説明

分析装置及び分析方法

【課題】表面増強ラマン分光法における測定値のばらつきを抑えることが可能な分析装置及び分析方法を提供すること。
【解決手段】検体と、磁性粒子及び金属ナノ粒子からなる標識粒子を含む試薬とを分注した反応容器に集磁処理を行なって、検体内の測定対象物と試薬との複合体が凝集した凝集体を生成する集磁部材31と、レーザ光源が出射したレーザ光を凝集体に照射することによって発生するラマン散乱光を分光して測光する測光ユニット33とを備え、測光ユニットが測光した表面増強されたラマン散乱光をもとに検体を分析する分析装置1及び分析方法。分析装置1は、凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を0.001〜0.005mW/μmに抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面増強ラマン散乱(SERS: Surface-enhanced Raman Scattering)と呼ばれるラマン分光法を利用して検体を分析する分析装置及び分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光分析は、検体にレーザ光を照射することにより発生するラマン散乱光を検出する分析法であり、検出対象物の分子構造に依存した特有な情報を得ることができる。このため、ラマン分光分析は、ウィルス、蛋白質等の生化学物質や環境化学物質の検出、バイオセンサ等に有効な分析方法として知られている。しかしながら、ラマン分光分析は、ラマン散乱光が極めて微弱であることから、微量分析には適さないという問題があった。
【0003】
ところで、原子レベルの粗さを持つ金、銀などの金属表面における吸着種のラマン散乱強度は、非吸着種に比較して10〜10倍増強される場合があることが知られており、この現象は表面増強ラマン散乱と呼ばれている。更に、金属ナノ粒子を凝集させることによって、非吸着種と比較してラマン散乱強度を1014倍程度まで増強させることができることが発見された。そこで、近年、原子レベルの粗さを持つ金・銀などの金属ナノ粒子を標識物質として用い、更に、この標識物質と検出対象物との複合体を凝集させてラマン散乱強度を増強させることによって、検出対象物を分析する分析方法が注目されている。
【0004】
具体的には、標識物質である金属ナノ粒子を含む試薬に検体内の検出対象物と反応する磁性粒子を含んだ試薬を検体に加える分析装置が提案されている(特許文献1参照)。このような分析装置では、磁性粒子と、検出対象物と、標識物質との複合体を、磁力を与えることによって凝集させ、生成した凝集体にレーザ光を照射し、表面増強されたラマン散乱光を測定することによって検体内の検出対象物を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/116093号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、表面増強ラマン分光法は、従来、測定されるラマンシグナルの強度が変動し、測定値がばらついて再現性が低いことが知られている。このため、表面増強ラマン分光法は、生体物質の測定を含む臨床検査に応用する場合、測定値のばらつきを抑えることが望まれていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、表面増強ラマン分光法における測定値のばらつきを抑えることが可能な分析装置及び分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の分析装置は、検体と、磁性粒子及び金属ナノ粒子からなる標識粒子を含む試薬とを分注した反応容器に集磁処理を行なって、前記検体内の測定対象物と前記試薬との複合体が凝集した凝集体を生成する集磁手段と、レーザ光源が出射したレーザ光を前記凝集体に照射することによって発生するラマン散乱光を分光して測光する測光手段と、を備え、前記測光手段が測光した表面増強されたラマン散乱光をもとに前記検体を分析する分析装置において、前記凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を0.001〜0.005mW/μmに抑制することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の分析装置は、上記の発明において、前記反応容器を保持して前記レーザ光に対して回転又は移動させて前記レーザ光の照射位置を変化させることによって前記凝集体に照射される前記レーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を抑制する駆動手段と、前記ラマン散乱光を前記受光手段によって時分割で測光するように制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の分析装置は、上記の発明において、前記レーザ光を収束させて前記凝集体に照射する対物レンズと、前記レーザ光源,前記対物レンズ及び前記測光手段を搭載して前記反応容器に対して接近又は離反する駆動ステージと、前記駆動ステージを前記反応容器に対して接近又は離反させて前記凝集体に照射される前記レーザ光のスポット径を変化させる制御を行う制御手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の分析装置は、上記の発明において、前記ラマン散乱光を集光する集光レンズと、前記測光手段を搭載して前記集光レンズに対して接近又は離反する受光ステージと、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の分析装置は、上記の発明において、反射鏡とビームスプリッタとが所定間隔で平行に配置されると共に、前記レーザ光源が出射したレーザ光の光路に対して傾斜させて設置され、前記レーザ光を複数の光束に分岐し、分岐した複数の分岐光束を前記凝集体のそれぞれ異なる位置に照射させる光分岐手段を有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の分析装置は、上記の発明において、前記凝集体に照射されるレーザ光は、スポット径が直径100〜200μmであることを特徴とする。
【0014】
また、上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の分析方法は、検体と、磁性粒子及び金属ナノ粒子からなる標識粒子を含む試薬とを分注した反応容器に集磁処理を行なって、前記検体内の測定対象物と前記試薬との複合体が凝集した凝集体を生成する集磁工程と、レーザ光を前記凝集体に照射することによって発生するラマン散乱光を分光して測光する測光工程と、を含み、前記測光工程で測光した表面増強されたラマン散乱光をもとに前記検体を分析する分析方法において、前記測光工程は、前記凝集体に照射するレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量が0.001〜0.005mW/μmであることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の分析方法は、上記の発明において、前記凝集体に照射するレーザ光は、スポット径が直径100〜200μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を0.001〜0.005mW/μmに抑制するので、凝集体の退色や変性を回避することができ、これにより表面増強ラマン分光法における測定値のばらつきを抑えることが可能な分析装置及び分析方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施の形態1に係る分析装置1の構成を示す模式図である。
【図2】図2は、検体が第1試薬及び第2試薬と反応した複合体を磁力によって底壁の内面に凝集体として沈降させた反応容器を示す断面図である。
【図3】図3は、容器第1移送装置、集磁テーブル及び容器第2移送装置の概略構成を示す斜視図である。
【図4】図4は、図1に示す集磁テーブルの容器収納部の構成を示す図である。
【図5】図5は、検体内の測定対象物と、試薬中に含まれる磁性粒子及び標識粒子との反応を説明する図である。
【図6】図6は、図1に示す測光ユニットを示す概略構成図である。
【図7】図7は、図6に示す測光ユニットの受光装置を平面から見た構成を示す模式図である。
【図8】図8は、反応容器を保持して回転させる駆動ステージの構成を示す断面図である。
【図9】図9は、凝集体が反応容器の底壁に有するレーザ光の見掛け上の照射スポットを示す図である。
【図10】図10は、反応容器を2次元方向へ移動可能とした場合における、凝集体が反応容器の底壁に有するレーザ光の見掛け上の照射スポットを示す図である。
【図11】図11は、実施例1−1として、回転させた反応容器の凝集体が発生した表面増強されたラマン散乱光を10回測定した際の、波数が750〜950cm−1の範囲における信号強度との関係を示す図である。
【図12】図12は、比較例1−1として、回転させない反応容器の凝集体が発生した表面増強されたラマン散乱光を10回測定した際の、波数が750〜950cm−1の範囲におけるラマン散乱光の信号強度との関係を示す図である。
【図13】図13は、実施の形態2に係る分析装置が使用する測光ユニットを示す概略構成図である。
【図14】図14は、反応容器を保持する容器保持ステージの構成を示す断面図である。
【図15】図15は、実施例2−1〜2−3及び比較例2−1〜2−4として、スポット径の異なるレーザ光を照射した際に発生した表面増強されたラマン散乱光の経過時間に対する信号強度の時間変化を示す図である。
【図16】図16は、実施の形態3に係る分析装置が使用する測光ユニットを示す概略構成図である。
【図17】図17は、測光ユニットの光分岐素子の構成と光分岐の原理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の分析装置に係る実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明の分析装置は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0019】
(実施の形態1)
先ず、本発明の分析装置及び分析方法に係る実施の形態1を図面を参照して以下に説明する。図1は、実施の形態1に係る分析装置1の構成を示す模式図である。分析装置1は、図1に示すように、検体と、磁性粒子や標識粒子を含む試薬との複合体が凝集した凝集体に対してレーザ光を照射し、凝集体が発生する表面増強されたラマン散乱光を測定する測定機構2と、測定機構2を含む分析装置1全体の制御を行なうと共に、測定機構2における測定結果の分析を行なう制御機構5とを備えている。分析装置1は、測定機構2と制御機構5とが連携することによって複数の検体に関するラマン分光分析を自動的に行なう。
【0020】
測定機構2は、図1に示すように、検体搬送装置21、検体分注装置22、反応容器移送装置23、第1試薬庫24、第1試薬分注装置25、第2試薬庫26、第2試薬分注装置27、容器第1移送装置28、集磁テーブル30、容器第2移送装置32及び測光ユニット33を備えている。
【0021】
検体搬送装置21は、図1に示すように、検体を収容した複数の検体容器21aを保持し、図中の矢印方向に順次移送する複数の検体ラック21bを備えている。検体容器21aに収容された検体は、検体の提供者から採取した血液、尿及び唾液などの体液である。
【0022】
検体分注装置22は、検体の吸引及び吐出を行なう検体ノズルが先端部に取り付けられ、鉛直方向への昇降及び自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行なうアームを備えている。検体分注装置22は、図1に示すように、検体搬送装置21上の検体吸引位置Psaに移送された検体容器21aの中から検体ノズルによって検体を吸引し、反応容器移送装置23上の検体吐出位置Psdに移送された反応容器20へ検体を吐出する。
【0023】
反応容器移送装置23は、複数の反応容器20を保持し、図1に示すように、各反応容器20を矢印方向に沿って検体吐出位置Psd、第1試薬吐出位置Pr1d、第2試薬吐出位置Pr2dに順次移送する。ここで、反応容器20は、図2に示すように、上部外周に複数のリブ20aが上下方向に形成された筒体であり、テーパ状に縮径するテーパ部20bを介して底壁20cが平面からなる細径部20dが下部に設けられている。
【0024】
第1試薬庫24は、図1に示すように、第1試薬を収容した第1試薬容器24aを複数収納する。第1試薬庫24は、図示しない駆動機構によって時計回り又は反時計回りに回動され、分注対象の第1試薬容器24aを第1試薬分注装置25による第1試薬吸引位置Pr1aまで移送する。
【0025】
第2試薬庫26は、第1試薬庫24と同様に、第2試薬を収容した第2試薬容器26aを複数収納し、分注対象の第2試薬容器26aを第2試薬吸引位置Pr2aまで移送する。
【0026】
ここで、分析対象である検体内の測定対象物としては、例えば、抗体、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、炭水化物、ホルモン、ステロイド、ビタミン、細菌、DNA、RNA、細胞、ウィルス等に加え、任意の抗原物質、ハプテン、抗体及びこれらの組み合わせ等がある。
【0027】
第1試薬は、検体内の上記測定対象物と結合する反応物質、若しくは、上記測定対象物又はそのアナログを固相した磁性粒子を含む試薬である。第2試薬は、上記測定対象物と結合する標識物質、若しくは、上記測定対象物又はそのアナログを結合させた標識物質を含む試薬である。
【0028】
ここで、標識物質は、原子レベルの表面粗さを持つ金又は銀を含むナノ粒子であり、この金又は銀を含むナノ粒子の表面には、測定対象物と結合する反応物質、若しくは、上記測定対象物又はそのアナログがコーティングされている。なお、第1試薬が上記測定対象物と結合する標識物質を含む試薬であり、第2試薬が上記測定対象物と結合する反応物質を固相した磁性粒子を含む試薬であるように、第1試薬と第2試薬とは逆の関係であってもよい。
【0029】
第1試薬分注装置25は、第1試薬の吸引及び吐出を行なうプローブが先端部に取り付けられ、鉛直方向への昇降及び自身の基端部を通過する鉛直線を中心軸とする回転を自在に行なうアームを備えている。第1試薬分注装置25は、図1に示すように、第1試薬庫24の第1試薬吸引位置Pr1aに移送された第1試薬容器24aからプローブによって第1試薬を吸引し、反応容器移送装置23によって第1試薬吐出位置Pr1dへ移送された反応容器20に吐出する。
【0030】
第2試薬分注装置27は、第1試薬分注装置25と同様の構成を有し、図1に示すように、第2試薬庫26の第2試薬吸引位置Pr2aに移送された第2試薬容器26aからプローブによって第2試薬を吸引し、反応容器移送装置23によって第2試薬吐出位置Pr2dへ移送された反応容器20に吐出する。
【0031】
次に、図1,図3及び図4を参照して容器第1移送装置28、集磁テーブル30及び容器第2移送装置32について説明する。図3は、容器第1移送装置28、集磁テーブル30及び容器第2移送装置32の概略構成を示す斜視図である。図4は、図1に示す集磁テーブル30の容器収納部30aの構成を示す図である。
【0032】
容器第1移送装置28は、検体、第1試薬及び第2試薬が分注された反応容器20を、図1に示すように、所定タイミングで反応容器移送装置23から集磁テーブル30のセット位置Pstに移送する。容器第1移送装置28は、例えば、図3に示すように、矢印Y1のように反応容器20を把持する把持装置28aを先端に有し、他端が支柱28cによって支持されるアーム28bを備えている。支柱28cは、図示しない回転機構及び昇降機構によって駆動され、支柱28cをアーム28bと共に矢印Y2のように昇降させると共に、支柱28cをアーム28bと共に矢印Y3のように回転させる。
【0033】
集磁テーブル30は、図3に示すように、反応容器20を収納する容器収納部30aが周方向に沿って複数形成されると共に、図示しない駆動手段によって回転され、セット位置Pstにセットされた反応容器20を周方向に沿って移送する。集磁テーブル30は、図4に示すように、各容器収納部30aの下部に、例えば、永久磁石からなる集磁部材31が設けられている。集磁部材31は、収納された各反応容器20の底壁20cに近接又は接触するように各容器収納部30aに設けられ、検体が第1試薬及び第2試薬と反応した複合体を磁力によって底壁20cの内面に凝集体として沈降させる。
【0034】
ここで、図5を参照して、集磁テーブル30による集磁処理について説明する。図5は、検体内の測定対象物と、試薬中に含まれる磁性粒子及び標識粒子との反応を説明する図である。
【0035】
まず、集磁テーブル30に移送された反応容器20内における反応について説明する。反応容器20は、集磁テーブル30に移送される前に、反応容器移送装置23において検体が分注されると共に、図5(1)に示すように、磁性粒子Mpを含む第1試薬と標識物質である金ナノ粒子Gnpを含む第2試薬が分注される。これら磁性粒子Mp及び金ナノ粒子Gnpは、検体中の測定対象物Omと反応し、図5(2)に示すように、磁性粒子Mp、金ナノ粒子Gnp及び測定対象物Omが結合した複合体Cbが形成される。この複合体Cbが反応容器20内で形成された状態で、反応容器20は、集磁テーブル30に移送される。
【0036】
このとき、反応容器20内で形成された複合体Cbは、磁性粒子Mpを含んでいる。このため、反応容器20が集磁テーブル30に移送されると、複合体Cbは、集磁部材31の磁力によって反応容器20の底壁20cに引き寄せられて凝集し、凝集体として反応容器20の底壁20cの内面に沈降する。
【0037】
容器第2移送装置32は、集磁テーブル30において凝集体を沈降させた反応容器20を、図1及び図3に示すように、所定タイミングで集磁テーブル30の取出位置Ptoから測光ユニット33に移送する。容器第2移送装置32は、容器第1移送装置28と同様の構成を有し、矢印Y6のように反応容器20を把持する把持装置32aを先端に有し、他端が支柱32cによって支持されるアーム32bを備えている。支柱32cは、図示しない回転機構及び昇降機構によって駆動され、支柱32cをアーム32bと共に矢印Y7のように昇降させると共に、支柱32cをアーム32bと共に矢印Y8のように回転させる。
【0038】
次に、図6及び図7を参照して測光ユニット33について説明する。図6は、図1に示す測光ユニットを示す概略構成図である。図7は、図6に示す測光ユニットの受光装置を平面から見た構成を示す模式図である。測光ユニット33は、容器第2移送装置32によって移送されてきた反応容器20を反応容器20の回転中心軸Arcの周りに回転させながら、反応容器20の底壁20cの内面に沈降した凝集体に対し測光処理を行ない、凝集体から出射される表面増強されたラマン散乱光を分光して測光する。測光ユニット33は、図6に示すように、レーザ光源33a、ダイクロイックミラー33c、反射鏡33e及び受光装置33gを有している。
【0039】
レーザ光源33aは、反応容器20の凝集体に表面増強されたラマン散乱光を発生させるレーザ光を出射する光源であり、例えば、波長785nmのレーザ光を出射する。レーザ光は、図6に示すように、レーザ光源33aとダイクロイックミラー33cとの間に配置されたコリメータレンズ33bによって平行光に収束させられた後、ダイクロイックミラー33cに入射される。
【0040】
ダイクロイックミラー33cは、レーザ光源33aが出射したレーザ光を反射すると共に、反応容器20の凝集体が発生した表面増強されたラマン散乱光を透過させる波長選択性を有する鏡である。ダイクロイックミラー33cで反射したレーザ光は、図6に示すように、反射鏡33eとの間に配置された対物レンズ33dによって収束される。
【0041】
反射鏡33eは、図6に示すように、対物レンズ33dによって収束されたレーザ光を反射し、下方から反応容器20の底壁20cの内面に沈降した凝集体に照射する。このとき、反射鏡33eは、反射するレーザ光を反応容器20の底壁20cの中心から外れた位置、即ち、底壁20cの反応容器20の回転中心軸Arcから外れた位置に照射させる。これにより、凝集体は、反射鏡33eによって反射されたレーザ光によって表面増強されたラマン散乱光を発生させる。発生したラマン散乱光は、反射鏡33eで反射された後、対物レンズ33dによって平行光に収束させられた後、ダイクロイックミラー33cを透過する。そして、ダイクロイックミラー33cを透過したラマン散乱光は、集光レンズ33fによって集光されて受光装置33gへ入射する。
【0042】
受光装置33gは、図7に示すように、ラマン散乱光の入射側にスリット33hが設けられ、スリット33hを通過したラマン散乱光を分光するグレーティング33iと、グレーティング33iによって分光されたラマン散乱光を波長毎に受光して測光するラインセンサ33jを有している。受光装置33gが測光したラマン散乱光の波長毎の光量信号は、制御部51に出力され、分析部53において検体の特定成分やその含有量が分析される。
【0043】
図8は、反応容器20を保持して回転させる駆動ステージ40の構成を示す断面図である。駆動ステージ40は、反応容器20を回転中心軸Arc(図6参照)を中心として回転させることにより、反応容器20の底壁20cに沈降した凝集体Agに照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を抑制する駆動手段である。駆動ステージ40は、図8に示すように、支柱40aの上部のステージ40bに形成した開口40cに配置されるベアリング41を介して反応容器20を保持する回転ホルダ42が回転自在に設置されている。
【0044】
回転ホルダ42は、上部に設けたギア部42aを駆動モータ43の回転軸43aに取り付けたギア44と噛合させることによって鉛直方向の回転中心軸Arhの回りに反応容器20と共に回転する。従って、回転ホルダ42は、反応容器20の回転中心軸Arc(図6参照)を回転中心軸Arhと一致させて回転する。回転ホルダ42は、例えば、毎分10〜30回転(rpm)で回転させることが好ましく、最も好ましくは、毎分20回転(rpm)である。
【0045】
ここで、駆動ステージ40は、図8に示すように、反射鏡33eを保持するミラーホルダ45が支柱40aに設けられている。ミラーホルダ45は、レーザ光が反応容器20の底壁20cへ常に垂直に入射するように水平面に対して45°に傾けて反射鏡33eを保持する。但し、ミラーホルダ45は、対物レンズ33dの光軸AOLと回転ホルダ42の回転中心軸Arhとが反射鏡33eの表面と交わる位置から光軸AOL方向又は回転中心軸Arh方向へ僅かに変異した位置に反射鏡33eを保持する。これにより、レーザ光は、反応容器20の底壁20cの中心から外れた位置、即ち、底壁20cの反応容器20の回転中心軸Arcから外れた位置に垂直に入射し、底壁20cの内面に沈降した凝集体Agに照射される。
【0046】
なお、測光ユニット33において測光処理が終了した反応容器20は、図示しない移送機構によって測光ユニット33から取り出され、廃棄される。
【0047】
制御機構5は、図1に示すように、制御部51、入力部52、分析部53、記憶部54及び出力部55を備えている。測定機構2及び制御機構5が備えているこれらの各部は、制御部51に電気的に接続されている。
【0048】
制御部51は、CPU等を用いて構成され、分析装置1の上述した各構成部の処理及び動作を制御する。制御部51は、これらの各構成部に入出力される情報について所定の入出力制御を行い、かつ、この情報に対して所定の情報処理を行う。実施の形態1においては、制御部51は、ラマン散乱光を時分割で測光するように受光装置33gを制御する。
【0049】
入力部52は、キーボードやマウス等を用いて構成され、検体の分析に必要な諸情報や分析動作の指示情報等を外部から取得する。
【0050】
分析部53は、測光ユニット33から入力されたラマン分光分析結果に基づくラマン散乱光の光量信号をもとに検体の分析を行う。
【0051】
記憶部54は、情報を磁気的に記憶するハードディスクと、分析装置1が処理を実行する際にその処理にかかわる各種プログラムをハードディスクからロードして電気的に記憶するメモリとを用いて構成され、検体の分析結果等を含む諸情報を記憶する。記憶部54は、CD−ROM、DVD−ROM及びPCカード等の記憶媒体から情報を読み取ることができる補助記憶装置を備えていてもよい。
【0052】
出力部55は、プリンタやスピーカー等を用いて構成され、検体の分析結果を含む諸情報を出力する。
【0053】
以上のように構成される分析装置1は、制御部51の制御のもと、図1に示すように、反応容器移送装置23によって複数の反応容器20を移送しながら各反応容器20に検体分注装置22によって検体を、第1試薬分注装置25によって第1試薬を、第2試薬分注装置27によって第1試薬を、それぞれ分注してゆく。そして、検体、第1試薬及び第2試薬が分注され、反応容器移送装置23の終端へ移送された反応容器20は、容器第1移送装置28によって反応容器移送装置23から集磁テーブル30のセット位置Pstに移送される。
【0054】
集磁テーブル30のセット位置Pstに移送された反応容器20は、図1に示すように、集磁テーブル30の回転によって取出位置Ptoへ移送される間に、第1試薬に含まれる磁性粒子Mpと第2試薬に含まれる標識物質である金ナノ粒子Gnpが検体中の測定対象物Omと反応して結合した複合体Cbが形成される(図5参照)。この結果、反応容器20は、取出位置Ptoへ移送される間に、磁性粒子Mp、金ナノ粒子Gnp及び測定対象物Omが結合した複合体Cbが集磁部材31の磁力によって底壁20cに引き寄せられて凝集し、凝集体Agとして底壁20cの内面に沈降する(図8参照)。
【0055】
このようにして集磁テーブル30の取出位置Ptoへ移送された反応容器20は、図1に示すように、容器第2移送装置32によって測光ユニット33へ移送される。測光ユニット33に移送された反応容器20は、図8に示すように、回転ホルダ42によって反応容器20を回転中心軸Arhの周りに回転されながら、レーザ光源33aが出射したレーザ光が底壁20cの下方から内面に沈降した凝集体Agに照射される。これにより、凝集体Agが、照射されるレーザ光によって表面増強されたラマン散乱光を発生させる。
【0056】
発生した表面増強されたラマン散乱光は、反射鏡33eで反射された後、対物レンズ33d、ダイクロイックミラー33c及び集光レンズ33fを経て受光装置33gへ入射する。そして、受光装置33gは、制御部51の制御のもとに前記ラマン散乱光を時分割で測光し、その光量信号を制御部51に出力する。これにより、分析部53において光量信号をもとに検体の特定成分やその含有量が分析される。
【0057】
このとき、分析装置1は、図8に示すように、反応容器20を回転ホルダ42によって回転中心軸Arhの周りに回転させながら、レーザ光源33aが出射したレーザ光を反応容器20の下方から底壁20cの内面に沈降した凝集体Agに照射する。このため、底壁20c内面の凝集体Agは、本発明の実施の形態1に係る分析方法のもとに、レーザ光の照射位置が周方向に変化し、照射される単位時間、単位面積当たりのエネルギー量が退色や変性を起こすことのない適切な値に抑制される。
【0058】
ここで、レーザ光源33aが出射するレーザ光のエネルギー量、照射スポットSpの直径、照射スポットSpの反応容器20の回転中心軸Arcからの距離、回転ホルダ42の回転数(rpm)をもとに、各照射スポットSpに照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を算出すると、単位時間、単位面積当たり0.001〜0.005mW/μmとなる。
【0059】
そして、受光装置33gは、上記適宜のエネルギー量のレーザ光の照射によって凝集体Agが発生した表面増強されたラマン散乱光を時分割で測光する。
【0060】
このため、実施の形態1の分析装置1は、表面増強ラマン分光法を用いた検体の分析において測定値のばらつきを抑え、再現性のある信頼性に優れたデータを取得することができる。
【0061】
ここで、反応容器20は、底壁20cの下方からレーザ光が連続的に照射されるが、受光装置33gは、凝集体Agが発生した表面増強されたラマン散乱光を時分割で測光する。このため、反応容器20の凝集体は、見掛け上、図9(a)に示すように、底壁20cに単位時間当たり複数個所のレーザ光の照射スポットSpを有することになる。従って、反応容器20を回転させる回転ホルダ42の回転数を増すと共に、受光装置33gによる測定時間を短くすると、反応容器20の凝集体は、図9(b)に示すように、見掛け上、単位時間当たりのレーザ光の照射スポットSpの数を増加させることができる。
【0062】
また、底壁20c内面の凝集体Agに照射するレーザ光の照射位置を変化させる際、反応容器20を回転ホルダ42によって回転させるのに代えて、駆動ステージ40を水平面内で互いに直交する2軸方向へ移動可能に構成し、反応容器20を2軸方向へ移動させてもよい。このようにすると、反応容器20の凝集体は、見掛け上、図10(a)に示すように、底壁20cに単位時間当たり2軸方向に複数個所のレーザ光の照射スポットSpを有することになる。このとき、駆動ステージ40の2軸方向の移動速度を速くすると共に、受光装置33gによる測定時間を短くすると、反応容器20の凝集体は、図10(b)に示すように、見掛け上、単位時間当たりのレーザ光の照射スポットSp箇所を増加させることができる。更に、2軸方向の移動を組み合わせると、反応容器20の凝集体は、図10(c)や図10(d)に示すように、照射スポットSpの位置と数を自由に変化させることができる。
【0063】
(実施例1−1)
次に、実施の形態1に係る分析装置の実施例1−1を説明する。実施例1−1は、実施の形態1の分析装置1を用い、回転ホルダ42によって反応容器20を毎分12回転(rpm)で回転させながら、反応容器20の底壁20cにレーザ光源33aが出射したレーザ光を照射した。このとき、反応容器20の凝集体Agが発生した表面増強されたラマン散乱光を、受光装置33gによって分光しつつ、1回当たり0.04秒間で10回測定した際の、波数が750〜950cm−1の範囲における受光装置33gの出力信号の信号強度との関係を図11に示す。図11は、受光装置33gの出力信号として10個の曲線が表示されている。
【0064】
図11から明らかなように、出力信号は、10回の測定において信号相互間での強度の差が小さかった。従って、分析装置1は、測定値のばらつきを抑えられることが分かる。このため、分析装置1は、再現性のある信頼性に優れたデータを取得することができる。
【0065】
このとき、10個の出力信号の強度に関する標準偏差σと算術平均Xとの比である分散係数CV(=σ/X)を求めたところ1.5(%)であった。
【0066】
(比較例1−1)
比較のため、実施の形態1の分析装置1を用い、回転ホルダ42による反応容器20の回転を停止したことを除き、反応容器20の凝集体Agが発生したラマン散乱光を実施例1−1と同一条件で測定した。この結果を、実施例1−1と同様にして図12に示す。図12も、受光装置33gの出力信号として10個の曲線が表示されている。
【0067】
実施例1−1の測定結果と比較すると明らかなように、比較例1−1の10個の出力信号は、10回の測定において信号相互間での強度の差が大きく、測定値がばらついており、再現性のあるデータの取得が難しいことが分かった。比較例1−1に示す10個の出力信号の強度に関し、実施例1−1と同様にして分散係数を求めたところ10.0(%)であり、実施例1−1の分散係数は、比較例1−1の分散係数よりも大きく性能が向上していた。
【0068】
なお、測光ユニット33は、レーザ光源33aを間欠発振させることによりレーザ光を間欠的に発生させて反応容器20の凝集体に照射し、間欠発振させたレーザ光によって生じた表面増強されたラマン散乱光を受光装置33gによって測定するようにしてもよい。
【0069】
(実施の形態2)
次に、本発明の分析装置及び分析方法に係る実施の形態2を図面を参照して以下に説明する。図13は、実施の形態2に係る分析装置が使用する測光ユニットを示す概略構成図である。図14は、反応容器を保持する容器保持ステージの構成を示す断面図である。以下の説明においては、実施の形態1の分析装置と同一の構成要素には同一の符号を使用している。
【0070】
実施の形態1の分析装置は、測光ユニットが反応容器を回転させてレーザ光の照射位置を変更することによって凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を抑制した。これに対して、実施の形態2の分析装置は、測光ユニットが反応容器に照射するレーザ光のスポット径によって凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を抑制する。
【0071】
測光ユニット33Aは、図13に示すように、レーザ光源33a、コリメータレンズ33b、ダイクロイックミラー33c、対物レンズ33d、反射鏡33e、集光レンズ33f及び受光装置33gを有している。測光ユニット33Aは、受光装置33gが受光ステージ34に設置されると共に、レーザ光源33a、コリメータレンズ33b、ダイクロイックミラー33c、対物レンズ33d、集光レンズ33f及び受光ステージ34が駆動ステージ36に設置されている。
【0072】
受光ステージ34は、図中矢印Aで示すように集光レンズ33fへ接近又は離反が可能な直進ステージ等の1軸ステージが使用され、マイクロメータ等の調節ねじ34aを操作することによって受光装置33gと集光レンズ33fとの距離が調整される。
【0073】
駆動ステージ36は、受光ステージ34と同様な1軸ステージが使用され、マイクロメータ等の調節ねじ36aによって図中矢印Bで示すように反射鏡33eへ接近又は離反することによって対物レンズ33dの反射鏡33eに対する距離を調整する。これにより、駆動ステージ36は、反応容器20に対して接近、離反し、底壁20cに沈降した凝集体Agに照射されるレーザ光のスポット径を変化させる制御を行う制御手段である。
【0074】
このとき、凝集体Agに照射されるレーザ光のスポット径としては、直径100〜200μmが好ましい。レーザ光のスポット径をこの範囲の直径に設定すると、測光ユニット33は、凝集体Agに照射されるレーザ光の単位時間、単位面積あたりのエネルギー量が本発明の分析方法である0.001〜0.005mW/μmに抑制され、凝集体Agに対して退色や変性を起こすことがない。
【0075】
ここで、駆動ステージ36は、反射鏡33eとの距離を調整すると、反応容器20の凝集体が発生し、反射鏡33eで反射して対物レンズ33dに入射する表面増強されたラマン散乱光の入射角度が変化する。このため、集光レンズ33fに入射するラマン散乱光の入射角度が変化する結果、集光レンズ33fから受光装置33gへ入射するラマン散乱光の入射角度が変化する。そこで、測光ユニット33Aは、受光装置33gへ入射するラマン散乱光を適正に受光することができるように、調節ねじ34aを操作することによって受光ステージ34を集光レンズ33fへ接近又は離反させ、受光装置33gと集光レンズ33fとの距離を調整する。なお、受光ステージ34や駆動ステージ36は、アクチュエータを設け、制御部51によって自動で駆動するようにしてもよい。
【0076】
次に、反射鏡33eによる反応容器20へのレーザ光の照射について図14を参照して以下に説明する。図14は、反応容器を保持する容器保持ステージの構成を示す断面図である。
【0077】
容器保持ステージ40Aは、図14に示すように、支柱40aの上部のステージ40bに形成した開口40cに容器ホルダ42Aが設置された駆動ステージである。容器保持ステージ40Aは、容器ホルダ42Aに反応容器20を保持している。
【0078】
このとき、反射鏡33eは、図14に示すように、ミラーホルダ45を介して容器保持ステージ40Aに支持されるが、レーザ光が反応容器20の底壁20cへ常に垂直に入射するように水平面に対して45°に傾けて配置される。また、反射鏡33eは、対物レンズ33dの光軸AOLと反応容器20の中心を通る軸Acとが反射鏡33eの表面で交わるように配置される。これにより、レーザ光は、反応容器20の中心を通る軸Ac上の底壁20cに垂直に入射して反応容器20の底壁20cの内面に沈降した凝集体Agに照射される。
【0079】
実施の形態2の分析装置は、測光ユニット33Aと容器保持ステージ40Aが上記のように構成されている。従って、実施の形態2の分析装置は、レーザ光源33aが出射した直径100〜200μmのスポット径のレーザ光が、反応容器20の下方から底壁20cの内面に沈降した凝集体に対して照射される。即ち、凝集体には、本発明の分析方法のもとに、単位時間、単位面積あたり凝集体に退色や変性を起こすことのない0.001〜0.005mW/μmのエネルギー量のレーザ光が照射される。
【0080】
このため、実施の形態2の分析装置は、表面増強ラマン分光法を用いた検体の分析において測定値のばらつきを抑え、再現性のある信頼性に優れたデータを取得することができる。
【0081】
(実施例2−1〜2−3)
実施の形態2の分析装置を用い、同一の検体、第1試薬及び第2試薬を同量分注して反応させた複数の反応容器20の凝集体のそれぞれに、本発明の分析方法のもとに、出射強度が28.5mWであり、スポット径が100μm(実施例2−1)、150μm(実施例2−2)、200μm(実施例2−3)のレーザ光を照射した際に発生した表面増強されたラマン散乱光を受光装置33gによって95秒間測定した。その結果を、受光装置33gが出力する信号強度の時間変化として図15に示す。
【0082】
図15に示すように、レーザ光のスポット径が100μm、150μm、200μmの場合、受光装置33gが出力する信号強度は、時間経過に対して安定していた。従って、実施の形態2に係る分析装置は、測定値のばらつきを抑えられることが分かる。このため、実施の形態2に係る分析装置は、再現性のある信頼性に優れたデータを取得することができる。
【0083】
(比較例2−1〜2−4)
比較のため、実施の形態2の分析装置を用い、同一の検体、第1試薬及び第2試薬を同量分注して反応させた複数の反応容器20の凝集体のそれぞれに、本発明の分析方法のもとに、スポット径が250μm(比較例2−1)、50μm(比較例2−2,2−3)、7μm(比較例2−4)のレーザ光を照射して表面増強されたラマン散乱光を実施例2−1〜2−3と同様に測定した。その結果を、図15に併せて示す。
【0084】
実施例2−1〜2−3の測定結果と比較すると明らかなように、レーザ光のスポット径が50μm(比較例2−2,2−3)や7μm(比較例2−4)の場合、受光装置33gが出力する信号強度は、経時的に減少する傾向を示しており、スポット径が7μm(比較例2−4)の場合には、信号強度の変化幅が大きくなっている。但し、スポット径が250μm(比較例2−1)の場合、受光装置33gが出力する信号強度に経時的な変化や大幅な変化は見られないが、実施例2−1〜2−3の測定値の約5割へと小さくなっている。これは、スポット径が250μm(比較例2−1)の場合は、実施例2−1〜2−3に比べてスポット径が大きい分、反応容器20の凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量が減少し、凝集体の退色や変性が抑制されていることに起因するものと判断される。
【0085】
そして、スポット径が50μm(比較例2−2,2−3)の場合、実施例2−1〜2−3の測定値の約8〜5割へと小さくなっており、スポット径が7μmの場合には、実施例1〜3の測定値の約6〜2割へと小さくなっていた。これは、スポット径が7μm(比較例2−4)の場合、実施例2−1〜2−3に比べてスポット径が小さい分、反応容器20の凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量が増加し、凝集体の退色や変性が生じていることに起因するものと判断される。
【0086】
(実施の形態3)
次に、本発明の分析装置及び分析方法に係る実施の形態3を図面を参照して以下に説明する。図16は、実施の形態3に係る分析装置が使用する測光ユニットを示す概略構成図である。図17は、測光ユニットの光分岐素子の構成と光分岐の原理を説明する図である。
【0087】
実施の形態2の分析装置は、測光ユニットが反応容器に照射するレーザ光のスポット径によって凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を抑制した。これに対して、実施の形態3の分析装置は、測光ユニットが反応容器に照射するレーザ光を複数の光束に分岐し、分岐した複数の分岐光束を凝集体のそれぞれ異なる位置に照射することによって凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を抑制する。
【0088】
測光ユニット33Bは、図16に示すように、レーザ光源33a、光分岐素子33k、ダイクロイックミラー33c、コリメータレンズ33b、集光レンズ33f及び受光装置33gを有している。
【0089】
光分岐素子33kは、レーザ光源33aが出射したレーザ光を4本の光束に分岐する光学素子であり、図17に示すように、反射鏡MとビームスプリッタSbとが面間隔dを置いて平行に配置されている。光分岐素子33kは、レーザ光源33aが出射するレーザ光L0の光路上のレーザ光源33aとダイクロイックミラー33cとの間に配置される。このとき、光分岐素子33kは、ビームスプリッタSbを透過してゆくレーザ光の透過方向に直交する面に対して角度α傾斜させ、レーザ光源33aの照射方向前段に反射鏡Mが位置し、後段にビームスプリッタSbが位置するように配置される。
【0090】
光分岐素子33kは、レーザ光L0がビームスプリッタSbの第1入射点P1に入射角θで入射すると、一部を分岐光束L1として透過させ、残部を反射角θで反射させる。第1入射点P1で反射した光束は、反射鏡Mで反射して第2入射点P2に入射角θで入射し、第1入射点P1の場合と同様に、一部を分岐光束L2として分岐光束L1と平行に透過させ、残部を反射角θで反射させる。
【0091】
以下同様にして、光分岐素子33kは、第3入射点P3及び第4入射点P4において分岐光束L3,L4を分岐光束L1と平行に透過させる。但し、第4入射点P4で反射した光束は、反射鏡Mで反射することなく、分岐光束L1〜L4とは異なる方向へ出射されるため、レーザ光L0は、分岐光束L1〜L4の4本の光束に分岐される。
【0092】
このとき、ビームスプリッタSbは、第1入射点P1〜第4入射点P4における反射率RiがRi=(4−i)/(5−i)(但し、i=1〜4)で表される反射率分布を有するように作成しておく。
【0093】
従って、ビームスプリッタSbは、第1入射点P1の反射率R1が3/4、第2入射点P2の反射率R2が2/3、第3入射点P3の反射率R3が1/2、第4入射点P4の反射率R4が0、の反射率分布を有するように作成する。ビームスプリッタSbの反射率分布を上記のように作成すると、透過する分岐光束L1〜L4は、次式で与えられる光強度I1〜I4がI0/4の等しい値となり、レーザ光L0は、光強度の等しい4本の光束に分岐される。
I1=I0・(1−R1)=I0/4
I2=I0・R1・(1−R2)=I0/4
I3=I0・R1・R2・(1−R3)=I0/4
I4=I0・R1・R2・R3・(1−R4)=I0/4
【0094】
実施の形態3の分析装置の測光ユニット33Bは、光分岐素子33kが上述のように構成されているため、図16に示すように、レーザ光源33aが出射したレーザ光は光分岐素子33kによって4本の光束に分岐される。4本の分岐光束L1〜L4は、ダイクロイックミラー33cを透過して反応容器20の凝集体のそれぞれ異なる位置に照射され、凝集体が表面増強されたラマン散乱光を発生する。このラマン散乱光は、ダイクロイックミラー33cで反射され、コリメータレンズ33bで平行光に収束させられた後、集光レンズ33fによって集光されて受光装置33gへ入射する。
【0095】
このとき、分岐光束L1〜L4が凝集体のそれぞれ異なる位置に照射するレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量としては、0.001〜0.005mW/μmとなる。
【0096】
実施の形態3の分析装置は、光分岐素子33kが反応容器に照射するレーザ光を光強度の等しい複数の光束に分岐し、分岐した複数の分岐光束を凝集体のそれぞれ異なる位置に照射する。これにより、実施の形態3の分析装置は、本発明の分析方法のもとに、凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を抑制している。このため、凝集体には、単位時間、単位面積あたりの値が適正で、退色や変性を起こすことのないレーザ光が照射される。
【0097】
従って、実施の形態3の分析装置は、表面増強ラマン分光法を用いた検体の分析において測定値のばらつきを抑え、再現性のある信頼性に優れたデータを取得することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上のように、本発明の分析装置及び分析方法は、表面増強ラマン分光法における測定値のばらつきを抑えるのに有用である。
【符号の説明】
【0099】
1 分析装置
2 測定機構
20 反応容器
21 検体搬送装置
22 検体分注装置
23 反応容器移送装置
24 第1試薬庫
25 第1試薬分注装置
26 第2試薬庫
27 第2試薬分注装置
28 容器第1移送装置
30 集磁テーブル
31 集磁部材
32 容器第2移送装置
33,33A 測光ユニット
33a レーザ光源
33b コリメータレンズ
33c ダイクロイックミラー
33d 対物レンズ
33e 反射鏡
33f 集光レンズ
33g 受光装置
33k 光分岐素子
34 受光ステージ
36 駆動ステージ
40 駆動ステージ
41 ベアリング
42 回転ホルダ
43 駆動モータ
44 ギア
45 ミラーホルダ
5 制御機構
51 制御部
52 入力部
53 分析部
54 記憶部
55 出力部
Ag 凝集体
M 反射鏡
Sb ビームスプリッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と、磁性粒子及び金属ナノ粒子からなる標識粒子を含む試薬とを分注した反応容器に集磁処理を行なって、前記検体内の測定対象物と前記試薬との複合体が凝集した凝集体を生成する集磁手段と、
レーザ光源が出射したレーザ光を前記凝集体に照射することによって発生するラマン散乱光を分光して測光する測光手段と、
を備え、前記測光手段が測光した表面増強されたラマン散乱光をもとに前記検体を分析する分析装置において、
前記凝集体に照射されるレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を0.001〜0.005mW/μmに抑制することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記反応容器を保持して前記レーザ光に対して回転又は移動させて前記レーザ光の照射位置を変化させることによって前記凝集体に照射される前記レーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量を抑制する駆動手段と、
前記ラマン散乱光を前記受光手段によって時分割で測光するように制御する制御手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記レーザ光を収束させて前記凝集体に照射する対物レンズと、
前記レーザ光源,前記対物レンズ及び前記測光手段を搭載して前記反応容器に対して接近又は離反する駆動ステージと、
前記駆動ステージを前記反応容器に対して接近又は離反させて前記凝集体に照射される前記レーザ光のスポット径を変化させる制御を行う制御手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項4】
前記ラマン散乱光を集光する集光レンズと、前記測光手段を搭載して前記集光レンズに対して接近又は離反する受光ステージと、を有することを特徴とする請求項3に記載の分析装置。
【請求項5】
反射鏡とビームスプリッタとが所定間隔で平行に配置されると共に、前記レーザ光源が出射したレーザ光の光路に対して傾斜させて設置され、前記レーザ光を複数の光束に分岐し、分岐した複数の分岐光束を前記凝集体のそれぞれ異なる位置に照射させる光分岐手段を有することを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項6】
前記凝集体に照射されるレーザ光は、スポット径が直径100〜200μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の分析装置。
【請求項7】
検体と、磁性粒子及び金属ナノ粒子からなる標識粒子を含む試薬とを分注した反応容器に集磁処理を行なって、前記検体内の測定対象物と前記試薬との複合体が凝集した凝集体を生成する集磁工程と、
レーザ光を前記凝集体に照射することによって発生するラマン散乱光を分光して測光する測光工程と、
を含み、前記測光工程で測光した表面増強されたラマン散乱光をもとに前記検体を分析する分析方法において、
前記測光工程は、前記凝集体に照射するレーザ光の単位時間、単位面積当たりのエネルギー量が0.001〜0.005mW/μmであることを特徴とする分析方法。
【請求項8】
前記凝集体に照射するレーザ光は、スポット径が直径100〜200μmであることを特徴とする請求項7に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−158327(P2011−158327A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19211(P2010−19211)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】