説明

分散型エレクトロルミネッセンス素子

【課題】演色性に優れた分散型EL素子を提供する。
【解決手段】ZnS蛍光体粒子を含有する発光層を有し、短波長領域として450〜514nm、中間波長領域として515〜569nm、長波長領域として570〜650nmに少なくともそれぞれ発光ピークを有し、さらにそれぞれの発光ピーク強度が、短波長領域のピーク強度>長波長領域のピーク強度>中間波長領域のピーク強度の関係を有することを特徴とし、前記蛍光体粒子の平均粒子サイズが1μm以上20μm未満及び粒子サイズの変動係数が3%以上40%未満であることが好ましい。また、該素子の層内部のいずれかに赤色変換材料を含有するか、前記発光層内に前記蛍光体粒子とは別に赤色発光する蛍光体粒子を含有しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高輝度で高演色性を示す分散型エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EL蛍光体は電圧励起型の蛍光体であり、該蛍光体粉末を電極の間に挟んで発光素子とした分散型EL素子と薄膜型EL素子が知られている。分散型EL素子の一般的な形状は、蛍光体粉末を高誘電率のバインダー中に分散したものを、少なくとも一方が透明な二枚の電極の間に挟み込んだ構造からなり、両電極間に交流電場を印加することにより発光する。EL蛍光体粉末を用いて作製された発光素子は数mm以下の厚さとすることが可能で、面発光体であり、発熱が少なく、発光効率が良いなど数多くの利点を有する為、道路標識、各種インテリアやエクステリア用の照明、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の光源、大面積の広告用の照明光源等をしての用途が期待されている。
これまでに提案されてきた白色発光する分散型EL素子は、主として青緑と橙〜赤色周辺の2つの波長域に発光強度が集中した発光波形を有していた。例えば、特許文献1〜3など、多くの特許にある様に、ローダミン系の化合物を発光粒子層(発光層)に入れ、白色発光EL素子としていた。
【0003】
特許文献4には、少なくとも2つの発光極大を有し、一方が450nm以上530nm以下の範囲および他方が605nm以上の範囲に有する分散型EL素子が記載されている。
また、特許文献5には吸収波長、発光波長を規定した蛍光部材について記載されており、それを青色LEDと組み合わせ、3つの極大波長を有する白色発光を得ることが記載されている。
さらに特許文献6には3つの極大波長を有する白色発光を示すELランプが記載されている。
【0004】
さらに、発光輝度を高める方法としては、サイズの小さい蛍光体粒子を用いる方法が知られている(特許文献7〜8)。サイズの小さい蛍光体粒子を用いてEL素子を構成した場合、発光層中の単位体積当りの蛍光体粒子数を増大させることができるため、結果としてEL素子の輝度を高めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−25195号公報
【特許文献2】特開昭60−170194号公報
【特許文献3】特開平2−78188号公報
【特許文献4】特開2005−302693号公報
【特許文献5】特開2000−230172号公報
【特許文献6】米国特許第6806642号明細書
【特許文献7】特開2002−235080号公報
【特許文献8】特開2004−265866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のEL素子は、いずれも青緑色に発光するZnS:Cu,Clに対して580nm付近に発光する材料を用いているため、透明陽画等の透過媒体をEL素子に載せて観察した場合、その色再現性は、蛍光灯等を平面光源とした従来の照明下に比べると大きく劣っていた。例えば、特許文献1〜3のEL素子ではローダミンの発光に由来する橙色発光が赤色発光として使われており、白色発光であっても、透明陽画等の透過媒体を載せた時には赤色を再現することは出来なかった。
また、特許文献4に記載のEL素子は、2波長による白色発光であるため、緑色領域の色再現性が悪く、さらなる高演色化が望まれていた。
また、特許文献5〜6に記載の技術も、その発光強度が適切でなく、十分な演色性を得ることができなかった。
また、特許文献7〜8に記載の技術に関しても、サイズの小さい蛍光体粒子は発光波長の制御が困難で、白色発光に用いる場合には、色再現性の高い高演色性のEL素子を得ることはできなかった。
従って本発明は、演色性に優れた分散型EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討した結果、ZnS蛍光体を含有する分散型エレクトロルミネッセンスにおいて、少なくとも3種の波長領域にそれぞれ少なくとも1つの発光ピークを有し、それらの発光強度の大小関係を規定したEL素子を作製することで、青、緑、赤の光がバランスよく発光されていることとなり、演色性の高い分散型エレクトロルミネッセンス素子を提供できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の要件により達成される。
(1)ZnS蛍光体粒子を含有する発光層を有する分散型エレクトロルミネッセンス素子であって、短波長領域として450〜514nm、中間波長領域として515〜569nm、長波長領域として570〜650nmに少なくともそれぞれ発光ピークを有し、さらにそれぞれの発光ピーク強度が、短波長領域のピーク強度>長波長領域のピーク強度>中間波長領域のピーク強度の関係を有することを特徴とする分散型エレクトロルミネッセンス素子。
(2)前記蛍光体粒子の平均粒子サイズが1μm以上20μm未満及び粒子サイズの変動係数が3%以上40%未満であることを特徴とする(1)に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
(3)赤色変換材料を含有すること特徴とする請求項1または2に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
(4)前記赤色変換材料を含む赤色変換材料層が、蛍光体粒子を含む発光層と背面電極との間にあることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
(5)赤色に発光する蛍光体粒子を含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
(6)前記赤色に発光する蛍光体粒子の平均粒子サイズが1μm以上20μm未満及び粒子サイズの変動係数が3%以上40%未満であることを特徴とする(5)に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
(7)基材フィルム上に、少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層とを有し、有機層が少なくとも1以上のリン酸エステルアクリレートを含有するモノマー組成物の重合物からなるガスバリア性積層フィルムによって封止されていることを特徴とする(1)に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
なお、本発明において蛍光体粒子とは、電圧の印加によって、発光するものを意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、発色時に高い演色性を示す分散型エレクトロルミネッセンス素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明のエレクトロルミネッセンス素子は、白色発光することが基本である。さらに発光波長に関し少なくとも3つのピークを有し且つそれらの発光ピーク強度が、短波長領域の発光ピーク強度>長波長領域の発光ピーク強度>中間波長領域の発光ピーク強度の関係を満たす発光である。
白色の発光光源としては、可視域のどの波長も均一な光の強度を発するものが理想であり、この場合、演色性も最も良好となる。しかしながら、分散型無機EL素子の場合、例えば、特許文献4に記載の技術のようにZnS蛍光体粒子の電界発光(青緑色)とそこで発せられた光を吸収した波長変換材料による長波の発光(橙〜赤色)との2つの大きな発光バンドから白色を作るため、人間の視覚に対して青、緑、赤の色を最もよく認識できる波長の近傍にどれくらいの発光があるかどうかが問題となる。すなわち、450nm付近、530nm付近、610nm付近にどれだけの発光があるか、どれだけバランスよく発光しているかが演色性に大きな影響を与える。
本発明は、特許文献4に記載の技術である、青緑色(450〜530nm)の発光ピークとを橙〜赤色(605nm以上)の発光ピークに加え、515〜569nmの領域にもう1つ発光ピークを加えることで、より緑(人間の目の感度が最も良い)の色再現を良くしようとしたものである。そして、本発明は短波長領域として450〜514nm、中間波長領域として515〜569nm、長波長領域として570〜650nmに少なくともそれぞれ発光ピークを有することでバランスのとれた白色発光を提供することを可能にした。
【0011】
ピーク波長の好ましい範囲として、短波長領域は460〜510nmが好ましく、さらに好ましくは470〜505nmである。中間波長領域としては520〜565nmが好ましく、さらに好ましくは525〜560nm、長波領域では、575〜630nmが好ましく、さらに好ましくは580〜610nmである。このような波長領域により演色性の高い白色発光をえることができる。ここで発光ピークとは、発光スペクトルのうち、明らかに発光の極大値を示すプロファイルを指し、その発光ピークの長波側短波側それぞれ10nmの位置の発光強度が発光ピークの発光強度よりも小さいことをいう。その発光ピークを示す波長を発光ピーク波長と呼ぶ。
それぞれの発光ピーク強度については、短波長領域の発光ピーク強度>長波領域の発光ピーク強度>中間領域の発光ピーク強度の関係を有している。具体的には短波長領域の発光ピーク強度を100とすると、中間波長領域の発光ピーク強度は30〜54、好ましくは35〜52、さらに好ましくは40〜50であり、長波長領域の発光ピークは55〜90であり、好ましくは59〜85、更に好ましくは60〜80である。
【0012】
以下、本発明の実施形態である、ZnS蛍光体粒子を高誘電率の結合剤中に分散させた分散型EL素子(無機EL素子)について説明する。
本実施形態のEL素子は、例えば、一方が透明電極である対向する一対の電極の間に、ZnS蛍光体粒子を含有する発光層を少なくとも1層有する。発光層と電極との間には、EL素子の絶縁破壊を防止し、発光層に安定した電界を集中させるために絶縁層や遮断層等の誘電体層が配置されていることが好ましい。最長波領域の発光を形成する材料は、一対の電極の間のどこに存在していても良いが、好ましくは絶縁層中であり、さらに好ましくは絶縁層の発光層層側に近いほうの半分に含有させておくことである。
【0013】
ZnS蛍光体粒子は、付活剤として、Cuなどの金属イオン、及び希土類元素(Ce、Eu、Sm、Tb等)を好ましく含有する。必要に応じて添加される共付活剤としては、Cl、Br、I等のハロゲンの他にAl、Ga、In等を好ましく用いることができる。
【0014】
上記のZnS蛍光体粒子は、付活剤、共付活剤により発光波長を調節できる。特に短波長領域に発光ピークを示すZnS蛍光体として好ましくは、銅及び塩素によって付活した硫化亜鉛粒子((ZnS:Cu,Cl)蛍光体粒子)である。ここで、(ZnS:Cu,Cl)蛍光体粒子において、Cuの添加量は、ZnSが1モルに対して、1×10−4〜1×10−2モルの範囲が好ましく、5×10−4〜5×10−3モルの範囲が特に好ましい。Clの添加量は、ZnSが1モルに対して、1×10−3〜1×10モルの範囲が好ましく、1×10−2〜1×10モルの範囲が特に好ましい。これによって、460nm付近と500nm付近との2つの発光ピークが重なり、青緑色のEL発光、つまり460〜510nmに発光ピークを有する発光が得られる。また、(ZnS:Cu,Br) や(ZnS:Cu,I)等の青色発光するEL蛍光体や(ZnS:Cu,Al)の緑色発光するEL蛍光体を前記青緑発光するEL蛍光体に加えたり、青色発光するEL蛍光体と緑色発光するEL蛍光体同士を混合したりすることも、素子の発光色を調整するために好ましい。
【0015】
さらに、本発明におけるEL素子は、このような発光材料とその青緑発光を吸収して570〜650nmに発光ピークを示す赤色変換材料を併用することで白色発光を得ることが好ましい。さらに515〜569nmに発光を示す緑色変換材料を有することでも良い。赤色変換材料のみを併用した場合でも3つの発光ピークを示すこともあり、コスト削減の観点から赤色変換材料のみの併用が好ましい。
赤色変換材料はZnS蛍光体材料の発光を吸収し赤色の光を発するため、すべての発光ピークは青緑色発光蛍光体の発光から赤色発光材料の吸収を差し引き、さらに赤色発光のピークを重ね合わせることで決定される。すなわち、赤色発光材料の吸収が波長によって一様でなく、吸収にも極大、極小を持つ場合、結果として新たな発光ピークを示すことがわかり、これによって演色性の高い白色発光を得ることもできる。
【0016】
また、上記の赤色変換材料、緑色変換材料のかわりに赤色蛍光体材料(赤色エレクトロルミネッセンス材料)、緑色蛍光体材料(緑色エレクトロルミネッセンス材料)を用いても良いし、上記色変換材料と併用しても良い。蛍光体材料を用いる場合は、発光層に含有させることが好ましい。緑色蛍光体材料としては、ZnS:Cu,AlやZnS:Cu,Gaが好ましいがこれに限定されるものではない。赤色発光するEL蛍光体は、ZnS:Cu,InやCaS:Eu,Ceなどがそれに当るが、限定されるものではない。
発光色に限らず青緑色発光するZnS蛍光体材料、赤色蛍光体材料、緑色蛍光体材料は、その平均粒子サイズ(以下、平均サイズとも称する)、粒子サイズの変動係数はいずれにも限定されないが、好ましくは1μm以上20μm未満、変動係数3%以上40%未満、さらに好ましくは2μ以上19μm未満である。
【0017】
本発明におけるZnS蛍光体粒子は、当業界で広く用いられる焼成法(固相法)で形成することができる。これは発光色が青緑、緑、赤のいずれのものにも共通して適用できる一般的技術である。
ZnSの場合は例えば、液相法で10nm〜50nmの微粒子粉末(通常生粉と呼ぶ)を作成し、これを一次粒子すなわち母体物質として用いる。硫化亜鉛には高温安定型の六方晶系と低温安定型の立方晶系の2つの結晶系があるが、いずれを使用してもよく、また混在していてもよい。これに付活剤や共付活剤と呼ばれる不純物、融剤ともに坩堝にて900℃〜1300℃の高温で30分〜10時間焼成し、中間蛍光体粒子を得る。上記のようなサイズ、変動係数の低い蛍光体粒子を得るのに好ましい焼成温度は950℃〜1250℃、さらに好ましくは1000℃〜1200℃である。また好ましい焼成時間は30分〜6時間、さらに好ましくは1時間〜4時間である。また融剤としては、20質量%以上用いることが好ましい。さらには30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。ここにおける融剤の割合は、融剤の割合(質量%)=融剤の質量/(原料蛍光体1次粒子の質量+融剤の質量)で示される。例えば、青緑発光する銅付活硫化亜鉛蛍光体のように、生粉に付活剤である銅を予め混入させておく場合においては、付活剤である銅も蛍光体原料粉末と一体となっており、このような場合は、銅も含め蛍光体原料粉末の質量と計量するものとする。
【0018】
融剤は、室温の質量と焼成温度での質量は異なる場合がある。例えば塩化バリウムは、室温ではBaCl2・2H2Oの状態で存在しているが、焼成温度では水和水が失われ、BaCl2となっていると考えられる。しかし、ここでの融剤の割合とは、室温で安定な状態での、融剤の質量をもとに計算される。
【0019】
さらに、本発明では、上記焼成によって得られる中間蛍光体粉末中に含まれる過剰の付活剤、共付活剤及び融剤を除去するためにイオン交換水で洗浄することが好ましい。
【0020】
焼成によって得られる中間蛍光体粒子の内部には、自然に生じた面状の積層欠陥(双晶構造)が存在する。これにさらにある範囲の大きさの衝撃力を加えることにより、粒子を破壊することなく、積層欠陥の密度を大幅に増加させることができる。衝撃力を加える方法としては、中間蛍光体粒子同士を接触混合させるか、アルミナ等の球体を混ぜて、混合させる(ボールミル)か、粒子を加速させ衝突させる方法などが従来知られている。特に硫化亜鉛の場合、立方晶系と六方晶系の2つの結晶系が存在し、前者では最密原子面((111)面)はABCABC・・・の三層構造をなし、後者ではc軸に垂直な最密原子面がABAB・・・の二層構造を形成している。このため、硫化亜鉛結晶にボールミル等で衝撃を与えた場合、立方晶系で最密原子面のすべりが起こり、C面が抜けると、部分的にABABの六方晶となり、刃状転位が生じ、またAB面が逆転して双晶が生じることもある。一般に結晶中の不純物は格子欠陥部分に集中するため、積層欠陥を有する硫化亜鉛を加熱して硫化銅などの付活剤を拡散させると積層欠陥に析出する。付活剤の析出部分と母体の硫化亜鉛との界面がエレクトロルミネッセンス発光体の中心となることから、本発明においても輝度向上のためには積層欠陥の密度が高いことが好ましい。
【0021】
次いで、得られた中間体蛍光体粉末に第2回の焼成をほどこす。第2回目は、第1回目より低温の500℃〜800℃で、また短時間の30分〜3時間の加熱(アニーリング)をする。これにより、付活剤を積層欠陥に集中的に析出させることができる。
その後、該中間蛍光体を、塩酸等の酸でエッチングして表面に付着している金属酸化物を除去し、さらに表面に付着した硫化銅を、KCN等で洗浄して除去する。続いて乾燥を施してエレクトロルミネッセンス蛍光体を得る。
このような方法により、平均粒子サイズ1μm以上20μm未満、粒子サイズ変動係数3%以上40%未満の粒子を得ることができる。
【0022】
また、他の蛍光体の形成方法として、レーザー・アブレーション法、CVD法、プラズマ法、スパッタリングや抵抗加熱、電子ビーム法などと、流動油面蒸着を組み合わせた方法、等の気相法と、複分解法、プレカーサーの熱分解反応による方法、逆ミセル法やこれらの方法と高温焼成を組み合わせた方法、凍結乾燥法、等の液相法や、尿素溶融法、噴霧熱分解法なども用いることができる。
【0023】
本発明の蛍光体粒子の平均粒子サイズや粒子サイズ変動係数の測定は、例えば堀場製作所製・レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920のような、レーザー散乱による方法を用いることができる。ここで、平均粒子サイズはメジアン径を指すものとする。
【0024】
また本発明のEL素子において、少なくともいずれかの蛍光体粒子は母体材料が硫化亜鉛であるが、そのほかの蛍光体粒子も母体材料が硫化亜鉛であることが好ましく、いずれの蛍光体粒子もさらには6族から10族までの第2遷移系列に属する金属元素を少なくとも1種類含有することが好ましい。中でもモリブデン、白金、イリジウムが好ましい。これらの金属は硫化亜鉛中に硫化亜鉛1モルに対して1×10-7モルから1×10-3モルの範囲で含まれることが好ましく、1×10-6モルから5×10-4モル含まれることがより好ましい。これらの金属は硫化亜鉛微粉末と所定量の硫酸銅と共に脱イオン水に添加し、スラリー状にした上でよく混合し、乾燥してから共付活剤や融剤と共に焼成を行うことで硫化亜鉛粒子に含有させることが好ましいが、これらの金属を含む錯体粉末をフラックスと混合しておきこの共付活剤や融剤を用いて焼成を行い硫化亜鉛粒子に含有させることも好ましい。いずれの場合も金属を添加する際の原料化合物としては使用する金属元素を含む任意の化合物を使用することが出来るが、より好ましくは、金属または金属イオンに酸素、または窒素が配位した錯体を用いることが好ましい。配位子としては無機化合物でも有機化合物であってもよい。これらにより、より一層の輝度向上及び長寿命化が可能となる。
【0025】
蛍光体粒子は、粒子の表面に非発光シェル層を有していても良い。この非発光シェル層の詳細については、特開2005−283911号公報の〔0028〕〜〔0033〕等に記載の通りである。
【0026】
<発光層>
これら蛍光体粒子を用いてEL素子を作成する場合、これら粒子を有機分散媒に分散して、その分散液を塗布し発光層を形成させる。
有機分散媒としては、有機高分子材料、または高沸点の有機溶剤を用いることが出来るが、有機高分子材料を主に構成される有機バインダーが好ましい。
上記有機バインダーとしては、誘電率の高い素材が望ましく、含フッ素高分子化合物(例えばフッ化エチレン、3フッ化1塩化エチレンを重合単位として含む高分子化合物)、または水酸基がシアノエチル化された多糖類(シアノエチルプルラン、シアノエチルセルロース)、ポリビニルアルコール(シアノエチルポリビニルアルコール)、フェノール樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂が挙げられ、これらを全部または一部含んでなることが好ましい。また、これらのバインダーに、BaTiO3やSrTiO3などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。
蛍光体粒子のバインダーへの分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。
このようなバインダーと上記蛍光体粒子との配合割合は、発光層中の上記蛍光体粒子の含有量が固形分全体に対して30〜90質量%となる割合とするのが好ましく、60〜85質量%となる割合とするのが更に好ましい。これにより発光層の表面を平滑に形成することができる。上記配合割合は、使用するすべての蛍光体の重量を足し合わせた場合に適用されるものである。
バインダーとしては、水酸基がシアノエチル化された高分子化合物を発光層全体の有機分散媒のうち質量比で20%以上、更に好ましくは50%以上使用するのが特に好ましい。
【0027】
このようにして得られる発光層の厚みは20μm以上80μm未満が好ましく、より好ましくは25μm以上75μm未満である。20μm以上において、発光層の表面の良好な平滑性を得ることができ、また、80μm未満において蛍光体粒子に有効に電界をかけることができ、好ましい。特に、後述の遮断層を設けた場合には、後述の絶縁層の膜厚を薄くし、且つ発光層の膜厚を厚くすることにより、初期輝度の低下を回復するとともに、十分な耐久性効果を得ることができ、好ましい。更に、良好な初期輝度を得るためには、発光層の膜厚は70μm以下であることが好ましい。
【0028】
<遮断層>
本発明のEL素子は、透明電極と発光層との間に遮断層を有していても良い。この遮断層の詳細については、特開2007−12466号公報の〔0013〕〜〔0020〕等に記載の通りである。
【0029】
<絶縁層>
本発明のEL素子における絶縁層は、誘電率と絶縁性が高く、且つ高い絶縁破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。これらは金属酸化物、窒化物から選択され、例えばBaTiO、KNbO、LiNbO、LiTaO、Ta、BaTa、Y、Al、AlONなどが用いられる。これらは均一な膜として設置されても良いし、また有機バインダーを含有する粒子構造を有する膜として用いても良い。例えば、Mat.Res.Bull.36巻、1065ページに記載されているようにBaTiO微粒子とBaTiOゾルとから構成した膜などが用いられる。
膜厚みは、10μm以上35μm未満であることが望ましい。より好ましくは12μm以上33μm未満であり、15μm以上31μm未満がさらに好ましい。膜厚が薄すぎると絶縁破壊が起きやすくなり、厚すぎると発光層にかかる電圧が小さくなり、実質的に発光効率が低下することがあるため好ましくない。
【0030】
絶縁層に用いることができる有機バインダーとしては、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂が挙げられる。これらの樹脂に、BaTiOやSrTiOなどの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。
【0031】
<赤色材料>
赤色材料を用いる場合について説明する。本発明のエレクトロルミネッセンス素子では、青緑発光するZnS蛍光体粒子のほかに赤色変換材料や緑色変換材料、もしくは赤色発光するEL蛍光体、緑色発光するEL蛍光体から選ばれる少なくとも1種を使用することができる。赤色変換材料や緑色変換材料は、硫化亜鉛の発光を吸収し赤色もしくは緑色に変換する有機材料であり、赤色EL蛍光体や緑色EL蛍光体は無機材料である。前者は特に有機物の蛍光染料または蛍光顔料が好適に用いられ、発光層中に分散しても、絶縁層中に分散してもよく、発光層と透明電極の間や透明電極に対して発光層と反対側に位置させてもよい。後者は青緑に発光する蛍光体材料と同様、発光層に含有させることもできるし、透明電極と絶縁層の間に青緑に発光する蛍光体材料を含有する層とは別に赤色EL蛍光体材料層として導入することもできる。ここでは特に有機材料について詳細に説明する。
【0032】
本発明のエレクトロルミネッセンス素子において、白色発光時の赤色の発光波長として好ましくは570nm以上650nm以下である。この範囲に含まれる赤色発光波長を得るには、赤色変換材料を発光層に含有させても、発光層と透明電極の間に入れても、透明電極を中心として発光層の反対側に入れてもよいが、絶縁層に含有させることが最も好ましい。赤色変換材料を含む絶縁層は、本発明におけるエレクトロルミネッセンス素子中の絶縁層が全て赤色変換材料を含む層とすることも好ましいが、素子中の絶縁層を2つ以上に分割し、そのうちの一部が赤色変換材料を含む層とすることがより好ましい。赤色変換材料を含む層は、赤色変換材料を含まない絶縁層と発光層の間に位置することが好ましく、赤色変換材料を含む層の両側を赤色変換材料を含まない絶縁層で挟まれる様に位置させることも好ましい。
【0033】
赤色変換材料を含む層を赤色変換材料を含まない絶縁層と発光層の間に位置させる場合、赤色変換材料を含む層は1μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上17μm以下である。赤色変換材料を添加した絶縁層中の赤色変換材料の濃度は、BaTiO3に代表される誘電体粒子に対しての質量%で、1質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以上15質量%以下である。赤色変換材料を含む層が両側から赤色変換材料を含まない絶縁層に挟まれる様に位置する場合、赤色変換材料を含む層は1μm以上20μm以下であることが好ましく、より好ましくは3μm以上10μm以下である。赤色変換材料を添加した絶縁層中の赤色変換材料の濃度は、誘電体粒子に対しての質量%で、1質量%以上30質量%以下が好ましく、より好ましくは3質量%以上20質量%以下である。赤色変換材料を含む層が両側から赤色変換材料を含まない絶縁層に挟まれる様に位置する場合には赤色変換材料を含む層に誘電体粒子を含有させず、高誘電率バインダーと赤色変換材料のみの層にすることも好ましい。
【0034】
赤色変換材料の例としては、蛍光顔料または蛍光染料を好ましく用いることができる。蛍光顔料または蛍光染料の発光中心をなす化合物としては、ローダミン、ラクトン、キサンテン、キノリン、ベンゾチアゾール、トリエチルインドリン、ペリレン、トリフェンニン、ジシアノメチレンを骨格として持つ化合物が好ましく、他にもシアニン系色素、アゾ染料、ポリフェニレンビニレン系ポリマー、ジシランオリゴチエニレン系ポリマー、ルテニウム錯体、ユーロピウム錯体、エルビウム錯体を用いることも好ましい。これらの化合物は単独で用いても複数種類を用いてもよい。また、これらの化合物はさらにポリマー等に分散した後に使用してもよい。上記の範囲に発光極大を有する蛍光顔料としては、シンロイヒ社製の「SEL−1003」を使用できる。
また、上記の蛍光顔料または蛍光染料は、バンドリフレクションフィルター等のフィルターを用いることで、発光極大波長を該範囲内に調整することができる。
【0035】
<透明電極>
透明電極は、ガラス基板はもとより、ポリエチレンテレフタレートやトリアセチルセルロースベース等の透明フィルム上に、インジウム・錫酸化物(ITO)や錫酸化物、アンチモンドープ酸化錫、亜鉛ドープ酸化錫、酸化亜鉛等の透明導電性材料を蒸着、塗布、印刷等の方法で一様に付着、製膜することで得られる。
また、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造を用いても良い。さらに、ポリアニリン、ポリピロールなどの共役系高分子などの導電性ポリマーを好ましく用いることができる。
これら透明導電性材料に関しては、東レリサーチセンター発行「電磁波シールド材料の現状と将来」、特開平9−147639号公報等に記載されている。
【0036】
また上記透明電極としては、上記透明フィルムに上記透明導電性材料を付着・製膜してなる透明な導電性シートや導電性ポリマーに、一様な網目状、櫛型あるいはグリッド型等の金属および/または合金の細線構造部を配置した導電性面を作成して通電性を改善した透明導電性シートを用いることも好ましい。
【0037】
上記のような細線を併用する場合、金属や合金の細線の材料としては、銅や銀、ニッケル、アルミニウムが好ましく用いられるが、目的によっては、金属や合金の代わりに前述の透明導電性材料を用いてもよい。電気伝導性と熱伝導性が高い材料であることが好ましい。該細線の幅は、任意であるが、0.1μm程度から1000μmの間が好ましい。該細線は、50μmから5cmの間隔のピッチで配置されていることが、好ましく、特に100μmから1cmピッチが好ましい。
該細線構造部の高さ(厚み)は、0.1μm以上10μm以下が、好ましい。特に好ましくは、0.5μm以上5μm以下である。該細線構造部と透明導電膜は、どちらが表面に出ていも良いが、結果として導電性面の平滑性(凹凸)は、5μm以下であることが好ましい。密着性の観点から、0.01μm以上5μm以下が好ましい。特に好ましいのは、0.05μm以上3μm以下である。
【0038】
ここで、導電性面の平滑性(凹凸)は、3次元表面粗さ計(例えば、東京精密社製;SURFCOM575A−3DF)を用いて5mm四方を測定したときの凹凸部の平均振幅を示す。表面粗さ計の分解能の及ばないものについては、STMや電子顕微鏡による測定によって、平滑性を求める。
細線の幅と高さ、間隔の関係については、細線の幅は、目的に応じて決めればよいが、典型的には、細線間隔の1/10000以上、1/10以下が好ましい。
細線の高さも同様であるが、細線の幅に対して1/100以上10倍以下の範囲が好ましく用いられる。
【0039】
本発明において用いられる透明電極の表面抵抗率は0.1Ω/□以上100Ω/□以下であることが好ましく、1Ω/□以上80Ω/□以下であることがより好ましい。透明電極の表面抵抗率は、JIS K6911に記載の測定方法に準じて測定された値である。
【0040】
上記透明電極として金属および/または合金の細線構造部を配置した場合には、光の透過率の減少を抑制することが好ましい。細線の間隔、細線幅や高さを上述の範囲内とすることで、90%以上の光の透過率を確保することが、好ましい。
本発明においては、透明電極の光の透過率が、550nmの光に対して70%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましく、90%以上であることが最も好ましい。
【0041】
また、上記透明電極は、輝度を向上させるため、また白色発光を実現する上で、波長420nm〜650nmの領域の光を80%以上透過することが好ましく、より好ましくは90%以上透過することが好ましい。白色発光を実現する上では、波長380nm〜680nmの領域の光を80%以上透過することがより好ましい。透明電極の光の透過率は、分光光度計によって測定することができる。
【0042】
<背面電極>
光を取り出さない側の背面電極は、導電性の有る任意の材料が使用出来る。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作成する素子の形態、作成工程の温度等により適時選択されるが、導電性さえあればITO等の透明電極を用いても良い。更に、耐久性を向上させる観点から、背面電極の熱伝導率は高いことが重要で、2.0W/cm・deg以上、特に2.5W/cm・deg以上であることが好ましい。
また、EL素子の周辺部に高い放熱性と通電性を確保するために、金属シートや金属メッシュを背面電極として用いることも好ましい。
【0043】
<製造方法>
本発明のEL素子の製造方法については、特に限定されないが、特開2007−12466号公報の〔0046〕〜〔0049〕等に詳細に記載の通りの方法を適宜採ることができる。
【0044】
<封止>
本発明の分散型EL素子は、最後に封止フィルムを用いて、外部環境からの湿度や酸素の影響を排除するよう加工するのが好ましい。封止の詳細については、特開2007−12466号公報の〔0050〕〜〔0055〕等に記載の通りである。
【0045】
本発明で好ましく用いられる封止フィルムとしてガスバリア性積層フィルムが用いられるが、これらについて以下に詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0046】
[ガスバリア性積層フィルム]
(層構成)
本発明で好ましく用いられる封止フィルムとしてのガスバリア性積層フィルムの構成は、基材フィルム上に、少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層とを有するのが好ましい。基材フィルム上に無機層と有機層を有するものであれば、それぞれの層数や積層順序は特に制限されない。例えば、基材フィルム上に無機層、有機層の順に形成されたものであってもよいし、基材フィルム上に有機層、無機層の順に形成されたものであってもよい。好ましいのは、無機層と有機層が交互に形成されたものである。例えば、基材フィルム上に無機層、有機層、無機層の順に形成されたものを好ましい例として挙げることができる。無機層と有機層の数は、それぞれ1〜10層であるのが好ましく、1〜5層であるのがより好ましく、1〜3層であるのがさらに好ましい。無機層と有機層は、それぞれ基材フィルムの片面のみに形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。
【0047】
また、基材フィルムと無機層の間、基材フィルムと有機層の間、無機層と有機層の間には、機能層が形成されていてもよい。機能層の例としては、反射防止層、偏光層、カラーフィルター、および光取出効率向上層等の光学機能層;ハードコート層や応力緩和層等の力学的機能層;帯電防止層や導電層などの電気的機能層;防曇層;防汚層;被印刷層などが挙げられる。
【0048】
(有機層)
本発明のガスバリア性積層フィルムを構成する有機層は、リン酸エステル基を有するポリマーを含有することを特徴とする。リン酸エステル基を有するポリマーは、少なくとも1つ以上のリン酸エステル基を有する重合性モノマーを含むモノマー組成物を重合させることにより製造することができる。
【0049】
無機層とリン酸エステル基を有するポリマーを含む有機層を有する側と反対側の基材フィルム面(反対面)には、少なくとも無機層と有機層と無機層とがこの順に積層されたガスバリア性ラミネート層を設けることができる。このようなガスバリア性ラミネート層を設けることによって、反対面からの水分子の侵入を防ぐことができる。その結果、ガスバリア性積層フィルムの寸法変化を抑制して、無機層への応力集中や破壊を防止し、結果として耐久性を一層高めることができる。
【0050】
本発明で用いるリン酸エステル基を有するモノマーとして、以下の一般式(1)で表される化合物を好ましく用いることができる。
【0051】
【化1】

【0052】
一般式(1)において、Z1はAc2−O−X2−、重合性基を有しない置換基または水素原子を表し、Z2はAc3−O−X3−、重合性基を有しない置換基または水素原子を表し、Ac1、Ac2およびAc3は各々独立にアクリロイル基またはメタクリロイル基を表し、X1、X2およびX3は各々独立にアルキレン基、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基、またはこれらの組み合わせを表す。
【0053】
一般式(1)には、以下の一般式(2)で表される単官能モノマー、以下の一般式(3)で表される2官能モノマー、および以下の一般式(4)で表される3官能モノマーが含まれる。
【0054】
【化2】

【0055】
Ac1、Ac2、Ac3、X1、X2およびX3の定義は、一般式(1)における定義と同じである。一般式(2)および(3)において、R1は重合性基を有しない置換基または水素原子を表し、R2は重合性基を有しない置換基または水素原子を表す。
【0056】
一般式(1)〜(4)において、X1、X2およびX3の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4がさらに好ましい。X1、X2およびX3が採りうるアルキレン基の具体例、および、X1、X2およびX3が採りうるアルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基のアルキレン部分の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基が挙げられる。アルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であっても構わないが、好ましいのは直鎖アルキレン基である。X1、X2およびX3として好ましいのは、アルキレン基である。
【0057】
一般式(1)〜(4)において、重合性基を有しない置換基としては、例えばアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、またはこれらを組み合わせた基などを挙げることができる。好ましいのはアルキル基、アルコキシ基であり、さらに好ましいのはアルコキシ基である。
アルキル基の炭素数は、1〜12が好ましく、1〜9がより好ましく、1〜6がさらに好ましい。アルキル基の具体例として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基が挙げられる。アルキル基は、直鎖状であっても分枝状であっても環状であっても構わないが、好ましいのは直鎖アルキル基である。アルキル基は、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基などで置換されていてもよい。
アリール基の炭素数は、6〜14が好ましく、6〜10がより好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が挙げられる。アリール基は、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基などで置換されていてもよい。
アルコキシ基のアルキル部分、アリールオキシ基のアリール部分については、上記アルキル基とアリール基の説明をそれぞれ参照することができる。
【0058】
本発明では、一般式(1)で表されるモノマーを1種類だけ用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。また、組み合わせて用いる場合は、一般式(2)で表される単官能モノマー、一般式(3)で表される2官能モノマー、および一般式(4)で表される3官能モノマーのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本発明では、上記のリン酸エステル基を有する重合性モノマー類として、日本化薬(株)製のKAYAMERシリーズ、ユニケミカル(株)製のPhosmerシリーズ等、市販されている化合物をそのまま用いてもよく、新たに合成された化合物を用いてもよい。
【0060】
本発明の封止フィルム(ガスバリアフィルム)の有機層に好ましく用いられるリン酸エステルの詳細は特開2007−290369公報の〔0020〕〜〔0042〕等に記載されている。
【0061】
本発明はEL素子を高輝度(例えば600cd/m2以上)で発光させて用いる用途で特に有効である。具体的には本発明はEL素子の透明電極と背面電極の間に、100V以上500V以下の電圧を印加する駆動条件、または800Hz以上4000KHz以下の周波数の交流電源で駆動する条件で使用する場合に有効である。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明の分散型EL素子の実施例を示すが、本発明の分散型EL素子はこれに限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
厚み70μmのアルミニウム電極(背面電極)上に、以下に示す各層を第1層(厚さ30μm)、第2層(厚さ55μm)の順序で、それぞれの層形成用塗布液を塗布して形成し、更にインジウム−スズ酸化物を厚み40nmの透明電極を形成するようにスパッタしたポリエチレンテレフタレート(厚み75μm)を透明電極側(導電性面側)がアルミニウム電極側を向くように、透明電極と第2層である蛍光体粒子含有層(発光層)が隣接するようにして190℃のヒートローラーで窒素雰囲気下で圧着した。
【0064】
以下に示す各層の添加物量は、EL素子1平方メートルあたりの質量を表す。
各層は、ジメチルホルムアミドを加えて粘度を調節した塗布液とした上で塗布して作製し、その後110℃で10時間乾燥させた。
【0065】
第1層;絶縁層(赤色変換材料あり)
シアノエチルプルラン 14.0g
シアノエチルポリビニルアルコール 10.0g
チタン酸バリウム粒子(平均球相当直径0.05μm) 100.0g
赤色変換材料(シンロイヒ製SEL−1003) 1.0g
第2層;発光層
シアノエチルプルラン 18.0g
シアノエチルポリビニルアルコール 12.0g
蛍光体粒子A 120.0g
【0066】
蛍光体粒子Aの製法については以下に示す。
ZnS(フルウチ化学製・純度99.999%)150gに水を加えてスラリーとし、0.538gのCuSO4・5H2Oを含む水溶液及び亜鉛に対して0.0001モル%の塩化金酸ナトリウムを添加し、一部にCuを置換した(ZnS1モルに対してCu1.4×10−3モル)ZnS生粉(平均粒径100nm)を得た。得られた生粉25.0gに、BaCl2・2H2O;2.1g、MgCl2・6H2O;4.25g、SrCl2・6H2O;1.0gを加え、1200℃で4時間焼成を行い、蛍光体中間体を得た。上記の粒子をイオン交換水で10回水洗し、乾燥した。得られた中間体をボールミルにて粉砕し、その後700℃4時間でアニールした。
得られた蛍光体粒子を、10%のKCN水溶液で洗浄して表面にある余分な銅(硫化銅)を取り除いた後5回水洗を行い、蛍光体粒子Aを得た。該蛍光体は平均粒子サイズは24μm、粒子サイズ変動係数は36%であった。
なお、平均粒子サイズおよび粒子サイズ変動係数は、堀場製作所製・レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いて測定した。
さらに、アルミニウム電極、透明電極それぞれに電極端子(厚み60μmのアルミニウム板)を配線してから、凸版印刷社製の防湿フィルムであるG X フィルムと挟んで真空脱気しながら熱圧着することで密封し、EL素子101とした。
また、赤色変換材料をシンロイヒ製FA−001に変更した以外はEL素子101と同様に作製し、EL素子102を得た。
さらに赤色変換材料をシンロイヒ製FA−003に変更した以外はEL素子101と同様に作製し、EL素子103を得た。
【0067】
以上のようにして得られたEL素子について周波数1000Hzの交流電源を用いて300Vの電圧を連続的に印加したとき、各波長域での発光ピーク位置の有無と発光ピーク波長、さらに最短波長領域の発光ピーク強度を100とした場合のそれぞれの波長領域の発光ピーク強度を併せて、表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
これらのサンプルを基本にして、駆動電圧と周波数の条件を140V、1.1KHz付近で駆動を行った。輝度は、いずれも500cd/m2にあわせた。そのときの演色性指数およびこのEL素子上に富士フィルム社製Gカラープリントに人物ならびに野菜サラダ(ブロッコリーとトマトを含む)、風景(赤、黄、緑、青の花や植物、青空を含む)等の写真をプリントした透過プリント材料を作成し載せ、鑑賞した。これらの結果を表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
(実施例2)
蛍光体粒子Aの作製方法において、融剤の使用量をそれぞれBaCl2・2H2O;4.2g、MgCl2・6H2O;11.2g、SrCl2・6H2O;9.0gとなるように変更した以外は、実施例1と同様に行うことで、蛍光体粒子Bを得た。該蛍光体は平均粒子サイズは17μm、変動係数は31%であった。
蛍光体粒子Bを用いてEL素子101〜103と同様に赤色変換材料を変更することで、EL素子104〜106を得た。
その結果、EL素子101〜103と同様な発光ピークプロファイル、演色性、Gカラー鑑賞結果を得た。EL素子104〜106は、蛍光体粒子の粒子サイズを小さくしたことで、それぞれ輝度が概ね1.4倍向上した。演色性は粒子サイズを変更することによっては変化しないので同等であったが、輝度が向上したことから、Gカラー鑑賞時の駆動条件は実施例1と比較して20V低い120V程度で500cd/m2の発光を得ることができ、駆動の低電圧化が可能であることが示された。
【0072】
(実施例3)
EL素子の層構成を下記に変更した以外は実施例2と同様にEL素子の作製を行った。なお、第1層及び第2層の厚さは、いずれも14μmとした。
【0073】
第1層;絶縁層(赤色変換材料層なし)
シアノエチルプルラン 7.0g
シアノエチルポリビニルアルコール 5.0g
チタン酸バリウム粒子(平均球相当直径0.05μm) 50.0g
第2層;絶縁層(赤色変換材料あり)
シアノエチルプルラン 7.0g
シアノエチルポリビニルアルコール 5.0g
チタン酸バリウム粒子(平均球相当直径0.05μm) 50.0g
赤色変換材料 3.0g
第3層;発光層
シアノエチルプルラン 18.0g
シアノエチルポリビニルアルコール 12.0g
蛍光体粒子B 120.0g
【0074】
得られたEL素子107〜109は、絶縁層を2分割し、一方に高密度に赤色変換材料を含有させることで、最長波領域の発光ピークがそれぞれ5nm程度長波化することを確認した。発光特性(強度比等)に変化はなかった。また、実施例1と同様に、演色性指数、Gカラー鑑賞結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
(実施例4)
実施例2のEL素子104に対して、赤色変換材料を添加せず、蛍光体粒子の重量で10%をZnS:Cu,Alに、30%をZnS:Cu,Inに置き換えることで、EL素子107を得た。
ZnS:Cu,Alは実施例2の製造方法に対してAlを0.70g添加することで、ZnS:Cu,InはInを0.15g添加することで得た。ZnS:Cu,Alは平均粒子サイズ18μm、変動係数33%、ZnS:Cu,Inは平均粒子サイズ19μm、変動係数37%であった。
その結果、実施例2と同様に3領域に発光ピークを示し、演色性、Gカラー鑑賞時の色再現性も良好な結果が得られた。
【0077】
これらの結果より、450〜514nm、515〜569nm、570〜650nm に少なくともそれぞれ発光ピークを有し、かつそれぞれの発光ピーク強度が、短波長領域のピーク強度>長波長領域のピーク強度>中間波長領域のピーク強度の関係を有することで、優れた演色性と色再現性を示すEL素子を得ることができる。
【0078】
(実施例5)
実施例1において、アルミニウム電極、透明電極それぞれに電極端子(厚み60μmのアルミニウム板)を配線してから、防湿フィルムとして、ポリエチレンナフタレートフィルム(帝人デュポン社製、商品名:テオネックスQ65FA)と挟んで真空脱気しながら熱圧着することで密封し、EL素子201とした。
【0079】
上記ポリエチレンナフタレートフィルム上に、リン酸エステル基を有するアクリレートとして下記の化合物(A)[日本化薬(株)製、KAYAMERシリーズ、PM−21]あるいは(B)[共栄社化学(株)製、ライトエステルP−2M]あるいは(C)[大阪有機化学(株)製、V#3PA]あるいは水酸基を有するアクリレートである下記の化合物(D)[新中村化学製、TOPOLEN]あるいは、カルボン酸を有するアクリレートである下記の化合物(E)[東亜合成製、M5300]を用い、あるいはアセチルアセトン構造を有するアクリレートである下記の化合物(F)[アルドリッチ製、AAEMA]を用い、あるいは、3官能アクリレートである下記の化合物(G)[共栄社化学(株)製、ライトアクリレートTMP−A]をそれぞれ1g用い、混合する光重合性アクリレートとして下記の光重合性化合物[共栄社化学(株)製、ライトアクリレートBEPG−A]を9g、および光重合開始剤[チバガイギー製、IRGACURE907]を0.6g用意し、これらをメチルエチルケトン190gに溶解させて塗布液とした。この塗布液を、ワイヤーバーを用いて上記基材フィルムの平滑面上にワイヤーバー(#6)にて塗布し、酸素濃度0.1%以下の窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度350mW/cm2、照射量500mJ/cm2の紫外線を照射することにより膜厚およそ500nmの有機層を形成させた。
【0080】
さらに、それぞれ上記の有機層上に酸化アルミニウム(AlOx)からなる無機層を成膜した。無機層の成膜はスパッタ装置を使用し、ターゲットとしてAlを、放電ガスとしてアルゴンを、反応ガスとして酸素を用いた。無機層膜厚は50nmとし、積層フィルムを成膜した。
それぞれの積層フィルムの無機層上に、それぞれの有機層成膜時に使用したものと同一の塗布液をワイヤーバー(#6)にて塗布し、酸素濃度0.1%以下の窒素パージ下で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス(株)製)を用いて、照度350mW/cm2、照射量500mJ/cm2の紫外線を照射することにより膜厚およそ500nmの有機層を形成させ、[有機層/無機層/有機層/基材]で構成される積層フィルムを作製し、それぞれ有機層に化合物Aを用いたものを積層フィルム202A、化合物Bのものを202B、化合物Cのものを202C、化合物Dのものを202D、化合物Eのものを202E、化合物Fのものを202F、化合物Gのものを202Gとした。
【0081】
【化3】

【0082】
【化4】

【0083】
作成したEL試料201および202A〜202Gについて、40℃、相対湿度85%で発光を続けた場合の、ピーク波長487nmでの発光強度を発光開始時の強度(0h経時後)、24時間連続発光後(24h経時後)の強度、2500時間連続発光後(2500h経時後)の強度を測定した。201の発光開始時の強度を100として相対強度で示した結果を下記表4にまとめた。202A〜202Gは24時間後も発光強度をほぼ落とすことなく発光を続け、特に202A、202B、202Cは2500時間後も発光強度はほとんど変化しないことが分かった。
【0084】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnS蛍光体粒子を含有する発光層を有する分散型エレクトロルミネッセンス素子であって、短波長領域として450〜514nm、中間波長領域として515〜569nm、長波長領域として570〜650nmに少なくともそれぞれ発光ピークを有し、さらにそれぞれの発光ピーク強度が、短波長領域のピーク強度>長波長領域のピーク強度>中間波長領域のピーク強度の関係を有することを特徴とする分散型エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項2】
前記蛍光体粒子の平均粒子サイズが1μm以上20μm未満及び粒子サイズの変動係数が3%以上40%未満であることを特徴とする請求項1に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
赤色変換材料を含有すること特徴とする請求項1または2に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記赤色変換材料を含む赤色変換材料層が、蛍光体粒子を含む発光層と背面電極との間にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
赤色に発光する蛍光体粒子を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記赤色に発光する蛍光体粒子の平均粒子サイズが1μm以上20μm未満及び粒子サイズの変動係数が3%以上40%未満であることを特徴とする請求項5に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項7】
基材フィルム上に、少なくとも1層の無機層と少なくとも1層の有機層とを有し、有機層が少なくとも1以上のリン酸エステルアクリレートを含有するモノマー組成物の重合物からなるガスバリア性積層フィルムによって封止されていることを特徴とする請求項1に記載の分散型エレクトロルミネッセンス素子。

【公開番号】特開2010−244687(P2010−244687A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88519(P2009−88519)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】