説明

分散型無機エレクトロルミネッセンス素子およびこれを備える照明装置

【課題】分散型無機エレクトロルミネセンス素子(以下分散型無機EL素子)の絶縁層に含まれる高誘電体微粒子の割合を向上させ、発光輝度を高める。
【解決手段】分散型無機EL素子は、ベースフィルムの片面1に、正面電極2、発光層3、絶縁層4、背面電極5が順次積層され、表面保護層6で覆われた構造である。高誘電体微粒子が分散した溶液を噴霧して絶縁層4を形成することによって、従来のような絶縁インクの粘度の調整を不要としつつ高誘電体の充填率を大幅に向上して発光輝度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な製造方法による分散型無機エレクトロルミネッセンス素子(以下、分散型無機EL素子という。)およびこれを備えることを特徴とする照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無機EL素子は、高精細、高コントラスト、応答速度が速いといった特徴から液晶ディスプレイ用バックライト、各種インテリア用照明、車載用表示装置等への応用が期待されている。無機EL素子には素子を蒸着等の手段で通常数μmの厚さに形成する薄膜型EL素子と、スクリーン印刷等の手段で通常数十μmの厚さに形成する分散型EL素子がある。このうち分散型EL素子は、製造設備が比較的単純であること、連続生産に適しており大量生産に有利であること、また近年需要が高まっている素子の大型化にも有利であること、などの特長がある。
【0003】
分散型無機EL素子は、通常PET(ポリエチレンテレフタレート)等からなる基材の片面に、ITO(酸化インジウムスズ)等からなる透明導電層を形成した透明電極と、バインダー中に蛍光体微粒子を分散してなる発光層と、バインダー中に誘電体微粒子を分散してなる絶縁層と、アルミニウムや銀等からなる背面電極を順次積層して構成されており、さらに防湿、耐久性向上を目的とした表面保護層が設けられている。
【0004】
分散型無機EL素子は、一般的にスクリーン印刷法により製造され、特許文献1にはスクリーン印刷法を用いた分散型無機EL素子の製造方法が開示されている。蛍光体微粒子、誘電体微粒子は溶剤に溶かした樹脂バインダーと共に混合され、蛍光体インク及び絶縁インクを調整し、スクリーン印刷によりITO基板上に積層印刷することで、各層を形成する。この際、絶縁層を形成する絶縁インクには、高誘電体微粒子であるチタン酸バリウム(BaTiO3)と樹脂バインダーが重量比で12:7の比率で混合されている。
【特許文献1】特許2719559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし従来の分散型無機EL素子には、依然として以下のような課題がある。
分散型無機EL素子は、スクリーン印刷法により製造されるため、絶縁インクをスクリーン印刷に適する粘度に調整することが要求される。一般的にスクリーン印刷には10〜50Pa・s程度の高い粘度が必要であり、このため絶縁インク中に比較的高濃度の樹脂バインダーを混合させ、インク粘度を上げる必要がある。このため、十分な発光輝度を得る上で本来必要とされる充填率まで高誘電体微粒子を混合させることが難しい。したがって高誘電体微粒子自体の誘電率は十分高いものであっても、充填率が不足するため、絶縁層全体としての誘電率はかなり低下してしまい、分散型無機EL素子の発光輝度を十分上げることができなかった。
【0006】
第2の課題としては、絶縁インクの粘度は、充填率の他にも粉末の粒径、印刷雰囲気の温度や湿度によっても変動するため、溶剤の割合を微妙に調整したり、印刷に供する前のインク温度を一定に保持する等、インクの粘度を調整するために多大な労力と管理等が必要になっていた。
【0007】
第3の課題としては、ひとたび調合されて印刷に供されるインクは、再使用することができず、また無駄に消費される量が無視できない点である。特に高誘電体微粒子は高価であるため、製造コストを引き上げる要因となっている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、絶縁層を形成する際にスクリーン印刷法を用いることなく高誘電体微粒子を高密度に充填させることで、高輝度な分散型無機EL素子を提供すると共に、この分散型EL素子を備える、多くの用途に有用な照明品位の高い照明装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は下記の発明によって達成された。
[1] 電極間に発光層と絶縁層とが介在するEL素子であって、該絶縁層は高誘電体微粒子を含む分散液を噴霧することにより形成されることを特徴とする分散型無機EL素子である。
[2] 電極間に発光層と絶縁層とが介在するEL素子であって、該絶縁層に含まれる高誘電体微粒子が、絶縁層全体中に85〜98重量%の割合で含有されていることを特徴とする分散型無機EL素子である。
[3] [1]または[2]記載の絶縁層に含まれる高誘電体微粒子が、チタン酸バリウムであることを特徴とする分散型無機EL素子である。
[4] [1]〜[3]のいずれか1項に記載の絶縁層に含まれる高誘電体微粒子の平均粒径が5〜500nmであることを特徴とする分散型無機EL素子である。
[5] [1]〜[4]のいずれか1項に記載の分散型無機EL素子を備えることを特徴とする照明装置である。
【発明の効果】
【0010】
上記[1]に記載の発明で、絶縁層が高誘電体微粒子を含む分散液を噴霧して形成されることで、絶縁層中の高誘電体微粒子の充填密度を高めることができ、絶縁層の誘電率が高まる。また、スクリーン印刷を行わないためインク粘度の調整を不要としつつ、かつ、調合されたインクを効率的に利用できる。さらに絶縁層を噴霧して形成することで、従来の技術と比較して絶縁層の密着性を高められるので、機械的強度が高まるだけでなく、分散型無機EL素子の発光効率も高められる。
【0011】
上記[2]に記載の発明で、高誘電体微粒子が絶縁層全体中に85〜98重量%の割合で含有されることで、絶縁層の誘電率が高まり、分散型無機EL素子の発光輝度が向上する。またこの範囲内の割合で絶縁層全体中に高誘電体微粒子を含むことによって特に優れた密着性を実現でき、発光輝度や機械的強度をさらに向上させることができる。
【0012】
上記[3]に記載の発明で、高誘電体微粒子がチタン酸バリウムであることで、絶縁層の誘電率が高まり、分散型無機EL素子の発光輝度が向上する。
上記[4]に記載の発明で、絶縁層に含まれる高誘電体微粒子の平均粒径が5〜500nmであることで、絶縁層中の高誘電体微粒子の充填密度が高められる。
【0013】
また上記[5]に記載の発明は、本発明の無機EL素子を備えることで、輝度が均一で明るく、照明品位の高い照明装置である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の一形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の分散型無機EL素子の一例を示す概略断面図である。本発明の分散型無機EL素子は、ベースフィルム1の片面に、正面電極2、発光層3、絶縁層4、背面電極5がこの順に積層されており、後述のEL表示装置における発光部を形成する。
【0015】
<電極>
本発明のEL素子においては、正面電極としては一般的に用いられている任意の透明電極材料が用いられる。例えば、錫ドープ酸化インジウム、フッ素ドープ酸化錫、アンチモンドープ酸化錫、アルミニウムドープ酸化亜鉛、ガリウムドープ酸化亜鉛などの酸化物、銀の薄膜を高屈折率層で挟んだ多層構造、ポリアニリン、ポリピロールなどのπ共役系高分子などが挙げられる。これら透明電極にはこれに櫛型あるいはグリッド型等の金属細線を配置して通電性を改善することも好ましい。透明電極の表面抵抗は、0.1Ω/□〜200Ω/□の範囲が好ましい。
【0016】
光を取り出さない側の背面電極としては、導電性の有る任意の材料が使用できる。金、銀、白金、銅、鉄、アルミニウムなどの金属、グラファイトなどの中から、作製する素子の形態、作製工程の温度等により適時選択されるが、導電性さえあればITO等の透明電極を用いても良い。
【0017】
正面電極及び背面電極の双方が透過性を有しない場合は、無機EL素子は主として側方から発光する。この場合、電極の選択肢が多いので電極の種類を変えることによって発光層の発光強度を高めることが容易となる。一方、電極の一方が透明電極である透明電極を有する素子で、背面電極、絶縁層、発光層、透明電極層の順に積層すると、無機EL素子は主として透明電極を透過した光によって発光する。この構成では電極間の光の反射によるロスが低減するので素子としての発光効率を高めるのが容易となる。また一般に発光層の面積が大きいものについては前記透明電極層を有する構成の方が光の利用効率が高くなり好ましい。
【0018】
<発光層>
発光層は、蛍光体粒子をバインダーに分散したものを用いる。バインダーとしては、シアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどの樹脂を用いることができる。これらの樹脂に、BaTiO3やSrTiO3などの高誘電率の微粒子を適度に混合して誘電率を調整することもできる。分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。本発明で用いる好ましい蛍光体粒子の量は、バインダー量1に対して重量比で4.2〜20であり、特に好ましいのは4.5〜10である。
【0019】
発光層は、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、あるいはスプレー塗布法などを用いて塗布することが好ましい。特に、スクリーン印刷法のような印刷面を選ばない方法やスライドコート法のような連続塗布が可能な方法を用いることが好ましい。例えば、スクリーン印刷法は、蛍光体や誘電体の微粒子を高誘電率のポリマー溶液に分散した分散液を、スクリーンメッシュを通して塗布する。メッシュ数、乳剤膜厚、印刷速度、スキージの硬さ、塗布回数を選択することにより膜厚を制御できる。分散液を変えることで、発光層や誘電体層のみならず、背面電極なども形成でき、さらに、スクリーンの大きさを変えることで大面積化が容易である。
【0020】
<蛍光体微粒子>
本発明に用いる蛍光体微粒子は、焼成法、尿素溶融法、噴霧熱分解法、水熱合成法を好ましく用いることができる。
【0021】
本発明に利用可能な蛍光体粒子を、硫化亜鉛を母体として、固相法で形成する場合、先ず液相法で10〜50nmの微粒子粉末を作製し、これを一次粒子として用い、これに付活剤と呼ばれる不純物や共付活剤を混入させて融剤とともに坩堝にて900〜1300℃の高温で30分〜10時間、第1の焼成を行い、粒子を得る。
【0022】
第1の焼成によって得られる中間蛍光体粉末をイオン交換水で繰り返し洗浄してアルカリ金属ないしアルカリ土類金属及び過剰の付活剤、共付活剤を除去する。
次いで、得られた中間体粉末に第2の焼成を施す。第2の焼成は、第1の焼成より低温の500〜800℃で、また短時間の30分〜3時間の加熱をする。
【0023】
これらの焼成により蛍光体粒子内には多くの積層欠陥が発生するが、微粒子で、かつ、より多くの積層欠陥が蛍光体粒子内に含まれるように、第1の焼成と第2の焼成の条件を適宜選択することが好ましい。
【0024】
また、第1の焼成物に、ある範囲の大きさの衝撃力を加えることにより、粒子を破壊することなく、積層欠陥の密度を大幅に増加させることができる。衝撃力を加える方法としては、中間蛍光体粒子同士を接触混合させる方法、アルミナ等の球体を混ぜて混合させる(ボールミル)方法、粒子を加速させて衝突させる方法、超音波を照射する方法などを好ましく用いることができる。これらの方法により、5nm以下の間隔で10層以上の積層欠陥を有する粒子を形成することができる。
【0025】
その後、該中間蛍光体を、HCl等の酸でエッチングして表面に付着している金属酸化物を除去し、さらに表面に付着した硫化銅を、KCNで洗浄して除去する。続いて該中間蛍光体を乾燥してEL蛍光体を得る。
【0026】
また、硫化亜鉛の場合などは、蛍光体結晶中に多重双晶構造を導入するため、蛍光体の粒子形成方法として、水熱合成法を用いることも好ましい。水熱合成法では、粒子は、よく撹拌された水溶媒に分散されており、且つ粒子成長を起こす亜鉛イオン及び/又は硫黄イオンは、反応容器外から、水溶液で制御された流量で、決められた時間で添加する。従って、この系では粒子は水溶媒中で自由に動くことができ、かつ添加されたイオンは水中を拡散して粒子成長を均一に起こすことができるため、粒子内部における付活剤若しくは共付活剤の濃度分布を変化させることが可能で、サイズ分布の狭い単分散な硫化亜鉛粒子を得ることが可能となる。核形成過程と成長過程の間に、オストワルド熟成工程を入れることが粒子サイズの調節及び、多重双晶の実現のために好ましい。
【0027】
また、本発明に利用可能な蛍光体の形成方法として、尿素溶融法を用いることも好ましい。尿素溶融法は、蛍光体を合成する媒体として溶融した尿素を用いる方法である。尿素を融点以上の温度に維持して溶融状態にした液中に、蛍光体母体や付活剤を形成する元素を含む物質を溶解する。必要に応じて、反応剤を添加する。例えば、硫化物蛍光体を合成する場合は、硫酸アンモニウム、チオ尿素、チオアセトアミドなどの硫黄源を添加して沈殿反応を起こさせる。その融液を450℃程度まで徐々に昇温すると、蛍光体粒子や蛍光体中間体が、尿素由来の樹脂中に均一分散した固体が得られる。この固体を微粉砕した後、電気炉中で樹脂を熱分解させながら焼成する。焼成雰囲気として、不活性雰囲気、酸化性雰囲気、還元性雰囲気、アンモニア雰囲気、真空雰囲気を選択することで、酸化物、硫化物、窒化物を母体として蛍光体粒子が合成できる。
【0028】
また、本発明に利用可能な蛍光体の形成方法として、噴霧熱分解法を用いることも好ましい。蛍光体の前駆体溶液を、霧化器を用いて微小液滴化して、液滴内での凝縮や化学反応または液滴周囲の雰囲気ガスとの化学反応により、蛍光体粒子または蛍光体中間生成物を合成できる。液滴化の条件を好適にすることで、微粒子化、微量不純物の均一化、球形化、狭粒子サイズ分布化した粒子を得ることができる。微小液滴を生成する霧化器としては、2流体ノズル、超音波霧化器、静電霧化器を用いることが好ましい。霧化器によって生成した微小液滴を、キャリアガスで電気炉などに導入し、加熱することで、脱水・縮合し、さらに液滴内物質同士の化学反応や焼結、または雰囲気ガスとの化学反応により目的とする蛍光体粒子または蛍光体中間生成物を得る。得られた粒子を、必要に応じて追加焼成する。例えば、硫化亜鉛蛍光体を合成する場合は、硝酸亜鉛とチオ尿素の混合液を霧化し、800℃程度で、不活性ガス(例えば窒素)中で熱分解して、球形の硫化亜鉛蛍光体を得る。出発溶液の混合溶液中に、Mn、Cu及び希土類元素などの微量不純物を溶解させておけば、これらの不純物は発光中心として作用する。
【0029】
蛍光体粒子の付活剤として銅、マンガン、銀、金及び希土類元素から選択された少なくとも一種のイオンを好ましく用いることができる。
共付活剤として塩素、臭素、ヨウ素、及びアルミニウムから選択された少なくとも一種のイオンを好ましく用いることができる。
【0030】
<絶縁層>
本発明のEL素子は、基本的に発光層を、対向する一対の電極で挟持した構成を持つ。発光層と電極の間に絶縁層を形成することが好ましい。
【0031】
絶縁層は、誘電率と絶縁性が高く、且つ高い誘電破壊電圧を有する材料であれば任意のものが用いられる。これらは金属酸化物、窒化物から選択され、例えばTiO2、BaTiO3、SrTiO3、PbTiO3、KNbO3、PbNbO3、Ta2O5、BaTa2O6、LiTaO3、Y2O3、Al2O3、ZrO2、AlON、ZnSなどが用いられ、特に好ましいのはBaTiO3である。
【0032】
本発明の絶縁層4は、発光層3上に高誘電体微粒子の分散液を噴霧することにより形成することが無機EL発光素子の発光効率を高める上で好ましいが、電極層5上に高誘電体微粒子の分散液を噴霧することにより形成し、その後発光層3を得られた絶縁層4と積層することもできる。また、仮の基材上に高誘電体微粒子の分散液を噴霧することにより絶縁層4を形成し、その他の層を得られた絶縁層4と積層することもできる。この場合、仮の基材の除去は、その他の層を得られた絶縁層4と積層する前に行ってもよいし、後に行ってもよい。噴霧の際、基板を加熱して絶縁層が形成される面を50〜150℃程度とすることが好ましく、特に好ましいのは80℃〜130℃である。また本分散液は、高誘電体微粒子、バインダー樹脂、溶媒との混合物を含む。バインダーとしてシアノエチルセルロース系樹脂のように、比較的誘電率の高いポリマーや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フッ化ビニリデンなどが用いられる。溶媒は、用いるバインダーの溶解性に合わせて適宜選択され、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド類、プロピレンカーボネートなどのカーボネート類、メタノール、エタノール(EtOH)、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、及びこれらの組み合わせたものからなる群から選択される溶媒が好ましく用いられ、特に好ましいのは、DMFとEtOHを重量比で1:1に混合した溶媒である。分散方法としては、ホモジナイザー、遊星型混練機、ロール混練機、超音波分散機などを用いることができる。本発明で用いる好ましい高誘電体微粒子の量は、バインダー量1に対して重量比で3〜999であり、特に好ましいのは5〜99である。また、分散液の粘度は、噴霧が可能な粘度であればいかなる粘度でも良いが、30Pa・s以下であることが好ましい。
【0033】
市販されているチタン酸バリウム粒子は、粒径が500nmで3,000程度の比誘電率を持ち、粒径が300nm以下になると、急激にその誘電率が低下することが知られている。本発明で用いる高誘電体微粒子の粒子径は5〜1000nmであり、特に好ましいのは300〜500nmである。上述したように、絶縁層の誘電率を上げるためには、高誘電体微粒子の充填率を向上させることが重要である。単一粒径の球状粒子では理論的に充填率が0.74以上にはなり得ないため、その空隙にさらに小粒子を充填してゆけばより密な充填状態が得られる。従って、本発明においては300〜500nmの粒径中に、5〜100nmの粒子径をもつ高誘電体微粒子を混在させることが好ましく、より好ましくは5〜50nmである。高誘電体微粒子はあまりに小粒径化すると、粒子同士の凝集が強くなり、均一に分散させることが困難となる。凝集した強誘電体微粒子の粉砕は、遊星型ボールミル、超音波分散機、超微粒子装置等の粉砕機を用いて粉砕を行うことができるが、粉砕を進める間に粉砕した強誘電体微粒子の一部が再び凝集してしまう可能性があるため、強誘電体微粒子を粉砕する前に予め分散剤を混合することが好ましい。分散剤にはアニオン系分散剤、カチオン系分散剤、非イオン系分散剤、高分子系分散剤といった通常知られている各種分散剤を用いることができるが、強誘電体微粒子の分散安定性の点からカチオン系分散剤を用いることが好ましい。カチオン系分散剤はアミン塩型と第四級アンモニウム塩型に分類されるが、使用する種類には特に制限は無く、例えばアミン塩型にはステアリルアミン塩酸塩、第四級アンモニウム塩にはステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0034】
<無機EL素子>
本発明の無機EL素子の一態様において、絶縁層が高誘電体微粒子を含む分散液を噴霧することにより形成されることが特徴である。このような本発明の無機EL素子は以下の効果を奏することが可能である。
【0035】
(1)基材層とその上に噴霧、形成された絶縁層との間の密着性が高いので、得られるEL素子の機械的強度が高く、また絶縁層(誘電層)の電気的特性を隣接する層に効率よく伝達でき、結果としてEL素子の発光効率が高い。
【0036】
(2)絶縁層を形成する際に高誘電体微粒子の凝集が起こりにくいので、絶縁層が形成される面内の微粒子の粒径や分散性が均一になり、結果としてEL素子の発光が均一である。また、EL素子の生産安定性も高い。
【0037】
(3)分散剤添加による高誘電体微粒子の分散安定性向上が得やすく、さらに高い発光均一性及び生産安定性を奏する。
<EL表示装置>
本発明の無機EL素子を用いて無機EL表示装置が得られる。無機EL表示素子には無機EL素子自体の発光を用いて表示する場合と、別途無機EL素子の発光方向に表示素子を設ける場合が挙げられる。無機EL素子自体の発光を用いて表示する場合、例えば、素子の発光を制御して情報を表示する場合、特に複数の素子の発光を制御する場合、更に異なる色の複数の素子の発光を制御する場合、などが挙げられる。例えば、緑、青、赤の発光をする無機EL素子を周期的に複数配列し、これらの発光を制御することによってカラー画像などを生成することができる。一方、表示素子を別途設ける場合は、例えば、LCDパネルなどの透過型表示素子を発光方向に配置することでLCD表示装置のような透過型表示装置となる。なおここで述べる表示装置とはこれら表示能を有する素子、これら素子に情報処理装置、チューナー、スピーカーなど種々の部材を追加したテレビ受像機、モニター装置、ノートパソコンなどを含む。
【実施例】
【0038】
<実施例1>
(蛍光体塗布液の調整)
蛍光体粒子(オスラムシルバニア製 GG45)とバインダーとしてシアノレジン(信越化学社製:CR-V)を下記の組成比でDMF有機溶媒中に添加し、遊星型撹拌脱泡機(シンキー社製、AR−250)にて分散させ、スクリーン印刷に適切な粘度に調整した。
【0039】
蛍光体粒子・・・・・・・・・60重量部
シアノレジン・・・・・・・・10重量部
(高誘電体微粒子分散液の調整)
誘電体微粒子としてチタン酸バリウム(堺化学製:BT-05:平均粒子径500nm)およびバインダーとしてシアノレジン(信越化学社製:CR-V)を下記の組成比でDMFとEtOHを重量比で1:1に混合した溶媒中に添加し、プローブ型超音波分散機(株式会社SMT製、UH−600S)を用いて良く分散させることで、塗布液を調整した。
【0040】
チタン酸バリウム・・・・・・95重量部
シアノレジン・・・・・・・・5重量部
DMF ・・・・・・・・・・・・800重量部
EtOH・・・・・・・・・・・・800重量部
(EL素子の作製と評価)
支持体としてITO透明電極がスパッタリングされているポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み125μm)上に、スクリーン印刷を用いて上記蛍光体塗布液を乾燥塗膜の目標膜厚が35μmになるように印刷した。印刷後、120℃で乾燥して蛍光体層がITO上に形成されたシート状積層体Aを得た。続いてシート状積層体Aを、100℃に加熱し、上記高誘電体微粒子分散液をスプレー装置を用いて、乾燥塗膜の目標膜厚が20μmになるように塗布して、ITO上に蛍光体層と誘電体層を積層したシート状積層体Bを得た。シート状積層体Bの上に、背面電極として銀ペーストを印刷し、透明電極と背面電極に電圧を供給するためのリード線を付設した後、全体を封止フィルムで封止してEL素子を得た。
【0041】
上記のように作製された分散型無機EL素子の透明電極一端に接続した電圧印加用リード線と、背面電極の一端に接続した電圧印加用リード線との間に100V、400Hzの交流電圧を印加し、EL素子を発光させ、その輝度を色彩輝度計(トプコン社製 BM7)にて測定したところ、その発光輝度は141.6cd/m2であった。
【0042】
<比較例1>
(高誘電体微粒子含有塗布液の調整)
誘電体微粒子としてチタン酸バリウム(堺化学製:BT-05:平均粒子径500nm)およびバインダーとしてシアノレジン(信越化学社製:CR-V)を下記の組成比でDMFに添加し、遊星型撹拌脱泡機にて分散させ、スクリーン印刷に適切な粘度に調整した。
【0043】
チタン酸バリウム・・・・・・90重量部
シアノレジン・・・・・・・・30重量部
(EL素子の作製と評価)
実施例1と同様にしてシート状積層体Aを得た後、上記高誘電体粒子含有塗布液を乾燥塗膜の目標膜厚が20μmになるようにスクリーン印刷し、ITO上に蛍光体層と誘電体層を積層したシート状積層体Cを得た。シート状積層体Cの上に、背面電極として銀ペーストを印刷し、透明電極と背面電極に電圧を供給するためのリード線を付設した後、全体を封止フィルムで封止してEL素子を得た。
【0044】
上記のように作製された分散型無機EL素子の透明電極一端に接続した電圧印加用リード線と、背面電極の一端に接続した電圧印加用リード線との間に100V、400Hzの交流電圧を印加し、EL素子を発光させ、その輝度を色彩輝度計(トプコン社製 BM7)にて測定したところ、その発光輝度は128.7cd/m2であった。
【0045】
<比較例2>
(高誘電体微粒子分散液の調整)
誘電体微粒子としてチタン酸バリウム(堺化学製:BT-05:平均粒子径500nm)およびバインダーとしてシアノレジン(信越化学社製:CR-V)を下記の組成比でDMFに添加し、遊星型撹拌脱泡機にて分散させ、スクリーン印刷に適切な粘度に調整した。
【0046】
チタン酸バリウム・・・・・・・95重量部
シアノレジン・・・・・・・・・5重量部
(EL素子の作製と評価)
実施例1と同様にしてシート状積層体Aを得た後、上記高誘電体粒子含有塗布液をスクリーン印刷したところ、膜表面に多数のクラックが生じ、EL素子は作製できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の分散型無機EL素子の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1. ベースフィルム
2. 正面電極
3. 発光層
4. 絶縁層
5. 背面電極
6. 表面保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極間に発光層と絶縁層とが介在するEL素子であって、該絶縁層は高誘電体微粒子を含む分散液を噴霧することにより形成されることを特徴とする分散型無機EL素子。
【請求項2】
電極間に発光層と絶縁層とが介在するEL素子であって、該絶縁層に、高誘電体微粒子が85〜98重量%の割合で含有されていることを特徴とする分散型無機EL素子。
【請求項3】
絶縁層に含まれる高誘電体微粒子が、チタン酸バリウムである請求項1または2に記載の分散型無機EL素子。
【請求項4】
絶縁層に含まれる高誘電体微粒子の平均粒径が5〜500nmである請求項1〜3のいずれか1項に記載の分散型無機EL素子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の分散型無機EL素子を備えることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【公開番号】特開2008−123780(P2008−123780A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305045(P2006−305045)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(506297717)クラレルミナス株式会社 (20)
【Fターム(参考)】