3)。
【0004】
ナノチューブの驚くべき機械的、電気的及び熱的特性により、これらは、ポリマーと混和して、潜在的に多機能性を有するナノコンポジットを調製する優れた材料となる。しかし、分散したカーボンナノチューブを有するポリマーナノコンポジットの開発は、チューブ内の相互作用が強いため、ナノチューブの分散が不足することにより困難となる傾向がある。
【0005】
従って、分散したカーボンナノチューブを有するポリマーナノコンポジット及びそれらを調製する方法の研究は継続されている。ナノチューブは、化学的に極めて不活性であるため、化学的な分散方法は成功しないであろうと考えられてきた。成功した分散方法は、機械的な撹拌を伴う傾向がある。研究の報告については、非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;及び非特許文献7に掲載されている。
【非特許文献1】Iijima,Nature,1991,354,56
【非特許文献2】Iijima,ら,Nature,1993,363,603
【非特許文献3】Bethune,ら,Nature,1993,363,605
【非特許文献4】F.Du,ら,J.Polymer Sci.B 41,3333−3338(2003)
【非特許文献5】H.J.Barraza,ら,Nanoletters 2,797−802(2002)
【非特許文献6】K.D.Ausman,ら,J.Phys.Chem.104,8911−8915(2000)
【非特許文献7】O.Probst,ら,Polymer 45,4437−4443(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような教示内容があるものの、望ましい特性を呈する分散したナノチューブを有するポリマーのコンポジット、及びそれらのコンポジットを作製する方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な説明)
本発明は、ポリマー及び分散したナノチューブを含有するコンポジットであって、望ましい特性を有するコンポジットを提供する。本コンポジットは、界面活性剤を含有する場合がある。本発明は更に、コンポジットを作製する方法であって、ポリマーマトリックス中にナノチューブを分散させることを含む、方法も提供する。本方法は更に、界面活性剤の使用も含む場合がある。
【0008】
従って、コンポジットは、ポリマーを含むマトリックス、及びマトリックス中に分散した複数のナノチューブを含む場合がある。本ポリマーは、生体適合性ポリマーである場合がある。本ポリマーは、水溶性ポリマーである場合がある。本ポリマーは、ポリエーテルである場合がある。本ポリマーは、ポリエチレンオキシド及びポリエチレングリコールからなる群から選択される場合がある。本分散補助剤は、陰イオン界面活性剤である場合がある。本分散補助剤は、リチウムを含有する場合がある。各ナノチューブは、単層である場合がある。複数のナノチューブは、十分に分散する場合がある。本ナノコンポジットは、分散補助剤を含む場合がある。本分散補助剤は、両親媒性界面活性剤及びブロックコポリマーからなる群から選択される場合がある。本分散補助剤は、ドデシル飽和炭素鎖を含有する場合がある。
【0009】
本コンポジットは、望ましい特性を呈する場合がある。本コンポジットは、少なくとも電気的浸透閾値と関連する濃度の複数のナノチューブを、ポリマー中に含有する場合がある。本コンポジットは十分にホモジナイズされる場合がある。本コンポジットは、ポリマーよりも高い伝導率を有する場合がある。本コンポジットは、ポリマーよりも低いコンポジットの融点を有する場合がある。本コンポジットは、ポリマーよりも低い結晶化率を有する場合がある。
【0010】
上記の各特徴は、単独で又は組み合わせて実施される場合がある。
【0011】
上記においては、以下の本発明の詳細な説明がより理解しやすくなるように、本発明の特徴をかなり広義に概説してきた。本発明の更なる特徴及び利点においては、本発明の特許請求の範囲の主題となる以下において説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
本発明者等は、ポリマーマトリックス中へのナノチューブの分散を明らかにしている。例えば、本発明者等は、電解質を含めた種々の技術において用途が認められている水溶性生体適合性ポリマーである、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)中への単層カーボンナノチューブ(SWNT)の分散を明らかにしている。
【0013】
本発明者等は、少量の両親媒性界面活性剤又はブロックコポリマーで分散させることができるナノチューブの能力を活用して、ポリマーマトリックス中へのナノチューブの分散を得た。例えば、本発明者等は、リチウム系陰イオン界面活性剤を相溶化剤(compatibilizer)として使用して、単層ナノチューブ(SWNT)を、室温にて約0.09%のSWNTで幾何学的浸透を及び約0.03%のSWNTで電気的浸透を有するポリエチレンオキシド(PEO)及びその低分子類似体のポリエチレングリコール(PEG)の両方に首尾よく分散させる有効な方法を開発した。
【0014】
リチウムは、ナノチューブ間に挿入する能力を有する。ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤は、水中にてナノチューブを個別化し、分散させる能力を有する。ポリエチレンオキシドによるリチウムの錯化は既知である。
【0015】
リチウム系界面活性剤を含有するナノコンポジットを調製するに当たり、本発明者等は、プリスチンSWNT及びPEOを、尾部としてドデシル飽和鎖を有するリチウム系陰イオン界面活性剤と相溶化させた。本発明者等は、このようなナノコンポジットを調製するに当たり、界面活性剤(ドデシル硫酸リチウム(LDS))がナノチューブバンドルを分解し、リチウムの周りのPEO錯体が十分にホモジナイズされたナノコンポジットを作製することを認めた。
【0016】
本発明者等は、十分に分散したSWNTを使用したナノコンポジットの開発を明らかにしている。本発明者等は更に、ナノコンポジットに含有されるポリマー(例えば、PEO)の結晶化挙動において、SWNTがリチウム系界面活性剤により分散される独自の結果も明らかにしている。特に、本発明者等は、ナノチューブの存在により、ポリマーの融点の低下及びポリマー結晶化の遅延を達成した。更に、ナノコンポジットのラマン分光法により、室温にてナノチューブがポリマーより引張応力を伝達されることが示されている。
【0017】
本明細書において、ナノコンポジット試料は、学名「X−Y−NT−Z」で表わされ、式中、「X」はポリマーシリーズを表し(Aは、M=8000Daの低分子量であり、Bは、M=100000Daの高分子量である)、「Y」は使用する界面活性剤を表し(LはLDS、SはSDS、及びDは臭化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB)である)、「Z」は、ポリマー中に分散するSWNTの重量%を表す。一方で、基準試料は「X−Y−Z」のみで表され、試料がナノチューブ(NT)を使用せずに調製され、ポリマー及び界面活性剤のみを含有することを示す。
【0018】
以下の実施例は、本発明の実施形態の幾つかをより詳細に説明するために提供する。以下の実施例に開示される技法は、本発明の実施において十分に機能することを本発明者等が発見した技法であり、従って、その実施の例示的な様式を構成するものとして考慮できることを、当業者は理解しなければならない。しかし、本発明の開示内容に照らして、当業者は、本発明の趣旨及び適用範囲を逸脱することなく、開示した具体的な実施形態に多くの変更が加えられ、それでも同一又は類似の結果が得られることを理解しなければならない。
【実施例】
【0019】
(一般的手法)
(試料の調製)
本試験で使用するSWNTを、当業者に既知のHiPco法により調製し(例えば、Bronikowski,ら,J.Vac.Sci.Technol.A.2001,19,1800)、標準的な手法を使用して精製する。精製後、エネルギー分散型分析(EDS)により測定した金属量は、1重量%未満であった。本試験で使用するポリマー及び界面活性剤は、Aldrich Chemical Co.から購入し、受領時に使用した。試料は全て、最初に界面活性剤を使用して脱イオン水中にSWNTを分散させることにより調製し、超音波処理により補助した(Fisher Scientific超音波装置、44kHz、3時間)。本発明者等は、2種類の陰イオン界面活性剤、即ち、ドデシル硫酸リチウム塩及びナトリウム塩(それぞれ、LDS及びSDS)、並びに陽イオン界面活性剤である臭化ドデシルトリメチルアンモニウム(DTAB)を使用した。ナノチューブ炭素に対する界面活性剤の頭基のモル比は、全試料において約1:2に維持した。続いて、ポリマーをこの分散液に添加し、混合物を24時間撹拌した。次いで、対流下で広範に乾燥させた後、融解状態にて真空乾燥させることにより(80℃、24時間)、溶媒を除去した。
【0020】
(UV−Vis−near IR吸収スペクトル)
Jasco V570分光光度計を使用して、波長200〜2000nmにわたり、UV−Vis−near IR測定を行った。溶液スペクトルは、光路長1mmの石英キュベットを使用して得た。ポリマー薄膜からの吸収スペクトルについては、試料を厚さ約200μmに融解加圧して、自立型膜上でスペクトルを得た。
【0021】
(融解レオロジー:ダイナミック貯蔵弾性率及び複素粘性率)
融解状態の動的振動を、試料厚1〜2mm、直径25又は50mmの平行プレートを使用して、0.2〜2000g−cmのトルク変換器範囲を有するTA InstrumentsのARESレオメーターにより測定した。式γ(t)=γ0sin(ωt)(式中、γ0はひずみ振幅である)小幅の振動応力γ(t)を印加した。γ0の値は、変形が最小となり、ナノコンポジットの静態構造を変化させないように可能な限り低く維持した。得られた時間依存性線形剪断応力σ(t)を記録し、σ(t)=γ0[G’sin(ωt)+G’’cos(ωt)](式中、G’及びG’’はそれぞれ貯蔵及び損失弾性率である)として解釈した。その他の報告されているレオロジー特性には、複素弾性率
【0022】
【化1】

及び複素粘性率(η=G/ω)が含まれる。一定範囲の温度のデータを収集し、ボルツマン時間温度換算則を使用してマスターカーブを作成した。
【0023】
(DC伝導率)
試料の室温dc抵抗率(R)を、4端子プローブを使用して測定し、相関式σdc=l/(R*A)(式中、lは、真空成形を介して調製された薄層の厚さであり、Rは測定したdc抵抗率であり、Aは試料の横断面積である)を使用して伝導率(σdc)に変換した。一般的に、本試験において、試料の厚さは0.6mm〜0.9mmの間で変化した。
【0024】
(ラマンスペクトル)
ラマンスペクトルはJobin Yvon S3000分光計により記録した。Olympus 45顕微鏡の長作動距離顕微鏡対物レンズ(50倍)を使用して、試料表面上の約2μm径のスポットにレーザービームの焦点を合わせ、分散光を収集した。レーザースポットでの試料の過熱を防ぐため、レーザー出力密度を10W/cm以下に維持した。レーザー出力の測定したスペクトルが独立していることにより、レーザービームが試料を過度に加熱しないことを実証することができた。
【0025】
(熱量測定:融解及び結晶化)
周囲以下の性能を有するPerkinElmer Pyris 1DSC装置にて、バルク示差走査熱量測定法(DSC)を実施した。試料の重量は約10(±1)mgに維持した。融解温度(T)、ガラス転移温度(T)、及び非等温結晶化動態を10℃/分の加熱及び冷却率を使用して測定した。報告されたT、T及びTデータ全てを第2の加熱測定の基にした。本明細書において報告されたTデータを熱容量(ΔC)のジャンプ中点位置から算出し、幅をΔC関数の端点間の差から割り当てた。本明細書において報告された融解及び結晶化温度は、ピーク(吸熱及び発熱)温度を表す。
【0026】
(X線回折:分別結晶化度)
波長1.54ÅのCuKα放射を使用してSiemens D5000X線回折計により、X線回折を実施した。放射は40mA及び30kVにて生成した。回折スペクトルは、それぞれの角位にて1秒間の計数時間を使用して、0.01°毎に2°〜50°の2θの範囲について記録した。
【0027】
(実施例1 十分に分散したナノチューブ)
実施例1は、本発明のナノコンポジットが十分に分散したナノチューブを含有することを示している。十分に分散したナノチューブを図1のデータにより示す。
【0028】
図1は、陰イオン界面活性剤であるLDSを使用してPEO中に分散したSWNTの溶液層のUV−vis−near IRスペクトルを示している。シリーズA及びシリーズBのナノコンポジット(薄膜及び溶液)のスペクトルを図1に示す。ファンホーブ特異性と呼ばれる鋭い吸収ピークは、ポリマー−SWNT溶液及びバルクナノコンポジットにおいて認められ、SWNT及びPEOの適度に十分に分散した混和物の良好な定性指標となる。従って、(ファンホーブ特異性と関連する)400〜1000nmのピークの存在により、十分に分散した系が確立される。個々の又は小さな束のチューブは、ファンホーブ特異性を呈するのに対して、大径ロープのチューブ(即ち、低分散)は、波長の増加を伴う単調減少の吸収のみを呈する。
【0029】
(実施例2 幾何学的浸透)
実施例2は、本発明のナノコンポジットの幾何学的浸透を示している。幾何学的浸透閾値の存在を、図2、図3及び図4のデータにより示す。計算値は、ナノチューブ約0.09重量%の幾何学的浸透閾値の推定値である。
【0030】
融解レオロジーは、中規模の分散を試験するための有力な技法である。既に、種々のポリマー中の異方性層のケイ酸、官能基化されたSWNT及びプリスチンSWNT、並びにMWNT等の種々の充填剤の分散状態は、この技法を使用して明らかにされている。図2は、LDSを使用して調製されたPEOナノコンポジットのナノチューブ負荷の関数として、貯蔵弾性率(G’)の動的線形振動の周波数依存性を示している。ダイナミック貯蔵弾性率(G’)を、PEO(シリーズA)における種々の重量%のSWNTの負荷と比較する。シリーズA及びB共にG’の低い周波数依存性を図に示す(0重量%のSWNT試料は、チューブも界面活性剤も含有しないシリーズAの純粋なPEOである)。純粋ポリマーは、低周波数の末端挙動を特徴とするニュートン液体のように挙動する(G’∝ωβ、β=2.0)。このポリマーにSWNTを取り込むことによって、全ての周波数にてG’が増加し、G’の低周波数のべき法則スケーリングが減少する(β値、両シリーズの挿入図に示す)。浸透閾値を超えると、G’の非末端性の周波数非依存性挙動が認められる。実際、低周波数弾性率は、より高重量分画のSWNTナノコンポジットの周波数とは無関係になり、固体様の挙動と一致する。図2の挿入図に示すβ値の類似性により表される通り、2つの分子量シリーズは、レオロジー学的挙動とほとんど同一のように思われる。
【0031】
この液体様から固体様の挙動への進行は、ナノチューブの網状上部構造の存在によるものである。又、この網状上部構造の発達は、低周波数複素粘性率ηに明示される(図3a)。図3a(左)は、純粋ポリマー及び種々のナノコンポジット(全てLDSを使用して相溶化)の複素粘性率(η)を示している。ナノチューブの幾何学的浸透を超えると、ナノコンポジットは、低周波数にて粘性率の発散を示す。(挿入図:低周波数のべき法則指数η(α)は、5つの最小周波数のべき法則曲線をフィッティングさせることにより得られた。)
更に、ηは、複素弾性率(G*)の有限値にて発散し(図3b)、降伏応力を呈する材料の挙動と一致する。図3b(右):幾何学的浸透されたナノチューブ構造は、有限降伏応力の発達を伴い、これは、有限複素弾性率(G*)における複素粘性率(η)の発散により明らかにされる。この傾向は、幾何学的浸透閾値を超えるSWNT負荷を有するナノコンポジット全てに存在する。一方、流体学的浸透負荷以下のナノコンポジット及び純粋ポリマーにおいて、ニュートン挙動が一般的である。
【0032】
更に、液体から固体様の挙動への移動が、図4を介してより視覚化される。図4は、環元粘性率(ηr)の組成物依存性を示している。環元粘性率は以下のように定義される:
【0033】
【化2】

(式中、η0は、純粋ポリマーの剪断粘性率0であり、ηは、固定周波数にて求められる)。この場合、ηは、10rad/秒にて求められる。図4の左上の図は、ηの低周波数依存性のべき法則指数αを示す(η∝ω−α)。
【0034】
データは、SWNT濃度の増加を伴う強化機構の変化によるシグモイド依存性を示している。ナノチューブ負荷が小さい場合に、SWNTは、孤立したオブジェクトとして作用し、マトリックス寄与が占める粘性率(又は弾性率)は、E.Guth,J.App.Phys.16,20−25(1945)により導入された線形に沿ってモデル化することができる。曲線の古典的なS字状の性質が、SWNTの幾何学的浸透の存在を助長する。ナノチューブの幾何学的浸透を超えると、SWNT網状上部構造が粘弾性反応を支配し、これらの浸透閾値に近い系に関連する一般的なべき法則様挙動が続く。
【0035】
一方、高濃度にて、ナノチューブを添加することにより、チューブの幾らかの集合がもたらされ、強化に対する組成物依存性をより弱くすることが推定される。上記の論拠をもとに、低及び中等度のナノチューブ濃度の環元粘性率の組成物依存性を以下のようにモデル化する:
【0036】
【化3】

(式中、φはSWNT体積分率である)。一次及び二次の項は、希釈溶液の異方性充填剤におけるアインシュタイン関係式のGuth変形式からもたらされ、べき級数の項は、φが幾何学的浸透閾値である浸透閾値に近い構造特性のスケーリング法則である。アスペクト比(κ)は、(例えば、E.J.Garboczi,ら,Phys.Rev.E 52,819−828(1995)による排除体積の非存在下において楕円体を浸透させる計算式を使用又は該挿する)幾何学的浸透閾値に関連しており、式2の反復解法を必要とする。図4の右下の図は、幾何学的浸透閾値体積分率(φ)がη対(φ−φ)のプロットから得られることを示している。特に、式2(図4の挿入図に示す)を使用した実験データのモデルフィッティングにより、φの値9×10−4(約0.09重量%、SWNT密度1gcm−3から推定)、スケーリング指数(t)1.55、及び有効アスペクト比(κ)650が得られる。一方で、実験データに適用される異方性充填剤におけるGuth式の直接的な適用(即ち、べき級数の項を含まない式2)は、約2000の有効アスペクト比、及び(排除体積の非存在下における)約0.03重量%の暗示的な幾何学的浸透閾値を示唆する。
【0037】
(実施例3 伝導率及び電気的浸透)
実施例3は、本発明のナノコンポジットの伝導率がポリマーの伝導率よりも高いことを示している。更に実施例3は、例えばナノチューブが伝導する場合に、本発明のナノコンポジットに電気的浸透が生じる場合があることを示している。伝導率の増加及び電気的浸透閾値の存在は、図5のデータにより示されている。ナノチューブの閾濃度が低値であることは、分散が優れていることを示唆している。
【0038】
ナノコンポジット(シリーズB)の室温における固体状態のdc伝導率(σdc)を、SWNT濃度の関数として測定する(図5)。特に、図5は、4端子プローブを使用して得られたPEO(シリーズB)ナノコンポジットの室温における組成物依存性dc伝導率(σdc)を示している。純粋ポリマー(B)及び界面活性剤(B−L−0.2)(Δ)(ナノチューブ非含有)を有するポリマーは共に、装置の測定下限値(10−9s/mm)以下にて絶縁しているか、或いは伝導率を有している。dc伝導率は、ナノチューブ濃度が上昇するにつれて上昇し、この傾向は、ポリマー−ナノチューブコンポジットの電気的伝導率に関するその他の報告に追随する。浸透閾値(p)は、以下のスケーリング法則を使用して算出することができる:
【0039】
【化4】

(式中、pはナノチューブ濃度であり、tは、汎用スケーリング指数であり、mは定数である)。従って、電気的浸透閾値(p)は、σdc対(p−p)の最適適合のプロットから算出し、式3に適合している[挿入図]。最適適合により、スケーリング指数t2.4を有するp値0.03重量%が得られる。従って、本発明者等は、p値0.03重量%及びt2.4を求めた。p値が低いことより、PEOのナノチューブの分散が優れていることが確認されている。他の研究者による先行研究の中には、電気的及び幾何学的浸透が同時であるか、又は電気的浸透閾値が対応する幾何学的浸透よりも幾らか大きいことを示しているものもあるが、本発明者等は、多層ナノチューブ−ポリマーコンポジットにおいて、連結性(即ち、電気的)浸透が硬性(即ち、幾何学的)浸透に先行していることを認めている。
【0040】
(実施例4 陽イオン界面活性剤と比較した陰イオン界面活性剤)
実施例4は、本発明のナノコンポジットが陰イオン界面活性剤を含有する場合には、本発明のナノコンポジットが陽イオン界面活性剤を含有する場合に比べて分散が大きいことを示している。陽イオン界面活性剤よりも陰イオン界面活性剤を使用して分散されるナノチューブの方が分散が大きいことが、図6のデータにより示されている。
【0041】
PEO中へのSWNTの分散における界面活性剤の役割を理解するために、本発明者等は、種々の界面活性剤を使用して相溶化される類似のナノチューブ負荷を使用して、同等のナノコンポジットを試験した。試験した界面活性剤(LDS、SDS及びDTAB)は全て、同一のアルキル鎖(尾部)長(C12)を有するが、頭部基は異なる。図6は、種々のタイプの界面活性剤を使用して脱イオン(DI)水に分散するSWNT−PEOナノコンポジット0.2重量%における吸収スペクトルを示している。ファンホーブ特異性は、陽イオン界面活性剤(DTAB)の場合よりも陰イオン界面活性剤(SDS)の場合にかなり鋭くなる。吸収分光法(即ち、ファンホーブ特異性の存在及び鋭さ、図6)より、本発明者等は、3種の界面活性剤が適度にSWNTを分散し、陰イオン界面活性剤(SDS及びLDS)が幾らかより良好な固体状態の分散を実現すると結論付けた。
【0042】
種々の界面活性剤を使用して調製されるナノコンポジットの分散状態を比較するレオロジー学的測定を表1に要約する。ナノコンポジット全てにおいて、低周波数でのG’の挙動及びηは、SWNT0.2重量%にてSWNT上部構造の形成を示している。それにもかかわらず、ポリマーの網状上部構造強化の程度を示す2つの指標:固定ω(10rad/秒)のG’及びG*|η*→∝は、陰イオン界面活性剤(LDS及びSDS)で調製されたナノコンポジットが陽イオン類似体に比べて著しく良好に分散されることを示している。
【0043】
陰イオン性、陽イオン性及び非イオン性界面活性剤が水中に十分に分散したSWNTを生成することが以前に明らかにされているが、本発明者等は、LDS及びSDS相溶化系のSWNTの分散がPEOとこれらの界面活性剤との間の強い相互作用からより良好となって現れることを発見している。アルカリ金属イオンの存在下においてPEOは、クラウンエーテルを形成することができ、これらは、周辺領域上に広がる正電荷及びキャビティの中心に発達する強い負電荷を有する環様構造の炭素及び酸素原子である。一方、アルキルアンモニウム系陽イオン界面活性剤の場合、正の頭部基は、長いアルキル尾部に接合し、立体的制約が課せられることは、このようなクラウンエーテルの形成に起こりそうもない。
【0044】
(実施例5 ナノチューブポリマーのカップリング)
実施例5は、本発明のナノコンポジットがナノチューブとポリマーマトリックスとの間のカップリングを明らかにする場合があることを示している。図7は、ポリマーからナノチューブへの引張応力伝達を示唆するラマンGモードのダウンシフトを示している。図8は、ラマンDバンドが相対的に変化しないことを示しており、これは界面活性剤とナノチューブとの間の化学反応が存在しないことを示し、図7に示されるダウンシフトを生じるような反応を排除する。
【0045】
ラマン分光法は、チューブとポリマーマトリックスとの間のカップリングの性質を研究するのに有用な技法である。図7は、純粋SWNT及びSWNT−LDS−PEO試料0.2重量%において存在するSWNTのラマン分光法の結果を示し、左にラジアルブリージングモード(RBM)及び右に接線モード(Gモード)のデータを有する。チューブ−界面活性剤系のスペクトル(L−NT−0.2、A−L−NT−0.2試料に等しい界面活性剤量を有するチューブ及びLDSのみ)も又、比較のため図7に示す。従って、図7では、ナノチューブのラマンスペクトルとSWNTのラジアルブリージングモード(RBM)及び接線(G)モードに対応する周波数範囲にわたるLDS及びポリマーを有するナノチューブのラマンスペクトルを比較する。界面活性剤−SWNT混合物及びナノコンポジットにおいてRBMの同等な、著しいアップシフトがあるが、本発明者等は、ナノコンポジットにおいて高周波数のGモードのダウンシフト及び純粋SWNTと比較されるLDS−SWNT混合物においてGモードが変化しないことを認めている。
【0046】
純粋SWNTと比較されるLDS−SWNT混合物(乾燥粉末)に認められる変化は、RBMにおける著しい周波数のシフトであり、実際にはGモードにおいてはなく、これは幾らか一般的ではない。水性分散の吸収スペクトルのファンホーブ特異性により明らかな通り、SWNTにLDSを添加することによって、ナノチューブの著しい非バンドル化が生じる。このようなチューブの非バンドル化は、RBMにおいてダウンシフト又は周波数の未変化の何れか生じることが以前に報告されている。しかし、最も説得力のある実験データは、個別化したナノチューブがナノチューブバンドルとして同一のRBMを有し、従って、LDSによるチューブバンドルの分解は、おそらくRBMで認められたアップシフトに関連しないことを示している。更に、RBMの強度の潜在的な変化と共に最近の電気化学的実験により示された通り、SWNTへのLi+の電荷移動は、Gモードに対して著しい変化を生じる。更に、アップシフトを生じるLi+とSWNTとの間の潜在的な化学反応は、Dバンドの強度が相対的に変化しないことにより(図8)、及びLi+官能基化SWNTについて以前に報告されているRBMの未変化により除外される。図8は、純粋SWNT及び0.2重量%のSWNT−LDS−PEO試料に存在するSWNTのラマン分光法を示している。Dバンドの強度が相対的に変化しないことは、Li+とSWNTとの間に幾つかの化学反応が存在しないことを示している。A−L−NT−0.2試料の1275cm−1にて認められるわずかなピークは、PEOから生じる。おそらく、RBMに認められるアップシフトにおいて存在する最も説得力のある論拠は、A.M.Rao,ら,Phys.Rev.Lett.86,3895−3898(2001);及びM.J.O‘Connell,ら,Phys.Rev.B,235415−235429(2004)に記載の論拠であり、これは、集合状態の変化によって、ナノチューブの種々のキラリティー/直径が固定波長入射レーザーと共鳴するというものである。又、本明細書において報告されているものと同様の効果が、HeNe(633nm)レーザーを使用して本発明者等により認められており、半導体及び金属チューブ共に同一の現象を呈することが示されている。
【0047】
一方、PEO−LDS−SWNTナノコンポジットにおいて、本発明者等は、純粋SWNT及びSWNT−LDS混合物に対して、Gバンドを約3cm−1までダウンシフトすることを認めた。この周波数シフトは、ポリマーとSWNTとの間の引張負荷伝達を示唆する。但し、ナノチューブへ電荷移動はない。本発明者等は、LDS−SWNTの混合物それ自体が何れかの電荷移動を呈していない場合、非イオン性ポリマーの取り込みが電荷移動を誘発するであろうとする構想を実現できなかった。一方、ポリマーとSWNTとの間の引張負荷移動は、一般的ではないが、分散化されたSWNTの存在下においてPEOの結晶化度の低下が示唆するように、ナノコンポジットの非晶性液体様領域のSWNTの局在と一致することができる。このような半結晶ポリマーナノコンポジットの液体様非晶性領域に捕捉されるSWNTにおいて、熱可塑性及び硬化した熱硬化系ナノコンポジットの場合と違い、SWNTが圧縮状態になる機械的基盤はない。実際、SWNTとポリマーの間の相互作用に左右し、ナノチューブは、伸長下において有効となりうる。更に、応力伝達のためにLDS−SWNT混合物と比較してナノコンポジットのRBMにおいて著しい変化が存在しないことは、V.G.Hadjiev,ら,J.Chem.Phys.122,124708−124713(2005)に既述されている単一モデル計算、SWNTのポアソン比の低さ(0.16〜0.28)を基に、及びGモードの相対的にわずかな変化(約3cm−1)により一致する。これらのモデル計算をもとにすると、この応力伝達により生じるRBMの変化は極めてわずかなものであり(186cm−1バンドの場合、約0.2cm−1)、本明細書に報告される測定値の精度からは除外されると思われる。
【0048】
(実施例6 融解及び結晶化)
実施例6は、本発明のナノコンポジットがリチウム系界面活性剤を含有する場合に、ナノチューブを含有しない基準ポリマーよりも融解温度が低下し、結晶化が遅延することを示している。融解温度の低下及び結晶化の遅延は、図9a及び9bのデータにより示される。
【0049】
ナノチューブがポリマー結晶化における造核剤として広く報告されていることから、本発明者等は、PEOの結晶化挙動及び結晶構造上の十分に分散したSWNTの効果を検討した。非等温加熱及び冷却においてDSCによる熱流曲線は、ナノチューブ負荷(図9a及び9b)の増加を伴い、領域内の低下(即ち、分別結晶化度の低下)並びにピーク融解(Tm,p)及びピーク結晶化(Tc,p)温度の下降を示し、SWNTの予測造核剤傾向を算出する。図9aは、融解(左)を示し、図9bは、PEOにおける結晶化(右)挙動及び定性加熱(冷却)率10℃/分における種々のナノコンポジットを示している。図9は、種々の試料及び▲−A−L−0.2(LDS−PEO)試料において非等温性ピーク融解(Tm,p)及び結晶化(Tc,p)温度を示している。
【0050】
表2に示される結晶化(ΔT=Tm,p−Tc,p)に必要な過冷却度の測定は、測定の誤差内であり、純粋ポリマーと比較してナノコンポジットにおいて変化しない。この過冷却度が変化しないことは、ナノチューブがポリマー結晶の成長特性に著しい影響を与えないことを示している。一方、分別結晶化度並びにTm,p及びTc,pの値が低いことは、結晶状態の不安定化を示し、クラウンエーテル形成による結晶秩序の局所的浸透及びポリマー結晶のラメラ厚さの結果的な減少に関しうる。更に、分別結晶化度及びLDS−ポリマー混合物におけるTm,p及びTc,p値にわずかな低下が認められるが、その効果は、SWNTナノコンポジットの場合において著しく大きい。更に、既述されているように、SDS及びDTABは、PEOのSWNTにおける良好な分散補助剤である。しかし、これらは、PEOの融解及び結晶化特性に著しい変化を生じない。Na+もPEOを使用してクラウンエーテルを形成することができると予想する場合、SDS相溶化ナノコンポジットの結晶化及び融解挙動は、幾らか驚く結果である。しかし、Na+系界面活性剤は、(PEOの存在下において)SWNTと相溶性は少なく、SWNT及び陰イオン界面活性剤の相乗効果は少ない結果となることが考えられる。
【0051】
チューブが明らかに核生成プロセスの妨げになるが、純粋ポリマーと比較してナノコンポジットのガラス転移温度(T)は変化しない(表3)。ガラス転移温度の維持は、チューブの存在下においてポリマーの運動量は少しも減少しないか、或いは最終的には応力緩和プロセスに有効な変化はないことを示すが、Tの分散がより大きいことは、チューブに隣接するポリマー鎖がポリマー富化環境に存在する鎖に比べて動態が遅いと解釈することができる。更に、ガラス転移温度の維持は、一般的にSWNTがポリマーの動的運動量を停止させることから、驚くべきものであり、それによってTの増加が生じる。
【0052】
(実施例7 結晶化度の程度)
実施例7は、本発明のナノコンポジットがリチウム系界面活性剤を含有する場合、これらがナノチューブを含有しない参照ポリマーと比較して結晶化度が低下することを示している。結晶化度の低下を図10のデータにより示す。
【0053】
LDS−PEO−SWNT混合物において、等温性結晶化に続く結晶化度の程度の低下は、広角x線回折(WAXD)から認められる(図10)。図10は、PEOナノコンポジット及びPEO系SWNTナノコンポジットにおいて、DSC及びWAXD測定から得られる分別結晶化度の比較を示している。分別結晶化度は、SWNT濃度の増加に伴い顕著に低下する。三角形の記号は、PEO−LDS混合物A−L−0.2に対応する。WAXDデータは、結晶のピークを多少広げ、より多くの乱れを示唆し、PEOの単位細胞構造の変化がないことを示している。リチウム塩の存在下においてPEO結晶化の先行研究(例えば、リチウムトリフレート又は(ビス)トリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム;LiTFSI)は、おそらくLi+を使用したPEOの複合化による結晶化度及び融解温度の実質的な低下を示している。更に、V.Kuppa and E.Manias,J.Chem.Phys.118,3421−3429(2003)は、Na+モンモリロナイトを使用してナノコンポジットのPEO結晶化を実質的に低下することができ、これは、膨張したケイ酸により導入される閉じ込め、及びおそらくギャラリー内の金属陽イオンとの相互作用のためであることを明らかにしている。しかし、融解温度及び結晶化度のみを実質的に低下させることは、ケイ酸負荷量約0.6重量%を超えて生じる。それゆえに、本発明者等の発見は、独自のものではないが、Li+対PEO単位の比が極めて小さく(約1:1000)、充填剤負荷が非常に小さい(約0.2重量%のSWNT)ことが認められる。更に、Manias,らにより、ナノチューブの同負荷にて行われたシミュレーション結果に反して、SDS相溶化ナノコンポジットは、これらのSWNT系ナノコンポジットのPEOの結晶挙動に著しい変化を示さない。これらの結果は、実質的な相乗作用がLDS相溶化SWNTナノコンポジットに存在し、PEO結晶化に対する分散は、Li+もしくは分散したナノチューブのそれぞれ又は簡単な累積様式のどちらかの効果をはるかに超える。種々の分析プローブを使用することにより、本発明者等は、リチウム系陰イオン系界面活性剤を使用してPEOのSWNTの優れた分散状態(効果的な幾何学的アスペクト比約650以上)を示している。ナノチューブの融解状態の幾何学的浸透が、粘弾性測定により明らかであるように、SWNT0.09重量%にて生じるが、室温でのSWNTの電気的浸透(PEOの半結晶状態)は、0.03重量%にて生じる。これらの混成物において興味深いことに、ラマンデータは、SWNTにおいて接線モードをアップシフトすることを示し、SWNTがナノコンポジットの伸長下において又は界面活性剤−ポリマー錯体と強く相互作用しているかのどちらであること示唆する。更に本発明者等は、実質的には、PEOの結晶化能が不安定になる場合のLi+イオン及びSWNTの独自の相乗作用を認め、0.2重量%と同様のSWNT低負荷時のPEOの結晶化度及び融点の顕著な低下を明らかにする。PEOの単位細胞構造は主として影響されないが、本発明者等は、PEOの結晶ピークの多少の広がりを認めている。
【0054】
結論として、本発明は、ポリマー及び分散したナノチューブを含有するナノコンポジットであって、望ましい特性を有するコンポジットを提供する。本ナノコンポジットは、界面活性剤を含有する場合がある。本発明は更に、ナノコンポジットを作製する方法であって、ポリマーマトリックス中にナノチューブを分散させることを含む、方法も提供する。本方法は更に、界面活性剤の使用も含む場合がある。
【0055】
本明細書において参照した全ての特許及び刊行物は、本明細書と矛盾しない範囲で、参考として本明細書で援用される。上記の構造、機能及び上記の実施形態の操作の幾つかは、必ずしも本発明の実施に必要はなく、単に1つ以上の例示的実施形態の完全性のための説明に含まれるものであるが理解されるであろう。更に、上記の参照した特許及び刊行物に記述される具体的な構造、機能及び操作は、本発明と組み合わせて実施できるものの、これらは必ずしも本発明の実施に必須のものではないことも理解されるであろう。
【0056】
本発明は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨及び適用範囲から実際に逸脱することなく、具体的に説明されている以外の形で実施される場合があることが理解されるであろう。
【0057】
【化5】

【図面の簡単な説明】
【0058】
本発明及びその利点をより詳細に理解するため、ここでは、添付の図面と組み合わせて行った以下の簡単な説明を参照する:
【図1】図1は、十分に分散したナノチューブを呈する例示的なナノコンポジットを説明する吸収スペクトルのグラフである。
【図2】図2は、幾何学的浸透を呈する例示的なナノコンポジットを説明するダイナミック貯蔵弾性率のグラフである。
【図3】図3aは、幾何学的浸透を呈する例示的なナノコンポジットを説明する複素粘性率のグラフである。図3bは、有限降伏応力が幾何学的浸透に付随することを呈する例示的なナノコンポジットを説明する複素粘性率のグラフである。
【図4】図4は、幾何学的浸透を呈する例示的なナノコンポジットを説明する環元粘性率のグラフである。
【図5】図5は、電気的浸透を呈する例示的なナノコンポジットを説明する伝導率のグラフである。
【図6】図6は、陽イオン界面活性剤よりも陰イオン界面活性剤を使用した方がより分散することを呈する例示的なナノコンポジットを説明する吸収スペクトルのグラフである。
【図7】図7は、ポリマーからナノチューブへの引張応力の伝達を示唆する挙動を呈する例示的なナノコンポジットを説明するラマンスペクトルのグラフである。
【図8】図8は、界面活性剤とナノチューブとの化学反応が生じないことを示す挙動を呈する例示的なナノコンポジットを説明するラマンスペクトルのグラフである。
【図9】図9aは、ナノチューブの少ないポリマーよりも融点が低下することを呈する例示的なナノコンポジットを説明する熱流型熱量計のグラフである。図9bは、ナノチューブの少ないポリマーよりも結晶化が遅延することを呈する例示的なナノコンポジットを説明する熱流型熱量計のグラフである。
【図10】図10は、ナノチューブの少ないポリマーよりも分別結晶化度が低下することを呈する例示的なナノコンポジットを説明する広角X線回折のグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーを含むマトリックス;及び
複数のナノチューブ
を含むコンポジットであって、
該複数のナノチューブが該マトリックス中に分散する、コンポジット。
【請求項2】
前記ポリマーが生体適合性ポリマーを含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項3】
前記ポリマーが水溶性ポリマーを含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項4】
前記ポリマーがポリエーテルを含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項5】
前記ポリマーがポリエチレンオキシド及びポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項6】
前記複数のナノチューブが単層カーボンナノチューブを含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項7】
前記複数のナノチューブが十分に分散する、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項8】
前記ポリマーにおける前記複数のナノチューブの濃度が、少なくとも浸透閾値に関連するものである、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項9】
前記コンポジットが十分にホモジナイズされている、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項10】
前記コンポジットの伝導率が前記ポリマーの伝導率よりも高い、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項11】
前記コンポジットの融点が前記ポリマーの融点よりも低い、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項12】
前記コンポジットの結晶化率が前記ポリマーの結晶化率よりも低い、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項13】
前記コンポジットが分散補助剤を更に含む、請求項1に記載のコンポジット。
【請求項14】
前記分散補助剤が、両親媒性界面活性剤及びブロックコポリマーからなる群から選択される、請求項13に記載のコンポジット。
【請求項15】
前記分散補助剤が陰イオン界面活性剤を含む、請求項13に記載のコンポジット。
【請求項16】
前記分散補助剤がリチウムを含む、請求項13に記載のコンポジット。
【請求項17】
前記分散補助剤がドデシル飽和炭素鎖を含む、請求項13に記載のコンポジット。
【請求項18】
炭素を含む複数の単層ナノチューブ;
ポリエーテルを含むポリマーを含むマトリックス;及び
リチウムを含む陰イオン界面活性剤を含む相溶化剤
を含む組成物であって、該ナノチューブの濃度及び該相溶化剤の個性は、該複数の単層ナノチューブが、電気的浸透、幾何学的浸透、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される浸透により特徴付けられるように該マトリックスに十分に分散するような濃度及び個性である、組成物。
【請求項19】
前記組成物の融点が前記ポリマーの融点よりも低く、該組成物の結晶化率が該ポリマーの結晶化率よりも低い、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
炭素を含む複数の単層ナノチューブ;
ポリエチレンオキシド及びポリエチレングリコールからなる群から選択されるポリマーを含むマトリックス;並びに
リチウムを含む陰イオン界面活性剤を含む相溶化剤
を含む組成物であって、該複数のナノチューブの濃度が、少なくとも約0.03重量%である、組成物。
【請求項21】
コンポジットを作製する方法であって、
複数のナノチューブ及び界面活性剤を溶媒に添加して、該溶媒に分散する該複数のナノチューブを含む第1の溶液を形成する工程;
該第1の溶液にポリマーを添加して、第2の溶液を形成する工程;並びに
該第2の溶液を乾燥させる工程
を含み;
該添加する工程及び乾燥する工程によって、該ポリマーに分散した複数のナノチューブを含むコンポジットが該第1の溶液から形成される、方法。
【請求項22】
前記ポリマーが生体適合性ポリマーを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ポリマーが水溶性ポリマーを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリマーがポリエーテルを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記ポリマーが、ポリエチレンオキシド及びポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
各ナノチューブが単層である、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記複数のナノチューブが十分に分散する、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記界面活性剤が陰イオン界面活性剤を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記界面活性剤がリチウムを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記界面活性剤がドデシル飽和炭素鎖を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
ポリマーに複数のナノチューブを分散させる方法であって、
界面活性剤の存在下において該ナノチューブを該ポリマーと合わせる工程を含む、方法。
【請求項32】
前記ポリマーが生体適合性ポリマーを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記ポリマーが水溶性ポリマーを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記ポリマーがポリエーテルを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記ポリマーが、ポリエチレンオキシド及びポリエチレングリコールからなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
各ナノチューブが単層である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記複数のナノチューブが十分に分散する、請求項31に記載の方法。
【請求項38】
前記界面活性剤が陰イオン界面活性剤を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項39】
前記界面活性剤がリチウムを含む、請求項31記載の方法。
【請求項40】
前記界面活性剤がドデシル飽和炭素鎖を含む、請求項31に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2009−506170(P2009−506170A)
【公表日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−528145(P2008−528145)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2006/033061
【国際公開番号】WO2007/025035
【国際公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(305026806)ユニバーシティー オブ ヒューストン (4)
【Fターム(参考)】