説明

分析装置

【課題】微細な反応空間内において、磁性担体と液体試料との混合・攪拌を確実に行うことができる分析装置を提供する。
【解決手段】二つの磁場発生手段10a、10bと、磁性担体40と被測定物質とを導入して被測定物質を分析する分析部1を設けたマイクロチップAとを備え、二つの磁場発生手段10a、10bはそれぞれ同じ極性側をマイクロチップAに向けてマイクロチップAを挟んだ状態で対向配置してあり、さらに、二つの磁場発生手段10a、10bをマイクロチップAに対して各別に近接離間させる駆動機構20a〜20bと、駆動機構20a〜20bの動作を制御する制御手段30とを備えた分析装置X。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物質を含んだ液体試料が流下し、この被測定物質を分析する分析部を設けたマイクロチップを備えた分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物質として核酸・タンパク質・菌体などの生体物質を含有する液体試料を分析する場合において、磁性を有する担体(磁性担体)を利用する技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、磁性担体を用いて生体物質を含有する液体試料から目的の生体物質を単離する方法が開示してある。
当該文献では、強磁性酸化鉄粒子を含有する磁性担体を利用し、この磁性担体と生体物質とを結合させて複合体を形成し、外部磁場によって当該複合体を液体試料から分離させ、分離した複合体より生体物質を溶出させることにより、生体物質を単離している。
【0004】
当該複合体を液体試料から分離するために外部磁場として磁石を利用している。この磁石を、形成した複合体を含有する液体試料を収容する反応チューブの側壁に近づけ、当該複合体を側壁に集めて溶液と固液分離する。外部磁場として使用される磁石としては、磁束密度が2000ガウス〜3000ガウスの磁石を用いている。
【0005】
そして、当該文献には、磁気特性の中で保磁力と飽和磁化が特定の範囲内にあり、かつ特定範囲内の平均粒子サイズを有する磁性担体であれば、生体物質との結合性・磁界による捕集性・水溶液中での分散性および生体物質の溶離性が両立し、優れた生体物質の単離性能を示すことが記載してある。このような磁性担体により、生体物質の単離・精製効率が向上したものとなる。
【0006】
また、特許文献2には、磁性材料を有する磁性担体を細胞培養担体として利用することが開示してある。この磁性担体の表面には細胞が付着可能となっている。そして、培養容器内の培養液に磁性担体を収容し、電磁石等や永久磁石といった磁場発生装置によって当該磁性担体を移動させる。これにより、均一かつ緩やかに培養液を攪拌できると共に、細胞を磁性担体の表面に効率よく付着させ、増殖させることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2004−65132号公報
【特許文献2】特開2004−313007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1において、反応容器として反応チューブを用いて生体物質を単離しており、溶液を混和するときは、この反応チューブを転倒攪拌している。また、特許文献2においては、培養容器を利用して細胞培養を行っている。即ち、反応チューブや培養容器を利用する場合、反応容量は、一般に数百マイクロリットル〜数ミリリットル程度となる。
【0009】
液体試料を分析する際に磁性担体を利用する技術では、仮に反応容量が数十マイクロリットル以下となる場合、磁力発生装置等による磁場のかけ方に制約が発生し、かつ、磁性担体の回収率が低い等の問題点がある。従って、磁性担体を利用した生体物質の分析技術では、反応容量が数十マイクロリットル以下の低容量の反応系に対応させるのが困難であった。
【0010】
また、例えば免疫反応では、マイクロタイタープレート等のウェル内で、反応容量が数十マイクロリットル程度の反応系で行われている。一般に免疫反応に利用される試薬類は高価であるため、検出感度を下げることなく反応容量を小さくすることが求められている。仮に、前記ウェル内で行われる反応容量を小さくすると、反応溶液の蒸発により所望の検出感度を得るのが困難となり、さらに、低容量化によるハンドリングの難しさ等の問題が発生するため、前記ウェルのような開放系での低容量化は限界があった。
【0011】
一方、近年、半導体等の微細加工技術(MEMS)を応用して製造されたマイクロチップ(バイオチップ)が、生化学、医療等の分野において使用されている。マイクロチップとは、例えば、サンプル注入孔・サンプル排出孔・微小な毛細管状の流体流路、或いは、この流路と接続する反応領域としての反応チャンバ等の構造が形成された微小分析デバイスのことを示す。このマイクロチップは、主に生体物質を分析する用途で使用される。
【0012】
上述したマイクロチップは、通常、厚さ1mm程度の基材に流体流路や反応チャンバを微細加工してある。そのため、反応チャンバの厚さ寸法は数百マイクロメートル程度となっており、この反応チャンバ自身の容積を数十マイクロリットル以下に設定することが可能である。
【0013】
しかし、このような微細な空間となる反応チャンバ内は反応容量を低減できる反面、略閉鎖空間であるために使用者が外部から反応チャンバ内に対して液体試料の攪拌操作等を行うことは困難である。さらに、反応チャンバ内は微細な空間であるために、転倒混和しようとしても液体の対流が殆ど生じない。そのため、反応チャンバ内において試薬と液体試料との混合・攪拌を確実に行うことは困難となり、反応を均一に進行させ難くなって所望の検出感度を得難くなる。
【0014】
従って、マイクロチップの反応チャンバ内のような微細な空間において磁性担体を利用して生体物質を含有する液体試料を分析しようとする場合、磁性担体と液体試料とを混合・攪拌することは困難である。
【0015】
従って、本発明の目的は、微細な反応空間内において、磁性担体と液体試料との混合・攪拌を確実に行うことができる分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明に係る分析装置の第一特徴構成は、二つの磁場発生手段と、磁性担体と被測定物質とを導入して前記被測定物質を分析する分析部を設けたマイクロチップとを備え、前記二つの磁場発生手段はそれぞれ同じ極性側を前記マイクロチップに向けて前記マイクロチップを挟んだ状態で対向配置してあり、さらに、前記二つの磁場発生手段を前記マイクロチップに対して各別に近接離間させる駆動機構と、前記駆動機構の動作を制御する制御手段とを備えた点にある。
【0017】
本構成では、二つの磁場発生手段はそれぞれマイクロチップを挟んだ状態で対向配置してあるため、二つの磁場発生手段が同時にマイクロチップの分析部に近接したときには、それぞれの磁場発生手段の磁力線は、マイクロチップに対して正反対の方向から磁性担体に及ぶ。そして、これら磁場発生手段は同じ極性側をマイクロチップに向けて配置してあるため、分析部は二つの磁場発生手段による磁場が反発する領域内に位置することとなる。このように磁場発生手段の磁場がマイクロチップに対して略垂直方向から水平方向へと偏向するような反発力を磁性担体に作用させることで、磁性担体を移動させることができる。
【0018】
そのために、本構成では、駆動機構によって各磁場発生手段をマイクロチップに対して別個に近接離間移動させる。これにより、分析部内に存在する磁性担体に対して磁力を及ぼす状態、磁力を及ぼさない状態を切り換える。
【0019】
例えば、一つの磁場発生手段をマイクロチップに対して離間状態から近接状態にすると、分析部に存在する磁性担体は磁化される。磁化された磁性担体は、極性を有する状態で整列する。二つの磁場発生手段はそれぞれ同じ極性側をマイクロチップに向けて対向配置してあるため、この磁性担体の極性の状態は、何れか一方の磁場発生手段を近接することで維持できる。
この状態で、磁性担体の極性の状態を維持する磁場発生手段とは異なる他の磁場発生手段を磁性担体に近接させる。このとき、磁化した磁性担体と、近接する磁場発生手段とは同じ極性を向いた状態であるため、磁化した磁性担体は極性の状態を維持されつつ、近接する磁場発生手段と反発し合い、磁性担体は近接する磁場発生手段の磁力線が及ぶ範囲まで水平方向に移動することとなる。
【0020】
そして、制御手段により駆動機構の動作を制御することで、磁性担体に作用させる磁力の強さを制御することができるため、磁性担体を所望の状態に移動させることができる。
【0021】
このように磁性担体を分析部内で移動させることにより、分析部内の磁性担体と液体試料との混合・攪拌を確実に行える。つまり、磁性担体の表面に結合させた様々な生体物質と液体試料に含まれる被測定物質との接触機会を増大させることができ、反応を均一に進行させると共に反応速度を速めることが可能となる。
【0022】
本発明に係る分析装置の第二特徴構成は、前記二つの磁場発生手段はそれぞれ磁力が異なり、前記制御手段が、前記二つの磁場発生手段のうち第1磁場発生手段を前記分析部に近接させて前記磁性担体を凝集させた後、当該第1磁場発生手段を前記分析部より離間させ、さらに、前記二つの磁場発生手段のうち前記第1磁場発生手段より磁力の弱い第2磁場発生手段を前記凝集した磁性担体に近接させた後、この状態で前記第1磁場発生手段を前記凝集した磁性担体に近接させて、当該磁性担体を拡散させるように設定した点にある。
【0023】
まず、分析部に磁性担体と被測定試料とを導入した状態では、これらは分析部の内部に共存するが、確実な混合は行われていない。そして、例えば初期状態において、二つの磁場発生手段はそれぞれマイクロチップに対して離間した状態とする。この状態では、二つの磁場発生手段は、分析部内に存在する磁性担体に対して磁力を及ぼさない。
【0024】
そして、第1磁場発生手段を分析部に近接させる。このとき、第1磁場発生手段からの磁力が磁性担体に及び、磁性担体は第1磁場発生手段に引き付けられて凝集する。
ここで、第1磁場発生手段を分析部より離間させ、第1磁場発生手段の磁力が凝集した磁性担体には及ばないように制御する。
【0025】
次に、第2磁場発生手段を凝集した磁性担体に近接させる。二つの磁場発生手段はそれぞれ同じ極性側をマイクロチップに向けて対向配置してあるため、凝集した磁性担体には、第1磁場発生手段を分析部に近接させたときと同じ極性の磁力が及んでいる。このとき、磁性担体は凝集した状態を維持する。
【0026】
この状態で第1磁場発生手段を凝集した磁性担体に近接させる。このとき、第2磁場発生手段は磁性担体の極性の状態を維持しようとする。しかし、第2磁場発生手段の磁力より第1磁場発生手段の磁力が強いため、磁性担体と第1磁場発生手段との反発力が、第2磁場発生手段が当該磁性担体を引き付ける力より大きくなる。このため、凝集した磁性担体が第2磁場発生手段の側に強く押付けられ、これに伴って磁性担体はマイクロチップの面内方向にも押し広げられることになる。
【0027】
従って、上記第二特徴構成によれば、分析部に存在する磁性担体を凝集・拡散移動させることができる。そして、上述した一連の動作制御を繰り返し行うことで磁性担体の凝集・拡散移動を繰り返し行うことができるため、磁性担体と液体試料との混合・攪拌が更に確実なものとなる。
【0028】
本発明に係る分析装置の第三特徴構成は、前記二つの磁場発生手段における前記マイクロチップに沿った面積は、前記第1磁場発生手段より前記第2磁場発生手段を大きく構成した点にある。
【0029】
第1磁場発生手段が凝集した磁性担体に近接したとき、磁性担体と第1磁場発生手段とは反発して当該磁性担体は移動する。特に、この磁性担体がマイクロチップに沿った第2磁場発生手段の面上から外れたとき、磁性担体に生じる極性の方向は第2磁場発生手段の磁力線の方向に沿って変化する。この結果、磁力の強い第1磁場発生手段と磁性担体との反発力も減少して磁性担体を拡散させる効果が低下する。場合によっては、第1磁場発生手段の側に磁性担体が吸着されることがある。
【0030】
しかし、本構成のように、マイクロチップに沿った面積において第2磁場発生手段を第1磁場発生手段より大きく構成すれば、第2磁場発生手段が磁性担体の極性の状態を維持し得る面を大きく設定することができる。そのため、磁性担体と第1磁場発生手段との反発力は、少なくとも第2磁場発生手段のマイクロチップに沿った面の分は確保できるため、凝集した磁性担体が拡散する程度を大きくすることができる。
【0031】
本発明に係る分析装置の第四特徴構成は、少なくとも何れか一方の前記磁場発生手段を前記マイクロチップに沿って移動させるスライド機構を備えた点にある。
【0032】
上記第四特徴構成によれば、磁性担体の存在位置の近傍において、磁場発生手段をマイクロチップに近接させた状態でマイクロチップに沿って移動させることにより、磁性担体を所望の位置まで導くことができる。
【0033】
また、二つの磁場発生手段を対向配置させた状態で、スライド機構により少なくとも何れかの磁場発生手段をマイクロチップに沿って少しスライド移動させると、磁界の状態を変化させることができ、磁性担体の移動を効率的に行うことができる。
【0034】
本発明に係る分析装置の第五特徴構成は、前記駆動機構は、前記マイクロチップに対する前記磁場発生手段の距離を設定する位置決め手段を備えた点にある。
【0035】
上記第五特徴構成のように位置決め手段を設けると、マイクロチップの中に存在する磁性担体に及ぼす磁力線の強さが最適になるように、磁場発生手段の位置を調節できる。
【0036】
本発明に係る分析装置の第六特徴構成は、二つの磁場発生手段と、磁性担体と被測定物質とを導入して前記被測定物質を分析する分析部を設けたマイクロチップとを備え、前記二つの磁場発生手段はそれぞれ同じ極性側を前記マイクロチップに向けて前記マイクロチップを挟んだ状態で対向配置してあり、さらに、前記磁場発生手段が電磁石からなり、前記電磁石に流れる電流を制御して前記二つの磁場発生手段の磁場の強さを各別に制御する磁場制御手段を設けた点にある。
【0037】
本構成では、二つの磁場発生手段を電磁石とし、これら電磁石はそれぞれマイクロチップを挟んだ状態で対向配置してあるため、二つの電磁石が同時にマイクロチップの分析部に磁力を及ぼしたときには、それぞれの電磁石の磁力線は、マイクロチップに対して正反対の方向から磁性担体に及ぶ。そして、これら電磁石は同じ極性側をマイクロチップに向けて配置してあるため、分析部は二つの電磁石による磁場が反発する領域内に位置することとなる。このように電磁石の磁場がマイクロチップに対して略垂直方向から水平方向へと偏向するような反発力を磁性担体に作用させることで、磁性担体を移動させることができる。
【0038】
そのために、本構成では、電磁石に流れる電流を制御して二つの電磁石の磁場の強さを各別に制御する磁場制御手段によって、各電磁石を別個にオン・オフ制御する。これにより、分析部内に存在する磁性担体に対して磁力を及ぼす状態、磁力を及ぼさない状態を切り換える。
【0039】
例えば、一つの電磁石をオン操作すると、分析部に存在する磁性担体は磁化される。磁化された磁性担体は、極性を有する状態で整列する。二つの電磁石はそれぞれ同じ極性側をマイクロチップに向けて対向配置してあるため、この磁性担体の極性の状態は、何れか一方の電磁石をオン操作することで維持できる。
この状態で、磁性担体の極性の状態を維持する電磁石とは異なる他の電磁石をオン操作する。このとき、磁化した磁性担体と、オン操作した電磁石とは同じ極性を向いた状態であるため、磁化した磁性担体は極性の状態を維持されつつ、オン操作した電磁石と反発し合い、磁性担体はオン操作した電磁石の磁力線が及ぶ範囲まで水平方向に移動することとなる。
【0040】
そして、磁場制御手段を制御することで、磁性担体に作用させる磁力の強さを制御することができるため、磁性担体を所望の状態に移動させることができる。
【0041】
このように磁性担体を分析部内で移動させることにより、分析部内の磁性担体と液体試料との混合・攪拌を確実に行える。つまり、磁性担体の表面に結合させた様々な生体物質と液体試料に含まれる被測定物質との接触機会を増大させることができ、反応を均一に進行させると共に反応速度を速めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
本発明は、被測定物質を含んだ液体試料が流下し、この被測定物質を分析する分析部を設けたマイクロチップを備えた分析装置である。図1〜2に本実施形態の分析装置Xを示す。
【0043】
本実施形態の分析装置Xは、二つの磁場発生手段10a、10bと、磁性担体40と被測定物質とを導入し、被測定物質を分析する分析部1を設けたマイクロチップAとを備える。二つの磁場発生手段10a、10bはそれぞれ同じ極性側をマイクロチップAに向けてマイクロチップAを挟んだ状態で対向配置してある。
そして、二つの磁場発生手段10a、10bをマイクロチップAに対して各別に近接離間させる駆動機構20と、駆動機構20の動作を制御する制御手段30とを備える。
【0044】
(磁場発生手段)
本実施形態では、磁力の異なる二つの磁場発生手段10a、10bを備える。
磁場発生手段10は、例えば分析部1において、外部より導入した磁性担体40を移動させるための磁場を発生させる装置であり、永久磁石・電磁石等が適用できる。
【0045】
本実施形態では、磁場発生手段10として永久磁石を適用した場合を例示する。永久磁石としては、ネオジウム磁石・サマリウムコバルト磁石・フェライト磁石・アルニコ磁石等が適用できる。これら永久磁石は、丸型・角型・リング型等、種々の形状が適用できる。永久磁石は、小型軽量であり、温度・湿度・振動・衝撃などの使用環境の影響を受け難く、かつ、磁場を発生させるためのエネルギーを外部から供給する必要がないなどの優れた特性を有する。
ネオジウム磁石およびサマリウムコバルト磁石は、強力な希土類磁石であるため、磁気発生手段の高性能化・小型化が容易である。ネオジウム磁石はサマリウムコバルト磁石と比べて強力な永久磁石であり、強力な磁場を作り出すことができる。
【0046】
二つの磁場発生手段10a、10bはそれぞれ同じ極性側を前記マイクロチップAに向けてマイクロチップAを挟んだ状態で対向配置してある。
即ち、磁場発生手段10a、10bを、例えば相互にN極側を向けて対向させ、磁場発生手段10a、10bの間にマイクロチップAを配置した状態となる。
【0047】
二つの磁場発生手段10の磁力が異なるため、それぞれの磁場発生手段は磁束密度が異なる。また、二つの磁場発生手段10a、10bはそれぞれマイクロチップAを挟んだ状態で対向配置してあるため、二つの磁場発生手段10a、10bが同時にマイクロチップAの分析部1に近接したときには、それぞれの磁場発生手段10a、10bの磁力線は、マイクロチップAに対して正反対の方向から磁性担体40に及ぶ。そして、これら磁場発生手段10は同じ極性側をマイクロチップAに向けて配置してあるため、分析部1は二つの磁場発生手段10a、10bによる磁場が反発する領域内に位置することとなる(図3)。このように磁場発生手段10a、10bの磁場がマイクロチップAに対して略垂直方向から水平方向へと偏向するような反発力を磁性担体40に作用させることで、磁性担体40を移動させることができる。
【0048】
本実施形態では、二つの磁場発生手段10a、10bのマイクロチップAに沿った面積をそれぞれ異ならせてある。例えば、第1磁場発生手段10aより第2磁場発生手段10bを大きく構成する。磁力が強い永久磁石(第1磁場発生手段)10aを直径3mm程度に設計し、磁力が弱い永久磁石(第2磁場発生手段)10bを直径6mm程度に設定する。第1磁場発生手段10aの磁力は350ミリテスラ程度、第2磁場発生手段10bの磁力は100ミリテスラ程度とする。しかし、各磁場発生手段10a、10bの大きさ・磁力はこれらに限られるものではない。
【0049】
以下、二つの磁場発生手段10a、10bとしてネオジウム磁石およびサマリウムコバルト磁石を適用する。第1磁場発生手段を磁力が強いネオジウム磁石、第2磁場発生手段を第1磁場発生手段に比べて磁力が弱いサマリウムコバルト磁石とする。
【0050】
(マイクロチップ)
マイクロチップAは、半導体等の微細加工技術(MEMS)を応用して製造され、生化学・医療等の分野において、液体試料に含まれる測定物質を測定する用途で使用されている。図2に示したように、マイクロチップAは、例えば、部材中に液体試料等を注入する注入孔2、微小な毛細管状の流体流路3a〜3b、流体流路3を流下した液体試料等を排出する排出孔4、および、流体流路3と接続する分析領域としての分析部1(反応チャンバ)等の構造が形成してある。
【0051】
マイクロチップAの構成材料としてガラス・石英・シリコン樹脂等が利用可能であるが、これらに限られるものではない。シリコン樹脂のうち、成形容易性および光学的特性の観点から、特にポリジメチルシロキサン(polydimethylsiloxane、以下、PDMSと略する。)を主成分とするPDMS基材a1を利用するのが好ましい。
PDMS基板a1はガラスプレートなどと密着性に優れている。そのため、微細加工を施されたPDMS基板a1に平坦なガラスプレートを当接させることにより、流体流路3や分析部1等を形成することができる。以下、本実施形態では、微細加工を施されたPDMS基板a1に平坦なガラスプレートa2を当接させたマイクロチップAを例示する。
【0052】
分析部1において、注入孔2から導入した液体試料と磁性担体40を含んだ担体含有溶液とを混合し、光学的手法等を利用して液体試料中に含まれる被測定物質を分析する。
【0053】
分析部1の内面(即ち、分析部1を形成するPDMS基材a1およびガラスプレートa2の表面)には、コーティングを施すことが可能である。コーティング材は、BSAや、ポリパラキシレン系樹脂等のガス不透過性ポリマー等が例示される。コーティング材を当該内面に塗布することで、液体試料中の被測定物質や磁性担体40が当該内面に吸着するのを予め防止することができる。これにより、検出時のノイズを低減できるため正確な分析が行える。
コーティングは、分析部1の内面のみに限らず、PDMS基材a1およびガラスプレートa2の表面全体に施してもよい。この場合、例えば流体流路3の内面においても被測定物質や磁性担体40を当該内面に吸着するのを予め防止することができる。
【0054】
また、マイクロチップAには、反応バッファーや洗浄バッファー等を予め収容しておくチャンバ5〜6を設けることが可能である。このとき各チャンバ5〜6は、それぞれ流路7〜8を介して流体流路3aと接続している。
【0055】
マイクロチップAの寸法は適宜設定できるが、例えば、矩形状であれば長寸法は3〜8cm程度、短寸法を2〜5cm程度とする。円形状であれば直径5〜10cm程度とする。また、PDMS基板a1およびガラスプレートa2の厚さ寸法は0.5〜1mm程度とすることができる。
PDMS基板a1およびガラスプレートa2の厚さ寸法を1mm程度としたとき、分析部1の高さを例えば0.1〜0.5mm程度となるように微細加工する。分析部1の平面サイズは、例えば5×18mmとする場合を例示するがこれに限られるものではない。このとき、分析部1の容積は数十マイクロリットル以下の微細な空間となる。
【0056】
流体流路3は、例えば幅0.4mm程度、高さ0.1mm程度に設定できる。しかし、磁性担体40が流体流路3を円滑に流下する程度のサイズであれば、これに限られるものではない。
【0057】
(液体試料)
液体試料は、被測定物質を含む、或いは、含む可能性のある液体のサンプルのことを指す。この要件を満たすサンプルである限り、何れの起源由来のものであってもよい。例えば、細胞・培養物・組織・体液・尿・血清・環境試料および生検試料等から得ることができる。
【0058】
(被測定物質)
被測定物質は、微生物又はウィルスおよびその断片・DNA或いはRNA断片・化学物質・タンパク質等の高分子等、測定したいあらゆる物質が対象となりうる。例えば、河川等から採取した試料に含まれる大腸菌等の病原菌、土壌等から採取した試料に含まれるDDT等の有害化学物質等が例示される。
【0059】
(磁性担体)
磁性担体40は、担体含有溶液中に含有される。磁性担体40は、磁気応答性を有する粒子であれば、何れの材料で構成してもよい。例えば、鉄・コバルト・ニッケルなどの金属粒子、酸化鉄・二酸化クロムなどの酸化物及びこれらの酸化物の複合体等が使用可能である。特に、酸化鉄を主成分にした金属製粒子を酸化反応させて得られた粒状物(強磁性酸化物粒子)は、各種薬品中に分散させたときにおける安定性に優れ、さらに磁界に対する感応性に優れているため、磁性担体として汎用されている。
【0060】
強磁性酸化鉄粒子としては、例えばマグネタイト粒子・マグヘマイト粒子・マンガン亜鉛フェライト粒子などのフェライト粒子等が好適である。
【0061】
磁性担体40の形状は、例えば粒状・球状・楕円状・矩形状・板状等、種々の形状を取り得る。また、磁性担体40の平均粒子サイズとしては、5〜10μm程度が好適である。このように磁性担体40の形状・粒子サイズを種々変更することで、磁性担体40を所望の表面積に設定できる。
【0062】
磁性担体40は、磁場発生手段10の磁力が及ぶとある程度磁化される。そのため、磁場発生手段10により磁性担体40を凝集・拡散移動させるにあたり、磁化した磁性担体40間の凝集力が大きくならない程度の保持力を設定する必要がある。
また、飽和磁化が大きいほど、磁場発生手段10の磁力に対する応答性が向上するため、磁性担体40を凝集・拡散移動させる際の効率に影響を及ぼす。
【0063】
磁性担体40は、磁気応答性に影響を及ぼさない範囲で、各種の無機化合物や有機化合物で表面を被覆することができる。例えば酸化鉄粒子にシリカ被膜やシラン被膜を被着形成することが可能である。磁性担体40表面に生体物質として核酸を結合させる場合、磁性担体40表面にシリカを被着形成することが有効である。
【0064】
また、磁性担体40表面に生体物質として抗体や酵素などの蛋白質を結合させる場合には、磁性担体40にこれらの蛋白質を直接結合させることができる。また、磁性担体40の粒子表面に、種々の有機化合物を結合させておくと、より効率良く蛋白質を結合させることができる。有機化合物としては、例えば、アルブミン・カルボジイミド・グルタルアルデヒド・ストレプトアビジン・ビオチン・官能基を有するシランカップリング剤等が適用できる。
これにより、磁性担体40は、生体物質結合用担体としての機能を効果的に発揮することができる。
【0065】
被測定物質の検出に免疫学的手法を利用する場合であれば、磁性担体40に被測定物質(抗原)に対する抗体を担持させておく。そして、所謂「サンドイッチ法」により、被測定物質を、標識化抗体と磁性担体表面に固定化された抗体との間に挟むことにより、分析部1において免疫特異的複合体を形成させ、被測定物質を捕捉することができる。
このように、免疫特異的複合体を形成する抗体等を標識化しておくことで、被測定物質の存在を検出或いは定量的測定ができる。尚、標識化は、被測定物質或いは抗体の何れに行ってもよい。
このようにして、液体試料中の被測定物質を高感度に検出することができる。
【0066】
被測定物質の検出において免疫学的手法を利用する場合を説明したが、このような形態に限られるものではなく、被測定物質を認識し得る物質、つまり、被測定物質を選択的に検出し得る分子親和性を有する結合性物質を磁性担体に担持させることが可能である。結合性物質が被測定物質に対して分子識別能を有する事例としては、抗原および抗体間の特異的結合能だけでなく、核酸間の相補的結合能、リガンドおよびレセプタ間の生体応答能等が例示される。
【0067】
抗原抗体反応により形成された免疫特異的複合体の検出は、例えば、抗体を蛍光(発光)物質により標識化し、その蛍光(発光)強度を直接検出する、もしくは、抗体に酵素を結合し、化学発光基質を用いて酵素反応を行なうことにより光学的変化を検出する。
例えば蛍光測定装置により蛍光物質の蛍光強度を測定した場合、測定された標識強度を、既知量の「測定物質」を測定した場合の標識強度と比較することにより、液体試料中の測定物質量を決定できる。
【0068】
(駆動機構)
駆動機構20は、二つの磁場発生手段10a、10bをマイクロチップAに対して各別に近接離間させるように構成してある。例えば、第1磁場発生手段10aは、第1磁場発生手段10aを保持するアーム手段22と、このアーム手段22を支持する支持手段23とを設けた駆動機構20aにより、マイクロチップAに対して近接離間させることができる。一方、第2磁場発生手段10bは、マイクロチップAを載置する載置台24の中に収納してある駆動機構20bにより、マイクロチップAに対して近接離間させることができる。駆動機構20は、各磁場発生手段10をマイクロチップAに対して近接離間させることができる構成であれば、何れの構成であってもよい。
【0069】
即ち、駆動機構20a、20bによって磁場発生手段10a、10bをマイクロチップAに対して別個に近接離間移動させることにより、例えば分析部1内に存在する磁性担体40に対して磁力を及ぼす状態と磁力を及ぼさない状態とを切り換えることができる。例えば第1磁場発生手段10aとマイクロチップAとの距離は、0.5〜1mm程度に設定してもよく、磁場発生手段10aとマイクロチップAとを接触させてもよい。
【0070】
また、磁性担体40に対する磁力を及ぼさない範囲となるまで、磁場発生手段10a、10bを駆動機構20a〜20bによって離間させることができる。例えば第1磁場発生手段10aとマイクロチップAとの距離を約4〜6mm以上離間させるよう設定できる。
【0071】
駆動機構20は、マイクロチップAに対する磁場発生手段10の距離を設定する位置決め手段21を備える。位置決め手段21は、マイクロチップAと磁場発生手段10との距離を保つ構成であれば何れの態様であっても適用できる。例えば、第1磁場発生手段10aの近接位置は、駆動機構20aに設けたストッパ等の位置決め手段21により設定できる。
このように位置決め手段21を設けると、マイクロチップAの中に存在する磁性担体40に及ぼす磁力線の強さが最適になるように、磁場発生手段10の位置を調節できる。
【0072】
(制御手段)
制御手段30は、駆動機構20の動作を制御する。
担体含有溶液は、微小な磁性担体40を多数含んだ磁性担体40の懸濁溶液である。そして、制御手段30により駆動機構20の動作を制御することで、磁性担体40に対する磁力制御を行えるため、磁性担体40を所望の状態に移動させることができる。
【0073】
このように磁性担体40を分析部1内で移動させることにより、分析部1内の磁性担体40と液体試料との混合・攪拌を確実に行える。つまり、磁性担体40と液体試料に含まれる被測定物質との接触機会を増大させることができる。
【0074】
制御手段30は、例えば磁場発生手段10a、10bを所望の時間だけマイクロチップAに対して近接させ、その後、磁場発生手段10a、10bを所望の時間だけマイクロチップAに対して離間させるように駆動機構20を動作制御できるソフトウェアを備えたマイコン等により構成できる。
【0075】
(磁場発生手段の動作制御)
制御手段30は、磁性担体40を例えば凝集・拡散移動するように、駆動機構20a〜20bの動作を制御する。この動作制御を以下に説明する。
【0076】
まず、磁性担体40を含有する担体含有溶液および被測定試料を含有する液体試料を、注液孔2よりそれぞれ導入し、流体流路3aを流下させて分析部1の内部に貯留させる。このとき、担体含有溶液と液体試料とは分析部1の内部に共存するが、確実な混合は行われていない状態である。
【0077】
本発明の分析装置Xでは、二つの磁場発生手段10a、10bはそれぞれ同じ極性側(例えばN極側)をマイクロチップAに向けてマイクロチップAを挟んだ状態で対向配置してある。図1では、磁力が強くて小さい(直径3mm)第1磁場発生手段10aをマイクロチップAの上側に、磁力が弱くて大きい(直径6mm)第2磁場発生手段10bをマイクロチップAの下側に配置している。
【0078】
初期状態において、二つの磁場発生手段10a、10bはそれぞれマイクロチップAに対して離間している(図4(a))。このとき、二つの磁場発生手段10a、10bは、分析部1内に存在する磁性担体40に対して、それぞれ磁力を及さない。
【0079】
二つの磁場発生手段10a、10bのうち磁力の強い第1磁場発生手段10aを分析部1に近接させる。このとき、第1磁場発生手段10aからの磁力が磁性担体40及び、磁性担体40は第1磁場発生手段10aに引き付けられて凝集する(図4(b)、図5(a))。
【0080】
ここで、第1磁場発生手段10aを分析部1より離間させる(図4(c))。このとき、第1磁場発生手段10aの磁力は凝集した磁性担体40にはおよばない。
【0081】
次に、二つの磁場発生手段10a、10bのうち磁力の弱い第2磁場発生手段10bを凝集した磁性担体40に近接させる(図4(d))。二つの磁場発生手段10a、10bはそれぞれ同じ極性側をマイクロチップAに向けて対向配置してあるため、凝集した磁性担体40には、第1磁場発生手段10aを分析部1に近接させたとき(図4(b))と同じ極性の磁力が及んでいる。このとき、磁性担体40は凝集した状態を維持する。
【0082】
この状態で第1磁場発生手段10aを凝集した磁性担体40に近接させる(図4(e))。このとき、第2磁場発生手段10bは磁性担体40の極性の状態を維持しようとする。しかし、第2磁場発生手段10bの磁力より第1磁場発生手段10aの磁力が強いため、磁性担体40と第1磁場発生手段10aとの反発力が、第2磁場発生手段10bが当該磁性担体40を引き付ける力より大きくなる。このため、凝集した磁性担体40が第2磁場発生手段10bの側に強く押付けられ、これに伴って磁性担体40はマイクロチップAの面内方向にも押し広げられることになる。(図4(e)、図5(b))。
【0083】
このようにして、分析部1に存在する磁性担体40を凝集・拡散移動させることができる。これら一連の磁場発生手段10の動作制御は、例えば30秒程度で行うようにできるが、これに限られるものではない。そして、上述した一連の動作制御を繰り返し行うことで磁性担体40の凝集・拡散移動を繰り返し行うことができるため、磁性担体と液体試料との混合・攪拌が更に確実なものとなる。
【0084】
この磁性担体40の凝集・拡散移動は、磁力の強い第1磁場発生手段10aを分析部1に近接させたときに、磁性担体40がある程度磁化されるために引き起こされると考えられる。
【0085】
つまり、例えば、N極をマイクロチップAに向けた第1磁場発生手段10aを分析部1に近接させたときに磁性担体40が磁化されると、磁化した磁性担体40はS極を第1磁場発生手段10aの側に、N極を第2磁場発生手段10bの側に向けた状態で凝集する(図4(b))。
そして、N極をマイクロチップAに向けた第2磁場発生手段10bを凝集した磁性担体40に近接させる(図4(d))。このとき、磁化した磁性担体40は凝集した状態を維持するが、第2磁場発生手段10bの影響により第2磁場発生手段10bの側に向けた極性がN極からS極に反転する。つまり、磁性担体40はN極を第1磁場発生手段10aの側に向けた状態となる。
この状態で、N極をマイクロチップAに向けた第1磁場発生手段10aを凝集した磁性担体40に近接させる(図4(e))。このとき、磁性担体40はN極を第1磁場発生手段10aの側に向けた状態であるため、第1磁場発生手段10aと磁性担体40とは反発し合い、磁性担体40は第1磁場発生手段10aの磁力線が及ぶ範囲まで水平方向に拡散することとなる。
【0086】
通常、マイクロチップAの分析部1のような微細な空間に貯留してある液体には、対流は殆ど生じない。そのため、分析部1内において二液の混合を確実に行うことは困難となり、反応を均一に進行させ難くなる。
【0087】
しかし、本発明の分析装置Xであれば、マイクロチップAに設けてある微細な空間内(分析部1)において、磁性担体40を凝集・拡散させることができるため、磁性担体40を含む担体含有溶液と液体試料との混合・攪拌を確実に行うことができる。
これにより、磁性担体40の表面に結合させた様々な生体物質(例えば抗体)と、液体試料中に含まれる被測定物質(例えば当該抗体に対する抗原)とを効率よく接触させることができるため、反応を均一に進行させると共に反応速度を速めることが可能となる。
【0088】
〔別実施の形態1〕
上述した実施形態において、少なくとも何れかの永久磁石をマイクロチップAに沿って移動させるスライド機構を備えることが可能である(図示しない)。
【0089】
例えば、一方の磁場発生手段10を注入孔2から流体流路3aに沿って分析部1までスライド移動可能となるようにスライド機構を構成する。そして、当該磁場発生手段10をマイクロチップAに近接させた状態で、注入孔2から流体流路3に沿って分析部1まで移動させることにより、注入孔2に注入した磁性担体40を引き付けて分析部1まで導くことができる。
【0090】
また、二つの磁場発生手段10a、10bを対向配置させた状態で、スライド機構により少なくとも何れかの永久磁石をマイクロチップAに沿って少しスライド移動させると、磁界の状態を変化させることができ、磁性担体40の凝集・拡散移動を効率的に行うことができる。
【0091】
〔別実施の形態2〕
上述した実施形態において、磁場発生手段10として永久磁石を用いた場合について説明したが、以下に電磁石を用いた場合について説明する。
電磁石は、金属製の芯材とその芯材の周りに巻回した銅線とで構成される。この電磁石内を流れる電流を制御することにより、電磁石から発生する磁力の強さ、及び、磁力の有無を変化させることができる。電流の制御は磁場制御手段によって行う。磁場制御手段は、電磁石に流す電流の強弱、或いは、電流のオン・オフを制御できるように構成する。
【0092】
このようにして二つの電磁石は磁場制御手段によってそれぞれ磁力を異ならせ、或いは、磁場制御手段によって、二つの電磁石を各別にオン・オフ操作するように構成する。
即ち、二つの電磁石のうち第1電磁石をオン操作して磁性担体を凝集させた後、当該第1電磁石をオフ操作し、さらに、二つの電磁石のうち第1電磁石より磁力を弱めた第2電磁石をオン操作した後、この状態で第1電磁石をオン操作して、当該磁性担体を拡散させるように磁場制御手段を設定する。
【0093】
これにより、上述した実施形態と同様に、分析部に存在する磁性担体の凝集・拡散を繰り返し行うことができる。
【0094】
〔別実施の形態3〕
上述した実施形態において、反応チャンバとして微細な空間である分析部1を設けたマイクロチップAを適用した場合を例示した。しかし、反応チャンバを設けたマイクロチップに限られるものではなく、微細な閉鎖空間内に磁性担体と被測定物質とを収容した容器であれば、適用できる。
さらに、微細な閉鎖空間ではない反応チャンバを設けた反応容器であっても、磁性担体と被測定物質とを収容し、これらを混合・攪拌する必要がある場合は、当該反応容器を適用することができる。
【0095】
〔別実施の形態4〕
上述した実施形態では、一つのマイクロチップAを適用した分析装置Xを例示したが、これに限られるものではなく、複数のマイクロチップを適用することが可能である。
このとき、複数のマイクロチップAを、例えば回転可能な円盤状プレート状に載置し、一つのマイクロチップAを磁場発生手段10が設けてある位置に搬送する。そして、駆動機構20および制御手段30による磁性担体40の凝集・拡散移動を適宜行わせた後、別のマイクロチップを磁場発生手段10が設けてある位置に搬送する。
【0096】
このように、複数のマイクロチップAを順次磁場発生手段10が設けてある位置に搬送することで、多数の液体試料を効率よく分析できると共に、分析装置Xの自動化を容易に図ることができる。
【0097】
さらに、分析装置Xの自動化を図る場合、例えばPCR反応装置、標識強度を検出できる検出装置等の他の装置と分析装置Xとを組み合わせ、これら各装置を関連させて制御できる制御手段を設けることで、実験者にとって有益な分析システムを構築することができる。即ち、実験者にとって有害な試薬・試料等と接する機会を減少させることができ、さらに、効率よく試料の分析を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の分析装置は、磁性担体を利用して被測定物質を分析する分析部を設けたマイクロチップ等を使用する際、微細な空間である分析部において、磁性担体と被測定物質とを確実に混合・攪拌するために利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の分析装置の概略図
【図2】マイクロチップの概略図
【図3】二つの磁場発生手段が磁性担体に磁力を及ぼすときの概念を示した図
【図4】磁場発生手段の一連の動作制御を示した概略図
【図5】磁性担体の移動状態を示した図
【符号の説明】
【0100】
A マイクロチップ
X 分析装置
1 分析部
10a、10b 磁場発生手段
20a〜20b 駆動機構
21 位置決め手段
30 制御手段
40 磁性担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの磁場発生手段と、磁性担体と被測定物質とを導入して前記被測定物質を分析する分析部を設けたマイクロチップとを備え、前記二つの磁場発生手段はそれぞれ同じ極性側を前記マイクロチップに向けて前記マイクロチップを挟んだ状態で対向配置してあり、さらに、
前記二つの磁場発生手段を前記マイクロチップに対して各別に近接離間させる駆動機構と、前記駆動機構の動作を制御する制御手段とを備えた分析装置。
【請求項2】
前記二つの磁場発生手段はそれぞれ磁力が異なり、
前記制御手段は、
前記二つの磁場発生手段のうち第1磁場発生手段を前記分析部に近接させて前記磁性担体を凝集させた後、当該第1磁場発生手段を前記分析部より離間させ、さらに、
前記二つの磁場発生手段のうち前記第1磁場発生手段より磁力の弱い第2磁場発生手段を前記凝集した磁性担体に近接させた後、この状態で前記第1磁場発生手段を前記凝集した磁性担体に近接させて、当該磁性担体を拡散させるように設定してある請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記二つの磁場発生手段における前記マイクロチップに沿った面積は、前記第1磁場発生手段より前記第2磁場発生手段を大きく構成してある請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
少なくとも何れか一方の前記磁場発生手段を前記マイクロチップに沿って移動させるスライド機構を備えた請求項1〜3の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記駆動機構は、前記マイクロチップに対する前記磁場発生手段の距離を設定する位置決め手段を備えた請求項1〜4の何れか一項に記載の分析装置。
【請求項6】
二つの磁場発生手段と、磁性担体と被測定物質とを導入して前記被測定物質を分析する分析部を設けたマイクロチップとを備え、前記二つの磁場発生手段はそれぞれ同じ極性側を前記マイクロチップに向けて前記マイクロチップを挟んだ状態で対向配置してあり、さらに、
前記磁場発生手段が電磁石からなり、前記電磁石に流れる電流を制御して前記二つの磁場発生手段の磁場の強さを各別に制御する磁場制御手段を設けてある分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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