説明

分散体組成物

【課題】ナノサイズの酸化ジルコニウム粒子に対して少量の分散剤の添加で優れた分散性を有する分散体組成物を提供する。
【解決手段】酸化ジルコニウム粒子を、下記式(1)で示される化合物からなる分散剤を用いて分散媒中に分散して得られる。
【化7】


ただし、式(1)のRは炭素数が1ないし24であるアルキル基および/又はアルケニル基を示し、式(1)のAOは炭素数が2ないし4のオキシアルキレン基を示し、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、5ないし30の範囲であり、式(1)のXは炭素原子、水素原子及び/又は酸素原子からなる連結基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分散体組成物に関し、特に、高い反射性能を有するフィルムに好適に用いることができる分散体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレーを中心とするバックライト付きフラットパネルディスプレーにおいて、バックライトの光を選択的に反射し、再生利用することによって、視野角や色再現性を犠牲にすることなく液晶ディスプレーの輝度を向上させるために、輝度向上フィルムが用いられている。輝度が改善されると、ディスプレーを照明するための電力がより少なくてすむので、電力消費量を低減することができるとともに、電子部品の熱負荷を減少させるので、電子部品の寿命を延長することも可能である。そのために、輝度向上フィルムの構造に対する様々な提案がされている。例えば、輝度向上フィルムを構成する樹脂フィルムに微細な気泡を多数内包させ、樹脂フィルム中での気相と固相の界面での多重反射(高い屈折率)により液晶ディスプレーの輝度を向上させようとする構造が知られている。
【0003】
すなわち、輝度を向上させるには、輝度向上フィルムを構成する樹脂の屈折率を高めることが必要である。そのための手段としては、樹脂中に微粒子を分散させる方法がある。例えば、工業的に使用可能な微粒子としては、酸化チタン粒子、チタン酸バリウム粒子、酸化ジルコニウム粒子などを挙げることができる。しかしながら、酸化チタンは樹脂などの有機化合物に配合した場合に樹脂の劣化を促進することがあるので、その用途が限定される。また、チタン酸バリウムは環境に悪影響を与える恐れがある。そこで、酸化ジルコニウムを用いることが好ましい。例えば、この種の先行技術として特許文献1には、水性溶媒中で第1の熱水処理を行って50nm以下の粒径のジルコニア粒子を含有するジルコニア含有中間体および副生成物を得、そして、この副生成物の一部を除去し、さらに、第2の熱水を行ってジルコニアゾルを得、次に、ジルコニア粒子の表面を表面改質剤を用いて改質して表面改質ジルコニア粒子を得、この表面改質ジルコニア粒子と有機マトリックスとを混合してコーティング組成物を得、このコーティング組成物を重合させて光学層を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−533525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当然のことながら、輝度向上フィルムには透明性が求められる。ところが、特許文献1の実施例では、表面改質剤として、2−[2−(2−メトキシエトキシ)エトキシ]酢酸(MEEAA)が用いられており、ジルコニア粒子の重量の約1/4の重量のMEEAAが使用されている。すなわち、特許文献1に記載された分散剤であるMEEAAは分散性能が十分でないから、分散質としてのジルコニア粒子を良好に分散させるために多量に添加することが必要である。その結果、輝度向上フィルムを構成する樹脂の物性や透明性が低下するという不都合が生じる。また、特許文献1記載の方法では、適用可能なジルコニア粒子の大きさが十分に小さいとは言えないので、使用できるジルコニア粒子の範囲が制限されるという不都合もある。
【0006】
また、液晶ディスプレーには、高輝度とともに、より耐久性に優れていることが求められている。
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、ナノサイズの酸化ジルコニウム粒子に対して少量の分散剤の添加で優れた分散性を有する分散体組成物を提供することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、外観の透明性が良好で、屈折率が高く、耐久性に優れている、上記分散体組成物を用いてなるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の分散体組成物は、酸化ジルコニウム粒子を、下記式(1)で示される化合物からなる分散剤を用いて分散媒中に分散してなる分散体組成物からなる。
【0009】
【化1】

【0010】
ただし、式(1)の符号の意味は以下のとおりである。
Rは炭素数が1ないし24であるアルキル基および/又はアルケニル基を示す。
AOは炭素数が2ないし4のオキシアルキレン基を示し、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、5ないし30の範囲である。
Xは炭素原子、水素原子及び/又は酸素原子からなる連結基である。
また、式(1)のXは炭素数が1ないし15のアルキレン基であることが好ましい。
また、式(1)のXは下記式(2)で示される物質であることが好ましい。
【0011】
【化2】

【0012】
ただし、式(2)の符号の意味は以下のとおりである。
Yは炭素数が1ないし15のアルキレン基、ビニレン基、フェニレン基およびカルボキシル基含有フェニレン基の中から選択されるいずれかである。
分散媒として二重結合硬化性樹脂を用いることが好ましい。
分散媒として樹脂が溶解した溶剤を用いることが好ましい。
【0013】
上記分散体組成物を含有するコーティング組成物を基材上に塗布した後、物理的または化学的に反応することにより得られる部材が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナノサイズの酸化ジルコニウム粒子に対して少量の分散剤の添加で優れた分散性を有する分散体組成物を提供することができる。また、本発明の分散体組成物を用いてなるフィルムは、外観の透明性が良好で、屈折率が高く、耐久性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の分散体組成物は、酸化ジルコニウム粒子を、下記式(1)で示される化合物からなる分散剤を用いて分散媒中に分散してなる分散体組成物からなる。
【0016】
【化3】

【0017】
本発明の分散剤は式(1)に記載する通り、アルキレンオキシド鎖を含む分散媒親和性部位とカルボキシル基からなる分散質親和性部位からなり、分散媒親和性部と分散質親和性部は連結基Xで連結される。
【0018】
ただし、式(1)の符号の意味は以下のとおりである。
Rは炭素数が1ないし24であるアルキル基および/又はアルケニル基を示す。
AOは炭素数が2ないし4のオキシアルキレン基を示し、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、5ないし30の範囲である。
Xは炭素原子、水素原子及び/又は酸素原子からなる連結基である。
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について、詳細に説明する。
【0020】
1.疎水基(R)について
本発明の分散剤に使用できる疎水基(R)について、Rはアルコール由来の炭化水素基であって、炭素数が1ないし24であるアルキル基及び/又はアルケニル基である。Rがアルキル基及び/又はアルケニル基の場合、使用できる原料アルコールの炭素数は単一であっても、異なる炭素数のアルコールの混合物であってもよい。また、その原料アルコールは合成由来であっても天然由来であってもよく、また、その化学構造は単一組成であっても複数の異性体からなる混合物であってもよい。使用できる原料アルコールは公知のものが選択できるが、具体例としては、合成由来のブタノール、イソブタノール、ペンタノール及び/又はその異性体、ヘキサノール及び/又はその異性体、へプタノール及び/又はその異性体、オクタノール及び/又はその異性体、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノールの他、プロピレン或いはブテン、又はその混合物から誘導される高級オレフィンを経てオキソ法によって製造されるイソノナノール、イソデカノール、イソウンデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、シェルケミカルズ社製のネオドール23、25、45、サソール社製のSAFOL23、エクソン・モービル社製のEXXAL7、EXXAL8N、EXXAL9、EXXAL10、EXXAL11及びEXXAL13も好適に使用できる高級アルコールの一例である。更に天然由来のオクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール(1−ドデカノール)、ミリスチルアルコール(1−テトラデカノール)、セチルアルコール(1−ヘキサデカノール)、ステアリルアルコール(1−オクタデカノール)、オレイルアルコール(cis−9−オクタデセン−1−オール)なども使用できる高級アルコールの一例である。また、2−アルキル−1−アルカノール型の化学構造をもつゲルベアルコール(Guerbet Alcohol)類の単一組成、或いはその混合物なども好適に使用できる高級アルコールの一例であり、2−エチル−1−ヘキサノール、2−プロピル−1−ヘキサノール、2−ブチル−1−ヘキサノール、2−エチル−1−ヘプタノール、2−プロピル−1−ヘプタノール、2−エチル−1−オクタノール、2−ヘキシル−1−デカノール、2−ヘプチル−1−ウンデカノール、2−オクチル−1−ドデカノール、2−デシル−1−テトラデカノールの他、分岐アルコールから誘導されるイソステアリルアルコールなどがある。また、上記各種アルコールを2種以上配合して使用することも可能である。但し、本発明の分散剤では前記の如く、好適に選択される疎水基は(R)はアルコール由来の炭化水素基であって、炭素数が1ないし24であるアルキル基及び/又はアルケニル基の場合、本発明の目的を達成するために好適に使用できる。
【0021】
なお、分散体の安定性が著しく低下して直ちに沈降物を生じたり、経時安定性が著しく低下して最終製品の付加価値低下、生産性低下、加工特性低下および品質劣化などの問題を回避するためには、疎水基(R)は炭素数8〜18のアルキル基またはアルケニル基であることがより好ましい。
【0022】
2.オキシアルキレン基(AO)n
本発明の分散剤に好適に選択されるアルキレンオキシド種について、式(1)においてAOは炭素数2ないし4のオキシアルキレン基を示し、具体的には炭素数2のアルキレンオキシドはエチレンオキシドである。炭素数3のアルキレンオキシドはプロピレンオキシドである。炭素数4のアルキレンオキシドは、テトラヒドロフラン或いはブチレンオキシドであるが、好ましくは、1,2−ブチレンオキシドまたは2,3−ブチレンオキシドである。本発明の分散剤においてオキシアルキレン鎖(−(AO)n−)は分散剤の分散媒親和性を調整する目的でアルキレンオキシドは単独重合鎖であっても、2種以上のアルキレンオキサイドのランダム重合鎖でもブロック重合鎖でもよく、また、その組み合わせであってもよい。式(1)のアルキレンオキシドの平均付加モル数を示すnは5ないし30の範囲であることが好ましい。
【0023】
3.連結基(X)
連結基(X)は炭素原子、水素原子、酸素原子からなる公知の構造から選択可能であるが、好ましくは飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、エーテル基、カルボニル基、エステル基からなり、脂環構造、芳香環構造を有していてもよく、また、繰り返し単位を有していてもよい。連結基Xに窒素原子及び/又は硫黄原子及び/又はリン原子などを含む場合は、カルボキシル基の分散質への親和効果を弱める作用があるために本発明の分散剤の構造因子としては適さない。
【0024】
また、式(1)のXは炭素数が1ないし15のアルキレン基であることが好ましく、炭素数が1ないし8のアルキレン基であることがより好ましい。
【0025】
また、式(1)のXは下記式(2)で示される物質であることが好ましい。
【0026】
【化4】

【0027】
ただし、式(2)の符号の意味は以下のとおりである。
Yは炭素数が1ないし15のアルキレン基、ビニレン基、フェニレン基およびカルボキシル基含有フェニレン基の中から選択されるいずれかである。
【0028】
5.分散剤の製造方法
本発明の分散剤は公知の方法で製造することができる。例えば、アルコール、アミン、チオールに公知の方法でアルキレンオキシドを付加した一般的な非イオン界面活性剤化合物を原料として、モノハロゲン化低級カルボン酸またはその塩を用い、塩基存在下でアルキレンオキシド末端の水酸基と反応させる方法、または、酸無水物を用いてアルキレンオキシド末端の水酸基との開環反応による方法により製造することができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0029】
6.分散質粒子
本発明の分散剤により分散される分散質粒子は酸化ジルコニウム粒子である。
本発明で被分散質となる酸化ジルコニウム粒子は、公知の方法で得たものが使用できる。微粒子の調製方法としては、粗大粒子を機械的に解砕、微細化していくトップダウン方式と、いくつかの単位粒子を生成させ、それが凝集したクラスター状態を経由して粒子が形成されるボトムアップ方式の2通りの方式があるが、いずれの方法で調製されたものであっても好適に使用できる。また、それらは湿式法、乾式法のいずれの方法によるものであってもよい。また、ボトムアップ方式には、物理的方法と化学的方法があるが、いずれの方法によるものであってもよい。本発明の分散剤は粗大粒子を機械的に解砕、微細化していくトップダウン方式の工程中で使用してもよく、いくつかの単位粒子を生成させ、それが凝集したクラスター状態を経由して粒子が形成されるボトムアップ方式の工程中で使用してもよく、或いは、事前に前記方法で酸化ジルコニウム粒子を調製後、この酸化ジルコニウム粒子を媒体中から安定に取り出すために表面修飾剤や表面保護剤と称する公知の保護剤で被覆或いは含浸させて取り出された粒子を使用することもできる。
【0030】
ボトムアップ方式によるナノサイズのジルコニウム粒子の調製法を例示する。ボトムアップ方式の内、物理的方法の代表例としてはバルクのジルコニウムを不活性ガス中で蒸発させ、ガスとの衝突により冷却凝縮させてナノ粒子を生成するガス中蒸発法がある。また、化学的方法には、液相中で保護剤の存在下でジルコニウムイオンを還元し、生成した0価のジルコニウムをナノサイズで安定化させる液相還元法や金属錯体の熱分解法などがある。液相還元法としては、化学的還元法、電気化学的還元法、光還元法、または化学的還元法と光照射法を組み合わせた方法などを利用することができる。
【0031】
また、本発明で好適に使用できるジルコニウム粒子は、前記の如く、トップダウン方式、ボトムアップ方式のいずれも手法で得たものであってもよく、それらは水系、非水系、気相中のいずれの環境下で調製されたものであってもよい。
【0032】
7.分散媒
本発明で使用できる分散媒としては、トルエン、キシレン、芳香族炭化水素系溶剤、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタンなどの炭化水素系溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素系溶剤、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル、ブチルエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、ターピニルメチルエーテル、ジヒドロターピニルメチルエーテル、ジグライム 1,3−ジオキソランなどのエーテル系溶媒、アセトン、アセトフェノン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、アセトニルアセトン、イソホロン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、2−(1−シクロヘキセニル)シクロヘキサノンメチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロンなどのケトン系溶媒、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸(イソ)アミル、酢酸シクロヘキシル、乳酸エチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸sec−ヘキシル、酢酸2−エチルブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸ブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソアミル、γ−ブチロラクトンなどのエステル系溶剤、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノn−プロピルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−プロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノn−ブチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤、及び、それらモノエーテル類の酢酸エステル系溶剤、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル系溶剤が挙げられる。メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、ヘプタノール、n−アミルアルコール、sec−アミルアルコール、n−ヘキシルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール、フルフリルアルコール、アリルアルコール、エチレンクロロヒドリン、オクチルドデカノール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、イソアミルアルコール、t−アミルアルコール、sec−イソアミルアルコール、ネオアミルアルコール、ヘキシルアルコール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、α−テルピネオール、ターピネオールC、L−α−ターピネオール、ジヒドロターピネオール、ターピニルオキシエタノール、ジヒドロターピニルオキシエタノール、日本テルペン化学株式会社製のテルソルブMTPH、テルソルブDTO−210、テルソルブTHA−90、テルソルブTHA−70や、シクロヘキサノール、3−メトキシブタノール、ジアセトンアルコール、1,4−ブタンジオール、オクタンジオール等や、日産化学工業株式会社製のファインオキソコール140N、ファインオキソコール1600、ファインオキソコール180、ファインオキソコール180N、ファインオキソコール2000などのアルコール系溶媒、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、へキシレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール系溶剤が挙げられる。その他、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒などが挙げられる。また、分散媒として反応性基を有する(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニルなどのビニル系単量体、ビニルエーテル誘導体類、ポリアリル誘導体などのエチレン系不飽和単量体類も使用することができる。その他、通常の塗料用や粘接着用、成型用に利用されている各種樹脂類、オリゴマー類、単量体類も特に制限無く使用できる。具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリピニルアルコールなどが挙げられる。なお、前記分散媒は単独または2種以上を混合して適宜使用することができる。
【0033】
8.その他
本発明の分散剤は公知の方法で製造することができ、上記の範囲で疎水基の種類、アルキレンオキシド種とその付加形態、付加モル量、連結基などを特に限定して組成を最適選定することにより、公知の分散剤よりも、より広範な種類の分散媒に酸化ジルコニウム粒子を分散安定化できる点で産業上の利用価値は大きい。
【0034】
また、本発明の分散剤は公知の精製法により含有するイオン種、特にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、重金属イオン、ハロゲンイオンの各イオンの含有量を低減して用いることができる。分散剤中のイオン種は分散体の分散安定性、耐触性、耐酸化性、分散塗膜の電気特性(導電特性、絶縁特性)、経時安定性、耐熱性、低湿性、耐候性に大きく影響するため、上記イオンの含有量は適宜決定することができるが、分散剤中で10ppm未満であることが望ましい。
【0035】
本発明で好適に採用される酸化ジルコニウム粒子の分散媒中の含有量は、前記非水性分散媒中で均一に分散することができれば特に限定されるものではなく、用途などによって異なるものであるが、0.5〜70質量%の範囲内であることが好ましい。また、酸化ジルコニウム粒子の平均粒径は1〜500nmの範囲内であることが好ましく、10〜100nmの範囲内であることがより好ましい。また、本発明の分散剤の好適な使用条件は、酸化ジルコニウム粒子に対して1〜300重量%の範囲内が好適である。
【0036】
また、本発明の分散体組成物は公知の撹拌手段、均一化手段、分散化手段を用いて調製することができる。採用することができる分散機の一例としては、2本ロール、3本ロールなどのロールミル、ボールミル、振動ボールミルなどのボールミル、ペイントシェーカー、連続ディスク型ビーズミル、連続アニュラー型ビーズミルなどのビーズミル、サンドミル、ジェットミルなどが挙げられる。また、超音波発生浴中において分散処理を行うことも出来る。
【0037】
また、本発明の分散剤は、非水性分散媒中での酸化ジルコニウム粒子の分散安定化に対して、公知技術に比べて優れた分散安定化効果を発揮するのみならず、酸化ジルコニウム粒子を媒体中から安定に取り出すための保護剤として使用することができる。酸化ジルコニウム粒子を媒体中から安定に取り出すための保護剤の機能としては、生成粒子の凝集抑制、容器壁面への吸着抑制及び汚染防止、易再分散性付与、粒子表面の表面改質、機能性表面の劣化防止、溶媒の置換や極性変更時のショック緩和、粉末の流動性改良、粉末の固化防止などが挙げられる。本発明の分散剤は公知の保護剤よりも前記機能に優れ、アルキレンオキシドの付加形態とその付加モル量、疎水基の種類や連結基などを最適選定することにより、公知の保護剤よりも一層広範な分散媒に酸化ジルコニウム粒子を分散安定化できる。
【0038】
本発明の分散体組成物を含有するコーティング組成物を塗布する基材としては、例えば、ガラス、樹脂フィルム、ガラスコンポジット、セラミックス、金属・鋼板などを使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明の実施例および比較例について説明する。なお、以下において、配合量を示す「部」は「重量部」を示し、「%」は「重量%」を示す。言うまでもないが、本発明は下記実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更や修正が可能である。
【0040】
<分散剤の合成>
〔製造例1(分散剤1の合成)〕
トルエン溶媒中に、ラウリルアルコールエチレンオキシド5モル付加物406g(1モル)およびモノクロロ酢酸ナトリウム151g(1.3モル)を反応器にとり、均一になるよう撹拌した。その後、反応系の温度が60℃の条件で、水酸化ナトリウム52g(1.3モル)を添加した後、反応系の温度を80℃に昇温させ、3時間反応させた。反応後、98%硫酸120g(1.2モル)を滴下することにより、白色懸濁溶液を得た。次いで、この白色懸濁溶液を蒸留水で洗浄し、溶媒を減圧留去することにより、分散剤(R:イソデシル基、AO:エチレンオキシド、n:5、X:CH)を得た。
【0041】
〔製造例2(分散剤2の合成)〕
ラウリルアルコールエチレンオキシド5モル付加物406g(1モル)に代えて、ラウリルアルコールエチレンオキシド10モル付加物626g(1モル)を用いた以外は、製造例1と同様の操作を行い、分散剤(R:ラウリル基、AO:エチレンオキシド、n:10、X:CH)を得た。
【0042】
〔製造例3(分散剤3の合成)〕
ラウリルアルコールのエチレンオキシド5モル/プロピレンオキシド5モルランダム付加物696g(1モル)に置き換えた以外は、製造例1と同様に行い、分散剤(R:ラウリル基、AO:エチレンオキシドおよびプロピレンオキシド、n:10、X:CH)を得た。
【0043】
《酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体(1)の作製》
酸化ジルコニウム粉末(日本電工社製の商品名PCS、一次粒子径30nmのもの)100部とメチルエチルケトン400部とを混合したものに、以下の表1に示す組成の疎水基(R)と、オキシアルキレン基(−(AO)n−)と、連結基(X)を含有する式(1)で示される化合物からなる本発明の分散剤1ないし3(実施例1ないし3)を10部、または以下の表1に示す組成の疎水基(R)と、オキシアルキレン基(−(AO)n−)と、連結基(X)を含有する式(1)で示される化合物からなる比較例の分散剤(比較例1、2)10部を添加したものに、寿工業社製の商品名ウルトラアペックスミルUAM−005(直径50μmのジルコニアのビーズを用い、周速10m/秒)で4時間微細化処理を実施して、酸化ジルコニウム分散体を作製した。得られた酸化ジルコニウム分散体100部に、フェノキシエチルアクリレート(第一工業製薬社製の商品名ニューフロンティアPHE)10部と、ペンタエリスリトールトリアクリレート(第一工業製薬社製の商品名ニューフロンティアPET−3)10部とを添加して混合した後、溶媒のメチルエチルケトンをロータリーエバポレーターを用いて減圧除去し、酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体(1)を得た。
【0044】
《酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体(2)の作製》
市販の酸化ジルコニウム分散体(堺化学社製の商品名SZR−M、一次粒子径3nm、30重量%のメタノールを含有する分散体)100部に、以下の表1に示す組成を有する式(1)で示される化合物からなる本発明の分散剤1ないし3(実施例4ないし6)3部または以下の表1に示す組成を有する式(1)で示される化合物からなる比較例の分散剤(比較例3、4)3部と、フェノキシエチルアクリレート(第一工業製薬社製の商品名ニューフロンティアPHE)15部と、ペンタエリスリトールトリアクリレート(第一工業製薬社製の商品名ニューフロンティアPET−3)15部とを添加して混合した後、溶媒のメタノールをロータリーエバポレーターを用いて減圧除去し、酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体(2)を得た。
【0045】
〈分散体の特性評価〉
a.外観の透明性 酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体を透明のガラス容器に入れ、上記ガラス容器の下に12ポイントで印字したアルファベットを記した紙を置き、分散体の透明性について、その分散体越しにアルファベットを判別できるかどうかの点から、以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
◎:分散体を5cm深さのガラス容器に入れたときに、12ポイントのアルファベット文字が見える。分散体が透明である。
○:分散体を1cm深さのガラス容器に入れたときに、12ポイントのアルファベット文字がはっきり見える。分散体に僅かな濁りがある。
×:分散体を1cm深さのガラス容器に入れたときに、12ポイントのアルファベット文字がはっきり見えない。分散体に濁りがある。
【0046】
b.粘度測定 酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体の粘度について、E型粘度計(東機産業社製の商品名RE−80R)を用いて25℃で測定を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
c.屈折率 酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体の屈折率について、アッベ屈折率計(アタゴ社製の商品名NAR−1T)を用いて25℃で測定を行った。その結果を表1に示す。
【0048】
《酸化ジルコニウムの光重合硬化膜の作製》
上記酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体(1)または(2)100部に、光重合開始剤(IGACURE184)1部を添加して混合し、酸化ジルコニウムペーストを得た。その酸化ジルコニウムペーストを、ポリエチレンテレフタレートフィルム上にアプリケーター(小平製作所製のYA型)を用いて約50μmの膜厚で塗布した後、高圧水銀灯を用いて80W/cmの強さで約200mJ/cm2のエネルギーの紫外線を照射することにより、酸化ジルコニウムのアクリレートモノマー分散体の光重合硬化膜を得た。
【0049】
〈光重合硬化膜の特性評価〉
a.外観の透明性 上記ポリエチレンテレフタレートフィルムの下に12ポイントで印字したアルファベットを記した紙を置き、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に得られた光重合硬化膜の透明性について、その硬化膜越しにアルファベットを判別できるかどうかの点から、以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
◎:12ポイントのアルファベット文字を鮮明に判別することができる。
○:硬化膜にごく僅かの濁りを生じているが、12ポイントのアルファベット文字を判別することができる。
×:硬化膜に濁りがあり、12ポイントのアルファベット文字を判別することができない。
【0050】
b.屈折率 光重合硬化膜の屈折率について、セキテクノトロン社製のプリズムカプラ(MODEL 2010/M)を用いて25℃で測定を行った。その結果を表1に示す。
【0051】
c.鉛筆硬さ 光重合硬化膜の鉛筆硬さについては、JISK5400に準拠して所定硬さの鉛筆で光重合硬化膜の引っ掻き試験を行った。その結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、本発明の分散体は優れた分散性(外観の透明性)と高い屈折率を有し、本発明の分散体の光重合硬化膜は優れた透明性と高い屈折率と良好な鉛筆硬さを備えていることが分かる。
【0054】
しかし、比較例1ないし4の分散体は凝集したために、粘度および屈折率の測定ができず、濁りがあった。また、比較例1ないし4の光重合硬化膜は濁りがあり、屈折率および鉛筆硬さの測定ができなかった。
【0055】
表1において、EOはエチレンオキシドを示し、POはプロピレンオキシドを示す。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の分散体組成物は、コーティング組成物、ハイブリッド材料、封止剤、表面保護剤、導電性ペースト、導電性インク、センサー、精密分析素子、光メモリ、液晶表示素子、ナノ磁石、熱伝媒体、燃料電池用高機能触媒、有機太陽電池、ナノガラスデバイス、研磨剤、ドラッグキャリヤー、環境触媒、塗料、印刷インキ、インクジェット用インキ、カラーフィルター用レジスト、筆記具用インキ、光学薄膜、粘着剤、反射防止膜、ハードコート膜等の分野で使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム粒子を、下記式(1)で示される化合物からなる分散剤を用いて分散媒中に分散してなる分散体組成物。
【化5】

ただし、式(1)のRは炭素数が1ないし24であるアルキル基および/又はアルケニル基を示し、
式(1)のAOは炭素数が2ないし4のオキシアルキレン基を示し、nはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、5ないし30の範囲であり、
式(1)のXは炭素原子、水素原子及び/又は酸素原子からなる連結基である。
【請求項2】
式(1)のXは炭素数が1ないし15のアルキレン基であることを特徴とする請求項1記載の分散体組成物。
【請求項3】
式(1)のXは下記式(2)で示される物質であることを特徴とする請求項1記載の分散体組成物。
【化6】

ただし、式(2)のYは炭素数が1ないし15のアルキレン基、ビニレン基、フェニレン基およびカルボキシル基含有フェニレン基の中から選択されるいずれかである。
【請求項4】
分散媒は二重結合硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1、2または3記載の分散体組成物。
【請求項5】
分散媒は、樹脂が溶解した溶剤であることを特徴とする請求項1、2または3記載の分散体組成物。
【請求項6】
請求項1、2、3、4または5記載の分散体組成物を含有するコーティング組成物。
【請求項7】
請求項6記載のコーティング組成物を基材上に塗布した後、物理的または化学的に反応することにより得られる部材。

【公開番号】特開2012−7144(P2012−7144A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286490(P2010−286490)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】