説明

分析用デバイスおよびそれを用いた試料液分析方法

【課題】穿刺具または試料注入具を用いて得られる試料液のどちらの場合にも直接に採取できる分析用デバイスを提供する。
【解決手段】穿刺具を用いて得られる試料液の場合は第1の注入口(14)から採取し、試料注入具を用いて得られる試料液の場合には第2の注入口(201)に注入する。
第1の注入口(14)から採取した試料液は、第1の毛細管キャビティ(4)を介して保持チャンバー(5)に移送される。第2の注入口(201)に注入された試料液は、第2の毛細管キャビティ(202)を介して保持チャンバー(5)に移送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的流体を電気的もしくは光学的に分析する際に使用される分析用デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、分析用デバイスを用いて生物学的流体を電気化学的に分析する方法としては、試料液中の特定の成分を分析するバイオセンサーとして、例えば、血液中のグルコースとセンサー中に担持したグルコースオキシダーゼ等の試薬との反応により得られる電流値を測定することにより、血糖値などを求めるものがある。
【0003】
また、光学的に分析する方法としては、液体流路を形成した分析用デバイスを用いて分析する方法が知られている。
分析用デバイスは水平軸を有する回転装置を使って流体の制御をすることが可能であり、遠心力を利用して、試料の定量、細胞質材料の分離、分離された流体の移送分配、液体の混合・攪拌などを行う試験部に試料を送り込むことができるため、種々の生物化学的な分析を行うことが可能である。
【0004】
従来の試料採取方法としては、特許文献1,特許文献2に見られるものなどがある。
特許文献1は図14に示すような遠心力移送式バイオセンサー310を使用したものであって、試料は、注入口313から毛細管力により毛細管312内に採取され、次に遠心力を作用させることで、毛細管312内の試料は第1の流路314を介して受入キャビティ317に移送され、受入キャビティ317で試薬と反応、および遠心分離させたのちに、第2のキャビティ316に溶液成分のみを芯318の毛細管力によって採取し、光学的に反応状態が読み取られる。
【0005】
特許文献2は図15に示す遠心移送式バイオセンサー400を使用したものであって、試料は、入口ポート409から出口ポート410まで毛細管力で移送し、各毛細管404a〜404fを試料液で満たした後、バイオセンサー400の回転によって発生する遠心力によって、それぞれの毛細管内の試料液を各通気孔406a〜406gの位置で分配し、各連結微小導管407a〜407fを通って、次の処理室(図示省略)へ移送される。
【0006】
これらの分析用デバイスとしてのバイオセンサー310,400へ試料を供給する手段としては、試料注入口から毛細管力により試料を吸引可能な形状とするのが一般的である。指先や耳たぶを穿刺具により穿刺することで得られた少量の血液を、この注入口313または入口ポート409に接触させることで、血液は毛細管力により分析用デバイス内に吸引される。また、血液は毛細管内を完全に満たすまで毛細管力によって吸引されるため、規定量の試料を吸引することで試料注入口と連通した毛細管が満たされるように設計することで、分析用デバイスに供給される試料を一定量にする方法が一般的にとられている。
【特許文献1】特表平4−504758号公報
【特許文献2】特表2004−529333号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来の構成では、注射器、スポイトやピペットなどの試料注入具から注入する場合には、試料注入具の先端部を分析用デバイスの試料注入口に接触させ、表面張力で試料が注入口外部に保持できる少量を幾度か点着することで毛細管力によって試料を吸引していく必要がある。または、試料注入具からプラスティックやガラスなどでできたシート状の試験片に試料を滴下し、そこに分析用デバイスの試料注入口を接触させるようにすることで吸引させたりする必要があり、ユーザーの作業が非常に煩雑なものになる。特に、試料注入具での注入形態は、病院、臨床検査会社、研究機関で多く見られ、ユーザーからの要望は高い。
【0008】
本発明は、前記課題を解決するもので、試料注入具から注入された試料を注入口から漏れないように吸引し、回転動作により試料を定量でき、従来の穿刺具を用いた手法と共に、試料注入具からの試料を採取可能である分析用デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1記載の分析用デバイスは、試料液を採取するための第1の注入口と、第1の注入口に接続され第1の注入口を介して毛細管力により試料液を採取することのできる第1の毛細管キャビティと、第1の毛細管キャビティと連通して軸心周りの回転によって発生する遠心力によって移送される第1の毛細管キャビティ内の試料液を受け取るための保持チャンバーとを備えた分析用デバイスであって、第1の注入口とは別の試料液を採取するための第2の注入口と、第2の注入口および前記保持チャンバーに連結され第2の注入口を介して毛細管力により試料液を採取できる第2の毛細管キャビティとを有していることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項2記載の分析用デバイスは、請求項1において、第1の毛細管キャビティと第2の毛細管キャビティが連結されていることを特徴とする。
本発明の請求項3記載の分析用デバイスは、請求項1において、第1の毛細管キャビティには、その一側面に連続して毛細管力を発生しない隙で大気と連通したキャビティを設けたことを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4記載の分析用デバイスは、請求項1において、第1の注入口が、凸形状の先端で開口していることを特徴とする。
本発明の請求項5記載の分析用デバイスは、請求項1において、第2の注入口の底面が第2の毛細管キャビティに向かって試料液が流れやすいように傾斜面となっていることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6記載の分析用デバイスは、請求項1において、第2の注入口と第2の毛細管キャビティの結合部に窪みを設けたことを特徴とする。
本発明の請求項7記載の分析用デバイスは、請求項1において、第2の注入口に血球と血漿を分離するためのフィルタを設けたことを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項8記載の分析用デバイスは、請求項2において、第2の毛細管キャビティがサイフォン構造を有していることを特徴とする。
本発明の請求項9記載の分析用デバイスは、請求項1において、第2の注入口が溢流流路を介して溢流チャンバーと連結されていることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項10記載の試料液分析方法は、試料液を採取するための第1の注入口に接続され毛細管力により試料液を採取できる第1の毛細管キャビティと、第1の毛細管キャビティと連通して軸心周りの回転によって発生する遠心力によって移送される第1の毛細管キャビティ内の試料液を受け取るための保持チャンバーと、第1の注入口とは別の試料液を採取するための第2の注入口と、第2の注入口および前記保持チャンバーに連結され第2の注入口を介して毛細管力により試料液を採取できる第2の毛細管キャビティとを有している分析用デバイスにおける試料液分析方法であって、試料液を直接に分析用デバイスに注入する場合は、試料液を第1の注入口から注入して前記保持チャンバーに供給し、試料液を試料注入具を介して注入する場合は、第2の注入口から注入して第2の毛細管キャビティを介して前記保持チャンバーに供給し、前記保持チャンバーから測定チャンバーに移送された試料液にアクセスして読み取ることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項11記載の試料液分析方法は、試料液を採取するための第1の注入口に接続され毛細管力により試料液を採取できる第1の毛細管キャビティと、第1の毛細管キャビティと連通して軸心周りの回転によって発生する遠心力によって移送される第1の毛細管キャビティ内の試料液を受け取るための保持チャンバーと、第1の注入口とは別の試料液を採取するための第2の注入口と、第2の注入口および前記保持チャンバーに連結され第2の注入口を介して毛細管力により試料液を採取できる第2の毛細管キャビティとを有している分析用デバイスが装着される分析装置であって、前記分析用デバイスをその第1の注入口を軸心側に向けた状態で保持して軸心回りに回転させる回転駆動手段と、第1の注入口あるいは第2の注入口から採取されて第1の毛細管キャビティと第2の毛細管キャビティのうちの少なくとも第1の毛細管キャビティに保持されている試料液を、前記回転駆動手段による回転に伴って発生した遠心力によって、前記保持チャンバーに移送させた後に、前記保持チャンバーから測定チャンバーに移送された試料液にアクセスして読み取る分析手段とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この構成によれば、試料注入具から注入された試料を第2の注入口から漏れないように吸引し、回転動作により試料を定量でき、従来の穿刺具を用いた手法と共に、試料注入具からの試料を採取可能である分析用デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の分析用デバイスおよびそれを用いた分析方法ならびに試料液注入方法の実施の形態を図1〜図13に基づいて説明する。
図1と図2は本発明の実施の形態における分析用デバイス3を示している。
【0018】
分析用デバイス3は、上部基板1と下部基板2との貼り合わせで構成されており、下部基板2の1つの面には、微細な凹凸形状をもつマイクロチャネル構造が形成されており、試料液の移送や、所定量の液量を保持するなど、それぞれの機能が働くようになっている。上部基板1と下部基板2の貼り合わせは、超音波接合、UV接着など良く知られている接合方法で接合するが、接合後、試料液の飛散を防止するために軸1aを中心に開閉できる保護キャップ41が取り付けられる。
【0019】
第1の注入口14とは、下部基板2に形成された溝状の第1の毛細管キャビティ4とこの第1の毛細管キャビティ4の長手方向の開口部を閉塞するように上部基板1に形成されている凸形状の突き出し部4b(図4を参照)とで構成された入口側の開口である。
【0020】
第2の注入口201とは、下部基板2に形成された凹部201bと上部基板1に形成されて前記凹部201bに連通する孔201aとで構成されている。使用状態の孔201aの開口は、保護キャップ41に形成された蓋部41aによって覆われて閉じている。
【0021】
図4は、分析用デバイス3の第1の注入口14の周辺部から見た斜視図であるが、第1の注入口14は、分析用デバイス本体の一側面より突出した凸形状の突き出し部4bにすることにより、指先などによる血液の点着がしやすくなり、点着時に第1の注入口14以外の位置に指などが接触して血液が付着するのを防ぐという効果がある。
【0022】
図3は、分析装置100のロータ101に1つの分析用デバイス3がセットされた状態を示しており、分析装置側の回転駆動手段(図示せず)により、ロータ101が軸心11の回りの所定の方向に回転駆動される。分析用デバイス3は第1の注入口14が軸心11の方向を向くようにロータ101にセットされている。
【0023】
分析用デバイス3の一側面で第1の注入口14の周囲には、図4に示すように凹部12が形成されている。凹部12は、ロータ101にセットされた状態で見ると軸心11側のみが開口し、さらに軸心11より外周方向に向けて窪んでいる。
【0024】
なお、凹部12は、凹部の軸心側における開口部の断面積が、凹部の外周側の開口部における断面積よりも同等以上の大きさになるように、ゆるやかに湾曲した構造になるように形成させることによって、第1の注入口14の周囲に付着した試料液は、ロータ101の回転に伴う遠心力によって確実に凹部12の奥へ移送され、さらに凹部12の一番低い位置へ移送されやすくなり、凹部12外へ飛散することなく収集できる。
【0025】
分析装置100は図5に示すように、ロータ101とシャフト120はロータ保持部材121を介して固着されており、モータ104とシャフト120およびモータ軸のそれぞれに取り付けられたカップリング105a,105bにより駆動連結されている。シャフト120は軸受け保持部材122に取り付けられたボールベアリング109a,109bにより回転自在に支持されている。モータ104は、CPUなどで構成される中央処理部301からの駆動命令に従い、ドライバICなどで構成される駆動制御部302を介してモータ104に印加される電流により回転所望する方向に、所望の回転速度で回転する。ロータ101上には分析用デバイス3との回転時のバランスをとるためのバランサ102が配置されている。ロータ101および分析用デバイス3を含めた回転部分は、上ハウジング106aと下ハウジング106bにより密閉された空間内にあり、ヒータ112a〜112dによりハウジング空間内が加温している。
【0026】
以下に本発明の分析装置100における具体的な試料液の測定方法について、分析用デバイス3の分析装置への挿入までの手順については図6を用いて説明し、それ以降の手順については図5を用いて説明する。
【0027】
ユーザーは分析装置100に分析用デバイス3を装着する前に、第1の注入口14あるいは後述する第2の注入口より分析用デバイス3に試料液を注入する。そしてユーザーは図6に示すように上ハウジング106aに設けられた扉111を開ける。扉111を開けることに連動してクラムシェルタイプの分析用デバイス保持部材125が、基端部の軸125aを中心に回動し、扉111によって開放された位置に分析用デバイス保持部材125の先端部が臨む図6の状態になる。
【0028】
この分析用デバイス保持部材125に分析用デバイス3を挿入し、扉111を閉じることで、分析用デバイス保持部材125が仮想線で示す位置に復帰して分析用デバイス3をロータ101上の所定の位置に保持する。
【0029】
そしてユーザーは測定開始を指示するための操作ボタンなどを配置した操作部308を操作して試料液成分の測定を開始する。ユーザーからの命令を中央処理部301で解釈し駆動制御部302によりモータ104を駆動し分析用デバイス3を回転させたり、停止させたりし、遠心力や毛細管力を利用し、最終的に分析対象を分析用デバイス3の測定チャンバー7(図2を参照)に導入する。
【0030】
測定チャンバー7への導入に先立ち、血漿は分析用デバイス3の保持シャンバー5に配置されている酵素、色素、バッファなどで構成される試薬(図示せず)と酵素反応を起こし呈色している。このときモータ104の回転数を例えば500rpmから1500rpmに速度変動させ加速度を印加するとか、時計回り、反時計回りと正逆回転運動を繰り返すことにより溶解や攪拌を促進することが可能である。そして呈色した反応液は、測定チャンバー7に移送され光源108で照射され、その透過光が検出器107により検出される。入射光に対する反射光の比率により吸光度を求め、メモリー部309に保持された検量線に基づき特定成分の濃度が中央処理部301で演算され表示部307に表示される。
【0031】
また、試料液が血液検体の場合には、一般的に温度依存性が高く測定時間や測定精度に影響するため、少なくとも試薬反応を開始してからの温度は一定(30℃〜37℃)であることが好ましい。そのため、分析装置100では試薬との反応開始時には少なくとも37℃程度になるように、温度センサー129の温度データ処理部305の検出結果に基づきヒータ112を温度制御部306で制御し、ハウジング空間内の空気温度を管理している。このようにハウジング内の空気温度を一定にすることにより分析用デバイス3をムラなく均一に加熱することが可能となる。
【0032】
なお、分析装置100は、その用途に応じて、分析用デバイス3内のチャンバー及び流路の構成により、軸心周りの回転によって発生する遠心力を用いて、分析用デバイス3内の液を移送したり、遠心分離したりする遠心分離機にもなりえる。
【0033】
分析用デバイス3の形状は、扇形状や、立方体形状やその他の形状のものでもよく、これらの分析用デバイス3を複数個同時にロータ101へ装着するようにしてもかまわない。
【0034】
次に、本実施の形態1の分析用デバイス3のマイクロチャネル構成、および試料液の移送プロセスについて詳細に説明する。
図7は図1と図2に示した分析用デバイス3のマイクロチャネル構成を示す。図8は第1注入口14から試料液を注入した場合の試料液注入から測定チャンバーまでの移送の過程を示している。図9は毛細管キャビティおよびキャビティの断面形状の例を示す。
【0035】
図7に示すように、分析用デバイス3のマイクロチャネル構成は、試料液を採取するための第1の注入口14と、第1の注入口14に注入された試料液を所定量だけ保持するための第1の毛細管キャビティ4と、サイフォン構造の第2の毛細管キャビティ202と、第1の毛細管キャビティ4内の空気を排出するためのキャビティ15と、分析試薬(図示せず)が保持されている保持チャンバー5と、試料液と分析試薬との混合物を測定する測定チャンバー7と、保持チャンバー5と測定チャンバー7に連通する流路6と、さらに測定チャンバー7と、大気開放孔9を連通させる流路8とで構成されている。
【0036】
ここで、第1の毛細管キャビティ4、流路6、流路8の深さは50μm〜300μmで形成されているが、毛細管力で試料液が流れるのであれば、この寸法に限定されるものではない。保持チャンバー5、測定チャンバー7、キャビティ15,16の深さは、0.3mm〜5mmで形成しているが、これは、サンプル溶液の量や、吸光度を測定するための条件(光路長、測定波長、サンプル溶液の反応濃度、試薬の種類等)によって調整可能である。
【0037】
毛細管力で試料液を流すために、第1の毛細管キャビティ4、流路6、流路8の壁面に親水処理を行っており、親水処理方法としては、プラズマ、コロナ、オゾン、フッ素等の活性ガスを用いた表面処理方法や、界面活性剤や親水性ポリマーによる表面処理が挙げられる。ここで、親水性とは水との接触角が90°未満のことをいい、より好ましくは接触角40°未満である。
【0038】
− 第1の注入口14に試料液を導入した場合の移送プロセス −
この場合の移送プロセスは図8のように実行される。
分析用デバイス3に試料液を供給するためには、この分析用デバイス3を分析装置100にセットする前に、分析用デバイス3の一側面より第1の注入口14に試料液を点着させる。点着直後に、試料液は図8(a)に示すように、毛細管現象により第1の毛細管キャビティ4およびサイフォン構造の第2の毛細管キャビティ202に所定量だけ注入される。
【0039】
このとき、第1の毛細管キャビティ4の側面に第1の毛細管キャビティ4内の空気を排出するためのキャビティ15を設けているため、試料液は第1の毛細管キャビティ4の側面部が先行して流れる毛細流ではなく、第1の毛細管キャビティ4の中央部が先行して流れる毛管流となって第1の毛細管キャビティ4内を充填していく。そのため、第1の注入口14に点着させる試料液が第1の第1の毛細管キャビティ4の充填途中で不足したり、試料液を充填途中で第1の注入口14から離してしまったりした場合でも、再度、第1の注入口から点着することで、試料液は第1の毛細管キャビティ4の中央部が先行して流れ、毛細管キャビティ内に保持されていた試料液の中央部と接触し、空気をキャビティ15のある側面方向に排出しながら充填されるため、気泡が発生せず、第1の毛細管キャビティ4が所定量の試料液を保持できるまで、何度でも点着することが可能となる。
【0040】
第1の毛細管キャビティ4とキャビティ15は、図9に示すように下部基板2に形成された矩形状の第1の毛細管キャビティ4の片側の側面に、厚み方向の断面寸法が第1の毛細管キャビティ4の断面寸法より大きくなるようなキャビティ15を設ける。第1の毛細管キャビティ4とキャビティ15の構成はこれに限定されるものではない。
【0041】
図9に示す構成では、キャビティ15の厚み方向の断面寸法を第1の毛細管キャビティ4の断面寸法よりも50μm以上大きくすることで、試料液のキャビティ15への流入を抑制することができる。キャビティ15の厚み方向の断面寸法の上限値としては特に規定はないが、毛細管キャビティの厚み方向の断面寸法を保つために上部基板1に剛性をもたす必要があるため、上部基板1の表面からキャビティ15までの距離を0.5〜1mm程度とることが望ましい。また、第1の毛細管キャビティ4に毛細管現象を働かすために親水処理を行う必要があるが、親水処理は第1の毛細管キャビティ4の壁面のみにすることが望ましく、他のキャビティ15などの壁面に親水処理をしておくと、キャビティ15内への試料液の流入が起こってしまう。
【0042】
第1,第2の毛細管キャビティ4,202に試料液が充填された後、保護キャップ41を図1のように閉じた状態にした分析用デバイス3を分析装置100にセットし、分析装置100の駆動手段によって分析用デバイス3を回転させることで、図8(b)に示すように、第1,第2の毛細管キャビティ4,202内の試料液は、分析試薬があらかじめ担持されている保持チャンバー5内に遠心力によって移送される。またこのとき、第2の毛細管キャビティ202の試料液が溢流チャンバー204にも若干が移送される。
【0043】
保持チャンバー5内に流入した試料液は、分析装置100の回転の加速度による揺動や回転停止中の液の拡散によって、保持チャンバー5内に担持されている分析試薬と混合されるが、保持チャンバー自体を直接に振動させるような外的な力を作用させて混合することも可能である。
【0044】
次に試薬と試料液との混合が所定のレベルに到達すると、保持チャンバー5内の試料液は、図8(c)に示すように、毛細管力で流路6内を通じて測定チャンバー7の入口まで移送される。
【0045】
次に分析装置100の回転で、図8(d)に示すように、流路6内の試料液は測定チャンバー7内に移送され、分析装置100に取り付けられている測定手段(図示せず)により、試料液と分析試薬との反応状態を吸光度測定などによって測定することにより、その成分の濃度を測定できる。
【0046】
− 第2の注入口201に試料液を導入した場合の移送プロセス −
この場合の移送プロセスは図10のように実行される。また以降の説明に使用する図11(a)は図7のA−A断面図を、図11(b)は図7のB−B断面図を示している。
【0047】
分析用デバイス3を分析装置100にセットする前に、この場合には、大きく開口した第2の注入口201の孔201aに、ユーザーが注射器、スポイトあるいはピペットなどの試料注入具を用いて試料液を点着する。点着直後に、試料液は図10(a)に示すように、毛細管現象により第1の毛細管キャビティ4および第2の毛細管キャビティ202に所定量だけ注入され、余剰な試料液は第2の注入口201に残ったままとなる。
【0048】
このとき第2の注入口201は図11(a)(b)に示されるように窪み205と第2の毛細管キャビティ202に向かうような傾斜面206a,206b,206cを有しているため、試料液はおのずと第2の毛細管キャビティ202に向かって移動し、第2の毛細管キャビティ202および第1の毛細管キャビティ4へと試料液を毛細管力で移送することができる。
【0049】
第1,第2の毛細管キャビティ4,202に試料液が充填された後、保護キャップ41を図1のように閉じた状態の分析用デバイス3を分析装置100にセットし、分析用デバイス3を分析装置100の駆動手段によって回転させることで、図10(b)に示すように、第1,第2の毛細管キャビティ4,202内の試料液は、分析試薬があらかじめ担持されている保持チャンバー5内に遠心力によって移送される。このとき、第2の毛細管キャビティ202の余剰の試料液が溢流流路203を通じて溢流チャンバー204にも移送される。溢流チャンバー204には比較的多くの余剰の試料液が排出されているため廃棄時の液漏れを防止するために脱脂綿やろ紙フィルタなど吸水部材を溢流チャンバー204に配置しておいても良い。
【0050】
図12と図13には第2の注入口201の孔201aと凹部201bとの間に、フィルタ部材207が配置されるよう上部基板1と下部基板2との間にフィルタ部材207を挟んだ例を示している。フィルタ部材207は、試料が血液である場合に血漿だけを通過させて血球を通さないガラスフィルタなどで形成することによって、第2の注入口201から注入した血液に関しては血漿を用いる分析、第1の注入口4より点着した血液については全血を用いた分析、と言ったように、保持チャンバー5の試薬を変更するだけで同じ形態の分析用デバイス3で用途別の使用が可能となる。
【0051】
以降の試薬液の移送については、図10(c)は前述の図8(c)の説明と、また図10(d)は前述の図8(d)での説明と同一であるのでここでは省略する。
なお、第2の毛細管キャビティ202の頂点部に連通する大気開放孔を設けることにより保持チャンバー5に移送される試料液の定量性をより向上させることができる。
【0052】
なお、請求項における回転駆動手段は、図5のモータ104、シャフト120、モータ104とシャフト120を連結するためのカップリング105、ロータ101、ロータ保持部材121、モータ104を制御する駆動制御部302および駆動制御部302を制御する中央処理部301によって構成されている。
【0053】
請求項における分析手段は、図5の検出器107、光源108、検出器107で検出した透過光を電気信号に変換するための信号処理部304、光源108の出力光を制御する光源制御部303および信号処理部304と光源制御部303を制御し、吸光度を算出する中央処理部301によって構成されている。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は生物学的流体の分析作業の改善に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施の形態における分析用デバイスの外観図
【図2】同実施の形態の分析用デバイスの分解斜視図
【図3】同実施の形態の分析用デバイスが分析装置のロータに装着されているイメージを示した外観斜視図
【図4】同実施の形態の分析用デバイスを第1の注入口の周辺部から見た斜視図
【図5】同実施の形態の分析用デバイスが装着された状態での分析装置の中央断面図
【図6】同実施の形態の分析用デバイスの装着途中の分析装置の中央断面図
【図7】同実施の形態の分析用デバイスのマイクロチャネル構成を示す平面図
【図8】同実施の形態の分析用デバイスの第1の注入口から試料液を注入した場合の試料液注入過程〜測定チャンバーの充填過程の工程図
【図9】同実施の形態の分析用デバイスにおける毛細管キャビティおよびキャビティの形状例を示す断面図
【図10】同実施の形態の分析用デバイスの第2の注入口から試料液注入過程〜測定チャンバーの充填過程の工程図
【図11】図7のA−A断面図と図7のB−B断面図
【図12】同実施の形態の分析用デバイスの第2の注入口にフィルタを配置した場合の分解斜視図
【図13】同実施の形態の分析用デバイスの第2の注入口にフィルタを配置した場合の平面図
【図14】従来例の遠心移送式バイオセンサーの構成図
【図15】従来例の遠心移送式バイオセンサーの試料液分配を説明する図
【符号の説明】
【0056】
1 上部基板
2 下部基板
3 分析用デバイス
4 第1の毛細管キャビティ
5 保持チャンバー
6 流路
7 測定チャンバー
8 流路
9 大気開放孔
11 軸心
14 第1の注入口
15 キャビティ
41 保護キャップ
100 分析装置
101 ロータ
102 バランサ
104 モータ
105 カップリング
106 ハウジング
107 検出器
108 光源
109 ボールベアリング
111 扉
112a〜112d ヒータ
120 シャフト
121 ロータ保持部材
122 軸受け保持部材
125 分析用デバイス保持部材
129 温度センサー
201 第2の注入口
202 第2の毛細管キャビティ
203 溢流流路
204 溢流チャンバー
205 窪み
206a,206b,206c 傾斜面
207 フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を採取するための第1の注入口と、第1の注入口に接続され第1の注入口を介して毛細管力により試料液を採取することのできる第1の毛細管キャビティと、第1の毛細管キャビティと連通して軸心周りの回転によって発生する遠心力によって移送される第1の毛細管キャビティ内の試料液を受け取るための保持チャンバーとを備えた分析用デバイスであって、
第1の注入口とは別の試料液を採取するための第2の注入口と、
第2の注入口および前記保持チャンバーに連結され第2の注入口を介して毛細管力により試料液を採取できる第2の毛細管キャビティと
を有している分析用デバイス。
【請求項2】
第1の毛細管キャビティと第2の毛細管キャビティが連結されている
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項3】
第1の毛細管キャビティには、その一側面に連続して毛細管力を発生しない隙で大気と連通したキャビティを設けた
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項4】
第1の注入口が、凸形状の先端で開口している
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項5】
第2の注入口の底面が第2の毛細管キャビティに向かって試料液が流れやすいように傾斜面となっている
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項6】
第2の注入口と第2の毛細管キャビティの結合部に窪みを設けた
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項7】
第2の注入口に血球と血漿を分離するためのフィルタを設けた
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項8】
第2の毛細管キャビティがサイフォン構造を有している
請求項2に記載の分析用デバイス。
【請求項9】
第2の注入口が溢流流路を介して溢流チャンバーと連結されていることを特徴とする
請求項1に記載の分析用デバイス。
【請求項10】
試料液を採取するための第1の注入口に接続され毛細管力により試料液を採取できる第1の毛細管キャビティと、第1の毛細管キャビティと連通して軸心周りの回転によって発生する遠心力によって移送される第1の毛細管キャビティ内の試料液を受け取るための保持チャンバーと、第1の注入口とは別の試料液を採取するための第2の注入口と、第2の注入口および前記保持チャンバーに連結され第2の注入口を介して毛細管力により試料液を採取できる第2の毛細管キャビティとを有している分析用デバイスにおける試料液分析方法であって、
試料液を直接に分析用デバイスに注入する場合は、試料液を第1の注入口から注入して前記保持チャンバーに供給し、
試料液を試料注入具を介して注入する場合は、第2の注入口から注入して第2の毛細管キャビティを介して前記保持チャンバーに供給し、
前記保持チャンバーから測定チャンバーに移送された試料液にアクセスして読み取る
試料液分析方法。
【請求項11】
試料液を採取するための第1の注入口に接続され毛細管力により試料液を採取できる第1の毛細管キャビティと、第1の毛細管キャビティと連通して軸心周りの回転によって発生する遠心力によって移送される第1の毛細管キャビティ内の試料液を受け取るための保持チャンバーと、第1の注入口とは別の試料液を採取するための第2の注入口と、第2の注入口および前記保持チャンバーに連結され第2の注入口を介して毛細管力により試料液を採取できる第2の毛細管キャビティとを有している分析用デバイスが装着される分析装置であって、
前記分析用デバイスをその第1の注入口を軸心側に向けた状態で保持して軸心回りに回転させる回転駆動手段と、
第1の注入口あるいは第2の注入口から採取されて第1の毛細管キャビティと第2の毛細管キャビティのうちの少なくとも第1の毛細管キャビティに保持されている試料液を、前記回転駆動手段による回転に伴って発生した遠心力によって、前記保持チャンバーに移送させた後に、前記保持チャンバーから測定チャンバーに移送された試料液にアクセスして読み取る分析手段と
を備えた分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−250906(P2009−250906A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101995(P2008−101995)
【出願日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】