説明

分析システムにサンプルを導入するためのサンプリング装置

【課題】分析システムにサンプルを導入するためのサンプリング装置(例えばサンプリングバルブ)を提供する。
【解決手段】サンプリング装置は、サンプリング領域32を備えた回動部材31を有している。このサンプリング領域32は、分析されるサンプルを保持できるように構成されている。回動部材31は、サンプリング領域32が、サンプル収集のためにサンプル物質36に露出されている第1の位置と、分析システムによって使用するためにサンプルを解放する第2の位置との間で移動できるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全般的には、サンプル分析に関するものである。より詳しくは(これに限るわけではないが)、固体サンプルあるいは液体サンプルを、化学組成分析に導入することに関する。本発明は、例えば、雰囲気中に浮遊している微粒子のサンプルを、分析装置の分析チャンバに導入することにおいて有用なものである。
【背景技術】
【0002】
気体雰囲気中の粒子に対する組成分析は、さまざまな状況において必要とされる可能性がある。例えば、大気中のさまざまな粒子は、環境や気候に大きな影響を与えることが知られている。適切な分析によって、粒子が環境に与える影響に関する情報を取得するだけでなく、例えば、大気環境、化学兵器および生物兵器の存在、薬品、排気物(例えば、工場や自動車からのもの)、および、ウィルスやバクテリアなどのその他の粒子状物質をモニターすることが可能である。
【0003】
粒子の分析については、さまざまな技術に基づいて実行することが可能である。例えば、質量分析は、粒子を化学分析するために広く用いられている。分析のためのサンプルとしては、例えば、液体のサンプル、ガスサンプル、気体中の粒子、液体中の粒子、固体サンプル、生物由来物質(例えば、分子、バクテリアおよびウィルスなど)が挙げられる。
【0004】
粒子に対する化学組成分析は、典型的には(必須ではないが)、特別な分析装置によってなされる。この装置によって粒子を分析する際には、一般的には、凝集して固まった粒子を分散させ、粒子の浮遊している媒体から粒子を分離し、その後、後続する分析プロセスを実行するための準備として、粒子を収集する必要がある。既知の装置では、サンプルを真空分析チャンバに導入するために、密閉部材(真空封止)を使って、サンプルを他端に配したロッドを手作業で押し込むようになっている。このサンプルは、ロッドを分析チャンバに押し込んだ後に、チャンバの外部の気体からロッド上に集められる。
【0005】
気体あるいは他の流動物を分析チャンバへと流通させて、レーザービームによって内部の粒子をねらうことが可能である。分析チャンバへの流れは、チャンバへの導入口に取り付けられている適切なバルブ配置をパルス的に開閉することによって制御することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来技術の問題点は、真空分析チャンバに自動的にサンプルを導入できないことにある。それどころか、サンプルは手作業で導入しなければならない。また、基本的に、リアルタイムで、および/または連続的にサンプルを収集して分析することができない、という問題点もある。より詳細には、例えば、上記した収集ロッドなどを用いてサンプルをあらかじめ収集しておく場合、サンプルを分析できるようになるまでの時間がかかるために、サンプルの化学組成が変化してしまう可能性もある。そして、このことは、分析の結果に影響を与える可能性がある。さらに、サンプル収集に対する有効性、実効性および制御性の観点から、サンプルの収集プロセスを一般的に改善することについての要求もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの実施形態にしたがうと、分析システムにサンプルを導入するためのサンプリング装置を実現することが可能である。このサンプリング装置は、サンプリング領域を有する回動部材を備えている。上記のサンプリング領域は、分析されるサンプルを保持するように構成されている。上記の回動部材は、第1の位置と第2の位置との間で移動できるように構成されており、前記第1の位置では、前記サンプリング領域が、サンプル収集のためにサンプル物質に露出されており、前記第2の位置では、分析システムによって利用されるためにサンプルを解放する。
【0008】
他の実施形態にしたがうと、分析のためにサンプルを供給する方法を実現することが可能である。この方法は、サンプル収集位置において、サンプリング部材のサンプリング領域にサンプルを収集する工程と、他の位置にこのサンプリング領域を移動するために、サンプル部材を回動させる工程と、分析に使用するために前記サンプリング領域からサンプルを解放する工程と、を含んでいる。上記のサンプル収集位置は、サンプリング領域がサンプル物質に露出されている位置である。
【0009】
より詳細な実施形態にしたがうと、上記の回動部材は、回転部材を備えている。この回動部材としては、ボール型のバルブを使用できる。また、上記のサンプリング領域については、凹所を備えるようにしてもよい。この凹所は、例えば、球形の回動部材における陥凹(リセス:recess)、あるいは、回動部材内の空洞のようなものである。
【0010】
サンプリング領域を複数設けてもよい。
【0011】
上記の回動部材については、サンプルを連続的に収集できるように、および/または、連続的に回転できるように、構成されていてもよい。この回転は、段階的な回転であってもよい。
【0012】
上記のサンプリング装置については、サンプル収集側と分析器側との間にシーリング部材を備えるように構成することも可能である。このシーリングについては、サンプル収集側と分析器側との間の圧力差を維持するように構成するようにしてもよい。
【0013】
サンプルの収集については、電荷誘引、吸収、吸着、冷却トラップ、排除、粘着力、物理的なフィルタリングおよび分子間相互作用からなる群における少なくとも1つに基づくものであってもよい。
【0014】
サンプルの解放については、脱着、加熱、電磁気的放射、溶解、帯電、イオンもしくは原子のビーム、集中的ガスフロー、音響振動、衝撃、および、サンプリング領域の表面もしくは周囲の環境に生じた突然の変化からなる群の少なくとも1つに基づくものであってもよい。
【0015】
サンプリング領域の表面における収集電圧を制御することも可能である。上記したサンプリング領域の表面とサンプル収集チャンバの一部との間に、電位差を選択的に付与することによって、選択的粒子サイズ制御を実施することが可能である。
【0016】
さらに他の実施形態にしたがうと、分析システムにサンプルを導入するためのサンプリング装置を実現することが可能である。このサンプリング装置は、移動可能なサンプリング領域を備えている。また、このサンプリング領域は、分析されるサンプルに収集電圧を印加することで、このサンプルを保持するように構成されている。上記の収集電圧を制御することで、選択的粒子サイズ制御を実施することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態に係る分析システムでは、実質的にリアルタイムで、または、いずれにしても最短の遅れで、浮遊する粒子をサンプリングすることが可能である。また、特定の実施形態では、サンプル収集とサンプル分析とを同時に実施することも可能である。収集と分析とを、連続的なプロセスとすることも可能である。分析プロセスについては、実質的に自動化することもできる。効率的な方法で、システムの収集側と分析器側とを分離することも可能である。さらに、サンプル収集にかかる実効性および制御性を改善することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の分析システムを示す概略図である。
【図2】図2は、一実施形態に係るサンプリング装置を示す部分断面図である。
【図3】図3は、他の実施形態に係るサンプリング装置を示す部分断面図である。
【図4A】図4Aは、サンプリング装置の回動部材の構成を例示する部分断面図である。
【図4B】図4Bは、サンプリング装置の回動部材の構成を例示する部分断面図である。
【図5】図5は、一実施形態に係るフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明、および、本発明を実行する方法についての理解を深めるために、単に例示を目的として、添付の図面を参照しながら説明を行う。
【0020】
本発明の実施形態に係るサンプリング装置を有利に使用することの可能な背景状況についての理解を助けるために、まず、図1を用いて、分析システムについて説明する。この分析システムは、例えば、粒子の化学組成を分析するために使用されるものである。このような分析は、例えば、新しい粒子をどのように形成するのか、および、その形成プロセスにはどの物質が含まれているのか、を理解するときなどに有用である。この分析装置は、どのようなサイズのエアロゾル粒子についても、その化学組成に関するリアルタイム情報を得られるように構成されている。エアロゾルは、気体中に存在する固体あるいは液体の粒子として一般的に知られている。
【0021】
より詳しくは、図1に、分析システムの実施例として、質量分析器10を示している。図示している装置では、粒子中の化合物から形成されるイオンの飛行時間に基づいて分析を行う。また、図示している装置では、サンプルフロー中の複数のエアロゾル粒子を、導入口11から装置中に導入する。そして、単極性に帯電された単極性帯電器(unipolar charger)に粒子を導き、分析のためにサイズ選択した粒子を、帯電したエアロゾル流から分離することができる。この分離は、例えば、微分型電気移動度測定器(differential mobility analyser;DMA)を用いてなされる。
【0022】
この微分型電気移動度測定器を経て、わずかに帯電し、サイズ選択された粒子は、特定のサンプル収集装置16に案内される。このサンプル収集装置16では、粒子を収集し、サンプリング装置10における実際に分析を実施する側に導入する。より詳しくいえば、図1では、粒子はサンプルストリームからサンプリングバルブ16のサンプリング領域に集められる。この収集は、不活性ガス(例えば窒素シースガス)によって実施される。
【0023】
サンプリングバルブ16は、サンプリング装置10の微分型電気移動度測定器側にあるサンプリング領域に、粒子を収集できるように設計されている。そして、サンプリングバルブ16は、それとほぼ同時に、または、いずれにしても収集後の比較的短時間のうちに、収集した粒子を装置の質量分析器側での分析に導入する。この導入では、サンプリング領域から粒子を解放するようになっていることが好ましい。以下に、サンプル収集部材16に関する実施可能な構成を、図2〜4を参照して、より詳細に説明する。
【0024】
図1に例示した質量分析器では、サンプリングバルブ16における質量分析器側において、粒子中の化合物を、イオン化チャンバ18内で、サンプリングバルブ16のサンプリング表面から脱着する。これは、適切な脱着レーザービーム20によって可能となる。このレーザービーム20については、サンプリング表面に対してまっすぐに照射しても、あるいは、適切な角度をもって照射してもよい。例えば、このために、1064nmで駆動されるパルス赤外線NdYAGレーザー20を用いることが可能である。
【0025】
第2レーザー21としては、例えば、紫外線領域(193nm)の短波長エキシマレーザーパルスを用いることが可能である。第2レーザー21は、脱着表面から近い距離にあるイオン化領域において、脱着物のガス状の噴煙(plume)をイオン化するために用いられるものである。なお、この第2レーザーについては、図1に示した構成の完全性を高めるために記載されているにすぎない。この第2レーザーが、サンプリングバルブ16の操作に対して、直接的な影響を与える必要性は必ずしもない。
【0026】
また、イオンは、イオン化チャンバ18から、質量分析器の飛行管(flight tube)22に対して供給される。このとき、イオンは、イオンとは逆極性に帯電されている一組の加速レンズを介して供給される。その後、イオンが、各イオンの飛行時間の差による、質量対電荷比に基づいて分析され、適切な検出器によって検出される。質量スペクトルについては、例えば、演算ユニットにおけるマルチプルイベント・タイムデジタイザPCカードを用いて記録することが可能である。
【0027】
質量分析器における真空チャンバ23の底部に対して、適切な真空を得るためのターボポンプを接続するようにしてもよい。このターボポンプに対しては、前段真空ポンプを接続するようにしてもよい。また、他のポンプを、サンプリングバルブ16のための界面ポンプ(interface pump)として用いてもよい。全帯域用の真空ゲージを、気圧測定用に取り付けてもよい。質量分析器の真空システム、高電圧の供給、および、レーザーの出射(トリガ)については、全てを適切なコンピューターによって制御することが可能である。
【0028】
実施可能なサンプリング装置に関する後述する実施例において、実施形態の例示をより詳細に説明する。
【0029】
図2は、本実施の形態に係るサンプリング装置の断面図である。より詳しくは、図2は、ボール型バルブ30の断面図である。なお、同様に機能するシステムであれば、回転に適したどのような部材(例えば、円柱型バルブ部材)に対しても構築してもよい。
【0030】
図2に示したサンプリングバルブは、回動部材または回動ボール31に配されたサンプリング領域32のサンプリング表面にある固体のサンプル粒子を保持および収集するように構成されている。サンプリング表面33は、ボール31の球面34より低い場所に位置するように配されていることが好ましい。これは、ボール31をはめこんでいる空間内で、サンプリング表面に存在するサンプルとともにボール31を回動できるようにするためである。このサンプリング表面については、図2に示すように、単に、ボール31の切断面を領域として形成するようにしてもよい。あるいは、いずれかの適切な凹所に配してもよい。さらには、回動ボール31の表面に設けるようにしてもよい。実施可能な変形例について、図4Aおよび図4Bに示している。
【0031】
サンプリング領域上の粒子は、電荷誘引(charge attraction)によって収集することが可能である。このような構成では、帯電した粒子が、逆極性に帯電したサンプリング表面に収集される。他のメカニズムとしては、例えば、吸収、吸着、粘着力、冷却トラップあるいは排除(exclusion;多孔質表面の微細孔によるフィルタリング)を挙げられる。これらについても、サンプリング表面に粒子を引きつけるために使用することが可能である。冷却トラップ(すなわち、サンプリング表面の冷却)を用いる応用例では、サンプリング表面の近傍に対し、バルブシャフトを介して冷却液を誘導するようにしてもよい。また、冷却により、サンプリング表面からのサンプルの蒸発を防止することも可能である。
【0032】
上記したサンプリング表面33は、必要であれば、ボール31の他の部分から分離できるように構成してもよい。これは、例えば、電荷を与えるために電圧が印加される際、あるいは、サンプルを解放するために加熱される際に、必要になる可能性がある。高分子材料によって、適切なシーリングを施してもよい。この材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)あるいはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を挙げられる。他の電気的あるいは熱的に非伝導の材料(例えばセラミック材料)についても、用いることが可能である。この非伝導性材料については、ボールに設けられた空洞およびサンプリング領域の周囲に適用(または挿入)することが可能である。また、サンプリング表面に加えられる電圧については、ボールのシャフトを介して供給するように構成することが可能である。したがって、電気的および真空的に絶縁された構成が必要とされる可能性もある。
【0033】
このボールが、金属(例えばステンレススチール)や伝導性ポリマーなどの伝導材料から形成されている場合、上記のシーリングが必要となる可能性がある。一方、ボールが非伝導材料から形成されている場合であれば、シーリングを不要にできる可能性もある。例えば、このボールを、硬質ポリマー(例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK))から形成してもよい。
【0034】
上記のサンプリングバルブ30は、収集されたサンプルを、分析装置の分析器側に導入できるように構成されている。この導入は、バルブボール31を、図2に示した収集位置と解放位置との間で、回動させることによって実現される。なお、収集位置とは、すなわち、サンプリング領域32がサンプリングされる粒子36側に露出されている位置のことである。また、解放位置とは、すなわち、サンプリング領域32が、装置における真空側および/または分析器側37に露出されている位置のことである。
【0035】
真空側(すなわち、分析器側37)では、収集された化合物をサンプリング表面33から適切なメカニズム(例えば脱着)によって解放できるようになっている。このような解放は、例えば、加熱、電磁気的放射(例えばレーザーを使用するなど)、溶解、帯電、イオンや原子などのビーム、集中的ガスフロー、音響振動、何らかの衝撃、またはサンプリング領域の表面もしくは周囲の環境に生じた突然の変化などにより発生させてもよい。
【0036】
サンプリング装置には、サンプリング側の大気圧と、分析システムの分析器側37の真空とを隔てるために、これらの間にシーリングを設けるようにしてもよい。回転部分(すなわち、図2に示したボール31)とバルブ本体38との間に、適切なシーリング35を設けることが好ましい。これは、サンプリングセクションと分析器セクションとの間の圧力差を維持するためである。ボールまわりのシーリングについては、非連続的な方法で形成されていてもよい。例えば、シールを2つ以上の部分に分けて、これらの部分間にスペースあるいはギャップ35’を設けてもよい。また、このシーリングを、一体型のシーリング部材によって構成するようにしてもよく、この場合シーリング表面の領域がボール表面の領域よりも小さくなっている。このシーリングに、少なくとも1本の溝あるいは同様の構造を設けるようにしてもよい。これは、ボールの周囲でのシールの密着性を適切に高めるためのものである。シールの密着方法によらず、圧力下でシールが膨れるようにしておくことが好ましい。これは、ボール表面においてシールが十分に効果的に圧縮されない可能性があるからである。このことは、特に、十分な真空シーリングを確保するためには、表面領域に対抗する力が小さい場合において、重要な点である。
【0037】
ボール型の回動部材の有利な点は、三次元のシーリングを形成することが比較的に容易なことにある。ボールを使うと、小さいサンプル領域に比べて比較的に大きい表面領域をシーリングすることが可能となる。どのような真空でも、このボールを、その周囲のシールに対して密着させて吸いつけることは、可能である。このため、ボール構造は、例えば平面構造によっては達成できない方法で、全ての方向について、収集領域をシーリングすることが可能である。
【0038】
しかしながら、ボールに代えて、バルブの回動部材を、例えば、円柱形、円錐形、楕円体などといった、他の適切な形状のものとしてもよい。重要な点は、収集したサンプルを移動させる時間を最短にできるような方法で、サンプルを収集することが可能な第1の位置と、分析のためにサンプルを解放する第2の位置との間で回動部材が移動可能となることにある。
【0039】
適切な作動バルブを用いることによって、手動あるいは自動的に回動を実行することが可能となる。作動装置(actuator device)としては、例えば、気圧式あるいは電気式のものを用いることが可能である。好ましい実施の形態では、作動装置として、ステップモーターを用いている。この作動装置により、回転部材は連続的に動作するように構成されていてもよい。例えば、その場合適切なスピードで回転部材は連続回動してもよく、あるいは段階的に回転部材は回動してもよい。
【0040】
図3に示した実施形態にしたがうと、複数のサンプリング領域33、34が回転部材31に設けられている。これは、既に採取したサンプルに対する解析を行うと同時に新しいサンプルを収集できる点で優れている。3つ以上のサンプリング領域を設けるようにしてもよい。複数のサンプリング領域を用いると、サンプルを連続的に収集することが容易になる。このような連続収集は、異なる分離システムを複数設けるか、あるいはサンプルフローを連続的なものとすることによって実現できる。
【0041】
図3には、さらに、ボールのシャフト39を示している。このシャフトは、回動ボールと同様の材料から形成してもよいし、異なる材料から形成してもよい。例えば、プラスチックのドライブシャフトを用いることが可能である。シールリング40を、シャフト39に設けてもよい。なお、バルブ部材を回動させるためのシャフトは、いずれのシーリング構造によってシールするようにしてもよい。例えば、上記のシールリング40に代えて、あるいはこれに加えて、シャフトとガイドとの間のスペースを、エポキシなどのシーリング材で満たすようにしてもよい。
【0042】
図3には、高電圧導線41、42を示している。これらは、シャフトを介して伸びており、サンプリング表面部材33a、33bに接続されている。
【0043】
サンプル収集領域に関する実現可能な構成の例を、図4Aおよび図4Bに示している。図4Aに、円形空洞(すなわち穴)43からなる凹所を示す。この空洞(cavity)については、他の適切な形状としてもよい。例えば、楕円体の空洞(図4Bの44を参照されたい)、あるいは、角のある空洞とすることも可能である。また、この空洞については、例えば、ボールの表面に対して、ドリルで穴をあけるか、ミル加工(milling)を施すことで設けることが可能である。
【0044】
図5は、実施形態に係るフローチャートである。ステップ100では、サンプルを、第1の位置において、サンプリング部材のサンプリング領域に収集する。この位置では、サンプリング領域を、サンプリングされる材料(例えば、図1に示したDMA14から運ばれてきた材料)に露出している。いったんサンプルが収集されると、ステップ102において、サンプリング部材を電気モーターによって駆動し、サンプリング領域を第2の位置にまで回動させる。この位置では、サンプリング装置が、分析に使用するためにサンプルを解放できるようになっている。その後、ステップ104において、このサンプルを、サンプリング領域から解放する。そして、ステップ104の後に、これを分析する。
【0045】
この動作については、連続的に行うようにしてもよい。複数のサンプリング領域を設けることで、少なくとも1つのサンプルを収集すると同時に、他のサンプルを解放および/または分析することが可能となる。複数のサンプリングスポットあるいはサンプリング領域を用いるとともに、連続的にサンプルを供給し、少しずつ回動部材を回転させる場合には、この方法を、例えばクロマトグラフィーからの連続的なサンプルフローからサンプルを供給することに使用することが可能となる。
【0046】
マトリックス材料とサンプルとを混合して、この方法を、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI;Matrix assisted laser desorption/ionization)に使用してもよい。なお、この場合、複数のサンプルスポットを洗浄する別工程が必要となる可能性がある。
【0047】
サンプリングについては、大気圧の下で実行することも可能である。または、それに代えて、バルブでのサンプリング側を真空にすることも可能である。さらに、空気分析ではありふれたことではあるが、超過気圧が発生しないように、空気サンプルを、真空によってチャンバに吸い込むようにしてもよい。この超過気圧は、ある特定のタイプの用途においてみられるものである。この超過気圧については、例えば、産業プロセス流(industry process streams)中で、あるいは自動車の排気管からのガス排気中で、使用することが可能なものである。バルブの分析器側についても、同様に、真空にしても大気圧にしてもよい。用途によらず、2つの側の気圧が異なっている場合には、サンプリング装置を、分析システムのサンプリング側と分析器側との間のシーリングとして利用してもよい。
【0048】
サンプリング表面と収集チャンバの他の部分との間に電位差を設けることによってサンプルが収集された場合、この電位差を変えることで、サイズ選択的なサンプルの収集を実現することが可能となる。適切な電圧制御部材によってサンプル収集表面の収集電圧を制御することで、粒子のサイズを調整できる。この電圧制御部材としては、例えば、手作業で操作する分圧器(potentiometer)あるいはソフトウェア制御ユニットなどが挙げられる。粒子のサイズをソフトウェアを用いて制御する場合、適切な制御装置(例えば中央制御ユニット)によって、あるいは、個別の粒子サイズを制御するユニットによって、実現することが可能である。この場合、現在の分析システムにおけるDMA部分を不要にできる。上記したサイズ選択的な収集の原理については、サンプル収集領域を有するどのようなサンプリング装置においても使用することが可能である。
【0049】
付加的な不活性ガスフローにより、可動的なサンプリング部材のサンプリング表面を、気相中の化合物(gas phase compounds)に由来する汚染から保護するように構成することが可能である。これは、例えば、空気中の粒子を収集および分析する場合に必要になる可能性がある。
【0050】
サンプリング部材については、分析装置の一部として一体的に形成するようにしてもよい。
【0051】
上記したサンプリングメカニズムについては、粒子に加えて、液体および気体のサンプルに対しても適用することが可能である。
【0052】
サンプルについては、気体流あるいは液体流から収集することが可能である。
【0053】
サンプリング表面については、スチール、ステンレススチール、金、プラチナあるいは他の全ての化学的に不活性で導電性を有する金属やポリマーから形成することが可能である。金およびプラチナは、レーザー脱着によって影響を受けにくい。多孔質材料(例えばセラミックやケイ素化合物など)は、生物的なサンプルにとって特に優れていると考えられている。そして、この材料は、特に、電荷誘引以外の他のタイプの収集方法を用いる場合には、有効に使用できる。
【0054】
上記では、質量分光分析を用いて実施例を説明した。しかしながら、上記のサンプリング装置については、他のタイプの分析や解析(例えば、電子顕微鏡法やその他の表面分析技術(X線分光、オージェ分光)など)に関して使用することも可能である。
【0055】
上記したバルブについては、固体、気体および液体中の粒子、あるいは気体および液体自体の収集および分析に対して特に好ましく適用できる。
【0056】
上記のメカニズムでは、多数のいろいろな手段によって分析チャンバにサンプルを導入してもよい。
【0057】
安全上の理由から、システムにおいて実現可能な高電圧を指定する場合には、するために、真空を安定させて適切なレベルにするために、短い遅延期間(例えば、約10〜20秒)を設けて電圧を印加できるようにしてもよい。また感圧安全スイッチを、高電圧電源のために設けてもよい。ただし、これらの安全対策は、いずれにしろ、分析に影響するも のではない。
【実施例】
【0058】
〔実験〕
ボール型サンプリングバルブの試作品を、実験室環境でテストした。このサンプリングバルブの試作品は、好適な真空状態および収集特性を示し、短時間の微量の圧力増加が、バルブを回動している間に検出されたが、これは、質量分光分析を行う上で、何らの問題を引き起こすものではないことが、この実験によりわかった。また、近赤外線レーザービーム(short IR laser beam)によるサンプルの脱着が、効果的であることが立証された。微粒子を得ることに関する収集効率が特に良好であることも証明された。同様に、第2のバルブの試作品を作成し、質量分析器のイオン化チャンバ内と一体化した。この第2の試作品では、第1の試作品に対して同等またはそれ以上の性能を有することを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
なお、上記では、本発明の実施形態を例示してきたが、添付した特許請求の範囲に定義されているものとしての本発明の範囲から外れることなく上記した解決法を得るための、いくつもの変化形や修正形があることに留意されたい。
【符号の説明】
【0060】
16…サンプル収集装置
30…ボール型バルブ
31…回動部材
32…サンプリング領域
33…サンプリング表面
35…シーリング
36…サンプル収集された粒子
37…分析器側
43…円形空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析システムにサンプルを導入するためのサンプリング装置であって、
サンプリング領域を有する回動部材を備えており、
前記サンプリング領域は、分析対象のサンプルを保持するように構成されており、
前記回動部材は、第1の位置と第2の位置との間で移動できるように構成されており、
前記第1の位置では、前記サンプリング領域が、サンプル収集のためにサンプル物質に露出されており、
前記第2の位置では、分析システムによって利用されるためにサンプルを解放する、サンプリング装置。
【請求項2】
請求項1において、前記回動部材が回転部材を備えている、サンプリング装置。
【請求項3】
請求項1あるいは2において、前記回動部材がボール型のバルブを備えている、サンプリング装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、前記サンプリング領域が凹所を有している、サンプリング装置。
【請求項5】
請求項4において、前記凹所が、球形の回動部材における陥凹として設けられている、サンプリング装置。
【請求項6】
請求項4あるいは5において、前記凹所が、回動部材の空洞として設けられている、サンプリング装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項において、複数のサンプリング領域を備えている、サンプリング装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項において、前記回動部材が、サンプルを連続的に収集するように構成されている、サンプリング装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項において、前記回動部材が、連続的に回転するように構成されている、サンプリング装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項において、前記回動部材が、段階的に回転するように構成されている、サンプリング装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項において、サンプル収集側と分析器側との間にシーリング部材を備えるように構成されている、サンプリング装置。
【請求項12】
請求項11において、前記シーリングが、サンプル収集側と分析器側との間の圧力差を維持するように構成されている、サンプリング装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項において、前記サンプリング領域が、電荷誘引、吸収、吸着、冷却トラップ、排除、粘着力、物理的なフィルタリングおよび分子間相互作用からなる群における少なくとも1つを用いることによって、サンプルを収集するように構成されている、サンプリング装置。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか一項において、前記サンプリング領域が、脱着に基づいてサンプルを解放するように構成されている、サンプリング装置。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項において、前記サンプリング領域が、加熱、電磁気的放射、溶解、帯電、イオンもしくは原子のビーム、集中的ガスフロー、音響振動、衝撃、および、サンプリング領域の表面もしくは周囲の環境に生じた突然の変化からなる群の少なくとも1つをサンプルに与えることによってサンプルを解放するように構成されている、サンプリング装置。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項において、気体状化合物から発生する汚染から前記可動部材のサンプリング領域を保護するために、不活性ガスフローの供給を受けるように構成されている、サンプリング装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項において、前記サンプリング領域の表面の収集電圧を制御するように構成されている、サンプリング装置。
【請求項18】
請求項17において、選択的な粒子サイズの制御を実施するために、前記サンプリング領域の表面とサンプル収集チャンバの一部との間に、選択的に電位差を設けるように構成されている、サンプリング装置。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか一項において、前記サンプリング領域のサンプリング表面が、スチール、ステンレススチール、金、プラチナ、他の金属、シリコン、セラミック材料、重合体材料およびガラスからなる群の少なくとも1つを備えている、サンプリング装置。
【請求項20】
請求項19において、前記サンプリング領域の材料が多孔質である、サンプリング装置。
【請求項21】
分析システムにサンプルを導入するためのサンプリング装置を備えた分析システムにおいて、
このサンプリング装置は、サンプリング領域を有する回動部材を備えており、
前記サンプリング領域は、分析対象のサンプルを保持するように構成されており、
前記回動部材は、第1の位置と第2の位置との間で移動できるように構成されており、
前記第1の位置では、前記サンプリング領域が、サンプル収集のためにサンプル物質に露出されており、
前記第2の位置では、分析システムによって利用されるためにサンプルを解放する、分析システム。
【請求項22】
請求項21において、質量分析器を備えている、分析システム。
【請求項23】
請求項21あるいは22のいずれか一項において、ポータブル操作に適するように構成されている、分析システム。
【請求項24】
分析のためにサンプルを供給する方法であって、
サンプリング領域がサンプル物質に露出されている第1の位置において、サンプリング部材の前記サンプリング領域にサンプルを収集する工程と、
第2の位置へ前記サンプリング領域を移動するために、前記サンプリング部材を回動させる工程と、
分析のためにサンプルを解放する工程とを含む、方法。
【請求項25】
請求項24において、前記サンプリング部材を段階的に回転させる工程を含んでいる、方法。
【請求項26】
請求項24あるいは25において、少なくとも1つのサンプルを収集する工程と同時に、少なくとも他の1つのサンプルを解放する工程とを実行する、方法。
【請求項27】
請求項24〜26のいずれか一項において、前記サンプリング部材によって、サンプル収集側と分析器側との間に圧力差を維持する工程を含んでいる、方法。
【請求項28】
請求項24〜27のいずれか一項において、前記収集工程が、電荷誘引、吸収、吸着、冷却トラップ、排除、粘着力、物理的なフィルタリングおよび分子間相互作用からなる群における少なくとも1つを用いることによって、サンプルを収集する、方法。
【請求項29】
請求項24〜28のいずれか一項において、前記解放工程が、脱着、加熱、電磁気的放射、溶解、帯電、イオンもしくは原子のビーム、集中的ガスフロー、音響振動、衝撃、および、サンプリング領域の表面もしくは周囲の環境に生じた突然の変化からなる群の少なくとも1つをサンプルに与えることによってサンプルを解放する工程を含んでいる、方法。
【請求項30】
請求項24〜29のいずれか一項において、前記サンプリング領域の表面における収集電圧を制御する工程を含んでいる、方法。
【請求項31】
請求項30において、前記サンプリング領域の表面とサンプル収集チャンバの一部との間に、電位差を選択的に付与することによって、選択的粒子サイズ制御を実施する工程を含んでいる、方法
【請求項32】
分析システムにサンプルを導入するためのサンプリング装置において、
移動可能なサンプリング領域を備えており、
前記サンプリング領域が、分析されるサンプルに収集電圧を印加することで、このサンプルを保持するように構成されており、
前記収集電圧を制御することで、選択的粒子サイズ制御を実施するようになっている、サンプリング装置。
【請求項33】
請求項32において、前記サンプリング領域の表面とサンプル収集チャンバの一部との間に、選択的に電位差を付与するように構成されている、サンプリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−537842(P2009−537842A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511601(P2009−511601)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【国際出願番号】PCT/IB2007/001340
【国際公開番号】WO2007/135554
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(508345841)ユニバーシティ・オブ・ヘルシンキ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF HELSINKI
【出願人】(508345852)フィニッシュ・メテオロロジカル・インスティテュート (1)
【氏名又は名称原語表記】FINNISH METEOROLOGICAL INSTITUTE
【Fターム(参考)】